男「マスター、ホワイト・ルシアンを」(13)

マスター「ふぅん、今日はジン・トニックからじゃないんだね」キュッ

男「・・・ちょっとね。黄昏たい気分なんだよ」

マスター「何いってんだか・・・」トクトク・・・カラン

男「・・・」

マスター「・・・」コト

男「ありがと。マスターも飲みなよ、奢るよ」

マスター「・・・じゃあ、お言葉に甘えて」

カラン・・・トクトク・・・カララン・・・

マスター「美味いマッカランが入ったんだ。コイツは当たりだよ」

男「へぇ・・・、あとで俺にも一杯くれ」

男「・・・乾杯」キィン

男「・・・」クイ

マスター「先週の日曜、あの子来たよ」

男「 ! ・・・そう」

男「元気してた?」

マスター「まぁ、一応ね。あの子ともう一人、友人と二人で来てたよ」

マスター「仲良かったもんね、あの二人」カラカラカラ・・・

男「そっか、わざわざ遊びに来たんだ・・・」カラン・・・

男「あの子・・・、家庭はうまくいってんのかな」クイ

男「聞きたいけど、聞けないってのも・・・ちょっともやもやするね」クイ

男「まぁ、自業自得なんだけどさ」クイ

マスター「そうだね、あれは笑ったよ」

男「ちぇ、ヒトゴトだと思って・・・」クイ

マスター「あのなぁ」クィ

マスター「君らココであの時どんだけ飲んだか覚えてんの?」

男「・・・3,4杯くらい?」

マスター「阿呆、その十倍だよ」クイ

男「いや、さすがにそんな・・・」

マスター「その日の伝票持ってこようか?」

男「・・・ぐっ」

カラン・・・

マスター「目の前でまぁいちゃいちゃしてくれて」

マスター「バカらしくなっちゃったよ」

男「・・・くっ」

男「俺も若かったんだよ」

男「ひどい目にあったけど、いい経験だった」

マスター「性的な意味で?」

男「それもある」クイ

男「これ飲むと思い出すんだ。今でも」カラン

マスター「・・・」

男「結末はクソでも、確かに愛した女だった」

男「今もまた会えば、同じ過ちを繰り返してしまうかもしれない」

男「でももう、二度と繰り返しちゃいけない」

男「そんな切なさを、この二人で飲んだホワイト・ルシアンが宥めてくれる」

男「だからたまに、無性に飲みたくなるんだ」

マスター「そうか」

カラン・・・

男「・・・」

マスター「・・・」

・・・

マスター「なぁ」

男「・・・ん?」

マスター「聞いていいかい?」

男「・・・」コク

マスター「何だってこんな、場末の酒場に語りに来たんだ?」

男「・・・」クイ

男「・・・何でかな。よくわからない」

男「最初は楽しく、ファンタジーでも語ってやろうと思ったんだ」

男「でも気づいたら、ね」

男「野郎二人でキメェってやつだ」

マスター「・・・そんな日もあるか」クィ

男「秋ってのがね、昔から調子狂うんだよね」クィ

男「マスター。マスターと同じ物を」

マスター「オーケー」キュッ

カラン・・・トクトク・・・カラカラカラ・・・カラン・・・コト

マスター「最初の一口。すごく尖った味だが、ちょっとおいて氷が程よく溶けた頃に飲むと・・・」

男「・・・うまい!! こ、こんなに味が・・・」

マスター「変わるだろう?しかしもっと溶けると味がぼけて、とてもじゃないが飲めない」

マスター「一瞬なんだよ、酒も、人生も」

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