有里湊「二週目」(13)



※ペルソナ3のネタバレ注意


━━━全ての戦いを終えて迎えた卒業式。
僕は彼女の膝で永遠の眠りについた。
自らの意思で、目を閉じて。

だというのに、何故か僕はまだ生きている。
過ぎた筈の4月(過去)に、巌戸台へ向かう電車に乗っている。

そして何よりも不可解なのは、自分の姿だ。

茶色の髪、赤い瞳、ある筈の物がなく、ある筈のない物がある。

そう、僕は女になって、過去に戻ってきたのだ━━━


あと二駅程で巌戸台に着く。
時刻は0時前、影時間にはまだ早い。

だけど考え事をするにはちょうどいい時間だ。

そこで僕は目を伏せて、考えを纏める事にした。


「━━━何がどうなっているんだ」


何で僕は、女になっている?
そして何故4月へと戻っているんだ?

考えが纏まらない。頭が痛い。処理能力が追い付かない。どうでもいい?そんなわけないだろう。



「これからどうすればいいんだ」


僕はこれから起こる全てを知っている。
……なら僕は巌戸台へ行くべきじゃない。

伊織にも言われたじゃないか、全て僕のせいだと。

巨大シャドウの復活も、影人間の増加も、ニュクスも、世界の滅びも。

全部、僕のせいだと。


「………」


今ならまだ間に合う。
巌戸台の前の駅で降りて、そこから元居た町へ引き返すんだ。

それでいいんだ。

そうするべきなんだ。


がたんごとん。

電車が揺れる。

がたんごとん。


椅子から立ち上がり、ドアの前へ向かう。
簡単だ、ドアが開いた時に、足を踏み出せばいい、簡単だ、降りるんだ。

もう二度とあんな思いはしたくない。
何よりも、死にたくない。

まだやりたいことがあるんだ。
やりたいことがあったんだ。
何気ない日常をもっと過ごしたかったんだ。

もっと生きたいんだ。



「………」


ドアが開く、覚悟を決めて足を踏み出そうとした瞬間。
彼女の姿を思い出した。


『私にとって一番の大切は、あなたの側にいることであります』


がたんごとん。

ドアが閉まり、電車がまた歩みを進める。

がたんごとん。


「……アイギス」



僕があの島にいかなければ、彼女はずっと一人で眠り続けるのだろう。
一人で、ずっと。


「……それは、嫌だ」


彼女の大切が、僕の側にいることなら。
僕にとっての大切は、彼女の側にいることだ。

どうでもいい、なんて言葉では片付けられない。

「……しょうがないな」

繰り返すとしよう。
あの楽しくて、尊い一年を。
今度はもっと上手くやってみせる。
誰も死なないように、誰も苦しまないように。


がたんごとん。

がたんごとん。

"次は巌戸台━巌戸台━"





0時。そして影時間。
常人には自覚するができない隠された時間。

棺へと象徴化された人々の間を進みながら、僕は寮ではなく警察署の方へと歩いて行く。

扉を開け、署内を物色する。

「……薙刀か、まぁ何でもいいか」

薙刀の代わりに代金を置き、警察署を後にする。
そして、街中に現れるシャドウを倒しながら寮へと向かった。


寮の近くの植え込みに薙刀を隠して、寮へと踏みいる。

しばらく進むと見慣れた少年が現れた。


「やぁ」

「単刀直入に言うぞ、ファルロス。僕は滅びなんて受け入れる気はない。分かったらさっさと契約書をだせ、署名すればいいんだろ?」

「……驚いたな。まさかそことを言われるとは思わなかったよ。君は変わっているね」

「よし…"有里湊"っと」

「まぁいいさ、時はすべての物に結末を運んでくる。たとえ目と耳を塞いでも……全てを知っていたとしてもね」


そう言うと、ファルロスは闇に解けるように消えた。

「……結末も知ってるよ、僕はそれを変えたくてここに戻ってきたんだ」



今日はここで終了です。
続きは影時間で。

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