輝子「殺し屋さん」 (15)


最近、何度も何度も同じ夢をみる

その夢の中、私は手にとても長く鋭利な鋏をもっていて、目の前には卑屈そうに笑う自分がいる

そいつの笑い方はあまりに醜く堪え難いものだ、だから私はこの笑顔を見る度に必ず思ってしまう

これはきっと殺さないといけない、そんなものなんだって

私は確かにあれだ、なんというか、キモいやつだ
それは認める、でも私はここまで凄惨に笑ったり……いや、流石に違うだろ、多分

手にもった鋏は錆び付いていて、人どころか紙さえも貫けるかはわからない代物だった
けれど、私は構わず目の前の自分の胸にそれを向ける

ゆっくり力を入れて押し込んでみると、容易く鋏は彼女の胸の中に入っていって

胸の中いっぱいに刃が入り込んだ後に彼女の表情を改めて見ても、醜悪な笑顔は変わらないままだった

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…………
……



目覚ましの音が鳴る
布団に入ったまま手探りで手を伸ばし、うるさいのを止める

今日も寝覚めは最悪だな
基本私は夜型だし、朝弱いのは仕方ないんだが、それよりも手に泥のように粘ついた感触がまだ残っていることが問題だ

私は今日も夢で私を殺した
……でも仕方ない、殺すなんて物騒だけど、夢だし

私がどうにかすることで何か結末が変わるなら努力するが、夢の中の自分は意思なんてない
勝手に刃をとって、勝手に奪うだけ


最近になってたまにこんな夢を見るようになった
自分が嫌いかと言われたら正直好きだとは言えないが、殺すまで嫌いなんてことはないって言えるのに

不快になった気分を誤魔化すように寝返りをうつ
このまま眠ってしまいたいな
あの夢を見るのは憂鬱だけど、二回連続で見ることもないだろ

幸い今日は休日だし、たまにはこういう日があったってきっと罰は当たらない
布団の中で丸くなることにする

……そういえば昨日は親友と会えてとても良い日だったな
最近彼は忙しくて、会えないことが多かったから

明日もまた、会えるといいな


…………
……



この部屋には何もない
ただ私と彼女の二人だけがお互いを向いて立っているだけ

彼女は相変わらず何処か絡みつくような笑顔で笑っていて、瞳の焦点はこちらを向いてない
その表情は私を酷く苛つかせる

手にあるのはやっぱり錆びた鋏で、衝動的に私は彼女にそれを入れたくなってしまう

ああ、また私はこの夢で彼女を殺すんだろうな
夢の終わりはいつも心の臓を貫くこと、それで私は目が覚める

でも、今回はなんだか様子がいつもと違う
ただ笑うだけの目の前の自分が、何かをぼそぼそと呟いてる

私はその低く聞き取りづらい声が耳障りで、はやく彼女を貫こうといつもより手に力を強くこめた

刃が奥深くにさしこまれて、彼女の呟きが聞こえなくなったその瞬間、彼女の口の動きを私は見てしまった

『すき』

震える唇は音を発してなかったけれど、言葉だけは紡がれていた


…………
……



「好き?」


お昼休み、ソファーでぐったり寝転んでいる親友に聞いてみた

夢の中で私が「好き」って言ったこと、自分を殺したなんて物騒だから……それは伏せといて


「夢だし、深い意味はないんじゃないか」


まぁそうだよな、自分もそう思う
ただ、よく見ていた同じ夢の中で、私が……彼女が何かを呟くのは初めてだったからちょっと気になった、それだけ



「でも」


終わりかと思った言葉を親友は続ける


「お前はそれ、誰に言ったんだ」


錆びた鋏のように鈍く鋭いものをつきつけられた気がした

そういえば私はあの夢を親友と会った日にしか見ていない、そう気付いたら何故か心臓の音がうるさく思えた


…………
……



また、私達はお互いを向いて立っている
鏡もないのに自分で自分を見るっていうのは凄く気持ち悪い

ドッペルゲンガーとかそういう話はよくあるけど……出会ったら死ぬの、なんか分かるな
少なくとも私は死にそうだ
いや、これから私が殺すんだが

けど、今日の夢はまた少し変で、前よりもずっと、色々と違っている
だって彼女が笑ってないんだ、代わりに何も感じさせない無機質な表情がこちらを見ている

それに私の手の中にはいつもの鋏は無いし、体は縛り付けられたように全く動いてくれない

ふと、目の前の私が何かを突きつけてきた
それは見慣れた茶色く錆びた鋭い鋏

――ああ、そうか、これは逆なのか
これから私が、私に殺されるのか


彼女の持つ鋏がどんどん近づいてきて、切っ先が私の胸に触れた
ズブズブとゆっくり体の中に入ってくる、柔らかく侵入してくる

怖い、怖くてたまらない
夢の中だ、だけど、それでも心臓の音がうるさい、身体中に響く低音を鳴らす

この音はなんだっけ、どこかで同じ音を聞いた

この音は……ああそうか、そうだな

心臓が止まる瞬間に私は今までずっと自分が笑っていたことに気付いた

彼を思い浮かべて口の中で「好き」と呟くと、もう何も怖くなかった


…………
……



「親友、私、親友のことが好きだぞ」

「ん、おう、急になんだ」


狭い車内の中、小さなスピーカーから音楽が流れている

事務所のお昼休みが終わって、レッスン場まで行こうと準備をしてたら親友が送ってくれると言ってくれた

レッスン場はそこまで遠くないが、短い時間でも親友と一緒にいれるのが嬉しい


「なんとなく、言っときたくて……」

「照れるな……お前の好きって言葉は無防備過ぎる」

「む、無防備って、なんだ……?」

「いや、あれだ、勿論勘違いはしないが……お前も女の子なんだ、 だからそう簡単に男に好きって言うのは……」

「ああ、そういうのか……でも、でも問題ないぞ、うん」


気付いてしまったしな、だから私は


「親友は、親友だし……これからもずっと、親友だ……」


もう殺したから、大丈夫

途中sagaが……いいか……

読んでくれてありがとうございました
駄文失礼しましたー

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