【オリジナル】JK「怪獣退治」2 (171)

下記スレの続きです。

【オリジナル】JK「怪獣退治」
【オリジナル】JK「怪獣退治」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1442050600/)


・登場人物名有りです。
・人によりグロ、エロ、非道徳的などと感じられる描写や表現があるかもしれません。
・実在する人物や団体、特定の思想信条等とは一切関係ありません。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1443866512

~~~~~~~~~~



ザアアアアア…


JK(ひどい雨……)

JK(全国的に雨って話だけど…)

JK(あたしの住んでる所より今の現場の方が降ってる気がする)

JK(ユーウツだなぁ……)

JK(どうしてこんな時に怪獣が来るんだろ)

JK(あたしはこーやってバリアの中にいれば少しも濡れなくてすむけど)

JK(何だか仕事がやりにくい感じがするんだよね)

JK(雨の中の戦闘シーン……)

JK(テレビのヒーローものや魔法少女ものには、そんなシーンなんかほとんどないのに)

JK(あーあ。ユーウツ……)

JK(だけど…)

JK(今はそんなこと言ってられない)

JK(歌でもうたって無理矢理テンション上げよう)

JK「♪さかなさかなさかなー。さかなーをーたべーるとー♪」

JK「♪あたまあたまあたまー。あたまーがーよくーなるー♪」



ザアアアアア…


JK「♪さかなさかなさかなー。さかなーをーたべーるとー♪」

JK「♪からだからだからだー。からだーにーいいーのさー♪」

JK(今回の、目標……)

JK(見れば見るほど…)

JK(珍しい形や色してるなぁ)

JK(イソギンチャクそっくりなんて……)

JK(触手をウネウネ動かしてる、体が半透明の超デカいイソギンチャク)

JK(それが道路の上をぬるぬる進んでる)

JK(海の生き物タイプの怪獣なんて今までいなかった)

JK(お魚タイプなんて)

JK(……)

JK(あれ? イソギンチャクって魚だっけ?)

JK(どっちも海の生き物だけど……)

JK(あ。魚は川や池にもいるよね)

JK(それなら、魚は水の中の生き物か)

JK(じゃあイソギンチャクは? 同じ水の中の生き物…)

JK(あ。イソギンチャクは海にしかいない?)

JK(頭がこんがらがってきた)

JK「司令部、田所博士?」

田所「田所だ」

JK『ねぇ博士』

田所「何かね、悦子君」

JK『イソギンチャクって魚ですか?』

山本「…」ガク

田所「ほっほっほっ。山本司令、思わずズッコケてしまうのう」

山本「何を言ってるんだアイツは。高校生のくせにそんなことも分からんのか」

田所「悦子君。イソギンチャクは魚かどうか、君はどう思うかね」

JK『えーと、分かんないけど……多分、魚とは違う生き物?』

田所「どうしてそう思うかね」

JK『だって魚と比べて全然、形が違うから』

田所「うむ、君の言うとおりだ。脊椎動物と無脊椎動物は…」

JK『でも博士』

田所「何かね」

JK『それならイカやタコやカニや貝やエビも、みんな魚じゃないですよね』

田所「そのとおりだ」

JK『でもどうしてみんな、スーパーのお魚コーナーに置いてあるんですか?』

山本「…」ガク

田所『ほっほっほっ。困ったものだの』

山本「もう駄目だ、耐えられん……おい副司令、三村」

三村「何すか」

山本「えっちゃんに注意を与えろ」

三村「何で俺が」

山本「たまにはお前が怒ってやれ」

三村「そんなの山本さんがやればいいじゃないすか」

山本「あいつは俺の直属隊員だから、本来はそうだが…」

三村「なのにどうして俺へ振ってくるんすか」

山本「あいつの言ってることへまともに付き合ってられん」

三村「俺だって同じすよ」

山本「三村副司令、命令だ」

三村「やれやれ…了解。おい小野寺、副司令の三村だ」

JK『……あ』

三村「いい加減にしろ」

JK『……』

三村「作戦行動中だ。無駄口を叩くんじゃねえ」

JK『……はい』

三村「下らねえことを訊いてくるな。ここは全国こども電話相談室じゃねえんだぞ」

オペレーターA「……プフッ」

オペレーターB「……ククッ」

オペレーターC「くすくす」

三村「おい、オペレーターのお前らもだ。笑ってる場合じゃねえだろうが」

オペレーターA(しまった。聞かれた)

三村「状況を報告しろ。サボってんじゃねえぞオラ」

オペレーターB(相変わらずガラが悪いね、副司令)

三村「勤務態度はボーナスの査定に響くんだけどなあ。今度の査定、どうしようかなあ?」

オペレーターC(ひゃー、陰険だなあ……)

オペレーターA「攻撃開始10分前」

オペレーターB「目標は継続して国道1号線上を時速約15キロで東京方面へ移動」

オペレーターC「目標の攻撃手段部位である触手に変化無し」

オペレーターA「小野寺特任隊員は継続して目標に対し後方上空で追随」

オペレーターB「戦闘爆撃隊は継続して攻撃予定地点へ飛行。到着予定時刻に変更無し」

オペレーターC「天候に変化無し。攻撃開始時刻に予想される天候は現在と同じ」

山本「前線本部。山本だ」

前線本部責任者『こちら前線本部』

山本「作戦に変更無し。そのまま待機せよ」

前線本部責任者『了解』

山本「おい、えっちゃん」

JK『何?』

山本「博士へそんな質問をしてくるということは、よほど余裕があるんだろうな」

JK『……』

山本「攻撃開始予定時刻までしばらく時間がある。作戦の内容を復習するぞ」

JK『またぁ? もう何回も聞いたんだけど』

山本「いや、違う。お前が作戦について説明してみろ。聞いた内容を復唱してみろ」

JK『えー? あたしが?』

山本「何回も聞いて頭に入っているならできるはずだ」

JK『メンドいなぁ……』

山本「それとも本当は作戦を理解していないのか? 復唱できないのか?」

JK『分かったよ……』

山本「ああついでに、今回の目標が出現してから現在までの経過も言ってみてくれ」

JK『……』

山本「これも状況を確実に把握しているなら、できるはずだ」

JK『分かったよ……やればいーんでしょ』

JK『今回の目標は相模湾へ現れて、上陸した。超デカいイソギンチャクみたいな怪獣』

JK『地面の上をぬるぬる進んで、通った場所にある建物や木や電柱を全部押し潰した』

JK『国道1号線に着いたら、道路の上や周りにある物を押し潰しながら東京の方へ進み始めた』

JK『戦闘機が機関砲やミサイルで攻撃した』

JK『目標は体の上のほうに何本もある触手を長く伸ばして、すごい勢いで振り回してそれを防いだ』

JK『これが今回の目標の特徴。この触手で防御もするし、攻撃もする』

JK『戦闘機が1機、触手の攻撃で翼を切り落とされた』

JK『パイロットの人は脱出して無事だったけど、戦闘機は墜落しちゃった』

JK『でもこの時の攻撃で目標の弱点が分かった』

JK『まず、目標は触手を150メートルくらいしか伸ばせない』

JK『あと、通常兵器が効くくらい体が軟らかい。あたしなら間違いなく一発でとどめを刺せる』

JK『だから作戦の中身は、こう』

JK『遠くにある自衛隊の基地に、精密爆撃ってのをできる戦闘機の部隊がいる』

JK『その人たちが応援に来る。この作戦のために5機で戦闘爆撃隊を作ってここへ来てくれる』

JK『戦闘爆撃隊がここへ着いたら、触手の届かない所からハンパない数の爆弾を落とす』

JK『目標は触手を上に伸ばして、それを振り回して爆撃を防ぐはず』

JK『その時にきっと、胴体の部分に隙ができる』

JK『半透明の体に透けて見える、胴体の真ん中にある赤い部分が目標の急所。博士が調べてくれた』

JK『そこを狙ってあたしが攻撃。胴体をブチ抜いて赤い部分を壊す』

JK『駆除終了。一丁あがり』

JK『山本さん、これでいい?』

山本「ああ。えっちゃん、よくできました」

JK『当たり前だよ』

山本「驚くほど上出来だ」

JK『だから当然だって。あたし、小さい頃から物覚えだけはいいって言われてんだから』

田所「うむ。悦子君は記憶力がいいし、物事の理解も早いな」

JK『えっ。博士、そー思いますか?』

田所「ひとことで言えば“頭がいい”ということだ」

JK『やったー! 博士に褒められた!』

山本「だがそれにしては、勉強の成績が全然振るわない」

JK『うっ……ど、どうして知ってんのよ』

山本「イソギンチャクが魚かどうかも分からない奴の成績など、推して知るべしだ」

JK『いっ、いーんだよ! 勉強なんて嫌い! 嫌いなことなんてしたくないもん!』

田所「悦子君は頭がいいのだから、やればできるはずだと思うがの」

JK『ほら、博士もこー言ってる! あたしはやらないだけなんだよ! やればできる!』

山本「そういうことは実際にやって、実際にできてから言った方が良くはないか」

JK『……』

オペレーターA「攻撃開始5分前」

戦闘爆撃隊『こちら特別飛行隊OKN-5。特定特殊生物駆除部隊どうぞ』

オペレーターA「こちら特定特殊生物駆除部隊、特駆隊。OKN-5の音声通信受信を確認」

戦闘爆撃隊『目標の位置を確認。5分後に予定どおり行なう』

オペレーターA「了解。OKN-5、これより山本司令から音声による最終指示があります」

山本「こちら特駆隊司令、山本だ。今回はよろしくお願いする」

戦闘爆撃隊『こちら特別飛行隊OKN-5。特駆隊司令山本1佐、こちらこそよろしくお願いします』

山本「怪獣を目視で確認するのは初めてだな?」

戦闘爆撃隊『本隊の全員が怪獣の駆除はもちろん、実戦が初体験です』

山本「基本的に訓練と同じだ。今までデータその他で伝えた指示どおりにやってもらえればいい」

戦闘爆撃隊『了解。そして、そちらの特任隊員についても…』

山本「初めて見るだろうな。小野寺悦子特任隊員を確認できるか?」

戦闘爆撃隊『小野寺特任隊員の位置を確認』

山本「知っていると思うが、我々には目標攻撃中の該特任隊員に対する適応能力がほとんどない」

戦闘爆撃隊『……』

山本「指定の飛行ルートを決して外れるな。超高速で移動中の該隊員と接触するおそれがある」

戦闘爆撃隊『了解』

山本「該隊員にはそちらの進路へ絶対に近寄るなと指示してある」

戦闘爆撃隊『もし接触した場合、我々は…』

山本「接触した箇所の機体が崩壊する。一方、小野寺特任隊員はかすり傷さえ負わない」

戦闘爆撃隊『……了解。全機に周知徹底します』



ザアアアアア…


JK(何だか雨が強くなってきた……?)

JK(それに、寒くなってきちゃった気もするなぁ)

JK(でも今はそれどころじゃない)

JK(さっさとこいつを駆除して司令部へ帰ろう)


ザアアアアア…


オペレーターA『1分前』

JK「山本さん、戦闘爆撃隊が近付いてきた」

山本『ああ。作戦どおりにいくぞ』

JK「うん。一回、後ろへ下がるよ」

JK(勢いつけて攻撃するために、後方へ……)


ギュゥゥウウン…


オペレーターA『30秒前』

JK(よーし行くぞ、イソギンチャクのお化けめ)

JK(海の生き物が偉そーに陸地を歩きやがって)

JK(海の物なんだから海にいて、大人しくしてればよかったのに)

JK(これからあたしが駆除して、海でも陸でもないあの世へ送ってやるよ)


ギュゥゥウウウウン…


オペレーターA『10秒前、カウントダウン開始。8、7…』

JK(スピード上昇、バリア強化!)


ギュゥゥゥウウウウウウウン…


オペレーターA『…4、3、2、1』

山本『攻撃開始!』

JK(あっ…?)

JK(戦闘爆撃隊が大きいミサイルを幾つも発射…あれが爆弾?)

JK(あっすごい! 全部、怪獣の触手の中心へ向かって一直線!)

JK(まるで全部、目標へ吸い込まれて行くみたい!)

オペレーターB『目標が触手を急速に伸長、上空で展開!』


ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオン
バババババッ ババッ ババババババッ
ビュオオオン ビュオッ ビュオオオオオン
ドガガガッ ドガッ ドガッ ドガガガガッ


オペレーターB『触手が爆撃弾を上空で防御』

オペレーターC『全ての触手が上空へ』

JK(今だ! 胴体がガラ空き!)


ギュゥゥゥウウウウウウウウウウウウン…


JK(行くぞ!)

JK(胴体の赤く見える所を狙って全速!)

JK(精密爆撃してくれた人たちに負けてられない!)

JK(今度はあたしが目標へピンポイント攻撃!!)

JK「てやぁあああああああああああ!!」


ズボッ グバァァアアアッ


戦闘爆撃隊『こちら特別飛行隊OKN-5。特駆隊司令部どうぞ』

山本「こちら司令部、山本だ」

戦闘爆撃隊『作戦終了及び任務完遂につき、本隊はこれより所属基地へ帰投します』

山本「何だ、もう帰っちまうのか」

戦闘爆撃隊『基地で任務がありますので』

山本「せっかく来たんだから、こっちで少しゆっくりしていったらどうだ」

戦闘爆撃隊『ありがとうございます。たとえ冗談でも嬉しく思います』

山本「礼を言うのはこちらだ。今回の作戦への協力、誠に感謝する」

戦闘爆撃隊『我々も貴重な経験をさせてもらいました』

山本「また応援を頼む機会があるかもしれない。要請を受けてくれると非常に助かる」

戦闘爆撃隊『喜んで。…小野寺特任隊員へよろしくお伝えください』

山本「ああ、了解だ」

戦闘爆撃隊『個人的なことではありますが、“えっちゃん”へお目にかかりたかったですね』

山本「あいつへ? 奇特な自衛官もいたものだ」

戦闘爆撃隊『話には聞いていましたが、あれほどとは……』

山本「まあ、あの仕事ぶりに感服するのは分かるが」

戦闘爆撃隊『巨大な怪獣の胴体を一瞬で貫通。驚くべきスピードと打撃力です』

山本「あいつの得意とする攻撃方法があれだ。目標の体に大穴が開く」

戦闘爆撃隊『本物の超能力者。女子高生でありながら怪獣駆除の切り札。…何もかも驚きです』

山本「だが本人は、目標攻撃時以外はただの子供だ。我が儘なお姫様で我々は手を焼いている」

戦闘爆撃機『そうなのですか』

山本「そうだ。また作戦へ参加してもらうことがあったら、その時にでも会わせよう」

戦闘爆撃隊『是非。それでは失礼します。再び、共に我が国防衛の任へ着けることを期待します』

山本「我々もだ。悪天候にもかかわらず作戦へ協力してくれたことに、重ねて感謝する」



ギュゥゥウウン…


JK(へへ~ん♪)

JK(まあこんなもんかな)

JK(あたしがちょこっと本気出せば、この程度の怪獣なら楽勝だよ)

JK(この前は少しいろんなことがあったけど)

JK(今日はいつもの感じでやれた。まあこんなもんよ)

山本『えっちゃん。よくやった』

JK「へへ~んだ。まあこんなもんだよ」

山本『お前の活躍に戦闘爆撃隊が感心していたぞ』

JK「あ、そう? いやー照れちゃうなー。困っちゃうなー」

山本『是非本人に会ってみたいと言っていた』

JK「またあたしのファンが増えちゃったか。いやー人気者はマヂつらいなー。ねぇ山本さん」

山本『何だ』

JK「あの人たちもすごかった。あんなピンポイント攻撃初めて見た」

山本『あれが精密爆撃だ。無闇に爆弾をばら撒かず、目標だけへ正確に爆撃する』

JK「あの人たちへ、特駆隊のお姫様がお褒めになってたって言っといてよ」

山本『お前は、その喋り方は変だとかやめろとか言ってなかったか』

JK「山本さんの喋り方に合わせたんだもん。あたしはお姫様なんだもーん。へへ~ん♪」

山本『あまり調子に乗るな。それに戦闘爆撃隊はもう帰っちまった』

JK「あ、そうなの? 早っ」

山本『そんなことより、今日は司令部直行のヘリを出さんぞ。いつもどおり前線本部へ行け」

JK「はーい。分かってまーす」

山本『そこの隊員に司令部まで送ってもらえ』

JK「はーい」



ギュゥゥウウン…


JK(さーて帰るとしますかぁ)

JK(前線本部はどこだったかな)

JK(あ、あそこだ。大きい道の突き当り。その道路へ向かって降下……)


ギュゥゥウウン…


JK「♪さかなさかなさかなー。さかなーをーたべーるとー♪」

JK「♪あたまあたまあたまー。あたまーがーよくーなるー♪」

JK(こんな雨だからどうなるかなぁって思ってたけど)

JK(やってみたら簡単だったね)

JK「♪さかなさかなさかなー。さかなーをーたべーるとー♪」

JK「♪からだからだからだー。からだーにーいいーのさー♪」

JK(道路の上をすい~っと飛んで、前線本部までもう少し)

JK(早く司令部へ帰ろっと)

JK(そんで熱いシャワー浴びよっと)

JK(博士、またアイス御馳走してくれるかな)

JK(この前はイチゴ味だったから今度はメロン味がいいなぁ)

JK(シャワーであったまった後、キンキンに冷えたアイス食べる。くぅ~最高~)

JK(あっヤバ。アイスのこと考えてたらヨダレ出てきた)ジュル


フッ


JK「えっ?」


バッシャーン!


JK「きゃーっ!?」

山本「あっ…!?」

田所「悦子君!?」

三村「あいつ、バリアを解除しちまったみたいすね」

オペレーターA「小野寺特任隊員が地上へ落下」

オペレーターB「落下距離、約2メートル。落下地点、前線本部より東へ約50メートルの道路上」

オペレーターC「雨水が一時的に地上へ留まっている箇所、つまり水たまりへ落ちました」

山本「博士、あいつに何が起きたんでしょうか」

田所「あの様子だと本人が意図してバリアを解除したのではないな」

山本「では超能力へ何らかの不具合が? しかし今回の駆除作業は順調で、特に変わった様子は…」

田所「山本司令。おそらく深刻な事態ではあるまい」

山本「と言いますと…」

田所「何かへ気を取られるなどして油断してしまった、という可能性が高いな」

山本「はあ?」

三村「なーんだ、ボケッとしちまっただけすか。相変わらず緊張感のねえ奴だ」

山本「人を驚かせて……まったく何をしてるんだあのバカ」

田所「超能力を運用するにはある程度の意識集中が必要だ。悦子君、分かっとるはずだがの」

山本「至急、前線本部の隊員たちを助けに向かわせます」

田所「地上付近を飛んでおったのは不幸中の幸いだが、突然の落下で着地の準備などしとらん」

三村「足を捻挫くらいしてるかもしれませんねえ。それに水たまりと雨であいつぐしょ濡れすね」

山本「前線本部、小野寺3佐を保護しろ」

前線本部責任者「はッ。了解!」

自衛隊員A「えっちゃん、いや、小野寺特任3佐!」

自衛隊員B「おい、小野寺3佐を助けに行こう!」

自衛隊員C「自分たちが3佐の所へ行きます! 許可を!」

前線本部責任者「あ、ああ。許可する、行ってこい!」

自衛隊員D「みんな、3佐がいる所まで走るぞ!」

自衛隊員A・B「「3佐!」」バシャバシャ

自衛隊員C・D「「小野寺特任3佐!」」バシャバシャ

JK(……うぅ……)

JK(……やっちゃった……バリア、解いちゃった……)

JK(……気が緩んじゃった……)

JK(……あと少しで前線本部まで行けたのに……)

JK(……あぁ…髪も、制服も……)

JK(……下着まで……)

JK(……びしょ濡れになっちゃった……)

JK(……冷たいよぉ……寒いよぉ……)

JK(……もう、泣きそう……)グス

JK(……?)

JK(誰か走ってくる……?)

自衛隊員A・B「「3佐!」」バシャバシャ

自衛隊員C・D「「小野寺特任3佐!」」バシャバシャ

三村「山本さん」

山本「何だ」

三村「あれでいいんすか」

山本「何のことだ」

三村「今、小野寺へ向かって走ってるメンツ」

山本「それが何だ」

三村「野郎しかいないじゃないすか」

山本「あっ……」

三村「いいんすか。小野寺の着てる制服は白いんすよ。で、あいつぐしょ濡れなんすよ」

山本「……」

三村「あー、あいつ地面にぺたん、って座りこんじまった。これでいよいよ全身ズブ濡れだあ」

自衛隊員A・B「「3佐!」」バシャバシャ

自衛隊員C・D「「小野寺特任3佐!」」バシャバシャ

JK(あ……前線本部のおじさんたちだ)

JK(え……?)

JK(でも何?)

JK(おじさんしかいない)

JK(男の人ばっかじゃん)

JK(ちょっと、何考えてんの?)

JK(今のあたしのこと、分かってんの!?)

JK(あたしが今どうなってるか、分かってんの!?)

自衛隊員A「3佐、助けに来ました!」

自衛隊員B「無事ですか!? 3佐!」

JK「来ないで!」

自衛隊員C「え?」

JK「こっち来ないで!」

自衛隊員D「3佐、な、何を…」

JK「見ないで! あっち行って!」

自衛隊員A(あっ…)

自衛隊員B(そうか…)

自衛隊員C(雨に濡れて、制服が…)

自衛隊員D(スケスケ…)

自衛隊員A・B・C・D((((3佐、今日のブラは水色か……///))))

JK「うぅ……」グス

自衛隊員A(しかも、女の子座りで…)

自衛隊員B(両手で、胸を隠して…)

自衛隊員C(髪から雫を滴らせて…)

自衛隊員D(涙目、上目遣い…)

自衛隊員A・B・C・D((((これは、なかなか……///))))

JK「何見てんのよ!」

自衛隊員A・B・C・D「「「「……///」」」」ジー

JK「こっち見んな! あっち行って!」

自衛隊員A「でも3佐、ケガなどを…」

JK「してない! だからこっち見んな!」

自衛隊員B「3佐、全身ズブ濡れですし…」

JK「とにかくあっち行け!」

自衛隊員C「このままだと、風邪を…」

JK「引かない! こっち見んなって言ってんでしょ! みんなあっち行け!」

自衛隊員D「は、はあ。では…」

自衛隊員A「ではほかの隊員、女性の隊員に来させます」

自衛隊員B「ああ、そうだな」

自衛隊員C「俺たちは引き上げるか」

自衛隊員D「そうしよう」

JK「あっ……何!? 全員行っちゃうの!?」

自衛隊員A「え? でも…」

JK「こんなに雨が降ってんのに!? あたしこんなにびしょ濡れなのに!?」

自衛隊員B「はあ…」

JK「あたしがこんなに困ってんのに!?」

自衛隊員C「しかし…」

JK「こんなとこに女の子を一人だけ置いて行っちゃうの!?」

自衛隊員D「それなら3佐、自分たちと一緒に…」

JK「あっ!? やっぱこっち見んな!! 来んな!! あっち行け!!」

自衛隊員A・B・C・D((((どうすればいいんだよ……))))

山本「前線本部、そこには女性隊員がいたな?」

前線本部責任者『2名おります。その者たちを急行させます』

オペレーターA「司令、総務課の野崎2尉からです」

野崎『野崎です。私が医務室の女性看護師とともにヘリで3佐を迎えに行きます』

山本「ああ頼む、そうしてくれ。大至急だ」

野崎『了解』

山本「……やれやれ」

田所「ほっほっほっ。怪獣の駆除は大成功だったがの」

三村「最後の最後で小野寺の御機嫌を損ねちまいましたねえ」

山本「……油断してバリアを解除しちまったあいつが悪いのだ」

田所「今日の反省会は大荒れになりそうだの」

三村「前回はパンチラ対策会議だったそうすね。今回はスケスケ制服対策会議にでもなるんすかね」

山本「……」

三村「前回の反省会を踏まえて総務が通達を出したばかりすよね」

田所「それなのに再度、同種の問題が起きてしまった」

三村「あいつ、いわゆる“激おこ”状態なんじゃないすか」

山本「三村」

三村「何すか」

山本「今日はお前が俺の代わりに反省会へ出るか?」

三村「どうしてまた俺に振ってくるんすか」

山本「たまにはいいだろう」

三村「自分の都合で俺に振らないでくださいよ」

山本「……」

三村「小野寺のお守りは山本さんの役目じゃないすか」

山本「……」

三村「俺は普段どおり、幹部の連中を集めて中央会議室で待ってますんで」

田所「ほっほっほっ。山本司令、反省会にはわしもおる」

山本「はい」

田所「二人で協力して悦子君の怒りを鎮めようではないか」

山本「はい……」

田所「どうしたかね。いつもの毅然とした態度はどこへ行った」

山本「怪獣の駆除より困難な任務ですね……」

田所「ほっほっほっ」



サアアアアア…


JK(うちまで、もう少し……)

JK(足が重い……)

JK(もう少しなのに、遠く感じる……)

JK(雨……現場に比べて、こっちはちょっと小降りかな……)

JK(駆除作業の後にいつも、ヘリで送ってくれるのはいーんだけど……)

JK(降ろしてもらった所からうちのマンションまで、少し歩くんだよね……)

JK(でもあたしんちの近くは家ばっかで着陸する場所なんかないし…)

JK(うちのマンションってボロだから、ヘリが近付いたら風で倒れちゃいそう)

JK(もうすっかり周りが暗くなっちゃったな……)

JK(はぁー……今日は疲れたなぁ……)

JK(あの高さから落ちてケガしなかったのは良かったけど……)

JK(山本さん、どうして男の人を助けに来させるのよ……)

JK(まったく……全然優しくない。気を遣ってくれない)

JK(反省会でブチギレてやった)

JK(ちょっとビビってたみたいだったな、山本さん。いい気味)

JK(あーあ。怪獣駆除はうまくいったんだけどなぁ……)

JK(最後にあんなことがあって、全部ぶち壊しになっちゃった)

JK(この角を曲がればうちのマンション……)

JK(やっと着いた……)


サアアアアア…


JK(あ…お巡りさんがポリボックスの外に出てる)

JK(雨降ってるのに。外に立ってこっち見てる)

JK(多分、あたしが仕事から帰って来るって連絡が行ったんだろうな)

JK(自衛隊の仕事を始めたら、しばらくしてマンションの前へこれができた)

JK(お巡りさん一人だけが入れる大きさの、電話ボックスみたいな物)

JK(ポリスボックス。ポリボックス)

JK(ここにお巡りさんが交代しながら24時間いて…)

JK(あたしと、あたしの家族を守ってくれてるってことなんだけど……)

JK(警察はあたしのこと何て言ってたっけ。何だか難しい言い方だった)

JK(……ヨージン……ヨージンケーゴ)

JK(……タイショーシャ)

JK(思い出した。要人警護対象者だ……)

JK(でもそんなの全然、実感ないなぁ)

JK(自分が警察の要人警護対象者だなんて)

JK(あたしがその対象者だから、ここにポリボックスができたってことなんだけど……)

JK(そんなの全然、実感ないなぁ)

警官「おかえりなさい小野寺さん。今日はお疲れ様でした」

JK「はーい。ありがとうございます……」

JK(優しい感じのお巡りさんだな……)

JK(あたし、もっと何か言った方がいーんだろうけど…)

JK(“お巡りさんも、いつもお疲れ様でーす”とか言えばいーんだろうけど…)

JK(今日はそんな元気、ない)

JK(またいつか言おう……)

JK(お巡りさん、いつもの人じゃなかったな)

JK(いつもはもっと若い人だった気がする)

JK(今の人、山本さんと同い年くらいかな)

JK(優しい感じの、人……)


チーン


JK(エレベーターが来た。7階…)カチ


ウィイイイン…


JK(……)

JK(山本さん……)

JK(まったくもう……全然優しくないんだから)

JK(……)


チーン


JK(エレベーターを、降りて…)

JK(やっと、うちだ)

JK「ただいまー」ガチャ

母「おかえり悦子。御苦労様」

JK「うん……」パタン

母「自衛隊の野崎さんから今日のこと聞いたよ。大変だったねえ」

JK「……」

母「あんたやっぱり、その制服…」

JK「着てた物みんな、新しいのに取っ替えてもらった」

母「みんな、って…下着も?」

JK「うん、靴も靴下も全部。みんなびしょ濡れになっちゃったから」

母「自衛隊はそういう物も持ってるのねえ」

JK「そりゃそーだよ、何があるか分からないもん。あたしの服の予備は何着もあると思う」

母「体の具合は? 風邪引いてない?」

JK「大丈夫。りょーこさんが看護師の人と一緒にすぐ現場へ来てくれたから」

母「それならいいけど。今日は本当に大変だったねえ」

JK「もういーよ、仕事のことは……。それよりお腹空いた」

母「うん。ちょうど今、支度ができるところよ」

弟「姉ちゃんおかえり」カチャカチャ

JK「あれ? たかし、お前が晩御飯の仕度を手伝ってるなんて珍しいじゃん」

弟「今日はいつもそうしてる姉ちゃんがいなかったからね」カチャカチャ

JK「普段、支度ができるまで自分の部屋から出て来ないくせに」

弟「僕だって手伝いくらいするよ。それにいつもは予習と復習で忙しいんだよ」カチャカチャ

JK「どうだか。ガリ勉する振りしてホントはマンガでも読んでんじゃね?」

母「悦子、いいから早く着替えてきなさい。手を洗ってきなさい」

JK「はーい」

JK(あ、親父がリビングにいる。もう会社から帰って来てたんだ)

JK「お父さんおかえりなさい」

父「ああ」

JK「……」モグモグ

弟「……」パク

母「……」カチャ

父「……」モグモグ

弟「姉ちゃん、そこの醤油取って」

JK「ん。これね、はい」

弟「ありがとう」

JK「ねぇお母さん」

母「何?」

JK「最近、ポリボックスのお巡りさん代わった?」

母「そういえばそうね。前は若い人だったね」

JK「やっぱり。さっき会ったの、いつもの人じゃなかったから」

母「あのポリボックス、近所で評判いいのよ」

JK「評判?」

母「あれができる前はこの建物の中に変な人が入り込じゃうの、よくあったじゃない」

JK「あ、そっか。そーゆーことがなくなったんだね」

母「それに、マンションの前の道路をすごい速さで走る車が少なくなった。静かになったのよ」

JK「ふーん」

父「……」

弟「姉ちゃん、怪獣駆除以外でも世の中へ貢献してるね」

JK「貢献ってゆーか……だってあたし、近所の人たちに今まで迷惑かけてたから」

弟「迷惑? それってマスコミのこと?」

JK「うん。だからあれが近所の役に立ってるなら、これでプライマイゼロだよ」

弟「確かに前ははすごかったね」

母「朝、マンションの前に記者やカメラマンが待ち構えてるのはほとんど毎日だったねえ」

JK「マンションの中に入って来ようとするカメラマンもいた」

弟「下の階のおじさんが怒って追い出そうとしてくれて、殴り合いになりかけた時だね」

JK「あたし、そんなふうに迷惑かけてきたんだもん」

弟「……」

JK「だからポリボックスが役に立てば、これでプラマイゼロだよ」

父「……」

弟「でも、最近マスコミが全然いなくなったのはポリボックスと関係ないけどね」

JK「え? そーなん?」

弟「知らないの? 報道協定ができたんだよ」

JK「ホードーキョーテー? 何それ」

弟「姉ちゃんって相変わらず、こういうのに全然関心ないんだね。自分へ関係したことなのに」

JK「ふん。自分に関係あっても難しい話ならそんなのスルーだよ」

弟「難しくなんかないよ。マスコミ各社が協議して…」

JK「いーよ説明なんかしなくても。どうせあたしの頭じゃ聞いたって分かんねーよ」

母「悦子、その言葉遣いを何とかしなさい」

JK「エリート進学校に通ってるガリ勉高校生のお前とは頭の作りが違うんだよ」

弟「“お前とは頭の作りが違う”って……そういう言い方は逆の意味で使うんじゃないかな」

JK「どうでもいーよ。とにかくあたしの頭じゃ分かんないって言ってんの」

母「ちょっと二人とも、御飯の最中にケンカしないでくれる?」

JK「はーい」モグモグ

母「年子の兄弟は仲が悪いっていうけど……あんたたち、仲がいいのか悪いのか分からないねえ」

JK「こいつの上から目線がムカツくのよ。あたしは2年生の先輩だぞ? 1年なのに生意気なんだよ」

母「でもやっぱり、あんたたちは仲がいいね」

JK「えー? こんなにケンカばっかしてんのに?」

母「だって本当に仲が悪かったら、そもそもこんなふうに会話なんてしないでしょ」

JK「……」

母「家族の仲が本当に悪かったら家の中で会話しないし、目も合わせない」

JK「……」

母「近所とかでよく聞く話よ。そんな家も実際にあるのよ」

JK「ふーん……」

弟「そういうのと比べれば僕と姉ちゃんはまだいい方かもね」

父「……」

母「悦子」

JK「うん」モグモグ

母「マスコミのやってることがひど過ぎたから、自衛隊の人たちが怒ってくれたのよ」

JK「怒った? マスコミに?」

母「そう。それでマスコミが、悦子を追いかけ回すのをみんなでやめましょう、ってことにしたの」

弟「姉ちゃんへの取材を自粛する協定が、マスコミ各社の間で結ばれたんだよ」

JK「ホードーキョーテー……報道協定か」

弟「やっと分かってくれた?」

JK「そーいえば記者やカメラマンがあたしの周りから消えたのって、超いきなりだった気がする」

弟「それが、各社が協定を守り始めた時だったんだよ」

JK「前は学校にも来てた。校門の前にもマスコミが待ち構えてた」

母「体育の授業を盗み撮りしようとしたカメラマンまでいたねえ」

弟「えっ。そんなことがあったの?」

JK「あれ? お前この事件知らない? 変態だと思って学校が警察呼んで大騒ぎになったんだけど」

弟「初めて聞いた」

JK「お前ってあたしに関係あるこーゆーことへあたしより詳しいのに」

弟「だから、姉ちゃんが関心なさ過ぎるだけだって」

父「……」

JK「あたしって学校にも迷惑かけたんだよね。マスコミを連れて歩いてたのと同じだったから」

母「多分その事件が、報道協定ができるきっかけになったのよ」

弟「そうなの?」

母「お母さん、その事件のことを聞いて、ちょっと幾ら何でもひど過ぎるって思って…」

弟「うん」

母「自衛隊の野崎さんへ少しきつめに、こういうのって何とかならないでしょうか、って言ったの」

弟「姉ちゃんは怪獣からこの国を守る自衛隊のエースだけど、普段はただの女子高生だもんね」

母「もちろん、マスコミの人たちだって仕事だし、取材の自由や報道の自由があるのは分かります」

弟「そうだね」

母「でもまだ高校生の子供を、何人もの大人たちが追いかけ回すなんて異常です、って言ったの」

弟「それで自衛隊がマスコミに働きかけたのか」

母「多分そう。報道協定ができたのはその少し後だったから」

父「……」

JK「まあとにかくマスコミがいなくなってくれてホッとしたわ」モグモグ

弟「そうだろうね」

JK「一番ウザかったのは学校の行きと帰りに記者が付いて来て、しつこく話訊かれたこと」

弟「ああ、何回かあったみたいだね。その時の姉ちゃん、ものすごく不機嫌になって帰って来たね」

JK「あれがなくなったのがめっちゃ嬉しい」モグモグ

弟「そういう場合どうしてたの? 守秘義務があるから自衛隊のことは誰にも喋れないんでしょ?」

JK「“取材は広報を通してください”。これしか言わない。ほかの言葉は全っ然喋らない」

弟「ふうん」

JK「りょーこさんから指示された。何を訊かれてもこれ以外言わなくていいって」

弟「なるほど。それがマスコミ対策か」

JK「いろんなことを訊かれた。超能力のこと、駆除作業のこと、怪獣のこと、自衛隊のこと…」

JK「それに、いろんなことを話しかけられた」

JK「“好きな芸能人は誰?”とかあたしの仕事に関係ないことを訊いたり、笑わせようとしたり…」

JK「こっちの御機嫌を取って話を訊き出そうとしてた。でも返事は“広報を通してください”だけ」

母「私たちにも取材が来たことがあったね」

弟「うん」

JK「お母さんたちはどうしてたの?」

母「知らぬ存ぜぬの一点張りよ。“何も知りません、本人に訊いてください”って何回も言った」

JK「うん、さすがお母さん。神対応」

弟「その言い方も逆の意味で使うんじゃないかな」

JK「うっさいな。細けーことはいーんだよ」

母「家にいる時の様子を訊いてきた記者もいたけど、プライバシーの侵害ですって突っぱねた」

JK「たかしは?」

弟「僕も同じだよ。姉ちゃんの超能力や、怪獣や自衛隊のことなんて本当に何も知らないからね」

JK「うん」

弟「僕には答えようがない。それ以外にもいろいろな質問をされたけど、全部無視した」

父「……」

弟「だけどマスコミもいろいろな所へ取材して、すごくたくさんの記事が出たね」

母「たかし?」ジロ

弟「あ、ごめん…」

母「気を付けなさい」

JK「何? どうかした?」

弟「うん……。姉ちゃんには記事のことを話しちゃいけないって言われてるんだ」

JK「はぁ? 何よそれ」

母「何よそれ、って……記事の中にはあんたが知らない方がいい物もあるから」

JK「お母さんたち、何気遣ってんの? 別に全然いーんだけど」

母「そうなの?」

JK「あたし、自分がマスコミにどう書かれてるかなんて全然キョーミない」

JK「だからそんな記事を自分から見ようなんて思わない」

JK「でも学校で友達が見せてきたりするし、電車の中には週刊誌の広告がある」

JK「そーやってどうしても記事は見ちゃう。目に入っちゃうんだよ」

母「……そうね」

JK「だからあたし、全然いーよ。変に気遣わないでよ」

母「でも、あまりひどい記事は読まないようにしなさいよ?」

JK「あ……今の話で思い出しちゃった」

弟「何?」

JK「週刊誌ですっげー下品な記事があったんだよ」

弟「下品?」

JK「あれだけはガチで頭に来た」

弟「どんなの?」

母「たかし、よしなさい」

JK「付いてるタイトルが超下品なんだよ。今でも憶えてる。思い出したらまた腹立ってきた」

母「悦子も、思い出すのやめなさい」

弟「どんなタイトル?」

JK「“噂の超能力少女を徹底研究! 自衛隊の秘密兵器「えっちゃん」を“丸裸”にする!”」

弟「ははは」

JK「笑うな! こんなの年頃の女子高生に使う言い方じゃねーだろーが!」

母「悦子、口に物を入れたまま喋るんじゃ…」

JK「何だよ“丸裸にする”って!」

弟「そのくらい徹底的に調べました、ってことか。マスコミもよくそんなタイトル思い付くね」

JK「感心してんじゃねーよ!」

母「もうよしなさい。あんまり怒ると消化に悪いよ」

弟「別に、本当に裸にされたわけじゃないんだし」

JK「当ったり前だよ! そんなことされてたまるか! あームカツく!!」

弟「ちょっと、こっちへ向かって叫ばないでよ。今、何か飛んで来たよ?」

父「……」

JK「おかわり」スッ

母「え? また? もう3杯目じゃない」

JK「お腹空いてんの」

母「怪獣と戦ってきた後はいつもこうね」

JK「今怒ったら体力使って、もっとお腹空いた」

母「あんた、毎回そんなに食べてお腹壊さないの?」

JK「全然」

母「普段はお弁当を残してきたりするのに。…はい3杯目」

JK「ありがと」モグモグ

母「こんな量を食べて、その細い体のどこに栄養が行ってるのかしらねえ」

弟「胸に行ってないのだけは確かだね」

JK「何だとコラ」ギロッ

母「よしなさい」

弟「怪獣の駆除で超能力を使うのには、莫大な量のエネルギーが必要なんだろうね」

JK「お、出た。ガリ勉君の超テキトー論理」モグモグ

弟「だってそうとしか考えられないよ。怪獣駆除をした後だけ、ものすごい食欲が出る」

弟「ものすごい量を食べるけど、それをちゃんと消化する。お腹を壊したりしない」

弟「超能力を使って消費したエネルギーを、急いで補ってるんだと思うよ」

JK「へー。で、証拠は?」モグモグ

弟「証拠なんてないけど……状況証拠を積み重ねればそうなるよ」

JK「またジョーキョーショーコか。たかしの言うことってそんなんばっかじゃん」モグモグ

弟「だって確かめたわけじゃないから」

JK「確かめてないのにどうしてそんなことが言えるのよ」

弟「……」

JK「だからお前は口だけのガリ勉君で、喋ることが超テキトーだっていうんだよ」

父「……」

母「悦子、いいから御飯食べちゃいなさい。まだ食べてるのあんただけよ」

JK「はーい」モグモグ

弟「姉ちゃん、もうおかずがないじゃない」

JK「それもそーだな。お母さん、何かない?」

母「お新香があるでしょ。それで御飯食べて」

JK「えー? もっとこう、肉肉しいのが欲しーんだけど」

母「何それ、お肉ってこと? そんなのないよ……あ、冷蔵庫にハムがあったかな」

JK「おっ、いーね。それ行こう。出してだして」

母「はいはい。…ほら、もうお皿に移したりしないよ。パックから食べて」

JK「全然オッケーでーす。ハムを御飯の上にのせて、お醤油を少しかけて…」

弟「……」

JK「一気にかっ食らう。簡単だけどめっちゃうまいんだこれが」ガツガツ

弟「女子高生の食事と思えないね。おじさんみたい。しかも独身、一人暮らしの」

JK「何言ってんのよ。女の子なんてみんなこんなもんよ」モグモグ

弟「姉ちゃんだって適当なこと口にしてるじゃない」

JK「あ? どこがテキトーなのよ」

弟「“女の子なんてみんな”って言ったけど、世の中の女の子全部に確かめたわけじゃないでしょ」

JK「……」

弟「地球上の女の子が全員、ハムと醤油と御飯の食事をしてるわけじゃないでしょ」

JK「……まったくお前って、口だけはいつも立派だな。あぁ?」

母「二人ともいい加減にしなさい。悦子は早く食べちゃって。たかしは後片付けを手伝いなさい」

JK「はーい」ガツガツ

弟「うん分かった。御馳走様」

父「……」

JK(……)

JK(……眠れない……)

JK(……ベッドに入ってもう何時間たっただろ……)

JK(……もう100回くらい寝返りを打った気がする……)

JK(……怪獣駆除の後は、いつも同じ……)

JK(……いつまでも眠れない……)

JK(……もういっそ、起きちゃおうかな……)

JK(……でも起きてどうすんだろ……)

JK(……スマホいじる気分じゃないし……)

JK(あ……こーゆー時こそ本でも読むか)

JK(買ったのに読まないで、そのままにしちゃってる本)

JK(こーゆー時こそ、その本をですね……)

JK(ベッドから出て…)ゴソ

JK(部屋の電気を…)パチ

JK「うおっまぶしっ」

JK(やっぱいいや)パチ

JK(明かる過ぎ。無理)

JK(やっぱ本読むなんて無理。大体、あたしは元々そんなの向いてないんだよ)

JK(もう一回、ベッドへ……)

JK(でも……完全に起き上がっちゃったしなぁ……)

JK(……)

JK(……真夜中に、部屋の中で電気も点けずにボーッと立ってるあたし……)

JK(……何やってんだろ……)

JK(……?)

JK(何……?)

JK(部屋の、外……?)

JK(超能力を使えるようになってから、こーゆー感覚が鋭くなった気がする)

JK(何かの気配……何かがいる気配)

JK(部屋の外……)

JK(ドアの向こう……)

JK(何だろ……。隣の部屋にいるたかし?)

JK(でもあいつは夜更かしなんてしないはず)

JK(今から大学受験のこと考えて、朝型の生活にしてるはず)

JK(じゃあお母さんか親父? でもそれなら、どうしてこんな時間に……)

JK(それともまさか、家族以外の何か?)

JK(でもそんなのあり得ない。マンションの前にはポリボックスがあるし……)

JK(だけどやっぱり何かいる……何かがいる気配がある)

JK(……)

JK(もし、家族以外の何かだったら…)

JK(戦わなくちゃ、駄目……?)

JK(そいつの正体によっては、戦わなくちゃ駄目……?)

JK(でもうちの中でバリア展開するなんてできない)

JK(そんなことしたら部屋が壊れちゃう。うちが壊れちゃう)

JK(……)

JK(……とにかく)

JK(今は、まず……そいつの正体を確かめなくちゃ……)

JK(よし……)

JK(よし……やるぞ)

JK(思い切って話しかけるぞ)

JK(ドアの所まで、行って…)

JK「誰?」

JK(あ……ドアの向こうが反応した)

JK(やっぱり何かいる)

JK(もう一回…)

JK「誰? 誰なの? 誰がいるの?」

JK(もっと反応した)

JK(答えろ……)

JK(どうして答えない…?)

JK(よーし……)

JK(ドア開けてやる)

JK(ドア開けて、確かめてやる)

JK(正体を、確かめ…)

弟「──僕だよ」

JK(え? 何?)

JK(あいつなの?)

JK「たかし?」

弟「──うん」

JK(何だよ……)

JK(やっぱりあいつだったのか)

JK(ったく、フザケんなよ……ビビらせやがって)

JK(……ホッとしたら腹立ってきた)

JK「おい、何やってんだよお前。こんな時間に人の部屋の前で」

弟「──うん……」

JK「うんじゃねーだろ、この変態。人の部屋の前で真夜中に何やってんだって訊いてんだよ」

弟「──姉ちゃんこそ何してるの?」

JK「何のことだよ」

弟「──姉ちゃん、ずっと眠れないんでしょ」

JK「……」

弟「──分かるんだよ、隣にいるんだから」

JK「……」

弟「──いつまでも起きて何かゴソゴソやってる。分かるんだよ」

JK「……それが何なのよ」

弟「──怪獣の駆除をしてきた日はいつもそう」

JK「……」

弟「──御飯をものすごくたくさん食べて…」

JK「……」

弟「──夜はいつまでも眠らない」

JK「……何なのよお前。何が言いたいのよ」

弟「──分からないの?」

JK「何が」

弟「──僕は…」

JK「……」

弟「──僕は、姉ちゃんが心配なんだよ」

JK(……)

JK(……そっか)

JK「……」カチャ

弟「姉ちゃん?」

JK「入りな」

弟「……」

JK「何してんのよ、入りな」

弟「……いいの?」

JK「いつまでもこんなとこで喋ってたら、お母さんと親父が起きちゃうでしょ」

弟「……そうだね」

JK「ドア閉めたら、そこから動くな」

弟「どうして?」パタン

JK「あたしは勉強机の椅子へ座る。お前はドアの所の床に座って、そこから動くな」

弟「どういうこと? 僕、何もしないよ」

JK「ふん。真夜中に人の部屋のドアに張り付いてるような変態を信用できると思ってんの?」

弟「そうしてたのは謝るよ。ごめん」

JK「……」

弟「部屋の明かりを点け…」

JK「いいよ」

弟「え? でも…」

JK「いいから。このままでいい」

弟「そう……」

JK「……」

弟「……」

JK「どうしたのよ、何か喋れよ。あたしに何か用があるんじゃないの?」

弟「うん……」

JK「……」

弟「晩御飯の時、お母さんの話には笑っちゃったね」

JK「お母さんの話?」

弟「近所に、本当に仲が悪い家族がいるって話」

JK「……」

弟「そういう家族は家の中で会話しないし、目も合わせないって話」

JK「……」

弟「近所にそんな家があるって話だけど、もっと身近にそういう所があるじゃない」

JK「……あたしもあの時、同じこと考えてたよ。それってうちじゃん、って」

弟「お母さん、お父さんと会話しなくなってもうどのくらいたつんだろう」

JK「……」

弟「お母さん、お父さんと目も合わせなくなってもうどのくらいたつんだろうね」

JK「……知らないよそんなこと」

弟「姉ちゃんはどう思ってるの?」

JK「だって……あの親父じゃ、お母さんに愛想を尽かされるのなんて当然だよ」

弟「お母さんって頭がいいからね。普通の主婦なんだけどお父さんなんかよりすごく頭がいい」

JK「親父の頭の悪さはあたしにだって分かるよ。偉そーなくせに喋ることがいちいち的外れ」

弟「どうしてあの二人が結婚して夫婦になったのかすごく謎だね」

JK「あたしの頭は親父に似ちゃったんだよね。たかしはお母さんに似た」

弟「お父さんは会社で係長だけど、名前だけの役職らしいよ」

JK「今日はずっと黙っててくれて良かった。親父の喋ること聞くといつもイライラするから」

弟「お父さんはお母さんだけじゃなく、僕たちにも見限られちゃってるね」

JK「……たかし」

弟「何?」

JK「お前が今あたしへ言いたいのは、そんな話じゃないでしょ」

弟「……」

JK「まあ、あたしも話の相手をしちゃってるんだけどさ」

弟「僕は…」

JK「うん」

弟「僕は、姉ちゃんが心配なんだよ」

JK「……」

弟「姉ちゃんは超能力者になった」

弟「その超能力を使って、自衛隊と一緒に怪獣駆除をするのを引き受けた」

弟「この国の人たちはみんな、姉ちゃんのことを“えっちゃん”って呼んで応援してる」

弟「“えっちゃん”は怪獣をやっつけてみんなを守ってくれる超能力少女。自衛隊、最後の切り札」

弟「マスコミは“えっちゃん”のそういう立場や、まだ高校生なのを考えて取材を自粛した」

弟「姉ちゃんはそのくらい、今のこの国にとって大切な存在」

弟「でも普段うちにいる時の姉ちゃんは、超能力者でもなければ自衛隊の秘密兵器でもない」

弟「ただの、うちの家族の一人。ただの、僕の姉ちゃん。僕の、たった一人の姉弟(きょうだい)」

弟「だけど…」

弟「だけど、怪獣駆除から帰ってきた日の姉ちゃんは、普段と違う」

弟「御飯をものすごくたくさん食べる。女の子が食べる量と思えないほど」

弟「それから、夜はいつまでも眠らない。明け方近くまで起きて何かゴソゴソやってる」

弟「こんなこと、超能力を使い始める前は全然なかった」

弟「僕は、姉ちゃんが心配なんだよ」

弟「超能力を使うことで、姉ちゃんがどんどん変わっていっちゃうみたいで、心配なんだよ」

JK「……」

弟「もちろん、怪獣の駆除をしてる時の姉ちゃんも心配だよ」

弟「駆除の時にどんなことをしてるかは、家族の僕たちも教えてもらえない。自衛隊の極秘事項」

弟「でもマスコミやインターネットとかから情報は入ってくる」

弟「姉ちゃんは何の装備も無しに、高校の制服のまま怪獣へ体当たり攻撃してるんだってね」

弟「多分それが超能力を最大限に発揮する方法なんだろう、って話だけど…」

弟「こんなの、すごく危険なことだと思う。生身であの怪獣どもへ直接ぶつかっていくなんて」

弟「自衛隊の大人たちはみんな、銃やロケット弾とかで遠くから攻撃するのに」

弟「どうして姉ちゃんだけがそんな危険な方法をやらされるのか、全然分からない」

JK「……たかし」

弟「何?」

JK「あたし、自衛隊のことは何も喋れないよ」

弟「うん、分かってる」

JK「お前が今話したことへ“よく知ってるじゃん”とも“全然ちげーよ、妄想乙”とも言えない」

弟「……」

JK「自衛隊のことへ何もコメントできない。あたしは、ノーコメントとしか喋れないよ」

弟「分かってる。姉ちゃんは聞いててくれればいいよ」

JK「……」

弟「今までの怪獣駆除は全部、成功した」

弟「自衛隊もそれ以外の人たちも、すごく被害を受けた。でも結局、全ての怪獣を倒せた」

弟「だけどこれからもそうできる保証なんて、どこにあると思う?」

弟「姉ちゃんは毎回、駆除の最前線に立って生身で怪獣に直接ぶつかっていってる」

弟「いつも一番危険なことをやってるのは、姉ちゃんなんだよ」

弟「被害を受ける可能性が一番高いのは、いつも姉ちゃんなんだよ」

弟「僕は、姉ちゃんが心配なんだよ……」

JK「……」

弟「姉ちゃん」

JK「何よ」

弟「こんなこと言うとまた、口だけのガリ勉君が超適当な論理を喋ってるって言われそうだけど…」

JK「だから何よ」

弟「これから、もっとひどいことなると思う」

JK「……」

弟「この国は、もっとひどい目に遭うんじゃないかって思う」

JK「……どういう意味よ。また超テキトーな話だと思うけど、聞いてやるよ」

弟「怪獣が襲ってくるなんて、こんなのはこの国にしか起こってない」

弟「世界のどこにも、こんな目に遭ってる国なんてない」

弟「怪獣は何度も、確実に、この国だけを目掛けて襲来する」

弟「しかもあいつらは、確実に強くなってきてる。そしていろいろな種類が来る」

弟「最初のうちは自衛隊の持ってる武器が通用した。通常兵器でも相手を倒せた」

弟「でもそれが段々、難しくなってきた。犠牲者を何人も出してやっと勝つ、ってことが続いた」

弟「姉ちゃんが怪獣駆除へ参加し始めたのはその頃だったね」

弟「自衛隊が超能力に目を付けて、姉ちゃんは駆除を手伝うことになった」

弟「実戦をやったら、その超能力はまさに超兵器だった。怪獣を片っ端から倒した」

弟「姉ちゃんは自衛隊の最後の切り札って呼ばれた」

弟「今回の怪獣はイソギンチャクみたいな奴だったんだってね。ニュースで見たよ」

弟「今まではみんな爬虫類みたいだったのに、初めてそれ以外の怪獣が現れた」

弟「これで、今後いろいろなタイプの怪獣が現れる可能性が否定できなくなった」

弟「そして、今回のは弱かったみたいだけど、次もそうだとは限らない」

弟「怪獣が強くなってきてる傾向は、ずっと変わってないから」

弟「それから、その出現場所。最初の頃、怪獣は日本海側に現れた」

弟「日本海沿岸の各地に上陸して、姉ちゃんはかなり遠くまで行ったこともあった」

弟「でもここ何回かは太平洋側に現れてる」

弟「しかもその出現場所には、特徴がある」

弟「鹿児島から始まって、高知、和歌山…」

弟「前回は静岡だった。そして今回は神奈川」

弟「これから襲われる場所はどこか、もう言わなくても分かると思う」

JK「たかし」

弟「何?」

JK「話聞くのがダルくなってきたんだけど」

弟「……」

JK「一体何なのよ」

弟「……」

JK「さっさと結論を言ってくんない?」

弟「……分かった。言うよ」

弟「僕はこう考えたんだ」

弟「何かが……何者かがこの国へすごく悪い感情を持ってる」

弟「強烈な悪意を持って、この国を滅ぼしてやろうと思ってる」

弟「そうして、怪獣を送り込んできてる」

弟「だから世界でこんなことが起きてるのはこの国だけ。ほかの国では一切、起きてない」

弟「何者かは怪獣を送り込み続けて、毎回、その強さを試してる」

弟「だから、怪獣がどんどん強くなっていった」

弟「ある怪獣がやられたら、次はもっと強いのを送り込む。その繰り返し」

弟「そうやって、自衛隊がどういう武器や方法で怪獣を倒していくか見てる」

弟「何者かは遂に、自衛隊が駆除できないほど強い奴を送り込み始めた」

弟「でも姉ちゃんが参戦した。自衛隊にできないことを姉ちゃんが代わりにやり始めた」

弟「姉ちゃんの攻撃が通用しない怪獣はまだ現れてない」

弟「それは、何者かはまだ、そこまで強い怪獣を送り込めてないっていうこと」

弟「でも、今までよりはるかに強い奴を送り込んできたらどうなるか……」

弟「一方でその何者かは今、いろいろな種類の怪獣を送り込もうとしてる」

弟「これは、怪獣が強くなっていくのと同じくらい厄介な問題」

弟「その種類によっては、もしかすると今までの駆除方法が通用しなくなるかもしれないから」

弟「そこに、今までをはるかに上回る強さが加わったらどうなるか……」

弟「それから、出現場所」

弟「日本海側ばっかりだったのが、太平洋側に移った」

弟「そしてその場所は、確実に北上してる」

弟「今回はとうとう神奈川県まで来た」

弟「次は…」

JK「もういいよ」

弟「……」

JK「分かったよ。たかしの話は」

弟「……」

JK「……」

弟「……ごめん」

JK「何よ」

弟「……」

JK「どうして謝るのよ」

弟「だって……こんな…」

JK「……」

弟「こんな、悪い方にばっかり考えるみたいなことを、言って……」

JK「……」

弟「僕は、姉ちゃんを元気づけなくちゃいけないのに……」

JK「元気づける? あたしを?」

弟「お母さんから言われてるんだ……」

弟「姉ちゃんに後ろ向きなことを言わないようにしなさい、って」

弟「姉ちゃんはすごく大変な仕事をしてるんだから、元気づけるようにしなさい、って」

弟「でも……やっぱり」

弟「僕はやっぱり、姉ちゃんが心配で…」

弟「超能力を使い続ける姉ちゃんが…」

弟「これから、どうなっちゃうのか……」

JK「分かったよ」

弟「……」

JK「たかし、こっち来て」

弟「え…?」

JK「立って、こっち来て」

弟「何……?」

JK「どうしてビビってんの?」

弟「……」

JK「小さい頃みたいにひっぱたいたりしないから、こっち来て」

弟「……」スッ

JK(あたしも、立ち上がって…)

JK「あれ? お前、いつの間にか背伸びたなぁ」

弟「え……そんなの当たり前でしょ。育ち盛りなんだから」

JK「そっか。そうだね」

弟「……」

JK「うん。よしよし」ギュッ

弟「あっ…」

JK「何よ」

弟「……」

JK「あたしが、姉ちゃんが抱き締めてあげてんだぞ?」

弟「……」

JK「もっと嬉しがなりなよ」

弟「……姉ちゃん……」

JK「たかし」

弟「……」

JK「心配してくれてありがとね」

弟「……」

JK「でもあたしは、姉ちゃんは大丈夫だから」

弟「姉ちゃん……」

JK「姉ちゃんはいつまでも、お前の姉ちゃん」

弟「……」

JK「変わっちゃったりしないし、どうにかなったりもしない。ずっとお前の姉ちゃん」

弟「……」

JK「この世界でたった一人の、お前の姉弟だよ」

弟「うん……」

JK「姉ちゃんにも分かるよ、お前の心配」

弟「……」

JK「こんな仕事、危ないよ。お前の言うとおりだよ。女子高生がやることじゃないよ」

JK「でも姉ちゃんは、この仕事を引き受けるって決めたんだ」

JK「だから姉ちゃんは、これをやり抜いてみせる」

JK「いつかきっと、こんなこと、終わる日が来る」

JK「その日まで姉ちゃんは、これをやり抜く」

JK「姉ちゃんはそう決めたんだよ」

弟「うん……」

JK「分かった?」

弟「姉ちゃんって、小さい頃からそうだよね……」

JK「そう、って?」

弟「一回決めたら、絶対やる。誰が何を言おうと、決めたことをやる」

JK「お? 何だか褒められてるみたい?」

弟「別に褒めてなんかないよ。だってこれ、頑固ってことじゃない」

JK「……」

弟「この頑固さに、僕もお母さんもどれだけ困らされてきたか憶えてる?」

JK「……そんなこと自分で憶えてるはずないでしょ」

弟「とにかく、分かったよ……。姉ちゃんはすごい決心をして今の仕事をしてるんだね」

JK「すごくなんかないよ。自然にこう決めただけだよ」

弟「僕は……姉ちゃんが決心して、こんなに大変な仕事をしてるのに…」

JK「……」

弟「してあげられることなんて、何もなくて……本当にごめんね」

JK「何言ってんのよ。そんなの気にする必要ないよ」

弟「……」

JK「じゃあ今、その何かをしてもらおっか」

弟「今?」

JK「たかし。どうして手をだらん、って下におろしたままなの?」

弟「え……」

JK「あたしが抱き締めてあげてんだから、お前のすることは決まってるじゃん」

弟「でも……いいの?」

JK「それが今、お前が姉ちゃんへできることだよ」

弟「分かった……」ギュッ

JK(……)

JK(こいつ…)

JK(ホントに背伸びたなぁ)

JK(ずっとあたしの方が大きいと思ってたのに)

JK(こーしてみると、あたしの顔がこいつの肩くらい)

JK(たかしも男だもんね……当然だよね)

JK(この肩にあたしの顎、乗っけてみよっかな)

JK(よいしょ、っと)

弟「ちょっと、姉ちゃん…」

JK「何よ」

弟「何してるの…?」

JK「だって、この方がもっといーでしょ?」

弟「……」

JK「こーした方がもっとぴったり体をくっつけられるでしょ?」ギュウ

弟「……」

JK(何だか、気持ちいい……)

JK(人を、抱き締めるのって…)

JK(人に、抱き締められるのって…)

JK(気持ちいいんだなぁ……)

JK(……)

JK(あたしにも、将来……)

JK(こんなふうに……抱き締めてくれる人が……)

弟「あの……姉ちゃん?」

JK(え? また何だよ)

JK(いい気分だったのに)

JK「何よ」

弟「あの……あ、当たってるん、だけど……」

JK(当たってる?)

JK(何が?)

JK(あ…これか)

JK(胸のことか)

JK(ふーん……)

JK(やっぱこいつも男なんだねぇ)

JK(一人前に意識しちゃって)

JK(うちのたかし君もいつの間にか、そんなお年頃になってたってわけですかぁ)

JK(おもしろそーだから少しイジってやろう)

JK「当たってるって、何が?」

弟「……」

JK「何が当たってんのよ」

弟「……」

JK「黙ってちゃ分かんないでしょ」

JK(二人ともパジャマ姿。だからあたしはもちろんブラしてない)

JK(男子高校生には刺激が強過ぎるかもね。超ナマナマしいよね)

JK(だからほら、もっと当ててやる)グリグリ

弟「あっ。ちょ、ちょっと……」

JK(お、キョドってる。おもしれー。今、こいつの顔って真っ赤なんだろうな)

JK「言ってみなよ」

弟「……」

JK「何が当たってるか言ってみなよ」

JK(もっと押し付けてやる)グリグリ

弟「……ち……」

JK「え?」

弟「ち……」

JK(ち?)

JK(“胸”なんだから“む”じゃないの?)

JK(“乳”って言おうとしてんのかな。それとも“乳房”?)

JK(難しい言い方して恥ずかしいのをごまかす気か。ガリ勉君のやりそうなことだわ)

弟「ち…」

JK「……」

弟「小さい、胸が……」


ぺしっ


弟「痛たっ」

JK「ざっ…ざけんなテメー!」

弟「何だよ、いきなり頭叩かないでよ……」

JK「黙れ! “小さい”って何だコルァ!」

弟「……」

JK「“小さい”は余計なんだよ!」

弟「姉ちゃん…」

JK「小さかったら当たってねーだろーが!!」

弟「姉ちゃん、そんなに大きな声出さないでよ」

JK「……あ……」

弟「お母さんたち起きちゃうよ?」

JK「……」

弟「今、何時頃だろう。僕たちすっかり話し込んじゃったね」

JK「……」

弟「じゃあ僕はもう自分の部屋へ帰るよ」

JK「あ……あーもう、帰れかえれ! さっさと寝ろ! 失礼な奴め!」

弟「姉ちゃん」

JK「あ? まだ何か用かよ」ジロッ

弟「僕は今、姉ちゃんと話せて良かった」

JK「……」

弟「姉ちゃんとこういう話をできて良かった」

JK「……」

弟「僕、ずっと前からこういうことを話したかったんだ」

弟「でも姉ちゃんをそっとしておいた方がいいと分かってたから、こんな話できなかった」

弟「姉ちゃんには迷惑だったかもしれないよね」

弟「それに僕も、こういう話をできたからって心配はなくならない」

弟「でも、すごく無神経で自分勝手かもしれないけど、僕はこういうことを話せて良かった」

JK(……)

JK(……そうか)

JK(……そうだったんだね)

JK(たかし、あたしのことをいろいろ考えてくれてたんだね)

JK(考え過ぎるくらい、考えてくれてたんだね)

JK(でも逆に、あたしは…)

JK(うちの中では、自分のことしか考えてなかった……)

JK(たかしやお母さんが…)

JK(こんなにいろいろ考えてくれてたなんて…)

JK(こんなにいろいろ気遣ってくれてたなんて…)

JK(今夜、初めて知った……)

JK(今まで、こんなに心配されてることへ気が付かなかった……)

JK(無神経なのは、あたしの方か……)

JK「たかし」

弟「何?」

JK「姉ちゃんのことを心配してくれてありがとね」

弟「うん」

JK「でも姉ちゃん、自衛隊の仕事は絶対やめない」

弟「……」

JK「姉ちゃんはこの仕事を引き受けるって決めた」

JK「でもそーすることで引き受けるのは、仕事だけじゃなかった」

JK「姉ちゃんは、いろんな人の命も引き受けることになっちゃった」

JK「いろんな人の命を守ることも、引き受けることになっちゃった」

JK「でもやっぱ姉ちゃんは、引き受けるって決めたんだ」

JK「仕事もいろんな人の命も、両方とも引き受けるって決めたんだ」

JK「怪獣はあたしたちが住んでるここにもやって来るかもしれない」

JK「そしたら姉ちゃんは全力で、みんなの命を守る」

JK「たかしの命も、お母さんの命も守る」

JK「親父の命も守る。あんな親父でもやっぱ自分の親、自分の家族だもん」

JK「全力で守る。このマンションの人たち、街の人たちみんなの命も守る」

JK「姉ちゃんはそーゆーのを引き受けるって、決めたんだよ」

JK「姉ちゃんはそーゆーのをやり抜くって、決めたんだよ」

弟「分かったよ、姉ちゃん」

JK「じゃあたかし、早く寝な?」

弟「うん」

JK「生活、朝型にしてるんでしょ? 朝早く起きられなくなっちゃうから」

弟「うん。姉ちゃんおやすみ」カチャ

JK「うん。おやすみ」

弟「……」パタン

JK(……)

JK(あたしも寝るか……)ゴソ

JK(……)

JK(あれ……?)

JK(何だろ……)

JK(ベッドへ入ったらすぐ眠くなってきた……)

JK(今まで眠れなかったのが嘘みたい……)

JK(そっか…)

JK(あたし…)

JK(安心しちゃったんだ……)

JK(たかしに、心配してもらって…)

JK(話をして…抱き締めてもらって…)

JK(優しく、してもらって…)

JK(急に、安心しちゃったんだ……)

JK(安心したらいきなり、超眠く……)

JK(駆除作業の後に、いつも眠れない理由…)

JK(あたしは、安心したかっただけなんだ……)

JK(誰かに、優しくしてもらいたかっただけなんだ……)

JK(優しくしてもらって、安心したかっただけなんだ……)

JK(何だかなぁ……)

JK(あたし……あいつを、安心させてやりたかったのに……)

JK(自分が……安心させられちゃった……)

JK(あたしって……何だか、ちょろい女だなぁ……)

JK(優しく、されたら……すぐ、安心しちゃって……)

JK(でも……やっぱり……)

JK(誰かに、優しく……して、ほしい……)

JK(あたしにも……将来……)

JK(そういう……)

JK(人……が……)

JK(……)スー

~~~~~~~~~~



JK(……あ……)

JK(通信機に着信。緊急招集……)

JK(また授業中なのに……)

JK(……)

JK(とうとう、来ちゃった……)

JK(通信機の画面を見…)ゴソ

JK(でも…)

JK(通信の中身……見たくないなぁ……)

JK(前回、怪獣が現れた日……)

JK(あの夜の、たかしの話……)

JK(あたしだって、あんなこと分かってたよ)

JK(次に怪獣がやって来るのは、どこか)

JK(出現地点が太平洋側を北上してる)

JK(この前は神奈川まで来た)

JK(次は、どこか)

JK(そんなの、もう……東京に決まってるじゃん)

JK(現場って今、どんなひどいことになってるんだろ……)

JK(まだ海の近くで食い止められてるといーけど……)

JK(行かなくちゃ)

JK(通信の中身を見たくない。でも見なくちゃ。あたし、現場へ行かなくちゃ)

JK(画面の表示をちゃんと読む…)

JK(“沖縄県の久米島に上陸…”)

JK「はぁ!? お、沖縄!?」



シーーーン


JK「あ……」

JK(ヤバ……叫んじゃった)

JK(大声で言っちゃった……通信機を持ったまま)

JK(先生もクラスのみんなもあたしをガン見してる)

JK(出現地点が教室の全員にモロバレ……やっちゃった……)

JK(それに……叫んじゃったこと、先生に怒られる)

JK(この女の先生はそんなに厳しくない人だけど……)

JK(うーん……こーゆー場合は…)

JK(何か言われる前に謝っちゃうしかない! 小野寺悦子、起立!)ガタッ

JK「先生!」

女教師「……」

JK「授業中に大声出してすいません!」

女教師「……小野寺さん」

JK「はいっ! すいません!」

女教師「今度は沖縄へ行くの?」

JK「えっ?」

女教師「……」

JK「あっ、あの、それは……」

女教師「……」

JK「あのー、それは……聞かなかったことに……みんなも……」


シーーーン


JK「……って、できるわけないよね……ないですよね……」

女教師「ううん。いいのよ、小野寺さん」

女子生徒A「そうだよえっちゃん。それって今、怪獣が現れてる所でしょ?」

男子生徒A「そんなのもう、テレビとかでニュース速報やってるよ」

女子生徒B「私たちは授業中だから知ることができないだけ」

男子生徒B「お前が言っても言わなくても、世間の人はもうみんな知ってるって」

女子生徒C「それにあたしたち、えっちゃんから聞いたなんてガチで絶対言わないし」

JK「うん……。ありがとうございます先生、みんなも」

女教師「小野寺さん」

JK「はい」

女教師「あなたは沖縄へ行ったことある?」

JK「ありません。これが初めてです」

女教師「私は何回も行ってるんだけどね、海がすっごく綺麗なの」

JK「はあ」

女教師「世界で一番綺麗、って言う人もいるくらい」

JK「そうなんですか」

女教師「だから小野寺さん、せっかく行くんだから少し泳いでくれば?」

男子生徒B「あ? ちょっと先生、何言ってんスか?」

男子生徒A「先生。小野寺は遊びに行くんじゃありません」

男子生徒B「怪獣を倒しに行くんスよ? 戦うために出撃するんスよ?」

男子生徒A「みんなを、この国を守りに行くんです」

女教師「もちろん分かってます。でもね」

男子生徒A「何ですか」

女教師「小野寺さんがあっちで泳いでこられる。これはどういうことだと思う?」

男子生徒B「……」

女子生徒A「あ、そうか…」

女教師「何? 言ってみて」

女子生徒A「えっちゃんが怪獣をやっつけて、沖縄の人たちも、街も無事ってことですね」

女子生徒B「海も砂浜も無事。だから小野寺さんはそこで泳いでから帰って来られる」

女子生徒C「そういうのが全部できる。全部、何もかもうまくいくってことだね」

女教師「そう。そのとおり」

男子生徒A「……分かりました、先生。すいませんでした」

男子生徒B「……俺もっス」

女教師「ううん。いいのよ」

男子生徒B「じゃあ小野寺」

JK「何?」

男子生徒B「水着持ったか?」

JK「何言ってんのよ。今そんなの持ってるわけないでしょ」

男子生徒A「水着は向こうで買え。自衛隊だからやっぱり迷彩柄だな」

JK「どうしてあんたがそんなこと決めんのよ」

男子生徒B「海へは自衛隊の綺麗なおねーさんたちと行け。そんで記念に集合写真を撮れ」

男子生徒A「帰って来たらそれを俺たちに見せろ」

JK「何であたしがあんたたちに水着の写真を見せなくちゃならないのよ」

男子生徒B「おい、勘違いするなよ?」

JK「何が」

男子生徒B「俺たちは別にお前の水着写真を見たいわけじゃないんだからな?」

男子生徒A「自衛隊の綺麗なおねーさんたちの水着姿を見たいんだ」

男子生徒B「お前のそんな姿なんて、ぺったんこで誰も興味ない」

JK「何だと? もう一回言ってみろコラ」

女子生徒A「えっちゃん、アホ男子どもの相手してないで早く仕度した方がよくない?」

JK「あっそうか」ゴソゴソ

女教師「気を付けて行ってきてね、小野寺さん」

JK「はーい」



ギュゥゥウウン…


JK「……ってゆーことを弟が話してたの」

山本『ふむ』

JK「あたしも次は東京って考えてた。だから今回の現場は東京湾とかだと思い込んでた」

山本『しかし怪獣は沖縄に出現した』

JK「うん。通信機の画面見てマヂびっくりしちゃった」

山本『……』

JK「なーんだ、やっぱ弟の超テキトー論理なんて当てになんないなぁ、って思ったの」

山本『だが、えっちゃんも次の出現地点は東京だと思っていたんだろう?』

JK「まあそーなんだけど。……てゆーか山本さん」

山本『何だ』

JK「飛んでる最中のあたしとこんなに長い時間トークしてていーの? 忙しくないの?」

山本『問題ない。現段階での指揮は三村副司令に任せてある』

JK「そーなの?」

山本『あいつには今以上に多くの仕事を憶えてもらう必要があるからな』

JK「ふーん」

山本『それに、えっちゃんも沖縄まで長旅だ。話し相手がいた方がいいだろう』

JK「うん、割と本気でそーかもしんない」

山本『お前の高高度における巡航速度だと、到着までの所要時間は約120分』

JK「こんなに長い距離を飛ぶのって今までで初めて」

山本『攻撃時の速度を出せばより短時間で済むが、そんなことはさせられない』

JK「ホントは一刻も早く行かなくちゃなんだけど」

山本『気にするな。戦闘参加前の疲弊は避けなければならないのだ』

JK「うん、駆除作業する前から疲れちゃってたら駄目だからね。悪いけどこの速さで飛ぶ」

山本『それに沖縄までの最短飛行ルートはほぼ洋上だ。景色が変わらなくて退屈だろう』

JK「それもちょっと感じてた。最初は海の上で快晴の空を飛べるなんてサイコーって思ってたけど」

山本『一度くらい、途中のどこかへ着陸して休憩を取っても構わんぞ』

JK「え、いーの? でも下はずっと海じゃん」

山本『通信機の地図データを見ろ。少しルートを外れれば屋久島や種子島がある』

JK「やくしま、たねがしま? どれどれ……あーこれか。屋久島、種子島……」

山本『飛んでいるうちにトイレへ行きたくなったりするだろうしな』

JK「でも初めて降りる所でトイレ見付けるのって大変じゃない?」

山本『幾らでもあるだろう。公園、役所、図書館など、公共施設内のトイレは誰でも使える』

JK「そっか。そー言われてみれば……」

山本『何らかの店舗でもいい。コンビニで借りるのが最も手っ取り早いだろうな』

JK「コンビニ? へー」

山本『何だその反応は』

JK「山本さん、コンビニでトイレ借りられるなんて知ってたんだ。へー」

山本『どういう意味だ』

JK「だって自衛隊の超エリートなんだから、コンビニなんて入ったこともないって思ってた」

山本『何を言うんだ。俺はたまに世話になってるぞ。好きな酒のつまみが置いてあるのだ』

JK「田所博士は?」

山本『現地から情報を収集して目標の特徴などを分析中だ。後でお前にも説明がある』

JK「分かった」

オペレーターA『前線本部のヘリ編隊が足摺岬沖を通過中。現在、小野寺特任隊員と同地点です』

山本『えっちゃん、周りを見ろ。ヘリコプター7機の集団がいないか?』

JK「ヘリの集団? えーと……あれかな。あたしの真下、ずっと低い場所を飛んでる」

山本『前線本部の部隊だ。お前より先に発進したんだが追い抜かれちまうな』

JK「あたしの着く方が早いのかぁ。それなら前線本部のできる前に駆除を始めるってこと?」

山本『状況次第だがその可能性もある』

JK「学校カバンどうしよう」

山本『沖縄の自衛隊員に預かってもらえ。現場に近付いた時点でどこへ行けばいいか指示する』

JK「うーん……」

山本『どうした』

JK「いつもとやり方が違くて、なんかビミョーにメンドいかも」

山本『臨機応変に対応しろ。毎回同じことだけをやればいい、などということはあり得ない』

JK「今あのヘリに近寄って、そこの人に手渡しで預かってもらえばよくない?」

山本『おい、絶対にやめろ。冗談でもそんなことを言うんじゃない。危険過ぎる』

JK「えへへ、ごめんなさーい。でもちょっとヘリの人たちに挨拶してくるよ」

山本『それは構わんが、あまり接近するな』

JK「分かってまーす」


ギュゥゥウウン…


JK(高度を落として……)

JK(集団の近くへ……)

JK(ヘリの最高速度って、あんなもんなのかぁ)

JK(これでもあの人たち、超急いでるんだろうけど)

JK(あたしが高い高度を普通に飛ぶ速さは、ジェット旅客機と同じくらいって博士が言ってた)

JK(それに比べるとすごく遅く感じる)


ギュゥゥウウン…


JK(速度をヘリの集団と同じにして……)

JK(並んで飛ぶ……)

JK(あ。先頭の1機、パイロットの人が気付いてくれたみたい)

JK(あたしへ手を振ってる)

JK「山本さん、ヘリの人があたしへ気付いてくれた」

山本『ああ。司令部にも今、お前を確認したと報告があった』

JK「あたしも手を振り返そう。おーい!」

山本『……』

JK「あっ、ほかのヘリもみんな手振ってる!」

山本『……』

JK「おーいおーい!」

山本『もういいだろう。その編隊から離れて速度を上げつつ、高高度へ戻れ』

JK「……あのさ、山本さん」

山本『何だ』

JK「高度下げたから、このままどっかへ降りてトイレ行っていい?」

山本『だから構わんと言っている。いつでも降りていいぞ』

JK「うん」

山本『もしかして今まで我慢していたのか? 下は海だ。前回のように何かへ気を取られると…』

JK「まだそんなにヤバくないから大丈夫だよ」

山本『今バリアを解除しちまったら、ほぼ確実にあの世行きだぞ』

JK「この前みたいなヘマはもう二度としないよ。もう懲り懲り」

山本『それに、ずっと我慢した挙句、戦闘の最中に漏らしちまったら一大事だ』

JK「ちょっと……何よそれ。それが女の子に対して言うこと?」

山本『俺は駆除作業についてあらゆる可能性を考慮しなければならんのだ』

JK「休憩を取ってもいいとか、少しは気遣ってくれるようになったのかな、って思ったのに」

山本『俺はいつでもお前に気を遣ってるぞ』

JK「女の子に向かって下ネタ喋ったくせに何言ってんのよ」

山本『ではトイレ休憩だ。通信を一旦終了する』

JK「うん」

山本『地上へ降りて少し休め』

JK「うん。また飛び始めたらすぐ連絡する」



ギュゥゥウウン…


JK(最短飛行ルートを少し外れて……)

JK(屋久島か種子島……)

JK(あそこだ。九州から少し離れたとこの、こっちが種子島、隣が屋久島……)

JK(種子島の端っこにある、あれって何だろ。すっごく大きい建物……)

JK(怪獣より大きい建物。その周りに鉄塔とか工場みたいな物も……)

JK(あ、思い出した。テレビで見たことある)

JK(あれって宇宙ロケットの発射基地だ)

JK(そっかぁ……これがあの有名な……)

JK(てゆーことはこの近くに、ここで働いてる人たちの住んでるとこがあるはず)

JK(そんで、そこにコンビニとかのお店もあるはず)

JK(でもあの基地の上を飛んだり、中に降りちゃうのは迷惑だよね)

JK(少し離れた場所……)

JK(あっ、すぐ見付かった。道路の脇にあるお店。大きい看板が立ってる)

JK(あれってコンビニだよね。あそこがいい。街の中じゃないから周りにあんまり人がいない)

JK(人が多い所へあたしがいきなり降りたら、みんなびっくりしちゃうからね)

JK(ずっと飛びっぱなしでちょっと疲れたかな……。久し振りの陸だ)

JK(お店の前にある、駐車場へ降りる……)


ストン


JK(見たことない種類のコンビニ。トイレ貸してくれるかな)テクテク


♪ピロピロピロン♪


JK(この入店音は普通だな)

店員「いらっしゃいませこんにちはー」

JK「すいませーん。トイレ貸してもらっていーですかー?」

店員「…!」

JK「?」

店員「……」ジー

JK「あのぅすいません、トイレ…」

店員「あっ、ああ! そうですね!」

JK「?」

店員「トイレですね! トイレはですね…!」

店長「トイレはあっちの奥、あのドアです」

JK「ありがとうございまーす」タタッ


バタン


店員「……店長」

店長「ああ」

店員「あの子…」

店長「ああ。君もそう思うか」

店員「はい。俺、テレビで見たことあります」

店長「俺も見たことがある。間違いないな」

店員「はい。本物ですよ……」

店長「本物だな」

店員「どうしてここへ…」

店長「今、沖縄で起きてるあれだろう」

店員「あっそうか…」

店長「あそこへ行く途中だろうな」

店員「“えっちゃん”……」

店長「ああ。“えっちゃん”だ」

JK(“流す”ボタン…)ポチ


ジャアアア…


JK(手を洗って…)ジャー

JK(ここのトイレ、綺麗だな)

JK(コンビニのトイレって、お店によって綺麗さに当たり外れがあるんだよね)

JK(綺麗なとこで良かった)

JK(あたし、トイレ貸してもらったんだから何か買った方がいーのかな)

JK(トイレを出て、品物を見る…)

店長・店員「「……」」ジー

JK(なんか店員さんたちが、あたしのことガン見してる……)

JK(500ミリペットボトルの水でも買っとこう。多分これが一番安いし)

JK「どうもありがとうございましたー。そんで、これください」

店長「あの、失礼ですけど…」

JK「はい?」

店長「“えっちゃん”さんですか?」

JK(あ。バレてたのか……)

JK(って、当然だよね。あたしのことを知らない人の方が少ないもん。認めるしかないかぁ)

JK「はい、そーです」

店員「やっぱり……」

JK「でも“さん”は付けなくていーです。“えっちゃん”だけで」

店長「じゃあ……えっちゃん、これから沖縄へ行くんですか?」

JK(これも認めるしかないよね。誰がどう考えてもそーなんだし)

JK「はい」

店長「この島へは、どうして?」

JK「トイレ借りに来ただけです。あと、ちょっと休もうかなって」

店員「あっ、それならこの店の事務室を使ってください! 椅子ありますから!」

JK「は…」

店長「君、それは君が言うことじゃないぞ。でもえっちゃん、そうしてください」

店員「ここで座って休んでいってください!」

JK(どーしよーかな……)

JK(少しくらいならいーか……)

JK(それに、ちょっと座りたかったんだよね)

JK「いーんですか?」

店長「もちろんです。おい君、えっちゃんへお茶を出してくれ」

店員「はいッ。すぐに!」

JK「あのー、この水…」

店長「ああ、それはよかったら持って行ってください」

JK「え? でも…」

店長「差し上げますから。私はここの店長です。さ、こっちへどうぞ」

JK「ありがとうございます」

店長「そこの椅子を使ってください」

JK「はい」

店員「どうぞ、お茶です!」

JK「気遣ってもらってすいません」

店長「君は店へ戻ってくれ」

店員「えっ、そんな…」

店長「店に誰もいなくなっちまうだろう」

店員「はあ。分かりました……」

店長「テレビをつけましょうか。沖縄のことをやってます」ポチ

アナウンサー『……落ち着いて行動してください。冷静に避難してください』

店長「ほとんどのチャンネルが普段の番組をやめて、ずっとこれをやってます」

アナウンサー『怪獣が現れたため、自衛隊による強制避難計画が発動されています』

アナウンサー『自衛隊、警察、消防、自治体の避難指示に従ってください』

アナウンサー『強制避難計画が発動されている地域を、地図で示しています』

アナウンサー『この地図で、黄色になっている所が強制避難計画の発動されている地域です』

JK(那覇……沖縄で一番大きい街だっけ。その周りが真っ黄色……)

アナウンサー『怪獣が現れた時の強制避難計画では、避難の指示は強制的なものです』

アナウンサー『発動された地域にいる全員が避難しなければなりません』

アナウンサー『避難指示に従わなかった場合、罰せられることがあります』

アナウンサー『怪獣を見ようとするなど、避難しないでいることは絶対にやめてください』

アナウンサー『強制避難計画が発動されているのはこの地図で、黄色で示されている地域です』

アナウンサー『発動された地域の皆さん、落ち着いて行動してください。冷静に避難してください』

アナウンサー『怪獣が現れたため、自衛隊による強制避難計画が発動されています』

アナウンサー『今までの経過と現在の状況、今後の予想です』

アナウンサー『怪獣は午後1時15分頃、沖縄県に現れました』

アナウンサー『現れた場所は沖縄本島から西、約100キロにある久米島の近海です』

JK(あ、やっぱ“くめじま”って読むのか。あたしの読み方が合ってた)

アナウンサー『直後に久米島へ上陸し、港湾施設などを破壊しました』

アナウンサー『午後1時30分頃に再び海へ入り、その後はずっと海の中にいる模様です』

アナウンサー『久米島の被害について、詳しいことはまだ分かっていません』

アナウンサー『久米島町役場や警察、消防が被害状況を調査中です』

アナウンサー『怪獣の現在の居場所を、自衛隊が海の上から捜索しています』

アナウンサー『自衛隊によりますと怪獣は時々、水面に頭を出しながら移動しているとのことです』

アナウンサー『自衛隊は、その移動進路から予想される今後の上陸地点について…』

アナウンサー『沖縄本島南部へ上陸する可能性が非常に高い、としています』

アナウンサー『今映っているのは怪獣の映像です』

アナウンサー『久米島の地元のかたが撮影した、上陸した時の怪獣の映像です』

JK(えっ!? 何これ…!?)

JK(蛇…すっごくデカい蛇)

JK(それがコブラみたいに頭を持ち上げてる)

JK(頭を持ち上げてこっち向いてる)

JK(その頭……頭が…)

JK(頭が、二つある!?)

アナウンサー『この映像を撮影したのは久米島で民宿を経営している山川ツヨシさん』

アナウンサー『その山川さんと電話がつながっています』

アナウンサー『山川さん、大変な時に恐れ入ります』

地元民『はい、どうも。大丈夫です』

アナウンサー『怪獣が現れた時、山川さんは何をしていらっしゃいましたか』

地元民『私はですね、昼休みが終わって午後の仕事を始めようとしてました』

アナウンサー『はい』

地元民『お客さんが泊まった部屋の掃除や後片付けをしようとしてたんです』

アナウンサー『はい』

地元民『そしたら外できゃーとかわーっていう声が聞こえまして』

地元民『それが普通の声じゃない。あんな声初めて聞きました』

地元民『人が本当にびっくりして、本当に怖がってる声。 あんな声初めて聞きました』

地元民『そういう声がたくさん聞こえる。一体何だ、と思って外へ出ました』

地元民『そしたら怪獣が見えたんです』

地元民『そりゃあもうたまげましたよ。今まで生きてきて、こんなにたまげたことはない』

地元民『この世の物とは思えませんでした。頭が二つある大きい蛇なんて』

地元民『それがこっちを向いてる。そりゃあもう恐ろしかったですよ』

地元民『あんなに恐ろしい物は見たことがない。恐ろしさで膝とか体がガクガク震えましてね』

地元民『逃げようかとも思いました。だけど自分の民宿があるし』

地元民『別にそんな物、怪獣から守れるはずないんですけど。簡単に壊されちゃうでしょうから』

地元民『とにかくそんなわけで、怖くて震えながらその場にいたんです』

地元民『そのうち、まだ怪獣が遠くにいるってことに気付いて、少し冷静になりましてね』

地元民『携帯を取りに家の中へ戻りました』

地元民『そうして携帯で動画を撮ったんです』

JK(……)

JK(行かなくちゃ)

JK(あたし、行かなくちゃ)

JK「ありがとうございました」

店長「え? もういいんですか?」

JK「はい。もう行かないと」

店長「そのペットボトル、袋に入れますか?」

JK「大丈夫です。カバンに入れていきます」ゴソ

店員「あれっ? もう行っちゃうんですか!?」

JK「はい。お茶、ごちそうさまでした」

店員「えーと……それじゃ、あの…!」

JK「はい?」

店員「サイン! サインもらえませんか!?」

JK(……)

JK「ごめんなさい。あたし別に、アイドルとかスポーツ選手とかじゃないですから」

店員「あ……そうですか……」

JK「サインや写真は全部断ってるんです。ごめんなさい」

店長「えっちゃんは普通の女子高生だぞ、君」

店員「うーん……残念ですね」

店長「自衛隊の仕事をしてるのが違うだけだ」

店員「それなら……あ、握手! 握手してください!」スッ

JK(……そのくらいならいーか)

JK「分かりました」ギュッ

店員「や、やった…! “えっちゃん”に握手してもらった!!」

店長「私もお願いします」スッ

JK「はい」ギュッ

店員「何だ、店長だって握手を頼むじゃないですか」

店長「当たり前だろう、君」

JK「それじゃどうもお世話になりました」テクテク

店長・店員「「……」」テクテク

JK「あのー、二人とも…」

店員「何ですか?」

JK「どうして駐車場まで付いて来るんですか?」

店員「あ、いえ、見送ろうと思って」

店長「迷惑でしょうか」

JK「あたし、ここから飛びます。危ないですから離れてください」

店員「えっ? 飛ぶ…!?」

店長「分かりました。君、離れよう」

店員「は、はい」

JK「いろいろありがとうございました」

店長「気を付けて行ってください。頑張ってください」


バシュッ


店員「うわっ!?」

店長「……もう見えなくなった」

店員「何ですか!? 本当に飛んだんですか!?」

店長「そうだ。すごい勢いで飛び上がった」

店員「空を飛ぶ、って…本当だったんだ……」

店長「そうだな。テレビや雑誌で知ってたが、本当だったんだな」

店員「行っちゃったんですね、あの子……」

店長「空を飛んで、あっという間に見えなくなっちまったよ」

店員「……」

店長「……さて、仕事に戻るか」

店員「……」

店長「どうした、君」

店員「あの子の、手…」

店長「……」

店員「普通の、女の子の手でしたね……」

店長「……そうだったな」

店員「俺…」

店長「何だ?」

店員「高校の時に付き合ってた彼女を、思い出しました……」

店長「……」

店員「ちょうど、あの子くらいの背の高さで…」

店長「……」

店員「手も、あの子くらいの大きさで…」

店長「あの子の手、小さい手だったな」

店員「はい……付き合ってた彼女も、小さい、可愛い手で……」

店長「……」

店員「俺は……俺たちは……何やってるんですかね……」

店長「……」

店員「あんな子を、怪獣なんかと戦わせて……あんな小さい、可愛い手の子を……」

店長「……そうだな。俺たち大人は一体、何をしてるんだろうな」

店員「あんな子を戦わせて、守ってもらって……」

店長「だがな、君」

店員「何ですか?」

店長「誰にでも、できることとできないことがある」

店員「……」

店長「あの子は、怪獣と戦ってこの国のみんなを守ることができる」

店員「……」

店長「だがあの子にだって、できないことがたくさんあるだろう」

店員「俺たち、大人も…」

店長「ああ。誰にでもそれぞれできることがある。同時に、できないこともある」

店員「俺たちは、自分にできることをやればいいんですね」

店長「そうだ。あの子は自分にできることをやっている。だから俺たちもそうしようじゃないか」

店員「はい」

店長「一人ひとりがそれぞれ、自分のできることをやる。そうして世の中は回ってるんだ」

店員「そうですね」

店長「じゃあ仕事に戻ろう」

店員「はい」

店長「ところで、君」

店員「何ですか?」

店長「仕事中、ちゃんと手を洗うんだぞ?」

店員「え? どういうことですか?」

店長「あの“えっちゃん”に握手してもらった手を洗うなんてできない、そんなこと考えるなよ?」

店員「……」

店長「中華まんや揚げ物とか、ホットスナックの注文を受けたらちゃんと手を洗うんだぞ?」

店員「……」

店長「ちゃんとマニュアルどおりにやってくれよ?」

店員「……店長」

店長「何だ?」

店員「店長はどうなんですか?」

店長「……」

店員「店長がホットスナックの注文受けた時はどうするんですか?」

店長「……」

店員「店長、どうして黙っちゃうんですか?」

店長「……俺は……」

店員「何ですか?」

店長「……分かった。洗うよ、君」

店員「手を洗うなんてできない、そんなこと考えてたのって店長じゃないですか」



ギュゥゥウウン…


JK「こちら司令直属特任隊員、小野寺悦子。特駆隊司令部どうぞ」

オペレーターA『こちら自衛隊、特定特殊生物駆除部隊司令部。小野寺特任隊員の音声通信を受信』

オペレーターB・C『『小野寺特任隊員の音声通信受信を確認』』

オペレーターA『確立回線の復帰作業を開始。小野寺特任3佐、そのままお待ちください』

JK「了解」

オペレーターB『各通信関連システム稼働状況及び送受信状況は共に良好。復帰作業完了』

オペレーターC『バックアップ回線に問題無し』

オペレーターA『小野寺3佐、確立回線の復帰を確認しました』

JK「田所博士いますか?」

田所『田所だ』

JK「博士、何ですかあれ!? 頭が二つもありますよ!? どうなってるんですかあれ!?」

田所『落ち着きたまえ悦子君。どこかで怪獣の写真か映像でも見たのかね』

JK「種子島のコンビニでトイレ貸してもらって、お店の人がテレビ見せてくれたんです」

田所『小休止を取ったらしいな。山本司令から聞いとる』

JK「そしたらテレビに、久米島の人が撮ったっていう動画が映ったんです」

田所『なるほど、それなら話が早い。テレビの報道で事態がおおむね分かったろう』

JK「はい。今までのこととか予想上陸地点とか」

田所『悦子君』

JK「はい」

田所『落ち着いたかね』

JK「はい……」

田所『早く状況を把握したい気持ちは分かるが、焦ってはいかん。急いては事を仕損じるからの』

JK「ごめんなさい」

田所『では、今回の目標について説明しよう』

田所『今回現れた怪獣は爬虫類の蛇に大変よく似た形状をしとる。全長、約80メートル』

田所『その行動も蛇と同様で、例えば移動方法は基本的に地面などの上を這うやり方だ』

田所『水中での遊泳もできる。現在、目標が海の中にいることから明らかだの』

田所『だが長時間潜るのはできないらしい。時折、浮き上がって頭を水面上へ出しとる』

田所『これは息継ぎのための行動と考えられる。肺呼吸をしとるので空気が必要なのだ』

田所『我々はこの行動を観察することで、海中における目標の現在地や移動進路を推定しとる』

JK「博士、頭は?」

田所『まあ待ちたまえ、もう少し辛抱して聞いてほしい。作戦上、今話しとることも重要だぞ』

JK「分かりました。すいませんでした」

田所『怪獣は、頭部を持ち上げるという動作も可能だ』

田所『このことも蛇と同様。コブラという種類がこれをするのは広く知られとるな』

田所『目標は体の前半部を立ち上がらせて、頭部を地上約40メートルまで持ち上げることができる』

田所『そして、今回の怪獣が持つ非常に印象的な特徴、君が知りたがっとる頭部の数についてだが』

JK「はい」

田所『悦子君はおそらく驚くだろうな』

JK「何ですか?」

田所『頭が二つある蛇というのは、実はそれほど珍しくないのだ』

JK「ええっ!?」

山本『やはり驚いたな、えっちゃん』

JK「だって、そんな……じゃあ世の中には、そんな蛇がたくさんいるってことですか?」

田所『“珍しくない”という言い方は漠然としていて、あまり科学的とはいえんがの』

田所『世界の各地で目撃例や捕獲例があるのだ。飼育された例まであるらしい』

田所『後で、インターネットで画像検索をしてみなさい』

山本『実は俺も驚いた。検索すると、二つの頭を持っている蛇の画像が少なからず出てくるのだ』

田所『検索のキーワードは“双頭の蛇”あたりがよかろう』

JK「そーとー?」

山本『双は“一卵性双生児”や“天下無双”の双で、二つという意味だ。二つの頭ということだ』

JK「双頭……双頭の蛇……何だかヤバそう」

山本『ヤバい?』

JK「だって何だか強そうじゃん。双頭だから頭が2倍いいとか…」

田所『ところが、それはまるで逆なのだ』

JK「へ? そーなんですか?」

田所『まず爬虫類の蛇の場合における、双頭であることの特徴を言おう』

田所『複数の頭部を持っとるメリットは、ほぼ皆無といっていい』

田所『頭が二つあるということは、脳も二つあるということだ』

田所『そしてこれらの脳が常に同じ働きをしたり、相互に協力するわけではない』

田所『それぞれの頭が異なる意思を持って、別々に行動しようとすることがしばしば見られるのだ』

田所『例えば一方が餌を見付けて食べたがっとるのに、もう一方は逆の向きへ進もうとする』

田所『その結果、どちらの動作もできないということになったりする』

田所『そして、そのような混乱が生じて動きが鈍くなった場合、外敵からの攻撃を受けやすくなる』

田所『双頭の蛇は複数の脳を持ってしまったために、長生きできないことが多いのだよ』

JK「ふーん……」

田所『次に、今回の目標の場合における双頭であることの特徴だ』

田所『これも蛇と同様だ。二つの頭がそれぞれ脳を持っとると思われ…』

田所『その結果生じる、動作の混乱が起こっとるようなのだ』

田所『悦子君』

JK「はい」

田所『今回の目標の大きさ、動く力、そして動作の素早さは、今までの全ての怪獣を上回っとる』

JK「……」

田所『だが、それにもかかわらずこの怪獣の移動速度はそれほど速くない』

田所『目標の予想上陸地点は沖縄本島の南部で、その身体能力からすれば既に到達しているはず』

田所『だが目標はいまだ海中におる。なぜか』

田所『双頭であることによって生じる動作の混乱を、海の中で起こしとると考えられるのだ』

田所『それに、久米島へ上陸したのもこうした混乱の結果と推察される』

田所『この怪獣が目指していたのは最初から沖縄本島だったのかもしれない』

田所『だが動作の混乱によって、間違ってほかの島へ行ってしまった』

田所『久米島で陸上にいた時間は僅か15分程度。すぐ海へ戻った』

田所『そこが本来の目的地ではないことに気付き、再び移動を始めたのかもしれない』

JK「なーんだ。じゃあちっともヤバくなんかないですね」

田所『どうしてかね』

JK「だって、二つの頭がお互いに勝手なこと考えて、動きがモタモタしてるってことでしょ?」

田所『……』

JK「攻撃しやすい、狙いやすいんじゃないですか?」

田所『わしは先ほど、この目標の素早さはこれまでの全ての怪獣を上回っとる、と言った』

JK「どういうことですか?」

田所『動作の混乱を起こしていても、素早さには変わりがないということだ』

JK「……」

田所『目標は久米島への上陸時に港で暴れまわり、その際に混乱しとるような挙動も見せた』

田所『だがそれもまた素早いのだ。かなりの高速でのたくり、短時間で港湾施設を破壊し尽くした』

田所『混乱した状態でも動きが素早いとは、どういうことを意味すると思う?』

田所『それは、次の行動を予測するのが難しく、狙いを定めにくいということだ』

田所『行動の予測が困難なため、我々は効率的な攻撃を行ないにくいということなのだ』

JK「分かりました……」

田所『以上が目標の特徴だ。悦子君、この怪獣を駆除するにはどうすればいいと思うかね』

JK「駆除の方法……いつもどおり、確実に一発で仕留められる所を狙うとか?」

田所『では、それはどこだと思うかね』

JK「やっぱそれって頭かなぁ。今までのほとんどのヤツはそこを潰せば駆除できたし」

田所『ふむ。頭かね』

JK「頭じゃなかったら体ですか? 胴体の、心臓みたいな物のある所?」

田所『……』

JK「でも長ーい蛇の形してるから何だか場所が分かりにくそう。狙いにくそう」

田所『うむ。攻撃時に狙いやすいのはやはり頭部だの』

JK「はい、今度もそーすれば確実に一発で……あれ? 一発?」

田所『……』

JK「あっそうか! 一発じゃ駄目だ!」

田所『気付いたかね、悦子君』

JK「この目標は双頭だった! あたし、両方の頭を攻撃しなくちゃ駄目なんだ!」

田所『そのとおりだ』

JK「ひぇ~……超メンドいよぉ……」

田所『これもまた、今回の駆除作業において我々が立ち向かわなくてはならない困難だ』

田所『片方の頭部を破壊しても、もう片方が生きとる』

田所『頭を二つとも確実に滅潰させる必要があるのだ』

田所『さらに、片方の脳を破壊した後、もう一つの困難が発生するおそれもある』

田所『それは、動作の混乱がなくなるという可能性だ』

田所『この混乱は脳が複数あるために起こる。ではそれが一つだけとなった場合、どうなるか』

田所『混乱が解消され、目標の動きが俊敏さを増すという可能性が考えられるのだ』

JK「……強い……」

田所『うむ』

JK「……強い、ですね……今度の目標……」

田所『うむ、君の言うとおりだ。手強いことは間違いない』

山本『えっちゃん、俺たちもできる限りのことをする。最善を尽くしてほしい』

JK「山本さん」

山本『何だ』

JK「アメリカ軍って何してんの?」

山本『……』

JK「沖縄って、アメリカ軍の基地がいっぱいあるんでしょ?」

山本『……』

JK「この国で一番いっぱい、アメリカ軍の基地があるんでしょ?」

山本『“一番いっぱい”とはどういう意味だ。数か面積か、あるいは施設の種類別…」

JK「そんな難しいことなんて知らないよ。とにかく、基地がいっぱいあるんでしょ?」

JK「そんで、アメリカ軍ってこの国を助けてくれる約束をしてるんでしょ?」

山本『国家間に結ばれた条約のことだな』

JK「そう、それ。そーゆー約束してるはずなんでしょ?」

山本『……』

JK「あたし、前からずっと不思議だった。アメリカ軍は何してるんだろ、って」

山本『……』

JK「あたしたちがやってることへアメリカ軍が手伝ってくれたのって、今まで一度もなかった」

JK「この国がこんな目に遭ってるのに、一度も、何もしてくれなかった」

JK「でも今回は、アメリカ軍がいっぱいいる沖縄へ怪獣が現れた」

JK「今度こそあたしたちを助けてくれるんじゃない?」

JK「だってもしそーしなかったら、自分たちのいる基地へ怪獣が来ちゃうかもしれないんだし」

JK「大体、そーしなかったら約束違反じゃない?」

山本『えっちゃん』

JK「うん」

山本『結論から言う』

JK「うん、何?」

山本『米軍は何もしない。何もしてくれない』

JK「はぁ? どういうこと?」

山本『米軍の態度はずっと同じだ』

山本『我が国への怪獣の襲来について、米軍の姿勢は一貫している』

山本『それは、駆除作業への参加について極めて消極的ということだ』

山本『我々とともに怪獣を攻撃することはもちろん、それ以外の活動にもほとんど関わってこない』

JK「そんな……どうして? ひどくない?」

山本『……』

JK「だって、この国とアメリカは約束してるんでしょ?」

山本『ああ。そういう条約は確かに存在する』

山本『その条約は、我が国が攻撃を受けた場合、両国が共同して対処するという内容だ』

山本『しかし米軍は怪獣駆除へほとんど協力してこなかった。これからもしないだろう』

山本『俺はその理由について詳しく知らない』

山本『自衛隊の上層部や政府は、米軍がこの態度を採り続ける事情を把握していると思う』

山本『だが俺はただの前線指揮官だ。詳しい理由など知らない』

山本『俺が知っているのは、今から言うことだけだ』

山本『米国は怪獣の襲来を攻撃とみなしていない』

JK「え?」

山本『米国は、怪獣が我が国へやって来るのは攻撃ではない、と言っているのだ』

JK「ちょっと、何それ……。マヂ意味分かんない」

山本『……』

JK「そんなこと本気で言ってんの? これが攻撃じゃなかったら一体何だっていうの?」

山本『地震や台風などの災害と同じ、そう考えているのだ』

JK「はぁ!?」

山本『さっきも言ったが、我が国と米国は条約を結んでいる』

山本『我が国が攻撃を受けた場合、両国が共同して対処するという条約だ』

山本『では、攻撃とは何か』

山本『攻撃とは、敵意を持って相手を攻めることだ』

山本『それなら怪獣の襲来についてはどうか。怪獣に敵意はあるのか』

山本『怪獣の意思を確認するのは不可能だ。だから敵意の存在は不明だ』

山本『したがってこれを攻撃とはみなせない、と米国は言っているのだ』

山本『では、怪獣に意思など存在しないとした場合はどうか』

山本『怪獣は何らかの組織や集団、あるいは個人の意思により操られているという可能性だ』

山本『敵意を持っているのはその組織などで、怪獣は攻撃の手段にすぎないという可能性だ』

山本『だがこれについてはそもそも、その組織などの存在を特定できない』

山本『この可能性については検証が不可能だ』

山本『いずれにしても、怪獣の襲来について敵意を確認できない』

山本『したがってこの事態を攻撃とみなすことはできない。これが米国の姿勢なのだ』

山本『だから怪獣の襲来は、攻撃ではなく災害』

山本『地震の発生や台風の襲来と同じ、災害だとしているのだ』

山本『攻撃ではないのだから、条約が発動する事態ではない』

山本『したがって、両国が共同して対処する必要はない。手助けの必要はない』

山本『だから条約違反、約束違反ではないという立場なのだ』

JK「何なのよ、それ……」

山本『……』

JK「超ムカツく……! マヂ腹立つ!」

JK「そんなの…そんなのって、何だかんだ理由つけてるだけじゃん!」

JK「駆除を手伝いたくないから、何だかんだテキトーな理由つけてるだけじゃん!」

JK「どうせ、怪獣なんてわけ分かんない物の相手したくない、って考えてんでしょ!?」

JK「そんな物と関わり合いになんかなりたくない、って考えてんでしょ!?」

JK「それをテキトーな理由でごまかしてるだけじゃん! 屁理屈でごまかしてるだけじゃん!」

JK「地震や台風と同じって何だよ!」

JK「地震や台風が人とか建物を踏み潰したり、戦闘機を撃墜したりすんのかよ!」

JK「地震や台風が目からビーム出して、街を焼け野原にしたりすんのかよ!」

JK「フザケんな!!」

山本『えっちゃん』

JK「……」

山本『落ち着け』

JK「……」

山本『お前が憤慨するのは理解できる。落ち着け』

JK「……うん……」

山本『……』

JK「……ごめんなさい……」

山本『……』

JK「山本さんに向かってガチギレしちゃった……。ごめんなさい」

山本『いや、いい。気にするな』

JK「……あたし、やるよ」

山本『……』

JK「やるよ。やってみせるよ。あたし、絶対に今回の怪獣を倒してみせる」

山本『……』

JK「アメリカ軍の手助けなんか要らない。あたしたち自衛隊だけで目標を駆除してみせる」

山本『そうだな』

JK「今回の怪獣は手強い? 上等だよ。望むところだよ」

山本『ほう』

JK「全然オッケーだよ。来るなら来いよ」

山本『威勢がいいな、えっちゃん』

JK「あたし、やるよ。やったろうじゃんって感じだよ」

JK「あたし、種子島へ降りた時、コンビニのテレビで怪獣が上陸した時の動画を見た」

JK「テレビで、その動画を撮った人のインタビューを聞いた。怪獣を初めて生で見た人だった」

JK「おじさんなんだけど、すごく怖がってた。たまげたとか恐ろしいとか、何回も言ってた」

JK「周りの人もガチで驚いて、ガチで怖がってたって言ってた」

JK「あたし、そーゆー話聞くの初めてだった」

JK「自分の住むとこへ怪獣が来ちゃった人の話を、初めて聞いた」

JK「あたし、話を聞いて、行かなくちゃって思った」

JK「あたしが行かなかったら、もっとひどいことになるかもしれない」

JK「あたしが行って、怪獣を倒さなくちゃ」

JK「そーして、みんなを守らなくちゃって思った」

JK「あたし今、最高にテンション上がってるよ」

JK「アドレナリン出まくってるよ。来るなら来い、やったろうじゃんって気分だよ」

JK「アメリカの手助けなんか要らない」

JK「そんなもの無しで、今回の手強い怪獣を駆除してみせる」

山本『そうだな。俺たちだけで我が国を守ろう』

JK「うん」

山本『仕事の意欲に燃えてるな、えっちゃん』

JK「うん。だから、山本さん」

山本『何だ』

JK「あたし今、マッハ出していい?」

山本『何だと? いきなり何を言い出すんだ』

JK「ねぇ、マッハ出していい?」

山本『お前、俺がこれまで何度も指示してきたことを忘れたのか?』

JK「もちろん憶えてるよ」

山本『じゃあその指示を守れ。音速を突破する速さでの飛行は絶対に許可できん』

JK「だってマッハ出せばすぐ沖縄へ着くよ。あと20分くらいしか掛からないんじゃない?」

山本『巡航速度のままで行け。何度も同じことを言わせるな』

JK「今のあたし、テンション最高でアドレナリン出まくり状態」

JK「だからマッハ出して飛びたい気分なんだよ」

JK「ギュオオオオオオン!って全開バリバリでカッ飛ばせば、多分あと20分くらい…」

JK「ううん、15分。違う、もっと短くできる。10分」

JK「10分くらいで沖縄まで行ってみせるよ」

山本『しつこいな。許可できないと言ってるだろう』

JK「だって早く着いた方がいーじゃん。怪獣がいつ上陸するか分かんないんだし」

山本『目標攻撃時ですら音速以下を厳守だ。お前、本当に分かってるのか?』

JK「分かってるよ。“ソニックブーム”だっけ? それが起きるから駄目だって」

田所『ソニックブームもそうだが、飛翔体が音速を超えた際に発生する衝撃波がより問題なのだよ』

JK「あ、ソニックブームは衝撃波じゃなくて音でしたっけ」

田所『うむ。衝撃波によって引き起こされる大音響だ』

JK「でもマッハ出しちゃいけない理由って、その衝撃波で陸地に被害が出るからなんでしょ?」

山本『そうだ。怪獣の被害から国民を守る我々が、被害を与える側になることは絶対に許されん』

JK「それなら今は大丈夫じゃん。下は全部海なんだから」

山本『お前は海の上に何も存在していないと断言できるのか?』

JK「どういう意味?」

山本『洋上を船が航行している可能性を考えろ。小さい漁船でもいたらどうするんだ』

JK「……」

山本『お前が今いる高度から、そうした物の存在を目視で確認するのはほぼ不可能なんだぞ?』

JK「そっか……」

山本『えっちゃん。駆除の意欲に燃えているのは結構だが、冷静になれ』

JK「……」

山本『何より、戦闘の前に疲れちまうのを避けろ』

JK「うん……そーだね」

山本『もう一度言う。いつ、いかなる場合でも、超音速での飛行は許可できん』

JK「了解」

山本『よく憶えておけ』

JK「あーあ。残念……」

山本『そんなことより、お前の行き先を伝える。通信機の地図データを見ろ』

JK「うん」

山本『目標の予想上陸地点は沖縄本島南部。だから那覇を目指せ』

JK「分かった」

山本『那覇空港へ降りろ。そこに自衛隊の基地がある』

JK「那覇空港……これか。海のすぐそば。でも空港に基地? 自衛隊の飛行場は?」

山本『その空港は官民共用なのだ。民間機も自衛隊機もそこを使っている』

JK「あ…滑走路の隣に基地って書いてある。ふーん、こんな所もあるのかぁ」

山本『今回の作戦に特駆隊の航空機は参加しない。沖縄まで行くのに時間が掛かり過ぎるからだ』

山本『那覇基地の部隊に駆除作業へ協力してもらう』

山本『えっちゃんはそこの隊員たちとともに作戦行動をすることになる』

山本『那覇にはさまざまな部隊があるが、お前はそれらと個別に連絡を取り合う必要はない』

山本『お前へ対応するのは、航空自衛隊の具志堅という名前の1尉だ』

山本『お前は具志堅1尉とだけ話をすればいい』

JK「具志堅……ホントにあるんだね、そーゆー名前」

山本『沖縄ではそれほど珍しくない苗字のようだぞ』

JK「ちょっちゅね~」

山本『よく知ってるな、そんな言葉』

JK「普通に使うよ」

山本『ちなみに、その言葉の意味を知ってるか?』

JK「意味? そんなの分かり切ってるじゃん。“ちょっとね”でしょ」

山本『やはり誤解していたな。それは間違いだ。“そうですね”が正しい』

JK「えっ本当!? 違うの!? マヂで!?」

山本『本当だ。どうしてこの意味かというと……いや、そんなことはどうでもいい』

山本『具志堅が現場へ展開する戦闘機などへ命令し、お前との連携を図ることになっている』

山本『無論、この特駆隊司令部からも俺や田所博士がお前に指示を出す』

山本『その指示に従い、さらに、具志堅と連絡を取り合って作業を行なえ』

山本『指示内容が、司令部の俺たちと具志堅とで食い違うこともあるかもしれない』

山本『その場合はお前が最適な選択肢を判断しろ。状況に最もふさわしいやり方を選べ』

JK「うん、分かった」

オペレーターA『小野寺特任3佐。司令部からの操作で3佐の通信機に新たな設定が追加されました』

オペレーターA『那覇基地にいる具志堅1尉との直通回線が設定されています。御確認ください』

JK「どれどれ……あ、了解でーす」

山本『那覇空港への到着前に具志堅と話をして、着陸場所などの詳細を聞いておけ』

JK「はーい」


ギュゥゥウウン…


三村「山本さん」

山本「何だ」

三村「俺、ヒヤヒヤしましたよ」

山本「何のことだ」

三村「在日米軍が怪獣駆除へ協力しない理由」

山本「……」

三村「山本さんが小野寺へ、その理由を説明した時」

山本「……」

三村「本当の理由を喋っちまうんじゃねえかって、俺、ヒヤヒヤしましたよ」

山本「“本当の”とは何だ。俺は嘘などついていない。言い直せ」

三村「あー失礼しました。正確には“もう一つの”理由すね」

田所「山本司令」

山本「はい」

田所「山本司令からその説明を受けた時の悦子君は、なかなか鋭い洞察を見せたのう」

山本「ええ、自分もそう思います」

山本「あいつはこう言っていました」

山本「米国は、怪獣などというわけの分からない物の相手をしたくないと考えている、と」

山本「そんな物と関わり合いになどなりたくないと考えている、と」

山本「まさにあいつの言うとおりです。これが米国の本音です」

田所「怪獣……Monstersという得体の知れない物のために、自国民の血を流すことはできん」

三村「それが自国を守る目的ならまだしも、他国を助けるためなんてあり得ない」

山本「だから、もっともらしい理由をつけて駆除作業への協力を拒んでいるのだ」

三村「そしてあの国には“もう一つの”理由があります」

田所「うむ。米国が関わり合いになりたくないものが、Monstersのほかにもう一つある」

三村「それはThe Psychic Girl ETSUKO ONODERA, Code Name: ECCHAN」

山本「超能力少女、小野寺悦子。コード名“えっちゃん”だ」

三村「在日米軍は当初、俺たちの活動へ全く参加しないわけじゃなかったすね」

山本「後方支援で僅かながら協力があった」

三村「でもある時を境に、完全に手を引いちまった」

田所「悦子君が参戦した直後。その時を境に、だったの」

山本「はい。あいつが怪獣を攻撃している光景は米軍にとって衝撃的だったでしょう」

三村「俺たちだってビビりましたよ。この世にこれほど強力な兵器があるのか、って」

山本「えっちゃんは現時点で、核兵器を除けば地球上で最強だろう」

三村「あいつなら核攻撃にも耐えられるんじゃないすか。核兵器にも勝つんじゃないすか」

田所「米軍は、そうしたものと共同戦線を張ることはリスクが高過ぎると考えたのだね」

三村「あいつの攻撃に万が一巻き込まれちまったら、どんな目に遭うか分からないすからねえ」

山本「これが、米軍が駆除作業へ協力しないもう一つの理由だ」

三村「俺、山本さんがあいつへそれを喋っちまうんじゃねえかってヒヤヒヤしたんすよ」

山本「そんなことをするはずがないだろう。あり得ん」

三村「もし小野寺がこの理由を知ったらどういうを反応しますかね」

山本「あり得ない仮定に基づいた推測に価値はない。そんなことを口にするとはお前らしくないな」

田所「しかし、山本司令」

山本「何でしょうか」

田所「今回の駆除作業においては、在日米軍の動きについて留意すべきではないかと思うがの」

山本「おっしゃるとおりです。米軍は極めて非協力的という姿勢で一貫していますが…」

田所「今回に限って、一切関わらないという態度を変えるかもしれん」

三村「これは十分あり得る仮定すね。目の前で駆除が繰り広げられるんすから」

山本「米国は先に言った本音の裏に、更にもう一つの本音を持っているに違いない」

田所「悦子君と怪獣についてデータを集め、詳細に調査したいという本音だな」

三村「関わり合いになりたくないと考えていても、決して無関心ではいられないでしょうからね」

田所「一方は地球最強兵器、もう一方は通常兵器が効かない未確認生物」

山本「両者の能力を分析してそれを自分たちで再現し、軍事利用する」

田所「米国は当然、そうした目論見を持っとるだろう」

三村「これから両者の決戦を間近で観察できる。データ収集や調査には又とない機会すね」

田所「山本司令、在日米軍はどのようなことをしてくると思うかね」

山本「現時点では不明であるとしか言いようがありません」

田所「……」

山本「しかし自分は先ほど、えっちゃんへこう言いました」

田所「……」

山本「“俺たちもできる限りのことをする。最善を尽くしてほしい”と」

田所「うむ」

山本「自分は指揮官として、この約束を果たすのみです」

今日は以上です。

この章は長くなってしまったので、今日は前半部分を投下しました。
後半は明日、投下する予定です。



ギュゥゥウウン…


JK(やっと沖縄本島まで来た……)

JK(高度を…)

JK(少しずつ…)

JK(下げていく……)

JK(暖かい……空気が暖かい。バリアの中にいても分かる……)


ギュゥゥウウン…


JK(あ……!)

JK(わぁー……!)

JK(ホントだ……!)

JK(ホントに、海が綺麗だ……!)

JK(あの先生が言ったとおりだ……!)

JK(海が青い……! 砂浜が白い……!)

JK(どうしてこんなに綺麗なんだろ……どうしてこんな色なんだろ)

JK(あたしが行ったことのある海と全然違う)

JK(あたしが行ったのは、水の色が濁って緑色っぽい所ばっかり)

JK(砂浜の色は、黒っぽい所ばっかり)

JK(沖縄はどうしてこんなに違うんだろ。どうしてこんなに綺麗なんだろ)

JK(陸地を囲んでるみたいな、浅い海の所が珊瑚礁か……)

JK(これが、珊瑚礁……)

JK「♪すはーだにーきらきらさんーごしょおー♪」

JK「♪ふたりっきりでなーがされてもいいのー♪」

JK「♪あなたがすき♪」

JK(……)

JK(なんか違うなぁ)

JK(なんかこの歌じゃないなぁ)

JK(あたしの、今のテンション……)

JK(今のあたしのテンションにふさわしいのは、この歌じゃない)

JK(今のあたしにふさわしいのは……)

JK「♪かいじゅーたいじにしめいをかけてー♪」

JK「♪もーえーるまーちにあーとわーずーかー♪」

JK(うん、やっぱこれだな)

JK(今のあたしにふさわしいのは、この歌)

JK(こっちの方がしっくりくる)

JK(まだ街が燃えてるかどうか分かんないけどね)

JK(……って、こんなことしてる場合じゃない)

JK(具志堅っていう人に連絡しないと)

JK(具志堅さん……)

JK(どんな人だろ)

JK(ちょっちゅね~)

JK(って、もうそれはいいや)

JK(通信、那覇基地の具志堅1尉直通、っと…)

JK「こちら特駆隊、司令直属特任隊員の小野寺悦子でーす。那覇基地の具志堅さんですかー?」

具志堅『こちら航空自衛隊那覇基地の具志堅です。小野寺特任3佐、はじめまして』

JK「えっ!?」

具志堅『は? どうしました? 小野寺3佐』

JK「あっ。は、はじめまして……」

具志堅『自分が具志堅です。今回の作戦ではよろしくお願いします』

JJK「は、はい。あたしこそ、よろしく、お、お願い…」

具志堅『3佐、どうしました?』

JK「あ、いえ、あの…」

具志堅『何ですか?』

JK「ご、ごめんなさい……」

具志堅『……』

JK「あたし、具志堅さんは、てっきり男の人だと……」

具志堅『……』

JK「それで、びっくりしちゃって……」

具志堅『そういうことですか。自分が航空自衛隊那覇基地の具志堅夏美です』

JK「なつみ、さん……」

具志堅『夏は季節の夏、美は美空ひばりの美です』

JK「具志堅、夏美さん……」

具志堅『3佐、なぜ自分を男だと思っていたんですか?』

JK「はい……だって、1尉で、すごく偉くて…」

具志堅『……』

JK「戦闘機に命令を出す人って、司令の山本さんが言ってたから…」

具志堅『失礼ですが3佐が今言ったことはいろいろ変ですね』

JK「……」

具志堅『まず、自分は偉くなどありません。階級はまだ1尉です』

JK「……」

具志堅『それを言ったら小野寺3佐の方が自分より上の階級で、偉いじゃないですか』

JK「あたしの階級なんて、ただの飾りだし……」

具志堅『次に、女性なのに1尉という幹部自衛官で、命令を出す立場にあるということ』

JK「……」

具志堅『これも特におかしくありません。女性の幹部自衛官はたくさんいます』

JK「……」

具志堅『特駆隊の野崎亨子2尉もそうでしょう?』

JK「えっ? りょーこさんを知って…」

具志堅『自分は野崎2尉と同期です』

JK「ええっ!? そーなんですか!?」

具志堅『自分が同期で最も親しいのは野崎2尉です。自分を“なっちゃん”と呼んでくれています』

JK「そーだったんですか」

具志堅『とにかく、自分のような立場の女性幹部自衛官は珍しくありません』

JK「それなら、もっとすごいなぁ……」

具志堅『もっとすごい、とは?』

JK「だってりょーこさんと同い年ってことですよね。まだそんなに若いのに…」

具志堅『若いでしょうか。自分も野崎2尉もとっくにオバサンですよ』

JK「りょーこさんの年なんて知らないけど……」

具志堅『それに、命令を出す立場といっても、自分がここの最高責任者であるはずがありません』

JK「あ、それはそーかも」

具志堅『自分は作戦指揮官です。その上に基地の責任者がいて、自分はその命令に従っています』

JK「はい」

具志堅『では3佐、作戦について話をさせてください』

具志堅『目標はいまだ海中にいます。しかし陸地への襲来は間もなくと予想しています』

具志堅『予想上陸地点はこの那覇空港の滑走路部分である可能性が極めて高いと考えられます』

具志堅『3佐の現在地は把握しています。今の速度を維持すれば約10分後に那覇空港へ到着します』

具志堅『現在の予想では、目標は3佐がこちらへ到着した直後に上陸すると思われます』

具志堅『特駆隊司令の山本1佐と協議して作戦内容を決定しました。説明します』

JK「はい」

具志堅『まず自分たち、那覇基地の部隊が地対空ミサイルや航空機などで目標を要撃します』

JK「はい」

具志堅『しかし今回の怪獣も、通常兵器はほぼ通用しないでしょう』

JK「……」

具志堅『それが判明した時点で自分たちは該地点から一旦離れます。そして3佐の出番です』

JK「はい」

具志堅『その後、自分たちは3佐の指示により行動します。手伝えることがあれば言ってください』

JK「分かりました」

具志堅『以上です。ほかに何か知っておきたいことはありますか?』

JK「えーと……別にありません」

具志堅『3佐、航空自衛隊司令部の建物を地図データで確認できますか?』

JK「建物の場所……はい、大丈夫です」

具志堅『その建物の前に降りてください。自分が出迎えます。そして荷物を預かります』

JK「え? でも具志堅さん、忙しーんじゃないですか? 指揮官なんだから」

具志堅『これから共に作戦を行なう上官を、現地の指揮官が自ら出迎えるのは礼儀です』

JK「……」

具志堅『では基地でお目にかかりましょう』



ギュゥゥウウン…


JK(具志堅夏美さん……何だかすごい人だなぁ)

JK(喋ることに全然、無駄がない。余計なことを全然、話さない)

JK(仕事ができる女ってあーゆー人のことをいうんだね)

JK(頭が切れまくってて、何だかもう怖いくらい)

JK(あたし、ヘマしたら怒られちゃうかも。“何してるんですか!”って怒鳴られちゃうかも)

JK(一番仲良しなのがりょーこさんって言ってたけど…)

JK(何だかその二人ってキャラが正反対みたいな気がする)

JK(りょーこさんはおっとり系、具志堅さんはサバサバ系。全然逆だけど…)

JK(性格が違った方が、キャラがカブらなくて逆に仲良くなったりするのかな)

JK(あ…)

JK(あれだ……)

JK(あそこだ……空港のそばの、海の上)

JK(ヘリが何機も飛んでる。戦闘機が旋回してる)

JK(あの下に怪獣がいるんだ……)

JK(よーし……)

JK(いよいよ来たぞ)

JK(やっと着いたぞ。これからが本番だ……)

JK(それにしてもすごい空港だな、ここ)

JK(ホントにすぐそばが海)

JK(滑走路の隣が、見渡す限り真っ青な海……)

JK(遠くには、島……)

JK(すっごく眺めがいい)

JK(でも…)

JK(これから、この空港は…)

JK(あたしたち自衛隊と怪獣の、決戦の場所になる)

JK(この決戦は、空港の中だけで終わらせる)

JK(この空港の中だけで決着をつける)

JK(そうすれば街を守れる。空港の外の、人と街を守れる)

JK(あたしたちは怪獣を、絶対に街の方へ行かせない)

JK(あたしたちは絶対にここで、目標を駆除する)



ストン


具志堅「お疲れ様です、小野寺特任3佐!」ビシッ

JK「はじめまして具志堅さん。特駆隊司令直属特任隊員、小野寺悦子です」

具志堅「3佐の可愛いお姿は作戦資料で見ていますけど、御本人はもっと可愛らしいですね」

JK「そんな…」

具志堅「学校カバンを預かります」

JK「はい、お願いします」

具志堅「ここまで所要2時間ほど。疲れたでしょう?」

JK「少しだけ……」

具志堅「しばらく休んでくださいと言いたいところですけど、そうもしていられません」

JK「はい」

具志堅「まだ目標は上陸していませんが、間もなくです。トイレなどは?」

JK「大丈夫です。途中で一回地上に降りて、行ってきました」

具志堅「自分たちは何のお構いもできません。こうしてここに、椅子を置いておくしかできません」

JK「あたしはこれに腰掛けて待機してればいーんですね」

具志堅「ここは予想上陸地点の滑走路を見るのに最適な場所なんです」

JK「はい」

具志堅「建物の前のこんな所に一人で座っているなんて、変ですけど」

JK「あたし、座りたかったんです。ありがとうございます」

具志堅「戦況を見て、状況を把握してください。では自分は指揮所へ戻ります」タタッ

JK「あ、具志堅さん」

具志堅「何でしょう」

JK「カバンの中から水のペットボトルを出したいんですけど」

具志堅「ああはい、どうぞ」

JK(コンビニの店長さんからもらった、水…)ゴソ

具志堅「ではよろしくお願いします」タタタッ

JK「はい。よろしくお願いします」

JK「…」ゴクゴク

JK「ふー」

JK(水がおいしい)

JK(それにしてもホントに変だな、こんなの)

JK(建物の前の広い所に、椅子が一つだけポツンと置いてある)

JK(女子高生がそこに座って、黙ってペットボトルの水飲んでる)

JK(意味の分かんない難しい映画やお芝居に、こーゆーのがあった気がする)

JK(具志堅さんって、すっごい美人だな……)

JK(背が高くて、目が大きくて……)

JK(色黒なんだけど、スタイルが超いいから逆にそれが似合っててカッコいい)

JK(胸が、すごく大きい……)

JK(なんかもう“南の島のセクシーダイナマイト!”って感じ)

JK(いいなぁ……)

JK(……)

JK(駄目駄目。こんな時に何考えてんだろ、あたし)

JK(あたし……)

JK(あたしだって……これから成長するかもしれないんだし)

JK(うん、そーだよ。これからなんだよ、あたしは)

JK(これから……)

JK(これからホントに、成長すんのかな……?)

JK(うー、駄目駄目。いかんいかん。こんな時に何考えてんだろ、あたし)

JK(もう、夕方になっちゃう……)

JK(太陽が沈む前に駆除を終わらせなくちゃ)

JK(暗くなったら多分、あたしたちが不利)

JK(明るいうちに怪獣を倒さなくちゃ)

JK「…」ゴクゴク

JK「ふー」

JK(ホントに水がおいしいな……)

JK(水をもらっといて良かった……)

JK(たまたま見付けて入っただけのお店だったけど……コンビニの店長さん、店員さん……)

JK(ありがとうございます……ちょっと疲れてたけど、このお水で元気を取り戻した気がします)

山本『えっちゃん』

JK「あっ。何? 山本さん」

山本『那覇へ到着したのは把握してる。お疲れさんだったな』

JK「うん」

山本『だがお前自身もこちらへ報告しろ』

JK「あ、そーだね。ごめん」

山本『来るぞ。おそらく3分、いや2分以内だ』

JK「分かった」

JK(よし、戦闘準備だ)

JK(あ……お水)

JK(この飲みかけのお水どうしよう。これ持って飛べないよね)

JK(……うん、いいこと思い付いた)

JK(この椅子の上に置いておこうっと)

JK(そんで、駆除が成功したらここへ戻って来ようっと)

JK(そんで、このお水で成功を祝って乾杯だ)

オペレーターA『目標が空港滑走路へ接近』

オペレーターB『陸地までの距離、100メートル、80メートル、50、30、20…』

オペレーターC『滑走路へ上陸!』


ザバァァアアアアアッ


JK(来た。あれか……テレビで見たのと同じ)

JK(本当に頭が二つある。本当に双頭だ……)

JK(その頭を持ち上げてる。体を立ち上がらせてる)

JK(でも何、あの動き…!?)


シャアアアアアアアアアアッ


JK(すごい速さで体をくねらせてる! あんなにデカいくせに動きが速い!)

具志堅『高射隊、目標を迎撃!』


シュバッ シュバッ シュバシュバッ


JK(高射隊…地対空ミサイルの部隊)

JK(ミサイルが幾つも目標へ飛んで行く…)

JK(ああっ!? でも駄目だ! 動きが速くて躱されちゃう!)

JK(全然目標へ当たらない!)


シュバッ シュバシュバッ シュバッ


シャアアアアアアアアアアッ


JK(駄目だ! 全部当たらない!)

JK(目標が滑走路の上をどんどん進んで行っちゃう!)

具志堅『高射隊、迎撃を継続しろ!』

高射隊『はッ。しかし現在の目標の位置では、空港ビルに着弾するおそれが…!』

具志堅『構うな! 人的被害は出ない! 撃ち続けろ!』

JK(具志堅さん以外の声もあたしに聞こえる)

JK(きっと具志堅さんが回線を開きっ放しにして、戦況がよく分かるようにしてくれてるんだ)


シュバッ シュバッ シュバシュバッ


シャアアアアアアアアアアッ


ドガッ ドガアアアン ドガアアン


JK(ミサイルが空港の建物にばっかり当たっちゃてる) 

JK(博士の言ったとおりだ。動きが今までの怪獣の中で一番素早い)

具志堅『高射隊撃ち方やめ。航空隊、迎撃開始』

航空隊『了解』


キィィィイイイイイイイイイイン…


JK(次は戦闘機。高速で目標に近付ける)

JK(これならロケット弾が当たる)

JK(4機が編隊を組んで急接近…!)


ドドオオオオオオオオン


JK「やった!」

JK(何発も目標へ命中!)

JK(でも…)

JK(この怪獣には、通常兵器は…?)

三村「やっぱり今回も駄目すね」

田所「うむ」

三村「じゃあいつものパターンで、切り札を出しますか」

山本「ああ。世界最強のお姫様、その御登場だ」

田所「しかし今回の相手は手強い。うまくやってくれるといいがの」

山本「具志堅1尉、特駆隊の山本だ」

具志堅『具志堅です』

山本「そちらの全員を下げろ。小野寺3佐を出撃させる」

具志堅『了解。那覇基地の総員は作戦待機位置へ移動せよ』

山本「えっちゃん」

JK『うん、いつでも行けるよ』

JK(よーし、あたしの出番だ)

JK(ふん。何が“双頭の蛇”だよ)

JK(どうして頭が二つもあるのか知らないけど)

JK(数が多けりゃいーってもんじゃねーんだよ)

JK(今からあたしが、その頭を一つずつ潰していってやる)

具志堅『那覇基地の総員、作戦待機位置への移動を完了。小野寺3佐、お願いします』

JK「はい、具志堅さん」

山本『えっちゃん、飛べ』

JK「了解!」


バシュッ


ギュゥゥウウン…



シャアアアアアアアアアアッ


JK(こいつ、速い……)

JK(遠くからよりも近くで見る方が、もっと速く感じる)

JK(すごい速さでクネクネ動いてる)

JK(滑走路の上をすごい勢いで這いずり回ってる)

JK(こんなのが街へ行ったら、建物とかがどんどんなぎ倒されちゃう)

JK(……で、すごい速さで動いてるってゆーことは…)

JK(あたしは…)

JK(それ以上の速さで動けばいいんだよ!)


ギュゥゥゥウウウウウウン…


JK「たああああああっ!」


バリッ


オペレーターA『小野寺特任隊員が目標へ接触』

オペレーターB『接触部位、頭部より約50メートルの胴体』

オペレーターC『接触箇所の外皮が破損。体液の滲出を確認』

JK(よし、いける!)

JK(あたしの攻撃ならこいつへ通用する!)

JK(あたしならこいつを倒せる!)

JK(確かに速くて手強いけど、やってみせる!)



ギュゥゥゥゥウウウウン…


JK「たああああああっ!」


バリッ


ギュゥゥゥゥウウウウン…


JK「てやあああああっ!」


バリッ


JK(でも…!)

JK(やっぱ動きが素早くて…!)

JK(なかなか頭を狙えない…!)

JK(攻撃できるのは胴体ばっか…!)

JK(あたしができるのは、胴体へ少し当たってまた飛び上がる…)

JK(その繰り返しだけ…!)

JK(どうしたらいい!?)

JK(どうしたら……!?)

JK「田所博士!?」

田所『田所だ』

JK「博士! なかなかうまくいかないんですけど!」

田所『うむ』

JK「どうしたらいいですか!?」

田所『悦子君、落ち着いて今の攻撃を続けるのだ』

田所『わしが説明したことを思い出すのだ』

田所『この目標は双頭であるがゆえに、いつか必ず動作の混乱を起こす』

田所『無論、混乱を起こしても動きは素早いだろう』

田所『だが今よりも狙いやすくなる可能性は確実にある』

田所『その機会を待つのだ。そしてその時を逃してはならん』

JK「分かりました……!」


ギュゥゥゥゥウウウウン…


JK「たああああああっ!」


バリッ


ギュゥゥゥゥウウウウン…


JK「てやあああああっ!」


バリッ


JK(でも…!)

JK(やっぱ…切りがないよぉ…!)

JK(あれ…?)

JK(あっ…!?)

JK(また立ち上がった!)

JK(でも、動きが変…!?)

JK(何やってるのあれ!?)

オペレーターA「目標が体の前半部を上方へ」

オペレーターB「左右の頭部がそれぞれ異なる向きを指向」

オペレーターC「移動速度が低下。両頭部はほぼ停止」

田所「これが動作の混乱だ」

山本「二つの頭が別々の方向へ行こうとしている…?」

田所「そうだ。だが混乱を起こしていても動きは素早いはず」

山本「えっちゃん、頭部が停止してる今のうちだ!」

JK『分かった!』

山本「距離が近い。だが一度下がって勢いをつけていると目標が動き出してしまう。やれるか!?」

JK『やるっきゃないじゃん!!』


ギュォォオオオオオオッ


JK『たぁぁあああああああああ!!』


グバァァアアアッ


オペレーターA「小野寺特任隊員が目標の左頭部を直撃」

オペレーターB「左頭部、滅潰。欠損」

山本「よし、まず一つ」

オペレーターC「欠損断面より体液が噴出」


ブシュウウウウッ


JK『ひゃー、キモーい! こっちにそのドロドロをかけるな!』


ブシュウウウウ


JK『ドロドロを出しながら動くな! こっちへ飛んで来るんだよ!』

山本「おい、体液を避けて踊ってる場合じゃないぞ」

JK『だってドロドロが!』

山本「今さらそんなことしても意味ないだろう。お前が潰した部分から出てるんじゃないか」

田所「君のバリアは攻撃時に一度、その体液まみれになっとる。すぐに落ちてしまうがの」

JK『嫌なものは嫌です! あーばっちい! えんがちょ!』

山本「攻撃の態勢を立て直せ。次は右の頭部だ」

JK『分かってる!』


シャァァアアアアアアアアアアアアッ


JK『えっ!?』

田所「いかん。やはり、だ」

JK『何これ!? 速い!』

山本「脳を一つ失ったから…」

田所「動作の混乱が解消されたのだ」

JK『今までより動きが超速くなった!』


シャァァアアアアアアアアアアアアッ


山本「目標が移動するぞ」

JK(あっ…!?)

JK(マズい!)

JK(そっちへ行かせちゃ駄目!)

JK(そっちは空港の外、街の方…!)

JK(こいつを街へ行かせちゃ駄目!)


ギュゥゥゥゥウウウウン…


JK「うらあああああ! そっちへ行くなぁ!」


バリッ


シャァァアアアアアアアアアアアアッ


JK「止まれぇ! たああああああっ!」


バリッ


シャァァアアアアアアアアアアアアッ


JK「止まれって言ってんだよぉ! てやあああああっ!」


バリッ


シャァァアアアアアアアアアアアアッ


田所「膠着状態だな」

山本「はい。目標は攻撃を受けて一瞬怯んだ様子を見せますが、すぐ活動を再開」

田所「悦子君が攻めあぐねとる。打開策を見付けねばならん」

山本「自分も今それを考えています」

田所「現地の部隊を使えんかね」

山本「あの両者のスピードについていけないでしょう。それに、博士」

田所「何かね」

山本「もう一つ問題が起こってしまったようです」

田所「もう一つの問題? 何かね」

JK『具志堅さん聞いてますか!?』

具志堅『はい、3佐』

JK『こっちの基地の人は全員ここにいないはずですよね!?』

具志堅『はい、ほかの場所にいます。いつでも3佐を手伝えるよう待機しています』

JK『それなら何ですかこのヘリ!?』

具志堅『ヘリ? あっ…!?』

JK『さっきから近くにいてすっごい邪魔なんですけど!』

田所「む…」

三村「いよいよお出ましですかあ」

田所「うむ……来てしまったな」

山本「はい。在日米軍です」

三村「米軍の偵察用小型ヘリすね。小野寺と怪獣へ異常なくらい接近しようとしてる」

山本「具志堅、識別できるか?」

具志堅『沖縄米軍基地所属の観測ヘリコプターです。間違いありません』

山本「小野寺3佐へ近付くのは極めて危険だ。それを即座にやめさせる方法は何だ?」

具志堅『所属基地へ緊急連絡を行ない、退避の指示を出させます』

山本「直ちに取り掛かれ。こちらは別の手を打つ」

具志堅『了解』

山本「特駆隊情報部。山本だ」

情報部『こちら情報部』

山本「あの米軍ヘリを今すぐ追い払いたい。お前たちが採れる手段を言え」

情報部『ヘリを実際に運用しているのは操縦手ですね。では操縦手との会話を可能にします』

山本「そうすれば我々が直接パイロットへ、そこからどけと言うことができるな」

情報部『あのヘリが持つ外部との通信手段へ介入し、意思伝達を強制的に可能にします』

山本「大至急やれ。多少手荒なことをしても構わん。俺が責任を持つ」

情報部『在日米軍の無線通信網へ侵入したり、システムをクラッキングしたりしても?』

山本「方法は任せる。小野寺3佐とあのヘリとの物理的接触を何としても回避するのだ」

情報部『了解』

三村「かぶりつきで御観戦かあ。米軍もずいぶん大胆なことをやってくれるじゃねえか」

田所「至近距離で観察しデータを集めとるのだろう」

三村「小野寺に接触したらあんな小型ヘリは一瞬で空中分解、搭乗員はバラバラ死体になります」

田所「パイロットはよほど腕に自信があると見えるな」

山本「三村、お前は今の事態を統合幕僚監部へ報告しろ」

三村「統幕へ? 意図は何すか」

山本「この問題を可能な限り大きく騒ぎ立てる。防衛大臣まで話を上げて国家間の懸案にしてやる」

三村「そんな必要がありますか?」

山本「どういう意味だ」

三村「今、小野寺をあのヘリに接触させちまえばいいじゃないすか」

山本「何ていうことを言うんだお前は」

三村「小野寺とあのヘリが接触したら、米軍の損害は機体と搭載してる観測機器」

三村「そしておそらく4名以内の搭乗員。これらが全て崩壊する。搭乗員は肉片になって散乱」

三村「小野寺へ関わればこのくらいの損害が一瞬で生じる。むしろこれは程度が軽い方」

三村「接触事故を起こして、米軍へこのことを思い知らせてやった方が良くないすか」

三村「二度とこんな事案が発生しないようにするためには、俺たちが動くより簡単すよ」

山本「冗談はそのくらいにしろ。米軍をそうした目に遭わせてやりたいのは俺も同じだ」

三村「でしょうね」

山本「だがえっちゃんを加害者的な立場に置いてしまうことは決してあってはならん」

三村「ええ。今の小野寺はあくまで、怪獣の駆除を邪魔されてる被害者ですけど…」

山本「事故が起きたらそれは逆になる。死傷事故を発生させた人間凶器ということになってしまう」

三村「それじゃ米軍の非を責められない。了解です、山本さんのやり方でいきましょう」

山本「早くしろ。作戦が終わり次第、俺も話に加わる」

三村「了解」

山本『えっちゃん、そのヘリに決して近寄るな』

JK「何言ってんの!? 今すぐ山本さんか具志堅さんが命令してどっか行ってもらってよ!」

山本『ヘリを避けつつ攻撃を行なえ』

JK「そんなの無理に決まってんでしょ! こんな近くにいるんだもん!」

山本『今そのヘリを退避させる手を打っている。もう少し待て』

JK「どういうこと!? あっ、街の方へ行くなぁ! てやああああああ!」


バリッ


シャァァアアアアアアアアアアアアッ


JK「あたしとヘリがぶつかっちゃったらマズいってのは分かってるよ!」

JK「そーなったらヘリはバラバラになっちゃう! 乗ってる人は絶対に助からない!」

JK「でもそんなのってこのヘリが悪いんじゃん! こんなとこにいるんだから!」

JK「ほら、もっと近寄ってきてる! マヂで邪魔なんだよ!」

JK「これを気にしながらやってるから目標への攻撃がうまくいかないんだよ!」

山本『とにかくもう少し待て。そちらにいる具志堅や特駆隊の情報部が手を回している』

JK「だからどういうこと!? これって自衛隊のヘリじゃないの!?」

山本『……』

JK「山本さんが命令すればいいだけでしょ!? あっこらぁ! そっち行くなって言ってんだよ!」


バリッ


シャァァアアアアアアアアアアアアッ


JK「そっか…! 分かったよ!」

山本『……』

JK「山本さん、あたし分かったよ!」

山本『……』

JK「こいつの正体が分かったよ!」

山本『……そうか』

JK「こいつ、自衛隊じゃないんだね!? あたしたちの仲間じゃないんだね!?」

山本『……そのヘリは、沖縄米軍基地所属の観測ヘリだ』

JK「どういうことよ! アメリカ軍は何もしてくれないはずじゃなかったの!?」

山本『……』

JK「怪獣が来るのは地震や台風と同じじゃなかったの!?」

山本『……』

JK「だからアメリカ軍はあたしたちを助けてなんかくれない、そーゆーはずじゃなかったの!?」

山本『……そうだ』

JK「なのにどうして今さらノコノコ出てくんのよ! あっ待てぇ! うらあああああ!」


バリッ


シャァァアアアアアアアアアアアアッ


JK「しかもこいつ、あたしたちを助けるどころか邪魔してんじゃん!」

JK「一体どういうことなのよ!」

JK「何にもしないって態度のはずなのに! しかもテキトーな理屈までつけて!」

JK「なのに今さらこんなとこ来て!」

JK「しかもあたしの邪魔して!」

JK「超ムカツく! マヂ腹立つ!」

JK「何考えてんのよ! いい加減にしろよ!」

JK「フザケんな!!」

山本『とにかく待ってくれ、えっちゃん。もう少しの辛抱だ』

JK(……分かったよ)

JK(山本さんたちじゃどうにもならないんだね)

JK(今すぐなんて、どうにもならないんだね)

JK(あたしは今すぐ、どうにかしてほしいのに)


バリッ


シャァァアアアアアアアアアアアアッ


JK(今すぐどうにかしないと、怪獣が街の方へ行っちゃうかもしれないのに)

JK(山本さんたち、どうにかしようとしてくれてるみたいだけど)

JK(今すぐなんて、どうにもならないんだね)


バリッ


シャァァアアアアアアアアアアアアッ


JK(……分かったよ)

JK(それならあたしが自分でどうにかするしかない)

JK(ほかの人じゃどうにもならないんだから)

JK(それなら自分でどうにかするしかない)

JK(だから、こーゆーことしてもいーよね)

JK(被害が出たってあたしのせいじゃない)

JK(どうにもできなかった大人たちの責任)

JK(今こんなとこにいるあのヘリの責任)

JK(行くぞ……!)


ギュゥゥゥゥゥウウウウウン…


JK(最高速度で…)

JK(あのヘリの…)

JK(すぐそばを…)

JK(通過してやる……!)

JK(邪魔者のアメリカ軍め!)

JK(マッハで追っ払ってやる!!)

JK「だぁぁぁああああああああっ!!」


ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ


ドオオオオオォォォオオオオオォォォオオオオオォォォオオオオオン


山本「あっ。あいつ…!」

田所「遂に、やりおった…!」

オペレーターA「小野寺特任隊員の最高速度、時速約1500キロメートルを計測」

オペレーターB「音速を突破」

オペレーターC「衝撃波及びソニックブームの発生を観測」

オペレーターA「那覇基地、こちら特駆隊司令部。衝撃波による地上の被害状況を報告願います」

山本「具志堅、米軍ヘリは?」

具志堅『無事です。小野寺3佐の突進を直前で回避しています』

山本「衝撃波の影響を受けているか?」

具志堅『そうした模様はありません。今、所属基地の方向へ飛び去りました』

三村「小野寺の奴、わざと外したか。まあ脅して追っ払うにはいいやり方だったかねえ」

山本「音速を超えるなとあれほど言ったのに、あのバカ……おい、えっちゃん!」

田所「待ちたまえ!」

山本「はっ?」

田所「山本司令、待ってほしい」

山本「何でしょうか、博士」

田所「目標に変化が見られるのだ。これは…」

オペレーターA「目標が静止。各部位が動作を完全に停止」

オペレーターB「目標の生命反応は一定の値を継続」

オペレーターC「その他の生体活動についても検知された値は一定、変化無し」

山本「博士、どういうことでしょう」

田所「目標は明らかに生きとる。だがあれほど活発だった動作が全て止まってしまった」

山本「では…」

田所「山本司令。少しの間、わしが悦子君へ指示を出してもいいかね」

山本「ええ、もちろん。お願いします」

田所「悦子君」

JK『何ですか? 山本さん、やっぱ怒ってます?』

田所「悦子君、先ほどのをもう一度やってみてくれ」

JK『はぁ?』

田所「先ほどと同じ速度を出すのだ。いや、それ以上の速さでも構わんぞ」

JK『えぇ?』

田所「米軍のヘリは君のスピードに恐れをなして逃げ去った。もう邪魔する者はおらん」

JK『はい』

田所「もう一度同じことをやるのだ。思い切りやりたまえ」

JK『いーんですか?』

田所「その際、目標のすぐ上を通過してくれ。接触しなくてもいい、確実にすぐ上を通過するのだ」

JK『よく分かんないけど……了解です』

田所「いいかね。確実に真上を、至近距離で通過するのだ」

JK『はい、行きます…!』


ギュゥゥゥゥゥウウウウウン…


オペレーターB「目標が微動。動作の再開を確認」

田所「悦子君、急げ! 目標が動いてしまう!」

JK『だぁぁぁああああああああっ!!』


ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ


ドオオオオオォォォオオオオオォォォオオオオオォォォオオオオオン


オペレーターA「小野寺特任隊員の最高速度、時速約1600キロメートルを計測」

オペレーターB「再び音速を突破」

オペレーターC「衝撃波及びソニックブームの発生を再度観測」

オペレーターA「那覇基地より、衝撃波で空港ビルの外壁ガラスが破損したとの報告が入りました」

田所「目標は?」

オペレーターA「再び静止。各部位が動作を完全に停止」

オペレーターB「目標の生命反応は依然として一定の値を継続」

オペレーターC「その他の生体活動についても同様。検知された値は一定、変化無し」

山本「博士、これは…」

田所「うむ。目標は衝撃波の影響を受けとるのだ」

田所「衝撃波により何らかのダメージを受け、行動不能になっとるのだ」

田所「いかなるメカニズムによってこうなるのか一切不明だ」

田所「だがこの目標については、衝撃波を与えることが有効な攻撃手段だと思われる」

JK『博士!』

田所「うむ。見たかね悦子君」

JK『あたしのやったことが効いてるんですね!?』

田所「君も何が起こっとるか分かったようだの」

JK『はい! あたしがマッハ出すとこの怪獣、弱って動けなくなっちゃうんですね!?』

田所「そのとおりだ。もう一度やってくれるかね」

JK『分かりました! 何回でも!』


ギュゥゥゥゥゥウウウウウン…


JK『だぁぁぁああああああああっ!!』


ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ


ドオオオオオォォォオオオオオォォォオオオオオォォォオオオオオン




ガシャン ガシャン ガシャーン 
ガラガラガラガラガラガラガラガラガラ
ガシャン ガシャン ガラガラガラガラ


三村「うひょー、ビルの外壁ガラスがバンバン割れていく。すげえ破壊力だ」

山本「構造部材の鉄骨が歪んじまってるな」

三村「超音速の飛翔体が直近を通過して、その衝撃波をモロに受けてるんすから。無理ないすね」

山本「俺たちも耳がおかしくなりそうだ」

三村「那覇基地の連中は恐怖すら感じてるんじゃないすか」

山本「具志堅。作戦上、この小野寺3佐の行動は必要だ。そちらの隊員たちに耐えてもらってくれ」

具志堅『了解しています。自分たちはいかなることでも3佐へ協力します』

田所「衝撃波の攻撃は目標へ確実に効いとる。動きを封じることができておる」

山本「じゃあえっちゃん、そろそろ仕上げだ」

JK『分かった。行くよ…!』


ギュゥゥウウン…


オペレーターA「目標が微動。動作の再開を確認」

オペレーターB「活動を開始。動作の速度が上昇」

田所「いかん。動き始めたぞ」

オペレーターC「目標が移動を開始。健在の右頭部は海岸を指向」

田所「悦子君の攻撃から逃げようとしとる。海へ戻るつもりだ」

山本「えっちゃん、急げ!」

JK「分かってる!」


ギュゥゥウウン…


山本『海へ入られたらまた一からやり直しだ。逃がすな!』

JK「分かってるよ! 今のこいつよりあたしの方が全然速い! やれるよ!」


ギュゥゥゥウウウウン…


JK(ずいぶん手こずらせてくれたじゃん、双頭の蛇)

JK(でも最後に勝つのはあたし)

JK(最後に勝つのは絶対あたしなんだよ)


ギュゥゥゥゥウウウウウウウウン…


JK(最後は必ずあたしが勝つ!)

JK(人を傷つけ、街を壊す怪獣。あたしはお前たちを絶対に駆除する!)

JK(最後に勝つのは絶対あたしなんだよ!)

JK(これで最後だ! 双頭の蛇!!)

JK「でやぁあああああああああああああ!!」


グバァァアアアッ



ギュゥゥウウン…


JK(……)

JK(終わった……)

JK(疲れた……)

JK(マッハ出すのって、疲れるんだなぁ……)

JK(やってる最中はテンション上がってて、そんなの感じないけど……)

JK(終わったら、一気に疲れが……)

JK(沖縄まで来る時にマッハ出さなくて良かった……)

JK(そんなことしたら、駆除作業の前に疲れちゃってた……)

JK(山本さんの言ったとおりだ……)

JK(……)

JK(たかしが、言ったこと……)

JK(今回の、怪獣……)

JK(今までより、強い…)

JK(今までとは、違う種類…)

JK(これは……予想が当たってたな……)

JK(……)

JK(さてと……)

JK(あの椅子のとこに帰るか……)

JK(あ……)

JK(椅子のとこに具志堅さんがいる)

JK(こっちに手を振ってる……)

JK(どうしてあたしがあそこへ戻るって分かったのかな)

JK(あ、そうか。お水……)

JK(飲みかけのお水が置いてあるから……)


ストン


具志堅「お疲れ様でした、小野寺特任3佐!」ビシッ

JK「はい。具志堅さんもお疲れ様でした」

具志堅「いえ。自分は疲れてなどいません」

JK「は…」

具志堅「なぜなら、自分は何もしていないからです」

JK「えっ。そんな…」

具志堅「いえ。自分たちは何もしていません」

具志堅「小野寺3佐の手伝いを、何もできませんでした」

具志堅「自分たちは3佐に対し、何の役にも立てませんでした」

具志堅「だから自分たちは、疲れてなどいません」

JK「そんな……そんなことありません」

JK「そんなことないです。具志堅さんたちがサポートしてくれたから、駆除がうまくいったんです」

具志堅「そう言ってもらってありがとうございます。では…」

JK「はい」

具志堅「我が国を守る任務へまた一緒に着ける機会があれば、その時こそ役に立とうと思います」

JK「はい。その時はまた、よろしくお願いします」

具志堅「こちらこそよろしくお願いします」

JK「あ。通信機に着信…」

具志堅「……」

JK「りょーこさんだ。具志堅さん、悪いですけどちょっと待っててもらっていーですか?」

具志堅「野崎2尉ですか。遠慮せずにどうぞ」

野崎『3佐、総務課の野崎です。お疲れ様でした』

JK「うん、ありがとー。でもりょーこさんがこのタイミングで連絡してくるのって珍しいね」

野崎『駆除作業終了の直後はいつも、司令が次の指示を出しますものね』

JK「山本さんは?」

野崎『ふふふ』

JK「どうしたの? 何笑ってんの?」

野崎『駆除が無事に終わった後は、やっぱりまず司令の声を聞きたいですか?』

JK「えっ? な、何言ってんのりょーこさん?」

野崎『いつもの“えっちゃん、よくやった”が聞けなくて寂しいんじゃないかな、と思って』

JK「なな、何言ってんの? そんなわけないじゃん///」

野崎『司令は今、三村副司令とともに統幕の人たちと話をしています』

JK「とーばく?」

具志堅「統合幕僚監部のことです」

JK「……よく分かんない」

野崎『あら? その場に誰かいてお話し中だったでしょうか』

JK「うん、那覇基地の具志堅さんがいるの」

野崎『なっちゃん、いえ、具志堅夏美1尉が? ちょうど良かった、3人で話しましょう』

JK「え? 3人でって、そんなことできんの?」

野崎『通信機をスピーカーモードに切り換えて、手に持ったままにしてください』

JK「あ、そーゆー機能があったね」

野崎『そちらの音声は内蔵マイクが拾い、私の声はスピーカーから聞けます』

JK「具志堅さん、りょーこさんが3人で話したいって言ってます」

具志堅「分かりました」

野崎『お疲れ様です、具志堅1尉』

具志堅「お疲れ様、野崎2尉。統幕がどうかしたのか? 今日の米軍のことか』

野崎『私は詳細を知りませんけど、おそらくそうでしょう』

具志堅「山本1佐は激怒しているだろうな」

野崎『聞いた話では、今回の問題について大臣クラスまで話を上げると息巻いているそうです』

具志堅「それで何の用だ、野崎2尉」

野崎『今、少し話をさせていただいても構わないでしょうか』

具志堅「ああ、もちろん」

JK「あのー……」

具志堅「どうしました?」

JK「二人とも何でそんな話し方なんですか?」

具志堅「話し方? 何か変でしょうか」

JK「だって二人って同期で、すごく仲良しなんでしょ? どうしてタメ口で話さないんですか?」

具志堅「3佐、こういう話し方をするのは当然です。今は仕事中ですから」

野崎『それに具志堅1尉は私より階級が上です。馴れ馴れしい言葉遣いなどできません』

JK「えー? そんなのいーじゃないですかぁ。あたし、二人がタメ口で喋ってるの見たいなぁ」

具志堅「失礼ですが3佐、変なものを見たがりますね」

JK「キャラが正反対の二人がタメ口で喋ってるの見たいなぁ」

具志堅「キャラが正反対?」

JK「はい。りょーこさんがおっとり系で、具志堅さんがサバサバ系」

野崎『おっとり系?』

具志堅「サバサバ系? 鯖がどうかしたでしょうか」

野崎『性格が全く違うといわれれば、まあそうかもしれませんね』

具志堅「野崎2尉、どうする? あたしは別に構わないが」

野崎『上官の御希望ですからそのとおりにしましょうか』

具志堅「了解。で、亨子は何の用なんだ?」

野崎『うん。なっちゃん、この後の3佐のことなんだけど』

JK「わぁ…! ホントに二人がタメ口で喋ってる!」

具志堅「何だかやりにくいですね……それで、この後のことって何だ?」

野崎『もう日没の時間だから、3佐に今からこっちまで戻って来てもらうのは大変だと思うの』

具志堅「そのとおりだな。分かった、この基地へ泊まってもらうよ」

野崎『そうしてくれる? 3佐はそれでいいですか?』

JK「うん。あたしも、今からそっち帰るのは割と本気でシンドいなぁって思ってた」

野崎『おうちには私から事情を説明しておきます。3佐も後で電話してください』

JK「はーい」

具志堅「3佐、疲れていませんか?」

JK「はい、マッハ出したからちょっと……。あれがこんなに疲れるなんて知らなかったし」

具志堅「それなら今夜ここへ泊まって、明日はこの沖縄でゆっくりしてください」

JK「えっ」

具志堅「せっかくこちらまで来たんですから。自分が案内します」

JK「いーんですか!? やったー! 沖縄観光だー!」

野崎『なっちゃん、構わないの?』

具志堅「ああ。あたしなら全く問題ない」

JK「あのー、それなら具志堅さん…」

具志堅「はい?」

JK「お願いがあるんですけど…」

具志堅「何でしょう。どこか行きたい所があるとか?」

JK「はい。海へ泳ぎに行きたいなぁ、って思って…」

具志堅「海ですか。いいですね、行きましょう」

JK「あの、それで…」

具志堅「はい」

JK「具志堅さんも一緒に泳いで、記念に写真撮ってもいーですか……?」

具志堅「一緒に泳いで記念写真? 自分は全く構いませんが、何か理由があるんですか?」

JK「はい。あたし、今回の緊急招集を受けたのが授業中で…」

具志堅「……」

JK「うっかり、怪獣の出現地点が沖縄って教室で言っちゃって…」

野崎『……』

JK「ごめんなさい。りょーこさん、具志堅さん……」

野崎『いえ、いいんですよ。つい口に出してしまったんでしょう? 今後気を付けてもらえれば』

具志堅「それでどうしました?」

JK「先生やクラスのみんなが、せっかく沖縄まで行くんだから泳いでこいって…」

具志堅「なるほど」

JK「その先生が言ったとおり海がすっごく綺麗だから、あたしも、泳ぎたいなぁって…」

具志堅「ええ。是非行きましょう」

JK「そしたら、男子たちから注文が付いて…」

具志堅「男子たちから注文?」

JK「海へは自衛隊の綺麗なおねーさんたちと行って、記念写真を撮って後で俺たちに見せろって…」

具志堅「綺麗なお姉さんって、自分なんかでいいんでしょうか」

JK「いえ、具志堅さんにお願いしたいんです」

具志堅「はあ」

JK「だって具志堅さんって超美人で、“セクシーダイナマイト!”って感じだから…」

具志堅「何を言っているのかよく分かりませんが、自分でいいのなら協力しますよ」

野崎『3佐。その写真はデータをコピーしたりせず、スマホの画面で見せるだけにしてくださいね?』

JK「うん、もちろん分かってる。あんなサルどもへ写真を渡すなんてできないよ」

具志堅「“サルども”?」

JK「そーです。あんな奴らに水着写真なんか渡したらロクなことに使いません」

具志堅「そんなふうに言いますが、3佐はその男子たちの注文を聞いてあげてますね」

JK「それは…」

具志堅「ええ」

JK「やっぱ同じクラスの友達ですから。あたしを応援してくてれる友達ですから」

JK「みんな、あたしが招集されて教室を出る時に“頑張れ”って言ってくれるんです」

JK「男子たちはたまにムカツくことを言ってくる時もありますけど、やっぱ友達ですから」

具志堅「いい友達ですね」

JK「はい」

具志堅「そういうことなら自分のほかに、もっと美人な隊員たちと一緒に行きましょう」

JK「えっ。いーんですか?」

具志堅「ええ。それに、3佐と自分が基地の外で行動を共にするんですから護衛が必要です」

JK「はあ」

具志堅「部下に適任者が数人います。可愛いくて、しかも格闘に優れた子たちです」

野崎『なっちゃん、自分の仕事はいいの?』

具志堅「全く問題ない。あたしたちはいかなることでも3佐へ協力する」

野崎『うん』

具志堅「3佐が人々と街を守ってくれた。強制避難計画は解除になっている」

具志堅「この沖縄はすぐ元どおりになる。明日からもう普段どおりだ」

具志堅「そうしてくれた3佐へ、いかなることでも協力する。これがあたしたちの役目だ」

JK「……」

具志堅「3佐? どうしました?」

JK「でも…」

具志堅「何ですか?」

JK「あたしの、せいで…」

具志堅「……」

JK「この空港、メチャメチャになっちゃった……」

具志堅「……」

JK「あたしが衝撃波出しまくったから、空港がメチャメチャになっちゃった……」

具志堅「そんなことは気にしないでください。逆に考えてください」

JK「逆…?」

具志堅「被害は空港施設だけで済んだ。ほかに被害はなかった」

具志堅「街に被害がなかった。人々の生活圏に被害がなかった」

具志堅「そして、人的被害が全くなかった」

具志堅「こう考えればいいんじゃないですか? 沖縄はすぐ元どおりになります」

JK「そーですね……」

具志堅「3佐。3佐のお陰で、沖縄は守られたんです」

JK「はい」

野崎『では3佐、明日はお休みですね。学校には私が連絡しておきます』

JK「うん、ありがとーりょーこさん」

野崎『でも明後日のお昼までに帰って来て、午後から授業に出てくださいね?』

JK「はーい」

野崎『じゃあなっちゃん、3佐をお願い』

具志堅「ああ、分かった」

野崎『3佐、失礼します』

JK「はーい。りょーこさんおやすみなさーい」



バラバラバラバラバラ…


JK「あ。あれ…」

具志堅「自衛隊のヘリですね。7機の編隊」

JK「特駆隊、前線本部の人たちです。やっと着いたんだ……」

具志堅「もう駆除作業は終わってしまいましたが」

JK「いえ、前線本部には駆除が終わった後もやることがあるんです」

具志堅「そうですか。どんな?」

JK「被害の様子を詳しく調べたり、怪獣の体を分析したり、その死体を処理したり…」

具志堅「なるほど」

JK「駆除作業が終わった後も、あの人たちってすごく忙しいんです」

具志堅「3佐」

JK「はい」

具志堅「3佐はまだ高校生なのに、すっかり特駆隊の一員ですね」

JK「はい、あたしは特駆隊の一員です。仲間です」

JK「あたしたちは仲間なんです」

JK「一人ひとりが信頼し合って、一人ひとりが確実に自分の仕事をする」

JK「あたしたちは、そーゆー仲間なんです」

具志堅「じゃあ3佐、行きましょうか」

JK「はい」

具志堅「建物の中で少し休んでもらって、その間に泊まる部屋を準備させます」

JK「ありがとうございます」

具志堅「お腹が空いたでしょう。食事もすぐ用意させます」

JK「わぁ、嬉しー! 今日はいっぱい飛んだからもうペコペコなんです!」

具志堅「この基地の料理が口に合うかどうか分かりませんが」

JK「あたし、何でも食べられます。お肉が特に好物ってだけで」

具志堅「好き嫌いがないのはいいことですね」

JK「あ……具志堅さん、ちょっと待ってください」

具志堅「え? はい」

JK(椅子の上に置いた、ペットボトルのお水……)

JK(コンビニの店長さん、店員さん……)

JK(あたし、やりましたよ。みんなを、街を、守りましたよ)

JK(小野寺悦子、今回も怪獣の駆除に成功!)

JK(乾杯!)

JK「…」ゴクゴク

JK「ふー」

JK「お待たせしました、具志堅さん」

具志堅「いえ。じゃあ行きましょうか」

JK「はーい♪」

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