喜多見柚「もちつもたれつ!」 (36)

――事務所――

喜多見柚「ぅゆー…………」

モバP(女性。以下「P」)「おっはよー。あれ、柚? どうしたの? 今日はレッスンの予定だよね。お腹痛いの?」

柚「あ、Pサン……。なんだろ、ええと、ええとね」

P「うんうんっ」ストン

柚「……なんだか、つまんないなー、って」

P「そっか」

柚「あっ、アイドルは面白いよ! レッスンもお仕事もLIVEも! でもその……なーんか、つまんないっていうか……」

P「うんうん」

柚「面白いことって何カナ、なんて考えてみたんだ。そしたら柚、訳分かんなくなっちゃって。面白いことって何なんだろ」

P「うーん…………」

柚「そしたら急に、レッスン行きたくなくなって……アタシ、どうしたらいいんだろ」


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P「さあ?」

柚「さ、さあ!? アタシこんなに悩んでっ」

P「ほらほら、私が見たいのは元気のない柚ちゃんじゃないぞ~?」ウリウリ

柚「わっ」プニッ

P「そうだ! じゃあ今日のレッスンはおね~さんがついていってあげよう!」

柚「Pサンが?」

P「ほらっ、柚が来たばっかの頃は一緒にやってたじゃん。簡単なことならできるよきっと。これでも週1でジムに通ってるんだよ?」

柚「……でもPサン、アタシとバトミントンやってもすぐにへばっちゃうじゃん」

P「さあ行こ行こ!」グイグイ

柚「わっ、わっ!?」

――レッスンスタジオ――

柚「…………」ポカーン

トレーナー「え? 今日はプロデューサーさんも一緒にやるんですか?」

P「ほら、事務仕事ばっかりやってると身体が凝って凝ってしょうがないのよ~」ジュンビウンドウ

P「あ、柚の邪魔はしないから。ちょっとだけだから。ね?」

トレ「はぁ……まあ、今日は基本だけですので……」

P「やった。ほら柚? 隅っこでじいーってこっち見てても始まらないよ? さあ、動こ! 歌お!」

柚「う、うん……」ノロノロ

……。

…………。

トレ「わ、ワンツースリーフォー! ワンツースリーフォー!」

柚「よっ」

P「ほっ」

トレ「ワンツースリーフォー! ワンツー」

柚「とっ」

P「きゃ!?」ズテッ

柚「あ」

トレ「……大丈夫ですか?」

P「イタタタ……ぜー、ぜー、ち、ちょっと休憩にしない……?」

トレ「いや、まだ20分しかやっていませんが……」

柚「…………」

P「!」

P「……とあっ! よし、やるよ柚! まだまだこれからだー!」

柚「お、おー?」

P「声が小さい! いくよ、まだまだこれからだー!」

柚「これからだー」

P「これからだー!」

柚「これからだー! へへっ、Pサンには負けないよっ♪」

P「言ったなー!」

トレ「……では、もう1度、頭から!」

……。

…………。

P「」チーン

柚「はっ、はっ、いぇいっ。どうだったPサン? アタシひょっとしていい感じ!?」

P「」グッ

柚「へへっ。Pサンのお墨付きゲットっ♪ もっともっとファンも増やせるカナっ」

P「」ヨロヨロ

P「ぼ、ボーカルレッスンは……? 今日はやらないの……?」

トレ「ちょうど今からその予」

P「よしっ! 柚、私の美声に酔いしれなさい!」

柚「わー」パチパチ

……。

…………。

P「~゛~~♪ ~~~゛~♪ ……どうよっ」

柚「PサンPサン」

P「ふふっ、上手いだけじゃなくて美しい、って言ってくれてもいい――」

柚「Pサンって音痴だよね」

P「」

トレ「……姉さんが、他の女性プロデューサーさんにはアイドルもどうかって冗談交じりに勧めているんですけれど……プロデューサーさんは、その……」

柚「へた!」

P「」

柚「やっぱりPサンはPサンじゃなきゃ! じゃあ次は柚がやるから聞いてっ」

柚「~~~~~♪ ~~~♪♪ ~~~~♪」クルクル

柚「~~~♪ ~~~♪♪ ~~~~♪♪」クルクル

柚「どうだっ」

トレ「柚ちゃん? くるくる回るのにはどういった意味が?」

柚「ない!」

P「な、なんの! 私だってまだまだ!」

P「~~゛~~~゛~゛~~♪」

柚「Pサンやっぱりへたくそだ!」

P「こっ、これでも昔はカラオケクイーンと呼ばれて……!」

<ヤイノヤイノ
<ヤイノヤイノ

……。

…………。

トレ「はい、お疲れ様でした。今日のレッスンはここまでです! しっかり身体を休めてくださいね。……特に、プロデューサーさん」

P「」チーン

柚「え~~~っ、もう終わり!? でもPサンがもう駄目だ~って顔してるしっ今日はここまでだねっ」

P「た、助かるわ……」ヨロヨロ

柚「なさけないぞーっ」

P「ぐぬぬ……」

柚「Pサン。今日のレッスン、すっごく楽しかった! Pサンは柚をやる気にさせる天才だ!」

P「そう……。ならよかった」ニコッ

柚「またやろーね! Pサンのへたっぴな歌、聞いてて楽しい!」

P「でっ、でしょー? でっしょー!? 楽しいでしょー! ほらほらトレーナーちゃん、聞いた聞いた!? 楽しいんだって!」

トレ「そんなこと言われても~……」

P「楽しく歌うのが一番なのよ、楽しくね!」

柚「うんうんっ。あっ、今度カラオケ行っちゃう? オフの日にカラオケ行っちゃおう! アタシの友達とも一緒に!」

P「ゆ、柚の友達ってことは柚と同じ年代……うう、1人だけハタチ前半だけど大丈夫かしら……?」

柚「Pサンならダイジョーブ!」

P「あ、あはは……」

柚「お疲れ様っ。あはっPサン、アタシに追いついてごらんなさ~い!」シュタッ

P「あ、こら、待てー!」ダダッ

P「」ズテッ

<先に戻ってるね~!

P「はくじょうものぉ……」プルプル

トレ「……午後からの仕事、大丈夫なんですか?」

P「ぷ、プロデューサーだからね……あの子が楽しくやれるなら……!」

トレ「……お疲れ様です、プロデューサーさん。姉さんにマッサージの手配をお願いしておきますね」

P「た、たすかります……」




――別の日 事務所――
柚「おはようございまーすっ!」

P「…………」ブツブツブツブツ

柚「あれっPサンだ! ……どったの? ゾンビみたいな顔になってる!」

P「…………あー、柚かー。おはよー、ゆずー」

柚「寝てないの? Pサン徹夜っ!? ……じゃ、ないのかな?」

P「ちょっとねー。はぁ……よいしょ」

P「ちょっと会議があってね。大人同士の。ああもう大人ってなんであんなに面倒くさい生物なのよ……建前とか体裁とかって最優先にするべきなの何よここどこよアイドル事務所でしょ……」

P「アイドルが失敗しちゃったからって面子がどうとかそれ以前にやることあるでしょーよアフターケア誰がやるのよ何ならあんたの担当うちに回しなさいよ私の方がまだうまくやれる自信あるわよ」

P「クソ部長もクソ部長でなーにがもっと実績を残せもっと売上を伸ばせるだろうってアイドルにどんだけ無茶を強いてるか分かってんのって話よちょっとは現場に降りてきたらどうなの――」

柚「わっ、ぴ、Pサンが病んでるっ。えっと、どうどうー、どうどうー」ナデナデ

P「あー……ごめんね柚。ちょっと愚痴っぽくなっちゃった。ええっと、今日の予定は何だったっけ……?」パラパラ

P「……あれ? あなた、今日はオフじゃなかった?」

柚「来ちゃったっ。そしたらPサンが……うーん」

P「ごめんね。せっかくプロデューサーなのに。もうちょっと頼りあるおねーさんじゃないとね……」

柚「Pサン……」

P「ハァ……」

柚「……よし決めたっ。Pサン、ちょっと外に出ようよ!」

P「へ?」

柚「あのね、えーっと…………ほらほらっ早く支度しないと置いてっちゃうよ。ほらほらー!」グイグイ

P「ま、待って、私まだ仕事中――」

柚「最近のPサンはお仕事ばっかりでぜんぜん構ってくれない! だからアタシから連れ回してやるっ」

P「ちょっ……って、行くってどこに!?」



――街――

柚「Pサン、こっちこっち!」

――アクセサリーのパーツショップ――

柚「このガラスビーズ、すっごくキレイだなー。これで何か作ったら、アタシよりPサンの方が似合いそうっ」

P「そ、そうかしら?」

柚「何を作ったらいいんだろ?」

P「私も知らないわよ……」

柚「でもPサン、いつも面白い衣装とか小道具とか持ってくるからっ。きっと才能あるんだよ!」

P「なのかなぁ……」

柚「あっ、こっちは金具がいっぱいだっ。これで柚オリジナルストラップとか作れるカナ? ファンの皆が、かばんにアタシの顔をつけてくれるんだっ」

柚「……あれっ? それってなんだかすごく恥ずかしくない!?」

P「ううん。いいんじゃない? 一緒に作って、LIVEの時にでも配ってみよっか」

柚「Pさんが言うならやってみよっか。あっ、でも柚、作り方知らなかった! ……おっ、こっちに『アクセサリーのかんたんな作り方』って本がある! ちらっちらっ」

P「…………」

柚「ちらっちらっ」

P「…………」

柚「おねがいっ」テアワセ

P「……しょうがないわねぇ」(財布を取り出す)

柚「やったー! これでアタシも今日から職人サンだっ」

P「柚のことだから、3日で飽きるとみた」

柚「なっ。Pサン、柚を甘く見すぎだよっ。あーっ、その目は信じてない目! いいもんいいもん、がっぽり稼いでもPサンにはあげないもんっ」プイッ

P「えー、一緒においしいご飯を食べにいこうよー」

柚「ぷいっ」プクー

――露店――

柚「もぐっ、はふはふっ、あ、アツイっ。もっと、ふーっ、ふーっ、ってすればよかったカナ?」

P「…………」ジー

柚「ふーっ、ふーっ……はむっ。……美味しいっ! あれ、Pサン? 食べないの?」

柚「あ! もしかしてダイエット中!? 大丈夫だよ大丈夫、Pサンはぽっちゃりなんかじゃないよっ」

P「あ、ううん……むしろお母さんからまた痩せたのかって睨まれたけど」

柚「柚より背が高いけど柚より胸ちっちゃいよね、Pサン」

P「」

柚「だからほら! たこ焼きだ!」

P「そ、そうね。……今ちょっとグサッと来たけど大丈夫大丈夫、私はプロデューサー、私はプロデューサー」

柚「これできっと、Pサンもナイスバディに!」

P「たこ焼きってすごいわねー」

柚「はふはふっ」

P「そういえば最近、たこ焼きって食べてなかったなぁ、って思っただけよ」

柚「実はね、女子寮でたまにたこ焼きパーティーやってるんだっ。大阪っぽいたこ焼き、すっごく美味しい!」

柚「でもたまには東京のたこ焼きもいいよね。なんだか違う味!」

P「ふーっ、ふーっ、あむっ……。うん、美味しい!」

柚「でしょ!? Pサンも今度おいでよ! たこ焼きパーティーっ。次はいつだったカナ~?」ポチポチ

P「パーティー、かぁ……。前はお菓子とかいっぱい食べてたのになぁ。最近は忙しくなっちゃったし」

柚「あったっ。次の土曜日! どおどお、空いてる? っていうか空けてっ」

P「分かった。ふふっ、こう見えても高校生の頃はバイキングキラーって呼ばれた女だからね。覚悟して待ってなさいよー!」

柚「きゃー! Pサンの本気だっ。あれっ、でもレッスンの時に似たこと聞いたカモ? ……実は大したことない?」

P「何だと?」グニッ

柚「ひゃ。ご、ごめんなひゃいっ」

P「ゆーるーさーんー」グニグニグニグニ

柚「わぷっ、ゆ、ゆひゅのほっぺたやめへ~! 赤くなっひゃうから~!」

P「このっこのっこのっこのっ」

――おしゃれな喫茶店――

P「…………」ズズ

柚「…………」ズズ

柚「にがい!」

P「柚もまだまだおこちゃまだね~」

柚「なにおう!」

柚「…………」ズズ

柚「にがい! お茶ってこんなに苦かったっけ!? 前に飲んだのもっと甘かったよ!」

柚「あっ、PサンっPサンっ、これ砂糖入れてもいいのカナ?」

P「いいんじゃないの? 入れちゃえ入れちゃえ」

柚「じゃあ遠慮なくっ」ファサー

柚「…………」ズズ

柚「あまくなった! 口どけまろやかっ。……うぅ、柚にはまだ大人の味は早かったっ」

P「いーのいーの。もうしばらく子供でいればいーの。大人なんてね、年を取る度に悲惨なことになるのよ……?」フフフ

柚「わぁ、Pサン、目がまっくろけっけだ」

柚「そっ、その話はまだ今度で。ねっ、ねっ?」

P「実家から結婚をせがまれる話とか、聞きたくなったらいつでもいらっしゃい?」

柚「まだアタシには早いよー!」

P「じゃあ高校時代の友人から結婚式の招待状が送られてきてつい破り捨てちゃった話」

柚「やーだー! 柚聞きたくないー!」

P「…………」ズズ

P「ふうっ……」コトン

柚「わ~~~……Pサンがオトナの女性って感じ! どうしたら柚も"れでー"になれる?」

P「れでー? あ、レディー? うーん…………」ジー

柚「?」

P「ふーむ」

柚「よく分かんないケド照れちゃうっ。こうなったらPサンとにらめっこで勝負だ!」ジー

P「…………」ジー

柚「…………」ジー

P「……諦めなさい」ポン

柚「無理だって言われた!」ガーン

柚「ほっ、ほらっ、柚はアイドルだよ。なんだってできるよ! ほらほらっ」

P「外でアイドルとか大声で言わないの」ペチ

柚「きゃう」

P「私は元気いっぱいで明るい柚ちゃんの方が好きだけどな~?」

柚「む、むむむ……Pサンがそう言うならそうするっ」

P「うんうん。こういうお店に来るのは、あと3年経ってからでいいのよ」

柚「じゃあ、3年したら柚もれでーに!」

P「…………あと10年経ってからでいいのよ」トオイメ

柚「あれー!?」

――街――

柚「次は――」

P「柚」ポスン

柚「うきゅ」

P「時計チェック」

柚「えっ? ……ぎゃー! もう6時! え、え、まだ明るいのにっ」

P「夏って恐いわねえ。私も、もっと柚とは遊びたいけど、今日はここまでだ」

柚「ホント!? ね、ね、今日は楽しかった!?」

P「もちろん」

柚「やったー! へへっ♪ Pサン、楽しそうなアタシがいいって言うけど、アタシだって楽しそうなPサンの方が好きだよっ」

P「両思い?」

柚「らぶらぶ!」

P「……心配かけさせちゃったかー。ごめんね、柚」ガシガシ

柚「わーっ。か、髪の毛ぐしゃぐしゃになるーっ」

P「もう帰るだけなんだからいいでしょー? ……そういえば柚。次はどこに行く予定だったの?」

柚「えっと、ドーナツ屋サンでしょっ、キノコ屋サンでしょっ、あと、自転車屋サンと温泉っ、それにジムもっ」

柚「ドーナツ屋サンにはいろんなドーナツがあって、すっごく綺麗なんだ。キノコ屋サンは……なんだかよく分かんないけど面白い!」

柚「自転車屋サンは自転車を貸してくれるんだっ。おばさんがすっごく優しいんだよ。いつかバイクにも乗せてもらいたいな! まだ早いって言われちゃったけどっ」

柚「温泉も楽しいけど柚はすぐあがっちゃうっ。ジムはね、ルームランナーにこう、映像があって! 走ってたらホントに走ってるようになるんだっ。飽きなくて済むっ」

P「…………それ、1日で?」

柚「や、やっぱりムリだった? あの、じゃあ、また次のオフの時に行っちゃおうっ。……いい?」

P「オッケー。じゃあそれまで頑張って仕事しないと!」

柚「仕事魔人のPサンがさらに覚醒した! 仕事大魔王だ!」

P「誰が魔王だ」グニ

柚「うぎゅ」

P「……ところで、柚。今日行ったところと、今度行きたいところってさ……もしかして」

柚「うんっ。これぜーんぶ、みんなが教えてくれたんだ。今までユニット組んでくれたみんなが」

柚「それで、それに、えとっ、それをくれたのはPサンだっ!」

P「……そっか」

柚「うんっ。だから今度はアタシが教えてあげる! えっと……とりあえず、今日は女子寮で……女子寮で……何かあったっけ?」

P「パーティーは週末でしょ?」

柚「き、今日は前座っ。柚主催の、えっと、とりあえず楽しくやろーパーティー! Pサンは強制参加でっ」ガシッ

P「よーし、おねーさんの歌唱力、発揮しちゃうぞー!」

柚「……そ、それはやめたほうがいいんじゃないカナ?」

P「アイドルみんな自信をなくすくらいバリバリ歌ってやるから、覚悟しなさいよー!」

柚「別の意味で覚悟ができちゃうよー!?」



おしまい。柚がフリルドスクエアに所属する、ちょっと前のお話のつもり。


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