ゆの「タイムカプセル」 (72)

ひだまり荘 庭

ゆの「ここら辺にしまったと思うんだけどな~」

宮子「物置くらいしか入れるとこないもんね」

ゆの「でも、何で急にホッピングやりたいなんて?」

宮子「いやー、さっきふとスイカ食べたくなって」

ゆの「スイカ?」

宮子「でも夏じゃないとないしなー、と思ってたら」

宮子「ゆのっちがだいぶ前にホッピングやってたの思い出したんだ」

ゆの「?」

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宮子「およ?ゆのっち、これ何?」

ゆの「ん?ああ、ブルータス?」

宮子「誰かがデッサンしてたのかな」

ゆの「分かんないけど、前にお庭の草むしりしてたら見つかったんだ」

ゆの「見つかったっていうか、埋葬されてたっていうか……」

宮子「てことは、他にも何か埋まってるかもってこと?」

ゆの「さあ……それはわかんないけど」

宮子「シャベルあるし、掘ってみようよゆのっち!」

宮子「ひだまり荘お宝発掘大作戦!」

宮子「特にこの木の根元なんて何か埋まってそうな予感がしますぞ」ザクザク

ゆの「そうかなあ……」

宮子「ゆのっちは興味ない?」

ゆの「ううん、手伝うよ」

宮子「シャベル1本しかないみたいだけど、私使ってていい?」

ゆの「え、シャベルはいっぱいあるよ?」

宮子「そうだった?私が今使ってるやつしか見当たらなかったから」

ゆの「宮ちゃんが使ってるのってスコップだよね?」

宮子「スコップってちっちゃいやつじゃないの?」

ゆの「あれ、そうだったっけ?スコップ……シャベル……?」

ゆの「なんかよく分からなくなってきちゃった」

ガラガラ

乃莉「先輩方、何してるんですか?」

宮子「あっ、乃莉スケさん、いいところに!」

乃莉「?」

宮子「これの名前、何て言う?」

乃莉「えっと……シャベルですよね」

宮子「こっちの小さいほうは?」

乃莉「スコップですか?」

ゆの「そうだったんだ、私、逆に覚えてたみたい」

乃莉「まあ紛らわしいですよね、私も言われたらなんか自信なくなってきました」

乃莉「なずなー?」

なずな「乃莉ちゃん、どうしたの?」

ゆの「あ、なずなちゃん」

乃莉「ちょうど私の部屋に来てたんで」

宮子「これ、どっちがスコップでどっちがシャベル?」

なずな「えっ?えっと……」

なずな「おっきいほうがスコップ……ですか?」

宮子「へ?」

ゆの「あれ?」

乃莉「……調べましょうか。ちょっと携帯持ってきます」

乃莉「あ、分かりましたよ」

宮子「どっちだった?」

乃莉「東日本では大きいほうがスコップで、西日本では大きいほうがシャベルっていうことが多いんですって」

乃莉「だからみたいですね、私と宮子さんは西ですし」

なずな「どっちが正解なの?」

乃莉「うーん、それはよく分かんないかな」

乃莉「それで、宮子さんはなんで穴掘ってるんですか?」

宮子「よくぞ聞いてくれました乃莉っぺさん」

宮子「何か出てくるかもしれないから!」

乃莉「……」

宮子「……」

乃莉「え、それだけですか」

宮子「うん」

宮子「こうやって掘ってればもしかしたら……」カツン

宮子「あれ?」

ゆの「どうしたの宮ちゃん?」

宮子「何かに当たった」

なずな「石とかじゃあ……」

ゆの「スコップ……あれ?シャベルだっけ?小さいほう、取ってこようか?」

宮子「おねがーい」

宮子「よっ……と、なんか箱みたい」

ゆの「ほんとだー、なんか缶っぽい?」

なずな「大きさ的にクッキーの缶みたいですね」

宮子「クッキー……もしかして非常食として備蓄されてたのでは」

ゆの「それはないよ宮ちゃん……」

なずな「何が入ってるんでしょうか?」

宮子「うん、開けてみ……」

乃莉「あのー、もしかしてそれ、タイムカプセルじゃないですか?」

宮子「タイムカプセル?」

ゆの「ああー、確かにそうかも」

なずな「だったら掘り起こしちゃ良くなかったかもしれませんね」

宮子「んー、名前とかは全然書いてないんだけど……」

宮子「そうだ、先輩たちなら何か知ってるかも」

宮子「ゆのっちこれ持ってて」

ゆの「うん」

宮子「沙英さーん」ドンドン

宮子「あれ、いないのかな」ドンドン

ガラガラ

沙英「こら宮子」

沙英「なにやってんの、人ん家の窓叩いて」

宮子「あ、ヒロさんちのほうにいたんだ」

沙英「原稿取り立てる編集者じゃないんだからさ」

ヒロ「何か用かしら?」

ゆの「あっ、あのですね、これ」

沙英「箱?」

ヒロ「ずいぶん汚れてるけど……」

ゆの「宮ちゃんが庭を掘ってたら出てきたんです」

沙英「へぇー、タイムカプセルみたいなのかな」

宮子「沙英さんとヒロさんなら誰が埋めたかとか知ってるかなって」

沙英「んー、私は知らないな。ヒロは?」

ヒロ「私も全然心当たりないわ」

沙英「どこに埋まってたの?」

ゆの「ここの木のところなんですけど」

ヒロ「宮ちゃん、ずいぶん深く掘ったのね」

沙英「ちょっと待ってて、私たちもそっち行くから」

なずな「でもセンパイ達でも知らないとなると、本当にタイムカプセルかどうかも分からないですね」

沙英「まあ、私たちもそんなに上の代まで知ってるってわけじゃないし」

ゆの「やっぱり開けない方がいいですよね」

ヒロ「そうね、これだけ深くに埋まってたってことは、偶然じゃなくて誰かが埋めたんでしょうし」

乃莉「このまま元の場所に戻しましょうか」

宮子「お宝かもしれないのに……」

ゆの「じゃあ戻しま……あっ」ポロッ

ガシャッ

ゆの「落としちゃいました……」

乃莉「あ、開いた」

宮子「手紙?」

乃莉「封筒が2通だけですね」

ヒロ「未来の自分宛ての手紙、とかそういうのかしら」

なずな「あっ、拾います」

なずな「……あれ?」

乃莉「なずな、どうかした?」

なずな「この宛名……」

乃莉「あ、ほんとだ……」

ゆの「?」

なずな「ゆのさん、これ」

ゆの「……えっ」

ゆの「私の名前!?」

乃莉「差出人も宛名もゆのさんの名前ですけど」

乃莉「ゆのさんが書いたものじゃないんですよね」

ゆの「うん、違うけど……」

なずな「同姓同名の人がいたんでしょうか……」

沙英「いや、そうじゃないと思うな」

沙英「ほら、こっちの手紙」

宮子「私の名前だ」

乃莉「てことはやっぱり、このゆのさんと、この宮子さんってことですか」

ヒロ「ゆのさんも宮ちゃんも、手紙を埋めたりはしてないのよね」

ゆの「はい……宮ちゃんは知ってる?」

宮子「ううん」

沙英「……ねぇ、ここ見て」

沙英「宮子宛ての手紙のこの部分」

乃莉「日付、ですよね」

沙英「そうだね。……再来年の3月の」

宮子「3月……」

ヒロ「普通に考えたら、書いた日か埋めた日よね」

なずな「えっ、えっ?どういうことですか?」

沙英「分からないけど……」

宮子「私たちが卒業する時だ」

ゆの「……」

なずな「あ、あの、イタズラとかじゃ」

沙英「もしくは、本当に未来の自分から来たか」

沙英「つまりこの箱はタイムカプセルじゃなくてタイムマシンだった」

乃莉「沙英さん、何言ってるんですか……」

沙英「なんてね、ちょっと今SFチックな小説書いててさ」

ヒロ「中、読んでみたら?」

ヒロ「自分宛てなんだから読んでもいいと思うわ」

ゆの「そうですね……」ペラ

Dear ゆの様


あなたは今、何をしていますか?
隣りにいるのは誰ですか?
幸せな時間を過ごしていますか?

この手紙を書いている私は、もうすぐ高校を卒業します。
やまぶき高校を卒業してひだまり荘を出ていく日が近づくにつれて、
不安とか後悔とか、後ろ向きな気持ちがどんどん積もっていきます。
それが最初に始まったのは、今思い返してみると志望校を決めたときだったと思います。
私の第1志望校は宮ちゃんも受けていたけど、宮ちゃんはもう少しレベルの高いところを第1志望にして
それで結局私も宮ちゃんも第1志望に受かったから、宮ちゃんとは別々の大学になってしまいました。
本当は一緒の大学に行けたら、なんて思っていたけど、そんな話を宮ちゃんとすることは1回もなくて、
なんだか当たり前のように別々の大学に進むことになってしまって。
もし宮ちゃんがそれを当たり前のことだと思っているんだとしたらと思うと、胸が苦しくなります。
離ればなれになって寂しいのは私だけなのかな、だなんて考えていたら、
宮ちゃんが大好きなこの気持ちすら自己嫌悪してしまうようになってしまって、
きっともう、私は宮ちゃんと真っ直ぐに向き合えないんじゃないかな、なんて。

いつかの私にも、大切なものがあって、大切な人がいるのでしょうか。
だとしたら、ひとつだけお願いがあります。
今の私は後悔に包まれてしまったから、あなたは後悔しない道を選んでください。
今の私には出来ないことだけれど、あなたなら出来るかもしれないから。

ゆの(私の字だ……)

ゆの(それに、内容も私が卒業する時に書いたみたい)

ゆの(どういうことだろう?)

ゆの(それに……)

宮子「ゆのっち」

ゆの「ん、なに?」

宮子「何書いてあった?」

ゆの「うーんと、私が行く大学のこととか、宮ちゃんのこととか……」

宮子「じゃあ私のと同じだー」

ゆの「そうなんだ……」

乃莉「なんかイタズラにしては変な感じっていうか」

なずな「でもほんとにタイムマシンとかだったら……」

乃莉「んなわけないって」

ヒロ「誰かこういうことしそうな人、思い当たる?」

ゆの「いえ……」

沙英「一番やりそうなのは宮子だけど」

宮子「でも私知らないよ?」

沙英「うん、それは宮子の様子見てたら分かるよ」

ゆの(本当にイタズラなのかな……)

宮子「……」

ゆの「宮ちゃん?」

宮子「ん、なんでも?とりあえず穴埋めちゃわなきゃね」

ヒロ「じゃあ私たちはもう部屋に戻るわね」

ゆの「お騒がせしちゃってすみません」

なずな「あの……それ、手伝いましょうか?」

宮子「ううん、どうせシャベル1本しかないしね」

乃莉「私たちも戻ろっか」

なずな「うん」

乃莉「それじゃあ私たち失礼しますね」

宮子「んしょ……よいしょ……」

ゆの「ねえ、宮ちゃん」

宮子「ん?」

ゆの「さっきの手紙のことなんだけど」

ゆの「宮ちゃんのほうの手紙には、なんていうのかな」

ゆの「書いてあること……良いことだった?」

宮子「……」

ゆの「あ、ごめんね宮ちゃん。なんか私、変なこと聞いちゃったね」

宮子「私はさ」

ゆの「?」

宮子「手紙の未来よりも楽しい未来になってほしいな」

201号室

ゆの(宮ちゃん、なんかいつもと違ったな)

ゆの(手紙、宮ちゃんのほうは何が書いてあったんだろう?)

ゆの(もしかして……)

ゆの(私のと同じ内容なのかな)

ゆの(私と宮ちゃんが違う大学に行くことになって)

ゆの(宮ちゃんはそのことを何とも思ってなくて)

ゆの(そんなの、悲しすぎるよ……)

ゆの(手紙の内容が本当なのかなんて分からないけど)

ゆの(宮ちゃんと離ればなれになっちゃうかもしれない、ってことはその通りだ)

ゆの(高校に入ってからは一緒にいるのが当たり前だったから気づかなかったけど)

ゆの(私、宮ちゃんと離れたくないよ……!)

ゆの(未来の私たちは、どうして離れちゃったんだろう?)

ゆの(確かに宮ちゃんは私よりも全然絵上手いし、勉強もできるし……)

ゆの(……普通に考えたら、同じ大学行けるわけないや)

ゆの(でも……)

次の日
ひだまり荘 庭

ゆの(起きたばっかりなのに、もうお昼近いや)

ゆの(夜更かししちゃったからなあ……)

ゆの(昨日は全然眠れなかったから)

ゆの(……この木の根元にあのタイムカプセルが埋まってたんだよね)

ゆの(どうしてだろう、あり得ない話なのに)

ゆの(本当に、未来の私から届いたって気がするのは)

吉野屋「あら?」

吉野屋「ゆのさん、お庭でなにをしてるんですか?」

ゆの「あ、吉野屋先生、おはようございます」

ゆの「えっと……ちょっと考え事を」

ゆの「先生は休みの日なのに学校に来てるんですか?」

吉野屋「はい、3年生の子たちの特別講習があるので」

吉野屋「受験もそう遠くないですから」

ゆの「大変ですね……」

ゆの「あれ?でも今先生、学校の方から来ましたよね?」

ゆの「まだ講習って終わりじゃないですよね」

吉野屋「そうでした、ゆのさんにこれを」スッ

ゆの「?」

吉野屋「頂き物のクッキーなんですけど」

ゆの「あっ……」

ゆの(このクッキーの缶って、もしかして……)

吉野屋「どうかしましたか?」

ゆの「いえっ、何でも」

吉野屋「ひだまり荘の皆さんで食べてください」

ゆの「頂いちゃっていいんですか?」

吉野屋「はい、学校にはまだ色々ありますし」

吉野屋「それに『教師がお菓子ばっかり持ってきてはいけません』って校長先生がー……」

ゆの「あはは……」

ゆの(昨日のあの手紙のこと、また思い出しちゃった……)

吉野屋「……ゆのさーん?」

ゆの「は、はい!何ですか?」

吉野屋「なんだか元気がなさそうに見えますが」

ゆの「えっと、そんなことは……」

吉野屋「何か悩みがあったら先生を頼ってくれていいんですよ?」

ゆの「吉野屋先生……」

ゆの「……まだまだ先のことなんですけど」

吉野屋「はい」

ゆの「私もいつかやまぶきを卒業して、ひだまり荘を出て」

ゆの「宮ちゃんやみんなと離ればなれになる日が来るんだ、って思って」

ゆの「そういうのが、すごく悲しくなって……」

吉野屋「……私の知ってる、とある生徒の話なんですが」

吉野屋「やっぱりその子も、卒業して友達と離れてしまうのが寂しかったんだと思います」

吉野屋「ゆのさんと同じような悩みを抱えてて」

吉野屋「それで、未来のこともなんだか後ろ向きといいますか、変わらない事ばっかり考えてるみたいで」

吉野屋「やっぱりそういうのを見ていると私の方も辛くなります」

ゆの「それで、その人は……」

吉野屋「それでもスッキリした表情で夢に向かっていくことができましたよ」

吉野屋「大好きな友達と離れてしまうことは変わりませんし、将来の目標も変えた訳ではないようでしたが」

吉野屋「それでも、彼女の気持ちは間違いなく前向きになりました」

ゆの「どうしてですか?」

吉野屋「彼女に何があったかは私も知りませんし、私が何か力になれたわけではありません」

吉野屋「ですが、これは多分なんですけれど……」

吉野屋「その子は大切な人に背中を押してもらって、前を向く決意ができたんじゃないでしょうか」

ゆの「そんなに大切な人なのに、離ればなれになってしまっても平気になんでしょうか……?」

吉野屋「いいえ、きっとその決意っていうのは、高校を出ても、この先どんなことがあっても」

吉野屋「ずっと繋がっていようっていう、そんな決意だと思います」

吉野屋「ゆのさんはまだまだ卒業まで時間もありますし、思いつめなくても大丈夫ですよ」

吉野屋「ほんの少しきっかけがあれば、きっとゆのさんも、ゆのさんの周りも」

吉野屋「良い方向に向かっていくと私は思います」

ゆの「先生……」

ゆの「すみません、相談にも乗ってもらっちゃって」

吉野屋「いいんですよ、そのきっかけを探すお手伝いをするのが先生の仕事ですから」

吉野屋「あら?もうこんな時間……そろそろ私は学校に戻ります」

吉野屋「皆さんでクッキー、召し上がってくださいね」

ゆの「あ、あの、ありがとうございます」

吉野屋「いえいえ、それでは♪」

ゆの「……」

ゆの(昨日の缶はだいぶ汚れてたから分からないけど)

ゆの(確かあれも緑色のフタだったような気が……)

ゆの(昨日、あの箱ってどうしたんだっけ……)

ゆの(まさかまた埋め直したってことはないよね?)

ゆの(埋まってた辺りには見当たらないし)

ゆの(そういえば、スコップとか片づけてた時に、一緒に物置に置いたような)

ゆの(てことは、物置の中に……)ガラガラ

ゆの(……ここでもないみたい)

ゆの(確かにここに置いたような気がするんだけど)

ゆの「どこいっちゃったのかな……」

ガラッ

宮子「ゆのっちー?」

ゆの「あ、宮ちゃん」

宮子「なんかゆのっちの声聞こえたから」

宮子「何してるの?」

ゆの「えっ、宮ちゃん、部屋にいたのに聞こえたの?」

ゆの(全然おっきな声出してないのに……)

宮子「うん、だからベランダに出てきたんだけど」

宮子「もしかして昨日のこと?」

ゆの「あ、えっと、そうじゃなくって、これ」

ゆの「今ね、吉野屋先生にクッキー貰ったんだ」

宮子「おー!食べる食べる!」

ゆの「じゃあ、私そっち行くね」

202号室

ゆの「お邪魔しまーす♪」

宮子「いらっしゃいませ、クッキー!!」

ゆの「私じゃないんだ……」アハハ

宮子「でも、ゆのっちの部屋にしたほうが良かったかな?」

宮子「お茶とか淹れるんならそっちのが」

ゆの「んー、私はいいんだけど、他のみんなも来れるんなら私の部屋に行こっか」

ゆの「乃莉ちゃんとなずなちゃん、今部屋にいるかなぁ?」

宮子「沙英さんとヒロさんは?」

ゆの「先輩達は講習があるみたいだよ」

宮子「ふーん」スタスタ

ゆの「宮ちゃん、何してるの?」

宮子「んー……」ピト

宮子「隣からは物音とかは聞こえないね」

ゆの「宮ちゃん……」

宮子「?」

ゆの「……二人にメール送ってみるね」

ゆの「あ、乃莉ちゃんからメール帰ってきた」

宮子「何て?」

ゆの「二人でお買い物行ってるみたい」

宮子「そっかー」

ゆの「じゃあ今日は宮ちゃんの部屋で」

宮子「うん、たまにはそうしよう」

宮子「いつも私がゆのっちの部屋行ってばっかりだから」

ゆの「ねえ、宮ちゃん」

ゆの「昨日のタイムカプセル、どうしたか覚えてる?」

宮子「あの箱のこと?」

ゆの「うん、あれってどこにしまったかなぁ?」

宮子「ゆのっち、物置に置いてなかった?」

ゆの「やっぱり?」

ゆの「物置探してみたけど見当たらなくって」

ゆの「あのね、このクッキーの缶……」

宮子「あっ、ゆのっち!この四角いクッキーすごい美味しい!!」バクバク

宮子「ゆのっちも食べなよー」グイ

ゆの「むぐっ……」

ゆの「あ、ほんとだ、おいしい」モグモグ

宮子「でしょー?」ヒョイ パクッ

ゆの「宮ちゃん、みんなの分も残しておいてあげようよ」

宮子「そだね、乃莉スケさんとなずな殿はそのうち帰ってくるかもしれないし」

ゆの「うん、先輩達には講習終わったら持って行ってあげようよ」

宮子「そういえばヒロさんの部屋でお茶するの、最近は少なくなったね」

ゆの「そうだね、ヒロさんも沙英さんも受験生だし……」

ゆの(そっか、沙英さんとヒロさんも別々の大学になっちゃうんだ)

ゆの(でも、二人とも寂しそうにしてたり辛そうなそぶりを見せたり、そういうのは全然ないよね)

ゆの(寂しくないわけないのに、それでも未来を向いてる)

ゆの(それに比べて私は何もできなくて……)

宮子「ゆのっち?」

ゆの(ううん、私だって……!)

ゆの(このままじゃ、あの手紙みたいに後悔しちゃうもん)

ゆの(決めちゃえばいいんだ、宮ちゃんとずっと一緒にいるって)

ゆの「ねえ、宮ちゃん!」

ゆの「昨日タイムカプセルが出てきたでしょ?」

宮子「うん」

ゆの「私たちの未来のことが書いてあったり、不思議で分かんないことだらけだけど」

ゆの「私、ひとつだけ気づいたんだ」

宮子「……?」

ゆの「もしかして宮ちゃんの手紙にも、私たちがひだまり荘出て離ればなれになっちゃうって書いてあった?」

宮子「……うん」

宮子「やっぱり、おんなじことが書いてあったんだ」

ゆの「あの手紙に書いてあることが本当かどうかなんてわからないけど」

ゆの「でも、今みたいに同じ学校に行って同じアパートに住んで、っていうのはいつか終わっちゃうんだよね」

ゆの「こうやって一緒にクッキー食べたりするのも……」

ゆの「ずっと続くわけじゃないのかも、って」

ゆの「だからね、このままじゃダメっていうか……」

ゆの「宮ちゃんも言ってたよね、手紙に書いてあった未来よりも楽しい未来になってほしい、って」

ゆの「私もそう思うんだ、もっと楽しい未来になってほしいって」

ゆの「手紙の未来よりも……ううん、今の私たちよりも」

ゆの「今よりも宮ちゃんと繋がっていられて嬉しいと思える未来になってほしい」

ゆの「そう思うから……」

ゆの「私、宮ちゃんのことが好きです!」

ゆの「どんなに周りが変わっても、私たちが変わっても」

ゆの「宮ちゃんが好きって気持ちだけは絶対に変わらないから」

ゆの「だから、ずっと……って、えっ!?」

宮子「ううう……」ポロポロ

ゆの「宮ちゃん、何で泣いて……!?」

宮子「ゆのっちがそんな風に……」

宮子「グスッ……そんな風に思ってくれてて」

宮子「私……」

ゆの「宮ちゃん……」

宮子「ゆのっち!」ギュッ

ゆの「わっ、ちょっと、宮ちゃん」

宮子「私、あの手紙が嘘なんだ、本当はゆのっちとずっと一緒にいられるんだって」

宮子「昨日からそんなことばっかり考えてたけど」

宮子「でもここままだったら本当になってたかもしれないんだよね」

ゆの「うん、でも……」

ゆの「決めたんだ。絶対に宮ちゃんと一緒にいられる未来にするって」

宮子「ゆのっちのお蔭だよ」

宮子「ゆのっちが、離ればなれになる未来を嘘にしてくれた」

宮子「私もゆのっちが大好き!」

宮子「だから、ずっと一緒だよ」

ゆの「うん!」

宮子「高校出ても、大学を出ても」

ゆの「……いつか私たちの進む道が違っちゃうことになるかもしれないけど」

ゆの「それでも私は、絶対に宮ちゃんと離れないよ」

宮子「私も、ゆのっちのことずっと離さないから」

ゆの「でも、あの手紙がなかったら、こんなふうに勇気を出せてなかったかも」

宮子「そうだね、この……あれ?」

ゆの「?」

宮子「確かこの辺に置いといたと思ったんだけどなー、あの手紙」

宮子「ゆのっち見てない?」

ゆの「ううん?」

宮子「そっか……ゆのっちの方の手紙は?」

ゆの「そういえば、今日は見てないかも……」

宮子「うーん、やっぱり無いみたい」

宮子「なんか不思議な感じー……」

ゆの「そうだね」

ゆの「……でも、もう必要ないんじゃないかな」

宮子「うん、私たちの未来を楽しいものにできたんだし」

ゆの「それに……」

ゆの「今の私たちなら、自分たちの力で未来をもっともっと楽しく変えていける気がするから」

1年と数ヶ月後
201号室

ゆの「宮ちゃん、用意できた?」

宮子「んー、手紙は書けたけど、封筒が無くって」

宮子「ゆのっち、余ってない?」

ゆの「あるよ?好きなの選んで♪」

宮子「じゃあこれにしよっかな」

宮子「……よしっ、完成!」

宮子「ゆのっち、入れ物は?」

ゆの「この缶でいいよね?」

宮子「うん、それクッキーかなんかが入ってたの?」

ゆの「そうだよ」

宮子「えー、いつ食べたの?私も食べたかったのにー」

ゆの「だいぶ前に、宮ちゃんも一緒に食べたよ?」

宮子「あれ、そうだった?」

宮子「んー、でもそう言われると確かに見覚えあるかも、その緑っぽい箱」

ひだまり荘 庭

宮子「よいしょ……っと」

宮子「このくらい掘ればいいよね?」

ゆの「このくらいっていうか……」

ゆの「深すぎだよ……私の身長より深そう」

宮子「そっかな?じゃあちょっと戻そう」

ゆの(やまぶき高校を卒業し、私たちがひだまり荘を出ていく日が来ました)

ゆの(私と宮ちゃんは違う大学で、あのタイムカプセルの手紙と同じになったけれど)

ゆの(それでも私に後悔はありません)

ゆの(それはきっと、私が宮ちゃんとずっと一緒にいるんだって決めたから)

ゆの(私が宮ちゃんに気持ちを伝えた時、前を向く決意ができたからだと思います)

宮子「埋まったよー」

ゆの「ごめんね宮ちゃん、穴掘るのとかほとんどやらせちゃって」

宮子「ううん平気、封筒とか箱とか用意してくれたのゆのっちだし」

宮子「ゆのっち、何て書いたの?」

ゆの「……ひみつ、かな」

ゆの「宮ちゃんは?」

宮子「んー、ゆのっちが教えてくれないんだったら、私も秘密」

宮子「タイムカプセル、いつ掘り出すの?」

宮子「10年後?20年後とか?」

ゆの「うーん……」

宮子「?」

ゆの「決めなくてもいいんじゃないかな、って」

ゆの「もしかしたらだけどね、この手紙が一番必要な私のところに届くかもしれないから」

ゆの「だからね、いつ開けるかは決めなくても大丈夫な気がするんだ」

Dear ゆの様


あなたは今、何をしていますか?
隣りにいるのは誰ですか?
幸せな時間を過ごしていますか?

この手紙を書いている私は、もうすぐ高校を卒業します。
やまぶき高校を卒業してひだまり荘を出ていく日が近づくにつれて、
心細くなったり心配になったり、胸のドキドキは少しずつ大きくなっていきます。
それでも私は、不安じゃありません。
大好きな人にちゃんと想いを伝えられて、
大好きな人から大切に想われていることを知れて、
そして、何があっても離ればなれになることなんて絶対にないんだって、そう信じていられるから、
これまでもこれからも、私は宮ちゃんと真っ直ぐ向き合って、そして前を向いていられます。

いつかの私がちっぽけな勇気を出したおかげで、今の私は幸せです。
あのときの私に「ありがとう」って伝えられたら、なんて思ったりもします。
だから、これを読んだ日の私がもしも何かに迷っていたら、勇気を出してほしいな。
あの日の私に出来たのなら、きっとあなたにも出来るはずだから。

おわり

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