絶望ルッキーニ工場 (38)

シャーリー「ゼロ災でいこうヨシ!」

シャーリー「それではみなさん本日も怪我のないよう作業に当たってください」

シャーリー「じゃあ宮藤さんちょっといいかな」

芳佳「はい」

シャーリー「宮藤さんは今日が初出勤てことだけど 今までこういった工場でバイトとかしたことあるでしょ」

芳佳「なんで決めつけてくるんですか ないです」

シャーリー「そしたら今日はラインを回って流れを知ってもらおうかな」

芳佳「分かりました よろしくお願いします」

シャーリー「よろしくな宮藤」

芳佳「すごい距離を詰めてきましたね」

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シャーリー「ここが胎内炉 遺伝子操作された胚が炉内で培養されて約2時間で成長したルッキーニの素体が生まれてくるぞ」

芳佳「どういう仕組みなんですか?」

シャーリー「そいつは知らぬが仏ってやつさ 生まれたばかりのルッキーニは粘液でベタベタだから産湯で洗ってやるんだ」

芳佳「可愛い寝顔ですね」

シャーリー「だろ でも目覚めたルッキーニはこんなもんじゃない愛くるしさなんだ」

シャーリー「汚れを落としたあとは目視検品だ 手足や指の欠損 その他外見的な身体異常があったものはロスとして弾かれる」

芳佳「弾かれたルッキーニちゃんは一体どうなってしまうんですか」

シャーリー「さあ次の工程に行こう」

シャーリー「最初の検品を終えたルッキーニは金属検知器を通り いよいよお目覚めの時間を迎える」

シャーリー「ルッキーニを起こすのはベテランの社員かパートが適役だ 優しく起こしてやらないとぐずって大変なんだよ」

芳佳「かわいい」

シャーリー「やっと起きたルッキーニが二度寝しないうちにバスローブを着せて コンベアに乗ったまま流れで身体検査する」

シャーリー「体重に始まり視力聴力 その他もろもろが正常に機能してるか調べるんだ」

芳佳「正常に機能してなかったら?」

シャーリー「何回も言わせてくれるなよ宮藤」

芳佳「すみません」

シャーリー「お次は知能検査と精神鑑定 でもルッキーニはどっかしら抜けてたほうがかわいいし売れ行きもいいから よっぽどじゃなきゃ弾かれない」

芳佳「よっぽどって?」

シャーリー「自分の名前がわからないとか 私の名前がわからないとかだな」



シャーリー「最後は包装 ルッキーニのバスローブを脱がせてズボンとシャツを着せ 髪の毛を整えてやるんだ」

芳佳「ここは楽しそうでいいですね」

シャーリー「ここには私が信頼出来るやつしか置かないのさ 傷物にされちゃ困るからな」

芳佳「私は?」

シャーリー「まあ勤務態度次第だろ そこらの男よりは断然可能性あるけどな」

芳佳「でしょうね」

シャーリー「包装が終われば……」

芳佳「どうしたんですか」

シャーリー「……ルッキーニの旅立ちだ ルッキーニにお金とGPSを持たせて顧客のところまで自分で行かせるんだ」

芳佳「なんで泣いてんですか」

シャーリー「手塩にかけて育てたルッキーニが私の手を離れるんだ 古代の涙一つも流させてくれ」

芳佳「ここまで1時間経ってないのに」

シャーリー「ルッキーニが顧客のとこに届いたら ルッキーニ代とは別に交通費と手数料を振り込んでもらって完了さ」

芳佳「作り方自体は割とあっさりなんですね」

シャーリー「数打ちルッキーニだからな」

包装中にこっそり1人傷物にしたい

シャーリー「それじゃこのあとはラインに入って 先輩に教わりながら作業してもらおうかな」

芳佳「はい」

シャーリー「宮藤はここ ルッキーニを起こした直後のバスローブ工程を担当してもらう」

シャーリー「リーネ この子が今日からここで働く宮藤だ いろいろ教えてやってくれ」


宮藤「よろしくお願いします」

リーネ「分かりました よろしくね 宮藤さん」

シャーリー「よし そしたら私は管理室にいるから 怪我しないように注意してくれな」


シャーリー「>>8は話があるから私と一緒に来てくれ」

リーネ「……」

リーネ「最初は私がお手本を見せるから よく見ててね」

芳佳「はい」

リーネ「この袋に洗濯済のきれいなバスローブが入ってるから 一着取り出して広げておきます」

リーネ「で ルッキーニちゃんが来たら まずこうして羽織らせるの」

リーネ「はいルッキーニちゃん手ぇ通すよー はーい」

リーネ「両腕通してちゃんと着せたら 前の大きいボタンを上と下 2ヶ所留めて完了っと」

リーネ「どう? なんとなく分かったかな」

芳佳「むつかしいですねこれは」

芳佳「バスローブってそもそもボタンでしたっけ なんか帯みたいなやつだった気が」

リーネ「帯を結ぶよりも こっちのほうが着脱しやすいんだよね ルッキーニちゃんが動いても脱げないし」

芳佳「なるほど」

リーネ「次は一緒にやってみよう」

芳佳「はい」

芳佳「まずバスローブを広げて」

リーネ「そうそう」

芳佳「ルッキーニちゃんが来たらバスローブを……」

芳佳「うへへ かわいいお尻だなぁ」

リーネ「あのさぁ」

芳佳「すみませんでした 今度は大丈夫です」

リーネ「気持ちは分かるけど誘惑に負けちゃだめだよ さあワンモアだ」

リーネ「はいルッキーニちゃん来ましたぁ」

芳佳「ローブ広げましたぁ 羽織らせましたぁ」

リーネ「さあ次だよ」

芳佳「で右手…… ルッキーニちゃーん ちょっといいかな 右手…… あのルッキーニちゃん?」

ルッキーニ「ぐー」

リーネ「本当に子供を扱うみたいにしてみて 腕を持ち上げてあげるの」

芳佳「よいしょ まず右手っと」

芳佳「左も よし……」

芳佳「で 前ボタン上 下留めーの」

芳佳「出来た!」

リーネ「すごいすごい これならすぐに覚えてもらえそうだね」

リーネ「まあこんな感じかな 何か質問ある?」

芳佳「もし間に合わなさそうだったらどうしましょう」

リーネ「ここに緊急停止ボタンがあるから 危険を感じたり異変があったら これを押してラインを止めてね」

芳佳「止めちゃっていいんですか」

リーネ「うん だって怪我したくないでしょ」

芳佳「分かりました」

リーネ「あと敬語じゃなくていいよ 私もここに来てまだそんなに経ってないんだ」

芳佳「へえ 確かに同い年くらいかなと思ってましたけど どれくらいここで働いてるんですか」

リーネ「まだ1日くらいだよ」

芳佳「昨日働き始めたばっかのくせに よくも先輩風吹かせてられたねリーネちゃん(そうなんだ 1日でこんなの覚えちゃうなんてすごいね)」

つづく

リーネ「そろそろ時間だから休憩に行っていいよ」

芳佳「休憩って?」

リーネ「ああ」

芳佳「ああじゃなくて」

リーネ「トイレ行ったり水飲んだり 人によってはタバコ吸いに行ったり 芳佳ちゃんは吸わないよね?」

芳佳「うん」

リーネ「私もだよ だいたい5分から10分くらいで戻ってきてくれるかな」

芳佳「分かった じゃあお先に」

リーネ「はーい」




芳佳「ふう バイトなんて初めてだから不安だったけど これなら続けられそうだな」ガチャッ

「おっと 悪イ」

芳佳「あっ すみません!」

芳佳(社員さんだ ちゃんとしないと)

「お前見ない顔だナ 新人カ?」

芳佳「はい 宮藤芳佳といいます よろしくお願いします」

「よろしく 私は胎内炉オペレーターのエイラだ あんまり接触はないだろうけど困ったことがあれば聞いてくれヨ」

芳佳「はい ありがとうございます」

芳佳「リーネちゃんおまたせ」

リーネ「おかえり じゃあ次は私が行ってくるから ここお願いできるかな」

芳佳「ひとりで?」

リーネ「うん 間に合わなかったら全然止めていいから 芳佳ちゃんならやれるよ」

芳佳「やれるだけ頑張ってみるよ」

リーネ「その意気その意気 すぐ戻ってくるから」

芳佳「よーし がんばるぞ」

芳佳「はいルッキーニちゃんいらっしゃーい」

芳佳「へへ ちょっと慣れてきたかな さあどんどん来てよ」

芳佳「はいルッキーニちゃん ちょっと腕上げてねー」

ルッキーニ「ううん……」

芳佳「ちょっと角度が悪いな ルッキーニちゃんこっち向いて」

芳佳「あれれ これは間に合わないかも 止めなきゃ」グイッ

ドサッ

ルッキーニ「うじゅっ」

芳佳「あっ ごめんルッキーニちゃ……」

ゴリゴリ ガクン

ルッキーニ「あ…… あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

芳佳「きゃああああ!」

シャーリー「どうした宮藤!」

芳佳「る ルッキーニちゃんが 私が引っ張って倒しちゃって コンベアに巻き込まれて」

ルッキーニ「うああああ痛いよぉぉぉぉぉぉ」

シャーリー「お前は怪我は」

芳佳「私は平気です でも」

シャーリー「そうか ふう 一安心だ」

芳佳「ええ?」

ルッキーニ「かふっ かふっ あああ ああ 手がぁ」

エイラ「なんかあったのカ」

シャーリー「ご覧の通りさ あたしが破片を掃除しとくから これの処理を頼む」

エイラ「オッケー 台車を持ってくるゾ」

ルッキーニ「ぅ あ ああ」

エイラ「宮藤 これ乗っけるの手伝ってクレ」

芳佳「は はい」

エイラ「よっこらせ」

ルッキーニ「はぁ  はぁ  」

ガラガラガラ

芳佳「どうしよう」

シャーリー「気にするな 初日なんだから失敗上等だろ 怪我がなくてなによりだ」

芳佳「そうじゃなくて……」

シャーリー「これでよし ライン動かすから引き続き頼むな」プルルルル プルルルルルルルルルルルル

グォォーン

芳佳「血のにおいだ……」

つづく

リーネ「おまたせ 芳佳ちゃん顔色悪いけど何かあったの」

芳佳「いや かくかくしかじかで」

リーネ「そっか でも芳佳ちゃんが巻き込まれなくてよかったよ」

芳佳「それシャーリーさんも言ってたけど ルッキーニちゃんは全然心配じゃないの?」

リーネ「え」

芳佳「血がいっぱい出てて 腕がちぎれて どう考えてもそっちを見るべきだと思うんだけど」

リーネ「うーん 確かにロスが出ちゃうのは良くないけど でも私たちが怪我するよりずっといいでしょ」

芳佳「……」

リーネ「そろそろお昼だね 代わりの人が来るから一緒に行こう」

芳佳「うん 私はいいや」

リーネ「えっ どこか具合でも悪いの? お弁当忘れたなら社食もあるよ」

芳佳「さっきのが頭から離れなくて」

リーネ「あんまり気にしちゃだめだよ 失敗なんて誰だってあるんだから 私もまだ覚えたてだし」

芳佳「そう だね」

リーネ「もし気分が悪いなら 休憩室があるからそこで寝てるといいよ 1時間後に戻ってきてね」

芳佳「ありがとう」

リーネ「また後でね」

芳佳「はあ 私が変なのかな」

芳佳「……」

エイラ「よっ そんなにしょぼくれてどうしタ?」

芳佳「エイラさん」

エイラ「もうメシ食ったのカ」

芳佳「食欲無くて」

エイラ「そんなんじゃ体が持たないゾ と言いたいところだけど あんなの見せられたあとじゃナ」

芳佳「えっ」

エイラ「グロいよなアレ 私も最初は受け付けなかっタ」

芳佳「そ そうですよね!? やっぱりあんなの変ですよね!」

エイラ「まあ慣れだナ 慣れ」

芳佳「リーネちゃんが2日目だっていうのに 平然としてて 壁を感じちゃいました」

エイラ「あいつはここに来る前 似たようなとこで働いてたらしいゾ」

芳佳「それであんなに冷静に」

エイラ「そういうことダ」

芳佳「なんだかそう考えたら安心してきました 私だけがおかしいのかと思って」

エイラ「取り越し苦労だナ みんな初めは面食らうケド すぐ馴染むから大丈夫ダ」

芳佳「頑張ります」

エイラ「よし 元気が出たならメシ行ってこイ」

芳佳「はい ありがとうございました 失礼します!」

エイラ「……」

シャーリー「お疲れさん」

エイラ「シャーリーか ああお疲れ」

シャーリー「どうだ?」

エイラ「変な疑問は持ってないみたいだナ 原料加工室を探られるようなこともまず無さそうダ」

シャーリー「頼むぞ 出来ることなら従業員を原料にしたくないからな」

エイラ「もちろん」

つづく

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年05月20日 (水) 00:16:43   ID: aaHG2OR6

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