魔王「復活してからハンコしか押してないんだが」側近「次の書類でございます」 (124)


側近「おはようございます、魔王様」

魔王「ぬおおおお!!ワレ復活セリ!!!はっはっはっはっはっは」

側近「何分強力な封印でございましたので、300年ほどかかってしまいました」

魔王「久しぶりだな、側近。とはいえ、お前の寿命からしたらそんな長さでもないか」

魔王「さてと、魔界はどうなっておる?早速余の復活を皆に知らせてやらねばな」

側近「さようでございますな、しかし、魔王様の復活ともなりますと大事件、まずは閣議にかけねば・・・」

魔王「かくぎ?かくぎとはなんぞ?」

側近「ああ、そうでございました、魔王様がいらした時は魔界は絶対王政でございましたが」

側近「魔王様亡き後、色々ございましてな、今は魔界の主だった者たちによる合議制をしいております」

魔王「マジか」

側近「なにしろ、魔王様は封印されているだけでございましたから、次代の魔王位を誰かが継ぐというわけにも・・・」

魔王「なるほど、俺が復活した時に別の魔王が居てはいささかややこしい事になるな」

側近「さようでございます、下手をすれば魔界が二つに割れることにもなりかねませんので」

側近「魔王様が復活するまでは、あくまで残された魔族たちの合議で物事を決めるということになっておりました」

魔王「なるほど、では早速その、かくぎ、とかいうのヨロシク」

側近「はっ、しばしお待ちください」


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側近「こちらが現在の魔界の主だった者たち、つまり閣僚でございます」

魔王「・・・・ずいぶん多いな」

側近「は、一口に魔界を治めると言っても、内容は多岐にわたりますからな、それぞれ専門がございます」

側近「まずはお目通りを一通りいただきましょう、初対面の者も多くございますゆえ」

魔王「そうじゃな、我らのように長命な魔族は少ないからの」

側近「それでは、まずは軍関係から参りましょう」

魔人王「お初にお目にかかります、軍務省長官の魔人王と申します」

魔人王「こちらは魔王三軍の長でございます」

竜王「空軍省の竜王でござる」

獣王「陸軍省の獣王でございます」

海王「海軍省ノ海王ナリ」

魔王「おう、懐かしいの、昔日の四天王と同じ顔ぶれではないか」

魔人王「は、皆かの四天王の末裔でございます」

魔王「そういえば、余の近衛隊はどうした?」

側近「そちらはこの者が統括しております」

大魔道「魔王府長官、大魔道と申します」

魔王「なるほど、そういえば昔も王城の守りは大魔道の仕事であったな」



側近「軍は以上でございますが、それに関連する省庁の閣僚をご紹介しましょう」

アスタロト「情報通信省、幻魔族のアスタロトと申します」

シャドウ「魔界安全保障局、影族のシャドウでございます」

デュラハン「対人調査局、死霊族のデュラハンです」

ダークエルフ「外務省、妖精族のダークエルフですわ」

魔王「なるほど、察するに物見や密偵の類じゃな?」

側近「さようでございます、主に人間どもの情報を集めたり、その他の危機が無いか目を光らせる役目でございます」

側近「次に、内政関係の閣僚でございます」

ティタニア「魔力資源省長官、精霊族のティタニアと申します」

マモン「財務省長官、悪魔族のマモンでございます」

ゴーレム「国土交通省長官、機械族ノゴーレムデアリマス」

サイクロプス「建設省長官、巨人族のサイクロプスです」

魔界樹「農林水産省長官、植物族の魔界樹です」

キラーアーマー「司法省長官、鎧族のキラーアーマーと申します」

夜叉王「内務省長官、鬼族の夜叉王でございます」

サキュバス「種族自治省長官、淫魔族のサキュバスよん」

ハーピー「運輸省長官、怪鳥族のハーピーです」

ベルゼブブ「厚生省長官、虫族のベルゼブブです」

魔王「ま、まてまてまて、そんなに一度に言われても覚えきれんぞ」


側近「まあまあ、とりあえずは顔見世という事で、後で詳しく説明しますから」

魔王「そ、そうか、わかった、では、皆のものよろしく頼む」


「「「「「「「はっ!!ありがたきお言葉!!」」」」」」」


側近「ああ、申し遅れました、私は宮内省長官という肩書きでございます」

魔王「ふむ、それはどういう役目じゃ?」

側近「まあ、基本的には前と変わりませぬ、魔王様のおそばについて、お世話をさせていただきます」

魔王「さようか、ならばまあ気にすることも無いな」

大魔道「ところで、今回の閣議を召集されたのは側近どのだが、内容はいかに?」

側近「おっと、そうでございますな、早速本題に入りましょう」

側近「言うまでもないことですが、見てのとおり、魔王様が復活なされました」

側近「つきましては、その件を発表するにあたり、閣議を招集させていただきました」

大魔道「なるほど、では・・・関係各sy」

魔王「うむ、早速余の姿を皆の前に見せたいと思うのは山々だが、なにぶんさっき起きたばかりだからな」

魔王「とりあえずは一報のみ民のところに届けるが良い」

側近「あ、さ、さようでございますな、お言葉のままに!」

大魔道「ははっ!では早速ウチの広報部にそのように命じまする」

魔王「うむ、では皆の者、ご苦労であった、これよりよろしく頼むぞ」

「「「「「「「はっ!!失礼いたします!!」」」」」」」


魔王「なあ、ウチの幹部って今あんなにいんの?」

側近「はい、今日会って頂いたのは閣僚級の幹部だけで、他にも局長、室長級の責任者がおります」

魔王「・・・・・・多すぎね?」

側近「それにはワケがありまして、魔王様もご存知のとおり、魔界とはもともと様々な種族が勝って気ままに暮らす無秩序な世界でございまし

た」

魔王「そりゃ知ってるよ、俺が頑張って統一したんだからな」

側近「はい、統一後、魔王様が統治なさってた間は何ひとつ問題は無かったのでございますが」

側近「魔王様が先代の勇者によって封印されて後、再び魔界が割れ始めたのでございます」

魔王「マジか」

側近「はい、やはり元来が自由気ままな魔族たちのこと、魔王様の存在無しにひとつにまとまるのは中々難しく」

側近「しかし、魔王様が封印され、勇者ともども人間が勢いづいていた時勢もあり」

側近「そこで我らが割れれば、魔界滅亡の危機すらありえたため、各種族の首長が集まり盟約を結んだのです」

側近「魔界のすべての種族が、魔王様の復活まで共同で魔界を統治する、という盟約を」

魔王「なんと・・・苦労をかけたようだな」

側近「いえ、無事復活していただけた今、その苦労も報われたというものでございます」



側近「ともあれ、そうして魔界を共同で統治することになったのですが、実際にどのような形で治めるか、というのは難しい問題でした」

側近「魔界を種族の数だけ区切って、それぞれの地域を治める、という案は、移住の困難さや内戦の危険性から廃案になりました」

魔王「そりゃそうだろうな、お互いの間を国境で区切って暮らしてれば、国境の向こうのヤツとは仲良くしようと思わんだろう」

側近「さようでございます、結局、我らが選んだのは役割による分担、という形でした」

側近「もともと、魔王様は種族の特性に合わせてお役目を命じていらっしゃいましたので」

側近「それを基本的に踏襲する形で、主だったそれぞれの種族が魔界において役割を負う、という形になったのです」

魔王「なーるほど、それでさっき集まったヤツら、全員別の種族だったのか」

側近「さようでございます。そのようにして、魔界のあらゆる種族に役割が課されることになり」

側近「それぞれの役割は、少なくとも建前上は横並びであり、我らの上に立つは魔王様のみ、という約定が交わされました」

側近「もちろん、実際は省庁によって格が違いますし、弱小の種族などは下部の部局に配されている例などもございますが」

側近「少なくとも主だった種族の者たちはこれによってまとまることが出来たのでございます」

魔王「へー、でもなかなか上手いことやったもんじゃん?おかげでこの300年、内乱も無く魔界を治めてきたんだろ?」

側近「何度か危うい場面もございましたが、なんとか纏め上げてくる事ができました」

魔王「いやー、すまねえな、俺が不甲斐ないばかりにずいぶん苦労かけたみたいだ」

魔王「おっしゃ、俺が来たからにゃ安心しろって、これからビシバシ魔界を引っ張ってってやっからよ!」

側近「あ、あの、その、魔王様、それなんですが・・・・」

魔王「ん?ああ、気にすんなわかってるって、無茶はしねえよ、今までのやり方があるってこったろ?」

側近「はい、魔王様はもちろん我らの唯一無二の王でございますが・・・あまり横紙破りをされますと・・・」

魔王「ま、俺ガサツだからさ、そういうヤヤコシイのは苦手だし、お前がうまい事やってくれよ!ガハハハ」

側近「は、はい・・・・・(先が思いやられるなあ)」

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勇者「えっ!?僕が!?」

国王「そうじゃ、昨夜、神託が下った」

国王「そなたこそが300年前、伝説の魔王を封じた勇者の生まれ変わりであると、な」

勇者「で、でも、僕はまだ半人前でたった15歳の・・・」

国王「うむ、確かに年端もいかぬそなたに苦難の旅を強いるのは不憫ではあるが」

国王「これも神の思し召し、きっとそなたならばあらゆる障害を乗り越え、きっと魔王を倒すことが出来るであろう」

勇者「そんな無責任な・・・・・・」

~~~~~
~~~~~

魔王「ハッ」ガバッ

魔王「夢か・・・・・・?」

魔王「いや、違う、感じるぞ、あの時と同じ光の波動を・・・・」

魔王「おのれ勇者め、俺が蘇るのに合わせて転生しおったな」

魔王「今度こそ貴様の思い通りにはさせん!!危険の芽は早いうちに摘み取ってくれるわ!!」

魔王「側近!側近はおるか!!」



側近「どうされました?こんな真夜中に」

魔王「さっき、勇者が復活・・・いや、復活ではないな、転生した」

側近「なんですと!」

魔王「まあ、俺と勇者は遙か昔からの因縁の関係だからな、俺が復活したらヤツが現れるのはわかってたんだが」

魔王「さっき、夢で勇者の神託が降りるシーンをまざまざと見た」

側近「なんという事でしょう、これは早速対策を講じなければいけません!」

魔王「うむ、前回は勇者をたかが人間と侮って、結局この城まで攻め込まれるハメになった」

魔王「今回こそ同じ轍は踏まん!災いの芽は早急に摘むにしかずだ!」

側近「では、まずは勇者がどこに生まれたのかを調査する必要がございますな」

側近「今すぐ情報通信省の長官をお呼び致します」

魔王「うむ、頼む、その間に俺は着替えてくる」

側近「・・・・・そうですな、クマさん柄のパジャマで人と会うのはお勧め致しません」

魔王「うむ・・・・・」


アスタロト「夜分に失礼致します、魔王陛下、勇者が現れたとの報せを受け、参上致しました」

魔王「うむ、こちらこそ夜中に呼び出してすまんな」

アスタロト「これはもったいないお言葉、しかし我々は世界中の情報を集めておりますゆえ」

アスタロト「夜中に部下に呼び出されるなど日常茶飯事でございます、どうぞお気遣いなさいませんよう」

魔王「さようか、難儀な仕事じゃの・・・ところで公爵、おぬしは300年前の余の知る公爵とは同じ血筋の者か?」

アスタロト「は、以前陛下にお仕えした公爵は私の父でございます」

アスタロト「300年前の折、勇者とその一味によって父が斃れ、私が家督を継いだ次第にございます」

魔王「なんと!するとおぬしとも以前・・・いや、会ってはおらぬか」

アスタロト「はい、私はお目通りはしておりませんが、お姿は以前より存じ上げておりました」

魔王「ともあれ、そうとなれば勇者は余にとっても300年という時間を奪ったにっくき敵じゃが」

魔王「おぬしの父の仇という事にもなるな」

アスタロト「はっ、その通りにございます、ですから全力を以ってヤツを葬るべく邁進致しまする!」

魔王「うむ、頼んだぞ、公爵」

魔王「して、余の見た夢だが、国王と呼ばれる者がおった事を考えると~~~」

アスタロト「なるほど、今人間世界には王国の数が~~~」

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--二週間後--

魔王「なあ、側近」ペラッ ペタン

側近「はい、魔王さま」カキカキ

魔王「その後勇者の件どうなった?」ペラッ ペタン

側近「まだ報告が上がってきておりませんな」カキカキ

魔王「なんで?そんな難しいんか?」ペラッ ペタン

側近「どうやら難航しているようでございます」カキカキ

魔王「だって、勇者が現れたなんて言ったら結構人間界じゃ一大事だろ?」ペラッ ペタン

側近「さようでございますな」カキカキ

魔王「だったら、ちょっと人間どものうわさ話を探ればすぐ分かるんじゃね?」ペラッ ペタン

側近「どうもそう上手くは行かないようなのでございます」ゴシゴシ

魔王「どう上手く行って無いんだよ」ペラッ ペタン

側近「話すと長くなるのですが・・・」パチンパチン

魔王「じゃあ俺がアスタロトん所行って話聞いてくるわ」ペラッ ペタン

側近「おやめ下さい魔王さま」トントン

魔王「なんでだよ」ペラッ ペタン

側近「今日中に決済印を押していただく書類があとこれだけございます」ドサッ

魔王「」ペラッ ペタン

側近「そんな事をしているお時間はございません」クルッ

魔王「とはいったってよ、事は勇者だぜ?勇者。大事なことだろ」ペラッ ペタン

側近「さようでございますな、では後ほど昼休みの時間にでも詳しく説明させていただきます」カキカキ



--昼休み--

魔王「で、どーゆー事なの?」

側近「そうでございますな、まず、人間界の調査をどう行うか、というお話ですが」

魔王「おう」

側近「当然ながら、大半の魔族は人間界に潜入するのは難しいです」

魔王「まあな、アイツら魔物嫌いだしな」

側近「そうすると、手段としては1.人間に化ける、2.人間に見えない者を使う、3.在外居留民の協力を仰ぐ」

側近「この3つになります」

魔王「まって、その在外居留民って何?」

側近「ああ、つまり、人間から現地の野生動物として見なされている魔物の事でございます」

魔王「ああ、スライムとか一角ウサギとかか」

側近「さようでございますな、そういった連中は前々から人間界で暮らしておりますので、怪しまれる事はありません」

魔王「そうだな」

側近「で、問題は、この3つのやり方が、それぞれ管轄が違うのでございます」

側近「人間に化けるのは、主に変身魔法などに長けた幻魔族が向いておりますから、情報通信省の仕事となりますな」

魔王「ふむ、アスタロトも幻術は得意だったな」

側近「それに対して人間に見えない者、というのは死霊族のゴーストなどの事です」

魔王「あいつらは消えられるもんな」

側近「彼らは、対人調査局の管轄ですから、デュラハン殿の出番でございます」

魔王「ふむ」



側近「最後の、在外居留民、いわゆる野生の魔物と呼ばれる者達は、外務省の管轄でございます」

魔王「妖精族か」

側近「はい、妖精族は元々人間との交流もあった種族ですから、人間界の魔物の安全を確保する上でも適任です」

魔王「確かにな、俺が前回侵攻する時も、アイツら使って悪人誑かしたりしたわ」

側近「さようでございましたな、お懐かしい」

魔王「それで?それがなんで調査が上手く行っていない理由になるの?」

側近「まあ平たく言えば、どこが主導でこの調査を行うか、という事でモメているのでございます」

魔王「は?」

側近「情報通信省は魔界の名門、アスタロト侯爵家の配下でございますし、なんといっても諜報のプロという自負がございます」

側近「つまり、種族としても格が高く、しかも諜報のプロですから任されて当然、という意識がございます」

側近「それに対して、対人調査局というのは、省庁の格としては外局扱いですが、所属は魔王府になります」

側近「しかも、その名の通り、人間界の事を調査するのは彼らの専門でございます」

側近「そうなりますと、情報部の使い魔ごときが専門外の仕事にまで出張って来るな、と、こういう意識になるわけです」

魔王「なにそれこわい」

側近「そもそも、どちらも諜報を扱う部署でございますから、元からあまり仲が良いとは言えないため、泥沼に陥りがちです」

魔王「じゃあもうそいつら放っといて妖精族にやらせたらいいじゃん」


側近「それが、でございますな、妖精族は昔は人間との交流もあった種族でございまして」

側近「その点が古株の魔族、それこそ例えばアスタロト公爵のような方にとっては、嫌悪の対象になるのでございます」

魔王「あー、なるほどな、確かに昔から悪魔族と妖精族は仲悪かったわ」

側近「ですが、確かに在外居留民の数は、他のニ部署が送り込むスパイなどに較べて圧倒的に数が多いですから」

側近「どこかの国の機密を盗む、とかではなく、こういった世界中を探す、などの任には向いてはいるのです」

魔王「なんだ、じゃあますます打ってつけじゃん」

側近「ところが、問題は、確かに在外居留民は外務省の管轄ではあるのですが」

側近「実際に人間界に住んでいる魔物、魔族は、多種多様な種族にわたります」

側近「そうしますと、例えば、人間界で一番数が多い魔物はスライム族なのですが」

側近「知ってのとおり、スライム族は非常に弱小の種族ですので、彼らに任せようとすると」

側近「あのような下賎な種族にこのような大任を任せるのか、と他の種族から横槍が入るわけでございます」

魔王「えー、なんだよそれめんどくせぇ」

側近「ですから、今、それぞれの省庁の長官、および魔王府長官の大魔導どのを交えて」

側近「省庁間のすり合わせを行い、それぞれの機関がいかにしてメンツを保った上で」

側近「実効性のある調査計画を立てるか、という事を話し合っているところでございます」

魔王「・・・・・・・・で、いつ頃目処がつきそうなんだ?」

側近「そうでございますな、上手く話が運べば、来月には・・・」

魔王「おせーよ!!!!」

魔王「もう待てねぇ!三日以内にとりあえず調査計画だけでも俺んトコ持ってこい!」

側近「お待ちください、3日は厳しいかと、せめて一週間・・・」

魔王「じゃあ5日!これ以上待たない!分かったな!!!」

側近「わ、わかりました」


勇者「この辺の魔物は大したことないな、そろそろ次の街に向かおう」

戦士「オッス」

僧侶「はい」

魔法使い「ンゴ」

勇者「近くの村で聞いた話によると、この洞窟を抜けると隣の国までの近道らしい」

僧侶「ですが、近年人が立ち入ってませんから、危険な魔物が居る可能性もあるそうです」

勇者「うむ、だから気を引き締めて行こう」

戦士「オッス」

魔法使い「ンゴ」

勇者「じゃあみんな、行くぞ!!」

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--5日後--

側近「魔王様、例の勇者捜索計画の骨子がまとまりました」

魔王「お、なんだ、やりゃ出来るんじゃねーか」

側近「今回の件に関しましては、魔王様の下知という事で強く要請しましたので、各省庁ともなんとか歩み寄ってまとまりました」

側近「もっとも、かなり横車を引いた部分もありますので、しこりが残った部分もございますが……」

魔王「なんだか大変だなあ」

側近「他人事ではございませんぞ、魔王様」

魔王「まあその話は後で聞くわ、んで、どうなったんだよ」

側近「まず、捜索のメインとなるのは先だって申しました在外居留民を動員して行う事になりました」

魔王「ほほう、すると妖精族が主導で行うのかな?」

側近「いえ、計画の主導は魔王府で行います。実際には対人調査局が実務にあたるわけですが」

側近「と言いますのも、三省庁合同でこの計画を進めるには、閣僚筆頭格である大魔導どの主導、という形をとるしか無いわけです」

魔王「なんでだ?」

側近「何しろ、情報通信省と外務省は犬猿の仲ですし、対人調査局は外局扱いですからそのニ省にはかなり下に見られます」

側近「ですから、その三者を共同であたらせるために、大魔導どのが主導という形を取る事で、なんとかまとまりをつける、というわけです」

魔王「ほげー、そんで?」


側近「まず、在外居留民たちのうち、ランク2以下の者共に人里への禁足令を解除します」

魔王「禁足令……?そんなんでてるのか?」

側近「はい、まあ、基本的に人間の生活圏に近づきますと色々なトラブルの元になりますので」

側近「外務省では街道、田畑、都市周辺などへの立ち入りを禁止しております。まあ、少なくとも建前上は」

側近「しかし、勇者たちも、わざわざ街道を外れて森の奥深くなどを通るとも考えにくいですので、まずはその辺りへの禁足を解いた上で」

側近「それだけではなかなか彼らは動いてくれませんので、勇者発見に対する報奨金をかけます」

魔王「まあ、信賞必罰は大事だよな」

側近「そして、これらの動きを管理監督する必要がありますので、各地の現地司令部となる場所は対人調査局が提供します」

側近「外務省からは人員を、情報通信省からは通信網を拠出する、という形になります」

魔王「なるほど、ところでランク2って?」

側近「ああ、そういえば魔王様の頃にはありませんでしたな、まあ要するにあまり強くない魔物、という事になりますか」

魔王「ふーん、どんくらい?」

側近「ゾンビぐらいでございますね」

魔王「それって、要はザコって事じゃね?」

側近「そうとも申しますな」

魔王「なんでそんな弱っちい奴ら使うんだよ」

側近「今、各地に駐在している外務省職員よりも強い魔物にその辺をウロつかれると、状況をコントロール出来なくなる可能性があるからです」

側近「何しろ、基本が自由気ままな魔族の事、自分より強い者の束縛なく人里付近で好き勝手やらせたら、何が起こるかわかったものではありません」

側近「ですので、現地職員の平均的なレベルでコントロールできるランクの魔物、となるとランク2以下、というのが妥当な線なのです」

魔王「そっすか」



魔王「だったらさ、妖精族だってもっと強いヤツいんだろ?そいつら送り込めばいいじゃん」

側近「最初はその予定で計画を立てたのですが、予算が通りませんでして・・・」

魔王「はぁ!?」

側近「外務省では既に今期の予算は使途が決まっておりますので、新たに100人単位の出張費を捻出するとなると大事です」

側近「ですから、特別予算の計上を財務省に頼んだのですが、こちらが首を縦に振りませんで」

魔王「なんでだよ、金ねーの?」

側近「まあ、今の魔界の財政は余裕がある、とも言いづらい状況ではありますが、とはいえそこまで逼迫はしておりません」

側近「ただ、昨年人間どもとの小競り合いがあった時に、外務省では在外居留民救出のために、かなり大きな出費を強いられました」

側近「もちろん、同胞魔族のための出費ですから、不可抗力として特別予算を計上したのですが」

側近「それによって、他の各省庁がしわ寄せを食らった形になりまして、他省庁と外務省の間に少々しこりが残ったのです」

魔王「ふむふむ」

側近「そこに来て、二年連続で外務省に特別予算を計上するとなると、財務省は他省庁に対してかなり難しい説明責任が生じます」

側近「なので、波風を立てる事を嫌った財務省が、今回は金を出すのを渋った、とそういう流れでございますな」

魔王「うわー、めんどくせー・・・あ、でもさ、そんなら今回は魔王府が主導なんだから、そっちで予算つければいいんじゃねーの?」

側近「いやいやいや、それは無理という物でございましょう」

魔王「なんでよ」

側近「自分の名前で財務省に借りを作るのに、その予算を使うのは外務省、などという事態、魔王府も情報通信省も良しとするわけがございません」

魔王「」


勇者「隣の国についたら、なんだか少し魔物が強くなってきたな」

戦士「オッスオッス」

僧侶「それに、魔物の数も増えてきたように感じます」

勇者「やはり魔王が復活というのは本当なのだろうか・・・」

僧侶「かもしれませんね、この先少し旅も厳しくなるかもしれません」

魔法使い「きびC」

勇者「そうだな、我々の装備もだいぶくたびれてきた、隣国の王都まで行ったら新調しようか」

僧侶「隣国は交通の要所ですから、交易で良い武器が揃っているかもしれません」

戦士「オッス」

勇者「商人が集まっているなら、何か魔王についての情報も聞けるかもしれないな」

魔法使い「一理ある」

勇者「よし、急ごうみんな」

戦士「オッスッス」

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--半月後--

側近「魔王さま、勇者の居場所が判明致しました」

魔王「マジか!!でかした!!よーし早速刺客を、それも最強の刺客をだな・・・」

側近「お待ちください、それが、事が少々複雑でございます」

魔王「またかよ」

側近「とりあえず、責任者の方からまずは内々に魔王さまのお耳に入れてくれ、との事でして」

魔王「責任者って言うと、大魔導か?」

側近「いえ、違います、シャドウどのです」

魔王「え?アイツ今回の捜索に加わってたっけ・・・?」

側近「いいえ、どうもひょんな事から発見したらしく・・・詳しくは御前にて報告したいとの事ですが」

魔王「なんだよもったいぶりやがって・・・わかったよ、じゃあシャドウを呼んでくれ」

側近「はい、ではお呼びして参ります、少々お待ちください」

魔王「なんなんだ一体」



シャドウ「魔界安全保障局長官、シャドウ、推参致しました」

魔王「ご苦労、して、勇者を見つけたとの事だが?」

シャドウ「はい、まずは事の経緯をお話させていただきます」

シャドウ「ご存じの通り、当局では安全保障のために、人界各地に工作員を潜入させております」

魔王「(そうなのか?)」ヒソヒソ

側近「(さようにございます)」ヒソヒソ

シャドウ「そして、勇者発見の報をもたらしたのは、某国の衛兵隊に潜入させていた部下でございます」

魔王「なるほど」

シャドウ「某国の付近におりました盗賊団が、旅の一行によって壊滅させられた、との事で」

シャドウ「検証のために衛兵隊を出動させたのですが、その際に、上の方から流れてきた噂で」

シャドウ「その盗賊団を壊滅せしめたのがどうやら勇者一行であった、と判明致しました」

魔王「ほほう、よくやった」

シャドウ「ただ、いささか問題がございまして、その工作員は味方にすら秘密裏に潜行させておりました故」

シャドウ「この情報をそのまま公開してしまうと、色々と差し障りがございます」

シャドウ「ですので、まずは魔王さまにお報せした上で、ご判断をお願いできればと思い」

シャドウ「こうして推参した次第でございます」

魔王「(どういう事だ)」ヒソヒソ

側近「(・・・とりあえず説明します、下がらせて下さい)」ヒソヒソ

魔王「うむ、わかった、おぬしの働きは見事であった、その報告、どう扱うかは余が熟慮しよう」

魔王「ご苦労であった、下がって良い」

シャドウ「はい、失礼致します」


魔王「で?今度は何がどーなってんの?」

側近「ええと、まず、我が国の職員が魔界の外で活動する場合、外務省の許認可が必要になります」

側近「また、人里への侵入においては、事前に対人調査局に話を通しておくのが慣例となっております」

魔王「ふんふん、そんで?」

側近「もっとも、潜入工作員などというのは、そんな事をしていては仕事になりませんから、実際には完全に秘密裏に事を運びます」

側近「特に、安全保障局は人間のみならず、内部の魔族も監査、調査の対象としますから、まず間違いなくどこにも話は通してないでしょう」

魔王「そりゃそーだろ、そんなんしてたらダダ漏れになっちまう」

側近「それはそうなのですが、そういう経緯で得られた情報ですので、公式に出処を明かす事が出来ないのが問題なのです」

側近「三省庁合同で捜索しているにも関わらず、外務省や対人調査局の頭ごしに、非合法活動で勇者を見つけました、では三省庁ともメンツが丸潰れですから」

魔王「メンツねぇ……じゃあどーすりゃいいんだ?」

側近「そうでございますな……こういう場合ですと、長官同士で会って非公式に"耳打ち"をするとか」

側近「もしくは、城内のウワサとして流れるようにして、自然と耳に入るようにする、とか」

側近「そういったやり方をとる場合が多いのですが、今回、魔王様に最初にお耳に入れた、という事は…」

側近「恐らくシャドウどのは魔王様にその功を認めて頂きたい、というのがまず狙いの一つ目でございましょう」

側近「そして、二つ目の狙いは、安全保障局が他省庁を介さずに独自で行う工作を、魔王様が黙認、または公認する、という前例をつくる事と思われますな」

魔王「あーなるほどね、これで、俺が公式に『シャドウよ、よくやった』と言えば、周りはみんな『あーゆーのアリなんだ』って受け取るわけね」

側近「さようでございます」





魔王「んで、コレどうしたらいいと思う?」

側近「難しいところでございますな……シャドウどのの功績に全く報いないのでは、それこそ信賞必罰の原則に外れます」

側近「とはいえ、これで勇者捜索にあたっている三省庁を無視しては、彼らも面白くないでしょうから、不満が残るでしょう」

魔王「要は両方を立ててやった方がいい、って事か?」

側近「それが落とし所としては妥当かと……」

魔王「んじゃ、それで行こう、具体的にはどーすんだ?」

側近「例えば、シャドウどのには内密に何らかの褒賞を与える事にしつつ」

側近「勇者の居場所に関しましては、例えば大魔導どのなどに、裏で情報を与えて捜索地域を集中する事で」

側近「形式上は、あくまで現在の捜索体制の中で勇者を発見した、という形をとる、といった流れでいかがでしょう?」

魔王「なんだかホントにめんどくせーなあもう……じゃあそれもう側近に任せるから、上手いことやっといてくれよ」

側近「いや、それはまずいでしょう。宮内省の職掌を逸脱しすぎてますし」

側近「それを私が執り行ってしまっては、私が魔王さまの側で実権をほしいままにしている、との誤解を受ける危険もございます」

側近「あくまで、褒賞と情報の提供は魔王さま自らお願い致します。段取りに関しては私の方で準備致しますので」

魔王「マジかよ、しょーがねーな、じゃあ褒美渡すのと大魔導に話すんのは俺やるから、段取り頼むわー」

側近「承知致しました」




勇者「へえー、こんな森の中にエルフの里なんてあるんだな」

僧侶「伝説にしか聞いていませんでしたが、何とも美しい人達ですね」

魔法使い「即ハボ」

勇者「森の魔物ずいぶん強かったからな、ちょっとしばらくココで休んでいくか」

僧侶「そうですね、エルフは大変魔法に長けた種族ですから」

僧侶「戦士さん以外はここで少し魔法を習っておくのもこれからの事を考えると良いかもしれませんね」

戦士「オッス」

魔法使い「修行待ったなし」

勇者「そうだな、消耗品も補充したいし、一週間ほどここに滞在しよう」

僧侶「ですね、幸い財布の方はそれなりに余裕がありますから」

魔法使い「ンゴ」

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魔王「おい、側近、この報告書、どういう事だ」

側近「なになに?勇者捜索の結果、某国北方辺境にて足取りが途絶える…」

側近「どうやら見失ったようでございますな?」

魔王「ございますな?じゃねーよ、なんで見失うんだよ」

側近「この書類からでは詳しい事は分かりませんな」

魔王「直接聞いてみるか、大魔導を呼び出してくれ」

側近「いや、大魔導どのはこの捜索の主導者とはいえ細かいところまで把握してるとは思えません」

側近「ほぼ名前を貸しているに等しい状況で、実際には対人調査局が実務を行っていますので……」

魔王「じゃあデュラハンか、呼び出してくれ」

側近「分かりました、少々お待ちを」


--10分後--

側近「夕方こちらに伺うとの事です」

魔王「なんだよ、今これねーのかよ、忙しいのか?」

側近「まあ、長官ともなると何かと多忙でございますからな」

側近「それに、現場の責任者からヒアリングする時間も必要でしょうし」

魔王「ヒアリング?」

側近「はい、当然実際に動いているのは現場の人間ですから、デュラハンどのは大筋しか把握してないでしょう」

魔王「じゃあ現場の人間をココに呼べばいいんじゃね」

側近「いやいや、それはマズいでしょう、頭越しに現場の人間を呼び出しては、指揮系統が乱れます」

魔王「そーゆーモン?」

側近「どうしてもという事であれば、デュラハンどのに言ってその者を帯同して来させる事も可能ですが……」

魔王「まあいいよ、誰から聞くんでも、内容が正しければ文句はねーよ」





--夕方--

デュラハン「魔王さま、お伺いするのが遅くなり誠に申し訳ございません」

魔王「良い、おぬしも多忙であろうからな」

デュラハン「ははっ!もったいなきお言葉」

魔王「して、この件だが、もう少し詳しく教えてくれぬか」

デュラハン「まず、先日勇者の可能性がある人物発見という報告があり、某国に捜索を集中させましたところ」

デュラハン「その者によると思われる現地の被害者が多数発見されましたので、その移動の痕跡を追っておりました」

デュラハン「その調査によれば、勇者は某国王都から、盗賊団のアジトを通り、北方へ向かった様子で」

デュラハン「北方の森林地帯に手の者を向かわせましたところ、森林深奥部に居住する同胞からも多数の目撃報告や被害報告がございました」

魔王「ふむ、とすれば、大方その森林内に潜んでいるといったところではないのか?」

デュラハン「は、私もそのように考えまして、北方の大森林を詳細に探索させたのですが」

デュラハン「これがある日を堺にぱったりと目撃報告も被害報告も途絶えまして、こつ然と消えてしまったかの様な状態でございます」

デュラハン「勇者は転移魔法を使えるとの伝説もございますので、どこかの街や村に飛んだ可能性もあるかと思いまして」

デュラハン「勇者の故国から、某国北方までの想定されるルートにも捜索を広げているのですが、今のところ目ぼしい報告はありません」

魔王「なるほど。まだ大森林に潜んでいるという可能性は?」

デュラハン「もちろんその可能性は見て、捜索を続行させておりますが」

デュラハン「森に住む魔物どもにとっては大森林は庭のようなモノ、にも関わらず何一つ痕跡が見つからないとなると」

デュラハン「残っている可能性は低いのではないか、というのが我々の推測でございます」

魔王「むう……」




魔王「して、大森林の捜索は続けるとして、他に取るべき手段はあるか?」

デュラハン「勇者どもが転移魔法で某国の王都などに向かい、そこから別の方角に向かったという可能性もあります」

デュラハン「ですので、西の海域、東の砂漠などにも捜索の手を広げる、というのがまず一つ目」

魔王「ふむ、確かにな、それは妥当な線だろうな」

デュラハン「もう一つは、大森林内に我々もあずかり知らぬ転送ゲートなどがある可能性を鑑み」

デュラハン「現地に住む者達に何かそれらしき兆候が無いか、などの聞き取りを行う予定でございます」

魔王「なるほど……あの辺りは何しろ辺境だからの、余も前回の侵略の折、ほとんど重視しておらなんだが」

魔王「もしかすると打ち捨てられたゲートや、我ら魔族に感知できない女神の結界のような物がある可能性があるな」

デュラハン「仰る通りでございます。故に、過去の資料や、人間界の記録などにも手がかりが無いか調べてみようと思っております」

魔王「分かった、ともかく、勇者どもは我が仇敵であり、魔界の大敵でもある、なるべくすみやかに発見し、排除するよう励め」

デュラハン「ははっ!御衣にござりまする」

魔王「ご苦労であった、下がって良い」

デュラハン「失礼致します!」

魔王「………」

側近「どうやら本当に消えてしまったようでございますな」

魔王「うーん、まあサボってるワケじゃないみたいだけどさあ」

魔王「マジ勇者たちさっさとブチ殺さないとなんかこう、落ち着かねーよなあ」

側近「さようでございますな、とはいえ、人は何ひとつ痕跡を残さず消える、などというのは不可能でございますから」

側近「近いうちに何がしかの手がかりは掴めるでしょう」

魔王「そうだな…しゃーねえ、報告を待つか」

側近「そうなさいませ、さて、今日の残りの書類はまだこれだけございます、決済をお願い致します」ドサッ

魔王「」




--同刻 外務省庁舎--

ダークエルフ「エルフの隠れ里、だと?」

インプ「はい、妖精族の過去の文献をあたっておりましたところ、そのような記録がございました」

ダークエルフ「奴らと袂を分かったのは1000年以上前の事、とすると相当古い記録だな?」

インプ「はい、1200年ほど前に、妖精大戦と呼ばれる、妖精族が2つに割れる戦争があったのは御存知の通りですが」

インプ「その大戦の折に、エルフ側の居住地の一つであった、人間界の北の大森林にて」

インプ「魔族とも人間とも交流を断ち、ひっそりと隠れ里に引っ込んだ一族が居た、と記録にあります」

ダークエルフ「ヤツらの作る幻結界は我々でも感知すらできんからな……くそっ穢らわしいエルフどもめ」

ダークエルフ「1000年以上たった今となってもまだ祟られるとはな」

インプ「ヤツらは女神を信仰する邪教の徒でございますから、もしかすると勇者ならばここに入る事も……」

ダークエルフ「もしかすると、どころか十中八九そうであろうな、でなければこれほど綺麗に消え失せるわけがない」

ダークエルフ「しかし、これはマズいな」

インプ「はい」

ダークエルフ「我らはただでさえ、人との交流を持った下賎な種族として一部より蔑まれておる」

ダークエルフ「魔界の実力者となった今ですら、ピクシー共のように、人魔どちらつかずの態度を取るバカ共もおる」

インプ「監督不行き届きで申し訳も……」

ダークエルフ「良い、どのみちあやつらは言って聞くような連中ではない、仕方あるまい」




ダークエルフ「とはいえ、ここでこの情報を出すわけにはいかん」

ダークエルフ「情報部、対人調査局ともに必死に捜索にあたって居るこのタイミングで」

ダークエルフ「我らの古き裏切り者どもが勇者に手を貸している、などという事が表沙汰になれば」

ダークエルフ「妖精族の立場はかなりマズい事になる……」

ダークエルフ「その記録、他の場所にも何か関連する情報が残っている可能性はあるか?」

インプ「分かりませぬが、1200年前といえば、魔界は各種族、お互いに我関せずで群雄割拠していた時代」

インプ「妖精族は魔族とも人間ともほとんど交流はありませんでしたから、おそらく魔界には他に記録は無いでしょう」

ダークエルフ「人間界にはどうだ?」

インプ「古文書や伝承などで、そこにエルフの集落があった事が知られている可能性はありますが」

インプ「それが隠れ里となって、交流を断った後も残っている、という事は分からないでしょう」

ダークエルフ「まあそうであろうな、人間ごときの魔力で、エルフの幻結界を感知できるハズも無い」

インプ「近隣の村などでは、あの辺りは在外魔族の居住地になっている事もあり」

インプ「入ったら出られぬ迷いの森、などとして有名になっております」

ダークエルフ「ふむ、とすれば、この事が他の種族に割れる可能性は少ないな……」

ダークエルフ「良い、捨て置け」

インプ「は?」



ダークエルフ「どのみち永遠に隠れ里に引っ込んでいるわけにもいくまい、出てきた所を捉えれば良いだけの事」

ダークエルフ「隠れ里の周辺と、転移魔法で戻れる街や都を囲んで監視していればいつかは見つかるであろう」

ダークエルフ「その資料は厳重に隠匿し、他人の目には触れないようにしておけ」

ダークエルフ「また、この事を知っている者には厳重な箝口令をしけ」

インプ「承知いたしました」

ダークエルフ「あと、安全保障局には注意しろ、ヤツらが相手するのは人間だけではない」

ダークエルフ「あやつらは仲間の背中にすら潜む陰湿な連中だ、どこに入り込んでいるとも知れぬ」

ダークエルフ「この庁舎内は我が結界の内であるから、勝手は出来ぬだろうが、一歩外に出ればどこから見られているとも分からぬ」

インプ「はい、常々注意を怠らぬよう、全職員に厳しく通達致します」

ダークエルフ「もっとも、あまり何もかも隠すと今度は逆に疑いを持たれるからな」

ダークエルフ「当たり障りの無い情報は、ほどよく漏れるように上手く取り計らえ」

インプ「心得ましてございます」

ダークエルフ「さあて、勇者どもが隠れ里を出るまで、長くて一ヶ月程度だろうが」

ダークエルフ「その間、何もせぬというわけにもいくまい、アリバイとして見当違いの所でも探すように」

ダークエルフ「死霊どもと幻魔どもに、適当な進言でもしておいた方がいいだろうな」

ダークエルフ「インプ、お前の部下で当り障りのない調査計画を策定しておけ」

インプ「分かりました」



勇者「くっそ、砂漠は暑いなー」

戦士「オッス……」

魔法使い「水飲むやでー」ゴキュゴキュ

僧侶「ちょっと、そんなに一度に飲んではいけません!この先まだ長いんですよ」

勇者「この辺り、なんか魔物も随分強いしなあ」

僧侶「水筒は私があずかります、貸して下さい」

魔法使い「(僧侶には)与えられねーわ」

勇者「交易商人によれば、この先は砂漠の商人たちが東西からもちよった様々な品があるという」

僧侶「もっとも、強かな連中ですからね、ボッタくられないよう気をつけなければ」

戦士「オッスオッス」

勇者「有名な夜の街でもあるからな、何かしら魔王について情報があるかもしれない」

僧侶「で、でも、そんないかがわしい所に……」

魔法使い「なあにヘーキヘーキ」

戦士「オッス!」

僧侶「ああもう……」

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魔王「は?砂漠で勇者発見?」

側近「はい、そのようでございます」

魔王「どーゆー事だよ、アイツらが姿消したのって北の大森林だろ?全然逆方向じゃん」

側近「どうやら、某国の王都に転移でもどり、そこから東へ進んだ模様でございます」

魔王「つーたってよ、じゃあそれまでの間、一体ドコに居たんだよ」

側近「それはまだ分かりませぬが、おそらくどこかの街か村に潜んでいたのではないかと」

魔王「つかさ、それだったら某国王都の周りだって監視してるんだからそこで見つかるハズじゃね?」

側近「そうなのですが、あまりに見つからないため、あちこちに捜索の手を広げた結果、逆に街の周囲が手薄になってしまったようで……」

魔王「でもさ、街にだってゴーストとか色々スパイ入れてるんだろ?」

側近「それが、どうもこのところ、在外居留民の間でも諍いが多いらしく」

側近「おそらく、勇者発見の報奨金を巡っての争いが、種族同士の対立感情に火を付けたのでしょうが」

側近「それらの揉め事を片付けるのに、妖精族は各地で奔走しておりまして」

側近「人手不足の妖精族からの協力要請がございました結果、街に居る死霊族や幻魔族も、捜索指揮に参加しておりました故」

魔王「なんだよもうー、みんな仲良くやれよー」

側近「いやはや、魔界が統一して500年ほど経ちますが、なかなか種族の対立感情というのは消えないものでございますな」

魔王「ノンキだなお前」



魔王「まあいいよ、過ぎた事は」

魔王「とにかく、勇者見つけたならさっさと刺客送ってブッ殺しちまおうぜ」

側近「それなのですが、どうも事は簡単では無いようで」

魔王「ん?なんで?だって居場所分かってんだろ?」

側近「はい、今は砂漠の商人の街に滞在しているようですが」

側近「とはいえ、街の中で事に及ぶとなると、かなりの大事になります」

魔王「むう」

側近「一歩間違えば……というか、ほぼ間違いなく人間との戦争に発展します」

側近「となれば、その先の戦略まで練ってからでなければ開戦は無謀でございましょう」

魔王「まあ……確かにな、戦争するにゃそれなりの準備が必要だけどよ」

側近「ですので、勇者が街から出たところを狙うしか無いのですが」

側近「なにしろ、勇者というのは転移が使えるという事で、かなり厄介な存在です」

側近「せっかく刺客を放っても、転移で逃げられてはいかんともしがたい次第で……」

魔王「じゃあどうするよ」

側近「まあ、まずは砂漠の魔物にもう一度檄を飛ばし、運良く勇者を倒せればよし」

側近「無理でも、先の街へはたどり着かせぬよう、封じ込めを図るのが良いかと」

魔王「でも、それ、ザコどもで歯が立つのか?」

側近「砂漠は元々無法地帯でございまして、禁足地なども無いため、かなり強い魔物もそこら中で群れております」

側近「しかも、砂漠という厳しい環境で生き残れる連中ですからな、戦力としてもそれなりに期待ができます」

側近「まあ倒すのは無理にしても、しばらく足止めをさせる程度の期待は出来るのではないでしょうか」

魔王「なるほど」



魔王「そうやって、勇者を足止めしてる間に、人間との戦争の準備をしておく、ってワケか」

側近「そうでございますな、それも視野に入れても良いのでは?」

側近「そもそも、人間界征服は魔王さまの悲願でございましょう」

魔王「まあな、こうして毎日ハンコばっか押してるとそんな事も忘れそうになるけどな」

側近「はっはっは、ご冗談を」

魔王「いや、冗談とかじゃなくて……」

側近「ま、それはそれとして、他にも勇者を追い詰める方法があるかもしれませぬ」

魔王「例えば?」

側近「そう聞かれましても、私は専門外ですのですぐアイデアが出てくるわけではありませんが……」

魔王「じゃあ軍の連中にでも聞いてみるか」

側近「うーん、今軍を動かすとなると、かなり面倒なお話になりますが」

側近「参謀本部あたりに、限定的な戦力での勇者討伐方法などを考えさせるのは一つ手でございますな」

魔王「ふむ、そんじゃちょっとそれで行ってみるか」

魔王「じゃあヒマを見て魔人王を呼んでくれ」

側近「承知致しました」




魔人王「お呼びでしょうか、魔王様」

魔王「うむ、おぬしを呼んだのは他でもない、勇者の件で相談があってな」

魔人王「ほほう、噂では居所を突き止めたとか?」

魔王「うむ、今は砂漠の街におるそうじゃ」

魔人王「して、それがしに何を?」

魔王「勇者は今街におるわけだが、まあ街中に居る間はそうそう手を出すわけにも行かぬ」

魔人王「ふむ」

魔王「なれば、街から出た所を待ち伏せて襲う、というのが常道じゃが、それもそう簡単には行かぬ」

魔王「なにしろ勇者のヤツはあの厄介な転移魔法が使えるからの、街の外で襲ったところで逃げられるのが関の山じゃ」

魔人王「まさしく」

魔王「ついては、おぬしに良い考えは無いかと思ってな」

魔人王「なるほど……まあ、細かい事を考えずにそれがし自らその街に赴き、一刀の元に勇者を斬り伏せ、返す刀で街を火の海にして帰って参れば良いのでは?」

魔人王「と、個人的には言いたい所ですが、残念ながらそうも行きませんな」

魔王「ふん、そんな事をおぬしに許すくらいなら余が自分で行って来るわい」

魔人王「さようでございますな、となると……」

魔人王「まあ、例えば人質を取る、とか、あとは屋根のある所へ誘い込むか、もしくは魔法を封じるか、といった辺りでございますか」

魔王「ふむ、さすが知恵者と噂高い魔人王じゃ。即座に三つも出てくるとはな」

魔人王「いや、月並みな案ばかりで恥ずかしい次第でございます」

魔王「その三つ、一考の余地があるの、少し思案してみよう」

魔人王「もし、実行に移される際には、是非とも私どもにお任せを」

魔王「ふむ、しかしのう、今はデュラハンとアスタロトとダークエルフが捜索に精を出しておる……」

魔人王「陛下、あのような軟弱者に任せて置いては、片付くものも片付きませんぞ?」

魔人王「もちろん、公爵どのやデュラハンどのは、個人の武勇としてはそれがしも一目おいておりますが」

魔人王「あくまで彼らは文官でございます、軍事の差配という事になれば、素人に毛が生えたようなものでありましょう」

魔王「ふむ、考えておこう」

魔人王「それと、陛下、この機会を借りまして、申し上げたい事がございます」

魔王「なんじゃ」

魔人王「先ほどのお話ではありませぬが、戦の準備もそろそろされてはいかがでございましょう?」

魔王「ふむ、余とて人間界の征服は封印前からの悲願じゃからな、戦端を開きたいは山々なれど」

魔王「兎にも角にも戦ともなれば準備が肝心、こちらの体勢が整わぬことにはな」

魔人王「それでございますが、それがしに少々腹案がございます」

魔王「ほう?」

魔人王「もちろん、それがしとて戦の準備に時間がかかる事は百も承知、されど、その前段階としていくらか手を打っておくのも良いかと」

魔王「ふむ、面白い、申してみよ」

魔人王「いえ、まだそれがしも思いつきのみの段階なれば、細部を詰められておりませぬ」

魔人王「近いうちに正式に書面にまとめ、上奏させていただく、という事でいかがでしょう?」

魔王「なるほど、先代同様、おぬしも悪巧みが好きと見える、よかろう、ではそれを待とう」

魔人王「ありがたきお言葉でございます」

魔王「では、楽しみにしておるぞ、今日はご苦労であった」

魔人王「失礼いたします」



--魔王城 会議室--

アスタロト「なるほど、勇者を砂漠で足止めせよと」

大魔導「うむ、魔王さまからの命令だ」

デュラハン「なぜ足止めなどと迂遠な事を、さっさと息の根を止めてしまえば良かろうに」

大魔導「勇者が転移魔法を使える以上はそれが簡単ではない事は分かっておろう」

デュラハン「そんなモノ、街中で暗殺してしまえば使う間もなかろう」

アスタロト「前々から疑問だったのだが、おぬしの頭には脳ミソは詰まっておらぬのか?」

アスタロト「おっと、そういえば頭は無かったのであったな、失敬」

デュラハン「貴様、この俺を愚弄するか!!!」

アスタロト「ほう、バカにされた、という事ぐらいは理解できるようだな」

デュラハン「貴様こそ、頭に何が詰まってるのかこれからその頭蓋を開けて見てやろうか」チャキ

大魔導「ええい、やめんか見苦しい!!それが仮にも勅命を受ける立場の魔界幹部のする事か」

アスタロト「………失礼した」

デュラハン「……チッ」

ダークエルフ「あーやだやだ、なんでこんなヤツらと組んで仕事をしなきゃいけないのかしらね」

大魔導「お前もだ、いい加減にせい、魔王さまの前でも同じ事が言えるのか」ギロ

ダークエルフ「……わかったよ」

大魔導「全く、毎度毎度顔を合わせるたびに貴様らは……それが挨拶代わりなのか?」

アスタロト「……」

デュラハン「……」

ダークエルフ「……」

大魔導「そんな事だから軍から横槍を入れられるのだ」

アスタロト「軍が?」

大魔導「うむ、勇者暗殺の手はずが整ったら軍にやらせろ、と魔人王はじめ、軍部の連中が働きかけておる」

ダークエルフ「はあ?バカ言ってんじゃないわ、あんな脳筋どもに任せたらどうなるか目に見えてるわ」

デュラハン「うむ、そこら中を火の海にして敵も味方も死体にした挙句、肝心の勇者は取り逃がす、というのがオチだな」

アスタロト「しかも後始末は我々に押し付ける、というわけだ、冗談ではない」

大魔導「それが嫌ならさっさと片付ける事だな、魔王さまは勇者を足止めせよ、とのお言葉だが」

大魔導「そのついでにヤツの息の根を止めて悪いという道理はない」

デュラハン「しかしな、大魔導どの、人間は刺激するな、本国から増援は出せん、と」

デュラハン「こうも手を縛られてはなかなか動きようがないぞ」

アスタロト「そこをどうにかするのが我らの仕事だろう、文字通り無い頭を少しはひねってみたらどうだ」

デュラハン「きさm」

ダークエルフ「あのさ、道中で襲っても逃げられる、こっちから街に攻め込むわけにゃいかない」

ダークエルフ「だったらさ、どっかに誘い込んでヤるしか無いんじゃない?」

大魔導「ほう?」

ダークエルフ「転移は空が見えてなきゃ使えないんだろ?だったら屋内や地下に誘い込んで囲んじまえばいいよ」

大魔導「一理あるが、しかしヤツらが居るのは砂漠のど真ん中、人間の街以外に屋根のある所など……」

デュラハン「いや、お待ちあれ大魔導どの、良い場所がある」

大魔導「ほう」

デュラハン「砂漠の国の都から少し行った辺りに古代の墳墓があるのだが」

デュラハン「ココを臨時でウチの職員がよく根城に使っておる」

デュラハン「中は入り組んでいて罠なども未だに残っているが、人間が財宝目当てだか何だかで迷い込んでは屍を晒しておるのでな」

デュラハン「ゾンビやグールなどにとっては絶好の繁殖場所として利用しているわけだ」

ダークエルフ「へぇ……(繁殖って……コイツらの生態ってどーなってんだ)」



デュラハン「そこなら広さも充分、仕掛けなども作りやすいので、勇者どもを誘い込み、押し包んでしまえるのではないかな?」

大魔導「なるほど、そんな場所があったか」

アスタロト「しかし、誘い込むと言うが、どのようにして?」

デュラハン「それこそ、貴様の知恵の見せ所ではないのか?財宝で釣るなり、仲間を攫うなり、色々と方法はあろうよ」

アスタロト「ふむ……まあ何かしら考えよう」

大魔導「しかし、いくら地の利のある場所に誘い込むとは言っても、現地の戦力だけで足りるのか?」

大魔導「奴ら、北の大森林での被害を見れば分かるが、それなりに腕も立つぞ」

ダークエルフ「まあ大丈夫なんじゃない?砂漠の魔物は元からけっこうホネのあるのが揃ってるからね」

ダークエルフ「そいつらを呼び集めて、その上で各地に散ってるウチらの職員をそこに集結させれば、一対一じゃ勝てないでも数で押し切れるでしょ」

大魔導「ふむ、ならば、細部を詰めよう、デュラハンは現地での戦術を、アスタロトは勇者の誘導、ダークエルフは人員の集結について」

大魔導「それぞれ計画を立てて書面にしてくれるか」

大魔導「魔王さまに提出して、決済が降り次第実行にかかろう」

ダークエルフ「あいよ」

デュラハン「承知した」

アスタロト「よかろう」

勇者「くそっ、この辺りは敵が強いな!」ザシュッ

戦士「オッス!」ズバッ

僧侶「強さもそうですが、数が多すぎます!」

魔法使い「33-4」ボウッ

勇者「ヤバいな、そろそろ魔法力が限界か?」ドシュッ

僧侶「残り二割切りました!」

勇者「仕方ない、一旦街に戻ろう」

戦士「オッスオッス!」ガキーン

魔法使い「よろしくニキーwwwwww」

勇者「転移魔法!!」ギュインギュイン

~~~~

僧侶「まずいですね、砂漠の奥地まで行くと、この調子では歯が立たないかも知れません」

勇者「この辺に来て急に魔物が強くなったもんな……」

戦士「オッス」

勇者「しばらくこの国に腰を据えて実力の底上げを図ったほうがいいかも知れないな」

魔法使い「ンゴ」

黒騎士「ボス、噂では西の丸のインテリどもが勇者討伐に乗り出したとか」

魔人王「おう、勇者の転移魔法が厄介だからな、ダンジョンに誘い込んでから物量作戦で押し切るって手だ」

黒騎士「詳しいですな」

魔人王「そりゃそうだ、俺の考えた策だからな」

黒騎士「なっ!?」

魔人王「俺の考えた策が、連中の耳に入るように噂流させたのよ」

黒騎士「何故ですか!?そのような役目こそ我らの仕事ではないですか!」

魔人王「いいんだよ、どうせ失敗する」

黒騎士「はあ!?」

魔人王「大体さ、地上の魔物なんて烏合の衆だぞ?それを戦術のシロウトが指揮して、しかも指揮系統はグチャグチャと来たもんだ」

魔人王「そんなん上手く行くわけねーじゃん」

黒騎士「はあ……まあ……」

魔人王「まあ、それと、俺のカンだけどよ、勇者どもにヤられて逃げた連中に聞いた話からすると、多分あいつら結構やるぜ」

黒騎士「なるほど」

魔人王「だからまあ、多分だけど、上手くいかねーよ」

魔人王「ま、あのインテリどもがまともにちゃんと手を組んでアタマ使えば別かもしんねーが」

魔人王「そうは問屋が卸さねーよ。諜報戦はアイツらだけの専売特許じゃねーんだ、引っ掻き回してますます拗らせるようにしちゃる」

黒騎士「そ、そこまでせんでも……」

魔人王「バカ言っちゃいけねーよ、あのな?これから、行く行くは魔王様は世界を征服するワケだ」

黒騎士「はい」

魔人王「で、世界を征服したら、俺たち魔界軍はどうなると思う?」

黒騎士「まあ、その、多少なりと褒美などもらえるんじゃないでしょうか」

魔人王「あのな?多少じゃ困るんだよ、軍ってのはよ、敵が居るから存在意義があるわけよ、それが、世界征服しちまったらもう戦う相手いないだろ?」

黒騎士「確かに」

魔人王「って事は、だ、この機会に目一杯武勲たてとかないと、終わったあとウチら魔人族は一気に冷や飯食いって事だってあるワケよ」

魔人王「となりゃよ、中でも第一功にあたる勇者討伐なんて実績を、あのインテリモヤシどもに掻っ攫われるワケにゃいかねーの、わかる?」

黒騎士「なるほど、さすがボス、先まで読んでますね」

魔人王「ったりめーだろ」

魔人王「しかもな、アイツらが失敗すりゃ、いよいよ魔王様だって、現地の戦力で勇者相手にするのはムリだ、ってことに気付くわけだ」

魔人王「となりゃ、魔界から大量の兵か、めっちゃ強えヤツ送り込むしか無いだろ?」

黒騎士「そうですな」

魔人王「となりゃ誰を送り込むよ?戦闘に駆り出すんだから、戦闘の専門家に決まってんだろ?」

黒騎士「ははあ!つまりそこで我らの出番ということに」

魔人王「そーゆーコト。まあ、他にもさっさと開戦に向けて色々手を回すつもりだけどよ」

黒騎士「いやホント、悪巧みさせたらボスの右に出る人は居ませんな」

魔人王「まあそう褒めんなよ」

魔王「魔人王から、こんな提案が上がって来たんだけどさ、コレどう思う?」ペラッ

側近「ふむふむ、人間界征服にあたる前段階として、何カ国かの中枢を乗っ取り国家同士の対立を煽るという段取りでございますか」

魔王「うん、結局のところ、人間どもの最大の脅威は数だからな、互いに争わせて分裂させてしまえば、数的優位も活かす事は出来ないって事だろ」

側近「なるほど、悪くないように思えますな」

魔王「今、軍備を整えて戦端を開いたら、たぶん人間の国々は団結してウチらに対抗してくるだろうから」

魔王「そーやって、世の中混乱させてから一気に片付けた方が手間はかかんないだろうなー」

側近「さようでございますな、それに、人類の希望となる勇者も健在でございますしな」

魔王「あーそうだ、それどうなってんだ?大魔導から計画書上がって来てたけど、その後進捗は?」

側近「こちらの準備は整ったので、今は勇者たちに、強力な武具がある、とのガセネタを流して古代墳墓に誘導を行っている段階でございます」

魔王「ふむ、しかし勇者ども、それに乗って来るかねー」

側近「大魔導どの曰く、近頃砂漠で苦戦しているので、武装のレベルアップは勇者どもも望むところだろう、との事でございます」

魔王「ふーん、じゃあまあ期待して待つかー、でも大丈夫なのかなー、まだ弱いって言っても勇者だからなー」

魔王「現地の連中だけで上手いことできるの?」

側近「まあ、最悪失敗したとしても、足止めの目的は叶いますからな」

側近「今のところ勇者どもは砂漠の都から出てもさほどいかぬ間に消耗し、都に引き返すというありさま」

側近「魔物側は、討伐の報奨金目当てにかなりの数が砂漠に集まっておりますので、しばらくは砂漠から動けますまい」

魔王「なるほど、とすると、やはりその間に戦の準備はしといた方が良さそうだなー」

魔王「とりあえず、魔人王からの提案をよく検討してみるかー」


--二週間後--

魔王「はぁ!?失敗したぁ!?」

側近「そのようでございます、詳しくはココに」ペラッ

魔王「………この報告書じゃ何もわからんじゃないか、失敗した原因もどうやってやったのかも書いてない」

魔王「やたら用意周到だった事ばっかり強調されてて、肝心の戦闘結果は数字しか載ってないじゃん」

側近「私の把握している範囲では、どうやら単純に戦力不足と、練度不足だったようでございます」

魔王「どういう事だよ」

側近「勇者を古代墳墓に誘い出すところまでは良かったのですが、その後がどうも上手く行かなかったようでして」

側近「当初の計画では、勇者どもを誘い出したあと、三省庁の工作員、およびその他現地居留民の戦力を墳墓内に集中する予定でした」

魔王「そうだな、そこまでは俺の知ってる通りだ」

側近「なのですが、勇者どもが到着するより前に、現場で仲間割れが起きたようでして……」

魔王「仲間割れぇ!?」

側近「ああ、もちろん同士討ちを始めるような大惨事ではございませんが、どうも死霊族と、他の種族の間に摩擦が生じたとの事でございます」

魔王「何があったんだ?」

側近「ご存知の通り、死霊族というのは魔族の中でもかなり特殊な種族でございまして」

側近「墳墓という環境から、必然的にそこに詰めるのはゾンビやマミー、スケルトンなどが多くなるワケでございますな」

魔王「まあそりゃそうだろうな」

側近「そこで、どうも他の種族がまあ、その、臭い、と文句を言ったのが始まりとかで……」

側近「しかも、墳墓は当然対人調査局で管理している施設でございますから、彼らとしては、ウチの庭に来て何を勝手なことを、となり」

側近「ただでさえ勇者との戦闘を控えて頭に血がのぼっていた所に、そういう事がありまして」

側近「あとは売り言葉に買い言葉で、妖精族や幻魔族をはじめとした他の連中は、じゃあお前ら死霊だけでやれ、と、持ち場を放棄してしまったようで」

魔王「」




側近「まあ、他にも、まともな戦闘指揮官がいなかった事も原因のようでございますな」

魔王「そりゃまあアイツらの専門は戦闘じゃないからなあ……でも、それなら軍務省なり近衛なりから専門家呼べばいいじゃねーか」

側近「現場からは、それを求める声があったようなのですが、知っての通り諜報系の文官組と、軍の連中は犬猿の仲でございまして」

側近「軍に借りを作るのを嫌がった上層部が反対した上に、どこかから噂を嗅ぎつけた他の省庁も反対に回りまして」

魔王「なんでそうなんだよ」

側近「全ての省庁がそう、というわけではありませんが、軍と関係の悪い省庁というのはいくつかございまして」

側近「そもそも、軍の成り立ちからして、旧四天王、という名門の誇りがございます故、それが鼻につく、と感じる種族も多いのでございます」

魔王「マジか」

側近「そもそも紐解くとこの対立は、魔王さまが封印前にいらっしゃった頃からあったのですが」

側近「四天王や大魔導どのなど、魔王さまの魔界統一前からお仕えしている譜代組と」

側近「後から魔王さまの陣営に加わった外様組との間では、前々からちょっとした軋轢があったのですが」

側近「魔王さまが封印された後、譜代組が軍の中枢を掌握するに至り、文官組からはかなり抗議の声が大きかったのでございます」

魔王「えー、俺全然知らなかったわ、手下どもみんな仲いいと思ってたのに……」

側近「もちろん、魔王さまには皆忠誠を誓っておりました故、御前で対立を見せるような事はしませんでしたから」

魔王「じゃあ、その対立が尾を引いてるの?」

側近「まあ、その頃、合議制での魔界統治が始まった頃は、人間界との戦もしばしば起こりましたし」

側近「また、魔王さまが封印された事で、反乱の暴挙に出る魔族などもおりました故」

側近「やはり軍というのは魔界の中でも花型といった存在になったのですな」

側近「それ故、その軍を牛耳る譜代たちに対して、面白く思わぬ他の種族たちの間に自然と反軍、反譜代、という空気が醸成され」

側近「その後、各種族が代替わりしても、伝統的にそういった対立意識が受け継がれるようになってしまったのです」

魔王「」



勇者「それにしても、魔王の情報集まらないなあ」

戦士「オッス」

僧侶「そうですねぇ、彼らの拠点はこの辺りではないのかも知れません」

魔法使い「ンゴねぇ」

勇者「とすると、他の大陸という事もあり得るか……」

僧侶「遠方にはこの辺りの国々とは交流のない国もあると聞きますし」

魔法使い「そらそうよ」

勇者「そういう国々を訪れるとなると、船が要るな」

僧侶「定期船が出ていないような場所となると、チャーターする必要がありますね…」

戦士「オッス」

勇者「とりあえず、西の国は海洋貿易の盛んな国だからな、そこまで行ってみよう」

僧侶「ですね、上手くすれば力を貸してくれる方が居るかもしれません」

魔法使い「せやな」ブリュ

勇者「じゃあ、隣国の王都まで転移で帰ろう、西の国はそこから山越えればすぐだ」




魔王「御前会議?」

側近「はい、やはり人間界侵略ともなりますと、これは魔界を挙げての国家事業となりますから」

側近「臣下一同に魔王さまのお考えを伝える上でも、幹部を集めての会議をまず執り行うのが得策かと」

魔王「うーん……またどうせアレじゃねーの?アイツとコイツが仲悪くて喧嘩始める、みたいな」

側近「その省庁間の対立などで問題が出ないようにするためにも、あらかじめ会議ですり合わせを行った方が良いかと」

魔王「まあ、こうしよう、って決めて後から"コイツとアイツが仲間割れしました"って言われるよりはマシかあ」

側近「はい、魔王さまの御前であれば、いくら彼らといえど露骨な対立はしない事でしょうし」

魔王「んじゃそうすっか、いつやる?」

側近「そうですな、とりあえず幹部たちの日程も調整しなければいけませんからな」

側近「今から諸々の準備期間を考えますと、来月ぐらいというのが妥当な線かと」

魔王「また遠いなー、しょうがねーか、アイツらもそれぞれ忙しいだろうからなあ」

側近「そうでございますな、ときに、御前会議に招集する幹部ですが、いかが致しましょう」

魔王「え、そりゃ全員でいいんじゃねーの?」

側近「全員と申しましても、閣僚級だけとなると、三軍の長は局長級なので格として出席する資格が微妙になります」

側近「もちろん、実権としては三軍長は当然閣僚に匹敵する力を持ちますが、あくまで格としては局長級の扱いですので」

側近「かといって、外局内局の局長まで全員出席させるとなりますと、大層な人数になってしまいます」

魔王「戦争しようって話なんだから、軍団長は不可欠だろ?だったらソイツらと閣僚だけでいいんじゃね?」

側近「他に、安全保障局や対人調査局などの諜報関連や、魔法技術庁などの技術部門の局長はいかが致します?」

魔王「あー、もうわかんねーからとりあえず、戦争に関係しそうな連中は全部呼んどいて」

側近「かしこまりました」





--翌月--

大魔導「では、第一回魔界御前会議を開催したいと思います」

大魔導「議長は不肖ながらこの大魔導がつとめさせていただきます」

大魔導「では陛下、まずは開会のご挨拶を賜わりたく存じます」

魔王「うむ、皆の者、忙しい中よくぞ集まってくれた」

魔王「今日は他でもない、長年の我が悲願である人間界征服に向けての侵略プランについて話し合いたいと思う」

魔王「皆、忌憚なき意見を聞かせてくれる事を期待しておる」

「「「「「「「「ははっ!!!」」」」」」」」

大魔導「ありがとうございました、では、早速議題の方に入りたいと思います」

大魔導「まずは諸兄のもとにもわたっていると思いますが、こちらの資料をごらん下さい」

大魔導「こちらが、魔人王どのから具申された意見を元に、魔王陛下が出したプランの骨子です」

ザワザワ、バサバサ

大魔導「基本的な戦略としましては、まずは人間界の国のうちいくつかを中枢から乗っ取り」

大魔導「人間の国同士の対立を煽り、魔界への注意をそらしている間に軍備を整え」

大魔導「一定の準備が整ったところで、全土から同時多発的に侵攻を開始し、電撃的に征服を完了させる、という計画です」

大魔導「まずは、この資料を読んだ上で質疑などを行いたいと思います」

大魔導「いかがですかな?皆の衆」

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