【アイマス】「「いっけぇぇぇ!! キサラギぃぃぃ!!!」」 (231)

アニマス15話の劇場予告『無尽合体キサラギ』SS
キャラ崩壊、改変等あるかもしれません

基本的に『無尽合体キサラギ』に登場するキャラクターをカタカナ表記、その他キャラを漢字表記としています

書きためはある程度してありますが、完結しておりません。ごゆるりとお付き合い下されば幸いです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1426968575

 ――どうして?

 ――どうしてお姉ちゃんは泣いてるの?

 ――どうしてそんなに悲しそうな顔をしてるの?

 辺りを見回してみれば、私達の街がメチャクチャになっている。根本から掘り起こされたみたいに倒れたビルの数々。
そこら中で火柱が上がる様子は、まるで昔マミと一緒に見た戦争映画みたいだった。

「みんなはヒナン……できたかな?」

 涙でぐしゃぐしゃになった顔に無理やり笑顔を貼り付けながら笑うお姉ちゃんはとっても辛そうで……。
横倒しになって動かないキサラギを寂しそうに撫でている。

(この……役立たず――)

 そう思わずにはいられない。誰を泣かせてると思ってんだ、アミのお姉ちゃんだぞ! そんなワガママを平気で言ってしまいそうで
思わず口を固く結んでしまう。

幾つもの傷を負って、こんなにボロボロになってまで一緒に戦ってくれたキサラギ……でも、もうオシマイなのかな?

「ねぇ、マミ」
「どうしたの?」

 そっか、私を心配してくれるんだ。ミキはいなくなっちゃった、ヒビキは何処に行ったかわかんない――こんな状況で。

「セカイ、終わっちゃうのかな?」

 お父さん、お母さん、事務所のみんな、プロデューサー……そしてマミ。そんな私の大切なみんながいなくなっちゃう。

「グスッ……そんなの、ヤダよ!!」バンッ

 涙を隠すため、思わずキサラギのコンソールを拳で叩きつける。

「そんなの、マミだってイヤに決まってんじゃん! ……でもしょ→がないよね、マミたち頑張ったよ!」

 笑わないで、そんな顔で――そんな苦しそうな顔で笑わないでよ!

「許さない……許さないよ――ハルシュタインッ!!」

 またひとつ、ビルが紅炎を吹き上げて倒壊した――

【日常 765side】

チュンッ チュンッ

アミ「っ!?」ガバッ

アミ(あ、自分のベッド……夢? えっと、今日は確かベッド上の日だよね)

 目覚めて最初に目に入る見慣れた天井の紋様。 

双海家の姉妹にはいくつかのルールがある。その一つが2段ベッドの共有ルール、一日置きに上下を入れ替えるだけの単純なものではあるが。
ベッドが軋まないようにそっと柵に手をかけて下をのぞき込むと、双子の姉は安らかな寝息を立てていた。布団を頭から被ってしまうアミとは
違い、どちらかと言うと体にかかっているモノ全てを蹴飛ばしてしまうマミは確認が容易だ。

アミ(マミはまだ起きてないか→)

アミ(えっと、まだ6時っ!? でも2度寝するにはちょっと遅いよね→)

 仕方ない――そう判断していつもよりかなり早い時間ではあるが、無理矢理に体を持ち上げることにする。この時間に2度寝なんてしてしまえ
ば、マミに叩き起こされるのは確実だ。
姉を起こさないようにそっとハシゴを降りる。その途中に自分の左腕に時計があることを思い出した。

アミ「あ、そういえば昨日フリーマーケットでお揃いの時計買ったんだった」ボソッ

 テンションが上って寝る直前まで付けていた事を思い出す。朝の覚醒していない頭はやけに大人びていて、私もまだまだ子供だな――
なんて自嘲する。

 近所の公民館で開催されたフリーマーケット、新しいイタズラの道具でもないかと散歩がてら見に行った。数あるガラクタの中から
掘り出したのは1対の腕時計、薄紫のボディに黄色いレンズが珍しかった。

マミ『へぇ→、1コ400エンなら買ってもいいんじゃないかな→?』

アミ『んっふっふ~、だよね→!』

 そんな会話をしつつ、一緒に購入したところまでは思い出した。

アミ「にしても、面白いデザインだよね→」

 牛乳をコップに移しつつ、独りごちる。

アミ「しかし、時間が分からない時計なんてなんで買ってしまったんですかな→? 衝動ってコワイね」

アミ(でも、さっきの夢……確かマミの腕にこの時計があった気がする)

アミ(それにアミの腕にも、これって偶然なのかな→)

 段々とスッキリしてきた頭で考えを巡らせるのはついさっきまで見ていた夢のこと。普段は見た夢などすぐに忘れてしまう彼女でも、何故かそ
の夢は記憶から薄れていくことはなかった。そう――まるで自分で経験したことのあるような、そんな錯覚すら覚えるリアリティ。

マミ「あれ、アミ起きてたんだ、オハヨ→」

 寝ぼけ眼を擦りながら、マミが階段を降りてきた。色違いでお揃いデザインのパジャマに最近膨らんできた胸がハッキリと浮かび上がって少し
ドキッとする。

アミ「オハヨ→、牛乳いる?」

マミ「うん、ちょ→だい」

 大きなあくびを噛み殺しながらリビングに腰を落ち着ける姉を横目に、もう1つコップを取り出して牛乳を注ぎ入れる。

アミ「ほいっ、おまたせ→」

マミ「ん、アリガト」

 受け取った牛乳を一息に飲み干すと、スイッチが入ったのかのように目が覚めたようだ。大きく伸びをすると一言。

マミ「さ→って今日も頑張りますか!」

マミ「あ、でもその前にニュースニュースっと……」ポチッ

――昨日沖縄県で発生した連続テロ事件の続報です。新生国家であるアマーミ国の総統、ハルシュタインより一連の事件に関連したと思われる
犯行声明が出されました。声明によりますと、アマーミ国は近隣国家を既に制圧し、世界侵略を開始するとのことです。また、この犯行を『太陽の
ジェラシー』と名付け……

アミ「ん? なにコレ?」

マミ「わかんないけど、これ日本で起きたことなのかな?」

 無駄に大きな液晶テレビには、倒壊したビルや火を噴く戦闘機、そんな映画みたいなシーンが映し出されている。そんな中で、意外なモノが目に
飛び込んできた。

マミ「ね→アミぃ」ツンツン

マミ「あれさぁ、ロボットかな? でっかい」

 双海アミ、なぜかその時――スッっと血の気が引くような感覚を感じた。夢の中で見たロボットではない、でも……何故か見たことがあるような気がする。

 まるでおさげのような鉄球をぶら下げた、そしてメガネを付けた独特の人型ロボット……そしてそれを操る、金髪の少女のことも――

――765pro 事務所――

アミ・マミ「「おっはよ→!」」

小鳥「あら、二人共今日は早いのね? はい、おはようございます!」ニコッ

P「おー、珍しいじゃないか! いったいどういう風の……まさか今日は大雪か!?」

アミ「兄ちゃ→ん、今は6月だよ→」

マミ「さすがにそれはヒドいんじゃないかな→」

千早「そうですよプロデューサー、2人だって偶然2人で早く目が覚めて偶然事務所に向かう気になることだってあるんじゃないですか?」

雪歩「そ、そうですよぉ~そんなこと言ったら亜美ちゃんと真美ちゃんがかわいそうですぅ」

律子「千早、それはあまりフォローになってないわ……」

P「わ、悪かった……ごめんな2人とも?」

アミ「この精神的クツ→はゴージャスセレブプリンでしか回復できませんな真美隊員!」

マミ「そうですな→、商売繁盛ってヤツですな亜美隊員!」

P「言いたいのは損害賠償だと思うぞ……全く、分かったよ!」

アミ・マミ「「わ→いわ→い!!」」

 笑い声が絶えない事務所の中、双子はこの小規模アイドル事務所『765pro』で駆け出しのアイドルとして活動している。メンバーは双海アミ・マミ、
歌唱力ではダントツの如月千早、透き通った声と抜群の演技力を誇る萩原雪歩の4人だ。
 そして何よりも765proを支える裏方的存在であるPことプロデューサーと、同じくプロデューサー業を務める秋月律子、事務の音無小鳥、そして社長。
総勢8名という小規模でありながらも、765proはトップアイドルを目指して日々躍進している。

P「さてと、今日の仕事は……」

アミ(それにしても、今朝の夢と、ニュース……なんなんだろ? なんだかこの時計を付けてからこんなことが起こってる気がするけど)

P「……み! あ……み!!」

アミ(でもきっと気のせいだよNE! まだ買って一日だもん、偶然に決まってるよグ→ゼン!)

P 「アミ!」

アミ「ひあっ!? び、びっくりしたぁ」アセアセ

P「びっくりしたじゃないぞ? ちゃんと俺の話聞いてたか?」

アミ「あ、ごめ→ん兄ちゃん! ボ→っとしてて聞いてなかっであります!」ビシッ

P「あのなぁ……アミとマミはこれからフォトスタジオに向かって雑誌の写真撮影! 俺が送ってくから、OK?」

アミ「おっけ→おっけ→!」

律子「ちゃんと聞いてなさいよ? まだ下積み段階だけど、アナタたちはこれからトップアイドルまでの階段を駆け上がらなきゃならないんだから!」

マミ「んっふっふ~、まっかせといてよりっちゃ~ん!」

 そんな楽しい時間も、けたたましい音によって終わりが告げられる。事務所の扉を蹴破るようにして飛び込んできた人影。思わず身構えるが、その
人物は焦った様子で事務所の奥に据え付けてあったソファの後ろにしゃがみこんだ。

?「ご、ごめん! ちょっとかくまって欲しいさー!」

P「な、なんだ君!?」

 珍しくプロデューサーが取り乱している、そんな様子をアミはどこか遠いところから眺めているような気がしていた。

?「追われてるんだ! 頼む!」

 開け放たれた扉の外にはすぐに1階に通じる階段がある。その下の方からは、複数人が誰かを探すような怒号が聞こえていた。
きっと良いことじゃない――そう判断したのだろう、プロデューサーは黙って扉の方に向かうと、音を立てないように閉め、鍵をかけた。

…… ………… ………………


P「さて、説明してもらおうか」

 少しだけ強張った顔で少女は笑う。

ヒビキ「は、はいさい……自分は我那覇ヒビキだぞ。ちょっと事情があって追われてる最中さー」

 追手が捜索を諦め、別の場所に向かうのを窓から確認して、プロデューサーはヒビキと名乗った少女に向き直る。

律子「追われてるって……ここは日本よ? 犯罪者でも無い限り追われたりとかしないでしょう」

ヒビキ「それは違うさ! いくら日本でも今は……もしかして沖縄のニュース知らないのか?」

小鳥「沖縄のって、あのテロ事件の?」

P「ああ、あれって確か誤報だったんだろ? さっき携帯のニュースで飛行機の墜落事故だったって訂正が入ったぞ、どちらにせよ
痛ましい事件だってことに変わりはないけどな」

ヒビキ「多分、それは日本政府が混乱を招かないようにって情報統制を始めたからだと思うぞ」

ヒビキ「最初のニュースで流れた新生国家アマーミのハルシュタイン総統の指示による世界侵略作戦……あれが本当さ」

千早「でもアマーミなんて聞いたこともありませんし、そもそも知名度すらないような国が世界侵略なんて無理なのでは?」

ヒビキ「そうさ、昔のアマーミなら無理だった。けど今は違う、手に入れてしまったんだぞ……世界を滅ぼせるだけの科学力を」

雪歩「世界を滅ぼすって、怖い話ですぅ」

マミ「でもさ→やっぱ信じらんないよね→」

P「そうだな、それに世界がヤバいような状況でこんなに普通の生活を遅れるわけないじゃないか――もっとも君が飛び込んできたから
俺達の平穏な日常はメチャクチャになってしまったんだけど」

ヒビキ「んぐっ……それは悪かったと思ってるぞ! でも、どうしたら信じてもらえるのか……そうだ! みんなコレを見るといいぞ!」

 そういって、太陽のような明るさを持つ少女は背負っていた円筒を下ろし、中から大きな紙を取り出した。

ヒビキ「このテーブル借りるぞ!」

 そう言いながら了承を待つ間もなく大きな図面を机いっぱいに広げていく。

ヒビキ「分からないかもしれないけど、これが証拠さ!」

律子「これは、何かの設計図?」

ヒビキ「そうさ、これはハルカイザー……ハルシュタイン総統の専用機の図面さ!」

P「いや、こんなもの見せられても俺たちには何がなんだかさっぱり……」

雪歩「うぅ、難しいことがたくさん書いてありますぅ」

千早「私達には荷が重い話のようね」

小鳥「嘘……これって……ありえないわ!!」

P「音無さん?」

小鳥「あの理論がああなって……このテクノロジーが、ええっ!?」

ヒビキ「もしかして、分かるのか?」

律子「ちょっと小鳥さん、説明して下さいよ!」

小鳥「えっと、この図面――とんでもないモノかもしれませんよ? 簡単に言うと、この図面を元に実際に作れるだけの技術力があるなら、
現存する最先端の人型ロボットの約40倍近いスペックのものが出来上がると思います」

千早「いや、40倍と言われても分からないのだけれど……」

小鳥「ガ○ダムが現実になると言ったら分かりやすいですか?」

マミ「っていうかなんでピヨちゃんがそんなこと知ってるの!?」

律子「そもそも小鳥さんって工学科でしたっけ?」

小鳥「いや、昔ロボット物にハマってから……ピヨピヨ」

雪歩「つまり、ホンモノってことですかぁ? あ、私お茶いれてきますねぇ~」パタパタ

千早「あ、萩原さんがついにショートしてしまったわ……」

P「つ、つまりだ……この図面はホンモノだとして、それを持って追われてる君っていうのは一体何者なんだ?」

ヒビキ「えっと、自分は……アマーミ――」

 言い終わる前に、事務所のテレビが勝手に付いたことで、全員の注意がそちらへと向く。画面に映し出されたのは、千早と同い年くらいだろうか? 暗い目をした1人の
少女だった。

ヒビキ「ひっ!?」

 反射的に隠れるヒビキ、根底に植え付けられた恐怖が脊髄を介して強制的に逃げるようにと体に指示を送ってしまう。

――私は、新生国家アマーミ総統ハルシュタイン――

 可愛らしい外見からは想像もつかないような冷酷な声色。

――親愛なる日本国民に告ぐ、先日……私の宝物が一匹のネズミに持ち去られた――

 頭に2つの特徴的なリボン。

――私はそれを絶対に取り戻さなければならない、故に――

 両脇に控える白い羽根の少女と燕尾服の美少年。

――少々期は早いが、これより日本国侵略を開始する!――

 手を前に突き出すような仕草が妙に似合うのは、彼女の持つ黒いオーラがそう見せるのか。

――ねぇ……我那覇ヒビキ、あなたのせいでこうなったのよ――

 膝を抱えて震えるヒビキは、ライオンを目の前にした子鹿のように弱々しい。

――さぁ! 恐れ、ひれ伏し、崇め奉りなさい!――

…… ………… ………………


P「い、今のは一体……?」

 いち早く混乱から抜けだしたのはプロデューサーだった。

律子「放送事故って感じでもありませんでしたね」

 それから続々と今起こった異様な状況について意見を交わし始める。そんな小規模な喧騒を打ち破ったのはさっきまで部屋の隅で震えて
いたヒビキであった。

ヒビキ「あ、あれがアマーミのハルシュタイン……この世界を侵略しようとしてる当事者さ」

千早「嘘でしょう? あの子、私と同じくらいの歳に見えたのだけれど」

ヒビキ「嘘じゃないさ! 自分の名前も知ってたし、両脇にいた2人はハルシュタインの親衛隊さ……でもこんなに早く動くなんて」

 それからさらに顎に手を当てながら何かを思案する様子を見せるヒビキ。

ヒビキ「多分今のは電波ジャックさ、でもまだハルシュタインは本国に居るはず。もしかしたらハルシュタイン軍団の誰かが東京に来てるかもしれないぞ」

ヒビキ「でもTV電波を乗っ取れるほどの性能を持つアンテナが付いた機体なんて……も、もしかして!!」ガタンッ

P「ちょ! ちょっと待ってくれ! もう何がなんだかさっぱり分からないんだが、とりあえずヒビキ――君は一体何者なんだ?」

 遂に、確信に触れる。事務所の中の誰もがいい結果になるなど思ってはいなかった。何より、世界侵略を企むハルシュタイン……その当人がこの少女、
我那覇ヒビキの名前を出したのだ。最早最悪と呼べる事態を避けられそうにない、その覚悟で皆ヒビキの言葉を待った。

ヒビキ「自分は……自分は、アマーミでハルシュタイン総統の元ロボットの研究をしてた科学者さ」

律子「では、貴方は『世界侵略を企む側』の人間ってことかしら?」

雪歩「ひっ……!」ビクッ

ヒビキ「ち、違うぞ! 自分は……こんなんじゃいけないって思って逃げてきたんだ。今ハルカイザーはテストタイプの段階さ、図面が無ければ
これから先プロトタイプに移行するまでの時間はかなり稼げる、だから自分は図面と家族を連れて逃げてきたんだぞ!」

小鳥「家族がいらっしゃるんですか? えーっと、どちらに……?」

ヒビキ「ハムゾー、出てきていいぞ!」

 ヒビキの一声を合図に彼女の真っ黒な髪の毛の中から一匹のハムスターが飛び出してきた。いや、正確にはハムスターを模したロボット、だが。

ヒビキ「紹介するぞ、自分の家族の1人『ハムゾー Mk.Ⅲ<マークスリー>』だぞ!」

ハムゾー「ジュイッ!!」ビシッ

 電子音とも、生体音とも似つかない妙な鳴き声で、そのロボットは片手を上げて挨拶した。その動きはとても固い金属部品と電気基板で出来ている
とは思えない滑らかさで、頭から肩へと拠点を移した。

マミ「ほぇ→すごいロボットだねぇ!」

アミ「………………」

P「ア、アミ? どうかしたのか?」

 最初に異変に気がついたのはアイドルを注意深く見続けてきたプロデューサーだった。左手首を力強く握りながら俯く彼女が、普段の陽気で
ハイテンションな双海アミでないことは明白。ともすれば、うっすらと体を震わせているようにも見える。

P「アミ、体調が悪いなら」

アミ「違うの」

 風邪でもひいたのか? それなら影響が少ないうちに早く休ませなければ……そんな気遣いから出た言葉は、本人の声によって遮られる。

アミ「……アミね、今朝夢を見たんだ」

 ――そこから語られる夢の話、ニュースを見る前から怪物のように大きなロボットが自分の住む街を破壊し尽くしたこと。自分と姉が2人揃って
戦っていたらしいこと、そして『キサラギ』という名の巨大ロボット。ニュースの映像を見た時に頭に流れ込んできたイメージ……鉄球を下げた
ロボットと、金髪の少女。
そんなまさしく夢物語を、事務所の面々は真剣な面持ちで聞き入っていた。その話が本当なら、アミはこの事件が明るみになる前からこうなることを
知っていたことになる。

千早「それは、予知夢……というものではないのかしら?」

 夢、ただの夢――期待を込めた言葉も、現実目の前に揺らぎを見せる。

ヒビキ「キサラギ……知らないぞ、日本にそんな技術があるなんて話も聞いたことないさ! それに鉄球を武器にするロボだってハルシュタイン軍団
にもいないさー」

 そうか、ただの夢か――軽い安堵に包まれた空気も、事務所階下から響く遠吠えにかき消される。

雪歩「ひっ……」

マミ「んっふっふ→、まだゆきぴょんは犬が苦手なんですな!」

 思わず年下であるマミの後ろに隠れてしまった雪歩は、恥ずかしそうに顔を伏せる。

律子「あれ? 下に犬がいるわよ、私達の方を見てるみたい……って、あれもロボットじゃないの!?」

ヒビキ「イヌミ!? どうしたさ!!」ガラガラッ

 犬のロボット、と聞いていの一番に反応したヒビキが窓を開けると、上を見上げていたイヌミという名の犬型ロボットは更に吠え声を上げる。

ヒビキ「ふんふん……な、なんだって!?」バッ

 しばらく犬と会話していた(電気信号変換装置によって、ヒビキには自分の制作したロボットの声が人間の言葉に変換されて聞こえている)
ヒビキが、急に顔色を変えて空を仰ぎ見た。
何事か? そう誰かが問いかけようとしたその時、顔を真っ青にした彼女は勢い良く部屋の中を振り返り……。

ヒビキ「みんな伏せるさー!!!!!!!」

 その瞬間、けたたましい轟音と視界を染める閃光、足元を薙ぐような振動とともに――

――765pro事務所に《type―F》ミサイル1発が着弾した。

【侵略者 イオリside】

 メインコンソールの中央に位置する制御モニターには、赤く『HIT』の文字だけが点滅している。先ほど放った無線誘導ミサイルの着弾結果だろう。
ハルシュタイン軍団でも上位に入るエースパイロット、イオリ……動かないターゲットなど外すわけがない。

 無論、先ほどの東京中を襲った電波ジャックも彼女の仕業。彼女が操るアズサイズ、その頭頂部にセットされている大ぶりの鎌。
ひとたび抜けば大規模建築物さえも両断できる切れ味を誇る超音波振動ブレードを搭載し、数ある兵装の中で抜群の破壊力を誇るアズサイズの主装備
は、収納段階では優秀なレーダー機能とアンテナ機能を備えている。

イオリ「さて、目標を回収してさっさと仕事を終わらせちゃいましょ」

 うさぎのぬいぐるみを小脇に抱えた少女は、いかにも気だるそうに歩みを進める。足元には逃げ惑う人々と破壊されゆく建物や車などが入り乱れ
ているが、そんなものは彼女にとって些事に過ぎない。

 歳相応の幼い顔立ちによく手入れされた美しい髪、普通に歩いていれば誰もが振り返る可憐な姿を包むのは、露出度の高い戦闘用スーツ。

イオリ「まったく、このスーパーエースであるイオリちゃんにこんなゴミ掃除をやらせるなんて!」

 type―Fミサイルの次弾装填完了まであと28秒、一撃の威力は大きいけれど繋ぎが甘いのが弱点ね――自身の操る機体の問題点は戦闘において
敗北に直結する。彼女はそれを知り、そしてどのようなイージーな任務でもそのことを忘れることはない。それが、たった14歳の女の子が世界を
揺るがす侵略国家においてエースでいられる所以でもあった。

イオリ「さて、レーダーレーダーっと……もうすぐ近くにいるじゃない! エージェントたちもたまにはいい仕事するわね」

 視線を右上に動かすだけで目に入る全方位レーダーには、今は敵影ではなくヒビキの所有する小型ロボットから発信されている電波の位置情報
を表示している。つい先ほど入った連絡によれば、ヒビキはビル街の一角、3流芸能事務所が入るボロビルへと逃げ込んだとのこと。打ち込んだ
ミサイルで昏倒でもしてくれれば楽ではあったが、そう簡単にいかないものまた現実。目標を示す赤い丸印は人間が走る程度のスピードで移動を
開始していた。

イオリ「手間かけさせてくれるわ……さて、さっさと仕事を仕上げて、『太陽のジェラシー』を進めないと」

 口では文句を言いつつも、耐え難い高揚感に口角は上がっていく。彼女は根っからの……戦闘狂であった。

【逃走 765side】

P「み、みんな無事かっ!?」

 いち早く瓦礫の中から飛び出したのは体力的にも優れる男性のプロデューサーだった。彼もまた体に軽い裂傷を負ってはいるものの、仲間の
安否を確認するために大急ぎで捜索を行う。

律子「ゴホッ……だ、大丈夫かしら雪歩?」ヨロッ

雪歩「だ、だいじょうぶですぅ……律子さん! 肩から血が!」

律子「大丈夫よ、ほんのカスリ傷だわ」

小鳥「千早ちゃん!? 無事!?」ガラッ

千早「た、助かりました……重くて動かせなかっただけなので、大丈夫です」

アミ「マミ! 大丈夫?」

マミ「アミ! 大丈夫?」

アミ・マミ「「はぁ→良かった……」」

ヒビキ「た、助かったぞ! イヌミのおかげだな!」

P「どうやら全員無事みたいだな……」

 安堵の溜息が漏れるのもつかの間、ヒビキが何やらタブレットサイズのモニターを取り出し、大急ぎで操作する。

ヒビキ「どうやら安心するのはまだ早いさ……早くここを離れないと!」

P「ど、どこに行こうっていうんだ!? それに事務所は――」

ヒビキ「そんなこと言ってる場合じゃないさ! 早く離れないと……」

ヒビキ「アズサイズが来るっ! 今イオリに見つかれば、それこそ一巻の終わりさー!」

 血相を変えて瓦礫から図面を引っ張りだし、円筒に詰め込むヒビキの姿を見て、他の面々もどうやら本気で逃げないと危ない
ということを理解した。

ヒビキ「ここから離れるぞっ!」

 ハムゾーとイヌミを先頭に、ヒビキを含めた8名が連なってビルを出る。
次の瞬間、自分たちが今まで過ごしてきた、楽しい時間を過ごしてきた居場所は……コンクリートジャングルに残響を残しながら崩れ去った。

…… ………… ………………

ヒビキ「はぁっ……はぁっ……と、とりあえずこれくらい離れればしばらくは大丈夫さー!」

千早「くっ……普段運動不足の自分が恨めしいわ」

律子「それには私も同感ね、今度からランニングでもやろうかしら?」

雪歩「さ、さすがに疲れましたぁ~」

P「ごふっ! ゲホゲホッ!!」

小鳥「ちょっとプロデューサーさんっ!? 大丈夫ですか? 遺言聞きますか!?」

 命からがら、といった体でアズサイズの攻撃から逃れた一行は、事務所の『あった』ビルから南に2Kmほどの大きな公園に来ていた。

アミ「事務所、無くなっちゃったね……」

マミ「うん……」

 双子と一言を皮切りに、暗い雰囲気に一行が顔を落とす。その空気を打破せんと動いたのは、一番関係のないはずの来訪者。

ヒビキ「と、とりあえず! みんな無事でなによりだぞ! それに早く対策を考えないと――街が無くなっちゃうさー」

 すっと視線を上げた先には、先程まで自分たちがいた街。幹線道路と高速が交差する街はつい先程までオフィスビルが立ち並ぶ活気
溢れる仕事の街だった。それが今では立ち上る煙とクラクション、逃げ惑う人々の悲鳴で平常とは異なる喧騒に包まれていた。

律子「対策って言っても! こんな状況で私達に何ができるっていうの!」

 明らかなイラつき、それも当然か……いつも通りの忙しくも楽しい日常、それが突如現れた侵略者の手によって無残にも引きちぎられ
ようとしている。そして、それに対抗する手段を自分たちは持ち合わせていない。そんな無力感と歯がゆさが、怒りのボルテージを否応なく
引き上げていく。

P「律子、一旦落ち着こう……間違いなく異常事態で、ヒビキの言ってることは多分嘘じゃない。今オレたちが混乱すれば、ここにいる全員
が危険な目に遭うことになる」

高木「その通りだよキミぃ、なかなか冷静な判断ができてるじゃないかね?」

P「しゃ……社長!? 今出張で静岡にいるはずでは!?」

高木「はっはっはっ、まぁ、着いてきたまえよ」

 その一言で踵を返す雇い主にさらに問いかけようとするが、それは無言のプレッシャーによって口から飛び出すことは無かった。
いつもニコニコ笑いながらアイドルたちの成長を見守る父親的存在の社長、それが今頬がチリチリするほどの緊張感を放ちながら先陣を切って
歩いている。どこに向かっているのか? 公園の中央を突っ切り、遊具が幾つか置いてあるだけの子供広場までたどり着くと、後ろに手を組んで
振り返る。

高木「さて、キミ達は今何が起こっているのか理解はしていないだろうねぇ。そこの……我那覇ヒビキ君だったかな? 彼女だけは別のようだが」

高木「非常に残念ではあるのだが、現在日本という国が新生国家アマーミという国、そしてハルシュタイン総統という1人の少女によって侵略の
危機に晒されている――これは事実なのだよ」

高木「そして、これは私としても心苦しく、キミたちに伝えることは胸を引き裂かれるような思いなんだがね」

 本当だよ? と前置きして、さらに続ける。

高木「双海アミ君、マミ君、世界を救う鍵はキミたちなのだよ」

マミ「マミとアミが!?」

 何を言われているのか分からないという反応、当然だ。だが双海マミは、なんとなくそんな気がしていた。朝に見た夢、鮮明すぎるイメージ、
そして実際に現れ攻撃してきた怪ロボット。

アミ「……うん、そうなんじゃないかな→って思ってたYO!」

 努めて明るく振る舞う、もし自分の夢が正夢なら、セカイは救えない……そんな絶望を振り払うようにアミは笑った。

高木「そうかね、では行こうかね」

律子「ここからどこまで行こうって言うんですか? これ以上動きまわるのは危険ですし、私は反対です!」

高木「キミはいつでも彼女たちのことを一番に考えて行動してくれるね、アイドルを辞めてプロデューサー業をしたいと言い始めたキミを
止めなかったのは正解だった、今こそ自信を持ってそう言えるよ」

高木「でもね、残念ながらもう着いてしまったんだよ」

 本当に残念そうに背中を向けると、何やら水道の蛇口をいじり始める。

P「社長……?」

 次の瞬間、子供広場として区画されている10㎡ほどの砂地が、まとめて『落ちた』。

【地下施設】

千早「ちょっと、雪歩? 雪歩ってば!」ユサユサ

律子「多分気絶してるだけよ、しばらくすれば目を覚ますわ」

律子「でも社長……落ちるなら落ちると先に言ってもらわないと困りますよっ!」ガー

高木「はっはっは、すまないねぇ」

P「それにしてもここは、この公園の地下にこんなに広い空間があったなんで知らなかったぞ」

ヒビキ「クンクン……機械油と鉄の匂い、何かの工場だと思うぞ!」

高木「工場というのは少し違うが、まぁ似たようなものかもしれないねぇ」

アミ「なにこのデッカイ柱!」

マミ「アミ→、こっちにもあるYO!」

 だだっ広い空間に二本だけ突き立つ大きな柱、その周りをグルグルと双子が回る。その時、薄暗かった空間の奥から、徐々にライトが点き始めた。
漆黒のベールに包まれるのみだった虚空が露わになってゆく。

?「待ってたの」

 そして光の魚群と連れ立って歩くように、1人の少女が現れる。長い足、引き締まったウェスト、豊かな胸、そしてゆるやかにウェーブのかかった
金髪。グリーンがよく似合う彼女は……アミの頭の中に現れた、イメージそのものだった。

アミ「……ミキ――」

ミキ「あれ? ミキ自己紹介した? そうだよー、ミキはミキだよ、よろしくなの」

高木「彼女は星井ミキ君、キミたちと同じ世界を救う鍵の1人だよ」

 もう待ちくたびれちゃったの、呑気に大きなあくびを見せる少女は双子の少し上程度。

高木「しかし驚いたね、アミ君はミキ君と知り合いだったのかね?」

アミ「ううん、知らないよ? なんとなく、分かったっていうのかな? 自分でもよくわかんないやっ!」

マミ「アミちょ→の→りょくに目覚めたの!?」

アミ「んっふっふ~、実はそうなのですよ、こう宇宙人に頭をぐりぐり~っといじられて……」

 馬鹿話に花を咲かせている間、ついに地下空間のライトは全てが灯り、先程まで伺うことの出来なかった先の方と、そして直上も確認することが
できる。見やれば、そこには……巨大な人型ロボットがそびえ立っていた。

P「んなっ!?」

律子「この柱……もしかしてこのロボットの足なの!?」

雪歩「……きゅぅ」バタリ

千早「ちょっと……いい加減に慣れてほしいのだけれど」

ヒビキ「なるほど、これが『キサラギ』ってわけさー」

高木「いかにも! 正式名称は『IMR―765―S キサラギ』、来るべき時に備え日本が創りだした技術と科学力の結晶だよ」

マミ「これにマミたちが乗るの?」

アミ「でっかくて上が見えないYO!」

高木「待ちたまえ……私はキサラギのことを話したかね? 記憶に無いのだが……」

ヒビキ「さっきアミに聞いたさー、多分予知夢とかだと思うぞ! かなり正確な情報を事前に知ってたからな」

ヒビキ「それにこっちからも聞きたいことがあるさ、社長さん、何者だ? 自分名乗ってもいないし、そもそもちょっと前までアマーミにいたんだ
から、自分を知ってるわけがないさ!」

 ヒビキの警戒心を具現化するように、ハムゾーとイヌミが一歩前へ出る。何かおかしなことをすれば喉笛を食い破ってやる、そう言うかのように
体勢を低く取り、いつでも飛びかかれるように準備している。

高木「ふむ、それについても詳しく説明しなければならないね……だがその前に、その小型ロボットを休眠モードにした方がいいと思うんだがねぇ」

ヒビキ「……なんでだ?」

高木「恐らくあの怪ロボット、アズサイズに搭載されているレーダーは通信電波を追跡する装置も付いているのだろう。そしてその小型ロボット、
お互いの情報交換のために通信電波を用いているね? 正確にミサイルを打ち込まれたのもそれが原因だと思うのだが、ヒビキ君の見解は?」

ヒビキ「くっ! 自分完璧のはずなのに忘れてたさっ! ハムゾー! イヌミ! 休眠モード!」

 ヒビキが鋭く指示を出すと、2体のロボットはその場で眠りにつくかのように静かになった。

書き溜めここまで・・・なんですが
夜通し書いてたから眠い

夜にまた再開します

すいません、一日跨いでしまいました
少ししか書けてないですが、ちょっとだけ投下していきます

高木「うむ、もしかしたらもう手遅れかもしれんが……まあいいだろう」

高木「さて、さっきのヒビキ君の質問に答えるとしよう。端的に言ってしまえば、私は顔が広いんだよ」

ヒビキ「……ちょっと何が言いたいのかわからないぞ?」

P「社長の顔が広いのは知ってますけど、それとこのロボットがどう繋がるんですか?」

高木「私はこの国を守る責任を持つ人間、あまり詳しくは言えないがそういう人とちょっとした知り合いでね」

律子(防衛省の高官、といったところかしら?)

高木「このような事態、ある国が侵略を目的として怪ロボットを利用した実力行使で日本に攻め入ってくる。そんな情報は事前に聞いていたのだよ」

高木「そしてその情報の中には相手国のトップや取り巻き、そして怪ロボットの設計や作成に関わっている科学者の名前も入っていた。その中の
重要なポストにいる人間……それがヒビキ君、キミだねぇ?」

ヒビキ「自分は、確かにアマーミで主任研究者としてアズサイズやユキドリル、ハルカイザーの開発に関わってきたぞ……」

マミ「そのせいで、こんなことになったの?」

アミ「私達の事務所が無くなっちゃったのはヒビキのせいなの!?」

ヒビキ「うぅ……」シュン

高木「それがそうとも言えないねぇ。ヒビキくんは確かに怪ロボットの研究・開発に関わり、それと同時に世界侵略の片棒を担いできたと言っても
過言ではないだろうが」

千早「警察に連絡を取ったほうがいいのかしら?」

雪歩「穴掘って埋めましょうかぁ?」

千早「あなたが言うと冗談に聞こえないからやめた方がいいわね……」

高木「だが、相手の技術、知識、もしくは戦略までもを知っている人間がこうやって我らの元に逃げてきた。これは運命を、ティンと来るものを
感じないかね?」

高木「それに、どういうわけかキサラギを動かすためのキーまで揃っているとなれば、これはもう奇跡のレベルだと思うがね」

P「そういえば! アミとマミが世界を救う鍵っていうのは、やっぱりこの『キサラギ』に乗って戦うってことなんですか?」

高木「うむ、2人はもう薄々気がついているようだが、このキサラギを動かせるのは意識の共有が可能な2人のパイロットが必要なのだよ。
そして1対の無線コントローラーもね」

 1対の無線コントローラー、そう聞いて2人は自然と自分の腕に視線を落とす。つい1日前に買ったばかりのお揃いの腕時計。時間を写すことも
無ければ、何をやっても反応することの無かった奇妙な時計は、今はうっすらと光っているように見える。

マミ「アミ隊員、なんか光ってますぞ?」

アミ「私も今気がついたYO!」

高木「どうやら全ての準備は整ったようだね、なにはともあれ一度は乗ってみなければ何も分かるまい」

律子「ホントに2人をこれに乗せるつもりなんですか!? そんな危険なことは!」

 プロデューサー、律子、千早に雪歩――事務所の仲間が心配そうな面持ちで双子を見つめる。そんな空気とは裏腹に、2人の心境は予想外の
方向へと走り始めていた。1人は、単純な興味のために。1人は、滅ぶ世界を守るために。

マミ「うん、おっもしろそ→ジャン!」キラキラ

アミ「アミ、やるよ! このセカイを救わないと!」キッ

高木(こんな年端も行かぬ少女に世界の命運を任せねばならない……力のない大人たちのなんと惨めなことか)

マミ「ところでさ→これちょっと光ってるだけで押しても叩いてもなんの反応も無いんだけど」

アミ「う→ん……電池切れ? 単3でいいのかな?」

高木「キサラギを動かすには最初に声紋認証を行う必要があるんだよ、2人が同時にそのコントローラーに向かって同じ言葉を言ってもらえれば
構わない。できるだけ叫びやすく、間違うことのない言葉がいいね」

アミ「あ、じゃあさぁ!」

マミ「お、あれですな→!」

 双子は全く同じ動作で右腕と左腕を顔の前に捧げる。意識の共有、それはつまるところどれだけお互いのことを理解し、言葉を交わすことなく
行動を共に出来るかということ。違う場所で結んだ髪が同じように揺れる、2人はちらりとお互いを確認すると、同時に叫んだ。

アミ・マミ「「希煌石(キラジェム)全開!!!」」

【侵略者 イオリside】

 どこまで逃げるのかと思えば、2kmほど移動しただけで止まってしまった。当然か、人間の足でアマーミの高性能ロボから逃げ切れるはずもない。
重い足音響かせてレーダーの赤点と重なる地点まで移動してみれば、そこは大きな広場と小さな遊具がいくつかあるばかりのただの公園だった。

イオリ「場所としてはここで間違いないわね……でも姿は見当たらない。地下か上空ってことね」

 一度上空を見てはみたが、頭を振って思い直す。

イオリ「こういう時は地下って、相場が決まってるじゃないっ!!」

 アズサイズの重厚なボディから繰り出されるパンチが公園の地面を抉った。芝生が吹き飛んで黒土が飛び散る。そんな中に微かな手応え。

イオリ「装甲板……見つけたぁっ!!」

 マウントポジションを連想させる格好で左右のパンチを絶え間なく叩き込んでいく。全体に振動が伝わっている感覚はあるものの、一向に
拳が厚い鉄の板を突き破る様子はない。

イオリ「ふぅ……流石にブ厚いわね! こうなったら!」

 アズサイズは一度立ち上がると、頭頂部に手を伸ばす。金属同士がこすれ合う耳を塞ぎたくなる音と共に取り出されたのはこのロボットの
名前の由来ともなった大きな鎌。迷うことなく地面に突き立てる。

『ギャアアアアアアアア……』

 人の悲鳴にも似た掘削音、超音波振動ブレードはゆっくりとではあるが確実に装甲板を切り裂いていった。そんな時……。

『ドォンッ!』 『ドォンッ!』

 不意に背中を押されたような格好になって前へつんのめった。片膝を着くアズサイズと地面に突き刺さったままの鎌、イオリは最初、
何が起こったのか理解できなかった。
モニターに目を走らせれば【背部装甲板被弾 損害無し】の文字。そしてリアカメラに映る米粒のような車両。

イオリ「ふぅん、今更……戦車でこの私を倒せるなんて思ってないでしょうねぇ!!」

 何本かの木々をなぎ倒し、地面に刺さったまま直立する鎌を掴み取る。背後からアズサイズの背中めがけて砲撃したのは6両編成の戦車
部隊。アズサイズの逃げ場を塞ぐように三日月状の包囲体勢を取る。

イオリ「死にな……さいっ!」

 腰だめから放つ大ぶりの一撃。地面すれすれを這うように薙がれた一撃によって、初弾から4秒後……微かな抵抗を見せた戦車部隊は
ただの一両も残すことなく撃滅された。

【避難 765side】

高木「ふぅむ……やはりこの場所も見つかってしまったようだね」

ヒビキ「うぅ……自分のせいだぞ……」

アミ「そんなことよりさ→!」

マミ「なにこの服? ヘンシンだ→!」

 起動コードを叫んだ2人は一瞬光に包まれたと思うと、黄色いスカーフを首に巻いた姿で再び姿を表していた。

高木「それは所謂戦闘用コスチュームというやつだよ。キミたちはアイドルなのだから、戦う姿にも気を配らくちゃいけないからねぇ」

高木「さてと、双海君とヒビキ君、ミキ君以外はこっちの通路へ! ここをまっすぐ進んでいけばある山の中に出るから、そこから安全な
場所まで逃げるんだ!」

律子「ちょっと! アミとマミを置いていくわけにはいかないわよ!」

P「そうですよ! 2人はウチのアイドルです、彼女たちを置いて俺達が逃げ出すわけには……」

高木「では、如月君と萩原君を単独で行かせろと言うのかね?」

 また、無言のプレッシャー。

雪歩「千早ちゃん……」

千早「大丈夫よ萩原さん、私が付いているから……」

律子「……それは、出来ませんね」ハァ

P「……分かりました、2人を連れて行こう、律子」

高木「理解してもらえて何よりだよ、それにこの2人は責任をもってこの私が預かろう」

P「よろしくお願いしますよ? 何かあったら社長といえど許しませんからね?」

高木「ふふっ、随分とアイドルにご執心じゃないかねキミぃ? 任せ給え、これでも私は765proの社長なんだからね!」

 4人が連れ立って隠し通路へと消えていくのを確認した後、厳重に鍵をかけた金庫からあるものを取り出して振り返る。

高木「それとヒビキ君、キミにもどこか遠くの安全な場所に避難してもらいたい……これを持ってね」

 そう言いながら手渡すのはヒビキも持っているような円筒。

ヒビキ「これは?」

高木「このキサラギと、そしてもう一体のロボットである『IMR―765―N リッチェーン』の図面だよ。キミならこれを見ただけである程度の
構造や欠陥、有利な戦い方なども理解できるのだろう?」

ヒビキ「もちろん、自分完璧だからな!」

高木「それとこの無線機、これで我々にアドバイスをしてほしい。恥ずかしながら私も偉そうな事を言っておいて素人も同然だからね」

ヒビキ「任せるといいぞ!」

 再び太陽の笑顔を取り戻したヒビキは大急ぎでもう一本の円筒を背負うと、隠し通路へと急ぐ。

 そして、ついに天井部装甲板は、アズサイズの鎌によって突き破られた。

高木「くっ、思ったよりも早いな……ミキ君っ!」

ミキ「あふぅ……もうお仕事なの? ミキまだ寝足りないって思うな~あふぅ……」フラフラ

高木「2人にキサラギの動かし方を説明するだけの時間があればいい! それまで時間を稼いでおいてくれないかね?」

ミキ「しかたないの、分かったの!」タッタッタッ

高木「さてと……まずはあの子どもたちを落ち着かせることから始めないとね」

 やれやれ、といった風に陽気にはしゃぐ双子のほうを見る高木。その目は優しさに満ちているようで、このあとに待つ残酷な運命を見据えて
いた。今ここから、世界の命運を左右する戦いが始まるのだ……彼もまた、固い決意と断固たる覚悟を持って戦いに望む。

 この幼い2人に、戦いをさせてしまうのだから……。

【迎撃 ミキside】

ミキ「お昼寝の時間は終わりなの!」

 起動コードを叫ぶと、モニターに英字が羅列されていく。

――メインスターターユニット 起動

 彼女はつい数日前に初めての戦いを迎えたばかり。

――主電源1番から6番 通電開始

 だというのに、恐ろしいまでの落ち着きと手際の良さでリッチェーンの起動シークエンスをこなしてゆく。

――頭部主兵装 及び副装作動良好

 彼女はひたすらに天才だった、学問・運動・恋愛・アイドル業に至るまで、彼女はその才能を遺憾無く発揮してきた。

――メインカメラ、サブカメラ、投影開始 メインモニターON 全関節のロックを解除

ミキ「でもキサラギはミキの言うことを聞いてくれないなんて」

――射出カタパルトREADY 進路オールグリーン

ミキ「イヤになっちゃうの!」

 体に大きなGをかけながらリッチェーンは地上へと進んでいく。ロボットの射出用に設計された圧縮空気を用いるカタパルトは、時速
200kmを超えるスピードでその巨体を運んでいく。

ミキ「でもミキのお仕事は変わらないの!」

 彼女は天才である。ゆえに、自分のやるべきこと――領分をしっかりと理解していた。自分に最終兵器であるキサラギは動かせない、ならば
この補佐用であるリッチェーンで成果を上げるまで。

ミキ「さぁて、今日もトバしていくの!!」

 白煙と衝撃波をまき散らしながら、頭部に鉄球を持つ対アマーミ戦闘用巨大ロボ、『IMR―765―N リッチェーン』は、地上へと躍り出た。
着地してすぐにレーダーを照射、敵機体の位置を探る。予想に反し、敵のアズサイズはこちらを見てはいたものの、向かってくる様子は無い。

ミキ「正直出た直後を狙われると思ってたの、拍子抜けって感じかな?」

 これはリアルな戦場、どこかの変身ヒーローのようにこちらが準備するまで待っていてはくれない。敵機に現在地を知られている以上、
最初の一撃はもらう覚悟で飛び出した、なのに相手は攻撃してくる気配がない。

ミキ「向こうのレーダーもこっちを捉えてることは間違いないの、というよりこれって目視で確認できる距離だよね?」

ミキ「何かを狙ってるかもしれない、気をつけていくの!」

 トリガースイッチの誤操作を防ぐために設置されているプラスチックのガードを人差し指で跳ね上げる。画面のクロスゲージを標的に合わせると
リッチェーンの右腕が持ち上がった。指の中に収納されている30mmガトリングガンが目標を真っ直ぐに見据える。

ミキ「こんなもので倒れるとは思えないけど、とりあえず発射なの!」

 連なって飛んで行く火の玉のように見える弾丸は、恐ろしい高サイクルで相手を襲う。本来であれば対走行車両向けに使われる対装甲用焼夷徹甲弾、
相手がアマーミのロボットであっても効果があるのは先日の戦闘で確認済みだ。
砲身の加熱を防ぐために数秒の射撃でトリガーから指を放つと、メインモニターは立ち込める煙で満たされていた。モニターで目視確認をしつつ、再び
レーダーを照射する。

 敵影は、着弾地点から右に50メートルほどの地点に移動していた。見たところ損害も皆無……。

ミキ「やっぱり、一筋縄じゃいかないの……」

 唇を噛み締めながら、金髪の少女は頭をフル回転させながら次の手を考えていた。

書き溜めここまで
ちょこちょこの投下で申し訳ない・・・これから仕事なので行ってきます
明日の朝には書けると思うので、どうかごゆっくりお付き合いください

ちょこっと再開
月曜の朝に見る人なんていないかwww

 一方、敵機のパイロットであるイオリはようやく事態を飲み込み、攻撃の方法を模索する。手を焼いた装甲板にやっと穴が開いたと安堵した次の
瞬間、目の前に飛び上がってきた想定外の相手に一瞬ではあるが一方的な攻撃を許し、しかも脚部への被弾――失態だ。

――脚部被弾 装甲耐久度32% 動作問題なし

イオリ「チッ、やってくれるじゃないの」

 恐らく相手の弾丸は強力な徹甲弾、今のは角度が浅くて助かった。完全に虚を突かれ全身に浴びていたら……そんな思いを振り払うように、初撃を
放った後自分と同じように様子を伺うように動きを止めた相手を睨みつける。

イオリ「アンタに構ってる時間なんてないのよ、裏切り者に逃げられでもしたらコトだわ。どこのどちらさまか存じ上げないんだけど、すぐに決着を
付けさせてもらうわよっ!」

 先に動き出したのはイオリ。体勢を低く取り、出来るだけ体の面積を小さくしながら相手へ駆けていく。

ミキ「動いたのっ!」

 ミキもその動きに鋭く反応し、距離を取りつつも牽制するように断続的に弾丸をバラ巻いていく。あの鎌はリッチェーンの主兵装である鉄球よりも
リーチが広い……鉄球はあくまでもトドメ、その前にガトリングやミサイルで足を削り、体術で地面に引き倒してからファイナルアタックを叩き込む!

イオリ「……な~んて考えてるんでしょうね」ニヤッ

 不気味に口角が上がる。彼女、イオリの一番恐ろしいところはそこである。戦闘中、命と命を削り合う戦いの最中にも関わらず、イオリは自分の
戦闘衝動を絶妙に抑えこみ、頭の中では狂気に満ちた自分と冷静な自分を同居させる。
もう少しで攻撃が相手に当たる、といったタイミングでリッチェーンは体を急激に捻る。搦手から足元を狙い、アズサイズのバランスを崩しにかかる。
いわゆるレスリングのタックルのような格好だ。

イオリ「甘いわっ!」

 アズサイズはあと数センチで接敵……というところで同じように体を捻った。リッチェーンの片腕だけをいなし、力の集中を防ぐ。そして、クロス
カウンター気味の肘が、リッチェーンの右頬に炸裂した。

ミキ「がっ……これは……効く……のっ!」

 足を踏ん張り、どうにか転倒だけは避ける事ができた。大急ぎてモニター類に目を走らせ、損害状況を確認する。

――頭部装甲全損 

――頸部関節損傷 

――主兵装……使用不可

ミキ「…………」

 絶望的な状況であった。首の関節をやられては大きく首を振り回して使用する主兵装の鉄球は使うことができない。恐らくロボとしての性能は
ほぼ互角、であれば持っている武器とパイロットの技術が戦況を左右することは明白。

イオリ「終わりね」

 リッチェーンの足を踏みつけて動けないようにし、大鎌を振り上げるアズサイズの姿が、砂嵐のモニターに薄く映る。

ミキ「あーあ、やられちゃったの……あはっ☆」

 あくまで彼女は死ぬ寸前まで自分であることに拘った。自分には世界は救えなかった、天才にも限界があったのだ。ならば、自分は自分のままで
この人生に終わりを告げよう。

 イオリは何の感情も持つことなく、大鎌を振り下ろした――。

【初陣 アミ・マミside】

高木「……以上がキサラギを最低限動かすために必要な情報だ、理解できたかね?」

アミ「う、う→ん?」

マミ「ぷしゅうううう……」

高木「ま、まぁ……大体でやってしまっても動くような設計らしいから、思うがままに動かしてくれて構わんよ!」

マミ「思うがままに、かぁ」

アミ「それもそれでむつかしいね……」

 そうして、新しい『相棒』を見上げる。先ほど起動はしたものの、未だに姿形を変えることなく佇むその姿。

マミ「でも、行ってみるしかないっしょ!」

アミ「マミ隊員、出動だ→!」

高木「ああ、頼むよ!!」

アミ「あ、ところでさ」ピタッ

マミ「これど→やって登るの?」キョトンッ

高木「キミたち……私の話を聞いていたかね!?」

……

…………

………………

アミ「おおっ! これはなかなか高い……ちょっと怖いYO!」

マミ「お、恐れるなアミ隊員!」

アミ「そんなこと言いながらマミも下全然見れてないじゃん!」

アミ「え→っと、首元にいろいろ映ったモニターが……これかな?」

マミ「発進準備完了って書いてあるね→」

アミ「じゃあこの無線コントローラーに発信って命令すればいいのかな?」

マミ「多分ね→、それじゃいっちょいきますか!」

アミ・マミ「「キサラギ! ゴー!!!」」

 2人の号令を合図に、『IMR-765-S キサラギ』は地上へと加速していく。柔らかな素材で作られたキサラギの口元は風圧でふるふると震えて
いるが、肩に乗る2人にはそれは見えない。遥か上空に見えた射出口までの距離はあっという間に縮まり、相当に久しぶりに感じる外の空気が
肺を満たしていく。

アミ「出たぁぁぁ!!!」

マミ「いやっほぉぉぉ!!!」

 外に飛び出した2人を出迎えたのは、澄み渡る青空と燦々と輝く太陽――そして今にも大鎌を振り下ろさんとする怪ロボット、アズサイズの
姿であった。

マミ「あっ! あれ見てっ!」

アミ「急いで助けないとNE!」

アミ・マミ「「いっけぇぇぇ!! キサラギぃぃぃ!!!」」

 戦法も戦略もあったものではない、ただの両手を突き上げたロケット体当たり。そんな攻撃でも敵の意識の外からの攻撃であれば大きなダメージ
を与えることもある。運は双子に味方した。

イオリ「なっ……なんなのっ!?」

 吹き飛ばされ、もんどり打って山に激突し、初めて自分を攻撃した新手の存在に気がつく。

――背部装甲板大破

――脚部関節破損 走行不可

――リアカメラ 使用不可

――メインジェネレーター破損 エネルギー低下

 あらゆるアラートメッセージが羅列されていく。もう既に戦えるような状況ではないことは、誰の目から見ても明らかだった。

ミキ「ん……あれ? ミキ死んでないの?」

アミ「ミキミキッ!」

マミ「助けに来たよ→ん♪」

ミキ「初陣の子たちに助けられるなんて……不覚って思うな! でも、ありがとうなのっ☆」

 キサラギがリッチェーンの手を取り、引き起こす。

マミ「任せて欲しいって思うなっ!」

アミ「アミたちにお任せなのっ!」

ミキ「マネしないでほしいのっ!!」

 初めての撃破に喜ぶ双子と、命の危機から脱したミキ。そんな2機の後ろで、上体だけをなんとか起こしたアズサイズ、type―Fミサイルの
発射準備が着々と進んでいた。

イオリ「あんな奴に……あんなポンコツに負けるなんて、このスーパーエースのイオリちゃんがそんなこと許されるわけないじゃないっ!!」

 トリガーに指がかかる、既に対象のロックオンは済ませてある。鎌の一撃には及ばないが、後ろから撃ちこめば確実に行動不能に持ち込める。

?「よ……せ、イ……ォリ」

 突然の通信、雑音がひどい。幸い向こうはこちらが最後の一撃を与えようとしていることに気がついていない。一度鎌の超音波振動ブレードを
OFFにし、通信の鮮明化を図る。

?「聞こえるか?」

イオリ「聞こえてるわっ!」

?「戦闘を終了し、帰還せよ。リッチェーン以外の新手が現れた以上、これ以上の戦闘継続は望ましくない。データを持ち帰ることを優先しろ」

 インカムから流れてきたのはハスキーだが、少年のような耳心地のいい声。だがイオリはこの声が大嫌いだった。すこしハルシュタイン総統の近く
で親衛隊をやっているから、それだけでいつも上から目線でモノを言う女。
思わず声に苛立ちが交じる。

イオリ「今なら油断した背後にミサイルをブチ込めるのよっ!? チャンスをみすみす見逃せっていうの!?」

?「その油断で大破した貴様に口答えは許されん。何よりこれはハルシュタイン総統の勅命である――既に飛行用アダプターを飛ばして
ある。早急にアマーミへ帰還しろ」

イオリ「マコトォ……ッ!!」

 ぐっと歯を食いしばる、脳に嫌な音が広がる。

マコト「通信は以上だ」

 ブツッという味気ない音と共に通信は途絶した。上方を見れば飛行用の対翼アダプターが向かってきているのが確認できる。

イオリ「……このままじゃ済まさないわ……覚えておきなさいッ!!」

 そんな捨て台詞を残しつつ、背中に背負う形で飛行アダプターを取り付けたアズサイズは大空に舞い上がる。主に背中に受けた損傷は軽微とは
言いがたく、だらしなく垂れ下がった脚と煙を吹く背中のジェネレーターが、復帰には時間がかかることを容易に想像させる。

 かくして、東京のある街を襲ったハルシュタイン軍団一次侵略作戦は失敗に終わった。この街の、世界の命運を握る双子と金髪の少女の手によって。

【地下施設】

 戦闘を終えたキサラギとリッチェーンは再び地下の格納庫へと戻り、修復作業を受けている。どこからか湧いて出た整備班と思わしき男たちが慣れた
手つきで傷んだ箇所を治していく中、アミマミの両名とミキは高木の部屋で休んでいた。

アミ「ふい→……流石に疲れたっしょ」

マミ「一応うまくいったみたいだけど、これからどうなるのかね→?」

ミキ「あふぅ……ミキはもう眠いの、おやすみなさい」クー

アミ・マミ「「寝るのはやっ!」」

高木「いやいや、3人共お疲れ様だねぇ。特にアミ君マミ君! 初めての戦いで怪ロボットを退けるなんて大した戦果だよ! うん!!」

 様子を見に来た高木は3人にねぎらいの言葉をかけるが、ミキが眠りについているのを確認すると少しだけトーンを落とし、さらに続ける。

高木「ああ、そういえばキミ達の事務所の仲間とヒビキ君は無事に避難できたようだよ? 早速仲間を救うことが出来た、本当によくやってくれたよ」

アミ「そっかぁ、兄ちゃん達無事に逃げられたんだ、よかったぁ→」

マミ「ゆきぴょん大丈夫かな? 『何回も気絶するひんそーでひんにゅーでちんちくりんのダメダメな私なんてぇ、穴掘って埋まってますぅぅぅ!』って
山の中で引きこもりしてるかもしんないよ?」

アミ「あ→、ゆきぴょんならあるかもしんないねぇ……」

高木「萩原君は一体何者だね……?」

マミ「ただの穴を掘るのが趣味のか弱い乙女だよ?」

高木「う、うむ――それはいいとして、キミ達には残酷なことを言うようかも知れないが……戦いはこれで終わりじゃ無いんだよ」

 手を組んで顎を乗せ、高木はそんなことを切り出した。その目は真剣で、双子は思わず背筋を伸ばす。

高木「さきほど逃げていったアズサイズ、きっとあれはしばらくの間『太陽のジェラシー』作戦には参加できないだろう。かなり大きな損害を受けている
様子だったからねぇ。しかしそれもアマーミの技術力を持ってすれば3日もあれば再出撃可能になるだろう……また数日も置かないうちに今日のような戦闘
があることは覚悟しておいて欲しい」

マミ「また今日みたいな戦いがあるんだね……」

高木「そしてもう一つ、キミたちも見たと思うんだが、リッチェーンもかなり大きな損害を受けてしまった。現在大急ぎで修復作業に入って入るが、いかんせん
まだ日本で発達しきっていない技術が多く含まれている機体だ。修復完了までにどんなに少なく見積もっても5日はかかると思って欲しい」

高木「つまり、あちらさんが再びアズサイズを差し向けてくるとして、限定的に2日間はキミ達だけで日本を守ってもらわなければならないことになる」

アミ「2日、それって長いのか短いのかよくわかんないね→」

高木「恐らくはアマーミの狙いはこの東京、そしてヒビキ君の持つ重要な何かということになるだろう。となれば、再度侵攻してくる際は再びこの界隈に出現
する可能性が高いと僕は考えていてね」

高木「まぁ、ハッキリと言ってしまえば今ここであーだこーだと話し合っていても何も現状は変わらないのだよ」

高木「ということで、少し休んだら……ミキ君と親交を深める意味でも、遊びに行ってきたまえ!」

アミ「へ?」

マミ「ん?」

高木「何かおかしなことを言ったかね? 少なくとも今日明日で再侵攻ということもあるまい。これから忙しい毎日が始まろうというのだ、少しくらい
遊んだところでバチはあたるまいよ」

【翌日 ショッピングモール】

ミキ「んー! 久しぶりのショッピングなの!」

アミ・マミ「「いっえ→い!!」」

 3人は連れ立って、近所のショッピングモールへと繰り出していた。昨日のことがあったからか、いつもより人は少ないが、概ね普段と変わらぬ賑わい
見せるここは若者向けの店舗を中心に50件以上の店が軒を連ねる遊びに行くには絶好の場所だ。

マミ「さて、どこからまわろうか?」

アミ「まだお腹は空いてないし、とりあえず服が見たいでありますマミ隊長!」

ミキ「さんせーなのっ! れっつごーなの!!」

 ミキが先頭に立ち、2人を引きずるようにして歩き出す。普段から人を引っ張り回す立場の双子にとって、自分たちが引っ張り回されるのは初めての
経験だったが、存外悪くない感覚のようだ。

マミ「そういえばさ、ミキミキの首につけてるネックレスかわい→よね!」

 マミが指さしたのは、ミキの首元で太陽を受けて輝く『MIKI』の文字。自分の名前を象ったシルバーネックレスを彼女は愛用していた。

ミキ「いいところに気がついたの! これはお姉ちゃんがプレゼントしてくれたミキの宝物なの!」

アミ「へぇ→、いいなぁ→」

ミキ「んー……じゃあ着いてくるの!」

 さらに歩く速度を上げるミキは2人をグイグイと引っ張り、先へ先へと歩を進める。そして辿り着いたのはとあるアクセサリーショップ。

ミキ「こんにちはーなの!」

 カランカランと小気味良い音を立てるドアベルの音色と共に、宝石や貴金属独特の冷たい匂いが鼻腔をくすぐる。ミキは慣れた様子で奥のカウンター
に向かい、店主となにやら話し始める。

アミ「ほぇ→、こんなとこ入ったの初めてだよ」

アミ「アミだって入ったことないよぉ、ちょっと緊張しますなぁ」

 キラキラと輝く石や磨きぬかれたゴールド、シャンデリアの淡い光に照らされた店内は大人の気品が漂い、まだ幼い2人は固まってしまった。 
緊張で動けずにいる二人のもとにミキが帰ってくる。借りてきたネコのように大人しくなっている2人を不思議そうな顔で見るが、また手をとって
スタスタと歩き出す。

ミキ「ミキの用事は済んだの! 買い物の続きにゴーなの!」

マミ「ちょっとミキミキ! ひっぱらないで→」

アミ「そんなに急がなくても洋服は逃げないってば→」

ミキ「甘いって思うな? そんな根性では流行に置いて行かれるの!」

【喫茶店】

ミキ「んー! マンゾクなの!」

 やりきった、という表情で背中を伸ばすミキとは対照的に、ひたすらに連れまわされた2人はぐったりしている。

アミ「ミキミキがこんなにパワフルだったなんて……」

マミ「ヘンな子だと思ってたけど、予想外だったよ……」

ミキ「あ、ヘンな子って呼び方、や! ミキって呼んで欲しいって思うな?」

――ご注文をお伺いしてもよろしいでしょうか?

ミキ「あ、ミキはいちごババロアとキャラメルマキアートをお願いしますなの♪」

アミ「ん→、じゃあアミはチーズケーキとあいすちーを頼むよん」

マミ「あ→! チーズケーキ取られたぁ……だったらザッハトルテとホットショコラのダブルチョコで攻めていくぜぇ!」

――か、畏まりました。

アミ「まぁまぁ、一口分けてあげるからさ→」

マミ「ならマミのも一口あげるよ!」

ミキ「……2人だけズルいって思うな?」

アミ・マミ「「え?」」

ミキ「今日は3人で仲良くするために遊びに来てるの、これじゃミキだけ仲間はずれなの!」

 年齢もさして変わらず、身長もスタイルも自分たちより上な彼女が初めて見せた歳相応の子供らしさ。頬を膨らませながら涙をためるその姿に
思わず吹き出してしまう。

マミ「ぷっ……ご、ごめんごめん! ミキにも一口あげるよん!」

アミ「ふふっ、アミのもあげるからほっぺた膨らませないの! ハムスターみたいになってるYO!」

ミキ「あー! ヘンな子の次はハムスターなの! ちゃんと名前で呼ぶのー!!」

 客もほとんどいない寂れた喫茶店には、日が暮れるまで3人の笑い声が響いていた……。

……

…………

………………

――ありがとうございました、またのお越しを。

 冷房の効いた室内から出ると、日は落ちているとはいえ肌に纏わりつく蒸し暑さの6月夜。

ミキ「キレーな月なの」

マミ「あ、ほんと→だね」

アミ「……私達が負けたら、こんなふうに空を見上げることもできなくなっちゃうんだね」

 岐路を急ぐサラリーマン、タイムセール品を獲得してご満悦の主婦、嫌々ながら塾に向かう学生、その誰もが知らない。普通の顔をして
喫茶店から出てきた少女3人が、世界の命運を握っていることなど。

ミキ「あ! 忘れてたの!」

マミ「っ!? ど、どうしたの?」

ミキ「ちょっとここで待ってて欲しいの!」

 言うが早いか駆け出していくミキ。呼び止める暇もなく、2人はその背中を見つめるしか無かった。

アミ「なんだったんだろ→ね?」

マミ「待っててって言われたんだから待ってますか→」

 2人は街路樹を囲む鉄柵に腰掛ける。特に会話を交わすこともなく、脚をプラプラと弄んでいると息を切らせたミキが走ってくる。

ミキ「おまたせなのー!」

 その手には小さな箱が2つ。黄色と黄緑の包装紙でラッピングされている。

ミキ「はあっ、はあっ……閉店ギリギリだったの」

 肩で息をするミキ、額には玉のような汗が浮き出ている。

ミキ「これはミキからアミとマミへのプレゼントなの!」

 満面の笑みで差し出された箱を手に取ると、大きさの割に手に感じる重みは強いように思える。

マミ「これ開けていいの?」

ミキ「もちろんなの!」

 リボンを解き、包装紙を取り払っていくと真っ白いケースが浮かび上がる。蓋をゆっくりと持ち上げると、中には『MAMI』の名前が象られた
シルバーのチャームのついたヘアゴムが入っていた。

アミ「うわっ、これメッチャかわい→じゃん!」

 アミの手には同じく『AMI』の形をしたブレスレットが握られている。

ミキ「ホントは2人のをお揃いにしようと思ったんだけど、アルファベットにしちゃうと文字数が違うからあえて別々のアクセにしてみたの!
それにマミのほうが髪が長いでしょ? だからマミをヘアゴムにしたんだけど、大丈夫だったかな?」

マミ「大丈夫っていうか……めっちゃ嬉しいよ! こんなのホント→にもらっちゃっていいのミキミキ!?」

アミ「うわ→……でもこれ結構高かったんじゃ」

ミキ「いいの! これはミキと2人のゆーじょーの証なの!」

マミ「ミキミキ……」

アミ「ええ子や……」

ミキ「あー! だからミキはミキなの! ええ子って呼んじゃ、や! そんなこと言うアミは返してもらうの!」

アミ「んっふっふ~、もう貰ったんだから返さないもんね→」

 月光の下、踊るようにじゃれ合う3人。立ち行く人々が思わず振り返るようなその光景は、妖精の戯れのように美しかった。

朝の投稿はここらへんで

見てくれてる人いるんだろうか?
なんか少しでもご意見頂けると励みになります

ではおやすみなさい

また更新が朝になってしまった・・・

少しですが再開します

【とある山中 ヒビキside】

 万物を照らしだす太陽とは違い、影のものを優しく包む月明かりの中、ヒビキはキサラギの図面と向かい合っていた。
膨大なページに及ぶ骨格図や配電図、その全てを一見するだけで頭に叩き込んでいく。物心がついてすぐに機械工学を学び始めた彼女にとって
それはさほど難しいことではなかった。

ヒビキ「ふんふん……でこれがここに繋がると、なるほど――キサラギはアマーミの第3世代と同じくらいの性能ってことだな」

 あぐらをかいて作業を進める彼女の隣では家族である小型ロボットの数々が休眠モードで控えている。ロボット同士の通信に使われている電波
がアズサイズに感知されると分かってからは一度も起動していない。もちろん彼女の腕であればステルス機能を追加して感知されないようにするのは
容易ではあるが、いかんせん今は作業場と資材が圧倒的に不足している。休眠モードに入ったロボットは自立歩行もできないため、彼女が全員をここ
まで徒歩で運んできた、故に戦いの起きている街からはあまり離れることは困難だった。

雪歩「ヒビキちゃん? 起きてるかなぁ?」

 起きてるかとは変な質問をする、そう思い顔を上げると日はとうの昔に落ち、満月が東の方角に輝いている。

ヒビキ「起きてるぞ! キサラギの図面を見てたんだ」

 掘っ立て小屋の隙間風が吹き抜けるドアに向かって返事をすると、おずおずと言った様子で雪歩が、続いて2つの影が続いて入ってきた。

雪歩「ご、ご飯もってきたんですぅ」

千早「今のところ街の方も落ち着いているようね」

律子「全く、危ないからこんな時間に行ってはダメだと言ったのに、聞きゃしないんだから……」

 ラップのかかったお皿にはいくつかのおにぎりと唐揚げなどの惣菜が乗っている。

ヒビキ「助かるさー! ここはあんまり食料も採れないから困ってたんだぞ!」

千早「もしかしてここでずっとサバイバル生活を続けるつもりだったのかしら?」

ヒビキ「海があれば潜っていくらでも食べ物は取れるんだけど、山の中はちょっと苦手さー……」

律子「でも限界もあるでしょうに、雪歩と千早に感謝しなさいよ? 雪歩なんて怯えてるのに『ちゃんとご飯は食べないとダメですぅ!』なんて
言いながらおにぎり握ってたんだらね?」

ヒビキ「は、はは……やっぱ自分怖がられてるんだな……」

雪歩「い、今はもう大丈夫ですぅ! むしろ……その寝てる犬のほうが怖いですぅ!!」

ヒビキ「イヌミは今は動かないから大丈夫だぞ、いつアズサイズが来るかわからないからな、下手に動かせないぞ」

千早「あれからもう3日は経つわね、もう来ない……なんてことはないのでしょうね」

ヒビキ「うん、これは確信と言っても良いんだけど、絶対また来るぞ。ハルシュタインがこれを諦めるわけないさー」

 そう言いながら壁に立てかけてある円筒をポンポンと叩く。いつかは自分を追ってくると分かっていた、だが自分がこの街に逃げ込んでしまった
ことでこの街の、いやもしかしたら日本という国の侵略を早める結果になってしまったのかもしれない。ヒビキはその責任を重く受け止める。

ヒビキ「それにしても、このキサラギっていうロボット、面白いぞ」

雪歩「戦うロボットに面白いとかってあるんですかぁ?」

ヒビキ「うん、普通の戦闘用ロボットっていうのは戦うためのモノだから動きの良さとか、強力な武器をどれだけ搭載できるかってことを考えて
設計されるのが普通さ」

千早「それは、当然そうなるでしょうね」

ヒビキ「でもこのキサラギには戦闘にどう考えても必要ないギミックが搭載されてるんだぞ、例えば歌唱機能とか」

律子「歌唱……? 歌うってことかしら?」

ヒビキ「まさにその通りだぞ! キサラギの口元は特殊なシリコン素材と70を超える軟金属のパーツから成り立ってて、その奥の胸辺りに声帯の
ような働きをする機関が備わってるんだ。今はまだどうやって動かすのか分からないんだけど、これはどう見たって歌わせるために作られたとした
考えられないさー」

千早「歌う……キサラギ……なんか他人とは思えなくなってきてしまったのだけれど、いやそもそも人ではないのだけれど」

ヒビキ「それから、声帯機関を守るためだと思うけど、胸の装甲板は特別なモノが使われてるんだ。鏡面装甲板って言って、本来ミサイルとかの
攻撃には不利な『垂直』装甲板なのに、相手の攻撃を受け流すような働きをするんだぞ! これは画期的な技術さー!」

千早「くっ……」

律子「くしゃみ? 少し冷えるかしら?」

千早「気にしなくていいわ、本当に」

ヒビキ「それから、電気伝達系統が複雑に組み合わさってて、瞬発力だけに着目すれば実に第4世代の1,8倍の動力性能を出せる設計さ!
正直これには自分も驚いたんだぞ! これは今後のロボット設計に取り入れていかなきゃな!」

 キラキラした目でロボットについて熱く語るヒビキ、その姿はあのハルシュタインとは対照的に底抜けに明るく、危険の香りなど微塵も感じ
させない。大丈夫、と自負した雪歩も、未だ胸に不安と懐疑心を残していた律子も、そんな彼女の姿を目の当たりにしてようやく警戒心を解く
ことができた。

雪歩「すごいの……かなぁ? 私にはよくわからないですぅ~」

律子「あまり分からなくても困らないと思うわよ?」

ヒビキ「そんなことないぞ! きっといつか役に立つことだってあるさー!」

 月夜の晩の楽しい時間、辛い現実を忘れられる時間もそう長くは続かない。当然といえば当然だ、彼女たちは侵略されている立場なのだから。

ハムゾー「――ジュイッ!!」バッ

ヒビキ「っ!? 強制起動! どうしたんだハムゾー!?」

ハムゾー「ジュ、ジュジュイッ!」

 ハムゾーは体も小さく、戦闘力も皆無だがその代わりに危険を察知するセンサー機能が優れている。ヒビキは万が一のために身の危険が迫った際には
強制的に休眠モードを解除、自分に知らせるようにセットしていた。
そして、ハムゾーがヒビキにしかわからない言葉で伝え終わったと同時に、地を底から揺さぶるような振動が山中を駆け巡った。

ヒビキ「ま……まさかアズサイズかっ!?」

 ヒビキが血相を変えながら大慌てで外に飛び出す、他の3人もそれに習う。

?「お久しぶりです、ヒビキ」

 満月をバックに揺れる銀髪、豊満な体を覆い隠す布はあまりにも少ない面積で妖艶に光る。

ヒビキ「タカネ……」

タカネ「やっと見つけました、アズサイズの修繕作業が想定よりも遅れておりますので、私が迎えに来ましたよ?」

 両手にドリルを装着した怪ロボット、ユキドリルの頭頂部分から声が降る。

雪歩「ひいっ、また怪ロボットさんですぅ~……どちら様ですかぁぁ」

ヒビキ「タカネ……ハルシュタイン軍団の刺客だぞ」

タカネ「さぁ、アマーミへ帰りましょうヒビキ、ハルシュタイン総統もお待ちになっておりますゆえ」

ヒビキ「お、お断りだぞっ! みんな逃げるんだ!!」

 呆けている3人に逃げるように促し、自分は小屋の中へ舞い戻る。決してタカネに渡してはならないもの、ハルカイザーの図面は確実に
確保しなければならない。床に広げっぱなしだったキサラギの図面と立てかけておいた円筒を乱暴に掴みとり、家族を確認する。
すでにハムゾーが全員の起動を済ませていた。

ヒビキ「早く逃げるぞ!」

 風化してボロボロになった敷物に足を取られるが、気にすることもなく再び外に飛び出す。状況を確認せず不用意に飛び出した彼女を待っていたのは
大量の土の壁だった。

ヒビキ「ちっ……! こっちはダメだ! 窓から出るぞ!」

 即座に判断して窓からの脱出を選択する。アクション映画さながらのダイブで外に転がり出ると、後方にはドリルで地面を掘り起こすユキドリルの姿。

ヒビキ「みんなはもう逃げたみたいだな……目標が自分で良かったぞ」

ヒビキ「みんな森のなかへ! 離れちゃダメだからな!」

 走りだそうとした足は一瞬で止まった。乗用車サイズの岩が目の間にいくつも降り注ぐ。

ヒビキ「――っ!?」

タカネ「逃げ場はありませんよ? これが最後のお願いです、どうか大人しく私と共にアマーミへ来てはいただけませんか?」

ヒビキ「こ、断るぞ!」

タカネ「そうですか……実に残念です」

 まるで駄々をこねる子供を見るような目でタカネは震える少女を遥かから見下ろす。一瞬悲しそうな表情を見せるが、すぐに左手の操縦桿
を操作してユキドリルの装備、ツインドリルを天高く振り上げた。

ヒビキ「そのロボットを作ったのは自分さ! それは掘削作業用のロボット、人に攻撃しようとしても安全装置が作動してできないぞ!」

タカネ「ええ、知っています……貴方が作り、最初に私に乗ってくれと頼んできたのですから……友よ」

ヒビキ「じゃあどうして!」

タカネ「仕方が……仕方がないのですっ!」

ヒビキ「今からでもまだ間に合うぞ! こんなことやめるんだタカネッ!」

タカネ「すみませんヒビキ……」

タカネ「穴掘って、埋めて差し上げます!」

 高速回転するドリルがヒビキの目の前に迫る。毎分10トンを超える掘削力を持つツインドリル、いくら直接的に攻撃を加えられないとは言え、
体の近くで穴を掘られてしまえば土砂に生き埋めにされるのは確実。ヒビキは、涙の流れる瞳をきつく閉じた。

――ギャギャギャギャギャ!!!!

 掘削音は聞こえている、でもいつまで経っても体が埋まっていくような感覚がない……不審に思ってゆっくりと目を開けると、そこには異様な
光景が広がっていた。
ヒビキが家族と呼び、愛する小型ロボットたち。1匹1匹に大した戦闘力など無いが、その彼らが総出でドリルを止めていた。

ヒビキ「お、お前たち……」

ハムゾー「ジュイッ!(ここは俺達に任せろ!)」

イヌミ「ガウッ! ウゥー!(ヒビキは逃げて! はやくっ!)」

ヘビカ「シャー!(あまり持たないわ!)」

ネコキチ「ウニャウ! シャー!(ちっ、こいつぁ貧乏クジだぜ!)」

 お互いの体を支えあい、がっちりと固まりながら強力なドリルに対向するロボットたち。だが、高回転する岩砕用ドリルと小型ロボットに
用いられる軽金属では耐久度が違いすぎる。派手な火花を散らしながら、確実に彼らの体は削り取られていく。

ヒビキ「もういい! よすんだー!!!」

 ヒビキの叫びをトリガーとするように、膨大な量の土煙が辺り一面に立ち込める。


 土煙が晴れ、視界がクリアになって見えるのは、大きな穴と一本の円筒。

タカネ「申し訳ありません、ヒビキ……私は――故郷の民を見捨てるわけにはいかないのです」

 円筒を回収し、帰路につく貴音の頬は、確かに濡れていた。

【衝動 雪歩side】

 逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ……頭で体に命令を送ってもどうしても体が言うことを聞かない。
どうにか大きな木の後ろに体は隠したものの、息は上がって頭がガンガンして、立っているだけで精一杯という有り様。

――こ、断るぞ!

雪歩(ヒビキちゃんが襲われてる――)

――そうですか……実に残念です

雪歩(これは、タカネって人の声――)

千早「ゆき……は……なさ……!」

律子「こっ……いそ……で!」

雪歩(向こうで何か叫んでる、聞こえにくいぁ――)

雪歩(みんな戦ってます、アミちゃんもマミちゃんもヒビキちゃんも――)

――穴掘って、埋めて差し上げます!

雪歩(ああっ! ダメですぅぅ!)

――お、お前たちっ!

雪歩(ハムゾーちゃんも、イヌミちゃんも、ヒビキちゃんを守るためにあんなに必死になってます――)

雪歩(私、いつもひんそーでひんにゅーでちんちくりんで、色んな所に穴掘ってみんなに迷惑かけて――)

 いつもどこから取り出すのかと不思議がられるスコップ、手に握ったのは無意識のこと。

雪歩(でもこんな時に掘れなかったら――)

千早「お願い萩原さん……やめて……」

雪歩(萩原の家の一人娘として、胸張って家に帰れません!!)

律子「やめなさい雪歩ー!!」

 足が軽い、いつもよりもずっと早く体は加速していく。普段の自分なら怖くて目をつぶってしまうような光景も、今は映画のスクリーン
を見ているような気がする。

 あと5メートル。

雪歩(いつもダメダメな私を気にかけてくれるプロデューサーさんや律子さん、社長さん)

 あと4メートル。

雪歩(無口だけど、私が辛い時はそばに居てくれる千早ちゃん)

 あと3メートル。

雪歩(いたずらばっかりしてるけど、事務所に笑いを届けてくれるアミちゃんマミちゃん)

 あと2メートル。

雪歩(そして、やっと友達になれそうな気がしたヒビキちゃん)

 あと1メートル。

雪歩(私にできることなら、なんでもやりたいんですぅ!)

 ゼロ。

雪歩「穴を掘るのとお茶を淹れるのは、私の専売特許ですぅぅぅ!!!」

 大きく振りかぶったスコップを腰が抜けて動けないヒビキの真後ろに突き立てる。チタン合金をも掘り抜く脅威の人力スコップと、作業員
1000人の一日仕事をたったの10分で終わらせる掘削ロボット。

 世紀の対決のゴングが――今鳴った

……

…………

……………… 

『ヒビキちゃん! ヒビキちゃん!!』

 ヒビキが少女の悲壮な声に目を覚ますと、瞳いっぱいに涙を貯めた雪歩が自分のことを見つめていることに気づく。

ヒビキ「ん……ゆきほぶふぅっ!!」

雪歩「良かったですぅ!」

 急に抱きつかれ、肺の空気を出しきってしまって声も出ない。懸命に背中を叩いてどうにか引き剥がし、息を整える。

ヒビキ「ぜぇっ、ぜぇっ……ここは、真っ暗だぞ? もしかして自分は死んだのか?」

ヒビキ「あれ? あの上に見える光……ここってもしかして穴の中なのかっ!?」

雪歩「はい! 私が掘った穴ですぅ」

ヒビキ「ほ、掘ったって……こんな深い穴人力で掘れるワケないぞ!」

雪歩「掘れますぅ! 伊達に毎日掘り続けてきたわけじゃありませんから!」

律子「それが掘れるのよこの子は……まったく無茶して! 今からロープ投げるから気をつけなさいよー」

千早「無事なのね、良かったわ……本当に良かった」

 呆れた様子で穴にロープを投げ入れる律子と、目尻に浮かんだ涙を隠すようにそっぽを向く千早。その姿を見てヒビキもこれが本当に
雪歩の掘った穴なのだと理解する。

 律子の投げ入れたロープでようやく外に出ると、東の空は既に白み始めている。

ヒビキ「そうだ! 家族たちは! 家族たちはどこだ!?」

ハムゾー「ジュイ!ジュジュイ、ジュジュジュイッ!(よ! ちゃんと生きてるぞ! 他の皆は疲れて寝ちまったけどな)」

ヒビキ「良かったぁ……ほんどーによがったぞぉぉぉ……」

 緊張の糸が切れたのか、へたり込んで大粒の涙を流すヒビキ。それに合わせるように雪歩も膝を折って座り込んでしまう。

雪歩「な、なんとか助かりましたぁ~」

千早「無茶をするのだから……」

律子「あの怪ロボットに穴掘りで勝つなんて、本当に穴掘り系アイドルで売りだしたほうがいいのかしら?」

千早「穴を掘り続けた高校生がブラジルまで到達してしまうハチャメチャコメディの主役なんかに抜擢されてしまうかもしれないわね」

雪歩「な、なんかやけに具体的ですぅ」

ヒビキ「忘れてたぞ! 図面、ハルカイザーの図面はどこだ!?」

 自分の手に持っているむき出しの図面を見て急にせわしなく辺りを探し始めるヒビキ。その後ろから、雪歩が申し訳無さそうに声をかける。

雪歩「あ、あの……ごめんなさい! あの図面は上に投げて怪ロボットの人に持って行ってもらっちゃいましたぁ!」

 腰を90度に曲げて謝るタカネに、ヒビキは青い顔で詰め寄る。

ヒビキ「な、なんてことしたんだ! あれがハルシュタインの手に渡れば……とんでもないことになるんだぞ!」

ヒビキ「助けてくれたことは感謝してるぞ? でもあの図面を守るために必死に逃げてきたのに……」

律子「いい加減にしなさいっ!」

――パシンッ!

ヒビキ「な……なにを……」

律子「今更過ぎたことをグチグチ言わないの! それに雪歩があの図面を渡していなかったらあのタカネって人はまた貴方を探すでしょう?
そうなればいくら雪歩といえど2回目は逃げ切れない……私はその判断が間違っていたなんて思わないわ」

千早「そうね、私も正しい判断だったと思うわ」

千早「それに、私思うのだけれど、彼女は貴方と何か特別な関係にあったように感じたわ。違うかしら?」

ヒビキ「それは……実は、タカネはアマーミで唯一の自分の友達さ……」

千早「やっぱりね。では、彼女が図面を持ち帰れなかった場合、彼女のアマーミでの立場はどうなるのかしら?」

 ヒビキの顔に影が落ちる。少し考え込んだ後、ぽつりぽつりと語り出した真実は、残酷なものだった。

ヒビキ「自分はうちなーの出身さ、だからアマーミではあまりいい扱いは受けてなかったぞ。タカネも同じで、詳しいことは教えてくれないけど
どこか違う国からアマーミにやってきたみたいなんだ」

ヒビキ「アマーミは格差の大きな国だぞ。自分の故郷はまだハルシュタインの勢力圏外だから今は何もされないと思うけど、さっきの口ぶり
だとタカネの故郷はアマーミに侵略されてるみたいさ」

千早「つまり、どういうことなのかしら?」

ヒビキ「タカネが任務に失敗したり、図面を持ち帰れなかったりしたら……ハルシュタインは腹いせにタカネの故郷を消すかもしれないってことだぞ」

律子「そんな! そんなことが許されるわけが……」

ヒビキ「許される許されないじゃないぞ、ハルシュタインがそうするか……しないかなんだ」

雪歩「むちゃくちゃですぅ……」

千早「なら、あの時の萩原さんの判断はやっぱり間違っていなかったようね」

ヒビキ「そんな! あの図面をアマーミに持ち帰れば、早ければ1周間でハルカイザーは実用段階まで完成するんだぞ!」

 そんなヒビキの心配をよそに、3人は笑いながら顔を見合わせる。

千早「心配ないわ、そうさせないためにアミとマミは戦おうとしているのだから」

律子「そうね、あのじゃじゃ馬コンビを止められる人間なんて、そういるもんじゃないわ」

雪歩「そうですよぉ!」

千早「だから今貴方……我那覇さんにできることは何かしら?」

雪歩「ヒビキちゃんはもともとアマーミの人ですぅ、弱点も怪ロボットの情報も沢山知ってるはずですぅ!」

律子「そうね、だから今はアミとマミに戦いは任せましょう! ちょっと心配だけど、我が765proのアイドルなんですもの! ちゃちゃっとハルシュタイン
くらい倒してもらわないと困るってもんよ!」

ヒビキ「先に倒さなきゃいけないのが山ほどいるぞ……でも、そうだなっ! 今更心配してもしょうがないさー、自分完璧だからな! 持ってる知識を総
動員して、活路を見出すだけだぞ!」

 ようやく立ち上がったヒビキを中心に、地平線に登り始めた朝日を見つめる。アミとマミだけではない、またここでも、新たな戦いが幕を開けていた。

投稿ここまで

ほんと毎回毎回ちょこちょこで申し訳ない、もう少し書き溜めてから始めればよかったと後悔してます
暇つぶしと言ってはなんですが1作目のアイマスSSでも投下しようかと思ってるんですが、別板に投下したSSと重複しても大丈夫なものなんでしょうか?

大丈夫じゃない?他のところに書いたのをこっちにそのまま書いてる人もいるしただ新しくスレたてしてそこで書いた方がいいかも

>>106
分かりました、書き溜め進めつつ1作目投下して時間を稼ぎますwww

>>107
なぜ草が生えるのか…

>>108夜勤なので朝方のアルコールが入ったテンションです、申し訳ない

千早「好敵手(ライバル)」美希「なの!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1427283169/)
一作目SSを投下してます、こちらの完結までの暇つぶしにでもどうぞ

【地下施設】

 高木、小鳥、そして双子とミキは再び地下施設へと足を踏み入れていた。

高木「ふぅむ、キサラギのメンテナンスはほぼ完了したようだね……やはりリッチェーンはもう少し時間がかかるようだ」

ミキ「それは残念なの、でもアミとマミが頑張ってくれるから問題ないって思うな!」

マミ「ミキミキ→、人任せは良くないよ→?」

アミ「ま、頑張っちゃうけどNE!」

小鳥「ふふっ、ホント、つい先日初陣を果たしたとは思えない落ち着きっぷりよね3人とも」

アミ「ところでぴよちゃんはなんでここにいるの? 兄ちゃんたちと一緒に逃げたんじゃなかったっけ?」

小鳥「私を誰だと思ってるのかしら? 765proの事務を全て一人でこなすハイパー事務員さんですよ! 高木社長に頼まれてここでオペレーターをやる
ことになったのよ」

マミ「ハイパーなのに結婚できないんだねぇ……」

高木「こ、こらマミ君っ! ああ……いじけてしまったじゃないか……」

マミ「ご、ごめんってばぴよちゃん! 世の中のオトコがいけないんだよ、こんなにナウいイマドキギャルを放っておくなんてサ!」

小鳥「言葉の節々から昭和の香りを感じるわね……」

高木「それはさておき」

小鳥「さておかれたっ!?」ガビーン

高木「キサラギはもうすぐにでも出撃できる状態になっている、ということはつまり相手さんもいつ侵略を再開してきてもおかしくないということだね」

アミ「いつでもこいって感じだよ!」

ミキ「アミはやる気マンマンなの! あれ、電話なの? ちょっとお話してきてもいいかな?」

高木「うむ、構わんよ」

 着信を知らせる画面を見て首をかしげつつ、ミキは少し離れた場所へと移動する。

アミ「カレシ……とか? んっふっふ~、ミキミキはせくちーだいなまいつですからなぁ!」

マミ「私達には負けるけどね! うっふ→ん」

高木「は、はは……」

小鳥「10年後に期待ってところかしらね……」

……

…………

………………

ミキ「もしもし? ミキなの」

 電話に出ると、無線機では聞き慣れた声が鼓膜を揺らす。

ヒビキ「はいさい! 突然電話してごめんさー」

ミキ「構わないの、でもお話なら無線機でやったほうがいいって思うな? これじゃミキにしか分からないの」

ヒビキ「これは……ミキだけに知らせたい話なんだぞ」

 少しだけ、声色が暗くなる。

ミキ「? どうしたの?」

 キョトンと首をかしげる仕草、彼女はこの仕草だけで一体何人の男を虜にしてきたのだろうか?

ヒビキ「話っていうのは、リッチェーンのことさー」

ミキ「リッチェーン? まだ治ってないよ?」

ヒビキ「うん、それは高木しゃちょーに聞いたぞ。そうじゃなくてさ、リッチェーンと……キサラギの関係についてだぞ」

ミキ「うん、詳しく聞かせて欲しいな」

ヒビキ「落ち着いて聞くんだぞ?」

 そう前置きしたものの、言いよどむヒビキ。歯切れの悪いヒビキの物言いに少しだけ苛ついた表情を見せるミキだが、急かすことなく
続く言葉を待った。

ヒビキ「……リッチェーンはキサラギの補助ロボットじゃないんだ、リッチェーンはリミッターなんだぞ」

ヒビキ「図面の一番下に説明書きみたいのがあったんだ、それによれば……キサラギはリッチェーンがいると本来の力を発揮できないようなことが
書いてあった。つまりだな……キサラギの手でリッチェーンを破壊、搭乗者を倒すことによって、本来の力である『OVER M@STER MODE』が初めて
使えるようになるってことさー」

ヒビキ「正直このオーバーマスターモードっていうのがどれほどの力を持っているのかは自分も分かってないんだ、けど……この先アマーミと戦って
行く上で重要な機能だってことは、間違いないと思うぞ」

 残酷な宣告。だが、ミキの心のなかは自分でも驚くほどに落ち着いていた。

ミキ「じゃあ、ミキが乗ったリッチェーンをキサラギに倒してもらえば、ミキたちはアマーミに……ハルシュタインに勝てるの?」

ヒビキ「そういうことだぞ……でも! 色々考えてみるさ! もしかしたらリッチェーンを倒さなくても済む方法があるのかもしれないからな!」

ミキ「もし、そんな方法が無かったり、その前にハルシュタインが攻めてきたりしたら?」

ヒビキ「そ、それは……」

ミキ「うん、意地悪言ったと思ってるの、ごめんね? でもね、お姉ちゃんのカタキは、どうしたって取りたいの! それがミキの手じゃなくて、
アミとマミの手だとしても……それを手伝えるなら、ミキは死んじゃっても本望だって思うな」

 ミキの姉、奈緒は教育研修でとある国に1ヶ月ほど滞在する予定だった。そして運悪く、その国をハルシュタイン軍団が襲撃したのだった。
彼女は倒壊した建物の瓦礫の下から発見された。頭部から血を流し意識も朦朧とする中、研修先の中学校の生徒を落下する瓦礫から庇い続けていた。


ミキ「ミキはね、ハルシュタインを許せないの。ホンネを言うとミキの手で決着をつけたいんだけど……もしアミとマミに任せたほうが可能性があるなら、
ミキは喜んでそのために倒されるの!」

ヒビキ「……忘れないで欲しいさ、これは絶対に最後の手段だからな!?」

ミキ「分かってるの、ミキだって簡単に死んであげるつもりはないの! あはっ☆」

……

…………

………………

>>117訂正

奈緒「お願いします! この子を……この子を助けて下さい! ミキと……妹と同じくらいの歳なんです――!」

 最後の言葉は、日本に住む妹を想いながら。そして彼女は、2日後に搬送先の病院で息を引き取った。


ミキ「ミキはね、ハルシュタインを許せないの。ホンネを言うとミキの手で決着をつけたいんだけど……もしアミとマミに任せたほうが可能性があるなら、
ミキは喜んでそのために倒されるの!」

ヒビキ「……忘れないで欲しいさ、これは絶対に最後の手段だからな!?」

ミキ「分かってるの、ミキだって簡単に死んであげるつもりはないの! あはっ☆」

……

…………

………………

高木「ん? 電話は終わったかね?」

ミキ「お待たせしましたなの」

アミ「んっふっふ~、カレシですかな→?」

マミ「ミキミキもスミに置けませんな→」

ミキ「違うの、ヒビキなの」

 早速からかいに来た双子を軽くいなす。

小鳥「ヒビキちゃん? 何か話があるなら無線機を使ってくれれば良かったのに……」

ミキ「違うの、この前ヒビキにアミとマミと遊びに行った話をしたら、ズルイ~って電話してきたの!」

ミキ「多分、恥ずかしかったんじゃないかなって思うな! あはっ☆」

 普段と変わらぬミキの表情に、誰しもが疑いを持つことも無かった。

 だが、ミキの心のなかには、ある固い決意が燃えている。

ミキ(ハルシュタイン……お前を倒すためなら……ミキはっ!!)

《余談》

――登場人物、及びロボット紹介――

『双海マミ』……765proに所属する新人アイドル。双子ではあるが、先に産まれたため姉。常にイタズラを考えたり、妹とじゃれ合ったりしている
歳相応の子供ではあるものの、時に大人びた一面を見せる。髪を左側で結び、妹よりも少し長く伸ばしている。
キサラギに搭乗する際には向かって左側。

 予知夢を見てから悩む妹に気づく気配もなく、単純な好奇心でキサラギに乗ることを決断したように思われているが、果たして……?

『双海アミ』……姉と同じく765pro新人アイドル。後に産まれたため妹。行動のほとんどを姉と共にし、イタズラや人へのちょっかいに余念がない。
姉よりも精神的にほんの少し子供。髪を右側で結んでいる。
キサラギに登場する際は、姉と反対の右側へ乗る。

 後にキサラギのコントローラーとなる時計をフリーマーケットで購入した翌日、自分の住む街が崩壊する夢を見る。そしてそれが現実になりかけて
いる今、キサラギに乗り街を守るために戦うことを決意した。

『IMR―765―S キサラギ』……アミ・マミを搭乗者とする巨大歌謡ロボット。本来人間が搭乗して動かすように設計されていないらしく、コクピット
が存在しない。よって両名は肩に乗り、顔の横にある整備用のハシゴを掴んで体を固定せねばならない。
主な装備は特殊シリコンと柔金属の組み合わせで作られた発声部、胸の中に収納されている声帯を模した機関と、それを守るために搭載されたであろう
『鏡面装甲』。
他のロボットと違う電気回路を搭載することにより、最新型である第4世代の1,8倍の瞬間出力を持つ。(型落ちの第3世代としては異例)
リッチェーンを倒すことによって『OVER M@STER MODE』が発動可能になるらしいが、詳しいことは未だ不明。

『ミキ』……金髪グラマーボディの中学生。脅威のFカップと独特の喋り口は男性の心を掴んで離さない。
姉をハルシュタイン軍団に殺された過去を持ち、ハルシュタインを倒すことに執着している。日本への初侵略時、沖縄の戦いにおいて初陣でありながら
ハルシュタイン軍団を撤退させるなど、天才的な勘を持つ少女。

『IMR-765-N リッチェーン』……顔の両側におさげのように大きな鉄球をぶら下げた巨大戦闘用ロボット。指の中には30mmガトリングガン副装として
搭載している。キサラギと同じく第3世代型ロボット。
今までキサラギの補助用ロボットであると考えられていたが、ヒビキによってキサラギのリミッターの役割を果たすロボットだと判明する。
先日の戦闘で大破し、現在補修作業のためドッグ入りしている。

『ヒビキ』……元アマーミ国の科学者。ハルシュタイン総統のやり方に反発し、アマーミを飛び出してきた逃亡者。故郷のある日本へ逃亡するが、滞在
していた沖縄を襲撃され、東京へ。765pro事務所に逃げ込んだことにより、物語が始まる。ロボットの図面に目を通すだけで構造欠陥や弱点などを見抜く
ほどに精通し、現在は場所を転々としながらアミ・マミにアドバイスをしている。
家族と呼ぶ小型ロボットを10体所有しており、その全てが別々の動物を模している。

『高木』……765pro社長。ただのアイドル事務所のトップであるはずだが、異常に顔が広く、本人曰く『日本の防衛を担う人物と知り合い』。
キサラギとリッチェーンの保管場所を管理しており、アミ・マミとミキにロボットに乗り戦うように促した人物。

『P』……765pro所属プロデューサー。1年ほど前に高木社長にスカウトされ入社。アイドル達や同僚プロデューサー、事務員からの好意に気づかない
鈍感な男。

『秋月律子』……765pro所属プロデューサー。女性の多いアイドル事務所でPに気を使ったり、多感な女の子を細やかな目線でフォローする敏腕。
時たま社長に噛み付いたりと、アイドルへの愛が溢れ出るような一面を見せる。

『如月千早』……歌唱力に定評のある765pro所属アイドル。駆け出しではあるものの、業界でその歌声の評価は高く、歌番組等にも出演依頼が来ている。
歌うこと以外に興味のない様子だが、雪歩のことを涙を流すほど心配するといった一面を持つ。

『萩原雪歩』……765pro所属アイドル。困ったことがあったり、落ち込んだりするとどこからかスコップを持ちだしてどこにでも穴を掘り始めるという
特異な癖を持つ気弱な少女。犬と男性が苦手。実家には強面の父と『お弟子さん』が沢山出入りしている。
タカネの操るユキドリルに襲われていたヒビキを穴を掘ることで間一髪救出するなど、その穴掘りテクニックは留まることを知らない。
噂によると、ただのスコップでチタン合金の壁をブチ抜いたことがあった……らしい。

『音無小鳥』……765pro事務員。事務所内の雑務や事務仕事を全て一人でこなしてしまうやり手。結婚できないことが悩み。
アズサイズの襲撃後、一度は安全のため避難するが、再び地下施設へ戻り、高木と共にオペレーターとして街の防衛に参加する。

『イオリ』……ハルシュタイン軍団の1人。アミ・マミと同じくらいの年齢でありながら、ヒビキの捜索に単騎で向かうほどの実力者。目的以外には
興味が薄く、逃げ惑う人々を見ても感情を乱すことがないほどに冷徹。
時折戦闘狂の一面を見せるが、普段の戦いではうまく抑えこみ、戦果を上げてきた。
現在キサラギの不意打ちにより大破、アマーミにて補修作業に入っている。

『アズサイズ』……イオリの操る怪ロボット。胸部に装着されたtype―Fミサイルを2発同時に発射可能。主兵装は頭部にある鎌、超音波振動ブレードにより
驚異的な切れ味を誇る。収納時は強力な広範囲レーダーや受信・妨害アンテナとして使用。精度は落ちるものの、武器として使用している間にも電波の
受信だけはできる。
第3世代の整備性の悪さや部品耐久度を見直された第4世代ロボット。

『タカネ』……ハルシュタイン軍団の刺客。大きな胸と突き出たお尻を持つ銀髪の女性。ヒビキとはアマーミで親友であったが、ハルシュタインに故郷
の命運を握られ、仕方なくヒビキを連れ戻しにやってきた。
抵抗するヒビキをユキドリルで攻撃、後にハルカイザーの図面を持って帰還。月明かりに照らされた横顔には涙の跡が残っていた。

『ユキドリル』……本来の姿は掘削や岩砕などを行う建設用のロボット。タカネによって怪ロボットとして運用された。
両手に付けた大きなドリルアタッチメントが特徴。キサラギと同じく戦闘用に開発されていないため、頭頂部に乗って操縦する。人間に攻撃しようとすると
安全装置が作動して停止するため、タカネは『穴を掘って対象を埋めてしまう』という攻撃方法を取った。旧式の第2世代ロボット。

『マコト』……ハルシュタイン親衛隊の1人。端正な顔立ちにハスキーな声で乙女を虜にするイケメンだが、実は女性。
油断し敗北したイオリに無線で帰還を呼びかける。ハルシュタインに絶対の忠誠を誓う。

『ハルシュタイン』……新生アマーミ国総統。千早やヒビキと同年代ながら、絶対的な力を至高とし、世界侵略作戦《太陽のジェラシー》を推し進める独裁者。
頭に付けたかわいらしい2つのリボンとは裏腹に、極めて冷徹な少女。ハルカイザーの図面を持ちだして逃げたヒビキを追い、日本への侵略を決行する。

『ハルカイザー』……アマーミ国が開発しているハルシュタイン専用機。詳細不明。

『ヤヨイ』……???

『三浦あずさ』……???

【地下施設 修理ドッグ】

高木「見たまえ、外観はほとんど破壊される前と変わらないだろう? と言ってもキサラギはダメージチェックのみだからいつだって出られるんだがね」

ミキ「リッチェーン……治って良かったの」

 申し訳無さそうな表情で補修作業を受ける自分の機体を見上げるミキ。

高木「リッチェーンも明日の朝には出撃可能な状態に仕上がるそうだ、だがまだ万全とは言えない。出撃があるにしても、無理はしないようにね?」

ミキ「わかってるの、あんな失敗……もうしないの!」

小鳥「あまり気にしすぎないようにね?」

マミ「そうだYO! 迷えば刃は鈍るっ!」

アミ「ただ一刀両断、敵を斬るのみっ! だNE!」

高木「キミたちぃ、いつの間にそんな難しい言葉を覚えたんだね?」

マミ「バカにされてるよっ!?」

アミ「あうあうあ~、アミたちそんなにポンコツじゃないもんっ!」

 補修作業が進んでいく機体に、飛び散る溶接の火花。着々と進む戦いの準備を横目に、4人は施設の奥へと進む。

【新生アマーミ国】

イオリ「お任せください、次こそは奴らをコテンパンにしてみせます!」

 珍しくうさぎの人形を部屋に置いてきたイオリは、正面にいるであろう人物に目を合わせることの無いように顔を伏せる。

マコト「次は前回のような失敗は許されない、わかっているんだろうな?」

 腹立たしい声、心の奥で舌打ちしながらも、ハルシュタイン総統に失礼のないように返答する。

イオリ「分かっております、あのリッチェーンとキサラギとかいうロボット、このイオリが粉砕してご覧に入れましょう」

ヤヨイ「うっうー! 頑張ってくださいー!」ガルーン

 堅物、という表現がピッタリのマコトと対照的に、向かって左に控える少女は愛らしさをいっぱいに振りまいている。頭を大きく下げて両手を後ろに
跳ね上げるお辞儀の仕方は、アマーミの中でも『ガルウィング』と呼ばれ親しまれていた。

ハルシュタイン「タカネも連れて行きなさい」

 フードの奥、顔を伺うことは出来ないが、確かにそれはかの侵略者の声だ。

イオリ「し、しかしっ! 私だけで十分ですハルシュタイン総統閣下! あの女など連れて……」

 連れて行っても仕方ないじゃない! そう言おうとして口をつぐむ。故郷を奪われ、ただ一人の親友とも引き離された女、タカネ。自分の怪ロボット
も持たず、大した戦力になるとも思えない。
だが、ハルシュタインに逆らうことなど許されるわけが無かった。

ハルシュタイン「彼女は使える。どちらにしてもタカネの故郷はこのハルシュタインの支配地だ、逆らえる訳がない」

ハルシュタイン「もしタカネが裏切るようなことがあれば……こうだ」

 宙に差し出した手を握るような仕草、それは『タカネの国などいつでも握りつぶすように破壊できる』ことを意味している。そしてその表情……
イオリは背中に冷たいモノが流れるのを感じた。

イオリ(ど、どうしたらあんな顔ができるのよ……普通じゃない、普通じゃないわよコイツッ!)

 足の震えが止まらない、脂汗がにじみ出てくるのをイオリは必死で抑えていた。戦闘中に恐怖など感じたことがない彼女も、ハルシュタインの前では
恐怖を感じる自分を止められない。

 やがて、ハルシュタインは手を広げ、冷たい瞳で命を下す。

ハルシュタイン「さぁ、行きなさい! 我が野望を実現するために!」

マコト・ヤヨイ・イオリ「「「イエス! マイ・ロード!」」」

アマーミ国 地下監獄】

 石造りの螺旋階段をゆらゆらとロウソクが照らしだす。決して強いとは言えない光は足元を明るくするというには頼りなく、気をつけていないと
転がり落ちてしまいそうだ。そんな中、慣れた足取りで軽やかに下へと向かう少女の姿。
ハルシュタインの側近の1人、ヤヨイだった。

ヤヨイ「~♪ ~~♪」

 鼻歌交じりに1段飛ばしで向かう先は、重犯罪人を収容するAエリア。たったの5部屋しかないこのエリアを守る看守が彼女を止めようとするが、
背中に生えた一対の白い羽を見てすぐに直立不動の体勢を取る。

看守「お、お疲れ様ですヤヨイ様!」

ヤヨイ「おつかれさまですー!」

 手に持った皿のせいでガルウィングができない彼女は、少し考えて普通にお辞儀を返す。

看守「今日も彼女にですか?」

ヤヨイ「はい! ご飯はしっかり食べないと体に悪いんですよ~?」

看守(囚人に体に良いも悪いも無いと思うんだけどな……)

 そんなことを言えるはずもなく、看守は道を譲って奥の部屋へとヤヨイを通す。140cmちょっとのヤヨイでも、頭を下げなければぶつかってしまう
狭い入り口を抜けると、そこには一本のロウソクで照らされるのみの10畳ほどのスペース。その決して広いとは言えない空間をさらに5つに分断する
鉄柵の一つにヤヨイは語りかける。

ヤヨイ「そろそろお腹空いてないかなーって、ご飯持ってきたんですよ~!」

 ワンプレートにまとめられた夕食を持ち上げてアピールすると、奥のほうでゴソゴソと何かが動く気配。

?「あらあら、ヤヨイちゃん。また来てくれたんですね~お姉さん嬉しいわ、うふふ」

ヤヨイ「はい! あずささんとお話するの楽しいですからー!」

 ロウソクの光の下、現れたのは――765pro所属、お色気担当、三浦あずさであった。

……

…………

………………

ヤヨイ「でね、私がこういう仕事をしてるって知ったら長介たちがあんまりご飯を食べてくれなくなっちゃったんです」

 さしずめ、懺悔室と言った所か。家庭と自分の事情でハルシュタインの元にやってきたヤヨイは、自分のやっていることに一定の葛藤を抱いていた。
そこに囚人として現れたあずさ、ヤヨイは誰にも話せない心の中を打ち明けるため、よくこの監獄を訪れていた。

あずさ「あらあら、どうしてなのかしら?」

ヤヨイ「悪いことして稼いだお金でご飯なんて食べたくない~って言うんですよ? 昔は家族で安売りしてるもやしとかを食べてたんです、やっとびんぼー
じゃなくなったのに!」

あずさ「よしよし、ヤヨイちゃんは頑張ってるのね」

 優しく頭を撫でる年上の女性、ヤヨイの目は段々と細まっていく。

あずさ「それにヤヨイちゃんは悪いことなんてしてないじゃない? 迷子になっていた私を連れてきてくれて、お部屋とご飯まで頂いちゃって……
本当に感謝してるのよ?」

ヤヨイ「そんな……私は……」

あずさ「大丈夫よ」

ヤヨイ「だいじょうぶ、ですかぁ?」

あずさ「ええ、大丈夫」ニコッ

ヤヨイ「えへへっ、やっぱりあずささんは優しいなーって!」

 天然か、計算か――あずさの包容力は、蝕まれたヤヨイの心を確実に溶かしていった。感情を表す犬の尻尾のように、ヤヨイの美しい羽がパタパタと
羽ばたきだした。

あずさ「ところでその羽、うまくできてるわ~、どうやって動かしてるのかしら?」

 少しばかり仰け反るような形でヤヨイの背後に回りこみ、あずさは揺れる羽をしげしげと見つめる。

ヤヨイ「これはちゃんと生えてるんですよー!」

あずさ「あらあら~、天使みたいね! ヤヨイちゃんがこんなにもかわいいのは、きっと天使さんだからなのね、うふふ」

 天使みたい、と言ったのは半分当たりで、半分ははずれであった。彼女――ヤヨイは人間と天使の間に産まれた稀有な子である。もっとも、彼女自身
両親が家にめったに帰ってこない理由など、知るわけも無かったのだが。
しかしその姿ゆえ幼い頃からいじめを受け、事実を知った母の決断で遥か遠いアマーミへと居を移した。そして、人でありながら天使の羽根を持つ彼女を、
ハルシュタインが気に入り、現在に至る。

ヤヨイ「……ちょっとなら、触ってもいいですよー?」

あずさ「こんなに綺麗なのに触ってもいいのかしら?」

ヤヨイ「普段はあんまり触らせてあげないんですけど、あずささんはトクベツかなーって!」

あずさ「嬉しい事を言ってくれるわ、なら……ちょっと失礼して」

ヤヨイ「んっ……///」

 髪に手櫛を通すような手つきで、羽の表面をなぞる。その感触はいかに上等なダウンであっても叶うことはない滑らかさと、優しさにあふれていた。

あずさ「あら~、ふかふかでサラサラ……味わったことない感触だわ」

あずさ「なんか触っていたら眠くなってきて……ヤヨイちゃん、ちょっとお姉さんのワガママ聞いてくれたりしないかしら?」

ヤヨイ「? なんですかー? 私は家ではお姉ちゃんなので聞いてあげますー!」

あずさ「少し、寝かせて……くれな……」クークー

 返事を待つより早く、あずさはヤヨイの膝の上で寝息を立て始めた。

ヤヨイ「あずささん……? 寝ちゃいましたかー?」

ヤヨイ「寝ちゃいましたねー?」

 何度か確認するも、あずさは起きる気配もなく羽を枕に気持ちよさそうに眠っている。

ヤヨイ「ここは冷えますから、お布団、いりますよね?」

 もう片方の羽をあずさの体の上に置き、ヤヨイはゆっくりと目を閉じた。

ヤヨイ「あずさ……お姉ちゃん……」スー

 ヤヨイの目からこぼれ落ちる涙は、自らの羽に遮られてあずさには届かない。

看守「ヤヨイ様、そろそろ――」

 後に、この光景を目にした看守によって描かれた絵画『聖母マリアと天使の休息』は、巡り巡ってパリに渡った。

 オークション会場は異様な熱気に包まれ、さして有名でもない画家によって描かれた絵画に数百億の高値が付いたのは、また別の話である。

ふぅ、そろそろ仕事いかないとです

予定より随分長くなってしまってます、これが構成力の無さってやつかorz
現在3分の2ほど終わりました。

それではまた

【地下施設】

 朝4時――まだ誰もが寝静まり物音といえばタオルケットが擦れる音と微かな寝息のみ。そんな静寂を、けたたましいサイレンが切り裂いた。

アミ「なにごとっ!?」

マミ「うわあああ!!」

 比較的寝起きのいいアミとマミはすぐに異常に気が付き飛び起きるが、その横でミキは驚くことに寝息を立て続けている。

マミ「ちょっとミキミキ! なんかすごい音してるってば!」

アミ「もしかしてこれ敵が攻めてきたーってやつ!? どーしよミキミキぃ!」

 激しく揺さぶられ、流石に寝てはいられなかったのかミキはようやく上体を起こすと、大きく伸びをした。

ミキ「あふぅ……これはレーダーに敵がうつったときのアラートなの、寝ていいかな?」

マミ「余計にダメっしょ!」

アミ「ほら→! 起きてってばぁ→!!」

 必死にミキを布団から引き剥がそうとするアミとマミ、必死に抵抗するミキ。コントを繰り広げていた3人も、頭上から降る小鳥の声に動きを止めた。

小鳥「シグナルレッド! シグナルレッド! シャイコフカ空軍基地より入電! 敵影2、現在日本に向かって急速接近中です! 接敵まで、あと72分!!
繰り返します、シグナルレッド……」

ミキ「――来たの」

 ミキの顔つきが変わる。パイプベッドの支柱にぶら下げてあった『MIKI』のネックレスを引っ掴むと、ミキは外に走りだす。

アミ「ちょ、まってよミキミキ→!」

マミ「置いてかないでYO!」

 無機質なコンクリート打ちっぱなしの廊下は、蛍光灯と無数の扉が等間隔に並ぶのみの味気ない設計。そこをずっと走って行くと距離感覚を失いそうになる。
しかしミキは迷うことなくある扉の前で立ち止まった。

マミ「ここは?」

ミキ「指令本部なの!」

 ノックもせずに扉を開け放つと、高木や小鳥、その他数名のスタッフが慌ただしく動きまわっていた。

ミキ「敵はどこなの!?」

高木「来たか! すぐに格納庫に向かってくれたまえ、既にリッチェーンも出撃準備は整っている。だが、あくまでも無理はしないように――」

ミキ「アミ! マミ! 格納庫に向かうの!」

 高木が言い終わる前に、ミキは二人の手を掴んで走りだす。

高木「ちょ! 待ちたまえミキくんっ!」

ミキ「時間が惜しいの! 無理はしないのー!!」

小鳥「出撃は3回目だっていうのにあのスクランブルへの対応は流石ミキちゃん、といったところでしょうか?」

高木「しかし、諸注意くらい聞く時間はあると思うんだがねぇ……」

高木「まぁ、やることは何も変わらないんだ。我々も自分たちの仕事をするとしよう」

小鳥「はいっ!」

 小鳥は再び管制モニターに向き合うと、怒涛の勢いでキーを打ち込んでいく。住民への避難警報、重要機関の封鎖、政府高官との連携、やるべきことは
山のようにある。

小鳥「一時間がこんなに短いなんて……初めてかもしれませんねッ!」

 忙しく指を走らせる小鳥の方を一瞥すると、高木も正面に備えてある巨大モニターに目を向ける。

高木「それが、歳を取るということだよ」

 一瞬小鳥の指が止まるが、邪念を打ち消すように頭を振り、作業を再開した。

【格納庫】

整備班(青年)「ミキさんっ! もう用意はできてます!」

 ツナギにキャップの青年がミキに向かって手を振る。背後には完全に元の姿を取り戻したリッチェーン。

整備班(オヤジ)「2人はこっちだ! 急げ急げ! 時間がないぞ!」

 アミとマミを誘導するのは口ひげを蓄えた男性。最初にこの格納庫に2人が訪れた際、大変だろうとチョコレートをくれた人物であった。

アミ・マミ「「おやっさ→ん!」」

整備班(オヤジ)「だーれがおやっさんだバカヤロー! さっさと乗りやがれ!」

 1回の搭乗で勝手を覚えた2人はするするとキサラギの肩までよじ登っていく。元々人を乗せるように設計されていないキサラギに、ロープエレベーター
などという便利装置は搭載されていない。

整備班(オヤジ)「さておめーら、起動だ!」

ミキ「任せてなのっ!」

アミ・マミ「「お→!!」」

ミキ「お昼寝の時間は終わりなのっ!」

――メインスターターユニット 起動

――主電源1番から6番 通電開始

――頭部主兵装 及び副装作動良好

――メインカメラ、サブカメラ、投影開始 メインモニターON 全関節のロックを解除

――射出カタパルトREADY 進路オールグリーン

 最早熟練と言っても過言ではないスピードで起動シークエンスを終わらせる。

ミキ「先に出るのっ!」

 そう叫んで、射出口を圧縮空気の炸裂音を響かせながら飛んで行く。

アミ「こっちも出ますぞ! マミ隊員!」

マミ「りょ→かいであります! アミ隊員」

アミ・マミ「「希煌石(キラジェム)全開!!!」」

キサラギ[クッ……!]

マミ「んなっ!?」ビクッ

アミ「ななななんか喋った!?」

整備班(オヤジ)「あー、それな……なんかメンテナンスしてたら変なとこいじっちまったらしくてな、駆動音が口から出てくるようになっちまったんだよなぁ」

整備班(オヤジ)「まぁ、起動に問題はねーみてーだし、気にしないでそのままいってくれや!」

アミ「なんかよくわかんないけど……」

マミ「そういうことなら……」

アミ・マミ「「行きますか→!!」」

 リッチェーンの後を追うように、キサラギも爆音轟かせ地上へと走る。

 街を守るため、日本を守るため、そして世界を救うための――最終決戦が始まった。

【ロシア上空】

イオリ「私1人で十分だっていうのに、なんでタカネまでついてくるのよッ!」

タカネ「イオリ……仕方無き事、ハルシュタイン総統のご命令なのですから」

 アマーミを出てからずっと、こんな言い合いを続けるハルシュタイン軍団の2人はこんな言い合いを続けていた。背後400mほどに戦闘機が付けてきているものの、
攻撃してくる気配はない。もうそろそろロシアの制空権も抜ける、そうすれば忌まわしきあの街まで10分足らず……考えを先に巡らせることによって、イオリはある
程度の平静を取り戻した。

イオリ「分かったわ、ならタカネ――アナタが先陣を切りなさい」

イオリ「その第2世代の骨董品で、どこまでやれるか見ものだわ、にひひっ♪」

 また、彼女の戦闘狂の一面が顔を覗かせる。どっちに転んでも彼女にとって損はない話だった、タカネが負ければ邪魔者は消え、もし勝ったとしても相手は第2世代
1機に遅れを取ったということになる。どちらにせよ、イオリの汚名を返上するためにも2人で共同戦線を敷く必要など皆無。

タカネ「……分かりました」

 しばし考えを巡らせたのち、意外にもタカネはそれを了承する。

イオリ「へぇ……先に出て裏切るつもりじゃないでしょうね? あの研究者――ヒビキのために」

タカネ「そんなことをすれば故郷は滅ぶでしょう」

イオリ「そうね、ハルシュタイン総統にとってみれば赤子の首の骨をへし折るように簡単でしょうね」

タカネ「そうですね、では――先に参ります」

 嫌味を言っても何も返ってこない。背中に背負った飛行アタッチメントのブーストを最大に、遥か先に進んでいくユキドリルを尻目にアズサイズは進路を少し変える。

イオリ「さぁ~ってと、高いところから見物と洒落込もうじゃないの」

【市街地】

 住民の避難誘導も終わり、もぬけの殻となったビル街で2機は敵を待っていた。
自由に動ける分相手の攻撃の自由度も増してくる公園よりも、多少の被害を出しても地の利を取る――高木の考えた作戦。


ミキ「小鳥、敵はあとどのくらいで来るの?」

 耳元のインカムで繋がったオペレーターに確認を取る。リッチェーンに装備されているレーダーは近接戦用で、遠くから飛来する敵機を先に発見することは難しい。
必然的に施設の広域レーダーが頼りになってしまう。

小鳥「1機先行して向かってきてるわ、エンゲージまであと180秒!」

ミキ「どっちか分かる!?」

 どっちか、それはアズサイズなのかユキドリルなのか? という質問。

ミキ(ヒビキの情報によればユキドリルは旧式のはずなの、こちらの2機を削るよりもミキだけで迎え撃ったほうが効率がいいはずなの!)

小鳥「え~っと、エネルギー反応がこれだから……多分、ユキドリルの方よ!」

ミキ「しめたの!」

ミキ「ふたりとも、ちょっと聞いて欲しいの!」

アミ「ど→したの?」

マミ「もしかしてなんか問題でもあった!?」

ミキ「そうじゃなくて、これからの戦いは――」

 ミキが作戦を伝えているその時、上空ではユキドリルが飛行アタッチメントをパージ。エネルギー反応を示す地点にに猛スピードで落下していた。

タカネ「………………」

 何かを考えこむような表情のタカネ、しかしその思いを読み取る間もなくユキドリルはビルの隙間へと着陸する。
着地点から50mほど先には、リッチェーン。

ミキ「ヒビキから聞いてるの、タカネ――相手はこのミキがするのっ!」

タカネ「……穴掘って埋めて差し上げます!」

 お互いを目指して猛スピードで接近する2機。一方は頭の鉄球を振りかざし、もう一方は大きなドリルを掲げて。

――ズンッ!

 そして、街路樹や窓ガラスを吹き飛ばしてしまうような突風と共に、リッチェーンの鉄球がユキドリルの顔面を捉えていた。

……

…………

………………

【覚悟】

ミキ「どういうことなの」

――ふふっ、本当に分からないといったような顔ですね。

ミキ「なんで、直前で武器を引いたの。確かにユキドリルは人間には危害を加えられないけど、リッチェーンを破壊することはできるはずなの!」

――確かにその通りですし、そうしようとも考えました……ですが。

ミキ「なんでなの!」

――私に、ヒビキは救えないのです。

ミキ「……」

――ぐっ、息苦しいと思ったら……これは、こんとろぉらぁですか……肺を貫通していますね。

――お見苦しい所をお見せしてしまって恐縮です。

――ですが、どんなに見苦しく足掻いてでも、貴方にお伝えしなければならないことがあるのです。

ミキ「それくらいは、聞いてあげてもいいって思うな」

――どうか……どうかヒビキを、よろしくお願いします。あの子は優しくて、泣き虫で、すぐに拗ねてしまいますが。

――とてもいい子なのです。どうか……。

ミキ「そんなこと、分かってるの。ミキとヒビキはもう友達なの!」

――良かった……もう思い残すことはありません。それでは私も、ごほっ……月の民の元へ向かうと致しましょう。

――最後に一つ……イオリは、アズサイズは前回と比べ物にならないほど強化されています。

――今の……貴方方では……ゴホッ、どうか……お気をつけ……て

ミキ「タカネッ!?」

タカネ「 」

 リッチェーンの攻撃によって吹き飛ばされたタカネ、その胸には折れたコントローラーのスティックが深々と突き刺さっている。
喋るのもやっとの状態でミキにヒビキを託した彼女は、唇に微かな微笑みをたたえながら、安らかな眠りについた。

ミキ「ヒビキを守るために、ミキを消耗させないようにわざとやられたっていうの?」

ミキ「それでタカネが死ぬなんて――っ大馬鹿なのっ!!」ガンッ

イオリ「にひひっ♪ ホントよねぇ?」

アミ・マミ「「アズサイズッ!!」」

 いつの間にか直上には、飛行アタッチメントの推進器を立て、ホバリング状態のアズサイズが迫っていた。
その手には既に鎌が戦闘形態で握られている。

イオリ「なかなか面白い見世物だったわ、今度は私の番よ……覚悟しなさい」

 アズサイズが天高く鎌を振り上げる。

ミキ「ちょっと待つの」

 その手を止めたのは、ミキの一言だった。

ミキ「キサラギは、ミキが倒すのッ!!」

イオリ「はあっ!? アンタ何言って――」

 イオリが言い終わるよりも早く、リッチェーンのローキックがキサラギをなぎ倒す。

マミ「ミキミキ!! どうして!?」

ミキ「先に行くなら――このミキをッ! 倒してから行くのッ!!」

 両手を掴み合った状態でキサラギに馬乗りになるリッチェーン。

小鳥「ミキちゃん? 何を……」

アミ「ミキミキ、嘘……だよね?」

ミキ「ダブルハンマーハリケーンなの!」

 往復ビンタの要領で左右の鉄球をキサラギに叩きつけていく。第2世代とは言え、ユキドリルを一撃で葬り去ったその威力は凄まじい。

――頭部装甲耐久度減少

――右・左脚部関節重量過多

――上腕部可動限界域に突入

――メインジェネレーター排熱不良

 キサラギの頸部両側に付けられた小型モニターに危険を知らせるアラートメッセージが並んでいく。

マミ「ぐっ……やめてよ、やめてよミキミキ!」

アミ「そうだよ! 友達だって言ってくれたのは嘘だったの!?」

ミキ「うるさいのっ! いいからさっさとミキと戦うの!」

 さらに鉄球をを振り回す速度が上がる。既にキサラギの頭部装甲はヒビが入り、あと数撃耐えるのが限界だった。

アミ「やめてってば!」

 それは、人間の持つ防衛本能だったのかもしれない。アミの一言でキサラギはリッチェーンを引き剥がそうと組付かれた手を振りほどき、
リッチェーンの胸元へと手を伸ばす。ただ押しのけるだけ、そのはずだった。

ミキ「ごめんなさいなの」ボソッ

 ミキが手を伸ばしたのは、緊急脱出用の胸部装甲板パージスイッチ。黄色と黒の縞々で通常時に使うボタンではないことを表す囲いに取り付け
られたプラスチックカバーを拳で叩き割り、その勢いでスイッチを押す。
ミキの視界は急激に広まり、狭っ苦しいコクピットに新鮮な空気が流れ込む。

 計6枚の大小あるモニター類を突き破り――キサラギの手はリッチェーンのコクピットへめり込んだ。

マミ「……嘘、でしょ?」

アミ「ミキ……ミキ……嘘だ、嘘だあああああ!!!!!」

マミ「どうして、どうしてこんなことしたのミキミキッ!?」

 キサラギの腕が引き抜かれると、ぐしゃぐしゃに潰れたリッチェーンのコクピットにはなんとか原型を留めたミキが横たわっていた。
装甲板の破片やモニターのガラスが体中に深い傷を作り、ひしゃげたコクピットフレームが腹部に突き刺さっている。誰がどう見ても、もう助からない。

ミキ「聞いて欲しいの……」

 顔を歪めながら、なんとか笑顔を作るミキ。

アミ「喋っちゃダメだよ! 今引っ張りだしてあげるから!」

マミ「そうだよ! えっと、ピヨちゃん! ミキが!!」

小鳥「聞こえてるわっ! 今そっちに人を向かわせてるから、落ち着いてっ!!」

ミキ「いいからっ!……黙って聞くの……ゲホッ」

 無理矢理に言葉を発したせいで、気道に溜まった血が呼吸とともに外に飛び出す。それでも、なんとかミキは言葉を紡ぐ。

ミキ「リッチェーンはキサラギを抑えておくためのリミッターだったの」

ミキ「キサラギがリッチェーンを倒した今、もうキサラギはムテキなの……」

マミ「そんな……そんなのってないよ!」

アミ「そうだよ! そのためにミキミキが死んじゃうなんてイヤだあ!」

ミキ「ミキはね、お姉ちゃんをハルシュタインに殺されちゃったの。ゼッタイ敵をとってやる!って思ってたんだけど、ミキのジツリョクじゃ無理なの」

ミキ「だからね、アミ……マミ……」

 『あなたたちに……うっ……地球の運命は、託したのっ――』

アミ「ミキミキ? ミキミキっ!!」

マミ「お願い! 目を開けてよぉ……」

 ミキの命の炎が尽きたことを知らせるように、首元に光っていたシルバーネックレスのチェーンが切れ、地面に吸い込まれていく。
それを追っていたアミとマミの目線に、突如現れた大きな壁――アズサイズ。

イオリ「邪魔よ」

 キサラギを覆うように停止したリッチェーンを蹴り飛ばす。

イオリ「何だか知らないけど、私は仲間割れを仲裁したり、落ち込んでるヤツに情けをかけるほど甘くはないの。ごめんなさい?」

 イオリは、笑っていた。

 今目の前で起きた戦闘と、その意外な結末。

 愚かな女だと、笑っていた。

イオリ「じゃあ、サヨウナラ」

 鎌がキサラギの胸元に振り下ろされる。鏡面装甲であろうとも切り裂いてしまえる巨大な刃が、2人目掛けて迫る。

アミ「ミキミキに……」

マミ「ミキミキに……」

 双子は、同時に怒っていた。街を襲ったことよりも、世界を侵略しようとしたことよりも、必死で戦った仲間を足蹴にした相手に怒っていた。
腕のコントローラーが強い光を放つ。意識の共有が、キサラギに新たな力を呼び起こした――。

アミ・マミ「「なにすんだああああ!!!!!」」

 所謂、真剣白刃取り。敵を両断せんと振り下ろされた刃は、武器も持たぬただの手によって止められる。

イオリ「うそぉ!? アズサイズの鎌が……ああっ!」

 思わず口に手を当てて悲鳴を押し殺す。ただの第3世代ロボットが最新型のアズサイズの攻撃を止めた……それだけでイオリには驚愕に足る出来事だった。
刃先を半分に折られた鎌はもう使い物にならない。

アミ「このおおおお!!!」

 動揺で一瞬の隙を作ったアズサイズは、キサラギの放った巴投げで吹き飛ばされる。

イオリ「きゃあああああ!!!」

 ビルを3つほど突き抜け、背中を叩きつけられてようやく停止する。すぐに体勢を立て直すが、相手の異常な豹変ぶりに二の句が継げない。

マミ「ふうっ……アミもちょっと落ち着こうYO!」

アミ「でもアイツミキミキをっ!」

マミ「それは分かってるってば、でもここで焦って負けちゃったらミキミキも悲しむよ? いつも通りの私達でいこ→よ!」

アミ「……うん、そうだね。悲しむのは後でもできる! 今は、アズサイズを倒さないとっ!」

イオリ「このっ……! 吹き飛びなさいっ!!」

 2発動時に放たれたtype―Fミサイルが真っ直ぐにキサラギの胸元へと向かう。しかし、そこはキサラギでも最も対ミサイルに効果を発揮する鏡面装甲部。
リッチェーンの攻撃で数多の損害を受けたとはいえ、その防御力は未だ健在。ミサイルは上下に横滑りし、見当違いの場所で同時に爆発する。

アミ・マミ「「や→いや→い! ツルペタバンザーイ!!」」

キサラギ[クッ……]

イオリ「うそ…………」

アミ「そんでぇ→」

マミ「お返しっ!」

 キサラギの手には先ほど折り取ったアズサイズの鎌の先端部。第4世代を上回る瞬間出力で放たれた刃は唸りを上げながらアズサイズへと飛翔する。

イオリ「負けた……のね」

 イオリがモニターで最後に目にしたものは、猛スピードで接近する自分の武器の破片と、目に涙を浮かべながらこちらを見やる双子の姿だった。

……

…………

………………

――下半身の感覚がないわね、切られたのかしら?

 気だるい体を無理に動かして足元を見ていると、『なんとか』体は繋がっているようだ。

――油断なんてしてなかったし、作戦も完璧だったはず。このスーパーエースイオリちゃんを負かすなんて、アイツらなかなかやるじゃないの!

 全ての電源が落ちたモニターには自分の顔が写っている。

――ひどい顔ね……髪だってぐしゃぐしゃじゃないの。

 彼女は敗北と同時に、何故か安堵していた。

――本当は、戦いたくなんてなかったのかしら?

――本当は、ハルシュタインが怖かっただけ、かもしれないわね。

――うさちゃん……汚れちゃったわ。

――起きたら……洗って……あげない……と

 大切にしてきたうさぎのぬいぐるみを抱きしめるように、『アズサイズ』パイロット、イオリは絶命していた。

……

…………

………………

 街が燃えている――そこら中に火柱が上がり、ビル根本から掘り起こされたかのように横倒しになっている。

 キサラギはボロボロになっていた、剥がれ落ちた塗装、ヒビの入った装甲。なんとか自立状態を保ってはいるが、そう長く保たないのも明白。

アミ(あれ……)

 強烈なデジャヴ。

アミ(これって、夢の中の……)

 強制的に開かれる記憶の扉。

アミ(でもまだキサラギは動いてる……っていうことは、まだ何かある?)

小鳥「レーダーに感あり! これって……嘘でしょ!?」

マミ「ど→したのピヨちゃん?」

アミ(……まさかっ!?)バッ

アミ「……」

アミ「マミ……上だよ……」

マミ「ん? ――冗談……だよね?」

 遥か上空、天を埋め尽くさんばかりにひしめく怪ロボットの大群。
その中に唯一、周囲の機体とは一線を画す漆黒の翼を持つ機体。

アミ「ハル……シュタインッ!!」

ハルシュタイン「天は我らに、地は家畜共に――『太陽のジェラシー』を始めましょう」

ハルシュタイン「恐れ、ひれ伏し、崇め奉りなさい!」


 空より、絶望が降ってきた。

【地下施設】

高木「これは良くないね、予想よりもずっと早い……もうハルカイザーが完成していたなんて」

小鳥「ど、どうするんですか社長!? もうキサラギもアミとマミちゃんも限界です!」

高木「ふぅむ……国連軍が到着するまであと13時間、ハルシュタインにとってはこの国を攻め落とすのに十分すぎる時間だろうねぇ」

小鳥「そんな……」

 指令本部に動揺が広がる。
絶望的な状況に誰もが下を向く中、ある人物が勢い良く入室してきた。

ヒビキ「はいさい!」

小鳥「ヒビキちゃん! なんでここにいるの!?」

ヒビキ「こんな状態で自分だけ逃げまわるわけにいかないぞ! 自分も協力するからな!」

高木「ありがたい申し出なのだが、もう手遅れのようだ。増援は期待できず、キサラギも限界まで来ている。その上ハルカイザーにあの数の
怪ロボット軍団だ……詰み、というやつだね」

 高木が指差すメインモニターには広域レーダー画面が表示されている。グリーンの円状になったレーダー有効範囲の中に、無数の赤点がひしめいていた。

ヒビキ「キサラギとリッチェーンはまだ動いてるのか?」

小鳥「ええ、リッチェーンに……ミキちゃんに攻撃を受けてかなり損傷しているけど、今のところは。リッチェーンは……」

 顔を曇らせる面々を見回し、ヒビキは何が起こったのかを察知した。

ヒビキ(ミキ……そっか、それがミキの選んだ道なんだね)

 豊かな黒髪を大きく揺らし、気持ちを切り替える。

ヒビキ「アミとマミに無線を繋いで欲しいさ! まだキサラギには対抗手段が残ってるんだぞ!」

高木「……ふふ、キミのような若い者には勝てないね。音無し君、2人に繋いでくれたまえ!」

小鳥「はいっ!」

ヒビキ「アミ! マミ! 聞こえるか!?」

アミ『この声、ひびきん?』

マミ『ごめん……私達、ミキミキを……』

 いつものいたずら好きで明るい2人とは思えないほどに暗く沈んだ声、無線から聞こえるその言葉だけで目を真っ赤にして落ち込む2人の姿が浮かぶ。

ヒビキ「仕方ないさ、あれはミキが選んだことなんだ。私達にできることは、ミキが選んだその道を全力で進むことさ!」

マミ『うん、わかってるんだけどサ』

アミ『もうどうしようもないっしょ』

ヒビキ「まだ終わってないぞ!!!」

アミ・マミ『『!?』』

ヒビキ「いいか2人とも、自分が言うとおりにキサラギを操作して欲しいぞ!」

ヒビキ「まず、モニターの右上――ジェネレーターの発電量パーセンテージを見て欲しいんだ」

アミ『ど、どれだか分かんないYO!』

ヒビキ「えっと、カミナリみたいなマークの右側の数字さー」

マミ『あ、これだよきっと! え→と、46って書いてあるよ?』

ヒビキ「46%……正直ギリギリだな」

ヒビキ「いいか? これから上空を飛んでる怪ロボット軍団に攻撃するぞ、1回限りの大技さー! これを外したらまた攻撃できるようになるまでにかなり
時間がかかっちゃうし、もしかしたらキサラギの機体が持たないかもしれない」

マミ『でもさ』

アミ『それしかないんっしょ!?』

ヒビキ「現状で考えられる最も有効かつ可能性の高い手段だと思うぞ」

アミ・マミ『『ならさ、やるしかないっしょ!!』』

ヒビキ「よし! じゃあまたモニターを見て――今度は右下に『L・V・C』ってボタンが出てないか?」

アミ『これかな? あるYO!』

ヒビキ「ということはやっぱりリミッターは解除されてるってことだな……じゃあそのボタンを押して!」

マミ『了解であります! ぽちっとな』

――発電量低下 『L・V・C』起動の為他の活動を停止

アミ『ひびきんっ! なんかヤバそうなのが出たっ!?』

ヒビキ「大丈夫さ! 多分電力が足りてなくて『L・V・C』にキサラギの電力の全てを回してるだけだぞ」

ヒビキ「さて、千早! 準備はできてるか?」

千早『え、ええ……でも本当にこんなことで彼女たちの助けになるのかしら?』

ヒビキ「もちろんだぞ! 『L・V・C』には千早の歌が不可欠なんだぞ!」

千早『そう、この無線機に向かって歌えばいいのね?』

ヒビキ「ああ! 頼んだぞ!」

千早『分かったわ――泣くことならたやすいけれど 悲しみには流されない……』

 如月千早のデビューソングである『蒼い鳥』、無線電波を通してなお涼やかな歌声はキサラギに乗る2人の無線機からも流れ出る。

――Vエネルギー充填開始 20%

アミ『なんかメーターがグングン上がってくYO!』

ヒビキ「そのまま待って! 100%になったら発射するんだ!」

マミ『発射って言ったって、どうすればいいのさ→』

ヒビキ「コントローラーに向かって叫ぶだけでいいぞ!」

 蒼い鳥 もし幸せ 近くにあっても――

――60%

アミ『もうちょい!』

 あなたの腕の鳥かごには 甘い時間だけが積もる――

――80%

マミ『あと少し!』

 未来に向かって あなたを愛してた でも前だけを見つめてく

――100%!

アミ・マミ「「きたっ!!」」

 キサラギが大きく口を開く。

アミ・マミ「「発射ぁ!!」」

ヒビキ「みんな耳を塞ぐさ!」

――

――――

――――――

キサラギ[クッ……アアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!]

 衝撃波がキサラギの後方のビルをなぎ倒していく、稼働するように設計されていた口から飛び出した大きな砲身。そこから発射されたのは『音』
の弾丸だった。

ハルシュタイン「な、なにっ……!?」

マコト「ぐっ……」

ヤヨイ「はわっ! なんですかぁ!?」

 3人で操縦するように造られた巨大なハルカイザーでさえ、その衝撃にどんどん空へと押し上げられていく。

30秒にも及んで続いたキサラギの『Loud・Voice・Cannon』の発射が終わると、背中にある排熱口から蒸気が吹き上がる。限界まで戦い抜いたキサラギは、
ついに座り込むように全機能を停止した。

アミ「うが→! 頭が痛いYO!」

マミ「な、何が起こったの!?」

ヒビキ「ぴよ子! レーダーを! ハルシュタインと他の怪ロボットはどうなったさ!?」

小鳥「待って! 今衝撃の影響でレーダーが……出たわっ!」

高木「怪ロボット……全滅だと!?」

ヒビキ「やったさ! 千早、千早の歌のお陰だぞ!」

千早『そんな……頑張った2人と我那覇さんの努力の結果ね』

 しばし、指令本部内と無線の交信の中に安堵の空気が流れる。
だがそれも、小鳥の叫びによって掻き消えた。

小鳥「レーダーに感あり! ハルカイザー……健在!」

……

…………

………………

ハルシュタイン「よもや、我が軍団が一撃で葬られるとは思いもしなかったわ」

マコト「事前の調査不足です、申開きの言葉も御座いません」

ヤヨイ「ハルカイザーじゃなかったら私たちもやられちゃってたかなーって」

ハルシュタイン「キサラギ……か。まあいいわ、こんな所までふっ飛ばしてくれた礼はちゃんとするから」

 モニターに目をやるハルシュタイン。そこには燃え盛る太陽と満月が同時に表示されている。

ハルカイザーは、宇宙空間に漂っていた。

……

…………

………………

小鳥「目標高度140000m、これって……大気圏外じゃない!?」

高木「驚きだねぇ、ハルカイザーは宇宙空間でも活動できるのかね」

ヒビキ「マズイぞ、これじゃこっちから手を出せない……高木社長! 軍にミサイル発射を要請したら――」

高木「無駄だね、許可されるまで時間がかかる。それに長距離弾道ミサイルは大気圏外を飛ぶが、地球の外を狙うように設計されてないからねぇ」

ヒビキ「どうすればいいんだ……どうすれば……ぴよ子、キサラギは?」

小鳥「キサラギは完全に沈黙してるわ、エネルギー反応もゼロよ」

ヒビキ「そうだ! キサラギにはリザーブバッテリーが積んであるはずさ! それでキサラギを起動できればオーバーマスターできる!」

ヒビキ「アミ、マミ、聞こえてるか? 無線コントローラーの裏側に小さなボタンがあるはずさ!」

アミ『ごめんひびきん、ちょっと大きな声で話してくれない?』

マミ『今耳がキ→ンってなってて聞こえにくいんだYO!』

ヒビキ「無線コントローラーの裏のボタンを押すんだぞ! 灰色のちっちゃなボタンさ!」

マミ『ん、これ?』

アミ『押してみたけど何も起こらないよ?』

ヒビキ「そんな……」

 愕然としながらキサラギの図面を引っ張りだすヒビキ。

ヒビキ「こことここが繋がって……それでこっちに来て、ここに……」

 ブツブツと呟きながら配線図を指で追っていく。

ヒビキ「こ、これって……」

 普段の彼女なら見落とすことはありえない欠陥。2枚にまたがる配線図の中の一本――予備バッテリーからスターターへと繋がる配線は途中で寸断されていた。
横に引かれた線は2枚の継ぎ目で一度切れている、複雑な電気系統、計6枚に渡る配線図――キサラギの製作者が知恵と技術を絞り出したからこそ起きた――悲劇。

ヒビキ「ごめんさ……2人とも」

アミ『ど→したのひびきん?』

マミ『元気ないYO?』

ヒビキ「キサラギは……もう……動かないぞ――」

……

…………

………………

 ――どうして?

 ――どうしてお姉ちゃんは泣いてるの?

 ――どうしてそんなに悲しそうな顔をしてるの?

アミ(夢と、同じ風景だ)

アミ(今度こそ、本当に同じ)

アミ(マミが泣いてて、街が燃えてて、キサラギは壊れてて……)

「みんなはヒナン……できたかな?」

 どんなに口を固く閉じても、台本をなぞるようにシーンは進む。

「セカイ、終わっちゃうのかな?」

「グスッ……そんなの、ヤダよ!!」バンッ

 夢で見たとおりに、キサラギのコンソールを叩きつける。右腕に巻かれた『AMI』のブレスレットが切れ、熱風に巻かれながら落ちていく。

アミ(あ、あれ……これって夢と、違う?)

「ぇ……ミっ……アミってば!」

アミ「えっ? な、何?」

マミ「コントローラー見てYO!」

 機能を停止したはずのキサラギのコントローラーが、淡い光を放っていた。

おはようございます
ちょっと仕事の方で機械トラブルがありまして暫く来れませんでした、すいません

少し投下していきます
多分今日の夜に完結できると思うので、もう暫くお付き合いください

……

…………

………………

ヒビキ「ありえないぞ!」

マミ『んなこと言ったって光ってるもんは光ってるんだからしょうがないっしょ!』

ヒビキ「キサラギの再起動に必要なリザーブバッテリーからの配線が繋がってないんだぞ!? その状態で起動なんて出来るわけないさー!」

高木「ふぅむ……これは一体どういうことなんだろうねぇ」

小鳥「ええ、絶望の中の一筋の光……という解釈でいいんでしょうか?」

ヒビキ「もし、もし起動できたとして、キサラギはもう戦闘に耐えられるような状態じゃないぞ」

ヒビキ「それにキサラギの中には主電源と異なる別体型動力装置が入ってるんだ、これは危険なモノだぞ……もしかしたら起動した瞬間に大爆発、なんて
ことだってあるかもしれないんだぞ!?」

アミ『え→、でもやってみる以外にどうしようもなくない?』

千早『話を聞いていたのだけれど、私もそう思うわ。ここで諦めるくらいなら、もう一度チャレンジしてみてもいいのではないかしら?』

ヒビキ「それが、例えアミとマミが死ぬことになってもか? 無線コントローラーの有効範囲はキサラギから15m、動力装置が誘爆を起こせば命は無いんだぞ?」

千早『そ、それは……』

マミ『……』

ヒビキ「だから、今からでも別の手を――」

アミ『やるよ!』

高木「双海君っ!?」

アミ『キサラギに乗るって決めた時から、ハルシュタインと戦っていつかは命をかけなきゃいけない時が来る……それは分かってたんだYO』

小鳥「アミちゃん……」

アミ『キサラギは2人でしか動かせないから、マミは巻き込んじゃうことになるんだけど……』

マミ『な→に言ってんのさ! 私だって知っちゃった以上、無視なんてできないよ?』

ヒビキ「マミ……やっぱりマミは……」

マミ『うん、多分アミと同じ夢を見てたよ。ははっ、馬鹿だよね→! お姉ちゃんだからツライ顔とか見せちゃいけないんだ! なんて思ってさ、アミだけに
なんか押し付けちゃってたみたいでサ』

ヒビキ「2人の気持ち、ちゃんと分かったぞ」

ヒビキ「これから起動するのは『OVER M@STER MODE』、正直自分も何が起こるのか完璧には分からないさ」

ヒビキ「2人は普通に起動シークエンスを始めて欲しいさ、リッチェーンっていうリミッターが外れた今、勝手にオーバーマスターモードに入るはずだぞ」

 燃え盛る炎の中、2人は手を取り合う。

アミ「これが最後の戦いだ!」

アミ「受け取ったよ、ミキミキ……」

マミ「これが、キサラギの……」

アミ・マミ「「最終形態ッ!!」」

アミ・マミ「「希煌石(キラジェム)全開!!!」」」

アミ・マミ「「いっけぇぇぇ!! キサラギぃぃぃ!!!」」

キサラギ[クッ……!!!]

――OVER M@STER MODE 起動認証

――主電源カット、全動力伝達経路開放

――『チハヤスキードライブ』 イグニッション

――臨界まで 46%……22%……7%……ゼロ




―――― O V E R  M @ S T E R ――――

 煌々と光る赤い瞳、背部に開いた排熱口から大量の蒸気を吹き出しながら、キサラギは立ち上がる。

マミ「やった!」

アミ「ひびきん! 起動したよ!」

ヒビキ『やったぞ! 何か変わったことはあるか!?』

アミ「や、特には……」

アミ「ミキ……ミキ……?」

ヒビキ『どうしたんだ? もしかして何か問題があったのか!?』

 無線から聞こえるヒビキの声は耳に入らない――再び立ち上がったリッチェーンが、キサラギの背後に立っていた。

――無尽合体――

 リッチェーンはその姿を変え、宇宙空間でも行動可能な多角ジェットエンジン搭載型のアームデバイスとしてキサラギの背面へと合体する。次いで、アズサイズ、
ユキドリルと、無尽蔵に倒れている怪ロボットを取り込んでいくキサラギ。

ヒビキ「これは……」

高木「うむ、どう見ても……」

小鳥「そういえば、昨日から何も食べていませんでしたね」

 その姿は中継で千早や雪歩のいる避難所へも送られていた。

雪歩「うわぁ~……」

千早「その反応はどうなのかしら? 気持ちは分からなくもないのだけれど……」

律子「いや、これはちょっと……どう見たって……」

P「かき揚げ……だな」

 リッチェーン、アズサイズ、ユキドリルをメインとしてそこら中に散らばる怪ロボットの機体をパーツとして取り込んだキサラギは、その姿を大きく変え――
まさしく『かき揚げ』と形容するに相応しい格好となっていた。

ヒビキ「キモチが悪いぞ!?」

アミ『ちょっと→! せっかく合体したのにキモチワルイってなにさ→!』

マミ『そ→だそ→だ!!』

高木「あ、あはは……ちょっと異様な光景なものでね、すぐに慣れると思うよ、うん」

ヒビキ「そんなことより! そのモードなら宇宙空間での行動も可能なはずさ! ハルカイザーを……ハルシュタインを止めてくれ!!」

アミ『りょ→かい!』

マミ『行ってくるYO!』

キサラギ[クッ……]

 リッチェーン型ジェットエンジンから紅炎が吹き出す。流星と見まごうような速度で、2人は宇宙へと飛び出していった。

……

…………

………………

ハルシュタイン「どうだ、何も知らない虫けらがお前の姿を見て絶望する様を想像するのは?」

あずさ「……あの子達は強いですから、きっと大丈夫ですよぉ」

ハルシュタイン「もっと絶望するかと思っていた、随分と余裕のようだな?」

あずさ「ええ、私は信じていますから。何も信じないアナタと違って……ね?」

ハルシュタイン「……ふんっ」

ヤヨイ「…………」

 ハルカイザーの胸部に固定された生体ポットには、人質として連れて来られたあずさの姿があった。特に手足を縛られることもなく、ただカプセルに収まって
いるだけのあずさは、余裕のある微笑みでハルシュタインと対峙する。

マコト「ハルシュタイン総統、敵機1……来ました、キサラギです」

ハルシュタイン「そう……ふふっ、待ちかねたぞキサラギッ!!」

 その顔が邪悪に歪む。

ハルシュタイン「さあ、仕上げと行きましょう!」

……

…………

………………

アミ「くっ……そんな……」

マミ「兄ちゃんが言ってた、『あずささんとどうしても連絡がつかない』って……」

アミ「あずさお姉ちゃん!!」

ハルシュタイン「どうしたのかしら? 折角そんな姿になってまでこのハルシュタインの元に辿り着いたっていうのに、攻撃してこないなんて?」

マミ「卑怯だYO!」

ハルシュタイン「卑怯とは笑わせる、正々堂々……そんな甘い考えが通じるとでも思っていたの?」

マコト「ハルシュタイン総統閣下、これ以上は時間の浪費かと」

ハルシュタイン「マコトはいつも固いのね、まぁいいわ」

 ハルカイザーが腰に刺した金色の剣を引き抜く。一瞬の躊躇もなく、ハルシュタインはキサラギへと剣を振り下ろした。

ハルシュタイン「色々あったけど、とりあえず死になさい」

アミ「来るよマミッ!」

マミ「分かってるYO!!」

あずさ「2人とも、ごめんなさいね?」

 ハルカイザーの動きが止まる。

ハルシュタイン「何をするつもり?」

あずさ「私が捕まっちゃったから2人が大変な目にあってる……だから、こうすればいいのよね?」

マミ「あずさお姉ちゃん?」

 あずさは生体ポットのドアレバーに手をかける。

あずさ「プロデューサーさんや律子さん、事務所のみんなによろしく言っておいてくれる? 三浦あずさは最後まで迷子が直りませんでしたって、うふふ♪」

アミ「ダメェェェェェ!!!!」

 距離を取っていたキサラギは猛然とハルカイザーへ突進していく。

マミ「間に……合わないっ!!」

アミ「あずさお姉ちゃん! ヤメてYO!」」

ヤヨイ「ダメです~!」

 驚くことに、生身で宇宙空間に飛び出そうとしたあずさを止めたのは、敵であるはずのヤヨイだった。その天使の翼を大きく広げ、ポットを包み込む。

マコト「ヤヨイッ! なぜだ!?」

 珍しくマコトが取り乱した姿を見せる。一方ハルシュタインはヤヨイを冷たい目で睨みつけ、静かに問うだけであった。

ハルシュタイン「私を裏切るの、ヤヨイ? のけ者だった貴方を拾ってあげた私の恩を忘れたのかしら?」

ヤヨイ「確かに、総統は私を拾ってくれました! でも優しくはしてくれなかった、私は……優しくしてもらいたかっただけなんですぅ!」

あずさ「ヤヨイちゃん……」

ヤヨイ「ごめんなさい、今までお世話になりました! 私はあずさお姉ちゃんを助けたいんです~!」

ハルシュタイン「愚かな……いくら天使と人の子であるヤヨイでも、大気の無い宇宙では飛ぶことはできないでしょうッ!!」

 ハルカイザーがヤヨイに攻撃を加えようと動くが、ヤヨイはそれをするりと躱すとキサラギの横を抜け、地球の方向へと飛んで行く。

ヤヨイ「キサラギのパイロットさん! あずささんは任せて下さいぃ!」

マコト「ま、待てっ!」

アミ「おっとぉ」

アミ「行かせないYO?」

ハルシュタイン「くっ……くくっ……あっはっははははは!!!!」

マコト「ハルシュタイン……総統?」

ハルシュタイン「バカにされたものね、許さない」

マミ「雰囲気が……」

アミ「変わった!」

 地球の運命を左右する両者の激突が、今まさに始まろうとしていた。

……

…………

………………

あずさ「ヤヨイちゃん! そんな格好で大気圏を通ったら……」

ヤヨイ「舌噛みますよっ!」

 あずさは大気圏突入時の振動に思わず目を覆う。

ヤヨイ「……大丈夫ですか?」

 次に目を開いた時視界に飛び込んできたのは、燃え尽きそうな羽を必死に羽ばたかせ、白く光り輝くヤヨイの姿だった。


あずさ「ん……ここ……は?」

 体を揺られる感覚と水音に目を覚ますと、彼女は大海原のど真ん中でゆらゆらと揺れていた。
いつの間にかポットの扉は開け放たれ、少し生臭い潮の香りが肺いっぱいに広がり、眩しすぎるほどの太陽が身を焦がす。

あずさ「っ! ヤヨイちゃん!」

ヤヨイ「……はい」

 声のした方に振り向けば、ヤヨイはポットの端に座ってあずさのことを見つめていた。

あずさ「……」

 思わず言葉を失う。焼けてボロボロになった服は最早その機能を果たしておらず、あれほど美しかった純白の羽は黒く焦げ付いている。

ヤヨイ「あはは、やっぱりちょっと無理しちゃったかなーって」

あずさ「待って! 今手当を……」

 言いかけて、ここが海の上であることを思い出す。

ヤヨイ「いいんです、多分もう助からないから」

あずさ「そんなっ! 長介君たちはどうするの!」

ヤヨイ「長介はお兄ちゃんですから、きっと私がいなくても兄弟たちをちゃんとまとめてくれますよ~」

ヤヨイ「それに、きっと……最後に良いことができたから許してくれるかなーって!」

あずさ「ヤヨイ……ちゃん」

ヤヨイ「あずささん……ううん、あずさお姉ちゃんと過ごした少しの時間、とーっても楽しかったです!」

ヤヨイ「ありがとうございました!」

 両腕を後ろに跳ね上げる独特のお辞儀と、満面の笑みを見せるヤヨイ。
溢れ出る涙を拭おうと少しの時間目を瞑ったあずさが再び彼女のほうを見ると、その姿は幻のように掻き消えていた。

あずさ「ヤヨイちゃん……」

 遠くから誰かが呼んでいる声、漁船だろうか?

 生きなきゃ、そう決意してあずさは立ち上がり大きく手を振った。

携帯から>>1です
またもや機械トラブルのため朝まで帰れそうにないですorz
伸ばし伸ばしになってすみません

やっと一段落付きました
昨日の夜携帯から書き込んだのにIDが同じなのはなんでだろう?

完結まで出来上がったので、順次投下していきます。
長いことおまたせしてすみませんでした。

【宇宙 最終決戦】

 2つの光が高速でぶつかり合う。金色の剣を振るうハルカイザーと大きなドリルアームでそれを受けるキサラギ。暫くの間続いたこの戦いも、やがて
膠着状態へ進んでいた。

ハルシュタイン「なかなかやるじゃないの!」

マコト「ええ、敵ながら天晴……」

マミ「はぁ……はぁ……強いっ!」

アミ「こっちは必死なのに、向こうはかなり余裕があるみたいだNE」

マミ「ドリルもそろそろ限界だYO!」

アミ「こうなったら少し残った『L・V・C』エネルギーで一気に!」

ハルシュタイン「そう簡単に行くと思った?」

 その声に目をやると、ハルカイザーは大きく剣を振り上げていた。剣から揺らぎ出る漆黒のオーラ、只の幻影ではないことを2人は肌で感じ取る。

ハルシュタイン「少し早いんだけど、もう『太陽のジェラシー』を完結させることにするわ。燃え盛る太陽が恋焦がれた青い地球、この私の漆黒の炎で消してあげる!」

アミ「なにあれ!?」

マミ「わっかんないケド……ヤバそう!」

 黒い炎はますますその勢いを増し、もはや剣の刀身は見えない。

ハルシュタイン「あなた達の後ろの星、守ってみなさいッ!!」

アミ「もしかしてハルシュタインの本当の目的って、地球滅亡!?」

マミ「とにかく、あれを止めないとッ!」

アミ「最後のエネルギーで……」

マミ「いっけぇぇぇ!!!」

アミ・マミ「「Loud・Voice・Cannon! 発射ぁ!!」」

キサラギ[――――っ!]

ハルシュタイン「愚かな……宇宙空間に空気は存在しない、ならば音を撃ち出すその攻撃も無意味!!」

アミ「うっそ……」

マミ「これってヤバいんじゃ……」

マコト「ハルシュタイン総統、準備整いました」

ハルシュタイン「じゃあね、勇敢な双子さん?」

 ハルカイザーが剣を振り下ろすと、極大化した漆黒の炎が太い柱のように走る。もはやキサラギに、為す術は無かった。

アミ「あ→あ、負けちゃったか……ごめんねマミ」

マミ「言ったっしょ! アミだけに押し付けたりしないよ? 私たちはいつでも一緒だからね!」

 自らの負けを覚悟し、2人は手を取りながら静かに目を閉じた。避け様もない攻撃が目の前に迫る中、いやに落ち着いた心で最後の時を待つ。せめて地球に届く
被害が少しでも軽くなれば……そんな想いで真正面から攻撃を受けることを決めた2人。

双子は気が付かなかった、瞳を閉じていたから。

 キサラギのコントローラーが淡い光を放ち、その目は爛々と輝いていることに。

『諦めるのはまだ早いって思うな!』

 ――エネルギー充填率12%……

アミ「ッ!?」

マミ「ミキミキッ!?」

ハルシュタイン「馬鹿な……お前は死んだはずだッ!」

『言ったの、2人に地球の運命は託したの……って』

『こんな所で諦めるなんて、ミキは許さないの!』

 それは夢か幻か、確かに死んだはずのミキの姿をした光が現れる。

『少しだけ手を貸してあげるの、だからさっさとアイツを倒しちゃうの!』

 そう言って燃え盛る炎に立ち向かうミキ。両手を高く掲げ、渾身の力でハルカイザーの攻撃を押し返そうとするが、力の差は明白。そんな時……。

『あーあ、みっともないわねぇ……仕方ないから手伝ってあげるわよ!』

 ――24%

マミ「アズサイズの……イオリ?」

『常勝の令嬢たるこのイオリちゃんを倒したんだから、あなたたちには勝って貰わないと困るのよ!』

『助かるの!』

『うっさいわね! アンタの為にやってんじゃないわよ!』

『お二人共? 喧嘩は良くないかと……微力ながら、この私もお手伝いさせていただきます』

 ――30%

アミ「ユキドリルのパイロット……」

 キサラギから続々と人の形をした光が現れては、最初に漆黒の炎に取り付いたミキの隣や、その背中を支えていく。

うっうー! わたしもお手伝いしゃちゃおうかなーって!』

 ――48%

『ふ、ふたりともぉ……頑張ってくださいぃぃ!』

 ――53%

『こんな所で負けたら明日のレッスン3倍よ? 分かってるんでしょうね!?』

 ――66%

『キミたちぃ、私たちに出来る事なんてこれくらいしか無いが……頑張ってくれたまえ!』

 ――72%

『2人が事務所からいなくなるなんて……そんなこと考えられないわ!』

 ――85% 

『あらあら~、こんな私でもお役に立つのでしたら喜んで♪』

 ――91%

『キサラギは負けないぞ! なんてったって完璧な自分がついてるんだからな!』

『ジュジュイッ!』

 ――104%

『頑張れ、頑張ってくれふたりともっ!!』

 ――119%

 それから、まだアミとマミが出会ったことのない姿までもがその後ろに続く。

『ったく! 仕方ねーな、手伝ってやるよ!』

 ――127%

『ホント素直じゃないんだからなー、あ、ボクも手伝うよ?』

 ――136%

『チャオ☆ 本当は地球の子猫ちゃんたちを守ってあげたいけど、今は強い子猫ちゃんたちに任せるよ☆』

 ――144%

『フン! 3流事務所とはいえ、相手が居ないとなると少々退屈だ。セレブな私が手を貸してやろう!』

 ――159%

 その後も、続々と集まってくる光。エネルギーメーターはグングンと上がっていき、既に300%が間近に迫る勢いだ。

アミ「これって、地球のみんなの……想い?」

マミ「ちょっと待って、なんか聞こえない?」

♪風は天を翔けてく 光は地を照らしてく 人は夢を抱く そう名付けた物語♪

♪……arcadia♪

アミ「千早お姉ちゃんの歌だ!」

 ――452%

アミ「みんなの応援してくれるキモチが、私たちに届いてるんだ!」

 ――527%

マミ「もう、負けられないっしょ!」

 ――634%

アミ「やっちゃいますか! マミ隊員!」

 ――714%

アミ「りょ→かいであります! アミ隊員!」

 ――763%

 2人は、何故か昔の……子供の頃の記憶を思い出していた。2人で、お父さんとお母さんに勉強を教わっていた時の記憶。

父「……じゃあ、1+1は何かな?」

アミ(幼)「んっふっふ~、カンタンですぞ→」

マミ(幼)「なめてもらっちゃこまりますな→」

母「じゃあ2人で、さんはいっ!」

アミ・マミ「「に→!!」」

父「はは、よく出来ました!」ナデナデ

マミ(幼)「トーゼンだYO!」

アミ(幼)「こんなカンタンなもんだいじゃなくてもっとほかのもんだいだして→」

母「あら、これはとっても大切なことなのよ?」

アミ・マミ「「?」」

母「あなた達には、1+1がちゃんと2になるように育って欲しいって思っているの」

マミ(幼)「え→? どういうこと→?」

父「お母さん、まだこの子たちには難しいんじゃないかな?」

母「そうねぇ……でも覚えておいて? 世の中には1+1が5になるとか、100になるとかいう人がいるの。けどね、1+1は2でいいの。それをもっと大きな
ものにしてくれるのはアミとマミの周りの人達なのよ?」

アミ(幼)「んぅ? ゼンゼンわかんないYO!」

父「あはは、要するにね? アミとマミはいつも沢山笑って、いつも元気に、それで友達を沢山作ればいいんだよ」

父「そうすれば、アミとマミが大好きな友達が、もしかしたら2人を知らない人までもが君たちを助けてくれる」

母「あなた達はとってもよく似ているけど、それでも全然違う。姿はそっくりでも、心や想いが違ってくる……だから、あなた達はお互いに1人として、支え合える
ように育って欲しいの」

父「そしたらきっと、アミとマミは100にも200にも……もしかしたらもっと大きくなれるかもしれないぞ!」

アミ(幼)「ん→、よくわかんないケド」

マミ(幼)「なんとなくわかったきがする!」

母「今はそれで十分よ? さて、ご飯にしましょう?」

父「もうお腹ぺこぺこだよ!」

アミ・マミ「「おなかすいた→!!」」

……

…………

………………

アミ「そうだね、私たちには助けてくれるナカマが沢山いたんだね」

マミ「うん、私たちだけで抱え込む必要なんて無かったんだ」

 ――765……%

 ――『L・V・C Neo』起動

マコト「あ、あれは……?」

 ――主砲塔展開開始

アミ「私たちのナカマを守るために……」

ハルシュタイン「ハッタリだ! もうキサラギに力は残っていない、一気に押しこむ!」

 ――エネルギー充填完了 ファイアリングロック解除

マミ「そしてみんなが守りたい地球を守るために……」

ハルシュタイン「なん……だとっ!?」

アミ・マミ「「いくよ、ラストアタック……発射ぁ!!」」

 ――発射

マコト「ハルシュタイン総統! 回避をッ!!」

ハルシュタイン「…………」

マコト「ハルシュタイン……総統?」

マコト「そうですか……我々の負け、ですね」

マコト「最後まで貴方のお側に居られて、幸せでした」

ハルシュタイン「まさか、この私が家畜共に負けるなんて」

ハルシュタイン「太陽が恋い焦がれたのは、地球ではなくて人だったのかもしれないわね……」

ハルシュタイン「いつまでも、私を照らしてはくれない太陽」

ハルシュタイン「地球を滅ぼせば、私を見てくれるかと思っていた……」

ハルシュタイン「マコト、最後まで付き合わせてもらっちゃった、ごめんね?」

 『ああ、夢……叶わなかったな』

(二つ名使ってるし…画像貼らなかったがマコトは最終決戦前に閣下の前で死んだんだよね…)

……

…………

………………

――1周間後――

律子「全く、全然姿を見せないと思ったら……」

アミ「私たちが必死で戦ってるっていうのに!」

マミ「なんで事務所の工事を1人でやってたりしたのさ!」

千早「プロデューサー……ちゃんとした説明を」

P「い、いや……だって、俺はみんなが笑顔で、安心して帰れる場所を用意するのが仕事だからさ!」

雪歩「そ、そうですよぉ! プロデューサーさんは頑張って事務所を直してくれたんですぅ!」

律子「それにしたって1人でビルを建て替えるって、正気の沙汰じゃありませんよ!?」

あずさ「日用品から小物まで……全部同じものが取り揃えてありますねぇ、随分探すのに苦労したんじゃないかしら?」

小鳥「私のPCのデータまで元通りに……見られた……全部……」

P「は、はは……頑張ったのにぃ!」

 765pro事務所は優秀すぎるプロデューサーの手によって元の姿を取り戻し、所属アイドルたちも段々と前の生活に戻りつつあった。
世界を震撼させ、恐怖のどん底に落とし込んだアマーミ国による世界侵略作戦『太陽のジェラシー』はキサラギという巨大ロボットの活躍によって失敗。
公式には公表はされないことになったが、一般人がSNSなどを駆使して大量の情報をやりとりするこのご時世、巨大ロボで戦った双子を知らないものはいない。
事態の収束から3日後には国連軍がアマーミへと派遣され、囚われていた各国の重要人物などの人質は全員開放、アマーミは周辺諸国が分割して管理するという方向で
落ち着きを見せた。
 今回の事件の首謀者であるハルシュタイン以下親衛隊の2人や怪ロボット軍団のパイロットなどは全員死亡したという説が有力。攻撃を受けた国々も、損害は甚大で
あるものの、順調に復興に向かっているとのことだ。

 そして765proでは……。

律子「ええっ!? 今回の事件を実写映画化!?」

千早「これが商魂逞しい……というやつなのかしら?」

P「社長がどうしてもって言ってさ、もうキャストも決まってるらしいんだ。当然主役はアミとマミだけど、この事務所全員が本人役として出るそうだ」

雪歩「えぇ!? 私……演技なんてできませんー! 穴掘って埋まってますぅぅぅ!!!」シャキンッ

ヒビキ「せっかくプロデューサーが直した床に穴を開けるのは関心しないぞ?」

小鳥「なんか自然に混ざってるけど、本来ヒビキちゃんは765proのアイドルじゃないわよね!?」

P「ヒビキは才能ありそうだから俺がスカウトしたぞ?」

響「改めて、今日からお世話になる我那覇響だぞ! みんなよろしくな!」

ハム蔵「ジュイッ!」

千早「ハム蔵も随分進化したわね……もう本物にしか見えないのだけれど」

響「人工的な生体パーツを組み込んだからな!」

律子「ああ……頭痛が……」

あずさ「あらあら~、体調には気をつけて下さいねぇ?」

P「そういえば、今日社長が映画化に向けて新しくスカウトした新人を連れてくるって話だぞ? そろそろ――」

高木「やぁ! おはよう諸君!」

P「来ると……思うん……だが??」

律子「え、えぇ!?」ガタンッ

アミ「うっそ→ん」

マミ「いやいやいや、これどういうことなのYO!」

高木「ああ、彼女たちのことかね? ほらほら、自己紹介したまえ!」

春香「はいっ……っとと、きゃぁ! えへへ……またやっちゃいました! 今日からこちらでお世話になります、天海春香です!」

貴音「四条貴音と申します、よろしくお願いいたします」

美希「星井美希なの……あふぅ……あのソファー借りていいかな?」

伊織「水瀬伊織っていいます~ちゃんとできるかわからないんですけどぉ、せいいっぱい頑張ります!」キャピーン

真「菊池真ですっ! よろしくお願いしますっ!」

やよい「うっうー! 高槻やよいですー! 家族のためにも頑張りますー!」ガルーン

高木「彼女たちは今回のキサラギ実写映画のキャストとして参加してもらうことにした、もちろん今後も765proのアイドルとして頑張ってもらうつもりだよ。
みんな仲良くするように!」

 『え……』


 『えええええええええ!?!?!?!?!?』

……

…………

………………

アミ「そういやさ→、なんであの時キサラギは再起動できたんだろうね?」

マミ「宇宙に行く前のハナシ?」

アミ「そうそう、響が言うには線? が繋がってなかったんしょ? でも起動したのはなんでかな→?って思ってサ」

響「それは……多分これだと思うぞ?」

 響が差し出したのは、黒く焦げた金属の物体。アミがそれを手にとってよく見ると、微かに銀色の部分が残っていた。

アミ「あ、あれ? これってもしかして……」

マミ「ミキミキにもらったブレスレットじゃない!?」

響「想像だけど、アミの手から落ちたそれが偶然キサラギの胸部装甲の亀裂に落ちたんだ。それで運良く繋がってない配線の間にはまって、キサラギは再起動できた
んだと思うぞ?」

マミ「ミキミキが、助けてくれたのかな?」 

美希「美希がどうかした?」

アミ「い→や! なんでもないよん!」

美希「あ、それ名前のブレスレット? なんで真っ黒焦げなの?」

アミ「ちょっと色々あってね→」

美希「じゃあ美希と一緒にジュエリーショップに行くの! 磨けば綺麗になるって思うな!」

マミ「あ、それってショッピングモールの外れにあるシャンデリアがあるお店?」

美希「あれ? 知ってたの?」

アミ「ん→……ちょっとね!」

美希「なんで知ってるのー! 気になるのー!」

マミ「んっふっふ~、ヒミツだYO!」

響「さっきまで寝てたと思ったら急に元気になったさー……」

マミ「ミキミキが、助けてくれたのかな?」 

美希「美希がどうかした?」

アミ「い→や! なんでもないよん!」

美希「あ、それ名前のブレスレット? なんで真っ黒焦げなの?」

アミ「ちょっと色々あってね→」

美希「じゃあ美希と一緒にジュエリーショップに行くの! 磨けば綺麗になるって思うな!」

マミ「あ、それってショッピングモールの外れにあるシャンデリアがあるお店?」

美希「あれ? 知ってたの?」

アミ「ん→……ちょっとね!」

美希「なんで知ってるのー! 気になるのー!」

マミ「んっふっふ~、ヒミツだYO!」

響「さっきまで寝てたと思ったら急に元気になったさー……」

――1年後――

 無事に映画の撮影もクランクアップを終え、公開まであと数日を残すのみとなった7月のとある日。
渋谷のスクランブル交差点4面マルチ大型ビジョンには、765proの面々が堂々と写っていた。最新のCGと歴史ある特撮技術の組み合わせが話題を呼び、
知名度の低かったプロダクションとしては異例の前売り券の売上を見せるロボット映画。

 ――これが最後の戦いだ……キラジェム全開ッ!

 ――いっけぇぇぇ!!!キサラギぃぃぃ!!!

 ――先に行くなら……このミキを! 倒してから行くのッ!

 ――穴掘って、埋めて差し上げます!

 ――お前たち……もういい! よすんだー!!

 ――ウソっ!? アズサイズの鎌が……ああっ!?

 ――あなた達に……地球の運命は……託したの……

 道行く人々が思わず足を止める。

 ――恐れ、ひれ伏し、崇め奉りなさいっ!

 ――受け取ったよ、ミキミキ……これがキサラギの……

 ――最終形態!!

 如月千早の歌う『arcadia』が渋谷の街に響き渡る。

 ――オーバーマスターしかないッ!

 ――『いっくよぉぉ!! キサラギぃぃぃ!!!』

 アイドル13人、プロデューサー2人、事務員1人の小さなアイドル事務所。

 後のアイドル界を席巻することになる765プロダクションの快進撃が、始まった。

投下終わりです

随分と長くかかってしまいました、お付き合い頂き有難うございます
なんとかしてハッピーエンドにしたくてこういうラストにしてみました

>>212
二つ名の存在は知ってたんですが、使いどころがわからなくてこんな形になってしまいました
マコトは・・・知りませんでしたorz


よかった



面白かったけど、イオリとの戦闘前にミキがキサラギと戦ったのは難しくない?

イオリはその間待ってたってこと?

>>225
ありがとうございます
>>226
そのこ時系列は自分でも迷ったとこなんです
あまりの展開にイオリもしばし唖然としてたとでも考えてもらえれば・・・

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