智絵里「ぽんこつ千秋さんとホワイトデー」 (23)

 
 
※クールな千秋さんはいません
 
 
智香「ぽんこつ千秋ちゃんとバレンタイン」
智香「ぽんこつ千秋ちゃんとバレンタイン」 - SSまとめ速報
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の続き。一年越しにやっとお返し。


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冷戦(ホワイトデー)

それは、水面下の聖戦。

お返しが自分が望んでいたものかどうかで、どれだけ自分が大事にされているかと分かる。

他の子が的外れなものを渡されるのを見ながら、

自分は大丈夫なんて言い聞かせて、

そのくせどこかで不安がる。

そんな女の子達の、もう一つの戦い。

―――3月14日 事務所 夕方―――

千秋「……」ソワソワ

智絵里「千秋さん……」

千秋「何っ!?」クワッ

智絵里「あ、えっと、ご、ごめんなさい……」

千秋「あ……わ、私こそごめんなさい……どうも気が立ってしまって」

智絵里「そうですよね……今日は、ホワイトデーですもんね」

千秋「……智絵里は、もうもらった?」

智絵里「はい。四葉のクローバーがデザインされた小箱に入ったクッキーを……」

千秋「そう……貴方は彼に大事にされてるのね」

智絵里「そ、そんな事ないと思います!千秋さんの方が、きっと」

千秋「……どうかしら。こんな時間になってもまだもらってないのは私くらいじゃない?」

智絵里「いえ……まだ智香ちゃんも、まだもらってないって言ってましたよ」

千秋「そう、なの?」

智絵里「はい。本人はあんまり気にしていないみたいでしたけど」

千秋「智香は今どこにいるの?」

智絵里「女子寮の自分の部屋だと思います」

千秋「そう……ちょっと話してくるわ」

智絵里「わかりました。もしPさんが事務所に来たら、智香さんの所に行ったって伝えておきますね」

千秋「べ、別にいいわよ」

智絵里「でも……」

千秋「わ、私だって別にお返しなんて気にしてないから」

千秋「あんな……塩と砂糖を間違えたチョコのお返しなんて……」

千秋「……ぐすっ」

千秋「ごめんなさい。ちょっと気分が沈んできたから事務所の端っこで体育座りしてるわ」ズーン

智絵里「智香さんのところに行くんじゃないんですか!?」

千秋「いいの。私の事は放っておいて―――」

ぴにゃこら太のぬいぐるみ「ぴにゃー」デデン

千秋「……」

千秋「事務所の端っこで体育座りする事も許されてないのね私は……」ズズーン

智絵里「だ、だからってPさんの机の下に潜り込まないでください……輝子さんですか……」

千秋「そうね。キノコよ。私はキノコなのよ。言うならばベニテングダケかしら」

智絵里「なんだか怖いことを言い出さないでください」

千秋「ぼっちーぼっちーぼっ千秋ー……ふふっ。惨めね」

智絵里「とにかくPさんの机の下から出てきてください。千秋さんまで住み始めたらPさんの机の下が更にカオスになってしまいます」グイッ

千秋「うー……」

智絵里「千秋さん。どうしてそんなに自信、ないんですか?」

千秋「だって……塩と砂糖よ?そんなベタ過ぎるミスを最後に犯したのよ?私」

智絵里「ですけど、Pさんはちゃんと食べてくれたじゃないですか」

千秋「明らかに無理してるのが見え見えだったし……」

智絵里「それでも、Pさんは食べてくれたんですよ。千秋さんの心が篭ってるって、知ってましたから」

千秋「……」

智絵里「それだけ、千秋さんはPさんに大事に思われてますよ」

千秋「そう……かしら……」

智絵里「はい。きっとです」

千秋「……でもでもでも……」

智絵里「もう、いつもの自信満々な千秋さんはどこに行ったんですか」

千秋「私だって女の子なのよ?……それに、こんな姿、智絵里と智香にしか見せられな―――」

P「おっと千秋。こんな所にいたのか。探したぞ」ガチャ

千秋「何か私に用かしら」キリリッ

智絵里「(切り替え早いですね……)」

P「いや、智香を見なかったかと思って」

千秋「っ……と、智香なら女子寮の自室にいたわよ。もしかしてチョコのお返し?」

P「ああ。智香は結構凝ったチョコを作ってくれたからさ。俺も頑張って智香に似合いそうなの、探してみたんだ」

千秋「ふ、ふーん……そうなの」カタカタ

智絵里「(く、崩れてきてますよ千秋さん!)」

千秋「ならさっさと行って来たらどう?入れ違いになったら二度手間でしょう?」

P「そうだな。そんじゃ渡してくるよ。ありがとな」ガチャ

千秋「……」バタン

千秋「……智香にはちゃんと渡すんだ智香にはちゃんと渡すんだ智香にはちゃんと渡すんだ」ズズズーン

智絵里「次!次は千秋さんですから!」

千秋「もう私のチョコなんて、Pさんの中ではなかった事にされてるんじゃないかしら」

智絵里「そんな事あるわけないです!!」

千秋「どうしてそんな事言えるのよ」

智絵里「デスクワーク中のPさん、見た事ありますか?」

千秋「いいえ……?」

智絵里「Pさん、千秋ちゃんがチョコを入れてた小箱をいつも机の上に置いて仕事してるんです」

智絵里「時々、その中にちっちゃいチョコレートを入れて食べてたりもしてます」

千秋「……そ、そうなの」

智絵里「はい。何度も言いますけれど、それだけ千秋さんはPさんに大切に思われてます」

千秋「ふ、ふーん……えへへ」

千秋「はっ。べ、別にそこまで嬉しくないわね」

智絵里「(今思いっきり嬉しそうに笑ってた……)」

千秋「こほん。じゃあどうして、私へのホワイトデーのお返しがこんなに遅いのよ」

智絵里「それは……ええと……智香さんのお返しと同じ理由じゃないでしょうか」

千秋「智香へのお返し?」

智絵里「さっきPさん言ってたじゃないですか。智香さんはとても凝ったチョコを渡してくれたから、自分も智香さんに似合うのを探してたって」

千秋「……つまり、そういう事って思っていいの?」

智絵里「十分ありえます。Pさんは凄く真面目な人ですから、大切な千秋さんからのチョコには、ちゃんと時間をかけたお返しをしたいと」

千秋「……なら、もう少し待ってみようかしら」

智絵里「はい。その意気ですよ」

千秋「智絵里」

智絵里「何ですか?」

千秋「……ありがとう。バレンタインデーも、今日も、今までも全部」

智絵里「……私も」

千秋「え?」

智絵里「私も、千秋さんを大切に思ってる一人、ですから。当たり前です」

千秋「なら、いつか今日のお返しをさせて。ホワイトデーのお返しのお返しなんて、少しおかしいかもしれないけれど」

千秋「貴方が迷った時、貴方が立ち止まった時」

千秋「貴方の背中を押せるなら、私を頼って」

智絵里「……その気持ちだけで、十分、私は幸せですよ」

千秋「でも」

智絵里「だって私は……」

羨ましかった。

私よりも、どこか危うげで駄目な貴方が。

そんな貴方を見ているPさんが。

何より―――そんな駄目な自分を、認められる強さが。

自分がダメな事を認め、尚且つ努力してそれを完璧に克服してしまう。

そんな私には出来ない事を当たり前に成し遂げる千秋さんが、眩しかった。

だから私も追いかけることにした。

今はまだ、貴方の後姿を見ているばかりだけれど、

貴方の幻影に、背中を押されて前を向いてばかりだけれど、

いつか、きっと。

 
智絵里「いつだって、千秋さんに背中を押されてますから」ニコッ
 

―――夜―――

P「……よ」

千秋「……遅い」

P「ごめんな。お返しに手間取ってさ」

千秋「これだけ私を待たせたって事は、期待してもいいのね?」

P「もちろんだ」

千秋「なら、早速見せてもらいましょう。貴方の、時間をかけたお返しを」

P「……俺さ、料理できないんだ」

千秋「え?突然何を……」

P「千秋と一緒だよ」

千秋「私は出来るけれど?」

P「智絵里から聞いた。猛特訓したんだろ」

千秋「……あの子」

P「今回のチョコだって、そうだったんだろ?智香と、智絵里と、特訓して作り上げたチョコ」

千秋「……そうよ。女の子なのにお菓子の一つも作れない私を笑えばいいじゃない」

P「んな事しねぇよ。でな。俺も見習ってみた」ガサッ

千秋「……それって」

P「智絵里に教え込まれて、智香に応援されて、どうにかこうにか形になったクッキーだ」

千秋「貴方の、手作りって事?」

P「……そう、なるかな」

千秋「そ、そう……」

P「もちろんだけど、これを渡すのも、食べるのも、千秋しかいないよ。他の子には渡してないし、食べさせてない」

P「智絵里や智香にも味見させてない。だから俺も内心ドキドキだ」

千秋「……つまり、私が毒見役って事?」

P「ちょ、そういう事じゃ」

千秋「ふふっ。分かってるわよ。つまり、本当の意味でのお返し、と」

P「そういう事だ」

千秋「ねぇ、ここで食べてみてもいいかしら」

P「作った本人を目の前にして食うか」

千秋「貴方のリアクションが楽しみだから」ガサッ

P「どSだな」

千秋「そう?……見た目は、凄く普通ね」ヒョイ

P「可愛らしくしようとしたら失敗すると思ってな。できるだけシンプルに仕上げてみた」

千秋「……いただきます」

P「……召し上がれ」

一口、一口。

少しずつ噛み砕いていく。

その途中、私は笑い出しそうになってしまった。

こんな所まで、【お返し】しないでいいのに。

一つ、クッキーを完全に食べ終わると、私は不安げな表情を浮かべるPさんの方を見て言った。

「……ふふ。しょっぱい、わね」


おわり

去年逃してしまったのでやっと書けて満足。

ではありがとうございました。

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