神様「代わりを用意できるなら許可する。ただし、そいつが投げ出したら以後絶対に泣き事は許さん。どこに逃げようと地の果てまで追いかけてやる」

男「じゃ、じゃあやっぱり止め……」

神様「そうか。仕方ないな、他の奴を探しに行くか。はーよっこらせっと」

男「わー立たないでください立たないでください！　やりますやりますよう！　やればいいんでしょう、もう！」

神様「話の分かるヤツだ。好感を持つぞ」

神様「よし、この中から一つだけ能力をやろう。さあ選べ」


１，『地獄の九連撃（ザンサツキュウレン）』
刃物を使った攻撃を９回分に倍加し、威力を増大させる。
発動中はどんな重さのものでも持てるようになるが、加減は一切できない。


２．『頭蓋狩り（リーサル・ハーヴェスト）』
右腕が伸長し、相手の頭部を自動的にもぎ取る。
任意の操作もできるが、扱いは非常に難しい。


３．『極殺・天の柱（パニッシュメント・バロール）』
右目から地平線の彼方までを焼き払うビームが出る。
物理的な防御は一切不可能で、射程の制限もできないが、射線は自由に変更可能。


４．『夢の中の勇者（パーフェクト・ドリーマー）』
見た能力をコピーする。
寝て起きるとコピーはなくなる。


男「えーっと……>>3でお願いします」

汎用性ありそうな４で

神様「分かった。『夢の中の勇者』だな。よし、プレゼントフォーユー！」

男「お、おお！　何だか強くなった気が……別にしないですね、はい」

男「……あの、寝ると弱くなるのに、夢の中の勇者って名前は何だかおかしい気が……」

神様「何だ不満か。そうだな、確かにこれでは器用貧乏感が否めんな。よし、ならばこの『無に還る箱庭（ヴァニティガーデン）』をやろう。使うと周囲５キロにあるもの全てが１００億光年彼方に放逐される大技だ。気をつけて使えよ」

男「あ、いやこれでいいですこれで！　お気遣いありがとうございます！」

神様「そうか？　謙虚なヤツだな」

男「それで、何をすればいいんですか？　やっぱり、夜に街を探索とかするんですか？」

神様「吸血鬼だからといって昼間は眠っているわけではないぞ。ヤツらは皆『偽骸』と呼ばれる仮の身体を操り、眷属を増やしたりしている」

神様「本体の打倒には至らぬまでも、偽骸を潰されれば吸血鬼も何事かと姿を現すだろう」

神様「むしろ、ひたすら偽骸潰しに奔走し、弱ったところを叩いた方が効果的かもしれん」

神様「……いや、皆ではないな。偽骸を使うのはせいぜい６体かそこらだ。後は地球の一部と同化し、日光の影響などまるで無視して好き勝手振る舞っている。けしからん連中だな」

男「そ、そんな連中倒せるんですか？」

神様「そのための能力だ。がんばって使いこなせ」

神様「安心しろ、死んでも細胞の一欠片さえあれば元通りに直してやる。私に指のささくれでも預けておくんだな」

男「それはありがたいことで……」

神様「恐らく、お前と同様に能力を手に入れた連中が街をほっつき歩いているはずだ。協力を要請するなりなんなり、まあ好きにしてくれ」

男「分かりました。それでは行ってきます」

神様「よし、行ってこい……って、どうして通学カバンを持つんだ」

男「え？　だって今日平日ですし、僕高校生なんて学校行かないと」

神様「ばかもーん！　学校なんか二の次だ、死ぬ気で偽骸を探してこい――――！」

男「うわぁああああああ！！」

―――――――――


男「……とは言ったものの、学校行かないわけにはいかないし、さてどうしたもんか」

幼馴染「あ！　男くんだ！　よーし、食らえー！」ｷｲｲｲｲｲ

男「え？」


幼馴染「『極殺・天の柱』――――！！」


男「パ、『夢の中の勇者』――――！？」


　ボヒュン！！


幼馴染「お、やっぱり男くんも『使徒』になったんだねー！　『夢の中の勇者』かー。相手の能力をコピーする能力、って感じかな？」

？？？「同じ能力同士が衝突すると相殺されるのか。なかなか役に立ちそうだ」

男「そ、そうだけど……何だよ急に！　僕を殺す気かよ！？　あと、今なんか声が……」

幼馴染「幼神様ははその場から動けないから、このイヤリングを通して私に指示を出してくれるの！　便利でしょ」

男「そんなことできるの！？　何だよ、僕の神様一言もそんなこと言ってくれなかったぞ！？」

幼神「神によって得意分野というものがある。私は幼馴染に『極殺・天の柱』しか与えてやれなかったが、貴様は何種類か選択肢があっただろう。そういうことだ」

男「なるほど……いや、そんなことはいいんだよ！　何でいきなり能力をぶっ放してきたりしたんだよ！」

幼馴染「幼神様は私以外の人間ならその場で完璧に治療できるらしいんだ！」

幼神「それを実演してやろうと思ったのだが、幼馴染のご家族を消し飛ばすわけにもいかん。よって、ちょうど現れた貴様で試させてもらったというわけだ」

幼馴染「ダメだよ幼神様！　いくら男くんだって、こんなことされたら怒るに決まってるじゃん！」

幼神「うむ、以後気をつけよう。すまなかったな、幼馴染」

男「まず僕に謝れ！　ていうか、お前も完全に僕を僕と分かった上で撃ってただろ！」

幼馴染「ご、ごめん。つい挨拶するノリで……」

男「どんな挨拶だー！」

幼神「未遂で終わったのだからいいだろう。器の小さい男だ」

男「こ、この……！」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ

幼馴染「ごめんね男くん。幼神様、ちょっと性格に難があるというか、気難しい人（？）なんだ」

男「お前にも充分難ありだよ！」

幼神「…………」

男「もういいや、いちいち怒ってたら身がもたない。幼馴染は普通に学校に行くのか？」

幼馴染「え？　そうだけど、どうして？」

男「どうしてって……偽骸探しに行かないのかなって思って」

幼神「幼馴染は使徒である以前に一人の人間なのだ。社会生活を犠牲にさせてまで、私の使命に付き合わせるつもりはない」

男「な、なんてできた神様なんだ……僕の神様とは大違いだ。……いや、こっちも大概だけど」

幼神「何か言ったか？」

男「いえ、何も」

幼神「ふむ、貴様の神とは顔見知りだ。貴様が幼馴染の知り合いだと言うのなら、口利きしてやってもいいぞ」

男「ほ、本当ですか！？　ありがとうございます！」

幼神「その代わり――――何があっても幼馴染を守れ。例え、その身に代えてもだ」

男「……分かりました」

幼神「少々間の抜けた顔だが、貴様ならこの戦いの中でも彼女のことを気にしてやれるだろう」

男「…………」ｲﾗｯ

幼神「私は幼馴染のベッドの下から一歩も動けん。視界の範囲にいなければ、治療もしてやれんのだ」

男「すごいとこに出てきたな！」

幼馴染「わたしも最初はびっくりしたよー。携帯落としちゃったから覗きこんだら、知らないおじさんと目が合ったんだもん」

男「通報ものだ！」

幼神「婦女子のクローゼットの中に潜り込むわけにもいかん。やむを得なかったのだ」

男「どの道変質者にしか見えねえよ！」

幼馴染「なーんてお話してるうちに始業時間になっちゃうよ！　急がなきゃ！」

男「わ、本当だ。走ろう！」

　――――――――


　二時間ほど前


高校生「はあ……はあ……やったぜ、今日も俺が一番乗りだ！」

高校生「ふう……さて、校門を乗り越えてっと」

高校生「いやー、実に気分がいい！　誰もいない校庭を一人で突っ切る快感は何にも勝るぜー！　うひょおおおおお！」ﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞ

子犬「ｸｳｰﾝ」

高校生「ん？　あんなとこに子犬がいるぞ。迷い込んだのかな？」

高校生「足に怪我してるみたいだ。おーい、大丈夫かー？」


　がぶっ


高校生「いてっ！　噛みやがった、こいつめ……あ、あれ？　なんか、めまいが……」

高校生「おい、おまえ、いつまで噛んでやがるんだ、はな……せ……」ﾊﾞﾀｯ

子犬「…………」ﾍﾟﾛｯ

子犬「不味い。薄めた泥水のようだ。吐き気がする」

子犬「やはり、使徒どもの血でなければこの身を潤すには不十分のようだ」

子犬「……しかし、口をつけたものを放置するなど、野獣に等しき蛮行。きちんと骨まで食ってやらねばな」ｸﾞﾜｯ


？？？「『絶影剣山（シャドー・アライアンス）』」


　ズキュッ！


子犬「ッ！　……何者だ、貴様」

生徒会長「この高校を誰よりも愛する女、生徒会長よ」

子犬「なるほど。ならば、私も名乗らねばなるまい」

狼群「“狼群”だ。そう呼ぶがいい」

生徒会長「そう。なら、狼群。血なら私のをたっぷりあげるわ。私を倒せればの話だけど」

生徒会長「日没後にもう一度ここに来なさい。一時間までなら待っててあげる」

狼群「……いいだろう。その言葉、努々忘れるな」ｽﾞｽﾞｽﾞ

生徒会長「ふん……」

生徒会長「っと、この人を保健室……いえ、救急車かしら。顔が真っ青だわ」

生徒会長「……よくもうちの生徒を……絶対に許さない」

生徒会長「吸血鬼なんか、私が一匹残らず串刺しにしてやるわ……！」