【デビルサバイバー2BR】峰津院都、初めてのバレンタイン (104)

・キャラ崩壊注意。

・キャラの口調や性格を正確に把握したり描写できてないかもしれません。

>>1はこれがSS初作品なので粗は許してください、なんでもしますから!

・ミヤコちゃん可愛い重点。

・原作の設定とかと違うとこがあるかもしれません。

・酉の付け方がよくわからんので、そのままで投下します。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1423919616



「それで、あの、その!……これを、受け取って、もらえますか……?」


彼を見つめ包装した箱を持った手を突き出し、自分でも分かる位に顔に熱を持った私の口から出たのは、我ながら間の抜けたつっかえた上に震えながらの言葉でした。



峰津院都、初めてのバレンタイン



イオから「この日に女の子だけで集まるから、ミヤコちゃんも来てね」と、半ば強引な誘いを受けたのが3日前のこと。
ジプスでの仕事と兄様への報告を済ませ、やや気乗りしないままイオの家へと出向いた私は、イオのお母様への挨拶もそこそこにイオの自室へと歩を進めました。
……お母様が「若いっていいわねぇ」と言っていましたが、何だったのでしょうか?
それとお母様、あなたも充分に若いと思います。少なくとも、高校生の娘がいるとは思えません。


「イオ、入りますよ。」


ノックを3回、イオの返事を待ち部屋に入ると、イオ・マコトさん・フミさんが机を囲んでいました。
挨拶も済ませましたが、何と言いましょうか……部屋全体の空気がひり付くような、何とも言えない雰囲気を醸し出しています。
よく見ると机の上には何かの雑誌がたくさん広げられていますが……それよりもまず、質問をしなければなりません。


「それで、今日集まったのは何故です?
 まさか理由も無しに集まったというわけではないでしょう。」


そう、私は集まる理由を聞いていないのです。
誰でも抱くであろう当然の疑問を口にした瞬間、何とも言えない、というか「えっ、本気でわからないの?」といった視線が全員から投げかけられました。
いや、そんな目で見られても……。


「えっと、ミヤコちゃん。
 本当に、集まった理由って分からないの?
 今日はもう2月7日だよ?」


「はい、まったく見当がつきません。
 その口ぶりから察するに、皆さんは理由を承知しているようですが……」


イオから投げかけられた問いに、そう答えます。
実際、皆目見当がつきませんから仕方ありません。


「ではミヤコ副局長、バレンタインデーをご存じでしょうか?
 私達はその件で集まっているのです。」


マコトさんがそう問いかけてきました。
バレンタインデー……何故そのようなことで集まる必要があるのでしょうか。


「えぇ、知っていますよ。
 聖人ウァレンティヌスの殉教日であると同時に、彼を悼み祈りを捧げる日ですね。
 ですが、私たちは誰も彼の宗教の教徒ではなかったと思いますが……。」


全く意味が分かりません。
こう言っては何ですが、教徒でもない女性たちが集まって何かをする日とはとても思えません。


「あー、ミヤコ副局長。
 確かにそういう意味もある日だけど、ここ日本ではそれ以外に意味のある日なんだよね。
 というより、むしろこっちの方がメイン。」


そう言うフミさんからヒントを貰いましたが、やはり全くもって見当がつきません。
それ以外の意味……ここは率直に聞いた方が良いでしょう。


「では、イオ。
 バレンタインデーの日本での意味とは何ですか?
 私を誘った本人なのですから、もちろん答えてくれますよね。」


正直に言えば、誘った時点で理由を教えてもらいたかったのですが……。


私の質問に、イオは何故か顔を真っ赤にして口をもごもごさせたり目を泳がせたりしていましたが、やがて意を決した表情で口を開きました。
まぁ顔は赤いままなのですが……


「あのね、ミヤコちゃん。
 日本におけるポピュラーなバレンタインデーというのは……その……女の子がす、好きな男の子に、チョコレートを贈る日、なの。」


そう言ったイオは、湯気が出そうなほどに赤くなって俯いてしまいました。
ふむ……女性が好きな男性にチョコレートを贈る日、ですか……。


「――――ふぇっ!?」


我ながら、とんでもなく間抜けな悲鳴染みた声が飛び出したものです。
と、頭の冷静な部分が考察しますが、そ、それどころではありません!


「す、好きな男性!?
 わ、私に好きな人なんていません!えぇ、いませんとも!
 な、なので私は失礼させていただきますっ!」


急いで踵を返そうとした私でしたが、手を掴まれ阻まれてしまいました。
振り返ると、私の手を掴んだイオがやや朱色を残した顔のまま真剣な目で見つめてきました。


「私達は、彼にチョコを贈る為に集まったの。
 ミヤコちゃんも彼を好きな事だって、普段を見てれば分かるよ。」


「だから誘ったってわけ。
 1人だけ蚊帳の外に置くとか、フェアじゃないでしょ。」


「ですから……誰が選ばれたとしても恨みっこ無し、というわけです。
 もちろん、誰も選ばれないという可能性もありますが。」


み、見てれば分かる!?
そ、それって言い換えれば普段からバレバレだったってことでは……!


「そ、その、私が彼を好き、というのを知ってるのは、あなた達だけですよね?
 そ、そうだと言って下さい!」


「えっと……ミヤコちゃん……。」


「ミヤコ副局長、大変申し上げにくいのですが……。」


「見事にバレバレ、少なくとも女だったら丸分かり。」


「 」


――今思えば、たまに女性局員が微笑ましい物を見る目で見てくることがあったような気がします。
ですが……これは辛いものがあります……。


――数十分後


「落ち着いたかな?」


「はい……その、お見苦しいところを……」


「いえ、正直私でも同じことになっていたかと。」


「んじゃ副局長が落ち着いたことだし、バレンタインに向けての話を進めよっか。」


「そうですね……。
 まずは、みんなで手作りチョコを作ろうと思うんです!」


「……手作りチョコ、ですか?」


「うん。こーいう事になったんだし、既製品じゃ味気ないっしょ。
 それと公平を期す為に、いっそみんなで手作りしようってわけ。」


「1週間もあれば、失敗したとしても充分にリカバリが効きますからね。」


「私に作れるでしょうか……。
 自慢にもなりませんが、私は今まで一度もキッチンに立った事がないのです……。」


「アタシだって似たようなもんだし、そこら辺は何とかなるでしょ。
 菓子ってのは基本的に計量・時間・工程を間違えなきゃそうそうは失敗しないし。」


「言うのは簡単だがな、フミ。
 それら全てに繊細さと大胆さが求められるから菓子作りは難しいのだ。」


「逆に言えば、1つでも間違えば即失敗ですからね。
 私とマコトさんで教えながらやりますから、ゆっくり調理しましょう。」


「よろしくお願いします……。
 早速ですが、作業に移りましょう。」


「あ、まずは材料を買ってこないとねぇ。
 はーあ、めんどくさ。」


「なに、本格的に面倒くさいのはこれからいくらでもある。
 それを思えば、これくらいは何てことないぞ。」


――こうして私達の挑戦は始まりました。


1日目


「み、ミヤコさん!熱し過ぎです!」


「えっ!?あっ、溶け切ってしまいました……。」


「これくらい楽勝、楽勝。」


「フミ、混ぜているホイップが吹っ飛びまくってるぞ。」


2日目


「痛い!?」


「ミヤコ副局長、どうすればチョコを切る作業だけで指を切るんですか……。」


「うーん……これが30gでこっちは10cc……これはあの反応が応用されるわけだ。」


「フミさん、考察よりも手を動かしてください!」


3日目


「指が動かしにくいです……。」


「確かに、指が絆創膏だらけだとやりにくいですよね……。」


「ごめん、爆発した。」


「フミィッ!」


4日目


「どうでしょう、マコトさん。」


「流石です……かなり上達しましたよ。」


「うーん、大体分かってきたかなぁ。」


「すごい……これ全部セプテントリオンを模してる……。」


5日目


「なかなかの出来栄えです!」


「この小さいお人形さん、全部チョコで出来てる……。」


「おーけー。これで完璧。」


「ふ、フミ?これ一体どうやって作ったんだ?」


そして迎えた6日目……


「遂に完成しました……思えば長い道のりでした。」


「実に見事なものです、既に技量が逆転してしまいましたね。」


「んー、結構いい感じに仕上がったかなっと。
 調理は科学だってのは本当だね、これからは研究の息抜きにするのもいいかも。」


「本当にすごいです、2人とも……つい1週間前まで素人だったとは思えないです。」


「そんなことないですよ、イオ、マコトさん。
 その証拠に、私達よりずっと綺麗な仕上がりじゃないですか。」


「流石にアタシも1週間かそこらで追い抜いたって思うほどバカじゃないよ。
 ま、気が向いた時にでもまた教えてよ。」


「あぁ、また今度な。
 さて、チョコも完成したことだし……次に決めておくことがある。」


「渡す順番、ですね。」


「あー、確かにアタシらに一度に渡されてもアイツが面食らうし、ヘタすると選べなくなるかもしれないか。
 だったら決めておいた方がいいね。」


「あの、私は最後でいいです。
 正直、私が一番可能性が低いと思いますから。」


「ですが……。」


「いいじゃん、ぶっちゃけ、一度に渡さないってのが重要なのであって、順番はあんま関係ないしさ。」


「そうですよね……彼に心に決めた人がいるんなら全員が断られて終わり。
 もし私たちの内の誰かを受け入れてくれるなら、その人が行った時点で終わり。
 その人が来るまでは断るだろうし、確かに順番はあまり関係ないですね。」


「確かに……それはそうだが……。」


「マコトさん、余計な気遣いは無用です。
 元々これは恨みっこなしの真剣勝負ですし、ね。」


「……分かりました、ミヤコ副局長。
 では、残りの順番を決めよう……ジャンケンの勝ち抜きにするか。」


「へぇ、シンプルでいいね。
 アタシは異論ないよ。」


「私も、それで大丈夫です。」


「では勝負と行こう。最初はグー、ジャンケン!」


「「「ぽん!」」」


「そろそろ、来る頃でしょうか……」


遂に迎えた2月14日……私は、指定した待ち合わせ場所で彼を待っています。
ターミナルを使えるのですし、東京支局で待ち合わせればいいと思ったのですが、それを言ったらダメだと言われてしまいました。
曰く、「雰囲気が大事」とのこと……よく、分かりません。


東京は渋谷駅、忠犬と名高い犬の銅像の近くで1人でぽつんと立っているからか、随分と悪目立ちしている気がします。
流石に勤務中でもない上に、こ、告白するのにジプス制服のままで行くわけにもいかないということで、皆さんにコーディネイトされた服を着ているのですが……
やはり似合わないのでしょうか……。
そう思っていると、男性の集団が近づいてきました。
彼らも待ち合わせをしているのでしょうか?


「あれ、君1人ぃ?
 良かったらさー、俺らと一緒に遊ばない?」


「暇はさせないからさー。」


「カラオケと飯くらいなら奢っちゃうぜぇ、へへへ。」


「……。」


ニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべながら、そのような事を私に言ってきました。
よく見ると、ギラギラと下品に輝く装飾品を大量に身につけ、服装もかなりだらしない人たちです。
なんなのでしょうか……彼への告白を前に不快な気持ちが込み上げてきます。


「興味がありません、お引き取りを。」


「そう言わないでさー。」


「もしかして待ち合わせしてんの?
 あーあー、君みたいな娘を1人にするなんてとんでもねーロクデナシだよぉ。」


「そんなの放っといていいじゃん、ほらぁ。」


と、私の腕に手を伸ばしてきた男性の手を避け、一定の距離を保ちます。


「あなた方には関係ありません。どうかお引き取りを。」


「ひゅー!もしかしてコイツお嬢様ってやつじゃね?」


「そうっぽいな!口調が何となくソレっぽいしよ。」


「かなりの上玉だし、俺たち結構ツいてるぜぇ。」


私の言葉を無視し、勝手に盛り上がる男性たち。
周囲の人たちは、私を気の毒そうな目で遠巻きに見るか足早に素通りするだけです。


「第一、あなた方と彼とでは天と地ほどの差があります。
 私があなた方について行くなど、万が一、億が一にもありません。
 なので、どうぞお引き取りを。」


「……あのさー、大人しくついてきた方が身の為だぜ。」


「女なんざ俺らに尻尾ふってりゃいいんだからよ、へへ。」


「おら、こっち来いよ!」


そう言いながら、私の逃げ場を無くすように近づいてきます。
実力行使に出るべきでしょうか……と考え始めた、その瞬間


「ぎゃあああっ!?」


「いってぇ、いたたたた!?」


彼らの悲鳴が周囲に木霊しました。
彼らの頭が誰かに掴まれ、そのまま持ち上げられぐるりと半円を描くように向こう側に移動させられます。
そこから見えたのは……兎の耳の様なものがついたフード付きの白い服でした。


「あっ……。」


彼はそのまま、ぽいっと音がしそうな感じに男性たちを放り投げました。
正直、すさまじい膂力です。
彼らもそう思ったのでしょう、恐ろしい物を見るような目で見つめた後、情けない悲鳴を上げながら逃げて行きました。


「遅れてごめん、大丈夫?」


「は、はい!
 ありがとうございました。」


いつも、私は彼に助けられてばっかりです……
って、私の所までき、来てしまったんですか!?
ということは前の3人は……まぁ、私もすぐに後を追うことになるとは思いますが……。


「ここじゃ目立っちゃうし、場所を移そうか。」


「はい、賛成です。」


「それじゃ、行こうか。」


そう言って、私の隣に立ち歩き始めました。


目的地に着く間、彼と色々と話しました。
それで気付いたのですが、彼はさりげなく車道側を歩き、私の歩調に合わせてくれていました。
これが世に言う「男性側の気遣い」というものなのですね……。


目的地は、広大な公園でした。
夜の闇にライトアップされた大きく美しい噴水が煌めき、幻想的な雰囲気を演出しています。
「暇な時に、よく来るとこなんだ。」とは彼の弁です。
なるほど、これは確かに落ち着く場所です……。


「それで、話って?」


「おそらく、分かっているのではないですか?」


「んー……まぁ、ね。」


噴水の前で彼と向き合うように立ち、会話を始めます。


今になって緊張してきました……。
微妙に震える手で、包装した箱を取り出しました……。
黒の紙で包んだ箱に、白が強めの灰色のリボンで装飾した手作りチョコ……。


「……初めて会った時、私はあなたをただの駒と見ていました。
 ですが、不思議なものですね。
 そんな私があなたに救われ、あなたを特別に感じている……。
 あなたと、ずっと共にいたいと、思っている……。」


「……。」


「私は、あなたが好きです。
 これは私の、峰津院都の、偽らざる気持ちです。」


恥ずかしいです、まずいです、限界です。


「それで、あの、その!……これを、受け取って、もらえますか……?」


彼を見つめ包装した箱を持った手を突き出し、自分でも分かる位に顔に熱を持った私の口から出たのは、我ながら間の抜けたつっかえた上に震えながらの言葉でした。


……やってしまいました。
どうしましょう、恥ずかしすぎて彼の顔を見てられない……。
私はあまりの恥ずかしさに、俯いてぎゅっと目を閉じてしまいました。
あぁ、でも、これで断る彼の顔を見なくても済m


「えっ、えぇっ!?」


そんな私の思考は、私の口から出た悲鳴にかき消されました。
わ、私、彼に抱きしめられている!?
チョコはいつの間にか彼の手に渡り、そのまま正面から抱きしめられています!
しばらく抱擁から逃れようと、もぞもぞしていましたが彼に逃す気は全くないらしく、そのまま大人しくなってしまいました。
服越しとはいえ彼の胸板に顔が密着し、心臓の音が聞こえます……早鐘です。
私の心臓も、これに負けないくらいの早鐘を打っているのでしょう……。


「な、何故、私を抱きしめたのですか?
 まだ答えを聞いてません!」


「……俺が初めて君と会った時、正直に言うと不信感が強かった。
 何故、大和の位置に君がいるのか……不思議でもあった。
 でも、君の胸の内を聞いた時、守りたいって思ったんだ。
 そして君といろんな話をしたり内面を見る内に、君に惹かれていく自分を自覚したんだ。」


「えっ……それ、って……。」


そこで彼は私の抱擁を解き、正面から私の目を見つめ――


「俺は、峰津院都が、君が好きだ。
 その告白とこのチョコ、謹んで受け取らせてもらうよ。」


「――――っ!」


反射的に彼に背を向け、しゃがみ込んでしまいました。
どう、しましょう……すごく、嬉しい……。
緩みそうになる顔に手を添えていると、彼が優しく私を立たせ、振り向かせました。


「これから、ずっとよろしく、ミヤコ。」


「はいっ!」


私は自分でも驚くくらいの満面の笑顔で、彼の胸に飛び込みました。
やはり彼の身体は男性らしく逞しく、私を軽く受け止めました。
ふと顔を上げると、彼の顔が目の前にあります。吸い込まれそうな、蒼い瞳。


私は目を閉じ、軽く踵を上げました。
そして――


月が私たちを優しく照らす中、2つの影が1つになりました――。


FIN.

HAPPY St. Valentine's Day!

デビサバのSSとか珍しすぎwwww

期待


以上で投下終了です!

唐突に降ってわいた電波に突き動かされ、だいたい8時間くらいで書いたSSなんで
結構無茶苦茶なとこもあるかもしれませんがそこら辺はどうかご容赦を……。

もしかしたら、また何か書くかもしれないので、その時はよろしくお願いします。

>>18
合いの手、ありがとうございます。
ご期待に沿えるよう、またネタを考えてみますのでどうかお待ちを!
正直な話、>>1がミヤコちゃん大好き病なのでだいたいミヤコちゃんネタが多くなるかと思います。

あっ、途中からsageてた
まぁいいか

ミヤコとイオが可愛すぎて悶え苦しむ
マコトさんも捨てがたい

>>22-23
感想、ありがとうございます。
女性陣を可愛いと感じてくれたなら幸いです。
でも、フミさんの可愛さが足りなかったかもしれませんね……。

なので、投下します。
前振りからしてフミさんメインかと思われそうですが、残念ながらミヤコちゃんメインです。
>>1がミヤコちゃん大好き病だから、仕方ないんですね。

あ、前の話とは繋がっていませんので、あしからず。



私は今、彼と共に戦っています。
強靭な四肢に、虎を更に凶暴にさせたような顔、マントのような外皮を持つ獰猛な獣――!






峰津院都、初めてのゲーム





自慢ではありませんが、私は機械に強い方です。
パソコンや携帯端末はもちろんのこと、その気になればターミナルを改造することも容易いです。
しかし……何事にも、例外というものが存在します。
その例外こそが、私たちの前に鎮座する大き目で折り畳み式の機械です。


「あの、ダイチさん。
 確かこれは……。」

「へへー、前に言っただろ?
 ミヤコちゃんもゲームをやってみようぜって。
 で、コイツと割り勘でプレゼントってわけ。」

「……それは分かったが、なぜ私の前にもこれがあるのだ。」

「ヤマトもこういうのやったこと無いだろうし、一緒に買ってきたんだ。
 ま、騙されたと思ってやってみなよ。
 意外とハマるかもしれないよ?」

「ふむ……お前が言うと不思議と説得力があるからな。
 市井のものに触れ、見識を深めるのも一興か。」

「で、ですが、こういうものは一般の学生にとっては高いものでは。
 それを贈られるというのは……。」

「いいから受け取ってよ。
 それに、俺たちの懐に閑古鳥が鳴くってわけじゃないしね。」

「コイツの言う通り!
 ほら、俺たちってジプスの協力員ってことで嘱託みたいな扱いになってるじゃん?
 それで、ある程度の給料が出てるから問題なーし!」


「うーん……そういうことでしたら、ありがたく頂戴します。
 それで、どういったゲームをするのですか?」

「おそらく、私たち全員で出来るものだろう。
 でなければ、わざわざ一ヶ所に集まる必要もあるまい。
 私とミヤコのそれぞれに渡せばいいだけの話だ。」

「おー、流石はジプス局長、鋭い……。」

「ヤマトの言う通り、俺たち全員で協力しながらプレイできるゲームをしようと思うんだ。
 あ、そのゲーム機にソフトはダウンロード済みだよ。」

「まずゲーム機を起動してみて。
 そしたら、でっかいアイコンが出てくると思う、それがソフトだよ。」

「このボタンが電源ですね。
 ……はい、このアイコンですね?」

「……タイトルは、GOD HUNTER 4G BURST、か。
 どういった内容なのだ?」

「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれましたー!
 これは世界中で大人気でさ、友達と協力してアラガミっていう敵を倒していくゲームってわけ。
 アラガミは多種多様な外見しててさ、一番手強いのは総じてでっかいドラゴンなんだよね。」

「もちろん、それだけじゃないよ。
 敵を倒して素材を手に入れて、それを使って装備を強化していくのがミソなんだ。
 色んなアイテムを調合して、より強力なアイテムを作ったりとかも出来るから、やり込み要素も豊富なんだ。」


「なるほど……やればやるほど夢中になる要素が多い、というわけですね。
 では、起動してみます。」

「キャラクターメイキングも出来るから、それで結構時間を食ったりするんだよね。」

「終わったぞ。」

「はやっ!?
 ちょ、ヤマト、もう終わったの?
 結構、項目があったはずだけど……。」

「なに、単純な事だ。
 全てデフォルトのままにしただけだ。」

「あはは、ヤマトらしいや。」

「私も終わりました。
 と言っても、髪の色を合わせただけですが。」

「それでもヤマトに比べたら可愛げありますよ、えぇ。
 ま、とりあえずやってみよっか!」

「神狩り行こうぜ!」

「なんだか、微妙に物騒なセリフですね……」


「えーっと、チュートリアルは終わったな。
 で、どうよ?実際に操作してみた感じは。」

「なかなかに快適、ですね。
 スピーディーですし、なにより武器が三段階に変形するのが楽しいです。」

「悪くないな。
 このようなものを作るとは、一般人もバカにはできんか。」

「概ね好評のようだね。
 じゃあ、本番に行ってみようか。
 ミヤコとヤマトは初心者だし、慣れるまではザコと戦った方がいいだろうね。」

「では、よろしくお願いします。」

「ふん、ザコが私に敵うと思うな。
 蹴散らしてくれる。」

「ヤマトって、割となんにでも全力だよなぁ。」


――数十分後

「うん、2人とも随分と慣れたみたいだね。
 というか上達スピードがすごいや、中型アラガミくらいなら単独で倒せるようになってるし。」

「私にかかれば、この程度は容易い。
 それよりもお前は流石だ、常に全体を見てすぐに助けに入れる位置をキープしている。
 やはり指揮官としての腕は、お前の方が上だな。」

「ダイチさんもすごいです。
 敵の正面で注意を引きつつ攻撃し続けてるのに、ほとんどダメージを受けていませんし……。」

「たははー、そりゃ長い事やってますから。
 それにコイツ、今回はサポートに回ってたけど、俺より上手いし。」

「それでも近接じゃお前に敵わないよ、ダイチ。
 俺の場合はヒット&アウェイでポイントを稼いで、銃撃でダメージを稼ぐってやり方だから被害が少ないってだけだし。」

「それで、まさか今回はこれで終わりではないだろう?
 まだ戦っていない相手がいる。」

「大型アラガミ、ですね。
 確かここからはドラゴンばかりになるというお話でしたね。
 正直に言えば、今までの相手では物足りませんでしたし……やれるならやってみたいです。」

「おぉ、兄妹揃ってやる気満々。
 んじゃー、いっちょ行ってみますか!」

「2人とも、気を付けて。
 ここから難易度が急上昇するから……今の装備だと、一撃で体力が吹っ飛んでも不思議じゃないし。」

「私を誰だと思っている、その程度はいいハンデだ。
 慣れるより先に、倒してしまっても構わないだろう?」

「要は当たらなければいいのです。
 さっきまでと同じようにすれば行けるでしょう。」

「……すっげぇ、兄妹揃ってこれでもかと死亡フラグ立ててるわ。」

「……言ってやるなよ、ダイチ。」


――3時間後

「「 」」

「あー……見事に燃え尽きてるな。」

「文字通り真っ白だね。
 まぁ2人とも、元から肌や髪は白いけど。」

「最初に、ヤマトが突っ込んで毒を受けてそのまま1乙。
 次に、助けに入ろうとしたミヤコちゃんが押し潰しを食らって2乙。
 俺たちは、少し離れた位置で乱入してきた敵の相手してたから回復もできなったんだよな……。」

「そうこうしてる内に、ミヤコが尻尾の一撃で3乙。
 そのまま回復も出来なくて、クエストは失敗になったって流れだね。」

「そっからは2人とも意地になって何回も挑戦したけど、動きはともかく装備が悪すぎたわな。」

「なにせ防御力が低すぎて、一撃食らったら終わりっていう、セルフオワタ式だしね。
 ついでに言えば、攻撃翌力も低すぎてまったく削ることも出来ないから倒すことも出来ない悪循環。」

「んー、まぁ、完全に慢心して挑んだ2人が悪いんだけどさ……。」

「ダイチだって、覚えはあるだろ?」

「はははっ!そう言うお前もな!」


このゲームをやり始めた頃の失敗談に、華を咲かせていた時だった。
揃って椅子に凭れ掛かって俯きながら真っ白に燃え尽きていた、峰津院の双子が「ゆらり」と立ち上がったのは。
本能が「ヤバい」と警告を発し、その警告に従い逃げようと立ち上がるも手を掴まれ阻まれる。
「ぎぎぎっ」と音が鳴りそうなくらいに、ぎこちなく首だけ振り返ると……そこには、修羅がいた。

「……私を鍛えてください。
 ダイチさんよりも上手いというあなたなら、あのトカゲ野郎を叩き潰す術を豊富に持ち合わせているでしょう。
 操作スタイルや装備の傾向も、私と似ていますし。」

「あ、あの、ミヤコ?
 ちょっと力が強いかn「 い い で す ね 」アッハイ。」

ダイチの方に視線を向けると、俺と同じようにヤマトに腕を掴まれていた。

「志島、心の底から甚だ不本意だが、私を鍛えろ。
 あのデカいだけの、不快な置物を殲滅できるだけの技量を齎せ。」

「いや、あれは慢心して挑んだお前がわr「 い い な 」アッハイ。」

……どうしてこうなった。


「うぅ……私は、なんてはしたない事を……。」

「ミヤコ、俺はもう気にしてないから……。」

「そういう問題じゃないです……。」

私は今、自室のベッドに座り毛布を被っています。
近くの椅子には彼が腰かけ、私を慰めてくれていますが……うぅ……。

――あの後、完全に頭に血が上った私は、彼の手を掴んで連行していました。
ぎょっとしたり、どことなく納得したような目で見てくる局員たちには目もくれず、ずんずんと進んで自室に入り、カギをかけてから正気に戻りました。
それで今は、羞恥のあまりベッドの住人と化しているわけです……。
ちなみに、同じようにダイチさんを連行した兄様は「また志島が何かやって、局長が説教するのか」と納得されていたそうです。
なんだか理不尽です……。

「あー、その、ミヤコ。
 ゲームの練習、しようか?
 元々はそれが目的で、俺を連れてきたんだし。」

「……お願い、できますか?」

「もちろん。
 まぁ、練習と言っても、まずは装備を整えることからだけどね。」

「では、よろしくお願いします。」

――そうです。
私には、あのトカゲどもを打ち倒すという使命があるのです。
ですから、さっきの事もその為に必要なことだったのです!

私は自身にそう言い聞かせ、毛布から出てゲームの準備を始めます。

――自分とは違う、彼の硬くゴツゴツとした手の感触を忘れられないまま。


――時は、待たない

「驚いた……ドロップ確率がかなり低い素材が必要だったのに、もう揃えるなんて。
 正直、羨ましいくらいの幸運だよ……。」

「ふふっ、たまたまですよ。
 それに本当に運が良ければ、さっきだって勝てていたでしょうから。」

「あはは……まぁ、それもそうだね。
 というか、もうこんな時間か……続きはまた明日にしよう。」

彼の言葉に時計を見ると、既に日付が変わるまで幾ばくもない時間でした。
ですが……流れに乗った今なら、もっといけるかもしれません。

「あの……ご迷惑でなければ、このまま続けてもらえませんか?
 今なら、もっと上手くなれるような気がするんです!」

「俺は構わないけど……本当に良いの?」

「……?
 何がでしょうか?」

「……無防備すぎるよ。」(ボソッ)

「……?」

「な、何でもない。あー、じゃあ続けようか。
 装備は整ったし、敵のパターンを覚えることから始めよう。」

「は、はい。よろしくお願いします。」


私は今、彼と共に戦っています。
強靭な四肢に、虎を更に凶暴にさせたような顔、マントのような外皮を持つ獰猛な獣……!

「あ、興奮状態でこの体勢になると周囲に電撃を連続で放ってくるから、防御するか離れるといいよ。
 ほら、来た!」

「は、はい!
 ……防御してこのダメージなら、大型も相手取れそうですね。

「それでも大型の攻撃翌力は、本当にひどいからね。
 俺たちの上位装備でもそこそこ削られるし、油断するとやられちゃうから。」

「油断大敵ですね……。」

「……よーし、討伐成功。
 お疲れ様、捕喰して素材を取っちゃって。」

「お疲れ様です。
 ん……また、宝玉が出ました。」

「本当にすごい運だよ、ミヤコ……。」

彼のおかげで装備を整えることも出来ましたし、動きもさらに良くなったと実感できます。
クエストが終わって緊張が薄れたからでしょうか……とても眠いです……流石に無理をし過ぎましたか……?
ぼーっとする意識の中、ちらりと時計を見ると、短針が右に90°曲がっています。
彼も、どことなくぼぅっとしていますし……これ以上は危険でしょう。

ここから先はR-15かもしれません。

ぶっちゃけ、そこら辺の基準が分からないんですよね。


「わざわざ付き合って下さって、本当にありがとうございました。」

「いえいえ、どういたしまして。
 俺も初心に帰ることが出来たし、いい経験になったよ。」

「ふふ、お互い様ということですね。
 それと、時間も時間ですし、このまま泊まって行って下さい。」

「あー……こんな時間だしね。
 じゃあ、ちょっと部屋を探してくるよ。
 1つくらい空いてると思うし。」

「そんな事をしなくても大丈夫ですよ。
 ここに泊まればいいんですから。」

「……えっ。」

自分でも何を言ってるのか分かりませんが、大したことではないでしょう。
それよりも脳が睡眠を欲しています。彼もそうでしょうから、話にあまり時間をかけるべきではないでしょう。

「では、私が奥に詰めますから、こちらにどうぞ。」

「い、いやいやいやいや!何を言ってるのさ、ミヤコ!」

「……?
 寒いですから、早く入って下さい、ほら。」

「あ、ちょ、ミヤコ!離してって力つよっ!?」

彼もベッドに入ったのを確認した私は、彼の腕を掴んだ姿勢のまま睡魔の誘いに乗りました……。


「うっ……ん……すぅ……すぅ……。」

目の前には、静かな寝息を立てるミヤコの顔がある。
彼女の手足は、俺の身体に絡みつき、これでもかと柔らかな肢体を押し付けてくる。
抜け出したいが、彼女の無垢な寝顔を見てしまうと、それを壊すのがとても悪い事の様な気がして躊躇し続けてきた。

それに正直、抜け出したいとは言ったが、そこは悲しい男の性もあり、役得ともいえるこの状況に喜び、興奮している自分がいるのも事実。
ぶっちゃけ寝れない、こんな状況で寝れるわけがない。
少なからず気になっている女の子の寝顔を直視し、しかも布団の中と言う狭い空間で密着しているのだ。
それで普通に寝れる男がいたら、それは既に男ではないだろう。

と、ここまで頑張ったが、俺も流石に限界のようだ。
ミヤコの拘束が緩んだら脱出するつもりだったが、そんな気配は微塵も無かった……。

意識が遠のいてくのが分かる。
「あー、これミヤコが先に起きたらヤバいよなぁ」
そんな考えが脳裏をよぎったが、俺の意識はあえなく現世とおさらばすることになるのだった。


「……んっ……あさ……。」

起き抜け特有の、ぼぅっとした頭のまま、私はそんな言葉を口にしました。
なぜか、いつもより気持ちよく安眠できたらしく、普段の起き抜けよりも意識がはっきりしています。

ふと、私は何かを抱きしめていることに気が付きました。
なんでしょうか……表面が布地なのは分かりますが、ゴツゴツと硬い……?
珍しく布団を頭まで被って床に就いてしまったらしく、暗くて何を抱きしめているのかよく分かりません。
ですが……とても心地よく、安心できます。

起きたのにずっと布団に包まっているわけにもいきませんし、名残惜しいですが布団から出ることにします。
そうすれば、自動的に何を抱きしめていたのかも分かりますしね。

そうして何かから手を離し、そのまま布団を払った私の視界に飛び込んできたのは……彼の、寝顔でした。

「……き、きゃぁ~~~っ!」

自分の口から出たとは信じられない、絹を引き裂くような悲鳴と共に繰り出された拳は、健やかな寝顔が浮かぶ彼の顔面に直撃したのでした――。


続く?

今回の投下は、これで終了です。

いい感じにインスピレーションが沸いたら、続きを書くかもしれません。

あ、バレンタインの続きも書けそうです。
構想はだいたい練れてきたので、もう少しお待ちください。

それと、相変わらず短くてすみません。

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