ウェイバー「聖杯を解体する——」ダンテ「ジャックポットだ」 (192)

覚えてらっしゃる方はいないと思いますが
ウェイバー「最強の助っ人だ!」ダンテ「ショータイムだ」
というスレの者です
あれの続きを前以上の細々ちんたらと書いていければと思っておりますのでお暇な時にでも付き合っていただければ幸いです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1360516548

見慣れたはずの、でもどこか違う剣の丘に衛宮士郎は立っていた

体は剣で出来ている
I am the bone of my sword.

血潮は鉄で心は硝子
Steel is my body,and fire is my blood.

幾たびの戦場を越えて不敗
I have created over a thousand blades.

ただ一度の敗走もなく、
Unaware of loss.

ただ一度の勝利もなし
Nor aware of gain.

剣の英雄魔剣士スパーダに焦れ
The legendary dark knight Sparda.

剣の丘で鉄を鍛つ
waiting for one's arrival.

魔と聖、二つの剣の極に触れた
Spada―――――――Saber
 
この体は、
So as I play

無限の剣で出来ていた
"unlimited blade works

士郎「―――何だ…今のは」

十年前にはよく見た夢。

自らの心象風景、寂しげな荒野に突き立つ無限の剣の群れ。

自覚し、切り札として行使する今となってはさも珍しい光景ではない――はず、なのだ

己の唯一の心と言える風景、誰よりも自分が把握している―――はず、なのだ

士郎「――どこか…違う」

鮮明には思い出せない。極端に異なった風景なら思い出すことも容易だっただろう

士郎「エクスカリバーと…アレは…魔剣、スパーダ………?」
そう、彼だけの丘には――――その中央。他の剣が恐れ戦く様に聖剣エクスカリバー、そして魔剣スパーダが二振り、聳え立つように鎮座していた


―――第四次聖杯戦争、伝説の魔剣士。スパーダの息子、若き日の魔剣士ダンテが介入したことにより事は本来の結末からは大きくそれることとなった
奇跡、例外。としか言いようのない伝説の魔剣士スパーダの出現

第五次聖杯戦争では、ダークスレイヤーなるイレギュラーサーヴァントの出現。

そして聖杯を解体するための戦い。仮に第六次聖杯戦争と銘打つ今回の戦いもスパーダの一族、怨恨の在る者たちにより事態は、多くの運命を巻き込み物語を織成そうとしていた

数日前

聖杯を解体するため冬木を訪れた一行。ダンテにとっては二十年ぶり、ネロやレディは未踏の地だったが、その空気の淀みは確かに感じ取れていた

ダンテ「ここも変わらねェな。――空気が不味いぜ」

ウェイバー「それは少し違う。空気が不味い時にしかお前が来てないんだ」

ダンテ「――なるほど。ま、そんな事態にでもならなきゃ俺もわざわざ足を運んだりしないさ」

ウェイバー「同感だ。私も日本はあまり好きではないからな。できれば今回限りで御免被りたいものだ」

ちょっと、と口を挟んだのはあかいあくまこと冬木のオーナー遠坂凛である

凛「あのね、人の地元で空気が不味い不味いって言うのやめてくれないかしら?」

士郎「そう言うなよ。聖杯戦争が起こる前後の冬木なんてこんなものだろう」

なだめるのは衛宮士郎。――と言ってもかつての青き少年だった頃の面影は殆どなく、体格は外国人の中でも大柄なネロやダンテに引けを取らない背丈に、東洋人ならではのシャープで無駄のない筋肉、そして何より度重なる固有結界の行使によって色素を失い逆立った髪など、かつて対立したもうひとりの自分――英霊エミヤとほぼ同等の容姿をしていた。

敢えて違いをあげるなら、衣服と目付きが士郎のほうが若干優しいことぐらいだろうか

レディ「そんな事はどうでもいいの。早く宿に着きたいのだけれど?――それともこの荷物、貴方たちが持つ?」

不機嫌そうに呟いたのはレディ。かつての名、メアリ=アン=アーカムの名を捨て、人間ながら卓越した体術と銃さばきを武器に第一線で活躍する悪魔狩人だ。

本来なら聖杯戦争のような面倒事に巻き込まれるのはまっぴらゴメンなのだが、聖杯の解体という極めて困難な呪術的儀式を行うにあたって、巫女の血を継ぐ彼女の存在がいるかいないかで難易度が数十倍にも跳ね上がるとか


上記の理由でウェイバーも渋々、研究費と詐称し多額の報酬金を用意せざるを得なくなったのである。勿論宿代、準備費用、その他etc費は別できっちり頂くつもりのようである

あと、ダンテからも何かと都合をつけて搾り取るつもりでもある

ウェイバー「だから私は最初に荷物の運搬は業者に委託するべきだと……!」

レディ「イヤよ。きっちり管理しておかないと何が起こるかわからないもの」

ウェイバー「安心しろ!ニホン人は真面目が取柄のようなものだ!!」

レディ「まだ見てないから何とも言えないわね」

ウェイバー「…………………」

頭が上がらない。仕方ないと思っていても腹が立つ、こういう理屈だけで通じない輩はウェイバーの最も苦手とするタイプであり、同時に目の前のダンテたちやかつて仕えた王のように信頼のおける証でもある。腹は立っているが

ネロ「――で、結局どうするんだ?俺は勝手に行くぜ、モタモタしてるヒマはないんだ―――大事な人を、待たせてる」

痺れを切らしたのは、今は無き魔剣教団一番の教団騎士ネロ、フォルトゥナの事件後は事務所を開き悪魔狩人として名乗りを上げていたところ、何の因果かその手には教団騎士のシンボルによく似た令呪が現れ、赤きセイバーのマスターとなってしまった

赤セイバー「確かに、皇帝である余と奏者を待たすとは無礼な、よし、なら奏者よここは二人で観光にでも繰り出さぬか!?」

ネロ「ヒマはないって言ったの聞こえなかったか?――それに、小奇麗にしちゃいるが、瘴気が漂ってるの抜きにしても俺は日本って国は好きになれないね。まるで機械の中でも歩いてるみたいだぜ」

赤セイバー「フム…成程。言われてみればそうだな。清廉さこそあれど華がない。芸術性が足りんと言いたいのだな奏者は?」

フン、と鼻を鳴らし得意げにネロの方にチラリと視線をやる。ネロは感情の表現は不器用であっても決して嘘を付ける人間ではないことをセイバーは知っている

ネロ「――あぁそうだ。分かったからその顔はやめてくれ」

美しい建造物が並ぶフォルトゥナで生まれ育ったせいか、愛銃に意味を込めて薔薇を彫るくらいには芸術と言うものを心得ている。
そして自らが至高の芸術家と言って憚らないセイバーにとっても、規則正しく並ぶ新都のビル街は退屈の一言だった。

ダンテ「その辺りも分からなくはないぜ。―俺の場合はスラムに慣れただけだがな」

「――それとな、ネロ。そのセイバーも悪くはないと思うぜ?なんだかんだ仲いいしな」

ネロ「ッー―!黙れ!そんなんじゃない!」

赤セイバー「?」

激高するネロを余裕綽々で躱し切るダンテ。何が起こったのか、キョトンと大きな目を瞬きさせているセイバー。我関せず、と言った様子のレディに凛。苦笑いの士郎に、怒りのあまり眉間に青筋が浮かんでいるウェイバー一行はこの後、拠点となる衛宮邸に辿り着くのに数時間かかったとか

冬木市街 倉庫

トリッシュ「これ…取り戻すの大変だったのだけれど、甲斐はあったみたいね。」

手に握られているのは、かつてマレット島に封印されていた魔剣アラストル。
島での戦いでこそ猛威を振るい、魔帝打倒までの道程に大きく貢献したものの、手に渡ってしまったのがダンテだったのが運のツキか、どこかへ売り飛ばされ、しばらくの間、ジョーと言うヒーローに憧れる青年の好敵手として名を馳せていたとかなんとか

トリッシュ「―ま、どうでもいいわね。始めましょうか」

ササっと雷撃で床に術式を刻む。事務所では基本的にヒマなうえ、元が悪魔な彼女はこの世の知識に疎く、よく本を読み漁りふらりと実験のたびに出かけるので、独学で基礎の魔術程度なら問題なく行使できるレベルに達してしまっていた

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。祖には伝説の魔剣士スパーダ
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ
閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

轟くは雷鳴。アラストルの紫電、トリッシュの黄電。そしてサーヴァントの蒼電により辺りは美しくも激しく爪痕を残しつつソレは現れた

「――亜羅棲斗流を聖遺物として俺を呼びだすとはアンタも風流だね」

トリッシュ「フーリュー?よく分からないけど、よろしくね、Mr.サムライ?」

「OKマスター!!今からここに天下への旗揚げだ!」


伊達「―――奥州筆頭、伊達政宗――推して参る」

仕事やらの都合上最速ペースで昼一回夜一回の更新が限度っぽそうです
それより遅れることも多々あるとは思いますが完結だけはさせますのでお付き合いいただければ幸いです

衛宮邸

トリッシュを除く一行は、本拠地となる衛宮邸へと到着していた。
士郎と凛以外は和室という文化に慣れておらず、窮屈そうな表情を浮かべ口々に文句を発している

凛「はぁ……やっと着いたわね」

士郎「軽く観光もしたと思えばこんなもんだろう。いいじゃないか」

凛「観光ならまだいいわよ。ブータレる大人たちを引率してきただけじゃないの」

士郎「そういうなよ。ここにいる全員が今回の戦いには不可欠なんだし、――そりゃ俺だって巻き込む人は少ない方がいいし、できるなら俺一人でやってしまいたいと思ってるけど……さすがに無理だからな」

凛「それはそうだけど……」

凛の扱いは十年間の付き合いのうちに上達したらしく、ムぅ、と口をつぐみ言い返せなくなってしまっている



ネロ「――ったく、これなら安ホテルの方がくつろげるぜ」

ウェイバー「……同感だな」

靴を脱いで座ることに不慣れなせいか、いつも以上に不機嫌そうな顔を浮かべ腕を組み壁に寄りかかっている

ダンテ「少しの辛抱だ。それに、悪魔狩人をやってくならどんなベッドでも寝れるくらいにはタフじゃないとな?」

ネロ「……分かったよ、文句は言わないさ」

士郎「……皆済まないな。洋間なら離れに一室ある。相談して使ってくれ」

赤セイバー「なら余と奏者で決まりであろう」

開口一番名乗りを上げたのはセイバー。相談、と言うより彼女の中ではほぼ決定らしい
霊体化する気もサラサラなさそうだ

レディ「そういうのは淑女優先じゃないのかしら?」

赤セイバー「余が淑女でないと申すか!?」

レディ「痴女の間違いじゃない?その服装じゃ説得力ないわよ」

赤セイバー「お主が言うか!!」

士郎「おい、ちょっと!」

ウェイバー「お前ら!何をしにここへ来たと――――」

思わず声を荒げてしまう。ここにいる面々が本気でなくとも、暴れようものなら言葉通り本当に「危ない」のだ



「――なら、何人か家に来てもらうのはどうですか?家なら洋間が主ですし……どうですか、姉さん?」

静かながらも確かな意思で声を発したのは、遠坂凛の妹、桜その人だ。

凛「別に構わないけど…」

桜「よかった。ダンテさんもいらしてくださいね」

ダンテ「嬢ちゃんもしかして――」

桜「はい。あの時のことは今でも覚えてますよ?」

ダンテ「――そうかい。俺の予感は大当たりだ、なぁウェイバー?」

ウェイバー「何がだ」

ダンテ「アレだよ、アレ」

アレ、とは豊満に育った女性のあれのことであり、こと戦闘以外の勘は外しまくるダンテの予感は珍しく当たることとなった

ウェイバー「私はそういう事に興味など――」

ダンテ「ハッハッハ、からかっただけさ。マジにするなんて時計塔の講師様もまだまだおぼこちゃんだな」

ウェイバー「お前っ!」

暗示をかけて動きを止めようと試みるが、ダンテの前にそのような三流魔術が通用するはずもなくいとも簡単にすり抜けられてしまう

桜「フフッ、あの頃から変わってないんですね」

幼き日の自分を助け出してくれたあの時から、人を皮肉りからかう態度は変わっていない。尤も、戦闘時のダンテを見ることが主だった桜にとって、いつものダンテの姿は桜をほっとさせるものだった

ダンテ「そうだな。変わったといえば渋さに磨きがかかったくらいじゃねぇか?」

桜「ダンテさんったら」

自然と笑みがこぼれる。それは、桜が救われた何よりの証拠である

士郎「ありがとう、遠坂、桜。部屋分けは何とかまとまりそうか?」

ネロ「――俺はこっちに残る、洋室じゃなくても構わないぜ」

赤セイバー「必然的に余もこちら側ということになるな」

ネロ・セイバーグループは士郎の隣室に滞在することが決定した

ウェイバー「離れの洋間には私が行こう。」

蔵などがある方が便利だ、という理由で離れにはウェイバーがほぼ問答無用で決定。

凛「じゃあ残りはこっちってことね?あまり片付けてないから保証はしないわよ」

その後、レディの皮肉によりひと悶着こそあったものの、宿わけは無事終了した。

冬樹市街
街を一望できる高層ビルの屋上。月を肴にマスターとサーヴァント二人優雅に酒に一興を投じしていた

伊達「変わらねぇな…星が見えないのは残念だが、あの月は……変わらねぇ」

奥州と場所は違えど、時代は違えど、天下統一に思いを馳せ、蒼天を駆け、夜月に美を感じたあの頃と変わらない。

トリッシュ「そう言うものなの?詳しいわけじゃないけど、ゲイシャにサムライもいないんじゃずいぶん違って見えるんじゃない?」

伊達「なぁに、neonのlightを肴に酒ってのも悪いもんじゃねぇさ」

トリッシュ「こっちのほうが私は落ち着くわ」

かつて魔帝の下僕としてダンテを訪ねた時に目にしたのも煌々と光り輝くネオンを目にした…気がする

トリッシュ「それはそうと――」

伊達「ん?」

トリッシュ「どうして貴方が私の召喚に応じたのかしら?また天下でも治めるの?」

伊達「そうだな…どうやら俺が逝ってからも世界ってヤツは変わってないらしい。それを変えてやりたいってのもある。それに世界中のHero集めてpartyってのも乙なもんさ」

だが、と付け加え政宗は言葉を濁しながら続けた

伊達「何よりも、コイツ…亜羅棲斗流を譲り受けたアイツに借りを返さなきゃ俺の気が済まないんでね、後はそうだな…ちょいとやり残したことがある」

伊達「いや、最後の部分は忘れてくれ。また話す」

トリッシュ「そう。また、ね。こっちも知りたいことは大方知れたわ」

アラストルを振るった経験があり、世界各地を放浪し、英雄的行為を行い、英霊の座にまで上り詰めた伊達政宗を完膚無きまでに叩きのめせる人物といえば――――トリッシュには該当する人物がただ一人、伝説の魔剣士を置いてほかにいないだろうと確信した

トリッシュ「なるほどね…」

何故自分が英霊、伊達政宗を召喚したのか考え込んでいたが、ようやくその謎の推理に一本筋が通った

アラストルを触媒として召喚を行った場合、呼び出せるモノはかなり限られてくる。

スパーダは最早神霊の域、もしくはそれに相当する別の概念存在に上り詰めてしまっている、さもすればまだ生きているのかもしれない。
だとすれば聖杯戦争に招くのはまず、無理である

次にこれがトリッシュの本命。電刄魔人アラストルの召喚を考えていたが、使うだけ使われ売り飛ばされてしまった挙句、その仲間に買い戻され戦う、と言うのは納得がいかなかったかもしれない。

となると残りは目の前に優雅に佇む侍が、変な英語と洋剣の形を模した魔剣アラストルを扱うことによってギリギリ西洋の英霊として扱われ召喚されたのかも…しれない。
それでもこれがかなりの例外であることは疑いようもなかった

トリッシュ「別に悪くないけどね―――結構ハンサムだし。よろしく頼むわ」

伊達「don`t worry。俺が参加する以上聖杯は頂く。問題はその先さ」

少なくともトリッシュは侍がこういうものであるとは微塵も思っていなかった。ノリの良さは嫌いではないのだが

伊達「(魔王のオッサンが地獄から出てこなきゃいいんだがな…)」

トリッシュ「―ところで、あれは貴方の仲間?」

伊達「――さぁな?あんなcrazyな野郎、俺は知らねぇぜ」

その夜、二人は遠方に夜空を駆ける戦車と、それを駆る巨漢の姿を見たという



???

「目覚めたか?魔剣士よ」

「……………………………………」

気が付いた時には、魔剣士はそこに居た。

「歪んだモノとは見知っていたが――よもやここまでとはな。まぁ良い。あの時以上に歪んだ聖杯を愛でてやるというのも一興やもしれん」

「俺は―――――何故……」

十年程前に同じ感覚があったことを知っている。

「我も分からん。強いていえば……そうよな、スパーダに関わりを持った英霊が何かの力で導かれた、と言ったところか」

「聖杯戦争………」

「目が覚めてきたようだな。どうだ?たまたま蔵に眠っていたのでな、味見がてら飲んでやったが――中々に美味だ。酒も買い主に似るのやもしれん」

「いらん」

酒にはいい思い出がない。今の姿より若かりし頃――、まだ自分が真の名を名乗る強さを持っていなかった頃の話だ

「フン―――まぁ良いわ。聖杯に託し願うコトは決まっておるのだろう?」

「――――――あぁ、決まっている」

あの日からずっと変わらない、純粋でありながら、果てしなく遠い無限の道程――――

「I need more power―――――――――――――――!!」

深夜

草木も眠る丑三つ時。漂う瘴気は例年よりも濃く、悪魔が発するソレに違いなかった。
元より、冬木の地は霊脈による魔力が濃く集まる土地であり、そのような現世との境界が曖昧な土地には悪魔が発生しやすい、むしろ今まで悪魔が発生しなかった方が不思議と言えるのだ。

赤セイバー「ぬぅ…いくら悪魔が出ているとはいえ周辺の警護などエミヤにやらせればよかったのではないか?そもそも皇帝である余が…」

本人が買って出たというのに……と頬を膨らませぼやく

ネロ「だから俺は付いてこなくてもいいって言っただろ、悪魔狩りは俺の仕事だ」

冬木市街に悪魔が出没している。と耳にし、真っ先に士郎とネロ、二人が討伐に買って出た。お互いここは自分の土地だから、悪魔狩りは自分の仕事だ、と言って聞かず、最終的にはネロが単独で出るという体でネロを納得させ、ウェイバーがこっそりとネロが巡回する真逆の方向に士郎を向かわせるという形で両者の納得を得られた。
そして家で士郎は休んでいると思い込んでいるセイバーはぶー垂れてしまっている。という訳だ

赤セイバー「それにしても不快な空気であるな……帰ればまず湯呑みだ」

ネロ「慣れてない奴にはそうだろうな。俺も初めはそうだった」

元々は悪魔が出没する空間の独特な空気や不快感、より魔力の密度が濃くなれば景色の変貌、一部魔界化する、等の異界常識が固有結界と定義されていただけに常人は勿論のこと、あのダンテですらトニー・レッドグレイブを名乗り、身を隠していた時代にはふらつき等の症状を訴えるほどにコレの影響力は強いのだ

勿論、現在定義されている固有結界と同じように展開の元凶である悪魔さえ倒してしまえば一旦は収まる。問題はその数の違いなのだ。悪魔が出現すれば度合いは異なれど旧固有結界と称すべき異空間は発生してしまう。

悪魔が出現する、と言うことは悪魔による直接的な被害と旧固有結界による昏睡などの二次災害の可能性を孕んでいる

聖杯戦争を終結させる今回の戦いの根本は、これ以上汚染された聖杯の被害者を出さないと言った面もあり、参謀であるウェイバーも予想外だが想定内であった悪魔狩りを敢行せざるを得ないといった決断を下した

ネロ「―まぁ夜にでもならねぇと、まともに俺は外を歩けないからな、この空気に慣れてる俺にとってはいい気晴らしにもなるさ。新都だったか?あそこと違ってこの辺はまだ味がある」

一瞬右腕に目をやり呟く。その眼はいつものネロと違った本来の優しい目をしており、同時にどこか悲しげだった。今でこそコンプレックスとは感じていないが少なくとも所謂「普通」な生活は難しくなってしまっている。悪魔狩人として生活をしていくと決めた以上、迷いはないつもりだったが、一見平和な法治国家日本においては、昼間の外出を控えるとのはどうしても意識せざるを得ないことだった

赤セイバー「そんな風に感じる必要はないぞ奏者よ。歩きたいと思えば堂々と闊歩すればよいではないか、余はどんな奏者でも受け止めるぞ」

ネロ「―――そう単純でもないさ。………ありが―――」

赤セイバー「後ろだ!奏者!!」

感謝の言葉を述べようとした時、何かが襲いかかる。
はち切れんばかりの布きれに刃を取り付けた様な異形の物体――――悪魔だ

ネロ「――っと…ニホンの悪魔は礼節って奴でも弁えてやがるのかと思ったが…お前らに期待するだけ無駄だったか?」

とっさに構えた右腕は、悪魔の攻撃に傷一つ付かず、光り輝き今悪魔を打倒さんと猛りを上げる

ネロ「――結構だ。俺も行儀がいいのは苦手でな!!!」

悪魔を鷲掴みにし渾身の力で地に叩き伏せる

ネロ「これでもくらいな!!!」

轟音。後に静寂。叩きつけられた悪魔は無残にも四肢すべて砕け散り、舗装されたアスファルトは割れた焼き菓子のように破壊されてしまっている。

赤セイバー「奏者よ、気を抜くな。…まだいるぞ」

辺りを見渡すと、歩行を遮るかのように結界が張られ十数を越えようという悪魔が犇き。魔力の塊である二人を囲っていた

赤セイバー「――我らの初陣であるな。華々しく飾ろうぞ」

ネロ「ここは俺にやらせてくれ、鈍ってないか心配でな」

赤セイバー「しかしだな…」

ネロ「大丈夫さ、こっちは本職だ――それに」

手に取ったのは、愛銃、ブルーローズ。そしてもう一つは

ネロ「コイツも暴れたくて仕方ないみたいだ!!」

紅蓮の炎を噴き上げ、ネロの剣裁き相まって踊っているかの様に見えるその剣はレッドクイーン。今は無き魔剣教団の技術の粋を以て鍛えられたネロ専用の最先端ハイテク魔剣である

赤セイバー「……次は一緒だぞ?」

ネロ「オーライ、さぁ来な!!雑魚共!!!」

銃声を合図に悪魔たちはいっせいにネロに狙いを定め飛び掛かる

ネロ「――踊ってもらおうか」

アクセル状の機関を捻ると同時に推進剤によって剣は大きく唸りネロの剣裁きをを加速させる

ネロ「くたばっちまいな!!」

剣の軌道上から逃れることのできない悪魔は一、二、三…とその数を重ね刃の上でもがき苦しみ悲鳴を上げている

ネロ「オラァ!!」

叫びを合図に機動が縦に変わった時、悪魔は斬撃と共に地面に叩きつけられ形を失う

赤セイバー「見事だ。余も鼻が高いぞ」

ネロ「―まだ居るんだろ出てこいよ」

依然、悪魔が出没した時に発生する結界は解けていない
ネロの言葉に応えるかのように、骨に和風の甲冑を被せたようなそれは現れた

ネロ「ご当地悪魔ってワケか…上等だ」

刹那、二発の弾丸が悪魔を襲う。
一発目は外殻を、零コンマ数秒の差を付け放たれた二発目が剥き出しになった悪魔の肉を抉りとる、それがネロの愛銃ブルーローズの特性である

正確に狙いを定め見事命中させたことは勿論だが、ネロ本人はこれをほぼ独力で作っておきながら自身を人より器用な程度と済ませてしまっていることが常人離れしてしまっている

ネロ「Shall we dance?」

知能が高くなくとも、舐めきった態度はわかるのか、奇声のような怪音を発しながら悪魔はネロに斬りかかる

斜めに一閃、そして一歩引いての突き、加えて下段払いの素早く無駄のない三擊。低級悪魔とは言え、武士を思わせる見事な連撃は僅かながらネロの右腕を掠め、火花を散らせてみせた

ネロ「―痛ってぇな…」

まともなダメージこそ受けていないものの、油断はしていなかった上で不意を突かれる、というのは精神的なダメージとしてくることだった。やや短気なネロなら尚更だ

今度は悪魔がネロを挑発するかの如くぺこりと頭を垂れる

ネロ「野郎が…」

強引に悪魔の右腕で悪魔を引き寄せる。咄嗟に体制を立て直そうとするがその時には遅く
、悪魔の腕に抱えられていた

ネロ「はぁぁぁ……―――――ラァ!!!」

力の限り、渾身のジャーマンスープレックスで鎧ごと粉砕され、地球の裏まで突き抜けるのかのような痛みに支配されながら、悪魔は元の塵と返った

セイバー曰く、嫌いではないがもう少し優雅に戦うと思っていた、とか


赤セイバー「余の勝ちだな」

ネロ「俺の――じゃないのか?」

赤セイバー「では、我らの勝利だな!」

ネロ「――まぁ、それでいい」

赤セイバー「そなたに拍手を!!」

一人子犬のようにはしゃぐセイバーに対しあくまでも態度はそっけない。だがその顔はどこか明るく、口元は少し緩んでいるようにも見えた。

召喚、もとい何故か出現してきた当初はキリエの前で腕を組まれたりとほとほと困り果てていたネロだったが、ほんの少し、セイバーを信用するような心が芽生えたのかもしれない

程無くして、結界の原因たる悪魔が消えたことにより魔力による結界の戒めは解ける。

その前方、未だ完全に悪魔達による瘴気が消えない中、何かの影を見る
それも凄まじいスピードでこちらに駆けてきている

ネロ「――何だ?」

赤セイバー「何であろうな」

霧の中において一際輝く三日月に、雷鳴轟く六振りの剣
何かに乗っているようだが、明らかに乗る体制ではない。

馬だ。馬の様なモノに乗っている。様なモノとしたのは他でもなくバイクのハンドルにマフラー上の何かがつけられた物に堂々と跨っていたからだ。さらにそれは奇異な言語を話しだした

伊達「~♪Masterの命で悪魔を狩ってみりゃ、中々いい面構えのいいお二人じゃねぇか」

本来サーヴァントと言うものは英霊の座からある程度の言語と知識を与えられている。それでも尚カタカナ英語なのは彼の素だからに他ならない

ネロ「――コイツ……サーヴァントか!」

ネロにとってセイバー以外では初めて見るサーヴァント。彼の眼には青い甲冑のサーヴァントのステータスが映し出されている。単純なステータスではセイバーを若干上回っていると言ったところだろうか。少なくとも、その溢れんばかりの闘志が示すように、ただの破天荒な格好をしたサムライと言う訳ではないことは感じ取れた

赤セイバー「そのようだな。奏者よ、次は余がいこう」

伊達「いいねぇ、奏者…ってことは姫様がサーヴァントかい?」

赤セイバー「姫とは無礼な!余を皇帝と知っての狼藉か!」

伊達「Sorry.何、アンタをなめてるわけじゃない。俺もホンモノかどうかの区別はつくさ、アンタはいい目をしてる」

赤セイバー「ほう…敵ながら解っておるな。先ほどの狼藉、特別に許そう。余は寛大であるぞ」

伊達「俺はRiderのサーヴァント。アンタは?」

赤セイバー「最優である余がセイバー以外のクラスに収まろうはずもなかろう」

ネロ「――おい、長引くようなら俺が出るぞ?」

英霊同士の煽り合いに近い自己紹介に痺れを切らせネロが前に出る。パートナーであるセイバーが長々と演説をする英霊であることを知った時の彼の反応は如何なものなのだろうか

赤セイバー「……仕方あるまい、では、戦いを吟じるとしよう」

伊達「――剣を抜きな」

周囲の空気が変わる。眠り落ちていた草木でさえせ息を殺し、嵐が過ぎ去るのを待つようなそんな冷たい殺気が周囲を包み込む

赤セイバー「隕鉄の鞴…原初の火!!余の至高の作品である!!」

手に握られたのは華美さを押し出し、耐久性にも優れ、赤で彩られた、まさに彼女を現すような紅蓮の剣。

ネロ「お前が創ったのか?」

赤セイバー「無論だ!」

ネロ「――結構やるじゃねぇか、サムライが相手ね、悪くないぜ。やっちまいな!」

赤セイバー「――奏者に勝利を!」

伊達「奥州筆頭――――伊達政宗。推して参る!!!」

伊達「奥州筆頭――――伊達政宗。推して参る!!!」

赤セイバー「やぁぁぁぁぁぁぁ!!」

伊達「yeaaaaahhhhhhh!!!」

紅と蒼、二つの光が火花と雷鳴を轟かせぶつかり合う。美しくも激しい闘争、聖杯戦争は幕を開けてしまったのだ。

ネロ「――――――――」

ネロは言葉を発することができなかった。怖気づいた――否。あまりの興奮に?―――それも少し違う。敢えて言葉で表現するとしたら初めて見る、見たことのない「力」から目を逸らさず、一心に目する以外の行動がとれなかった。

ネロはフォルトゥナという城塞都市に生まれ、育ってきた。力――こと剣の腕と言えば、幼き頃クレドに叩きのめされていたことを除き、対等はおろか、まともに打ち合えるものさえいなかった

帰天の儀により、悪魔と化したクレドすら打ち負かした今のネロにとっては、自分と打ち合えるものなどダンテくらいなものだろう―――そう思っていたが、彼らはその予想を超えていたのだ

伊達「――いいねぇ、アンタ上等だよ!!!」

赤セイバー「そちらこそ、芸術性を感じる鎧ではないか、その兜もなかなか気に入った」

伊達「出し惜しみは無しだ、竜の爪――その身に刻みな」

腰の剣に手を掛ける、伊達政宗の真骨頂、その六の爪が今、牙をむかんと解き放たれる

赤セイバー「ぬぅ…六本も使うとは器用な奴め……」

伊達「やれるならやってみればいいさ、ハマれば最高にCOOLだぜ?」

赤セイバー「余が主張すればできぬことなどない!!だが今はやらぬだけだ!」

ネロ「――――――――――――」

ちぐはぐな会話を挟みつつも戦いは激化していく。その剣戟は美しく、心を打たれる劇のように作りこまれている。ネロには戸惑いの様な心が生まれていた

ネロ「(俺は――――――――――)」

彼らの剣技はまさしく凄まじい、だがそれでも、ネロには勝つ自信もあった。剣技だけなら。

赤セイバー「天幕よ、落ちよ!!―――――――花散る天幕!!!!」

伊達「DEATH FANG!!」

ネロ「(守れるのか………………?)」

サーヴァントには原則、一人に一つ、宝具という最後の切り札があることをウェイバーから聞かされている。
自分には内なる力もある、一対一なら宝具とやらを使われても打ち負かせる自信もあった。一対一なら。

伊達「さんさ時雨か萱野の雨かァ!Show-guys,now Ha!!」

赤セイバー「―――!!余の攻撃が通らぬ……ぐぅっ!」

究極婆娑羅技――敵の攻撃効果を強制キャンセルし、自分の剣技の粋を相手に連撃で叩き込む、宝具にまで到達した固有能力がセイバーに襲い掛かる

ネロ「(キリエを―――――)」

目の前の侍は怒涛の攻撃を繰り出している―――こんな奴が何人も襲ってきたら?霊脈、魔力が充実しているフォルトゥナが新たな聖杯戦争の地にならない可能性はゼロか?自分自身は生き残れても、愛する人―――――キリエを守れるのだろうか

赤セイバー「ジリ貧だぞ、マスター」

何とか凌ぎ切ったものの、体力の消耗、そして顔には焦燥の色が伺える。しかし、マスターであるネロに、その声は届いていない

ネロ「―――――――もっと力を」

赤セイバー「聞いているのか、マスター!!」

伊達「サーヴァントが問いかけてるってのに…情けねぇ大将もいたもんだ――――行くぜ」

六の爪が立ち尽くすネロ、消耗したセイバーを仕留めんと宙に舞った

ネロ「――――――もっと力を!!!!!!」

伊達「――Shit!?」

赤セイバー「くぅ…ぬあっ!?」

魔力の暴発、凄まじい衝撃と共に敵と認識しているライダー、そして味方であるはずのセイバーまで大きく吹き飛ばしてしまう

伊達「っ――そう来ねぇとな。戦にも華がねぇってもんよ」

赤セイバー「――奏者よ、どうしたのだ?」

ネロ「――――ハァ、――――ハァ……悪い」

大きく肩を揺らし息をする。しかし、結論は得た。魔剣教団の残党が聖杯を狙っているとか、この土地に根付く聖杯という名の災厄を振りまく呪いの壷を解体するとかそんなものはどうだっていい。力を得て、キリエの元に戻る。それがネロの出した答えだった

ネロ「―――終わらせるぞ、セイバー。俺にチンタラしてる時間はないらしいんでな」

赤セイバー「余と奏者が組めば万軍よ!!一気に片づけてやろうぞ!!」

伊達「Ha!舐められたもんだな、何なら実際に万軍って奴を見てみるかい?―――帰れるかどうかはアンタら次第だがな!!!」

ライダーを中心に風が吹き荒れ、草木は青々と生い茂り、空は晴れ渡る。

赤セイバー「こやつ……余が真名を出し渋っていると思うて次々出番を奪いおって……!」

ネロ「ブッ潰してやるさ――――!!!!躍らせてやるぜ!!!」

世界は彼が天下を駆け巡った戦国時代へと塗りつぶされようとしていた

伊達「Are you ready gu―――――――――」



「――――――令呪を以て命じるわ。その辺にしといてもらえる?多分大丈夫だろうけど、もし死んじゃったら私が怒られるだろうし……ね?」

どこからか、ネロにとっても聞き覚えのある艶っぽい声が響き渡る

伊達「おいおい、無粋なことするじゃねぇかmaster」

「そうは言うけど――少なくともそこの彼は強いわよ」

赤セイバー「失敬な!余も強いぞ!!」

負けじと剣をかざしアピールする。その顔には先ほどまでの焦燥の色は消え、普段通りの彼女の顔があった

「――――と言うか、貴方達本来戦うべきじゃないのよね―――まぁ、その内分かるわ、じゃあね、坊や」

ネロ「おい、誰なんだアンタは!?」

ネロの叫びも虚しく、夜空に虚しく響いた声は帰ってくることはなかった

伊達「チッ――セイバー。この勝負、預けたぜ、OK?」

そう言い残すと、ライダーは霊体化することなく馬状のバイクに跨り颯爽と消え去った

セイバー「まずまず…だな」

ネロ「サーヴァント、か―――――」

―――――――もっと力を。胸にはそれだけを抱き、ネロの一夜は終わりを告げた

遠坂邸

時刻はネロ達が巡回に出発した頃、遠坂姉妹、そしてダンテとレディは遠坂邸へ到着し明日以降へ向けて英気を養っていた

一通りことを済ませ、レディと桜は先に寝室へ、リビングスペースにはあかいあくまと、赤い悪魔。

ダンテ「――これだ。やっぱりタタミって奴は落ち着かねぇな」

ソファに深く腰掛け足を組み、開口一番出た言葉がこれだった。もう少しロックな部屋なら…………等不満すら漏らしている

凛「アンタね…人にどこでも寝れるように、って言っといてどういうことなのよ」

ダンテ「どうもこうもないさ。確かにどこでも寝れるくらいに俺はタフだぜ?でもな」

よっこらせ、と言わんばかりの気だるげな表情で深く腰掛けていた体勢を前屈みに、腕を組む。

凛「――でも?」

ダンテ「そりゃ洋間の方がいいに決まってるだろ?」

そしてウインクと共にいつまでも無邪気さの消えない悪戯な笑顔を見せる

凛「はぁ!?つまりうまいこと言ってあのネロって子を士郎の家に押し付けたの?」

ダンテ「半分当たり、半分ハズレだ」

今までの明るい表情から一転、その顔つきはまさしく真剣なものとなった

凛「……どういうこと?」

ダンテ「シロウの家でも言ったが、あの坊やに強くなって貰いたいってのは事実さ」

凛「そりゃ強くなるに越したことはないでしょうけど……正直貴方が出れば簡単に済む話じゃないの?士郎だって……今日一人で出て行かなくても……」

ダンテ「そう、俺が出れば簡単にカタが付いちまう――それが問題さ」

――――――俺ももう若くない。少し寂しげな表情でダンテは呟いた。

ダンテ「俺だっていつかは死ぬ――その辺の人間よりは長生き出来てもな」

肉体と経験は今や最高の円熟期に到達し、父すら超えたと言われるほどのダンテが危惧していること――それは自らに伍する者がいない、という事実

ダンテ「アイツらが――ネロやシロウが助けを求めるってなら話は別だ。手を貸してやってもいい」

凛「………」

ダンテ「だが、俺が出張ってアイツらの成長をわざわざ潰すこともない――それだけの話さ」

悪魔は倒しても倒しても無限に沸いてくる。広大な魔界では今も幾つもの勢力が犇き、競い、切磋琢磨し、地上への侵攻を狙っている

ダンテ「あまり考えたくもねえ話だが――いつまで俺も剣を振れるかわからねえしな、後継者――とまではいかなくても俺が認める、誇り高き魂を持った奴に強くあってほしい―――――ってことさ」

凛「――ごめんなさい。私貴方のこと誤解してたみたいだわ」

ダンテ「ま、俺にちょっかい出してくるようなヤツが居れば―――魔術協会だろうが悪魔だろうがブッ潰して体に教え込んでやるがな」

凛「魔術協会って―――――いや、アンタならやりかねないわね」

教団騎士の育成には抜かりがなく。悪魔化による並のサーヴァント以上の者もいた魔剣教団をネロの奮闘あったとはいえ、ダンテは滅ぼしている。

魔剣教団と言う小さな城塞都市の一教団が、魔術協会、聖堂教会の干渉を免れていたのも、ひとえにその戦闘能力の高さ、そして秘密兵器「神」などを恐れての物だった


ダンテはまだ老いてはいない。その体に溢れる闘志は燻り、今からでも飛び出したい衝動はある。それでも若き彼らの力を信じ、こうして英気を養っているのだ。

彼等では手に負えないなにか、強大な力が来るその時まで

市街

士郎「――流石に専門外だからか、悪魔退治は堪えるな」

士郎はネロ、セイバー組が柳洞寺方面に向かったのに対し、士郎は反対方向の新都側へ向けて出発していた

士郎「二十体くらいは倒したか……?もうひと踏ん張りだな」

専門外ではあるものの、第五次聖杯戦争を勝ち抜いて以来鍛え続けてきた戦闘理論や、干将・莫耶に刻まれた魔除けが功を奏していたのか順調に悪魔狩りを遂行できている

正義の味方――ただそれだけを目指して

士郎「……今日はこんなものか。――――投影、終了」

辺りを覆う瘴気は大方晴れた。少なくとも明日の深夜までは大丈夫だろう。投影していた宝具を戻し自宅へ向けて歩を進める

士郎「もう少しくらいなら構わなかったか……いや疲れてると遠坂にどやされ――――――――――!!?」

殺気。殺意。
冷たい刃を喉元に押し当ててくるような、逃げようのない感覚

士郎「――投影、開始……!!」

この感覚を士郎は知っている。忘れるわけもない。
十年前、スパーダの血族たちによって更なる歪みを得た聖杯が呼び出してしまった、最強のイレギュラーサーヴァント

士郎「ダーク―――スレイヤー………」

今の自分はアーチャーとそう変わらない目をしている。視界内にさえ捉えればまだ手の打ちようはある、殺気は濃いが、まだ距離は遠い――――

冷静に状況を分析し作戦を組み立てる。殺気は凄まじい勢いで迫ってくる、大丈夫、まだ少しある――――――――――

そんな余裕さえ魔剣士は与えなかった

「―――――何を立ち呆けている?」

士郎「―――――ッ!!」

士郎を囲むは蒼白く輝く剣の群れ。
幻影剣。言わば悪魔流の投影魔術であり、飛び道具を是としない彼が愛した遠距離攻撃。一つ一つの威力こそ低いが五つ六つと重なったそれを受け、一瞬でも怯むようなら――――それは死に直結する

士郎「う、うおぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!」

跳躍、他に手はなかった。まだ視界内に魔剣士はいない

「―――こっちだ、魔術師」

士郎「――ッぐあっ!!」

一閃、辛うじて受け止めたものの大きく吹き飛ばされてしまう。この瞬間移動のような疾さ、鋭く思い斬撃、そして銀糸の髪に冷たい蒼眼

士郎「ダークスレイヤー………」

バージル「聖杯を拒んだ貴様が、今更何を企んでいるかは知らんが――――――――」

バージル「―――――――――手始めに死んでもらおう」

士郎「―――投影開始!!」

今更ですが伊達が妙に強いのは、知名度とトリッシュの悪魔ならではの魔力供給量、そしてマスターとの相性がいいからと補完しておいて下さい。必要でしたら適当に赤セイバーたちのステータスも作ります
それにしても原作がないとひたすら難しいですね。それでは引き続きお付き合いください

バージル「―――――死ね」

疾走居合――――一度の抜刀により生み出された死を呼ぶ複数の斬撃は容赦なく士郎を襲う

士郎「――疾…い!」

アサシン、佐々木小次郎のように鋭く、更に悪魔の剛力、何より獲物の決定的な違い――――
閻魔刀による斬撃は次元の壁を容易に切り開き、同時斬撃を可能にする

しかし、それはあくまでバージルの、衛宮士郎とはまた違った「剣」の道を極めた技術が伴って初めて完成するものである。

その道程は果てしなく遠く、かのダンテですら純粋な剣の腕では兄に及んではいないのだ

士郎「――距離を…取ったか――なら!」

全神経を集中させる。今自分がすべき事は打倒ではなく、生きて帰ること。
当たれば隙は作れる、魔力をチャージしている時間は――――ない

        我が 骨子は 捻じれ狂う
「―――――――I am the bone of my sword」

早く、早く、早く―――――――!
構えをとっているバージルを気にも止めず矢を放つ

士郎「偽・螺旋剣―――――!!!」

バージル「――ハァっ!!」

同時に放たれた両者の攻撃。偽・螺旋剣による爆風が舞い上がり、バージルの姿は見えない

バージル「ほう、なかなかの身のこなしだ。人間にしては、の話だがな」

士郎「痛ッ―――躱したつもりだったんだけどな……」

次元斬―――――同時斬撃を複数飛ばす絶技
直撃こそ避けたものの、それは確かに士郎の方を抉った

士郎の方×
士郎の肩○です。すみません

士郎「―――いける…いや弱音を言ってる場合じゃないな」

再び手に干将莫邪を握る。痛みはあるが堪えられないほどではない
元より躱したつもりだった、というのを差し引けば寧ろ精神的なものの方が痛むくらいだった

十年前――第五次聖杯戦争時に敵対した時から随分と成長したつもりではあったが、まだ一対一で対するにはあまりにも強大な力であったらしい

鞘が体内に無い今無茶はできない――だが無茶をしなければ――――

士郎「逃げるのも難しい――か」

バージル「独り言は済んだか?」

士郎「待っててくれてたのか。ならその内に逃げればよかったのかもな」

我ながらどこかアーチャーに似てきてしまっている気がする。こんな窮地において口元が皮肉にも緩みそうになる

バージル「何、怯え腑抜けになったのではないかと思ってな。そのような愚者なら俺が斬り捨てる価値すらない」

十年前、英霊エミヤは言った


『剣の名を冠すスパーダの血族を前に、剣の丘を出す。これほどの自殺的行為はそうそうないな――――だが、数少ない勝機を「俺」が掴むとするなら、やはり自らの起源である剣を以て望む以外にないだろうよ』

そう言って英霊エミヤは単身命を懸けて時間を稼いだ。

結果、エミヤは敗れた。恐らく、剣と言う剣を使いこなされ散ってしまったのだろう。
自分とエミヤは別物――そう思っていてもどこか少し悔しい、不意にもそう思ってしまっていた

自殺行為かもしれない

しかし、その程度の無茶をせずして逃げ切れる敵でもない―――
ならば他に手はない

士郎「I am the bone of my sword――――――」

バージル「――力を行使する姿勢は認めてやるが…十年前に敗れた術を使おうとするとは愚かだな」

瞬間移動の様な移動と共にバージルはその鋭い剣撃を躊躇なく振るう

士郎「―ッ!!無策…って訳でもない……勝つ気はある!!」

防戦にのみ徹してもその凄まじい剣戟は恐るべし脅威を以て衛宮士郎に降り注ぐ。セイバーの様な力強い剛の剣、アサシンの様なしなやかで鋭い柔の剣を同時に相手にしているかのようだ

士郎「痛―――!!」

抉られた方の手に力が籠められない。バージルなりの流儀なのか、片方のみを執拗にいたぶるようなことはしてこないが、それでもやはり双剣でないと受け止めきれない斬撃もあり、顔は苦痛の色に染まっていく

士郎「―――Steel is my body,and fire is my blood.」

バージル「――どうした?手元が留守になっているようだが」

士郎「クソッ―――――!」

バージル「ハァ!!!」

距離を置いては一小節唱え、攻められ、体勢を立て直し一小節唱える。
そんなやり取りを何度か繰り返した辺りから、士郎の頭にはノイズの様な靄がかかっていた

士郎「(まただ―――いつもと違う、剣の丘―――――――――)」

DMC事務所で堂々と飾られていた伝説の魔剣「スパーダ」そして、衛宮士郎のサーヴァントであり愛した女性セイバーの切り札と言える宝具「約束された勝利の剣」二つを囲むような剣の群れ

少なくとも最近までこんな景色は見たことがなかった。衛宮士郎自身、己の心象風景だといううのに

士郎「(だめだ―――急に頭が、ボーっと……)」

致命的。分かっていても頭の靄を振り払うことができない

バージル「俺を前に隙を見せるとはな――屑が――ー――死ね」

士郎「(マズ――い)」


「死にたくなければ右へ避けろ」

士郎「!?」

咄嗟に躱した数メートル先からは溢れんばかりの魔力が込められた、Aランク相当の宝具が今まさに臨界を迎え爆ぜようとしていた

バージル「――!己ッ」

士郎「――――――――――」

爆風と共に視界から消えるバージルを黙したのを最後に、衛宮士郎の意識も途絶えた


「全く――本来なら自由意志など持てぬ私が……皮肉だが同じ衛宮士郎だから動けたのやもしれんな」

「それにしても守護者まで動員しようとは――今回の聖杯戦争は随分と歪まされているらしい、奴に聖杯を渡してはならんのは確実のようだが―――――ひとまずは衛宮士郎か……なんだってコイツの為に」

士郎「痛ッ―――――!!!」

痛い。
鋭く熱さにも似たものを感じ目を覚ます

士郎「ここは………家じゃないか……」

布団、窓、畳。衛宮士郎の記憶に間違いがなければここはいつも通りの彼の見知った家である

士郎「でも―――何で?」

―――そう、昨日、自分はダークスレイヤーと交戦し敗れかかった。
いや、あの一撃がなければ自分は今頃――――ダメだ、今一思い出せない、自分はあの後どうしたのか?何故ここに居るのか?

幸い、家には敵の気配はない
重い体を引きずり戸を開ける

士郎「居間…じゃない、のか」

時計に目をやると時刻は午前10時半を差している。少なくとも皆が皆、寝ているということもないだろう。

感覚が戻ってくる。一定とまではいかないもののここちよい何かと何かがぶつかりあうような心地よい音が響き渡っている

士郎「道場…か?」

いつもより長く感じる道場への道程を終える。やはり音の発生源はここのようだ

激戦を終えた士郎を迎えたのは、特訓のようなことをしているダンテ達だった

ダンテ「お目覚めかい、シロウ?――また随分ハデにやられたな」

ウェイバー「ファック!行くなら回復用の薬品を持っていくくらいせんか」

ケラケラと笑うダンテに対し、ムスッと膨れ上がるウェイバー。
今では彼の口癖となったファック。これはきっと若かりし日のダンテに影響されて――――なのかもしれない

士郎「ん…あぁ。それなんだが、俺確か誰かに助けられて―――」

ネロ「助けるも何も。俺が目覚めた時にはアンタ、玄関先でぶっ倒れてたぜ。そこからアンタの寝室に運んだのは俺だが」

士郎「――?そう、か。済まない…ありがとう」

ネロ「それとな、昨日の町の巡回は俺とセイバーだけで行くはずだったが―――悪魔にやられてそのザマってなら正直、出歩かない方がいいぜ」

士郎に背を向け言い放つ。不器用だがネロなりの優しさだった

士郎「これは―――――」

昨日の状況を弁解したところでどうにかなるものでもなし。不用意に話して、まだ青く真っ直ぐな青年をダークスレイヤーに遭遇させる必要もないだろう、そう考えて士郎は昨日の件を胸にしまっておくことにした

士郎「―――いや、悪い。今後は気を付ける」


ネロ「――ならいいけどな」

赤セイバー「存分に我らを頼ると良いぞ!!」

ダンテ「シロウが来たら三対一で稽古でもつけてやろうと思ったが――、一旦休憩だな。早めのランチと洒落込むか」

ネロ「何言ってんだ、俺ならまだやれ――――――」

赤セイバー「奏者よ!食は重要だぞ!!余と共に食すことを許す」

ネロコンビはいつもの如く凸凹ながらも妙に気の合ったやり取りを交わしている。
士郎も桜がそろそろ来る、と連絡があったらしく昼食を作りに居間へ向かう

縁側

日本のピザの値段に驚愕したダンテは結局出前を取らず士郎に作ってもらうこととなった。
二十年前はここまで高くなかったうえに、マッケンジー夫妻が振る舞っていてくれたから、二十年後の今ようやく気付くこととなった

ダンテ「ハハ、悪ィな。慣れないもん作らせちまって」

士郎「協力してもらうんだ、このくらいはしないと罰が当たるさ。口に合うかは保証できないけどな」

パクリ、一口食べたダンテは目を丸くした

ダンテ「ハラショー!凄ぇな、日本人ってのは、本場の味をここまで再現できるとはな。アンタ魔術師やめても食ってけるぜ?しかも腕も立つ。ボディーガード要らずだ」

パクパクと、一区切りつけるごとにどんどん口に詰め込んでいく。
向うにはない味のきめ細やかさまでありやがる、など歓喜の声を漏らしながら子供のように口に運び続ける

士郎「気に入ってくれて光栄だよ。そっちの件も考えておく。追加が必要なようならまた声をかけてくれ」

ダンテ「あぁ、そうだ―――――シロウ。その傷、そこらの悪魔にやられたんじゃないんだろ?」

手に持っていた一かけらを食べ終え呼び止める。先の子供の顔とは別の、真摯な顔だ

士郎「―――よく分かったな。隠せるなら隠し通そうと思ってたんだが」

ダンテ「ネロの坊やにはまだでも俺には分かるさ。そこらの悪魔にやられるほどアンタは弱くないだろうし、そんな鋭い傷を負わせれるやつを俺は一人しか知らねぇ」

士郎「ダークスレイヤーに心当たりがあるのか…?」

ダンテ「十中八九、俺の兄貴だろうさ」

士郎「―――!いや、確かにダンテの兄とすると色々と辻褄が合うな」

桁外れの魔力、規格外のタフネス、そして圧倒的な剣技。確かにダークスレイヤーがダンテの兄の若かりし頃の姿だと仮定するといろいろと納得がいく。

そこで衛宮士郎の思考は一時停止した、英霊となったということは……彼はもう――

ダンテ「中々の色男だったろ?俺には負けるがな」

士郎「――はぁ、何だってアンタは話をそういう方向ばかりに」

付き合いを始めて極わずかな期間しか経っていないが、衛宮士郎には今一つダンテという人間が掴めずにいた。
基本的にはどこか影を感じさせる陽気な人だが、時折見せる真剣な表情、と思えば少しずれた方向に持っていかれたりと、まるでこちらのペースなど考えていない

士郎「でも、いいのかダンテ。アンタの兄弟を倒すことになってしまっても」

確かにダークスレイヤーは強大な相手だ。かくいう士郎も十年前の第五次聖杯戦争では、勝った、というより、死闘の末に気が付いたら生き残っていたような感覚らしい
そして昨夜、直接剣を交えたものの、やはりまだ一個人で相対するには大きすぎる相手ということを痛感させられた。
しかし一度勝った相手である以上それ以上の条件で臨む今回は負けるはずがない、もとい負けるわけにはいかないのだ。自分と共に剣を取った愛するべき女性の為にも

ダンテ「そこまではっきり言うとは頼もしいな―――俺個人としてはアイツとの因縁にはとっくにケリを付けてる。今更とやかく言わねぇさ」

兄が刃を自ら向けてくるようなら容赦をするつもりはない。まだ死ぬつもりなど毛頭ないからだ。
それでも、二度も自ら別れを突きつけた兄に自ら進んでこれ以上剣を振るのも躊躇われた

だが未だ修羅の道を歩もうとする兄が誰かとの因縁を生み、それに決着をつけようというのなら自分が入り込む余地などない、これがダンテの出した結論だった

士郎「そうか、その――なんだか、悪いな」

ダンテ「謝る事なんてどこにもないぜ、シロウ。お前にはお前の信念があるんだ、それを貫くってだけの話だろ?胸を張りゃいい」

毅然と言い放つダンテに少々面くらってしまう士郎。

士郎「ハハッ、本当だな」

ダンテ「だろ?」

ダンテ「あぁ、そうだシロウ。バージル―――ダークスレイヤーの周りにマスターはいたか?」

士郎「―――そんな気配はしなかったな、あれだけサーヴァントが強力なんだ、わざわざ前線に出る必要もないだろう。前回もそうだったしな

ダンテ「そう、か―――――――――」

通常、マスターは前線に出ず、後衛や守りに徹するのが常套手段であり、戦闘中に姿を見せずともなんらおかしくはない。その点で言うなら過去の士郎の方がよっぽど異常なのだ。
つまりダークスレイヤーのマスターが姿を見せずとも何もおかしくはない―――のだが、ダンテは別の可能性を見出していた

ダンテ「(奴の気配が僅かだがしやがるからな―――)」

少なくとも「奴」はまだ現世へ来れるほどの力を持ってはいないだろう。何せ若かりし頃とは言え、命がけで戦い、相棒と共に魔界へブチ込んでやったのだ。
だが、無から有を想像する「奴」の能力、魔力をもってすれば今の状態でも聖杯戦争のルールの書き換え、自らが復活するための贄とするサーヴァントの追加などは容易なはず――――ここまで考えてダンテは一旦思考に蓋をすることにした

ダンテ「(シロウやネロの坊や達には荷が重い、となると俺しかいないワケだが――――ヤメだ止め。こういう嫌な考えに限って当たりやがる。出てこようってなら、また何度でもぶっ潰してやるぜ―――)」


ダンテ「なぁ―――――――ムンドゥス」



瘴気が満ち、月の光さえ遮られる深淵の時間。その時間においても金糸と銀糸は闇をものともせず自らの力で闇を切り裂き、並居る悪魔をなぎ倒していた

ギルガメッシュ「――フン。このような事、雑兵にでも任せるものの……」

不満を漏らしながらも黄金の王は持てる材を湯水のように放ち、悪魔を一蹴に伏してゆく

バージル「――では、ここで死ぬか?」

ギルガメッシュ「戯けが。慢心していようがこのような雑種風情が、我の鎧に傷を付けることなど能わぬわ」

バージル「まぁいい――――片をつけてやろう」

静かに言い放つと、青の魔剣士は何処かへと消え去ってしまった。
刹那、異なる次元からもたらされた斬撃の群れ、斬撃の嵐が悪魔を恐怖で飲み込む前にすべてを切り裂いた

バージル「――つまらんな」

背中に鞘と剣を添え、そのまま収納する独特の納刀と共に魔剣士は戦いを終えた。事実、立っているのは英雄王と魔剣士、ただ二人だ

ギルガメッシュ「露払い御苦労」

バージル「貴様の為に奴らを斬ったとでも?」

ギルガメッシュ「剣士が王の為に働くのは至極当然だ」

バージル「貴様の臣下になった覚えはない―――――何より、俺は仕えていた者に刃を向け、打ち勝った血族であることを知らんお前でもあるまい」

冷酷に、混じりけ無しの純粋な殺気と共に刃を突きつける。それに呼応するかのように英ゆ王の手には「既に」乖離剣エアが握られている

ギルガメッシュ「―――何、冗談よ」

バージル「生憎、そう言ったモノは俺よりも奴の方が得意だ」

血を分け、運命すらも分かつこととなった弟。ふと、彼の顔がよぎった

ギルガメッシュ「―――ところで魔剣士よ、お前もこの聖杯戦争の異常には気付いていよう?」

バージル「―――――――――」

そう、彼らにはマスターが居ない。気付いたときにはこの土地に居たのだ

ギルガメッシュ「しかし供給されている魔力は問題ない。寧ろ過多と言えるほど濃密な魔力がもたらされている」

元より、ギルガメッシュとバージル。二人が元々持っている魔力は群を抜いている。その二人をもってしても尚、多いと言わせしめる魔力の供給元とは―――――

バージル「―― 一人、心当たりがある」

ギルガメッシュ「ほう?」

バージル「だが、そんなことになど興味はない。聖杯を前に立ち塞がるというのなら切り捨てる―――――それだけだ」

ギルガメッシュ「何が為に?」

バージル「――決まっている。力の為に」

英雄王は魔剣士に興味を持ち始めていた。自分が生き、神々と戦った時代でも程度はあろうが魔剣士の力は通用するだろう。
そこまでの力を持った魔剣士は未だ力をひたすらに追い求め続けている。

愚者とも違う、しかし聖者でもない。ただただ純粋な何か。
人の――魔人の領域すら超え、立ち塞がるのであれば創造神ですら切り捨てると豪語するこの男は、英雄王には儚くすら見えた

ギルガメッシュ「ハ、見誤るなよ魔剣士。我を以て強大と言わしめるその力、わからん貴様ではあるまい」

バージル「―――――――――」

事実、想定した通りの者なら魔剣士は敗れている。酷い記憶の混濁はあるもののそれだけは覚えている

ギルガメッシュ「聖杯が我ら二人の前に降りるまでだ。我が貴様と共に王道というものを見せてやろう、貴様が聖杯を賜すに値すべき者かどうか――――その時見定めてやろうぞ」

バージル「――――好きにしろ、それと」

ギルガメッシュ「構わん、申してみろ」

バージル「我ら、という言葉を使うな」

ギルガメッシュ「我はお前と違ってこの血に何ら誇りなどない。我こそが誇りよ、だが――――好きにするといい」

バージル「――では、悪魔と神の束の間の盟約だ」

ネロ・セイバー組

ネロ、セイバーはこの日、悪魔狩りより優先して訪れたいとある場所があった
ところが一筋を通るごとに結界が張られ、悪魔と交戦していた結果、時間を食ってしまっていた。

時間には基本的にルーズなネロだが、待ち人がいる、となれば話は別だ。人を待てせるのもあまり性ではない

ネロ「随分かかった……これなら昼間に来た方が良かったかもな」

腕を隠す必要があったり、携行できる武器が限られるといったデメリットはあるものの

ネロ「喧しいこれが居ない方がマシな気もするがな」

セイバー「ム、何か言ったか?先を急ぐぞ」

セイバーがいることによる現在も心労を考えれば、少し後悔するネロであった

ネロ「そろそろ着くぞ」

セイバー「此処は………」

ネロ「異教徒な上に俺は敬虔な信徒じゃなかったからな。煙たがられないといいが」

そう。ネロたちが目指し来たのは、今は言峰神父亡き聖堂教会。
礼拝者のいないこの時間、彼らを待ち受ける者とは――――

重く閉ざされた戸に手をかける

ネロ「――悪い、おく」

「お待ちしておりました。魔剣教団は礼節正しく時間や規律にも厳格と聞いていましたが、とんだ期待はずれです」

ネロを待ち受け佇んでいたのは、独特の修道服に身を包み、毒舌を発揮する銀髪の美女だった

ネロ「――遅れたのは詫びるが魔剣教団なんてものはもうないからな。それに生憎だが元々敬虔な信徒でもないもんでね」

セイバー「此方には此方の事情があるのだ、我が奏者に無礼なやつめ」

ネロ「お前はちょっと黙ってろ―――ネロ、俺はネロだ。アンタに聞きたいことがあってきた」

カレン「申し遅れました。私はカレン・オルテンシア。今は亡き言峰神父の後任を務めています」

挨拶と同時に振り返った彼女の体には痛々しい生傷が刻まれている

ネロ「――ッ。それが『被虐霊媒体質』ってヤツか」

その生々しい様に息を飲んでしまう。少なくとも、自分の右腕と重ね合わせて皮肉の一つや二つでも言ってやろう、という気にはなれなかった

カレン「随分と詳しいですね。魔剣教団では異教徒の体質までお調べになるド変態を教育していたのですか」


ネロ「――アンタも解ってるだろ?」

そう。カレンの被虐霊媒体質とは、悪魔に反応するカレンの体質を示している。
悪魔を狩ることを使命としている魔剣教団にとっては喉から手が出る程欲しい逸材だったのだ。

それでも尚、魔剣教団に強引な引き抜きを行わなかったのは、今は亡きクレドの異教の教えを尊重すべきだという意見と、聖堂教会との抗争を危惧してのことだった

ネロ自身も悪魔の右腕を持ち、悪魔探知能力――と言うよりは感覚が鋭くなった、といった認識だが、そのネロをしても彼女の探知能力は図抜けていると直感が告げていた

カレン「ジョークです―――して、ご用件は?」

ネロ「単刀直入に聞くが……ウチの生き残りを匿ったりなんてことはないか?」

もし教団員の生き残りが教会に逃げ込む。なんてことがあれば追い返すことはまずしないだろう。
日夜魔術協会との水面下での死闘に明け暮れる聖堂協会にとって、魔剣教団の悪魔関連の知識や技術は欲しいはずである

仮に何も知らない団員だった場合は新たな信徒として迎えればよし、情報や技術を漏らし、それが聖堂教会の教義に反するものであった場合は秘密裏に処分・幽閉してしまえばいいのだ

ネロの見立てでは恐らく後者であろうと思っていたが、予想は外れてくれたようだった

カレン「ありません――私の、そして貴方の神に誓って」

キッパリと言い放つように答える。その目には曇りはなく、怪訝な顔で見ていたセイバーも疑うことはしなかった

セイバー「余には分かるぞ。この者は嘘をついておらぬ」

ネロ「――だろうな。こんなことを言うのも変かもしれないが――アンタと対立することにならずに済んでよかったよ」

カレン「どういうことですか?」

ネロ「妙な体質してると……なんだ。苦労することも多いだろうからな」

皮肉げな表情で右腕をヒラヒラと振ってみせる
こういう時にネロは素直な言葉が出てこない。これが精一杯だった。

カレン「―――」

カレンもまた言葉に詰まってしまう。人に何かを捧げることはあってもその逆などなかったからだ

ネロ「――用はそれだけだ、悪かったな」

カレンに背を向け扉に手をかける。やはり教会のような堅苦しい場所は居るだけでも息が詰まりそうになる

カレン「――強大な悪魔の気配がします」

ネロ「――――――」

カレン「それも複数。今この地に溢れている悪魔たちも、それらの影響により出現しやすくなっているのでしょう―――貴方と因縁があるソレかは分かりませんが」

ネロ「一体くらいは心当たりがある。人に危害加えるような悪魔ならなんだってぶっ飛ばしてやるがな」

カレン「――ご健闘を」

ネロ「――――――あぁ、それともう一つ」

ネロ「ウチの事務所開店したばかりでな、従業員募集中だ――――じゃあな」

パタリと静かに扉は閉じられた

遠坂邸

レディ「………………」

凛「………………………」

時刻は深夜一時半。客間には緊張した空気が張り詰めている。

凛は聖杯の解体に向け、撚りすぐりの宝石に魔翌力を込め、レディは一日も欠かしたことのない銃器のメンテナンスを行っていた

具体的に緊張の度合いを説明するならソファに腰掛けている二人が作業の合間に紅茶をすする音と時計の秒針が響くくらいには静かである

レディ「――ねぇ、リン?」

凛「―――何かしら」

レディ「貴女冬木のオーナーなんでしょ?もう少し前線に出て早く終わらせるようにできないの?あまり寛げる様な場所でもないし、ショッピングをするにも、この街は退屈だわ」

凛「こっちにも色々準備があるのよ。貴女こそデビルハンターなら街に出てる悪魔でもさっさと狩ってきたらどうかしら。働かざる者食うべからずって言葉知ってる?」

レディ「――――そうね、それもいいわね。ひと働きしましょうか」

おもむろに立ち上がると、ホルスターから短剣の付いた銃を取り出しクルクルと回してみせる

レディ「ねぇ、あかいあくまさん?」

凛「―――上等よ、受けて立つわ。何でも来なさい」

レディ「そうね―――本当なら銃弾浴びせて床とキスと行かせたいところだけど―――」

凛「金食い虫同士がガチンコで戦っていいところなんか一つもない――か」

年間数千万の収入がありながら遠坂家の宝石を用いるという非常に高コストな魔術のせいで経済事情がカツカツな凛。
そして大量に、かつ多種に渡る火器、バイクなどの器具を用いて初めて悪魔と渡り合うことが可能なレディ

この二人がまともに戦えば一夜で数百万の出費になるであろうことは確実であり、流石のレディもそれは控えたいところであった
もっとも、名目上とはいえ仲間であり、ただの人間である凛に鉛玉を浴びせる気もさらさらなかったのだが

凛「先に聞いておくけど、拳法の心得はあるかしら?」

凛の不意な問いに一瞬うろたえるレディであったが、ウーン、と一考する

レディ「――ケンポウとは別でしょうけど、体術なら業務上必須ね」

凛「なら決まり。後腐れなく、『コレ』で決着をつけましょう」

グッと掲げるように突き出したのはその拳。
確かにこれなら怪我をしようが聖杯の解体作業に支障をきたすこともなく、ハッキリと白黒はつきやすい…………………はずである

レディ「スマートじゃないけど―――まぁ良いわ」

しまった。sagaできてなかったんで別pcからですが訂正版投下します

遠坂邸

レディ「………………」

凛「………………………」

時刻は深夜一時半。客間には緊張した空気が張り詰めている。

凛は聖杯の解体に向け、撚りすぐりの宝石に魔力を込め、レディは一日も欠かしたことのない銃器のメンテナンスを行っていた

具体的に緊張の度合いを説明するならソファに腰掛けている二人が作業の合間に紅茶をすする音と時計の秒針が響くくらいには静かである

レディ「――ねぇ、リン?」

凛「―――何かしら」

レディ「貴女冬木のオーナーなんでしょ?もう少し前線に出て早く終わらせるようにできないの?あまり寛げる様な場所でもないし、ショッピングをするにも、この街は退屈だわ」

凛「こっちにも色々準備があるのよ。貴女こそデビルハンターなら街に出てる悪魔でもさっさと狩ってきたらどうかしら。働かざる者食うべからずって言葉知ってる?」

レディ「――――そうね、それもいいわね。ひと働きしましょうか」

おもむろに立ち上がると、ホルスターから短剣の付いた銃を取り出しクルクルと回してみせる

レディ「ねぇ、あかいあくまさん?」

凛「―――上等よ、受けて立つわ。何でも来なさい」

レディ「そうね―――本当なら銃弾浴びせて床とキスと行かせたいところだけど―――」

凛「金食い虫同士がガチンコで戦っていいところなんか一つもない――か」

年間数千万の収入がありながら遠坂家の宝石を用いるという非常に高コストな魔術のせいで経済事情がカツカツな凛。
そして大量に、かつ多種に渡る火器、バイクなどの器具を用いて初めて悪魔と渡り合うことが可能なレディ

この二人がまともに戦えば一夜で数百万の出費になるであろうことは確実であり、流石のレディもそれは控えたいところであった
もっとも、名目上とはいえ仲間であり、ただの人間である凛に鉛玉を浴びせる気もさらさらなかったのだが

凛「先に聞いておくけど、拳法の心得はあるかしら?」

凛の不意な問いに一瞬うろたえるレディであったが、ウーン、と一考する

レディ「――ケンポウとは別でしょうけど、体術なら業務上必須ね」

凛「なら決まり。後腐れなく、『コレ』で決着をつけましょう」

グッと掲げるように突き出したのはその拳。
確かにこれなら怪我をしようが聖杯の解体作業に支障をきたすこともなく、ハッキリと白黒はつきやすい…………………はずである

レディ「スマートじゃないけど―――まぁ良いわ」

その目には火が宿っていた。長年ハンターを続けているうちに丸くはなっていったものの、素の性格は、ダンテやトリッシュにも果敢に挑む程の超がつく負けず嫌いである

レディ「折角だし何か賭けましょうか。その方が張り合いがあるでしょう?」

凛「――!構わないけど、あまりガッカリさせるような物じゃないでしょうね?」

虚勢こそ張って見せたが内心には少し焦りが出てしまった。向こうが出す物によってはこちらも相応の品を用意しなければならないだろう。
そして出てきたそれは凛の予想を裏切らない大層な品だった

凛「これは………魔具?」

レディ「――そう、イフリートって言うらしいわ。借金の肩代りにアイツから頂戴した品の一つね」

イフリートと言われた篭手は厳重な魔術的封印を施されているにも関わらず、長時間素手で触れることは躊躇われる程の熱を帯びている。
到底、現代の人間には使いこなすことの出来ない品ではあるがコレクターには垂涎の一品である。

レディ「貴女にはそうね――私に奉仕する義務を賭けてもらおうかしら。見た所私好みの宝石もないし」

金、という点においてはダンテに難癖をつけてしまえば基本的にどうにでもなる、いやどうにかなっている。つまり凛から金目の物を勝ち得るよりはこの冬木の地で極力リラックスできる環境を作る方がレディにとっては都合がよかった

凛「――上等。表に出なさい!」

かくして世紀の大決戦は始まってしまった

「―はッ!」
「やぁっ!!」
「――このぉ!!」
「てやぁっ!!」
「―貰った!!」
「離しなさいよ!!」
「そっちが!!」
「ぐぬぬぬぬぬ」
「くっ…く…このッ」

やり取り的には非常に高度なのだが、何処となくただの三十路前後の女の殴り合いにもみえる死闘が三十分になろうとした時だった

凛「――痛ッ!?」

かつて味わった鋭い痛みが手の甲に走る

レディ「――ガラ空きよ!!」

凛「――ッ!!!させる…もんですか!!」

強烈な胴への後ろ回し蹴りを間一髪、痛みの走った手で受け止める。蹴りのダメージは確かに大きかったが、握力は失われていない。長期的には無理でも今の一瞬を逃がさないように、反撃の狼煙を上げるように強く握り締める

凛「覚悟なさい!!」

レディ「―――!!」

言峰神父直伝の正拳突きをコンマギリギリの判断で右にかわす。
直撃こそ避けたものの、上等な拵えのジャケットは破け、微かに血が滲み出ていた

一滴。巫女の血は大地に流れ落ちた。

その血は大地に陣を描き――――

レディ「――何!?」

聖遺物とされた物に呼応し――――

凛「ちょ―――嘘でしょ!?」

この地のオーナー、始まりの御三家に新たなる英霊を与えた

「我はランサーのサーヴァント!!威斧璃衣斗を手綱に再び現の世に舞い戻った次第!」

紅蓮。その言葉がよく似合う、まだ青さの残る若き槍兵は問うた

「――問おう、そなたが我が主か?」

凛「――ごめんなさい。多分そうだろうけど少し待ってもらえる?」

遥かなる時を経て、再び日の元の地に降り立った槍兵の眼前に広がる景色。
それは美女二人が息を乱しながら服をはだけさせ、絡み付くように地面に伏せている場所だった

「は、破廉恥でござる!!!!」

レディ「―――倒れたわよ」

凛「――えぇ。コイツもなんだか手が掛かりそうだなぁ―――幸運はCか……」

夢を見ていた。
熱く儚く、そしてCOOLに時代を駆け抜けた若く蒼き一人の侍の夢を。

侍は数多くの将と凌ぎを削り、切磋琢磨し、そして打ち勝ち、天下に平和をもたらした
時には敗北し、討たれ、志半ばのまま朽ち果て、世は混沌の時代へと突入した

侍は成功していた。しかし、失敗もしていた。

一見矛盾にも見えるが彼の場合はその括りではない

並行世界、パラレルワールド、ifの世界。彼はあまりにもそれが多かったのだ。
全国に猛者が犇く群雄割拠の乱世に生まれた彼だからこその境遇なのかもしれない
そうして英霊の座に祭り上げられた彼は全ての並行世界を包括した「彼」となった

並行の、そして時代の壁を越えても尚、確実に決着をつけておかねばならない諸悪とは一体――――――


トリッシュ「――――寝てたみたいね」

時刻は深夜。場所は冬木市の某ホテル
悪魔であるトリッシュといえどその体力は無限ではない。聖杯戦争という儀式の特性上行動は夜間に絞られることを見越し、やや退屈な新都の探索を終えた後に、数時間の眠りについていた

トリッシュ「眠りすぎたかしら?」

伊達「オーライ、俺もこの体じゃなきゃ寝てたろうよ。Partyもいいが睡眠も欠かせねえぜ?」

トリッシュ「それはどうも。貴方、結構考える人なのね安心したわ」

伊達「―――ま、横に居てガミガミ言う奴が居ねぇ分、抑えれる時には自重もするさ」
かつて共に野を駆けた友は今傍らには居ない。呼び出せたとしてもそれは今すべきではない

伊達「さ、行こうぜMaster。魔王のおっさんの気配も濃くなってきやがった……」

トリッシュ「了解よ、先に行ってて頂戴。シャワーを浴びたらすぐに行くわ」

伊達「――戦前に湯呑みたぁ呑気なモンだな。いや、戦前だからこそ……か」

言うが早いか、サーヴァントと言えど異性である伊達を前に衣服を一枚一枚脱いでいく。
意識はしていないのだろうが、妖艶な仕草でそれは男に生を受けた者なら誰もが生唾を飲み込んでしまうようなしっとりとした動きだ

トリッシュ「あら?見たいの?」

伊達「――――――」

一考。数秒の間が流れ

伊達「―――今はいい」

トリッシュ「そう、じゃあまた後で」

伊達「――今夜のPartyは何が出るか……」

蒼の侍、二度目の出陣。

――――――――――

トリッシュ「~♪」

揚々とした気分、とはいかずとも悪くはない気分で風呂場の戸を開ける。

直ぐに追いつくとは言いはしたが、やはり女性たる者髪の手入れは欠かせない。ましてやトリッシュ程の見事なブロンド、加えてロングヘアーとなればそれ相応に時間はかかってしまう。

何よりもトリッシュは日本のホテルの清潔さに感涙を禁じえずにいた。これぞまさに和の心。隅々まで行き届いた清掃は、帰るべき事務所のシャワー室とは似ても似つかない。
事務所の場合、ダンテが掃除ということは論外。まずありえない。何かの気まぐれで清掃業者を呼ぶような頃には事務所の新築を考慮するべきであるくらいに建物が破損していることが殆どなど基本的に清潔とは言い難い。ダンテの弁によれば建物は汚くても俺は汚くないとかなんとか

トリッシュ「少しゆっくりしすぎたかしら」

早めに切り上げたつもりだったが、それでも二十分は経過しているであろうか。
ライダーのサーヴァントである伊達の機動力を考えればいつ敵に遭遇してもおかしくない時間帯に差し掛かっている。
裏を返せば、一人で戦闘を任せられると思うほどにはトリッシュは伊達政宗を信用していた。

トリッシュ「あの坊や達と潰しあうなんてことがあれば冗談じゃ―――済まないわね。急ぎまし―――痛っ!?」

左手の甲、令呪に鋭く焼けた様な痛みが走る。それほどの距離が離れてしまっているのか、またはそれほどの脅威ではないのかは定かではない。
しかし、事実として今、自らのサーヴァントは交戦している。その事実だけははっきりと感じ取ることができた

トリッシュ「――モタモタもしてられないわね」

窓を蹴破り、三階から駐車場に泊めてあったバイクまで一跳びでまたがる。
エンジンをかけると共に魔力を返還した電撃をバイクに迸らせる。バイクの限界を超え寿命こそ著しく縮めてしまうものの、急ぎの時にはこれが一番の移動法なのだ

トリッシュ「死なないで待ってなさい!!」

始まってしまった第二戦へ向け、黄電の悪魔、トリッシュは雷と共にバイクを走らせた

トリッシュがホテルを発つ時刻から遡ることおよそ十分
蒼の侍は己の相棒、馬の形をし取っ手とマフラーが付いた騎乗兵器に跨り、夜の街を駆け抜けていた。
その速度は現代のサラブレッドは勿論のこと、バイクやモンスターカーすら置き去りにする怒涛の走りを見せている。

伊達「――魔王のオッサン…キッチリ片を付けてやる。太平の世、崩させやしないぜ」

言葉にこそしたが、ホテルを出ておよそ十分程度が経過した現在、第六天魔王、織田信長の気配は漠然とした瘴気を漂わすのみにとどまっていた。

当然と言えば当然でもあった。サーヴァントとして聖杯による助力を得て現界している自分とは訳が違うのだ。憑代からこの世への出陣、加えては魔力まで己が手で調達する必要がある。

恐らく、現界してからも完全な復活までには相応の時間が必要であり、いかに強大な力を持つ魔王とてサーヴァントが溢れる今の冬木の地に勝算のないまま出てくるはずもない。

しかし走らずにはいられなかった。平和な日ノ本を守るため。また、無意識のうちに第二の生を謳歌し、まだ見ぬ世界の英雄に思いを馳せ、ただ夜の街を駆け抜けた、まさにその時であった

「Aaaaaaaalalalalalalalalalalalalalie!!!!!!」

伊達「――What!?」

突如の轟音、そして沈黙。
アスファルトで固められた大地はまるで泥細工だったかのように元の形を失い、土煙を上げる様は戦略爆撃機が通過した後ともとれるほどに大地にその雷光を刻みつけている

戦車に跨りさっそうと現れたのは2mにもなる大男。彼は高らかに叫んだ

「余は征服王イスカンダル!ライダーのサーヴァントとして現世に舞い戻った次第である!」

伊達「アンタが昨日の……」

昨夜、政宗は雷鳴を轟かせ空を駆けるサーヴァントらしきものを目撃している。
事実、目の前に居るのは紛れもないその時のサーヴァントだろう。しかし、聖杯戦争というシステム上一つ決定的におかしなことがあった

伊達「生憎だが俺もRiderのサーヴァントでね、どういうことか説明してもらおうか?」

イスカンダルと名乗る巨漢のサーヴァントは、顎鬚をいじり一考した後に答えた

イスカンダル「フゥム……それなのだがな、余にもよく分からんのだ。魔力的には何の問題もないのだがなぁ」

敵であるサーヴァントを前に自らが置かれている状況を惜しげもなく話し出す。敵を侮るのではない、話しても構わない情報は話す。征服王たる彼らしい行動とも言えよう

――彼にはマスターがおらず気付けば現界していた。そしてもたらされる魔力は何も問題がないという

イスカンダル「魔力のパスから正規のマスターではないというのは分かるのだが……如何せん分かるのはこのくらいでな、余も困っておるのだ」

伊達「説明しろと言っておいて何だが、敵を前にベラベラと喋っちまっていいのかい、俺はいつでもアンタを喰らってやるぜ?」

イスカンダル「隠すことなど何もないわい。真名から強奪したものまで!総てが余の力であり誇りである!―――――それにな」

伊達「?」

イスカンダル「喰らうと言ったが―――――余の首を取ろうというからには貴様の首も賭けなんだら届きはすまい。その覚悟。貴様にあるや否や!」

伊達「――――――!!」

圧倒的な重圧。その眼光だけですくみ上り、身が震え、呪い殺すことさえ可能だろうとすら思わせる殺気が辺りの世界を満たしていた

伊達「――俺の首?そんなモン、とっくに賭けてるぜ!!来な、征服王イスカンダル!!」

己を越えるカリスマを目にしても引くわけにはいかない。打倒魔王織田信長のため、ひいては日ノ本の安泰のため
だが独眼竜の体には新たな強者と闘う興奮に似た高揚感で満たされていた

イスカンダル「欲を言うなら部下にしたかったところだが――――極東の侍よその心意気、天晴だ」

伊達「そいつはどうも、征服王さんよ。そういやまだ名乗って無かったな―――――奥州筆頭 伊達政宗。推して参る!!」

イスカンダル「彼方にこそ栄え在り―――――いざ征かん!!!」

伊達「let`s!Partyyyy!!!!!!!!!」

イスカンダル「Aaaaaalalalalalalalie!!!!!」

伊達「WAR DANCE!!」

先制をかけたのは伊達政宗。上空に弾丸の如き勢いで跳躍し、月光を遮るように舞う。解き放つは六つの彼の爪、戦の舞。

伊達「竜の爪、その身に刻みな!」

イスカンダル「これまた六刀使いとは奇怪な奴だ――増々余の軍勢に欲しくなった!」

難もなく政宗の一刀を躱す。馬に乗っているというアドバンテージを棄て、白兵戦を選んだ以上機動力に関してはイスカンダルに一歩譲っている。

イスカンダル「それでは独眼竜よ、貴様の真価問わせてもらうぞ?」

手綱を振るい呼応するゴッド・ブルは空を蹴り夜空を駆け上がる。大きなU字を描き敵サーヴァントへ突撃する様は伊達政宗を弾丸に例えるなら、ソレはさながら隕石を思わせる怒涛の勢いで急降下していく

伊達「上等だ。受けて立とうじゃねぇか!」

イスカンダル「遥かなる蹂躙制覇―――――!!!」

伊達「PHANTOM DIVE!!!!」

両者が放つ閃光と閃光。雷撃は火花を散らしながらぶつかり、激しい暴力の光で周囲を照らし、周りにいた悪魔どもはおろか、当人達ですら目が眩むものであった。

互いに脚を止め、時が経った今、両者は驚きを隠せずにいた

イスカンダル「コレで決める心算であったが――ひょっとしてお前セイバーの方が向いてるんじゃないか?」

伊達「そりゃどうも。こっちも技でぶつかりに行って避けなきゃヤバいと思ったのは戦国最強以来だぜ」

正面からぶつかればどう足掻いても力負けする――――そう悟った政宗はとっさの機転で半身を捻り自らが放つエネルギーを戦車の側面に放ち、間一髪直撃を免れた

現に己が放った技で傷ついた大地とイスカンダルが大地に刻みつけた傷では規模が違っていた。文字通り「馬力」が違うのだ。愛馬に乗ったところでその差は埋められないだろう。

伊達「――ま、RIDERの本職は確かにアンタかもな」

認めざるを得ない。英霊として負ける気こそないが、ことライダーというサーヴァントの括りに置いては自分をはるかに凌駕している

プライドの高い伊達政宗にしてそう思わざるを得ないほどイスカンダルはライダーとして破格のサーヴァントであった

イスカンダル「そうさなぁ。誇れることではないが剣では敵わぬだろうな。貴様が持つその魔剣もただならぬ業物とみた。然ればそれを振るう貴様もおのずとそういった者ということよな」

そう述べた後、口角をニィと上げ不敵な笑みを浮かべる。

イスカンダル「――だが舞台は聖杯戦争、己が誇る領分にて相手を打倒すればよいのだ。ソレに関しては余もそうそう譲る気はないぞ?共に戦場を駆ける勇者が居ないのは口惜しいが、何分魔力は充実している」

「お前に恨みはないが――――――そろそろ退場してもらうとしようか」

吹き荒れるは、烈風。広がるは悠久の砂丘。集いしは彼と共に時代を駆け抜けた永遠の友。
時を越え時空を越え、紡ぎだされるは征服王の最強宝具にして至宝の絆――――――

イスカンダル「――――これがイスカンダルたる余が誇る最強宝具【王の軍勢】なり!!!!」

「軍を率いてるのはアンタだけじゃないぜ?―――――Are you ready guys!!!!!」

砂丘を綺麗に二分する様に展開されるは彼が天下統一に思いを馳せ、見事ことを成した青々と広がる日ノ本の草原。
群雄割拠の時代を生き抜いた猛将達の思いの最果て

伊達「大所帯は好きじゃねぇが……俺が成した【天下統一】って奴だ。さ、Partyの第二幕と洒落こもうか」

伊達「Yeahhhhhhhhhhhhhhh!!!」

自力で遥かに勝る敵軍を相手取り、極東の侍達は己の掲げる武器を携え勝負を挑んだ。
輪の様な形状より出でる光の撃、しなる鞭状の刃。果ては燃え盛り大地を抉り走る大碇。

征服王と共に海を目指し、幾万の兵士をも乗り越えてきた無双の軍勢にすら、彼らは奇怪な集団に映った

例外中の例外的召喚とは言え、日本の英霊が冬木の地で現界した事、前述の西洋ではありえない戦闘スタイルの益荒男達。

そして奥州筆頭伊達政宗は、対多数戦においてこそその真価を発揮する無双の逸話があるサーヴァントであること、それらの要因は十分に【王の軍勢】に肉薄して見せるだけの暴威を振るった

「我が名は軍勢がミトリネス、いざ尋常に勝負!!」

「イキがいいじゃねぇか!西海の鬼の名!しかと刻みやがれ!」

砂塵を焦がす灼熱も、草原を凍てつかせる冷気も、全てが真っ向勝負。全てが一人一人が持つ伝説の粋を賭しての決死戦。
刃が刃を、技が技を呼ぶ軍戦は、既に二十数ターンが経過しようとしていた

イスカンダル「まっこと奇怪な奴らだ!応、侍よ。どうだ?余が勝てば余と共に最果ての大滝が本当にないか確かめに行かぬか」

伊達「そりゃCOOLだ。いい船乗りも知ってる――――だが、勝つのはこの俺さ。まだやり残してることもある!ここがアンタのclimaxだ!!」

イスカンダル「――やはり名を馳せた英雄は己が強いか。では、名残惜しいが退場願うぞ」

「Jumping juck――――――」

「遥かなる蹂躙―――――――」

決めてみせる―――互い確信し、それぞれの電撃が互いの陣に迸った時、それは陣を裂くように、冥府の岩石を隆起させ再びこの世に舞い降りた

「此処ハ現カ狭間ノ世カ――――何処ニ在ロウトモ我、天地ヲ欲スル成」

イスカンダル「ぬぅっ!?」

伊達「―――!?構わねぇ!そのまま俺とアンタで挟み撃ちだ!!」

イスカンダル「―――心得た!!」

その者の脅威を察してか、征服王も軌道を変えず独眼竜と共に、地より蘇りしそれに全力の突撃を繰り出す。

「我既ニ、人ノ括リニ非ズ、斯様ナ電熱――――地獄ノ窯に比ブルバ微温湯ノ如シ」

伊達「―――Shit!!消耗しすぎたか……」

二人係とはいえ些か、二人のライダーは消耗しすぎている。魔力供給が潤滑であるとは言え、一度に自信が受け取れる魔力は限られている。供給が全く追いついていないのだ

イスカンダル「ライダーよ、アレは貴様の連れか?」

冗談めかして問うものの、眉間には皺が入り目の前の脅威に対する算段を着々と練り上げている

伊達「腐れ縁ってトコだな……なぁ―――――魔王のオッサン!!!」

信長「我、聖ナル杯ヲ喰ライ此ノ世二焦土ヲ齎スべク参ジタ」

「第六天魔王織田信長成リィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

草原と砂丘を裂くようにしてソレは現れた。場違い甚だしくも荘厳な雰囲気を醸し出す岩山の頂点に、万物を見下ろすが如く聳え立つは第六天魔王、織田信長

その背には、悪魔であるネロの魔人化によく似た【六魔ノ王】を背負っていることからも、最早彼が英霊やサーヴァントと言った括りから逸脱した魔性ということが伺える

並のサーヴァントでは同じ空間に存在することすら叶わないであろう圧倒的な存在感は、二人の強力なライダーをしても尚脅威と言わしめんものだった。

イスカンダル「マスターが不在の余が言えたことではないが――――ありゃ一体なんだ?」

伊達「そうだな、見たまんま魔王ってところか、人ながら人の域を越えちまったバケモノさ」

イスカンダル「成程な、そいつは分かりやすい――――まぁ何にせよ一時休戦だわな」

伊達「悪いね、アイツはこの国が生み出しちまったモンだ。後の時代に生きる民の為にもケジメはつけておかねぇといかねぇからな」

一時の休戦協定を結んだライダー二人であったが、固有結界は最早数ターンの展開を残すのみ、互いに残された魔力もあと僅かと状況は絶望的だ。

信長「余が降りる世に斯様な塵芥が如し雑兵の安寧必要も無し―――――――」

刹那、それはまるで嵐が来る前の前日を思わせるような静けさが周囲を包み、後に必ず天災はやってくる

信長「覇ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

怒涛の怒号、六魔ノ王の鋭き一閃は伝説の英雄達を文字通り虫けらのようになぎ倒し、その余波は美しき草原と晴れ渡る砂丘を一瞬にして暗雲立ち込める焦土と化して見せた。

伊達「―――――――のぁっ!!!」

イスカンダル「――-――っ!!くぬぅっ!!!!」

満身創痍の今堪えきることはできず大きく吹き飛ばされ、宙を漂う。
地面に叩きつけられ目を開けた時には冷たいアスファルトと夜空が広がっていた

伊達「ここで殺られるワケには………………!!」

アラストルを杖に辛うじて立ち上がるも、剣を握る手に力はなく意識は朦朧としている。既に戦闘を行える状態ではない

信長「奥州の童、南蛮の騎兵―――――此処に散るが運命也」

「二人とも避けなさい!!!!」

声と共に放たれた機銃が如き連射速度で飛来する黄電の雨は魔王の注意を惹き付け、伝説の魔剣スパーダの横薙ぎは確かにその胴を斬り裂いた

信長「―――ヌッ?其の剣………伝説ガ魔剣士…………良イ、明日の宵ニテ再ビ見エン………フ、ハハハハハ」

言い残すと溶けるように暗黒の地へと沈み込み、その姿を消した

伊達「余計なお世話だ――――と言いたいが、助かったぜMaster」

トリッシュ「久しぶりにヒヤヒヤしたわ。シャワー浴びたのに冷や汗かいちゃったじゃない」

イスカンダル「これが貴様のマスターか、いい女だ―――ところで侍よ、戦うとなれば余は今から決死を以て貴様と闘わねばならぬわけだが―――」

伊達「そこまで野暮じゃねぇよ。戦の華は愛でる方でね」

トリッシュ「――と言うより先に状況を説明してもらえるかしら?話が全く見えないのはあまり気分がいい物じゃないし。個人的に聞きたいこともあるし」

伊達「助けられた身だ。素直に聞くしかねぇな」

トリッシュ「と言うことだけれど―――そこの貴方もそういうことで良い?」

イスカンダル「この状況では四の五の言ってる暇もないからなぁ。余としてもまずは情報が欲しい所だ」

トリッシュ「――決まりね。まずは場所を変えましょうか。幾らなんでも此処は目立つし―――埃臭いわ」

ホテル

出動の際、窓が割られた一室は風が入り込むこと以外は安全で快適な居場所であった。
元々はその窓もあり更に良い空間だったのだが、先ほどの戦場と比べると天国と地獄でありその差は歴然としたものがある。
応急処置にカーテンを閉め、トリッシュとライダー二人は戦況の報告等を開始することとなった

トリッシュ「じゃあまずさっきの侍からだけど――アレはサーヴァント?」

伊達「いや、アレはもう悪鬼や物の怪の類だ。真の魔王になっちまったのさ、少なくとも聖杯の恩恵を受けて現界はしてねぇハズだぜ」

トリッシュ「それもそうね。確かにステータスの様なものは確認できなかったし」

イスカンダル「と言うことはだ。彼奴は余達サーヴァントと違い、生来の実力のまま現界できるということになる―――手強いぞ」

征服王は相手の実力を侮ることもなく過大評価するでもなくそう評した。
その表情は険しくもどこか、戦いを楽しんでいるとも取れる武人の顔をしている

伊達「あぁ、確かに魔王のオッサンは強ぇ――だが、聖杯のsystemを利用してないってことはまだ勝機がある」

イスカンダル「――と言うと?分かりやすく言わんか」

伊達の勿体を付けた言い方に思わず語気も荒んでしまう

伊達「俺の生きてた頃にも奴は一回黄泉帰りやがってな、奴はその時予め用意された魔力もあったが現界に必要な魔力はほぼ自分で賄ってやがった。魔力が減れば勢いも弱まるし、下手すりゃそのまま地獄へGOだ」

トリッシュ「大人しく引いてくれたのはそういうことね。納得できたけど少しショックだわ」

上位悪魔に匹敵するトリッシュの雷撃、そして魔剣スパーダの一閃。並の悪魔やサーヴァントでは致命傷にすらなる威力を誇っているがトリッシュとしてもアレで信長を仕留められたとは思っていなかった

イスカンダル「勝機が我々にもあるということは分かった――だが、魂喰いの可能性がある以上奴の土俵である短期決戦で臨む他あるまいて」

伊達「―――あぁ、分かってるよ。俺は傷が癒え次第直ぐにでもここを発つ」

トリッシュ「そういうことなら助っ人でも呼ぶ?一人心当たりがあるわ」

トリッシュの心当たりとは勿論最強のデビルハンターであり、伝説の魔剣士スパーダの息子であるダンテその人である

彼の力を借りれば魔王織田信長ですら、その魔剣技の下に刃の錆としてくれることであろう。
しかし、相棒である彼の答はある意味予想できる英雄らしいものだった

伊達「最初から言ってるだろ?これは俺のケジメだ、もしそいつに頼むなら――――俺が倒れた後だ」

トリッシュ「――野暮なこと聞いちゃったわ、このことは忘れて」

伊達「オーライ、消耗してたとは言え不甲斐ない戦をしちまった俺にも非はあるさ。折角アイツから借りた亜羅棲斗流も泣いてやがる」

トリッシュ「ねぇ、それって――――――」

今まで聞かずに、聞けずにいた。亜羅棲斗流と伊達政宗を結ぶ「アイツ」とは
おおよその目処はついている。それでも、魔王織田信長を共に打倒するに辺り、直接サーヴァントの口から聞いておきたかった

伊達「そう、アイツってのは―――――伝説の魔剣士、スパーダさ」

みなさんお久しぶりです。公私時間ともに忙しく中々更新できずすみません
完結だけはさせますんでどうか長い目で見てやってください

イスカンダル「ほう、スパーダとな」

伊達「スパーダが世界で活動を始めたのが二千年前。アンタにはちと縁のない話かもしれねぇが、奴は日本に来たこともあってな」

イスカンダル「ふむ、余も記憶と言うより記録に近いのだが、遥か昔聖杯戦争紛いのモノに呼び出されてな。そこで奴に大敗したらしいわ」

遭遇している訳がないと思い込んでいた政宗には意外な言葉だった。

一方、イスカンダルも直接的な記憶でないためなのか敗けた。と言うことにイマイチ納得がいかないのか曇った表情で呟く。

トリッシュ「へぇ、有名と言うか―――アイツが話する時は誇らしげなのも頷けるわ」

話の腰を折られバツが悪そうにしている伊達政宗をトリッシュが続けて、と促し静まり返るホテルの中、話は再開される

伊達「俺達が生きた戦国時代。明日も知れねぇ動乱の世に奴は現れた」

「最初はトンだCrazyな野郎が来たと思ったさ、だが刃を交えると―――――――桁違いだった。悔しいがな」

その凄まじき剣技は魔王織田信長、覇王豊臣秀吉、戦国最強本田忠勝ですら寄せ付けなかったであろうと伊達政宗は自らの敗北を打ち明けるとともに語る

伊達「俺は他の英霊と違ってね、幾つもの並行世界中の俺の集合体みたいなもんだ。回りくどい言い方をしたが――要は俺が天下を納めれず死んだ世界もある」

伊達「それでも俺が天下を納めなかったという原因で滅びた日本は一つもねぇ、何故だかわかるか?」

イスカンダル「スパーダが――――救ったのだな?」

伊達「Tha`s all right 奴は俺に亜羅棲斗流を渡した後こう言ったのさ」


「お前が倒れたのなら―――――私が剣を執ろう」

伊達「――――ってな」

魔在りし場所に孤高の魔剣士在り。魔剣士スパーダは魔帝ムンドゥスを打倒した後にも世界にその名を刻み続けていた

伊達「ま、そんなところだ。Rivalや世界の英霊と凌ぎを削るも、再び俺が天下を獲りにいくのも悪くねェが――――まずは魔王のオッサンだ」

トリッシュ「なるほどね。貴方が召喚されたのも頷けるわ」

英霊伊達政宗。歪みきり汚染された聖杯がもたらした例外中の例外とは言え、彼はこの時代この日本に、最後のけじめを着けるために呼び出された。

それはある意味必然と言えるのかもしれない

イスカンダル「―――――貴様に言いたいことは二、三あるが今は一時とは言え共戦を誓った身だ、彼奴を屠った後再び相見えた時でよかろう」

トリッシュ「明日からはどうするつもり?」

伊達「Don`t warry 俺等はRiderのサーヴァントだ。走れば直ぐに分かるさ、なぁ?」

イスカンダル「然様、それでは明日の宵まで暫しの別れだ」

ガラスが割れ、全開となった窓でも些か窮屈そうに潜り、そのまま垂直に落下をする。
そこには飛蹄雷牛が主人の帰りを待つように鎮座していた

伊達「ああ、魔王のオッサンをぶっ倒したら次はアンタだぜ?俺に言いたいって事も気になるしな」

イスカンダル「よかろう。このイスカンダルに刃を向けし時、真の王道の何たるかを説かねばなるまいて――――ではな、さらばだ!!」

夜空に響く豪快な雄叫びとともに、征服王イスカンダルは宵闇へと姿を消した。
織田信長打倒の後、ライダー同士がぶつかり合うことは避けられないだろう

伊達「―――さぁ、LAST Partyも近いぜ」

すみません遅くなってしまいました
ようやく次レスでは伊達組以外が書けそうです。当分このペースになってしまいそうですがお暇でしたら見てやってください
それでは

衛宮邸

朝を迎え、清澄な空気の中ダンテ一行は衛宮邸に集まった。
平和な日常であればこのまま朝食会を開いてもよかったのかもしれない。しかし、デビルハンターであるダンテやネロ、サーヴァントであるセイバーやランサーが集まるということ自体が非日常であり、集まった一行の顔は険しいものであった

凛「酷いわね……」

士郎「あぁ、サーヴァントにしろ悪魔にしろ、このまま放っておくなんてできない」

テレビに映し出されたニュースは、そのほとんどが昨日の夜に起ったとされる冬木市における大量衰弱死事件に関するものだ

ネロ「おい、セイバー。テレビは何て言ってんだ?日本語はマシンガンみたいで聞き取れやしねぇ」

雰囲気こそ察することのできるものの、言葉が伝わらない以上、完全な理解には及ばない。
意識してか無意識か、ネロは自然とセイバーを頼っていた

セイバー「よい!ならば余が特別に通訳して進ぜよう!」

フムフム、と顎を触りながらニュースの内容を頭に詰め込む。

セイバー「――うむ、どうやら冬木全体に突然衰弱死したものが多数出ておるそうだ。虫の好かん話ではあるが―――大方、魂喰いであろうな」

ネロ「魂喰いね――確かに昨日嫌な感じはしやがったが……まさか、な」

レディ「あら、心当たりでもあるの?」

ネロ「まぁな」

ネロ「(確かに辻褄は合わないってこともないが…………流石にな)」

ネロが拭いきれない疑念――――それは魔剣教団が冬木の地に降り立ち、聖杯を狙っているという小さな噂。しかしそれは僅かながらも確証につながりつつあるものだった
かつて所属していた教団で行われていた悍ましき二つの実験

「帰天」と「神の創造」

ネロが終結させたフォルトゥナでの一連の事件。
「神」の撃破後、サンクトゥスの死体を見なかったのは帰天の儀式を経て悪魔と化したもの特有の体質による死亡時の肉体の消滅だと確信していたネロだったが、今は別の思案が脳内を巡っていた

ネロ「(あの場から混乱に乗じて逃げ出したか、或いは魂の核だけ残っていたか―――)」

そして魔剣教団の実験には必要不可欠な魂。それを冬木の地に沸いた悪魔と人間の魂で賄っているとしたら―――?聖杯に取り付きサーヴァントや地脈の恩恵を得るようになったとしたら――――――?新たな神すら創造するのではないか

ネロ「――聞いてくれ、皆。この件は多分俺がケリをつけなきゃいけない」

ダンテ「どういう事だ?クソでも詰まったみたいな顔してよ」

ネロ「この衰弱事件――俺はサンクトゥス本人……あるいはサンクトゥス派の残党の仕業だと睨んでる」

凛「それで自分が―――ってことね。大方わかったけれど昨日の件にはこっちも心当たりがあるみたいなの。出てきてランサー」

呼び声に応じて現れたのは和風である衛宮邸によく似合う紅蓮の槍兵

真田「ハッ!某、真田源次郎幸村!!此度の聖杯戦争では槍兵の座にて呼ばれた次第!よろしくお願い申す!!」

セイバー「ほう、そのランサーが余の奏者に異を唱えるとはどういう事だ?」

真田「ウム…その事なのだが、昨夜の件。どうも拙者がよく知る仇敵の気配に近いのだ……それに、最早これは勘の域だが我が盟友の気配も感じる」

セイバー「うむぅ、勘と言う程度のモノで奏者の言葉を断ずるとは如何ともしがたいが…」

ダンテ「同じ英霊、それもご当地様の御言葉とあっちゃ蔑ろにはデキねぇな」

ネロ「――それで済んだならそれでもいい。だが俺にも令呪にが宿った以上此処でやらなくちゃいけないことがあるはずだ 俺はそれを遂行するだけさ」

レディ「素直じゃないのね。協力しようくらい言えばいいじゃない?私みたいにビジネスできたわけでもあるまいし」

ネロ「ッ――俺は……単独行動の方が性に合うんだ」

ダンテ「本来なら無理しすぎねぇようにコッソリ後をつけるところだが――――かわいいお目付け役も居ることだしな」

セイバー「そうだぞ、奏者には余が居る以上傷一つ付けさせんぞ!!」

凛「同じ目的を持って集まったんだし協力して各個撃破といきたいんだけど………」

士郎「これだけメンバーが居るんだ。それぞれの動き方があってもおかしくはないさ」

ウェイバー「これだけ多くの魔翌力が動くとなると敵に勘付かれ、そもそも敵が警戒して出てこない可能性もある。それでは本末転倒だ。此方が数的不利になることはないだろう、各々が動けばいい」

これ以上各メンバーに喋らせたのでは埒が明かない―――しかし何故私が纏め役などを……
等々小言をいいたいウェイバーの声によって事態は一応のまとまりを得た

そして時刻は深夜、英霊たちはそれぞれの想いを乗せ、瘴気漂う夜の街に繰り出す

凛、真田組

ランサーこと、真田幸村が感じる気配を突き止めるべくランサー組と共に行動をとることとなったのは未だダークスレイヤーに負わされた傷が完治していない衛宮士郎と、後ほど合流すると遠坂邸にもどったレディである

凛「ねぇ、ランサー 貴方が言う邪悪な気配っていったい何者?」

真田「ハッ、そやつは第六天魔王織田信長にございます!」

士郎「織田信長って……あの信長か?」

日本人であれば誰でも知っているであろう偉人、織田信長。かつて異国の王と共に時を過ごした士郎ですら目を丸くしてしまう

尾張のうつけ――程度には聞いていたし、セイバーからしてブリテンの王があんな少女だとは思っていなかったが、邪悪な気配を放つほどのモノなのかと驚きを隠せない

同時に、ランサーが語る真っ直ぐに燃えている目は真剣そのものであり、疑う余地などみじんも存在しなかった

凛「自分で第六天魔王なんて言っちゃうだけの人かと思ってたけど……本当に厄介な奴だったみたいね。ところでソイツはサーヴァントとして蘇ったの?」

真田「拙者も探知に長ける者ではない故、ハッキリとは申せませぬが――関ヶ原の戦いにて黄泉に落ちた魔王が現の世に現れ申した。此度もその類ではないかと」

凛「――多分、大方それであって合ってると思うわよ。聖杯のバックアップが受けられない以上、魔翌力は自給自足な筈だもの。」

士郎「早いこと止めないとな――ネロの言ってたことも気になる」

真田が感じる魔王の気配に、ネロが感じる嫌な予感まで重なってしまってはいくら冬木に集まったウェイバー一行でも苦戦は避けられない。

トリッシュが別行動をとっている今なら尚のこと、早急な対処が求められる。

惨劇を回避すべく聖杯を解体することを決意したのに、それまでに冬木市民が全滅してしまっては笑い話にもならない。

最悪のケースの犠牲こそ覚悟してはいるが、冬木のオーナーである凛と、第五次聖杯戦争を生き抜き、アーチャーとは違う生き方を選んだ士郎にはウェイバー達以上に特別な問題なのだ

悪魔が蔓延る夜の冬木市を駆け抜ける。
より濃密な魔翌力が漂う場所を目指し、走る事数十分。


彼らの前に現れたのは、第五次聖杯戦争で立ちはだかったサーヴァントの姿だった

士郎「なっ―――」

凛「何であのオールバック二人が一緒に居るのよ…………」

ギルガメッシュ「戯れに街を闊歩してやっていたと思えば――贋作者に女と……貴様はランサーか?」

黄金のサーヴァントギルガメッシュ。彼だけなら手段はあった。しかし、凛一行に突き付けられたのは更なる絶望だった

バージル「――ほう、まだ生きていたとはな 良いだろう、貴様は俺が屠ってやるとしよう」

士郎「ダークー―スレイヤー……!」

先日こちらが負った傷はまだ完全には癒えていない。対するダークスレイヤーは傷一つ負っていない、負わせていないのだからと言われれば当然だが、その戦力差が衛宮士郎に重圧となってのしかかる

凛「あら、奇遇ね。お二人とも徒党を組むような性分じゃないと思ってたんだけど……読み外れかしら」

あくまで優雅な態度を崩さないが、その額には冷や汗が滲み、笑みも引きつったモノとなっている

単独ではこちらに敵わない並のサーヴァントが組むことや上級のサーヴァント、或いはそれに匹敵する悪魔が奇襲を仕掛けてくる可能性は十分に考慮していた。街中に蔓延る悪魔との戦闘も見越し、その上でも戦えるはずだった

だが、相手はそれを大きく上回ってしまっていた。少なくとも孤高の英雄王であるギルガメッシュと、力の求道者ダークスレイヤー=バージルが同時に現れる等と誰が予想できただろうか

そして、鉛玉の雨が降ってくると誰が予想できたであろうか

「――ハデにかますわよ!!避けなさい!!!」

降り注ぐはモンスターバイクを駆る悪魔狩人の放つ銃弾の数々。多種多様の悪魔を想定されたソレは暴力の雨となって降り注ぎ鉄は地面を抉り、熱は肌を焼いた

並の悪魔なら即死は免れない。中級~上級の悪魔でも足止めには十分と言える数と質の攻撃をバラまいた。
尤も、彼らが相手では倒すことはおろか撃退ですら甘い考え、精々数分の足止めが限界というところであろう

レディ「遅れたわね。こんな事になってるとは思っていなかったけれど」

凛「――そうね。流石にこんな事態は想定していなかったわ。まさかあの二人が……」

士郎「どうする、ここでやるか?数ならこちらに部があるけど――」

レディ「――あまり時間はないわよ」

黒煙は薄れゆき、敵の輪郭もハッキリしつつある
完全に晴れたときが最後、逃げるという選択肢は急速に現実性を失うことだろう
沈黙を破ったのは紅蓮の槍兵だった

真田「――――――――某に考えがありまする」

凛「さっすが私のランサー!!時間がないわ急いで!」

槍兵は、燃え滾る意思はそのままにゆっくりと、静かに告げた

真田「彼奴等を拙者が単独で打ち倒す―――――――という策にございます」

士郎「――――――なっ」

凛「――――ランサー……アンタ」

レディ「――私達が生き延びるには現実的でしょうね。このバイクも男女一人ずつくらいなら乗せてもギリギリ大丈夫なはずよ」

あまりにも無謀―――そしてそれは三人が生き残るための最も現実的な手段だった

レディ「冷たい様だけどこれでキマリね。発信と同時にそれぞれが放てる出来るだけ高火力な魔術を放って。それを推進と
サムライボーイの援護に使うわ」

士郎「―――分かった」

凛「……………………………」

魔術師として、人間として、胸を張れるくらいには。
少なくとも恥じることなどない程度には成長したつもりであった
もしもの時の覚悟も出来ている。

真田「―――――某の事ならお気に召されるな。この幸村、騎馬隊を率いたことあれど本懐は一の兵にございます」

凛「ランサー……」

頭の中ではとっくに結論は出ている。自らのサーヴァントに「戦え」と命じれば良いだけの話だ

真田「所詮槍以外に芸を持たぬこの身、戦の果てに主の道となれれば本望!!そしてそれはぁぁ……―――――今ッッッ!!!!!」

豪快な一閃、凛のほんのわずかな悩みを断ち切るかのように煙幕は完全に切り払われた

バージル「――おかしな話だ。身を隠すために煙幕を張り、それが自らやってくるとはな」

ギルガメッシュ「フン、この我の鎧を煤で汚し、尚も我の目を汚す不敬。余程死にたいと見えるが」

真田「刮目せよ!!我は槍兵のサーヴァント!!!我が主に刃を向ける者よ、拙者がお相手いたす!!」
闇夜に映える紅蓮の炎は二人のサーヴァントを釘付けにするのに十分な登場を飾った

真田「―――我が主よ!!!どうかこの幸村に出陣の命を!!!!」

士郎「…………遠坂」

凛「――――――――」

大きく深呼吸し息を整える。元々自分は何処か馬鹿なサーヴァントしか引けないのだろう。
そういえば十年前にもこんなことがあったかもしれない――――そう考えると自然と笑みがこぼれていた

凛「――行きなさいランサー!!あんな奴らコテンパンにやっちゃって!!!」

真田「御意に!!!!」

地を蹴り、ただ何の躊躇いもなく一直線に突き進む
火の玉のようなそれは弾丸となって前方の敵を敵を襲う

バージル「―――どうした?その程度か」

怒涛の突進も元から停止していたかのように魔剣の遮りによってその歩みを阻まれる

ギルガメッシュ「もうよいわ――――疾く失せよ」

でも、それで十分だった

真田「主よ!!」

時間は、稼いだ

凛「Neun,Acht,Sieben――――!
 Stil,sciest,Beschiesen、 、ErscieSsung――一――!」

士郎「全投影連続層写――――――!!!」

レディ「―――レッツロック!!!!!!」

バージル「――!」

炎熱が再び視界を覆い、凛達の姿はレディが駆るモンスターバイクの圧倒的加速力によって炎の遥か彼方に消えていく
チリチリと焼け付く炎は、紅蓮の槍兵を燃え上がらせる最高の舞台となった

真田「ありがたき御支援――されど……これほどの攻撃にて傷一つ負わぬとは」

ギルガメッシュ「戯け。真の財たる我が宝具の前には贋作品も二流品も塵芥も同然よ」

バージル「あの男もここで始末するつもりだったが―――構わんだろう、まずは貴様で遊ばせてもらおう」

灼熱の中にありながら二人の放つ凍てつくような殺意が真田幸村を包み込む

真田「――石田殿や魔王とはまた違った鋭く重い殺意………だが!!!引けぬ!!!引くわけには行かぬ!!」

絶体絶命の状況にあって、尚滾り続ける彼の意思に呼応するかのように魔装具イフリートはその輝きを増し、彼の愛槍に炎を灯す

真田「天!覇!!絶槍!!!我こそは武田が一番槍、真田源次郎幸村!いざ参らん!!!」

大人三人を乗せても尚、速度を維持するレディのバイクが走ること十数分。
轟々としたエンジン音だけが人っ子一人いない町に不気味に響き渡る
街に蔓延る悪魔達も振り切り、漸く安全圏と言える場所にたどり着こうかと言うところだった

士郎「何とか振り切ったってところか……」

未だ引かぬ冷や汗を拭いながらも、束の間の安全に安堵の息を漏らす

凛「油断しないで。アイツの足止めがないと何時追いつかれてもおかしくないわ」

拠点の衛宮邸、遠坂邸からは大きく離れてしまっている。少なくともこのモンスターバイクの登場がギリギリまで遅れてしまう程度には

士郎「油断はしてない。だが、ランサー一人じゃ……」

レディ「もって一~二時間ってところかしら?」

言葉を濁す士郎をレディが容赦なく補足する。それが指し示すのは自ら戦いの爆心地へと赴いたランサーのことであろう

凛「大丈夫。アイツはまだ頑張ってる………!!!」

疼く令呪をキュッと押さえ込み、祈りながらも彼との距離は遠ざかっていった

真田「でぇぇぇぇあ!!千両花火!!!」

バージル「―――フン」

宝具の雨を掻い潜りながら、ランサーとダークスレイヤーの激闘はその熱を増していく

真田「双方、敵ながらお見事!されどアーチャーよ!!自軍を巻き込んでの爆撃、拙者には理解できん!」

バージル「――貴様も可笑しなことを言う。そこにいる男と組んだ覚えなどないが?――仕掛けてはならん敵を見誤る馬鹿だとも思いたくはないが」

ギルガメッシュ「然様。我はより目障りな蝿を優先的に地に縫ってやろうとしているだけの事―――そこの剣士がそれに当たると言うのならそれまでなのだろうな」

彼らは盟約を交わしている
とは言え、どこまで行っても所詮は神と悪魔。到底「仲間」にはなりえない
それでも紙一重に戦術として成り立っているのは互いの力量を分かり合っていることと、敵に回すとなれば自分もタダでは済まないとわかっているからだ

真田「――――――なッ……」

二人の男は目の前の自分にだけではなく互いに殺意すら飛ばし合っている
おおよそ、真田幸村という英霊には信じられない行為だった

ギルガメッシュ「信じられぬ、と言ったところか?」

真田「貴殿等は戦友なのであろう!?拙者には理解できん!!」

ギルガメッシュ「――――――フム、よい。では我が我が宝具にて財にて葬ってやろう。それで文句もあるまい?おい魔剣士、死にたくなければ離れていろ?」

バージル「――――――」

「王の財宝」

パチンと小気味のいい指音が響いた後、真田幸村が目にしたのは視界を埋め尽くす宝具の群れ
圧倒的な絶望の嵐
範囲攻撃を狙いとしていた前回と違い、矛先は全て自分に注がれている

真田「先程とは比べ物にならぬ数ッッ……!よもやこれ程までの宝具を所有していようとは……!」

ギルガメッシュ「精々愉しませてくれよ?でなければ折角出した宝具が泣いてしまうからな」

ギルガメッシュの指先が真田を指したその瞬間、視界に映る全てが真田を襲った

真田「―――おぉぉぉぉぉぉぉ!!烈火!!!!」

とある槍使いの英霊は英雄王の猛擊を打ち払い、時には躱し、時には受け流し、英雄王の宝具掃射を半日もの間凌いで見せたという

以上の事から分かることは、半日もの間凌いで見せたその英霊の槍、体捌きが極上だと疑いようのないこと
そしてもう一つは基本的に真正面から打ち合わず、怒涛の攻撃をしのぎつつ僅かな勝機を見つけるというのが、確率が低いにせよ殆どのサーヴァントに当てはまる勝利の道であること


では、ランサー真田幸村がとった行動はどうだろうか

打ち払う?否

受け流す?これも否

躱す?コレは以ての外

彼がとった行動は「真正面から立ち向かう」

という一見自殺行為にしか思えない行動

繰り出すは「烈火」それは至極単純な突きを繰り返すという固有技
しかし、彼の極限にまで鍛え抜かれた突きはほぼ同時攻撃。腕と槍が複数に見えるまでに昇華され、事前面のみにおいては無数の槍の防壁となる

ギルガメッシュ「フハハハハハハ!まさか我の財に真っ向から立ち向かう莫迦者が存在しようとはな!」

剣の雨はより一層激しさを増し、大地を鳴かせ、抉り取っていく

真田「負けん!!!負けるわけにはいかぬっっっっ―――――――――大烈ッッ火ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

真田「うぅぅぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!でぇぇぇぇぇあ!!!!!!!」

古今東西、聖邪清濁あらゆる宝具が彼を襲う

自らの槍技と魔剣士に託されたイフリートを信じ、彼は一歩、また一歩確実に英雄王へと進む

腕は悲鳴を上げ、槍は傷付き、短くも無限に思える道程は心を蝕む

どれだけの時間が経ったのだろうか、現実時間にすればそれは長くはなかったのかもしれない

真田「――――――ッはぁ……はぁ……」

ギルガメッシュ「―――――――――――――――――――――――」

雨が止んだのはランサーの槍が届くコンマ数ミリ手前

真田「其方の宝具……どれもが余すことなき一級品で在り申した………」

ギルガメッシュ「冴え渡る槍技、見事であった。命果てる最期まで主の為にその槍を振るうがいい」

素直に出た言葉がそれだった。先までの遊びに興じている英雄王は何処にも居ない。また、ランサーも至高の宝具に惜しみない賛辞を送る

バージル「茶番は終演――と言うことでいいのか?」

ギルガメッシュ「好きにしろ」

――――命果てる最期まで。英雄王の眼力はその最期を確かに捉えていた

バージル「―――――――では、その最期を今見せてもらうか」

魔剣士は動き出す

真田「うぉりゃ!!」

剣戟を交すたびに

バージル「――フン」

真田幸村という武人は悟る

この男はとてつもなく、かつ圧倒的に―――――――――――――

真田「強い………!」

そしてこの太刀筋は彼のものとよく似ている

バージル「どうしたランサー 動きが止まっているぞ?」

真田「―――っ!!やはりこれはスパーダ殿と似ている……!」

魔剣士の腕は止まり、束の間の静寂が訪れる

バージル「―――貴様、スパーダを知っているのか?」

凍り付いていた表情から一転、その顔には驚きが生まれる

魔剣士スパーダが魔帝を打倒した後、長きに渡り世界を放浪した事実をバージル知っていた

父の足跡を追い、城塞都市と呼ばれる場所に足を運んだこともあった

真田「左様!!我が纏いし威斧璃衣斗はスパーダ殿より賜いし絆の宝具!!」

そして、おおよそ生前には考え付かなかったこの極東の地にも、父の力は根を張り新たな力として自らに立ち塞がっている

バージル「聖杯戦争を終えた後にはまず――――この地を知ることから始めるとしよう」

真田「それは拙者を打倒した後の話だ!この真田幸村!そうそう打ち取らせはせん!!」

バージル「元より貴様は殺すつもりだ 結果は変わらん」

真田「いざ参る!!!」

バージル「―――――――――――」

真田「(先程より些か構えが甘い!!――――これなら)」

バージル「――その突進は認めてやろう 今回は命取りになったようだがな」

真田幸村がその罠に気付いたのは、蒼白の剣が体を斬り裂いた後だった

真田「―――――カッッ―――は」

幻影剣。フォースエッジを模した魔力により編まれし剣は主を囲むように廻り、攻撃の鎧と化している

真田「――体勢を立て直さねば………」

反射的に身を逸らし大きく後方に跳躍したことが吉と出たか凶と出たか

倒れはしたものの、幻影剣による傷はギリギリ致命傷のラインを避けることができた

とは言え、もはや満身創痍。英雄王の宝具射出を真っ向から受け止めただけでも並の英霊の所業ではない

そして、真田自身特別タフネスに優れた英霊ではない。その細身は全身のいたるところから血を流し刻一刻と終わりに近づいている

ようやく槍を地面に突き立て、よろよろと立ちあがる

真田「――ダークスレイヤーは……居ない!?どこだ!!」

「曲がりなりにも父が認めた男だ。特別にこの技で葬ってやろう」

次元の向こうから声が響いている

真田幸村が目にしたのは無限の斬撃、斬撃の海だった

真田「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

「――――絶刀」

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