水銀燈「……おもちゃじゃないわよ」 (29)

 
今日はクリスマス・イヴ

Jingle, bells! Jingle, bells! Jingle all the way~♪



街はクリスマスソングやイルミネーションでいっぱい!
街の人たちも心なしか足取りが軽そうです。


……あら? そんな中、一人の女の子はご機嫌斜めなご様子。
病院の窓際でため息をついている彼女の名前は………


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419429180

もしもローゼンメイデンがただの呪い人形だったら
短いです。
オチなしヤマなし。

かなり前のものですが前スレ
真紅「おもちゃは箱を飛び出すのだわ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405692674/)

 
――――有栖川大学病院の一室


めぐ「はーぁ…、なにがクリスマスよ。バカみたい」

めぐ「病院食は相変わらず味気ないし、レクリエーションは退屈だし…」

めぐ「パパもどうせ来ないでしょうし…、ご飯の後の申し訳程度のケーキもなんだか惨めな感じだわ」

めぐ「……何が前夜祭よ。やってられないわ」

めぐ「そもそも、なんで日本のクリスマスはイヴが本番みたいな雰囲気なの?」

めぐ「普通は誕生日が本番でしょ?なんで前日でこんなにお祭り騒ぎなのよ」

めぐ「そもそも25日過ぎたらツリーを片付けちゃうのがおかしいわ。そんな事する国は日本だけよ」

めぐ「ほかの国みたいに1月6日まで飾っときなさいよ」

めぐ「あと、カップル!そこは家族と過ごしなさいよ。忌々しいわね」




あらあら、結局はそこなのね。でも大丈夫。
もうすぐ貴女の元に愛しのお父様が来てくれるから。

めぐ「クリスマスが過ぎたらすぐお正月。ホント目まぐるしい」

めぐ「もっと間隔空けなさいよ。忙しないわね」

めぐ「お正月かぁ。お正月……」

めぐ「来年もお年玉なしかなぁ…」

めぐ「まぁ、お金があっても外に出られないけどね」

めぐ「せめてクリスマスプレゼントくらいは貰ってもいいと思うのよ」


めぐ「……」

めぐ「駅前のクリスマスツリー爆発しないかなぁ」




め、めぐちゃんのお父様!早く来てあげて!

 
コンコン

「めぐちゃん、体調はどうかな?」

めぐ「あら、佐原さん。体調がいいように見えるなら貴女の目は腐っているかもね」


看護婦さんへの八つ当たりもいつも通り。でも、今日は特別な日になると思うわ。


「もう。今日はお父さんも居らしてるのよ?」

めぐ「えっ!?パパが…? だ、だから何よ」

「ふふ、今呼んでくるわね。 柿崎さーん!」

めぐ「……」


「やぁ、めぐ。メリークリスマス!」ハッハッハッ

めぐ「パパ?何そのテンション…。久しぶりに会ったからどんな接し方か忘れちゃったの?」

「今日はせっかくのクリスマスだからね。今日のパパはハイテンションなんだよ」ハハハ

「柿崎さんったら」ウフフ



めぐ「…バッカじゃないの」

めぐ「で、今日はなんの用?クリスマスはいつも来てくれないじゃない」

「それを言われると痛いな。最近のクリスマスは平日だからね。仕事で忙しいんだよ」

めぐ「じゃあ、なんで今日は来られたのよ。会社は?」

「抜け出してきた。だからすぐ戻らないとな」

めぐ「パパってそんな性格だっけ?」

「今日だけだよ」



めぐ「それで?ほんの少ししか居られないのにどうして来たのよ」

「あぁ。どうしてもめぐにクリスマスプレゼントを渡したくね」

めぐ「プレゼント…?パパが?」

「気に入ってもらえるかわからないけど」

ドサッ

めぐ「かばん?」

「開けてごらん」

めぐ「…」

パカッ



水銀燈「」

めぐ「きれい…」

「気に入ってくれたかな」

めぐ「ま、まぁまぁね。及第点ってとこかしら」

「はは、それなら良かった」



「さて、パパは仕事に戻るよ。今日はプレゼントを渡すことができて良かった」

めぐ「……パパ」

「うん?」

めぐ「あの………ぁりがと…」

「こちらこそ、ありがとう。じゃあ、また来るよ」

めぐ「…ぅん」

水銀燈「」

めぐ「すごい…」

めぐ「さっきは少ししか見られなかったけど、改めて見ると本当にすごいわ」

めぐ「アンティークドールっていうのかしら?」

めぐ「この歳でお人形もどうかなって思ったけど、これはそういう次元じゃないわ」

めぐ「ナン十万くらいしたのかな?すごく高そう…」

めぐ「久しぶりのパパからのプレゼント。大事にしよう」

水銀燈「」

めぐ「そうだ!お人形だから名前をつけなくちゃ」

水銀燈「!」

めぐ「なんて名前にしようかなぁ」ウキウキ

水銀燈「」

めぐ「銀髪に黒いゴスロリドレス。凛とした顔立ち」

めぐ「銀ちゃん……安易だわ。クロ……犬猫じゃないんだし…」

水銀燈「」

めぐ「黒蜜糖…は美味しそうだし、ベニラ…柿崎ベニラ……う~ん…」

めぐ「クロロ…、ゲロシャブ…、キャロル…、マリー…、ジューゾー…、メアリー…、エマ……」ウーン…

水銀燈「」

めぐ「よし!黒蜜糖(こくみつとう)が一番いいかな」

水銀燈「…」

めぐ「私の名前は、柿崎めぐ」

めぐ「これからよろしくね。黒蜜糖」

水銀燈「」

 
深夜


♪そらに キラキラ おほしさま

みんな スヤスヤ ねむるころ

おもちゃは はこを とびだして~♪



水銀燈「うるさいわね……私はおもちゃじゃないわよ」パカッ


おはようございます。黒蜜糖様。


水銀燈「次その名前で呼んでみなさい。叩き潰すわよ」


あら、すみません。
でも、ゲロシャブにならなくて良かったですね。


水銀燈「……」ギロッ


うふふ、そんなに見つめられると照れちゃいます。
それで、今回はどうですか?


水銀燈「………」


今回は病人ですからね。
水銀燈様もそんな相手からは力をもらえないでしょう?


水銀燈「……」


うふふ、さすが水銀燈様。
相変わらずお優しいのですね。


水銀燈「…ぅるさいわね」

 
これからどうするのですか?水銀燈様。
この子の元から離れますか?


水銀燈「………」


お父様から頂いたプレゼントが無くなっていたら、この子は悲しむでしょうねぇ。


水銀燈「…」

めぐ「すぅ…すぅ…」

水銀燈「……」ハァ…

水銀燈「この私がプレゼントにされるだなんて…本当に笑っちゃうわぁ」

水銀燈「……特別よ。この水銀燈が少しの間そばに居てあげる」

水銀燈「その前に…私の名前くらいは覚えてもらうわ」


どうするのですか?


水銀燈「簡単よ。耳元で囁き続けるの」


え゛!?ささやき続けるって…。


水銀燈「水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈すいぎんとう……」

めぐ「うぅ~~ん…」

水銀燈「水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈スイギントウすいぎんとう……」


す、水銀燈様!気づかれますよ!?
それに…、それだと本当に呪い人形みたいですよ?


水銀燈「うるさいわね」

 
翌朝


めぐ「………」ポケー

めぐ「……」チラッ

水銀燈「」

めぐ「おはよう。黒蜜糖」ニパッ

水銀燈「」





深夜


水銀燈「………」パカッ


うふふ、おはようございます。黒蜜糖様。


水銀燈「……」


あら?怒らないのですか?


水銀燈「はぁ…、しばらくは黒蜜糖でいいわよ」

 
えっ?えっ?水銀燈様?


水銀燈「黒蜜糖でいいって言ってるの。聞こえなかった?」


どういう心境の変化ですか?
この子の事がそんなに気に入ったのですか?


水銀燈「うるさいわね。いいでしょ、別に」


人間嫌いの水銀燈様にしては珍しいですね。


水銀燈「本当にうるさいわね。それに、この子だって私が動き出せばすぐに態度が変わるわよ」


水銀燈様…。




『あ、悪魔だ!悪魔が教会に住み着いているぞ』

『うわぁあああ!!化物だ!神父様に連絡を!』

『し、死神様ですか!?お、お願いします。命だけは…』





水銀燈様の人間嫌いは筋金入りでした。
お人形が動くという非現実。さらに、その容姿もあって人間たちは恐れていきました。

水銀燈「まったく…。黒のドレスに逆十字。それに、この羽」バサッ

水銀燈「私を作った奴は本当にイカレてるわぁ」

水銀燈「なんで私をこんな風に作ったのかしら?」


私は美しいと思いますよ。まるで天使のようです。


水銀燈「はぁ?バカじゃないの。こんな黒い天使がいるわけないじゃない」


うふふ、そう思ったのですから仕方ありませんわ。
この子も『綺麗』と言ってくれたじゃないですか。


めぐ「すぅ…すぅ…」

水銀燈「……」


かわいい寝顔。私もめぐ様とお友達になりたいです。


水銀燈「私『も』って何よ。どこを見たらそう見えるの」


うふふ、見たまんまですよ?


水銀燈「…なんなのよ…」ハァ…

 
それから、ゆったりとした時が流れました。


めぐ「黒蜜糖の髪は綺麗ね。梳くのが楽しくなるわ」

水銀燈「」

めぐ「目蓋って開かないのかな?」

めぐ「貴女の瞳も見てみたいけど、このままでも眠り姫って感じで好きよ?」

水銀燈「」

めぐ「貴女とお喋りできたら素敵なのになぁ」

水銀燈「…」

めぐ「ふふ、いつでも喋っていいからね」

水銀燈「…」



めぐ「明日で来年かぁ。もし、お年玉をもらえたら黒蜜糖に何か買ってあげるね」

めぐ「さて、病気のめぐちゃんはもう寝るわ」

めぐ「黒蜜糖。良いお年を。おやすみなさい」





水銀燈「めぐ…」

 
――――病院の屋上


水銀燈「ねぇ、メイメイ」


はい、どうしました?水銀燈様。


水銀燈「めぐの病気ってなんなのかしら?」


たしか……心臓の筋組織が弱いと聞きました。珍しい病気みたいです。


水銀燈「……そぅ…」

水銀燈「……」

水銀燈「…どうにかして治せないかしら」


水銀燈様も解っていると思いますが、私たちでは…。
ローザミスティカ…を使っても……。


水銀燈「?? ローザ…?なに?」


なんでもありません。
力を送れば元気になるかもしれませんが、一時的なものだと思います。


水銀燈「やり方はよくわからないけど、いつもの反対の事をするのよね」


どうなのでしょう。感覚的な事は水銀燈様にしかわからないことですし。

水銀燈「まぁ、いいわ。明後日までにはお暇するわよ」


えっ?もうですか?


水銀燈「えぇ。あの子は鋭いわ。いつ気づかれるかわかったものではないもの」

水銀燈「めぐから力は貰えない。病気も治してあげられない」

水銀燈「やることは何もないの。なら、さっさと去った方がいいわ」


それは…、寂しいですね。
あの子なら水銀燈様のパートナーになってくれると思ったのですが…。


水銀燈「フン…、私のパートナーは貴女だけよ。メイメイ」


水銀燈様…。嬉しいです。
でも、あの……、めぐ様になら気づかれてもいいのでは…?


水銀燈「バカ言いなさい。私が今までどんな仕打ちを受けてきたか見てきたでしょ?」


そ、それは…。


水銀燈「洋服とか買われる前に出て行くわよ」


はい…。

 
翌朝


水銀燈(昨日はあんな事言ったけど、めぐの側にいると落ち着くのよね)

水銀燈(髪を梳いてもらうのも嫌いじゃないし)

水銀燈(お団子とか髪を弄られるのは嫌だけど…、まぁいいわ)

水銀燈「……?」

水銀燈(今日は起きるのが遅いのね。どうしたのかしら)

水銀燈「……」パカッ チラッ





めぐ「はぁ…はぁ……うぐっ!」


水銀燈「めぐ!?」

水銀燈「めぐ!しっかりしなさい」

めぐ「はぁ…はぁ…、あ…れ…?こく…みつと…?」

水銀燈「そうよ。黒蜜糖よ」

めぐ「ぁはは…、…やっと…喋ってくれた」

水銀燈「めぐ…、貴女やっぱり気付いてたの?」

めぐ「なんとなく…だけどね…。喋って…くれそうな…気がしてたんだぁ…」

めぐ「思った…とおり…、綺麗な瞳。それに…、天使様みたい」

水銀燈「っ!」

めぐ「私のさいご…ハァ…あなた……良かっ……」カハッ

水銀燈「めぐ!!いいから黙ってなさい!」パァアア!!


水銀燈様!? その勢いだとローザミスティカが…!
それに なぜ…?


水銀燈「なぜですって…?今回病人を選んだのは貴女でしょ。メイメイ」


そ、それは…。


水銀燈「この子に何かを感じたから選んだのでしょう? …私もよ」

水銀燈「なんだか捨て置けないのよ。だから助けるわ!」


水銀燈様!

水銀燈「黙ってるか手伝うかどちらかにしなさい。それに、もうナースコールは押したわ」

水銀燈「医者が来るまでありったけの力をめぐに…」ゼェ…ハァ…


そ、それだと他の人間にも見つかりますよ!?
それに、このままだとローザミスティカが…!


水銀燈「黙りなさい。貴女さっきから保身のことばかりじゃない」

水銀燈「そのローザミスティカってのも気になるけど、今はめぐよ」

水銀燈「それと…」

水銀燈「貴女、めぐの友達になりたいんじゃなかったの?」


でも…、でも…!それだと水銀燈様が!


水銀燈「…そうね。私が生まれた意味。そして、どんな人間が私を造ったのか知りたかったけど…ここまでのようね」


そ、そんな…。

水銀燈「結局、私達は人間に振り回されてばかりよね」


うぅ…。


水銀燈「あら。いつもの強気な貴女はどこへ行ったのかしら?メイメイ」フフ…


こんな終わり方なんて……。


水銀燈「散々裏切られて、そして、最後の最後まで人間のために動く…」

水銀燈「本当に…我ながらバカみたい」

めぐ「はぁ…はぁ…」

水銀燈「まぁ…悪い気はしないわ」


……。そうですよね…。
取り乱して申し訳ありませんでした。
私の力も…どうか…。


水銀燈「フン!いい心がけね。いくわよ、メイメイ!」

 
数日後


水銀燈「」

めぐ「う~ん、今日も起きてくれないね。メイメイ」


はい…。ローザミスティカに損傷はなさそうなのに…。


めぐ「うふふ、きっと照れてるだけよ。あーぁ、お礼を聞いてもらいたいのに」


照れているだけ。そうだといいのですが…。


めぐ「よし!じゃあ、お年玉で買ったドール服を着せちゃおう」

めぐ「黒蜜糖…じゃなかった。水銀燈が目覚めてもいいようにおめかししなくちゃね」


水銀燈様怒りそう…。
でも、面白そうですね。めぐ様。


めぐ「さっすがメイメイ。話がわかるわね。じゃあ、まずはこれとこれから」


ふふ、まるで着せ替え人形のようですよ。水銀燈様。


水銀燈「」







水銀燈(……おもちゃじゃないわよ)

 
力を使いすぎて数日間眠りに就いていた水銀燈。
彼女たちが思っていたよりも大事にならなかったみたい。

最近目覚めた彼女はバツが悪いみたいで、狸寝入りを決め込んでいます。
でも、もうすぐそれも終わり。


着せ替え人形にされた水銀燈が耐えられなくなって起きるまで、あと数分。



こうして、呪い人形の水銀燈はメイメイと一緒に病室に住み着きました。
その後、ジュンくんと呪い人形の蒼星石と出会いますが、それはまた別のお話し。
三人は仲良く暮らしましたとさ。

水銀燈「ちょっと!何よこの服!服ってより紐じゃないの」

めぐ「それは水着よ。水銀燈」


あらあら、水銀燈様。セクシーですよ。


水銀燈「いいから私の服を返しなさい!」

めぐ「え~、もっと水銀燈を弄……一緒に遊びたいなぁ」

水銀燈「弄ぶ気満々でしょ!?私はおもちゃじゃないわよ!!」

めぐ「あら。じゃあ何なのかしら?」

水銀燈「はぁ…、この問答。これで何度目よ。」

水銀燈「ちゃんと聞いてなさい。



私は大切な…貴女のお友達よ」


~おわり~

これで終わりです。
ありがとうございました。

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