「変わったけれど、変わらない」(33)

※二次創作ではありません


それでもよければ

「――力が欲しいの?」

「は……はい」

 開けた荒れ地、周りには何もなく。展開された魔方陣の上に、怠そうに横たわるのは漆黒の翼を携える姿。
 禁忌の悪魔を召喚し、その横に正座をする1人の少女は悪魔の問い掛けに応える。

「ま、こっちも力をホイホイとあげるわけにはいかなくてね。」

「所謂『魂を悪魔に捧げる』ってやつ?それを約束すると力あげるよ?身の保証はしないけど」

 悪魔はゆっくりと語る。

「……捧げるよ」

「ふーん、なんで力を求めるのかな?」

 悪魔と言葉を交わす少女の眼は、怯えながらも強い信念が伝わる強い眼。
 少女は息を吸い、

「守る力が、欲しかった」

「仲間を、みんなを守る力が」

 聞いた悪魔は、樮笑む。

「たとえそれが、禁忌の力だとしても」

「気に入った。よし、魂を捧げちゃおうかー」

 横たわる躰を起こし、少女を見る。
 少女は、怯えない。

「――力の代償、私の魂は貴方に委ねる」

「――契約は成立した。我が力を貴様に」

 悪魔は少女に手を翳す。
 少女の周りの空気は、裂けるかの如くぶれた。強大な力を、大気が、世界が、危惧している。

(これが、魂を捧げる感覚?)

 少女は揺れる頭の中で疑問を抱えた。

 魂を捧げることは、とてつもなく苦しく、痛い。そう思い覚悟をしていた。
 だが少女が感じるのは、快楽にも似た感覚ばかり。悪魔に委ねていることなど忘れてしまいそうな快さに、少女は瞼を閉じる。

(我が力は貴様に宿った。その人に有り余る力、使うがいい)

 プツッと、操り人形の糸が切れるかのように地へ膝を落とす少女。
 沸き上がる大気も平常へと戻る。が、そこには不穏な空気が漂うままであった。

(この力で、皆を守れる)

 謎の自信に満ち溢れる少女。力を手にし、何が起こるかも知らずに。
 一瞬だがその額に、ある言葉が映った。それは――







『Wrath』

 少女は、しがない村の娘。名をセレと言った。
 セレは気の弱い娘であった。森の中で熊に襲われた時や、道に迷った時。彼女は常に人に頼りきり、護られることしできかなかった。

 ある時、悪魔との契約を交わすことで強大な力を得られるという噂を耳にする。だがそれには代償として魂を差し出さなければならない。
 あくまでも風の噂である。それに真実としても、悪魔を喚び出す方法や場所などの情報が一切無い、根も葉もない話。
 危険すぎる、禁忌の手段。それでも彼女は護られるばかりの自分に嫌気がさし情けなく思い、人を護ることのできる力を手に入れようと奮闘した。
 全く無知の魔術に手を付け、教えも乞わずに悪魔の情報を探そうとする。なんという無謀。

 だが、セレに奇跡が舞い降りたかの如く、召喚はうまくいく。
 覚えたての人払いの術式を用いて、悪魔と対面し、遂に欲しがっていたた力を手にしたのだ。

「あ、セレー!こんなところにいたんだ!」

セレ「……フェニス?」

フェニス「うん!見かけないから、どこ行ったのかなーって心配だったんだよ!」

セレ「……ごめんね、また心配かけて」

フェニス「セレが無事なら、だいじょーぶだよっ」

セレ「ところで、グレイは?」

フェニス「なんだろーね、セレのうちの近くでぼーっとしてた!」

セレ「そう」

フェニス「じゃーじゃー、はやくかえろ!」ニコッ

セレ「うん、そうだね」ニコッ

フェニス「セレ、つれてきたよー!」

セレ「ただいま」

「まあセレちゃん、何処行ってたの!」

「昼時でも帰ってこないから、心配してたんだぞ?」

セレ「ごめんなさい、お父さん。お母さん」

「無事ならいいのよお。ささ、お昼にしましょう。フェニスちゃんも一緒にね」

フェニス「ありがと、おかーさん!」

「ははは、相変わらず元気な子だ」

セレ「そうだねー」

フェニス「えへへ、そんなに誉めないでよー」テレッ

セレ「御馳走様でした!」

フェニス「セレ、ごはんおっそーい」

セレ「遅くないよ、フェニスが早食いなだけー」

フェニス「むう……早食いじゃないもん」

「うふふ、ケンカはだめよー?」

セレ「大丈夫だよ、ケンカじゃないから」

セレ「……あ、そういえばグレイは……」

「さっきご飯の時に外に見えたけど、今は何処かに行っちゃったかな?」

フェニス「グレイってば、またマイペースなんだからーっ」

フェニス「お邪魔しましたーっ!」

「あらあら、またねフェニスちゃん」

「いつでも遊びに来てくれていいんだからね」

セレ「フェニスもうちの子みたいだねー」

フェニス「えへ、なんか恥ずかしいなー」

セレ「……グレイは何処だろ?」

フェニス「この辺にはいなさそうだけd」

「私がどうかした?」

フェニス「……きゃああああああ!?」

「うわあああっ!?」ビクッ

セレ「あ、グレイ!何処にいたの?」

グレイ「いきなり驚かさないでくださいよー、フェニス」

フェニス「それはこっちのセリフ!うしろからいきなり声をかけたら誰だって驚くでしょー!」

グレイ「あっははー、ごめんなさーい」

セレ「私の方が吃驚したよ」

フェニス「それより、グレイは何処にいたの?」

グレイ「え、セレんちの横にいたけどさ」

セレ「き、気が付かなかった……」

グレイ「私を影が薄いキャラ扱いしないでもらえるかな君、無言の腹パングォレンダァスッゾオラァ」

グレイ「まあ冗談はさておき。これからはどうすっかね?」

セレ「どうしよう。特に行きたいところもないよ」

フェニス「ぶらぶらさんぽみちー!」ピョンピョン

グレイ「そうですなあ。散歩しよっか」

フェニス「僕、賛成ー!」

セレ「じゃあ散歩だね!」

グレイ「お誂え向きに彼処に森があるではないか」

フェニス「いこいこー!セレ、また迷わないようにねー?」

セレ「あ、あはは……」

期待

◆唐突な設定資料その1◆

フェニス(Fenice)

由来はフランス語で「不死鳥」を意味する単語「Fenice」(フェニーチェ)

>>14
ありがとう
そういうコメントは我々の意欲を掻き立てる

グレイ「お、キノコが沢山あるのぜ」

セレ「危ないのもあるから、食べちゃダメだよ?」フフ

フェニス「ダメだよー!」

グレイ「アッハイ」

フェニス「わかったかー!」

セレ「毒キノコ食べちゃうかもしれないからね」

グレイ「(それは)ないです」

セレ「なんで言い切れるの……」

「オイ、そこのガキ共!」

 楽しい一時を過ごしていたのも束の間。歩いていた彼女等の前に大男が現れる。
 その手には棍棒が握られている。

「げ、これはまずいですよ!」

 グレイの瞬時の判断。二人の手を取り、その場を走り去ろうと逃げる。
 しかし回り込まれてしまった。既に三人の周りには沢山の山賊が集まっている。

「逃げられると思うなよ?キッヒッヒ」

「な、なにをするの!」

 フェニスは臆さず山賊に問いかける。
 山賊は困惑の表情を浮かべたが、直ぐ様穢い笑みを浮かべる。

「オメエラの様なガキは物分かりが良くって高く売れんのよ」

「値が下がるし、おいたはしたくねえ。オメエラも痛い目見たくはないだろ」

「大人く来てもらうぜ?キッヒッヒ」

「セレ。こんなおっさん達に付き合ってる暇はない、でしょ!」

 グレイもまた山賊を前に臆してはいない。
 地面を蹴り、一人の土手っ腹へ頭突きを決め込まんとした。

「ウェヒヒ、バカが!」

 だがその華奢な体を軽く受け止める山賊。
 その隙を狙ってか、フェニスはセレの気付かぬうちに捕らえられていた。

「ぎゃー!はなせー!はな……がっ!」

 その幼い首元へと降り下ろされた手刀。一撃で気を失い、倒れ込むフェニスを見たセレは恐怖する。
 グレイもまた山賊の手により気絶させられる。

「あーあー、やられちゃった」

「大人しくしていれば痛い目に遭わずに済んだものを」

 二人を片付けた山賊達の下品な眼は、残るセレへと向けられる。

「あ……あああ……」

 恐怖で脚がすくみ、立ち上がることを拒む体。その場にぺたりと座り込んでしまう。
 また、私は誰一人守ることはできないのか。

「じゃあなあ、嬢ちゃん。悪く思うな」

「恨むなら、君を守れず憐れに散ったオナカマを恨むんだな!」

 ――ぷつっ。
 彼女の心の中の、何か大切な物が



 切れた。

「あばよぉ!」

 会話の終わりと共に、セレの頭へと降り下ろされる棍棒。
 だが、その棍棒が頭蓋骨に直撃することはなかった。

 バキィ!

「……ああ!?なんだこりゃ、碎けた……!?」

 軌道は真っ直ぐ脳天へ直撃するはずである。だがしかし、その前に棍棒が碎け散ったのだ。
 その破片は勢いを持ち八方へ飛び散る。碎けたというよりは「破裂」のような光景。

「許……さない!」

「私は……いつまでも守られる側じゃ、ない!」

 その鬼のような気迫溢れる顏を見た山賊達は、先程とはうって変わって脅え、逃げ出した。

「お、覚えてやがれー!」

◆唐突な設定資料その2◆

グレイ(Glay)

由来は英語で「転成」を意味する単語「transmigration」(トランスマイグレイション)と「(人を)葬る」を意味する「lay」(レイ)

◆唐突な設定資料その3◆

セレ(sele)

由来はスペイン語で「穏やかな」を意味する「serena」(セレナ)、ギリシャ語で「月」を意味する「selenites」(セレナイツ)、そして英語で「選択者」を意味する「selector」(セレクター)

グレイ(な、何が起こった……)

グレイ(首にトンッをやられた時は死ぬかと思ったが)

グレイ(ところがどっこい、私は死にましぇん)

グレイ(いや、そんなことはどうだっていいんですよ!)

グレイ(あ……ありのまま起こったことを話すぜ!)

グレイ(セレの頭に棍棒が降り下ろされたと思っていたら、棍棒がしめやかに爆発四散した)

グレイ(な……何を言ってるかわからねえだろうが私も何が起こったかわからなかった)

グレイ(頭がどうにかなりそうだった)

グレイ(そしてあの顔)

グレイ(怒れる類人猿だとか鬼の形相なんてチャチなもんじゃ断じてねえ)

グレイ(もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……)

グレイ(っと、取り敢えず)

グレイ(ずっと気絶してた体で目を覚まさないといけないな)

グレイ(あとはフェニスがどうなるかだが……)

フェニス「ふふ……」スヤア

グレイ(ハハッ、夢の国に出掛けてるみたいだね!)

セレ「……」

グレイ(はっ!いかんいかん)

グレイ(何とかして先にフェニスを起こさないと……)

グレイ(でもさ)

グレイ(何も物音しない中で)

グレイ(起こそうとしても)

グレイ(すぐばれるよね)

フェニス「……」スヤァ

グレイ(一体どうしろと!)

グレイ(ぐぬぬ)

セレ「グレイ」

グレイ(……ふぁ!?)

セレ「無理しなくていいよ」

グレイ「……」

セレ「最初から起きてたんでしょ」

グレイ「……はあ、セレってそんな鋭かったかな?」

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