伊織「何がシティーハンターよ、ただの変態じゃない!」 (273)

~TV局スタジオ~

スタッフ「はいオッケーでーす! お疲れ様でしたー!」



律子「本日はどうも、お疲れ様でした」ペコリ

ディレクター「竜宮小町ちゃんいいねー、勢いがあって。これからもよろしく頼むよ」

律子「はいっ、ありがとうございます!」


亜美「りっちゃーん、早く行こうよー!」フリフリ

律子「ごめーん、先に車で待っててー!」


あずさ「律子さんの言う通り、先に行ってましょう。えぇと、確か駐車場は……」テクテク

伊織「わーっ、あずさそっちじゃないわよ! こっち!」

あずさ「あら~?」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419662195

テクテク…

亜美「今日の収録めちゃ楽しかったよね→! いっぱい色んなゲームしたしさ!」

あずさ「うーん、私はああいうの苦手だったから、皆の足引っ張っちゃったわね~」

亜美「ううん、気にすることないっしょ!
   あずさお姉ちゃん達が罰ゲームしてるの、他の人達喜んでたよん?」

あずさ「あら~、それは良かったわ~」



伊織「良くないわよ」

亜美「へっ?」


伊織「私達だってそれなりに売れてきてるはずだわ」

伊織「それなのに、何でいつまでもこんな芸人みたいな事させられなきゃいけないのよ!」

あずさ「い、伊織ちゃん?
    何も私達だけじゃなくて、今日の収録にはすごく大物の方達だって一緒に…」

伊織「私達はアイドルなのよ!?
   大物だろうと、芸人上がりの連中と一緒にして良い事じゃないわよあんなの!」

亜美「う、うーん……
   てゆっても、いおりんが目隠しでおでん食べてるのチョ→おも…」

伊織「何、亜美?」ギロッ

亜美「うえっ!? い、いや別に……」

伊織「ふんっ! 次からは律子にちゃんと言っておかないとね」

伊織「このスーパーアイドル伊織ちゃんに相応しい仕事をちゃんと取ってきてって」

あずさ「あの……そ、そうねぇ」

伊織「何よ、あずさまで微妙な返事して…」スッ


バキューンッ!!


チュインッ!!

伊織「きゃああっ!?」ビクッ! ドテッ

亜美「い、いおりん!!」

あずさ「伊織ちゃん、大丈夫!?」


伊織「あっ、あ……今の、ひょ、ひょっとして銃弾…」


ボウッ!! メラメラ……!

一同「!?」


亜美「く、車が……!」

あずさ「!! ……皆、車から離れてっ!!」

伊織「ひっ……!」バッ!


ドゴオオォォォォォォォオンッ!!!


ゴオォォォォ バチッ! メラメラメラ……!!



亜美「あ……わああぁ……」ガタガタ…

伊織「な、何なのよ……コレ……」

~冴羽商事~

ダンッ!

リョウ「ダメだ、断るっ!」


香「えー、何で? 美人からの依頼よ?」

リョウ「お前が素直に美人からの依頼を持ってきた事があるか!
    何か裏があるに決まってる! ぜーったいに引き受けないもんね!」ツカツカ!


香「ふーん、信用無いんだアタシ。
  せっかくあの765プロのアイドル達と仲良くできるチャンスだってのにねー」

ピタッ


リョウ「……アイドル?」クルッ

香「そっ。リョウ、アンタひょっとして765プロ知らないの?」

リョウ「名前くらいなら聞いた事はあるが……」

香「ほら。アーユレディー、アイムレイディー♪ ってヤツ」フリフリ

リョウ「ぐわぁー! やめろ、朝っぱらからおぞましい!」

香「だぁれがおぞましいってぇ!?」ゴゴゴ…

リョウ「いやぁ違うその! あ、アハハ……」


リョウ「う、ウホン! ……で、その765プロがどうしたんだ?」

香「アンタにボディーガードを頼みたいんだって」

香「でさっ! ほら、引き受けたらサインとかもらえたりするじゃない?」

リョウ「アイドルなんて、年端もいかない女の子ばかりだろう。
    俺はガキのお守りなんてしたくないの」

香「女の子ばかりって、そんな事無いわよ。三浦あず……あっ!」

リョウ「むっ?」

香「ああぁいや、やっぱ何でもない! アハ、アハハ……」


リョウ「…………三浦、あずさ……」パラパラ…

リョウ「おお~っ!! もっこりバスト91、Fカップ!!」モッコリ!

香「いかん、猫にカツ節与えてしまったか……」

~765プロ事務所~

小鳥「コーヒーをどうぞ」カチャッ

リョウ「ほほー、さすがは芸能事務所。ひょっとしてあなたもアイドル?」

小鳥「ピヨッ!? い、いえ私はしがない事務員でして…」

リョウ「なぁんだそっかぁ。でも関係ないさ、今度ボクと一緒に恋のワルツでも…」

香「…………」ゲシッ!

リョウ「ぎゃあああっ!! ……と失礼、美しいものには目が無いものでつい」

小鳥「いえぇ!? あの、し、失礼しますーっ!」

ガチャッ バタン!


リョウ「人前でいきなり足を踏むヤツがあるか!」

香「そっくりそのまま返してやるわい! 会って5秒でいきなりナンパすんじゃねー!」



高木「あ、あの……お取込み中すみませんが、よろしいかな?」

リョウ・香「あっ…………あ、アハハ、ハハ……」

高木「わざわざお呼び立てして申し訳ありません。
   当事務所の代表をしております、高木と申します」


香「あ、あのぉ……ボディーガードというのは、具体的にどんな連中から?」

高木「偶然かどうかは分かりません。だが……
   ここ最近、アイドルが事故に遭うケースが増えているのです」

リョウ「事故に見せかけて命を狙っている輩がいるかも、ってことか?」

高木「はい……先日も、ウチの車が突然炎に包まれまして……」

香「炎!? 爆発したってこと!?」

高木「その前にも、スタジオの照明がいきなり落ちてきたり、
   ステージの奈落が突然開いて、アイドルが落ちそうになることも……」

香「うわぁ、あっぶな~」


リョウ「偶然にしちゃ出来過ぎている。何か心当たりは無いのか?」

高木「それが……何も無いのです。
   この事務所には、業界関係者から反感を買うようなアイドルなどいない」

香「そうよねぇ。テレビで見てても、ホント良い子達ばかりよねぇ」


高木「警察にも相談したのですが、ロクに取り合ってもらえません。
   挙句、メディアも何故かこれらの件について一切触れない始末」

高木「幸い、これまでケガ人は出てきていないのだが……
   いつ、彼女達に取り返しのつかない事が起きたらと思うと……!」

リョウ「安心しな、社長さん。
    たとえ何が起ころうと、俺がそばにいるウチは彼女達の安全は保障するぜ」

高木「おぉ、ありがたい。
   こういう事は、裏社会でもその名が知られた貴方に頼むべきだと思ったのです」

リョウ「その代わり、報酬の話だが……」

高木「お、お金ですか……」ゴクリ…



リョウ「あとで三浦あずさちゃん紹介してねー、だははっ!」

ドガアァァンッ!!! 【100t】


香「報酬に関するお話なら私がお聞きしますから」

高木「は、はぁ……」

リョウ「アヘ、アヘヘ……」ピクピク…

P「という訳で、今日から皆の護衛を務めていただける方を紹介するぞ」


リョウ「冴羽獠という者だ。こっちは相棒の槇村香」

香「どうもー、よろしくお願いしまーす! わーすごい、本物のアイドルだ」


春香「ど、どうも……えへへ、何だか緊張するね」

千早「そうね。護衛が付いてしまうくらい大事になってしまったんだ、って……」

リョウ「なぁに心配する事は無い。君達はいつも通りにしてもらえればいいのさ」

香「そうそう、私達の事なんて気にしないで。
  あっ、やよいちゃんだ! お料理さしすせそ見てるの、ねぇねぇ握手して!」ギュッ!

やよい「はわっ!? あ、嬉しいですー!」


響「ボディーガードって言っても、結構ミーハーなんだな」

貴音「それだけ、私達を好いてくれているという事。
   とても有り難い事ではないでしょうか」

リョウ「ん? おおっ、これは何とも立派なもっこりヒップ!!」モッコリ!

貴音「? もっこり、とは?」

響「に、逃げよう貴音! 何だかあの人、目がヘンタイだぞ!」

真美「ねーねーおじちゃん、もっこりってなーに?」

リョウ「おじ……!! んーとね、お兄さんって言ってごらん?」

亜美「おじちゃん、もっこりってなーにー?」

美希「何だかエッチなカンジなのー」

リョウ「フッ……そんなに知りたいのなら、教えてあげよう。
    もっこりとは、男と女が避けては通れぬ自然の摂…」

香「言わんでよろしいっ!!」ドズウゥン!!! 【100t】

リョウ「ふぎゅっ!!」


律子「……話には聞いていましたが、本当にこういう人だったんですね」

香「まぁね。とにかく、この男を年長のアイドルさん達には近づけないでください。
  特に、三浦あずささんにはね」

あずさ「あ、あら~……」

雪歩「あずささん、私達の中で一番、その、女性らしいですし……」

真「そうだよね。それに引き換えボクと来たら、また雑誌で王子様特集だなんて!」プンスカ!

香「わ、分かるわ、真ちゃんのその気持ち」

香(実はあの特集、アレはアレで結構楽しみにしてんだけど……)

伊織「………………」


リョウ「えぇと、君が如月千早ちゃんで、君が萩原雪歩ちゃん。ふむふむ……」

リョウ「ん? ……君は?」

伊織「私を知らないの?」


香「水瀬伊織ちゃんよ。竜宮小町のリーダー」

リョウ「リュウグウコマチ?」

香「今売れに売れてる765プロきっての稼ぎ頭よ! ちょっとは予習してきなさい!」

リョウ「へぇ~ん……」


伊織「まったく。今のご時世、私を知らない男がいたなんてね」

リョウ「麗しいレディーはいつでも大歓迎だが、あいにく俺にロリコン趣味は無いんでね」

伊織「ろ、ロリコ……!?」

伊織「あんたねぇ! 何よ、私が麗しいレディーじゃないとでも言いたいわけ!?」

リョウ「さぁて、どうかな。
    ん? ちょっと待て香、竜宮小町ってひょっとして……」

香「? どうかしたの?」


リョウ「マネージャーさん、竜宮小町のメンバーを教えてくれないか?」

P「ぷ、プロデューサーです」

律子「伊織がリーダー、それと亜美とあずささんの三人ユニットです。
   私がプロデュ…」

リョウ「やぁっぱりそうだ!! 運命の人をお探しなんだってねあずささん!?」ガバッ!

あずさ「え、えぇっ!?」ドキッ!


ササッ

リョウ「あずささん……いや、あずさ。
    君の旅は今、終わりを告げたよ。探し人は目の前にいる」

あずさ「えっ? さ、冴羽さんが、運命の…」

リョウ「そう、俺は君の前に現れるために今日まで生きてきた。まさに運命…」

ドガアァァン!!! 【100t】

香「そんな汚れた運命があってたまるか!!」

リョウ「どひぇぇ~! ……香ちょっと飛ばし過ぎじゃなぁい?」

あずさ「あ、あの~……絆創膏、持ってきますね?」


律子「ハァ……何だか先行きが不安だわ」

亜美「そっかなぁ? すっごく楽しそーじゃん!
   ねー真美?」

真美「うんうん! もっこり!」

亜美「もっこり!」

律子「こ、こらっ! 二人とも何言ってるの、止めなさい!!」

美希「もっこりなの!」

雪歩「み、美希ちゃんまで!」オロオロ…



伊織(……何でこんな男が来たのよ)

P「今日は『生っすかサンデー』という番組の収録日なんです」

香「えっ? あ、そっか、今日日曜日ですもんね」

律子「ウチのアイドル達が総出演する、生放送の番組です。
   オンエアーは15時からですが、そろそろスタジオに行かないと」

リョウ「あぁ、そういや香が良く見てるんだっけ。本当に生放送なんだアレ」

香「リョウ! 失礼な事言わないの!」


P「ウチのアイドル達皆の事を良く知ってもらえる良い機会だと思いますが、
  護衛の方も、どうか一つよろしくお願いします」

香「色々コーナーがあって、それぞれアイドル達が分かれてコーナーを進めていくの。
  あみまみちゃんが好きなんだー私」

リョウ「よしっ、なら俺はあずささんが参加するコーナーの現場に張り付こう!」

香「そうねぇ、アハハハ」

香(ふふん、そうは行くかこのエロ河童め)キラン!

~TV局スタジオ~

春香「日曜午後の新発見!」

春香「神出鬼没の生中継!!」

春香「生っすかぁ~~…!?」

『サンデーーッ!!!』



香「ふむふむ、舞台袖から見る生放送ってのもなかなかオツねぇ~」

律子「ライブやフェスにも共通して言えますが、独特の緊張感はありますね」

香「うんうん!」


ピロリロリロ!… ピロリロリロ!…

香「うおっと、携帯が」

律子「香さん、本番中はマナーモードにしていただかないと…」

香「ご、ごめんなさい! ちょっと失礼」コソコソ…


ピッ!

香「リョウ? どうしたのよこんな時に」

『どうしたもこうしたもあるかっ!!』

~幼稚園~

ワー! ワー!

リョウ「なぁんで俺がこんなガキ共の相手をしなくちゃならないんだ!!」

『仕方ないでしょう? やよいちゃんのスマイル体操の現場なんだもの。
 あんたの希望を聞いてあげたじゃない』

リョウ「あのな! 俺はあずささんがこのコーナーに出るってお前が言ったから…!」

『ごめーん、あずささん“急遽”菊地真ちゃんのコーナーと入れ替わりだったみたい。
 萩原雪歩ちゃんと』

リョウ「きっさっまぁ~!! 俺をハメやがったなぁ!?」ワナワナ…!

『あっ、ごめん、今良い所! 何も無いなら切るわね!』ピッ!

リョウ「あっ! おい香っ! もしもし、もしもぉしっ!!」


やよい「はぁ~い! 今私達は、きのこ幼稚園に来ていまーす!」


リョウ「げっ!? まずい、中継が始まりやがった!」

園児「おじちゃーん、もっとあそんでー」「たかいたかいしてー」ワラワラ

リョウ「アハ、アハハハ……(離れろこんにゃろぉー!!)」ニコニコ

スタッフ「あ、あの、マネージャーさん。そろそろはけてもらわないと…」

リョウ「分からいでか! ほ、ほら君達、あっちへお行き」

ワーワー! タタタ…


やよい「今日は伊織ちゃんと、特別に雪歩さんにも来ていただいてますー!」

伊織「はぁーい! 皆のスーパーアイドル、伊織ちゃんよ! にひひっ♪」

雪歩「え、えぇと……今日はちょっと、あずささんと交代で、その…」

園児「わぁー!」「わぁー!」グイグイッ

雪歩「うえぇぇっ!? ちょっ、服引っ張らないでぇ!!」アタフタ…



リョウ「ふぅ~……やれやれ、どうにか進行できたか」

リョウ「それにしても香のヤロー……アイツ後で覚えてろ、ったく!」プンスカ!



カチャッ…



リョウ「…………ッ!」ピクッ!

リョウ(確かに今、撃鉄を上げる音がした……)

リョウ(音の響きからして、リボルバーか?)

リョウ(こんなご時世に、俺以外に持っているヤツがいるとは思えんが……)



やよい「それじゃあみんなー!」

やよい「スマイル体操、はっじめるよー!!」


~~♪


スッ…

リョウ「………………」グッ


ガチャッ



リョウ「………………」


リョウ「……………………」ザッ


タタタ…

タタタ…

リョウ「…………」ザッ

リョウ「………………」



リョウ(気配が消えた……か)

リョウ(いや、人の気配が無さすぎる……不自然なほどに、気配が消されている)

リョウ(どうやらやっこさん、かなりの凄腕だ。しかもリボルバーを持っていやがる)



リョウ(まさか、お前じゃないだろうな……)

やよい「ぜっえたいっ! はあぴぃ!」フリフリ

やよい「ぜっんたいっ! はあぴぃ!」フリフリ


一同「まったねーー!!」フリフリ!

ワアァァァァァァァッ!!!



スタッフ「はいっ、中継終わりましたー!」

やよい「お疲れ様でしたー!」ガルーン


雪歩「ふぅ……久しぶりにこの曲踊ったけど、やっぱり元気になれるね」

やよい「そうですよー! 雪歩さんもこれからは毎週踊りましょー!」

雪歩「ま、毎週!? えぇと……でも、それもいいかも。えへへ」


園児「いおりちゃん、あそんでー」「でこちゃーん」ベタベタ

伊織「あーもう! 誰がでこちゃんよ、こらっ、離れなさいってば」


伊織「あら? ねぇ、ウチのボディーガー……じゃなくて、マネージャーは?」

スタッフ「あぁ、その人ならさっきどこかへ行きましたけど」

伊織「何ですってぇ? まったく、これじゃ何のために雇ったんだか…」

テクテク…

リョウ「おっ? もう終わってたのか、悪い悪い」

やよい「あっ、冴羽さん!」


雪歩「ひっ!? 冴羽さん、あの、その手に持ってるのは……」

リョウ「ん? あぁ、コレはね、おもちゃのエアガン。俺好きなんだ」ササッ

雪歩「そ、それにしては随分本物にそっくりだったような…」

リョウ「ギクッ……ひょっとして雪歩ちゃん、本物のコルトパイソン見た事あるの?」


伊織「冴羽って言ったわね?
   次に勝手な事したら、社長に言ってクビにさせるわよ」

リョウ「お、おいおい。体操を見てなかったのがそんなに不満かい?」

伊織「それもあるけど、護衛ならちゃんと現場に張り付いていなさいよ!」

伊織「これじゃあ、ウチの警備員を手配した方がよっぽどマシだわ」

リョウ「ウチの警備員?」

やよい「あっ、伊織ちゃんの家はすっごくお金持ちで…」

伊織「やよい、余計な事言わなくていいの」

やよい「あぅ……ごめんなさい、伊織ちゃん」シュン…


リョウ(……なるほど、あの水瀬財閥のお嬢様だったのか。どうりで高飛車だと思った)



スタッフ「765プロさん、そろそろお天気のお時間でーす!」

やよい「あっ、はーい! 今行きます―!」

雪歩「それじゃあ、冴羽さん。次のコーナーがあるので……」ペコリ

リョウ「あれ? さっきので終わりじゃないの?」

伊織「やよいが天気予報をするコーナーがあるのよ。本当に何も知らないのね、ったく」

リョウ「へぇー」


伊織「あと、私もそろそろ出るわ。
   律子達から聞いたと思うけど、もう次の仕事先に行かなきゃいけないのよ」

リョウ「あぁ、それは聞いてる。お車はあちらですよ、お嬢様」スッ

伊織「ふんっ。取ってつけたようなエスコートなんて求めてないわよ」スタスタ…

リョウ「……やれやれ、どうにも嫌われてるな」

テクテク…

伊織「これがあんたの車?」

リョウ「そっ、ミニクーパー。なかなかシャレてるだろ?」

伊織「私の趣味じゃないけどね」


リョウ「ところで、俺が君を送るのはいいが、残ったやよいちゃんと雪歩ちゃんは?」

伊織「そろそろプロデューサーが迎えに来るから心配無いわよ」

リョウ「あっ、そう。それならそれで…」スッ


リョウ「!」


伊織「? どうしたの、さっさと車…」

リョウ「車から離れるんだ。それと、どこかその辺にロープはあるか?」

伊織「えっ? く、車から離れろ、って……ロープは、さっきの現場に行けばあるけど…」

リョウ「ちょっと借りてくる。くれぐれも車には近づくんじゃないぞ」ダッ

伊織「あっ、ねぇ!」

タタタ…


伊織「……何よ、いきなり」

タタタ…

リョウ「お待たせ。もっと車から離れておいてくれ」

伊織「ねぇ、どうかしたの?」

リョウ「車のドアノブに付けていたセロテープが、剥がされていたんだ」

伊織「えっ……?」


ギュッ

リョウ「よぉし。さぁ下がって下がってー、危ないよー」

伊織「ちょ、ちょっと、一体どうしたっていうのよ!」

リョウ「見てりゃ分かる。やれやれ、また車を買い直さなくちゃな」グイッ!

ガチャッ


ドゴオオォォォォォォォオンッ!!!

伊織「キャッ!?」ビクッ!


ゴォォォォォ…!! メラメラ…!


リョウ「ドアノブを開けたら、爆発物が起爆する仕組みになってる。良くある手口さ」

伊織「」ボーゼン…

~765プロ事務所~

高木「……すると今回は、乗る時に爆発するよう仕組まれたものであったと?」

リョウ「警察は、俺が爆発させたんじゃないかって最後まで疑ってたけどな。
    ったく冗談じゃないぜ」


律子「しかし、こんな事が何度も続けて起こるなんて……」

香「律子さん。本当に、何も心当たり無いの?」

律子「え、えぇ……スタッフもファンの皆さんも、好意的に接してくれますし……」

リョウ「一度、全容を把握する必要があるな。
    プロデューサーさん、これまでの事故の詳細について教えてくれないか?」

P「は、はい。えぇっと……」パラパラ…


P「まず、最初はステージの奈落が突然開いた件ですね。
  あれは、竜宮小町のライブのリハーサルをやっていた時でして……」

律子「あと一歩間違っていたら、伊織が奈落に落ちていたところだったんです」

律子「関係者に聞いてみても、誰もその時は操作盤に近づいていなかったので、
   目撃者がいなかったみたいで……」

香「ふぅーん、何か怪しいわねぇ」

P「次は、伊織と雪歩、貴音が出演するミュージカルの、同じくリハーサルでの事でした」

P「本番前の最終調整を、ステージで通しで行っていた時に……
  突然、雪歩の頭上から照明が落ちてきて……」

香「…………」ゴクリ

P「幸い、誰もケガは無かったのですが……
  雪歩が精神的にショックを受けてしまい、公演を延期せざるを得なくなりまして……」

リョウ「臆病そうな子だったからなぁ」


P「後は、春香と伊織、響がタクシーで移動中、後ろの車が追突する事故があったり……」

律子「後ろの車は、突然タイヤがパンクして制御がきかなかったとか」

P「それと、えぇと……やよいと伊織の料理番組で、収録後にセットが爆発したり……」

P「つい先日起きた、竜宮小町を乗せようとした車の爆発事故……」

律子「あと、伊織と亜美、真美が電車で移動中、座席の窓ガラスが割れた事もありました」

香「えぇっ、電車の時も!?」

律子「そうなんです。
   この間は、フェスの会場の機材が急に倒れてきたり……」


リョウ「それに今日起きた、俺の車の爆発事故、か……」

P「メディアもそれらを一切取り上げないという事は、
  よほど力のある誰かが情報を押さえ込んでいると考えるべきでしょうか」

リョウ「その、機材が倒れてきたっていうフェスには、誰が出場する予定だったんだ?」

P「えぇと、あれは確か……」

律子「千早と伊織……それにあずささんと美希ですね」


律子「……あっ」

リョウ「気がついたか?」

香「へっ、何が?」


高木「……水瀬君がいる時にのみ、事故が起きている」

P「うわっ、本当だ!」

リョウ「まぁ、関連性は高いと見て間違いないだろう」


律子「し、しかし、仮に事件性があるとして、何で伊織が狙われるのでしょう?」

香「確かさっきの話だと、伊織ちゃんはあの水瀬財閥のお嬢様なのよね?
  例えば、他にお金持ちの子とかはいない?」

高木「詳しくは言えんが、萩原君の親御さんが相当な有力者ではありますな。
   亜美君と真美君も、父上が医者をされているので、裕福なお宅ではあるが……」

律子「多国籍企業を多く取りまとめる財閥の資産と比べれば、まぁ、常識的な範疇ですね」


P「ま、まさか、水瀬財閥が持つ資産を狙った犯行っていうんじゃ…」

リョウ「いや、それは無い」

P「えっ?」


リョウ「起きている事故のいずれも、一歩間違えれば命を落としかねないものばかりだ」

リョウ「誘拐ならともかく、金目当てでお嬢様を殺そうとするとは思えない」

香「た、確かに……ウムム?」


リョウ「もちろん、金目当ての殺し屋が雇われている可能性もあるんだろうけど……」

リョウ「雇い主がどうしても殺したい理由が、果たしてあるのかねぇ。伊織ちゃんに?」


律子「…………強いて言うなれば、なんですけど……」

香「ん?」

律子「あぁいえ! そんな大した事ではなくって、えぇと……」



リョウ「……まぁ、伊織ちゃんは生意気そうな子だもんな」

香「な、何言ってんのよ! リョウ、アンタちょっとは口を慎みなさ…!」

律子「いえ、あの……」


律子「冴羽さんの、言う通りです。
   あの子、実際のところ……スタッフさん達から、陰で色々言われてるみたいで……」

P「えっ、本当か?」

律子「扱いづらいって……プライドも高いし、態度も高圧的で、気を遣うみたいです」

香「そ、そうなんだ……」

リョウ「………………」


律子「で、でも! だからと言って、まさかあの子を殺そうとする人なんているはずが…!」


ガチャッ


伊織「……あぁ、そう。ふーん」


律子「!! い、伊織……聞いていたの?」

伊織「私の事だもの。聞いて悪い?」



P「い、伊織……あのな、心配しなくたって大丈夫だぞ?
  別にスタッフさん達だって、きっと本気でそう思ってるわけじゃな…」

伊織「思ってるんじゃない? わざわざ陰でそう言ってるって事は」

P「うぐっ……」

伊織「私に恨みを持って殺そうとする人がいるとしたら、
   そういうスタッフの人達になるのかしら?」

伊織「それならまだ分かるけど、そこの男が言ってた通り、
   水瀬財閥のお金を目当てに私を殺そうとする輩がいるなんて事は考えられないわ」

伊織「……いいえ。お金だけじゃなく、たとえ水瀬家への私怨が理由だとしてもね」

リョウ「私怨?(そこの男呼ばわりかよ……)」



伊織「私のお父様は、私に何の感情も抱いてないのよ」

伊織「あの人にとって、私は出来損ないで、水瀬家の恥なんだから」

香「は、恥って……」

伊織「だから、たとえ私がどうなろうと、あの人にとっては関係無いの。
   そういう冷血な人間だって事も、水瀬家に関わった人なら誰でも知ってるわ」

P「い、伊織……」



グッ…

伊織「……だから私は、何が何でもトップアイドルになってやるのよ」

伊織「キラキラに眩しく輝いて、お父様を……水瀬家を見返してやるために」

リョウ「………………」


伊織「……話が逸れたわね。
   どうでもいいけど、私の身に何かあったらただじゃおかないから」クルッ

香「あっ、ねぇちょっと!」

バタンッ



高木「……いやはや、どうもすみません。ああいう子でして……」

香「いえいえ! お元気なお子さんで、アハハ」

リョウ「ヘッ、おべっか使っちゃって。近所のババアかよ」

ドグシャアァッ!!! 【100t】

リョウ「あぴゆっ!!」


香「それじゃあ、これからは伊織ちゃんの護衛に重点を置く、ってことで」

律子「犯人の目的が分からないので、確証は持てないのですが……とにかくお任せします。
   それでいいですよね、社長、プロデューサー?」

P「あぁ。よろしくお願いします」

高木「ウゥム……結局、謎は深まるばかりか」

リョウ「貸してくれるっていう車はコレか?」

P「す、すみません。
  ウチも首が回らなくて、期間付きの安物レンタカーでしか対応できず……」

香「ううんいいのいいの! そんな大したモンじゃなくたって乗れりゃあさ!」

リョウ「ちぇっ、色気の無い車……」

香「リョウ~?」ギロッ

リョウ「うわあぁぁウソウソ! ボクこの車種だーいすきっ!」


伊織「……新堂、あの連中はいいからさっさと出して」バタン



ブロロロロロ…

香「あーあ。ったく信じられないヤツがいたもんよねぇー。アイドルを殺そうだなんてさ!」

リョウ「…………」スッ


香「大体やり口がインケンなのよ!
  何ていうかこう、正々堂々じゃないっていうかさ。あんな女の子を相手に情けな…」

リョウ「…………」スッ

リョウ「………………」チラッ

香「…………リョウ?」

香「どうしたの? さっきからメモ帳をチラチラ見て」


リョウ「ぐひひ、あずささんの水着のお仕事は三日後かぁ~」デレデレ

香「やる気あんのかコラァッ!!」スパァンッ!!

リョウ「あだぁっ!!」


香「人が殺されようとしているのよ!? ちょっとは身を入れて仕事しろってんだ!」



リョウ「……本当にそうか?」

香「あん?」

リョウ「本当に、あの子が殺されようとしていると思うのか?」


香「えっ、な……どういう意味よ」


リョウ「変だと思わないか?」

リョウ「あれだけの事が何度も起きていながら、どれも間一髪の所で皆助かっている」

リョウ「本当に殺す気があるのなら、一度失敗した場合、
    次はもっと確実な方法で殺しに来るはずだ」


香「……犯人がものすごくドジとか、はさすがに考えにくいか」

リョウ「今日、車が爆発した時の現場なんだが……」

リョウ「爆発する前に、リボルバーの撃鉄が上がる音が聞こえた」

香「えっ!?」


リョウ「気のせいかとも思ったが、こっちもお返しに、パイソンの撃鉄を上げてみたんだ」

リョウ「すると、気配が忽然と消えた……
    目ぼしい所を探したが、どこも不自然なまでに気配が消されていた」


香「リョウが撃鉄を上げる音に、向こうも気づいて逃げたってこと?」

リョウ「おそらくな」

リョウ「もしそいつが絡んでいるんだとしたら、いつでも彼女を殺せているはずだ」


香「すんでの所で助かるように、わざと仕向けている、か……
  でも、そうする理由がどのみち分からないわね」



リョウ「……まっ、これ以上は考えてたって仕方ない。
    あまり気は進まないが、大人しくワガママなお嬢様の護衛に就くとするか!」

香「そうね! ってワガママは余計よ!」

~水瀬邸~

ブロロロロロ… キキィッ


リョウ「ほぉ~~……」

香「こりゃあすんごいゴリッパなお家……塀の角っこが見えないわ」


『お客様は、どちら様でしょうか?』

リョウ「おぉっと、ビックリした。
    伊織お嬢さんのボディーガードを頼まれた、冴羽という者だが」



『申し訳ございませんが、どうかお引取りをお願い致します』

リョウ「なぬぁっ!?」

『お嬢様は、あくまで外出先での護衛を依頼した次第であり、
 ご在宅中の警護についてはその適用外であるとのことです』

リョウ「危険はいつどこから迫ってくるか分からないんだ。
    悠長な事を言っていないでとにかく俺を中に…」


ザッ… ゾロゾロ…

黒服達「伊織お嬢様のご意向にそぐえない、と?」

香「ひぇ~……揃いも揃ってコワモテばかり」

リョウ「うわぁ、何て逞しい人達。ボクちんの出番無いみたいだからかーえろっと」ササーッ

香「し、失礼しましたー」サーッ

ブロロロロロ…



リョウ「……わざわざ俺を雇わなくても、あの子が言っていた通り、
    連中に四六時中守ってもらった方が良いんじゃないか?」

香「う、うーん……」

~伊織の部屋~

伊織「……あいつらは行った? 新堂」

新堂「はい、伊織お嬢様」


伊織「はぁ、まったく……何で社長はあんな連中に護衛を依頼したのかしら」

伊織「ねぇ、新堂。もし時間があったら、あの男の詳細について調べてもらえる?」

新堂「そう言われるかと思いましたので、資料をこちらに」スッ

伊織「さすがね、新堂」


パラパラ…

伊織「冴羽獠……本名不明、国籍不明、生年月日不明?」

伊織「何よこのふざけたプロフィール……
   冴羽商事代表取締役社長。マンション管理業……へぇ、不動産屋?」

伊織「どうしてそんな輩がボディーガードなんてやってるのかしらね」


新堂「お嬢様、その肩書きは表向きのものでございます」

伊織「表向き?」

新堂「あまりこういう事をお嬢様にお教えするのは憚られるのですが……
   スイーパー、という言葉をご存知でしょうか?」

伊織「“sweeper”……掃除機がどうかしたの?」


新堂「ここでいうスイーパーとは、始末屋という意味です」

新堂「風の噂を頼りに、もっと端的に申し上げますれば、殺し屋とほぼ同義とも」

伊織「こ、殺し……!?」


新堂「訳ありの、主に女性からの依頼を受け、法では裁けない悪を始末する……
   近年においては、悪漢から依頼人を守るボディーガードを行う事が増えたとか」

伊織「し、始末って……具体的に、どうやって?」

新堂「ピストルによるもの、とのことでございます」

伊織「拳銃!?」

新堂「かの方が、裏の世界のNo.1とまで噂される所以……
   それは大きく、射撃の腕にございます」

新堂「それを裏付ける、かの方の代名詞とも呼べる特技が、
   “ワンホールショット”というものだそうです」

伊織「ワンホールショット?」


新堂「初撃により撃ち抜いた孔を目掛けて、二発目、三発目を撃ち込む……
   複数回の射撃にも関わらず、弾痕が一つしか残らない、高度な射撃技術の事です」

伊織「……野暮な事を聞くけれど、それ至近距離から撃つ訳じゃないわよね?」

新堂「拳銃の種類にもよりますが、50mもの距離でもこなせるようです」

伊織「ごっ、50m!?」

新堂「ライフルによる狙撃で、1km先の人間が着ているYシャツのボタンを外したとも」

伊織「……人間じゃないわよ、そんなの」


新堂「射撃の腕だけでなく、常人離れした強靭な筋力、運動神経に加え、
   政治や裏社会に精通しており、国内のみならず世界的にもNo.1の凄腕と呼ばれます」

新堂「その実力を象徴する言葉が、“シティーハンター”というかの方の通称でございます」

伊織「シティーハンター……」


伊織(裏世界の、No.1…………それが、あの男が得ている評価……)

………………………

………………


――水瀬家は常に帝王たれ。

――何事にも、いついかなる時も、他者より先へ、前へ踏み出さねばならない。

――それが出来ない者に、水瀬を名乗る資格は無い。

――分かるな、伊織。


「ま、待って、お父様! 私だって、こんなに頑張って…!」


――頑張って、お前は水瀬家に何をもたらした?

――高木に頼んでアイドルをやらせてはいるが、所詮お前の行いはお遊戯にすぎん。

――結果も出せない分際で、過程に評価を求めるなど、やはりまだまだ子供だな。


「違う!! 私は子供じゃないわ! 自分でやっていける、何でも!」

「お願いお父様、こっちを向いて! 行かないで!!」

伊織「はっ!!」ガバッ!


チュンチュン… ピヨッ


伊織「はぁ、はぁ、はぁ……!」


伊織(……何て酷い夢)



コンコン

伊織「どうぞ」

ガチャッ


新堂「おはようございます、伊織お嬢様。朝食をお持ち致しました」カラカラ…

伊織「ありがとう」


伊織「ねぇ、新堂……今日は、お父様は?」

新堂「早くにお出になられました。本日から3日間、ブルネイへご出張されております」

伊織「……そう」

伊織「それじゃあ、行ってくるわ」

メイド「行ってらっしゃいませ、伊織お嬢様」

ガチャッ バタン


ギィィィィィィ…



ブロロロロロ…

伊織「……?」


新堂「冴羽様のお車が、私共の後ろに付いておられますな」

伊織「……一応、仕事は果たすってわけね」



ブロロロロロ…

香「律子さんの話だと、今日は午前中が春香ちゃんとバラエティ番組の収録、
  お昼過ぎ頃から765プロ皆でレッスンだって」

リョウ「ふわあぁ~あ、眠い」ゴシゴシ…

香「ほらっ、シャンとする!」ギリィッ!

リョウ「いっだあぁっ!! 耳っ! 耳を引っ張るな!」

~テレビ局スタジオ~

春香「おはようございまーす! 今日はよろしくお願いします!」ペコリ

ディレクター「あぁ、765プロの春香ちゃん。今日も元気だね」

春香「えへへ、元気だけが取り柄ですから」

春香「あっ、スタッフさん、大丈夫ですか? 私手伝いますね」

スタッフ「あぁ、春香さん。椅子出しは私達の仕事ですから、そんな…」

春香「いえいえ、ちょっとでもスタジオの雰囲気を味わっておきたいなーって。
   コレ、こっちですよね、ってきゃあああっ!?」ズルッ

どんがらがっしゃーん!

スタッフ「あぁ、やっぱり! 大丈夫ですか!?」

春香「あいたたた……へ、平気です」


リョウ「結構、ドジなんだな」

香「アハハ、まぁ、それがあの子の魅力っていうか……ほら、良い子じゃない!」

リョウ「まぁ、それはそうだが……」



伊織「ねぇ、ちょっと!」

スタッフ「は、はいっ!? どうされましたか?」

伊織「どうされましたかじゃないわよ。ここにいた私のシャルルは?」

スタッフ「はっ? あ、あのうさぎのぬいぐるみ…」

伊織「シャルルって言ってるでしょ!」


伊織「何でさっきまでいた私のシャルルがいなくなるのよ!」

伊織「誰かが意図的に動かさない限り、ここにいたシャルルがいなくなるはず無いわ」

スタッフ「す、すみません。あの、その、私に聞かれましても……」オロオロ…

伊織「じゃあ誰なら分かるって言うのよ!」


香「あ、あの~……伊織ちゃん?」

伊織「えっ、何? 香だったかしら?」ギロッ

香「そ、そうそう! でね、そのうさちゃんなんだけど……ほら」スッ

伊織「あっ……」

香「ちょっと設営が慌しくなってたから、ここに置いてあると邪魔かなーって思って、
  私がどかしておいたの」

伊織「気安く触らないで!」バシッ!

香「うわっ!?」

伊織「勝手な真似しないでくれるかしら。どれだけ心配になったと思ってるのよ」


リョウ「おいおい、そんな言い方は無いだろう」

伊織「! 冴羽、リョウ……」

リョウ「香の行いはともかく、まず疑ったスタッフさんに謝るべきなんじゃないのか?」

香(何かシャクゼンとしない)ムッ


伊織「………………」

スタッフ「あ、いえ、私は別に……」

伊織「私は謝らないわ。疑われるような仕事に就いてる方が悪いのよ」

スタッフ「え、えぇ!?」


香「ちょ、ちょっと伊織ちゃん。それはさすがに…」

伊織「そろそろ本番ね。春香、いつまで手いたずらしてるの、配置に着くわよ」ツカツカ…

春香「て、手いたずらって、伊織ったらひどいなぁもう」

タタタ…

香「あ、あぁ~……えぇと、すみませんねスタッフさん。悪い子じゃないんだけど…」

スタッフ「………………」スッ

スタスタ…

香「あ、ちょっと……行っちゃった」

香「あれ? そういえばリョウは?」



リョウ「うわぁ! さっきいた女優さんのセクシー水着ポスター!!」モッコリ!

リョウ「マネージャーさん。この応援ポスター、俺にも一つ恵んでくれないか」キリッ

マネージャー「まぁ、素敵な方……」ポッ


香「なぁにしとんじゃコラアァァァッ!!」グアァッ!

ドカアァァン!!! 【100t】

リョウ「あーれー!!」ヒューン

ドシャアァッ…!



マネージャー「廊下の方まで飛んでっちゃった……」

香「ウーム、甘かったか。もっと思いっきりぶっ飛ばせば良かった」

パラパラ…

リョウ「あっつつつ……香のヤロー、豪快にふっ飛ばしやがって……」

リョウ「ん?」



【来夏新作水着 モデル選考会 楽屋→】


リョウ「楽屋……すなわち、楽しい部屋」

リョウ「一度お邪魔しなくては」



テクテウ…

リョウ「むふ、んむふふふっ!」

リョウ「あー香ってば本当にありがたいヤツだなー! 
    ボクちんをこーんな良いお部屋へ導いてくれるだなんて!」ルンルン♪

リョウ「もっこりビキニちゃん達、待っててねー! 今行くから…」


「もうやってらんねぇよあの子」


リョウ「むっ?」ピタッ

サササッ

リョウ「………………」ソォーッ…



スタッフA「竜宮小町がどれだけ偉いか知らねぇけど、あんな態度アリかよ」

スタッフB「あぁ、そんな事あったのか。俺も伊織ちゃんは駄目だわ、苦手」

スタッフA「苦手ってレベルじゃねぇよあんなの」

スタッフA「この業界、偉ぶってる人間は多いけど、あの子は群を抜いて態度でけぇし」

スタッフB「他の現場だと、差し入れのオレンジジュースを断ったらしいな」

スタッフA「えぇ、マジかよ何で?」

スタッフB「果汁100%のものしか飲まないんだと」

スタッフA「かぁーっ! どこまでタカビーなら気が済むんだよ、ひでぇなそれ」



リョウ「………………」

リョウ「……っとこうしてはいられない。早くもっこり水着の園に行かねば」

香「待て」

リョウ「ッ……出たな背後霊め」

香「誰が背後霊じゃい!」

司会「ハハハ、それじゃあ765プロではいつも響ちゃんがいじられ役なんだ」

春香「何となくそうなっちゃうみたいですねー。
   亜美や真美なんかは特に喜んでイタズラばっかりしてて…」

伊織「あらっ? そういう春香だって、この間響のクッキーにタバスコかけてたじゃない」

春香「そ、それは私じゃないよぅ! たまたま真っ赤になってるのを響ちゃんが勝手に…」

芸人「いや何でたまたまクッキーが真っ赤になんねん!」

ワハハハハハハ…!

春香「ほ、本当なんですって! 私が知らない間に一個タバスコ漬けのクッキーが…!」



リョウ(爆発物の類は無し。機材の不調も特に見当たらない)

リョウ(これまでのケースを考えると、犯人が直接襲いにくる事は無いはずだが……)チラッ



スタッフA「あぁしてステージにいる間は本当に“良い子”なんだよな」

スタッフB「ネコ被りやがって……それに引き換え、やっぱかわいいなぁ春香ちゃん」

スタッフA「俺らにもすげぇ気を遣ってくれるしなぁ」



リョウ(まっ、せいぜいああして陰口言われるくらいなら心配無さそうだな)

司会「それでは来週もまたお楽しみにー!」フリフリ

パチパチパチパチ…!


スタッフ「はい、オッケーでーす! お疲れ様でしたー!」

春香「どうもお疲れ様でしたー!」



香「お疲れ様! はい、春香ちゃんお水。
  伊織ちゃんは、えぇと……はい、果汁100%のオレンジジュースね」スッ

春香「あっ、ありがとうございます! ずっと喋ってたから喉渇いちゃって」

伊織「気が利くわね。新堂に聞いたの?」

リョウ「ん? まぁ、な」


春香「ずっと護衛してるのって、大変じゃないですか?
   何だか、すみません。あまり面白くない事をさせてしまってて」

伊織「こっちが依頼して向こうが引き受けてるんだから、いまさら言う事じゃないわよ」

春香「そ、そりゃそうだけど! でも、私達のせいで危険な目に遭うかも知れないし……」

リョウ「最初に言っただろ?
    俺達の事は気にせず、君達は普段通りにしてもらえれば良いんだ」

リョウ「それに、これまで請け負ってきた仕事を思えば、
    悪漢から君達を守る事くらい、危険の内に入らないよ」

伊織「…………!」ピクッ

春香「いつも、どんな依頼を引き受ける事があるんですか?」

香「えぇっと、そうねぇ……まぁ、ボディーガードが多いかな、やっぱり。
  皆みたいな女の子以外にも、女優さんとか、資産家とかもいたっけ」

香「危ない目に遭う事には慣れてるの、アタシ達。
  まっ、これ以上は企業秘密って事で、あんまり深く追求するのはナシでね?」

春香「へ、へぇー……専門家さんなんですね、ボディーガードの」

リョウ「まぁな。むっ……!」ピクッ

春香「? 冴羽さん、どうしたんですか?」



リョウ「皆、今すぐ体を屈めて、耳をしっかり塞ぐんだ」

伊織「へっ?」

春香「えっ、ちょっ……こ、こうですか?」スッ

リョウ「それでいい。危険だから、その体勢のまま目を閉じて。
    香、お前もだ」

香「わ、私も!?」

伊織「どうしたのよ、もう」スッ

リョウ「すごく重要な事だ。何も言わず、俺のことを信じてくれ」

春香「は、はいっ!」ギュッ

香「相棒のアタシにくらい、ちゃんと説明してくれたっていいじゃない」

リョウ「いいから」

香「もう! 分かったわよ」ギュッ

リョウ「しばらくそのままでいてくれ。俺が良いと言うまで、ここを動くんじゃないぞ」



香「ねー、リョウー? まだー?」

春香「何だか、気配を感じないですね」

伊織「どこかに行ったのかしら」



香(! ひょっとして、既に現れた犯人と直接対峙しているんじゃ……)

香(この子達だけじゃなく、アタシまで危険に晒さないよう、何も言わずに……!)パチッ

香「りょ、リョウ……!」ガバッ!


リョウ「あっ」 つ カメラ

セクシー女優「あぁん、撮るなら早く撮ってぇ。焦らしちゃイヤよ」クネクネ

春香「わ、わぁ……」


リョウ「か、香っ? 待て、早まるな、誤解だ!」

香「なぁにが誤解なのかしら。アタシ達を騙した理由を詳しく説明してくれる?」ズイッ

リョウ「と、とぉんでもない、騙すだなんて!
    俺はこの女優さんの胸元に危険物が仕込まれてやしないかと踏んだんだ」

リョウ「そして俺の読み通り、確かに俺のもっこりセンサーが爆発した!
    あと一歩遅かったらどうなっていたことか…」

香「ワケの分からん言い訳すなぁっ!!」 ズガアァァン!!! 【100t】

リョウ「ぎゃあーっ!!」

香「あと一歩遅かったらどうなってたか、って言いたいのはこっちの方よ!
  まったくアンタって人はどういう神経を…!」ガミガミ…!

セクシー女優「あら~、随分と逞しいお相手がいらっしゃるのねぇ」


春香「あ、あはは……こういうのを、お盛んって言うのかな?」

伊織「そんな事、私に聞かないでもらえるかしら」ジトーッ

香「ふぅ……さて、お昼過ぎからレッスンよね? どこかご飯でも食べに行こっか」

春香「あっ、はーい! この近くに、美味しいスパゲッティ屋さんがあるんですよ」

香「へぇ、そうなの?」

春香「はいっ! かわいいデザートも付いてくるし、お店も綺麗なんです。
   あと、店員さんの気配りも良いし、皆美人さんで…」

リョウ「美人な店員さんだって?」ムクッ

香「げっ、もう起きてきやがった」

春香「良かったら、そこに行きませんか? 伊織も一緒に行こう、ねっ?」

伊織「まぁ、仕方ないわね」

伊織「それなら、春香はその変態の車に乗ってお店まで誘導して。
   私は自分の車で後ろから付いて行くから。それじゃ」クルッ

春香「えっ? あっ、ちょっと伊織…」

スタスタ…


リョウ「へ、ヘンタイ? 今、あの子、俺の事を変態って言ったのか!?」

香「他に誰がいんのよ」

リョウ「天下のプレイボーイたる俺を捕まえて、言うに事欠いて変態とは…!!」ワナワナ…

春香「そ、それはえぇと、まぁ……く、口癖ですよ、口癖! そう、伊織の口癖!」

香「春香ちゃん、無理にフォローしなくていいのよ?」

ブロロロロロ…

伊織「白昼堂々、人のいる前であんな事をするヤツがいるだなんて……!」

伊織「それも私のボディーガードを勤めている最中によ!? 信じられないわ!」

伊織「何がシティーハンターよ、ただの変態じゃない!」


新堂「冴羽様は優れたスイーパーであると同時に、比類無きほどの好色家でもあるとか」

新堂「かの方の依頼人が主に美女というのも、それが理由の一つなのでしょうな」

伊織「知らないわよ、そんな事!」

伊織「もうっ……馬鹿みたい!」ドカッ


伊織「……ねぇ。それだと、私はあの変態大人のお眼鏡に適っていないって事?」

新堂「私には分かりかねます。なぜ、そのような事をお思いになられたのでしょう?」

伊織「アイツが私に言ったのよ。俺にロリ……の趣味は無いって」

伊織「誰かれ構わず声を掛けるナンパな男にさえ見向きもされない私は、
   よほどレディーとしての魅力が無いって事なのかしら」

新堂「伊織お嬢様には、大勢のファンがいらっしゃいます。気に病む事などございません」

伊織「それもそうだけど…………」


伊織(……まぁいいわ。別にあんなヤツに振り向いてもらいたくもないし)

~スパゲッティ屋~

店員「メニューをどうぞ。お決まりになられましたら、お声をお掛けください」

ペコリ スタスタ…


リョウ「ぐひひひ、頭を下げた時にチラッと見えるもっこり谷間…」

香「まぁだ天誅が足りないようねぇ」ズラァ…

リョウ「ウォッホン! さて、エレガントな私はこのトメィトゥのヤツをいただこうかな」

春香「あっ、トマトと茄子の、美味しそう! 私もコレにしようっと」


伊織「…………」ハァ…

香「伊織ちゃんは、どれにする? どれも美味しそうよ?」

伊織「適当に頼んで。あとオレンジジュース」

春香「あ、う、うん。すみませーん」

ハーイ


リョウ「疲れたのか?」

伊織「誰かさんのおかげでね」

リョウ「?」

香「午後からのレッスンっていうのは、765プロ皆で集まってやるんだったわよね?」

春香「そうなんです! 近々、フェスが開かれるから、それに向けての練習なんですよ」

リョウ「フェス?」

春香「ライブ対決、って言えば良いのかな。
   複数の事務所が、同じ会場でステージを分けて同時にライブをするんです」

春香「今度開かれるのは、961プロっていう私達765プロのライバル事務所とのフェスで、
   絶対に負けられないから、皆張り切っちゃって」

香「へぇー、フェスって対決だったんだ。
  普通に楽しんで見てた事あるけど、アイドルにも直接対決ってあるのねぇ」

春香「伊織がセンターとして皆を引っ張って、真と響ちゃんはダンスを教えてるんです。
   千早ちゃんは、私に発声方法とか教えてくれたり。あぁ早く行きたいなぁ」ウズウズ

リョウ「仲良いんだな」


伊織「………………」

伊織(仲が良い、か……傍から見ればそう見えるのね)

伊織(少なくとも私は、961プロだけじゃなく、765プロの皆だってライバルだと思ってる)

伊織(特に今回のフェスは、私がセンターを務める重要なライブ……!)

伊織(竜宮小町だけじゃない……名実ともに765プロの看板として、のし上がってやるわ!)

伊織「………………」グッ…!


春香「……伊織? ねぇ、伊織ってば」

伊織「へっ?」

春香「何だか今日、様子が変だよ? 具合が悪いなら、無理しない方が…」

伊織「ば、馬鹿な事言わないで。この伊織ちゃんがレッスンをキャンセルするわけ…」トン

グラァ…!

香「あっ、ぐ、グラスが……!」

伊織「えっ?」


パシッ!  バシャア…

リョウ「っと。危ない危ない、落ちる所だったぜ」

香「リョウ、グラスは良いけど、水が伊織ちゃんの靴とうさちゃんに……」

リョウ「あぁっ! す、すまない。もうちょっと早くキャッチできれば良かったんだが…」


伊織「大丈夫、シャルル!?」

リョウ「あら?」


伊織「冷たかったわよね。こぼしちゃってごめんなさい、本当にごめん」フキフキ…

リョウ「あ、あの……すまなかった。靴にかかってしまったな」

伊織「私の靴なんてどうだって良いわ。それより、シャルルに謝って」

リョウ「えぇ? いや、シャルルちゃんに水がかかったのは俺のせいじゃ…」

伊織「謝ってって言ってるのよ」

リョウ「……どーもすみませんでした。とにかく、靴を拭いて…」スッ


リョウ「!!」


リョウ「…………香」

香「何、ふきんでももらう?」

リョウ「今すぐ二人を連れてここを出ろ」

香「えっ? ……はは~ん、このアタシがそんな手に二度も…」


リョウ「出ろ。今度はマジだ」

香「! 伊織ちゃん、春香ちゃん、出ましょう」ガタッ

春香「えっ? ど、どうしたんですか?」

伊織「ちょっと待ちなさいよ、まだオレンジジュースだって来てな…」

香「後でバケツで飲ませてあげる!」グイッ!

伊織「きゃっ!?」

香「レッスンスタジオで会いましょう。約束よ」

リョウ「あぁ」

タタタ…



リョウ「………………」スッ



【 0:02’43” 】 チッ… チッ… チッ…



リョウ(俺達のテーブルの下に、こんな物騒なモンを仕掛けやがって)

リョウ(いや、これだけじゃない……もしかして、他のテーブルにも爆弾が?)

リョウ(小型で威力は小さい代物だが、他の客が気づけばパニックになっちまうな……)


リョウ「………………」キョロキョロ

リョウ「…………!」


【ヤキニクマン ヒーローショー 会場はこちら!
 絶賛公演中!】


リョウ「……これだっ!」ダッ!

~ヒーローショー会場~

悪役「グワハハハハ!!
   この暴飲暴食怪人オーバーイーター様が、お前達の分を食ってやるぅ~!!」

ヒロイン役「あぁ、そんなぁ! 私達のカルビまで食べないでぇ!!」

悪役「知った事かぁ! ビールも旨いぜ、いっぱい飲むぞぉグワハハハハハ!!」

ヒロイン役「皆、一緒にヤキニクマンを呼んで! せぇ~のっ!!」

観客達「ヤキニクマァーーン!!!」


ヒーロー役「とーうっ!!」バッ!

悪役「な、貴様はヤキニクマン!!」

ヒーロー役「忘年会シーズンに、宴の場を荒らすような輩はこの私が許さん!」

ヒーロー役「ウェルダン・パァンチ!!!」ゴァッ!

悪役「グワアァァァァッ!!」ドサァッ!


ヒロイン役「ありがとう、ヤキニクマン!」

ヒーロー役「暴飲暴食は生活習慣病の元だ! キミ達も気をつけてくれたまえ!」

ヒロイン役「観客の皆も、食べすぎ飲みすぎには気をつけてねー」フリフリ

パチパチパチパチ…!

???「ワァーッハッハッハッ!! ヤキメシマンよ、ここにも敵がいるぞ!!」

ヒーロー役「えっ!?」


悪役2「ハンサム星人もっこり仮面だー!!」ババーン!

ヒーロー役「も、もっこり仮面!? 星人!?」

ヒーロー役(あんなのいたっけ? 聞いてないぞ!?)オドオド…


ダダッ!

悪役2「ふんっ」ガシッ!

ヒーロー役「へっ!?」


悪役2「どおりゃあっ!!」ブンッ!

ヒーロー役「うおわあぁぁぁぁっ!?」ヒューン!

ヒロイン役「あぁ! クシダさ……や、ヤキニクマン!!」

ヒューン…! ガシャアアアアンッ!!

客「きゃああぁぁっ!?」ガタッ!


ヒーロー役「あいたたた……何だここは。す、スパゲッティ屋!?」ガラッ…

ザッ…

悪役2「このスパゲッティ屋がお前の墓場だぁ! ヤキメシマン!!」

ヒーロー役「ヤキニクマンです!! ちょっと待て、何だか展開がおかし…!」

悪役2「お客さん達も、ケガをしたくなけりゃ逃げるんだなぁっ!!」ガチャッ!

ガァァァンッ!!

客「きゃああぁっ!!」「じゅ、銃声!?」「何だ、逃げろぉ!!」

ダダダダ…!


悪役2「ムンッ! とーうっ!!」ガシッ! ポーイッ ポーイッ!

ヒーロー役「うわあぁぁっ!? て、テーブルを投げないでぇ!!」ササッ ヒョイッ


悪役2(……よしっ、他のテーブルには爆弾は仕掛けられていない)

悪役2「ふっふっふ、身のこなしはさすがだな、ヤキメシ……違った、ヤキニクマン」

悪役2「だが、これはかわせるかな?」ガシッ!

ヒーロー役「!? ま、またテーブルを……!?」


悪役2「必殺! もっこり打ち上げ花火!!」ブォンッ!

ヒーロー役「なっ、う、上に!? えぇっ!?」

悪役2「伏せろぉっ!!」スチャッ!

ガァァァンッ!!


ドゴオオォォォォォォォンッ!!!


ヒーロー役「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!!」

パラパラ…


悪役2「…………」

ヒーロー役「あ、あわわわ……!」ガタガタ…

ヒーロー役(何なんだコイツ! マジじゃねぇか、こ、殺される……!!)


ザッ…

ヒーロー役「ひっ! く、来るな! 来ないでぇっ!!」

悪役2(もう大丈夫だ。適当に俺を殴って芝居を終わらせてくれ)ボソボソ…

ヒーロー役「へっ?」


悪役2「ワハハハ、なかなかしぶといヤツ! だがここまでだヤキニクマーン!!」グワッ!

ヒーロー役「ひ、ひぃぃぃっ!!」サッ!

ぺちっ

悪役2「ぐわぁー! やーらーれーたー!」ピョーン

ヒーロー役「あ、あれっ……?」

スタコラサッサー


ヒーロー役「…………何なの」ボーゼン

ヒロイン役(と、とにかく決め台詞を、クシダさん!)コソコソ

ヒーロー役「あっ!? お、オホン!」


ヒーロー役「楽しく食事をしたいなら! 皆で守ろう行儀作法!」

ヒーロー役「モラルを守って、健康的な食事をしてくれよな!!」グッ!


観客「最近のヒーローショーはリアルだなぁ」「すごい演出だった」パチパチ…

タタタ…

悪役2「……この辺で良いか」


ガバッ

リョウ「ふぅ~~……少し騒がせちまったが、まぁ結果オーライだろう」

リョウ「しかし、あんなヒーローが最近の子供には人気なのかねぇ」



ザッ…

リョウ「ん?」

リョウ「…………ほう。やはりお前の仕業だったって事か」



海坊主「……貴様の腕も落ちたものだな」

海坊主「あの程度の爆弾一つ処理するのに、大勢の一般人を巻き添えにするとは」


リョウ「るせー。設置した本人が言う事かよ」

海坊主「ふん」

リョウ「それで、俺に何か用か?」

海坊主「お前に用は無い」

海坊主「水瀬伊織を乗せた車を追っていたら、たまたまお前が道中にいただけだ」


海坊主「じゃあな」ザッ…

リョウ「そうまでして961プロは今度のフェスに勝ちたいのか?」

海坊主「俺の知るところではない」のっしのっし…



リョウ「ふぅん。やっぱお前の依頼主は961プロだったのか」

海坊主「……!」ピタッ

リョウ「これまでの伊織ちゃんへの妨害行為も、全て961プロの仕業だったと」


リョウ「ぬっふっふ、海坊主クンも随分とお喋りになっちゃいましたなぁ」ウリウリ

海坊主「貴様……! チッ……」

リョウ「しかし、伊織ちゃんを精神的に追い詰めようとしてこんなマネを繰り返すのなら、
    アテが外れてるぜ」

リョウ「あの子、子供のくせして相当に強いハングリー精神を持っている。
    上昇志向が強いんだ。金持ちのお嬢様なのにな」

リョウ「嫌がらせや脅しなんかに屈するようなタマじゃない」


海坊主「この俺が、嫌がらせや脅しなどというつまらん事をしているとでも?」

リョウ「現にしているじゃないか。殺すつもりは無いんだろう?」

リョウ「さっきの爆弾だって、もし本気で殺すつもりなら、
    時限式ではなくリモコン式でも使えば、もっと簡単に仕留められるはずだ」

海坊主「………………」


リョウ「お前の狙いは何だ?
    脅し目的じゃないというのなら、961プロは何を企んでいる」


海坊主「……ふん。敵に自分の情報を教える馬鹿がどこにいる」ザッ…

のっしのっし…



リョウ「……それもそうね」

リョウ(しっかしまぁ、とんでもないヤツを敵に回したもんだぜ。やれやれ……)

~水瀬家の送迎車~

ブロロロロロ…

香「キレイな車ねー。ごめんなさい、私達まで乗せてもらっちゃって」

春香「れ、冷蔵庫がある……ほえぇ、すごいなぁ」

新堂「伊織お嬢様のご友人をお乗せできるとあっては、この新堂、
   水瀬家の執事冥利に尽きるというものです」

春香「そ、そんな! そうまで言ってもらわなくても、アハハ……」テレテレ


伊織「新堂、どこかこの辺りで美味しいランチを食べられる所は?」

新堂「イタリアンをご所望であれば、ここから10分ほどの所にございますが」

伊織「じゃあそこにして」

新堂「かしこまりました」

香「へぇ~……優秀な執事さんねぇ」


伊織「で、そろそろ教えてもらえるかしら? 私達を店から無理矢理連れ出した理由」

香「あっ、理由? あぁ、うん、そうね……」


香「えーと……私にも、実は良く分からないの。リョウがマジだって言ったから」

春香・伊織「えっ?」「はぁ?」

香「あぁ、ゴメンゴメン! えぇと、何て言ったらいいのかなぁ」

伊織「だって、私達を騙して女とイチャイチャするような変態よ?
   そんなヤツの言うことを真に受けるなんて…」

香「ううん、違うわ。うまく説明できないけど、あの時のリョウの眼は違ったの」

春香「眼?」


香「アイツの事は、アイツのパートナーであるアタシが一番良く分かってるつもり」

香「だから、大抵の事はアイコンタクトでそれなりに伝わるものなのよ」

香「具体的な事は分からないけれど、危険が迫っている、逃げろって事くらいはね」


春香「信頼しているんですね」

香「ん? うーん、まぁね。こういう仕事だし」

伊織「その割には、ハンマーが手放せないみたいじゃない。にひひっ♪」

香「それとこれとは話が別!」

春香「あははははは」



ブロロロロロ…

不審な車「………………」

ブロロロロロ…

新堂「ム……」


伊織「……新堂、どうかしたの?」

新堂「不審な車が、先ほどから私達を追ってきているようです」

春香「えっ!?」

香「! あっ、あの趣味の悪いキャデラックね!」



ブロロロロロ…

不審な車「………………」ズラァ…



伊織「!? ね、ねぇ、後ろの車……!」

春香「ま、窓から……ひょっとしてあれ、銃……!!」

新堂「皆様、しっかりお捕まりになってください」ガチャ ガチャッ!

香「えっ? うわっ!」グオッ!

ブロロオオォォォォォォォォッ!!


不審な車「………………」グオオッ!

ブロロォォォッ!!

新堂「…………」グンッ! ガチャッ!

ギャギャギャギャッ!!


伊織「し、新堂! もう少し優しく運転…!」

新堂「申し訳ございません、お嬢様。今しばらくご辛抱を」ガガッ! ガッ!

ゴオォォォォッ!!

春香「ひえぇぇっ!!」

香「な、何ちゅードライビングテクニック……!」



不審な車「………………」グオォンッ!!



伊織「ダメだわ、まだ追ってきてる!」

新堂「フゥム、やるものですな」ガッ! グイィッ!



不審な車「………………」ジャキッ


バキューンッ!!

ビシィッ!!

新堂「ムゥ?」ガクン


ガタガタガタッ!!

春香「きゃあああああっ!!」

香「タイヤを撃たれたわ! 皆、伏せて!!」

伊織「いやあぁっ!! もうっ、何なのよぉ!!」


ガガガガァァァァァッ!!! ドシンッ!!


プシュウゥゥゥゥゥ…!



ブロロロロロ…

不審な車「………………」キキィッ


ガチャッ ザッ…


不審な男達「…………へっへっへ」

男A「おい、そこの車の運転手」

男A「水瀬伊織を俺達に引き渡してもらおうか。乗っているのは分かってるんだ」

男B「さっさとしねぇと、今度は車のエンジンにコイツをぶち込んでやろうか」ジャキッ



春香(ど、どど、どっ、どうしよう~……!)グスッ…

伊織(わ、私のせいなの……? 何で、何で私……)


香(アタシに任せて)スッ

春香(あっ、ちょ、香さんっ!)


ガチャッ

香「………………」バタン



男A「ほう……女か」

男B「運転手ではないが、まぁいい。水瀬伊織を出せ」

香「それはできないわ」

男A「ふん。どうなるか覚悟の上なんだろうな」ジャキッ

男B「おいおい、殺しはナシだって言われてるだろ?」

男A「分かってるよ。死なない程度に片腕と片足を使えなくしてやるだけさ」

男A「それでも引かねぇのなら、もっとひでぇ目に遭ってもらうまでよ。くくく……」


香「………………」

男A「どうした? 怖くて声も出せねぇか」

香「そうね……笑いを堪えるのに必死よ」

男B「あぁん?」


香「大の男が二人も揃って、銃を片手に女の子を追い掛け回すなんてね」

香「これまでに出会ったどんな悪党より、アンタ達が一番小物で情けないわ」

香「そんなヤツらが、女を前に粋がって勝った気でいるなんて、とんだお笑い草よ」


男A「貴様……黙って聞いてりゃ言いたい事をずけずけと!!」

男B「ボスからは殺すなと言われたが、もう知らねぇ!
   そんなに死にたきゃこの場で蜂の巣にしてやるぜ!!」ジャキッ!

香(来る……ッ!)バッ!


ヒュンッ!!

ビシィッ!!

男A「ぐあっ!!」

カシャン! カラカラ…

香「!?」

男B「な、投げナイフ!? どこだ、何モンだっ!!」クルッ



冴子「……本部が言っていた現場は、ここでは無さそうね」

冴子「でも、ついでだからあなた達も逮捕してあげる」


香「さ、冴子さんっ!」

男B「な、女だとぉっ!? くそっ、どいつもこいつも俺達を舐めやがっ…!」

ヒュンッ!!

男B「ぐわあぁっ!!」ビシィッ!!


男B「あっ、ぐぐっ……」

冴子「あら? 手を掠めただけなのに、大げさな人達ね」

香「お、お見事」パチパチ

冴子「連行して」

警察官「はっ」

バタン ブロロロロロ…



冴子「危ないところだったわね、香さん」

香「ううん、実はホントに危なかったの! 良かったぁ、来てくれて」


春香「うわぁ、キレイな人~!」

伊織(悔しいけれど、これは美人ね……)


冴子「あら? 彼女達、ひょっとしてアイドルの…」

香「あっ、そうそう! 765プロの水瀬伊織ちゃんと、天海春香ちゃん!
  ちょっと事情があって、ボディーガードを頼まれてるの」

冴子「そうだったの。初めまして、警視庁の野上冴子です」スッ

春香「天海春香ですっ! 助けてくれて、ありがとうございました!」ペコリ

冴子「こちらこそ、765プロのアイドルさんの命を守れたのなら、皆に自慢できるわ」ニコッ

冴子「ところで、ボディーガードを頼まれたって言うけど、リョウはどこに?」

香「あぁ、ちょっとね。この前の場所で危険が迫ったから、私達だけ先に逃げてきて……」

冴子「そう」


伊織「でも……香、さん」

香「香でいいわよ」

伊織「この人が来てくれなかったら、今頃どうなっていたか知れないわ」

伊織「それとも、偶然警察が通り掛かってくれるのを期待する事が、
   あんたの作戦だったってわけ?」

香「ううん、とんでもない!
  実は、アタシの服のボタンには、ほら、盗聴器兼発信機が付いてて……」チラッ



ブロロロロロ…

リョウ「おぉ、いたいた」キキィッ

春香「あっ、冴羽さん!」

香「コイツが来てくれるまでの時間稼ぎをするつもりだったんだけど、
  偶然冴子さんが先に来てくれたってわけ」

伊織「なるほどね」

ガチャッ バタン

リョウ「冴子? ……あーっ、お前なぜここに!?」

冴子「奇遇ね、リョウ」ニコッ

リョウ「奇遇ね、じゃあない!
    貴様、ここで会ったが百年目、大人しく借りを返してもらおうか!」

冴子「あら、何の話だったかしら?」

リョウ「とぼけても無駄だ、冴子!
    お前には俺のもっこり3発分、確かに約束したのにお前はのらりくらりと…!!」

冴子「そんな話をして大丈夫?」

リョウ「何ぃっ!? ……はっ!!」


香「女の子達の前でなぁにを大声で話しとんじゃおのれはぁっ!!」グアァッ!

ドスウウゥゥンッ!!! 【100t】

リョウ「ひぎゃあ、ごめんなさぁいっ!!」

冴子「変わり無いようで安心したわ」ニコッ


伊織「完全に良いようにあしらわれてるわね……」

春香「三人共、何ていうか、仲良いんだろうなぁ」

香「でも、本当に冴子さん、どうしてここに?」

伊織「現場がどうとか言ってたわよね。どこかへ行く用があったの?」

冴子「えぇ。ここから数キロ離れたところで爆破騒ぎがあったそうなの」

春香「ば、爆破っ! またですか!?」

リョウ「ギクッ」

冴子「幸い、ケガ人は出なかったそうだけど、
   ヒーローショーにしては過激な演出で、関係の無い店にも被害が出たとか……」


リョウ「………………」ダラダラ…

冴子「あなたって本当に正直ね、リョウ」

春香「えぇっ? ひょっとして、冴羽さんがその騒ぎを…」

香「ちょっとリョウ、アンタ一体…」

リョウ「ちがぁう! 誰にもケガをさせないためにはああするしか無かったんだ!」

冴子「まったく……久しぶりの爆破騒ぎかと思ったらこれだもの。
   まぁ、私に免じて大目に見てあげるから、もっこりの話は帳消しね」

リョウ「トホホ……」



リョウ「ん? ……ちょっと待て、冴子お前今何て言った?」

冴子「えっ? ちょっと、女にそんな事を何度も言わせ…」

リョウ「違う、その一つ前だ」

冴子「? ……久しぶりの爆破騒ぎ、って件?」


リョウ「ここ最近で、この伊織ちゃんを乗せようとした車の爆破事故が2件も起きてる」

リョウ「そのうちの1件は俺の車だが、今はそんな事はどうでもいい」

リョウ「その事について、お前は知らないのか?」


冴子「初めて聞いたわ。少なくとも、これまで私の耳には入ってきていないわね」

伊織「えっ……!?」

春香「そんな、私達にとっては大きな事件だったのに!」


冴子「事件が起きた時、外回り中の署員が近くにいれば、彼らが現場へ急行するの」

冴子「今回は、たまたま私が近くにいたから、こうして向かっているのだけれど……」

冴子「車の爆破事故があったという報告は、署内に回っていないはずよ」

香「どういう事? 冴子さんが情報を見落とすなんて事も考えられない」


伊織「メディアの報道と同じ、警察の内部で誰かが揉み消してるってこと……?」

リョウ「それもこれも、961グループの仕業って事か」

香「えっ?」

春香「961プロが、どうして?」

リョウ「スパゲッティ屋の近くで、海坊主に会った。961プロに雇われているらしい」

リョウ「さっきの爆破騒ぎだって、アイツが仕掛けた爆弾によるものだ」


香「海坊主ぅ!? 961プロって、今度フェスで対決するっていう、あの961プロ?」

伊織「誰よ、その海坊主って」

香「リョウと同じくらいの実力を持つ、凄腕の元傭兵よ」

春香「よ、傭兵……」ゴクリ…


冴子「961プロに雇われたスイーパーが水瀬伊織ちゃんを狙い、
   かつその騒ぎを961が警察や報道機関に圧力を掛けて隠蔽している、と」

冴子「961グループの社長……黒井祟男なら、それほどの力があってもおかしくは無いわね」

香「すると、目的は今度のフェスで765側のセンターを務める伊織ちゃんへの嫌がらせ?」

リョウ「アイツはそうじゃないと言っていたがな。
    つまらん嘘をつくヤツじゃないんだが、それ以外の理由が分からん」

春香「伊織だけを狙うっていうのも、良く分からないですね。
   フェスには伊織だけじゃなくて、他の皆も出るのに」

伊織「どっちにしろ、私を狙う輩がいるって事がハッキリしただけでも十分よ」

香「い、伊織ちゃん……」

伊織「その海坊主ってのが冴羽リョウの知り合いなら、向こうの手口も分かるんでしょ?
   見えない敵と戦うよりは、よっぽどマシだわ」

リョウ「なかなか良い事を言うな。アイツが相手だと、言うほど簡単ではないがね」

伊織「雇った以上はしっかり働いてもらうわよ。新堂、車の状態は?」

新堂「既にタイヤは交換致しました。
   ボディは多少傷が付いてしまいましたが、走行に支障はございません」フキフキ…

春香「頑丈過ぎませんか、車!?」


リョウ「やれやれ、本当に大したタマだぜ」

冴子「あの子、水瀬財閥の…?」

リョウ「そっ、お嬢様。
    家を見返すためにアイドルやってるそうだが、じゃじゃ馬も良いトコでもー大変」

香「もう十分立派なアイドルだと思うんだけど、そこで慢心しないってのが偉いわね~」


伊織「シャルル、ケガは無い? 怖い思いをさせてしまったわね」ギュッ…


リョウ「………………」

~レッスンスタジオ~

ガチャッ

真「あっ、春香、伊織! やっと来た!」


春香「皆、お疲れ様ー!」

やよい「春香さーん! 伊織ちゃんも、ケガしなくて良かったですー!」ダキッ!

伊織「や、やよい!? 皆、昼間の事もう知ってるの?」


律子「香さんから連絡をもらったのよ。
   大変だったそうだけど、香さん達のおかげで無事に済んだようで何よりだわ」

香「私は別に何もできなかったんだけどね、アハハ」


真美「おじちゃん! サイバーのおじちゃんだー!」タタタ

リョウ「だぁから俺はおじちゃんじゃないの!」

亜美「サイバーおじちゃん、もっこり!」

真美「もっこり!」

美希「もっこりなのー!」

貴音「冴羽殿、もっこり」キリッ

リョウ「うむ、よろしい。さっ、雪歩ちゃんもボクに挨拶してごらん?」

雪歩「あ、うっ……も、もっ、も……!」カァッ…


香「リョウー!! お前この子達に何を吹き込んだぁっ!!」ガァンッ!!

リョウ「あぎゃっ!!」

香「なぁにが挨拶だ! 本当にアンタはいつの間にこんな…!!」ガミガミ…!


響「それで、もっこりって一体何なんだろ?」

千早「きっと、ロクでもない言葉である事は間違い無さそうね」

あずさ「あら~、もっこりっていうのはぁ~…」

P「ストォーップ!! あずささん、それ以上はダメです!」



P「あー、オホン!
  とにかく、春香と伊織は、準備体操が終わったらすぐにグループ練に合流してくれ」

P「俺は他の皆の全体練を進めているから、
  律子も、大体17時頃を目処にこっちに合流してくれるか?」

律子「了解です、プロデューサー」

香「あれっ? 伊織ちゃん達だけ分かれて練習するの?」

律子「えぇ。今度のフェスはクインテット、つまり5人組みのユニットで挑みます」

律子「そして、961プロとのライブ対決に勝った際のアンコール用として、
   全員で披露するステージを練習中なんです」


テクテク…

リョウ「随分な自信だな。もしその対決に負けたら、当然アンコールも無いんだろう?」

律子「私達は勝ちます」

律子「確かに961プロのジュピターは強敵ですが、
   765プロアイドル全員でのステージは、私達皆の夢だったんです」

香「確かに、この間の感謝祭ライブの時は、竜宮小町が台風で遅れちゃったんだっけ」


グッ…

律子「だから……絶対に勝ちます」

リョウ「……そうか」


香「それで、その5人のユニットって、誰と誰?」

律子「あぁ、それなら……」ガチャッ

真・雪歩・亜美「お疲れ様でーす!」

律子「この3人と、春香、伊織の5人です」


香「ほほぉ~、なかなか個性的なメンバーを揃えたのねぇ」

真「個性的って、香さんも何だか失礼な事を言うなぁ」

亜美「大体、ウチに個性が無い人なんて、はるるん以外にいないっしょ→」

伊織「それもそうね。にひひっ♪」

春香「あ、亜美! 伊織も、ひどいなぁ皆して、もう!」プンスカ!

雪歩「は、春香ちゃん。まずは落ち着いて、お茶でも飲む?」


律子「さぁさぁ、無駄話はその辺にして、レッスン始めるわよ! 配置に着いて!」

一同「はぁーい!」


香「へぇー、レッスンってこんな雰囲気でやるんだぁ」

リョウ「うぅ、三浦あずさちゃんのもっこりバストが見たかった……」ジャラ…

香「言っとくけど、抜け駆けは許さないわよ」グイッ ジャラ

リョウ「グスン……」シュン…

~~♪  パン! パン! パン! パン!

律子「はい、1、2、3、4、5、6、7、8! 1、2、3、4、5……」パン! パン!

律子「ほぉら、ストップ!」パンパン!


律子「春香! 真達とすれ違う所を意識しすぎて雑になりすぎ!」

律子「雪歩もよ! 後半辛いのは分かるけどもっと指先まで神経使って!」

春香「はいっ!」

雪歩「はぁ、はぁ……うっ、はい……!」


律子「亜美は勝手に走りすぎ! もっと他の子達の動きを見ながら動きなさい!」

亜美「うえぇっ!?」ギクッ!


律子「真! Bパートの5拍目辺りから位置がズレてるわ、軸足に気を使って!」

真「うわぁ、まだ直ってなかったかぁ」ポリポリ…


律子「伊織は前に出すぎてる! あと振りが全体的に遅れ気味よ!」

伊織「お、遅れてないわよ!」

律子「遅れてるから言ってるの!」

伊織「ぐっ……!」

香「うひゃあ、き、キビシー……」

リョウ「香よりも怖い女がいるとは……」ゴクリ…

香「どういう意味よ」


律子「とにかくもう一回! 頭から通しで行くわよ!」

一同「うえぇぇ……!」

律子「返事はっ!?」

一同「はいっ!!」



~~♪

律子「1、2、3、4、5、6、7、8! 1、2……」パン! パン!



伊織(何よ、律子! 私のどこを見てるのかしら……!)イライラ…

伊織(振りが遅れてるですって? ちゃんと見なさいよ、遅れてないじゃない!)

伊織(5、6、7、8!)

タンッ タンッ!

伊織(それに、私が前に出すぎてるんじゃないわ。
   他の皆がステージを広く使えていないだけよ!)

伊織(5人でやるんだから、もっとダイナミックに動かなくちゃ盛り上がりに欠けるわ!)

伊織(水瀬家は常に帝王たれ……もっと、大きく……もっと前に!)

タンッ! タタン タンッ!


雪歩「わ、わわっ! い、伊織ちゃ…!」キュキュッ!

伊織「えっ」

雪歩「きゃっ……!!」グラァ…!

ドシンッ


律子「!! 雪歩っ!!」ダッ!

香「転んだわ!」

リョウ「おい、大丈夫か!?」



雪歩「あぅ、ぐ、うっ……!!」プルプル…

春香「雪歩、大丈夫!?」

真「ちょっと見せて……あ、足首が……!」

亜美「うあうあー、大変だよー! 兄ちゃーん!!」ダッ!

伊織「………………」



P「……そうか。伊織とぶつかりそうになった雪歩が、それを避けようとして……」

雪歩「プロデューサー……ごめんなさい……!」ポロポロ…

P「お前が謝る事じゃない。伊織も、皆一生懸命練習をしようとした結果、起こった事だ」

伊織「…………」プイッ


律子「それにしても、どうしましょう? プロデューサー」

律子「雪歩のケガは、フェスまでに治るかどうかは分かりませんし、
   仮に治るとしても、この状態ではどのみちレッスンはできません」

P「……そうだな」


P「美希、響、貴音」

響「ん、自分?」

貴音「お呼びでしょうか、プロデューサー」



P「今度のフェス、お前達に任せられるか?」


伊織「…………ッ!!」ガタッ!

美希「うん、いいよ」


P「今の俺達の中で、一番ステージの完成度を高めることができるのは、
  フェアリーのオーバーマスターだ」

P「クインテットライブよりも人数は減ってしまうが、
  お前達ならクインテットに負けないダイナミックなステージ作りができると思う」

響「おぉっ、自分達が春香達の代わりに出るのかぁ!
  ちょっと責任重大だなー、でもなんくるないさー!」

貴音「元より私達も、最高のステージを作り上げるために常に精進している身。
   いついかなる時でも、心の準備は出来ております」

律子「妥当な選択ですね。美希も、気を引き締めてレッスンしなさい」

美希「大丈夫なの。今度のライブのじゅーよーせーは、ミキも分かってるつもりだよ?」


P「皆も、それでいいか?」

春香「それは、こんな事になったらしょうがないですし……皆、いいよね?」

千早「客観的に見ても、美希達が出るのが一番だと思います」

やよい「みなさん、私、ばばばーんって応援しちゃいますー!」ピョン!

真美「真美達も負けないよーん!」ピョン!


伊織「ちょ、ちょっと待って!!」

P「ん……」

伊織「そ、それじゃあ竜宮小町で出るのはどうかしら!?」

伊織「ほらっ! 私達の方がそれなりにテレビに出ていて知名度もあるし、人気も…!」

あずさ「伊織ちゃん」

伊織「!」

あずさ「……その言い方は、美希ちゃん達に失礼よ?」

伊織「くっ……!」


美希「デコちゃん」

伊織「! 美希……」


美希「そんなに焦らなくても、大丈夫なの」

美希「ミキ達がちゃんと会場を盛り上げて、デコちゃん達のステージを作ってくるから」

美希「ミキ的には、デコちゃんにはもっとミキ達の事を信じてほしい、って思うな」ニコッ



伊織「そんなんじゃない!!」

美希「!?」ビクッ!

伊織「このライブには、私が出なきゃいけなかったの!!
   私が! 私が……もっとランクを上げるための、大事なライブだったのに!!」

伊織「こんな事で、足踏みなんてしていられないのよ!!」

春香「ちょ、ちょっと伊織! いくらなんでもそれはワガママじゃ…!」

伊織「良いわよね春香。
   あんたはいつだってお気楽な事を言っていればいい、おめでたいポジションで!」

春香「な、なっ……!?」


真「ちょっと待ってよ伊織! そんな言い方は無いだろ!」

伊織「何よ真っ! ただしゃんしゃんプリティでいたいだけのあんたに、
   この私の悔しさが分かるの!?」

真「そんな事言ったら、元々このライブに出れなかった他の皆だって悔しかったよ!!」

伊織「うるさいわねっ!! 大体雪歩がボーッとしてケガなんかするのが悪いのよ!!」

雪歩「ひっ……!」

真「伊織っ!!! 雪歩に謝れっ!!」

伊織「何でよ! 謝らないわよ!」

真「あれは伊織が自分のエリアを越えて動き回ってたのが悪いんじゃないか!!」

伊織「ステージを盛り上げるためよ!! 私は悪くないわ!!」


律子「伊織、そこまでにしなさい!」

伊織「律子……!!」キッ


律子「どうしたのよ、伊織。最近のあなた、何だか様子がおかしいわ」

伊織「……上を目指す事が、そんなにおかしい事?」

伊織「誰からも認められるトップアイドルになろうとする事が、おかしいっていうの!?」

律子「そのために、他の皆を顧みないのはおかしい事よ」

伊織「! ッ…………」


律子「あのね、伊織……あなたの事や、家の事情は、私達も良く理解しているつもりよ」

律子「ただ、そんなに簡単にトップアイドルなんてなれるものではないの。
   同じ事務所の12人全員をトップアイドルにするのは、なおさらそう」

律子「でも、それが私やプロデューサーの夢であり、目指すべき道」

律子「一度目指すと決めたなら、それを実現させるための最善策を常に講じていくわ」

律子「今度のライブは、あなただけのライブじゃない。
   皆が次の段階へと上っていくためのライブなの」

律子「時間はかかるでしょうけど、いつか必ずあなたもトップアイドルにするわ。
   だから、私とプロデューサーを信じて。お願い」



伊織「…………みんな、律子の監督不行き届きじゃない……」

律子「えっ……?」


伊織「この間の仕事だって、何で私が芸人達とおでんを食べなきゃならないのよ!!」

律子「!?」

亜美「あっ、この間の収録の罰ゲーム……」


伊織「あんな事やらされて、私のイメージはどうなるっていうの!?」

伊織「その前だってそう! アイドルらしい事は申し訳程度に収められて、
   後はただクイズのパネラー席に座ってやらせ回答したり、ひな壇に座るだけ!!」

伊織「このままじゃ、せいぜい飽きられないうちに汚れ役として使われて、
   時期が来れば自然消滅する三流タレントになるのがオチよ!」


伊織「私達を信じて、ですって? よくもそんな事が言えたわね!」

伊織「律子やプロデューサーがいなくたって、私はやっていけるわよ!!」

律子「!!」

伊織「いいえ、いない方がやっていけるわ!!
   もっとCDを出して、音楽番組にも売り込みをして! 実力はあるもの!」

伊織「さっきのレッスンだって!!
   私の事をちゃんと見ない、売り込む事ができないプロデューサーなんていらな…!」

パチンッ!!


伊織「…………ッ!?」

律子「! はぁ、はぁ、はぁ……」

香「り、律子さん……」

P「うわっ、つ…………痛そう……」



伊織「…………ッ!」ポロポロ…


やよい「伊織ちゃん……」グスッ…



律子「…………ごめんなさい」クルッ

香「あっ、ちょっと……」

カツッ カツッ  ガチャッ バタン



伊織「………………何よ」スッ

ツカツカ ガチャッ バタン!



春香「あ、あぁ……」オロオロ…

ザワザワ…


美希「ミキ、何か悪い事、言ったかな……」

貴音「貴女は何も心配は要りませんよ、美希」

響「でも伊織、自分達の知らない間に、相当ストレス溜めてたのかなぁ……」


真「雪歩は何も気にしなくていいからね」

雪歩「ううん、ごめんね。あの……伊織ちゃんも、すごくレッスン、本気だったもの」

雪歩「それについていけなかった、私が悪いの……」グスッ…

亜美「ううん、ヘーキヘーキ! いおりんもちょっとムヒのし所が悪かったんだYO!」

千早「亜美。それってたぶん、虫の居所じゃないかしら」

亜美「そうともゆう」

あずさ「でも、どうしましょう……このままじゃ、伊織ちゃんも律子さんもかわいそう」

真美「仲直りしないで、雰囲気サイアクのままレッスンしたくないよぅ、真美」


P「とりあえず、俺、伊織を見てきます」

リョウ「いや、アンタは律子君の所へ行ってあげた方が良い」

P「えっ?」

香「伊織ちゃん、プロデューサーさんに対しても強い口調で言っちゃったもの。
  今顔を合わせたら、きっと伊織ちゃんも余計に追い詰められちゃうわ」


香「というワケで、ここは女同士、アタシに任せて」

リョウ「頼んだぞ」

香「……えぇ!」タッ

タタタ…



P「すみません、こんな事で気を遣わせてしまって……」

リョウ「大変なのはおたくらだ。俺達に謝る事じゃないさ」

リョウ「とにかく、律子君の下へ急ごう」

P「はいっ」

~スタジオ外 非常階段~

伊織「ひっく、ひっく…………」

伊織「律子の、馬鹿……何よ…………もう、知らないから……」グスッ…



カンッ カンッ…

伊織「…………?」


香「おぉ、いたいた。こんな所にいたのね」

伊織「香…………」ゴシゴシ…


香「はい、オレンジジュース。ロビーの自販機で買ってきたけど、飲む?」スッ

伊織「いらない」

香「うぐっ……即答……」

伊織「ここの自販機には、果汁100%のオレンジジュースが無いもの」

香「よくご存知で。じゃあ、代わりにアタシが飲もうっと」プスッ


香「……うん、美味しい。なかなか捨てたモンじゃないわよ?」チューッ

伊織「………………」

香「傍から聞いてただけの身で悪いけど……」

香「さっきのやり取りは、伊織ちゃんに非があると思うわ」

香「ちゃんと、雪歩ちゃんや、律子さんに謝るべきだとアタシは思う」

伊織「………………」



香「なぁんてね」ニコッ

伊織「……?」


香「アレくらい言いたい事言ってやった方が、お互いせいせいするわよ」

香「もちろん、伊織ちゃんの言動って、すごく誤解を生みやすいし、
  今日みたいにケンカも起こしやすいけど、それはそれじゃない?」

香「アタシもつい言いたい事言っちゃって、よく兄貴に怒られたりしたんだー」

伊織「兄……?」

香「そっ。もう死んじゃったけどね」


香「でも、ケンカしたら仲直りすればいいわ」

香「リョウとだって同じようなやり取りするけど、ずっと一緒にやってきたし、
  ケンカの一度や二度した所で崩れてしまうような絆じゃないもの」

香「それは、765プロの皆だって同じでしょう?」

伊織「……皆に謝れ、って言わないの?」

香「謝った方が良いって伊織ちゃんが思うのなら、そうすると良いわ」

伊織「!」


香「アタシだけじゃなくて、むしろ皆の方がよく知ってるんじゃないかな」

香「今のような事をアタシに聞くくらい、伊織ちゃんは周りに気配りができる、
  とっても優しい子だって」

伊織「香……」


香「でもね……一つだけ、聞いても良い?」

香「何でそうまでして、伊織ちゃんはあのフェスにこだわったのかな」

伊織「………………」


香「もちろん、家を見返すためにトップアイドルになろうって気持ちは良く分かったわ」

香「でも、伊織ちゃんのような優しい子が、あそこまでなりふり構わなくなるのは、
  よほどの理由があるはずよね……?」



伊織「…………お父様と約束したの」

伊織「今度のフェス、必ず見に来る、って……」

香「お父さんと?」


伊織「お父様は、私がアイドルを目指すって言った時、何も反対しなかった」

伊織「それどころか、古い友人である高木社長に声を掛けて、
   765プロに入れてくれさえもしたわ」

伊織「最初は、私の事を応援してくれてるって思って、嬉しくなったの」


伊織「でも……そんなのじゃなかった」

伊織「順調にウチの財閥の関連会社を任されているお兄様達と違って、
   私は、会社の経営学とか、帝王学といった教育は何も受けさせてもらえなかった」

伊織「お父様から、何も期待されていなかったの」

伊織「だから、私が何をしようと見向きもしない……
   好き勝手させてきたのだって、厄介者な私を大人しくさせるため」

伊織「アイドルをさせてくれたのだって、やっと認めてくれた、って思ったのに……
   結局、娘を黙らせる新しい玩具ができた程度にしか思っていなかったのよ」

香「そ、そんな……」



伊織「そのお父様に、自分を認めてもらえる初めてのチャンス……
   私は、床に頭を擦り付けてお父様にお願いしたわ」

伊織「チケットを渡すから、どうか今度のフェスを見に来てください、って」

伊織「だから…………」ジワ…

香「……ふぅん、そっかぁ」

香「親に認めてもらえるチャンスだから、ね……」

伊織「あんたには分からないでしょうね……常に優秀な兄達と比べられる私の苦しみは」


香「そうね……正直、分からないわ」

香「何せ、親がいなかったもの、アタシ」

伊織「!? えっ……」

香「血の繋がっていない兄貴一人しかいなかったから、親ってどんなカンジなのかって、
  良く分かんないな」

伊織「ち、血の繋がりが無い……?」


香「リョウのパートナーってね……元々、アタシの兄貴がやっていたの」

香「でも、ある時、兄貴が悪いヤツらに殺されて……」

伊織「!!」

香「それからは、アタシがやってるんだ。パートナー」


香「リョウは、何も言ってくれないけれど……アタシも、すごく悩む事があるの」

香「アタシは、パートナーとしてリョウに必要とされてないんじゃないか、って……
  兄貴と違って、足手まといになってるんじゃないかって」

香「だから、少しでも認めてもらおうと、アタシなりに努力してみたりするのよ」

香「ほら、961プロに雇われてるっていう、海坊主ってスイーパー。
  あの人に、トラップの仕掛け方を伝授してもらったりね」

伊織「はぁっ!?」

香「それに、曲がりなりにも危険を潜り抜けてきたおかげで、
  自分の身くらいは多少なり守れるようにはなってきたわ」

香「銃の扱いは、まだまだだけどね」

香「さっきだって、リョウから「頼んだぞ」なんて言われちゃって、
  ちょっぴり嬉しかったりして。えへへ」


香「でも……最近になって思うの」

香「認めてもらおうと思う気持ちなんて、結局はアタシの自己満足で、
  何もリョウのためにならない事なのかな、ってさ」

伊織「! 冴羽リョウの、ために……」

香「まっ、自分のため=リョウのためになるんだ、って割り切る時もあるんだけどね」


香「だから……アタシは、正直伊織ちゃんの苦しみは、理解できないんだと思う」

香「でも、その……上手く言えないんだけどさ」

香「今の自分の行動が、一体誰のためになるんだろうって……
  時々でいいから、振り返ってみるのはどうかな?」

伊織「自分の行動が、誰のためになるか……」

香「もちろん、お父さんに認めてもらう事は、何より自分のためで、
  それ以外に無いのかも知れないけど……」

香「もし、皆に謝らなくちゃ、って思ってるんだとしたら……」

香「さっきの言動は、本当に伊織ちゃんがやりたい事だったのかな……
  誰かのために、なる事だったのかな……?」



伊織「………………」


伊織「私…………皆に謝ってくるわ」スクッ


香「ふふっ、そう言うと思った」ニコッ

伊織「えっ……?」

香「実は、ここの自販機に果汁100%のオレンジジュースが無い事は、知ってたの」

香「さっき、そこの二人に教えられてね。隣のコンビニまで買ってくるって」スッ

伊織「…………!?」クルッ



雪歩「伊織ちゃん……さっきは、ごめんね」スッ

真「雪歩は休んでて、って言ったのに、一緒に行くって聞かないんだもん。
  まいったよ、もう」

伊織「雪歩…………真……!」


雪歩「伊織ちゃん、ごめんね……
   そんなに、伊織ちゃんにとって大事なライブだったのに、私……!」ジワァ…

伊織「ちょ、ちょっと止めなさいよ!
   先に謝られたら、こっちだって謝れないじゃない!」

真「謝りたくて怒るなんて、伊織らしいよ。へへっ」

伊織「真っ! 茶化すのは止めなさい!」


伊織「もう……とにかく、私が悪かったわ。
   ケガをさせた事も、フェスに出れなくなってキツく言っちゃった事も、全部ね」

伊織「何より、事情を皆に話しておくべきだったって……ごめんなさい」


雪歩「…………伊織ちゃん」

雪歩「中に、入ろっか。皆の所に、帰ろう?」

伊織「……えぇ、いい加減そろそろ寒くなってきたしね」

香「実は、この寒空でオレンジジュース飲むの、結構しんどかったりして……」カタカタ…

真「何でそんなやせ我慢してたんですか」

~屋上~

P「ほら律子、コーヒー」スッ

律子「ありがとうございます……」

リョウ「おほ~、あったかい」ズズ…


律子「自分のアイドルに手を上げるなんて……プロデューサー失格ですね」

P「あの状況では仕方ない。そう悲観的になるなって」

律子「でも……!」

リョウ「人間、誰だってカッとなる事くらいある。
    伊織ちゃんだって、いつまでもこの程度の諍いを引きずるような子じゃないさ」

律子「……確かに、分別はできるしっかりした子です」


律子「でも……だから、驚いてしまったんです」

律子「まさかあの子の口から、あんな言葉が出てくるだなんて……
   ワガママではあるけれど、場の空気を乱すような事まではしないし、言わなかった」

律子「それで、信じられないって思って……頭に、血が上ってしまって……」

P「あぁ、気持ちは分かるよ」

リョウ「しかし、君みたいに生真面目な子の方こそ、
    頭に血が上った経験は少ないんじゃないのか?」

律子「えっ?」


リョウ「仕事に私情を持ち出さない人間は、
    合理的な結論を導く事を常に優先するあまり、ただ一つの手段に固執する」

リョウ「そういう人間は、理屈では考えられない、想定外の事態に弱いんだ。
    理屈でしか考えられない人間なのだから、当然だな」

リョウ「きっと君は優秀で、理詰めで大抵の物事をこなしてきただろうから、
    なおのことそういう経験は少ないんだろう。違うかい?」

律子「……私が優秀かどうかはともかく、想定外の事に弱いのは確かですね」


リョウ「そんな君に、とっておきの治療法がある」

律子「えっ、治療法?」

リョウ「あぁ」



リョウ「恋の手ほどきさ」ニコッ

律子「…………は?」


ワキワキワキワキ…

律子「!? う、うわ……!」ビクッ!

リョウ「にっひっひっひ、このピッチピチのスーツに隠し切れないもっこりヒップ!
    そしてくびれ! バスト!」

リョウ「昔はアイドルやってたんだってね~りっちゃん? ヌフフ!」ワキワキ…

リョウ「おい、プロデューサーさん。
    これから起こる事については、くれぐれも他言してくれるな。男の約束だ」キリッ


P「えっ、あの……後ろ、危ないかも……」

リョウ「なーっはっはっはっはっ!!
    邪魔者がいないこの場だったらいくらでもこのボクちんもっこりでき…!」

ドガアァァァンッ!!! 【100t】


リョウ「あ、アヘヘ……りっちゃん何でそんな物騒なもの持ってるの?」ピクピク…

律子「香さんから借りたんです」フンス!

リョウ「あっ、そう。へぇ~~……アイツめぇ……」バタン…

律子「ふぅ……でも、何だかスッキリしたかも!」

P「そ、そうか。それは良かったな」

律子「えぇ」

リョウ「そう。それがもっこり治療法の真の狙いだったのだ」ウンウン

律子「は、早いですね、起きるの……」


リョウ「さぁ、そろそろ戻ろう」クルッ

リョウ「まずは一度、伊織ちゃんとしっかり話をしてみる事だ。
    彼女の方も、今頃は香が上手くやって、気持ちを落ち着けているところさ」

リョウ「お互いにわだかまりがあると、影響があるのは今回のフェスだけじゃないだろう?
    竜宮小町とそのプロデューサーとして、これからも一緒にやっていくんだし」



律子「………………」

リョウ「…………?」ピタッ


P「あ、あの……冴羽さん」



律子「……頭に血が上ったのは、伊織から言われた内容も、あったんです」

律子「今日、皆に話そうと思っていました……」

~レッスンスタジオ~

ガヤガヤ…

やよい「えー! 伊織ちゃんのお父さん、そうだったんだー!」

千早「水瀬さんの事だから、何か理由があるんだって思っていたけれど……」


伊織「皆、ごめんなさい」ペコリ

伊織「何も皆に説明もしないで、一方的にひどい事を言ってしまったわ。
   今では、本当に反省してる」

春香「ううん、いいのいいの!
   私達、ちょっとビックリしただけだもん。ねっ、皆?」

美希「うんうん! デコちゃんにしては、おゲヒンかなって」

伊織「なっ、お下品って……まぁ、言われても仕方が無いわね」


伊織「ってちょっと待ちなさい! デコちゃん言うな!!」

亜美「ツッコミ遅いよ→ん、いおり~ん」ツンツン

真美「765プロきってのツッコミ役がそれでど→すんのさ、いおり~ん」プニプニ

伊織「うるさいわねっ! 好きでツッコミ役を請け負ってるんじゃないわよ!」

あずさ「あら~、それじゃあこれからはお小遣いあげた方が良いかしら~」

伊織「いらないわよっ!! まずそういう無駄なツッコミさせないで!!」

響「あははは! 良かった、すっかりいつもの伊織さー」

伊織「よくよく考えたら、この伊織ちゃんが焦る必要なんて無いのよね。
   お父様にライブを招待する機会なんて、私にならいくらでも作れるんだから」

貴音「ふふっ、その意気ですよ、伊織」ニコッ


雪歩「伊織ちゃん、皆と仲直りできて良かったですぅ」ホッ

真「まったく……伊織には本当に世話が焼けるよ」ポリポリ

香「とか言いながら真ちゃん、率先してオレンジジュース買いに行ってくれたじゃない?」

真「えっ!?」

香「ふふっ。案外、真ちゃんも流行りの“ツンデレ”だったりしてね」ニコッ

真「なっ、ぼ、ボクは違いますよ! ていうか流行ってません!」

雪歩「えへへ」ニコニコ



ガチャッ

亜美「あっ! サイバーおじちゃんと兄ちゃん、りっちゃん!」

リョウ「よーう皆! もっこりしてたかい?」

美希「もっこりしてたのー!」

春香「し、してないよっ!」

香「リョウ~!!」ドタドタ…

リョウ「どひぇえ~~っ!!」ドタドタ…



コツ…

律子「…………伊織」

伊織「律子…………あ、あの……」モジモジ…


伊織「ご……ごめんなさい!」

伊織「私、本当に、ひどい事を言ったわ。
   自分でも信じられないくらい……いらないだなんて……」

律子「…………」フルフル


伊織「許してくれなくたっていい。でも、謝らせて」

伊織「本当に……ごめんなさい」ペコリ

律子「謝らなきゃいけないのは、私の方よ」

伊織「えっ……?」

律子「手を上げた事ももちろんだけど、ちょっとね……これから話すわ」


律子「……プロデューサー」

P「あぁ……ちょっと皆、一旦集まってくれるか?」

一同「?」ザワザワ…


香「ん、何が始まるの?」ギュウ-!!

リョウ「いだだだだだっ!! 折れ、折れるっ!!!」パンパン!



律子「皆に、言わなきゃいけない事があるの」

律子「本当は、もっと早く言うべきだったのかも知れないけれど……」


律子「私は、今度のフェスが終わったら……」



律子「研修のために、ハリウッドへ行く事になっているわ」

律子「皆とは……次のフェスが、ひとまず最後の仕事になると思う」

春香「えっ!?」

一同「ええぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」

P「………………」



律子「私と社長、プロデューサーで話し合って決めたの」

律子「今の765プロが……皆がこれからも成長していくために、何が必要なのか」

律子「もちろん、国内で得られる知識を全て習得したなんて驕りは全く無いわ」

律子「でも、海外での娯楽の在り方を学ぶ事で、皆のためになる事がきっとあるって」

伊織(! 私達の、ため……?)ピクッ

律子「そう思ったの。だから……」


律子「心配しないで。何も今生の別れになる訳じゃないわ。
   しばらくしたら、ちゃんと戻ってくるわよ」

律子「でも……これまで皆と一緒に活動できて、本当に良かった」

律子「765プロのプロデューサーを務めてこれた事は、私の誇りよ」

亜美「り、りっちゃん……!」グスッ…

律子「ほぉら、泣かないの亜美。
   今言ったばかりでしょ? ちゃんと戻ってくるって」ナデナデ

真美「一週間くらいで戻って来てくれる?」

律子「そ、それは無理だけど……」


やよい「律子さんがいてくれないと、事務所の冷蔵庫の管理が大変ですー!」

あずさ「お、お住まいはどちらですか? 年賀状、書き直さないと……」

美希「律子、さんだけが行くなんてズルイの! ミキも行きたいー!」

千早「海外は危ない所だから、美希はもっと自衛をすべきだわ」

響「うぎゃーっ! また自分の事務仕事が増えちゃうよー!」ワシャワシャ!

「やいのやいの!!」


律子「あーもううるさーーいっ!!!」ドカーン!

律子「とーにーかーく! 私の最後の仕事くらい、しっかりキメてもらわなきゃ困るの。
   ほら、全体練始めるわよ! 分かったらさっさと配置に着く!」

一同「はぁい……」

律子「だらしない! もう一回!!」

一同「はいっ!!」

伊織「………………」

伊織(ハリウッドに、律子が……私達のために……)

伊織(それが、律子が選択した行動、ってわけ……)


律子「伊織」

伊織「!?」ドキッ!


律子「あっちでの生活って、正直どうしたら良いのか何も分からないの。
   英語も、学生時代からあまり得意ではなかったし」

律子「今度、色々と教えてくれる?
   買い物の仕方とか、免許の取り方。後はそうね、防犯対策とか」


伊織「……いいわよ。この伊織ちゃんなら、海外での生活はお手の物だもん」ファサッ

律子「ありがとう」ニコッ

律子「ほぉらー! それじゃあ始めるわよー!!」



香「律子さん……そうだったんだ」

リョウ「………………」

テクテク…

雪歩「律子さんが、そんな遠くに行っちゃうなんて……」

真「色々と言い合った事もあったけど、いざってなると寂しくなるなぁ……」

春香「うん……」


伊織「ふんっ! いつまでもウジウジ情けないわね」

伊織「決まった事に悩んだって仕方ないじゃない」

亜美「いおりんは、寂しくないの?」

伊織「……寂しいわけないでしょ」

真美「またまたぁ。さっきいおりん、りっちゃんに謝ってたクセに」


伊織「そりゃあ、律子がいなくなれば、これまでの仕事の仕方もガラッと変わるわ」

伊織「でもそれは、逆に言えばチャンスなのよ」

貴音「ちゃんす?」

伊織「そう。自分で色々とやらなくちゃいけない事が増える分、
   自分で自由に行動できる幅が広がるって事」

伊織「自分の魅力を、実力を、違う形でもっと世間に知らしめるチャンスが来たって、
   そう思わない?」

響「ま、前向きだなぁ伊織は」

伊織「そうじゃないとアイドルなんてやってられないわよ」

亜美・真美「いおりんの仕事のリュウギですな」「プロヘッソナルですな」


伊織「とにかく! 律子の言うとおり、本番までしっかり仕上げていくわよ!」

伊織「美希達の方こそ、私達の代役でステージに上がる以上、
   覚悟は出来てるんでしょうね!?」

美希「んー、ミキ的には、やっぱりデコちゃんは焦りすぎだって思うな。あふぅ」

伊織「あんたはもう少し危機感持ちなさいよ!!」キィーッ!

伊織「まったく……ほら、そこのボディーガード!
   家までしっかり護衛しなさいよね!」

リョウ「おう、がってんしょうち~」フリフリ

伊織「あんたもそのニヤケ面止めなさいよ!! もう、新堂、出して!」ガチャッ

バタン! ブロロロロロ…


やよい「伊織ちゃん……すごく、ガマンしてました」

あずさ「あんなに大声を出して……寂しさを紛らわそうと……」


リョウ「……やれやれ、いつまでも素直じゃないな」

~765プロ事務所~

プルルルルル…♪


プルルルルル…♪



高木「…………私だ」


高木「今回もまた、キミの雇い人が派手にやらかしたそうじゃないか」

高木「あまり危ない事をされては、私としても気が気では無いのだがね」


高木「……フフフ、それは心外だよ」

高木「何もあそこまでやれとお願いしたつもりは無い」

高木「それに……彼の動向を把握できなくなるほどに、彼女の周囲を混乱させるのは、
   あまり好ましい事では無いんじゃあないかな」


高木「良いだろう。フェス当日までしっかり仕事をしてもらう約束だ」

高木「それまでは、キミの手腕を信じる事にするよ」


高木「……フッ。上から目線で話してなどいないさ」

高木「頼んだぞ」

夕食と風呂のため、21時頃まで席を外します。
あと半分弱ほどあり、0時頃までに終わる事ができればと思います。

………………………

………………


――水瀬家は常に帝王たれ。

――何事にも、いついかなる時も、他者より先へ、前へ踏み出さねばならない。


「お父様……」

「それなら、なぜお父様は、私に学を授けてくれなかったの?」

「どうして、私に期待を向けてくれないの?」


「私がアイドルになりたいと言ったのは、お父様に私の事を見てもらいたかったから」

「もっと、お父様に認めてほしい……誰のためでもない、私のためよ」

「お父様が、私にアイドルをさせたのは……やっぱり、自分のため?」

「うっとおしい私を黙らせて、遠ざけるための……」



――どうしてもその答えを知りたいのなら、シャルルに聞きなさい。

――いずれにせよ、今日のライブが終わる頃には、お前にも自分の気持ちが分かるだろう。


「え…………?」

チュンチュン… ピヨッ


伊織「………………」


伊織(……自分の気持ち…………シャルル?)



カチャカチャ…

伊織「………………」

新堂「伊織お嬢様、いかがなされましたか? ご気分が優れないようですが」


伊織「……ねぇ、新堂」

新堂「何でございましょう」


伊織「シャルルの、ここの耳の付け根……少しほつれてるみたい。縫い直してくれる?」

新堂「かしこまりました。すぐに係りの者に補修をさせましょう」

伊織「あと、お父様は……」

新堂「他社との会議があるからと、早くにお出になられておりますが」


伊織「…………そう」

~フェス当日、会場の公園~

ワイワイ…  ガヤガヤ…


リョウ「ほほ~。これはまた大入りだなぁー」キョロキョロ

香「ホントね~。リハーサルの時は全然ガラガラだったのに」キョロキョロ



P「こっちのステージに765プロ……
  それで、向こうの小さい公園を挟んで見えるアレが、961プロのステージです」

律子「私達の出番は、あと約1時間後ですね。
   それまでは、あっちのテントでアイドル達は待機することになります」


春香「雪歩の足、治って良かったね!」

雪歩「うん! 心配かけてごめんね」

響「一時はどうなる事かと思ったぞ! これで皆で踊れるな!」

やよい「でも、その前に961プロのジュピターさん達に勝たなきゃいけないかなーって…」

美希「やよい、心配ゴムヨウなの! ミキ達に任せて!」

伊織「コケたらどうなるか分かってるんでしょうねぇ? にひひっ♪」

貴音「ふふっ。そのような恐ろしい脅迫を受けてしまっては、勝たざるを得ませんね」ニコッ

香「……ねぇ、リョウ」

リョウ「ん?」

香「このイベントに乗じて、向こうは……海坊主は、何かを仕掛けてくるはずよね?」

リョウ「まぁ、アイツの柄では無いが、大勢の観客に紛れて襲いに来る可能性はあるな」

リョウ「もっとも、あんな図体の大男、ここにいるだけで目立ってしょうがないだろうが」

香「そりゃそうだ」


リョウ「俺が気にしているのは、むしろ海坊主以外の敵だ」

香「えっ? う、海坊主以外の敵?」

リョウ「香。お前、この間俺と別れた後、二人組みの男に襲われたんだったな」

香「えぇ。あの時は、冴子さんに助けてもらって……」

リョウ「そいつらは、961プロとは無関係だと、冴子の取調べには応じているそうだが……」

香「ウソに決まってるわよ、そんなの! どーせそう言うように命令されてるんでしょ」


リョウ「ウソじゃないとしたら?」

香「! そ、そりゃあ……えっと……」

香「それはそれで、何か気持ち悪いわね……」

リョウ「俺達が気をつけなければならないのは、海坊主を含め、
    敵の狙いが未だに分かっていないって事だ」

リョウ「念のため、冴子にもこの会場の張り込みを頼んではいるが、気を抜くなよ」

香「わ、分かってるわよそれくらい」


あずさ「あ、あのぅ、律子さん。この衣装、少しサイズがキツくて……」

律子「おっかしいなー、チェックしたサイズで注文したはずなのに……
   ひょっとして、また大きくなりました?」

あずさ「そ、そんな! 甘いものは控えてきたつもりです!」

律子「そういう意味じゃなくてですね……あぁ、テントから出ないで!」


リョウ「うわはぁっ!! あずさちゃん、ボクが手伝ってあげちゃう!!」ピョンッ!

香「ふんっ!!」グイッ ビシィッ!!

リョウ「おごふっ!?」ドテッ!


リョウ「く、首……お前、俺を殺す気か……」

香「気を抜くなって10秒前に言ってたのはどこのどいつだ」

テクテク…

高木「やぁ。皆、調子はどうかね?」

春香「あっ、社長!」

一同「こんにちはー!!」

高木「ハハハ、元気そうで何よりだ」


律子「お疲れ様です、社長。何とか無事に、この日を迎える事ができました」

高木「うむ、ご苦労だったね。
   冴羽さん達も、皆の事を守ってくださり、ありがとうございました」ペコリ

香「いえいえ、そんな」

リョウ「社長さん、お言葉だが、まだ目的は達成されてはいない。
    海坊主とのケリを付けるまでが、俺の仕事だと思っている」

高木「うむ……そうでしたな」


ヴィー!… ヴィー!…

P「ん? 携帯が……事務所から?」ピッ!

P「もしもし、音無さんですか? ……」



P「何ですって!? きょ、脅迫電話っ!?」

一同「!?」ザワッ…

P「そ、それで、内容は……うん……」

P「な、765プロの、水瀬伊織…………じゃない、誰ですか!?」

P「!! み、水瀬財閥の……当主の身柄を引き渡せ!?」

伊織「!!?」ガタッ!


P「な、何でそんな電話がウチに!? ……えっ、今日のライブに!?」

P「そんな事を……あ、後は現金を、ご、5億円……それで電話は切れたんですか!?」

P「お、落ち着いてください音無さん! 大丈夫です、今のところ皆無事で……えっ?」

P「私も冴羽さんと一緒に行きたかったピヨ? 何を言ってんですかこんな時に!!」

P「ご、ごめんなさい。とにかく! 俺達は会場を警戒しておきますから!
  何かあったらすぐに連絡ください!」

P「い、一旦切りますね!? すみません、失礼します!」

ピッ!


P「…………社長、これは……!」

高木「ウム……
   つまり犯人は、金目当てで水瀬家の長女である水瀬伊織君を狙っていた、と」

伊織「そ、そんなのおかしいわよ! だってお父様は私の事を少しも…!」

リョウ「仮にそれが本当だとしても、誰もがそれを知っているとは限らないだろ」

伊織「でも……!」


律子「ただ、伊織のお父さんが見に来るという情報まで得ておきながら、
   伊織の家の家庭環境は把握していないというのも、変な気がします」

リョウ「伊織ちゃんが、水瀬財閥を脅すに当たって本当に狙うに値しない存在なら、
    財閥当主の動向を把握する時点で分かってもおかしくないはずだが……」


香「そんな事を議論してる場合!? 伊織ちゃんのお父さんが狙われてるのよ!?」

P「そ、そうだった! えぇと、ど、どうすれば……!」


リョウ「俺と香は、怪しいヤツらがいないかどうか、会場をくまなく見回って来る」

リョウ「プロデューサーさんは、伊織ちゃんのお父さんを探して、確保しておいてくれ。
    律子君は、ここでアイドルの皆の事を頼む」

律子「わ、分かりました!」

P「うぅ……こ、こんな事になるとはぁ……!」オロオロ…

香「情けない事言わないで! アンタが動揺したらアイドルの子達も不安がるわ!」

P「はっ! そ、そうですね。
  い、いぃ伊織。だだ大丈夫だ、お前のお、お父さんはおお俺がちゃんと…」ガタガタ…

伊織「しっかりしなさいよ、馬鹿プロデューサー!!」

春香「うぅ、ぷ、プロデューサーさん……」

千早「とうとう、恐れていた事態が起こったわね……」

リョウ「しかし、予測はしていた。慌てる事は無い、俺達がついてるさ」ニコッ

真美「そ、そうだよ皆! 真美達には、このもっこりサイバーおじちゃんがいるじゃん!」

リョウ「おじちゃんじゃなぁいっ!」くわっ!


美希「ミキは、最初から何にも心配してないよ? もっこりのおじさん、頑張ってなの!」

響「余裕があったら、自分達のステージも見ててほしいけど……
  でも、伊織のお父さんと、あと皆の事を頼んだぞ、冴羽リョウさん!」

貴音「冴羽殿、もっこりです」キリッ

雪歩「し、四条さん、真顔で言う事じゃないですぅ……!」カァッ…

真「香さんも、くれぐれも気をつけてください!
  悪いヤツらがいたら、ボクもガーンって駆けつけますから!」

香「それには及ばないわ、でもありがとね!」

亜美「もっこり! やよいっちもほら、魔法の合言葉だYO!」ピョン!

やよい「うっうー! 冴羽さん、もっこりしましょー!」ピョン!

リョウ「悪いな。俺は君達よりも、三浦あずさ君ともっこりがしたいんだ」キリッ

あずさ「あ、あら~……」

香「いい加減にしろっ!!」スカァンッ!!!

リョウ「あいでぇっ!!」


香「とにかく行って来るわね! ほらリョウ、ボサッとするな!」

リョウ「ぢぐじょお~……あずさちゃん、俺のもっこり預けたぞぉ~」

タタタ…



高木「やれやれ、こんな時に……まぁ、あの余裕は頼もしいとも言えるかな」

P「そ、それじゃあ俺も行ってきます!」タッ

高木「あぁ……頼んだよ」

タタタ…

高木「………………」

律子「……社長、どうされたんですか?」

高木「ん? あぁ、いや何……」

高木「水瀬君のお父さんとは旧知の間柄だが、こんな事になったのは初めてなものでね。
   さすがに動揺を隠し切れんよ、ハハハ」

律子「笑ってる場合ですか!」


伊織「わ、私新堂に状況を伝えてくるわ!」ダッ!

律子「あっ、ちょっと待ちなさい伊織!!」

タタタ…


律子「あぁもう、今はあの子が一番危ないってのに……!」ソワソワ…

高木「………………」

タタタ…

新堂「……? おや、伊織お嬢様」フキフキ…


伊織「新堂っ!! はぁ、はぁ、はぁ……」

新堂「いかがなされましたか、お嬢様。そのように息を切らすまで走られては……」

伊織「わ、私の事はいいから! はぁ、はぁ、お、お父様が……!!」

新堂「お嬢様、まずは落ち着いてください。
   今、オレンジジュースをお出し致しましょう」スッ

ヒラッ…

伊織「だ、だから私の事なんていい、って……?」



伊織「新堂? 何かポケットから落としたわよ?」スッ

新堂「ムッ?」


伊織「!! こ、これは……これって!」

伊織(今日のフェスのチケット……席の番号も、お父様に渡したのと同じものだわ!!)


新堂「おぉ、これは大変な失礼を。申し訳ございま…」


伊織「何でアンタがこれを持ってるのよ!!」

新堂「ご主人様が、私にくださったのです」

新堂「私には必要の無いものだ、とおっしゃっておられました」

伊織「…………!!!」

伊織「ひ、必要の、無い……!?」


伊織(わ、私が、フェスに出られなくなったから……?)

伊織(いいえ、それでもアンコールのオールスターズで出るもの!)

伊織(な、そんな……どうして……約束したのに!!)


新堂「お嬢様? ……申し訳ございません、何かお嬢様は…」

伊織「いいえ……いいわ、新堂。もういい」スッ

新堂「はっ?」


伊織「お父様は会議だから、ここに来ていない。襲われる心配も無い……それで十分よ」

伊織「そうよね、シャルル……」ギュッ…

トボトボ…



新堂「フ~ム……この新堂、どうやら要らぬ勘違いをさせてしまったようですな」

トボトボ…

伊織「………………」



ガサッ…


海坊主「………………」

海坊主(一人でほっつき歩くとは、無用心な……)

海坊主(リョウのヤツは何をしている……まぁいい)


海坊主(行くか)ザッ


スカッ

海坊主「……? む、むおぉっ!?」ドキッ!

海坊主「な、何だこの穴は!?」



雪歩「うんしょ、うんしょ……」ザックザック…


雪歩「これくらい掘れば、良いかな……
   わ、悪い人達を穴に落とす作戦だ、って冴羽さんが言ってたみたいだけど……」

雪歩「私、ダメダメだから、ちゃんと皆の役に立たなくちゃ……」ザックザック…

海坊主「…………お、女!?」

雪歩「!? ひぃぃっ!! お、男の人ぉっ!?」ビクッ!


海坊主「そ、そんな所で何をしている!」

雪歩「ひぃぃんっ!! こ、怖いですぅ~!!」ザクザクザクザク!

海坊主「それ以上掘るんじゃない! 出て来られなくなるぞ!」


海坊主「あぁ、くそっ、標的が遠く……もういい、勝手にするんだな!」プイッ

のっしのっし…



<ひぃ~ん!! い、犬ぅ~!!

海坊主「!?」クルッ



犬「ワンッ! ワンワンッ!」

男の子「わぁ、何か穴の中に女の人がいるぞ! 面白いなぁタロウ、あはは!」

雪歩「ひぃ~~っ!! お願いだから近づけないでぇ!!」

のっしのっし…

男の子「あははははっ!! タロウにビビッてら、おっかしぃー…」

男の子「……?」クルッ


ズウゥゥゥゥゥゥン…

海坊主「………………」ゴゴゴゴ…


男の子・犬「!!?」

男の子「ひ、びええぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

犬「キャン、キャインッ!!」ダッ!

スタコラサッサー…



雪歩「ひぃぃぃぃぃぃっ……!!」ガタガタガタ…

スッ…

雪歩「…………ふぇ?」

海坊主「手を貸せ」

雪歩「あ……うぅ……」

ガシッ グイィッ!

雪歩「きゃっ……!」

ストンッ

雪歩「ととっ……あっ……」


海坊主「………………」

雪歩「あの…………あ、ありがとうございましたぁ」ペコリ

海坊主「俺が通っていなかったら、どうなっていたか……
    自分で出られないほどの穴を掘る上に、犬一匹追い払えんとはな。ふんっ」

雪歩「あうぅ……ご、ごめんなさい」シュン…



トコトコ…

海坊主「?」


子猫「ニャア~」

海坊主「!!?」ビクッ!

子猫達「ニャアン」「ニャアニャア~♪」

海坊主「ね、ねこぉっ!!?」

雪歩「?」

子猫達「ニャア~♪」「ニャ~ン♪」スリスリ

海坊主「や、やめろ!! あぁあっちへ行け、ひぃぃっ!!!」ガクガク…


雪歩「あのぅ……どうしたんですか?」

海坊主「どうしたんですか、じゃあない!! は、早くコイツらを何とかせんかぁ!!」

雪歩「何とかって言われてもぉ……」

海坊主「ひえぇぇぇっ!!!」ガクガク…



冴子「………………」ジィーッ…


冴子「……コレでいいの? リョウ」ジィーッ…

『だぁーっはっはっはっはっはっはっはっ!!!』


冴子「もう。ようやくスマホに変えたと思ったら、こんなくだらない事ばっかり」

~会場周辺~

リョウ「ぎゃあ~っはっはっはっはっはっはっ!!!
    あひ、あひっ、ひっ!! なーっはっはっはっはっは!!!」ゴロゴロ…!


香「テレビ電話の使い方間違ってんじゃないの?」

リョウ「ひ、「ひえぇぇぇっ!!!」だって!!
    もう最高、ボクちんガマンできないい、いひ、いひっ!!!」バンバン!


リョウ「スマートホンってのは良いモンだなぁ。
    便利な上にもっこりな画像も検索し放題! うふ、うふふふ!」

香「スマート“フォン”よ、フォン! まったく、冴子さんに何をお願いしてんのよ」

リョウ「まぁ良いじゃないか。こうして海坊主を簡単に無力化できた事だし」

香「だからと言って、冴子さんや雪歩ちゃんまでダシに使わなくたって良いじゃない!」


リョウ「勘違いするな、香。
    俺は冴子に、海坊主がいたら猫を差し向けて動画を撮れ、って言っただけだ」

香「えっ? じゃ、じゃあ雪歩ちゃんは何でテントを離れてそこに……」

『雪歩ちゃんは、どうやら誰かに言われてここに来た様子だったわよ』



リョウ「……冴子!! 雪歩ちゃんが危ないっ!!」

冴子「えっ!?」


ザッ… グアァッ!

冴子「……ハッ!?」

ブンッ!!

冴子「ッ!!」サッ


謎の男「ちっ、惜しい」

冴子「……海坊主の仲間、って訳じゃなさそうね」



雪歩「えへへ、かわいい」ナデナデ

子猫「ミィミィ♪」

海坊主「貴様ぁっ!! さっさとしろ、してくれぇ!!!」ガタガタ…


ガサガサ…



冴子「!! 危ないっ!!」ダッ!

謎の男「おぉっと、待ちな。そっちには行かせねぇよ」ザッ

冴子「くっ……!」

雪歩「よしよし……?」

ザッ


謎の男達「へっへっへっへ……」ニヤニヤ…

雪歩「!? あ、あわわわ……」ガタガタ…

海坊主「!? な、何だ貴様らは!」


謎の男A「こっちへ来なぁっ!!」グイッ!

雪歩「きゃあああぁぁっ!!」


謎の男B「おい、コイツはどうする?」

謎の男C「ファルコン……凄腕の傭兵とかいうヤツか。今のうちに痛めつけておくか?」

海坊主「ぐっ……!!」

謎の男D「止めておけ。無駄な事はするな、ってボスが言ってただろ」

謎の男E「それもそうだな。じゃあなおっさん」ダッ!

海坊主「ま、待てぇっ!!」

雪歩「た、助け……モガモガ……!!」

タタタ…



バキッ!

謎の男「ぐあぁっ!!」ドドォッ!

冴子「ッ……し、しまった! 間に合わない!!」

リョウ「……ちっ、冴子のヤツ、電話に出ない」

香「まさか、冴子さんの身に何かあったんじゃ……!」

リョウ「アイツはそう簡単にやられるタマじゃない。心配なのは雪歩ちゃんだ」



ヴィー!… ヴィー!… 『アーイヨー キーエナイデ モーオ-ー ウウー♪』

リョウ「むっ?」

香「冴子さんから?」

リョウ「…………非通知……」ピッ!


リョウ「……誰だ」



『シティーハンター、冴羽リョウだな』


リョウ(変声機……)

リョウ「なぜ俺の名と、この番号を知っている」


『キミに質問をする権限は無い』

『私は、既にキミ達のアイドルの身柄を預かっている』

リョウ「!」


『一つゲームをしようか、冴羽リョウ』


『私達は、いくつかのグループに分かれてこの会場内をウロついている』

『キミ達のアイドルを連れてね』

『765プロのライブまで、あと40分……フェアリーが歌い終わるまでに、
 私達の手から彼女達を救い出す事ができれば、何も悲劇は起きない』

『キミ達の勝ちだ』


リョウ「もし救出できなかったらどうなる。爆弾でも爆発させるのか?」


『察しが良いな。さすがに、この手合いには慣れているという事か』

リョウ「おかげさんでな。俺にとってはちっとも面白くないゲームだがね」


『まぁ、そう言うな』

『裏の世界で生きてきたキミにとって、アイドルのライブなど退屈だろう?』

『シティーハンターの名に恥じない、素晴らしいショーとなる事を期待しているよ』

プツッ!


リョウ「……………………」

トボトボ…

伊織「………………」

伊織「…………?」ピタッ



ンーッ! ンーッ…!  タタタ…



伊織「あれ……うそ、雪歩……?」



タタタ…

P「…………おーい、伊織!」


伊織「あっ、プロデューサー?」

P「お前、こんな所で何をしているんだ!? 早く皆のところへ戻れ!」

P「それにしても、どこにいるんだ伊織のお父さんは……くそ、もう一度観客席を…」

伊織「お父様は来ないわ」

P「えっ?」ピタッ

子猫達「ニャァ~……」

トコトコ…



海坊主「貴様ぁ~!! よくもこの俺をあんな目に……!!」ワナワナ…!

リョウ「だぁから悪かったってば。俺もすっかり油断してたぜ」

香「それで、どうするの、リョウ?」

冴子「ひとまず、本部へ増援の依頼はしたけれど……」


リョウ「冴子。爆発物処理班の出動を要請する場合、どれくらいでここへ来れる?」


冴子「……警視庁へ連絡が届き次第、通常は遅くとも1時間以内には現場に到着するわ」

冴子「でも、今回は残念だけど、処理班の増援は期待できないわね。
   最悪、さっき依頼した本部の増援さえ……」

香「そんな、どうして!!」

冴子「これまで爆破事故……いいえ、爆破事件が連続して起きているから、
   今日の警備を行うに当たって処理班を待機させるよう、私も本部へ掛け合ったの」

冴子「でも本部は、危険物の確認が無ければ出動は認められない、の一点張り……
   よほど強力な圧力が掛かっているのか、爆破事故は無いものとされているみたい」

香「何かあってからじゃ遅いのよ!? どうしてそんな事が許されるのよ!!」

冴子「ごめんなさい。私も、父に直談判をしたのだけれど、聞いてもらえなくて……
   今日ほど本部が情けないと思った事は無いわ」

香「あっ、ご……ごめん。冴子さんは何も悪くないのよね」


リョウ「結局、俺達でやるしかないって事か」

リョウ「伊織ちゃんのお父さんの身まで狙われている中、こんな事まで起きるとはなぁ」



タタタ…

P「冴羽さん! 冴羽さん、伊織のお父さんが……!」

リョウ「ん? おぉ、プロデューサーさん」

伊織「うぇっ!? こ、この男が海坊主。で、でかい……」

海坊主「………………」ズゥーン…


香「伊織ちゃん! どうしてここに!?」

伊織「そ、そんな事より、雪歩! 雪歩が悪そうなヤツらに……!」

リョウ「伊織ちゃんのお父さんは、新堂さんにチケットをあげて自分は来ない、と」

香「そ、そんな……そう」

伊織「……とにかく、私のお父様の事はもう心配しなくていいわ」

冴子「そうね。それだけは不幸中の幸いと言えるわ」

リョウ(……しかし、なぜ伊織ちゃんがさらわれていないんだ?)


香「で、でも、961プロってそんなに影響力のある事務所なの?
  そこまで警察の行動を制限させるだなんて……」

リョウ「おい海坊主。お前の依頼主さんに何とか言ってやれないのかよ」

海坊主「あの男が裏で何をしているのかなど、俺が知る由も無い」

リョウ「ちぇっ、唐変木め。
    お前が起こした騒ぎだって、黒井社長が握り潰してきたんだろうが」

海坊主「さっき現れた連中は、俺の知り合いでは無かった。
    それどころか、俺も襲われかけた」

伊織「何ですって?」


リョウ「連中が961とは違う組織なのか、あるいは961が新たに雇ったヤツらなのか、
    考えるのはこの際後回しだ」

リョウ「ライブが始まるまで、そろそろあと30分……
    連れてかれたっていうアイドルの子達を、さっさと助け出さなくちゃな」

香「でもどうするっていうのよ。
  皆の居場所も、連中の勢力も、爆弾の場所も、何も分からないのよ?」

リョウ「ふっ……ガラケーすら使いこなせん機械オンチのお前には分かるまい、香。
    この文明の利器、スマートホンの真の使い道をな」スチャッ

香「はぁ?」



ピコン! ピコン! …


冴子「これは……発信機?」

リョウ「そう。香の服に付けている機器と同じものを、こっそり皆の服にも付けていた」

リョウ「機器からソナーのような音波も出しているから、
    彼女達の周囲に何があるか、どれだけ人が立っているのかもおおよそ分かるんだ」

伊織「一歩間違えれば犯罪じゃない? これ」

リョウ「そう言うな。どれどれ……」


リョウ「ふむ……白のアイコンが雪歩ちゃんだ。
    それで、黄色と紫と、青のアイコンも、この765プロのテントから離れている」

P「黄色が亜美か真美のどちらかは分かりませんが……
  あずささんと千早も犯人グループにさらわれている、って事ですか?」

リョウ「あぁそうだ」

香「……そう、分かったわ、ありがとう!」ピッ!

香「リョウ、律子さんに確認したわ!
  やっぱり真美ちゃんとあずささん、千早ちゃんもいないって!」

伊織「そんな、4人もさらわれるなんて……!」


冴子「悠長に一人ずつ助けに行く時間は無いわ。
   分担を決めて、各アイドルに分かれて助けに行きましょう」

P「そ、そうですね! お願いします」

香「えぇと4人だから、リョウ、冴子さん、海坊主……」

海坊主「………………」

リョウ「この状況で、あともう一人戦力になれそうなのは……」



P「えっ、な、何で皆俺を見てるんですか?」

リョウ「俺はあずさちゃんを助けに行くから、皆は他の子達を頼むぞ」ダッ!

冴子「待って、リョウ」

リョウ「むっ?」ピタッ


冴子「この紫のアイコン……良く見たら、周囲の人の反応が少ないわ」

海坊主「それだけ、彼女に付いている連中の数も少ないという事か」

香「もし、プロデューサーさんにもアイドルの子達を助けに行かせるなら、
  あずささんの下へ行かせた方がリスクは少ないわよね?」

リョウ「う、うぐぐ……」


P「ちょ、ちょっと待ってください。俺本当にそんな事でき…」

伊織「もう時間が無いわ! お願いよ、プロデューサー!」

P「えぇっ!?」


海坊主「俺の銃を一つ貸してやる。弾は無いが、ハッタリくらいにはなるだろう」ズシッ

リョウ「ぐぅ~……あぁもうしょうがない! 俺のもっこり分、アンタに譲るぜ!」

冴子「危なくなったらすぐに連絡を。
   私は、彼女から比較的近い、如月千早さんの所へ行くわ」

香「アタシも一緒について行くわ! 頑張りましょう、プロデューサーさん!!」グイッ!

P「や、やだあぁぁぁぁぁっ!!!」

タタタ…


冴子「……ちょっと気の毒だったかしら」

リョウ「余計な心配してる暇は無い。俺は真美ちゃん、お前は雪歩ちゃんだ。行くぞ」

海坊主「ふん」



伊織「さ、冴羽リョウ……!」

リョウ「ん?」


伊織「新堂から聞いたわ……あんたがシティーハンターっていう、凄いスイーパーだって」

伊織「今まで、全然そんな事信じてこなかったけど……
   皆を助けるためには、あんたの事を信じるしか無いって、今は思うの」

伊織「勝手でごめんなさい、だけど……」


伊織「皆を助けて、お願い!」



リョウ「………………」フッ

スッ…

伊織「? えっ……」


リョウ「裏の世界で生きてきた俺には、煌びやかなアイドルの世界なんて分からない」

リョウ「でも、君の事は分かる。伊織ちゃん……
    心根の優しい君が、本当は何のためにアイドルをしているのかくらいはね」

伊織「私が……?」


リョウ「新堂さんから聞いた」

リョウ「そのシャルルちゃん、君が小さい時に、お父さんからもらったものなんだってな」

伊織「!」

リョウ「果汁100%のオレンジジュースもそう。
    お父さんが好きなものを自分も飲みたい、ってワガママ言ったのが始まりだって」


リョウ「トップアイドルを目指すのは、お父さんを見返してやりたいんじゃない」

リョウ「大好きなお父さんに、キラキラに輝く自分を見て欲しいからだ」

リョウ「もしお父さんが嫌いなら、シャルルちゃんやオレンジジュースに拘るはずが無い」


リョウ「全部、お父さんのためだ。君の行動は全部、ね」ニコッ

伊織「…………お父様」


リョウ「俺達はこれから、会場の外で賑やかにしている連中を黙らせてくる」

リョウ「会場を盛り上げるのは、君達の仕事だ。頼んだぜ」


伊織「…………うん」コクッ


リョウ「よし、行くぞ」

海坊主「ふん、お前に言われるまでも無い」

冴子「あら、珍しく乗り気ね。ひょっとして、雪歩ちゃんがお気に入りなの?」

海坊主「ば、馬鹿者っ!! そんなはずがあるか!!」

リョウ「へぇ~、お前にそんな趣味があったとはねぇ」

タタタ…



伊織「……シャルル、そうなの?」

伊織「私は、お父様の事を、見返したいって……いつから、私は……」



タタタ…

新堂「伊織お嬢様~」

伊織「新堂!? どうしたの、こんな時に」

新堂「先ほどお渡しできなかった、オレンジジュースでございます」スッ

伊織「そんな、別に良かったのに……」


新堂「いいえ、この新堂、伊織お嬢様に釈明せねばならない事がございます」

伊織「えっ、釈明?」



新堂「ご主人様は、会場にお越しになっておられます」

伊織「…………えっ」

伊織「そ、そんな……おかしいじゃない!
   だって、私がお父様にあげたチケットは、新堂がさっき持って…!」

新堂「えぇ、この通り」スッ


新堂「信じられないと仰られるのであれば、こちらの画面を」ヴィン…

伊織「何これ、モニター? 観客席の…………!!」



伊織「うそ…………お父様……」



新堂「なぜ、ご主人様はお嬢様からのチケットを必要無いと仰られたのか……」


新堂「既に買っておられたのです。それも、チケット発売日の早朝に」ニコッ


………………

………………………

………………………

………………


「失礼致します。お呼びでしょうか、ご主人様」


「は? ……インターネットでのチケットの買い方、でございますか?」

「お言葉ではございますがご主人様、そのような雑務は私めにお申し付けいただければ…」


「……おぉ、これは…………なるほど、左様でございますね」


「しかし、わざわざこのような事をしなくとも、運営会社に手配をして良いチケットを…」


「なるほど……お嬢様に気取られぬよう、一般に紛れてチケットを買い、鑑賞されたいと」


「ふふっ……あぁいえ、申し訳ございません」

「かしこまりました。それでは、この新堂が操作のご説明を致しましょう」

「まず、ご覧いただいている画面の右下を……」


………………

………………………

………………………

………………


伊織「そんな…………あの、お父様が……?」


新堂「本日の会議は、予定を2時間も繰り上げて、早朝から行ったとの事です」

新堂「全ては、伊織お嬢様がお出になられるこのフェスのために。
   ご主人様も、普段は下げない頭を下げてやったと、どこか誇らしげでございました」

伊織「!!」


新堂「チケットは、当日観賞し終わった後すぐに返すよう、
   ご主人様より仰せつかっております」

新堂「ご自分で買われたチケットと、伊織お嬢様からもらったチケット。
   ご主人様は、二つとも手元に置いておきたいのでしょう」


新堂「チケットをいただきはしましたが、この新堂、
   職務を放棄して鑑賞するわけにはまいりませんと、僭越ながら申し上げた所……」

新堂「ご主人様は、私に休暇を命じました。
   伊織お嬢様がステージに上がる、その間だけ」

新堂「恥ずかしながら、この新堂、先ほどから年甲斐も無く興奮を抑えきれずにおります」


伊織「お父様が、このフェスを……楽しみに……?」

新堂「ご主人様は、お嬢様に期待をしていないのではございません」

新堂「授けるべき学を、お嬢様は既に持っておられたのです」

新堂「水瀬家が持つべき素養……帝王として他者を導く器を、生まれながらにして」


新堂「水瀬家きっての逸材をどのように育てるべきか、頭を悩ませていた折……
   お嬢様の口から、アイドルを志すと聞いた時のご主人様は、大層嬉しそうでした」

新堂「進むべき道を、娘自身が見つけてきたと……
   それも、まさしく人を輝かせ、導く存在をあの子は目指したのだと、ね」

伊織「! 人を、輝かせる……?」


新堂「素直になれない点において、今のお嬢様はまるでご主人様の生き写しでございます」

新堂「小さい頃は、とても素直であらせられた事を、よく覚えておるのですが……」

新堂「やはり、子は親に似るというのが常なのでしょうな」ニコッ



伊織「……………………」


………………

………………………

………………………

………………


「うわあぁぁぁぁん!!」

「しんどうー、おへやにへんなのがいるー!!」

「ピンクのうさぎみたいなのいるー!! こわいよー!!」


「えっ? おとうさまがくれた、あたらしいおともだち?」


「ならだいすき! おとうさまがくれたものなら、こわくないもん!」

「ねぇねぇ、このこ、おなまえなんていうの、しんどう?」


「すきななまえにしていいんだって! やったぁ!」

「シャルルちゃんにする! このまえならったフランスすき!」

「シャルルちゃん、よろしくね! いっしょにおそといこう?」


………………

………………………

………………………

………………


「おとうさまー、なにのんでるのー?」

「えー、オレンジって、みかんのこと? おのみものになっちゃうの?」



「しんどうー! しんどうー、てつだってー!」

「オレンジジュースつくるの! みかんもっといっぱいちょうだい!」


「うわあぁぁぁぁん!! おだいどころよごしてないもん!」

「おとうさまとおなじののみたいんだもん! いおりちゃん、なにもわるくないもん!」


「えっ? もうあるの?」



「みかんがいっぱいのあじする! いおりちゃんもこれだいすき、おとうさまー!!」


………………

………………………

………………………

………………


伊織「……………………」



新堂「お嬢様、オレンジジュースを」スッ

伊織「………………」



スッ  チュー…

伊織「…………美味しいわ……すごく美味しい」

新堂「ありがとうございます」ペコリ



伊織「新堂」

新堂「何でございしょう」


伊織「もう休暇を取っていいわ。お父様がいる観客席へ行ってあげて」スタスタ…


新堂「かしこまりました」ニコッ

~765プロ側テント~

律子「あぁもう……何でこんな事に……!」ソワソワ…

高木「ま、まぁまぁ律子君。焦っていても水瀬君達が戻ってくるわけでは…」

律子「これが落ち着いていられますか!? 無事が分からないんですよ、あの子達の!!」

高木「うっ、す、すまない……」


春香「千早ちゃん……」グスッ…

亜美「うわあぁぁぁん! 真美ぃ、あずさお姉ちゃぁん……!」ポロポロ…

真「み、皆! 気をしっかり持とうよ! 雪歩だって、きっと冴羽さん達が……!」

やよい「そんな事言われてもぉ……」

響「うわーん! 貴音ぇ、どうにかなんないのかー!?」

貴音「何も状況が見えず、どうにもできない事が、こんなにも悔しいとは……」


スタスタ…

美希「! あっ、デコちゃん!!」

律子「伊織っ!?」



伊織「皆、心配をかけてごめんなさい」

伊織「皆に、話さなきゃいけない事があるわ」


伊織「雪歩とあずさ、真美と千早は、今、何者かにさらわれているの」

一同「!?」ザワッ…

伊織「もし、美希達のライブが終わるまでの間に助ける事ができなかった場合、
   会場のどこかに設置された爆弾を爆発させる、と犯人は言っているそうよ」


律子「そ、そんなっ!! すぐに警察に連絡を…!」

伊織「警察は既にいるわ。それに、これ以上の増援は期待できない」

真「えっ!?」


伊織「はっきり言って、状況はあまり良くないと思う」

伊織「でも、今はあの男……冴羽リョウ達が必死に頑張って、皆を助け出し、
   爆破を止めようとしているわ」

伊織「アイツは、会場を盛り上げるのは私達の仕事だって、そう言ってた。だから……」


伊織「私達には、私達でできる事をしましょう!」

伊織「会場に来てくれたお客さん達を、決して不安がらせないような……
   むしろ元気にさせるような、そんなライブにしなくちゃ!」

伊織「アイツと一番一緒にいた私を信じて!
   必ずアンコールまでに雪歩達を連れて帰ってくるわ! 爆弾だって……!」

伊織「きっと……!」



貴音「伊織」

伊織「……!」


貴音「貴女の真っ直ぐな思い、しかと受け止めました」

貴音「私達は、皆がここへ戻ってくる事を信じ、必ず961プロに勝ちます」

響「ぜぇーったいに勝つぞ、美希、貴音!! なんくるないさー!!」

美希「うん! ミキ、デコちゃんももっこりのおじさんも信じてるの!!」


律子「そうね……よし、それじゃあフェアリーが出る前に、ちょっとした余興でもやる?」

亜美「はいはーい! それじゃあ亜美とはるるんで、
   あみまみちゃんならぬ“あみあまみちゃん”をやるよーん!」ビシッ!

春香「うえぇっ!? 私ああいうシュールなの自信無いよぅ!」

やよい「うっうー! それじゃあ私、客席からばばーんって合いの手入れちゃいますー!」

真「良いね、やよい! ボクの乙女パワーもガツーンって上乗せしちゃうぞー!!」ガッツ!


伊織「皆……ありがとう!」

~千早グループ~

千早「………………」

男A「へっへっへ、悪いねぇ千早ちゃん」

男B「恨みは無いんだが、ボスから金をもらえるんでな。少しの間大人しくしててくれや」

男C「ライブが終わるまでアイドルを拘束してりゃ良いだなんて、ボロい商売だぜ、ひひ」


千早「一体、何が目的なんですか、あなた達は」

男A「目的なんぞねぇ。金がもらえるから俺達は手を組んだだけだ」

男A「おたくらアイドルだって、所詮はファンから金をもらうための職業だろう?」


千早「違います」

千早「以前まで、確かに私はアイドルなんて、
   歌手になるための腰掛け程度にしか思っていませんでした」

千早「でも、今は……私は、皆とアイドルをやれて、良かったと思う。
   アイドルとしての自分に、プライドを持つ事ができました」

千早「人としての誇りの欠片も無いあなた達に、私達の火を消す事なんてできない!」

男B「てめぇ、生意気な事を……!」


冴子「良く言ったわ、如月千早さん」

千早「えっ?」

シュッ! バキッ!!

男B「ぐわああぁっ!!」ドサッ!

男C「何モンだてめぇっ!!」


冴子「本部は腰抜けばかりかも知れないけれど、
   私も、この国の警察官でいられる事を誇りに思うわ」

冴子「あなた達のような人間から、罪も無い人達を守れるもの」


男A「け、警官っ!?」

男C「聞いてないぜ! 警察は来ないんじゃなかったのかよ!!」

冴子「普通の警察はね。生憎だけど、私は一味違うの」チャキッ

シュバァッ!!


男A・C「ぎゃああぁぁぁっ!!」ビシビシッ!!

千早「あ……ありがとうございました」

冴子「礼には及ばないわ。この男達が言っていた事で、何か気になった事は無い?」


千早「……この人達は、ただ私をここに連れ去る事だけが目的のようでした」

千早「約束の時間が来るまで……何もせず、ただ見張るだけだ、って」

千早「そうすれば、ボスと呼ばれる人からお金ももらえるし、
   私も解放するつもりだったようです」


冴子「そう。ありがとう」

冴子(つまり、彼らが爆弾を起爆させる訳ではない……ボスという人物が?)

冴子(救出さえすれば爆破は起きない、という保証も無いけれど……
   とにかく今は、捕まったアイドル達を救出していくしか無いわね)


千早「それにしても……くっ!」

千早(刑事なのに、とは言わないけれど……何て大きさなの……!)


冴子「? ……とりあえず、この場はもう大丈夫そうね」

冴子「私は三浦あずささんの元へ行くから、あなたは急いで765プロのテントへ」

千早「えっ? あ、はいっ!」

~雪歩グループ~

雪歩「ひ、ひぃぃぃぃんっ!!」

男達「ひえぇぇぇっ、助けてぇっ!!」

バキッ! ゴキッ!


男達「」ピクピク…



海坊主「け、ケガは無いか……?」スッ

雪歩「ひっ……!」ビクッ!

海坊主「ぐっ……す、スマン」


雪歩「いえ、あ、あの……」

雪歩「私こそ、すみません。二度も助けてもらったのに……失礼、でしたよね」

雪歩「助けてくれて、ありがとうございました」ペコリ

海坊主「……ふ、ふん! また穴を掘られては迷惑だと思っただけだ」プイッ!

男「ニャァ~ン♪」


海坊主「ひぃっ!?」ビクッ!

雪歩「あっ!」


男「へへっ、聞いた通りだぜ! 猫の声真似すら苦手とはな!」

男「全員倒したと思って油断したな、スキ有り!」ジャキッ!

海坊主「ヌゥ……!!」


雪歩「え、えーいっ!!」グアァッ!

コォーン!!

男「おほっ!?」


男「ば、馬鹿な……スコップ…………」フラッ…

バタッ



雪歩「ふ、ふえぁぁ…………」ヘタッ…

海坊主「……上出来だ」

~真美グループ~

真美「あっ、サイバーおじちゃん!!」


リョウ「おっ、何だ、真美ちゃんだけか?」キョロキョロ

真美「来ちゃ、来ちゃダメ!! 後ろが危ないってば!!」


ジャキッ

真美「あぁ……!」



男A「音に聞こえたシティーハンターとやらが、こうも簡単に背後を取られるとはな」

男B「所詮、コイツもアイドル相手に鼻の下を伸ばしたオジンって事さ」

男C「ははは、まったくお笑いだぜ」


リョウ「……消えろ」

男A「あぁん? 何か言ったか?」


リョウ「消えろと言ったんだ。後悔しないうちにな」

男B「てめぇ……この状況が分かってねぇのか!」

男C「後悔しながら消えるのはてめぇの方だ! 死ねぇっ!!」グッ!

カチンッ

男C「!? なっ、あれ……!?」


リョウ「フッ……最近の悪党は、銃の重さも知らないのか?」スッ

つ 弾倉

男C「なっ!? 馬鹿な、いつの間に!!」


バキッ!!

男A「うぶっ!」

ヒュッ パシッ! ガシャッ!

ジャキッ!

男B「あっ! うっ……!」ビタァ!


リョウ「銃ってのは、こうやって扱うんだ」

男C「うぐぐ……!」

リョウ「アイドルの前で粋がりたい気持ちも分かるが、相手を選ぶべきだったな」


リョウ「もう一度言う。消えろ」

男達「ちきしょー! 覚えてろー!!」

タタタ…


真美「うえーん、おじちゃぁん!! 怖かったよぅ……!!」ボロボロ…

リョウ「おーよしよし、そうだな。あと俺はおじちゃんじゃなくてお兄さん」ナデナデ



ピコン! ピコン! …

リョウ「よし……あずささん以外のアイドルは、皆765プロのテントに戻ったようだ」

真美「ほ、本当!? 良かったぁ!」ホッ



リョウ「そっちはどうだ、香? あずささんの方は」

『それがねぇ、どうにも様子がおかしいのよ』

リョウ「何ぃ?」

~あずさグループ~

あずさ「えぇと、す、すみません。私、そろそろテントに戻らないと……」

男A「そこを何とか! このバナナクレープを食べる間だけ、僕と一緒に!」サッ

男B「いやいや、そんなものよりも美味しいタピオカジュースはどうですか!?」ササッ

あずさ「あら~……困ったわねぇ」



香「犯人グループらしいヤワな男達が、あずささんを前に目が完璧ハートマークで……」

P「よ、良かった……色々な意味で良かったぁ」ホッ…


『それなら心配無さそうだな。その場は任せるぞ』

香「えぇ、任せて!」


香「さっ、それじゃあさっさとあずささんを助けに行くわよ、プロデューサーさん!」

P「は、はひっ!?」



ダダダ…

香「こらー、そこの男達ー! あずささんのそばから離れなさーい!!」

あずさ「あら~? プロデューサーさんと香さん」フリフリ

男A「あん? げっ、男女二人組!! コイツらがひょっとして、シティーハンター!?」

男B「マジかよ!! まさか一番弱い俺達の所に来るなんて!!」


P「て、手を上げろぉっ!!」ガッ!

P「あいったぁっ!! 撃鉄に指の肉が挟まったぁっ!!」

香「えぇーっ!?」


男A「何でぇ、大した事ねぇでやんの!」バキッ

P「おうっ」バタッ

香「やられた!? 弱いっ!!」

男B「やった、シティーハンターを倒したぞ! 女の方もやっちまえぇ!!」ダッ!


ドゴオォォォンッ!!! 【100t】

男達「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!!」


香「リョウ以外の男に、これを使う日が来るとは……!」

あずさ「あ、あの~……いつも、どこに仕舞っているんですか~?」

~765プロ側テント~

律子「! ……そうですか、良かった! ありがとうございます!」

ピッ!

律子「香さんから、今あずささんの救出も終わったって!」

一同「やったぁー!!」バンザーイ!


伊織「…………!!」ホッ!

春香「さすがは冴羽さん達だねっ、伊織!」ニコッ

伊織「当然よ、この伊織ちゃんのボディーガードだもの! にひひっ♪」


スタッフ「すみませーん! 765プロさんそろそろご準備お願いしまーす!」


律子「いよいよ出番ね……準備はいい、皆!?」

美希「待ちくたびれたの!」

響「卑怯な手を使う961プロなんかに負けないさー!!」

貴音「いざ、参りましょう。決戦のステージです」

亜美「とその前に、はるるん前座行くYO!」

春香「あぁぁ! そういえばそうだった!」

真「打ち合わせ通りにやるから、しっかりね! 亜美、春香!」

やよい「皆さん、今こそ命を燃やしましょー!!」ピョン!

伊織「どこで覚えるのよ、やよい、そんな言葉」

ガヤガヤ…



千早「えっ、何をする気なの、皆?」

雪歩「さ、さぁ……」

真美「うあうあー! すっごく楽しそうなのに、完全にカマの外だYO!」



律子「残りの懸案は、犯人の言う爆弾の処理」

律子「あずささんは香さんが連れてきて、他の子達が無事に帰ってきた今、
   冴羽さん達は引き続き爆弾の捜索をするそうです、社長」

高木「ウム、そうか……」


高木「何事も、起きなければ良いのだがね……」

~会場周辺~

リョウ「……チッ、ここにも無いか」ガサガサ…

『東側を探したけれど、それらしい不審物は無かったわ。西側はどう?』

『無い』


ピッ!

リョウ「くそっ、どこにあるんだ……いや、本当にあるのか?」ガサゴソ…



ヴィー!… ヴィー!… 『アーイヨー キーエナイデ モーオ-ー ウウー♪』

リョウ「おっ、誰か見つけたのかな」スチャッ

リョウ「! …………」

ピッ!



リョウ「……アイドルは全員救出した。ゲームは俺達の勝ちのはずだな」



『もう4人を救出したんだネ。さすがの早さダ、驚いたヨ』


リョウ(機械音声……?)

『しかし、ひょっとしたラ、キミは勘違いをしテいるんじゃないかナ』

『拘束されたアイドル全員ヲ助け出した気でいるようだガ……違うんだナ、実は』


リョウ「!?」


『おそらく、残りの子達ハ、自分が身柄を拘束されテいる事にさエ気づいていなイ』

『そして、時が来れバ、彼女達のステージ……
 プロジェクト・フェアリーのオーバーマスターが終わっタ瞬間……』

『めでたくステージは“終了”ダ』

『音源を止めても無駄ダ。状況を問わズ、ステージが終われば起爆するのだからナ』

プツッ!


リョウ「………………」スクッ



「あみあまみちゃん、れぼりゅーしょん」

春香「生きてるってー なーんーだーろー♪」

亜美「生きてるってー なーあーにっ♪」

ワハハハハハ…!

春香「毎日毎日同じ事の繰り返しで、生きてる気が、しな…!」

<そんな事無いよ、春香ぁー!!

亜美「ちょ、ちょっとまこちん! 合いの手入れるタイミング早いYO!!」

春香「亜美! 亜美もそれ言わないっ!! しぃーっ!!」

<うっうー! 春香さん、生きてますー!!

伊織「やよいももういいってば!!」バッ

春香「えぇーっ、伊織の出番もっと後じゃなかったっけ!?」

亜美「うあうあー!! まさかのグダグダ展開だよー!!」

ドッ!! ワハハハハハハハハハ…!!



律子「というわけで、そんな賑やかな765プロの中でも一際個性的なこの三人!」

律子「プロジェクト・フェアリーで、『オーバーマスター』をお聞きください!!
   どうぞ!!」



~~♪

ワアァァァァァァァァァァァァァッ!!!



リョウ「…………!!」

ズルズル…

P「うーん、ムニャムニャ……」

香「よいしょっと……ったくプロデューサーさん、すっかり伸びちゃって」ズルズル…

あずさ「うふふ。お仕事中は、とっても頼りになるんですよ~」

香「それはそうなんでしょうけど……うんしょっと」ズルズル…


ピロリロリロ!… ピロリロリロ!…

香「ん? ……リョウだ」ピッ!

香「もしもし?」


『香、今すぐ765プロのステージに向かってくれ!!』

香「えっ!?」


『爆弾の位置が分かった! ステージだ!』

『曲の音源が終わった瞬間、起爆する爆弾がある可能性が高い!!』

『海坊主と冴子には、連絡がつかないんだ! お前が音声機器の周辺を探してくれ!!』


香「わ、分かったわ! でも、もう曲が始まっているのよ!?」

香「あの曲が終わるまであと4分も無いわ! もし見つけたとしても、解除が…!」

リョウ「解除するんだ、何としても」

リョウ「俺達は、決して依頼を途中で放り投げるような事はしてこなかった」


香「!」


リョウ「あの子達は、俺達を信じている」

リョウ「俺達も信じるんだ。あの子達が信じてくれる、俺達自身を」

リョウ「忘れるなよ。俺とお前、二人コンビでシティーハンターだってことを」


香「……当然よ!! 任せなさい!!」ダッ!


あずさ「あら~?」

香「ごめん、あずささん! 先に行ってるから!!」



 Thrillのない愛なんて

 興味あるわけないじゃない

 分かんないかな~♪


ワアアアアァァァァァァァァァ!!!

あずさ「あらあら、香さん、行っちゃった……」

あずさ「どうしましょう……私一人で、プロデューサーさんをおんぶできないし」

あずさ「う~ん、困ったわねぇ」



ガチャッ

あずさ「えっ……」



???「静かに。動かないで」

???「大人しくさえしてくれれば、悪いようにはしない」

~765プロ側テント~

律子「そこで、そう、指先! ……よしっ!」グッ!

律子「いい感じよ、三人とも……すごく、集中できてる……!」


タタタ…!

香「律子さんっ、皆っ!!」


伊織「香っ!? あずさはどうしたの?」

香「後から来るわ! それより、音源はどこ!?」

春香「お、音源ですか? えぇと、確かあっちの方に……」

香「ありがとう!」ダッ!


真「か、香さーん。何かあったんですか?」



香「音源からステージの下へ、変なコードが伸びてる……!」ガサゴソ…

香「………………!」



香「見つけた……リハーサルの時には無かったはずなのに、なんで……!!」

香「どうしよう。もう時間が無いわ……!」

香「繋がれたコードは、ひぃ、ふぅ、みぃ……5本!?」

香「そ、そうだ! いっそのこと、音源を止めれば……!」


律子「香さん、どうしたんですか!?」

香「律子さん、今すぐ曲を止めて!!」

律子「えぇっ!? でも、やっとここまで良い調子でこれ…!!」

香「爆弾が爆発するのよ!! 悪いけど、もう手段が無いわ!!」

一同「!!?」


ザッ…!

リョウ「止めるな!」

香「リョウっ!?」

伊織「冴羽リョウ!!」


リョウ「犯人の言い分だと、曲を止めても爆発する」

リョウ「コードを切って、起爆装置を解除するしか方法は無い」

香「何ですって!? で、でもコードって、一体どれを……!!」

ダダダダッ!!

ジャキッ! ジャキッ!

スタッフ達「動くなっ!!」

一同「!?」


スタッフA「ちょいと頼まれ事をされていてな。全員、床に手を伏せてもらおうか」

律子「ちょ、ちょっと! 一体何のマネですか、音声さん達!!」

スタッフB「黙ってろ!! 風穴空けられてぇか!!」ジャキッ!

春香「ひぃっ!?」ビクッ!


リョウ「ほう……たった6人のチンピラが、玩具を手に何をしようっていうんだ?」

スタッフC「お、玩具だとぉ!? てめぇ、コイツを見ても寝言を言え…!」ジャキッ!

ガァァンッ!!

バアンッ!!

スタッフC「う、うわあっ!?」


真「ス、スタッフさんの持っていた銃が、急に爆発した!?」

リョウ「本物も、使いこなせなきゃ玩具も同然さ」スチャッ

スタッフD「貴様ぁっ!! 調子に乗ってんじゃねぇっ!!」ジャキッ!


ガァン!ッ ガァンッ! ガァンッ! ガァンッ! ガァァンッ!!

スタッフE「うっ!?」バァンッ!

スタッフF「うおぉぅっ!?」バァンッ!

スタッフA「があぁっ!!」バァンッ!



律子「な、何が起こったの!?」

香「リョウの撃った弾がヤツらの銃口に入って、銃が暴発したのよ」

春香「えぇーっ、何それぇっ!?」


伊織「ワンホールショット……これが…………!」

伊織「すごい……!!」



リョウ「銃なんてのは、素人が手を出して良い代物じゃないんだ」

リョウ「俺のようなプロを相手にするのなら、なおさらな」

スタッフB「ちきしょー!! だが、どのみち爆弾は解除できずに終わりだ!!」

スタッフC「逃げるんなら今のうちだぜ、ハッハー!!」ダッ

ダダダ…


リョウ「起爆するまでの時間稼ぎ、にしてはあっけないヤツらだぜ」



 Gameと割り切るヤツは

 女の扱い上手いのよ

 覚えておけば?

 Come Again!

ワアアアァァァァァァァァァァァァッ!!!


香「二番が終わった……もう1分半も無いわ!」

律子「どうなってるんですか!? オーバーマスターと何が関連して……!」

リョウ「曲が終わった瞬間、あそこにある爆弾が爆発する。曲を止めてもな」

真「えっ!?」

真美「そんなぁ!! そんなのどうすりゃいいのさー!!」

やよい「わーん! 怖すぎますー!!」ビエーン!

雪歩「こんな、ひどい事を……!!」ポロポロ…

千早「くっ……もう、何をしても無駄だと言うの……!?」



リョウ「いいや、まだ終わりじゃないさ」

亜美「えっ?」


リョウ「香。コードの色は何がある?」

香「えぇと……黒、白、青……それと、赤とピンクよ!」

リョウ「分かった」

リョウ「皆、ステージ衣装には着替えてあるな」


リョウ「真ちゃん」

真「えっ?」

リョウ「それと、雪歩ちゃんと千早ちゃん、春香ちゃん……伊織ちゃんもここへ」


伊織「な、何? どうするの?」

ゾロゾロ…

リョウ「君達の力が必要だ」

リョウ「皆、俺の事を信じて目を瞑り、少し上を向いてくれ」


雪歩「こ、こうですか?」クイッ

千早「何をするつもりなのかしら……」

春香「ここは冴羽さんの言う通りにしよう、皆!」ギュッ!


香「リョウ、何をしているの!? もう時間が無いわ!!」

リョウ「分かっている」

律子「さ、冴羽さん……!」ゴクリ…



リョウ「土壇場で運を天に任せるほど、俺は自信家じゃない」


リョウ「こういう時は、こうするのさ……」スッ



リョウ「ふんっ!」ババババッ!


ファサッ フワァッ…

千早「……!?」

春香「えっ」

真「うえぇっ!?」

雪歩「ひっ、やぁっ……!?」


伊織「な、何すんのよっ!! この変態、ド変態、変態大人っ!!」バチーン!

リョウ「ッ…………春香ちゃんだけ、赤……!」


リョウ「香っ!! もっこりレッドだっ!!」

香「はぁっ!?」

リョウ「いいから赤以外を全部切れ!!」

香「ちょ、ちょっと馬鹿、馬鹿っ!! 本当にそんな事で…!!」


リョウ「俺のもっこりに間違いは無い」

リョウ「俺を信じろ」


香「~~!!! え~い、ままよっ!!」グイィッ!

律子「香さんっ!!」


ブチンッ!!

やよい「ひっ……!」

亜美「わっ……!!」



律子「………………?」


真「あ、あれ…………?」



 GentleよりWildに

 WildよりDangerous

 試してみれば?

 Good Luck To YOU!


ウオワアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!! パチパチパチ…!!!



律子「し、信じられないわ……」

真美「爆発してない! やった、止まったよ!!」


一同「わあああああああっ!!!」

リョウ「フッ……良かったな、皆…」

ドガドガアアァァァァァンッ!!! 【100t】【100t】【100t】【100t】【のヮのt】

リョウ「ぎゃあああぁぁっ!!! 最近の子達って皆ハンマー持ってるのぉ!?」


真「な、何を考えているんですかこんな時にっ!!」

千早「非常識にも程があります!」

香「大体、大抵の女の子は白なのよ! どう考えても確率偏るだろうが!!」

リョウ「違う! 俺は緻密なデータを基にこの方法を選んだんだ!」

伊織「緻密なデータって、どういう意味よ!?」

リョウ「君達の親御さんに許可を取って、部屋を物色させてもらってだな…」

春香「私達の許可も取ってください!! 何でこんな人ウチに入れたの、お母さーん!!」

雪歩「うぅ……は、恥ずかしい……」



律子「こんな人が、この世にいるだなんて……」

律子(私、この先どんなに理屈じゃ考えられない事が起きても、驚かずにいられるわ……)

コツッ…

高木「……皆、良くぞ無事で」

律子「社長! やりました、もう爆発はしません、皆も無事です!!」

高木「あぁ、知っているとも」


高木「先ほど、フェスの関係者からも知らせがあったよ」

高木「961とのライブ対決……結果は、我々765プロの勝利だ」

高木「聞きたまえ、このアンコールの大合唱を」


アンコール!! アンコール!! アンコール!! …


伊織「やった……本当に、やったのね……!!」ジワァ…!



タタタ…

響「皆ー!! 自分達、勝ったぞー!!」

美希「すっごく楽しいステージだったの!! お客さん、ノリノリだったの!!」

貴音「さぁ、観客がお待ちかねです。皆も早く準備を……はて?」



貴音「三浦あずさの姿が見えませんが……」

亜美「あれ?」

やよい「本当だ、いないです」キョロキョロ

高木「まだ戻って来ていないのだろうか」


リョウ「ヘタな芝居を打つのは、そろそろ止めにしたらどうだ、社長さんよ」



高木「……何の事を言っているのか、分からんが」

リョウ「とぼけても無駄だ」

リョウ「今日、このテントにアンタが来た時、俺はこう言った。
    海坊主とのケリを付けるまでが俺の仕事だ、とな」

リョウ「それについて、アンタは何も聞き返しては来なかった。
    「そうでしたな」などと、納得しているようでもあった」


リョウ「なぜ、海坊主の事をアンタは知っていたんだ?」

リョウ「俺は今まで、海坊主の事をアンタの前で話した事は一度も無い」

香「!? そ、そう言えば……」



高木「………………」

リョウ「海坊主の事を知っているという事は、
    アイツが何をしてきたのかを知っているという事だ」

リョウ「聞かせてもらおうか……アンタが961プロとどんな繋がりを持っているのか」

リョウ「なぜ、アイツに伊織ちゃんを襲わせるような真似を認めてきたのかを、な」

伊織「!? …………まさか、社長が……?」


リョウ「最初から、薄々おかしいとは思っていたんだ」

リョウ「殺す気が無い殺し屋に対して護衛を就かせる事に、何の意味があるのかってな」

リョウ「高木社長……アンタが本当に俺に依頼したかったのは、
    アイドルのボディーガードとは別にあったんじゃないのか?」



高木「フフッ…………シティーハンター、冴羽リョウ」

高木「どうやら、噂に違わない方のようですな」

高木「そして人が悪い……そこまで見抜いたのなら、私の目的も分かっているだろうに」

律子「も、目的……社長、それは一体……?」



ガチャッ…


リョウ「……ッ!!」ピクッ!

リョウ「皆、伏せろ!!」バッ!

伊織「えっ? きゃああっ!?」


ダァンッ!!


チュインッ!!


香「リョウ!! 皆、大丈夫!?」


律子「しゃ、社長!」

高木「大丈夫だ、ケガは無い」

真「銃声が、一体どこから…………えっ」


リョウ「…………チッ、そう来るか……」



コツッ…


P「コルト・パイソンは良い銃だ」

P「6連発である事を除けばな」

雪歩「プロデューサー……? あ、あずささん!」


あずさ「うっ、く……」ガチャガチャ…

P「すみません、あずささん。もう少しだけ、このままでいてください」

あずさ「ぷ、プロデューサーさん…………どうして……」


高木「キミ……」

P「高木社長……できれば俺も、こんな事まではしたくありませんでした」


リョウ「……ッ」バッ!


ダァンッ!!

リョウ「ッ!」サッ!

チュインッ!!

香「リョウ!!」


P「妙な真似はしないでもらおう」

P「シティーハンターに銃の腕前で勝つ気などさらさら無いが……」

P「パイソンの再装填をしている間に、そこの爆弾に一発ぶち込むくらい、
  その気になれば俺にも出来るんだからな」

リョウ「さっきのチンピラは、そのためか」

P「ロクに銃の扱いを知らないゴロツキにだって、あんたの弾を使い切らせる事はできる」


春香「何で……本当に、プロデューサーさんが全部やった事なんですか?」

春香「う、ウソですよね……ねっ?」


P「……竜宮小町のステージリハで、奈落が突然開いた事があったな」

P「あと、伊織の車を付け狙い、警察の野上刑事に捕まった二人組」

P「そして、今日の一件……これらは俺の仕業だ」

一同「!!」


律子「な、何故ですかプロデューサー!! 分かるように説明してください!」

律子「どうして、あなたがこんな事をしなくてはならなかったのかを!」

律子「普段のあなたからしたら、よほどの理由が無い限り、
   こんな事しないはずでしょう!?」



P「よほどの理由が無い限り、か……律子らしいなぁ」


P「率直に言おう」

P「高木社長を見返してやりたかった……理由はそれだけだ」

やよい「えっ……」

高木「………………」


P「俺は、皆の夢の実現を後押ししていくこの仕事に、やりがいを感じている」

P「だが、やりがいだけじゃ駄目なんだ……
  少なくとも俺にとっては、俺の仕事の成果を認めてくれる誰かが必要だった」


P「人って、自分の事を他の誰かに褒めてほしい、認めてもらいたいものなんだ」

P「子供は親に、生徒は先生に、部下は上司に、同じ仲間に……承認欲求というヤツだな」


P「俺は、自分を拾ってくれた社長に褒めてもらいたくて、
  765プロでひたすら骨身を削った」

P「営業、レッスン、売り込み、ライブやフェスの企画、運営指示……
  勤務中だけじゃない。プライベートだって大いに犠牲にして、仕事の糧にしてきた」

P「アイドルの子達に話を合わせられるよう、女物のファッションやグルメ、
  セール品の情報、話題のゲームとか色々なサブカルにだって手当り次第に手を出した」

P「皆が心身共に最高のコンディションで本番を迎えられるよう、出来る事は何でもした」


P「そりゃあ、皆は喜んでくれたし、好意を向けてくれているのも感じた」

P「でも、仕事の成果として、それを一番認めて欲しかったのは……高木社長だったんだ」

P「なのに、褒めるのはいつもアイドルの子達ばかりでな……
  高木社長は、俺の方に目を向けてはくれなかった」

P「きっと、まだ足りないんだ。
  俺が今まで頑張った事なんて、プロデューサーとしてはごく当たり前の事だったんだ」

P「そう考えるようにして、俺はもっともっと仕事に没頭した。
  同業者の中で、熱意だけは誰にも負けていない自負を得られるようにもなった」

P「今度のハリウッド研修の話だって、きっと俺が選ばれると思ったんだ」

P「もちろん、律子が相応しくないと言うつもりは無い」

P「でも、これまでの積み重ねを振り返れば、俺が選ばれないはずが無いと、そう思った」


P「だが、高木社長は俺ではなく、律子を選んだ」

P「俺ではなく、律子に期待の目を向けていたんだ、社長は!」

律子「…………!」



高木「………………」

P「悔しかったんですよ、社長」

P「こんなに頑張って、結果だってそこそこ残しているのに、
  それを褒めてもらえないのは辛かったんです」


P「だから……俺は、考えを改めた」

P「プロデューサーとしての実力を認めてもらうのが望めないのなら、
  いっそ765プロとは違う勢力となって、高木社長を見返してやるんだと」

P「あらゆる面で、常に社長の765プロより優位に立ってやろう、ってな……
  ははっ、黒井社長みたいだな」

香「そ、それが伊織ちゃんや、今日皆を危険な目に遭わせた事と、何の関係があるの!?」


P「最初、伊織をステージの奈落に落とそうとしたのは、手っ取り早く金を得るためだ」

P「財閥のご息女の身に危険があったと知られれば、その報復はさぞ恐ろしいだろう……
  そうイベント会社に内々に脅しをかけ、示談金を吹っかけたのさ」

P「水瀬財閥の名を出したら、案の定向こうの責任者はすっかり青ざめてな。
  身を震わせながら、すぐに示談金を収めてきたよ」

伊織「……あんた…………!」


P「同じような事を繰り返せば、金はすぐに集まりそうだと俺は踏んだ」

P「高木社長に対抗するには、社長と同じ土俵に立たなくちゃならない……
  新しく事務所を立ち上げるための金が、俺には必要だった」


P「だが……それ以降、俺や伊織達を取り巻く状況に、不可解な変化が生じた」

P「俺が伊織を危険な目に遭わせようとする前に、別の予期せぬ事故が、
  伊織の周囲で起きるようになったんだ」


P「原因はすぐに分かった。961プロがスイーパーを雇っていたんだ」

P「わざと衆目に晒されるような騒ぎを起こし、俺が手出しできないようにしていた」

P「そして、黒井社長にそれを依頼したのは高木社長……あなただという事もな」

高木「………………」


P「加えて、シティーハンターが765プロのボディーガードに……俺は相当焦った」

P「二人の凄腕スイーパーの目を掻い潜り、伊織に手を出す事は、不可能に近いとな」


P「そこで、俺はもう一度考えを改めた」

P「彼らの目を掻い潜るのではなく、彼らと真っ向から対峙し欺く策を弄してみせようと」

P「高木社長がいくら凄腕のスイーパーを手配したところで、何も守れはしない。
  彼らの上を行き、俺を見くびった事を後悔させてやろうってな」


律子「それで、今日のフェスを利用したと……!?」

P「最初の示談金を使って、チンピラや物資を集めてな。当然、音無さんの電話も嘘だ」

P「すまないな、律子。今日が最後の仕事だってのに」

P「だが俺にとっても、今日は勝負の時だったんだ。見てみろ、その結果を」


P「シティーハンター、冴羽リョウは、銃弾を使い果たし身動きが取れない」

P「海坊主と野上刑事は、ありもしない会場周辺の爆弾を今も探し回っている。
  他の警察は、961が仕掛けている妨害工作のせいで出動できない」


P「どうだ……いつでもステージを終わらせる事ができるぞ」

P「俺が、この引き金を爆弾に向かって引けばな」ガチャッ

雪歩「……ッ!!」

亜美「や、やめてよ兄ちゃん!!」

真美「そんな事するはずないよね!? 兄ちゃん、しないよね!?」グスッ…


P「止めるかどうかは、そこの男次第だ」

千早「そこの、男……?」


高木「………………」


P「高木社長……俺に、この引き金を引かせないでほしい」

P「ただ一言、俺に謝ってほしいだけなんです。
  皆がいるこの状況で、俺は良くやってくれたと、褒めてくれさえすれば良い」

P「そうしてくれれば、俺は何も言わず、警察に出頭します」

あずさ「! ぷ、プロデューサーさん……!」


響「イヤだぞ!! 爆弾が爆発するのもヤだけど、プロデューサーが逮捕なんて…!!」

貴音「しかし、あの方はもう、覚悟を決めております……!」

美希「ハニー……どうして、ミキに何も言ってくれなかったの……!?」ポロポロ…

高木「………………」

P「社長……どうか、お願いします」



高木「…………断る」

P「!!? なっ……」


高木「キミに頭を下げる理由など無いし、下げた所でキミの心が救われるとも思えない」

律子「ちょ、ちょっと高木社長!?」


P「ッ……それが、それがあなたの答えですか……!!」ギリッ…!


P「自分の全てを、プロデューサーとしての仕事に……!」

P「命とまで思って! 俺は、必死にここまでっ!!」

P「撃つぞ……どうだ、終わるんだぞ!? それでも良いのか、えぇっ!!」ジャキッ!


リョウ「……プロデューサーさんよ。見くびっているのは、おたくの方だ」

P「!? な、何だと……この状況であんたに何ができる。もはや部外者は黙って…!」


リョウ「見くびっているというのは、俺の事じゃない」

リョウ「高木社長……そして、アイドル皆の事を、だ」

P「な、何だと……!?」



バキューンッ!!


P「うあっ!!」ビシィッ!

あずさ「きゃあっ!」

カシャンッ! カラカラカラ…



海坊主「………………」

冴子「遅れてごめんなさい」

P「くっ……!」

香「あずささん、こっちへ!」ガバッ

あずさ「す、すみません……」タタタ…



リョウ「海坊主がおたくに渡した銃にも、盗聴器兼発信機が付けられていたのさ」

リョウ「高木社長から、もしものためにとお願いをされてな」

P「く、くそぉ……!」

P「全て、お見通しだったのか、社長は……俺は、ここまでしてなお勝てなかった……」



伊織「勝ち負けじゃないわよ……」

P「……!?」


伊織「誰も争っていない、競ってもいない……全部、あんた一人の問題なのよ」

P「い、伊織……」


P「お前が一番、俺の気持ちを理解する事ができるはずだ」

P「優秀な兄達と比較され、水瀬家で冷遇されてきたお前には、
  人から認められない悔しさが、苦しさが、嫌というほど分かるはずだろう!?」

P「認めてくれない人間を、見返してやりたいという気持ちがっ!」



伊織「そうね……昨日までの私なら、大いに同情していたと思うわ」


伊織「でも、気づいたのよ……今日会場に来てくれた、お父様の姿を見て」

P「!? き、来ていたのか……やっと、伊織の事を認めて…」


伊織「ううん、違うわ」

伊織「お父様は、最初からずっと私の事を認めてくれていた。
   それに私が気づいていない、気づこうとしなかっただけ」


伊織「そう……認めていなかったのは私自身」

伊織「私が、お父様に認められていない自分自身を作り上げて、それを盾にしていたの」

伊織「そうすれば、辛い事も苦しい事も、全部お父様のせいにして片付けられるものね」

伊織「今の、あんたのように……」

P「……!!」


伊織「でも、それは違うのよ!」

伊織「一方的に自分が駄目な人間なんだと思い込んで、被害者ぶって……
   お父様が、皆が向けてくれる愛に目を向けないでいては、何も進めないって!」

伊織「お父様や高木社長、皆を、言い訳にして、逃げ道を作っちゃいけないの!
   皆の愛に正面から向き合って、受け止めるのよ!!」

伊織「そうじゃないと、自分や誰かのためになる事なんて、ずっとできない……!」


伊織「今の私なら、胸を張って言えるわ!!
   自分が輝くためじゃなく、誰かを輝かせるために私はアイドルをやるんだって!!」

香「い、伊織ちゃん……!」

律子「伊織……」



P「…………愛……愛か」

P「すまなかった……俺は、自分の事しか、見ていなかった」

P「仕事上、万全のコンディションにするためのご機嫌取りをしていただけに過ぎず……
  皆を、愛する事ができなかったんだな……」



高木「そんな事は無い」

P「えっ……?」


高木「確かに、アイドル達に怖い思いをさせたキミの行いは、褒められたものではない」

高木「だが、キミ自身は決して、皆を命の危険に晒すような真似はしなかった」

高木「それは、キミが彼女達を誰よりも大切に思っている……愛している証拠だ」



P「何を言っているんですか……」

P「あの爆弾を見てください。現にこうして皆を命の危険に晒しているんです!」

P「こんな人間が、自分のアイドルを愛していると、何で思うんですか!?」

リョウ「思うさ。おたくの話を聞いてりゃ、よぉくね」カチャッ…

P「!?」

カシンッ!


リョウ「それを俺が証明してやる」スチャッ…



香「りょ、リョウ!? アンタ一体何をするつもりなの!?」


リョウ「あの赤のコードを切る」


香「そ、そんな、ちょっと……!!」

リョウ「香」

香「! …………」


リョウ「………………」



香「…………信じるわ、リョウ。アンタも、プロデューサーさんの事も」

P「な、ば、馬鹿なっ!! 正気か!?」


リョウ「冴子と海坊主はどうする? 俺を止めるか?」

冴子「止めろって言ったってやるんでしょう?」

海坊主「時間の無駄だ。さっさと済ませろ」



リョウ「……皆の意思も必要だ」

リョウ「どうだ? あのプロデューサーさんを信じるか?」

P「な、あ……」



春香「信じます」

P「!?」


春香「何だか、今のプロデューサーさんの話を聞いたら……
   ちょっと、変だけど、安心しちゃいました」

春香「あぁ、やっぱりプロデューサーさんは、私達のプロデューサーさんなんだなって。
   ねっ、千早ちゃん、皆?」

千早「えぇ、そうね」ニコッ

千早「私達を本当に愛していない人が、愛してやれなかったなんて、言えるはず無いもの」

やよい「プロデューサー! 私も信じますー!!」ピョン!

響「プロデューサーが、完璧な自分達のステージを台無しにするわけ無いもんな!」

雪歩「プロデューサー、私、怖くありません」

美希「ミキも、ちょこっとだけ心配してソンしたの。アハッ!」

あずさ「そうだわ。私だけステージ衣装じゃないから、早く着替えてこなくちゃ~」

真「アンコールが鳴りっぱなしだよ! もうそろそろ準備しないと……」

貴音「着替えを手伝いましょう、三浦あずさ」

リョウ「俺も後で行こう」

香「行くなっ!」

亜美「おじちゃんの代わりに、亜美達があずさお姉ちゃんの着替えに行ってくるYO!」

真美「写メ、めちゃいっぱい撮ってきてあげるよん♪」

律子「撮るなっ!」


律子「もう……私が研修に行くべき人材だった訳じゃなくて、
   プロデューサーが765プロに残すべき人材だったんですよ」

律子「今の私の実力じゃ、これだけの子達をまとめ切れないんですから……
   それくらい、分かってくれていると思ったのになぁ」


伊織「いくら鈍感なあんたでも、これで皆の気持ち、十分に分かったでしょう?」

P「や、やめろっ! 何でこんな俺の事を信じるって言うんだ!!」

P「俺は身勝手な理由で皆にひどい事をした最低の人間だ!! 皆死ぬんだぞ!?」

P「俺を信じるな!! 聞いてるのか!? 逃げろ、ここから早くっ!!」

P「やめてくれっ!! 俺の負けなんだ、頼むっ!! 俺を信じるなぁっ!!!」


リョウ「…………」ガチャッ

P「やめろおぉぉぉっ!!!」


ガアァンッ!!!


ブチッ!





シィーーーン…



P「信じられても……余計に、惨めになるだけじゃないか……」ガクッ


リョウ「おたくは、この子達の愛に向き合う度胸が無かっただけだ」

P「うっ、う、うぅぅ……!」ポロポロ…



高木「すまなかった」

P「…………!?」


高木「私の言いたい事は、水瀬君がほとんど言ってくれたよ」

高木「ファンや誰かを輝かせるのがアイドルなら、彼女達を輝かせるのがプロデューサー」

高木「そのためには、私の顔色などではなく、彼女達に目を向けてほしかったのだ」

P「社長…………」


高木「他人に自分の価値を一方的に見出してほしくは無かった……
   自分の価値を決めるのは自分自身である事に、気づいてほしかったのだ」

高木「辛い思いをさせてしまい、すまなかった」


P「う、うあぁ……ぐ、うぅぅ……っ!!」ボロボロ…



P「うっ、う…………」


スクッ…

P「刑事さん……俺を連れて行ってください」

一同「!!」

P「皆に、顔向けできないですし……罪もたくさん犯しました」

P「すみません……」


冴子「そうね……銃刀法違反、威力業務妨害、幇助に恐喝……
   数え挙げればキリが無いくらい、立件できるネタには困らないわ」

冴子「でも……私の隣にいるこの二人」

P「…………?」


冴子「この男達こそ銃刀法違反の常習犯だし、今回だって爆破事件を何度も起こしてる」

リョウ「アハハハ、アハ……」ダラダラ…

海坊主「…………ッ」ダラダラ…


冴子「あなたを逮捕するとなれば、この男達も逮捕しなくてはならないし、
   私にとってそれは少し具合が悪い事なの」

冴子「だから、連行するかどうかは、この際彼女達に判断を委ねる事にしようかしら」クイッ



伊織「………………」

P「み、皆…………」

伊織「……今のあんたに必要な事は、自分を認めてあげる事よ」

伊織「分からないならよく見てなさい。
   あんたが育てた私達が、どれだけあんたの事を想っているのか」

伊織「ステージが終わっても、まだそんなふざけた事言ってたら、顔引っぱたいてやるわ」


伊織「春香」

春香「うんっ!」



春香「よぉーし!!
   皆! 私達の今の最高を、会場の隅々まで、届けようっ!!」

亜美・真美「お→っ!!」

やよい「うっうー!!」

響「なんくるないさー!!」

真「それじゃあ、いつものヤツやろうか!」

美希「うんっ!!」



春香「765プロぉーっ!! ファイトぉーーっ!!!」


「目指せっ!! トップアイドルー!!!」

~会場~

アンコール!! アンコール!! アンコール!! …


北斗「まだ出てこないな。何かあったのか?」

冬馬「知るか。それより翔太、もっと紫のサイリウム貸せ」

翔太「えぇー? やっぱり冬馬君、三浦あずささんが推しメンなんだね~」

北斗「マザコンだからな、冬馬は」

冬馬「マザコンじゃねぇ!」


黒井「まったく!! コイツらときたら、さっき戦った765のライブを見るだとぉ!?
   何を考えているのだっ!!」プンスカ!

新堂「おそらく、敵情視察というのが建前ではないのでしょうか」

黒井「何が建前だっ!! 大体、敵情視察という言い方も気に食わん!
   我が961プロにとっては、765の連中など敵ですらないのだからな!!」


新堂「ですが、結果は……おっと失礼」

黒井「うるさいっ!! アレは審判員の目が節穴だったのだ!!
   こんなフェスは土台インチキだ!!」

黒井「おのれ高木のヤツめぇ~!!
   無茶な依頼をして、散々手間を掛けさせておきながら、何て図々しいヤツだっ!!」

フッ…


黒井「……んん~~? さっきから黙っているが、何だ水瀬、貴様今何を笑って…」

黒井「!?」


黒井「み、水瀬……貴様、何だそのおびただしい数のピンクのサイリウムは……」


黒井「!! 貴様、何だその勝ち誇ったような顔は、水瀬ぇっ!!」ガタッ!


黒井「この私を馬鹿にするんじゃあない!! おい、責任者っ!!」

黒井「売店で売っているサイリウムをありったけよこせ!!」バサッ!

黒井「ありったけだ!! 横にいる男など霞むほど大量に買い占めてやるっ!!」


新堂「ホッホッホッホッ」ニコニコ

フッ ワアァァァァァァァァ…


北斗「おっ、やっとか」

冬馬「おいおっさん、始まるぞ。そろそろ配置に着け、ってうおっ!?」ドサッ!


黒井「そこらにいる愚民共に配れ!
   961プロからのお恵みをありがたく受け取れとな!!」ポイポイッ!

翔太「やるぅ、クロちゃん!」

黒井「私が一番なのだっ!!
   765プロのライブだろうと、会場を支配するのはこの私……モガモガ!!」

冬馬「出しゃばるなよおっさん、見えねぇぞ」



新堂「おぉ、お嬢様…………」

http://www.youtube.com/watch?v=OzOZjMho8Z0

~~♪

ワアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!


雪歩(うわあぁ……!)

あずさ(サイリウムが、こんなにたくさん……)

千早(なんて綺麗なのかしら……)


貴音(私達も、負けてはいられませんね、伊織)チラッ

伊織(当然よ! にひひっ♪)ニコッ



タンッ タンッ タタン!

「~~♪ ~~~~♪」

「~~~♪ ~~~~~♪!」



P「………………!」

高木「おぉ……」


律子「……………………」

伊織「~~~~♪ ~~~♪!」タンッ タタンッ!


――伊織は前に出すぎてる! あと振りが全体的に遅れ気味よ!


伊織「~~~♪ ~~~~~♪!」タンッ タタン タッ タンッ!


――伊織、そう、指先! 見られてる事を意識して神経走らせなさい!



――ありがとうございます! ぜひ、ウチの竜宮小町を御社の番組で…!

――何やってるの伊織っ!! あれじゃディレクターさんに失礼でしょっ!

――はい、お疲れ様。オレンジジュースよ……えぇっ、これじゃダメ? もうっ。

――よっしゃ!! ……はっ!? お、オホン! まだまだよ、全然ダメっ!!



――良く頑張ったわね、伊織。


伊織「~~~~~~♪!!」タンッ タンッ!


 ねぇ… 逢えて良かった

 ねぇ… あなたに言葉言うなら

 ありがとう そして よろしく

伊織(プロデューサーがアイドルを輝かせて、アイドルが皆を輝かせる)

伊織(その向こう側に、何があるのかな……)


伊織(知りたい! いつか知って、あいつや、律子に……!)

伊織(お父様に教えてあげたい!)

伊織(皆が支えてくれたおかげで、こんなに素敵な事があったんだって!!)

伊織(いつか、きっと……そのためには!)


「~~~~♪ ~~~~~♪」

伊織(振りは、遅れてないわよね? 5、6、7、8!)

伊織(指先も大丈夫! 音程は、声は出てるの?)

伊織(全体の配置は、どうなのかしら? ちゃんとバランス良く動けてる!?)

伊織(見てる、律子……!)


伊織(もっと、律子の言う事、聞いとけば良かったなぁ……!)

伊織(律子にもっと色々な事、教えてほしかったなぁ……!!)



伊織(ごめんなさい、律子……!)

 STAGE 歌いたいから
 LIVE 踊りたいから
 新しい幕を開けよう
 NEVER END IDOL

 M@STER PEACE!!

ワアアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!


 夢を初めて願って 今日までどの位経っただろう
 ずっと一日ずつ 繋げよう
 夢は自分を叶える為に 生まれた証だから
 きっと この心で
 私のM@STERPIECE


ワアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!



高木「見たまえ……キミが育てた子達だ」


P「俺は……なんて馬鹿な事を…………」



香「キレイ~~……!」

冴子「私達には、少し眩しすぎるわね……」

海坊主「………………」

律子「……………………」


リョウ「どうだい? 最後に見る教え子達の晴れ姿は」



律子「…………全っ然ダメです」

律子「春香と伊織はまだ振りが遅れてましたし、雪歩は縮こまりすぎ」

律子「やよいは逆に乱れすぎだし、亜美と真美、響は雑。美希も周りを全く見てない」

律子「千早は途中で自分のポジションを見失って、あずささんを困らせてました」

律子「貴音と真も、ペアで踊るところの合流が遅れすぎです」

律子「“最高傑作”と呼べるだけの完成度には、まだまだほど遠いと言わざるを得ません」


律子「でも…………」


律子「ッ……はぁ、す、すみません。でも……!」



律子「私は、このライブを一生忘れません……!」ポロポロ…


リョウ「………………」フッ


ワアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!! パチパチパチパチパチ…

………………………

………………


ザワザワ…  ザワザワ…

『ただいま、アシアナ航空107便のご搭乗案内をしております。
 ご搭乗の方は、26番ゲートまでお越し下さい』


コツ コツ…

律子「………………」



律子「…………!」ピタッ



伊織「……遅かったわね」


律子「伊織…………」


律子「何をしているの? こんな所で」

伊織「見送り以外に何があるのよ」

律子「……冴羽さん達から聞いたのね?」

伊織「………………」


律子「湿っぽいお別れは嫌だから、皆には違う日付を伝えておいたのに」

伊織「この伊織ちゃんを出し抜こうったって、そうはいかないのよ」

伊織「どいつもこいつも……カッコつけすぎなのよ、あんたもプロデューサーも」


律子「あぁ、プロデューサーね。もう961プロの仕事には慣れたかしら」

伊織「まだじゃないの? ウチと全然雰囲気違うもの、あそこ」

律子「そう? あの人なら、それなりにうまくやると思うけど」

伊織「皆に顔向けできるような人間になるまで、一からやり直すだなんて……
   どうしようもない馬鹿ね」

伊織「恐喝したイベント会社にだって、水瀬財閥から話を付けて、
   もう許しをもらっているのに……まったく」

律子「“本当の”示談金を渡して、でしょう? ふふふ」



伊織「律子、その……」

律子「何?」

伊織「……ダウンタウンは、夜出歩かないようにね」

伊織「本当に、危ないから……」

律子「ふふ……ありがとう、気をつけるわ」

伊織「………………」


律子「私からも、いいかしら?」

伊織「えっ? い、いいけど……」


律子「今まで、ありがとね、伊織」

伊織「えっ……」


律子「あなたが竜宮小町のリーダーを務めてくれて、私はすごく助かったわ」

律子「プロデューサーとして未熟な私のサポートも、何度してもらえたか分からない」

律子「あなたがいてくれたから、今の私があるの」

伊織「………………」


律子「いつか、恩返しをするわ」

律子「エンターテイメントの本場で、いっぱい知識も経験も吸収して、
   大きくなって帰ってくる」

律子「約束よ」

伊織「………………」


律子「そろそろ時間ね……それじゃあ、伊織、皆によろしく…」スッ

伊織「! ……律子っ!」

律子「?」


伊織「あ、あのっ! ハリウッドの方に住んでる連中って、
   鼻持ちならない小金持ちばかりだから、まともに相手しないようにね!」

伊織「それと、あっちはカードでの買い物が一般的だから、そのつもりで!
   キャッシュで支払いしたら貧乏人って思われる事もあるから気をつけて!」

伊織「地下鉄はあまり乗らない方が良いわ! 乗るなら誰かと一緒に!」

伊織「それに、それと……!」



伊織「今までありがとう、律子!!」

伊織「私も、次に会う時までに、もっと立派なアイドルになれるよう頑張るから!!」

伊織「その時に、私も成長した姿を見せて恩返しするっ! 約束よ!!」



律子「えぇ、楽しみにしているわ」ニコッ


律子「それじゃあ……行ってきます」

キイィィィィィーーーン…



伊織「……………………」


リョウ「ちゃんと話せたか?」

伊織「うん…………」


リョウ「寂しくないか? 彼女と離れ離れになって」



伊織「……寂しいわよ」

伊織「寂しいに、決まってるじゃない」

リョウ「………………」


伊織「でも、寂しがってばかりいられないわ」

伊織「このスーパーアイドル伊織ちゃんを待ってるファンが、大勢いるんだもの」

伊織「そのファンの人達のために……育ててくれた律子やあいつ、お父様のために、
   もっと実力をつけて、皆を喜ばせなくちゃ」

伊織「下向いてばかりいたら、律子達に笑われちゃうわよ。ねっ、シャルル?」


リョウ「…………そうか」フッ

伊織「そうよ。ところで、あんたはもう765プロとの契約は切れたのよね?」

リョウ「あぁ。一応、社長から報酬ももらったしな」


伊織「あら、社長から聞かされてないかしら?
   今、ウチの事務所、新しいプロデューサーを臨時で募集中なの」

リョウ「はぁ? まさか、俺にやれってんじゃないだろうな」

伊織「皆もあんたに懐いてるし、社長もティンと来たって」

リョウ「馬鹿言え、できるかそんなもん」

伊織「そうよね。小鳥はともかく、私は大して期待してなかったから別にいいけど」


伊織「それじゃあ、私があんたに依頼するわ」

伊織「午後からレッスンがあるから、それまでどこか美味しいランチが食べられる所へ、
   この伊織ちゃんを案内しなさい」

伊織「できれば、いつぞや食べられなかったイタリアンが良いわね」


リョウ「そういう依頼なら、いつでも大歓迎さ」

リョウ「こう見えて、レディーのエスコートには自信があってね」





~おしまい~

アイドルマスターとシティーハンターのクロスオーバーSSです。
終盤、アイドルマスターの楽曲『オーバーマスター』と『M@STERPIECE』の歌詞を
一部引用しております。

シティーハンターのED曲『Get Wild』は、個人的に最も好きなアニソンの一つですが、
空港での別れのシーンで流れる同曲が一番だと思います。
もし機会があれば、海坊主回をぜひご覧ください。
ルパン三世やコブラ等と並び、大人がカッコ良かった時代を感じさせる作品だと思います。

駄文長文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
それでは、失礼致します。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom