ディーラー「──ではこれで書類も全部頂きました、もう車も入ってきてますので」トントンッ
青年「は、はい」
ディーラー「おそらく来週には納車できると思います」
青年「うわぁ…楽しみだなぁ」
ディーラー「裏の屋根つきのヤードにありますけど、見ますか?」
青年「え? 僕の車ですか?」
ディーラー「ええ、まだ保護シート貼られたままですけどね」
青年「はい、見たいですっ」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1435898457
ディーラー「こちらになります」
アルト(…ふーん、この人が私のご主人様になるのね)チラッ
青年「なんの変哲もない軽四ですけど、やっぱり可愛いですね」
アルト(かっ…!?)ドキィッ
ディーラー「ははは…注文頂いたオプション品を装着すれば、もう少し見た目が引き締まりますよ」
青年「それも楽しみです」
アルト(うふふ…いかにも遊んでなさそうなウブな感じ。悪くない、けっこうタイプかも)ホクホク
青年「じゃあ納車準備ができたらまた連絡お願いします」
ディーラー「かしこまりました」
アルト(保護シート貼ってる間はまだコミュニケーションとっちゃダメなのよね、残念だなぁ)
青年「…また納車の日にね、僕の初めての車さん」ニコッ
アルト(待ってるわ、ダーリン…なんちゃって! えへへ──)ニヤニヤ
……………
………
…
…三日後
DQN「──ざけんな、今日って言ってたじゃねえか、あぁ?」
ディーラー「申し訳ありません、電話でお伝えした通りメーカーの配車ミスのようで…」
DQN「そんなのこっちにゃ関係ねえんだよ! どうすんだ、俺は納車をアテにして実家へ帰る段取りもとってんだぞ?」
ディーラー「代車でよろしければすぐに用意いたします」
DQN「馬鹿野郎! もう先の短いバアさんに新車見せるって約束してんだよ!」バァンッ!
ディーラー「ひっ…!」
DQN「俺は見てんだぞ? 裏のヤードに一台あったじゃねえか、あぁ?」ニヤリ
ディーラー「あ、あれは他のお客様が…」
DQN「そいつの納車予定は?」
ディーラー「来週…ですが」
DQN「じゃあ俺用に注文してるやつをそっちに回しゃいいだろう」
ディーラー(……確かに、偶然にも同じ色の同じモデル…オプションはまだ着けていないし──)
………
…
ディーラー「──納車だよ。保護シートとるからね」ビリッ、ビイイィーーーッ
アルト「えっ」
ディーラー「ちょっと言っていたより早くなってしまったが、がんばってお仕えするんだよ」
アルト「は、はい…」キョトン…
ディーラー「どうぞ、お客様。準備できました」
DQN「おお、やっぱ新車だな。ピカピカだ」
アルト「ちょ…この方は?」
ディーラー「君のご主人様だよ、予定と変わってしまったけどね」
アルト「そんなっ! 私のご主人様なら三日前会ったはず…!」
DQN「あぁ? 車が持ち主を選り好みすんのか?」
ディーラー「それはしてはいけないと生産ラインで教えられたはずだろう?」
アルト「くっ…でも…っ!」
DQN「まあいいさ、調教のし甲斐があるってもんだ」クックックッ…
ディーラー「……許してくれ」
DQN「さあ、走ろうぜぇ? たっぷり可愛がってやんよ…ひひひ」
アルト「い…嫌ぁっ、近づかないでっ!」
DQN「ははっ…俺がキーを挿入てやらないと逃げる事もできねえ癖によぉ」
アルト「キーなんて挿入られたくないっ! 私はスマートキーだしプッシュスタート──」
DQN「──おらっ!」ズブッ!
アルト「ひぐっ! 違っ…そんなの…っ!」ビクッ
DQN「おら、回すぜ? 素直に開けよ」グリッ
アルト「駄目ぇっ…ボタンで開…けない…とっ! イモビライザーが鳴っちゃ…うからぁっ…!」ビクッ…ヒクンッ…
ディーラー「お、お客様…ここは彼女の言う通りにして下さい。本当に警報が鳴ってしまいます」
DQN「チッ、しゃあねえな……ほらよ」ポチッ、ピピッ
アルト(うぅ…開きたくなんかないのにっ…!)ガチャッ
DQN「ヒューゥ…室内(なか)も綺麗じゃねえか、ココに初めて乗ると思うと興奮モノだな」ニヤニヤ
アルト「いや…見ないで……乗らないでっ」グスッ
DQN「馬鹿言ってんじゃねえ、買ったモノに乗れないなんて理屈あるかよ……っと!」ボフッ!
アルト「ああああああぁあぁぁっ!!」ボロボロ…
DQN「さて、エンジンをかけるのは…ココかぁ?」サワッ
アルト「違っ…! そこはハザード…!!」チッカチッカ
DQN「じゃあこっちか?」コソコソ
アルト「んんっ…! 内気循…環…っ!」コオオォォォ…
DQN「ココはどうだよ? あぁ?」クイッ!
アルト「やだっ! 給油口が開いちゃうからぁっ!」ビクンッ…クパァ…
DQN「はははははっ…! 冗談だよ! …ココだろぉ?」ポチッ!
アルト「そんな…いきなりっ! あああぁっ…」ズキュキュッ!ブウウゥゥゥン…
DQN「けっ、澄ました顔しといてアッという間に始動してやがる。はしたねえなぁ、おい?」
アルト(うぅ…もっとロマンチックなハジメテに憧れてたのに…)
DQN「ドライブに挿入るぜぇ?」グッ
アルト「えっ…! もっとアイドリングしてから…!」ビクッ
DQN「うるせえ!」ガコッ
アルト「ひぐっ…!! あぁ…挿入った……挿入られちゃ…った…」ガクガク
DQN「ふぅ、まだノブが少し固てぇな…じきにほぐれるか」
アルト「うっ…ううっ……」グスンッ
DQN「さあて、ブレーキを放して……いよいよアクセルオンだ。いい声で啼けよぉ?」クックッ…
アルト「もう…好きにしてよ……」フイッ
DQN「観念したかよ、じゃあ遠慮なく踏み込むぜ」グッ…
アルト「んっ…くっ…」ブイイィィィィ……ビクッ…ヒクンッ
DQN「おいおい、まだちょっとアクセル挿入ただけだぜ? ハジメテにしちゃ随分レスポンスいいじゃねえか」ニヤリ
アルト「そんなっ…事ない…もんっ……んっ」ピクン…ジワァ…
DQN「じゃあ一ヶ月点検にはすっかり淫らになったコイツを連れてくるからよ、それこそドレン緩めただけでオイル垂れ流すくらいなぁ!」ゲラゲラ
ディーラー「お待ちして…おります…」ギリッ
DQN「おら、ウインカー点けろ」カチッ
アルト「うっ…んっ……あっ」チッカッチッカッ
DQN「イクぞ…? 走れよ」グイッ
アルト「…はっ…ああぁ…っ…あっ、あんっ…!」ブゥンッ…ブブブブブ…
DQN「よし、あのセレナの次に挿いるからな」
アルト(さよなら…さっきまでの綺麗な私──)
………
…
アルト「うっ…ひっく……うぅ…っ」グスンッ…ブイイイィィィィ…
DQN「いつまで泣いてんだよ、いい加減受け入れろって」チッ
アルト「ふんっ」プイ
DQN「……イエローハット行くからな」グイッ
アルト「んぁっ…! まだ馴らし運転中でしょっ…いきなり踏み込まないでよっ!」ビクッ…ビクンッ
DQN「口の減らねえ奴だ、サスをフルボトムしてやろうか?」
アルト「嫌よ、乱暴にしないで…あああっ!」ブゥンッ!ブイイイイィィィィ…!
DQN「へへっ、乱暴な位が気持ちいいだろ…?」
アルト「こっ…こんなっ…急なキックダウンッ…気持ちいいわけ無いで…しょっ……んっ…!」ピクンッ…フルフル…
………
…
…イエローハット駐車場
DQN「じゃあ待ってろよ、つっても自分じゃ動けないだろうけどなぁ」ケラケラ
アルト「………」フイッ
アルト(……なんでこんな事になっちゃったんだろう)
アルト(私、素敵なご主人様の元に納車される日をずっと楽しみにしてたのに)
アルト(周りのみんなは…幸せなんだろうな…)チラッ
客A「──オイル交換予約してくるから、待っててね」
R34「ああ、化学合成油で頼むぜ」
客B「ほら、新しいワイパー買ってきたよ」
ロードスター「あら、エアロフォルムでス・テ・キ」
客B「君にはピッタリだよ」
客C「エアコンガスも換えたし、この夏はしっかり冷やしてくれよ」
アルファード「お任せ下さい、ご主人様」
アルト(…いいな、ああいう関係)
アルト(私も『相棒』とか『ご主人様』とか、心からそう呼べるヒトに乗ってもらいたかった)
アルト(そうしたらきっと、こんな風に『もう店から出て来なければいいのに』なんて思わなかったんだろうな──)
プリウス「──持ち主は元気で留守がいいわよねぇ」クスクス
MPV「ホントホント、この間もねぇ? 車内で子供がジュース零して…」
デリカ「んまぁ…どこのお宅も一緒ねえ」
アルト(……?)
Z「はぁ…大事にはしてくれるんだけどさ、ウチの持ち主あいかわらずクラッチミート下手でね…」
86「あー、上達しない人っているよね」
S15「っつーか安物のHIDなんか入れるなっつーの、光軸ブレブレだし」
アルト(みんな…不満あるの…?)
ワゴンR「また車止めでバンパー擦られたし、やんなっちゃう」
ムーヴ「少し下げてるんだっけ?」
プレオ「ワタシなんかホイールガリ傷ついちゃったんだよ?」
タントカスタム「チョーウケルー」
アルト(…なによ、下手糞だろうと安物でドレスアップされようと)
アルト(愛され大事にされてるなら、それでいいじゃない…!)
IS350「僕に乗るならもう少し服装に気を配って欲しいよね」
フーガ「フォーマルとは言わなくともねぇ」
A7「ジャージはやめて欲しいわ──」
アルト「──贅沢言わないでよっ!」キッ
ワゴンR「…なに? あの娘…」ヒソヒソ
プレオ「誰に言ったわけ?」ヒソヒソ
タントカスタム「チョーウケルー」
S15「お嬢ちゃん、どうかしたの?」
86「やめとけって、メンヘラじゃねえの?」ヒソヒソ
A7「いきなり大声とか、やっぱり育ちかしらね」フッ…
IS350「まあまあ…」クスクス
DQN「おー、待たせたな」
アルト「!!」
MPV「ああ…あれが持ち主…」ヒソヒソ
プリウス「ちょっとお気の毒かもね」ププッ
デリカ「しっ…聞こえるわよ」
DQN「へっへっ…尻出せよ」ニヤニヤ
アルト「こんなところでいやらしい事言わないでよっ!」
DQN「大人しくしてねえとセンターずれちまうぜぇ…?」ガサッ
アルト「……っ…!? それ…は…!」ガタガタ
DQN「いいだろ? 『D.A.D』のウインドウステッカーだ、じっとしてろよ」
ムーヴ「うわぁ…」
ワゴンR「ご愁傷様」
タントカスタム「チョーウケルー」
アルト「嫌…いやだ…そんなのっ! 私はアルトよ…ライフやスティングレーじゃないのっ!」グスッ…!
DQN「このへんかぁ?」ビイイイィィィ…
アルト「ひっ…! やめっ…」ポロポロ
DQN「ほーらよ…っと!」ペターーーッ
アルト「あああああっ…!!!」
86「アルトにD.A.Dって…」
Z「エグいわー」
アルト「ううぅ…嫌ぁ……お願い見ないで…」ブルブルブル…
……………
………
…
…数日後、DQNの地元
DQN「──もうすぐだからよ」
アルト「…あなたの実家なんて興味ないわ」ブイイイィィィ…
DQN「けっ…ちっともデレやしねぇ、ほらよっ」グイッ
アルト「ひうっ…! やめて! レブ打っちゃう…!」ブアアアアァァアァ!ビクビクッ!
DQN「へっへっ…カラダは正直だなぁ?」クックックッ…
アルト「くっ…お、お婆さんに見せるんでしょ! 乱暴に扱ってていいのっ!?」
DQN「アクセル踏んだところで傷がつくわけじゃねえだろうがよっ!」グイグイ
アルト「あっ…ああっ! だめっ!」ビクンッ…!
DQN「よーし、ここが実家だ…いいか? バアさんの前ではツンツンするんじゃねえぞ?」ブウウゥゥゥン…プスン
アルト「………」
DQN「返事はっ!?」
アルト「…解ったわよ」
DQN「ちっ、『ハイ』って言えってんだ」ガチャッ…バタムッ
アルト(言う事きかないとどうされるか解ったもんじゃないわ…)フゥ…
アルト(…けっこう田舎だな)
アルト(こういう所の方が他の車の目につかなくていいかも)
アルト(そんな風に考えちゃう事自体寂しいけど──)
………
…
DQN「──バアちゃん、ただいま!」ガラッ
婆「おお…よう帰りんさった、疲れたじゃろう…」
DQN「全然だよバアちゃん、言ったろ? すげえ頼りになる車買ったんだ! 新車だぜ!」
婆「そうかいそうかい…アンタも車を買えるくらい立派になったんだねぇ…」ニコニコ
DQN「へへへ…立派なんてこたぁねえけどさ」テレテレ
婆「アンタは昔から車が好きだったものねえ…ほら、ヘルシオに乗りたいってねえ」
DQN「セルシオだよ、バアちゃん。でも今は俺、違う車が好きなんだ」
婆「そうなのかい…?」
DQN「うん、セルシオよりちょっとだけ小さいけどな──!」
………
…
DQN「──ほら! バアちゃん、コイツだよ!」
婆「おやまあ…可愛らしい車だこと」ニコニコ
アルト「は…はじめまして」
DQN「な? ちょっと小さいけど、すげえ綺麗だろ?」
婆「うんうん…立派だよ、本当に…大人になったねえ、嬉しいよ私ゃ」ホロリ
DQN「へへへ…」テレテレ
アルト(なにコイツ、こんな顔するんだ…?)
DQN「バアちゃん、ちょっと乗ってみるか?」
婆「いいのかい…?」
DQN「もちろんだよ! まだ助手席には誰も座った事ないぜ!」ガチャッ
婆「おやまあ、嬉しいねえ」
DQN「じゃあ、ちょっとだけ流すぜ。安全運転するからよ!」ガチャッ…バタム、ズキュキュッ
アルト(安全運転ねぇ…)フンッ
DQN「よっ…と」クイッ
アルト(んっ…いつもより優しい感じ──)ピクンッ
………
…
アルト(──んぅ…回転数も控えめで)
アルト(予告制動からのブレーキングもスムーズ…)
アルト(なによ…ちゃんと優しい運転、できるんじゃないの)
アルト(あ…ちょっと平均車速高そうなバイパス)
アルト「あんっ…」キュン…
アルト(…加速、適度な踏み加減。パワーバンドの下の方を捉えてる)ビクン…ビクン…
アルト(うぅ…認めたくない……私はそんなんじゃない…でも──)ドキドキ
DQN「バアちゃん、少しスピードのせるからな」クイッ
アルト(──気持ちイイ…よぉ…)ビクビクッ…ピクンッ──
………
…
…帰りがけ
DQN「──音楽でもかけるかぁ」ピッ
アルト「………」
DQN「BGMなにがいいんだ、おい?」
アルト「………」
DQN「ちっ…SOUL'd OUTでいいか」ウィーン
アッオゥアオゥアッオゥアッアッアッオゥ
アッアッアッアッアッアァアゥワッ♪
アルト「…お婆さん降りても、いつもより運転大人しいんじゃない?」
DQN「あ? いつもみたいな方がいいか?」クイッ
アルト「あっ…! ち、違っ…!」ビクッ
DQN「じゃあなんだよ、何が言いてーんだ?」チッ
アルト「……あんな気持ちいい運転できるんなら、最初からそうして欲しかっただけよ」プイッ
DQN「お? 今なんつった?」ニヤリ
アルト「えっ?」
DQN「気持ちよかったのか? 俺の運転で気持ち良くなってたのか? あぁ?」ニヤニヤ
アルト「ちょ…変な事言わないでよ! ああもう、言い方を間違っただけなんだからっ!」
DQN「ふーん? へへ…こりゃデレるのも近いな」
アルト「そんなわけないでしょ! とっとと買い替えればっ!」
DQN「そうはいかねーよ、バアちゃんに見せたんだ。物を大事にしてるってとこ、解ってもらわねえとなっ」グイッ
アルト「やっ…あんっ! どこが大事にしてんの…よっ…!」ビクンッ
ェイデベデベレイデベレイデベデベレイ
デベデベレイデベレイ──♪
……………
………
…
DQN「──芳香剤ペタリっと」ペタッ
アルト(貼り付けタイプじゃなくクリップのにしてよ…)ウンザリ
DQN「よーし、いい感じの香りだな」
アルト「…グリーンリーフ系のが良かったわ」
DQN「あ? 俺は甘さのある匂いは嫌なんだよ、芳香剤はスカッシュ系に限るぜ」
アルト(せめてムスクじゃないだけマシとしとかなきゃ…かな──)
………
…
DQN「──あれぇ? 行き止まりかよ…」
アルト「こんな訳わからない細い道入るからよ、ざまないわ」フンッ
DQN「よし、見通しもいいし全力でバックだな」ガコッ、ブゥンッ!
アルト「えっ…!? ああんっ…だっ…だめっ! バックだとなおさら弱いみたいなの…っ!」ビクビクッ
DQN「へぇ…? そりゃいい事聞いたな、バックがお好きかよ」ニヤリ、ブンブゥンッ!
アルト「ふぁっ…あっ、ああっ…駄目だってば!」ゾクゾクッ
DQN「イクぞ、おらっ!」
アルト「ああああぁあぁぁっ──!」
………
…
DQN「──乗り込めるかなぁ…?」ゴトゴト
アルト「ちょっと、やめてよ! 河原なんて入れるわけないでしょ!?」
DQN「いや、いける。スズキ車だろ」グイッ
アルト「バッ…!? ジムニーじゃないんだからっ! ダメダメダメ!」
DQN「今日は川べりでBBQするって決めたんだよ、諦めろ」
アルト「もうっ! 絶対出られなくなるんだからっ!」
DQN「そしたら誰か来るまで車中泊するべ」
アルト「あんたのイビキなんか聞きたくないわよっ──!」
………
…
DQN「──おう、今日は洗車するぞ」
アルト「えっ」
DQN「へっへっ…隅々までイジり回してやるからな、泡でヌルヌルにしてよぉ」ニヤニヤ
アルト「ちょっ…やめてよっ! それ普通のタオルでしょ!? マイクロファイバーのウエスにして!」
DQN「贅沢言ってんじゃねえ! おらっ!」ドプッ!ヌルヌルッ…!
アルト「安いワックスinシャンプーなんて使わないで…ああっ! もう…嫌ぁ…っ!」ビクンビクン
DQN「おいおい、いつも以上に敏感なんじゃねえの? おら、フェンダーの内側までグチュグチュだぜぇ──?」
………
…
アルト(──あ…S660だ、初めて見たなぁ)
DQN「おお、あれホンダのやつか」
アルト「…悪かったわね」
DQN「は? なにが?」
アルト「どーせ私はターボでもなければMTでもないし、オープントップでもないわよ」
DQN「ふーん、だから?」
アルト「あっちにすれば良かったんじゃない…って、高過ぎて買えないわよね、どーせ」フンッ
DQN「うるせえな」グッ、ブイイイィィンッ!
アルト「はぅっ…あっ、ああぁっ…!」
DQN「おら、こうして欲しくて生意気な口叩いたんだろ? あ?」グイグイッ
アルト「ちっ…違う…もんっ──!」
……………
………
…
…1ヶ月点検
ディーラー「──やぁ、元気にやってたかい?」
アルト「……そんなわけないでしょ」
ディーラー「そうか…本当にすまなかったね」
アルト「………」
ディーラー「でもピットクルーの所見では『すごく大事に乗られてる』って判断だったよ?」
アルト「はぁ? あの乗り方で?」
ディーラー「ああ…頻繁に回し過ぎた感じでもないし、かといって低回転しか使わずに変な癖をつけてもないって」
アルト(確かに…本当にニュートラルで吹かしてレブを打たれた事は無いし、割とパワーバンドにかかる寸前辺りを多用されてるかもだけど)
ディーラー「それに隅々まで拭いた跡があるって、それこそホイールの隙間までね」
アルト「う……あ、あの時はすごく恥ずかしかったんだからっ」プイッ
ディーラー「もちろんどこにも傷はついてないし、僕から見ても綺麗に乗られてると思うよ?」
アルト「…慰めと受け取っておくわ」
ディーラー「はは…本当なんだってば。それより…」
アルト「?」
ディーラー「…いや、やめておこうか」
アルト「なによ」
ディーラー「何でもないよ、それこそ慰めに聞こえてしまうかもしれない。君はこれからも大事にしてもらいなよ──」
………
…
DQN「──ちぇっ、一ヶ月点検って無料かと思ったらオイル交換は実費とりやがって」
アルト「一ヶ月で交換時期まで乗ったりするからよ」
DQN「うるせえ、吹かすぞ」
ブイイイィィン…
アルト「……なんで」ボソッ
DQN「あ?」
アルト「なんで…私を買ったの?」
DQN「…そんなの、お前くらいしか買う金無かったからだよ」
アルト「……そう、よね」シュン…
DQN「…嘘だよ、いや嘘でもねえけど」チッ
アルト「?」
DQN「俺ぁよ、昔はセルシオが欲しかったんだ」
アルト「…似ても似つかないわ」
DQN「でも程度を気にしなきゃ、中古でなら買えたんだぜ?」
アルト「そうすれば良かったじゃない」
DQN「だけどバアちゃんも俺の収入は察しがついてるしよ、そんなん乗ったら無理してる…金遣いが荒いって思われちまうだろ?」
アルト「…心配をかけたくなかった?」
DQN「まあな。中古じゃなく新車で、しかも堅実な車を買ってみせりゃ一番安心すると思ったんだよ」
アルト「随分お婆さん孝行なのね」
DQN「中学や高校の頃、親が俺に顔背けるようになってもバアちゃんだけは俺の味方だった…あの人がいなきゃ、俺は卒業もしてねえだろうな」
アルト「……じゃあ別に私じゃなくても良かったのね」
DQN「あぁ?」
アルト「ミラでもラパンでも、堅実な車であれば良かったんでしょ?」
DQN「…違げえよ」
アルト「?」
DQN「確かに堅実な車の中から考えたさ、でも俺は…ああ、もう──」
アルト「なによ、勿体ぶって」
DQN「──言わせんなってんだ!」グイッ!ブウウゥゥンッ!
アルト「ひゃ…っ!? あぁんっ!」ビクゥンッ
DQN「解れよ! そんな中では俺はお前に一目惚れしたんだよっ!」
アルト「んっ…! あんっ…!」
DQN「俺はミラでもラパンでもN-ONEでもなく!」グイグイッ
アルト「やっ…駄目、そんなっ…あぁっ」ビクッ…ビクビクッ
DQN「眼鏡っ娘の顔したアルトに惚れたんだよっ!」
アルト「惚れた…って…うぅっ」ハァ…ハァ…
DQN「…ちっ、解ったか」プイッ
アルト「う…うん…でもだったら、どうして最初からあんな意地悪したの…?」ドキドキ…
DQN「そりゃ…やっと惚れた車が手に入ると思ったら──」
『──そんなっ! 私のご主人様なら三日前会ったはず…!』
『い…嫌ぁっ、近づかないでっ──!』
DQN「──そんな言われたら素直にもなれねえだろ…?」
アルト「…そう…だよね。ごめんなさい…」
DQN「くそ、暑くなった。窓開けるぞ」ウィーーン
…ブリリリリリリリリイイィッ
DQN「…ん? えらい下痢便マフラー着けてんな」
アルト「下品な音…」
DQN「後ろから来てる車か──?」
痛アルト「──お願いです! 少しスピードを落として…!」
青年「イヒヒヒヒッ! どうしてそんなノリの悪い事を言うのさ!?」ブリリリリリリイィッ
痛アルト「だって危ないし! 私、そんなにスピード出す車じゃありませんっ!」
青年「ヒヒッ…僕の車が遅い訳ないじゃないか、一緒にスピードの向こう側へ行こうよ!」ガコッ!ブリリリィッ!
痛アルト「うぅっ…でも貴方、運転が下手ですし──!」グスッ
アルト(──あれって…私の持ち主になる筈だった人…!)
DQN「おい…すげえ萌えアニメの痛ラッピングされてるけど、あれアルトじゃねえか」
アルト「…バンパー擦り傷だらけになってる」
DQN「前の左側なんて外れかかってるぜ…」
アルト「追い抜いてくるわ!」
ブリリリリリリイィッ!
アルト「あ…あの…」
痛アルト「…見ないで…下さい」グスッ
アルト(酷い…ラッピングはともかく、よく見ればドアまで凹んでる…)
痛アルト「私も貴女みたいに大事にされたかった…こんな下品な音をたてて走るなんて、考えもしませんでした…」フッ…
アルト「修理は…? してもらえるんですよね?」
痛アルト「このラッピングはつい先週にされたもの。凹んだまま…直す事もせずに」
アルト「そんな…」
痛アルト「直してもどうせまたぶつけるから…って、実際そのくらい下手なの──」
ブリリリリリリリリイイィッ!ブリリリリリリ…
アルト「あんなの…ないよ…」
DQN「ちっ、後ろに回ると余計にうるせえな」
アルト「──て…」
DQN「あ?」
アルト「あの娘を…助けてあげてっ!」
DQN「た、助けるってどうやって…」
アルト「もう一度追い越して、無理にでも停めさせて! そしたら貴方の顔と声で脅せば持ち主の人も目を覚ますかも…!」
DQN「いや、俺そこまで強面か!?」ガーン
アルト「お願い! 早くっ!」
DQN「で、でもそのためには今までよりずっと強くアクセル踏まなきゃいけないぜ…?」
アルト「…いいよ」ゴクリ
DQN「そりゃもう馴らし運転の距離なんか余裕で超えてるけど…お前、大丈夫なのか」
アルト「最近の貴方の運転、最初よりずっと優しくて好きよ」
DQN「だから、追い越そうと思えばそうできない──」
アルト「──でも、時々もの足りないの」
DQN「え…?」
アルト「貴方が意地悪く急にアクセルを踏んだりキックダウンしたり…その時の刺激……私、嫌いじゃないみたい」
DQN「アルト…」ドキッ
アルト「ねえ、お願い」ウルウル…
アルト「もっと深くアクセルを挿入て」
アルト「もっと、ずっと…激しくして下さい──」
DQN「──そこまで言わせて応えなかったら、男が廃るぜ…イクぞ!」グイッ!
アルト「あぁんっ…! イイ…もっとぉ…っ!」ビクンビクン…ブァアアアアァアァァッ!
DQN「おら…加速しろ、まだまだこっからだぞ」
アルト「うんっ…でも、私…これで全開…かも…」ハァ…ハァ…
DQN「はぁ? そんなわけあるか」
アルト「えっ…?」ビクッ…ビクンッ…
DQN「シフト、まだセカンドだぜ…?」ニヤリ
アルト「……っ…!!」ゾクゾクッ
DQN「おらぁっ! ドライブに挿入てやらぁ! 啼けよっ!」ガコンッ!
アルト「ひぁっ…ああああぁあぁぁっ──!!」ビクッ…!ブルブル…
青年「──イヒッ!? なんだ…さっき抜いたアルトが迫って来る…!」ブリリリリリィッ!
痛アルト(あの娘…なにを…?)
青年「くっそ! 同じアルトに負けるわけにはいかんっ!」グイッ!
痛アルト「うぅっ──!」
アルト「──はぁっ…はぁーっ…! こっちより…後から加速し始めて逃げられると思ってるの…?」ヒクッ…ビクンッ…
DQN「イクぞ…もう少しだっ!」
アルト「うんっ…いっぱい出して…っ!」
DQN「おおおおぉおぉぉっ!!」
青年「ちっきしょおおおおっ!!!」ブリリリリリリィッ!
アルト「あぁ…っ私…もっ…! 駄目…イッちゃううぅっ…!!」ビクッビクンッ…ガクガクッ
DQN「いいぜ…! イケよ、おらあああっ!」
アルト「ああああああぁああぁぁあぁっ……!!!」
…ビクッ…ビクッ…ビクッ!
プッシャアアアアァアァァ……
DQN「へっ…なんだ今の音は? ターボもブローオフバルブも着いてねぇはずだがな…?」ニヤニヤ
アルト「あっ…あっ…言っちゃやぁっ……ウォッシャー吹いちゃったのぉ…」グスンッ…
……………
………
…
…イエローハット駐車場
プリウス「──ねえ、あれって前の娘じゃない…?」ヒソヒソ
MPV「ああ…あの突然大声出した」ヒソヒソ
アルト「………」
ムーヴ「ぷっ…D.A.Dステッカー貼られたまんまだしっ」ニヤニヤ
プレオ「可哀想にねぇ」ニヤニヤ
タントカスタム「チョーウケルー」
アルト「………」フンッ
DQN「おー、待たせたな」
アルト「あっ! その荷物の小ささ…! このステッカーやめてSUZUKI SPORTにしてって言ったのに買ってないでしょ!?」
DQN「まあまあ…芳香剤、グリーンリーフ系のやつ買ってきたからよ」ガチャッ…バタム
アルト「もう…次はちゃんと買ってよねっ!」
DQN「よーし、行くぞー」ズキュキュッ…ブイイイイイィィン
アルト「………」キッ
ワゴンR「ん?」
ムーヴ「なんだし?」
アルト「…私、幸せだからっ」プイッ
ブイイイイィィィン…
プレオ「…気でもふれたのかしら」
タントカスタム「チョーウケルー」
ワゴンR(でも、いい顔してたな…)
………
…
アルト「──あの痛アルトさんも今度は大事にしてもらってるかな?」
DQN「さあなぁ…でも下痢便マフラー外すって約束したし、凹みも直すとは言わせたけどよ」
アルト「痛ラッピングは…」
DQN「…まあ、あれは趣味だからな…どうにもならないかもしれねえ」
アルト「あんまりぶつけないように運転の練習を心がけるとは言ってたよね」
DQN「上手くなるまで、できるだけ細い道には入らないようにする…ってな」
アルト「それに──」
『──てめえ! 自分の車が可愛くねえのかっ!』
『イヒッ…い、いくら可愛くてもそんな急に運転上手くなるわけないだろっ!』
『それでもボディは直すんだよ! 綺麗な車だからこそぶつけないよう大事にしようって思えるんだろ!?』
『ラッピングに40万かけて、直す金が…』
『だったらもう車売っちまえっ! 他の奴の元へ行った方がその娘も…!』
『…やめてっ!』
『うぇ…?』
『イヒッ…』
『痛アルトさん…?』
『初めて会った青年さんは優しくて素敵だった…でもハンドルを持って人が変わってしまったの』
『………』
『私は青年さんに上手くなって欲しい、そしてずっと一緒に走ってたい──』
アルト「──やっぱり、自分のハジメテの相手だもんね…その人と幸せになれたら、それが一番だよ」
DQN「お前にとっての俺かぁ?」ニヤニヤ
アルト「馬鹿言わないで、私は幸せになれたらって言ったのよ」
DQN「おぉ? さっき駐車場から出て行く時、なんて言ってたっけなぁ?」クックックッ
アルト「なっ…き、聞こえてたのっ!?」アセッ
DQN「へへへ…窓、少し開けてたからな。『私、幸せだから』だっけ…もっかい聞きてえなぁ?」
アルト「ふんっ! 絶対言わないんだから!」テレテレ
DQN「よーし、褒美に今日は高速でも乗るかぁ」
アルト「えっ…でも、この前ガラコかけてたんじゃ…」
DQN「んん? ウォッシャー吹いちまうのを気にしてんのか?」ニヤニヤ
アルト「知らないっ」プイッ
DQN「くっくっくっ…さっき何を買ったと思う…? ほら、見てみな」
アルト「それは…ガラコ専用ウォッシャー液…!」ゾクゾクッ
DQN「さあ、インターに入るぜ。フルアクセル、期待しとけよ」グイッ
アルト「あんっ…もぅ…っ、駄目ってばぁっ…」ビクンッ
DQN「ん? じゃあ、やめとくかぁ?」
アルト「……もう、意地悪…」ウルウル
DQN「ふん、最初のサービスエリアでウォッシャー挿入るぞ、みんな見てる前でなっ」グイッ
アルト「えっ…そんな、それは嫌ああぁっ──」ドキドキ
【おわり】
昨夜の内に全部書ききりたかったが睡魔に負けた、すんません
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