パワプロ「俺、野球辞めてラジコンで食ってくよ」あおい「は?」 (52)

アナウンサー「いったあああ!パワプロ選手、日本記録更新となる第61号本塁打です!」

解説「パワプロ選手は今季、215安打・打率.399・166打点も記録していますからねぇ。まさに球界の至宝ですよ」


奥居「やったなパワプロ! お前は本当に凄いやつだな~」

パワプロ「…」

奥居「今日はパーっと飲みに行こうぜ!な!」

パワプロ「…」



パワプロ(これで主要打撃タイトルの記録を全部更新してしまった…所詮日本の野球なんてこんなもんか)

パワプロ(なんか野球、つまんなくなったな…)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420814451

パワプロ「というわけで、今期で引退することにしたんだ」

あおい「え…ええええええええええっ!?」

パワプロ「日本の野球はもう俺には低レベルすぎるからね。けどMLBは英語分かんないからダメだし」

パワプロ「もうサッパリ野球はやめて第二の人生歩もうかなーって」

あおい「…」カタカタ

パワプロ「で、これからは奥居に勧めてもらったラジコンでもやろうかなって思ってるんだ」

パワプロ「もうゴルフも釣りもダーツも麻雀も極めちゃったからなー」

パワプロ「というわけであおいちゃ…いや、あおい!」


パワプロ「これからの第二の人生、俺と一緒に爆走していこうっ!」キラン

あおい「ふざけないで」ブチッ

あおい「もう、パワプロ君ったら…ちょっと調子に乗りすぎてるんじゃない?」

パワプロ「え~?」

あおい「パワプロ君、去年まで戦力外予備軍だったよね?」

パワプロ「まあね。練習サボってゴルフとか釣りとかばっかりしてたから」

あおい「二軍で怪我して入院してる間に何かがあって、今年は偶然凄い成績を残したけど…」

あおい「まだまだプロとしては一流半、ただの一発屋じゃない」

あおい「それに…」チラッ

パワプロ「それに?」

あおい「今年の年棒、たったの500万だったでしょ? そんな状況なのに――あの子たちをどうやって育てていくのさ!」

みずき(4)「ママー、プリンちょーだーい」バタバタ

聖(1)「なー」パタパタ


パワプロ(28) 頑張パワフルズ プロ10年目
遊撃手 ミートAパワーA走力A肩力A守備Aエラー回避A 年棒500万

あおい(28) 5年前に現役引退&結婚

みずき(4) 長女

聖(1) 次女


パワプロ「おー、みずきちゃんと聖ちゃんは今日も可愛いなぁ。パパのホームラン見ててくれた?」

みずき「みてたよー。そんなことよりプリンちょーだ~い!」

聖「なー!」パタパタ

あおい「今日はもうおやつの時間にプリン食べちゃったでしょ。もう今日はダーメ」

みずき「えぇー!? ママのケチ! さんかくフラスコ!」

あおい「!?」ギロリ

みずき「ひっ!? も、もうねるもん! おやすみパパ~!」ドタドタ

聖「すぅ…すぅ…」

あおい「…話を戻すよ。ハッキリ言って、今この家の財政状況は芳しくありません」

パワプロ「え?なんで?」

あおい「パワプロ君がプロモデルのゴルフクラブ買ったりしてるからでしょ!」バン!

あおい「それにパワプロ君は毎日飲んで帰ってくるから飲み代もバカにならないし…」

あおい「私が現役時代に稼いだお金も含めて貯蓄はまだあるけどさ…」

あおい「一家の大黒柱が遊んで暮らしてられるような状況じゃないんだよ!」

パワプロ「失礼な。ラジコンは遊びなんかじゃなくて由緒正しい…」

あおい「は?」ギロリ

パワプロ「」

パワプロ「そっか…、確かにお金は大事だよね」

あおい「うんうん。分かった? だから契約更改ではきちんと銭闘して――」

パワプロ「困ったなー。まさかお金がないとは思ってなかったから」

あおい「――――万円は貰えるように粘って……うん?」


パワプロ「もうお立ち台で引退宣言しちゃったんだよね。監督にも挨拶したし」

あおい「」


パワプロ「でもってその足で奥居と模型屋にラジコン買いに行っちゃったんだよなぁ~」

あおい「~~~!?」

数時間前――

監督「そうか…。お前の決意は変わらないんだな」

パワプロ「はい。俺はNPBの歴史に名前を残すことができましたから…もう思い残すことはありません!」

福家「パワプロッ…!」

奥居「みんなー!パワプロを胴上げだー!」

―――――――――――――――――――――――

パワプロ「奥居、これ持ってってくれよ」

奥居「こ、これは…野球偉人伝!?」

パワプロ「古葉さんに貰ったものなんだけど俺にはもう必要ないからさ。…今日までのお礼さ」

奥居「パワプロ…オイラ…」グスン

パワプロ「何泣いてんだよ奥居! 今日で俺は野球選手をやめるけど、俺たちはこれからもずっと友達だぜっ!」

奥居「パワプロー! 心の友よーー!」

パワプロ(こうして俺は引退した)

パワプロ(あおいちゃんからは話し合って引退撤回するよう説得されたけど、引退宣言したのにやめるなんて格好悪い)

パワプロ(確かにお金の心配はあるけど大丈夫。俺にはコイツがある)

パワプロ「俺の大親友、奥居と作ったこのラジコン…俺はコイツで生きていくんだ!」


パワプロ(―――こうして、俺のプロラジコン選手としての生活が始まった)


パワプロ「さて、それじゃあラジコンショップにプロ志望届を出しに行くかな。すみませーん!」

山本昌「プロラジコン選手? そんなものはないよ?」

パワプロ「」


パワプロ(…始まらなかった―――)

山本昌「確かにラジコンの大会はあるけど賞金出ないし、仮に出てもパーツ代で消えるからね」

パワプロ「…」

山本昌「ラジコン屋をやるとかならまだしも、ラジコン走らせてるだけで生計立てるのは無理だよ(笑)」

パワプロ「あわわわわわわわわわわわわわわわ」

パワプロ(ヤバい!こ、これは猛烈に…!)


パワプロ(【悲報】パワプロ選手、プロ野球選手を引退し無職に)

パワプロ「…」こっそり

みずき「あれ?パパ?もうただいまなの?」

聖「なー!」

パワプロ「ま、まあね…ハハハ。あおいママは?」

みずき「ママならスーパーでおかいものしてるよー? すぐかえってくるって!」

パワプロ「げっ…」

みずき「みずきね、おるすばんちゅうなのー! ひじりのこともみてるんだよ。えらいでしょー?」

パワプロ「う、うん…。みずきお姉ちゃんは偉いね」

みずき「えへへー♪」

パワプロ「偉いついでにみずきちゃん、今パパが帰ってきたことはママに内緒にしておいてくれないかな?」

みずき「うん、わかったー♪ かわりにあとでプリンちょーだいねっ♪」

パワプロ「はぁ…」

パワプロ「そういえばラジコン選手なんて聞いたことないよなぁ…。なんでこんなことしちゃったんだろ」

パワプロ「…」

パワプロ「ダメだダメだ! 早速就職活動しなきゃ! 一家の大黒柱がこんなんでどうするんだ!」

パワプロ「ラジコン選手がダメでも俺を必要としてる職場は沢山あるはず!」


パワプロ(しかし、結果は全てダメだった。ゴルフも釣りも麻雀も…プロは無理だと言われてしまった)


パワプロ「しょうがない。もう何もかも捨ててハローワークに行くか…」スタッ

パワプロ「…!?」ブロロロロロロロロロ…

??「危ないでやんすー!」キキーッ

パワプロ「うわっ…!? な、なんだ一体!?」

矢部「…ふう。なんとか避けられたでやんすね。って――パワプロ君!」

パワプロ「君は…矢部君!? どうしてここに!?」

矢部「…」

矢部「去年パワフルズを戦力外になってから、オイラはパワフル物産に就職したでやんす」

矢部「今は新商品を作るための買い出しの途中なんでやんすよ」

パワプロ「へぇ…」

パワプロ(矢部君…戦力外になってから音沙汰ないと思ってたけどそんなことしてたんだ)

矢部「パワプロ君の方こそどうしたんでやんすか? 確か少し前に電撃引退したって聞いたんでやんすが…」

パワプロ「あ、ああ…。実は――」

パワプロ(その日の晩、俺は飲み屋で矢部君に全てを話していた)

矢部「そんなことがあったでやんすか…。パワプロ君は本当にバカでやんすねぇ~」

パワプロ「おいおい、矢部君にはバカ呼ばわりされたくないぞ~ヒック」

矢部「バカはバカでやんすよ。あおいちゃんが可愛そうでやんすよ」

パワプロ「うっ…うぅ…。まったくもって…ヒック」

矢部「こんなことになるならオイラがあおいちゃんと…」ボソッ

パワプロ「??なんか言った?」

矢部「な、なんでもないでやんすよ!」ビクッ

矢部「…コホン。パワプロ君、結局パワプロ君は今、仕事がなくて困っているんでやんすね?」


矢部「だったら、オイラと一緒にパワフル物産で働かないでやんすか?」

部長「ようこそ、君がパワプロ君だね? 矢部君から話は聞いているよ」

パワプロ「はい!今日からよろしくお願いします!」

パワプロ(せっかく矢部君に紹介してもらったんだ…ここで頑張るぞ!)

部長「では早速だが商品開発をしてもらおう。この中のどれかを20週以内に開発してくれ」ペラッ

パワプロ「はいっ!…って!ええっ!?」


中周波筋力強化器
ポケット自転車
リストラ専用肩たたき機
元素コピー機


パワプロ「いや、無理だろこれは…」ガタガタ

パワプロ「ただいま…」ボロッ

あおい「お帰りなさい、パワプロ君。なんだかすごく疲れてる?」

パワプロ「まあね…」

あおい「ラジコンのプロって結構大変なんだね」

パワプロ「う、うん! そうなんだよ」ビクッ

パワプロ(本当は矢部君と怪しい商品作ってますなんて言えない…!)

みずき「パパおかえりー! プリンかってきたー?」

聖「なー!」

パワプロ「はは。買ってきてるぞー。冷蔵庫に入れておくから明日のおやつに食べてね」

みずき「わーい♪」

あおい「もう、パワプロ君は甘いんだから…。お金に余裕ないし毎日買ってきちゃダメだよ?」

パワプロ「…」

あおい「…パワプロ君? まだ寝ないの?」

パワプロ「ごめん、起こしちゃった? ちょっと勉強しなくちゃいけないとこがあってさ」

あおい「あのパワプロ君が勉強!? ラジコン選手ってすごいんだね…」

パワプロ「はは、物理とか勉強しなきゃなんだよね」

パワプロ(まさかこの年になって高校の勉強を復習する羽目になるとは思ってなかったよ)

あおい「そっか…。パワプロ君頑張ってるんだね。有難う」ニコッ

パワプロ「…!」ドキッ

パワプロ「…」

パワプロ(ゴメンな、あおいちゃん…。俺は君に嘘をついてるんだ)

部長「パワプロ君?新商品の開発は進んでいるかね?」

パワプロ「うっ…」

部長「納期はもうすぐだからな。死ぬ気で頑張ってくれたまえ」

パワプロ「うぅ…」

矢部「パワプロ君、大丈夫でやんすか?」

パワプロ「正直全然大丈夫じゃないよ…。俺、高校の授業は全部寝てたし」

矢部「オイラはガンダーロボ関連の商品を作ってるから捗ってるんでやんすが…パワプロ君には厳しそうでやんすね」

パワプロ「けど頑張らなきゃな…! 家にはあおいちゃんも娘二人も待ってるんだ!」

パワプロ「よーしやるぞー!うおおおおお!」

矢部「ファイトでやんす!」

パワプロ(はぁ…)

パワプロ(結局、作れなかったな…。会社には残れたけど給料はほんの僅かしか貰えなかった)

みずき「パパー! きょうはおしごとおやすみなんだよね? ゆうえんちつれてってー!」

聖「なー!」

パワプロ「ごめんな、みずきちゃん、聖ちゃん。今日もパパお仕事なんだ」

みずき「えー!? このまえやくそくしたのに! やーだー!」

あおい「みずき、パパは忙しいんだから我慢しなきゃダメだよ」

みずき「やーだー! パパのバカ! ママのバカ! まるぞこフラスコ!」

パワプロ「みずきちゃん…」

あおい「ほらパワプロ君、もうそろそろ時間でしょ? お仕事頑張ってね」

パワプロ「う、うん…行ってきます」

パワプロ(はぁ…)

パワプロ(結局、作れなかったな…。会社には残れたけど給料はほんの僅かしか貰えなかった)

みずき「パパー! きょうはおしごとおやすみなんだよね? ゆうえんちつれてってー!」

聖「なー!」

パワプロ「ごめんな、みずきちゃん、聖ちゃん。今日もパパお仕事なんだ」

みずき「えー!? このまえやくそくしたのに! やーだー!」

あおい「みずき、パパは忙しいんだから我慢しなきゃダメだよ」

みずき「やーだー! パパのバカ! ママのバカ! まるぞこフラスコ!」

パワプロ「みずきちゃん…」

あおい「ほらパワプロ君、もうそろそろ時間でしょ? お仕事頑張ってね」

パワプロ「う、うん…行ってきます」

パワプロ(野球をやめてからの俺は本当にダメダメだった)

パワプロ(高卒で頭の悪い俺はようやく就職できた会社でお荷物扱い)

パワプロ(碌な給料も得られず毎日無意味な研究を続けていた)

パワプロ(いつの日かそんな日々に嫌気がさし、矢部君と飲みに出かけは鬱憤を晴らす日が増えた)

パワプロ(――そして、一番大切だったあおいちゃんや娘たちとの会話も減っていった)


パワプロ「…」

アナウンサー『打ったー! パワフルズのアニキ・奥居! 意地の一発で猪狩選手の完封を阻止しました!』

パワプロ「野球、か…」



パワプロ(そんなある日のことだった)

パワプロ「えっ…!?」

京子「あおいさんは随分無理をしてきたみたいですね」

京子「野球選手となるため極限まで体を鍛えてきた反動。それに最近は家事に育児に内職までこなしてたそうで」

パワプロ「え…内職…」


パワプロ(あおいちゃんも、俺に内緒で仕事をしていた。家事の合間に通信教育の添削のバイトをしていたようだ)

パワプロ(なんで気付かなかったんだろう…俺の給料は俺の飲み代で消えてるのに、どうして生活できてるのか)


パワプロ「あ…あおいは、すぐ元気になるんですよね?」

京子「…」


京子「既に彼女の病気は重度まで進行しています。これまで生きていたのが不思議なくらいに」

京子「この病気を治せる医者は世界にただ一人だけ。ただし莫大な治療費がかかるんです」

あおい「ゴメンね…パワプロ君。ずっと黙って、無理して、挙句の果てにこんなことになって」

パワプロ「謝らなきゃいけないのは俺の方だよ! 全部、俺が悪いんだ…! 俺が…」

あおい「…」

あおい「ボク、本当は知ってたんだ。パワプロ君が矢部君と一緒に働いてること」

パワプロ「!」

あおい「数か月前に偶然会ってね。色々教えてもらってた」

あおい「パワプロ君は何も言ってくれなかったけど、それでも物凄く頑張ってるんだって聞いたら何も言えなくって」

あおい「いつかパワプロ君本人から話してくれるのを待とうかなって思ったんだ」

パワプロ「…」

あおい「けど、話をしないですれ違ってるうちにこんなことになっちゃってゴメンね。本当に…!」

あおい「 わたし も頑張らなきゃと思って内職なんて始めて無理しちゃったから…!」

パワプロ「う…」

パワプロ(うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!)

パワプロ(何がすれ違ってるだよ…あおいちゃんはいつも、俺が飲んで帰ってきても笑顔で迎えてくれてたじゃないか)

パワプロ(上手でもない料理を毎日作って待ってくれてたのに! 俺が一人で無視してたんじゃないか!)

パワプロ「うぁ…」

あおい「ねぇパワプロ君、もしボクがし――」

パワプロ「!」

あおい「――んでしまったらみず――」

パワプロ「…させない」

パワプロ「絶対に、君を死なせたりなんてしない」


パワプロ「治療費を稼いで、絶対に君を守って見せる! だから俺は――――」

→A

パワプロ(それから)


守「やぁパワプロ。調整は万全、2年前の記録を更新する準備はできたみたいだね」

パワプロ「…」

守「しかしまさか、君とカイザースで共にプレイできるなんて去年までは夢にも思わなかったよ」

守「やはり君がいないと面白くない。君は僕の永遠のライバルなんだからね!」

パワプロ「…五月蠅い」

守「…」

守「今日タイトルを獲得できればインセンティブ契約のお金が手に入るだろう。頑張ってくれ」


パワプロ(俺は治療費を稼ぐため、トライアウトを受け、猪狩に土下座してカイザースへ入団した)

パワプロ(再び選手復帰するために血の滲む努力をした。再び活躍するために血も出なくなるほど努力した)


パワプロ(そうして目的の治療費を稼ぎ終えた時、あおいは既にこの世を去っていた――――)

アナウンサー『さぁ、プロ野球交流戦キャットハンズVSカイザースの一戦はいよいよ大詰め!』

解説『ここでキャットハンズは投手を替えるようですねぇ。左の強打者、大ベテランの武蔵が相手ですし』


武蔵「…」

??「…ようやく会えたね、裏切者」

武蔵「…!」

??「今日までずっと、復讐のために野球をしてきた。けどそれも今日で終わり」

??「ママを殺し、私と聖を捨てた貴方を私は絶対に許さない!」


アナウンサー『第一球…投げたッ! おおーっと! これは暴投―――――――――――――』


最後に見た景色は、俺が一番好きだった女の子に似た少女の憎悪に満ちた表情だった

――BAD END

A プロ野球選手になる!
→B …

パワプロ「治療費を稼いで、絶対に君を守って見せる! だから俺は――――」

あおい「俺は?」


パワプロ(続く言葉は出なかった。現実的に、今の俺の力で治療費を稼ぐことは不可能だ)

パワプロ(娘を捨て、もう一度プロ野球選手になって活躍すれば1年で治療費を稼ぐことはできるかもしれない)

パワプロ(けどそんなのは博打なんてものじゃない。できるとは限らない)

パワプロ(第一、娘を捨てるってことをあおいちゃんは絶対に許さないだろう)

パワプロ(そういえば、あおいちゃんって父親と確執があって復讐のために野球をしてたんだったっけ)


パワプロ「まだ方法は分からないけど、絶対家族みんなが幸せになれるようにする!」

パワプロ「だから待っててくれ! 俺、頑張るから―――」

パワプロ「矢部君、相談があるんだ」

矢部「無理でやんすよ」

パワプロ「俺の今作ってるアレの…え?」

矢部「「アレ」はオイラが手伝っても完成まで最低1年はかかるでやんす。間に合わないでやんすよ」

パワプロ「なんで俺が言おうとしたこと…」

矢部「パワプロ君はオイラの昔からの親友でやんす。考えてることくらい分かるでやんすよ」

パワプロ「矢部、くん…」

矢部「このまま会社で働いて治療費を稼ぐのは現実的ではないでやんす。だから…」


矢部「とりあえず、これをパワプロ君に返すでやんす!」ドサッ

パワプロ「!!」

パワプロ「矢部君これお金じゃないか! 流石にお金を借りるわけには…」

矢部「パワプロ君は学生時代から何度もガンダーロボの限定版のためにお金を貸してくれたでやんす!」

パワプロ「あっ…」

矢部「けど…返さないままプロになって…オイラ一人戦力外になって、返せなくなってたでやんす」

矢部「だからオイラはパワプロ君にもあおいちゃんにも告げず一人でいなくなって…逃げて…」グスン

矢部「申し訳ないでやんす!」

パワプロ「い、いや…正直忘れてたしいいんだよ…」

パワプロ「それにこの金額、どう考えても貸してた額より多いよ!」

矢部「借りたお金には利子が発生するでやんす。これはその分でやんす!」

パワプロ「で、でも! 矢部君だってそんなにお金持ってるわけじゃ…」

矢部「ええい! 黙るでやんす!」

矢部「親友のピンチなのに身を切らないような男にはなりたくないでやんす!」

矢部「それに…オイラもあおいちゃんに生きてて欲しいんでやんすよぉ…」

パワプロ「矢部くん…」

矢部「ぐすん。パワプロ君、話に戻るでやんすよ」

パワプロ「う、うん…」

矢部「短期間でお金を稼ぐのはハッキリ言って無理でやんす。けど、お金を手に入れる方法ならあるでやんすよ」

矢部「それはお金を借りること…高給取りな野球選手の知り合いの多いパワプロ君にうってつけの方法でやんす!」

パワプロ「えぇっ!?」

パワプロ「で、でもそれは…」

パワプロ(あおいちゃんは父親の借金で酷い生活をしてきたんだ…)

矢部「背に腹は代えられないでやんす! 第一、手術は早い方がいいんじゃないでやんすか?」

パワプロ「そ、それは…確かに!」

パワプロ(酷い方法だというのは分かっている。だけど俺にはもう、これしかなかった)

あおい「パワプロ君! これは一体どういうことなの!?」

パワプロ「あおいちゃん、体に障るからあまり大声出しちゃ駄目だよ…」

あおい「大声も出すよ! パワプロ君からお金貸して~って言われたって電話がもう何件も来てるんだもん」

あおい「パワプロ君知ってるよね!? ボクの家がどんなだったか…」

パワプロ「…知ってるさ。知っててやってるんだ」

あおい「どうして!」

パワプロ「あおいちゃんに生きててほしいからに決まってるだろ!!」

あおい「!!」

パワプロ「あおいちゃん、電話してきてくれた人たちはなんて言ってた?」

あおい「…!」

パワプロ「皆協力を惜しまないって言ってくれたはずだ。だって、みんなあおいちゃんのことが好きなんだよ!」

あおい「っ…!!」

あおい「…どうやって返すの?」

パワプロ「方法はまだ分からない。今会社で作ってるものを完成させるか、もしくは野球界に戻るか」

パワプロ「けど約束する。どんなことになっても絶対みずきちゃんと聖ちゃんは守るよ」

あおい「…」

パワプロ「勿論、あおいちゃんもだ」

あおい「…っ」

あおい「…うん。わたしもまだ、死にたくないよ…」

あおい「キミと、みずきと聖と…大好きな人と生きていたいんだ…っ!」

パワプロ「…ああ」

パワプロ「あとは俺に任せとけ!」

奥居「ほい、パワプロ。これだけあれば足りるんじゃないか?」

パワプロ「有難う…って、なんじゃこりゃー!?」ゴトッ

パワプロ「札束が1,2,3…って数えられるもんじゃないぞ!?」

奥居「ざっと億は持ってきたからな~。ま、トリプルスリー常連のオイラならこのくらいは余裕だって」

パワプロ「す、すげぇ…」

奥居「パワプロにはいい嫁も紹介してもらったしこのくらいのことじゃ恩は返せねえよ」

奥居「それに俺たち大親友、だろ?」

パワプロ「奥居ー! 心の友よーー!」


猪狩「話に聞いたぞパワプロ! 困っているらしいじゃないか。君がどうしてもというなら…」

福家「お前には色々世話になったからな。パワフルズ優勝を味わわせてくれたお前に協力しないわけにはいかない」

山本昌「落ち着いたらまたラジコンしような」

パワプロ「やっぱりプロ野球選手って凄いよなぁ…リーマンがどんなに頑張っても無理な額をポンと出せるんだから」

あおい「本当だねぇ…」

パワプロ「こうして沢山の人からお金を借りられて思うよ」

パワプロ「俺のゴルフや釣りや麻雀やダーツばかりしてたプロ生活も無駄じゃなかったんだって」

あおい「パワプロ君はパワフルズ優勝の立役者で打撃四冠王でもあるじゃない。野球の方も凄いよ」

パワプロ「ハハ。そういえばそうだった」

あおい「…」

パワプロ「…」

パワプロ「手術、頑張れよ」

あおい「うん」

パワプロ「なんでもドイツから来たダイ・ジョーブ?って人が診てくれるらしいよ?」

あおい「…なんか急激に不安になってきたんだけど」

Epilogue――

パワプロ「げっ」スカッ

部長「パワプロー! またお前は三振かー!!」

矢部「元プロ野球選手、しかも四冠王とは思えないゴミっぷりでやんす」

パワプロ「ひ、ひどい…」ズーン



みずき「あー! またパパ三振しちゃった。本当パパってば格好悪ーい」

聖「娘として恥ずかしいぞ」

雅「はずかしいぞー!」

あおい「ふふふ、確かに今のは格好悪いよねぇ」

雅「ねぇママ? どーしてママはパパとけっこんしたのー?」

みずき「あ、それ私も聞きたい。子供の頃、ママは頑張ってるのに毎日飲んだくれで帰ってきて嫌いになった記憶あるし」

みずき「昔はプロで凄い選手だったーってのは知ってるけど正直パパとしてはダメダメだし」

聖「酷い言われようだ…。一応、元素コピー機を開発した世界的科学者でもあるのに」

あおい「ははは…。確かにダメダメかもしれないね」

あおい「けどね。昔は本当に格好良かったんだよ」

聖「?」

あおい「私が甲子園に出るために奔走してくれたり…お祖父ちゃんと仲直りさせてくれたり」

あおい「低迷してた球団を優勝に導いたり…まだまだ、数えきれないや」

雅「ふーん?」

あおい「まぁ、ママはダメダメなパパのことも大好きなんだけどね///」

みずき「出た! ママのラブラブっぷり! もう本当なんでこうなのー?」

社長「さぁ最後の9回! あの黒獅子重工相手に1点リードしてるんだ! 必ず守りきるぞ!」

矢部「おー! でやんす! 社会人野球の頂点取るでやんす!」

あおい「パワプロくーん! 頑張れー!」

パワプロ「!」

パワプロ「おーう! 頑張るよ~///」デレッ

矢部「おっ、パワプロ君ラブパワー発動したみたいでやんすね」


パワプロ「うおおおおおっ!」ビシュッ

みずき「凄い! ファインプレー!」

雅「すごーい! わたしもおとなになったらパパみたいなやきゅうせんしゅになる!」

あおい「ふふ」


あおい(パワプロ君、わたしは君のことが大好き。ダメなところもぜーんぶ)

あおい(だけどやっぱり、貴方が野球をしている姿が一番好きです♪)

――――HAPPY END

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年01月27日 (火) 14:11:54   ID: UENMFyHc

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