櫻子「七森魔法中学校物語!」 (239)

【第1話:今日から中学生!私も魔法使いになりたいよ!】



<夜・大室家>


櫻子「あー、ついに明日から私も中学生! 楽しみだなー!」るんるん


撫子「もう小学校とは違って、成績で順番が付いちゃう世界なんだから、ちゃんと勉強しないとだめなんだからね」

櫻子「そんなのへーきへーき! 私が本気出せば、中学校の勉強くらいなんともないもーん」

撫子「今までとは全然違うんだよ? 英語とかも始まるし」

櫻子「問題ノーノー! わたーし、いんぐりっしゅ、もうかんぺーき! おーけー?」

撫子「全然OKじゃないじゃん……」



撫子「まあ英語はいいとして、一番大事なのは魔法の勉強だからね」

櫻子「いぇーすまほーう! のーぷろぶれーむ……」


櫻子「……え、魔法??」ぱちくり

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撫子「中学生になったんだから、あんたも魔法の勉強始めなきゃだめなんだよ」

櫻子「魔法の勉強……??」


撫子「そうだよ。日本の義務教育課程では、魔翌力の安定し始める中学生から魔法の勉強をしなきゃいけないって決まってるんだから。というか今までみたいな国語とか算数は減って、魔法がメインになるんだよ」

櫻子「魔翌力……魔法……? 何言っちゃってんのさっきから」


撫子「もうボケてないでよ! この世界魔法が上手に使えなかったら生きていけないんだからね!」べこっ

櫻子「痛ったぁ!? なっ、そんな重い本で叩かないでよ! バカになっちゃうでしょ!///」


撫子「何言ってんのバカ、これは高校生が授業で使う魔導書だよ。あんたもいずれこのくらいの勉強するんだし、中学生だってちゃんとした魔導教科書使ってやるんだよ?」

櫻子「ま、魔導書!?」


櫻子「…………」ぺらぺら


櫻子「……すごい、本物っぽい教科書だ……」じーっ

撫子「っぽいんじゃなくて、れっきとした本物だよ」

櫻子「え、魔法の勉強って……ほんとにあるの?」

撫子「はぁ? 当たりまえじゃん」


櫻子「ま、魔法の勉強しなきゃいけないの?」

櫻子「なにバカなこと言ってんの……あんたが入学した学校の名前! 明日から行く学校の名前! 『七森魔法中学校』でしょうが!」


櫻子「魔法中学校……!? そ、そこで勉強したら、私も魔法が使えるようになるの?」

撫子「まああんたはバカだけど、一応私の妹だし、そこそこの潜在魔翌力はあると思うんだけど……どんな魔法に適性があるかは、明日学校に行って確かめてもらうんだよ」


櫻子「し、知らなかった……魔法って、ほんとにあるんだ……!!」

撫子「魔法大国日本。ここに生まれたからには、あんたも一流の魔法使い目指して頑張らなきゃいけないの。私の妹として恥ずかしくないように、ちゃんと勉強するんだよ?
わかった?」

櫻子「魔法使い……私もなれるの?」

撫子「なれるよ。ちゃんと勉強すればね」


櫻子「わ……わたしやる!! いっぱい勉強して、すごい魔法使いになりたい!」ぱああっ


撫子「……そのやる気が空回りしないようにね。とりあえず今日はもう遅いから寝な。明日からひま子と一緒に中学校行くんだから」

櫻子「そっか……やっぱり向日葵も魔法の勉強するの?」

撫子「当たり前でしょ。というかひま子は優秀だから、もう簡単な魔法くらいなら使えるようになってるよ」

櫻子「えぇーー!?」


撫子「あの子は回復魔法の才が強いみたいだから……ほら、あんたが転んですりむいたときに、一日で治る絆創膏貼ってくれたことあったでしょ?
あれひま子の魔法が宿った絆創膏だよ」

櫻子「あれそうだったの!? 全然気づかなかった……」


撫子「とかくこの世は魔法で成り立ってるんだよ。ひま子に置いてけぼりにされないように、頑張んなね」

櫻子「魔法、かぁ……///」

――――――
――――
――



<翌朝>


向日葵「ちょっと櫻子遅いですわよ。初日から遅刻なんてしたくありませんからね」

櫻子「ご、ごめんごめん。昨日ちょっと寝れなくって……」たたた


向日葵「ずぶといあなたにしては珍しいですわね。緊張して眠れなかったんですの?」

櫻子「違うよ、魔法のこと考えてた」

向日葵「ああ。中学生からは魔法の授業のほうが主流になりますもんね」


櫻子(……全然普通だ向日葵。やっぱり魔法って本当にあるんだ……)



向日葵「私はもうなんとなく魔法の方向性決まってますけど、櫻子はどんな道に進むのかしらね」

櫻子「ほうこうせい?」


向日葵「今日あらかた学校の説明とかが終わったら、最後に魔法適性の診断テストがあると思いますわ。そこで自分の得意な魔法の属性とかがわかりますの」

櫻子「私ももう魔法使えるの!?」

向日葵「使えるかどうかはあなたしだいですけど……どんな方向性の魔法適性を持つかは生まれつきと、幼い頃に育った環境とかで左右されるらしいですわ。ちなみに私は回復系魔法が得意みたいですの」

櫻子「へえ、楽しみだなあ……!! 私はどんな魔法なのかなぁ……///」



<掲示板前>


櫻子「あっ、向日葵同じクラスじゃん!」

向日葵「本当ですわ……!!!」ぱああっ



櫻子・向日葵(あっ……///)



櫻子「ちゅ、中学生になっても向日葵と一緒かよー! 新鮮味ないな~!」

向日葵「また櫻子の面倒見なきゃいけないんですのね……ああ憂鬱ですわ」はぁ

櫻子「なんだとー!?」

向日葵「なによ!」


ぎゃーぎゃー……


あかり「あっ……」

あかり(あの賑やかな子たちも、あかりと一緒のクラスみたい……)



「おーっすあかりー!」


あかり「あっ、京子ちゃん! 結衣ちゃん!」


結衣「おはようあかり。クラス決まった?」

あかり「うん。あんまり知ってる子はいなそうだけど……」

京子「まああかりならすぐに良い友達がたくさんできるって。放課後になったら私たちのところにきてよ! あかりに入ってほしい部活があるからさ」

あかり「わかった! 待っててね~」



櫻子「い、いよいよ診断テストか……」どきどき

向日葵「みんな一喜一憂してますわね。でもここで結果が決まるわけじゃなくて、既に決まってるものが判明するだけですから、憂うことなんて無いですわ」

櫻子「もー、楽しみで仕方ないよ~! あ、ほら! あの変な自己紹介した子がやってるよ!」

向日葵「赤座さん……でしたっけ。あっ、結果出たみたいですわ」


「~~~……~~!」

あかり「は、はいっ!」



櫻子「……な、なんて言ったか聞こえた?」

向日葵「エンハンス……って聞こえたからたぶん、強化とか効率化とかの補助魔法だと思いますわ。私に少し近いですわね」

櫻子「へー、色々あるんだなあ~……そういや向日葵はなんで自分が回復系だってわかったの?」

向日葵「少し前から、魔翌力が高まってるのか勝手に魔法があふれてくるようになりましたの。それが治癒の効果を表してたから……恐らくそうなんだろうって」



「次、古谷向日葵さん、どうぞ」


向日葵「あっ、はい! ……じゃあ櫻子、行ってきますわね」

櫻子「う、うん」

「ねーねー何だった?」

「私雷魔法だって~」

「あーどうりで! 今触ったとき静電気きたもん~!」

「ほんとにー?」


櫻子(本当にいろいろあるみたい……私はなんの魔法なんだろう……///)


櫻子(かっこいい魔法がいいなぁ……思いっきり強そうな、はげしいやつとか……)


先生「……古谷さんは、治癒系魔法の大きな才が表れているわね。がんばってお勉強しましょうね」

向日葵「はいっ」


櫻子(あ……向日葵も結果出たみたい。ほんとに回復系なんだ……)



「それでは次、大室櫻子さん」

櫻子「わわっ、は、はいっ!!」

先生「それじゃあ大室さん、この杖を持ってから椅子に座ってください」

櫻子(へ、変な椅子だなぁ……)


先生「これは座る人に魔翌力を大きく与える椅子です。魔法を使ったことが無くても、体内魔翌力を高めて杖の力を借りれば、自分の生まれ持った魔法が自然に出てくるって言う仕組みよ」

櫻子「へぇ……」


先生「それじゃあ杖をもって……ここに植物や果物、石や金属などの様々な物質があります。難しいことは考えなくていいので、これらのひとつひとつに思念を送るような感じで、杖をかざしてみてください」

櫻子「しねん??」

先生「何か起これ! って思うだけでいいのよ。それじゃ、どうぞ」

櫻子「よーし……!」


櫻子(私の魔法……私はどんな魔法が使えるの? 教えて!)


櫻子(むむむ……!)



「…………」しーん



櫻子「……あ、あれ?」


先生「マジックフラワーは変化なし……そうですね、もう一度やってみてください?」

櫻子「よしっ……ん~、ん~っ!」もんもん



先生「ん……わずかに花がしぼんだ気が……でも全然変化ないですね」

櫻子(こ、これでいいのかな……)


先生「ではとりあえず次の物質に移ってみましょう。今度はこっちのリンゴに向かって、同じように念じてみてください」

櫻子「はい! よーし……むむむっ~!」もんもん



櫻子「はぁ、はぁ……」ぐったり


「……の兆候が……」

「専門の……ええ、ちょっと呼んで見てもらいましょうか」

「……の可能性は……」


向日葵(何やってるのかしら櫻子……いつまでテストされてるんですの? あんなにいろんな先生たちも集めちゃって……)


櫻子(な、なんで私だけこんなにテストされなきゃなんだよ~……恥ずかしい……!///)



先生「お、大室さんこれが最後です。最後にこの時計に向かって、同じように念じてみてください」

櫻子「は、はひ……うぅぅ」


向日葵(櫻子……)そわそわ



櫻子「このっ……なんか起きろー!!」もんもん


ちっ、ちっ、ちっ、ちっ……


先生「!!!」

櫻子「ぷはーっ! も、もうだめ~! 念じてるだけなのに頭がくらくらする~……」


「タイムピースが……!?」

「いや、まだどうだか……だが可能性は……」

「だが……んなものは存在するはず……!」



向日葵(な、なにかしら……どんな結果が……?)



「……べきではない……」

「うむ……ということだ、まだ……」

先生「ええ……では……」



先生「こほん……大室さん、結果が出ました」

櫻子「ほ、本当ですか!?」



先生「テストの結果……大室さんはプリマチュアと判定されました」

向日葵「えっ!!?」



ざわ……ざわ……

櫻子「ぷ、プリマチュアってなんですか? なんか可愛い名前!」


先生「プリマチュアは……簡単に言えば、何の魔法も身についていない状態です」

櫻子「あー、何の魔法もね! ……って、ええっ!! 私魔法持って無いの!?」がーん


先生「あ、慌てないでください。たまーにあることなので……学校での魔法の勉強と、大室さんの成長に伴う魔翌力形成から、大室さんの魔法発現を待つという形になります。なので今はまだ魔法の方向性が決まっていないということです」

櫻子「そ、そんなぁー!!」


「あ、あの子プリマチュアだってよ……」

「あらら、どうりで子供っぽいと思った」くすくす


櫻子(な、なんかみんなにじろじろ見られてるなぁ……///)



向日葵「ちょっ、櫻子来なさい! こっちこっち!!」ぶんぶん


櫻子「なに? どしたの向日葵」

向日葵「あなたプリマチュアって本当なんですの!? 何もできなかったの!?」

櫻子「わ、私は頑張ったけど……何にも起こらなかったみたい」

向日葵「そんな……櫻子がプリマチュア……」がくっ

櫻子「な、なんだよみんな! プリマチュアってそんなに変なことなの?」


向日葵「このくらいの歳まで生きてて何の魔法も身についてないなんて、魔法年齢とでも言うべき精神年齢が限りなく低いってことですわよ!
あなたは生まれたばかりの赤ちゃんとほぼ変わらない魔法センスということですわ!」

櫻子「えぇーーー!!」


向日葵「ああもう恥ずかしい! ほらみんな櫻子のこと笑ってますわよ! 一緒にいる私まで恥ずかしいじゃない!///」

櫻子「そ、そんなこと言ったって~……」


櫻子(でも思えば、私なんて昨日生まれて初めて魔法の存在知ったくらいだもん……そりゃ魔法センスあるわけないよね……)はぁ



<大室家>


撫子「ぷ、プリマチュア!? 櫻子が!?」

向日葵「そうなんですの。みんなの前で、先生に言われてしまいまして……」

撫子「マジか……」

花子「花子でさえちょっとくらい魔法の兆しが見え始めてるのに……」

櫻子「うぅ……」


向日葵「ごめんなさい撫子さん、私がついていながら……」

撫子「いや、ひま子は何も悪くないよ! 私がもうちょっと櫻子に、小さい頃から魔法の本とか読んであげればよかったのかな……」

花子「日ごろの行いが悪いからこういうことになるんだし。プリマチュアのお姉ちゃんなんて恥ずかしい!」

櫻子「…………」


向日葵「それにしてもどうしましょう、一年生の中でプリマチュアは櫻子だけだったようですわ」

撫子「私も中学時代はいろんな先生にお世話になったから……ちょっとなんか言われそうだね」

花子「花子もこれから中学生になるのに、変な目で見られるのは困るし……」



ばんっ!!!


向日葵「きゃっ……!」

櫻子「そ、そんなに魔法使えるのが偉いのかよ……!」ふるふる


撫子「櫻子……」


櫻子「そりゃ私なんか、つい昨日まで魔法がこの世にあることすら知らなかったくらい、魔法には疎いよ!!
でもだからって……みんなでよってたかって私のこと、そんなに言わなくたって良いじゃん!!」

花子「っ……」


撫子「お、落ち着いてよ櫻子」

櫻子「みんなして私のこと見下してっ……! 魔法使える代わりに心が欠けちゃってるんじゃないの!?」ぽろぽろ

向日葵「えっ……!」


櫻子「どうせ私は、才能のかけらもない女の子だよ!! も、もう私のことなんか放っておいて!!」だっ

花子「あっ……」



ばたん!


撫子「…………」

向日葵「い、言い過ぎてしまいました……」

撫子「まずったなぁ……っていうかあの子、昨日まで魔法の存在すら知らなかったのかい」

花子「こりゃしばらくはヘソ曲げたままかもしれないし……どうしよう」

ぷるるる……


撫子「あ、電話だ。私出るね」たっ



向日葵「花子ちゃんと撫子さんって、どんな魔法が得意なんですの? 櫻子もお二人に近いものなんじゃ……」

花子「花子はまだよくわからないけど……撫子お姉ちゃんは本当に色々できるみたいだし。学校でトップの成績なんだって」

向日葵「さ、さすがですわねぇ……でもそうなると余計に、同じ血を持つ櫻子がプリマチュアなのが不思議に思えますけど」


花子「と、とりあえず機嫌を直してもらわなきゃ。ひま姉お菓子とかつくってあげて!」

向日葵「わ、私が?」

花子「当たり前だし! 櫻子はひま姉が何かしてくれなきゃ機嫌直らないんだから……」

向日葵「し、仕方ありませんわね……じゃあ帰ってすぐに何か用意しようかしら」



撫子「私が……はい、はい。わかりました……では明日」


かちゃん


花子「誰からの電話?」

撫子「んーと……中学校の先生」

向日葵「えっ! ひょっとして、櫻子のことで……?」

撫子「んー……まあ、そんなとこかな」



撫子「ひま子、櫻子のことは私からもなんとか言っておくけど、一応機嫌直すためにお菓子とかも作ってあげてよ」

向日葵「わ、わかりましたわ。すぐに作ります」

花子「じゃあ花子も櫻子が好きな夕飯作るし」

撫子「お願いね。私……櫻子のところ行ってくるから」



撫子「櫻子ー?」こんこん


「…………」


撫子「……いるんでしょ?」


「……誰とも話したくない」


撫子「大事な話があるんだよ。開けてって」

「やだ」


撫子「…………」はぁ


撫子「ふっ……」ぱちっ


かちゃん



撫子「入るよ」がちゃっ

櫻子「えっ、か、カギ閉めたのに!」

撫子「雷の魔法……カギの内側に少しだけ電気流して、磁力とかで無理やり動かしたんだ。ここのドアは対魔構造じゃないから、私にとってこのくらい簡単ってわけ」

櫻子「くっ……」


撫子「こんなの他の家の鍵とかじゃやらないよ? 私は自分の部屋をたまにこうして外側から閉めたりするからさ、慣れてるんだ」

櫻子「……ねーちゃんは、雷の系統か」

撫子「雷……じゃないんだよ、本当は」

櫻子「えっ……」

撫子「櫻子、よく聞きな」ぽすん

櫻子「…………」


撫子「櫻子はプリマチュアかもしれないけど……それは魔法の適正方向が定まってないってだけで、あんたは魔法が使えないわけじゃないんだ」

櫻子「……?」


撫子「いい? 今日櫻子がやった診断テストは、自分の得意なものを知るためのものなんだよ」


撫子「明日から恐らく……それぞれの得意分野に大まかに別れた授業がはじまると思う。各自が自分の得意なものを育てる感じで勉強していくんだ」


撫子「なぜかと言うと、自分の得意分野でない魔法……ゼロの状態から新しく魔法を使いこなすのは、たとえ魔翌力の高い人でも簡単には行かないからなんだ。中学生の三年間を使って、やっと使えるようになるかどうかぐらいかもしれない」


撫子「だからとりあえず中学生の間は、得意を伸ばす感じの授業をやるんだよ。その中で近い方向に派生したり、その道を極めたりするほうがいいっていうのが国の方針だからね」

櫻子「へえ……」

撫子「一年生でプリマチュアは櫻子だけらしいけど、それなら櫻子はきっと、当面はいろんな分野の授業に参加させてもらえると思う。あんたは皆と違って、いろんなことが学べるんだ」

櫻子「!」


撫子「そして……これは私の予想だけど、あんたは普通のプリマチュアじゃないと思う」

櫻子「普通のプリマチュアじゃ……ない?」


撫子「ええと、まあ説明は難しいんだけど……プリマチュアのあんたは、無限の可能性を持ってるんだよ。魔法が使えないわけじゃない……むしろ皆ができないような複数の属性魔法を使いこなすことだって、できるようになるさ」


櫻子「ほ、本当に……?」

撫子「本当だよ。だって……」


撫子「だって私も、最初はプリマチュアだったもん」

櫻子「えっ……!?」



撫子「……最初は恥ずかしくて、誰にも言えなかったんだ。でもそのうちいろんな魔法が使えるようになって、プリマチュアであることは誰にも気にされなくなった。みんなを見返せるようになったんだよ」

櫻子「そんな……じゃあ今ねーちゃんは……!」


撫子「私は今、風魔法を軸に全ての属性魔法に手を出してる。炎、水、雷、地、氷、光、闇……回復や補助だって、少しくらいならできるんだ」

櫻子「すっ、すごい!! そんな人いるの!?」

撫子「現に私がここに。櫻子だって、私と同じくらいできると思うよ」

撫子「ちょっと、こっちに来て」ぱたん


櫻子「窓あけて……どうしたの?」


撫子「櫻子に私の魔法を見せてあげるよ。私にしかできない魔法」

櫻子「??」



撫子「さっきも言ったように、私の一番の得意分野は風を操る魔法なんだ。でも風魔法って言うのは属性的に幅が広くて、その名の通り風を操るところから始まり、大気を操って雷を発生させたり、雨を降らせることもできたりする。雷や水に応用が利きやすいんだ」


撫子「私が使える魔法のうち……風、氷、光の魔法を組み合わせて……見ててね」


撫子「ふっ……!!」しゅわー

櫻子「わぁ……!!」



撫子「……どう? こんな感じで、光の雪を降らせることもできるんだ」きらきら


櫻子「き、綺麗……///」

撫子「この魔法、あんまり他の人には見せないけど……でも普通の人にはできないよ。櫻子はがんばれば、きっとこれもできるようになる」

櫻子「私にも、これが……」


撫子「あんたなら、大丈夫。なんたって、私の妹なんだから」なでなで

櫻子「ねーちゃん……」

撫子「櫻子はできる子だって、私はわかってるよ。もしかしたら、大賢者様にだってなれるかもしれない」

櫻子「大賢者?」


撫子「ありとあらゆる魔法を使いこなす、マジックエキスパート……大賢者になる人は、最初はプリマチュア出身が多いって話だし」

櫻子「そ、そうなんだ……!!」


撫子「あんたは特別なの。それを誇って、勉強頑張ろ。ね?」ぎゅっ

櫻子「う、うん……!///」



向日葵「櫻子、クッキー作ってきましたわよ!」がちゃっ

櫻子「わっ、向日葵!」どきっ


撫子「あ」



向日葵「なっ……あ、ああああなた何やってるんですの!? 二人して抱き合って!///」

櫻子「いやっ、これは……べ、別にそんな変なことじゃないでしょ! 姉妹だし!」


撫子「あー、櫻子に心を奪われる魔法使われちゃった」

向日葵「えーっ!? なんですのその魔法!聞いたことありませんわ、すごいじゃない! じゃあ妨害系に進むのかしら!?」

櫻子「ねーちゃん嘘付くなよ!! 私は本当にプリマチュアなんだから!!///」



~to be continued~

【七森魔法中学校物語・1話設定資料】


『魔法』


魔法使いが、魔翌力を持って生み出す超常的な現象。様々な種類があり、この世界はあらゆる魔法で成り立っている。魔法社会。

櫻子はあんまり意識したことが無かったのか、なぜか小学校を卒業するまで魔法のことを知らなかった。



『七森魔法中学校』


富山県にある女子中学校。清楚品位などの立派な校訓のもと、健全な魔法使いたちを育てる魔法学校。

この世界では義務教育的な国語・数学などの授業を小学校までにある程度済ませ、中学生からは魔法の授業がメインになる。保持魔翌力が高まり、魔翌力コントロールが安定してうまく魔翌力を魔法に変えてアウトプットできるようになるのが中学生ぐらいからというのが理由。先生たちも皆一流の魔導士たちであり、それぞれの得意分野に分かれた魔法教育を行っている。



『魔法の適性』


人には皆、その人に応じた適性の魔法というものがそれぞれ存在する。詳しいことは明らかになっていないが、生まれ持った遺伝と、生まれて間もない頃の環境によって決定されると言われている。

人によって様々あり、その種類は魔法の数だけあるとされる。一般的には魔法を学び始める中学生になってすぐ適性診断を受け、自分の適性を知ることになる。

魔法の得意分野とほぼ同義であり、中学生の段階では得意分野を伸ばす形での授業を受けることになる。その理由は、自分の適性でない魔法をゼロの状態から学び扱えるようになるまでは、高い魔翌力を持った者でも難しいためである。これは歳を重ねるにつれて緩和していき、大人になる頃には適性以外の魔法を習得することは比較的楽になるが、中学生の段階ではとても難しい。



『プリマチュア』


時期尚早、早産の、といった意味の言葉。魔法適性が決まらないまま孵ってしまったひよこ、というような意味からこの名前が浸透した。

一般に、魔法適性を診断する中学生くらいになっても未だに適性が決められていない子のことを指す。なぜ適性が判明しないかのメカニズムは解析されておらず、精神年齢が幼いからだという説が人々の中で浸透してしまっているが、定かではない。

しかし魔法教育を受けていれば、少なくとも一年以内には適性が判明すると言われている。それまでは様々な分野の授業に出席することになる。


これが一般的なプリマチュアだが、プリマチュアの中にも種類があるようで、適性魔法が判明しないのではなく適性魔法をそもそも持っていない子が稀に存在する。

これらの子は適性魔法が無い代わりに、様々な分野の魔法を習得できる力が常人より数十倍も優れているとされる。

撫子はこのパターンのプリマチュアであり、中学三年生にして10種類もの魔法を使いこなしたという伝説を七森中に残している。きっと櫻子も同じタイプのプリマチュアであると、彼女は信じている。

【第2話:魔法のお勉強開始!私は落ちこぼれなんかじゃないよ!】


<学校>


櫻子「あかりちゃんとちなつちゃんか。よろしくね!」

あかり「櫻子ちゃんと向日葵ちゃんだよねぇ。よろしく!」

櫻子「えっ、私たちのこと知ってるの?」

ちなつ「だって二人とも、いつも喧嘩してるじゃん? うちのクラスの中でもかなり目立ってるよ」

向日葵「お、お恥ずかしい……///」


櫻子「あかりちゃんとちなつちゃんは、同じ小学校だったの?」

あかり「ううん。でもちなつちゃんは昨日から、あかりと同じ部活に入ってくれたんだぁ♪」

向日葵「何部ですの?」

ちなつ「ちゃ、ちゃんとした部活じゃなさそうなんだけど……ごらく部っていうとこ」


あかり「そういえば向日葵ちゃんと櫻子ちゃんは自己紹介のときに、生徒会に入るって言ってたよねえ」


向日葵「ええ、まあ……そういえば櫻子はなんで生徒会に入ろうとしたんですの?」

櫻子「え? 向日葵が入るっていったから」

向日葵「えっ……」


櫻子「ま、私が入ったからには次期生徒会副会長は私かな~」

向日葵「なあっ、櫻子なんかに副会長は務まりませんわ! 私がなります!」

櫻子「なにをー!」


ちなつ「もう、また喧嘩になっちゃってるよ」

あかり「あはははは!」

櫻子「ところで二人は……魔法適性診断、どんな感じだった?」


あかり「あかりはね、主に身体強化や魔翌力増強、身体サポートの補助系魔法だったよぉ」

ちなつ「私は純粋な炎系魔法みたい。近づいたらやけどするよ~?」

向日葵「わたくしは治癒・状態回復の系統ですわ。比較的赤座さんに近いですから、これから先の授業で一緒になるかもしれませんわね」

あかり「そうだねえ」


櫻子(みんな、いろいろあるんだなあ……)



ちなつ「えっと……櫻子ちゃんは、プリマチュアだったんだよね」

櫻子「う、うん……」


あかり「大丈夫、いろんな授業で基礎を学べば、きっとすぐに自分の適性がわかると思うよぉ」

櫻子「あかりちゃん……!」


ちなつ「そうそう。なんならまずは私と同じ授業に来てみない? 炎系、かっこいいよ!」

向日葵「そうですわね。櫻子のお姉さんは属性魔法に長けていますから、きっと同じ系統かもしれませんわ。まずは炎から見てみるのもいいでしょうね」

櫻子「わ、わかった! じゃあ最初はちなつちゃんと同じところに行こうかな!」

ちなつ「よーし、びしびし教えるよ~♪」

あかり「えっ、ちなつちゃんはもう魔法使えるの?」

ちなつ「んーん、テストで適性診断されただけ」

あかり「なーんだ、びっくりしちゃったよぉ~」

櫻子「あははは!」



あかり「魔法の授業も、最初はみんな同じところから始めるんだよぉ」

向日葵「魔翌力コントロールからですわ」

櫻子「まりょくコントロール?」


ちなつ「人は、生まれてから成長していく中で徐々に魔翌力を帯びていくの。そしてそこから数年経って私たちくらいの年齢になると、その魔翌力がコントロールできるようになってくるわけ」

向日葵「この魔翌力を使って、私たちは様々な魔法を使っていくんですわ。溜まった魔翌力を魔法に変換する……魔法の仕組みを簡単に説明するとそんな感じですわね」

あかり「櫻子ちゃんはプリマチュアだけど、魔翌力が無いわけじゃないから大丈夫だと思うよぉ~」


先生「それでは今から皆さんに、この水の入ったビンを渡します。一人ずつ取りに来てくださーい」


櫻子「なんだろ、これ」ちゃぷちゃぷ

向日葵「普通ののビンと水じゃなさそうですわね」



先生「いいですか皆さん。皆さんにはまだ最大保持量こそ高くないものの、しっかりと魔翌力が宿っていると思います。この授業は、その魔翌力をとりあえず体外に放出してみる練習です」


先生「中学生になる前から魔法を使えた子も中にはいるかもしれませんが、魔翌力のアウトプットは全ての魔法の基本となります。まずはここをしっかりとマスターしましょう」



先生「このビンを胸の前に両手で持って、固定させたまま中の水に向かって念じてみてください。きちんと魔翌力がアウトプットされれば、こんな感じで……」


ちゃぷちゃぷ……


櫻子「わぁ……!」

あかり「水がすごい勢いで回転してる……」


先生「……とまあこのように、ビンの中の水に何らかの変化が起こるでしょう。私はとりあえず回転させてみましたが、水に起こる変化は人によって違うかもしれません。跳ねるように揺れたり、水をビンの中で持ち上げられたりする人もいるかもしれませんね」


先生「アウトプットに多様性がもてれば、発現する魔法にも幅が広がりますし……将来自分の素質にあった種類以外の魔法を習得するときにも役立ちます。頑張ってみましょう」

櫻子「ま、まずは誰かのを見ようかな……」きょろきょろ


向日葵「あら櫻子、私のを見てみます?」

櫻子「あっ、そうだよ向日葵! 向日葵はもう簡単な魔法くらいなら使えるんだから、これくらい簡単にできるんだよね!」


向日葵「いきますわよ……」ぐっ


くるくる……


櫻子「あ……動いてる!」


向日葵「この水の渦を加速させるようなイメージで、集中すれば……」

あかり「わあ、どんどん力強く回転してるよ~!」


先生「あら、古谷さんいいですね~。アウトプットが安定してきたら、回転の方向を変えたり、色々チャレンジしてみてください?」

向日葵「は、はいっ」

あかり「あかりたちもやってみようよ」

櫻子「よーし、やるぞ~!」



櫻子「胸の前で、ビンを持って……」


櫻子「集中……」ぐっ


櫻子(動け……動け……!)



しーん……



向日葵「…………動きませんわね」

櫻子「あれ、な、なんでだ……?」


あかり「あ、あかりは少しだけ揺れてるよ~」たぷたぷ

向日葵「赤座さんの水は面白く跳ねてますわね」

櫻子「も、もう一回! むむむ……」



櫻子「はぁ、はぁ……だめだぁ……///」

向日葵「なんでそんなに疲れてるんですの……まだ魔翌力使ってないのに」


櫻子「全然、何にも、まったく持って動かない!! なんだこれ!」

向日葵「そんなに力んだら、使える魔法も使えなくなりますわよ。冷静に、集中することが大事ですわ」

櫻子「そんなこといったってぇ……」

あかり「櫻子ちゃん……」



ざわ……ざわ……


「み、見てあれ!」

「すごーい、あんなに激しく……!」


櫻子「な、なんだろ。みんながざわついてる」

向日葵「誰かすごい結果を見せてるようですわね」

あかり「あっ! あれちなつちゃんだ!」


ちなつ「な、なにこれ止まらないよ~!!」ぼっこぼっこ


先生「うふふ、吉川さんは炎系魔法の色が強いですから、中の水が思い切り沸騰していますね。魔法ビンは耐魔構造になっていますから、触っても熱くないし爆発もしないと思います」

ちなつ「わーお、私ってもしかして天才魔法使いの素質アリ!?///」きゃほー

あかり「ちなつちゃんすごいよぉ~!」

櫻子(…………)


向日葵「なにしょげてるんですの」

櫻子「なっ、しょげてなんか……!」


向日葵「一度コツさえ掴めば簡単ですから。私が教えてあげますわ」ぎゅっ

櫻子(うぁっ……///)


向日葵「いい? 深呼吸して……静かに念じなさい」

櫻子(こ、こいつ……背中におっぱい当たってるっての……!///)むかっ



向日葵「ちょっと、もじもじしてちゃダメですわよ。心を落ち着けないと」


櫻子「こっ、こんなの落ち着けるかぁー! おっぱい禁止ー!///」ぽいーん

向日葵「きゃー! 何するんですの!///」べしっ

櫻子「痛って!」


ちなつ「まーた喧嘩してるよ、あの二人……」

あかり「あ、あははは……」



<お昼>


櫻子「家でもやってこいって言われて、ビン渡された……」

向日葵「魔翌力のアウトプットができないことには、何の魔法も使えないということですわ。ここができないと話にならないんですの」

あかり「コツさえ掴んじゃえばすぐできるよぉ。あかりもさっきの間でできるようになったし」

ちなつ「うんうん。今まで魔法使ったことのない私だって、あんなに効果が出たんだもん」


櫻子「いいなーみんな……もしかしたら私は、プリマチュアだからまだできないのかもしれないよぉ」

向日葵「自分が使おうとする魔法をイメージできないままアウトプットしようとしても難しいですから、そういう意味では確かにやりにくいのかもしれませんけど……でも練習あるのみですわよ」

櫻子「んー……」


あかり「とりあえず給食食べて元気出さなきゃ。知ってる? ここのご飯には魔翌力回復に役立つ成分が入ってるんだってぇ」

ちなつ「へー、すごい!」

向日葵「中学生はまだまだ保持魔翌力がそこそこですからね。ちゃんと身体を休ませて置かないと、倒れちゃいますわ」


櫻子「…………」


櫻子(私って、本当に魔翌力があるのかなぁ……)



<放課後・初の生徒会>


綾乃「じゃあ大室さんと古谷さんに、さっそくお仕事をお願いしようかしら」


櫻子「まっかせてください! 向日葵よりも早く終わらせますよ!」

向日葵「なっ……先輩、わたくしにお任せを! 櫻子よりも正確で迅速にこなしますわ!」

櫻子「いやいや私が!」

向日葵「私が!」


ぎゃーぎゃー……


千歳「うふふ、今年の一年生は元気やなあ」

綾乃「手がつけられないわね……もう」すっ


かちーん


櫻子「あっ、あれ……?」

向日葵「なっ、か、身体が動かない……!?」

すっ


櫻子「うわっ、う、動くようになった……」ふりふり

向日葵「今のは……?」


綾乃「今あなたたちに、一瞬だけ妨害魔法をかけました。ちゃんと話を聞かないと、どんどん自由を奪っていくわよ?」

千歳「綾乃ちゃんの得意分野なんやで~。逆らっちゃあかんよ~」

櫻子「す、すごい! こんな魔法もあるんだ……!」


綾乃「生徒会役員たるもの、喧嘩は厳禁よ。ちゃんと二人で協力してお仕事をこなすこと。いいわね?」

櫻子・向日葵「「は、はーい……」」

千歳(綾乃ちゃん、新しく後輩ができて気合入っとるなぁ……)くすくす



向日葵「会長の得意魔法は、妨害系なんですか?」

綾乃「そ、そうだけど……私は会長じゃなくて、副会長よ?」


向日葵「えっ? じゃあ会長はどこに……?」きょろきょろ



千歳「あちらにおわしますのが、うちの学校の生徒会長、松本りせ先輩やで~」


りせ「…………」ふりふり


櫻子「うわあっ! き、気づかなかった……///」びくっ

向日葵(ち、ちっちゃい……本当に三年生……?)



<昇降口>


櫻子「生徒会にもいろんな人達がいて面白かったね。みんな優しそうだし、なんとかやっていけそうかも!」

向日葵(本当にこの子は、何が目的で生徒会に入ったのかしら……)


櫻子「それにしても、杉浦先輩の魔法は凄かったよね。ぜんぜん動けなかった」

向日葵「妨害魔法……相手の動きをとめたり、声を封じたり……果ては魔法を使えなくさせることもできるでしょうね。杉浦先輩は二年生の中でも優秀な成績を修めていると聞きましたわ」


櫻子「なんかかっこいいなー。私もあんな風に…………ん?」



「そういうことですから、以後のことは……」

「わかりました。責任を持って私が……」


櫻子「え……? あれって……」

向日葵「あら、撫子さん!?」


撫子「うわっ……櫻子、ひま子!」どきっ

櫻子「な、なにやってんのこんなところで!? 高校はどうしたの!?」

撫子「もう終わったよ。久しぶりに先生と会ったから、世間話を少しね」

先生「大室さんのお姉さんはうちの学校でも特に優秀な生徒だったのよ。今でもたくさんの先生が覚えてらっしゃるほどにね」

向日葵「へぇ……! さすが撫子さん」


撫子「櫻子が迷惑かけてないか心配でさ。先生に色々聴きたくなっちゃって」

櫻子「そ、そんなことでいちいち来ないでよー! 恥ずかしいなぁ」

向日葵「でも櫻子は魔翌力のアウトプットさえまだ上手くいかないレベルで、みんなより少し遅れちゃってるんですの……」

櫻子「おい! なんで言っちゃうんだよ!///」

撫子「はぁ……そんなことだろうと思ったよ」


先生「うふふ……まあ大室さんはプリマチュアだから、最初は普通の人より上手くいかないことが多いでしょう。そうよねお姉さん?」

撫子「まあ、そうかもですね」

向日葵「え? それってどういう……?」


櫻子「向日葵知らないのか。ねーちゃんも最初は私と同じプリマチュアだったんだよ」

向日葵「えーっ!?」


撫子「……最初に櫻子がプリマチュアって聞いた時は驚いたけど、納得もいくよね。やっぱり姉妹って静かなところで似ちゃうんだ」

先生「先生たちも最初は驚いたけど、名簿を見て納得よ。大室さんの妹ってすぐにわかったから」

向日葵「し、知らなかったですわ……驚きです」


撫子「でもプリマチュアだから人より遅れていいなんてことにはならないんだからね。今日から家でもビシビシ特訓つけてくよ?」

櫻子「えぇ~~~!! やだぁ……」ぐったり

先生「うふふ……でも大室さんなら大丈夫でしょう。すぐにお姉さんに追いつくと思うわ」

向日葵「私も特訓手伝いますわ」

櫻子「うぅぅ……///」


<帰り道>


撫子「…………」





校長『来てくれてありがとう大室さん。突然呼びつけてごめんなさいね。どうぞそちらにおかけになって』


撫子『校長先生、お久しぶりです』

校長『ええ本当に……でも大室さんの活躍はこの中学校にいても入ってくるほどだから、そんなに久しぶりって感じはしないけれど』

撫子『ええと……恐縮です』



校長『さて、大室さん……昨日電話でお話しした通り、あなたの妹・大室櫻子さんのことで伝えたいことがあって今日ここにお呼び致しました』

撫子『さ、櫻子のこと……』

校長『実は先日の魔法適性診断において、大室さんには特別な兆候が見られました。すぐさま第1種特定診断プログラムに移り……簡単ではありましたが、有意な結果が示唆されましたので報告します』

撫子『…………!』



校長『大室櫻子さんは……封印古代魔法使用資質を持っている可能性があります』

撫子『封印……古代魔法……!?』



校長『あなたなら、歴史の授業で習ったのを覚えているかもしれませんが……今は遠い遥か昔、我々が暮らしている今の世の中よりも、遥かに魔法文化が栄えていたとされる時代がありました』


校長『人々は皆当たり前のように様々な属性の魔法を使いこなし、力のある賢者たちは自分たちで独自の魔法を編み出していたとも言われています。こんにち私たちが学んでいる魔法の中には、この頃を起源に持つものも多いようです』


校長『その時代の王権者たちは、国家に反乱する勢力を鎮める政策の一環として、危険度の高い魔法を編み出す者たちを次々と粛清していきました。有力な賢者たちを次々と審査にかけ、危険と判断された魔法の編出者たちは、国家賢者によって永久に魔翌力を奪われる禁術をかけられたのです』


校長『その政策によって封印された魔法が、いわゆる封印古代魔法です。これを扱う賢者たちは当時ほとんど粛清されたと伝わっていますが、その子孫たちがごく稀に魔法使用資質を現すことがあるそうです』


撫子『櫻子が……その資質を持っているかもしれないと』

校長『しかし今の櫻子さんには資質こそあれど、古代魔法を使いこなすほどの保持魔翌力が無いようです。もし本当に使用できるとしても、今すぐに魔法を発現することはないと思われます』

撫子『な、なるほど』


校長『……封印古代魔法はまだまだ我々の理解の及ばない面がたくさんあります。それ故に何が起こるかわからないため、一応頭の隅に留めてもらいたく、今日あなたをお呼びしました』


撫子『では櫻子は、本当はプリマチュアというわけではないのですね……?』


校長『いえ……扱いとしてはプリマチュアになります。古代魔法を適性に持つというわけではなく、それは単に使用資質を持つだけのようです。魔法庁の関係者によると、一般的に封印古代魔法使用資質保持者はあらゆる魔法分野への適性を平等に持つといわれています。つまり、その部分は大室さん……あなたと同じなのですよ』


撫子『…………!!』



校長『まあ、そんなに心配することはありませんよ。昔のように粛清対象として法の下裁かれたりするわけではありませんし……貴重な魔法を持つ子だという可能性がある、というだけです』


校長『具体的なことがわかるまでは、学校側としても櫻子さんの魔法をおおやけにしないで、引き続きプリマチュアとして通常の魔法教育課程に置きます。この事実を櫻子さん本人に伝えるかどうかも、あなたにお任せしましょう』





撫子(櫻子が……封印された古代魔法の使用資質を持っているかもしれないなんて……)

撫子(校長先生は大丈夫なんて言ってたけど……古代魔法が使える資質を持ってるなんて誰かに知られたら、悪い虫が櫻子を狙うかもしれない……!)


撫子(それにあの子自身、まだまだ魔法に関してはひよっこ……古代魔法のことは教えないで、普通の魔法を普通に覚えさせて、事実を隠した方が安全だ……)



向日葵「―――のようにすれば、水に変化が起きるはずですわよ?」

櫻子「だからやってるんだってばー! もー向日葵わかりづらい! ねーちゃん教えて?」


撫子「…………」


櫻子「……ねーちゃん?」ちょいちょい

撫子「わっ……な、なに?」


櫻子「これ、いくらやってもビンの水がびくともしないの。向日葵の言ってることはよくわかんないから、代わりにねーちゃん教えてよ」

向日葵「お手本見せてあげてくださいな」


撫子「ビン、か……懐かしいなぁ」しゅいぃぃ

櫻子「うわー、すっごい!! 水がめちゃめちゃ回ってる!」


撫子「私は風系統の魔法が得意だから、こんな感じで回転速度を上げるのは朝飯前なんだよ」

向日葵「すごいですわ……! 今にもビンから魔法が飛び出してきそう」


櫻子「あーちょっとやり方わかったかも! 貸して貸して!」

向日葵「身体の中を流れる魔翌力を、腕の先からビンに伝わせる感じでやるんですわ」

櫻子「よーし、むむむ……!」


撫子(櫻子が本当に古代魔法を使えるなら……この水にはどんな変化が起きるんだろうな)

――――――
――――
――



<数日後・学校>


あかり「櫻子ちゃーん!」

櫻子「ん?」


あかり「こっちこっち、来て来て~」

「ほほー、この子が櫻子ちゃんか」


櫻子「あかりちゃん、この人は?」とてとて

あかり「この人はあかりの幼馴染で、二年生の歳納京子ちゃんだよぉ」

京子「よろしく!」


櫻子「あー! あかりちゃんから聞いてますよ、ごらく部の部長さんだ!」

京子「おおーう、私も有名人になったもんだ……///」


あかり「京子ちゃんが、どうしても櫻子ちゃんに会ってみたかったんだってぇ」

櫻子「私に??」


京子「いやー、あかりとは学年が一個違っちゃってるからさあ。あかりがちゃんと友達作れてるか心配で!」

あかり「もう京子ちゃん! あかりだってお友達くらい作れるよぉ」ぷんすか

櫻子「大丈夫ですよ、あかりちゃんいい子だから! ずっとずっと仲良くしまーす!」

京子「うちのあかりをよろしく頼むね、プリマチュアちゃん!」

櫻子「うっ……///」ずきーん

あかり「ああっ、京子ちゃん……櫻子ちゃんにそんなこと言うなんてひどいよぉ」

京子「えっ、そうだった?」

櫻子「い、いやいや……ほんとのことですから……あはは」


京子「大丈夫だよ。プリマチュアだってすぐに魔法使えるようになるって」

櫻子「うーん……」

あかり「櫻子ちゃんはまだあんまりうまくいかなくて、悩んでるの」


京子「ふーん……じゃあ私が教えてあげようか?」

櫻子「ええっ?」


京子「私もキミくらいのときは苦労したから、その気持ちがよくわかるんだ。コツを教えてあげられるかもしれないよ」

櫻子「ほっ、ほんとですかぁ!?///」


京子「よっしゃ、さっそく特訓するかい?」

櫻子「やりますやります! ……あ、でも今日生徒会が……」


京子「あーあー大丈夫。綾乃には私が適当に話つけとくから」

櫻子「ふぇっ? 先輩、杉浦先輩とお知り合いなんですか?」

京子「知り合いどころか、マブダチってやつ?」

櫻子「マブなんすか!? じゃあ大丈夫かなー!」

あかり「用語が古いよぉ……」



<校庭>


「周りの風を意識してさくっちゃん! 魔翌力の流れを掴むんだ!」

「は、はーい!」


向日葵(まったく、生徒会サボって何やってるかと思えば……)はぁ



「何やってんだあいつ……」

向日葵「?」ちらっ


「あれが、言ってたプリマチュアの子かな……」

向日葵「あ、あの……あちらのリボンの方のお知り合いですか?」


「あ……うん。あいつの友達で……二年の船見結衣っていうんだ」

向日葵「私もあそこにいるプリマチュアの友達で、古谷向日葵と申しますわ。よろしくお願いします、船見先輩」

結衣「うん、よろしく。……にしてもごめんね、うちの京子があの子を借りちゃって……」

向日葵「いえいえそんな! 見たところ櫻子に魔法の特訓をしてくれているようですし、願ってもないことですわ」


結衣「あかりの友達にプリマチュアがいるって聞いたら、やけに興味示してさ……物好きなんだよな、京子」

向日葵「私としても、魔翌力のアウトプットくらいはできてもらわないと困りますから。あの子と毎日特訓してますの」

結衣「苦労するね、お互い」

向日葵「ふふ、そうですわね」

京子「さくっちゃん、空を見て! 空の流れを脳内に焼き付けて、ビンの中に思いっきりぶち込む感じで!」

櫻子「う、うぁぁ…………えええーーーい!!!」


きゅぃぃぃぃん……!!!


結衣「え!?」

向日葵「なっ、ビンが宙に浮いた……!?」


あかり「ど、どういうこと!?」


京子「ま、魔法を止めちゃだめださくっちゃん! 魔翌力の流れは今もビンに続いてる! そのままあのビンに向かって念じ続けて!」


櫻子「うぅぅ……うぉぉぉおおおおお!!!」じりじり


ばりーーーーん!!!


あかり「きゃああーーー!!」

櫻子「わっ、割れたぁ!!」

京子「や、やっべ!」

結衣(くそっ、間に合え……!!)ばっ


くるくる……


あかり「あ、破片が一か所に集まってく……!」



京子「おおー結衣! ナイスぅ!」

結衣「ナイスぅ、じゃないだろ! 空中でガラス爆発させてどういうつもりだ!」

京子「いやあ、爆発するとは思わなくてさ……」


向日葵「皆さん、怪我はありませんか!?」

櫻子「だ、大丈夫だけど」


結衣「はぁ、私がたまたま風の魔法札持っててよかったけど……あのまま行ってたらみんなの頭上にガラスが降り注ぐところだったぞ。気をつけろよな」

京子「ごめんごめん、この通り!」

櫻子「なっ、わ、割ったのは私です! ごめんなさい先輩!」

京子「いいのいいの、さくっちゃんはようやく魔翌力のアウトプットができるようになってきたんだから! 今の感覚を忘れないようにして、お家でも練習してよ」

櫻子「そ、そうだ……私今初めて魔翌力を外に出せたんだ!! うわーいやったーー!!///」ぴょんぴょん


あかり「うふふ、ゴキゲンだねえ櫻子ちゃん」

向日葵「え、ええ……」


向日葵(耐魔構造の魔法ビンを破裂させるなんて……聞いたことありませんわ……)



<大室家・庭>


櫻子「うぉぉ~~……! どうにかなれ~~……!!」もんもん



撫子「び、ビンが破裂?」

向日葵「ええ……そのときのコツを今も実践しようとしてるんですわ。もし割れそうなら、撫子さん破片を散らさないようにお願いできますか?」

撫子「うん、そのくらいは簡単だけど……」


向日葵「それにしても、耐魔ビンを壊すなんてどういうことなんでしょう。ビンに傷でもついていたのかしら」


撫子(も、もしかして……古代魔法の片鱗……!?///)


向日葵「いったいどんな魔法が発現するのか、私も気になって仕方ありませんわ。撫子さんはどう思います?」

撫子「…………」


向日葵「……撫子さん?」

撫子「えっ、ああ……そうだなぁ、やっぱり私に似て風系なんじゃないかな」

向日葵「なるほど。傷の入ったビン内の気圧を思い切り変動させれば、確かに割れるかもしれませんわね」


撫子(う、嘘でしょ……本当に古代魔法が使えちゃうの……!?)


撫子(……ひま子には、早めにこの事実を伝えておいた方がいいかもしれない……)ごくっ

櫻子「んんん~~~……あっ、あれっ!?」


向日葵「ん……どうしたんですの?」


櫻子「あれぇ……!? おかしいな、ビンの中の水が無くなっちゃってる」

撫子(!!)どきっ



向日葵「どういうこと? あなたお水捨てちゃったんですの?」

櫻子「いや、私蓋あけてないよ! ちゃぷちゃぷ言わないなーって思って、今気づいたら水が無かったの!」


撫子(う、うそ……っ!!)


撫子(話が違うじゃん……魔翌力が無いからまだ古代魔法は使えないんじゃなかったの……!?)



向日葵「撫子さんどういうことでしょうか。何の魔法だと思います?」

撫子「うーん……わ、私でもちょっとわからないや」


櫻子「ふーん。まあいいや、今日はもう疲れたからやめにしよー」


撫子(ま、待ってられない……早く他の魔法を仕込んで気をそらすか……どうすれば……!)



<撫子の高校・図書館>


撫子(……なんにしても、わからないことが多すぎる)

撫子(うちの高校なら、ある程度は参考になりそうな文献があるはずだ……)きょろきょろ


撫子(……これとかどうかな。魔術歴史大全)すっ


撫子(…………)ぺらぺら


撫子(……あっ、この辺……!)


[―――魔法大戦が落ち着き、秩序安寧が保たれるきっかけとなる時代に起こった世紀の大粛清。各地方の反乱分子の中にいる有力賢者たちを無力化するため、密偵を放って次々と審問にかけた。強力な魔法を編出した魔導師たちはみな国家賢者により、永久に魔翌力を奪われ無力化。残した魔道書・魔装備等もすべて焼き払われたとされる。]


[しかし、魔翌力を失った賢者たちの子孫が、封印された魔法の使用資質を現すことがあると長い歴史の中で確認されており、これらの者が使う魔法は封印古代魔法として認識されている。古くはこの魔法を発現する子を忌み嫌う風潮や、国家レベルで存在を隠匿、時にその魔法を利用して執政に利用する動きも見られた。]


[封印古代魔法はその危険度により5つの段階レベルに分けられる。危険度の低いものには毒物生成、洗脳操作に始まり、人知を超えた概念……亜空間発現、次元跳躍、引力操作など、存在そのものが禁忌とされるレベルのものまであるとされるが、定かではない。かつて国家賢者がこれらの古代魔法を封印するために使用した、永久に魔翌力を奪う魔法も今では封印古代魔法のひとつとされている。]


撫子(な、なんだこりゃ……亜空間発現……!?)


撫子(ありえない……こんなありえないことが、本当にあったっていうの……!?)


撫子(櫻子の古代魔法は……これと同じレベル……っ)



「あらあら、撫子じゃない!」

撫子「っ!!」びくっ

美穂「なあに? そんなでっかい本持っちゃって。枕でも探してたの?」

撫子「み、美穂……いや別に私図書館に寝に来たわけじゃないから」

美穂「あらそう? でも撫子最近元気ないわよね」

撫子「うそっ!?」


美穂「元気ないというか、なーんか考え事多いというか……悩みでもあるの?」

撫子「いや、別に……そんなのは……っていうか美穂はここに何しに? 図書館来るなんて私より珍しいじゃん」

美穂「あれ、言わなかったっけ。私この前ようやく回復魔法が使えるようになったのよね~。もうちょっと進んだところまでいきたいから、参考になりそうな魔導書を探しに来たの」

撫子「あー、初めて適性以外の魔法使えるようになったんだっけ……」


美穂「あ、ちょっと~! 天才撫子にはわからないかもしれないけど、私たちは血の滲むような思いで第二魔法第三魔法を習得していくんですからね!」

撫子「いや、別にバカにしてるわけじゃないよ! 私だって回復使えるようになったの後の方だもん」

美穂「『なーんだ、美穂はまだその段階なのかぁ。かわいいなぁ~もう』みたいな顔してたじゃない!」

撫子「してないって!!///」


美穂「……まあいいけど。こうなったらスーパーヒーラーになって、撫子が私に回復を泣きつくようになるまで治癒系をマスターしてやるわ」

撫子「泣きつきはしないと思うけど……回復系の魔導書なら良いの知ってるよ。こっちこっち」

美穂「わーい、じゃあ一緒に勉強しましょ♪」



〈ある日の放課後・生徒会〉


千歳「大室さん、魔法のお勉強は順調なん?」

櫻子「んー、授業以外でもねーちゃんや向日葵と特訓してるんですけど、まだまだで……早くみんなみたいに思い通りに魔法使いたいですよ~」


綾乃「あれっ……冷蔵庫に入れておいた私のプリンが無い!!」かぱっ


櫻子「あ、杉浦先輩これすか?」ぱくぱく

綾乃「ちょっとー! それ普通のプリンじゃなくて特製マジックプリンなのよ!? 制御力の低い大室さんが食べたら、魔翌力が暴走しちゃうかもしれないわ!」


櫻子「そ、そういやなんか、身体がむずむずする……///」じわじわ


向日葵「きゃーーーー!!」がたん

綾乃「み、みんな逃げてーー!!」



櫻子「わぁあ……うわーーーー!!」しゅいーん


『…………』


向日葵「……あら? 何ともない……」

櫻子「い、今の光はなんだったんだろ」


綾乃「あれっ、マジックプリンが……!! 新品の状態に戻ってるわ! 大室さん、今確かにこれ食べてたわよね!?」

りせ(!!)



櫻子「わーほんとだ! さっき丸々一個食べちゃったのに……わーい、二個目が食べれるー♪」

綾乃「ああっ、ダメよ! これはもともと私がテスト明けの魔翌力回復のために食べようと思って買ったの!」


千歳「今の、プリン作る魔法やったんかぁ?」

向日葵「きっと暴走して変な魔法が出ちゃったんですわ。使いこなせればプリン屋さんになれるかもしれませんわね」

櫻子「それもいいかも~♪」


りせ(っ……!!)



〈実験室〉


コンコン


りせ「…………」がらっ

奈々「おお、松本じゃないか。もう生徒会は終わったのか? もうすぐ明日の実験準備が終わるから、そしたら一緒に帰……」


りせ「…………」

奈々「……ん? 伝えたいことがある? どうした改まって」


りせ「…………」

奈々「……大室のこと、か」



奈々「うーむ、あまり大っぴらにはできないことらしいんだが……自力で気付いたのなら仕方ない。私の話を少し聴いていけ」


奈々「みんなも知っての通り、大室はプリマチュアだ。未だに適性は判明せず、様々な授業に顔を出しているらしい。が、聞いたところによるとどの授業でもそこそこの素質を見せるそうだ」


奈々「それ以外にも、大室は時々よくわからない魔法を発現させることがあるという……適性が無いゆえに魔法のイメージが定まっておらず、結果おかしな魔法が出てしまっていると思い込んでいる者が多いが……あれには何かそんなものとは違う何かを感じる」


奈々「私たちのような大室とは関わりの薄い教師には、詳しいことが明かされていない。が、校長や担任は確実に何か掴んでいるようだ」


奈々「私のような魔法創造に携わる者としては、皆とは違った兆候を示す大室には興味があるんだが、直接捕まえて実験なんぞして、それが校長の耳に入れば教員免許剥奪もあり得る……どうしたもんかなぁ」


りせ「…………」

奈々「……ほほう、食べたはずのプリンが元どおりに? これまた奇怪な……インスタントクリエイション的なことか……?」

りせ「…………」

奈々「……なに? 大室の魔法を確かめるいい方法があるって……どういうことだ?」


りせ「…………」

奈々「ああ、そうか! 確かにそこを使えば……! だ、だが松本、いいのか……?」


りせ「…………///」

奈々「ふふ、大それたことをする生徒会長だ……松本がその気なら、私だって好意を受け取らないわけにはいかないな」



奈々「よし、準備するとしよう。今回の学期末バトルトーナメント試験の準備をな」

りせ「…………」こくり



~to be continued~

【七森魔法中学校物語・二話設定資料】


『魔法』


大きくふたつに分けると、攻撃作用を持つ魔法と、そうでない魔法に分類される。

攻撃魔法のほとんどは属性魔法と言われる。ここでは一部を紹介する。


炎:熱や炎を発現させる魔法。氷に強く、水に弱い。

水:水を発現させたり利用して扱う魔法。炎に強く、雷に弱い。

雷:電気エネルギーを発現させる魔法。水に強く、土に弱い。

土:大地の力・樹木の力を利用する魔法。雷に強く、氷に弱い。

氷:水分を凍らせたり、超低温を発現させる魔法。土に強く、炎に弱い。

風:風のエネルギーを発現させる魔法。弱点関係は持たない。

光:光を利用する魔法。闇に対して強くもあり、弱くもある。

闇:闇を利用する魔法。光に対して強くもあり、弱くもある。


(氷)←炎←水←雷←土←氷 というような弱点関係。

光と闇は、性質上視覚に大きく関わってくる。


回復:文字通り治癒、回復を促す魔法。

補助:エネルギー増幅、効率化、防御壁等、プラス効果をもたらす魔法は大きく補助に分類される。

妨害:行動停止、弱体化、神経・精神への負荷など、受け手にマイナス効果をもたらす魔法は大きく妨害に分類される。



『封印古代魔法』


遥か昔、現代よりも遥かに魔法文化が栄えていたとされる時代に、力のある賢者たちが編み出した独自の魔法。

その時代の王権者たちは、国家に反乱する勢力を鎮める政策の一環として、危険度の高い魔法を編み出す者たちを次々と粛清するという政策を行った。これにより、力を持った賢者たちは次々と審査にかけられ、危険と判断された魔法の編出者たちは、国家賢者によって永久に魔翌力を奪われる禁術をかけられた。

この政策によって封印された魔法が、封印古代魔法である。強力すぎるが故に封印されたため、当然現代に残り伝わる魔法よりも強力な効果を示し、危険度が高い。

生体即死、毒物生成、精神操作など、編出者以外には原理不明な妖術的・呪術的なものから、亜空間発現、引力操作、時間操作、次元跳躍など存在そのものが禁忌とされるレベルのものまであったとされるが、詳しいことは定かではない。これらの危険極まりないものを封印した上記の政策は正しいのか間違っていたのかは諸説あるが、現代の魔法文化はこれらの古代魔法が存在していた時代のものに未だ追い付いていないと言われている。

編出者の粛清として、死を持った極刑ではなく魔翌力を永久に奪う魔法をかけたようである。魔翌力を奪われ魔法が使えなくなった賢者たちは、必然的にその時代の社会の最底辺の地位を強いられることとなった。当時の社会では死よりも重いのがこの魔法刑であった。

しかし魔法が使えないということ以外は基本的な人間と同じであるため、当然子孫を残すことができる。この子孫たちは賢者の才を引き継いで強靭な魔翌力を持つものが多く、そしてその中に封印古代魔法を使えてしまう子も現れる。その常に非ざる術は、時代によっては忌み嫌われ、時代によっては戦争の道具になり、時代によっては都市伝説化するだけであったり、辿る歴史は様々である。



『魔法庁』


魔法に関連するいろいろを取り扱う国家機関。ここに所属する人は「国家賢者」と呼ばれている。その名の通り魔法に長けていなければ国家賢者には当然なれない。

封印古代魔法使用資質保持者を確認した場合、魔法庁の指示を仰ぐことになっている。しかし資質保持の可能性を示すものは多くても、本当に使用できる人はまれであるため、一人一人への特別対応は間に合わない。

現在では、中学校入学時の魔法適性診断の際に特別な兆候を見せた者に、使用資質保持確認の特別プログラムを行うことになっている。櫻子が一人だけ長くテストされていたのはこれのためである。

大抵の資質保持者は古代魔法を使用するための魔翌力をまだ有しておらず、資質保持が示唆される結果となっても、そのまま普通魔法教育課程に身を置いて魔翌力の成長を待つ形になる。



『高校生たち』


高校の魔法教育は基本的に中学校の延長である。自分の得意魔法によっては、それを専門的に扱う学校や科に進む人もいる。(回復魔法適性者を集める、医療系専門高校など)

撫子たちは普通科であり、自分の得意を伸ばすという基本スタンスは中学校と同じである。

難関大学の中には、受験資格に「適性以外の第二・第三魔法を使用できること」などを設けているところがあり、それに向けて新しく魔法を習得するような子が進学校の普通科には多い。美穂の適性は妨害だが、最近回復魔法を覚えたようである。

撫子は特殊プリマチュアのためいわずもがなだが、藍なども既に数種の魔法を使用できるらしい。めぐみも皆と一緒に日々励んでいる。

>>53

【七森魔法中学校物語・二話設定資料】



『魔法』


大きくふたつに分けると、攻撃作用を持つ魔法と、そうでない魔法に分類される。

攻撃魔法のほとんどは属性魔法と言われる。ここでは一部を紹介する。


炎:熱や炎を発現させる魔法。氷に強く、水に弱い。

水:水を発現させたり利用して扱う魔法。炎に強く、雷に弱い。

雷:電気エネルギーを発現させる魔法。水に強く、土に弱い。

土:大地の力・樹木の力を利用する魔法。雷に強く、氷に弱い。

氷:水分を凍らせたり、超低温を発現させる魔法。土に強く、炎に弱い。

風:風のエネルギーを発現させる魔法。弱点関係は持たない。

光:光を利用する魔法。闇に対して強くもあり、弱くもある。

闇:闇を利用する魔法。光に対して強くもあり、弱くもある。


(氷)←炎←水←雷←土←氷 というような弱点関係。

光と闇は、性質上視覚に大きく関わってくる。


回復:文字通り治癒、回復を促す魔法。

補助:エネルギー増幅、効率化、防御壁等、プラス効果をもたらす魔法は大きく補助に分類される。

妨害:行動停止、弱体化、神経・精神への負荷など、受け手にマイナス効果をもたらす魔法は大きく妨害に分類される。



『封印古代魔法』


遥か昔、現代よりも遥かに魔法文化が栄えていたとされる時代に、力のある賢者たちが編み出した独自の魔法。

その時代の王権者たちは、国家に反乱する勢力を鎮める政策の一環として、危険度の高い魔法を編み出す者たちを次々と粛清するという政策を行った。これにより、力を持った賢者たちは次々と審査にかけられ、危険と判断された魔法の編出者たちは、国家賢者によって永久に魔力を奪われる禁術をかけられた。

この政策によって封印された魔法が、封印古代魔法である。強力すぎるが故に封印されたため、当然現代に残り伝わる魔法よりも強力な効果を示し、危険度が高い。

生体即死、毒物生成、精神操作など、編出者以外には原理不明な妖術的・呪術的なものから、亜空間発現、引力操作、時間操作、次元跳躍など存在そのものが禁忌とされるレベルのものまであったとされるが、詳しいことは定かではない。これらの危険極まりないものを封印した上記の政策は正しいのか間違っていたのかは諸説あるが、現代の魔法文化はこれらの古代魔法が存在していた時代のものに未だ追い付いていないと言われている。

編出者の粛清として、死を持った極刑ではなく魔力を永久に奪う魔法をかけたようである。魔力を奪われ魔法が使えなくなった賢者たちは、必然的にその時代の社会の最底辺の地位を強いられることとなった。当時の社会では死よりも重いのがこの魔法刑であった。

しかし魔法が使えないということ以外は基本的な人間と同じであるため、当然子孫を残すことができる。この子孫たちは賢者の才を引き継いで強靭な魔力を持つものが多く、そしてその中に封印古代魔法を使えてしまう子も現れる。その常に非ざる術は、時代によっては忌み嫌われ、時代によっては戦争の道具になり、時代によっては都市伝説化するだけであったり、辿る歴史は様々である。



『魔法庁』


魔法に関連するいろいろを取り扱う国家機関。ここに所属する人は「国家賢者」と呼ばれている。その名の通り魔法に長けていなければ国家賢者には当然なれない。

封印古代魔法使用資質保持者を確認した場合、魔法庁の指示を仰ぐことになっている。しかし資質保持の可能性を示すものは多くても、本当に使用できる人はまれであるため、一人一人への特別対応は間に合わない。

現在では、中学校入学時の魔法適性診断の際に特別な兆候を見せた者に、使用資質保持確認の特別プログラムを行うことになっている。櫻子が一人だけ長くテストされていたのはこれのためである。

大抵の資質保持者は古代魔法を使用するための魔力をまだ有しておらず、資質保持が示唆される結果となっても、そのまま普通魔法教育課程に身を置いて魔力の成長を待つ形になる。



『高校生たち』


高校の魔法教育は基本的に中学校の延長である。自分の得意魔法によっては、それを専門的に扱う学校や科に進む人もいる。(回復魔法適性者を集める、医療系専門高校など)

撫子たちは普通科であり、自分の得意を伸ばすという基本スタンスは中学校と同じである。

難関大学の中には、受験資格に「適性以外の第二・第三魔法を使用できること」などを設けているところがあり、それに向けて新しく魔法を習得するような子が進学校の普通科には多い。美穂の適性は妨害だが、最近回復魔法を覚えたようである。

撫子は特殊プリマチュアのためいわずもがなだが、藍なども既に数種の魔法を使用できるらしい。めぐみも皆と一緒に日々励んでいる。

【第三話:マジカルバトルトーナメント!私も試合に勝ちたいよ!】


〈朝・掲示板前〉


櫻子「あ、あかりちゃんたちだ。おーい!」たたたっ


向日葵「おはようございます。何見てるんですの?」

あかり「ああ櫻子ちゃん向日葵ちゃん、これだよぉ」ぴっ



櫻子「『学期末マジカルバトルトーナメント試験に関するお知らせ』……え、なにこれ?」



向日葵「ああ、これが噂の……七森魔法中学校独自の伝統的な大会ですわ。クラスも学年もごちゃまぜで各自が魔法を駆使して戦い合う、トーナメント形式の大会ですわよ。毎年大盛り上がりするらしいですわ」


結衣「古谷さん詳しいね。そしてこの大会は魔法の演習授業の期末試験も兼ねてるんだ。だから全員必ず出なきゃいけない。でもいい成績を収めれば、ちゃんと通知表にも載るんだよ」


『その通りーっ!!』がーっ

櫻子「うわっ!」びくっ

奈々『さあさあよく聞け生徒諸君。今回のマジカルバトルトーナメントだが、さまざまな特典を用意させてもらったー!』


向日葵「拡声器使って……選挙演説みたいですわね」

京子「ほほう、特典とな……?」


奈々『今大会はこの西垣奈々が全面プロデュースし、トーナメントの上位入賞者には様々な特典を与えることにした!
優秀な順位を収めれば、私が担当する実験科目の成績に反映! そして学期末試験免除! さらにさらに、私特性の魔法アイテムをどどーんと大放出だ!!』ばーん


結衣「し、試験免除で成績が付くのはでかいな……! 西垣先生の科目は難しいからな」

京子「西垣ちゃんの魔法アイテム……ほ、欲しい……!!///」


櫻子「なに? 先生の魔法アイテムって?」

向日葵「西垣先生は独自の魔法道具を発明するのが好きなんですのよ。魅力的で実用的なものも多いと聞きますわ」

綾乃「こ、これは少し欲しいわね……///」

奈々『しかも今回は生徒会長である松本からも、大会を盛り上げるための特典を用意するそうだ! 松本、発表していいぞ』


りせ『…………』


奈々『な、なんだって!? 生徒会長の出来る範囲で、優勝者の願いを叶えるだと!?』

ちなつ「全然聞こえなかったんですけど……」



奈々『なるほどなるほど、優勝者に一部の校則を緩和させる権利を与えたり、所属する部活の活動費を増やしたりすると! これはすごいな……!』

結衣「!!」ぴくっ


奈々『ふっふっふ……どうだみんな、モチベーションが高まったかな?
もちろん例年と同じように、トーナメントで活躍できなければそのように成績がついてしまう! どうせやるなら……勝ちたいよなあ?』

向日葵「確かに、どうせやるならそうですわね……」


奈々『日時は予定通り、今から一ヶ月後!! 詳しいことは追って説明するが、各自自分の魔法を磨き、存分に腕前を振るってもらおうと思う!
一位を掴み、校内最強賢者の称号を掴むのは誰だーー!?』


わあああぁぁぁぁっ……!!



櫻子「も、盛り上がってるなぁ……!」

結衣「期末試験を兼ねてるけど、本質的にはお祭りみたいなイベントなんだ。魔法運動会みたいなものかな」

京子「今年はいろんな特典あるっぽいし……これは頑張らないとなあ! なー綾乃♪」だきっ

綾乃「ふぇっ!?///」びくっ


京子「おいおい忘れたのか?
トーナメントのエントリーは1~2名でするんだよ。妨害魔法の得意な綾乃と組めば、良いところまで行ける気がするんだけどな~わたし~」

綾乃「そ、そっか……歳納京子は属性魔法だから、サポートが欲しいのね……!」

千歳「うちは去年綾乃ちゃんと組んだけど、そういうことなら今年は歳納さんに譲ろうかな~」


あかり「そっかあ、あかりも補助系だから、誰かと組まないと戦えないってことだよねぇ。どうしようかなぁ」


ちなつ「結衣せんぱ~~い!! 一緒に組んでくれませんかぁ!?」ぎゅっ

結衣「うーん、でも私は氷系魔法だからなぁ……ちなつちゃんと一緒だと、相性的に思うように力が発揮できないかも……」

ちなつ「」がーん



櫻子(……私、まだ何の魔法かもよくわかってないのに……)


向日葵「……櫻子?」

櫻子「わっ、な、なに?」


向日葵「もう、だからこの大会は負けるわけにはいかないんですのよ。プリマチュアだからって特別ハンデは無し、皆と比べられて、それが成績に反映されてしまうんですからね」

櫻子「そ、そっかぁ……」

向日葵「……私でも、いいですけど……?///」

櫻子「えっ……?」


向日葵「……私は回復系魔法適性者。攻撃手段がないから、誰かと一緒に組まないと勝ち上がることができないんですわ」


向日葵「だから……あなたと組んであげても良いって言ってるんですの」

櫻子「ええっ!?///」


向日葵「最近撫子さんとのトレーニングで、たまーにですけど……攻撃魔法っぽいものが出てくるようになったでしょう。少なくともそっち方面が全く使えない私よりは、使い物になりますわ」


向日葵「今からでも一か月間しっかり練習すれば、人並みに追いつけるかもしれない。そうでなくてもプリマチュアのあなたは、組んでくれる人なんていないでしょうし……」


櫻子「……私で、いいの?」


向日葵「ここまで一緒にトレーニングしてきた責任もありますしね。その代わり、ここからは今まで以上にみっちり特訓していきますわよ。帰ったら撫子さんにも大会のことを相談しましょう」

櫻子「よ、よし……頑張らなきゃ……!」



<大室家>


櫻子「この中に入ってる水を、魔翌力だけで回すんだよ」

花子「へぇー」

櫻子「まあ花子はまだ8歳だからできないかもね~」

花子「こうかな?」しゅいいーん

櫻子「はぁ!? なんでできんの!?///」


きゃっきゃっ……



撫子「バトルトーナメントか。懐かしいなあ」ぴらっ


向日葵「撫子さんは中学生のころどんな感じでした?」

撫子「プリマチュアだったから、最初のうちはそんなでもなかったけど……あ、確か卒アルに載ってたっけな」よっこらせ


向日葵「?」



撫子「あったあった、これこれ」


向日葵「ええと……三年次学期末バトルトーナメント……ええっ!? 優勝:大室撫子!?」


櫻子「ええっ、なになに?」たたたっ


撫子「この頃はもういろいろと魔法が身についてたからね。なんとか優勝できたんだ」

向日葵「すごいですわ……さすが撫子さん。先生たちに今でもしっかり覚えられてるのも納得がいきますわね」

花子「かっこいーし」

櫻子「ちょ、ちょっと待って!? これ優勝トロフィー持ってるのねーちゃんだけだけど……ペア組んだ人は?」


撫子「この時は誰とも組まなかったよ。一人でいったんだ」

向日葵「えええーっ!?」


櫻子「どういうこと!? この大会、ペア組んだ方が絶対有利なんじゃないの? 二対一になっちゃうじゃん!」

撫子「ああそっか。じゃあ詳しいルールを教えてあげよう」



撫子「マジカルバトルトーナメントは、文字通り魔法を使って戦いあうトーナメント形式の大会だ。授業で学んだことを、対人戦を通して発揮するのが目的なんだ」


撫子「ここの試合内容で実践演習の成績が付けられちゃうけど、実はそれは勝つか負けるかはあんまり関係ないんだよ。各先生方が試合の審判と判定員を兼ねてて、試合を通して生徒を判断するんだ。例えば負けチームに補助系魔道士がいたとしても、その人が試合の中で補助魔法を存分に発揮して頑張ってたなら、良い成績が付くと思う」


撫子「ひま子は櫻子と組むけど、試合の中でちゃんと自分の魔法を活かせれば悪い成績は付かないはずだよ。トーナメントとして勝ち上がることはできなくてもね」


向日葵「なるほど、そういうことだったんですのね」

櫻子「ふうん……」

撫子「試合に勝つには、攻撃魔法を以てして相手を倒す必要がある。でもそれは決して相手に傷がつくわけじゃないんだ」


撫子「試合をするときには、自分の身を守る守護石のペンダントをつけて戦うんだよ。これが相手の攻撃から身を守り、また自分のライフの代わりになるんだ」

向日葵「というと?」


撫子「例えば強力な炎魔法を使ったとする。相手を炎で覆い尽くすことになるけど、その身体には致命的なダメージは入らない。守護石が全部攻撃を吸収してくれるんだ。ちょっとだけ熱さを感じるかもしれないけどね」


撫子「守護石が吸収するダメージ量には限界が決められてて、一定以上ダメージを受けると眩しく光を放つようになってる。この光がいわゆるノックアウトを意味する。守護石が光を放ったらその人は戦闘不能扱いになるの」


撫子「攻撃系魔道士はもちろん相手を攻撃するけど、補助系魔道士はシールドを張ってダメージを軽減したり、回復魔道士は守護石の耐久力を回復させたりするんだ。いくら櫻子がめちゃめちゃにやられようと、ひま子の回復が追い付いていれば櫻子は戦い続けられるかもね」


向日葵「じゃあ私はひたすら回復に徹すればいいのかしら」

櫻子「えー!? ほとんど私頼りじゃん!」

撫子「そして、これがまた面白いところなんだけどね……試合に際しては、何を使ってもアリなんだ。道具を持ち込んでも良いし、武器も持ち込んでいい。極論を言えば相手に殴り掛かったっていい。そのダメージも守護石には反映されるからね」

櫻子「そ、そんなことする人いるの!?」


撫子「過去に私が戦ったことのある相手だと、補助系魔道士の剣道部主将が一人で向かってきたことがあったよ。自分の身体を強化して、持ち込んだ魔法剣一本で向かってきたんだ。はっきり言って、めちゃめちゃ強かった……」

向日葵「もはや何でもアリなんですのね……」

撫子「そう、なんでもありだ。この大会に厳しいルールは無い。戦う上での工夫や独創性も成績に強く反映されるよ。だからいろいろ考えて挑みな」



櫻子「ちょっと、さっきの質問は? ペア組んだ方が有利なんじゃないの?」


撫子「ああ。試合は一人か二人でエントリーするんだけど、一人で出場する人の守護石は、二人で出場する人の2倍の耐久力を持つものになるんだよ。まあそれでも基本的にはペアが有利なんだけど……二人だとチームワークも大事になるしね。どっちがいいかは、その人次第だ」

花子「一人で優勝しちゃう撫子お姉ちゃん、見てみたかったし」


櫻子「どうする向日葵、喧嘩の腕前活かして一人で出る?」

向日葵「そんなことしませんわよ!!///」



<とある日のごらく部>


あかり「あかりはちなつちゃんと一緒に組むことにしたよぉ」

京子「あかりは強化補助系だもんなー。結構相性いいんじゃない?」

ちなつ「京子先輩と当たっても、全力で行きますからね!」

京子「あっはっは、楽しみにしてるよ~」


あかり「京子ちゃんと結衣ちゃんは一緒に組むの?」

京子「いや、私は今回は綾乃と一緒だけど……そういや結衣はどうするんだ?」

結衣「んー……まだ秘密かな」

京子「もう、もったいぶるなって~」



結衣「……みんな、ちょっと聞いてほしいんだけど」

あかり「?」

ちなつ「どうしたんですか? 改まって……」

結衣「今回の大会は、勝てば勝つほどいろんな特典がついてくる。前に西垣先生も拡声器でアピールしてたけど、生徒会長も願いを叶えてくれるくらいだって言ってたよね」

京子「おう! 西垣ちゃんの魔法アイテム欲しいし、気合いいれていくよーん♪」


結衣「そこでだ。私たちのうちの誰か一人でも勝てば、ごらく部の茶室使用権を正式に認めてもらうことができるんじゃないか、って思ったんだ」


ちなつ「なるほど! 確かにこれはチャンスかもしれないですね……!」


結衣「いつまでも不正占拠なんて言われるのも嫌だし、私は今回の大会……本気で行こうと思ってる。だからみんなも、この部室を正式に勝ち取るために頑張ろう?」


京子「そういうことか……じゃあ余計に勝たなきゃな。ごらく部にも部費を捻出してもらって、そのお金でみんなでお菓子食べまくろう!」

あかり「お、お金は出してもらえないかもしれないけど……頑張らないとだねえ」


結衣(絶対に……勝ってやる)ぐっ



<とある休日・大室家>


撫子(櫻子も徐々に、色んな魔法が使えそうな段階まで成長してきてる……やっぱりあの子はこのまま、私と同じ特殊プリマチュアとして、古代魔法を使わせないようにした方がいいな……)


櫻子「見てみて向日葵、今日はちゃんと水が回せるよ! 調子いいみたい!」しゅいーん

向日葵「あら本当。やったじゃない」

櫻子「ほらほらー! やっと私もここまで来れたよ~」



撫子(…………よし)


撫子「櫻子、ひま子……ちょっと来て」


向日葵「はい? ……櫻子、撫子さんが呼んでますわよ」

櫻子「?」

撫子「あんたらさ……トーナメント、本気で勝ちたい?」


櫻子「そ、そりゃ勝ちたいよ……まだちゃんと魔法使えたことはないけど、私だって結構頑張ってるんだもん」

向日葵「櫻子はここ最近で、少しずつですけど着実に成長していますわ。このまま頑張れば、運が良ければ勝てるかもしれませんわね」


撫子「うん、櫻子の成長は私にもわかるよ。でもひま子の言うとおり、今のトレーニングを大会の日まで続けても、勝てるかどうかは運次第。というか私はそれでも勝てない確率の方が大きいと思う」

櫻子「な、なんでさ!」



撫子「……本気で勝ちたいなら、その理由も教えてあげるし、対策法も私が用意してあげるよ」


撫子「これにはあんたたち二人の協力が必要不可欠なんだ。ここからは櫻子だけじゃない、ひま子にも櫻子を育てる手伝いをしてもらう」


撫子「本気で勝てるようになりたいんだったら……今すぐこれを着て、私の高校に来て。そこでトレーニングするから」ばさっ


向日葵「こ、これは……?」


撫子「こっちのローブは櫻子に。こっちの手袋はひま子に。私は先に行って魔法演習室が開いてるか見てくるから……覚悟があるなら、来てね」すたすた



向日葵「……な、撫子さん、どうしちゃったんですの……?」

櫻子「さぁ……なんかあるみたいだけど」ばさっ


向日葵「あっ、ローブ着てる」

櫻子「当たり前でしょ。私は本気で勝ちたいもん……! 向日葵は勝ちたくないの?」

向日葵「か、勝ちたいですわよ! 魔法のおぼつかないあなたと一緒に負けを受け入れるだけなんてお断りですわ。恥ずかしい」ばっ



<撫子の高校>


向日葵「か、勝手に入ってきちゃってよかったんでしょうか」

撫子「大丈夫。今日は休日だし……演習室の使用許可も取ったから。ここなら好きなだけ魔法使っていいよ」

櫻子「好きなだけったって、まだほとんど魔法っていう魔法使えないんですけど……」


撫子「……それだよ。櫻子が勝てない理由は」ぴっ

櫻子「えっ」



撫子「いい? あんたはここまであのビンの水を回して魔力のアウトプットを覚えた。でもあんたはプリマチュアだから、ビンに直接魔力をアウトプットしてるだけで魔法を使えているわけじゃないんだよ」

櫻子「う、うん……」


撫子「あんたらがここに来たってことは、絶対に勝ちたいという覚悟があるってことだよね。それなら今日から、櫻子が実際に魔法が使えるよう、私が直接教えていくよ」


撫子「櫻子に着てもらったそのローブには魔力回復の効果がある。今から魔力を消費する練習をいっぱい重ねるから着てもらったんだ。そしてひま子の手袋……これはひま子の持ってる魔力を直接櫻子に送り渡すことができる。櫻子がヘトヘトになったら、それを使って櫻子に魔力を分けてあげてほしい」


向日葵「と、とにかく櫻子に魔力を使わせるんですのね」

撫子「大会までもう2週間ないでしょ? ゆっくりはしてられない」

撫子「そしてこれも大事なこと……今日から教える魔法は全部、絶対に学校で使っちゃダメ」


櫻子「え……なんで? 本当に魔法が使えるようになったら、学校のみんなにも見せたいじゃん!」

撫子「ダメ。大会が終わるまで櫻子は引き続きプリマチュアとして、いろんな授業を受けさせてもらいな。もちろんその授業でも教えた魔法を使っちゃダメだからね?」

向日葵「何のために……」


撫子「色々理由はあるけど……一番は、試合に勝つためだよ」


櫻子「よ、よくわかんないけど……いったいどんな魔法を教えてくれるっていうの? それ使えるようになったら試合で勝てるの?」

撫子「勝てる。そしてこれは、櫻子にしかできない魔法だ」

向日葵「櫻子にしか、できない魔法……!?」



撫子「それじゃあ始めよう……今日から櫻子に覚えてもらう魔法はね――――」


――――――
――――
――



<マジカルバトルトーナメント・初日>


どん……どどん……ぱん……


櫻子「うぉー、花火上がってるよ」

向日葵「本当にお祭り騒ぎですわね……校庭が特設フィールドみたいになってますわ」

あかり「今日一日頑張るために、朝ごはんいっぱい食べてきたよぉ~」

ちなつ「私もこの日のためにトレーニング重ねてきた! せっかくやるんだから、勝たなきゃね!」


「おーいみんなー!」

ちなつ「あっ、京子先輩!」


京子「トーナメントの振り分けが校庭の掲示板に出てるってよ~」

綾乃「皆で見に行きましょう?」

あかり「ど、どきどきしてきたよぉ」

ちなつ「よーし、勝つぞ~!」



<掲示板前>


向日葵「トーナメントこれ……本当にクラスも学年も全部ごちゃまぜなんですのね……」

京子「実践経験に差はあれど、保持魔力はみんなだいたい同じようなものだからねー。下級生が上級生に勝つのが見たい! って、毎年盛り上がるんだよ」

綾乃「でも二年生としては、まだ実戦経験の無い一年生に負けるわけにはいかないわよね」



櫻子(私たちの最初の対戦相手は誰だろう……)そわそわ

向日葵「あっ、ありましたわ!」


櫻子「ええと……あっ! 相手も一年生だ!」


あかり「あかりも違うクラスだけど、一年生の子が相手みたいだよぉ。いきなり上級生じゃなくてよかったぁ」


京子「あーあ、私たちの初戦はいきなり三年生だぞ……しかも第一試合じゃんか」

綾乃「い、一番最初で負けたくはないわねぇ……気合いいれなきゃ」

千歳「綾乃ちゃんも歳納さんも頑張ってや~」

京子「あ、そういえば千歳は今回一人? 誰かと組むの?」

千歳「ん~? ここに書いてある通りやで」


綾乃「池田(千歳)・池田(千鶴)……えっ、千鶴さんと組むの!?」

千歳「ふふ、お願いしたら快く引き受けてくれてな~。双子のチームワークってもんを見せたるよ~」

京子「なるほど、これは強敵かも……組み分けも近いし、勝っていけば千鶴たちと戦うことになるかもしれないな!」



ちなつ「ええと、結衣先輩は……あっ、あった!」


あかり「ええっ!? 結衣ちゃん一人でエントリーしてるよぉ!」

京子「なっ……?」


綾乃「船見さん、今回はやけに勝ちたがってたのに一人だなんて……何か秘策があるのかしら」


ちなつ「ん~~……ところで結衣先輩って今どこにいるんですか? さっきから全然姿が見当たらないんですけど……」そわそわ

千歳「さっきちらっと見た気がしたけど……今はどこか行ってるようやなぁ」


櫻子「ううぅ……だんだん緊張してきた」

向日葵「わ、私も……///」



<開会式>


「―――マジシャンシップに則り、正々堂々戦うことを誓います!」

校長「ええ、頑張ってくださいね」


ぱちぱちぱち……


司会『それでは次に、今大会主催者の西垣先生のお言葉をいただきます!』


奈々「やあみんな、ついに今日という日が来たな。各自自分の得意分野を伸ばし、この大会に備えてきたことだろう!」

奈々「一年生は初めての実戦演習かもしれんが、恐れることはない。むしろ楽しんでほしいと思う。そのためにこの西垣奈々、今大会を盛り上げるためにたくさんの勝利特典を用意させてもらった!」


奈々「特製マジックエーテルに各魔晶石、あとは私が学生時代に使っていた魔道書とかだな……」ぽいぽい

向日葵(自分が処理に困るものを出してるだけなんじゃ……)


奈々「上位入賞者には杖やロッド、魔法剣なんかも用意させてもらった! どうだみんな、欲しいだろう?」

綾乃「ろ、ロッドは欲しいかも……///」


奈々「さらにさらに、今回の優勝者にはこれ! 先生たちの総力を結集して作った賢者のローブをプレゼントだー! ローブの効果は魔力増強に魔力高速回復、そしてこのオシャレなデザインは美術の先生の自信作だぞ!」

美術ちゃん「うふふ……」ふりふり


あかり「わあ、可愛いなぁ~。あれ着てたら学校でも注目の的だよねえ」

櫻子「あ、あれ着たら私も強い魔法使えるのかなあ!?///」

向日葵「優勝できれば、の話ですけどね」


奈々「ふふふ……ぜひとも勝ち上がってこれらをゲットしてほしい。校内最強賢者の称号を手にし、このローブを着ることができるのは誰なのか!?」


奈々「マジカルバトルトーナメント試験っ!! 開始だぁぁーーーー!!」どわーん



櫻子「順番的に、私たちは後の方みたいだね」

向日葵「それまでは他の人たちの試合を観戦しましょう。戦い方を学んでおかなきゃですわ」

あかり「あかりたちも出番まではまだまだあるみたいだよ~」


ちなつ「京子先輩と杉浦先輩の試合がすぐにあるんじゃなかったっけ?」

櫻子「よーし、まずはそれの観戦に行こう!」





『れでぃーーーす、えーん、れでぃーす!! さあ始まりました学期末バトルトーナメント大会! 大盛り上がりが予想される今大会ですが、さっそく魅力的な対戦カードの組み合わせが見られる模様です! 実況は今回も私たち、七森魔法中学放送部がお送りいたしまーーす!!』


櫻子「すごいなー、実況まであるのか!!」

向日葵「校庭に作られたバトルフィールドは3つ。行われる試合すべてに実況や記録がついてるみたいですわ。本格的ですわね」


『こちらのフィールドは今大会のメインプロデューサーである、西垣先生も実況に加わっていただけることになりました! 先生、よろしくお願いします』

奈々『うむ。よろしく』

『さあ先生、こちらで行われます第一回の対戦カード、歳納・杉浦 vs 有馬・榛名ペアをどう見ますか?』


奈々『歳納と杉浦は二年生、有馬と榛名は三年生……一見三年生側が有利に思えるこの試合だが、歳納と杉浦は二年の中でもトップクラスの成績を収めるコンビだからな。ま、歳納は試験すべて一夜漬けだという情報もあるが……』


京子「な、なんで知ってるんだ西垣ちゃん……」

綾乃「私が前に話したのよ」


櫻子「へー、成績トップの二人の組み合わせだったんだ! じゃあ三年生相手でも勝てるかもしれないね!」

あかり「京子ちゃーん、がんばって~!」


奈々『補助系の有馬、氷系の榛名……そして妨害系の杉浦、雷系の歳納! まさに総合的な魔法演習戦が見れることだろう。この会場にいる一年生、先輩たちの戦い方をよーく見ておけよ? 』


『さあ、それでは早速開始したいと思います!!』


『バトルトーナメント試験第一回戦、スターーーートォォオーーー!!』どじゃーん

榛名「いくわよ二年生っ!」きらーん

京子「おわっ!」しゅががっ


『おおーっと榛名! 開始の銅鑼と共にいきなり先制攻撃だぁ!』


榛名「おーらおらおらぁー!!」しゃききききーん


綾乃「歳納京子! 氷魔法を前に立ち止まるのは危ないわ! 常に走ってダメージを散らすのよ!」

京子「わかってらーい!」だだだっ


奈々『榛名は三年の中でも魔力量が多いタフな奴だからな。もたもたしてるとあっという間にフィールドが氷漬けにされてしまうぞ』


櫻子「す、すごい……これが実戦なの……!?」

あかり「こんなに激しいなんて……」


京子「へへっ、氷上移動は慣れてるんだー♪ なんたって結衣とずっと特訓してきたからね!」

榛名「この、ちょこまかと……!」

京子「こっちこっちーぃ!」ふりふり

榛名「くらえぇーい!!」ひゅんっ

京子(今だ!)ばちっ


有馬「きゃあぁーーーー!!///」しゅききききん

榛名「ああっ!!」


『ああー榛名選手! 歳納選手に放ったであろう魔法が味方の有馬にクリーンヒットしてしまいましたー!』


奈々『ふむ……歳納はさっきまで普通に走っていたが、榛名の射線上に有馬を入れ、魔法を打たせた瞬間に足に雷魔法をかけ、電光石火の如く移動して逃げたようだ』


榛名「ご、ごめ~~ん!!」

有馬「あいたたた……」


綾乃「余所見してていいのかしら!」しゅっ

榛名「っ!?」かちん


『おっとぉ! 杉浦の妨害魔法が榛名を捉えたぁ!』

奈々『歳納が牽制してる間に集中力を高めていたようだ。有馬も強化魔法を準備していたようだが、歳納にまんまとハメられたな……これは逃げられないかもしれん』

榛名「うっ、動けない……!! 何これっ……」

綾乃「無理に動こうとするほど、魔力を消費しますよ」

榛名「なぁっ……!?」

有馬「ああっ!? 榛名さん後ろ!!」



京子「ナイス綾乃……やっぱり妨害系の綾乃と組んで正解だったよ!」ばちばち

榛名「うわっ!!」


京子「派手に行くぜぇ!!召・雷ッッ!!」すっ


ガォォォォォオオオンッッ!!


あかり「きゃぁああーーーーーーー!!」

向日葵「なっ、なんて稲妻……っ!!」


『決まったぁぁーーー!! 身動きのとれない二人を歳納の雷光が劈いた!! 守護石が一撃の元に光を放っていますー!』

審判「そこまで!! 榛名・有馬は戦闘不能! 歳納・杉浦ペアの勝ち!!」


わぁぁぁああっ…………!!


『試合時間は2分にも満たないでしょうか、あっという間に決着がついてしまいました! 歳納・杉浦二年生コンビの見事な勝利ですっ!』

奈々『歳納め、あんなバカでかい稲妻を呼ぶまでもないはずなんだが……まあ初戦の景気づけというところだろうか』


綾乃「やったわね、歳納京子!」

京子「へっへっへ、いっちょあがりっ!」ぶいっ

有馬「ううぅぅ、しびれる~~」

榛名「有馬ぁ……ごめん~……」がくっ



奈々『はっはっは、会場の一年生たち引いてるかー? お前たちもこれくらい派手に魔法使わないと、勝てるものも勝てなくなるぞ。先輩たちの全力をしっかり見ておけよー』


あかり「こ、これが……マジカルバトルトーナメント……」

ちなつ「は、激しすぎでしょ……怖かったぁぁ……」


櫻子(私たちも……今からこんな戦いをしなきゃなの……!?)さーっ

向日葵「……言葉を失いますわね」


『さあさあトーナメントはまだ始まったばかりです! お次の試合準備に参りましょーう!』



あかり「京子ちゃ~~~ん!」とてとて


京子「おーみんな! さっきの見ててくれた?」

櫻子「見ました見ましたぁ! 先輩かっこよすぎですよーー!///」

京子「えっへへへ……そう?」

ちなつ「京子先輩ってただふらふら遊んでるだけの人だと思ってたのに、あんなすごい魔法が使えるなんて……」

京子「ちょっ、地味にひどい!」


向日葵「杉浦先輩もお見事でしたわ。おめでとうございます」

綾乃「ありがとう。まあ私はサポートだけどね」

向日葵「何言ってますの、杉浦先輩が三年生を止めてなければ、歳納先輩は反撃に回れないまま押し切られてたところですわ。一撃にかける雷魔道士の歳納先輩と、良い相性だと思います」

綾乃「うふふ、さすが古谷さん……まだ実戦経験無いのに、色々わかるのね」



京子「あかりたちも試合もうすぐじゃなかった? 私たちも応援に行くからさ、頑張ってよ!」

あかり「だ、大丈夫かなぁ……あかりあんな京子ちゃんみたいな激しい魔法できないよぉ」

ちなつ「いや、あかりちゃんは元々補助系でしょ……頑張り方がちょっと違うんだって」

あかり「ああ、そっか」


櫻子「私たちも応援にいくよ、がんばってあかりちゃん!」

向日葵「相手も一年生ですから、遠慮はいりませんわ吉川さん」

ちなつ「そうだよね……よ~し、頑張らないと……!」



『続いてはフレッシュな一年生同士の試合です! 赤座・吉川ペア vs 上野・藤岡ペア! 両者、前へ!』


京子「ちなっちゃーーーーん!! ファイト~~!」きゃーきゃー


あかり「き、緊張するよぉ……」ふるふる


ちなつ「……あかりちゃん」ぼそっ

あかり「?」


『おや、何やら赤座・吉川ペアが作戦確認をしているようです』

奈々『うむ、そういうのも大事だぞ。始まってからでは遅いからな』


あかり「……わ、わかった。やってみる!」

ちなつ「よし……」



審判「それでは両者、位置に付いて!」


『試合開始ぃーー!!』どじゃーん

ちなつ「あかりちゃん!」ぎゅっ

あかり「えーーい!」たたたっ


『おおっとぉ! これはどういうことだ? 吉川・赤座ペアは開始早々、手をつないでフィールド内を走り出したぁ!』



櫻子「な、なにやってんだろ。これが今話してた作戦なのかな」

京子「ふーん……?」


奈々『補助の赤座、炎の吉川。対して上野と藤岡は二人とも風魔法の使い手だ。攻撃手数から言えば、赤座たちの方が不利と言えるな』


藤岡「ちょ、直接魔法を当てるのは難しいわ! 逃げる方向に魔法を敷いて、動きを止めなきゃ!」

上野「うんっ!」


びゅごぉぉ……!


あかり「うわっとっとぉ……!」よろよろ

ちなつ「あかりちゃん、絶対手を離しちゃだめだよ!」

あかり「う、うん!」


『風の吹き荒れるフィールドを、手をつなぎ合った二人が奔走していますー! まるで踊っているかのよう!』


櫻子「に、逃げてばっかりじゃだめだよちなつちゃーん!」


京子(……いや、あれは)

綾乃(ただ逃げてるだけじゃない……?)

あかり「ち、ちなつちゃんいくよっ!」ぎゅっ

ちなつ「よーし待ってた!!」ききっ


藤岡「止まった!」しゅっ

上野「今だ!」しゅぃい



『ああーっと! 動きの止まった吉川・赤座を中心に竜巻ができはじめたぁ!』


奈々『風魔道士二人が、同じ回転方向で竜巻を生んでいるようだ……これは抜け出せないかもしれん』


向日葵「ああっ、まずいですわ……!」

綾乃「万事休すかも……!」


しゅばーーっ!!


櫻子「あっ!」

向日葵「竜巻が……赤く……!?」

ちなつ「手から直接伝わる、あかりちゃんのパワー……! 全部私の炎に変えてみせるっ!!」ゴォォッ


藤岡「なっ!」

上野「あっつ!?」


『こっ、これはすごいー! 二人の攻撃をものともしない赤座・吉川ペアを中心に、竜巻が炎の渦に変わりましたー!!』


奈々『これはたまったもんじゃないな……あ、ちなみに観客諸君は魔法障壁で守られているから熱くないぞ』


あかり「ちなつちゃん、お願いっ……!!」

ちなつ「はぁぁぁぁああああっ!!」ゴォォォウッ


藤岡「くぅぅ……あぁっ……!」ぴかーん

上野「お、押さえ切れないぃぃ……!」ぴかーん


『形勢逆転~~!! 竜巻に魔法を乗せてフィールドを火炎の嵐に包んだ赤座・吉川ペア! 見事相手の守護石を削りきりましたーー!』


審判「そこまで! 上野・藤岡戦闘不能! 赤座・吉川ペアの勝ち!!」


あかり「や、やった……」

ちなつ「勝った……?」

櫻子「うわぁーーーやったあーーー!! あかりちゃんたちが勝ったぁぁー!!」

京子「いいぞーちなつちゃ~~ん!!」

綾乃「お見事ね!」ぱちぱち


あかり「ち、ちなつちゃんやったぁ! あかりたち勝ったんだよ!」

ちなつ「いやったぁーー! 初勝利~~!」ぴょんぴょん


『それにしても不思議ですねえ、どうしてあのピンチから反撃できたのでしょうか?』

奈々『おや、見えなかったか? 吉川は反射障壁の魔法札を持ち込んでいたんだ。赤座と手をつないでいたから、障壁は一枚で二人を包み込んだんだよ』


向日葵「な、なるほど……!」


奈々『さらに、逃げ回っている間も赤座は魔力をため、吉川に力を与えていた。手をつないでいたぶん、スムーズに力が行きわたったことだろう』


『なるほど、一年生にしてはとんでもない火力だと思いましたが……エンハンス効果が上乗せされていたのですね』

奈々『打ち出した魔法がパートナーと合わさり強力化、エンハンス付きの吉川の炎を纏って更に強力化、それが反射障壁で全部返ってきてしまったんだ。あの反撃はなかなか防げまい』


向日葵「見ました櫻子? あれが補助魔法の力ですわ。二人の力を合わせれば、一年生でもあれだけの魔法が使える……」

櫻子「す、すごい……!」


ちなつ「えへへ、この魔法札は今朝おねえちゃんが持たせてくれたんだ。いきなり使っちゃったけど……まあ勝てたからいいよね!」

あかり「あかり感激だよぉ……!///」うるうる


奈々『不利と思われた二人だが、準備と戦略で勝利したんだ。初戦とは思えない、見事な機転の利かせ方だな!』

『会場の皆様、もう一度この一年生たちに拍手~~~!』


ぱちぱちぱちぱち……



<お昼休憩>


櫻子「二人ともさっきのすごかったよ~~~!」

あかり「ありがとう櫻子ちゃん……櫻子ちゃんの応援、ちゃんと聞こえてたよぉ」

向日葵「とってもお見事でしたわ。吉川さん」

ちなつ「ふふふ……最初は緊張してたけど、ちょっとこの勝利の悦びはやみつきになっちゃうかも~!」


京子「これはもしかしたら、勝ち続けていけば私たちとあかりたちが戦うことになるかもしれないなー。楽しみだよ」

あかり「ええっ、京子ちゃんたちには勝てる気がしないよぉ~」

綾乃「ふふ、自信を持ちなさい赤座さん」



ちなつ「ところで、結衣先輩は私の活躍見ててくれたんでしょうか……今日ずっと見当たりませんけど」

京子「そういや全然見ないなぁ……もうすぐ結衣の試合始まる時間だし、もうそっち行っちゃったのかな」

ちなつ「え、もうすぐなんですか!? ちょっ、早く言ってくださいよ! こんなとこでおにぎり食べてる場合じゃないです!」

あかり「皆で結衣ちゃんの応援行こうよ~」

京子「よーし、じゃあ結衣のとこの会場いくかぁ!」


向日葵「櫻子、船見先輩の試合が終わるころには私たちも準備始めますわよ。いい?」

櫻子「う、うん……」



『さあさあ盛り上がっておりますマジカルバトルトーナメント! 次の対戦カードは見応えがありそうですよ~!』


先生『次の対戦相手は神流・関根 vs 新田・今井ペア。四人ともみんな三年生だから、さっきよりもじっくりと駆け引きが見られるかもしれませんね』


ちなつ「あれ? まだ結衣先輩じゃないんですか」

あかり「三年生同士の試合みたいだけど……」



京子「あっ! ねーねー、結衣の試合ってまだ始まってないの?」


「あれ京子、見てなかったの? 船見さんの試合はさっき終わったよ」

ちなつ「えぇ~~~~!!?」がーん


京子「あちゃー、こっちの試合会場は進みが早いのか! ちょっとずれちゃったみたいだなぁ」


「進みが早いというか、さっきのは……ちょっと次元が違ったかなあ」

綾乃「どういうこと?」

「さっきの試合……船見さん対、三年生二人の戦いだったんだけど……開始20秒で、船見さんが圧勝しちゃったんだよ」

櫻子「えっ……」

京子「は、はぁっ!!?///」

綾乃「20秒……!?」


ちなつ「しかも三年生二人を相手に……って……そ、そんなことありえるんですかぁ!?」


「ありえないとは思うけど、私もこの目で見ちゃったからなぁ……あれは圧巻だったよ。会場のみんな、絶句って感じ」

京子「絶句ってどういうことだ……? ずるでもしたのか」

ちなつ「結衣先輩がそんなことするわけないじゃないですか!!///」


「一瞬の出来事が、とにかくあざやかすぎたの。ま、あれは実際に見た方がいいと思うなぁ……次の試合を楽しみにしたら?」


京子「もー、結衣のやつ何をやったんだぁ……!? 全然想像つかないや」

綾乃「三年生二人を相手に大立ち回りってことなの……? 次の試合はぜひとも見たいわね」

ちなつ「あーーんも~~! 誰か結衣先輩の勇姿を録画してる人とかいないかなぁ」



向日葵「船見先輩の戦い方も参考にしたかったけど……仕方ありませんわね。櫻子、私たちもそろそろ試合がある会場の方に行ってみましょう」

櫻子「う、うん」


あかり「頑張ってねえ向日葵ちゃん、櫻子ちゃん! 絶対応援にいくからねぇ」

ちなつ「全力出してね!!」

向日葵「ええ、頑張りますわ」

櫻子「…………」


向日葵(…………?)



<控え室>


櫻子「…………」

向日葵「ちょっと、櫻子」

櫻子「な、なに?」


向日葵「なにじゃありませんわよ……さっきから元気ないじゃない、試合前なのに。どうかしたんですの?」

櫻子「…………」


向日葵「もう……私たちは今回チームなんですのよ? しかもあなたが主力なんだから、弱気になってちゃ困りますわ」

櫻子「うん……」


向日葵「何かあるなら、ちゃんと言いなさい」ぎゅっ

櫻子「…………」



櫻子「……私、自信ない」

向日葵「え……」

櫻子「歳納先輩たちも、ちなつちゃんたちも、他の先輩たちも……見れなかったけど、船見先輩だって!! …………みんなみんな、凄すぎるよ……」

向日葵「…………」


櫻子「ねーちゃんの教えてくれた魔法、私はまだ100%成功させられるとは限らないし……みんなみたいに強力な魔法、できないもん……」


向日葵「……じゃあ、棄権でもしますか」

櫻子「……えっ」


向日葵「プリマチュアで魔法もうまく使えないから、弱虫の櫻子は私を道連れに棄権しますか。応援してくれる赤座さんたちの目の前で」


櫻子「そ、そんなんじゃ……!」

向日葵「じゃあ戦いなさいよっ!!」

櫻子「っ……!」


向日葵「ちょっと前までのあなたはどこへ行ったんですの? プリマチュアであることを笑ってた人達を、試合に勝って見返してやるんだって息巻いてたじゃない……!」

櫻子「うぅ……」


向日葵「……歳納先輩の稲妻ほどはできなくても、吉川さんの火炎ほどはできなくても、船見先輩のように20秒で勝てなくてもいいの! あなたはあなたでしょう!」


向日葵「……今まで、私と撫子さんで毎日あんなに特訓したじゃない。撫子さんだって、教えたいことは全部教えられたから、あとは櫻子次第だって言ってましたわ」


向日葵「魔法そのものの強さは気にしなくていい。今のあなたには、あなたにしかできない魔法があるじゃないの……!」

櫻子「…………」

向日葵「私……本当は一ヶ月前、あなたと組むことを決めた時は、別に試合に負けても構わないって思ってたんですの。そこそこの成績が残せれば良いって」


向日葵「……でも今はもう違いますわ。私は……絶対に試合に勝ちたい」

櫻子「えっ……」


向日葵「だって、みんな勝ってるじゃない……! 私たちの周りの人は、みんな初戦を勝ち抜いてますわ! 私たちだけ負けるなんて……そんなの嫌に決まってるでしょう!」


向日葵「私は一人じゃ勝てない……攻撃役の櫻子がいなかったら、私は勝てないんですのよ。あなたが弱気じゃあ、私たちは絶対に勝てませんの!」

櫻子「!!」


向日葵「緊張してるのは、私だって同じですわよ……怖いのは、あなただけじゃないの。私は自分じゃ攻撃できないんだから、あなたよりも歯がゆい思いをしていますわ……!」

櫻子「向日葵……」

向日葵「……勝ちましょう、櫻子」

櫻子「っ……!」


向日葵「今のあなたなら、初戦くらいどうにだってなるはずですわ。相手も一年生で……攻撃手は向こうも、一人だけのようですし」


向日葵「いくらやられたって、私が治してあげますから。だから、あなたは今まで練習してきたものを、精一杯出し切りなさい」

櫻子「う、うん……!」


向日葵「見返しましょう、みんなを。あなたは三年前の優勝者の妹ですわよ?
それにあんなに毎日特訓したのに初戦敗退なんてしようものなら、撫子さんにひっぱたかれますわ」

櫻子「そ、それはやだ!///」


向日葵「あなたは攻撃だけに集中しなさい。それに……私たちにはちょっとしたアドバンテージがあるんですわ」

櫻子「アドバンテージ?」


向日葵「昨日ようやく教えてもらえたんですけどね……撫子さんの作戦。教え込んだ魔法を学校で使ってはいけないといったのは、まずこの初戦に勝つためだったんですわよ」

櫻子「ど、どういうこと……?」


向日葵「ちょっと考えればわかることですけど、まあ教えてあげましょう。あのね……」こそこそ



『さーあお弁当も食べて眠くなってきてる頃かもしれませんが、まだまだ一回戦は終わっていませんよ~! 続いても初々しい戦いが見られると思います!』


奈々『次の試合は、大室・古谷 vs 箕郷・矢島ペアか。全員一年生だな』


京子「さくっちゃーーーん! きばれぇーーい!」

あかり「向日葵ちゃぁ~~~ん!」ふりふり


綾乃「あの対戦相手はどんな子なの?」

ちなつ「ん~……違うクラスでよくわかんないですけど、箕郷さんは水魔法の授業に出てた気がしますねぇ」

あかり「矢島さんは向日葵ちゃんと同じ回復系だよぉ。一緒に授業出てたって言ってたんだぁ」


京子「水と回復ねえ……ちょっとまだ、予想はつかないかな」


綾乃(予想つかない……っていうか、あれ……??)

『水魔法の箕郷、回復魔法の矢島。対して回復魔法の古谷と…………あ、あれっ? 大室には得意魔法の記載がありません!』


奈々『ああそうか、会場の皆はまだ知らない子もいるかもしれんが、大室は一年生唯一の……というか、この学校唯一のプリマチュアだ。大室の適性魔法は未だに判明していない』


『なーんとなんとー! 一年生の片方にはプリマチュアの生徒が……! これは早くも勝負が見えてしまったかもしれませんねぇ』


くすくす……


櫻子(く、くそぉ……!///)

向日葵「櫻子」ぎゅっ

櫻子「あ……!」


向日葵「…………」にこっ

櫻子(向日葵……)



奈々『うーん……少なくとも私には、まだ勝負は見えてこないな。相性も何もかもわからない』


京子「そうだよ、だって……」


綾乃「対戦相手も、私たちも、先生も含めて……大室さんがどんな魔法を使うのかわかっていないんだもの……!!」



あかり「そ、そういえば櫻子ちゃんが具体的に属性魔法使ってるのまだ見たことないよぉ」

ちなつ「私も確かに見たことない! あれ、でも少し前に授業で私と一緒だった時は、ほんのちょっとだけ炎魔法を使ってたような気もしたけど……?」

京子「私もちょっと前にさくっちゃんの特訓に付き合ってたけど……なんか、風が少しなら使えるとか言ってた気が……」

綾乃「じょ、情報が錯誤してるわね」


――
――――

向日葵『いい? 私たちの側にある唯一のアドバンテージ……それはあなたがプリマチュアで、まだ得意魔法が何か知られてないということですわ』

櫻子『?』


向日葵『この世の属性魔法にある相性……水は炎に強く、雷は水に強く、地は雷に強く、氷は地に強く、炎は氷に強い。これ以外にも風や光、闇などありますが……あなたは得意魔法を知られていないから、弱点を対策されることがないんですのよ』

櫻子『そ、そっか! 学校で魔法を使うなって言ったのは、私の弱点をさらけ出さないためなんだ……!』


向日葵『あなたはプリマチュアだけど……あなたの強みはプリマチュアであること。天才と謳われる、大室撫子が妹……自信を持ちなさい。あなたなら、できますわ』

――――
――



櫻子(私はまだまだプリマチュア……だけど、それを利用すればいいんだ!)


向日葵「今この会場にいる、あなたをバカにする人たち全員に見せてあげましょう。あなたと私たちの、特訓の成果を!」

櫻子「よーし……やってやる!!」



櫻子(私は……落ちこぼれなんかじゃない。早生まれのひよこ……ただのプリマチュアなんかじゃない!)


櫻子「大賢者のタマゴ……大室櫻子だぁ!!」


『試合開始ぃ~~~!!』どじゃーん



~to be continued~

【七森魔法中学校物語・3話設定資料】


『マジカルバトルトーナメント』


七森魔法中学校の伝統ある祭典。魔法実践演習の学期末試験も兼ねている。

魔法を使って人に危害を加えることはあってはならないが、そもそも魔法というものは戦うための術から発展したものであるため、実戦形式の授業はもっとも重要視されている。魔法力は実戦の中においてこそ大きく成長し、応用力も鍛えられるのである。

守護石の登場によって、魔法を用いたバトルそのものがスポーツ化された。七森中だけでなく、いまや各地で試合は開かれている。

成績をつけるのは試合の内容そのものにあり、勝敗はそこまで関係ない。属性相性などもあるため、それを覆すために道具や武器を使っても良いとされている。ただ魔法札だけを使って勝ったとしても、マイナスの成績がついてしまうだけであるため、基本的には自分の魔法を使って戦わなければいけない。

ちなみに一試合一人につき、道具・武器・装備等どれかひとつを持ち込んでいいというルールである。また一人で参加する人は二つアイテムを持ってもいい。

最初は実況など無かったが、大会そのものが回を重ねるにつれて学区外の人も見に来る盛況具合となり、放送部が買って出た。



『トーナメントの出場者』


主要キャラは

櫻子&向日葵ペア、京子&綾乃ペア、あかり&ちなつペア、結衣、千歳&千鶴ペア、など。

(実況を付けたいので対戦相手のモブも名前ついてます。)



『主要キャラ・魔法適性』


櫻子:プリマチュア

向日葵:回復

京子:雷

綾乃:妨害

あかり:補助(強化)

ちなつ:炎

結衣:氷

千歳:光

千鶴:風

りせ:闇



『魔法札』


魔法の力が込められている札。手に持って魔力を少し注ぐだけで誰でも効果を引き出すことができる。一度効果を発揮するとつかえなくなってしまう。

若い子でも手に入りやすい値段であることから、バトルトーナメントのような大会前はよく売れるらしい。

【第4話:天才賢者爆誕! 私の本気を見せてあげるよ!】


『試合開始ぃ~~~!!』どじゃーん


向日葵「櫻子っ! 私のことはいいから、あなたの思うように動きなさい!」

櫻子「おっけー!」だだっ



箕郷「プリマチュアなんかに負けたら恥ずかしいもん! 負けるわけにはいかない!」ばしゅっ


『さあさあいきなり箕郷得意の水魔法だぁ! 弾丸のような高水圧が大室を襲うー!』


あかり「ま、魔法を使って防がないとあっという間に負けちゃうよぉ!」

綾乃「水魔法を受け続ければ足場も悪くなって逃げられなくなるわ!」

櫻子(やっぱり水押し……! それなら……)くるっ

京子(ん……!)ぴくっ



ばちちちっっ!!


箕郷「なっ……!!?」

あかり「あ……!」

ちなつ「えっ……!?」


『お、おおっと大室選手!! 今のは確かに……!?』


京子「雷の……魔法だ!!」


向日葵(……よく出せましたわね櫻子。戦意は研ぎ澄まされているようですわ)ほっ


奈々『魔法札でもなんでもない、大室の雷魔法が一瞬にして水を消し飛ばした……!』


『これはビンゴーーーー!! 大室選手の得意属性が雷と判明! 属性相性的に、大室・古谷ペアが俄然有利になったようです~!』


あかり「櫻子ちゃん、いつの間に雷魔法を!?」

ちなつ「初めて見たぁ……!!」


綾乃「歳納京子、今のは……」

京子「……同じ雷魔法を得意とする私には、空気中のエネルギーの流れみたいなものがなんとなくわかるんだ。今のは正真正銘、さくっちゃんの魔法が生んだ雷光だった」


『さあ劣勢になってしまったのでしょうか箕郷・矢島ペア! 体勢を立て直そうとする間にも、与えたダメージが古谷の回復魔法で癒えていってしまいます!』


櫻子(向日葵の魔法……久しぶりにかけられたけど、やっぱり暖かい……///)

向日葵(私にできるのはこれだけですから……魔力尽きるまで、いくらでも回復してあげますわ)

矢島「…………」ごにょごにょ

箕郷「…………」こくり


櫻子「よーし、もういっちょいくぞー!」ばちばち


『おおっと大室! 電気を纏って突っ込んでいったぁ!』


矢島「…………」すっ

向日葵「ま、待って櫻子!? 何か来ますわ!」

櫻子「えっ!」


矢島「大地の力……クレイ・クレイドル!!」どしゅっ


どどどどど……


櫻子「なっ!」ずべっ

向日葵「ああっ……!」


『な……これは魔法札でしょうか! 突如フィールドに樹木と泥の壁が突き出たぁ! 』

奈々『なるほど……これは先を読んでいたということか。大室の属性がわからない以上、的確に弱点を突くことはできない……だがしかし大室が水に相性のいい雷だった場合に、手をこまねいて見ているだけではなく、それを見越して土魔法の魔法札を対策として持っていたというわけだ』


京子「まずいな……このフィールドじゃあ、樹木に雷が吸われて思うように雷魔法が使えないかもしれない!」

あかり「ええっ!」

綾乃「大室さん……」


『クレイドルの中では電気が分散し、雷魔法が大幅に制限されます! 矢島の魔法札が不利と思われた形勢を覆しましたー!』


櫻子「あいててて……」よっこい

向日葵「櫻子っ」たたっ

櫻子「大丈夫……わかってる」


向日葵「落ち着いて。時間はいくらでも作ってあげますから……あなたは撫子さんとの特訓を思い出しながらやりなさい」

櫻子「うん……!」


箕郷「プリマチュアの方を仕留めれば、この勝負は勝ったも同然! 決着つけさせてもらうよ!」しゅばっ

矢島「見せつけてやって、箕郷!」


――
―――


撫子『大気中には水分があるって、理科で習ったよね』

櫻子『うん』


撫子『喉が痛い時とか、湿度を気にするでしょ。あの湿度っていうのは、簡単に言えば空気中に含まれる水分のことだよ。目に見えないけど、意外と水分ってのは目の前にたくさんあるんだ』


撫子『イメージでいえば、そんな感じ。目の前にあるであろう、見えない水分……こいつを、きゅっといじってあげるの』

櫻子『……?』


撫子『今もここにあるであろう、水蒸気たちを集めて……一気に結集させて、凍らせる!』すっ


しゅきききききん!


櫻子『わぁ……凍った……!』

撫子『これが、氷魔法だよ。水に依存するっちゃするけど、あらゆる生命を奪う冷酷な力……』


撫子『大丈夫。空気中にあるものを利用する分には、そんなに難しくないって』


―――
――

箕郷「くらえぇーーー!」ばしゅっ

向日葵(櫻子……!!)


櫻子「はぁぁぁっ!!!」



ばきぃんっっ……!!



『ああっ!?』

奈々『なっ!』


京子「ええっ!?」

綾乃「うそ……」

ちなつ「そ、そんな……!!」



箕郷「み……水が……私の水が……!!」


櫻子「……よし、できた……!」

向日葵(上手、上手ですわ……)ほっ



『なっ……これはなんということだぁぁ!! 箕郷の放った水の弾丸が、一瞬にして氷りついたぁぁああああ!!!』


奈々『こっ、これも魔法札などではない……大室の魔法だ!!』


京子「氷魔法……!」

綾乃「複数属性の使い手なの……!?」

あかり「さ、櫻子ちゃんが……!」


櫻子(フィールドにある全ての水を氷に変えて……樹木の壁を凍壊させる……!)すっ


しゅききききききん……

ばっかーーーん!!


矢島「そ、そんな……」

箕郷「クレイ・クレイドルが……壊された……!」

『なんということでしょう……なんということでしょう! 一年生同士のつたない戦いと思われたこの試合、まさかのプリマチュア大室が雷・氷の複数属性の魔法を使用!! 一年生で複数属性を扱える人がいるとはーー!』


奈々『ふふ、会場のみんなに少し授業をしてあげるとだな……プリマチュアというのは、一般的には適性魔法の発現が中学生になってもまだ現れていない者のことを指す。恐らくみんなが知っているのはこっちの意味だろう』


奈々『魔法の勉強を始めてしまえば、一年と経たずに適性魔法は判明するものだ。今の二年生三年生にもちらほらプリマチュアがいたが、みんなもう適性魔法が判明してプリマチュアではなくなった』


奈々『しかし、プリマチュアというものにはもう一種類あってな…… “適性魔法が判明していない” のではなく、 “適性魔法を持っていない” パターンだ』


『どういうことですか?』


奈々『人間の魔法バランスというのは、魔法を使えるようになる中学生くらいに成長するまでに、どれかひとつの系統に傾いてしまうものなんだ。今ここにいる箕郷は水に、矢島と古谷は回復にという具合にな』


奈々『だが稀に、魔法が使えるようになる年齢までどこの系統にも傾かない者がいる。レーダーチャートが突出しておらず、綺麗な正図形を描いている感じだろうか』


奈々『この場合は適性魔法……得意魔法というものをもたないためプリマチュアに分類はされるものの、ちょっとした訓練次第であらゆる分野の魔法が使えるようになる稀有な逸材だ。天賦の才というやつだな』


ちなつ「天才……櫻子ちゃんが!?」

綾乃「中学生にしてあらゆる属性を使いこなす子なんて、そういるもんじゃないわ……」

あかり「す、すごいよぉ……!!///」

奈々『常人は適性魔法が偏るために、関わりの薄い分野の魔法を学ぼうとしてもうまくいかない。年齢を重ねれば幅が効いてくるんだが、並大抵の中学生では難しいな。だが大室のようなタイプだけは、この段階から努力次第で簡単にあらゆる魔法に手が出せるんだ』


校長『盛り上がっていますね、西垣先生』

奈々『おわっ、校長!』


『あーっ、校長先生! 校長先生が実況席にいらっしゃいました!』



校長『実は……大室さんが入学してきて、適性診断でプリマチュアと判定したあの日、大室さんは他に人にはない特別な徴候を示しました』

校長『しかし名簿を見た先生たちは、すぐに納得したのです。彼女の顔と、名前を見てね』


奈々『名前?』


校長『西垣先生はまだいなかった頃でしょうか。三年前、この学校にはとある特別な生徒がいました』


校長『その生徒は中三時のマジカルバトルトーナメントにて優勝、そしてこの七森中を主席で卒業。15才にして、10もの魔法を使いこなすと謳われた特殊プリマチュア……天才賢者中学生、名を大室撫子と言います』

奈々『お、大室撫子……!』


校長『もうおわかりですね。ここにいる大室櫻子さんのお姉さんです』

校長『ただの赤子か、賢者のひよこか……大室さんはどっちのプリマチュアだろうと気になっていましたが、彼女も姉と同じ特殊プリマチュアであることが、この場にてようやくわかりましたね……!』


綾乃「天才賢者中学生……大室撫子……!?」

あかり「さ、櫻子ちゃんのお姉さんが……」

ちなつ「うっそ~~!? 櫻子ちゃんってそんなすごい子だったの~~!?///」

京子「特殊……プリマチュア……」


『きょっ……驚愕の事実が判明しましたぁーー!! なんと大室選手は、あらゆる属性魔法を使いこなすことのできる天才の血を受け継ぐ女の子だったようですー!!』


櫻子(うぅぅ、本当はまだ、覚えた魔法100%成功させられるわけじゃないんだよなぁ……///)

向日葵「ふふ、胸を張りなさい。今日の主役はあなたですわ」


――
――――

<10日前・撫子の高校>


櫻子「い、いったいどんな魔法を教えてくれるっていうの? それ使えるようになったら試合で勝てるの?」

撫子「勝てる。そしてこれは、櫻子にしかできない魔法だ」

向日葵「櫻子にしか、できない魔法……!?」


撫子「それじゃあ始めよう……今日から櫻子に覚えてもらう魔法はね――――」



撫子「炎・水・雷・地・氷・風……この6つの属性魔法、全部だ」


櫻子「は……はぁぁぁぁ!?」

向日葵「な、何言ってるんですの撫子さん!? 櫻子はまだ中学生ですし、適性もわかっていませんし、絞るにしてもどれか一個に……!」


撫子「どれか一個でもいいんだけど、入学してから今までずっと適性魔法を練習してきてる周りの子には絶対に追いつかないよ。だからこの6つの属性魔法を全部使えるようにする」

向日葵「いやだから、そもそも中一の私たちが複数の属性魔法に手を出すなんてことは……!」

撫子「できる! 櫻子にはそれができるの!」

櫻子「!」

撫子「私は……中学校に入学してからしばらくプリマチュアだった。一番最初に風を覚えて、風魔法が適性なんだと先生たちに言われて、そこでプリマチュア扱いから外れることができた」


撫子「そのときは自分でも風魔法が適性なんだと思ってたけど……ある日、違う属性を学ぶ友達の魔導書をちょっと読ませてもらっただけで、その魔法が使えるようになったことがあった。そこで校長先生に先生に相談したら、ただのプリマチュアじゃないってわかったんだ」


撫子「適性魔法を持たないというより、全てに対して適性を持つと言ったほうが近い。中一でだってあらゆる魔法をすぐに使えるようになる、特殊プリマチュア……!」


撫子「今日まで見てきてわかった。櫻子は間違い無く私と同じプリマチュアだよ」

向日葵「そ、そんな人がいるなんて……」


撫子「私たちはひとつの魔法を極めるよりも、たくさんの属性魔法を覚えていったほうが強くなるのには近道なんだ。だからとりあえずこの6属性を一通り使えるようにして、魔法相性で常に有利に立てるようにしよう」

櫻子「本当に……そんなことできるの??」

撫子「決して簡単じゃない。でもここから勝てるようになるためにはこれしかない。そのためにここに呼んだんだ……言っとくけど、スパルタで行くから覚悟しな」

櫻子「ひぇぇ……!!」

向日葵「あの、相性補完が目的なら風はいらないんじゃ……?」

撫子「風は私が一番得意だから、教えるのが楽なんだよ。炎とか氷とか、色々組み合わせやすくて便利だしね。風は大会直前になったら教えよう……まず最初に覚えるのは、炎だ」

櫻子「ほ、炎はちなつちゃんと一緒に授業受けてたこともあるから、ちょっとくらいならコツわかるかも!」


撫子「あーそうそう。今日一日で炎使えるようになったら、次は水をやろうと思うから明日水の授業受けてきてね。魔法は使っちゃダメだけど、コツだけ学校で掴んできて」

櫻子「うー、学校でも家でも魔法漬けだよぉ……」


撫子「当然魔力回復が追いつかなくなるだろうから、そのときはひま子がその手袋使って魔力分けてあげて。あと今日から寝るまでずっと特訓するから、ひま子うちの夕飯作って」

向日葵「え、私の手伝いってそんなことですの!?///」


――――
――



向日葵(この10日間、櫻子は本当に頑張りましたわ……まだまだ失敗するときもあるけど、撫子さんが目指した形には充分近づいた!)


櫻子(相手にも回復がいるってことは……一気に押しきらないと、勝つことはできない……!)

向日葵「櫻子、決めましょう!」

櫻子「よしっ!!」だっ

矢島「み、箕郷! 何が来るかわからない、逃げて!!」

箕郷「うわああああ!」だっ


櫻子「逃がさなーーい!!」ぎゅん


箕郷「きゃーーー!!」どしゃーん


『おおっと、今度は風魔法でしょうか! 先ほど凍らせたクレイドルの残骸で逃げ道を塞いでいきます!』


箕郷「くうぅ、くそおっ……!」ばしゅっ

櫻子(水は雷で打ち消せる……!)ばちちっ


校長『ああ、同じです……有利な属性で相手の魔法を打ち消しながら押し込んでいく戦法。彼女ら特殊プリマチュアの得意とするスタイルですよ』

奈々『複数属性持ちの……プロの魔道師たちの戦いなら駆け引きという要素も出て来るんだが、こりゃまさにパワー押しだな……』


矢島(かっ、回復が間に合わない……!)

向日葵「櫻子っ! こっち!」

櫻子「おりゃっ!」ばしゅん

矢島「きゃあーーっ!///」


『あーっと矢島選手! 風魔法であらぬ方向へ飛ばされてしまったー!』

京子「今だ、いけるっ!!」

ちなつ「決めちゃえーー!」

あかり「櫻子ちゃん……っ!!!」


櫻子「えやぁぁああーーーっっ!!!」ばちばちっ


箕郷「うあああぁぁ……っっ!!」


ぴかーん!!


『い、いったぁーーー!! 最後は弱点を付き雷の魔法で! 大室選手、見事箕郷選手の守護石を削りきりましたぁーーー!!』


矢島「く、くぅ……!」

審判「矢島選手、戦闘手段がないなら降参となるが、よろしいか?」

矢島「はぃ……」がくっ


審判「箕郷、戦闘不能! 大室・古谷ペアの勝ち!!」



あかり「やっ……」

ちなつ「やったあああぁぁーーーー!!///」

京子「さくっちゃ~~~~んっ!!」

向日葵「櫻子やりましたわ!! 私たちが勝ったんですのよ!!」たっ



櫻子「っ…………」ふらっ



ぱたっ



『あっ!』

奈々『ん?』

あかり「えっ!?」



向日葵「なっ……さ、櫻子!? 大丈夫ですの!?」ゆさゆさ


櫻子「うぅ……ま、魔法使いすぎたぁ……」ぴよぴよ

向日葵「な、なんだ……驚かせないでちょうだい」


『大室選手、まだ保持魔力はそこそこのようです。二回戦までにしっかり休んでもらいたいと思います~!』


あかり「びっくりしたぁ……そりゃああれだけ魔法使えばねぇ」

ちなつ「ねえ、みんなで櫻子ちゃんのとこ行ってあげようよ!」たっ

綾乃「ええ、そうね!」



あかり「向日葵ちゃ~~ん!」たったっ

向日葵「み、皆さん!」


ちなつ「見てたよ~さっきの! あんなにすごい戦いするなんて思わなかったよ~」

綾乃「すごいのね、大室さんって」


京子「ひまっちゃんが回復頑張ったから、さくっちゃんを長く戦わせてあげられたんだよね」

向日葵「ありがとうございます。私はほとんど櫻子頼りなので、心苦しいところもあるんですが……」


あかり「ところで櫻子ちゃんは?」

向日葵「今保健室で寝かせられてますわ。短時間でかなり魔翌力を消耗したようで……」

綾乃「心配ね……後に響かないといいんだけど」

「ひま子」

京子「?」


向日葵「あっ……な、撫子さん!!」

撫子「見てたよさっきの。初勝利おめでとう」


ちなつ「櫻子ちゃんのお姉さん!」

京子「あ、あなたがさっき言われてた……!」


撫子「あの子今日大会当日なのに、ローブ忘れてったんだよ。これ着て出ろって言ったのに……届けにきたら試合始まってるし」

向日葵「そ、そうだったんですのね……櫻子は今向こうで寝てますわ」


撫子「どれ、様子見に行こうか」

あかり「あかりたちも行こうよぉ」

ちなつ「うん!」



しゃーっ

櫻子「…………zzz」


撫子「…………」

ぱっ


綾乃(手を取って……何かしら)


ほわぁっ……


京子「ま、魔力を受け渡してる……?」

撫子「……私は櫻子と魔力の波長が似てるから、手を握るだけでも簡単に流れていくんだ」


櫻子「う、う~~ん……」ぱちっ

あかり「あっ、起きたよ!」


櫻子「あ、あれ……みんな……?」

綾乃「具合はどう?」

櫻子「んー……頭がぼーっとします……」はぁ


撫子「これ着て休んでな。明日の二回戦までに体調戻しとくんだよ」ばさっ

櫻子「うわっ、ねーちゃん何でいんの!?///」

撫子「あんたが負けたらひっぱたいてやろうと思ってね、学校早めに上がって見物にきてやったんだよ」

京子「さくっちゃんすごいかっこよかったよ! 会場のボルテージを完全に掴んでたね」

櫻子「先輩たちのおかげですよ~……そういえば何も知らない最初の頃の私に色々教えてくれたのは、歳納先輩でしたねぇ」

京子「ううぅ、立派な弟子が育ってあたしゃ嬉しいよ……!」しくしく

綾乃「歳納京子と大室さんのどっちが強いかはわからないけどね……」



ちなつ「そうだ、二回戦! ここにいる皆は全員一回戦を突破したんですよね」

京子「二回戦は明日だよ。このまま勝ち続けて行けば……私たちのうちの誰かが当たったりするかもね」

綾乃「もし当たったとしても……手加減はしないことにしましょう? お互い全力で、力を出し切ること」


ちなつ「私たち……どこまでいけるかなぁ」

あかり「大丈夫だよちなつちゃん。あかりも頑張るから……!」


撫子「まあ、気軽に頑張ることだよ。自分にできることを出し切るだけだって」

京子「よっしゃー! こうなったら優勝して、私たちも天才賢者って呼ばれるようになろうな!」

綾乃「どんどん相手も強くなっていくけど……それでも負けたくは無いわね」



<帰り道>


撫子「今日あんたたちが勝てたのは、ひま子のおかげだと思うよ。ありがとうね」

向日葵「えっ?」

櫻子「はぁ!? 完全に私でしょうが!」


撫子「ひま子が支えになってくれてたから……あの失敗ばかりの櫻子が、100%の成功率で魔法を使えてたんだよ」

向日葵「そんな、私は別に……」

撫子「いや、魔法を扱う上で精神安定ってのはすごい大事なんだ。あの沸き立つ会場の中で……緊張しぃの子はなかなかうまくいかないもんだと思うよ」

櫻子「別に私緊張してなかったもん!」


向日葵「確かに櫻子は、試合前すごく弱気になってたりしてて……不安でしたわね」

撫子「でしょ? パートナーとの相性ってのも大事なんだ。私はパートナーがいるとそっちに気をとられちゃうからさ……だから優勝狙いにいったときは一人がよかったんだよね」

向日葵「なるほど。そういうことだったんですのね」

櫻子「おい! さっきから私のこと無視してんじゃねー!」


撫子「あんたたちの二回戦の相手は?」

向日葵「えっと、二年生組みたいですわ」

撫子「今日の相手……箕郷さんたちも一年生にしては強かったけど、明日はそれ以上かもしれない。気を抜かないでね」

向日葵「ええ。頑張りますわ」

撫子「私はあんたたちなら、優勝も夢じゃないと思ってるよ。本当に」

向日葵「そんな……///」

櫻子「こらー! 一回でいいから私を会話にいれろーー!!///」



京子「…………」ぴっぴっ


ぷるるる……


『はい、もしもし』


京子「もしもし、結衣?」


結衣『京子……どうした?』

京子「どうしたっていうか……それを私が聞きたいんだよ。今日どうしたの?」

結衣『…………』


京子「なんか三年生二人を十数秒で倒したらしいね。それはいいけど……なんでこそこそ隠れてるの?」


結衣『……勝ちたいからな』

京子「?」

結衣『情報を見せたくないんだ……特に私周りの、強い人には』

京子「私周りって……?」


結衣『トーナメント表でいう、私の近くにいる人たち。簡単に対策されるとは思ってないけど、それでもなるべく戦法を明かしたくない』

京子「うーん……全然想像つかないや。明日ぐらい結衣の試合見れるかな」

結衣『……私と京子は位置が離れてるから、当たるとしたら決勝なんだよな……そこまで行ったら、もうどっちが勝ってもいいんだけどね』


結衣『まだしばらくは……京子たちの傍にいけないと思う。特に……大室さんたちに勝つまでは』


京子「……さくっちゃんは結衣サイドの表分けだったね」


結衣『京子の言うとおりだったよ。大室さんの試合は私も見てたけど……やっぱりただの女の子じゃなかったね』


京子「気をつけて……結衣。あの二人、まだ何かありそう」

結衣『私もそう思う……気は抜かないよ』


――――――
――――
――

<翌朝>


ちゅんちゅん……


櫻子「…………zzz」


ばーん!!

向日葵「ちょっと櫻子!! 何してるんですの!?」


櫻子「んー……」むにゃむにゃ

向日葵「いつまで寝てるの! 起きなさい!!」ぺちぺち

櫻子「んわっ……な、なんだよぉ……!」


向日葵「なんだじゃありませんわよ! 何時だと思ってますの!? 今すぐに出ないと大遅刻ですわ!」

櫻子「えーっ!? も、もうこんな時間なの!?」

向日葵「私たちの試合はまだですけど、他の皆さんは試合始めちゃってるかも……早く準備なさい!」

櫻子「ううぅ、昨日の疲れのせいで全然目が覚めない~……!」どたどた



櫻子「あちゃー、もう試合始まっちゃってるよ」

向日葵「ええと、皆さんは……」


「おーい、さくっちゃーん!」


櫻子「あ、歳納先輩と杉浦先輩だ!」

向日葵「おはようございます、すみません遅れてしまいまして……」


綾乃「本来なら遅刻だけど、今日が大会でよかったわね。自分たちの試合はまだなんでしょう?」

向日葵「ええ、お昼くらいですわ」


櫻子「……あれ!? もしかして先輩たちの二回戦は……!」

京子「あー、さっき終わっちゃった」

向日葵「あぁ……ついに見れなかった……」



綾乃「……勝ったわよ?」

櫻子「えっ!///」

向日葵「ほ、本当ですの!?」


京子「私らはこんなとこで負けないよ~、楽勝楽勝♪」

櫻子「す、すごいや……私たちも見習わないと」

向日葵「じゃあ午後は三回戦があるんですのね」

綾乃「そうね。それまでは休憩しながら皆を観戦しようと思うわ」


京子「ところで今こっちの会場で、ちなつちゃんとあかりちゃんの試合が始まっちゃってるみたいなんだよ。早く見に行こう?」

櫻子「ええっ、急がなきゃ!」

綾乃「それじゃ行きましょう。赤座さんたちの相手はまた一年生らしいから、勝てる可能性は低くないと思うわ」



京子「おっ、やってるやってる!」

櫻子「うわぁ……!」


ちなつ「らああぁぁぁぁっ!!」ごおうっ



向日葵「あれっ、あの相手は……!」

櫻子「ああっ、ゆきちゃんとめりちゃんだ!!」

綾乃「お友達なの?」

向日葵「私たちと同じクラスの子ですわ」

櫻子「ゆきちゃんは氷、めりちゃんは妨害です!」



めり「ええいっ!!」ぶわっ

ちなつ「っ!?」


『ああー吉川選手、弱体魔法を避けきれません!! 炎の勢いがどんどん弱くなっていきます~!』


あかり「ちなつちゃん、めりちゃんを見ちゃダメ! ゆきちゃんだけに集中して!」

ちなつ「くう、魔法が届かない……!」

めり「ゆきちゃん、赤座さんを先に止めないとダメかも!」

ゆき「よぉーし!!」


『おおっと、狙いが変わった模様です! 強化補助の赤座選手が二人に狙われています~!』


あかり「きゃーーーー!!」

ちなつ「あかりちゃん! 私から離れないで!!」


櫻子「どうしようどうしよう! あれじゃ押し切られちゃうよぉ!」

綾乃「まずいわね……向こうも良いコンビネーションだわ」

京子「相性差を覆してる……!」


『追い込まれております赤座・吉川ペア! 弱々しい炎で必死に攻撃を耐えていますがこのままでは……!』


ちなつ(あかりちゃんを……守らないと……!)ぼううっ

めり(このままいけるっ……!)


ゆき「えやぁーーーー!」しゅききききん

ちなつ「ぐぅぅっ……!!」じりじり


向日葵「ああっ、吉川さん……!」

あかり「ちなつちゃん、いくよっ!!」ばっ

ちなつ「よしっ、来て!!!」


きゅぃぃぃぃん……!!


京子「あっ!!」

綾乃「魔法陣!!」


『おおっと! 吉川選手を中心に魔法陣が展開していきます~!』


めり「あーっ!? ゆきちゃん逃げてぇ!!」

ゆき「ふぇっ!?///」


あかり「お願いっ……!」


櫻子「あ、あれは……?」

向日葵「魔法強化の陣……リィンフォース・シール!」


ちなつ「はぁぁぁああああーーーーー!!///」ずぁぁっ

めり「やばいっ、私まで……!」

ゆき「えっ! えっ!?」だっ


ゴォォォァアアアアッッ!!!


ゆき「いやぁぁあーーーーーー!!///」めらめらっ

めり「うっそ~~っ!?」


櫻子「ひぇーーーー!!///」

向日葵「こ、こっちまで火柱が……!」

綾乃「魔法障壁がなかったら、私たちまで丸こげだわ……」

京子「こりゃすごいなぁ~」

『も、ものすごい火力です吉川選手~! 接近されたところに強力なカウンターを叩き込んだ~!』


めり「ゆきちゃーーん!?///」

ゆき「あ、あづい~……」ぴかぴか


櫻子「やった! ゆきちゃんの守護石が……!」

ちなつ「いやったぁーー!!///」

あかり「か、勝った……?」



『とんでもない魔法を見せてくれました赤座・吉川ペアー! 3回戦進出~~!』


京子「いいぞーちなつちゃーーーん!!」ぶんぶん

向日葵「よくあそこからあんな反撃が……」

綾乃「魔法陣の効果というものは恐ろしいわね……でもよくあの短時間で展開させられたものだわ」


先生『赤座さんの補助魔法は見事なものです。この試合、氷と炎の打ち合いに見せかけて、実は弱体魔法と強化魔法が熾烈に争っていました』


先生『手元の資料によると、赤座さんは強化補助の科目において陣の展開が一年生の中でもずば抜けて早いとあります。相手のコンビネーションに押されながらも、彼女の特技を信じて耐えられたことが勝利に繋がったのかもしれませんね』


向日葵「赤座さんにそんな一面が……驚きですわ」

綾乃「見事なものよ……本当に!」



ちなつ「本来なら私が有利なのに、あんなに押し込まれちゃって……完全にあかりちゃのおかげでした」

あかり「ううん、ちなつちゃんがあかりをずっと守ってくれたから……あかりも自分のことに集中できたんだよぉ」


京子「二人とも良いコンビネーションってことだよ! 3回戦進出だね!」

綾乃「試合未経験の一年生が3回戦まで来れるって、結構すごいことなのよ?」

あかり「そ、そうなんですかぁ!?///」


ちなつ「確かに最初は怖かったけど……でも勝利の味は格別ですよぉ! 実戦って楽し……」


どわぁぁぁああああっっ!!


京子「!」びくっ

綾乃「な、何かしら!?」

向日葵「向こうの会場ですわ!」



『き……決まったぁーーーーっ!! 船見選手、またも鮮やかな勝利です~!!』


京子「ゆ、結衣の試合だ!!」

向日葵「勝ったって……!」


『なんなんでしょう……氷魔法の影響でしょうか、鳥肌が止まりませんねぇ』

先生『お見事、一本! という感じでしょうかね』


あかり「ああっ、結衣ちゃんもういないや!」

ちなつ「もう退場しちゃった……ああんも~~~!! なんで見れないのぉ!?///」


櫻子(いったいどんなことをしたんだろ……気になるなぁ)


京子「結衣のやつ、会場に入場して、試合始めて、退場してくまで一分もかかってないみたいだ……試合が見たいなら会場に張り付いて待ってるしかないな」

綾乃「でも私たちには三回戦があるから、なかなか時間は合わなくなってくるわよね……」


向日葵「船見先輩の試合は是非見てみたいけど……私たちももうすぐウォーミングアップとか準備しないとですわ。櫻子、行きましょう?」

櫻子「う、うん」


京子「午後は私たちも3回戦か……次の相手は誰だろうなー」

綾乃「それも調べておかなくちゃね」



審判「それでは両者位置について! 試合開始!!」どじゃーん


『さぁー始まりましたこの試合、大室・古谷ペア対片品・水上ペアー! 大室古谷は一年生、片品水上は二年生です~!』

奈々『大室は前半の試合で派手にやってくれたからなぁ、当然いろんな対策をされてると思うぞ』


片品「ふっ!」しゅききん

水上「えやっ!!」ばしゅっ


向日葵「えっ!?///」びしゃーん

櫻子「ひ、向日葵っ!」


『おおっとこれはー! 開始早々二手に分かれた片品と水上、同時に古谷への攻撃に踏みだしました~!』


奈々『片品は氷、水上は水……どちらも作戦をしっかり立てているな。相手ペアの古谷を先に静かにさせたほうが良いと判断したようだ』


向日葵「なっ、なんで……!」

櫻子「向日葵!私から離れるな!!///」


『猛攻撃を受けております一年生ペア~! 大室は必死に対抗魔法で防いでおります!』


櫻子(氷は炎、水は雷でなんとか消せる……けどこのままじゃ押される一方だぁ……!)ぐぐぐ


あかり「だ、大ピンチだよぉ……」

綾乃「まずいわね……」

向日葵「櫻子……このままじゃ……!」

櫻子「回復をやめないで! やめたら負けちゃう!!」

向日葵「そ、それはそうかもしれませんけど……!」


向日葵(確かに負けちゃうかもしれない……でも勝つことはできない!!)



片品「ウォーターフォールを凍らせるわ! 二人を水壁で閉じ込めて!」

水上「了解!!」ばっ


向日葵(まずいっ!!)


向日葵「櫻子っ! 炎だけに集中しなさい!!」だっ

櫻子「なっ、おい!?」


向日葵「させませんわ!!」だっ

水上「きゃぁーー!///」むぎゅっ


『うおーー古谷選手! 飛び出して行って水上選手に突っ込んでいったぁ!』

奈々『ははは! 肉弾戦か!』


向日葵「櫻子はやくっ! どっちか一人を先にやらないと絶対に勝てませんわ!」

櫻子「よっ、よしっ!」ぼうっ


櫻子「炎……炎……炎魔法……!!」ごううっ

片品「や、やば!」


櫻子(ちなつちゃんの、さっきの魔法をイメージして……!)


櫻子「やぁぁぁああああーーーーー!!!」



向日葵「…………」びちょびちょ


あかり「勝ててよかったねえ向日葵ちゃん……」

ちなつ「体育着がびしょびしょだね……シャワー浴びてくれば?」

向日葵「……着替え持ってきておいてよかったですわ」

櫻子「私とちなつちゃんの炎魔法で乾かしてあげようか?」

向日葵「黒焦げになりますわよ……」すたすた


京子「さくっちゃん強いねー、意外と簡単に勝っちゃった」

綾乃「でも古谷さんがあそこで飛び込んでなければ勝てなかったかも。機転を利かせた古谷さんに感謝ね」

櫻子「あの二年生、向日葵のおっぱいラリアットだけでダウン寸前でしたね……私の魔法なんなんでしょう」


あかり「これでみんな、3回戦に進出しちゃったねぇ」

ちなつ「このまま……どこまでいけるのかなぁ」

京子「まあまあ難しく考えないでさ♪ でもベスト8くらいまでは絶対入りたいなー」

綾乃「きっとそのくらいからよ。西垣先生のご褒美が貰えるのは」


櫻子「…………」


櫻子(私は……もういろんな人に対策されちゃってる……)


櫻子(勝ち続けていくには、絶対向日葵がいないとだめだって、さっきの試合でわかったし……みんなみたいに、作戦を立てていかないとダメだ……!)



奈々「あーあ、実況ばっかりやってるとものすごく喉が渇く……」


ひょいっ

奈々「んん? おお松本! お茶か、ありがとう」


りせ「…………」

奈々「ほう、しっかり勝ち進んでいるようだな。感心感心♪」


りせ「…………」

奈々「……ああ、まだ現れていない。あいつの真価はきっと……まだ出てきていないさ」


奈々「頼んだぞ松本。確認したところ……当たるとしたら5回戦だ。それまでは負けないでくれよ」

りせ「…………」こくこく



~to be continued~

【七森魔法中学校物語・4話設定資料】


『トーナメント』


優勝するには、7回試合に勝つ必要がある。4回戦を勝った段階でベスト8進出となり、奈々の用意した勝利特典がもらえるのはここから。

基本的にはペア参加がほとんどであるため、ベスト8には毎回20~30名が入る。ここまで来ると校内での知名度が結構上がる。

ここからは各部活の部長クラスや成績優秀者ばかりが残るため、一年生はベスト8に入れれば立派と言える。



『マジックローブ』


魔法使い専用の衣服。魔力の込められた糸を用いて織られているので、着るだけで様々な効果を着用者にもたらす。

基本的には学校指定のアカデミックローブだが、大会に際しては何を持ち込んでも良い。ただローブもアイテム扱いなので、これを着用するということは魔法札等のアイテムをもてないということになる。

その辺りは駆け引きの世界である。魔法札を忍ばせて望むか、ローブを着ることにより魔法札を持たないことを公開して魔力・魔法防御力を高めるか、どっちがいいかをよく考えて望む必要がある。

なお今回のトーナメント優勝者に与えられるのも、七森中の先生たちお手製のオリジナルローブである。これを着るということは、校内最強の証と言える。



『中学時代の撫子』


撫子は優勝を収める三年生次の大会まで、ずっとパートナーの女の子と一緒に参加していたが、そっちに攻撃が向かってしまうと心配になってしまい全然集中できないため、そこまで良い成績を残せなかった。

魔法には何より集中力が大事だと痛感させられ、優勝を狙った最後の大会では一人での出場を決意した。魔法はまだまだ未熟かもしれないが集中力は自分より高いかもしれないと、櫻子を評価している。



『魔法陣』


魔法陣には様々な種類がある。陣内にいるだけで魔力を高めたり回復させたりするものが多いが、特に補助系や妨害系には自ら特定効果のある陣を展開する魔法がある。試合前にフィールドに魔法陣を描いたりすることはもちろん禁止されているため、もっぱら大会で見ることのできる陣は後者である。

あかりの展開した『リィンフォース・シール』は代表的な強化紋章であり、妨害をシャットアウトして純粋な強化効果をちなつにもたらした。展開といっても試合中に木の棒で地面にがりがり描くわけではなく、魔力を高めて思い描いた魔法陣を光の図で顕現させるものである。しかし中にはロッドを使って小サイズの魔法陣を速筆で描いた美術部員なども、いるとかいないとかである。



『向日葵のおっぱいラリアット』


名前のある技というわけではないが、どちらか片方を足止めしない限り櫻子が反撃に回ることはできないと判断した向日葵が、詠唱中の相手にとびかかっていった時の技。回復適性者には肉弾戦に持ち込む者も意外と多い。魔法の成績には反映されないが、勝つためには仕方ないのである。

試合は喧嘩ではないので、髪をひっぱったり引っかいたりするのは反則行為となる。そのためキャットファイトで喧嘩のようになるとすぐに審判が止めにはいる。

向日葵は隙を作るために相手を押し倒しただけなのでギリギリセーフ。空手や剣道など、正式な武術を使用するときは予め表意しておく必要がある。

【第5話:ひまさく vs りせ会長! 私、まだ負けたくないよ!】


強烈な雷魔法と、命中率抜群の妨害魔法で的確に勝利を収めていく京子・綾乃ペア。


6つの属性魔法と堅実な回復魔法で、なんとか白星をあげていく櫻子・向日葵ペア。


皆に姿を見せず、ありえないような噂だけを生徒の間に広めている結衣。


それぞれは無事に3回戦・4回戦を勝ち抜いてベスト8の座を手にしていった……がしかし、ちなつ・あかりペアだけは4回戦の対三年生ペアで、惜しくも敗北を喫してしまった……。





ちなつ「みんないいな~ベスト8かぁ……私たちも勝ちたかったなぁ」はぁ

向日葵「私たちは一年生なんだから、今後も何回も試合のチャンスがありますわ。次回までに魔法の腕前を磨きましょう?」


京子「このくらいまで来ると、やっぱり相手に応じた戦法をとっていく必要があるんだよ。だからちなつちゃんはあんな露骨に水の魔法札使われちゃったんだ」

綾乃「情報収集がすごく大事なのよね。ここまでの試合があるから、みんな評価を気にしない戦法に変わっていくし……」


あかり「あかりたちは一年生だから、相手の三年生とかのことはあんまりわからないよねぇ」

ちなつ「広い人脈が欲しいです……」

櫻子「私たちも、後で試合表確認に行かなきゃね」

向日葵「うーん……見たところでどうせ三年生ですし……何もわからないと思いますけどねぇ」

ちなつ「そんなに言うなら、京子先輩次の対戦相手ことちゃんと知ってるんですか? 作戦とか考えてます?」


京子「もっちろん知ってるよ! というか調べる必要がないだけだけどねー」

あかり「どういうこと?」


綾乃「5回戦……私と歳納京子の相手は、千歳と千鶴さんのペアよ」


櫻子「えっ!!」

向日葵「お二人も、勝ち抜いてたんですのね……!」



あかり「うぅ、ついにお友達同士の試合になっちゃったよぉ……」

ちなつ「調べるどころか、本当によく知ってる相手との試合ってわけですね……」


京子「……楽に勝てるとは思ってないよ。でも負けるわけにはいかないな!」

綾乃「私も千歳と実際に戦ったことはないけれど……弱音は言ってられないわ。向こうも真面目に挑んでくるはずだもの」

櫻子「この試合はしっかり見ておかなきゃ……先輩頑張ってくださいね!!」

京子「よーしさくっちゃん、勝って勝って勝ち抜いて、絶対決勝で会おうね!!」ぎゅっ

櫻子「は、はいっ!///」ぎゅっ


綾乃「あらあら、気合充分ね」

向日葵「まったく……」


向日葵(決勝なんて、行ける気はしませんわ……もう私と櫻子の全ては、学校皆の知るところ……)


向日葵(恐らく次あたりが、私たちの山場でしょうね……)はぁ



ちなつ「京子先輩の試合ももちろん見ますけど、今日こそは結衣先輩の試合を見なきゃ……! せっかく負けちゃったんだし!」

あかり「あかりもみんなを応援するよぉ~」

京子「よっしゃ、いってくるねー!」



『さあさあマジカルバトルトーナメントもいよいよ5回戦! ベスト8同士の試合となりました!』

奈々『観客の数も増えてきたな。みんな、実力者同士の試合をちゃんと見ておくんだぞ』


『5回戦第一試合は、歳納・杉浦ペア vs 池田・池田の双子姉妹ペア! 二年生同士の試合です~』

奈々『この連中は普段から仲がいいからな。ここで当たったか……こいつは見ものだぞ』



京子「千鶴ぅ~~! やっと会えたな~」ちゅっちゅっ

千鶴「あっちいけバカ!!///」ぺしん


『……あの、本当に仲がいいのでしょうか』

奈々『はっはっは、あれもいつもの馴れ合いだ』


綾乃「千歳、手を抜いちゃダメよ。せっかくの機会……お互い全力を出し切りましょう!」

千歳「わかっとるで~、綾乃ちゃんは手加減されるの嫌いやもんなぁ。ちゃんと全力で行くことを誓うわぁ」


綾乃「千鶴さんも、私たちに遠慮することはないわ。思いっきり来てね」

千鶴「わ、私は姉さんのために戦うだけだから……でもあの阿呆には、日頃のフラストレーションを……!」ごごご

京子「へっ?」

綾乃「……ふふ、心配はないようね」



あかり「どんな試合になるのかなぁ……見てるこっちもどきどきするよぉ」

向日葵「池田先輩は光魔法、千鶴先輩は風魔法と聞きましたわ。試合運びは……予測つきませんわね」

櫻子「光魔法をちゃんと見るのは初めてかもしれないや」

ちなつ「光魔法と闇魔法は珍しいからねー」

『果たしてどんな試合を見ることができるんでしょうか! 観客の皆さんも盛り上がっていきましょーう!』


審判「5回戦一試合目、歳納・杉浦ペア 対 池田・池田ペア! 両者、位置に!」ばっ



『試合開始ぃ~~~~!!』どじゃーん


京子「どぉらぁぁあああああっっ!!!」ばぎゅん


千歳「んぁっ!?///」どかっ

千鶴「なっ……!!?」


『おわーーーーーっ!!』

奈々『何っ……!』


櫻子「ええーっ!?」がーん

あかり「きゃあぁぁーーー!!///」

千歳「ぐぅっ!!」びたん

千鶴「ね、姉さんっ!!!///」


『こっ……これはいきなり強烈な一撃ぃーーー!! 開幕早々歳納選手の強烈な蹴りが、千歳選手を障壁までノックバック!
全身を強く打ち付けてしまいました~~!!』


奈々『な、何てやつだ……とても友達同士のすることとは思えんぞ』


『雷魔法による瞬発力を活かす歳納選手! 友人同士のまさかの不意打ちに会場唖然です……!』


向日葵「ど、ドロップキックというよりも……歳納先輩そのものが巨大な弾丸ですわ!」

櫻子「あんなことができるのか……」



千歳「う、ぅぅ……」

千鶴「姉さん、姉さんしっかり……!」ゆさゆさ


京子「……綾乃が何回も言ったろ、手加減はしないって」

綾乃「一撃、というわけにはいかないようね……ちゃんと警戒してくれてたようで、流石千歳だわ」


千鶴「歳納、てめぇっ……!!///」ぎりぃっ


京子「……怒られても仕方ないとは思ってるよ」

綾乃「ごめんなさい……でも私たちはこのくらいの全力でぶつかっていくわ。千鶴さんも、来ていいのよ」

千歳「あはは……き、きついなぁ……」

千鶴「……くも……よくもっ……!!」ぎんっ

千歳「ち、千鶴あかんて! うちはまだ……!」


千鶴「絶対許さないっっ!!!///」


ぎゅぁぁーーーーー!!!


京子「よしっ……そうこなくちゃなっ!!」ばしゅん

綾乃「ううっ、すごい……!///」



『もっ、ものすこい竜巻です~! 千鶴選手のとんでもない魔力! フィールド全体が包み込まれてしまいました!』


奈々『ううむ、あれでは味方の池田姉までまともに動けなくなるぞ……? 無茶を利かせているな』



京子「綾乃! 怖がらずに真ん中に逃げろ!」ひゅん

綾乃「だめっ、まともに歩けないっ……!」


千鶴「おらぁっ!!」どしゅっ

綾乃「きゃあー!!」


『千鶴選手の猛攻撃だぁー! 杉浦選手、風弾に思い切り跳ね飛ばされました~!』


奈々『術者だけあって、池田妹はこの竜巻の中での移動にかなり秀でているぞ……! 瞬発力で動く歳納に劣らない早さだ!』


京子「やっぱり千鶴って……すごいじゃん……!」だっ

千鶴「逃がすかぁ!!」

千歳「ち、千鶴来るで!!」

京子「らぁぁあああーーーーー!!」ばちばち


千鶴「はっ!」ぴょん


綾乃「と、飛んだ!?」


『ああっとぉ!? 千鶴選手が飛び跳ねて……そのまま竜巻に乗って飛んでいます~! これはすごい!』


奈々『池田妹が着てるのはウィンディローブだ! 風魔法と組み合わせれば、魔法内で自由自在に滑翔移動ができる……!』


あかり「あ、あれじゃあ魔法を当てるのはほとんど無理だよお!」



京子「くっそ……どうすれば……!」たたた

綾乃「早くしないと竜巻のダメージだけで守護石のライフが……!」


千鶴「うぉらぁぁぁああああっっ!!」ずばっ

綾乃「ぁぐっ!///」


京子「綾乃ー!!」


『千鶴選手、風に乗りながら杉浦選手を吹っ飛ばした~!』

奈々『池田妹の……何かが吹っ切れてるぞ。暴走している……!』

千歳「よし、今やっ!!」かっ


しゅぃぃぃぃ……!


京子「なっ……」

綾乃「ああっ……!?」



『おっ? こ、これは……フィールド内がほの白い光に包まれた……?』


奈々『これが池田姉の魔法だ! 魔法障壁を通して中を見ている我々からは、薄白い空間になっただけだが……』



京子「なっ、なんも見えない~~~!!?」きょろきょろ

綾乃「や、やられちゃった……!///」


奈々『歳納と杉浦の視界は、真っ白で何も見えなくなってしまったはずだ!』


櫻子「これが……光魔法……」

向日葵「白すぎる白で視界を完全に奪う光魔法……ルミナリオ!」

綾乃「と、歳納京子! どこにいるの!?」

京子「くそっ、まともに動けないし、綾乃の声は風を切る音でよく聞こえないし……! 何にもできないぞ……!!」


千鶴「姉さんの痛みを思い知れ!!」どごっ

京子「わあっ!!」ずざぁ


『ち、千鶴選手は相変わらず強烈な攻撃を続けていますが!?』

奈々『池田妹は風の加減で敵の位置を察知しているようだ! 視界を必要としなくてもいいのか……!?』



京子(負ける……このままじゃ負ける!)じりっ


京子「綾乃!! 千鶴は私に任せて、綾乃は千歳を探して! まだ外壁に沿ったどこかにいるはず!」

綾乃「ち、千歳を……?」



京子(狙うのは……竜巻の中心で!)すっ


『おおっ? 歳納選手が何か構えました!』

奈々『あれは……』

京子「叢雲よ……!」ぐわーん


『歳納選手の回りから……黒い影がふわふわと浮かび上がっておりますが……?』


奈々『あれは雷雲だ! しかし竜巻に乗って、作ったそばから全部散ってしまっているな……』


綾乃(いや、あれは……散ってはいない!!)はっ



千鶴「歳納ぉーー!!」びゅんっ

京子(来る……!!)ばっ



千鶴「喰らえぇぇーーーーー!!!」どごっ


京子(つっ…………かまえたぁ!!)ぎゅっ

千鶴「何ッ!?///」



京子「召・雷ッッッ!!!!」ぴかん


ガゴォォォォォオオオオオンッッ!!


千鶴「うあぁぁああああああああああああああっっ!!!」ばちばちっ



櫻子「うわーーーーーーー!!?」びくうっ

あかり「きゃああーーー!」

『なっ……ち、千鶴選手の守護石が!!!』


向日葵「い、一発で……!?」


奈々『……なるほど……!』


京子「や……やったぁ……!///」へたっ



『な、なんと歳納選手ー! 蹴りを打ち込んだ千鶴選手にそのまましがみついて、自らの身体に轟雷を落としましたぁ!! もろに一撃を喰らってしまった千鶴選手の守護石が光っています~!!』


奈々『これは考えたな……歳納の生んだ雷雲は竜巻の中で巻き上げられながら、摩擦を繰り返してどんどんエネルギーを溜め込んでいた! そして竜巻の中心ですべての雷雲から一気に電気を放出させ……しがみついた池田妹もろとも、落雷を自分にぶち落としたというわけか……!』


京子「へへ……千鶴が攻撃の時にどこを狙ってくるのかは、もう長い付き合いで散々やられてることだし、予測は付いてたんだ……」


京子「千鶴~……大丈夫かぁ? 私は自分のローブのおかげで雷が痛くないけど……ちょっとクリーンヒットしすぎちゃったかな……はは」

千鶴「……ぅ……」ぐったり

千歳「あぁ……千鶴……!」


ぱしゅん

千歳「!!」


綾乃「やっと捕まえた……千歳、私たちの勝ちよ……!」

千歳「ああっ……!?」


『おやっ……杉浦選手、最後の力を振り絞って千歳選手に何かを……!?』


奈々『詠唱禁止……杉浦がずっと狙っていたのはこれか! 最後の力を振り絞って、池田姉の魔法を封じた……!』



あかり「え……ってことは……」


審判「い、池田千鶴戦闘不能! 池田千歳も行動不能! よってこの試合、歳納・杉浦ペアの勝ちっ!!」



京子「やった……あぶねぇ~~……!」ばたっ

綾乃「も、もう無理ぃ……///」ぐったり

『試合終了~~! なんということでしょう、勝利チームも含めフィールドにいる全員が倒れこんでおります~』


奈々『お互いにギリギリの状態だったんだろう。杉浦なんかあと数秒竜巻の中にいたら守護石が限界を迎えていたに違いない』



京子「いててて……ごめんね千歳、乱暴しちゃって」

千歳「ええねんええねん……それより歳納さん、千鶴をそのまま保健室に連れてったって。守護石つけてても、あの雷を受けたんじゃしばらく動けないやろうし」

京子「あはは……まさか抱き合いながら勝つことになるとは思わなかったよ」なでなで

千鶴「…………」


綾乃「千鶴さん……ものすごい魔力の持ち主なのねぇ」

千歳「この子は昔からすーぐ周りが見えなくなる子でなぁ……うちがピンチになるといっつもこうなんよ。リミッター外れちゃうねん」

綾乃「なるほど……でもそこが彼女の、本当の全力なのね」

千歳「綾乃ちゃんやって、歳納さんとの……」ぽっ

綾乃「ちょ、ちょっと!!///」



あかり「な、なんとか京子ちゃんたちが勝ったねぇ……」

櫻子「もう全員ぶっ倒れてるけど……こんな試合もあるんだね……」

向日葵「起死回生の一手でしたわね。すごいですわ……」


『ご覧の結果の通り、勝利いたしました歳納・杉浦ペアが準決勝進出の第1組目となります! みなさん拍手~~!!』


奈々『それじゃあ次の試合を始めるか。次は確か三年生同士のぶつかり合いだったな……二年生の勢いに負けないでくれよ?』



あかり「京子ちゃ~~ん!」とてとて


京子「あーみんな。お疲れ~」

櫻子「お疲れは先輩たちですよ! あんなにギリギリの試合で……大丈夫ですか?」

千歳「千鶴と綾乃ちゃんはまだ休んでるで~。二人とも相当追い込まれてたようやし……準決勝始まるまでには体調戻しておかななぁ」

京子「だいじょうぶだよ、なんというか……準決勝で勝ちあがってくる人よりも、千歳と千鶴の方が強い気がするから。たぶん」

向日葵「友達同士でも、みなさんしっかり全力を尽くしていましたものね……本当にお疲れ様ですわ」



京子「あれ、ところでちなつちゃんは?」

あかり「結衣ちゃんの試合を見るために、もう会場へ向かっちゃってるよぉ」

櫻子「あー、船見先輩の試合……結局まだ見れたことないなぁ」

京子「私はもう結構回復して来たし、ちょっくら行ってみようかなー」

向日葵「私たちももうすぐ準々決勝の試合が始まりますわ……早めに準備しておかなくちゃ」

櫻子「あれ、そういえば私たちの次の相手って誰なん……」


がらっ


千歳「あっ、綾乃ちゃん!」


京子「綾乃、もう平気なの?」

綾乃「ええ、だいぶ体調は戻ってきたんだけど……って、そうじゃなくて!」ばっ



綾乃「大室さん、古谷さん! 次の試合相手ちゃんと確認した!?」


櫻子「いやっ、今ちょうど相手は誰かなーと思ってたところで……」

綾乃「もう!! 試合速報出てるわよ! これ見なさい!」ぴらっ


向日葵「ええと、A会場5回戦第四試合……」

櫻子「大室・古谷 vs…………えっ!!?///」



「「ま、松本りせーー!!?」」

綾乃「あなたたちの次の相手は……会長よ!!」


櫻子「うっそーー!?」

向日葵「し、しかも会長一人……!! おひとりでここまで勝ち抜いていたのは、会長もだったんですのね……」



京子「あれ、会長さんって確か……」

綾乃「会長は、この学校でもとても珍しい闇魔法の使い手よ!
どんなものがくるか、想像も難しいけど……ひとつ言えるのは、楽に勝たせては貰えないということ……」

千歳「会長は教え手の少ない闇魔法を極めて尚、優秀な成績を収めてるお方や。かなり強力な相手やと思うわぁ」


向日葵「し、しかも今度は闇ということは……有利属性で立ち回る櫻子の戦法が通じないということですわ……!」

櫻子「ど、どうしよう……」



『さあさあお次の試合にまいりましょーう!! 続いては大室・古谷ペア vs 生徒会長 松本りせ選手です~!』

奈々『ははは、全員生徒会だな』


向日葵「会長、よろしくお願いします」ぺこっ

櫻子「っ……」ぺこっ

りせ「…………」こくこく


『松本選手はここまで得意の闇魔法を駆使して、たった一人でベスト8まで勝ち抜いてきた強者です! さすが生徒会長ですね~』


あかり「会長さん、ローブを着て杖を持ってるけど……」

千歳「ということは、アイテムはあの二つだけやな……!」

綾乃「単独出場者は守護石の耐久力も高く、アイテムも二つ持つことができる。攻撃役が二人いれば勢いで押せるかどうかなんだけど……」


櫻子(向日葵は攻撃できないから……ほとんど私と会長の一騎打ちだ……!)

向日葵(ここまで……かもしれませんわね)

奈々『大室、古谷、心してかかれよ? 言っておくが、松本は前回大会でベスト4の結果を残しているからな』

櫻子「そ、そんなぁ……!」


向日葵(現時点で私たちは、会長に対して何の作戦も持っていない……けど向こうは櫻子をしっかり見抜いているはずですわ)


『一年生唯一のベスト8進出グループ、特殊プリマチュアの大室と、驚異的な回復力で守りを固める古谷……二人にとって会長は、本当に大きな壁なのではないでしょうか』

奈々『背は小さいがな。わははは!』


『あの、先生……』

奈々『冗談だ。私は正直両者を五分五分で応援しているぞ。初出場の一年生がどこまで勝ちあがれるかも楽しみだし……松本は毎回惜しいところまで行くが優勝したことはまだない。あいつも三年だし、そろそろ優勝したいだろう?』

『なるほどなるほど、この対戦カード……見逃すことはできないというわけですね!』


千歳「生徒会の一員としても、この試合は絶対見届けなきゃあかんなぁ……」

綾乃「そうね……」



「あっ、間に合ったみたい!!」

「まだ始まってないのか。よかった」


千歳「あっ、歳納さんと吉川さんと……」


あかり「ああ~っ、結衣ちゃん!!!///」

結衣「あかり、なんか久しぶりだね」

あかり「ほ、本当だよぉ……今までどこにいたの?」

結衣「はは……まぁ、ちょっとね」


綾乃「船見さん、ここに来たってことは……」

結衣「ああ、たった今5回戦が終わったとこなんだ」


京子「会長 vs さくっちゃんとひまっちゃん……ここで勝った方が、準決勝で結衣と戦うことになるんだよ」


あかり「ええっ!?」

綾乃「船見さん……やっぱり勝ったのね」


結衣「試合が見れて嬉しいよ。二人をよく見て対策を考えなきゃだからね」



ちなつ(…………)


あかり「ちなつちゃん……どうしたの?」

ちなつ「へっ?」

あかり「なんかちょっと、そわそわしてるけど……」


ちなつ「ううん、そんなことないんだけど……なんというか」


ちなつ「私は正直、会長さんと櫻子ちゃんのどちらかが勝っても……次で結衣先輩に勝つことはできないと思ってるの」

あかり「えっ……?」

ちなつ「だってさっきの試合……結衣先輩の試合、衝撃すぎたの! あんなことできる人がいるなんて……」


ちなつ「もう~……私、結衣先輩のことまた大好きになっちゃいそうだよ~……///」ぽっ

あかり(ど、どういうこと……???)



審判「それでは両者、位置について!」


櫻子(負けたくない……まだ負けたくないよ……!)ざっ

向日葵(一縷の望みをかけて……挑むしかありませんわ!)

りせ「…………」じっ



審判「5回戦最終試合! 大室・古谷ペア vs 松本!」


『試合開始~~!!』どじゃーん

櫻子(先手必勝っ!!)ばっ


『まずは大室選手、風魔法で牽制だぁ!』


りせ「っ…………」ばたばた


結衣「普通のローブを着ている人にとっては、風魔法の拘束力は増すね……」

京子(確かに……でも!)


りせ「っ……!」ぱぁん

櫻子「なっ……」


『おおっ、松本選手! 杖の一振りで風魔法を打ち消しました!』


あかり「んん~、あんまり効いてないよぉ……」

綾乃「そりゃそうよ……大室さんは確かに6の属性を使いこなすけど、そのひとつひとつは専門で学んでいる子には及ばないもの。その程度じゃ会長には通用しないわ……」

櫻子(どうすれば……どうすればいいんだろ……!)

向日葵「櫻子、まだ手はあるはずですわ! 落ち着いて会長を観察して……」


りせ「…………」ぼわぁっ

向日葵「えっ!?///」しゅいん


『なっ!!』

結衣「あれは……!」


『ど、どういうことでしょう!! 古谷選手の周りに突如謎の壁が……!』


奈々『……魔法障壁の一種だ。古谷は閉じ込められたな』


綾乃「ま、魔法障壁ですって!?」がーん



ちなつ「え……そんなにおかしなことなんですか?」

京子「違う、違うんだよ! あれはだって……」



『西垣先生、魔法障壁ということは……!!』

奈々『ああ……松本は三年に上がって、闇魔法の他に妨害魔法を会得したんだ』


あかり「ええっ!?」

千歳「第二魔法……妨害!!」

『こ、ここに来て驚愕の事実が発覚です~! なんと松本選手の妨害障壁で、古谷選手が囲われてしまいました! これでは大室さんに魔法を届けることはおろか、外に出ることすらままなりません!!』


櫻子「な、なんだって……!」

向日葵「櫻子! 櫻子!?」どんどん



奈々『……大室が天性の才能を持つとしたら、いわば松本は努力によってその才を身につけた人間だ。体は小さくても15才、魔法の幅は三年生の中でもかなり広い! 並外れた努力で、やっと第二魔法を習得することができたんだ』

綾乃「私……会長が障壁展開の魔導書を読んでるの見たことがあるわ……!」

千歳「これはとんでもないことやで……」


櫻子「くっ、くそおっ!」ごおうっ


『大室選手、必死に外側から障壁を攻撃しますが……壊すまでにはかなり時間がかかってしまうのではないでしょうか!?』

奈々『ああ、魔法そのものの威力の低い大室では、なかなか難しいだろうな……』ふっ

櫻子「そんなぁ……!///」


りせ「…………」


――
――――


りせ『…………』

奈々『……なに? 大室の魔法を確かめるいい方法があるって……どういうことだ?』


りせ『…………』

奈々『ああ、そうか! 確かにマジカルバトルトーナメントの試合中なら、大室の隠された魔法を引き出すことができるかもしれない……』


りせ『…………』

奈々『うむ、試合中ならデータも取りやすいだろう。だがしかし……いいのか? 松本』


りせ『…………///』

奈々『ふふ……大それたことをする生徒会長だ。松本がその気なら、私もその好意を受け取らないわけにはいかないな』


奈々『何かが隠されているはずだ。そしてそれを引き出せるのは、恐らく松本以外では難しい……』


奈々『まあ、気軽に考えてくれればいいぞ。もしお前たちが試合で当たるようなら、その時は私も集中して大室の分析に努めるとしようか』


――――
――



奈々(本当に当たってしまった……どうやら松本は本気だ!)


奈々(なら一期一会のこの機会、利用させてもらおう……!)すちゃっ

りせ「…………!」だっ

櫻子「っ!」


『松本選手、一気に大室選手へ向けて走ったぁ!』


りせ「……っ!」ばしゅん

櫻子「うわぁーー!!///」どんっ


結衣「あれは……影弾だ! ただの黒い影が向かってるように見えるけど、あれには実体がある!」

綾乃「受け続けたらすぐに終わってしまうわ!」


向日葵(そ、そんな……見てることしかできないなんて……!)がんっ



どしゅっ!

櫻子「きゃあーーーー!!」


『為す術がありません大室選手、壁に叩きつけられてしまいました~!』

りせ「…………」ちらっ

奈々(ん……やるか……!?)


りせ「…………」すたすた

櫻子「ぐぅぅ……強いっ……!///」



結衣「ん!?」

京子「な、何を……?」


りせ「…………」ぎゅっ

櫻子「うあぁっ…………!!」ぽふっ


向日葵「なっ……!?」



『こ……これは……何をしているのでしょう? 松本選手が大室選手を抱きしめている……?』


奈々(これが松本の……一番の真価だ)



向日葵「ちょっ! 何やってるんですの、櫻子っ!!」ばんばん


結衣「な、何をしてるんだ……寝てる……?」

あかり「会長さんも目を閉じてるけど……」

りせ「…………」


櫻子「…………」すぅ


『え、ええと……闇魔法に疎いのでよくわからないのですが、攻撃には転じないのでしょうか?』


奈々(いや、来るぞ……!)


『あのっ、西垣先…………』



櫻子「うぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!!///」がくがくっ


『なっ!?』

向日葵「えっ!?」

あかり「うそ……」


櫻子「あぁぁっ! いやぁぁああああぁぁああああ!!!」

りせ「…………っ」ぎゅっ


『お……大室選手が……』

京子「泣いてる……!?」

櫻子「うぁああぁ……あぁぁぁ……」ぽろぽろ


向日葵「さ、櫻子!! しっかりしなさい!! 櫻子!!」どんどん


『一体何が起きているんでしょう……我々にはさっぱりわかりませんが、大室選手が絶叫しております……!』


奈々『……大室は今、夢を見させられている』

『夢……?』


奈々『強制的に昏睡させられ、松本が作り出した幻影を見させられている……そしてその幻影は……』


櫻子「ひまわりぃぃいいぃいいいいっっ!!!」

向日葵「っ!!」びくっ



奈々『大室が、この世で一番見たくない世界だろう……』



あかり「そんな……」


京子「な、なんのために!? こんなことしたって守護石そのものにダメージは入らないよ……!!」

結衣「意味がわからない……何をしてるんだ……?」

審判「ま、松本選手! これ以上続けると失格にしますよ! 大室選手から離れ……」


櫻子「ああああぁぁぁっ!!!」どんっ

りせ「っ!?///」どかっ


『あーっ!』

京子「!!」


りせ「ぁ……っ!///」どくん

奈々『松本!!』



『ま、松本選手が物凄い勢いで吹き飛ばされました! 何が起こったのでしょう……!?』


櫻子「…はぁ………はーっ……」

向日葵「さく……らこ……!?」


綾乃「な、何……今の……?」

結衣「見たことのないエネルギーが……溢れてる……!」

京子「……!!」


奈々(あれは何だ……既存のデータに該当しない……!!)ぴぴぴ


『立ち上がりました大室選手。反撃の準備が整ったのでしょうか?』

櫻子「……はぁ……はっ……!」

りせ「ぅっ…………!」はぁはぁ


櫻子「うわぁあああああーーーーーーーーーーー!!!!」グォウン


びしぃっ!


りせ「……ぁ……っ……!!///」ばきっ


奈々『なぁっ……!!』がーん

京子「ええっ!?」


『きゃーー!! 魔法障壁が消えました!!』

結衣「あ、危ないっ!!」


奈々『と、止めろ!! 試合を止めろ!!』ばっ


審判「大室選手、そこまでです!! 魔法を止めなさい!」

『な、謎のエネルギー波で……古谷選手を覆っていた魔法障壁はおろか、フィールドを包む障壁まで消えてしまいました~……!! 会場の皆さん危ないです、避難してくださーい!!』

奈々『くそっ……松本……!!///』だっ



京子「みんな逃げて!! 早く!」

ちなつ「ど、どういうことなの~!?」

あかり「さ、櫻子ちゃんと向日葵ちゃんがぁ!!」

結衣「だめだ、二人のことは先生たちに任せるんだ!」



向日葵「櫻子っ、落ち着いて、櫻子!!」ぎゅっ


櫻子「ぁぁっ…………」ぱたっ


向日葵「あ、あれ……櫻子!?」ゆさゆさ



櫻子「ひ……ま、わり……?」がくっ


櫻子「よか……った……ぁ…………///」ふっ


向日葵「ちょ、ちょっと! しっかりしなさいってば……!」

奈々「松本、大丈夫か!? おい!!」

りせ「…けほっ、けほっ……!」


奈々「ふむ、外傷はそこまでのようだが……どこか痛んだりとかは…………ああっ!?」


奈々「そんな……守護石が……!!」ぱらぱら


『に、西垣先生! その破片は……?』

奈々『守護石が、粉々に砕けている……!!』


向日葵「ええっ!?」


奈々「どういうことだ、いかなる魔法をも包み込み吸収するはずの守護石が……なぜ……!!」



先生『会場のみなさん落ち着いてください、この試合はただちに中断いたします!』


先生『障壁の修復作業にはしばらく時間がかかりますが、予定通り準決勝はこのA会場で行うため、30分ほどのお時間をいただきたいと思います。準決勝開始時間は……』


あかり「きゃぁーっ!?」びくっ

京子「あ、あれは……っ!///」


ざわざわ……!!

奈々「な、なんだ? 皆が驚いているが……」

りせ「っ!!///」ぽんぽん


奈々「ど、どうした松本…………えっ!?」


くるくるくる……



結衣「と、時計が……校舎の時計が……!」

綾乃「ものすごい勢いで針を回してる……!!」

千歳「しかも……逆方向に……」


ちなつ「ど、どういうこと!? 櫻子ちゃんの魔法と何か関係があるの……!?」



向日葵「一体、何が起こってるんですの……」


櫻子「…………」ぐったり


向日葵(あなた……何をしたんですの……!?)



<魔法障壁 修復作業中……>


校長「会場内の障壁が全て消えたこと、松本さんの守護石が破壊されたこと、時計の針が猛回転していたこと……これら全ては大室さんが放った魔法の影響かと思われます」

奈々「そんな……一体あの魔法は……!?」


校長「一部の関係者にのみ連絡していたことですが……大室さんは入学時の適性診断で、封印古代魔法の使用資質を持つと出ていました。しかし使用資質を現しても、実際に使うことのできる子というのはひどく少ないのです。我々は一般的な教育課程に置いて様子を見ようと思っていましたが……」


校長「先ほど起こった全ての現象を総合すると、やはり……あれは封印古代魔法の影響だと思われます」

奈々「まさか……そんなものを抱えていたとは……」


奈々「……校長、私の責任です。私が大室に隠されたものを暴こうとして、松本が私の意思を継いであれを引き出してしまった……申し訳ありません」



校長「……本来なら、相応の処罰を取るべきところですが……ずっと大室さんを放置していた私たちも、監督不行届というものです。それに、大室さんの魔法が暴走して誰かに危害が出なかったことを考えれば、あの場で無事に押さえ込むことができたのは偶然にもベストな形だと思います。今回のことは、不問にしましょう」

奈々「…………!」


校長「今はそれよりも、大室さんの処遇をどうするか、です……封印古代魔法を使えるとなると、これは我々の元では手に負えないかもしれません。魔法庁の指示を仰ぐ必要がありますし、恐らくその結果、大室さんを国家機関に引き渡すことになるかと……」

奈々「それだけの影響力を持つ魔法、ということなのですね……」



<保健室>


向日葵「…………」


櫻子「……ん……」ぱちっ



あかり「あっ、起きた……!」

ちなつ「櫻子ちゃん……!」


櫻子「あれ……みんな……?」ぽかん


向日葵「櫻子、大丈夫ですの……? ケガはない?」

櫻子「ケガ……? 別に、無いけど」


あかり「あ、あれ? 櫻子ちゃんはなんともないの?」

櫻子「どうしたのみんな、集まって…………あっ、試合は!? 私の試合……!」


綾乃「……試合は中断されたのよ。覚えてない?」

櫻子「中断っ……どうしてですか!?」


結衣「フィールドに張られた、観客たちを守る魔法障壁が無くなっちゃったんだ。危険だから、試合を一時中断したんだけど……大室さんが起きなかったから、そのままお流れになったんだよ」

櫻子「危険って……」


向日葵「覚えていませんの櫻子……? あなたの魔法が変なことを引き起こしたのに」

あかり「でも、あのときの櫻子ちゃん……抑えが利かなくなってたもん。自分でもわけがわからなかったんだよね……?」

京子「……会長に、何か幻影を見させられてたらしいけど、そこは覚えてる?」

櫻子「幻影……」はっ


櫻子「な、なんだろ……はっきりと思い出せないけど、何かすごい怖い夢を見た気がする……!///」


向日葵「それを見ている途中、櫻子は急に泣き叫び始めたんですわ。そこであなたからものすごいエネルギー波が広がって……試合を中断せざるを得ない状況になったんですの」


ちなつ「誰も見たことない魔法だったって……魔法障壁は消えちゃうし、会長の守護石は割れちゃうし……」


綾乃「時計の針が、ぐるぐる回ってたり……」


櫻子「……わかんない……私、わかんないよ……! そんな魔法知らない……!」



「封印古代魔法……だってさ」


向日葵「あっ……!!」

櫻子「ね、ねーちゃん!?」

撫子「……校長先生から私のところに連絡が来て、学校抜けだして飛んできたんだ。抑えてこんでいたものが、ついに溢れて来ちゃったって……」


向日葵「どういうことですの……!? 封印古代魔法って、あの歴史の教科書に出てくる……」



撫子「はるか昔に、危険すぎるが故に封印された魔法。その術者の血を受け継ぐ者が、稀に同じ魔法を使う資質を見せるらしい……」


撫子「実は櫻子がこの学校に入学した時から、その可能性は見つかってたんだ。でも誤って資質を見せる子も多いから、しばらく放任してたんだけど……やっぱり本当に使えちゃうみたいだ」


櫻子「封印……古代魔法……」

撫子「でも……私だけは気づいてたんだ。あんたがまだ魔法も何も使えない、魔力のアウトプットができるようになったくらいの頃……耐魔構造のビンを破裂させたり、魔法ビンの中の水を消したり、古代魔法と思われる現象をいくつも起こしてた……」


撫子「気になって調べてみたら、危険すぎる魔法かもしれないって……そのとき櫻子は魔法についてまだ詳しく知らなかったし、このまま一生知らないままの方がいいと思って、私はあんたに他の魔法を無理やり覚えさせて……古代魔法の使い方を隠そうと思った……」


綾乃「会長は、大室さんが他の人とは違う何かを持ってることを見抜いていて……それを引き出して西垣先生の実験に応用させようと思って、このトーナメントの場を利用したらしいわ。公に調べられる機会を狙ってたって……」


櫻子「…………」



櫻子「……あの、どっちが勝ったんですか?」

結衣「えっ?」

櫻子「私たちと会長は……結局どっちが勝ったんですか!?」

向日葵「そ、そんなの……試合はお流れになったって言ったじゃない」


櫻子「じゃ、じゃあ私は負けなの……!? そんなに強い魔法が使えるってわかったのに、私はもうこれ以上勝ち進めないの!?」


撫子「バカ、もうそういう問題じゃないんだよ……! あんたの魔法で、相手の子の守護石は壊れたんだ! 試合で使ったら……誰かに取り返しの付かないケガを負わせることになるかもしれないの!」


向日葵「自分でも制御できないのに、そんな危険な力を使わせるわけにはいきませんわ! 誰かの命に関わる問題を招く恐れさえあるのに……」


櫻子「そんなぁ……!」



ぴんぽんぱんぽーん♪


『全校生徒の皆さんにお知らせいたします。試合会場の準備が整いましたので、準決勝……2年歳納・杉浦ペア 対 3年赤城・橘ペアの試合を開始したいと思います。両チーム、準備場所へ起こしください』


綾乃「あ、あら……もう行かなきゃ」

京子「準決勝……勝ったら決勝だ」

『なお、先ほど行われました……大室・古谷ペア 対 松本の試合は、無効とさせていただきます』


櫻子「えっ……!!?」

向日葵「っ…………」


『よって準決勝第二試合、Cブロック船見選手には対戦相手がいないため不戦勝となり、そのまま決勝戦進出となります』


結衣「えっ、もう次決勝……!?///」

ちなつ「不戦勝……」


櫻子「なんで……なんで……!!」

撫子「仕方ないでしょ……」



向日葵「……船見先輩、おめでとうございます」ぱっ

結衣「えっ……」

向日葵「どのみち私たちは……あのままなら確実に負けていましたもの。会長がその気なら、きっと完封されていましたわ」


向日葵「会長は第二魔法まで習得して、この大会に臨んでいた……でも会長の目的は最初から勝利することではなく、櫻子との試合を行うことだったんですわ」


向日葵「それならやはり、ここまで純粋に勝利を目指していた船見先輩の方が、決勝に行くにはふさわしいかと。自信を持って、行ってきてください!」

結衣「古谷さん……」



京子「……じゃあ結衣、待ってろよな?」

結衣「えっ?」


京子「絶対準決勝を勝ち抜いて、結衣との決勝戦を迎えてやるからさ!」

綾乃「そうね。こんなところまで来たなら、私だって優勝したいわ……!」


結衣「…………」


結衣「……なら、全力で相手しないとな」ふっ

あかり「京子ちゃん、応援してるよぉ~!」

ちなつ「京子先輩が勝てば、それはつまりごらく部の夢が100%で叶うってことなんですからね!?」

千歳「うちと千鶴の分まで、ちゃんと決勝に持って行ってや~?」


京子「よっしゃ、行くかぁ!!」

綾乃「それじゃみんな……行ってくるわね!」



櫻子「…………」


櫻子「負けてない……のに……///」ぽろぽろ

向日葵「…………」


櫻子(私はまだ……負けてないのに……!!)


~to be continued~

【七森魔法中学校物語・5話設定資料】


『魔法障壁』


いかなる魔法・物質も通さない障壁。基本的には半透明状のものである。

これを発生させる魔法は妨害魔法に属している。身を守るシールドを張る補助魔法によく似ているため、混同されやすい。

小さい物ならりせが展開したように個人が瞬時に張れるものであるが、バトルフィールド全体を覆うような大きい物を張るのは個人でも大変なため、複数人の魔導師たちが障壁展開機に魔力を送り、展開機の機能で維持するものである。ドーム状のこれが、試合で使われている魔法から観客たちを守る役割をしている。



『光魔法・闇魔法』


属性魔法のひとつ。使用適性者が少なく、主要6属性とは別のカテゴリにおかれて考えられることが多いが、攻撃魔法に分類される。

視覚に訴えかける魔法が多く、視界を奪うだけでなく幻影を見せたり味方の姿を敵の姿に見せかけたり、うまく使われると混乱する状況に陥りやすい魔法。高出力の光エネルギーを集めて攻撃に転じたり、謎の実体を持つ闇エネルギーを相手に向けて飛ばしたりもできる。

一説では光と闇の魔法は、魔法文明が最も栄えていた時代に争っていた二つの宗教勢力が生み出した魔法なのではないかと言われている。



『封印古代魔法』


現時点で執り行われている特定プログラムの場合、封印古代魔法使用資質を見せることは、300人に一人程度の割合であることなのでそこまで珍しくはない。ただしそこから本当に古代魔法を使えるかどうかは何千分の1まで絞られてくるため、魔法庁はいちいち一人ひとりに対応はできないのが現状である。そのため古代魔法の発現が確認されるまで教育機関等にそのまま任せる形になる。

本当に古代魔法の兆候が現れたときは、ただちに魔法庁の関係者に連絡して指示を仰ぐことになる。

【第6話(終):小さな魔女の想い……! 私は魔法が大好きだよ!】


<保健室>


『さあさあ試合は準決勝に突入です~~!! 果たして勝つのはどちらなのでしょうか!? 歳納・杉浦ペア 対……』


きゃーきゃー……



櫻子「…………」


向日葵「……歳納先輩たちの試合、そろそろ始まるみたいですわね」

撫子「あの子たちなら……勝ってくれるよ。二年生であそこまで強い子たち、私も見たことないね」


櫻子「……しあい……」


櫻子「……試合……したいよ……」

向日葵「えっ……」


櫻子「私も……試合、したいよぉ……っ!」ぽろぽろ


撫子「…………」

櫻子「一生懸命練習して、魔法使えるようになって、やっとここまで来たのに……! まだ私、負けてないのに……!!///」ぐすぐす


撫子「……わがまま言わないの」ぽん

櫻子「だって、だってぇ……!!」


向日葵「櫻子……」



撫子「今の泣いてる櫻子を見てると、あんたが中学校に入ってすぐの頃を思い出すよ」ふっ


櫻子「……?」ぐすっ



撫子「プリマチュアだってバカにされて、私は魔法が使えないんだって勘違いしてて……才能がないから放っておいてくれって、部屋に閉じこもって泣いてたっけね」


撫子「あんたはまだ魔法の存在さえロクに知らなかった。この世が魔法であふれてることなんて知らなかった……でもだからこそ、あんたは魔法に憧れてたんだ。私たちにとっては当たり前のことなのに、バカみたいにキラキラした目で私の魔法を見てくれた……」

撫子「才能がないなんてとんでもない、誰よりも、私よりも才能がある魔法使いなのに……いろんな人に見下されながらも、長い時をかけてようやくそれに気づけた。魔法が好きじゃなかったら、きっと埋もれていたままだったと思うよ」



撫子「櫻子……魔法が好きになれて、よかったね」なでなで

櫻子「う、うん……」


撫子「試合はもういいじゃん。初出場だけど、ベスト8まで勝ちあがれた。すごく強かった生徒会長の、守護石を壊したんでしょ? ……負けてなんかない、私はあんたたちの勝ちだと思ってる」


撫子「また次までに、先輩たちと試合ができるようにすればいいんだから……それだけだよ」ぽんぽん


櫻子「うぅ……///」

向日葵「撫子さん、それで……櫻子はこれからどうなるんですの?」

撫子「あー、えっと……先生たちが今、魔法庁に連絡をとってるみたいで……」


「大室さんは、国家賢者たちの審議にかけられます」


向日葵「っ!?」びくっ


櫻子「だ、誰っ?」

撫子「いつの間に……!」


「……魔法庁の者です。あまり人目に触れるわけにはいかないため、人が減るのを待っていました」


向日葵「も、もう来たんですの……!?」

撫子「早いですね……魔法庁って、東京にあるんじゃないんですか?」


「もちろん、東京から来ております。詳しいことは追って説明しますが……」

「ここにいる3人、大室櫻子、大室撫子、古谷向日葵。全員今すぐに審議会へお越しいただきます」


櫻子「えっ! 今すぐ!?」

向日葵「しかも私たちまで……!?」


「時間がありません、急ぎます」こぉっ


しゅぃぃ……


櫻子「うわぁっ……!」

撫子「ま、魔法陣……でもこんな変な式は見たことない……!?」


「はるか昔に禁じられた、空間の存在を無視して瞬間移動を可能にする魔法です……」


櫻子「え、それって……!!///」



「……古代魔法、エルトランス」すっ


ぱしゅんっ……


――――――
――――
――



櫻子「……あれ、ここは……」


向日葵「櫻子、櫻子どこですの?」

櫻子「こ、ここにいるよ」


撫子「なんだか……ひんやりした場所だ」



かっ!!


櫻子「わっ!?」びくっ


『……それでは、封印古代魔法使用者の審議を始めます』


向日葵「こ、ここが……審議場?」

撫子「なんで私らまで、審議にかけられなきゃならないんだ……」

『……術者、大室櫻子。貴女は特定診断プログラムにおいて、七森魔法中学校側から封印古代魔法使用資質を持っていることを宣告されていた。相違ありませんか?』


櫻子「そ、そうい……???」

撫子「はい、間違いありません……///」ぺしっ



『……また、その診断プログラムにおいて、不可逆性タイムピースの動きを逆転させたとの情報が入っております。これに相違はありませんか?』


撫子「それは……私にはわかりません」

向日葵「で、でも私、タイムピースがどうとかって先生が言っていたのを、なんとなく聞いたような……」

撫子「ほ、ほんとに?」

『……そして本日正午、七森中の魔法演習戦にて封印古代魔法と思しき魔法を発動。その結果、会場を覆う防護壁の消去、相手選手のランク2吸魔守護石を破砕、および七森中校舎にとりつけられた時計を逆方向に進行させた……この事実は相違ありませんか?』


櫻子「ね、寝てたからわかんないんだけど……///」ひそひそ

向日葵「全て、相違ありませんわ」



『それならば……ここまでの情報を全て考慮に入れ、古代魔法研究者との調査の結果……秘伝古文書に記載されている、ある魔法との高い合致率を示したことが確認されたため、この場にてご報告いたします』


撫子「!」

櫻子「私の……魔法?」

『大室櫻子さんの封印古代魔法は……ランクA、時間魔法・クロノシアとの合致率が94%と判定されています』


撫子「じ、時間魔法……?」

向日葵「聞いたことありませんわ……」


『有史152年、大賢者カイロ・リブラリアによって生み出された、時間の流れを操作する魔法です。働きかけたものの時間を進行・または逆行させる……効果範囲によって影響力は変わりますが、最大でその速度は1秒あたりにつき数千年単位まで動かすことが可能……とあります』


櫻子「そ、そんな魔法が!?」

撫子「……時計が逆行してたのは、これなの……?」

向日葵「あ、あの、ランクAというのは?」


『……規定により封印古代魔法は、その危険度からABCDの4つのランクに分類されます。ランクAは最上級の危険度を示しています』

向日葵「!」



『……封印古代魔法とは、本来この世に存在してはならないものです。危険すぎるが故に封印され、そしてこの世界は長らく安寧に保たれてきた……古代魔法の中には世界を簡単に破滅へ導くものも少なくありません』


『この審議会は、古代魔法使用者の魔法を特定・およびその魔法の処分を決定する場です』


櫻子「処分って……!」

撫子「ま、待ってください! 櫻子は別に自分から望んでそんな魔法を使えるようになったわけじゃ……!」


『……もう一度言います、この世に存在してはならない魔法なのです。古代魔法使用者を野放しにすることは絶対の禁忌とされています。大室さんに魔法を使う気がなくても、誰かが大室さんを利用して魔法を暴走させれば、大室さんは世界を巻き込む魔法災害を起こす爆弾になってしまいます』


『……それもランクAの古代魔法とあれば、本来1分1秒もこの世に存在することがあってはならないものです。我々は大室櫻子さんのような古代魔法使用者を各地から回収して、迅速に処分することを命じられている機関なのです』

『回収された古代魔法のデータは、公的な調査の対象となります。いかなる魔法であるかを分析し、そしてそれを現代魔術に応用することで更なる魔法文化の発展につなげていくものです。あなた方がここに来るために使用された古代魔法エルトランスも、元は古代魔法使用資質を持つ者から取ったデータを元に生み出された魔法です』


櫻子「…………」



『古代魔法使用者に対する処分……大室さんはここまでただの一人にも魔法的危害を加えていないため、アブソープションによる再封印の処置を取らせていただきます』


撫子「再封印……って」

向日葵「それは、古代魔法を使えなくするということですか?」


『……古代魔法だけを封じるのではなく、大室さんの魔力生成力を完全に奪うことによって魔法そのものを使用できなくする処置です』


撫子「ええっ!?///」がーん

櫻子「そ、それじゃあ……私はもう一生魔法使えないってこと!?」


向日葵「そ、そんなのひどすぎます……!! 櫻子は何もしてないのに……!」

『……仮に大室さんが、古代魔法を使用して自分以外の者に危害を加えたり魔法的災害を引き起こしていた場合、ただちに永久禁固の処置となっていました。酌量の余地を考慮にいれた上で、アブソープション封印の処置が決定されたのです』


撫子「……遥か昔、古代魔法を生み出した人に対して取られた処置と同じというわけですね……」


『ランクC・D等、比較的危険度の低い古代魔法使用者に対しては、数年の歳月をかけて古代魔法だけの使用資質を取り除く処置もできたのですが、大室櫻子さんの魔法は危険度も高く、また13歳という若さからこのような処置を取ることは望ましくないとの判断に至りました』


『何度も言いますが、片時もこの世に存在してはならない魔法なのです。ご理解の程を……』



向日葵「そんな……そんな……」

撫子「欲しくて手に入れた力じゃないのに、ひどすぎます……!!」


櫻子「…………」

櫻子「……わかりました!」ぱっ


向日葵「ええっ……!!?」



櫻子「そんなに危ない魔法だっていうなら……一秒もこの世にいることが許されないっていうなら、他の魔法が使えなくなってでも封印した方がいいです!」


撫子「な、何言ってんの!! あんたはもう一生魔法が使えなくなるんだよ……!?」


櫻子「そうかもしれない、けど……」



櫻子「けど、今まで私はずっとそうだったもん! 中学校に入る前……魔法がこの世にあることすらも全然知らない頃の私は、そうやって毎日過ごしてきたんだもん……そのころに戻るだけでしょ?」

向日葵「で、でも……!」

櫻子「まだ私……魔法を覚えて、3ヶ月くらいしか経ってないよ。この3ヶ月は、そういう夢を見てたっていうことと同じなんだと思う」


櫻子「みんなと一緒に魔法の勉強をする、楽しい夢……ねーちゃんみたいに、色んな魔法が使える才能があるってわかった、楽しい夢……先輩たちと魔法を競い合った、刺激的な夢……」


櫻子「その夢が覚めて、また元通りの私に戻るだけ……魔法を知らなかった頃の私に戻るだけ。楽しかった夢は終わり。私が夢から覚めることが、この世にとって一番いいことだっていうなら……私はそれでいいもん」

撫子「櫻子……」



櫻子「ねーちゃんとの特訓も……向日葵と一緒にやった勉強も、大変だったけどすごく楽しかった! その思い出は……夢の記憶は、これからもずっと消えないでしょ!? なら、別に魔法が使えなくたっていい……これからもみんなと一緒に楽しくいられるなら、私はそれだけでいい……!///」

櫻子「……お願いします。私の古代魔法を……私の魔力を、全部吸い取っちゃってください……!」ぺこっ


撫子「…………」

向日葵「…………」



『……大室櫻子さん、あなたの強い意志は確かに伝わりました』


櫻子「…………!」ぱぁっ



『そして、ここでひとつ………伝えたいことがあります。大室さんの処置の方法について、もうひとつ新たな選択肢が提示されています』


向日葵「もうひとつの選択肢……?」

撫子「そ、それはどういったものなのですか?」

『……先ほど申し上げた、ランクC・D等の古代魔法使用者に対する処置というのは、我々の管理している特殊環境施設において、長い歳月をかけて魔吸石に古代魔法をかけ続けるというものです。これによって古代魔法だけを取り除くことが可能なのですが、恐らくランクAの大室さんの魔法を完全に吸収するには数十年と必要になってしまうことでしょう』


『しかし……大室さんの場合、その取り除くべき魔法……魔吸石にかけことになるであろう魔法は、時間魔法クロノシアです』


『時間の進行・逆行を自在に操る魔法……つまり』


向日葵「あっ!!」

撫子「そうか……!!」


『魔吸石そのものに時間進行の魔法を使用すれば……』


撫子「一瞬で古代魔法だけを取り除くことができるかもしれない!!」

櫻子「えっ、えっ、どういうこと?」ぽかん

向日葵「櫻子!! あなたの魔法なら、魔力を失わずして古代魔法だけを取り除く処置が一瞬で終わらせられるということですわ!!///」


櫻子「えーっ!? それってつまり……これからも魔法を使い続けられるってこと!?///」


『仮説の段階ではありますが、試験的にその機会を与えてもいいとの審判結果となりました。おめでとうございます』


撫子「よかった……よかったぁ……!」ぎゅっ

櫻子「魔法……これからもずっと使えるの……?///」

向日葵「うまくいけば、そういうことですわよ……!」


――――――
――――
――



<七森中・試合会場>


『さあ、先ほど見事な勝利を収めた歳納・杉浦ペア! その決勝戦の相手は、同じく二年生の船見選手です~!! なんとこの大会の決勝進出者が全員二年生!!
誰がこの結果を予想したでしょうか……!』


京子「あーあ、ごらく部のうちの誰かが優勝すればいいなんて結衣は言ってたけど……結局ごらく部同士の決勝になっちゃうとはなぁ」くすくす


結衣「京子と綾乃なら結構いいところまで行くと思ってたけど、まさか決勝まで上り詰めてくるとは思わなかったよ」



結衣「これで、ごらく部的には今後も安泰ってわけだ。みんなの居場所を守ることができた……」

京子「結衣の目標は達成かー。それにしてもよくそれだけの理由でここまで勝ち残ってこれたねー」



結衣「……本当は、違うんだ。私の目的はごらく部のためだけじゃない……」


綾乃「えっ?」

京子「なに、何かあるの!?」

結衣「実は私……最近徐々に徐々に、成績が落ちてたんだ。テスト前とかでも結構遊んじゃったりしてて……それが親にばれて、良い成績をとらないと一人暮らしをやめさせるって言われてたんだよ」

京子「えーーっ!?」


結衣「自分の居場所を守るためには、どうしてもこの大会で勝たなきゃいけなかったんだ。決勝まで来たから、もうほとんど目標は達成されたけど……でも!」ばっ


結衣「どうせここまで来たんなら、校内最強になってやるさ……!」


京子「ふふ……あははは!! そんなこと言ったって、この京子様がほいほい優勝をあけ渡すと思ってるのかー! 絶対負けないぞ!!」

綾乃(わ、私も……優勝して、歳納京子とおそろいのローブを着るのよ……!!///)



あかり「京子ちゃ~~ん! 結衣ちゃ~~ん! がんばれぇ~~!!」ぶんぶん

ちなつ「結衣せんぱ~~い!! 京子先輩なんかあっという間にやっつけちゃってくださ~い!」

京子(あれっ、今なんか聞こえちゃったよ……!?)

結衣「でも、京子とは実戦の特訓をいっぱいしてきてるから、新鮮な戦いにはなりそうにないよな……どうせなら大室さんや会長とやってみたかったよ」


京子「そりゃあ私だって、『決勝で会おう!』ってさくっちゃんに言っちゃったくらいだもん。私は正直結衣よりもさくっちゃんの方が強かったと思ったんだけどなー」


結衣「古代魔法と手合せしてみたかったのは、確かにあるよな……」




ぱしゅんっ……


「うわぁーー!!」どさどさっ

「きゃ~~!」


京子「わーー!!///」びくっ

綾乃「えっ……!?」


『おおっ!?』

あかり「あ……!」

ちなつ「うそ……!!」

櫻子「あいててて……もう! 飛ばすならもっと安全なように飛ばしてよ!!///」

向日葵「古代魔法って、やっぱりまだ完璧な実用性を確保することはできてないんですのね……」

撫子「確かに便利だけど、これは困っちゃ……うわぁぁ!!///」どきっ



『こっ……これはこれは~~~!? バトルトーナメント決勝戦、会場内に突如乱入者が出現いたしました~~!』

ざわざわ……!


向日葵「あれっ! ここ……試合会場じゃない!! あーっ、杉浦先輩たちがいますわ!」

京子「さくっちゃん!! どうやってここに!?///」


櫻子「何これ!! 魔法庁の人なにとんでもない所にワープさせてくれちゃってんだよ! ってかこれ決勝戦!?」

撫子「くっ……なんで私までこんな目に……///」かああっ

奈々『大室! 古谷! なんでそこにいるんだ!?』


櫻子「え! えっとぉ……ああもう、説明がめんどくさいなぁ~……」

向日葵「あの、櫻子の古代魔法は、魔法庁のもとで正式に処理をしてもらってきました! もう櫻子は、いたって普通の女の子ですわ!」


撫子(あっ……)ぴこん


校長『お姉さん、それは本当ですか?』


撫子「まあ、はい……いろいろあったんですけど、うまく古代魔法だけを取り除くことに成功しました」


撫子「つまり、もう守護石を壊すような危ない魔法は存在しなくなったということなので……櫻子は今まで通り試合に出られますよ」

向日葵(撫子さん……!)はっ


結衣「試合に出してあげられる、って……」


向日葵「あ、あ~ら撫子さん! それじゃまるで櫻子と私が、行われなかったはずの船見先輩との準決勝をやらなきゃいけないみたいじゃないですか~!///」

綾乃(古谷さん……なんかわざとっぽい……!?)

『なんと乱入者の正体は、先ほどの準々決勝にて謎の魔法を見せた大室さんたちです~!! しかも船見選手との準決勝を行うことを望んでいるようですが……』


奈々『……まあ、守護石を砕かれた松本本人は、どうやら大室に負けたと思っているみたいだからな……準決勝の相手としてふさわしくないわけではないが』


櫻子「い、いいっていいって今更! なんか恥ずかしいよ……!!///」ぶんぶん

向日葵「何言ってるんですの! ついさっきまで試合したいって泣いてたくせに!」

櫻子「泣いてなんかねーわ!!」

撫子「いや、泣いてたろ……」



校長『……困りましたね、大室さん古谷さんと松本さんの試合は無効になってしまったのに……』

京子「…………」すっ

撫子「!」ぴくっ


ばちばちばちっ!!

櫻子「うわぁっ!?」


京子「ほぉ~、さすがお姉さん……!」

撫子「あ、あぶないな君……! 私たち守護石つけてないんだけど?」


綾乃「ちょ、ちょっと歳納京子、何やってるのよ……!!///」


京子「…………」にやり



京子「もうさ、このまま3対3で決勝やろうよ!!」


結衣「なっ!?」

櫻子「はぁ!?///」


『ええぇ~~~~っ!!?』

京子「私はだって、結衣との魔法特訓なんか飽きるほどやったし、それを決勝の場でやるよりは……試合を壊すほど強い魔法を見せたさくっちゃんと試合がしてみたい!!」


京子「初めて会った時からどこか人とは違うと思って、それで魔法を教えてあげた私の弟子が……どこまで強くなったか見てみたいんだよ!!」

櫻子「と、歳納先輩……!///」


結衣「おい! 私は優勝すれば家具とか買ってもらえるかもしれないから、結構必死なんだけど!?///」


京子「なーに、決勝の相手が私じゃ『どうせ京子ちゃんに手加減してもらったんでしょ』とか言われちゃうだろ? それなら、三年前の優勝者を倒した方が親御さんもびっくりさせられると思うんだけどな~」

撫子「なっ……! 私のことを言ってるの!?///」

結衣「だ、だからって……!」

「いいぞーー!!」わーわー

「3対3だ~~!」きゃーきゃー

「頂上決戦だぁーーー!!」ひゅーひゅー


『か、会場の熱気がすさまじいことになっております~! これは一体どうなってしまうんでしょうか!』


奈々「ううむ……確かにここにいるのは皆この学校でも1・2を争う強者たちだ。こいつらの試合こそが、校内最強を決める決勝というのもわからんでもないが……校長は?」


校長『ふふ……ここまで来たら、やりたいようにさせてあげますか。今大会の主催は西垣先生ですので、決定権は先生にお任せしましょう』


奈々『よし……では大室たちに守護石を渡してやれ!』



綾乃「……なんか、もう流れをとめられないわね」

向日葵「私たちの……決勝戦……!」

京子「お姉さん、さくっちゃんにもう古代魔法が無いってんなら、お姉さんの存在があった方が釣り合うと思うんですけど……どうですか?」

撫子「いや、私は高校生だから……こんな試合には付き合えな……」

櫻子「はいねーちゃん、守護石貰ってきた」ぽん

撫子「ちょっと!! 何勝手なことしてんの!?」


櫻子「ねーちゃん……試合しようよ!」


櫻子「やっぱりこれは、夢じゃなかったんだ……! 私はこれからもずっと、魔法を使っていける!」


櫻子「今のこの瞬間が夢じゃないってことを、思いっきり感じたいの!! 魔法を使って、先輩たちと思いっきりぶつかってみたい!!」

向日葵「!」

櫻子「歳納先輩……船見先輩、杉浦先輩! 私は戦いたいです!!」


櫻子「だって私は……魔法が大好きだからー!!!」


京子「ふっふっふ……よく言ったよさくっちゃん……!」

結衣「……こうなっちゃもう、仕方ないな」ふっ

綾乃「大室さんの期待に、応えてあげるしかないわね」


向日葵「わたくしも、二人の足手まといになる気はありませんわ!」

撫子「な、なにこの流れ……もう止めらんないじゃん……!///」



「なでしこ~~~っ!! 応援にきたわよーーー!!!」

撫子「っ!!?///」どきっ


美穂「ほらほら、中学生相手に負けたら承知しないわよ~~? パフェおごりだからねーー!!」

藍「撫子ったら、こんな中学校に来てまでひと暴れしたいなんて……意外とやんちゃね」

めぐみ「何この盛り上がり~、すごいね~!?」


撫子(な、なんで来てんの……!!?///)ぷるぷる

『七森魔法中学校、学期末マジカルバトルトーナメント……波乱に波乱を乗り越え、決勝の場に立ったのは前代未聞の6人!!』


『強力無比な一撃にかける雷使いの歳納京子、多彩な妨害と必殺の魔封じを持つ杉浦綾乃、ここまでの試合をストレートに完封してきた凍てつく魔女、船見結衣!』


『それに対するは、歴代初・一年生にしての決勝進出を成し遂げた、特殊プリマチュアの大室櫻子と古谷向日葵ペア!
そしてそして、三年前の優勝者にして現役高校生、櫻子さんの姉であり師匠たる天才賢者、大室撫子さんです~!!』



あかり「こんな試合、これから先も絶対見られないよぉ~……!!」

ちなつ「も、もうどっちが勝っても負けてもいいや! とにかくいい勝負を繰り広げてほしいぃ~!」

千歳「実力的にも、うまく均衡してるんとちゃう?」


奈々『ふふふ……異例の決勝戦だが、まあこんなことがあってもいいだろう。どのみちこの大会はお祭りみたいなものだ! エキシビションマッチといこうじゃないか』



櫻子「絶対勝ちたい……私の魔法を使って、思いっきり戦いたい……っ!!」


京子「よーし、私の本当の本気を見せてあげようかな!!」


結衣(これに勝って……家電とゲーム、絶対買ってもらうぞ……!)


綾乃「よろしくね、古谷さん。こうなってしまった以上、負けるつもりは一切ないわ!」


向日葵「こちらこそ……先輩は手加減されるのがお嫌いなんですものね。私も全力を尽くしますわ!」


撫子(……やるしかないのか)はぁ

審判「それでは、マジカルバトルトーナメント決勝戦を行います! 歳納・杉浦・船見 vs 大室・古谷・大室!!」


『試合っ 開始ぃぃいいーーーーーーー!!!!』どじゃーん



結衣「京子! お姉さんを先に倒さない限り絶対に勝てないぞ!!」

京子「んなこたわかってらぁーい!」しゅんっ

綾乃「焦っちゃダメ、まずは様子を見なきゃ!」


櫻子「いっくぞーーーー!!///」だっ

向日葵「ちょっと、私からあまり離れないでくださる!?」

撫子(なんだ、あの子……何か隠し持ってる……?)

結衣「るぁぁぁああっ!!」ぶんっ

撫子「っ!!」


ばっきぃぃん……!!


撫子「なっ……!!?///」

結衣「ちいっ、避けられた……!!」



櫻子「な、なにあの氷の柱!?」

綾乃「あれは……」


向日葵「ま、魔法剣ですわ!!」


『船見選手の一閃が樹氷のような氷の刃を生み出しています~!! あれに突き刺されたらひとたまりもないのでは!?』


京子「船見家に伝わる魔法剣……霜剣ツララ!! 並みの魔道士では冷たすぎて持つことすらできない剣……氷魔法に特化した結衣だけが使いこなせるんだ!」

結衣「くっ……でもこいつを避けられたのは、初めてだ……!」


向日葵(なるほど……魔法剣による一撃は単純な魔法よりも素早く、強く鋭い……! 船見先輩がここまでの試合、数十秒で決めてきたのはこういうことだったんですのね……)

撫子「魔法剣、ねぇ……」

結衣「もういっちょ……!」しゃがっ


『きゃーー! 船見選手、自分で氷の足場を生み出してその上を滑っています!! 』


奈々『あ、あんなことができるのか……船見はよっぽど氷魔法に長けているらしいな』


撫子「確かに、隠し持った魔法剣での戦法、そしてあの速さの攻撃……試合に慣れていない子なら不意打ち一発で終わりかねない。でも……」


結衣「はあっ!!」


ざしゅっ!!


結衣「なっ……!///」


撫子「……ごめんね、私は魔法剣士との試合も結構やってきたんだ」ぐっ

結衣(そ、そんな……!!)

京子「結衣っ! どけぇ!!」ばちばちっ

結衣「!!」


京子「はぁぁああっ!!」

すっ


京子「あ、あれっ!?///」すかっ


撫子「……中学生相手に弱点を突いて勝つのも大人げないから、今回は炎と土の魔法を使わないでおいてあげよう」


綾乃「歳納京子っ、後ろ!!」

京子「!」


撫子「その代わり見せてあげる……櫻子にはまだできないであろう、複数属性の混合魔法!」ふぉん

京子「わぁぁっ……!」びゅごうっ


結衣「風と氷……吹雪!!」



『なっ、なんでしょう! 吹雪と言いながら、ものすごい数の霰が外壁に叩きつけられております!』

奈々『これが混合魔法だ……プロのバトルマジシャンがやるような技だぞ』

櫻子「えやぁーーーっ!!」ごうっ

結衣「ちっ!?///」


櫻子「ちなつちゃんと一緒に特訓した、炎の魔法……ちなつちゃんの代わりに、私が先輩に届けます!!」


綾乃「させないわ!!」

櫻子「あーっ……!?」かちっ


向日葵「さ、櫻子!!」


『あーっとぉ! 杉浦選手の魔法が大室選手をとらえました! 身動きがとれません!!』


結衣「チャンス……! 炎使いさえいなければ私は……!」だっ


しゅいいぃぃぃ……!


綾乃「なっ!?///」

奈々『ん……!!』


ちなつ「あーっ、魔法陣!!」

あかり「あの式は……!!///」

撫子「私が使うのは攻撃魔法だけじゃないよ……櫻子っ、うちの主力はあくまでアンタなんだから、任せたよ!!」


向日葵「リィンフォース・シール!!」

京子「まずいっ、陣内は綾乃の停止が効かないっ!!」


櫻子「いっけぇぇえええええーーー!!!」きゅぃぃん


ゴァァァアアアアアアッッ!!!



向日葵「なっ……!」

櫻子「あ、あれっ!?」


綾乃「持っててよかった、防護守護札……!」しゅぅぅ


京子「あ、そっか……それまだとってあったんだな! 私があんまりピンチにならなかったからここまで使われなかったけど」

結衣「あ、ありがとう綾乃……///」ほっ

向日葵「ちょっと櫻子、あんまり無茶して自滅なんかしないでちょうだいね」

撫子「あんたが真っ先にダウンして、残った私だけが勝ったって……それじゃ学校の皆はあんたが一番とは認めてくれないんだからね」

櫻子「そ、そんなのわかってるもん!」


京子「まずい、本気で強いぞあっちチーム! どうやって攻めればいいんだ!?」

結衣「京子がけしかけた勝負だろうが!///」

綾乃「相手は如何様にもスタイルを変えてくるわ……それなら自分たちにできることを突き詰めるしかない!」



櫻子(楽しい……楽しいよ……!! 魔法を使えることが、楽しい……!!)


櫻子(私は、大賢者になる……色んな魔法を使えるようにして、誰よりも強くなって、大好きな魔法をもっともっと楽しみたい……!!)

結衣「よしっ……京子は左から! 私は右から行く!」

京子「綾乃っ! 難しいかもしれないけどお姉さんの魔法を封じてくれ!」

綾乃「そんなことできたら最初からやってるわよ!!///」


撫子「ひま子、私から離れないで。あんたがやられちゃったら櫻子が動揺して魔法失敗しちゃう」

向日葵「ふふ、櫻子は大会中にぐんぐん成長しましたもの。もう失敗はしませんわ」



結衣「はぁぁぁあああっっ!!」

京子「てりゃぁぁあああーーー!!」


『はさみ打ちだぁーー!! 二人が一斉に櫻子選手を狙います!!』



櫻子(大丈夫……私は、できる……!!)


櫻子「見せてやる! これがっ……私の魔法だぁぁああーーーー!!!」かっ







~七森魔法中学校物語・fin~


――――――
――――
――

【七森魔法中学校物語 ~おまけ~】


【りせの謝罪】


<生徒会>


綾乃「ほら大室さん、そこの作業だけでも終わらせないと帰れないわよ」

櫻子「ん~……こういうのも魔法でぱっぱとできたらいいのになぁ……」


がらっ

綾乃「あ、会長!!」

向日葵「えっ?」


りせ「…………」ぺこっ


綾乃「ちょっと久しぶりですね。今日から復帰ですか?」

奈々「ああ、まる二日間病院だったのさ」

向日葵「あら、先生もいらしてたんですのね」

櫻子「病院って……それ本当ですか!?」


千歳「会長、あれから身体に古代魔法の影響が無いかとか、怪我してないかとか色々と調べられてたって話やで~」

櫻子「うそっ!? ご、ごめんなさい……!」ぱっ

りせ「…………!」ふるふる


奈々「ふふ、大室のせいではないと言っているぞ」

櫻子「いや、どう考えても私のせいじゃないですか!」


りせ「…………」

奈々「本当に申し訳ないことをした、だそうだ。まあこれは私からも言わねばなるまい……大室、すまなかったな」ぽん

櫻子「せ、先生まで……」


向日葵「でも大したことにならなくてよかったですわ。櫻子の時間魔法で、会長が赤ちゃんに戻ったり大人になっちゃったりしたら大変ですもんね」

綾乃「時間魔法……本当にそんなものがあったのねぇ」


櫻子「それにしても会長は……強かったですねぇ。私ほとんと歯が立ちませんでしたよぉ」

奈々「真面目に望んでいたら、一人でも優勝していたかもしれないな。もちろん来学期は優勝目指していくから、また大室と交えることになるかもしれんぞ」

向日葵「その時までに、また魔法を磨かないといけませんわね」

りせ「…………」がさがさ

奈々「あ、そうそう。これは松本と私からの詫びの品だ。ほい」


櫻子「うわー、アイスだ!」

向日葵「ちょ、これ何個あるんですの!? 100本くらいありません!?」

奈々「すっかり夏本番だからな。冷凍庫に入れておいて、みんなで食べてくれ」

櫻子「いぇーい!///」

千歳「これは嬉しいなぁ」

綾乃「で、でも100本も食べられないわよ……?///」


「綾乃ー、いるかー?」こんこん


綾乃「あっ、歳納京子!」

京子「これこれ、この前のプリント届けに来……あ~~アイスだ! すげえ!!」

向日葵「タイミング良すぎですわ……」

千歳「さすがやなぁ……」


櫻子「せっかくだから先輩も食べましょうよ! ごらく部のみんなにも分けてください!」

京子「いや~嬉しいね~♪」

綾乃「ひょっと! ほれは会長から大室さんへのお詫びの品なんだから、はんまり取りすぎちゃダメよ!」もごもご

京子「アイス食べながら言うセリフじゃなくね!?」



【うらみっこ】


京子「あ、千鶴だ! お~い!」

千鶴「…………」すたすた


京子「ちょいちょーい、無視しないでよ~♪」

千鶴「…………」ぷいっ


すたすた……


京子「うーん、あの大会の日から千鶴が全然目合わせてくれない……」

千歳「ごめんなぁ歳納さん、あの時負けたのがすっごい悔しいみたいやねん」

綾乃「……というよりは、歳納京子の開幕キックが完全に怒らせちゃったんだと思うけど……」


京子「あれは本気で来てほしかった気持ちの表れなのに……結果的にものすごい強敵だったけどさ」

綾乃「これから先の大会でも、千鶴さんはかなり強敵になっていきそうね」

千歳「でもなぁ、大会に負けた後……保健室で休んでる千鶴をずっと看病してたんは歳納さんやったんやで~って話したら、嬉しそうにしてはったで?」

京子「えっ、ほんとに!?」


「ちょ、姉さん!!///」


綾乃「あっ、いつの間にか戻ってきてる」

千鶴「別に嬉しいなんて微塵も思ってないんだから、そんなこと言ったらこいつが調子乗って……!」


京子「なんだよ千鶴~~! やっぱり私のこと恨んでなんかないんじゃんか~!」うりうり

千鶴「うるせぇ!!///」


綾乃「禍根が残ってないならよかったわ。また試合があるときは、全力でお願いね」

千鶴「い、言われなくても……というか」


千鶴(私がむかつくのは……姉さんから杉浦さんを奪った歳納に対してだ……!!)ごごご

千歳「それにしても、千鶴の強さにはウチもびっくりやったわ~。もしかして歳納さんと組んでたら、ほんまに優勝できてたんとちゃう?」

千鶴「えっ!?」


京子「なーるほど! 私と千鶴のコンビかぁ……嵐と雷は相性いいからな~意外といいかも……!」

千鶴「そ、そんな、私は……!」


千鶴(あれ……いや待て! 私がこいつを確保しておけば、姉さんは杉浦さんと組むことができる……! 私がこいつを……)


千鶴(こ、こいつを……///)じっ


京子「よ~し、じゃあその時に向けて、今日からコンビネーションを高める練習をしよう!」ぎゅっ

千鶴「するかボケ!!」ぺしっ

京子「ああんっ……♪」


千歳「ふふ、やっぱり千鶴と歳納さん仲ええなぁ~」

綾乃(そ、そうかしら……?)



【魔法科高校の優等生】


藍「うふふ……」にこにこ


撫子「ちょっと藍どうしたの? にやけちゃって」

藍「ふふ、あのね、美穂から面白い写真もらったの」

撫子「へー、どんなの?」


藍「じゃ~ん、こ・れ♪」

撫子「ちょっ……これこの前の大会の私の写真!!?///」


藍「あの中学校の大会、校内新聞の取材用とかに写真部がちょくちょく写真とってたらしくて……そのうちの撫子が出てるやつを美穂が全部もらってきたのよ」

撫子「何やってんのあの子……!?」


めぐみ「わ~なにこれ! かっこい~」

撫子「こら! 見るな!///」

めぐみ「いいじゃんいいじゃん、よく撮れてる~♪」

藍「うちの高校のナンバーワンが、中学校の魔法大会でブイブイ言わせてたなんて……クラスメイトはおろか先生たちもまだあまり知らないみたいだけど」

撫子「お、お願いだから誰にも言わないで……///」ゲザァ

美穂「ただいま~♪」たったっ

めぐみ「あ、美穂来たよ」


撫子「ちょっと美穂、こんな写真貰ってこないでよ……! 誰かに見られたらどうすんの!?」

美穂「あらどうして? こんなにかっこいい写真なかなか撮れないわよ?」

めぐみ「そうだよ、これ家に飾った方が良いよ」

撫子「そんなことするわけないでしょ!!」


藍「ところで美穂どこ行ってたの?」

美穂「ん~? ちょっと新聞部までね」


撫子「し、新聞部に……何しに行ったの……!?」


美穂「そんなの決まってるじゃない、撫子の活躍をうちの新聞でも取り扱ってもらおうと思って♪」

撫子「なぁっ……!?///」かあぁっ


めぐみ「へー、じゃあ参考資料用に写真とか渡しちゃったり?」

美穂「もちろん、10枚くらいぽーんと渡してきたわ」

撫子「何やってんの!? 取り返してきて今すぐー!!」

美穂「え~もう歩けな~い」ぐだぐだ

撫子「風魔法で新聞部まで吹っ飛ばしてやってもいいんだけど……」ゴゴゴ

美穂「怖っ!!」


藍「まあまあ撫子、何も悪いことしたわけじゃないんだし、いいじゃない?」

撫子「いや、悪いこととか、そういう問題じゃなくてさ……///」がくっ



【天才の血】


櫻子「おおりゃぁ~~……!」もんもん


花子「何やってんだし」

櫻子「おわっ、花子。今これ、妨害魔法の練習してるの」

花子「ぼうがいまほう……?」


撫子「動きを止めたり、行動をとめたりする魔法だよ。試合で覚えておくとすごく役に立つんだ」


櫻子「でもこれ、杉浦先輩に貸してもらった魔道書よくわかんないよ~……やっぱ私に補助系は難しいのかなぁ」

花子「見せて見せて~」


撫子「コツさえつかめばすぐなんだから。とにかく試行錯誤してみなよ」

櫻子「やってるっての~!」

撫子「詠唱間違ってるんじゃない? ちょっとゆっくりでいいから読んでみて」


花子「~~~……!」ぱしゅん

櫻子「むっ!?///」かちん

撫子「……何やってんの、黙ってないで早く唱えてみなよ」

櫻子(喋れない!! 喋れない!!)ぱくぱく


撫子「なにパクパクして……あれっ?」



花子「あれ、こんな感じ?」


撫子「ちょっ……ちょっとちょっと、これ花子がやったの!? あんた8歳なのにもう魔法使えちゃうの!?」

花子「え、できてた?///」


撫子「完璧だよ……! すごすぎるって! うわぁ、花子はうちで一番すごい子になるよ絶対……!」なでなで

花子「えへへへ……♪」

櫻子(んなこといいから早く魔法解いてよ!!///)ぶんぶん



【大賢者のタマゴたち】


ちなつ「次の授業、ローブいるって~」

向日葵「えっ! あらやだ、私今日アカデミックローブ忘れちゃいましたわ……!」

あかり「あららら……」

櫻子「もー向日葵はおっちょこちょいだなー。その点私はちゃーんと持ってき…………あれっ、無い!!///」ばたばた

ちなつ「無いんかい!」


あかり「あかりはローブ学校に置きっぱだよぉ。二人はちゃんと持ち帰ってるの?」

向日葵「いや、たまたま洗濯しようと思って持って帰ってしまっただけというか……」

櫻子「置きっぱのローブも、あるっちゃあるんだけど……」

あかり「?」


向日葵「これ……///」はぁ

ちなつ「あーっ! 優勝者のローブ!」

あかり「そういえば、貰ってから着てるとこ見たことなかったねぇ。それ着ればいいんじゃない?」


向日葵「でも、これって……」

櫻子「一応あの時勝ったのは私たちだけど、途中で試合無効にされてるし……なんか申し訳なくてさ……」


向日葵・櫻子(お揃いだし……///)じっ



ちなつ「も~、それだったら私が着たいくらいだよ! 立派に結衣先輩たちに勝ったんだから、着なきゃもったいないって!」

あかり「そうだよぉ、オシャレで可愛いし」

櫻子「しゃーない、これ着るかぁ……」ばさっ

向日葵「次の大会こそは、しっかりと優勝したうえでローブを勝ち取りたいですわね……」

ちなつ「ところでみんな、今は授業でどんなことやってるの?」


あかり「あかりはねえ、いろんな陣が描けるように式を覚えてるところ。櫻子ちゃんのお姉さんみたいに、ぱぱっと展開できるようになりたいなぁ」

櫻子「私は妨害系の授業出させてもらってるの。杉浦先輩と協力して、もう少しでモノにできそうな感じ!」


ちなつ「へぇ~……向日葵ちゃんは?」


向日葵「私……今は、氷魔法科にいますの」

ちなつ「えっ!? 向日葵ちゃん回復適性だよね!?」


櫻子「あれ、ちなつちゃん知らないの? 向日葵もう中学校3年を通しての回復科のカリキュラム全部終わっちゃったんだよ」

ちなつ「はっや!! もう回復マスターしたってこと!?」

あかり「すごすぎるよぉ……!!」


向日葵「会長とお話してたら、努力すれば第二魔法も夢じゃないかもって言われまして……ためしに氷に行ってるんですわ。船見先輩ともよく会いますの」

ちなつ「ええっ! ずる~い……!」

向日葵「私も守られてるばっかりじゃ、決まりが悪いので。早く櫻子の手なんか借りなくてもいいくらいになってやりますわ!」

櫻子「な、なにぃ……!」


向日葵「わたくしだって一人でできるというところを見せてあげますから。次回のトーナメントを楽しみにしてなさいね」

櫻子「えっ、次回は単独出場するつもりなの?」


あかり「さすがにまだ一人は厳しいんじゃない……?」

向日葵「…………」


櫻子「あ、でも向日葵にはおっぱいラリアットあるから大丈夫か。なるほどなー、でもおっぱいラリアットだけで何回戦まで来れるかな……」

向日葵「ちがーう! その時までには攻撃魔法を身につける勢いで、今の授業を頑張るって意味ですわよ!! 一朝一夕で身につかないのは重々承知してますわ!」

櫻子「なーんだ、そっか」


向日葵(…………)


向日葵「ま、まだその時も回復魔法しかできなかったら……あなた頼りですからね……///」

櫻子「えっ……?」

向日葵「優勝ペアなんだから、先輩たちは皆私たちを相手にイメージしてくるでしょう……リベンジマッチですから、当然次回も一緒に出た方がいいと思いますわ」

櫻子「そ、そうなの……?」


向日葵「そして、一応私たちは記録上は公式戦無敗ってことになってるらしいですし……まだまだ負けたくありませんわ。だからあなたも頑張ってね」


櫻子「そ、そんなの言われなくたって!///」


向日葵「…………」


櫻子「…………」



ちなつ「おーいそこのペアルック二人~! 急いで急いで~!」

あかり「早くしないと始まっちゃうよぉ~!」


向日葵「あ、はーい!」


櫻子「今行くよーー!!」たっ




~fin~

【七森魔法中学校物語・6話設定資料】


『封印古代魔法審議会』


封印古代魔法を調査・研究する機関。その中から選ばれた国家賢者によって、古代魔法使用者は審議を受けなくてはならない。
古代魔法は本来この世に存在してはならないという原則の元、古代魔法が世に広まらないように回収・処理を請け負っている。また古代魔法を使用して魔法敵災害を起こしたり、故意に危害を加えたりする者には法的手続きを踏んで処罰を与える。公にはなっていないが、秘密裏に処分を受ける魔法犯罪者は多い。

回収した古代魔法を調査するのが本来の目的で、それを現代魔術に応用して新しく世に広めることで魔法文化の更なる発展を目指している。古代魔法は本来存在してはならないものだが、それを安全な形で残していけるようにしている。実験的に古代魔法を応用した施設や道具なども多く、エルトランスはその例のひとつ。



『エルトランス』


魔法陣と魔法陣の内部を完全に同調させることのできる魔法。現在は陣内の物質の移動という面に留まっているが、陣内のものを別の陣に完全複製することも可能なのではないかと言われている。

機械的な装置に魔法を組み込んで、ワープ可能な転移装置を実用化することができるかもしれないと期待されている。



『霜剣ツララ』


船見家に伝わる魔法剣。並みの氷系魔導師では持つことすら難しいと言われている。魔法剣にはこういったものが多く、そもそも術者の能力が高くなければ使いこなすことができないとされる。

切れ味鋭い細身の剣で、振るだけで氷の刃を生み出すことができるという。

結衣は自分で生み出す氷のレール上を滑りながら、相手を魔法剣で滅多斬りにしてほとんどの試合をストレートに勝ち抜いてきた。常識外れな戦法が対策されることの無いように、試合会場に身を晒す時間をなるべく少なくしていた。



『トーナメント結果』


優勝:大室櫻子(1年)・古谷向日葵(1年)ペア (+大室撫子)

準優勝:歳納京子(2年)・杉浦綾乃(2年)ペア、船見結衣(2年)

ベスト8:池田千歳(2年)・池田千鶴(2年)ペア、松本りせ(3年)

ベスト16:赤座あかり(1年)・吉川ちなつ(1年)ペア

長々とお付き合いいただき、ありがとうございました!

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