鈴羽「そして『あたし』は生まれ変わる」 (101)


鈴羽「あたしは橋田鈴。今日で55歳になる」

ダル「えっと……僕の娘、ってことでFA?」

鈴羽「そうだよ、父さん」

まゆり「どうしてまゆしぃのこと、まゆねえさんって呼ぶのかなー」

鈴羽「まゆねえさんはまゆねえさんだよ」

紅莉栖「私はあなたの孫弟子、なんですか?」

鈴羽「物理学に関してはそうじゃないかな」

るか「うちの神社にPCの奉納を依頼された……」

鈴羽「一応ね。秋葉幸高にIBN5100の奉納を代行してもらった」

萌郁「だから……私と岡部くんが神社にIBN5100を探しに……」

鈴羽「そういうこと」

フェイリス「ママがずっと海外で看病してたニャ……?」

鈴羽「秋葉ちかねさんには頭が上がらないよ」

岡部「まさか、ラボの元オーナーだったなんてな」

鈴羽「42型ブラウン管テレビを確保したのもあたし」

鈴羽「それじゃ、ラボメンのみんな―――」

鈴羽「―――あたしに、君たちのシュタインズ・ゲートを紹介してほしいな」



―――――
―――




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※橋田鈴さんがしゃべるだけ
 シュタゲゼロ・β外伝のネタバレ有りやで
 鈴羽誕生日おめでとう



カツン カツン


鈴羽「……戻ってきたんだね、あたし」

鈴羽「あの時はこんな階段なんてなんでも無かったけど、杖をつきながらじゃキツイな」

鈴羽「35年は長かったようで短かった気がするよ」

鈴羽「自分で下準備したってのに、なんだか変な気分」

鈴羽「未来に置いて来た忘れ物、受け取りに来たよ」

鈴羽「ここも変わってないなぁ、って。あたし、思ってもいいんだ」

鈴羽「あたしの人生に、意味はあったのかな……」

鈴羽「さて、ちょっと盗み聞きでもしよっと」


D 1.048596% シュタインズ・ゲート
2010.09.27 (Mon) 17:34
未来ガジェット研究所


岡部「緊急招集への応対、ラボメンとして実に素晴らしい働きだ」

岡部「俺もこのラボの創設者として鼻が高いぞ、うむ」

岡部「今日皆に集まってもらったのは他でもない」

岡部「第1回ラボメン歓迎パーティー(※まゆり命名)を開催するためであるッ!」

まゆり「わー」パチパチ

フェイリス「凶真、呼んでくれてありがとニャン♪」

るか「本日は、お招きいただき、ありがとうございます。おか……きょ、凶真さん!」

萌郁「…………」ピッピッピッ

ダル「一気にラボが賑やかになった件。さっすがオカリン、僕にできないことを(ry」


岡部「まゆり。ラボメンの現在状況について報告してくれ」

まゆり「りょーかいなのです!」

まゆり「えっとねー、オカリンがこのラボの創設者で、001なんだよー」

岡部「ッ、鳳凰院凶真だと言っとるだろーが!」

まゆり「オカリンのほうがかわいいのにー」

まゆり「それでね、次にラボメンになったのはまゆしぃなのです!」

岡部「コスプレ作りが趣味の不思議系少女、椎名まゆりこそラボメンナンバー002である」

まゆり「まゆしぃはね、オカリンの人質なんだよー♪」

岡部「……やめろ貴様ら。変な目で俺を見るな。この件については後で説明する」

まゆり「それからねー、スーパーハカー? ラボメンナンバー003の、ダルくんだよー」

ダル「だからハカーじゃなくてハッカーだろJK、ここテン~」

岡部「以上が従来のラボのメンバーだ。そうだな?」


まゆり「それからそれから~、ラボメンナンバー005は、1階のブラウン管工房でアルバイトをしている、萌郁さんなのです!」

萌郁「……桐生萌郁。よろしく」

まゆり「次は006、であってる?」

岡部「うむ」

まゆり「よかったー。えっとね、ラボメンナンバー006は、なんとまゆしぃのお友達、るかくんなのです!」

るか「ど、どうも。まゆりちゃんの友達の、漆原るかです」

岡部「だが男だ」

まゆり「最後にね、ラボメンナンバー007は、まゆしぃのバイト先のお友達の、フェリスちゃんでーす!」

フェイリス「マユシィはフェイリスの事を"フェリス"、って可愛く呼んでくれるけど、本当の名前はフェイリス・ニャンニャンなのニャ♪」

岡部「本名は秋葉留未穂だがな」フゥーン

ダル「あー! あー! 聞こえなーい! フェイリスたんはフェイリスたんだおー!」


るか「で、でも、おか、凶真さん。そうなると、このラボメンバッジの4番目の方と8番目の方は……?」

岡部「ルカ子よ、良い質問だ」

ダル「オカリン、004は永久欠番って言ってなかったっけ?」

岡部「それも今日までの話」

岡部「4番目のイニシャルはM。これが意味するところは……」

岡部「……牧瀬紅莉栖ッ! 今日からお前を、ラボメンナンバー004に任命するッ!!」

紅莉栖「ふぇっ!? わ、私!?」

岡部「貴様の襟元に鈍く輝くそのバッジはなんなのだ」

まゆり「ラボメンがいっぱいでうれしいなー、えへへー」

紅莉栖「でっ、でも、私、つい昨日鳳凰院さん……じゃなかった、岡部さんと知り合えたばかりだし……」

紅莉栖「そりゃ、一応私たちは7月28日に出会ってはいるけれど……」

紅莉栖「……ホントに私をこのラボのメンバーに入れてくれるの?」

岡部「そんなに不安ならば、貴様には正式なラボメンとして認めるための試験を課してやろう。覚悟しておくのだなッ!」

ダル「まあ、ラボっつっても牧瀬氏が本場で経験してきた研究所とはかなり毛色が違うと思われ」

フェイリス「クーニャンも気軽に遊びにくればいいのニャ♪」

紅莉栖「く、クーニャンですか……」


まゆり「でもでも、すごいねーオカリン! どうしてラボメンナンバー004さんのイニシャルがMだってわかったのー?」

ダル「前に話してた、世界線がどうの、って話?」

岡部「フッ、この狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真にかかれば簡単なこと」

岡部「幾多の世界を超え、可能性という禁断の果実を手にした俺だからこそできる選択……!! それがッ!! シュタ」

萌郁「この、008の……A、って、誰……」

岡部「って、いいところで口を挟むんじゃない、閃光の指圧師<シャイニング・フィンガー>よ!」

萌郁「しゃい……?」

紅莉栖「その、008の方も永久欠番なんですか?」

岡部「いや、違う。間違っているぞ、クリスティーナ」

紅莉栖「今度は"クリスティーナ"……はぁ」

岡部「ラボメンナンバー008は、7年後に現れる」

岡部「心して覚えておくように」


大檜山ビル2階 扉前


鈴羽「『ラボメンナンバー008は7年後に現れる』、か。そりゃ、そうなんだけどさ」

鈴羽「……ってことは、あたしはラボメンじゃない、ってことなのかな」

鈴羽「そんなの、嫌だな……」

鈴羽「……なんてね。008はそっちの鈴羽のためにあるものだよね」

鈴羽「あたしはあたしで、あたしらしくいこう」

鈴羽「(この扉の先には、一体どんな世界が広がっているんだろう……)」ドキドキ

鈴羽「あはは、年甲斐も無く緊張しちゃってるね」

鈴羽「……ええい、行っちゃえ!」



ガチャ




未来ガジェット研究所


鈴羽「お邪魔するよー。相変わらず埃っぽい部屋だねー」

紅莉栖「あ、どうもお邪魔してます。えっと、この研究所の主任研究員の方、ですか?」

鈴羽「ふっふっふ、白衣が似合ってるだろう? 牧瀬紅莉栖」

紅莉栖「どうして私の名前を……って、論文を読んでいただいたんですね。ありがとうございます」

岡部「ん? 誰です、ご婦人。勝手にラボの敷居を跨がないでいただきたい」

岡部「(松葉杖? それにこの声、この見た目、この雰囲気、どこかで……)」

紅莉栖「えっ、この人、ラボの関係者じゃないの?」

ダル「いや知らんし」

まゆり「えっと……はじめまして?」

鈴羽「ま、35年ぶりだから、仕方ないか」ポリポリ

岡部「(35年……?)」


紅莉栖「ちょ、ちょっと待って。35年ぶりって、それじゃ、ここにいる誰もが生まれてませんよ?」

鈴羽「それがそうじゃないんだよ。噂に違わず、君は頭でっかちだね」

紅莉栖「は、はぁ!?」

鈴羽「それで、岡部倫太郎。ここが一体どこか。君ならわかるはずだよ」

岡部「……御仁。まさかとは思うが、認知症か何か……」

鈴羽「失礼だな、君は。ま、相変わらずか」

鈴羽「どこかって聞いてるんだよ。この世界線が、どこなのか」

岡部「せ、かい……? なッ!?」


岡部「ま、まさか……お前は……」

岡部「そ、そんな……どうして……!?」

岡部「ここはシュタインズ・ゲートではなかったのか!?」

岡部「なぜだ!? どうして貴様がここに居る!?」

鈴羽「…………」

岡部「……阿万音鈴羽ッ!!!」


ダル「あ、阿万音? 誰ぞ?」

るか「あの、あまり大きい声を出すのは……」

鈴羽「もう1度聞きたい。岡部倫太郎」

鈴羽「君は、ここが"シュタインズ・ゲート"だと確信を持っているんだね?」

岡部「あ、当たり前だ!! 紅莉栖は生きているし、中鉢論文も葬った!!」

岡部「第3次世界大戦は起こらない!!」

鈴羽「そうか……」

萌郁「第3次……?」

ダル「あー、気にしなくていいお。いつもの発作みたいなやつだから」

フェイリス「んー、でも今回のは何か違うような気がするニャ」

岡部「お前、まさか2036年からタイムトラベルしたのか……!? 1975年へと!!」

岡部「答えろッ!! 答えろ鈴羽ッ!!」

岡部「お前が言ったんだぞ! 紅莉栖を救えば、シュタインズ・ゲートへ行けると!」

岡部「どうして……どうしてお前は俺の前にまた現れたんだ!!」

紅莉栖「ちょっと、どうしたんですか岡部さん!」

るか「落ち着いてください!」グスッ

鈴羽「……君が興奮するのももっともだ。やっぱりあたしはこの世界線に存在しないほうがよかったかな」

岡部「ッ!?」


まゆり「……ねぇオカリン? この人、つらそうな顔してるよ? お話、聞いてあげよう?」

岡部「……すまない、取り乱してしまった」

まゆり「そんな時はねー、はい! ドクペだよー」

岡部「あぁ、悪いな。まゆり」

ダル「やれやれなのだぜ、オカリン。どう見たって訳ありって感じじゃん」

萌郁「それで……あなたは……」

鈴羽「自己紹介が遅れたね。あたしは確かに"阿万音鈴羽"って名乗ってたんだけど……」

鈴羽「もう別名義のほうが長くなっちゃった。今はこっちに愛着を持ってる」

鈴羽「改めて言うよ。あたしは、橋田鈴。大檜山ビルの元オーナーであり……」

鈴羽「未来人、ジョン・タイターだよ」

ダル「ナ、ナンダッテー!? あの、2000年に米掲示板に出たっていう……!?」

紅莉栖「う、嘘でしょ? タイターとか釣り乙……」

まゆり「外国人さんなのかなー?」

岡部「鈴羽。順を追って説明してほしい」

岡部「ここはシュタインズ・ゲートで間違いないんだよな?」

ダル「またその話かおオカリン。もう耳にタコができるほど聞いたわけだが」

鈴羽「『1.048596』。それが未来のオカリンおじさんと父さんが弾き出した希望の数字だった」

鈴羽「あたしの35年間の体験と、君の確信――ここに牧瀬紅莉栖と椎名まゆりが居る事実――が合わされば」

鈴羽「……ここは、シュタインズ・ゲートだよ」

岡部「……そうか」


まゆり「"オカリンおじさん"???」

ダル「どう見てもオカリンより年上の女性におじさん扱いされるオカリンかわいそす」

鈴羽「いや、あたしが言った"オカリンおじさん"ってのは、また別の人なんだ」

まゆり「えっ、オカリン以外にも"オカリン"っていう名前の人がいるの?」

鈴羽「うーん、まあそういうもんだと思っていてくれればいいよ」

岡部「それで、鈴羽。お前はどのようにしてこの世界線に辿り着いたのだ」

鈴羽「そうだね。ここを話さないと、ゆっくりおしゃべりもできないみたいだから」

鈴羽「……少し長い話になるけど、いいかな」

紅莉栖「それってもしかしなくても、岡部さんが言ってた、"タイムトラベル"に関係することですか?」

鈴羽「そうだよ、タイムマシンを利用した物理的タイムトラベル」

鈴羽「質問したいことはたくさんあるだろうけど、とりあえず聞いて」

鈴羽「―――あたしはね、人類初のタイムトラベラー、阿万音鈴羽だったんだ」


・・・

あたしが生まれたのはβ世界線上の2017年9月27日。こことは違う世界。

物心ついた頃から研究に勤しむ父さんの背中を見ていた。

2025年、あたしが7歳の時、オカリンおじさんが死んだ。

まゆねえさんを強盗からかばったらしい。

丁度その頃から第3次世界大戦が本格化し始めて、日本中で空襲があった。

2030年4月、あたしが12歳の時、国民皆兵制度が施行されて、あたしは政府軍に入軍した。

けどまあ、父さんたちの組織"ワルキューレ"が反政府組織と見なされるようになって、あたしは軍を抜けたんだ。

ワルキューレは過去を改変することで第3次世界大戦を回避しようとしていた。

ううん、正しくは、第3次世界大戦が起きない世界に再構築しようとしていた。

もちろんあたしは父さんたちに賛同した。

2036年8月、父さんが完成させたC204型に乗って、使命を託されたあたしは1975年へ飛び立った。

―――まゆねえさんの娘、椎名かがりを連れて。


1975年に到着したあたしは、まずIBN5100を入手した。

内蔵された独自のプログラミング言語を利用して、2000年問題を根本的に解決する必要があったからね。

これが第3次世界大戦を回避するのに必要な行為だったんだ。

その後、1975年から1998年へと移動したんだけど、椎名かがりの手によってIBN5100は破壊され、2000年問題解決は失敗した。

同時に椎名かがりとはぐれることになってしまった。

それから数か月単位の小さな移動を繰り返して椎名かがりを探したけど、結局見つからなかったよ。

燃料がギリギリになっちゃって、仕方なく2010年8月21日の夕方に跳んだ。

それがあたしのメインミッションだったからね。

ここからは聞いてる人も居るんじゃないかな……

あたしは岡部倫太郎をタイムマシンに乗せて、同年7月28日へと跳んだ。

牧瀬紅莉栖を救うために。


8月21日に戻ってきたあたしは、岡部倫太郎を2度目の救出へと連れ出すことに失敗した。

岡部倫太郎は諦めてしまったんだ。牧瀬紅莉栖を救うことを。

それから1年間、あたしはラボで生活した。おじさんの気持ちが変わることを信じて。

だけど……結局、1年待ってもおじさんは跳ばなかった。

2011年7月7日、あたしはまゆねえさん―――その世界線の17歳のまゆねえさん―――を連れて2010年8月21日へと跳んだ。

タイムマシンが消失していたはずの、1分間へと向かって。

まゆねえさんは、自分のケータイからおじさんのケータイに電話をかけて、過去の自分と対話した。

それによって、たぶん、世界線は変わったと思う。

だけど、C204くんの燃料もバッテリーも限界だった。

マシンはすぐに悲鳴を上げて、レーダーをロストしたフライトを開始することになった。

どこに漂着するかなんてわからなかった。未来か、過去か。それもどこの世界線か。

マシンは不時着した。

もう言わなくてもわかると思うけど、そこはマシンの初期設定年、1975年だったんだ。


不時着と同時にマシンが誤作動を起こしたから、あたしは咄嗟に量子コンピュータだけ外して、まゆねえさんと2人で避難した。

それからすぐ、また爆発音がした。ビックリしたよ。

あたしたちが2011年まで居た世界線の、2025年時点のオカリンおじさんがそこに現れたんだ。

おじさんはあたしとまゆねえさんが1年前へ跳んだ後、14年かけて研究に打ち込んだ。

タイムリープマシンが存在してるから、おじさんが研究に打ち込んだ時間はもっと長いと思うけど。

その結果、2025年にC193型っていうタイムマシンと、タイムマシン追跡装置、いわゆるトレーサーを開発したらしい。

これがすごいシロモノでね、世界線を自在に行き来できるんだ。

正確に言えば、カー・ブラックホールの"痕跡"をトレースする装置。

それによって先行するマシンの到着世界線および時刻を割り出し、追跡することができる。

もちろん、自分自身の移動も追跡することができるから、元居た世界線に戻ることもできる。

ともかく、オカリンおじさんが助けに来てくれた。

2人乗りのタイムマシンに乗って。


おじさんは当然のようにあたしとまゆねえさんをC193型に乗せて、元居た世界線へと送り返そうとした。

だけど、あたしは思い出した。

あたしが7歳の時、おじさんはまゆねえさんをかばって死んだらしい。

結局、あたしの記憶の中のオカリンおじさんも同じことをするんだって思い当たった。

だったら、ここであたしがC193型に乗ったらタイムパラドックスが起こるんじゃないか、って思った。

よくよく考えたらこれは祖父殺しのパラドックスみたいなものだから、世界線理論ではパラドックスは起きないんだけど。

でも、結果的にはあたしの判断が正しかった。

たぶん、あたしが1975年から生活することはシュタインズ・ゲート世界線が成立する以前の収束だったんだ。

だから結局、オカリンおじさんとまゆねえさんの2人をあたしが無理やりC193型に乗せて送り返すことになった。

相当抵抗されたけどね。

これはあたしの希望でもあったし、たぶん世界もそう望んでた。

C193型が飛び立った直後、C204くんは消滅したよ。

事象の地平線<イベント・ホライズン>へと跳んでったのかな。

緊張が解けたからか、あたしは意識を失って倒れた。

目を覚ますと、あたしは独りぼっちになってた。


やることはいくつかあった。

1つ目は、1度失敗してしまった2000年問題の処理を遂行すること。

仮にここがシュタインズ・ゲートなら間違いなく成功できるって確信したよ。

だけどそのためには、IBN5100を入手した上で量子コンピュータを起動できるレベルの電源を確保しなければならなかった。

2つ目は、2000年11月から2001年3月にかけて、アメリカの大手ネット掲示板でジョン・タイターとして君臨すること。

これをしないと牧瀬章一はタイムマシン発明記者会見、という名のパクリ論文発表を2010年7月28日にラジ館で開催しない。

それに、α世界線へと旅立つオカリンおじさんにとって必要な知識があるはずだから。

あたしはまず上野に行って"橋田鈴"という身分を入手した。

その後、未来の知識を動員して金を稼いで、コネを作って……まあ、色々やったよ。

余った金で大檜山ビルのオーナーになったりね。

2年後には東京電機大学に入学できた。

ここで研究職に就くことによって、怪しまれずに大電源を使い放題できる環境を手に入れられると思ったんだ。

結果はうまく行った。

1998年、あたしは2000年問題をIBN5100と量子コンピュータを使って解決した。

これで、第3次世界大戦の火種を消火できた、ってわけさ。


だけど、この頃になるとあたしは体調が悪くなった。

医者に行っても原因不明。たぶん、ブラックホールを通過した後遺症が現れたんだと思う。

特異点が真空を分極してしまって、高フラックスの放射線が発生してたのかもしれない。

あたしの身体は大量の放射線を浴びていた上に、体内が徐々にフラクタル化し始めていた。

そこに教え子の秋葉幸高が救いの手を差し伸べてくれたんだ。

アメリカでなら、現代医学の最先端でなら、あたしの延命が実現するかもしれないって。

望みは薄かった。

子どもの頃にオカリンおじさんから聞いた話だと、α世界線のあたしは2000年に自殺や病死をしていたらしいからね。

でも、ここがシュタインズ・ゲートなら―――

あたしは可能性にかけたのさ。2010年まで生き残れる可能性に。

君たちと再会できる未来を信じたんだ。

施設からなんとかタイターの書き込みができた。当時にしては環境の整った施設だったよ。

12年間、寝たきり状態だった。死線をさまよったこともあった。

そして今年の8月21日、突然体が回復したんだ。

まあ、1か月はデータ採取のための検査入院をさせられたけど。


岡部「……なるほど。それで今日日本に帰ってきた、と」

鈴羽「どうしてあたしがシュタインズ・ゲートに飛ばされたのかはわからない」

鈴羽「運命のいたずらか、必然か」

岡部「(俺がシュタインズ・ゲートに到達した時、同乗者の鈴羽とマシンは世界に再構成され、消滅した)」

岡部「(それは、シュタインズ・ゲートがβ世界線上の未来の因果を受け入れなかったからだ)」

岡部「(一方、紅莉栖救出と中鉢論文焼失自体はこの俺がβ世界線の過去において巧みに構築した因果だ)」

岡部「(この2点だけは、β世界線の過去で実行したことがシュタインズ・ゲートへとそのまま反映されている)」

岡部「(ある意味、論文焼失直後、世界線はシュタインズ・ゲートへと分岐したとも言える)」

岡部「(しかし、仮に、他にもシュタインズ・ゲートへと至るために必要な過去改変があったとすれば)」

岡部「(それが、この鈴羽が1975年に不時着することだとしたら……)」

鈴羽「まあ、理屈なんてどうでもいいんだ」

鈴羽「35年間このことばかり考えていたけど、確定的な結論は出なかったしね」

岡部「……ここがシュタインズ・ゲートだと言うなら、俺が気張る必要もないのか」

岡部「ならば、改めてラボメンとして歓迎しよう。ラボメンナンバー008、阿万音鈴羽」

岡部「よくぞ我がラボへ舞い戻った……ここまでの道のりはさぞつらかっただろう」

鈴羽「……ありがとう、オカリンおじさん」


鈴羽「でも、気持ちだけ受け取っとくよ」

岡部「なに?」

鈴羽「その008、イニシャルAは、確かに"阿万音鈴羽"――あるいは"橋田鈴羽"かな――のものだけど、それは"あたし"じゃない」

鈴羽「その称号は、この世界線上の2017年に生まれてくる"あたし"に授与してあげて欲しい」

岡部「……お前がそう言うのならば、いいだろう」

鈴羽「だからこのあたしは、近所のおばさん、ってことでラボに参加させてよ」

岡部「結局ラボには入るんだな。無論、大歓迎だ」

紅莉栖「客員研究員、ってことですか」

鈴羽「そんな大それたものじゃなくてもいいけどさ」

岡部「ちゃんと白衣を着てくるあたりの気概が認められるからな」

岡部「ガジェット開発には率先して起用してやろう」

鈴羽「あはは、嬉しいこと言ってくれるじゃん」

紅莉栖「(私もここでは白衣を着ようかな……)」


るか「ホントに未来人なんですね、橋田鈴さん……」

萌郁「SF……」

まゆり「うーん、まゆしぃには難しくてよくわからないのです」

紅莉栖「あ、あの、橋田教授?」

鈴羽「なんだい、牧瀬紅莉栖」

紅莉栖「色々質問したいことがあるのですが、聞いても?」

鈴羽「ああ、もちろん。なんでも聞いてよ」

フェイリス「フェイリスも気になったことがあったニャ」

鈴羽「未来のオカリンおじさんの恥ずかしい話も色々あるよ」ニヤリ

フェイリス「ニャニャ! ぜひ披露してほしいニャン!」

岡部「ま、待てィ!」


紅莉栖「どうしてパ……いえ、牧瀬章一のことをご存じなんですか?」

フェイリス「フェイリスも不思議だったニャ。ニャんでフェイリスのパパが阿万音さんを助けたニャ?」

鈴羽「(……さすがにこのナリじゃ、"スズニャン"とは呼んでくれないか)」

鈴羽「牧瀬章一と秋葉幸高はね、あたしのゼミのゼミ生だったのさ」

鈴羽「もう教授職は辞めて長いけどね」

紅莉栖「えっ……!?」

フェイリス「ニャ……!?」

鈴羽「実はこの世界線の君たち2人に会うのは久しぶり、12年ぶりくらいになるのかな」

鈴羽「君たちが小さい頃に会ってるんだよ、あたしと君たちは」

紅莉栖「……あっ、パパが昔言ってた、あの教授」

フェイリス「パパのカセットテープに入ってた声の人……」

鈴羽「随分大きくなったね、お嬢さんたち」


紅莉栖「え、ちょっと待って。ってことは、フェイリスさんって、まさか、留未穂ちゃん?」

フェイリス「……あーっ!!!」

フェイリス「クリスちゃんだ! パパのお葬式の時以来だね!」

紅莉栖「……思い出した! 私、あの時あなたを励まそうと、あなたと同じ髪型にして……」

フェイリス「あんなに嫌がってたのにね……ふふっ、また会えて嬉しいよ、クリスちゃん!」ダキッ

紅莉栖「ちょ、ちょっと! 抱き着かないでよ! ただでさえ暑いのに……」

フェイリス「感動の再会だニャー!」

紅莉栖「猫モードに戻ってるし……はぁ」

ダル「幼馴染属性からの百合展開ktkr!!!!!!!!」ガタッ

紅莉栖「橋田さんは座っててください」

鈴羽「あたしも橋田なんだけど」

紅莉栖「あっ……えと……HENTAI、座ってろ」

ダル「いいよぉ……もっと罵ってくれてOKだよぉ……はぁはぁ」

まゆり「ほぇー、フェリスちゃんとクリスちゃんは幼馴染さんだったの?」

岡部「そういうことになるらしいな」

るか「なんだか素敵ですね」


鈴羽「あたしは、牧瀬紅莉栖に謝らなくちゃならない」

紅莉栖「えっ……と……?」

鈴羽「君の父、牧瀬章一があんな風になってしまったのは、結局あたしのせいだった」

鈴羽「あたしは前もって牧瀬章一がそういう蛮行に出ることを知ってたからね」

鈴羽「学生時代の彼と出会った時はギョッとしたものさ」

鈴羽「あたしは彼を避けるようになった。だけど、それが原因でしつこく付きまとわれてしまって……」

鈴羽「あたしのタイムマシン研究のノートを盗み見られたことが決定的だった」

鈴羽「結局根負けして、秋葉幸高も入れて3人でタイムマシン研究をやることになった」

鈴羽「もちろん本腰は入れなかった。牧瀬章一とは距離を取らなきゃ、って思ったからね」

鈴羽「だけど、それが裏目に出た」

鈴羽「彼は自分の才能を誰にも認めてもらえないコンプレックスを抱えたままに……」

鈴羽「誰もが自分を科学的に否定することのできない領域に引きこもってしまったのさ」

鈴羽「まあ、その虚構の牙城も稀代の天才少女によって打ち砕かれることになったわけだけどね」

紅莉栖「パパ……」


岡部「(それは鈴羽のせいではない)」

岡部「(今頃中鉢博士はロシアの冷たい監獄の中で日本警察への身柄引き渡しを待っていることだろう)」

岡部「(中鉢に同情はしない。しないが……)」

岡部「(章一氏もまた運命に踊らされた1人だった。シュタインズ・ゲートへと至るために必要なことだったのだ……)」

岡部「紅莉栖、お前と共に青森へ行く約束を守れなかった。すまないな」

紅莉栖「えっと……それも別世界線の話?」

岡部「俺は、お前の父親を救うことはできなかった」

紅莉栖「ううん、いいの……」

鈴羽「オカリンおじさん……いや、岡部倫太郎。まだこの先、牧瀬紅莉栖の身に何が起こるかわからない」

鈴羽「しっかりと守ってやりなよ」

岡部「フッ、知れたことを。ラボメンを守るのはこの俺の役目、何をためらうことがあろうか」

紅莉栖「……///」

鈴羽「それでこそ岡部倫太郎だ」


フェイリス「フェイリスのパパが阿万音さんをアメリカの病院に連れてったのはホントかニャ?」

鈴羽「ああ、そうだよ。ルミねえさん」

フェイリス「る、"ルミねえさん"!?」

鈴羽「あたしが子どもの頃はそう呼んでたんだ」

フェイリス「えっと、阿万音さん……橋田さん? できれば"ルミ"も"ねえさん"もやめていただきたいのですが……」

岡部「(トーンがガチだな)」

鈴羽「あはは、わかったよフェイリス。どうも君たちと話していると自分の年齢を忘れてしまうね」

鈴羽「ちなみにあたしのことは橋田でも阿万音でもどっちでもいいよ。呼びやすいほうで」

フェイリス「助かるニャン♪」

鈴羽「……でも、あたしがアメリカに行った2年後には、秋葉幸高は飛行機事故で先に逝ってしまったけどね」

フェイリス「ニャ……」

鈴羽「それからは秋葉幸高の奥さん、秋葉ちかねさんの面倒になった」

鈴羽「君の母さんが半年に1度しか日本に戻ってこれない理由の半分は、あたしのせいだったんだ」

フェイリス「ニャニャ!? 初耳のオンパレードだニャァ……」


るか「そう言えばお話を聞いて思い出しましたけど……」

るか「今から9年前に執事さんと一緒に神社にパソコンを奉納しに来た女の子は、フェイリスさんだったんですね」

フェイリス「そうニャ。あれはパパの遺言だったんだニャ」

鈴羽「秋葉幸高には頭が上がらないよ……」

鈴羽「そう言えば、あたしも柳林神社にはお世話になったよ。一時期、地主の真似事をしてたからね」

鈴羽「地鎮祭や地域振興企画の時はよく漆原栄輔に助けてもらった」

るか「え、栄輔って、ぼくのお父さん……!」

鈴羽「奥さんが妊娠してる時、奥さんに肉を食べるよう勧めておいたよ。それでよかったんだよね、オカリンおじさん」

岡部「α世界線の話か。まあ、そこまでする必要はなかったと思うが」

るか「ぼくがお母さんのお腹に居る頃からお世話になってたんですね」

鈴羽「まあ、そういうことになるのかな」


萌郁「それで……私と岡部くんが、8月1日にIBN5100を探し回った……」

岡部「(どういうわけか、このシュタインズ・ゲートではそういうことになっていた)」

岡部「(やはり萌郁はラウンダーなのだろう)」

岡部「(編プロを7月に辞めていた萌郁にとってIBN5100を捜索する動機はそれしかない)」

岡部「(その後のIBN5100の行方は不明だ。ラボでクラッキングの為に使用したのか、その後解体したのか、はたまた萌郁がラウンダーへと引き渡したか)」

鈴羽「岡部倫太郎、ちょっと耳を貸して」

岡部「なんだ?」

鈴羽「実はあたし、1998年にSERNをハッキングしたんだ。IBN5100を使って」

岡部「……2000年問題を解消するついで、ということか」

鈴羽「そう。父さん自作の量子コンピュータの前にはザルもいいところだったよ」

岡部「(それがαやβと異なる、シュタインズ・ゲート独自の現象の原因なのか……?)」


鈴羽「ここは1%の壁を超えた世界だからね、基本的にはIBN5100は岡部倫太郎の手に入る運命にあった」

岡部「(世界線の収束……いや、改変の結果か?)」

鈴羽「桐生萌郁。君はIBN5100を探しに、6月頃、秋葉原に来たそうだね」

萌郁「……ネットで、話題になってたから」

岡部「(FBの命令か……)」

ダル「そういや、結局あの@ちゃんのIBN5100祭りはなんだったのだぜ?」

鈴羽「それもあたしが仕込んでおいたこと」

鈴羽「あたしが日本を去る直前に上野の知り合いに頼んで、タイミングになったらそういう噂を流すよう依頼してたのさ」

萌郁「それで私が……名古屋から、秋葉原へ来ることになった……」

岡部「まるで俺たちは鈴羽の敷いたレールの上を歩かされてきたようだな」

鈴羽「レールなんて立派なものじゃないよ。あったとしても、それは透明なガラス板のように不可視なんだ」

鈴羽「どう動くかなんて予測不可能だったから、やっぱり実際に歩いたのは君たちなんだよ」


鈴羽「それから……あたしが会うのは3度目だね。橋田至」

ダル「んお? そうなん?」

鈴羽「あたしが生まれてからマシンで跳ぶまでと、跳んだ先で1年間、それから35年を過ごして、今……」

鈴羽「相変わらず、元気そうだね。父さん」

ダル「と、"父さん"?」

紅莉栖「ま、まさか、あなたがこのHENTAIの娘だって言うんですか!?」

ダル「はいィ? って、僕はHENTAIじゃないお! HENTAIと言う名の紳士だお!」

紅莉栖「でも2017年生まれだとすると辻褄が合う……いやいや、魔法使いは子どもを作れない……」

ダル「牧瀬氏容赦なさ杉ワロタ」

フェイリス「ダルニャン! フェイリスというものがありながら、いつの間にリア充になってたのニャ!」

ダル「僕は一生フェイリスたん一筋だお!!」

鈴羽「それだとあたしが困るなぁ。フェイリスはあたしの母さんじゃないから」

ダル「まだ見ぬ嫁と、フェイリスたんとのどっちかを選ぶなんて……ぼ、僕は一体どうしたら……」

ダル「いや、だが、しかし……ハーレムルートという手も……」

ダル「僕の人生にエロゲの選択肢が出現するなんて、夢にも思ってなかったんだぜ!」

フェイリス「ダルニャン、ごめんニャ。フェイリスはニャンニャン星へと帰らなくちゃいけないのニャ」

フェイリス「ダルニャンは生き別れの兄弟……でも、記憶は既に失われてしまった」

フェイリス「だから、ダルニャンには普通の地球人との愛を育んでほしいニャ……グスン」

ダル「んほおーーーッ!!! フェイリスたんから愛のメッセージいただきますたーーーっ!!!」

紅莉栖「いや遠まわしに拒否されてるからな?」

フェイリス「これからもお友達としてよろしくニャン♪」


まゆり「えっと、スズさんがダルくんのお母さんじゃないの?」

鈴羽「違うよ。その人はあたしにとって祖母になるかな。会ったことはないね」

ダル「ちなみに今、阿万音氏はおいくつで?」

鈴羽「タイムトラベルのせいでちょっとずれたけど、今日はあたしの誕生日だから……」

鈴羽「55歳ってことになるのかな」

ダル「つまり、僕は19にして55の娘を持つ男ということですねわかりません!」

紅莉栖「なにがなんだかわからない……」

鈴羽「自分の娘がこんなおばちゃんだったら嫌?」

ダル「い、いや、一応僕の守備範囲は広いほうだと自負しているのだが」

ダル「さすがにアラ還の女性を攻略するエロゲには手を出したことがないっつーか」

鈴羽「父さんに攻略されるつもりはないけど」フフッ

ダル「オウフ……」


ダル「ところで、1つ訊いていい?」

ダル「母さん可愛かった? ロリ顔で小さくて巨乳っていうのをキボンヌ」

鈴羽「実は、母さんはまゆねえさんの知り合いなんだ」

まゆり「まゆしぃのお友達に、ダルくんの未来のお嫁さんがいるの?」

ダル「ということは、J・K・確・定!!!」

ダル「ついに我が世の春がキターーーーーー!!!!」

岡部&紅莉栖「「黙れHENTAI!!」」

鈴羽「大学生の来嶋かえで、って知ってるでしょ?」

ダル「だ、大学生?」

鈴羽「その先輩のコスプレイヤーに阿万音由季って言う人がいると思うんだけど……」

ダル「せ、先輩……年上でござったか」

まゆり「カエデちゃんとはコスプレ仲間だけど……」

まゆり「あまね、ゆきさん? うーん、聞いたことがないなぁ」

鈴羽「そっか、シュタインズ・ゲートではまだ知り合ってなかったんだ」

ダル「まあでも、女子大生ってだけで点数高杉っつーか」

ダル「阿万音由季たん……どんなカワイ娘ちゃんなんだろ」

ダル「まるで優良ソフト会社の新作エロゲを待ちわびる気持ちに似ているお……はぁはぁ」

紅莉栖「ダメだこいつ、早くなんとかしないと」


まゆり「そう言えばさっき、まゆしぃの、むすめ?」

まゆり「椎名かがりちゃんって言うのは……」

岡部「そ、そうだ! まゆりに娘だと!?」

鈴羽「かがりは、戦災孤児だった。それをまゆねえさんが養子に取って世話することになったんだ」

まゆり「戦災孤児……」

岡部「養女ということか……」

鈴羽「この世界線の未来では第3次世界大戦は起こらない」

鈴羽「それもこれも、あの空白の1分間にあたしと一緒にタイムトラベルしてくれたまゆねえさんのおかげなんだ」

鈴羽「シュタインズ・ゲート上のかがりは本当の両親の元で仲睦まじく暮らすことになると思う」

まゆり「そ、そっか……それなら幸せいっぱいだね!」

鈴羽「そうだね。まゆねえさんも、幸せいっぱいになれますように」

まゆり「えっへへー。スズさんがラボに遊びに来てくれるのでまゆしぃは幸せいっぱいなのです!」

鈴羽「あたしもまゆねえさんとまたこうしておしゃべりできて幸せだよ」

まゆり「そーじょーこーか、だねー♪」

岡部「(……俺はまゆりの幸せを、守ることができたんだよな)」


鈴羽「さ、このくらいでいいかな。これであたしは君たち全員にとって見ず知らずの人間じゃなくなったわけだ」

フェイリス「すごいニャ……ものの数分で濃密な人間関係を創造してしまったのニャ」

るか「それじゃ、少し遅くなりましたけど、ラボメン歓迎パーティーを再開しましょうか」

ダル「さんせーっ」

まゆり「もうお腹ぺこぺこなのです」

鈴羽「牧瀬紅莉栖、君は台所に立つの禁止、って未来のオカリンおじさんが」

岡部「俺が!?」

鈴羽「いや、君じゃないけどさ」

紅莉栖「えっと、どうしてですか?」

鈴羽「『ラボの破壊活動を容認することはできない』、ってさ」

紅莉栖「私はテロリストか!」

萌郁「もう料理は……できてる……」

岡部「うむ、ラボメンとして実に良い働きだ。それでは、改めてここに宣言しようではないか!」


岡部「第1回ラボメン歓迎パーティー並びに、阿万音鈴羽の誕生パーティーをここに開催するッ!!!」

まゆり「わー」パチパチ

鈴羽「はは、気の利くことをするじゃないか」

岡部「狙いすましたかのように自分の誕生日に登場しておいて何を言っている」

鈴羽「バレたか」

岡部「それでこそ俺たちの阿万音鈴羽だ」フッ

鈴羽「……人間って、歳を取るとね。涙腺が緩んじゃうもんなんだよ」

岡部「どうした、特殊研究員鈴羽。俺の心意気に感動したか?」

鈴羽「……君って良いやつだね、岡部倫太郎」グスッ


天王寺「こらっ!! うるせぇぞお前ら!! また家賃上げられたいか!!」

岡部「て、敵襲!! 助手よ、洗脳マシンであの筋肉ダルマを追い払うのだ!!」

紅莉栖「じょ、助手ってゆーな!」

天王寺「今日は上客が来る日なんだから静かにしろって言っただろうが……あ、あれ、鈴さん!?」

鈴羽「よっ。12年ぶり」

天王寺「なんだ、もう帰ってたんですね。しかし、元気な姿を見れてホント良かった……」

天王寺「お前ら、よく聞け。こちらが橋田鈴さん。大檜山ビルの元オーナーだ」

鈴羽「ビルの2階に天王寺裕吾が寝泊まりしてた頃がつい昨日のようだね」

岡部「な、なにッ!? ミスターブラウンがこのラボに住み着いていただと!?」

天王寺「バカ野郎、まだこの奇妙な発明サークルがテナントに入る前の話だ」

まゆり「ラボに歴史あり、だねー」

鈴羽「……後で今宮綴、いや天王寺綴か。彼女の仏さんを拝ませてほしい。それから、綯の成長が見たい」

天王寺「あぁ、もちろんです。車を用意してありますよ」


岡部「(ふむ。ミスターブラウンは橋田鈴に頭が上がらない。そして橋田鈴こと阿万音鈴羽の父親はダル)」

岡部「(ダルは我が頼れる右腕<マイフェイバリットライトアーム>……)」

岡部「(ということは、今後ミスターブラウンの不当な賃上げ要求に対して俺は強力な抑止力を得た、ということではないか?)」

岡部「フフ……フフフ……フゥーハハハ!! 終戦の時は近いッ!!」

天王寺「でかい声出すなっつってんだろ! 鈴さんの身体に障ったらどうすんだ!」

鈴羽「ブーメランじゃないかな、それ」

まゆり「まだスズさんは、お身体悪いの?」

天王寺「ッ……」

鈴羽「ああ、気にすることないよ。たまに血を吐くだ……け……ウップ」ゲロゲロ

ダル「ちょーーーッ!? だ、大丈夫なのか、阿万音氏……?」

フェイリス「今タオル持ってくるニャ!」

鈴羽「ゲホッ……ありがと、"橋田至"。みんなもそんなに心配しなくていいよ」

鈴羽「それと……もしよかったら、橋田至だけは、あたしを"鈴羽"って呼んでくれない、かな……」

鈴羽「も、もちろん、無理にとは、言わない、けど……」

橋田「……それくらいお安い御用なのだぜ! "鈴羽"!」

鈴羽「……ありがと」

まゆり「スズさん嬉しそうだねー♪」

鈴羽「ごめん、今日は疲れちゃった。あとはみんなで楽しくやってて」

岡部「……わかった。また、気が向いたらいつでもラボに来るといい」

鈴羽「オーキードーキー」


―――――


あたしの居たβ世界線の未来では、天王寺裕吾、そして天王寺綯はどこで何をしていたのかわからなかった。

α世界線――オカリンおじさんの話の中の――と同じようにSERNのスパイだったかも知れない。

あるいはワルキューレの支援者だったのかも知れない。

どっちにしろ、2010年時点にラウンダーであるはずの天王寺裕吾を見張れるのは好都合だったから、あたしは若い彼と接触した。

だけどあたしたちは、いつの間にか家族みたいになってたんだ。

お互いに家族の居ない一人者、っていうところで引かれ合ったのかも。

そんな絆が、今のラボにつながってるなんて、不思議だよね……


―――――


D 1.048596% シュタインズ・ゲート
2010.09.27 (Mon) 20:11
御徒町 天王寺家


チーン


鈴羽「……すまなかったね、"天王寺綴"。あたしは君を救ってやることができなかった」

天王寺「なんで鈴さんが謝るんだか。交通事故だってのに」

鈴羽「("交通事故"、ねえ。もちろん君はその真相を知ってるんだろうけど)」

天王寺「ほら、綯、こっちにおいで」

綯「は、初めまして……天王寺、綯です」

鈴羽「初めまして。綯のことはお父さんからの手紙にたくさん書いてあったよ」

天王寺「こちらが前に話してた鈴さん。綯が生まれる前にここに一緒に住んでた人だ」

鈴羽「"君"が"あたし"の家に居候してたんだろ?」

天王寺「うぐっ……そうだ。ここは元々鈴さんの家なんだ」

綯「そ、そうだったんだ!」

天王寺「今日からまた一緒に住む……ってことで、いいんですよね?」

鈴羽「ああ。しかし、君も几帳面だね。あたしの部屋をそのまま残してあるだなんて」

天王寺「そりゃ、いつか帰ってくると思ってたからですよ」

綯「えっと……よ、よろしくお願いします」


鈴羽「綯? 綯は、自転車好き?」

綯「う、うん……」

鈴羽「じゃぁさ、今度おばちゃんとサイクリングしよう」

綯「え、いいの!」

天王寺「鈴さん、さすがに身体が……」

鈴羽「少しくらいあたしも綯と遊ばせてくれよ」

天王寺「うーん……無理せんでくださいよ?」

綯「やったー! サイクリング、サイクリング♪」

鈴羽「あたしのMTB、まだ置いてある?」

鈴羽「(大学時代にMTBに一目惚れして大枚をはたいて衝動買いしちゃったんだよね)」

天王寺「走れる程度には整備してますぜ。これでも技術屋の端くれなんでね」

鈴羽「君ってやつは人情家だねえ。その見た目とは大違いだ」

天王寺「一言余計だ!」


・・・

鈴羽「……綯は寝ちゃったか」

天王寺「綯のやつ、同居人が増えると知った日からずっと興奮していて、最近寝不足だったんですよ」

鈴羽「可愛いもんだね、子どもってのは」

天王寺「……綯は、俺と綴の宝ですから」

鈴羽「君にとってかけがえのない唯一の家族、なんだね」

天王寺「鈴さんは何でもお見通しだ」

鈴羽「君がしゃべりにくそうにしてるのもお見通しだ」

鈴羽「また昔みたいにタメ口聞いても特別に許してやるよ」

天王寺「……あんたも変わらないな、そういうところ」

鈴羽「誰かさんからの受け売りさ。この白衣と一緒でね」

天王寺「さぞムカつく野郎なんだろうな」

鈴羽「……あたしの遺言、覚えてくれてたみたいで良かった」

天王寺「遺言なんて言うんじゃねえ。ただのテキストファイルだろ」

天王寺「まあ、実際にあの岡部の野郎が2階を借りに来た時は度肝を抜いちまったが……」

鈴羽「仲良さそうだったじゃないか」

天王寺「『人は巡り巡って誰かに親身にしてもらうことになっている。だから君もいずれ誰かに親身にしてあげることだよ』」

天王寺「……忘れちゃいねえよ」

鈴羽「……そっか」


鈴羽「そういや綴から聞いたよ。君、あたしのことを自分の母親に重ねて見てたんだって?」

天王寺「ブフォ!!」

鈴羽「図体ばっかりでかくなって、心はまだまだガキだったんだねぇ」クスクス

天王寺「この野郎……!」

鈴羽「甘えてもいいんだよ、"母さん"って」

天王寺「ば、馬鹿か! 俺はもう32のオッサンだぞ」

鈴羽「見た目の割りには若いよね」

天王寺「うるせぇ!」


鈴羽「……実は話してなかったけど、あの橋田至とあたしは親戚なんだ」

天王寺「なに、そうだったのか。いや、同じ名字だからまさか、とは思ったが」

鈴羽「それで、あと7年したら橋田至にも子どもができる」

天王寺「また鈴さんお得意の未来予知か」

鈴羽「その時にさ……よくしてやって欲しいんだよ。たぶん、その時にあたしはもうこの世に居ない」

天王寺「……そういうこと、言うんじゃねえ」

鈴羽「わがままだってのはわかってるけどさ、家族ができる大変さを知ってるのは君くらいだから」

天王寺「わがままなわけあるか。俺がどんだけ鈴さんに助けられたと思ってる」

天王寺「むしろ、恩返しできる機会をくれて感謝したいところだ」

鈴羽「そうか……頼もしいね」

天王寺「ほら、疲れてんなら早く寝ろ」

鈴羽「ああ。君も寝たばこをするんじゃないよ」

天王寺「しねーよ!! してねーよ!!」



―――
―――――


その日、あたしは不思議な夢を見た。

オフ会?……ってのに乗り込んだり。ラボメンみんなとパーティーをやったり。

有明までサイクリングをしたり。

あたしの頭の中のどこかに隠れてた、幸せな記憶たちが手を取り合って踊り始めた。

2010年まで生きることができて良かったなーとしみじみ思う。

ちょっとおばさんくさいかな、あはは。

でも。

あたしの人生に意味はあったんだ。

これ以上の幸せは無いよ。

綯の成長を見届けられないのは惜しいけど。

でもそれは、この"あたし"の役割じゃないんだろう。

あたしはもう、役割からは解放された。

オペレーションは完遂したし、収束に縛られる必要もない。

本当の自由を手に入れたのさ。

さあ、明日は何をしようかな。


―――――
―――



数年後 シュタインズ・ゲート世界線
雑司ヶ谷霊園


岡部「……まゆり。婆さんへの挨拶は済んだか」

まゆり「うん。お婆ちゃんね、向こうでも元気にやってるって」

岡部「しかし、そんなデカい百合の花束なぞ必要なかったのではないか?」

まゆり「いいの! これはね、まゆしぃが初めてお給料もらった時からずっとやってることなのです」エヘン!

まゆり「おばあちゃんが大好きだったお花だから……」

 ポツン ポツン

岡部「……そう言えばまゆりはものすごい雨女だったな」

まゆり「折りたたみ傘、持ってないのです……」

岡部「……ダル。ほら、ひと雨来そうだ。そろそろ行くぞ」

ダル「う、うん……わかってるけどさ」

まゆり「お団子、買って帰ろうね」

ダル「おおっ、まゆ氏ナイス提案~。あそうだ、今ちょっと買ってくるお」タッタッ

岡部「花は用意するのに団子を用意しないとは、ダルというキャラにとってあるまじき行為だな」

まゆり「でもねー、ダルくんのそういうところ、好きだなー」

岡部「由季さんに聞かれたら……いや、あの人ならむしろ喜ぶか」


まゆり「ねえ、スズさん。そっちの世界は、どんなかな?」

まゆり「おばあちゃんは楽しいって言ってたけど、スズさんの世界は楽しい、かな」

岡部「今頃、フェイリスのパパさんと一緒にタイムマシン研究をしていたりしてな」

まゆり「そうだねぇ……ダルくんが持ってきたお花も気に入ってくれるといいなぁ」

ダル「ふぃー、ギリギリ買えたお。こっちが草団子で、こっちがみたらし」

岡部「おま、何パック買ってきたんだ!? そんなに食う気なのか……」

ダル「いや全部は食わねーよ。みんなの分だって」

ダル「それと、これは"鈴羽"の分な」

ダル「全く、親より先に逝くなんて、とんだ不良娘だったお」

ダル「……こっちの"鈴羽"は僕が幸せにしてみせる。だから、そっちの"鈴羽"は安心して眠っててくれよ」

ダル「奇跡を、ありがとうな。鈴羽」


        /二二ヽ

         | 橋  |
         | 田  |
         | 家  |
         | 之  |
         | 墓  |
       __|    |__

      / └──┘ \
     |´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ソ
     ソ::::::::::::::::::::::::::::::::ソソ
   / ソ ̄|;;;;;;;lll;;;;;;;| ̄ソ \
   |´ ̄ ̄ |. [廿] .|´ ̄ ̄.|
   |:::::::::::::::|      |::::::::::::::|
   |:::::::::::::::| ̄ ̄ ̄|::::::::::::::|
    . ̄ ̄ ̄|_______|´ ̄ ̄゛




ブー ブー ブー


ダル「はーい。え、だ、誰?」

ダル「父さん?」

岡部「誰だ」

ダル「……当直の看護師さんから。今、僕、父さんになったみたい」

岡部「…………」

ダル「…………」

まゆり「もしかして、それって……」

岡部「あんのヤブ医者がぁぁぁああ!! 出産予定は来週だと言ってたではないかッ!!」ダッ

ダル「そんなことどうでもいいから、大通りまで走るお! まゆ氏、先行ってタクシー捕まえるのヨロ!」ダッ

まゆり「トゥットゥルー!!」タッタッタッ





ダル「待ってろよ鈴羽、今父さん行くからなぁっ!!」






おしまい


一旦終了 もうちょっとだけ続くんじゃ
おまけは朝8時頃投下予定


以下、鈴羽への想いを叫ぶスレ

鈴羽は世界一かわいい永遠の17歳(18歳)
レスありがと

おまけ


D 1.048596% シュタインズ・ゲート
2010.09.29 (Wed) 16:31
未来ガジェット研究所


岡部「……で、これはなんだ」

紅莉栖「何って、未来ガジェット10号機、どこでもゲート、だけど? あんたが名付けたんでしょーが」

岡部「ホントに作ったのか? 俺はただなんとなく言っただけだったのだが……」

まゆり「わぁー、これ本当にどこでもドアなのかな? すごいねー♪」

ダル「プログラミング系は僕と"未来の僕"のおかげなのだぜ」

鈴羽「あたしは主に機械関係と具体的なアイデアかな」

紅莉栖「私は理論担当ね」

岡部「どこからどう見ても未来的青狸のソレにしか見えないな……」

ダル「いやあ、デザインはやっぱりこれしかないかなと思ってさ」


岡部「それで、ホントにこれ、どこにでもつながるのか?」

ダル「今起動してる状態だから、扉開けてみ」

岡部「…………」ゴクリ

  ガチャ

岡部「……扉をくぐった先には、一面のブラウン管。そこに鎮座するハゲ狸……これはッ!?」

岡部「階下のブラウン管工房とつながっているというのか!!」

天王寺「だれがハゲ狸だ、え? コラ!!」

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira089709.jpg

  ゴツン!!

岡部「あいたぁっ!!!」

天王寺「とっとと失せろ!!」

岡部「言われなくても戻りますよ!!」バタン

紅莉栖「ふむん。ゲート通過による痛覚維持は可能、と」

岡部「そこぉっ!! 真面目にデータを取るんじゃないッ!!」


岡部「しかし、一体どんな仕組みでこんなものが実用化されているんだ……?」

鈴羽「簡単な話さ。要はタイムマシンから時間移動要素を抜き取っただけなんだ」

紅莉栖「現在から現在にしかタイムトラベルできないタイムマシンとも言えるわね」

岡部「ということは、このドアは……」

鈴羽「扉型の電子レンジ。あるいは、小さなLHCって感じかな」

岡部「こ、これが、LHC……!?」

紅莉栖「この扉の枠の中で粒子が衝突して、複数のカー・ブラックホールを作り出してる」

鈴羽「そこに2036年の技術で電子を注いであげれば、裸の特異点は作り放題、回し放題」

紅莉栖「リング特異点を平面上に局在化して、出口側の座標データさえあれば、ってわけ」

ダル「そのデータは僕が世界各国の関係各省にハッキングして常に現在情報に更新されるようにしたお」

鈴羽「これで時間移動無しのタイムトラベル、テレポーテーションの出来上がり」

岡部「あくまでワームホールではない、ということだな」

まゆり「まゆしぃにはちんぷんかんぷんなのです」

紅莉栖「量子テレポーテーションと違って情報だけを伝達するわけでもないし」

鈴羽「分子レベルで分解するわけでもない」

岡部「だ、だが、36KBの壁はどうなったんだ? ゲル化は乗り越えたのか?」

鈴羽「おいおい、そんなのクリアしてなきゃそもそもC204型でタイムトラベルできるわけないだろ?」

岡部「そりゃ、そうか……」


鈴羽「ほとんどの領域で父さん自慢の量子コンピュータが役立ってる」

ダル「かがくのちからってすげー!」

鈴羽「電源増設費は気にしないでいいよ。こう見えてもあたし、結構資産家だからね」

岡部「ラボを勝手に改造したのか……って、電気代は俺持ちではないか!!」

紅莉栖「そんぐらい協力しなさいよ」

岡部「もしかしてクリスティーナよ、飛行機が怖いからと言ってこんなものを作ったのか?」

紅莉栖「ティーナをつけるな! ちゃんと出国審査通るから。あと別に飛行機は怖くない」

紅莉栖「色々実験データが欲しいの。試しに行きたいところ、言ってみて」

岡部「……実験大好きっ子よ、さっきは何も説明せず俺をモルモットにしたな!?」

紅莉栖「勝手に扉くぐったのはあんたでしょ。ほら、次はどこに行くの?」

岡部「くそぅ……ん?」

岡部「フフ……ならば天才HENTAI少女よ。俺が指定した場所へと必ずゲートをつなげると約束するか?」

紅莉栖「法律の範囲内に決まってるだろ。女風呂とか却下」

岡部「ッ、そんなことを言っているのではない!!」

紅莉栖「当然人のプライバシーに関わる場所も却下ね」

岡部「ならば。公的機関なら問題ないと言うのだな?」


岡部「ダルッ! 今すぐこのどこでもゲートをヴィクトル・コンドリア大学、脳科学研究所へとつなげろ!」

ダル「オーキードーキー」カタカタ ッターン

紅莉栖「ちょ、なんでよ!?」

岡部「俺は既に鈴羽から聞きおよんでいるぞ、クリスティーナには愛しの先輩がいることをな!」フゥーン

紅莉栖「先輩って、真帆先輩のこと!?」

岡部「そいつを召喚して、クリスティーナの恥ずかしい話をたっぷり聞かせてもらおうではないかッ!!」

紅莉栖「はっ!! 馬鹿ね、今あっちは何時だと思ってるの!?」

紅莉栖「サマータイム中だから時差は13時間、あっちは深夜4時よ!!」

紅莉栖「研究所に人が残ってる訳……」

真帆「で、これはどういうことなのかしら。説明してほしいのだけど、紅莉栖」

紅莉栖「…………」ダラダラ


ダル「ちょ!? このロリっ娘誰なん!? まさかオカリン、ナンパしてきたん!?」

まゆり「うわーちっちゃい子だねー。ようこそラボへ♪」

岡部「よく来たな、ここが我が未来ガジェット研究所だ」

岡部「そして俺がこのラボの創設者にして、狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だッ!! フゥーハハハ!!」

真帆「え、なに、ここ日本なの?……もしかして私、不法入国してる?」

紅莉栖「先輩、もしかしなくても不法入国してます」

岡部「あのー」

真帆「ねえ紅莉栖、これって夢? 私、夜中まで研究してたから……」

紅莉栖「い、いえ、たぶん、夢ではないのではないでしょうか……」

岡部「もしもーし」

真帆「ま、だとしたら1か月以上休暇期間を自分勝手な理由で延ばした後輩を叱り飛ばさないといけないのだけど?」

紅莉栖「……お手柔らかにお願いします」

岡部「俺の話を聞けぇっ!!」


真帆「……いい先生を紹介してあげましょうか」

岡部「誰がかわいそうな頭の男か! このロリっ娘が!」

真帆「ロリっ娘言うな!……あんたが紅莉栖の言ってた岡部倫太郎ね」

岡部「俺は岡部倫太郎などという名前ではないッ! 俺は、世界の支配構造を覆し、混沌の底へと陥れる……」

岡部「狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だッ!!!」

真帆「……紅莉栖、付き合う相手は選んだほうがいいと思うのだけれど」

紅莉栖「私も最近痛感してます」ハァ

真帆「ここ、ホントにラボなの? 研究施設のようには見えないのだけれど……」

真帆「この小型プロペラ機が研究成果?」

岡部「それは未来ガジェット2号機、タケコプカメラーだ」

岡部「内蔵されたCCDカメラによって動力なしに空中撮影ができる優れ物だぞ!」

紅莉栖「撮影された映像は激しく回転していて見る者に吐き気を催させる毒物ですけど」

真帆「何そのガラクタ……」


まゆり「トゥットゥルー♪ 椎名まゆりって言います。まゆしぃ☆って呼んでね」

真帆「とぅ……? あなたが紅莉栖の言ってた椎名さんね、お会いできて光栄だわ」

真帆「私は比屋定真帆、一応"成人"してるわ。よろしくね」

ダル「合法ロリktkr!!!」

まゆり「ひやじよさん……?」

真帆「呼びにくかったら真帆でいいわ」

まゆり「わかったよー、まほニャン♪」

真帆「ちょっとお待ちなさい。なにか余計なモノが語末にくっついているわ」

まゆり「なにが~?」

真帆「……それで、あちらの2人は?」

紅莉栖「ドラえもんみたいな見た目のHENTAIが技術者の橋田至、東京電機大学1年生」

ダル「ぼくダルえもん~」(CV. 関智一)

岡部「声はスネ夫だ。似てないが」

紅莉栖「それでこちらの教授が橋田鈴さん、東京電機大の元物理学教授」

真帆「親子なのかしら」

鈴羽「……久しぶりだね、比屋定真帆」


真帆「えっと、どこかのコンベンションでお会いしたことが……?」

鈴羽「教授職自体はもう12年も前に辞めちゃったよ」

紅莉栖「先輩、信じられないと思いますが、この人、別の世界の未来からやってきたんです」

真帆「……は?」

ダル「僕の未来の娘なんだって」

真帆「……へ?」

まゆり「スズさんはねー、まゆしぃの娘のかがりちゃんのお姉さん代わりだったんだよー」

真帆「……んん?」

岡部「とある世界においてはディストピアの中枢であった悪の組織と対峙するワルキューレの戦士であり!!」

岡部「またとある世界においては第3次世界大戦を生き延びた軍人であり……ッ!!」

岡部「その正体はッ!! 運命石の扉<シュタインズ・ゲート>への因果を構築した、孤独のサイエンティストなのだッ!! フゥーハハハ!!」

真帆「……今日ってエイプリルフール?」

紅莉栖「残念ながら全て真実です……悔しいことに」

鈴羽「君と会うのは1つ前の世界では35年前に挨拶程度」

鈴羽「その前の世界では同じ反政府組織の一員として活動してた」

真帆「ちょ、ちょ、ちょっと待って!? あなたはあくまでも妄想の類じゃないと言うのね!?」

真帆「異世界間移動!? タイムトラベル!? まずは理論を説明して!!」

岡部「さすがクリスティーナの先輩だ。理屈から入るタイプか」

紅莉栖「ティーナをつけるな!」

鈴羽「ちょっと長くなるけどいいかな」


・・・

真帆「……実証実験ができないのは悔しいけど、なるほど。だいたいわかった」

真帆「それでこのどこでもドアね……いや、やっぱり信じられない……」

岡部「未来ガジェット10号機、どこでもゲートだッ!」

鈴羽「君も強情だね、"クリスねえさん"」

真帆「……私のこと?」

まゆり「"クリス"ねえさん? クリスちゃんじゃなくて?」

岡部「クリスティーナならこっちにいるぞ」

紅莉栖「いや私はクリスだから。教授、えっと?」

鈴羽「あたしの世界では牧瀬紅莉栖が2010年7月28日に亡くなってる、って話したよね」

紅莉栖「は、はい」

真帆「……一体なんの冗談?」

まゆり「で、でもでも、それは無かったことになったんだよね!?」

紅莉栖「そうよ、まゆり。大丈夫、私は生きてるわ」

鈴羽「あたしの世界において、その後、後輩大好き脳科学者はどうしたと思う?」

岡部「なるほど。心の底から可愛がっていた後輩の非業な死に対して喪失感に苛まれたあげく」

岡部「架空の人格『クリス』を自分の中に作り上げ」

岡部「それはまるでジキルとハイドのような様相を呈することとなった、と」

鈴羽「あながち間違ってはいないね」

真帆「う、嘘でしょ!?」


鈴羽「仮に、牧瀬紅莉栖が何者かに刺されて秋葉原で死んだとして……」

鈴羽「しかもその事件の関係者が第3次世界大戦の引き金になったとしたら、君ならどう行動する?」

真帆「えっと……そうね。もちろんとても悲しいことだし、悲嘆にくれることもあるでしょう」

紅莉栖「先輩……」

真帆「だけど、私なら多分、事件の真相を究明する」

岡部「揃いも揃って知りたがりだな」

真帆「だって、天才の紅莉栖が殺されて、それが世界大戦につながる!?」

真帆「どう考えたって裏に何かがあるとしか思えないわ!」

岡部「貴様、陰謀論者だったのか」

真帆「違うわよ!」

ダル「んほぉ! 幼女のツッコミ激し杉……はぁはぁ」

真帆「……紅莉栖、今すぐ訴訟の準備を始めるわよ」

紅莉栖「私が私刑に処しておきます、先輩」

鈴羽「あはは、ありがとうみんな。このくらい軽い空気じゃないと話せないからね」

鈴羽「そう。君は実際そうやって行動して、ここ未来ガジェット研究所に辿り着いた」

鈴羽「牧瀬紅莉栖殺害の真相を知っている、岡部倫太郎にね」

岡部「ぐっ……」

真帆「……え、それ、どういうこと?」


岡部「鈴羽。いや、橋田鈴よ。ここまででよかろう」

鈴羽「でも、中途半端にリーディング・シュタイナーが発動して疑念を募らせるくらいならさ」

鈴羽「その前に全て本人の口から説明しておいた方がいいと思うけど」

岡部「それは、そうだが……」

紅莉栖「私の口から説明するわ。岡部はもう、つらい思いをする必要はないもの」

岡部「う、うむ……」

真帆「……?」

紅莉栖「岡部の口から聞いてたら私もすぐには信じられなかったと思うけど」

紅莉栖「橋田教授の説明なら納得せざるを得なかった」

紅莉栖「……私は1度、岡部倫太郎によって刺殺された」

真帆「ハァ!?」

紅莉栖「だけどそれは事故のようなもの。私のパパ、牧瀬章一の凶行から私を守ろうとした結果だった」

岡部「…………」

真帆「あの、ロシアの亡命に失敗したっていう……」

真帆「ということは、もし亡命に成功してたら、第3次世界大戦が……?」

紅莉栖「その過去を変えるために岡部は、世界を騙した」

紅莉栖「もう1度過去に跳んで、私を救ってくれたの」

真帆「……なるほど。紅莉栖がそんな目に遭っていたなんて……」


鈴羽「どうしても岡部倫太郎は1度牧瀬紅莉栖の救出に失敗しなければならなかったんだ」

鈴羽「それが最終的に世界を変えるほどの執念を生み出すことになったってわけ」

鈴羽「その執念にはね、君の想いも詰まっていたんだよ」

真帆「わ、私の?」

鈴羽「牧瀬紅莉栖のいない世界で、牧瀬紅莉栖を救う方法を知ってしまった君はね」

鈴羽「死に物狂いでタイムマシン研究を進展させたんだ」

真帆「そ、そんな! そりゃ、紅莉栖ならできるかも知れないけど、私なんかにタイムマシン研究なんて……」

鈴羽「だから君は"クリス"になったんだ。クリスならタイムマシンを作れると信じて」

真帆「……突拍子もない話のはずなのに、妙に説得力があるわね」

紅莉栖「これが未来人の力みたいですよ」

鈴羽「ホント、クリスねえさんには頭が上がらないよ」

鈴羽「あの理論が無ければC204型は完成しなかっただろうからね」

真帆「……その、大変申し訳ないのだけれど、あなたのような立派な大人の女性に"ねえさん"と呼ばれるのは少し抵抗があるのですが」

岡部「見た目はロリっ娘だからなあ」フゥーン

真帆「ロリっ娘言うな!」

ダル「ツンデレ属性持ちの合法ロリとかたまらんすぐる」

鈴羽「寂しいこと言うねえ。わかったよ、比屋定真帆」


岡部「後輩を想う愛の力が奇跡を起こした、というわけだな」

鈴羽「助手を想う愛の力も奇跡を起こした、とも言えるね」

岡部「…………」

紅莉栖「…………///」

まゆり「クリスちゃん、愛されてるねー♪」

真帆「……紅莉栖がずっと日本に居たがる理由がわかったわ」ハァ

紅莉栖「ちがっ、先輩! そういうのじゃないから! 勘違いしないでください!」

岡部「認めたくないものだな。自分自身の、若さ故の過ちというものを」フゥーン

ダル「これが若さか……」

紅莉栖「若者をいじめないで頂きたい!」

鈴羽「新しい時代を作るのは老人ではないってことさ。岡部倫太郎と牧瀬紅莉栖、2人の未来に期待してるよ」

紅莉栖「わ、私たちの未来とか///」

まゆり「えっへへー、2人はとってもお似合いだと思うなー♪」

紅莉栖「ふぇっ!?///」

岡部「う、うむ……」

鈴羽「……そうだね、あたしもそう思うよ。まゆねえさん」

鈴羽「(短冊に書かれた願いが叶うことはなくても、あの時のまゆねえさんの決意はきっと叶ったんだ)」


真帆「最初はどうして紅莉栖が日本に滞在し続けるのか疑問だったし、脳科学界における重大な損失だとも思ったけど」

真帆「……なんだか、知らないところでつながりが出来上がってたわけね」

紅莉栖「先輩……」

まゆり「まほニャン、せっかく日本に来たんだから、一緒に遊ぼうよー!」

真帆「いえ、さすがに入国審査もしてないのにそれは遠慮するわ」

岡部「ならば、またいつでも秋葉原に来るといい」

鈴羽「そうだよ。比屋定真帆もつながってるんだ」

鈴羽「この未来ガジェット研究所とさ」

真帆「……喜んでいいのかしら、それ」

岡部「助手大好きっ娘よ。後輩とのつながりが深まって内心嬉しいのだろう?」

真帆「は、はぁ!? またその話!?」

ダル「百合厨の僕大歓喜」

鈴羽「父さんは今日おやつ抜きね」

ダル「なん……だと……」

岡部「フゥーハハ!! わかった、ではこうしようではないかッ!!」

岡部「比屋定真帆、お前は今日から……ッ!!」

岡部「ラボメンナンバー009だッ!!」

真帆「ラボ、メン……?」

まゆり「えぇー!!」


まゆり「また女の子のラボメンが増えるんだねー、まゆしぃ大勝利なのです!」

紅莉栖「ちょ、ちょっと待って! 岡部、何言ってんのよ!」

真帆「ふぅん……おもしろそうね」

紅莉栖「先輩まで!」

真帆「ちなみに紅莉栖のナンバーは?」

岡部「004だが」

真帆「ってことは、このラボなら私は紅莉栖の後輩になれるわけね」

紅莉栖「あの、一体なにを考えて……」

真帆「これからよろしくね、紅莉栖先輩♪」

紅莉栖「う、鬱だ……」


真帆「それじゃ、私はそろそろ帰るわ。もう眠いし。ふゎ……」

紅莉栖「ちゃんとベッドで寝てくださいよ」

真帆「紅莉栖こそ今週中には帰って来なさいよ? お母さんも心配してるんだから」

紅莉栖「わかってますよ……」

真帆「そんなに寂しかったら、今度はラボメンをアメリカに連れてくればいいじゃない」

ダル「そう言うと思って、ラボメンは全員ちゃんとパスポートを作っているのだぜ」

まゆり「発案はオカリンだけどねー」

岡部「フゥン。俺はラボメンが世界中のどこへ居ようともその座標を常に把握しておく必要があるからな」

鈴羽「ま、何かあったらこの未来ガジェット9号機、どこでもゲートを使えばいいしね」

ダル「それじゃ再起動するおー。ポチっとな」

真帆「岡部さん。椎名さん。橋田さんと、教授。またね」

鈴羽「レイエス教授によろしく言っておいて。あたしが入院してる時に世話になったから」

真帆「そうなの? わかったわ。バーイ」

 ガチャ バタン

岡部「(……あのちびっ子が紅莉栖の代わりにタイムマシンを作っていたとはな)」


紅莉栖「これで十分どこでもゲートのデータは取れたし、私も明日にはアメリカに帰るわ。もちろん飛行機で」

まゆり「えぇー!? クリスちゃん帰っちゃうのー!?」

紅莉栖「大丈夫よ、まゆり。もし会いたくなったらこのゲートを使えばすぐ会える」

岡部「いやいやいや、電気代がどれだけかかると思っている!」

岡部「ネット通話で代用するのだな」

まゆり「でもでもー、それだとクリスちゃんとぎゅーってできないよ?」

紅莉栖「ふふっ。今のうちにギュってしとく?」

まゆり「うん♪ ぎゅーっ」

ダル「正直、たまりません。むっはー」

鈴羽「まゆねえさんはこの頃から変わらないんだなぁ」

紅莉栖「……そう言えば」


紅莉栖「教授の知っている未来の、先輩の結婚相手って……わかったりします?」

鈴羽「何度も言ってるけど戦時中だよ? 君たちが考えるような浮ついた話は無いよ」

紅莉栖「そ、それもそうですよね……」

鈴羽「……クリスねえさんはね、2025年に大切な人を失った」

紅莉栖「そんな……」

岡部「2025……」

鈴羽「もしかしたら、その人のためにマシンを作ってたのかも知れないんだ」

鈴羽「あたしは、クリスねえさんは作戦行動中に殺された、って聞いてるけど」

鈴羽「あたしの知らないところで、試作機のタイムマシンでその人の跡を追ったのかも知れない」

まゆり「……なんだか、切ないお話だね」

岡部「……だが、物理的タイムトラベルをしたならば、鈴羽と同じような状況になっているのではないか」

鈴羽「たぶん、そう。逆説的に彼女は、タイムトラベルには失敗した、と言える」

ダル「タイムトラベルに、失敗……!?」

鈴羽「天才には一歩、及ばなかったのさ」

紅莉栖「嘘……」



  ズゥゥゥゥゥン!!


まゆり「な、なに!? 地震かな……?」

紅莉栖「どこでもゲートの誤作動……ではなさそうだけど」

岡部「いや、これは屋上からだ! 行くぞッ!」タッ

ダル「ちょ、ちょっと待つお! デブには階段はつらいんだお……」


  タッタッタッ……


岡部「こ、これは……」

ダル「ちょ! いつぞやのタイムマシン!」

まゆり「でも、前に見たのとちょっと形が違う……?」

紅莉栖「えっ、2人はタイムマシンを見たことあるの?」

ダル「いや、んなわけないっしょ!」

まゆり「タイムマシンさんなんて、初めて見たよー」

紅莉栖「……は?」

ダル「だ、だが、マシンから降りてきたオカリンを病院に連れてったのは僕たちだったと思われ……?」

まゆり「あの時はオカリンが降りてすぐマシンは消えちゃったけど……」

紅莉栖「2人は何を言っているの……?」

岡部「しかし、これがどうしてシュタインズ・ゲートに現れたんだ……」


 プシュゥゥゥゥ


紅莉栖「ハッチが開いた!」

岡部「お、お前は……!!」


真帆「……どうやら、シュタインズ・ゲートへの物理的タイムトラベルは成功したみたいね」

ダル「嘘だろ……さっきまで居た幼女が再登場してきた、だと……!?」

まゆり「ま、まほニャン? えっと、アメリカから戻って来てくれたの?」

真帆「そんなに私若いかしら? 椎名さんも、橋田さんも、久しぶり」

鈴羽「……クリスねえさんは、変わらないね」

真帆「鈴羽、ずいぶん大きくなったわね。45歳の私より10は年上かしら」

鈴羽「クリスねえさん……よかった、生きてたんだ……」グスッ

真帆「それから……紅莉栖。Amadeusじゃない本物と会うのは25年ぶりね」

紅莉栖「えっと……あなたは、私が今年の7月に死んだ世界線から来た、先輩?」

真帆「さすが紅莉栖、理解が速いわね」

真帆「……生きてる。紅莉栖が、生きてる……」グスッ

 ダキッ

紅莉栖「せ、先輩……」

真帆「良かった……ホントに良かった……」ポロッ

紅莉栖「……私のために、ありがとう、ございます」ギュッ

真帆「……それもこれも、あなたのおかげね」

真帆「未来ガジェット研究所所長、岡部倫太郎さん」

岡部「…………」


岡部「比屋定さん、あなたは2025年にタイムマシンに乗った"俺"を追いかけてきたのではなかったのか?」

真帆「そうよ、あなたと橋田さんが作ったカー・ブラックホールトレーサーを使って」

紅莉栖「えっ、じゃぁ先輩の大切な人って……」

真帆「だけど、"あなた"の乗ったC193型のカー・ブラックホールは非常に不安定だった」

真帆「起動した瞬間捕捉が解除されて、私のマシンはトレース目標を失ってしまった」

真帆「大檜山ビルの屋上からフライトしたせいなのかはわからないけど、フライト開始後に気づいたから焦ったわ」

真帆「仕方なく他のカー・ブラックホールが存在する世界線時間を探したの」

真帆「そしたら、シュタインズ・ゲート世界線でカー・ブラックホールが生成されている時間帯を見つけた。奇跡的にね」

岡部「……そうか! あのどこでもゲートは、いわば小さなタイムマシン!」

岡部「それでトレーサーを使い、ここまでフライトすることができたと……!」

鈴羽「まさかそんな因果を作り出していたなんてね……」


真帆「科学の力って不思議ね、ここまでくると魔法かおとぎ話にしか思えないもの」

鈴羽「だけど、魔法じゃない。理論は必ずある」

真帆「……そう。私は、この世界線の収束に縛られていない。鈴羽と違って」

紅莉栖「なにを言って……?」


 シュゥゥゥ……


ダル「タ、タイムマシンが光り出したお!?」

まゆり「これって、前と一緒!? 消えちゃうの!?」

真帆「私とこのタイムマシンは、シュタインズ・ゲート世界線、狭間の世界線にはあるはずのない因果だから」

真帆「アトラクタフィールドの干渉を受けない世界線にとって、私は異物扱いされる」

真帆「異物は、排除される」スゥッ……

紅莉栖「ッ!? せ、先輩の身体が、透明に……!?」


岡部「そんな……こんなことって、あるかよ……!!」

岡部「せっかく辿り着いたんだろ!?」

岡部「お前が信じた結果に、ようやく巡り合えたんだろ!?」

岡部「この俺には無い記憶のはずだが、だがッ!」

岡部「俺はお前と、共に同じ時間を過ごしていたような気がするんだ……!」

岡部「どうしてお前が消えなきゃならないんだよ!! 比屋定真帆!!」

真帆「……ううん、あなたは私の知ってる岡部さんじゃない」

真帆「それに、私もこの世界の真帆じゃない。だから、あなたはこっちの私と仲良くしてあげて」

真帆「私はね、この目で、この身体で、この信じた"解"を導けた」

真帆「それだけで、私は十分。科学者としては最高の幸せよ」

真帆「じゃあね、紅莉栖」

真帆「幸せに生きて……」


スゥ……




まゆり「消えちゃった……」

ダル「そんな……マジかお……」

紅莉栖「先輩……」

鈴羽「…………」

ダル「あ、あれ、僕たちどうして屋上に?」

まゆり「さっきまでここに誰かが居たような気がするのです……」

紅莉栖「白衣を着た、小さい、私の大切な……誰だっけ……」

岡部「(……3人、いや、シュタインズ・ゲートの住人の記憶が再構成されたのか)」

鈴羽「所詮、科学は万能ではないってことさ。それに挑む研究者もね」

岡部「(そして"消失"を理解しているタイムトラベラーも俺同様、限定的に記憶は維持される……)」

岡部「(しかし……しかしだな……)」

岡部「なぜお前はそこまで冷静で居られるのだ、阿万音鈴羽……」

鈴羽「これでも年長者だから、かな」

岡部「そんなことを聞いているのではないッ!! お前も、お前だって……!!」

岡部「世界の因果から解放されれば、このシュタインズ・ゲートから消滅してしまうのだぞ!!」


まゆり「えっ!?」

ダル「な、なんぞ!?」

紅莉栖「……たしかに、そうならないとおかしい」

鈴羽「まあね。だけどソレがいつかは正直わからない」

鈴羽「可能性の1つとしては、2011年7月7日があたしのデッドラインかもしれない」

鈴羽「そこまでなら、ギリギリあたしの生きた証が残ってるからね」

紅莉栖「でもその仮説は……」

鈴羽「……間違ってるかもしれない。もしかしたら、あたしは1時間後に消滅するかもしれない」

鈴羽「この世界の、全ての人の記憶からね」

まゆり「そんなっ!?」

ダル「ど、どゆこと?」

岡部「……それは、死ぬよりひどいことではないのか」

鈴羽「いいんだ。もう歳だし、十分生きたよ」

鈴羽「きっと……クリスねえさんも、あたしと同じ気持ちだったと思う」

岡部「……いや、まだだ。まだ、あるはずなんだ……」

岡部「神が隠し持った、秩序のない理論が……!!」


鈴羽「もう、いいんだよ。岡部倫太郎」

岡部「いいわけあるかよ!!」

岡部「俺は、これ以上仲間を犠牲になんてできない……!!」

岡部「お、俺は、狂気の、マッドサイエンティスト……鳳凰、院……」グッ

まゆり「オカリン……」

鈴羽「……岡部倫太郎。それ以上言うなら、あたしは今すぐこのビルの屋上から身を投げる」

紅莉栖「や、やめて!」

まゆり「そんなことしちゃダメだよ!!」

ダル「ちょ、鈴羽!! やめろって!!」

岡部「……クソッ!!」

岡部「また俺は、仲間を見殺しにしなければならないのかよ……ッ!!」

鈴羽「……何度も言うけどさ、この世界にとって阿万音鈴羽は2017年に生まれてくる彼女のほうなんだ」

鈴羽「あたしは岡部倫太郎が世界線移動をしてきた記憶の残滓みたいなもの」

鈴羽「役目が終われば、舞台から退場しないとね」

岡部「どうして……どうして鈴羽なんだ……」

岡部「どうして鈴羽ばっかりこんな目に遭わなきゃいけないんだッ!!」

鈴羽「君が世界一諦めの悪い男だってのは知ってる」

鈴羽「やっぱりあたしがここに来たのは間違いだったみたいだ」

岡部「そ、そんなことはないッ!! 待て、そんなことは……ッ!!」


鈴羽「……潮時かなぁ」

鈴羽「牧瀬紅莉栖もアメリカに帰るんだろ? あたしもどこか遠くへ行こうかな」

紅莉栖「……どこかって、どこへです」

鈴羽「どこでもゲートがあるからね、どこへでも行けるよ」

鈴羽「……あたしの母さんの生まれ故郷は石川県なんだって。そこなら、人知れず暮らせるかな」

岡部「わ、わかった!! もうお前を収束に縛る方法を考えたりしない!!」

岡部「だから、秋葉原に居てくれ!! このラボに居てくれ!!」

鈴羽「猫ってさ、自分の体調の悪さを上手に隠す動物なんだって。それで人前から居なくなったりする」

岡部「一体、なんの話だ……」

鈴羽「でもそれって、死ぬのを飼い主に見られたくないからじゃないんだ」

鈴羽「生きたいから。生に執着したいから、身体を休めるために静かなところへ移動する」

鈴羽「だからね……あたしも、そんな理由なんだよ」


大檜山ビル2階 未来ガジェット研究所


まゆり「スズさん……いなくなったら嫌だよ……」

鈴羽「また7年後に会えるよ。あたしは死んでも生まれ変わっちゃうから」

岡部「……思い出を作ったことを後悔していないか」

岡部「別れが必然ならば、出会ったことを後悔してないか?」

鈴羽「……あたしは行くよ。未来を変えることが、"あたし"の役割だった」

鈴羽「ラボメンとして存在することは、"あたし"の役割じゃない」

鈴羽「田舎だって悪くないよ。そこでまた、猫のように自由気ままに生きていく」

ダル「鈴羽……」

鈴羽「親不孝を許して、父さん。その代わり、もう1人の鈴羽が父さんを愛してくれると思うから」

ダル「うん……わかったお……」

ダル「それじゃ、スイッチ入れるお……」

鈴羽「……たらららったら~ん♪ ど~こ~で~も~ド~ア~、なんつって」エヘヘ

岡部「まったく、お前というやつは……」

鈴羽「やっぱりあたしに辛気臭いのは似合わないからね」

鈴羽「それじゃ、若者たち。元気で暮らしなよ」

鈴羽「あたしはこれからシュレーディンガーの猫になるんだ」

鈴羽「観測なんていう野暮なことはしないでよね。収束が発生しちゃうから」

紅莉栖「量子力学……やっぱりあなたは、物理学の教授ですね」

鈴羽「いーや、ただの未来から来た猫型ロボットさ」


岡部「ふ、ふん! お前なんぞ、顔も見たくないわ! このラボからとっとと消え失せるのだな!」

紅莉栖「ちょ、ちょっと岡部!?」

岡部「お前に出会ってさんざんだった! 炎天下で自転車をこがされたり、親父探しに付き合わされたり!」

岡部「銃で足を撃ち抜かれたりな! まぁ、それはこの俺ではないが」

岡部「ともかく! 貴様はこの俺、鳳凰院凶真の逆鱗に触れたのだッ!」

岡部「2度と……! 決して、2度と俺たちの前に姿を現すんじゃないぞ!! "橋田鈴"ッ!!」

ダル「押すな押すなってことですねわかりません!」

紅莉栖「あぁ、そういう……」

まゆり「オカリンはオカリンだねー」

鈴羽「……ありがとう、岡部倫太郎。ラボのみんな」

鈴羽「……絶対、忘れないよ」



鈴羽「じゃあね! また、未来で会おう!」



 ガチャ 


 バタン


―――――
―――




――――――――――――


あたしたちラボメンは、どれだけ離れたところにいても、心はつながってる。

過去でも、現在でも、未来でも。

世界線を跨いだとしても―――

ラボメンバッジがある限り、ね。あたしのはもうボロボロだけど。

最初から心配することなんて無かったんだ。

教えることも、導くことも必要なかったんだ。

だからあたしは、安心して君たちから距離を置ける。

君たちにはわからないだろうけど、"老い"ってのは恐ろしいものなんだ。

『老兵は死なず消え去るのみ』、ってね。元軍人のあたしらしいだろ?

同時にあたしは科学者だ。アインシュタインの言葉を借りるとさ……

『人生は自転車のようなものだ』、これがあたしにピッタリかな。

あんまり長く立ち止まると、2度と漕ぎ出せなくなる。

その時まで走り続けるよ、あたしのペースでさ。

きっと、巡り巡って、いつかまたどこかにつながるんだから。


通常、因果の輪から外れた存在は、世界から消失する。

消失の事実を誰もが認知できないままに消失する。

なかったことになる。

そこがアトラクタフィールドの狭間を縫って進む都合の良い世界線、シュタインズ・ゲートなら、なおのこと不安定でゆらぎが生じる。

そうして世界はイレギュラーに関する記憶を全人類から消去し、代わりに脳は辻褄合わせの歴史を納得する。

消失の事実それ自体を取り消すために必要なことはなにか。

"行為と関連づけられた記憶は、より強固な長期記憶になりうる。"

あたしとラボのみんなで作った未来ガジェット10号機、『どこでもゲート』。

それにまつわる思い出は―――

―――宇宙の全座標とあたしの存在を繋げていた。






――――――――――――


数年後 シュタインズ・ゲート世界線


由季「ねぇ……至さん?」

ダル「どうしたんだい、由季たん」

由季「もし女の子が生まれたら、"鈴羽"って書いて、"スズハ"と読ませる名前にする。それでいいんですね?」

ダル「うん。前に話した通り、未来から来た僕たちの娘がそう名乗ってたからね」

由季「でも、例えば鈴羽が小学生になった時に、自分の名前の由来をお父さんお母さんに聞いてみようっていう課題を出されたとして」

ダル「……んん?」

由季「未来から来た自分がそう名乗ってたから、だと先生ビックリしちゃうと思うんです」

ダル「凄まじい妄想力だお。さすが僕のリアル嫁」

由季「だから、後出しでもいいから、理由を作ってあげたいと思うんですけど」

ダル「そだなー。じゃ、未来人の代表格、ドラえもん氏から取ったってのはどう?」

由季「えっ?」


ダル「未来に羽ばたく子に育ってほしい、ってのはあるけど、それだとどんな未来かわからんじゃん?」

由季「そうですね……」

ダル「だから、ドラえもんの居た22世紀みたいに、科学技術が平和利用されててさ」

ダル「SFチックな冒険があふれる楽しい未来を作ってほしいっていう」

ダル「んで、ドラえもん氏って猫じゃん? 猫と言えば鈴、みたいな」

由季「アニメや漫画のキャラから名前を取るのは嫌じゃないですけど……昔から風当り強いですし……」

ダル「んじゃ僕の尊敬する物理学教授の名前から取った、でいいお」

由季「橋田鈴さんですよね。以前は実家のお母さんからよくお話を聞いてました」

ダル「僕のお義母さんですねわかります」

由季「白衣の女性が引っ越してきて、色んな発明品を作ってるって」

由季「作った道具で子どもたちと遊ぶ、ちょっとした地元の有名人だったみたいですよ」

ダル「(あの"鈴羽"がこの世界に生きていた証が残って本当に良かったお)」

ダル「そういや由季たん。ドラえもんの道具だったら、何が一番欲しい? あ、4次元ポケットはなしで」

由季「うーん、そうですね……スモールライトもタイムマシンも欲しいですけど、やっぱり」


―――どこでもドア、かな。









どこでもドア話 おしまい


>>73 鈴羽のセリフ ×未来ガジェット9号機  ○未来ガジェット10号機

こんな自己満SSをここまで読んでくれてありがとう

今日の夕方あたりにニュー速VIPでも別の鈴羽SS書く
もしよければよろしく

ハルヒクロスも良かったぞ

>>93
ありがとう。嬉しいね

乙だお
とても素晴らしいSSでした

鈴羽「あたしの生まれた日」 ※ニュー速VIP

↑こっちで後日譚的な

>>95
ありがと

面白かったがどこまでが公式設定でどこからがSSオリジナル設定なのかよくわからんかった

>>98
褒め言葉として受け取っておこう
具体的に聞いてくれれば答える

真帆のクリス設定ってほんとなん?

>>100
β外伝小説第三部『無限遠点のアルタイル』のエピローグ、2025年の描写のところに


それを見ながら゛クリス゛こと比屋定真帆は、ダルに声をかけた。クリスとは、真帆が現在使用している偽名である。


ってある。なんで「クリス」を偽名にしたかは不明。このSSの、オカリンの妄想(ジキルとハイド云々)および鈴羽の話(クリスならタイムマシンが作れる云々)はオリ設定

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