唯「みゅーじっくらいふ!!」 (51)

「Fun fun fun」

梓「じゃあ澪先輩、失礼します」

澪「ああ。気をつけてな」

そう言うと、女の子は真っ赤な車でハンバーガースタンドの駐車場を走り抜けて行きました

唯「あの……澪ちゃん」

澪「え???って、唯じゃないか。なんだ、唯も店内に居たのか」

声をかけてくれればいいのに、と微笑みます

唯「宿題してたからさ、ここで。……さっきの女の子は?」

澪「ああ、中野梓って言う子だ。私達の一個下だよ」

唯「あ、そうなんだ」

中野梓ちゃん、か

澪「梓がどうかしたのか?」

唯「え?いや、えっと……その、格好いい車乗ってたなって思ったから」

澪ちゃんはきょとんとして、それから微笑んで

澪「Tバードっていうんだ、あの車」

唯「へぇ」


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澪「OCRって梓に良く似合う色だと思わないか?」

唯「うん。可愛いよね」

そう言うと、澪ちゃんがニヤニヤしてて

唯「ち、違うよ!そういう意味じゃなくて!」

澪「わかってるって」

笑いながら、澪ちゃんが言いました

澪「明日も梓、ここに来るんだ。もし暇なら、唯も来てみなよ」

翌日
梓「それじゃあ、始めましょうか!」

律「おう!今日は負けないぜ?」

紬「天気も良いし、絶好のレース日和ね」

梓ちゃんがお店を出て車に向かうと、りっちゃんとむぎちゃん、そして何人かの女の子が連れだって出て行きました

姫子「ねえ、梓ちゃん。もし梓ちゃんに勝てたら」

梓「え?……はい。いいですよ」

いちご「梓ちゃんとデートなんて、最高の賞品ね」

姫子「今日こそは私とデートしてもらうわよ?」

いちご「絶対に勝つ」

梓「いいですよ。……絶対に負けませんから」

それぞれ車に乗り込んで、駐車場に並びます

梓「それでは、いつも通り。ここからストレートで500M先の信号までですよ」

紬「わかったわー」

律「あー、梓?私が勝っても、デートとかは別に……」

梓「わかってますって。律先輩には澪先輩が居ますもんね」

律「そ、そういうわけじゃ!」

梓「っていうか、そんな心配しなくても、私が負けるわけありませんから」

律「言ったな、梓」

澪「はーい、じゃあいいか?よーい」

駐車場の入り口に立つ澪ちゃんが、手を上げました

澪「スタート!」

手を振り落とすと同時に、車が走り出しました

先頭はやっぱり真っ赤なT-バードです

カーラジオから流れるロックンロールがどんどん小さくなっていく

唯「速いね」

澪「居たのなら私達の所に来ればいいのに……」

唯「んー、梓ちゃんは私のこと知らないしね。居心地悪くしちゃうかもしれないし」

そんなことないのに、と澪ちゃんは呟きました

唯「……レースで梓ちゃんが負けると、他の子とデートしちゃうの?」

澪「ん?ああ、そうなるな」

ぐーっと伸びをして、澪ちゃんが言います

澪「ここら辺で最高の女の子だからな、梓は。可愛いし、足も細いし」

澪「だからみんな追いかけるんだ。彼女を捕まえようってね」

唯「そっか……」

澪「最高の時間を過ごしてるんだよ、梓は」

もうすっかり小さくなった道路の先の車を眺めながら、澪ちゃんは言いました

澪「ほら、律達がカモの赤ちゃんみたいに梓のTバードの後ろに続いてる」

澪「いつもこうなんだ」

唯「……」

澪「……大丈夫だよ」

私の肩に手を置いて、澪ちゃんが笑いました

澪「今まで誰も、梓を捕まえられなかったんだ。今日だってそうさ。真っ赤なT-バードが一番だ」

唯「……うん」

澪「店に戻ろう。律が戻ってくるのを待たなきゃいけない」

澪「……シェーク奢るからさ。元気出せって」


ちょっとお風呂入ってくる

数日後

唯「あ、梓ちゃんだ」

澪「そうだな」

唯「……なんか、元気無い?」

澪「ああ。車を取り上げられたって」

唯「え?」

澪「図書館に行くからって、親父さんのTバードを借りてたんだけどさ」

澪「遊びに使ってるのバレちゃったって。キーも取り上げられて、落ち込んでるんだ」

唯「……」

澪「行きなよ、唯」

唯「え?」

澪「梓は今、最高の時間が過ぎ去ってしまったと思ってる」

澪「でもそれは、違うんだろ?」

唯「……うん」

澪「じゃあ、声をかけないと。また最高の時間をプレゼントするために」


唯「あの……」

梓「はい?……あ、唯先輩」

唯「あ、あれ?私の名前……」

梓「え?あ、その……み、澪先輩から聞いてて!」

唯「あ、そうなんだ。えっと、平沢唯と言います」

梓「は、はい。中野梓です」

唯「……元気無いね」

梓「ええ。車のキー、取られちゃいましたから……」

深呼吸して、声が震えないように意識して

唯「こ、これから二人でお出かけしない?」

梓「え?」

唯「車を取られても、楽しい時間は終わりじゃないよ」

唯「その、私と一緒ならきっと楽しめると思う。車も持ってないけど……」

唯「でも、Tバードが取りあげられちゃっても、私たちなら最高の時間が過ごせるよ」

梓「……はい」

唯「え、いいの?」

梓「もちろんですよ。……車が取られちゃっても」

梓「唯先輩となら、最高の時間が過ごせそうです」

「The new girl in school」

さわ子「みんなー、席についてー」

朝のHRのチャイムが鳴ると同時にさわちゃんが教室に入ってきた

落ち着かない雰囲気のクラスメイト達がそそくさと席につく

けれど、席についた後もみんなそわそわしていた

さわ子「あー、まあみんなもう知ってると思うけどね」

噂が広まるのって早いわね、とさわちゃんがため息をつく

さわ子「そうです。今日は転校生が来ます」

やっぱりー!と声が上がり、その瞬間、ざわつきは最高潮に達する

さわ子「しーずかにー!」

唯「ねえりっちゃん、やっぱり転校生来るんだね」

前の席の唯が振り返って楽しげにそう言った

律「あー、そうみたいだな」

和「何よ、興味なさげね」

左隣の和も会話に参加してくる

律「別に誰が来たって何も変わらないしー」

私は机に突っ伏してみる

どうせこの退屈な日常は変わらないんだ

転校生の一人や二人来たって、私には何の関係もないだろう

紬「あら、そんなこと無いんじゃないかしら」

後ろの席のむぎがそう言って背中をつついてくる

紬「……転校生の女の子、とても可愛いって噂よ?」

律「ふむ……」

少し考えてみる

とても可愛い転校生の女の子……

律「……いや、ダメだろ。そんなに可愛いけりゃ、姫子かいちご辺りが猛アタックするって」

可愛いっていいよなー、簡単に女の子と仲良くなれてさ

私なんて別に、そんな可愛くもないし

唯「そんなこと無いって」

和「そうよ、自信持ちなさいよあんたらしくもない」

紬「りっちゃん可愛いわよ?」

律「彼女持ちどもは黙ってろよー」

ちくしょう、なんで仲間内で私だけ恋人が居ないんだ

唯や和は年下で、むぎなんて年上と言うか禁断の愛を現在進行形で突き進んでる

こいつら毎日が充実してて幸せそうで

もう何というか、羨まし過ぎて泣きたくなる

さわ子「あー、もういいわよ」

ざわついたクラスを静かにさせるのは諦めたようだ

さわちゃん(生徒に手を出した教師)は腰に手を当てて

さわ子「じゃあ、入ってきていいわよ」

教室のドアに向かってそう言った

途端、静まりかえるクラスメイト達

全員が息を呑んでその瞬間を待ちわびる

一瞬の間の後、ゆっくりと教室のドアが開かれて


そして私は彼女と出会った

「ねえねえ秋山さん、誕生日はいつ?」

「好きな食べ物は?」

「趣味は何?」

「恋人とかって居るの?」

澪「え、えっと……」

昼休みになると同時に、クラスの連中は転校生の席を取り囲んだ

矢継ぎ早に質問を繰り返し、そのたびに転校生??秋山澪はおずおずと答えている

唯「はやー、すごい人気だねー」

その光景を見て唯が呟く

紬「転校生っていうのもあるだろうけど……」

和「本当に綺麗ね、彼女」

そうだ

転校生、秋山澪はとても綺麗だった

身長は私より高くて、すらっと伸びた長い黒髪は光沢を持って腰まで届いている

睫毛も長くて目もぱっちりとしていて、少し冷たい感じがする横顔

これが綺麗じゃないっていう奴は、きっと目が腐ってる

律「綺麗……だろうけどさぁ」

綺麗なんだけど、何かがちょっと引っかかるような気がする

和「行ってこなくて良いの?律。彼女のとこに」

律「なんで私が……。別に興味ねーし」

和「またそうやって格好付けて……」

いちご『スリーサイズは?』

澪『え?え、えっと、上から』

律「……」

唯「めちゃくちゃ気にしてんじゃん……」

律「べ、別に気にしてねーし!」

ちくしょう、唯が茶化すから聞きそびれてしまった

律「……つーか、お前らこそ行ってくれば?そんな気になるんだったらさ」

唯「えー?いやほら、私達はねー」

和「憂と梓ちゃん待ちだから」

律「またかよ……」

嬉しそうな唯と和の様子に若干鬱になる

むぎはまた「さわちゃんとちょっと」とか言って空き教室行ってるし

律「また私はお前らカップルの中でメシ食わなきゃならないのか」

唯「いいじゃん。りっちゃん、あずにゃんと憂とも仲良いし」

律「いやほら、そういう問題じゃなくてさ」

場違い感というか、お邪魔虫感というか

……まあいいや

色んなことを諦めて、私は転校生の方へ目を向ける

相変わらず彼女は大勢に質問攻めにされて、その質問にいちいち律儀に答えていた

良いオモチャにされてるな、転校生

……なんつーか

律「……ちょっと都合が悪そうだな」

いちご『ねえ秋山さん、もしわからないことがあったら何でも言ってね』

姫子『校内案内するよ?私、色々と面白いスポット知ってるし』

下心丸出しで言い寄るバカどもに

『……ちょっと綺麗だからって良い気になって』

『大丈夫、今のうちよ。いちごも姫子も優しいのは』

『なんかちょっと冷たそうで、性格悪そうだもんね、彼女』

嫉妬丸出しのバカどもも居る

まあ、あれだけ可愛ければ僻み嫉みも受けるんだろうなぁ

そう思ったところで

梓「失礼しまーす」

憂「失礼します」

梓と憂ちゃんがやってきた

二人とも、弁当箱を二つづつ下げている

理由はまあ、言わなくてもわかるだろ?

唯「あー、あっずにゃーん!」

梓「きゃ!……も、もう、唯先輩ったら」

和「私も抱きついていいかしら」

憂「ひ、人前では恥ずかしいからちょっと……」

そんなことを言いつつも、梓も憂ちゃんも頬が緩んでる

ちくしょう、幸せカップルめ

梓「律先輩もこんにちわです」

律「よう、梓」

おざなりに手を上げて答える

憂「律さん、あの人だかりは?」

律「ああ、あれ?あれはね」

唯「転校生が来たんだよ!すごく綺麗なの!」

和「綺麗でその上、結構いい身体付きでね。そりゃみんなに囲まれるわ」

唯と和がそう言った時だった

梓「……すごく綺麗で」

憂「いい身体付き、かぁ……」

ふーん、とジト目になる二人

不機嫌オーラを発し出す梓と憂ちゃん

唯「い、いや、その、あずにゃん……?」

和「良い身体付きって、その、違うの。律が言ってただけで」

言ってねーよ私

梓「良かったですねー、綺麗な転校生が来て」

憂「触らせてもらったら?毎晩私にしてるみたいに」

唯「ちょ、違うって。あずにゃんほどの可愛さじゃあ……」

和「誤解があるようだから、ちょっと話合いましょう?その……とりあえず座って」

梓「憂、私達、教室で食べよっか」

憂「そうだね、梓ちゃん」

踵を返して教室を出る梓と憂ちゃん

唯「待ってあずにゃん!わ、私のお弁当は?」

梓「綺麗な転校生とお喋りしてればお腹空かないんじゃないですか?」

憂「本当、私というものがありながら信じられないね」

和「ち、違うわ憂!私はずっとあなた一筋……!」

二人を追って唯と和が教室を慌ただしく飛び出す

また違ったタイプのバカだな、こいつら

私のクラスにはバカしか居ないのだろうか

律「ふぅ……」

一人残された私が眺めるのは、やっぱり転校生の女の子

相も変わらず質問攻めで

ちらっと、壁にかけられた時計に目を向ける

……このクラスにバカしか居ないのなら

やっぱりここは、私がやるしかないか

深呼吸をして立ち上がり、転校生の席へと向かう

取り囲む大勢のクラスメートを掻き分け

席にたどり着くと、彼女の机を少し強めに叩いた

澪「ふぇ!?」

転校生がびっくりした表情で私を見上げる

質問を繰り返していたクラスメート達も、あっけに取られたように私を見る

律「秋山さん、だっけ?」

澪「は、はい」

律「購買、案内するよ」

来て、と転校生の手を取ると、私はそのまま歩きだした

澪「え?あ……」

何が起こっているのかわからないのだろう

転校生も大して抵抗はせず、時折こけそうになりながらも私に手を引かれるまま歩き出した

教室を出る時、ちらっと教室内を見る

下心丸出しのバカも嫉妬丸出しのバカも、口を開けたまま私達を見ていた



澪「あ、あの……」

教室を出て階段を下りてちょっと行ったところ

律「ああ、悪い」

ここまで来ればいいだろうと、私は転校生の手を離した

律「ごめん、ちょっと痛かった?」

澪「い、いいえ……」

戸惑いがちに握られていた手を胸に押さえながら転校生??秋山澪は言った

澪「わ、私、何か気に入らないことでもしました……?」

……は?

律「い、いや別に。……そうだな。いきなりで怖かったよね。ごめん」

素直に頭を下げておく

そうか。確かにいきなり連れ出すとかは無いよな

澪「あの……何か用事でも……」

こわごわと私を見る秋山さん

そりゃビビるよね

律「……ちょっと大変そうだったからさ。連れ出しちゃった」

澪「え?」

律「いやほら、秋山さんさ」

澪「う、うん」

律「昼ご飯、まだだろ?」

澪「え?」

あっけにとられたように、秋山さんは私を見る

律「ご飯食べなきゃなのに、あんなに質問攻めにあってたら昼休み終わっちゃうじゃん」

澪「……」

律「ごめんな。うちのクラス、バカばっかりでさ。でも悪気は無いから」

適当にフォローしておいて、購買にでも連れて行こうと歩き出したところで

そこである一つの可能性に気づく

律「……秋山さん」

澪「な、なんですか?」

律「もしかして、お弁当持ってきてた?」

しまった

その可能性を考えてなかった

弁当持参の生徒の方が多いこの学校じゃ、購買なんて弁当を忘れた時くらいしか利用しないじゃないか

参ったな

あれだけ派手に連れ出しておいて、その後すぐに二人して教室に戻れるわけがない

律「取ってくるよ。お弁当」

澪「え?」

律「鞄の中に入ってるよね?私が取ってくるから、ちょっと待ってて」

踵を返して、階段を上ろうとしたところで

澪「ま、待って!」

腕を掴まれる

見ると、秋山さんが私の腕を掴みながら私を見ていた

律「どうしたの?」

澪「お」

律「お?」

澪「お、お弁当持ってきてない!」

叫ぶように言われて、少なからず驚く

通りすがりの生徒達も、何事かと目を向ける

澪「ひ、引っ越したばかりで忙しかったから、ママがお昼は買って食べなさいって!」

律「ま、ママ……?」

途端、顔を真っ赤にする秋山さん

澪「おっ、お母さんっ!」

真っ赤な顔でじっと睨んでくるもんだから

律「……はは」

澪「わ、笑わないで!」

何故だかおかしくなる

こんなに綺麗でちょっと冷たい感じのするこの子が、ママだなんて!

律「ごめんね」

澪「……別にいいです」

少し目をそらしてむくれる彼女に、どこか安心する

何故だか少しだけ考えて、そして理解する

きっと目の前の彼女が本当の彼女なんだ

余所行きの表情じゃ具合が悪い

彼女に感じていた違和感は、きっとこのことだったんだ

律「……じゃあ、購買行こうか」

澪「え?田井中さん、お弁当は……」

律「今日持ってきてないんだ。だから一緒にお昼食べようよ」

律「静かに食べられる場所も知ってるよ。案内する。どう?」

静かな場所、ってのはちょっとした賭けだったけれど

澪「……うん」

嬉しそうに言う秋山さん

本当に嬉しかったよ


梓「こんにちわー」

憂「こんにちわ」

唯「あ、あずにゃん。いらっしゃい!」

和「今日も可愛いわね、憂」

昼休み

二人が来たので、急いで机を四つ、テーブルみたいにくっつけます

梓「あれ、律先輩と澪先輩は居ないんですか?」

唯「うん。今日もまた別の場所で食べるってさ」

憂「最近、律先輩と澪先輩に会えてないなぁ」

和「律が『今大事な時期だから!』とか言ってたわよ。あともう少しだって」

唯「あともう少しってねー。早く告白しちゃえばいいのに」

どうみたって澪ちゃんもりっちゃんのこと好きじゃん

姫子ちゃんやいちごちゃんだって、もう見守りモードに入ってるのに

梓「早く告白しちゃえって、唯先輩がそれ言います?」

お弁当を私の前に置きながら、悪戯っぽい微笑み方であずにゃんが言いました

梓「唯先輩だって、私にきちんと告白するのに何ヶ月かかったんですか」

唯「そ、それは!……ほら、タイミングとかが大事なんだって思って!」

梓「タイミングなんてたくさんあったでしょうに……」

まあいいですけどね、とあずにゃんは紙コップを取り出して、お茶をいれてくれます

梓「人それぞれですから。暖かく見守ってあげましょうよ」

唯「見守る側の気持ちにもなって欲しいよね。こっちがやきもきしちゃう」

和「あなたと梓ちゃんの時は、私と憂がやきもきしてたのよ。順番なんだから我慢しなさい」

憂「そういえば和ちゃんも私に告白してくれるのに結構かかったよね」

和「そ、そうだっけ?」

そんなことを話していた時です

さわ子「ねえ、みんなぁ……」

廊下側の窓から顔を出したのは、さわちゃんでした

さわ子「むぎちゃんどこ行ったのか知らない?空き教室で待ってても来ないのよぉ」

唯「え?あの、むぎちゃんならりっちゃんと澪ちゃんの後をついて行ったよ?」

和「『今日は告白の気配がする』って言ってました」

さわ子「そ、そんなぁ……」

私のお弁当……、と呟くさわちゃん

さわ子「とにかく探してくるわ。じゃあね……」

ふらふらとした足取りで廊下の向こうへ去って行くさわちゃん

和「……それにしても、紬がさわ子先生を放って置いてまで付いていくんだから」

唯「本当に今日にでも、進展があるのかもね」

律「本当にそれだけで足りるの?」

澪「うん。今ダイエット中だから」

彼女が購買で買った昼食は総菜パン一つに牛乳のパック一つだけだった

それだけが入った袋を下げて、澪は若干私に寄り添いながら歩く

少しだけ顔を赤くして、辺りを窺いながら中庭を通り抜ける

理由はわかっていた

私と澪は手を繋いでいたからだ

恥ずかしそうに、繋いだ手を自分と私の身体の間に隠している

まあどこからどう見てもバレバレだし、すれ違う生徒達からは好奇の目で見られていたりもするんだけれど

律「今日もいつものとこでいい?」

澪「いいよ。本当に静かだよね、あそこ」

初めて澪を昼飯に誘ったあの場所は、今では私達だけの秘密の場所になっていた

秘密といっても、たまに二人で昼飯を食べるくらいだけれど

普段は唯達と一緒だもんな

律「あのさ、澪」

澪「ん?」

律「話があるんだ。聞いて欲しいことっていうか」

澪「……うん」

澪が繋いでる手に、少し力をこめた

見ると、顔が赤くなってる

やっぱり、バレてるか

まあ、これから全部話してしまうんだ

別にいいさ。結果なんて、もう澪の中では出てしまってるに違いないんだから

少し深呼吸して、覚悟を決める

出会ってから、どれくらいたったのか

この告白が早いのか遅いのかはわからない

でもきっと、私達には私達のペースってものがある

何から話せばいいのだろう

まずはお礼だろうか

君が来てから、私の学校生活はすばらしく華やかになったのだと

君が来る前は、とてもとても退屈だったんだよ。ほんとうにさ




「Louie louie」

月の光の透明な粒が波間に静かに揺れていくのを見ていると、誰かの気配を感じた

唯「和ちゃん」

和「唯?」

顔をほんのり赤くさせて、少しおぼつかない足取りで唯が私の隣にやってきた

和「だいぶ飲んでるみたいね」

唯「そんなに飲んでないよ。私、お酒ってあんまり好きじゃないし」

和「そのわりには結構ふらふらみたいだけれど」

唯「弱いんだよー。だから、ちょっとだけ外の風に当たろうと思ってね」

ふう、と息をつくと、唯は欄干にもたれかかる

唯「さわちゃんもりっちゃんも、よくあんなに飲めるもんだよね」

和「やっぱり嬉しいのよ。最後の夜くらい、ハメ外してもいいんじゃない?」

そう言うと、唯が少し目を丸くして私を見た

唯「あの真面目な和ちゃんがそんなこと言うなんて、ちょっと意外だね」

和「私も少し浮かれてるのかもね」

私は遠くの風景に目を向けた

幾千の月明かりが揺れる波の、そのもっと遠く

小さいけれどたしかに、明かりが灯っていた

和「まあ、あなたたちは騒いでていいわ。今夜の見張りは私だから」

唯「和ちゃん、飲まないの?」

和「お酒は苦手なの。だから大丈夫」

そしてしばらく、私たちは黙って波を眺めていた

船は順調に進んでいる

風も穏やかで、進路に障害物も無し

灯台の明かりを目指してまっすぐ進む

唯「到着は何時頃かな?」

和「予定では明日のお昼ね。風が良いから、ちょっと早く着きそうだけれど」

唯「そっか」

唯が小さく呟いた

唯「長かったね。一年」

和「そうね」

唯「でも、明日には会えるんだよ。あずにゃんに」

遠く灯台の明かりを眺めながら、唯はやわらかく微笑んでいた

唯「新婚早々にお仕事で、一年もほったらかしちゃったから。怒られちゃうかな」

和「仕方ないわよ。最後の大仕事。この航海が終われば、もう離れなくてすむもの」

唯「そうだよね。明日になれば、あとはずっとあずにゃんと一緒に暮らせるんだよね」

えへへ、と唯は笑う

唯「でも。怒っててもいいから、あずにゃんの声が聞きたいよ」

和「そうね」

唯「憂も怒ってると思う?」

和「……どうかしら。怒ってるかもしれないし、怒ってないかもしれない」

でも、と私は言う

和「たしかに、怒っててもいいから声が聞きたいわね。憂の」

唯「憂と同じ声だったら私出せるよ?」

和「私が聞き間違えるわけないじゃないの」

だよね、と唯が笑う

唯「まあ、明日までの我慢だね。お互いに」

和「そうね」

唯「帰ったら、何をするか考えてる?」

和「とりあえず、もうこれからは陸の仕事になるからね」

和「タイプライターの打ち方くらいは覚えておこうって思ってるわ」

唯「もう!お仕事じゃなくて!むぎちゃんが私たちにはしばらくお休みくれるって言ってたじゃない!」

和「ああ、そうね。……とりあえず一ヶ月くらいはのんびりしようかなって」

唯「旅行とか行く?」

和「正直、憂と二人で家でのんびりいちゃいちゃしてたいわ」

唯「そっか。私はね、もう長く家を空けることもなくなったから、子供作ろうかなって」

和「あら、いいわね」

唯「うん。えへへ、あずにゃんにもまだ話してないんだけどねー。そろそろかなーって」

和「そう。私と憂もそろそろ考えようかな。……だったら、明日帰ったら頑張らないとね」

唯「え、あっちの方を?」

和「ご機嫌取りよ。一年も会えなくてごめんなさいって」

唯「あはは。そうだね。まずはご機嫌取らないとね」

そう言って笑うと、唯はもたれかかっていた欄干から身を起こした

唯「私、もう寝るよ。やっぱりお酒って苦手だなぁ。すぐ眠くなっちゃう」

和「ちょうどいいじゃない。お酒でも入ってなければ、楽しみで眠れないんだろうし」

唯「だねー。……ねえ、本当に一人で見張りしてもらっていいの?」

和「いいわよ。元々当番なんだし」

和「私のことはいいから、もう寝ちゃいなさい。また明日ね」

唯「うん。また明日。おやすみなさい」

和「おやすみ」



船は順調に海を渡っていた

夏の夜風は静かに吹いている

夜空には三日月が輝いていて、その光が波間に砕け散っていた


憂「和ちゃん」

振り向くと憂がいた

ポニーテールをかすかに揺らせて、微笑んでいた

和「憂」

憂を抱きしめる

腰に手を回して、首すじに顔を埋めて

彼女の髪からは懐かしいバラの香りがした

憂「会いたかった?」

和「会いたかったに決まってるじゃない。昼も夜もずっとあなたを想ってた」

憂が私の腰に手をまわす

優しく抱きしめてくれる

憂「私だってずっと想ってたよ。元気にしてるかなって。怪我とかしてないかなって」

和「大丈夫よ。どこも悪くない。あなたは?」

憂「元気だよ。……ちょっとだけ、寂しかったけどね」

和「ごめんなさいね」

和「でも、もう大丈夫。航海は明日で終わり。明日にはあなたに会える」

和「ずっとあなたと一緒にいるわ。昼も夜も。一緒に起きて、朝食を作って」

和「お昼を食べたあとは、二人でお昼寝するの。その後で買い物に行って」

和「夕暮れの海辺を二人で散歩するの。ゆっくりと。同じ歩幅で」

その日にあったことを話したり

澪や唯や紬達と夕食を取る日もあるかもしれない

律とさわ子先生が大騒ぎして、梓ちゃんは唯にべったり抱きつかれてて

和「そして、楽しかった一日を思いながら二人で眠るの。きっといい夢を見る」

そしてまた新しい日が始まる。憂と一緒に迎える新しい日がやってくる

和「そんな日々が始まるの。だからあと少しだけ、待っててね」

憂「うん。待ってる」

そっと、憂が私の胸から顔を上げた

憂「和ちゃん、もう寝ちゃう?」

私は首を振った

和「今夜は眠れないの。見張りの当番だから。唯はもう寝ちゃったわ」

憂「そっか。……じゃあ、和ちゃん、一人ぼっちなんだね」

憂がじっと私を見上げてきた

彼女のその視線の意味がわかる人間はたぶん私だけだ

憂が何かをねだる相手はそう多くない

和「うん。だから。あなたの夢に付き合うわ、憂」

和「一人で夜空を眺めるのに、少し飽き飽きしていたの」

憂「えへへ」

ふたたび憂が抱きついてきた

私の胸に顔を埋めて、幸せそうに息をついた


純「え、なにこれ」

私がキッチンに入って目に飛び込んできたのは、テーブルの上に隙間なく置かれた料理の数々だった

憂「あ、純ちゃん。いらっしゃい」

オーブンの前で屈みこんでいた憂が、顔を上げて微笑む

純「お邪魔します。あ、これお土産のドーナツ。……で、この料理はどうしたの?」

何人分あるのだろう。今日は何かのパーティーだろうか

憂「あ、これ?えっとね」

ありがとうと憂は私からドーナツの入った紙袋を受け取ると、テーブルの隅の方にそれを置いた

揺れるポニーテールに少し触ってから、彼女は恥ずかしそうに言う

憂「……なんか、予感があって」

純「予感?」

憂「うん。和ちゃんが今日帰ってくるような気がするの」

ああ、そういうことね

純「まあ確かにそろそろ一年だっけ?予定では帰ってきてもおかしくないけどさ」

私はあらためてテーブルの上に目をやる

ステーキに魚にサラダにパンにワイン

香草焼きからマリネ、カルパッチョにパスタに……

純「帰って来たとしても、和さんと憂の二人でこの量食べられるの?」

憂「ちょ、ちょっとだけ作りすぎちゃったかな」

えへへ、と笑う憂

憂「船の上だとあまり良いもの食べてなかっただろうし、そう考えるとついね」

愛されてるなぁ、和さん

憂「でも、もし今日も帰ってこなかったら、お料理食べてくれる?」

純「もちろんだよ。澪先輩達も呼んでみんなで昼食にしよう」

それにしても、と思う

純「それにしてもさ、憂。今回の予感って、もしかしてなにか根拠があるの?」

この一年というもの、梓もそうだけれど突然「今日帰ってくるかも」と言い出すことは多々あった。

もちろんその全てが気のせいであり、そんなことを繰り返しながらたどり着いた今日だった

でも今回はこんなに料理まで作ってるんだし、なにか手紙でも届いたのだろうか

しかし憂は首を振って、恥ずかしそうに笑った

憂「いや、根拠っていうかね。……夢を見たの」

純「夢?」

憂「船の上でね。和ちゃんに一晩中抱きしめられてる夢」

憂「もうすぐ帰るからもうちょっと待ってて、って言っててね」

憂「それだけなんだけど。でも、目が覚めたあとも実感があったの。和ちゃんの余韻っていうかね」

まあ気のせいかもしれないけれど、と憂が静かに呟いた

純「へえ」

不思議なこともあるもんだ

純「いや、私ね。ここに来るまえに梓の家に寄ったんだ」

憂「梓ちゃんの?」

純「うん。今から憂の家に遊びに行くから、梓もどうかなってさ」

純「そしたらさ、梓、家中を掃除してるの。結構本格的に」

憂「大掃除の時期じゃないよね。真夏だし」

純「でしょ?だから聞いてみたの。何かあったのって。そしたらさ」

純「夢を見た、っていうの」

月明かりの差し込む船の一室で、唯先輩と一晩中抱き合ってたって

明日帰るから、もうちょっとだけ我慢しててねって

純「あと子供作りたいって夢の中で言われたらしい」

憂「こ、子供!?」

純「うん。そんなわけで掃除してるから先行っててって言われたの」

純「まあ私も信じてなかったんだけどね。いつものあれが始まったかー、みたいなノリでさ」

でも

それでも

純「それでも、ほとんど同じ夢を憂も見てるんなら、もしかしたらって可能性はあるよね」

憂「わ、私は子供作るなんて和ちゃんから言われてないけど……」

真っ赤な顔で俯く憂

一体何を想像してるんだろうね

純「……まあ、子供云々は和さんが帰ってきてから考えればいいけどさ」

ちらっとテーブルの上の料理に目をやる

これだけの量と手のかかりようだ

仕込みから何から逆算して、きっと陽の上がりきらないうちから取り掛かっていたんだろう

いくら憂は料理が好きとはいえ、このテーブルの上の料理と、それにかけた手間と時間は、全部和さんへの想いだ

純「帰ってくるなら、この料理が冷めないうちに帰ってきて欲しいよね」

キッチンのオーブンがベルを鳴らしたのと、澪先輩が部屋に飛び込んで来るのはほとんど同時だった

澪「お、お邪魔します!」

憂「え、澪先輩?どうしたんですか、そんな慌てて」

澪「ご、ごめんね、勝手に上がっちゃって」

憂「い、いえ。大丈夫ですけど」

走ってきたのだろう。澪先輩は息も絶え絶えに、しばらく下を向いて息を整えようとしていた

でも、整え切っていないうちから顔を上げて、

澪「り、律達の船が帰ってきたって!今、港に入ったって!」

瞬間、憂が後ろ手でエプロンを外し始める

玄関に向かって、足早に歩き出す

ふと、何かを思い出したように振り向いて私を見た

純「わかってるよ。今から私が梓に伝えに行く。だから港に行っておいでよ。澪先輩と一緒に」

憂「あ、ありがとう純ちゃん!」

澪先輩と憂が家を飛び出していく

窓から、港へ向けて走っていく二人の背中が見えた

純「さて、このビッグニュースを梓に伝えに行くか」

ここの鍵はどうしよう。鍵の場所とか知らないし

……まあいいか。梓を見送ったらそのままここに帰って留守番していよう

五分くらいなら鍵を開けっぱなしでも問題ないだろうし

私が玄関を抜けた時、汽笛が鳴った

その音はちょうど一年前の夏に、この町の港で聞いたものと同じだった


「いっしょにたべよう」

梓「えっと。メモと携帯とエコバックと……」

持ち物の確認をしていると、部屋のチャイムが鳴りました

憂「梓ちゃん?もうみなさん集まってるよー?」

梓「あ、うん。今行く」

スニーカーを履いて、少しだけ髪を整えて

家の扉を開けると憂が立っていました

憂「準備できた?」

梓「うん。お待たせ」

鍵をかけて、ちゃんと閉まってるか確認します

梓「ごめんね。行こうか」

エレベーターに乗って一階へ

エントランスには、もう澪先輩とむぎ先輩が居ました

梓「すみません、準備に手間取っちゃって」

澪「いいよ。私たちも今きたところだから」

紬「洗濯物、干し終わった?」

梓「はい。ただ、洗濯機が終わる直前に唯先輩から電話があって」

梓「それでつい長話してたら、結構時間ギリギリになっちゃいました」

紬「あらー。相変わらずラブラブねー」

むぎ先輩が素敵に微笑みます

澪「ん?唯がそんな長電話できるほど暇だったんなら、律の録音が結構かかったんだな」

紬「なおちゃんにダメ出しされて、きっと涙目でしょうね」

澪「律が悪いんだよ。昨日も、明日スタジオ入りだっていうのに夜遅くまで……」

憂「え、昨日の夜って何かあったんですか?」

澪「え!?い、いやその……まあ、色々とね?」

澪先輩が真っ赤な顔をして、消え入るように呟きます

その反応で、憂も何かを察したらしく

憂「す、すみません。野暮でしたね……」

澪「いや、ぜんぜん大丈夫だから……」

紬「あらあらまあまあ」

むぎ先輩、楽しそうだなぁ

澪「と、とりあえず行こうか」

その一言で、私たち四人は一緒に歩き出します

目指すは近所のスーパー

私たちの行きつけのお店です


澪「憂ちゃんは今夜何にするか決めてるの?」

憂「はい。和ちゃんが今夜はお肉食べたいって言うから、お肉料理でって思ってます」

澪「律もお肉がリクエストだったな。でも野菜も食べさせないと、栄養偏るしなぁ」

紬「冷製サラダとか追加したらどうかしら。この暑さだし」

梓「あ、冷やしたトマトをメインに、お塩を少し振れば食欲も増しそうですね」

澪「美味しそうだな。じゃあ、お肉と冷製サラダにしよう」

梓「あ、いい感じにレタスとトマトが安いですよ」

澪「あ、本当だ!運がいいな!」

野菜売り場の方へ、澪先輩が小走りで行っちゃいました

紬「私もちょっとビール見てくるわね。さわちゃんの買い置きが切れちゃってたから」

パタパタと、むぎ先輩もお酒売り場へ向かいます

憂「そういえば、梓ちゃんは今夜はどうするの?」

梓「うん。中華にしようと思ってるんだ。暑くて唯先輩、オフの日はダラダラしてるから」

梓「ちょっと辛めの中華で、気分変えてもらおうって思って」

憂「へえ。いいね。食欲も出てきそう」

梓「でしょ?……あ、うちも唯先輩のアイスの買い置きが切れてた」

憂「今日アイス全品半額の日だよ。良かったね」

梓「こういう日にまとめ買いしとかないとね」

私と憂がアイスを選んでいた時、澪先輩が小走りでやってきました

澪「ねえねえ、桃が安かったよ」

心なしか澪先輩がはしゃいでます

憂「あ、本当ですね」

澪「蜜柑も安かったんだよ。甘夏」

梓「甘夏かぁ。ちょっと酸っぱくて、夏にはぴったりですよね」

憂「桃と蜜柑……フルーツケーキ作りませんか?」

梓「おお」

澪「いいな、それ!」

憂「デザートにもなりますし。それに、二人でワンホールだと多いですけど」

憂「ツーホール分作って、私たちで半ホールづつ分けたらちょうどいいですよね」

澪「そうだよな!ちょっとむぎも呼んでくるよ!」

買い物かごを私たちに預けて、澪先輩がお酒売り場へ向かいました

梓「美味しそうだね、フルーツケーキ。唯先輩が喜びそう」

憂「うん、きっと喜ぶよ。とりあえず、八人分だよね。桃と蜜柑、どれくらい必要なのかな」


夕方、テレビのニュースを流しながら、キッチンに立ちます

お風呂掃除も終わったし、洗濯物も取り込んでたたみ終りました

あとはお料理だけ

今夜は中華料理です

梓「ご飯も炊けるし、あとはメインだけ」

梓「唯先輩、今日は疲れてるだろうからなぁ」

梓「スタジオ入りすると本気で集中しちゃうから」

梓「きっと気づかないうちにヘトヘトになっちゃってるんだ」

梓「直と和先輩が居るから、無理はしてないと思うんだけど」

梓「うん。辛めの中華の後にはデザートにケーキもあるし、お風呂上りにアイスもある」

梓「きっと疲れも取れるよね」


唯「あずにゃん、ただいまー!」

七時過ぎに唯先輩が帰ってきました

玄関までお迎えに行きます

梓「お帰りなさい、唯先輩」

唯「あーずにゃーんー、疲れたよぉ」

靴も脱がずに抱きついてくる唯先輩

やっぱりちょっと、ドキドキしちゃいます

抱きつかれるのって、たぶん四桁レベルまでいってるはずなのに

梓「お疲れ様です。ほら、ギー太置いて、靴脱いでください」

唯「だめー。まだあずにゃん分補給出来てないもん」

梓「あとでいくらでも補給させて上げますから」

唯「だって丸一日あずにゃんと触れ合えないなんてさー」

梓「レコーディングのスケジュールなんだから仕方ないですよ」

唯「やっぱ別撮りはダメだね。和ちゃんに言って、一発撮りに変えてもらおう!」

梓「唯先輩と律先輩が言い出したことじゃないですか……」

まったく、と言いながらも、離れる気にはなれません

私だって、丸一日唯先輩と会えなかったんですから

唯先輩分が足りないんです

梓「ご飯とお風呂、先にどっちにします?」

唯「お腹空いたし、先にご飯がいいなぁ。で、少し休んでからあずにゃんとお風呂!」

梓「はいはい、わかりました」

夕飯です

唯先輩と二人、小さなテーブルを囲みます

ご飯の時にはテレビを消すのが、うちのルールです

唯「でね、あずにゃん。今日りっちゃんたらね」

梓「そうなんですか。大変でしたね」

唯「まありっちゃんも私も、結構良い演奏が出来てたからね」

唯「デモ出来たらびっくりするよ!直ちゃんも褒めてたもん」

梓「そうですか。直が評価するんだったら本物ですね」

唯「天才的REだからね!和ちゃんも天才マネージャーだけど」

梓「和先輩には本当に苦労をかけてますよね……」

唯「えへへ。でも、和ちゃんも楽しいって言ってたよ。私にぴったりだってさ」

梓「それだったら良かったです。あ、先輩。味、どうですか。辛過ぎないですか」

唯「美味しいよー!今日ね、ちょうど中華料理食べたいなって思ってたんだ」

梓「そうなんですか?なら、良かったです」

唯「夏の暑さも吹っ飛ぶよ!さすがあずにゃん!」

梓「えへへ。あ、今日はデザートもあるんですよ。フルーツケーキ」

唯「え、本当!?やったー!」

本当に嬉しそうに唯先輩が笑います

その笑顔は、私の一日の終わりのご褒美で

だから、どんなに忙しくても

夕ご飯だけは、いっしょにたべよう


全部終わりました
ありがとうございました

「Fun fun fun」 the beachboys
https://www.youtube.com/watch?v=JK7DA0FliIs

「the new girl in school」 jan&dean
https://www.youtube.com/watch?v=IAWMBXjuJnY

「Louie louie」 Richard BERRY
https://www.youtube.com/watch?v=z-2CKsaq5r8

「いっしょにたべよう」 岡崎律子

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