唯「もしもあずにゃんが同級生だったら!」 (92)

唯「どうなってたと思う?」

律「どうなってたって…」

紬「…どうなってたんだろう?」

唯「気にならない?気になるよねぇ」ルンルン

律「…まぁ、ちょっとは」

澪「とりあえず、ティータイムは存在しなかったかもしれないな」

唯「え〜っ、それはダメだよ!」

律「確かに、入部したときの梓はティータイムを目の敵にしてたもんな…」

紬「放課後ティータイムの根幹を揺るがす存在になっていたかもしれないわね…」

唯「うーん、それは困るなぁ〜」

律「そもそも梓が同級生なら、唯がけいおん部に入らなくてもギターと人数は足りてたってことになるから」

律「唯が辞めるって言いにきたときに無理に引き止めなかったかもしれないな〜」

唯「がーん!ひどいよりっちゃん!」


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澪「でも、梓は新歓ライブでの私たちの演奏を聴いて、入部を決めたわけだから…」

澪「同級生だったらここにに来るきっかけもなくて、ジャズ研に行ってたかも」

紬「それだとやっぱりけいおん部は3人だったってことになるね」

律「じゃあ結局うちに唯は必要だったってわけか」

唯「ふふーん、やっぱりけいおん部はわたしがいないと始まらないんだね!」

律「はーいはい」

唯「あしらわれた…」

律「でー?」

唯「ほぇ?」

律「いきなりどーしたんだよ、梓が同級生だったら?なんて」

唯「ふふふ〜、それがわたくしおもしろーいこと思いついちゃいまして〜」

紬「おもしろーいこと?」

唯「この1週間、あずにゃんには同級生になってもらおうと思います!」

   ~~~

梓「こんにちは〜」ガチャッ

唯「待ってたよあずにゃーん!」トタトタ

梓「わっ!どうしたんですか唯先輩…」

唯「敬語禁止!先輩禁止!」ビシッ

梓「…は?」

唯「あずにゃんは今日からわたしたちの同級生なんだよ!」

梓「は、はぁ…」

梓「…って、なんなんですかそれ!」

唯「だから敬語禁止だってば〜」

唯「あずにゃんにはね、今日から1週間、わたしたちの同級生として振舞って欲しいんだ〜」

唯「もちろんわたしたちもあずにゃんが同級生だと思って接するから!」

梓「い、いきなりそんなこと言われても…」

律「まぁまぁ、おもしろそうだしさ、ちょっとやってみようぜ」

澪「まったく…唯の思いつきにはいつも振り回されっぱなしだな」

紬「ふふ、唯ちゃんらしい発想でいいじゃない」

梓(先輩方も乗り気だ…)

梓(でもいきなりなんで…)

梓(はっ!!ま、まさか…!)

唯「どうしたの?あずにゃん」

梓(もしかして…先輩方…!)

梓(留年が決まっちゃったんじゃ!?)ガビーン

梓(それで、今のうちから私と同級生という状況に慣れておこうとしてこんなことを…)

梓(どうして?もしかして、1年生の頃から音楽室を占領してお茶してたのが、今になって問題になったの?)

唯「あずにゃーん?」ヒラヒラ

梓「へっ?あっはい!」

唯「どうしたの、ボーッとしちゃって」

梓「い、いえ…」

梓(うう…単刀直入には聞き辛いし…)

梓(こうなったら、とりあえず唯先輩の言うとおりにして、様子を探ろう)

梓「…わかりました。じゃあこれから1週間、みなさんの同級生になります」

唯「ほんと!?やった〜!」ダキッ

梓「うわっぷ!唯先輩!いきなり抱きつかないでください!」

唯「敬語禁止!先輩禁止!」

   ~~~

唯「まず呼び方からだよ!」

唯「当然だけど、なになに先輩は禁止ね。さん付けもよそよそしいから禁止」

唯「あとはなんでも、あずにゃんの好きなように呼んでくれていいよぉ」

梓「ええ…?」

唯「まずわたしから!」

梓「うーん…」

唯「ふふふ〜、なんでも好きなように呼んでごら〜ん?」ワクワク

梓「えと…」モジモジ

唯「ほらほら〜うつむいてないでさぁ〜」ワクワク

梓「…」モジモジ

梓「じゃ、じゃあ…」モジモジ

梓「ゆ…唯…」

唯(くはぁ…っ!か、かわええ…!)ズキューン!

唯(澪ちゃんに初めて『唯』って呼ばれたときのことを思い出すよ…!)

紬「恥じらいながら名前を呼ぶ梓ちゃん…実にいいわぁ」ウットリ

唯「次、澪ちゃん!」

澪「ええっ?私か?」

梓「えと…どうしよう…」

梓「…やっぱり…澪、かな」

澪「…なんか、照れくさいな///」

唯「ん〜、さっきから普通だね」

梓「ほ、他に呼び方ないでしょ!」

澪(あ、今敬語じゃなかった)

紬「私は?私は?」

梓「じゃあ…紬…じゃ、なんだか普通だし…」

梓「それなら…ムギちゃん、とか」

紬「まぁ…」

唯「あー!ムギちゃんだけズルいよ『ちゃん』付けされて!いいないいなー」パタパタ

紬「梓ちゃんありがとう!私、すごく嬉しいわ!」キラキラ

梓「あはは…」

律「じゃあ最後あたしなー!」

律「梓ちゅわんは部長であるあたしのことをなぁんて呼んでくれるのかしらー?」

梓「むっ…」

梓「そうだなぁ〜…じゃあ」

梓「…バカ律」ボソッ

律「」

唯澪「ぷっ!」

紬「あらあら」

律「なななな…」

律「中野〜!」ギューッ

梓「あはは、ごめんなさい!冗談です!」

唯「あーっあずにゃんダメダメ!今のは『ごめん、冗談だよ』って言わないと!」

梓「あ…ごめん、その…唯」

唯(うはぁっ上目遣いでの『唯』…やっぱりかわええ…!)キュンッ

澪「じゃあ私は澪、唯は唯、ムギはムギちゃん、律はバカ律ってことか」

律「うぉい!」

梓「いやいや、ちゃんと…律って呼ぶよ、律」

律「…なんかあたしにはあまり違和感なくタメ口使ってるな」

梓「いや、もちろん違和感は、その、あるけどさ…、なんだか他の先輩たちと比べたら、タメ口に抵抗がないんだよね」

澪「まぁ律や唯より梓の方が先輩らしいしな」

律「なにぃ〜?」

唯「がーん!わたしまで!?」

梓「いやっ、別に低く見てるとかそういうわけじゃなくてっ」アタフタ

梓「律せん…、おほん、律はこう、あっけらかんとしてる分、親しみやすい雰囲気があるというか…」

梓「も、もちろん先輩としても部長としても尊敬してるよ!」

梓「けど、まぁ…そういうこと、うん」

律「ほ、ほぉん?まぁそう言われたら悪い気はしないな…」

唯「わたしはどう?あずにゃん」

梓「唯も…、そう、だな~…あっ、う、憂相手だと思って接すればそこまで違和感はないかな…?」

唯「ほむほむ、憂相手と思ってねぇ…なるほどぉ」

紬「私はどうかなぁ、梓ちゃん?」

梓「ムギちゃんは…どうだろう、難しいけど…」

梓「でも、頑張るよ」

梓「頑張るって表現が正しいのかはわからないけど…」

律「じゃあ澪はどうなんだー?」

梓「それは、えと…」

ガチャッ

さわ子「ちょりーっす」

律「お、さわちゃん」

さわ子「ムギちゃーん、私にも紅茶入れてもらえるかしら」

紬「はいただいま〜」

さわ子「で、あなたたち。顔突き合わせて一体なんの相談してたのよ」

唯「ふっふっふ、あずにゃんと同級生になろうっていう話し合いだよ!」

さわ子「…なにそれ、あなたたちまさか留年するつもりなの?」

梓「…」ピクッ

唯「違うよぉ、私たちとあずにゃんが1週間、同級生として過ごしてみたら楽しいんじゃないかな〜って」

律「っていう唯の思いつきだよ」

さわ子「ふ〜んなるほど?まぁいいんじゃない?」

さわ子「社会に出てみれば多少の歳の差なんて気にならないけど、学生時代って、たった1歳の差がとても大きなものに感じるでしょ?」

さわ子「あえてそれを崩してみるのはおもしろいんじゃないかしら」

唯「さすがさわちゃん!話がわかるね〜!」

律「あ、そーだ。さわちゃんも参加してみる?」

唯「お~、それもおもしろそうだねぇ」

さわ子「結っ構です」

唯「え〜、おもしろそうなのにぃ」

さわ子「あのねぇ、忘れてるかもしれないけど私は教師なの」

さわ子「生徒たちに対して最低限の威厳は示さないと…」

澪「でもよく考えたら、唯と律はもう先生のこと『さわちゃん』って呼んでるような…」

さわ子「」

梓「それどころか今もすでにタメ口使ってますよね…」

さわ子「」

律「あ、ほんとだ」

唯「そういえばそうだね〜」

律「修学旅行でもあたしらに散々愚痴った挙句、違和感なく同じ部屋で寝てたしな〜」

唯「さわちゃんとわたしたちの間にはすでに壁なんてないね!」

さわ子(私の教師としての威厳はいずこへ…)

紬「あ、あの、先生?紅茶入りました…」

さわ子「…ありがとう」

グイッゴクッゴクッゴクッ!

さわ子「っぷはぁ…ムギちゃん、おかわり!」バッ

紬「は、はい」

梓「ヤケ紅茶だ…」

ここで一旦終了します。

再開します

唯「結局さわちゃん、お茶とケーキだけ食べてさっさと帰っちゃったね」

律「今さらあたしらに対して威厳がどうとか気にしなくてもいいのにな〜」

梓「…」

梓(いきなり先輩たちと同級生だなんて…違和感ありまくりだよ)

梓(でもさっきの先生とのやり取りを聞いてたら、留年が決まったってわけじゃないのかな…)

梓(でも、留年が理由じゃないとしたら、なんでこんなこと…)

梓(そもそも『同級生』ってどういうこと?私が3年生になるってこと?それとも先輩たちが2年生になるの?)

梓(ああ…わかんなくなってきた)

律「よし、じゃあとりあえず練習すっか」

澪「珍しいな、律から練習って言葉が出るなんて」

律「ん〜、まぁ同級生の梓ちゃんが早く練習したいんじゃないかって思ってさ〜」

梓「…」

律「…梓?」

梓「えっ?あっごめんなさい!」

唯「ぶっぶー!ダメだよあずにゃん、ごめん『なさい』は敬語だよ!」ビシッ

梓「あ…そうだった」

澪「厳しいな…」

律「で、どーしたんだよ梓、ボーッとしちゃってさ。梓の大好きな練習するぞ?」

梓「う、うんわかった、今準備しま」

紬「はいっアウト!」ビシッ

梓「ひっ!」

律「反応はやっ!」

紬「梓ちゃん、今『準備します』って言おうとしたでしょ」

梓「う、うん…すみませ」

唯「『すみません』も敬語だよっあずにゃん!」ビシッ

梓「わっ!」

唯「そういうときは『ごめん』だけでいいんだよぉ」

梓「うん…ご、ごめん」

唯「も〜あずにゃんったらぁ、最初からこんなことじゃ先が思いやられますなぁ」

梓(なんか…部室に来てまだお茶飲んだだけなのに、ものすごく疲れたよ…)

澪「まぁ始めたばかりだし、梓も戸惑うかもしれないけど、気楽にやればいいからさ」

梓「はい…」

紬唯律「『はい』も敬語っ!」ビシッ

梓「ひええ!」ビクッ

【夜・平沢家居間】

唯「むふふ〜ん♪」

憂「ご機嫌だね、お姉ちゃん」

唯「あっ、憂〜」

憂「なにかいいことでもあったの?」

唯「今けいおん部でおもしろいことやっててね〜」

憂「おもしろいこと?」

唯「うんっ!あずにゃんとわたしたちは今週、同級生なんだよ!」

憂「同級生…?」

唯「そう!少しの間、あずにゃんにはわたしたちとタメ口で話してもらって、あずにゃんの好きな呼び方で呼んでもらうんだ〜」

憂「へぇ〜、楽しそうだね!」

唯「でしょ〜?」ニヘラ

唯「でも今日はまだあずにゃん慣れてないみたいで、しょっちゅう敬語が出たり、先輩って呼んじゃってね」

唯「敬語も先輩も禁止したのになぁ」

憂「それは仕方ないよ、梓ちゃん真面目だもん」

憂「きっと、お姉ちゃんや先輩たちといきなりタメ口で話すのは、抵抗があるんじゃないかなぁ」

唯「う〜ん、気にしなくてもいいのにぃ」

憂「まぁまぁ。それだけお姉ちゃんや軽音部のみなさんのことを尊敬してるってことだと思うよ?」

唯「…そう、なのかなぁ」テヘヘ

憂「うん、きっとそうだよ」

憂「そろそろごはんできるから、手を洗ってきて」

唯「はぁ〜い」

【翌朝・2年1組教室】

憂「梓ちゃん、おはよう」

梓「おはよう憂」

憂「お姉ちゃんから聞いたよ、今軽音部でやってること」

梓「ああ、聞いたんだ…」

憂「楽しそうだよね〜♪」

梓「ははは…」

憂「…元気ないね」

梓「きっとまた唯先輩の思いつきなんだろうね」

憂「そうみたいだね」

梓「うーん…」

梓「いざタメ口とか、下の名前で呼び捨てって考えると、どうしても抵抗があってさ…逆に気を遣っちゃうんだよね」

憂「梓ちゃん、真面目だもんね」

梓「はは、そんなことないけど…」

梓「…はぁ」

憂「なんだか大変そうだね…」

梓「…」

憂「でもさ、きっとお姉ちゃんたちにもなにか考えがあって、こういうことしてるんじゃないかな〜って思うんだ」

梓「考え…?」

憂「うん。だから、騙されたと思って、それに乗ってみたらどうかなぁ」

梓(…考え、か)


〜〜〜〜〜〜〜〜


デフォルメ唯『あずにゃんと同級生!おもしろそうじゃない!?』

デフォルメ律澪紬『おもしろそ〜!』

一同『あははは〜』


〜〜〜〜〜〜〜〜


梓「ほんとに、あるのかな…」

梓(単なる思いつきな気が…)

憂「ふふ、まぁただの思いつきかもしれないけど…でも、こんな機会今しかないよ?」

梓「そうだけど…」

憂「とりあえず、私や純ちゃんに接すると思って。気軽に楽しんでみればいいんじゃない?」

梓「…まぁ、頑張ってみるよ」

憂「うんっ!」

梓「あ…そうだ、憂」

憂「なぁに?」

梓「唯先輩ってさ、もしかして…」

梓(留年が決まったとか…)

梓「…」

憂「どうしたの、梓ちゃん?」

梓「…ううん、なんでもないや」

憂「?」

ここで一旦終わります。


>>25
梓脳内でも澪は違う気がする
(最終的には乗せられるけど)

再開します

>>29
お留守番!で、デフォルメされた唯や澪が「楽しすぎてお土産忘れちゃった~」「ごめんな梓~」と謝る梓の想像が出てくるので、澪にも少なからずそんなイメージがあるんじゃないかと

【部室】

梓「こんにちは」ガチャッ

澪「お、梓か。お疲れ」

梓「澪先輩…、お疲れ様です」

澪「おいおい、先輩はよしてくれよ。今週は同級生だろ?」

梓「あ…そうだったね」

梓「えっと…他のみんなは?」

澪「みんなは日直とか掃除当番とか用事があってさ、ちょっと遅れてくるよ」

梓「そうなんだ…」

梓「…」

澪「…」フッ

澪「どう梓?1週間、同級生ってことでやっていけそう?」

梓「えっ?ああ…、えっと」

梓「いきなり先輩方と同級生って言われても…」

梓「ちょっとまだ、慣れない、かな…」

澪「ふふっ、まぁそうだろうな」

梓「…」

梓「…前にも一度、こんなことあったよね」

澪「?」

梓「私が軽音部に入ったばかりの頃」

梓「最初はここののんびりした雰囲気になかなか慣れなくて…私、いっそ部活を辞めて、外バンに入ろうかとか悩んでて」

梓「そんなときに、浮かれてた他のみんなと違って澪せんぱ…、じゃなくて、澪だけは気にかけて、今みたいに声かけてくれたよね」

澪「…そうだったっけ」

梓「うん。だから私、澪…先輩には、その、一番タメ口が使いづらい、です…」

梓「もちろん他の先輩方も尊敬してますけど、入部したばかりの私の不安を唯一わかってくれた人ですし」

梓「先輩らしさという意味で、一番頼りにしてる先輩ですから…」

澪「…なんか、改まってそう言われると照れるな」

梓「ごめんなさい…」

澪「…まぁ確かに梓の立場としては、急に私たちにタメ口なんて難しいかもしれないけどさ」

澪「今回のことを、いい機会だって考えてみないか?」

梓「いい機会?」

澪「私たち、今までずーっと先輩と後輩の立場として付き合ってきただろ?」

梓「はい」

澪「だからさ、お互いをその視点からしか見てこられなかったんじゃないかって感じるんだ」

梓「…?」

澪「つまり、私たちは先輩の視点からしか梓を見たことがないし、梓も後輩の視点からしか私たちを見たことがないってこと」

梓「ああ…なるほど」

澪「だからさ、お互いに同級生っていう風に視点を変えてみれば、普段は見えなかったものも見つかるんじゃないかって思うんだよ」

梓「そういうものなのかな…」

澪「現に私は、改めて梓に頼りにしてるなんて言われて嬉しかったしさ」

梓「…///」

澪「それも、こういう機会があったからこそ聞けたわけだろ?」

梓「…そう、かも」

澪「だから梓、もうちょっとこの状況を楽しんでみてもいいんじゃないか?」

澪「私たちが好きでやってるんだから、タメ口は失礼だとか気にしなくていいしさ。色々おもしろいものが見つかるかもしれないぞ」

梓(普段見えなかったもの、か…)

梓「…わかった。澪、私やってみるよ」

澪「ふふっ、それでこそ梓だよ」

ガチャッ

律「わりー澪、待たせて…って、梓も来てたのか」

唯「あずにゃーん♪昨日ぶり〜」トタトタ

梓「二人とも、遅いよ!」

唯「なんとっ!」ビクッ

律「梓がナチュラルなタメ口を…」

梓「何言ってるの?私たち、同級生なんでしょ?」

梓「ほら、ムギちゃんが来てないからまだお茶はできないよ。それまで練習しよ?」

澪「…ふふっ」

澪「そうだぞ、梓の言うとおり、たまには先に練習を…?」

唯「…!」プルプル

澪「唯…?」

梓「…どうしたの?」

唯「…あずにゃーん!」ダキッ

梓「うわっちょっと…、唯、いきなり抱きつくのはやめてってば!」

唯(恥ずかしがらずに普通に唯って呼んでくれたよ…!)

唯「ふふ〜、ありがとね、あずにゃん♪」スリスリ

梓「まったく、もう…」

澪「同級生になってもこの関係は変わらず、か」

律「…で、なんでムギは扉の陰からこっそりうっとりしてるんだ」

紬「先輩後輩の関係を取り払った唯ちゃんと梓ちゃんのやり取り…新しいわ…」ウットリ

唯「あっムギちゃん!」

唯「ムギちゃんも来たことだし、先にお茶してもいいよね〜」

梓「ダメだよ、今日は絶対先に練習するんだから!」

唯「え〜、あずにゃんのケチケチ」

梓「なんと言われようとこれだけは譲れないもんね!」

   ~~~

唯「結局先に練習することになりました」

律「先輩の立場を使えなくなった唯が梓に勝てるわけないもんな」

唯「無念…」ガックリ

唯「あずにゃ〜ん、練習のあとはゼッタイお茶の時間にしようねぇ、ゼッタイだよぉ?」シクシク

梓「はいはい、きちんと練習頑張ったらね?」ナデナデ

唯「うん…頑張る」グスッ

澪「なんだか同級生っていうより…」

律「梓が先輩で、唯が後輩みたいになってるな…」

紬「それはそれでいいわねぇ♪」

律「ムギはさっきから何を言ってるんだ…?」

梓「それじゃ!気合入れていくよ!」

唯律澪紬「おー!」



♪〜〜〜演奏中〜〜〜♪


ジャカジャーン♪


律「…なんというか」

紬「すごく、一体感のある演奏だったね」

澪「唯と梓のギターの絡みも、いつもよりずっと滑らかだったよ」

唯「えへへ、そうかなぁ」

梓「私もすっごく良かったと思う、けどなんでだろう…」

澪「推測だけど…」

澪「梓のことだから、いつもは演奏中も先輩を立てないとって、無意識のうちに控えめに弾いてたのかもしれないな」

紬「今の演奏では同級生として弾けたから、いつもよりもっと自由に演奏できたっていうことかしら」

梓「うーん…今まで特に気にしたことはなかったけど…そうなのかな」

律「まぁ唯がリードギターで梓がリズムギター担当してるのも、元はといえば梓が唯を立ててくれたおかげだしな」

唯「そ、そんなことないよぉ!?ちゃんとわたしにだって実力あるもん!」

梓「そ、そうだよ!唯はすっごく才能あるよ!」

唯「あずにゃん…」

澪「同級生でもきちんと唯を立ててるな…」

梓「だから唯、もっとまじめに練習すれば、きっともっと上手になるよ」

唯「そ、そうかなぁ…よ~し!練習や~るぞ~!」フンスッ

梓「うんうん、その意気だよ!」

律「そしてうまいこと唯を手なずけてるな…」

   ~~~

澪「今日はなかなか実のある練習ができたな」

律「確かに、久々に練習したー!って日だったな〜」

梓「毎日こうだったらいいんだけどね…」

唯「えんしゅうおあおのケーヒおあうえうらねぇ〜」モグモグ

律「飲み込んでから喋ろうな、唯」

澪「今なんて言ったんだ…」

梓「練習の後のケーキも…?続きがわからないけど…」

唯「ごくん…、惜しいあずにゃん!練習の後のケーキも格別だねぇ、って言ったんだよ!」

澪「梓よくわかったな…」

律「さすが恋女房」

梓「ば、ばかっ!そんなんじゃないもん!」

澪「梓、遠慮なくバカ律って呼んでいいんだぞ」

律「うぉーい!」

梓「…バカ律」

律「お前も容赦ねぇな!」

紬「ふふふ、この感じ…新鮮でいいわね〜」ニコニコ

唯「ほんとだねぇ、いつもより賑やかな気がするよぉ」ニコニコ

梓「あ…唯、ほっぺにケーキ付いてるよ?」

唯「え?ほんと?あずにゃん拭いて〜」

梓「自分で拭きなよ…子どもじゃないんだから」

唯「え〜いいじゃん、練習頑張ったんだからさぁ」

梓「意味わからないし…もう、仕方ないなぁ」フキフキ

唯「んぐんぐ…ありがと〜あずにゃん」

澪「やっぱり…」

律「梓先輩と、後輩の唯だな…」

紬「いい光景だわぁ…」ニコニコ

【帰り道】

唯「じゃあまた明日ね〜」

澪「うん、また明日」

律「じゃあな恋女房、帰り道もきちんと唯の面倒見てやれよ〜」

梓「もうっ、だから違うってば!」

律「あれー?誰も梓ちゃんが恋女房だなんて言ってないぞー?」

梓「ううう…バカ律ー!」

律「へへっ、じゃなー、気をつけて帰れよ〜」

紬「今日は新鮮な光景ばかりだわぁ」ニコニコ

テクテク…

唯「うふふ〜、今日は楽しかったねぇ♪」

紬「ほんとに。昨日から眼福シーンの連続で目が疲れちゃったわ…」

梓「眼福…?」

唯「がんぷく?」

梓「そんなシーンあったかな…」

紬「うん♪それはもうたくさんね♪」

梓(相変わらずムギ先輩の感覚はわからない…)

唯「ねぇムギちゃ〜ん、がんぷくってどういう意味〜?」

唯「目に優しいって意味よ〜」

唯「目に優しいのに目が疲れちゃうの?変なの〜」

ピリリリリ…ピリリリリ…

唯「ほ」

唯「誰からだろう…」ゴソゴソ

唯「あ、憂からだ〜」

唯「もしもし憂〜?うん、今ねぇ、あずにゃんとムギちゃんと帰ってるとこ〜。どーしたの?」

唯「ふむふむ…、え〜っ、それは大変だぁ!」

梓「えっ?」

紬「何かあったのかしら…」

唯「うん…うん、わかったよ、じゃあね憂、また後でね」

ピッ

紬「唯ちゃん…、何かあったの?」

唯「うん、それがね…、緊急事態なんだ」

梓「緊急事態?」

唯「うん。実はうちの今日の晩ごはんはお刺身だったんだけどね」

唯「おしょうゆ切らしてたんだって…」

梓「なるほど、それは大変…って、はい?」

紬「そ、それは緊急事態ね…」

梓「いやいや、唯もムギちゃんも大げさだよ…」

唯「全然大げさじゃないよ!?お刺身におしょうゆがないんだよ!?緊急事態だよ!」

梓「いや、しょうゆがなければポン酢でいいんじゃ…」

唯「ちがぁう!ポン酢なんかじゃ代わりにならないよ!?酸っぱいじゃん!」

梓「はぁ…」

唯「ということで、わたし大至急スーパーに寄っておしょうゆ買って帰らなきゃいけないから!じゃあねあずにゃん、ムギちゃん!」

梓「う、うん、また明日…」

紬「じゃあね、唯ちゃん」

唯「おしょうゆ、おしょうゆ、おしょうゆ〜♪」トタトタ

唯「ポン酢じゃダメだよしょうゆだよ〜♪ソースも違うよしょうゆだよ〜♪」トタトタ

梓「行っちゃった…」

紬「…帰ろっか、梓ちゃん」

梓「はい…じゃなかった、うん」

テクテク…

紬「梓ちゃん、昨日と今日とで随分と雰囲気が変わったよね。何かあったの?」

梓「う、うん…正直、今日まで気が進まなかったんだけど、憂や澪が背中を押してくれてね」

梓「こういう状況を楽しんでみてもいいんじゃないかなって思ったんだ」

紬「ふふっ、そうなんだ」

紬「梓ちゃんのその素直に人の言葉を聞き入れられるところ、素敵だと思うな」

梓「え…うーん…」

梓「それって、本当にいいところなのかな…」

紬「どうして?」

梓「それって、言い換えれば人の言葉に流されやすいってことじゃ…」

梓「部活でだって、いつも練習しようって言いながら、結局はみんなとお茶しちゃってるし…」

紬「でも梓ちゃん、本当に必要なところでは自分を曲げてないよ?」

紬「去年、唯ちゃんが学園祭の直前に風邪引いちゃったときのこと、覚えてる?」

梓「はい」

紬「あのときだって梓ちゃん、リードギターの練習もしながら、誰よりも5人でするライブにこだわったじゃない」

紬「素直に人の言うことを受け入れながら、大事なときには自分の意見を通そうとしてる」

紬「そうやってきちんとメリハリをつけてるからこそ、それぞれがいい部分として目立つんだと思うな」

紬「謙虚なのもいいけど、自分にもっと自信を持ってもいいと思う」

梓「…あ、ありがとうございます」

紬「ふふっ、素直でよろしい」ニッコリ

紬「だけど、敬語はダメよ」

梓「あ、そうだったね…ごめん」

紬「そういえば、梓ちゃん」

梓「なに、ムギちゃん?」

紬「昨日から気になってたんだけどね」

紬「どうして私だけ、『ムギちゃん』なの?」

梓「え?」

紬「唯ちゃんは唯、りっちゃんは律、澪ちゃんは澪でしょ?私だけ『ちゃん』が付いてるのは、どうしてなの?」

梓「あ…ごめん」

紬「いや、それが嫌とかいうんじゃなくてね?むしろ嬉しいんだけど」

紬「でも、私だけ呼び方が違うのはなんでかなって気になっちゃって」

梓「うーん…特に深い意味はないんだけどね」

梓「ムギちゃんは、おっとりしてて、美人で、気配り上手で、いつも優しい人だなぁって思ってたんだけど」

紬「まぁ…照れちゃうわ」

梓「でもね。好奇心旺盛で、なんていうのかな…、いい意味でズレてるところが、子どもっぽいっていうか、可愛い人だなって思っててね」

紬「子どもっぽい…?」

梓「えっ?ああっごめん!別に悪い意味で言ったわけじゃなくて…!」アタフタ

紬「嬉しい!」

梓「へっ?」

紬「私、今まで大人っぽいとか落ち着いてるとか言われたことはあるんだけど、子どもっぽいって言われたのは初めて!」

梓「そ、そうなんだ…」

紬「ありがとう梓ちゃん、私を子どもっぽいって言ってくれた人は梓ちゃんが初めてよ」

梓「はぁ…」

紬「あ…もう駅まで着いちゃったね。じゃあまた明日。梓ちゃん」

梓「うん。気をつけてね、ムギちゃん」

テクテク…

紬「梓ちゃん!」

梓「…?」クルッ

紬「今日はありがとう!また明日ねー!」ブンブン

梓「…」クスッ

梓「こちらこそー!また明日ー!」ブンブン

テクテク…

梓(子どもっぽいって言われただけで、あんなに喜ぶなんて…)

梓(やっぱりムギ先輩の感覚はわからないや)クスッ

とりあえずここまでで一旦終わります。次で最後かもしれません。

諸事情で遅くなりました。再開します。

【3日後・学校の廊下】

テクテク…

梓(今日が先輩たちと同級生でいる最後の日か…)

梓(なんだかんだ、昨日まで楽しかったなぁ)

梓(先輩たちと、これまでよりもっと仲良くなれた気がする)

梓(唯先輩の思いつきの賜物ってところが、ちょっぴり悔しいけど)

梓(でも…、結局深い考えがあったわけじゃなさそうなんだよね)

梓(留年したときの予行演習ってこともなさそうだし…)

梓(憂はなにか考えがあるんじゃないかって言ってたけど、やっぱり単なる思いつきだったのかな)

「だーれだ?」パッ

梓「律」

律「即答かよっ!」

梓「当たり前じゃん」

律「ぐぬぬ…手強いやつめ」

梓「もう…、子どもじゃないんだから」

律「まだまだ学生だし。未成年だし。子どもだし!」

梓「大人になろうよ…」

梓「まったく…もうちょっと部長らしくしてよね。大事な書類はしょっちゅう出し忘れるし、なかなか練習しないで私や澪に怒られるし…」

律「だって〜」

梓「だってじゃありません」

律「…」

律「…梓ってさ、やっぱなんとなく澪に雰囲気似てるよな〜」

梓「え?」

律「しっかりしてて生真面目な性格とか、澪ほどじゃないけど恥ずかしがり屋なとことか」

律「サイズの方は遠く及ばないけどな」マジマジ

梓「なっ…、律には言われたくないよ!」バッ

律「あれれ〜?あたしは身長のことを言っただけだぞー?」

梓「今回も胸見てたじゃん!」

律「それは梓くん自身が胸のことを気にしているからそう感じてしまったのではないのかね~?」

梓「ば…、バカ律〜!」

律「へへ、からかい甲斐があるとことかも、やっぱり似てるよな」

梓「はぁ…部室に行く前に疲れちゃったよ」

律「ふむ…まぁ時間稼ぎは成功したし、そろそろ部室に行くか」

梓「時間稼ぎ?」

律「ふっふっふ、今頃ムギが部室でティータイムの準備を完了させているはず」

梓「なっ!?」

律「ここ数日、先に練習してからティータイムの流れだったからな〜。ここらで悪しき風習は断ち切らねばならんのだ」

梓「いやいやいや」

梓「のんびりティータイム過ごして、練習の時間が短くなっちゃうことの方がよっぽど悪しき風習だよ!」

律「ほ〜う?のんびりティータイムを過ごすのが悪しき風習とな?」

梓「もちろん!」

律「じゃあ梓は来年、その悪しき風習をなくしちゃうのか?」

梓「へっ?」

梓「そ、それは…」

律「どーなんだ〜?」ニヤニヤ

梓「えっと、その…」

梓「…」

梓「わ、わからないよ…」

律「わからない…って?」

梓「来年は…、美味しい紅茶を淹れてくれてたムギちゃんも」

梓「ティータイムを盛り上げてくれてた律も、和ませてくれてた唯も」

梓「キリのいいところで練習を宣言してくれてた澪も、みんないなくなっちゃう」

梓「もし、新しく部員が入っても、きっと今みたいにティータイムは続けられないよ」

梓「でも…ティータイムをなくしちゃったら、放課後ティータイムもなくなっちゃう気がして…」

梓「だから、どうすればいいのか…」

律「ふぅ〜む、なるほどねぇ…」

律「ま、いいんじゃねーの?ティータイムが続けられないって言うんならそれでも」

梓「え…?でも、ティータイムがないと放課後ティータイムは…」

律「おいおい、勘違いすんなって」

律「別に来年ティータイムがなくなったからって、放課後ティータイムがあったって事実まで消えるわけじゃないだろ?」

梓「それは、そうだけど…」

律「部活ってさ、結局そのときにいる部員の為にあるもんだと思うんだよな」

律「さわちゃんがいた頃の軽音部なんてヘヴィメタだぜ?今その頃の雰囲気がかけらでも残ってるか?」

梓「それは…残ってない、けど…」

律「だろ〜?だからさ、あたしらが卒業した後も、あたしらの為にって理由でティータイムを残すってのは間違ってるよ」

律「来年も、ティータイムが必要だと思ったら残す。いーや必要ない、と思ったらスパッと無くす!」

律「ま、梓や他の部員のしたいようにすればいいと思うぞ」

梓「…うん」

梓「律…先輩ってやっぱり、なんだかんだで、部長らしいですね」

律「おいおいどうしたんだよ〜、急に。気持ち悪いな」

律「って、今日まで同級生だろ?まだ敬語に戻すには早いぞ」

梓「えへへ…ごめんごめん」

律「じゃ、部室行くか」

梓「うん!」

テクテクテク

梓「でも、唯には感謝しないと」

律「なんで?」

梓「唯の思いつきのおかげで、見えなかったことも見えたし、いつもは言えなかったことも言えたしさ」

律「はは、そっか」

梓「最初はもしかしてみんなの留年が決まって、その為の予行演習してるんじゃないかって思ったんだけど…」

律「おい」

梓「あはは、ごめんね」

律「ったくー、そこまで出来悪くないっつーの」

梓「まぁ…、唯自身はただの遊びのつもりだったんだろうけどさ」

律「…そんなことないぞ、梓」

梓「え?」

律「あ…いや」

梓「どういうこと?」

律「うーん…」

律「あたしが言っちゃってもいいのかな…」

梓「なんなの?なにかあるなら教えてよ」

律「…ま、いっか。実はな…」

【回想・初日】

律「でー?」

唯「ほぇ?」

律「いきなりどーしたんだよ、梓が同級生だったら?なんて」

唯「ふふふ〜、それがわたくしおもしろーいこと思いついちゃいまして〜」

紬「おもしろーいこと?」

唯「この1週間、あずにゃんには同級生になってもらおうと思います!」

律「…はい?」

澪「またくだらないことを…」

唯「むっ」

唯「くだらなくなんかないよっ」

澪「えっ?」

紬「ど、どうしたの?唯ちゃん」

唯「あっ…ご、ごめんね、つい」

唯「…えっとね」

唯「あずにゃんさ、けいおん部ではずっと同級生がいないままやってきたでしょ?」

唯「後輩はトンちゃんがいるけどさ」

トンちゃん「…」スーイスイ

唯「来年、新入部員が入ってくれるかはわからないけど…いや!きっと入る!…とは思うけど」

唯「でも、来年後輩はできても、同級生の部員はいないままかもしれないでしょ?」

律「まぁ…もしかしたらなぁ」

唯「わたしは1年生のときから、りっちゃんや澪ちゃん、ムギちゃんに囲まれて過ごしてきたから、あずにゃんの気持ちはわからないけど…」

唯「やっぱり、同級生同士でワイワイする部活も経験してほしいんだ」

唯「けいおん部にあずにゃんの同級生がいないのは、先輩のわたしたちが不甲斐なかったからだと思うし…」

唯「だから少しの間だけでも、あずにゃんに同級生のいる部活を体験させてあげたいんだよ!」

律「唯…」

紬「わたしは…すごく素敵な思いつきだと思うわ、唯ちゃん」

唯「えへへ、そうかな」

澪「…まぁ、先輩後輩の垣根をなくして付き合ってみるのも、おもしろいかもしれないな」

律「よーし、そうと決まれば!早速今日の部活から実行しようぜ!」

唯紬澪「おー!」

【回想終了】

律「…ってことがあったんだよ」

梓「…唯、先輩が…」

律「唯って天然で、のんびりしてて、色々すっとぼけてるけどさ」

律「あれでいて、すっごく梓のこと考えてると思うぞ」

律「まぁ、大事にし過ぎっていうか、溺愛してるっていうか…行き過ぎだろってとこもあるけどな」

梓「…」ジワ

律「…?どうした梓、もしかして泣いてんのか?」

梓「な、泣いてなんかないもん」ゴシゴシ

梓「ただ、ちょっと、ウルっときただけで…」

律「涙もろいなぁ、梓ちゃんは」ポンポン

梓「からかわないでよ…」

律「へへ」

律「あーあ、時間稼ぎのつもりが、だいぶ時間使っちゃったな」

律「ほら梓、みんな待ってるぞ」

梓「…うん」コクリ

テクテク…

梓(澪先輩は、恥ずかしがり屋だけど、やっぱり頼りになる人で)

梓(ムギ先輩は、温かくて、子どもっぽくて、不思議な人で)

梓(律先輩は、おおざっぱに見えて、実は細かなことまでよく考えてくれてる人で)

梓(唯先輩は…)

ガチャッ

律「おっす〜、遅れました〜!」

澪「遅いぞ、律」

律「いんや〜、ちょっと梓と話し込んじゃってさ〜」

唯「も〜りっちゃん、わたしとっくにケーキ選んでたのにぃ。これじゃなまごろしだよぉ」

律「わりーって。ムギー、残ってるケーキはー?」

紬「こちらになりま〜す♪」

律「どれどれ?お〜っどれもんまそーですなぁ」

唯「…?あれ、あずにゃん?どうしてずっと入り口で立ち止まってるの?」

梓「あ、いや…」

唯「早くおいでよぉ」トタトタ

唯「も〜、まさか一人で歩けないの〜?仕方ないなぁ、わたしが手握ってあげるから〜」ギュッ

唯「おいで?」

梓「…唯先輩」

唯「んん?ダメだよあずにゃん、今日はまだ先輩禁止…」

ダキッ

唯「」

梓「…」

唯「…あ、あずにゃん!?」

澪「あ、梓の方から唯に抱きついた…?」

紬「まぁ…!」ウットリ

律「…」ニッ

唯「な、なになに?いきなりどうしたの?」アタフタ

梓「…唯先輩、ありがとうございます」

唯「え?え?」オロオロ

梓「私、みなさんの後輩になれて、本当に良かったです」

澪「梓…」

紬「うふふ」

唯「…あずにゃん…」

唯「ふふっ…よしよし」ナデナデ

唯「わたしたちも、あずにゃんみたいな後輩がいてくれて、本当に幸せだよ」

梓「…!」

紬「今週一番の眼福シーンです…」ウットリ

律「ムギは相変わらず何を言ってんだ…」

律「…それにしても」

律「なーんか結局、予定より早く先輩後輩の関係に戻っちゃったな」

澪「そうだな」

唯「あずにゃん、もういいの?同級生同士じゃなくて」

梓「…はい。私、今こうやってみなさんの後輩でいられることが、一番幸せなんだってわかりましたから」

唯「あずにゃん…」

梓「えへへ…」

律「…で、そこのおしどり夫婦。いつまでくっついてんだ?」

梓「えっ?はっ!つい!」バッ

唯「え〜っあずにゃ〜ん、もっと抱きついてくれてていいのに〜」

梓「い、いやですよ!」

唯「ほらほら~、そんなこと言わないで。もう一度わたしの胸に飛び込んでおいで?さぁ!」

梓「だからしませんって!今のはちょっとした弾みだったんですから!」

唯「もうっ!恥ずかしがり屋さんだなぁあずにゃんは~」

梓「唯先輩はもっと恥じらいを持ってください!」

律「梓さん!」ガタッ

梓「へっ?」

律「あたしというものがありながら…!ちょっとした弾みでよその女に抱きつくなんて!」

梓「はいっ!?」

唯「あ、あなた!?誰よこの女ギツネは!?」ビシッ

律「こっちのセリフよこの泥棒ネコ!」

唯「なんだってぇ!?」

梓「なんなんですかこの流れ!」

唯「あずにゃんさん!わたしとあの女ギツネ、どっちを取るの!?」

律「もちろんこのあたしに決まってるわよね!?」

梓「どこの昼ドラですか〜!」

澪「騒がしい…けど、やっぱりこの関係が一番落ち着くな」フッ

紬「そうねぇ」ニコニコ

梓「澪先輩もムギ先輩も笑ってないでやめさせてくださいよ!」

律「梓さんっ!」ズイッ

唯「あずにゃんさんっ!」ズイッ

梓「だ、誰か助けて〜!」



END

これでおしまいです。先輩後輩の関係をなくしてみて、改めてそれぞれの先輩の良さに気づいたという梓の話です。もしも5人が同級生だったら、という思いつきを唯の思いつきとして書いてみました。

【後日】

唯「もしもあずにゃんが先輩だったら!」

唯「どうなってたと思う?」

律「またかよ」

唯「違うよぉ、 今度は先輩なんだって」

律「んー、とりあえずこんな感じか」

〜〜〜

ぶちょう梓『はっはっはー!』

〜〜〜

紬「なんだか違うような…」

律「ダメ?」

澪「でも先輩が梓一人じゃ部活として成立してないんじゃ…」

唯「うぅん、そんな細かいことはいいからさ〜」

紬「まぁ来年は、まさにそういう状況になるわけだしね」

律「そこにあたしらが入るのか…」

澪「…」

〜〜〜

ヒュ~ドロドロドロ…

梓『寂しいよぉ…新入生入ってよぉ…』

ガチャッ

澪『すみませ〜ん、入部希望なんですけど…』

梓『!』ギラッ

澪『ひぃっ!」ビクッ

梓『確保ー!』ダダダッ

〜〜〜

澪「ひゃああああ!」

唯「澪ちゃん?」

澪「ミエナイキコエナイミエナイキコエナイ…」

律「またおかしな想像始めたな」

紬「でも梓ちゃんが先輩だと、部室にティーセットを持ち込んだら…」

〜〜〜

紬『お茶ですよぉ♪』

唯律澪『わーい!』

梓『…』ブルブル

唯『…あずにゃん先輩?』

梓『…こんなんじゃダメだよ〜!』ガオーッ!

澪『キレた!』

梓『きみたち、やる気が感じられないよ!』ビシィッ

梓『ティーセットは撤去!これからはビシバシ練習するからね!』

ギュッ

梓『!?』

唯『よしよし、あずにゃん先輩…』

梓『ふにゃぁ…』

梓『…って先輩を抱きしめない!あとあずにゃんって呼ばないの〜!』ガオーッ!

唯『ごめんなさ〜い!』

〜〜〜

唯律澪紬「…」

梓「こんにちは〜…ってあれ?どうしたんですかみなさん?」

唯「…あずにゃん」

梓「は、はい!」

唯「…やっぱり、あずにゃんは後輩のまんまでいいよ!それが一番だよ!」

律澪紬「うんうん」コクコク

梓「…は、はぁ」



END

これで本当におしまいです。お付き合い頂いてありがとうございました。

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