マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」三機目 (475)

やあ (´・ω・`)
ようこそ、このスレへ。
この1/144 クシャトリヤはサービスだから、まず作って落ち着いて欲しい。
うん、「次スレ」なんだ。済まない。
バンシィの両手もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、このスレを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「歯車の意地」みたいな、まぁだいたいそんな感じの何かを感じてくれたと思う。
殺伐とした宇宙世紀で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、このスレを立てたんだ。
嘘だよ、本当は間違って立っちゃったんだ
とりあえず、注文を聞こうか。

「マリーダさんを幸せにして」以外はな!

1:此処は00世界を基準に宇宙世紀設定を織り交ぜた感じの世界です。改変が多く、名称は同じでも設定が違う単語も多いですが御容赦を
2:NT能力を持った00キャラが多数現れます。逆に名前だけ出演の他ガンダム作品キャラ(整備班とか特に)も沢山います。要はカオスです
3:色々と形を変えた他作品MSも多々現れます。基本的にはUC、00外伝から引っ張ってきますが、やっぱりカオスです
4:いつの間にかグラハムのガンダム愛が見えなくなりました。NTーDによる愛への変換と認識してください。マリーダと何か知らねえけどしょっちゅうイチャイチャします、その時は壁があるじゃないか諸君
 ちなみに我が家にはもう壁がない

前スレ(携帯で失礼)


ガンダム速報さんの方で初期VIP時代及び一期はまとめられているようです、感謝です

ようやく三つ目のスレだ、フラッグファイター
此処まで来れたのも諸君等の援護のおかげといえるだろう、感謝する
支援絵も有り難く頂戴している、いつも済まないな

三スレ目ということもあり、ちと軽い外伝を投下する
楽しんで貰えたなら幸いだ

では、投下だフラッグファイター

 人里から離れた、山の奥

 堅く閉ざされた鉄の扉が、ゆっくりと開かれていく

 震える足で歩を進め、目の当たりにしたのはこの世の地獄

 吐き気を抑えることが出来ず、何度も手水場に駆け込んだ

 嫌悪と憤慨に蝕まれつつも、進んだ先に彼女はいた

 狂気と悪夢に蝕まれ、欲望と悪意に体も心も食い尽くされて

 それでも尚、彼女は息をしていた、生きていた

 生気を宿さぬ人形のような眼で見つめられ、差し出された小さな手

 少し力を込めたら折れてしまいそうな、その手を握ったとき

 決心した。彼女を守るのは、自分の責務なのだと



「許してくれとは言わない——」

「全ては知らなかった……私達の罪だ」

——It's all in the past.——

——西暦2302年:輸送機——

機長『当機は予定通り、1500に目標地点へと到着致します』

ホーマー「……」

機長『カタギリ司令?』

ホーマー「ん、あぁ……済まない。ありがとう」

 上の空で返事を返し、また窓の外を見つめる
 高度を下げた要人輸送用の航空機が、雲の海へその身を投げる最中であった

ホーマー「……」

 雲は風に流され、形を変える
 永久に変わらない雲など存在しない
 かといって、雲が完全に消え去ってしまうこともない

 雲は流浪し絶えず変化し、消えてはまた現れて、それを永遠に繰り返していく
 人もまた、同じだと思った

 そう思わなければ、やってなどいられなかった

ホーマー「……」

——三日前——

 日本風に造らせた屋敷の中、淡い日差しが生い茂る緑を強く照らしていく
 蝉の声は遠く、蒸し暑さばかりが際立つ夏であった
 広い庭に小鳥が数匹、降り立ってはしきりに地面をついばんでいく
 二人並んで、ただ淡々とその様子を眺め続けた


 楽しいかと問われれば、はいとは言えないだろう
 ただ、少しでも長く彼女と共にいたかったのだ

ホーマー「…………」

マリーダ「…………」

ホーマー「勉強は、うまくいっているか」

マリーダ「はい、何一つ滞りなく」

ホーマー「そうか……」

 今年で十三歳。どことなく大人びてきている風貌は、妻曰わく【将来は別嬪さんね】とのこと
 絹のように細い栗色の髪も、背中の中程までに伸びていた
 群青の和服に赤の帯、髪には簪。憂いを帯びた蒼の瞳は、整った顔立ちと相まって実に美しく輝いている
 妻が彼女に着せたいといった着物は、もう戸棚に入り切らぬほどにその数を増やしていた
 口数はまだ少なかったが、これでもまだいい方なのだと納得していた

ホーマー「……先生が褒めていたぞ、もう教えることが無いくらいだとな」

マリーダ「そうですか……」

ホーマー「何か学びたいことがあれば、いつでも言え」

マリーダ「ありがとうございます、ホーマー司令」

ホーマー「……うむ……」

 添水の嘶きが庭に響き渡り、小鳥が空へと舞い上がる
 会話が途切れてしまうのは少し悲しかったが、今ではこのむずがゆさも癖になってきたくらいであった

ホーマー(二年前に比べれば……本当に良くなったものだ)

——二年前、廃人寸前の彼女を救い出してからは、毎日が戦争だった

 夜、木の葉の影に怯え絶叫しながら暴れ狂い、部屋一つが完全に潰れたこともあった
 VRシステムのフラッシュバックに日頃から苛まされ、一歩も外を歩けないことさえあった
 陵辱と暴行により傷ついた身体を治すことさえ、惨めさにむせび泣きながら彼女は耐えていた

 許してくれ、と言う権利さえ自分にはないと思っていた
 他の姉妹達の居所さえ今となっては分からない
 一年ほどは血眼になって移転先を探したが、国家の力が使えぬだけでこうも掴めぬものかと、己に絶望しただけに終わった

ホーマー「……もうこんな時間か」

ホーマー「そろそろ食事にしよう」

マリーダ「はい、司令」

 呼び方が司令なのは、色々と事情がある
当初は【マスター】と呼ばれていたのだが、それはあまりにも合わないとして、無理に言って止めさせた
 加えて、自分はあくまで保護者であり、父親ではない
 父親と名乗る資格すら自分にはない、だから父とも呼ぶなとさえ話していた
 彼女はそのせいか何と呼ぶべきかと戸惑っていたが、部下達の呼ぶ【司令】がだんだん定着してしまい、こうなった
 他人行儀だからこそ、それ以外は極力身近に接するようにもしていた

ホーマー「……」

マリーダ「はふ……」

 食事は純和食、バランスを考えた一汁一菜、おかずは鮭の塩焼き
 サプリメントなどで栄養を補う将校もいたが、自分はそんなもの一切口にしたくはなかった
 妻もそれを理解してくれ、今となっては食事はささやかな楽しみになっている

ホーマー「地の物か……美味いな」

 艶やかな白米を、少しくすんだ緋色の切り身と共に口に運ぶ
 マリーダは炊き立ての米を冷ましながら、かきこむように食べている
 箸使いにも馴れたものだと、感心していた

ホーマー「そう慌てるな、ゆっくり、沢山食べるといい」

マリーダ「……ゆっくり食べたら、すぐにお腹が一杯になります」

マリーダ「せっかくのご飯が、沢山食べられなくなってしまいます」

 食べる様をじっと見られて、少し恥ずかしそうにしながらマリーダは答えた
 根はとても素直な、真っ直ぐな子であった
 ただ少し意地を張ったり、我慢しすぎるのは玉に瑕ではあったが——

ホーマー「そうだな。すまなかった」

 取るに足らない会話が楽しくて、つい食事の手が止まってしまう
 結局食べ終わったのは彼女より少し後であった
 接待で食べるどんな高級な料理より、この小さな膳がこの上なく旨く感じられた

ホーマー「ご馳走さま」

マリーダ「ごちそうさまでした」

 台所に立ち、並んで食器を洗った

マリーダ「私が洗います。司令は休んでください」

ホーマー「洗いたいから洗うのだ、そう気を使うな」

マリーダ「……申し訳、ありません」

ホーマー「いや、謝るほどのことではないのだがな……こちらこそ済まん」

マリーダ「…………」

ホーマー「……うむ……」

 大小二つの手が、泡だらけの食器を濯いでいく
 冷たい水の感触が、心地良く感じた

————

ホーマー「……」

マリーダ「……王手です」

ホーマー「…………」

マリーダ「まったなしです」

ホーマー「では此処だ」

マリーダ「あ…………くっ!」

ホーマー「王手」

マリーダ「 」

ホーマー「待ったは無しだ」

マリーダ「…………」

マリーダ「……………………!」

マリーダ「……………………!……………………!!」

ホーマー「いや、やっぱり待ったは三回まで有りにしよう。少し大人げなかったな」

——現在、基地——

ホーマー「結局、待ったは無かったな……」

 あれから、三日

 彼女はまだ縁側で、突きつけられたと金とにらめっこしているのだろうか

 そう考えると、自然に笑みがこぼれた

ホーマー「ん…………」

ホーマー「またAEUでテロ……か」

 世界情勢は未だ荒れており、紛争と謀略の絶えず渦巻くゼロサムゲームの真っ只中
 おまけに各国とも自国領地でくすぶる紛争の火を消すのに、多大な時間をかけてもいた


 AEUはアフリカのダカールなどを中心に、増えすぎた反政府組織の鎮圧に躍起になっている
 人革連もまた黒い噂も絶えず、何やら大きな財閥が裏で手を引いているとさえ言われている
 そしてユニオンは、【棄民政策】とさえ揶揄された宇宙開拓事業の反動から、多数の火種を抱え込む形になってしまっていた

ホーマー「棄民政策……か」

ホーマー「ユニオン主導とはいえ、各国合同で行った宇宙開拓事業のツケを全部背負わされるとはな」

 テロリストの中には、二百年も昔の思想【ジオニズム】を掲げ宇宙独立を叫ぶ者さえいた
 無論ただの形でしかない、机上の空論であることは確かだ
 だが、技術的にはコロニー国家の樹立も不可能ではない
 彼等には、自らの思想をまとめあげ、統率しうるだけの存在がいなかっただけなのだ

ホーマー「ジオニズムの提唱者……シャア・アズナブルがいたなら話は違っただろうがな」

 これもまた空論だった
 二百年も昔の人間を求めたところで、何になると言うのだろう
 ジオニズムが広がることには危惧していたが、それもさほど重要とは思えずにいた

ホーマー「……」

「司令、ホーマー・カタギリ司令ではありませんか!」

ホーマー「!」

 基地に降り立ってすぐ、声をかけてきた若い男がいた

ギルボア「お久しぶりです司令、今日はどの様なご用件で?」

ホーマー「近くに用があってな、挨拶も兼ねて立ち寄ってみた」

ホーマー「調子はどうだ」

ギルボア「お陰様で、何とか馴染めてまさぁ」

 ギルボア・サント。

以前テロリストの関係者ではないか、と捕縛されていた若者だった
 真偽のほどは定かにはならなかったが、当時部下だった男の頼みでユニオン軍に編入させた経緯のある男だ
 中型艦船や輸送機などの操縦では光るものを見せる、働き盛りの若者だ
 今はMSパイロットとしても活躍しているらしく、幾度か戦果の報告も届いているのを思い出した

ギルボア「あぁ、それならちょうど良い」

ギルボア「今ちょうど新人がしごき倒されてますよ、少佐も毎日毎日飽きないもんだ」

ホーマー「ほう、運がいいな」

ギルボア「すぐ逃げ出すと思ったんですがね……案外保ってますよ、これがまた変な奴でして」

ホーマー「期待できそうじゃないか……案内を頼めるか?」

ギルボア「勿論。車を持ってきます、警護の人も含めたら大型のを借りた方がいいですかな」

ホーマー「この者達を連れて行くつもりはないが、気遣いには感謝するよ」

 ギルボアの運んできた車に乗り込み、基地の滑走路を疾駆する
 普段より安定感があるように感じたのは、気のせいではないと思った

ホーマー「それでどうなんだ、あの男がご執心の新兵とやらは」

ギルボア「センスは抜群ですよ。同期の若い連中となんか比べものになりませんね」

ギルボア「度胸もある、少佐に叩きのめされても踏んづけられても起き上がるんですから」

ホーマー「成る程、それはあいつが気に入りそうなことだ」

ギルボア「……見えましたよ」

ホーマー「……おぉ……」

 ギルボアに導かれるがまま、空を見上げる
 もつれ合いながら空で対峙する二機のユニオンリアルドが、模擬戦を開始して

 一機、明らかに動きの違うリアルドに目を奪われる

 銀と漆黒に塗られた一角獣のパーソナルマーク
 ユニオンはもとより、世界にさえ並ぶ者無しと謳われる最強の男の証である

 飛ぶだけで敵兵士が泣いて許しを請うとさえ言われた、生きた伝説

 ——一騎当千
 ——不動のトップガン
 ——空の王者

 呼ばれた二つ名は数知れず、兵士なら知らぬ者はいないユニオン最高のトップガン

ホーマー「相変わらず気持ちよさそうに飛ぶな……スレッグ」

 スレッグ・スレーチャー少佐その人が、其処にはいた

 しばらくして、ユニオンリアルドが空からゆっくりと降りてくる

 スレーチャーのリアルドは、さも当然の如く無傷
 フレームが輝いてさえいた

ホーマー「……久し振りだな、スレッグ」

スレーチャー「お久しぶりです、お元気そうで何よりですなカタギリ大佐」

ホーマー「……今は准将で司令にもなった、昇進したのはだいぶ前だぞ」

スレーチャー「…………」

スレーチャー「そうだったか?」

整備士「少佐……あんた自分で昇進祝いだっつってわざわざ自宅にリアルドで駆けつけたじゃないですか」

ホーマー「大騒ぎになって私の自宅は武装警官と戦車に囲まれた……私はよぉく覚えているぞ、よぉくな」

スレーチャー「覚えてねえな、多分酔ってた」

ギルボア「なに言っちゃってるんですか少佐!?」

ホーマー「……全く……相変わらずだな貴様は」

スレーチャー「そういうあんたは変わったな、カタギリ大佐」

ホーマー「准将だ……そう思うか」

スレーチャー「女でも出来たか? だいぶ顔つきがヤワってるぜ」

ホーマー「……ふっ」

ホーマー「当たらずとも遠からず、といったところかな」

スレーチャー「おいおい……良い奥さんがいる身が言うには、笑えねえ冗談ですな」

 階級の差など気にせずに会話を交わす
 この男と話すときはそれくらいが丁度良い
 命を懸ける作戦も、下世話な雑談も、気兼ねなく何でも話してきたからだ

 スレーチャーとは、太陽光発電紛争から続く仲だ
 腐れ縁といっても、大方差し支えはないだろう

 二人ともろくに家にも帰らず戦場に立ち続ける日々
 スレーチャーの妻が亡くなり、戦場で知らせを受けた時にも自分は隣にいた
 カタギリの家のつまらない束縛から逃れようと戦場にいたら、結果的にこの男の無理難題ばかり押し付けられていた

 もしかしたら、家族より付き合いは長いかもしれない
 それでも、公言するような事ではないと考えていた

スレーチャー「ギルボアの一件以来か、面と向かって顔を合わせるのは」

ホーマー「そうかもしれんな」

スレーチャー「あの時は助かった……改めて礼を言わせてもらうよ」

ホーマー「今更だ、お前の我が儘と尻拭いはあれっきりにしてほしいものだ」

スレーチャー「ツレねえな、ホーマー大佐ともあろう御方が」

ホーマー「放っておけ」

 手持ち無沙汰になりつい胸ポケットに手を伸ばすが、すぐに戻した

スレーチャー「止めたのか、煙草」

ホーマー「……歳だからな」

 嘘を、ついた
 煙草の臭いが彼女の何かを思い出させるのに気付いたその日から、禁煙を決めていたのだった
 スレーチャーは素振りこそ見せたが追及してこなかった
 有り難かった

「少佐!!」

スレーチャー「おう、遅かったな若僧」

 不意に、後ろから声をかけられた
 振り向くと、そこにいたのは若いパイロット
 波打った金髪に幼さの残る顔つき、そしてこちらが尻込みしそうなほど真っ直ぐな眼差しが印象深い青年である


ホーマー「……君は、さっきのリアルドのパイロットか」

スレーチャー「紹介しよう大佐。コイツが新しく第三航空戦術飛行隊に配属された……」

グラハム「グラハム・エーカー准尉であります。お会いできて光栄です、大佐!」

ギルボア「だから准将だって……」

グラハム「はっ……これは失礼致しました!」

 まだ若干の堅さは残るが、自分を前にしても堂々としている
 良い度胸だと感心し、笑って肩を叩く
 しかし何故だろう、その笑顔に白々しさが垣間見えた気がした
 そのせいだろう、好きにはなれそうもないと思った

ホーマー「ホーマー・カタギリ准将だ、こちらこそ会えて嬉しいぞ准尉」

ホーマー「スレーチャー少佐のしごきは大変だろう、何せ私の下にいたときは三日で十二人、荷物をまとめて異動を嘆願しにきたくらいだからな」

グラハム「何のことはありません。スレーチャー少佐と共に空を飛べるなら、如何なる訓練、教練、拷問にも耐える所存です」

スレーチャー「言い方考えろバカ僧、まるで俺がどこぞの鬼軍曹みたいじゃねえか」

 そんなことを言ってスレーチャーは軽くグラハム准尉を小突く
 こんな楽しそうなスレーチャーも久しぶりに見たが、それに従うグラハム准尉もまた、スレーチャーを強く慕っているようであった

スレーチャー「若僧、ペイント弾落としてから外周三十周だ。行ってこい!」

グラハム「は……はっ! 了解致しました少佐!」

ホーマー「……おう……」

 グラハム准尉が絶望を表情に浮かべながら走り去っていく
 見かねたギルボアがついて行ったのが見えた
 こっそり手伝うつもりなのだろう、相変わらず優しい男である
 見えなくなってから、スレーチャーの顔は満面の笑みを浮かべてホーマーの肩に手を置いた
 力強い、大きな手だった

スレーチャー「どうだい、あれが俺の後継者だ」

ホーマー「なに……? それは本気か、スレッグ」

スレーチャー「本気も本気さ、あいつはいずれ俺さえも超えるパイロットになる」

スレーチャー「今から楽しみで仕方ねえのさ……あの若僧、どんどん腕が上がっていくんだ」

ホーマー「あの若者がか……」

スレーチャー「娘にも話してはいるんだ、もしかしたらスレーチャーが二人になるかもな」

ホーマー「……少々気が早すぎやしないか……?」

スレーチャー「はっはっは、グラハムにも、娘にも言われたよ」

 それから、二人でMS格納庫の横に座り話し込んだ
 スレーチャーは色々と話してくれたが、実のところ殆ど右から左に抜けて何も覚えていなかった

 一度マリーダのことを思い出すと、意識だけが腹の奥底に埋没してしまい
 抜け出せない思考の坩堝に嵌まり、呼吸さえ忘れて考え込んでしまうのだ

ホーマー(これから先、どうすればいいのか……)

 身体の傷はいずれ癒えるだろう
 昨今の医療技術の発達はめざましく、事実彼女の身体的マイナス点は無くなりつつある
 ただ、心の傷ばかりはどうしようもなかった
 まだ年齢的に成熟していないということもあったが、仮想現実と現実、二つの世界で受けた精神的ダメージは今も彼女を蝕んでいる
 夢でうなされない日は無く、時折怯えた表情を影に向けるのを知っていた

 きっと一生、彼女は自らの過去と対峙し続けねばならない
 あの小さな肩に背負うには、酷すぎる荷だ

不安に、憤りに、押しつぶされそうになる

スレーチャー「カタギリ司令?」

ホーマー「!」

スレーチャー「大丈夫かよ……疲れてんじゃねえのか」

ホーマー「いや、済まん。大丈夫だ」

スレーチャー「何話してもボーッとして、もうボケたかと不安になったぜ」

ホーマー「お前にそこまで言われる筋合いは無い」

スレーチャー「まあいいが……あんたは昔から考えすぎるきらいがあるからな」

スレーチャー「……なぁ、カタギリ大佐」

カタギリ「何だ……」

いい加減直すのも億劫になり、言葉を続けさせた
どこからか暗い影を落としたような表情、何かあるのかと思い話に耳を傾ける

スレーチャー「俺もあんたももう五十路……とはいえ俺は空に長く居すぎた」

スレーチャー「やれ生きた伝説だ、やれ不動のトップガンだと持て囃されちゃいるが、俺だって人間……昔のようにはどうしてもいかないもんさ」

ホーマー「気弱なことを……後継者もまだあの調子だと言うのに」

 なかなか落ちない頑固なペイントに、遮二無二モップを叩きつけるグラハム
 大空を夢見る雛鳥、まだそういうレベルの見方しか出来ずにいた

スレーチャー「見りゃあ分かるだろう、アイツは変なところで片意地張って、世渡りがうまくない……」

ホーマー「お前みたいなタイプということか」

スレーチャー「一緒にしないでもらいたいもんだ……これでも三十年、俺は俺なりにやってきたつもりなんだぜ」

スレーチャー「ま、つまりだ」

スレーチャー「俺がいなくなった後のことを、あんたに頼みたいと思っているんだ」

ホーマー「……」

 かたや司令本部、かたや最前線、お互い立つ場所は違っていたが、長く戦場に立ち続けてきた
 言いたいことも、何となく分かっていた

ホーマー「人革連にはセルゲイとハーキュリー、二人の将校が台頭著しいという」

ホーマー「AEUには最年少将校、天才と名高いカティ・マネキンが輝かしい戦果を上げている」

ホーマー「お前の言いたいことも分かるさ……今が、今だけにな」

 後進の育成にスレーチャーが躍起になるのは当然だと思った
 如何せんユニオンには、自分以外にこれといった指揮官が存在しない
 いても物量を頼みにした力押ししかしない、有能とは言い難かった
 あと数年もすれば自分も完全に前線から退いてしまうだろう、そうなれば戦術を練って戦う者がいなくなる
 せめて、パイロットだけは——というスレーチャーの焦りが見えた

スレーチャー「まだ四十にもならん若僧に、戦術を聞きかじっただけの小娘だ」

スレーチャー「そのくらいで戦争の何たるかを知ったと思われちゃ、困るな」

ホーマー「お前には戦術も何もないからな……」

スレーチャー「そんなことはないさ。鬼のカタギリには何度も助けられた」

ホーマー「太陽光紛争……泥沼の闘争をよく生き延びたものだと今は思う」

スレーチャー「お互い、長く一人でいすぎたのかもしれないなぁ……」

ホーマー「……」

スレーチャー「アイツな……孤児なんだ」

ホーマー「!」

 足を滑らせ、助けようとしたギルボアと一緒にリアルドの翼を転げ落ちていくグラハム
 彼の方を向き、スレーチャーは呟くように話し始めた

スレーチャー「親がいないからって特別扱いはしねえさ……だけどアイツはどこか壁を作って、何事も独りでこなそうとしちまう節がある」

スレーチャー「意地なんだろうなぁ。自分一人でやれるんだって信じたいのかも知れんし、もしかしたら誰かに手痛く裏切られたのかも知れん」

スレーチャー「詳しいことは何一つ解らん……話してくれないからな」

ホーマー「……」

スレーチャー「孤児院でも訓練基地でも友達と呼べる存在はいなかったらしい……教官がいくら忠告しても人の輪には入れなかったそうだ」

ホーマー「協調性に欠ける兵士は味方を殺す」

ホーマー「貴様は、そんな男を後継者にするつもりなのか」

スレーチャー「ふふ……まぁ、最後まで聞いてくれや」

ホーマー「…………」

 グラハムはペイントにまみれ、整備士達と笑いながらモップを掲げている
 そんな暗い男にはどうしても見えなかったが、スレーチャーの見立てに間違いがあるとも思わなかった

スレーチャー「アイツには余りある才能がある、それは俺が一番よく知っている」

スレーチャー「だが、このままだとアイツは自分で自分を殺しちまう、そんな気がするのさ」

ホーマー「……」

スレーチャー「兵士は戦うための存在、俺達はその中でも空で命懸けて戦っている」

スレーチャー「だからこそアイツには……グラハムには、空以外にも世界があることを教えてやらなきゃならない、そう思っているんだ」

ホーマー「……スレッグ……」

スレーチャー「俺が其処まで保たないかもしれないが、それまでやれるだけのことはやるさ」

スレーチャー「人の価値は何をしたか、何をされたかじゃ決まらない……今何をするのか、これから何を為すのかで決まる」

ホーマー「ッ!!」

スレーチャー「俺は、アイツの内側にある【可能性】ってやつに賭けてみようと思う」

ホーマー「可能性……」

スレーチャー「だからよ、あんたもその子のことで……迷う必要なんてないんじゃあねえかな」

 頬を張られたような衝撃が、全身に響く
 まさか、知っているはずはない
 マリーダ・クルスのことを、スレーチャーが知っているはずはないのだ

スレーチャー「……悪いな、ただの当てずっぽうだ」

ホーマー「スレッグ……私は……」

 昔から、スレーチャーは野性的な嗅覚が備わっていた
 恐らくこの発言も、何となく感じ取ったというだけの話なのだろう
 だが、おかげで心が洗われたような気がした
 気に病んでも仕方ない、成るように為すしかないのだと思えたのだ

ホーマー「……感謝する、スレッグ」

スレーチャー「感謝するのは俺の方さ、司令」

ホーマー「グラハム・エーカーとか言ったか。覚えておこう」

スレーチャー「あぁ、司令殿のお墨付きとなればこちらも無理が出来る」

ホーマー「……無理をする前提か……」

スレーチャー「良い胃薬がある、飲みますかい」

ホーマー「薬は好かん」

スレーチャー「はっ、相変わらずだなあんたも」

ホーマー「今更性分は変えられんさ」

ホーマー「……」

ホーマー「彼女が今後、どんな道を選ぶかは分からない」

スレーチャー「ん?」

ホーマー「背負ったものはとてつもなく重く、受けた傷はあまりにも深すぎる」

 それでも彼女は生きていく
 生きていかねばならないのだ

ホーマー「だからせめて、あの子が選んだ道を……私は……」

ホーマー「……私だけは……っ」

スレーチャー「……」

 自然に、涙が溢れ出していた
 スレーチャーは何も言わず、肩を叩き頷いてくれた
 心の内に抑え込んでいた何かと共に視界は歪む
 だが、決意は揺るがなかった

スレーチャー「カタギリ」

スレーチャー「幸せになるといいな……その子」

ホーマー「あぁ……なるさ、きっとなる……優しくて、頭も良くて……いい子なんだ……本当に……」

ホーマー「私がしてみせる……必ず、必ず……!」

スレーチャー「…………」

 その時、けたたましく鳴り響く警報が二人を無理やり現実に引き戻した
 スクランブル、領内に所属不明のMSが侵入してきたとの ことだ

スレーチャー「……にゃろうめ」

 スレーチャーが不快感を露わにし、メットを被る
 涙を拭い、頬を両手で叩き引き締めた
 大丈夫だ、やってやる
 顔を上げたホーマー・カタギリは、鬼の顔へと戻っていた

ホーマー「私だ。敵戦力は分かるか」

ホーマー「……分かった。それは囮だ。【レッド・クロス党】の一味なら、間違いなくそこから北の資源採掘場を狙う」

ホーマー「スレーチャー少佐、スクランブルは君と誰がいく」

スレーチャー「決まってんだろう? 若僧、準備は!」

グラハム「はっ、いつでもどうぞ!」

スレーチャー「よぅし、本命には俺達が当たるぞ。囮は……」

ホーマー「待て、囮にはお前達に向かってもらう」

スレーチャー「何……?」

ホーマー「既に足止めは手配させている、だがこのままだと奴らにはまた逃げられてしまう」

ホーマー「囮を蹴散らしてから本命の背を突け、奴らをこれ以上のさばらせるわけにはいかん」

スレーチャー「蹴散らしてからって……囮との接敵から殲滅までの推奨ミッションカウントは?」

ホーマー「カウント150」

グラハム「二分半……ですと!?」

スレーチャー「言ってくれるぜ、やっぱりあんたは鬼そのものだ」

ホーマー「生きた伝説と組むなら、鬼くらいで丁度釣り合おう」

スレーチャー「ふっ……どうする、若僧」

グラハム「やります、いえやってみせます!」

スレーチャー「その意気だ、死ぬんじゃねえぞ!」

ホーマー「スレッグ!!」

スレーチャー「……おう!」

 交わした敬礼、これで何度目になるだろうか
 頼りになる男だった。何よりも自分自身がそれを知っていた
 そんな男が自分を頼ってくれていた
 悪い気になど、なるはずがなかった

 ——ミッションカウント117でファーストコンタクト終了、敵勢力は目論見通り挟撃に遭い一機残らず全滅したという
 やってくれる、司令部の硬い椅子に腰掛けながら独りごちた

——翌日——

スレーチャー「相変わらず忙しいんだな……もう行っちまうのか」

ホーマー「ユニオンが他二国に後れを取らぬよう、対策するのが私の仕事だ」

ホーマー「お前のように、将来の婿養子だけ見ていればいいのではないのだ」

スレーチャー「言ってくれるぜ、鳴いたカラスが何とやらだ」

ホーマー「コホン……兎に角、無茶苦茶するなよスレーチャー少佐」

ホーマー「では」

スレーチャー「また、いつか」

 敬礼し、輸送機に乗り込む
 ふと胸騒ぎがして、振り返った
 スレーチャーは不敵な笑みを崩さず、其処に立っていた

 輸送機がゆっくりと動き出し、直ぐに大空へと飛び立っていく
 雲一つ無い、澄んだ青空であった

 ——これが、スレッグ・スレーチャーに会った最後の日となった

——屋敷——

ホーマー「帰ったぞ、マリーダ」

マリーダ「…………」

ホーマー「マリーダ?」

マリーダ「! すみません、お帰りなさいホーマー司令」

 薄暗い畳の隅で、ちょこんと正座していたマリーダ
 その隣には、出発前と変わらない配置の将棋盤が鎮座している

ホーマー「……ふふっ」

ホーマー「クーラーも付けずに……アイスを買ってきた、一緒に食べないか?」

マリーダ「ほ、本当ですか?」

ホーマー「嘘を言ってどうする? 食器が必要だな」

マリーダ「すぐに用意します!」

ホーマー「慌てて転ぶなよ」

 将棋盤を部屋の中央に運び、腰を据えた
 年相応の背中が走り去るのを見て、感慨のようなものが腹の底から湧き上がってくるのを感じた

 彼女にはまだ無限の可能性がある、今を憂いて焦ることもあるまい
 ゆっくり、共に歩んでいこう
 まだ先は長いのだから——

ホーマー(ほう……?)

 将棋盤に目をやる
 よく見ると、何度か駒を動かしたような跡が残っていた
 それも一つ残らず、あらゆる状況を考えたに違いない

 もしかしたら、今度待ったなしで困るのは自分かもしれない
 そう考えると、マリーダが来るのが待ち遠しくなった



END

投下終了だフラッグファイター

まぁかいつまんだ感じの過去話、どちらかというとホーマーとスレーチャーの繋がりのが重要だったり

ホーマーがグラハムの我が儘を聞くのは二つ以上の意味がアルンダヨーグリーンダヨー的な、はい

ホーマー氏の声を担当する大友氏はベア・ウォーケンのイメージが強い

ではまた

このスレのマリーダさん、VRで精神を陵辱されただけで、体は暴行や陵辱を受けてないと
最初の設定で書かれていたけど、設定が変わったのかな?
それと、マリーダさんだけ残されて他のプルシリーズがいなかったは、どこか別の場所に
移送されたのか、死んで焼却処分されたのか。(プルツーは大使が連れ去った)
今後、他の個体も出てくるのなら、楽しみでなりません、今後もがんばってください。

>>40

あれは娼婦設定ではないというだけで、そういうことをされていたのをホーマーさんが耐えられなくて説明若干はぐらかした感じです
遅かれ早かれ、精神感応で分かることなのでグラハムは知っています

想定していなかったとはいえ上げて落とした感じになったのは申し訳ない

妊娠中絶による不妊症ではなく、粒子関係の実験による不妊症(故に再生治療が利かない、ホーマー一人称のせいで書き忘れて申し訳ない)

娼婦ではないが研究者等の倫理トラブルによるもの

変わってるのはこんな感じ

幼女「ミーナさんが言ってた……」

幼女「泣いていいのは、おトイレか、パパの胸の中だって」

グラハム「……ッ」

 あぁ、こういうことか
 投下再開だフラッグファイター、誰かEGOの日本語訳歌詞知らない?

——紅海・中東側沿岸——


 アフリカ大陸と中東の境を流れる紅海
 両方の沿岸一帯には国連軍の警備網が敷かれ、GN—XにRGM、イナクトといったMSが辺りを飛び回っている
 少し小型の空母がゆっくりと南下していく様を、じっと見つめる男が一人
 体の向きはそのままに、背後の兵士へと視線を移した

兵士「少佐、準備が整いました」

グラハム「御苦労」

グラハム「予定通り四隊に分かれサイクロプス及びヅダの捜索を行う、警戒は怠るなよ」

兵士「はっ!」

グラハム「……」

 額に滲む汗が、乾いた空気にさらわれていく
 この感触は以前中東にガンダムを追ってきたときに体験していた為、特には難儀もせずにいた
 苦労しているのは、ジョシュアくらいのものだろう

グラハム(絶好のフライト日和……晴れ男に生まれたことを、これほど嬉しく思ったことはない)

 本来パイロットスーツには調節機能が存在し、如何なる環境でも一定の体温を維持するようになっている
 暑ければ涼しく、寒ければ暖かく。四六時中パイロットスーツでも良いくらいの快適さが約束されるのだ
 しかしながら、その不自然さが好きになれず、自分はこの機能を使わないことが多かった
 盟友カタギリの苦い顔が目に浮かぶようで、つい口元がつり上がってしまう

マリーダ「マスター」

グラハム「マリーダか」

 対して、マリーダはいつもの冷静な表情を崩さず横に立っている
 二人の背後にはオーバーフラッグス、そしてRGMとイナクトの混成四個部隊
 出撃を今か今かと待ちわびていた

グラハム「……壮観だな」

マリーダ「はい、マスター」

 マリーダは頷き、メットを左から右に持ち替える
 僅かに距離が縮まる、自然なことだがつい背筋が伸びてしまうのを感じた
 彼女は直後に少し顔を伏せ、言葉を続けた
 憂いを帯びた顔には、えもいわれぬ艶が宿って見えた

マリーダ「ですが、やはりオーバーフラッグスを分けるのには少々不安が残ります」

グラハム「……懸念はもっともだと言わせてもらおう」

グラハム「此処はもう敵地、目立つオーバーフラッグが各個撃破される可能性も少なくはない」

マリーダ「……」

 これは、捜索部隊を編成する段階から危惧されていたことだ
 現状オーバーフラッグスがサイクロプスに並べるのは、決して個々の実力だけではない
 高い技量により徹底される新たなフォーメーション戦術、つまり空中変形戦術にあるからだ
 各個撃破を狙われる可能性は、十二分にあった

マリーダ「グッドマン司令からの要望とはいえ、やはり混成隊は我々には……」

グラハム「……どう足掻いても不安は拭えん、それは事実だ」

グラハム「だが今回、各部隊のイナクトにはGN粒子散布下においても電子戦が可能な偵察タイプを配備してある」

グラハム「発見が早ければ、いかにサイクロプスとてオーバーフラッグを易々と落とせはせんよ」

マリーダ「……はい」

グラハム「早期決着による地盤固めが優先とする司令の考えには、私も賛成だ」

グラハム「やるしかあるまい。他ならぬ我々の手で、な」

グラハム「マリーダ、今回部隊は分かれるが、目的が目的だ」

グラハム「あのときの約束。忘れるなよ」

マリーダ「了解、マスター」

 メットを装着し、フラッグに乗り込む
 機能を復活させた瞬間、全身を清涼感が包み込んでいく
 むずがゆさに声が出そうになりつつも、耐え切って無線を開いた

グラハム「……全部隊に通達する!」

グラハム「混成一番隊には私、グラハム・エーカーとリディ准尉が就く!」

リディ『了解です!』

グラハム「二番隊にはマリーダ・クルス中尉とダリル・ダッジ少尉!」

マリーダ『宜しく頼む』

ダリル『頼むぜ、RGM!』

グラハム「三番隊にはジョシュア・エドワーズ少尉、アキラ・タケイ少尉!」

ジョシュア少尉『足引っ張んなよ、ひよっ子諸君?』

タケイ『……』

グラハム「そして、四番隊にはヴィクトル・レオーノフ大尉とルドルフ・シュライバー少尉両名が加わる!」

ヴィクトル『……』

ルドルフ『世話焼かせるなよ、新型』

グラハム「いずれも腕には自負のある精鋭だ、好きなだけ頼れ!」

ジョシュア『ガキのお守りは御免だぜ』

ルドルフ『ふん……』

マリーダ『お前達……』

リディ(頼らせる気ねえ……)

グラハム「全部隊、1200より予定されたルートを通り索敵に入る」

グラハム「目標、サイクロプス及びヅダを発見した場合即座に全部隊へ連絡、もしくは照明弾による合図を以て知らせろ」

グラハム「敵MSは全て加速力に秀でた太陽炉搭載機、一瞬の油断が死を招くと思え。いいな!」

 総勢二十を越えるMSパイロット達からの、一斉の返答
 耳をつんざくような音量に心地良い痛みを覚えた

 予め各部隊の兵士には、それぞれあてがったオーバーフラッグスの面々と顔合わせをさせてある
 マリーダが女性だからと侮られるようなことがないようにとの配慮だったが、同時に士気も高まっているようだった

グラハム「ミッションタイムクリア、行くぞ」

リディ『了解、いつでもどうぞ!』

 大地から離れ、大空に舞い上がるフラッグ
 それに続きMS部隊も次々と動き出す
 散開し、それぞれが目指すルートへと飛翔していった

グラハム(しかし、不気味だ)

グラハム(彼等はあれ以来、何の行動も起こさない)

グラハム(GN—Xの回収も、まるでそれが本命ではないように淡白なものだった)

グラハム(やはり、策を擁しているのか……?)

 そんなことを考えている内に、地表は遥かに遠い足の下
 眼前には何処までも広がる空、右手には茶褐の大地、左手には母なる海が悠然と広がっている

グラハム「…………」

 世界の全てを手に入れたような錯覚
 一瞬とはいえ任務を忘れ吐息を漏らす
 やはり、空は良いものだ

リディ『隊長、良いもんですね。空は』

グラハム「ん……あぁ、全くもってその通りだと肯定させてもらおう」

リディ『俺、フラッグファイターで良かったですよ』

グラハム「ふふっ、いきなりどうした?」

リディ『ほら、最近ティエレンが空飛ぶのに成功したらしいじゃないですか』

リディ『どうせ飛ぶなら、やっぱり飛行機じゃなきゃ。俺には人型よりこっちです』

グラハム「ふふ……人革連のお偉方に聞かれないようにな、フラッグファイター」

リディ『このまま、何もかも忘れてずっと飛んでいられりゃあ……どんなにいいか』

グラハム「そうもいかんさ。我々には我々の使命がある」

 昔の自分ならリディの言葉に同意していたかもしれない
 だが今は違う、と心の内で呟いた

グラハム「アルファ3、反応は」

『今のところは確認出来ません』

リディ『捕まりませんね。やはり地上にはいないのかも……』

グラハム「……だとすると憂慮すべき事態だな、我々のフラッグにとってはそれが一番の気掛かりとなる」

 折り返しポイントで旋回、世界が横に傾くのを眺めながら規定ルートを消化する
 先ほどは背に、そして今は目の前に現れた紅海
 数千年変わらぬ悠久の流れを見つめながら、重い気を息にのせて吐き出した

グラハム「……奴らは海の中、か」

——そして夜——

リディ「よっ……と」

マリーダ「マーセナス、此処だ」

リディ「おっ、ありがとうございます!」

 沿岸に仮設された国連軍の拠点が、眩い野外灯に照らされている
 数列に渡りずらりと並んだ施設群は、簡易的なものでも基地としての機能をしっかりと果たしていた

ダリル「紅海に奴らが隠れている……?」

マリーダ「可能性の一つではあるが、そう少なくはない」

マリーダ「事実、他の大陸から集まっていた反国連勢力には、その足取りさえ掴めないまま集結を許してしまっている」

ヴィクトル「確かに、我々の手の届かぬところとしては自然だな」

ジョシュア「海か……また面倒なところを……」

 夕餉を口に運びながらの雑談、オーバーフラッグスの面々は自然と集まり食事をしていた
 流石に基地などで食すものとは幾分か劣っている
 しかし腹が膨れればと、文句を押し殺し黙って胃に収めていく
 皆もまた、何も言わずに口に運んでいた

ダリル「軌道エレベーターが国家運営の基盤になった今の世の中、制空権が軍事的にも最大の焦点でしたからね」

リディ「そういや、うちのMSで海に対応出来る機体っていましたっけ」

ヴィクトル「人革連の所有するMA【シュウェザァイ】が数機配備されたらしいがな」

マリーダ「我々ユニオン、そしてAEUには水中用の機動兵器開発という概念が抜けている」

マリーダ「シュウェザァイも相当古い、いざとなればGN—Xがいるとはいえ……」

 その時、賑やかな青空食堂が僅かながら静かになる
 人の流れが止まり、兵士が道を開けていくのが見えた
 その原因は、すぐに判明した

グラハム「始めているな、諸君」

マリーダ「マスター!」

ダリル「お疲れ様です隊長」

グラハム「失礼する」

 少佐が座ると、否が応でも周りの視線が集中する
 ヤザン大尉との模擬戦の後のためだろう、いつもよりそれは強まって感じられた
 だが隊員たちはいつものことだと、慣れた様子で食事を再開する
 自分も、昔では想像出来ないくらいに図太くなっていた

グラハム「ふう……ようやく一息、といったところか」

ヴィクトル「報告は終わったのかね、少佐」

グラハム「えぇ。各方面の警備部隊や捜査網に加わった兵士の意見を纏めておりました」

グラハム「やはり反国連勢力は、海に何らかの拠点があると推測されます」

ルドルフ「やっぱりか」

グラハム「マリーダ」

マリーダ「はい、マスター」

マリーダ「カタギリ技術顧問は前線基地にて、オーバーフラッグ及びイナクトに搭載可能な爆雷、及び空対潜魚雷の準備を進めているとのことです」

マリーダ「ですが水中戦闘は……」

ジョシュア「無理、だろうな」

グラハム「流石のカタギリでも、鷹を鷹のままペンギンには出来ぬか」

リディ「ペンギンって……」

グラハム「可愛いじゃないか、ペンギン」

リディ「いや可愛いですけど……」

グラハム「マネキン大佐から、RGMのアクアタイプの配備申請が上層部に提出された」

グラハム「海の拠点はそちらに任せよう、我々の当面の敵はアフリカ南部の反国連勢力だ」

グラハム「しかしながら前線基地から沿岸基地への戦力の移動、どう見積もっても猶予が必要になる」

グラハム「それを敵が黙って見ているとは、到底思えん」

ジョシュア「様子見程度の小競り合いなら、アフリカ側で何度かあったらしいけどな」

ダリル「だが軒並み壊滅、こっちには被害らしい被害もないそうだ」

ジョシュア「そりゃそうだ……あっちの基地には、ライセンサー様々がいるんだからよ」

タケイ「……」

 オーバーフラッグスの面々の顔が、一様に尖ったものに変わる
 タケイ少尉ですら不快感を隠さなかったのには驚いたが、少佐が平然としていたのも意外に感じた

リディ「ヤザン大尉……か」

グラハム「ふふふ、あの男は相変わらずのようだな」

マリーダ「……ちッ」

ルドルフ「おい……」

リディ「なんです……?」

ルドルフ「ヤザンの話をすると何でクルス中尉は機嫌を悪くするんだ……?」

リディ「何でも、ブリティッシュ共同作戦時に撃ち合い寸前の喧嘩をしたとかで……」

ルドルフ「おう……おっかね……」

ヴィクトル「……」

 会話がピタリと止み、皆の食事の速度が目に見えて上がっていく
 置いていかれぬよう、慌てて拳大のパンを口に詰め込む
 固かった、泣きたくなるくらいに


グラハム「奴は凶暴ではあるが凶悪ではない、下手に邪険にするとかえって面倒に巻き込まれるぞ」

ジョシュア「もう巻き込んできてたりするのよね〜……と」

グラハム「何?」

ダリル「模擬戦の翌日でしたっけね」

ダリル「マリーダ中尉とヤザンが廊下でばったり遭ったときに……」

ジョシュア「『よう、昨晩はグラハム少佐に可愛がってもらえたか? 良かったなマリーダちゃん』って吐き捨てて……」

マリーダ「…………」

ジョシュア「睨まれても困る、凄く困る」

リディ「下手に真似したからですよ少尉……」

ダリル「……とまぁ、近くに我々がいたから良かったものの……すっかり犬猿の仲確定ですぜ」

グラハム「ふむ、難しいラインだな」

グラハム「侮辱は許さんと釘は刺したが、ちょっかいの領分にまで口を出すのは気が引けるというものだ」

ヴィクトル「気に入られたな中尉」

マリーダ「えっ?」

ヴィクトル「アイツは行動こそ正直だが頭はひねくれてる、ようはいじめっ子理論だよ」

リディ「気に入ってる子をついいじめちゃうアレ?」

ヴィクトル「そんなとこだ」

ヴィクトル「女兵士を極端に嫌うアイツが少しでも融和したのは、何よりの証拠といえる」

マリーダ「…………」

グラハム「…………」

マリーダ「…………」

グラハム「……気が変わった、やはり奴とはじっくり話し合う必要があるようだなッ!」

ダリル「耐えてください隊長っ……お願いですから……!!」

ジョシュア「嫉妬するところかそこ!?」

リディ「……あはは……」

 やっぱりライセンサーは凄い、改めてそう思った

————

リディ「…………」

 食事を終え、輸送機への道を一人歩いていく
 街灯どころか照らす必要のあるものが無い平坦な荒野、夜中ではあるが徒歩に困りはしなかった

「よう、遅かったな」

リディ「!」

 不意に声をかけられ、手に持つペンライトを向けた

ダリル「っ……おいおい、ライト下げろ」

リディ「あ……す、済みません!」

 光の中にいたのは、眩しそうに目を細めるダリル少尉
 咎められ、慌ててライトを足元に向けた

ダリル「構わねえよ、いきなり声をかけたのは俺の方だ」

リディ「はぁ」

ダリル「……この方向だと輸送機か、何かあったか?」

リディ「わ、忘れ物、です」

ダリル「何を忘れた?」

リディ「うっ……えぇ、と」

 嘘だとばれただろうか
 重い空気が砂混じりの風に巻かれて、息苦しさが際立っていく

ダリル「…………」

リディ「っ……」

 先に切り出したのは、ダリル少尉
 いつもフェルトや自分に向けるような、優しい顔をしながら言葉を続けた

ダリル「時間、あるか? 話がしたい」

リディ「話、ですか」

ダリル「なぁに、大した話じゃないさ。だがそろそろ必要だと思ってな」

ダリル「輸送機の中でいいだろう……行くぞ」

リディ「……はい」

 嫌な予感がした
 十分後、それはあっさりと的中するのだった

——輸送機——

リディ「…………」

ダリル「何凹んでんだ?」

リディ「そりゃ凹みもしますよ……」

リディ「秘密の特訓だから意味があるのに……みんな知ってたなんて……」

ダリル「そうか……?」

リディ「人が悪いですよ、グラハム少佐だって知ってたんでしょう!」

リディ「みんなして……俺は……っ」

ダリル「……はぁ」

ダリル「別にお前を笑ってたわけじゃねえんだ、そのくらいにしとけ」

リディ「う……」

ダリル「……ったく……」

ダリル「敵地のド真ん中に来てまで、夜な夜なハードトレーニングをやる努力は認めるさ」

ダリル「だが潮時だ、もういいだろ。これ以上は公務に支障が出る」

ダリル「いくら頑張ろうが、それじゃあ本末転倒だって」

リディ「でも!」

ダリル「!」

リディ「でも、俺がパイロットとして認めてもらうには結果を出すことが必要なんです!」

リディ「そのためには、空中変形だってなんだって……必要だからこんなこともしている……」

リディ「俺だって……何かしなきゃ、此処にいらんないんだ……!」

ダリル「…………」

ダリル「なぁ、リディ」

リディ「……」

ダリル「隊長が何故お前を呼んだか、その理由を知っているか?」

リディ「……いいえ、全く」

ダリル「隊長が、お前に初めて出会った訓練基地でのことだ」

ダリル「お前は、朝一番の集合に遅れて入ってきた」

リディ「……えぇ、その通りです」

リディ「だから何で呼ばれたか、今でも正直分かりません」

ダリル「そのとき、隊長はお前と握手をした」

ダリル「それが理由だ」

リディ「え……?」

ダリル「その肉刺だらけの、年齢不相応な無骨さを持った手」

ダリル「あの場にいたどの候補生よりも荒く、傷ついた手を握って、あの人は思ったんだそうだ」

ダリル「こいつは、自分の道を自分自身で切り開く努力が出来る男なのだ……とな」

リディ「俺が——?」

ダリル「もちろん、最初は遅刻したのに教官にもさほど叱られもしないボンボンめ、とは思ったらしいがな」

リディ「ぐぬ……」

ダリル「ま、あの人は最初からお前と家柄なんか何一つ結びつけちゃいない」

ダリル「お前をマーセナス家の人間だからと、危険な出撃に伴わせなかったことが一度でもあったか?」

リディ「……それはっ……」

ダリル「だよな、あの人はお前をいつも隣に置いて使ってきた」

ダリル「それは何故か——見どころがあるからに決まってんだろう」

リディ「……」

ダリル「気負うなよ、リディ・マーセナス。結果なんかいつの間にかついてくるもんだ」

ダリル「お前は俺達の仲間、フラッグファイターなんだからな」

リディ「ダリル少尉……」

 言いたいことを言い尽くしたのか、立ち上がるダリル少尉
 自分は見上げるだけで立ち上がれなかった
 自分の矮小さに気付かされたせいだろうか、恥ずかしくて膝に力が入らなかった

リディ「なんか、すいません……気を遣わせてしまったみたいで」

ダリル「気にすんな、だが無理だけはしてくれるなよ。うちの部隊は、昔っから無理する奴ばかり集まるからな」

ダリル「ハワード、ランディ、ヘンリー……みんな死んじまったよ。仲間が死ぬのは、イヤなもんでな」

リディ「……少尉……」

ダリル「さて、俺のお節介はおしまいだ」

ダリル「明日も早い。やるならほどほどにしとけよ」

リディ「あ…………」

 垣間見えた、寂しげな笑顔
 足早に消える、大きな背中
 いなくなった後も、網膜にはその二つが焼き付いて離れなかった

 グラハム少佐の悲しみは、マリーダ中尉が包み込むのだろう
 マリーダ中尉の悲しみは、グラハム少佐が受け止めるのだろう

 ならばあの人の、ダリル・ダッジの悲しみは誰が理解出来るのだろうか
 不意に、そんなことが頭をよぎった

 オーバーフラッグス設立前から少佐に付き従っていた、腹心の心中
 諦観と信念の入り混じった、軍人故の決意
 感じ取れたものは、今の自分が受け取るにはあまりにも重く
 その日はトレーニングもしていないのに、酷く疲れたまま寝床に潜った

           ・
                         ・
                         ・

——そして、数日が経過——

 第五陣の到着、それは中東及びアフリカ戦線につぎ込まれた戦力の半数以上が集結したことを意味していた
 前線基地と周辺基地から集まったMS、その数は優に百十余
 内RGMは三十二機、GN—Xは八機
 本来この二種のMSのみで対処出来ると判断された戦場は、今や総力戦の様相を呈していた

グラハム「……おかしい」

リディ「揃っちゃいましたね、戦力」

マリーダ「あれから何も起きなかった……戦闘らしい戦闘、奇襲、謀略の一切に至るまで」


グラハム「当初の予想では、此方の体制が整う前に間違い無く戦力を削いでくると踏んだのだがな」

ダリル「奇妙ですね、何を企んでやがるのか……」

グラハム「見えぬな、次の一手が」

 既に総攻撃の準備を始めている国連軍、しかし敵にも動きが無いわけではなかった
 実際に南部からこちらにMSの大部隊が侵攻しているという連絡も来ている
 だが、それでも疑念は薄れない
 今まで対峙してきた勢力の動きとしては、どう考えても遅きに逸していたからだ

ジョシュア「まさか手薄になった前線基地を狙うとか……そのままスルーしてヨーロッパを襲うとかじゃねえだろうな」

グラハム「非現実的だが、そういうレベルの理由でもないと説明出来んな」

ダリル「仮にこのままぶつかり合うと仮定すると……」

ヴィクトル「圧勝だな。数も此方が上、機体の総合性能も上と来たもんだ」

リディ「不安要素はサイクロプスくらいのもの……か?」

グラハム「……」

 ——サイクロプス
 今や唯一、最大の敵
 結局ヅダとGN—Xは見つからなかった、間違い無く本隊と合流していることだろう
 だが動くとなれば話は別、サイクロプス単独でも十分過ぎる脅威になる
 オーバーフラッグスが前線に出ず、中東側の沿岸基地にいるのもそれが理由だった

グラハム「……平静を装うのも辛くなる、こうも待機が長いとな」

マリーダ「心中、お察し致します」

 動向が読めないだけに動けない、歯がゆい毎日
 ヤザンが最前線にいるのも理由としてはあった
 だがサイクロプスの存在により、この場所にいることを強いられているのが現状であった

グラハム「私の中の何かが警鐘を鳴らしている……奴らめ、仕掛けてくるぞ」

グラハム「マリーダ」

マリーダ「フラッグの準備は既に整えてあります、カタギリ顧問の開発した爆雷の搭載も完了しました」

グラハム「うむ……」

ダリル「隊長」

グラハム「ん、どうしたダリル」

ダリル「次の出撃の際は、自分を隣に置いてください」

グラハム「!」

マリーダ「ダリル……?」

リディ「!」

 皆の視線がダリルに集中する
 彼は今までフォロー役に徹し、自身の言葉を意見として出すことが極端に少なかった
 そのため、発言の意図を皆すぐに読み取った
 他ならぬ自分も、彼とは一番長い付き合いだ
 読みたくなくとも、読めてしまう

ダリル「お願いします、隊長!」

グラハム「……」

マリーダ「マスター、私からも……よろしくお願いします」

リディ「ッ……」

ジョシュア「ちっ、あの馬鹿」

タケイ「……」


グラハム「ダリル・ダッジ少尉」

ダリル「はっ!」

グラハム「オーバーフラッグス最古参のお前のことだ、既に肝に銘じているだろう」

グラハム「だが、敢えて言うぞ……死ぬな、絶対にだ」

ダリル「はっ……!」

グラハム「フォーメーションを変えるぞ。マリーダ、後ろは任せた」

マリーダ「はい、マスター」

グラハム「万が一もある。オーバーフラッグス及びイナクトの両名はRGMと共にMSにて待機」

グラハム「いざという時は近いぞ、腹をくくれ。サイクロプスとの因縁は此処で断ち切る!」

『『了解!!』』

 全員を鼓舞し、決意を新たにした瞬間

グラハム「!」

 けたたましい警報が鳴り響き、幾ばくもなく空にMSが飛び立っていく
 【コンディションレッド】、つまるところの緊急事態
 予測していた事態が、今発生していた

マリーダ「……マスター、対岸の前線基地が正体不明のMSによる襲撃を受けたとのことです」

グラハム「噂をすれば影、好都合といえる」

マリーダ「侵入経路は紅海、サイクロプスの情報は確認出来ず。 ……金属反応多数、来ます!」

グラハム「オーバーフラッグス全機出撃! 返り討ちにしてやれ!」

 一斉にMSへと飛び乗っていく隊員たち
 表情こそ険しいものの、皆いずれも意気軒昂
 気合いが違った

グラハム(やれるか……!)

 サイクロプスとの性能差はいまだ高い壁としてそびえている
 それでもこれならば勝てると、一縷の希望が見えたような気さえした

グラハム「爆雷投下準備! 敵をあぶり出す!」

 水中拠点用の潜水艦からMSが発進するなら、出がかりを狙えばいい
 必要なのは拠点そのものを潰し、サイクロプスの【次】を消すことだ

 フラッグが脚部に格納した円柱状の物体を次々に投下していく
 GN粒子により爆発力を強化した、カタギリ謹製のGN爆雷
 重力に引かれ、真っ直ぐに穏やかな水面へと吸い込まれていく

 そして、水しぶきを上げながら沈み

 直後に、大爆発を引き起こした

グラハム「何……だと……!?」

マリーダ『馬鹿な!?』

 対潜爆雷はもっと沈んでから、深くで爆発するものだ
 直後の爆発、しかしそれによりMSや艦船が撃墜出来た形跡はない

 それはつまり、爆雷が撃ち落とされたという証

 嫌な予感が、全く違う形で現実になった

ダリル『隊長、金属反応が拡散、物凄い速さで上がってきます!』

グラハム「馬鹿な、水中から上がるというのか!」

リディ『サイクロプス!?』

ジョシュア『違う……数が多すぎるぞ!』

 再び水柱が上がり、次々にそれは姿を現した
 水中から基地へと着地していくMS、しかしあまりにも異形を示していた、まさに怪物

グラハム「……!」

 巨大な褐色のボディ
 大きすぎるくらいの頭部に、浮かび上がるモノアイ
 まるで熊のような、鋭い爪を有した腕
 まさに、未知との遭遇であった

グラハム「何だアイツは!?」

『ふふふ、国連軍の傀儡め。度肝を抜かれているようだな』

『シャーク1、ゴッグ! 敵基地への攻撃を開始する!』

 敵MSの胸部から放たれた、紅い粒子の一撃
 長い死闘の幕が、今切って落とされた

To Be Continued


兵士「大佐、地上部隊が例のシリーズを動かしたと」

「そうか……ふふ、これで奴らも気付くだろう」

「我々が【第二のヴェーダ】を有している事実にな……」

「慌ててももう遅い。賽は投げられたのだよ、リボンズ・アルマーク」

フロンタル「このフル・フロンタル、赤い彗星の再来の手によって……」

投下終了だフラッグファイター

さて、忙しくなってきた

雛見沢ゲットー氏でもまとめられているらしい、感謝です
けんゆう飴を舐めながら頑張ろう

ではまた

あぎゃぎゃが持ってったヴェーダか?

>>75
詳しいことはまだ話せないが、別物です

あれはスペアに一から定着させた存在だけど、此方は二つのヴェーダが並列して存在します

ヴェーダは計画に必要な存在、つまり……ということです

                     ,r'´:.:.:.:.:.:.:.:.:`丶、
                      , -‐'/⌒_:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.\
                  /:.:.__」_///ヘ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ

                  {:.:/, ‐y`" ̄ ̄`丶、:.:.:.:.:.:.:.'
                 _」r彡'ン          \ヽ:.:.:}
              ,  ´‐ '´ ィ‐==-、    -==ぃ:./
             /  r /.个! 气汀トヽ ´斥汀ア l:ム
         _r‐/ / r' r'  い   ̄  l    ̄  ハリ
      _ ィ  [、/   ノ /   ヽi     ,       /ン′
    _f     八_r匕.イ      、   i} r    /´
  / / r'     ̄ ̄ノ           i、  , - - 、 イ
   〈__    _  ´        ,r! \   ̄ / jヽ
       >=≦___       ノ  ̄≫‐rr≪ ̄ {


今日、食堂でミスター・ブシドーの正体の話題で盛り上がった。
全員一致でグラハム・エーカーを予想したらしい。
隅の方で味噌汁を啜っていたリント少佐も頷いていた。
食堂を出ると、ミスター・ブシドーが自販機の間から阿修羅のようなオーラを出してこちらを睨み付けていた。
30過ぎのおっさんが仮面のサムライのコスプレをして自販機の間に挟まっている光景に、吹き出しそうなのを必死に堪えていたのだが、
横でピーリス中尉が耐えられなくなったのかくすくすと笑いだした。
強烈なプレッシャーを感じた俺は、すぐさまその場から逃げ出した。
後ろの方で、ピーリス中尉の「前髪は梳かないでぇ」「着物を着せないでぇ」という断末魔が聞こえた。

次の日、ピーリス中尉が行方不明になった。
そして、ピーリス中尉の補充要員として「ミス・ヒメ」という女性がアロウズに入った。
アロウズの制服の上から着物を羽織り、恥ずかしそうに俯いているその仮面の女性はどうみてもピーリス中尉なのだが、
指摘すると今度は自分が「ミスター・アシガル」だの「ザ・ニンジャ」だのになりそうで、結局何も言えなかった。
この日以来、誰もミスター・ブシドーの正体の話をする者は居なくなった。

あけましておめでとうフラッグファイター、生存報告、しましょうか

済まない。年末の忙しさにかまけて停滞している
もう少しで投稿も出来よう、本当に申し訳ない

ではまた

ガンダムEXVS:トライアルミッション

LV指揮官【君の瞳に釘付け】

開幕出現敵機体(パイロット)

オーバーフラッグ×3
(ハワード)
(ダリル)
(エドワーズ)


(エドワーズ)


ジョシュア「エドワー……ズ……?」


何故本編で一度も出ていない名字で出したし

投下再開だフラッグファイター

——基地内——

 跳ね上げられたRGMの胴体が、仮設住居に叩きつけられる
 下半身を伴わないそれはスパークと共に燃え上がり爆発、辺りに破片と粒子を撒き散らす
 業火に照らし上げられたそれは、それが何でもないことのように佇んでいた

マリーダ「っ……!」

 オイルを払うかのようにクローアームを軽く振るう、新型のMS
 その腹部から紅い粒子の光が迸る度、一本の線が破壊を伴い基地をなぞっていった

 塵に変わる建造物
 悲鳴さえ上げられず消えていく命

 その火力は、まさに圧巻

 流石に【デカブツ】と揶揄されたガンダムには及ばないものの、現行MSを圧倒し、警備の目を釘付けにするには十分過ぎる一撃であった

ダリル『反応がどんどん上がってきやがる……!』

ジョシュア『来るぜ、奴らが来る!』

 吹き上がる幾多の水柱、淡い水色の中から姿を現したのは、鉄の色そのままの円柱状の物体

 二十ほどの打ち上げられた物体は小さな爆発音と共に四つに分割
 まさに脱皮するかの如く、AEUイナクトが宙へと舞い上がった

リディ「た……隊長……!」

グラハム「…………」

 国連軍の誰もが唖然としているうちに

 基地の司令部が呆けて口を開けているうちに

総勢二十三機のMSが、基地のすぐ真横に現れ、部隊を展開し突撃を敢行していた

 それはもはや、実体を伴う暴風

 一度飲まれれば、命は無い

 その場にいた誰もが、彼等に背を向け逃げ出した

 軍人も、非戦闘員も、皆誇りも矜持もかなぐり捨てて逃げ出した

 逃げる背中に撃ち込まれていく弾丸

 それは、目に映るもの全てに手当たり次第撃ち込む、文字通りの虐殺

 基地の至る所にミサイルが叩き込まれ、有象無象問わず焼き尽くしていく

 一つ、また一つとMSが膝をつき、命が消えていく

 【戦争】が、目の前で行われていた

リディ「隊長ッ!」

グラハム「黙れッッ!!」


 その様子をグラハムは……いや、オーバーフラッグスは微動だにせず見つめていた

マリーダ「……ッ……」

タケイ「……」

グラハム「…………」

グラハム「オーバーフラッグス全隊員、傾注」

 静かな声が無線に響く合間も、彼等は怒りを沸々とたぎらせていく
 今にも爆発しそうな感情のたかぶりを抑えることなく、憤怒に表情を染め上げ操縦桿を握り締めた

グラハム「往くぞ」

グラハム「奴らが誰に喧嘩を打ったのか、思い出させてやれ……!」

『了解』

 重力を切り離し、一斉に舞い上がる八つの黒い翼

 加速は、一瞬で事足りた

 巻き起こる黒い陣風が、暴風へと真正面から突き当たる

 巡航形態の四機が左右半々に分かれ、前面を構成
 MS形態のフラッグが二列縦隊を組み、それに続いた

グラハム「ッ…………!!」

マリーダ「つぅっ……!」

 最大加速、唯一リミッターを外された二機が突出する

 翼を携えた一角獣と剣のマーク、敵機にその正体はすぐに知れ渡った

 一斉に向けられる銃口にも、襲いかかる数百の弾丸にも怯まない二人

 優位に立っていた敵軍の怯みが、波となって伝わっていく

グラハム「マリーダッ!」

マリーダ「了解!!」

 隙を狙い、即座に二機は空中変形を開始する
 最大戦速からの空中変形、【グラハムスペシャル】

 空気抵抗を利用しての急速な上昇、一気に射線から離脱した

グラハム「おおおぉぉぉぉぉぉッッ!!」

 一閃、袈裟に振られたビームサーベルが、イナクトを両断する

 このままラインを押し上げ、体勢を立て直す時間を稼ぐ——危険はもとより承知の上だ
 それさえこなせれば、数の上では若干優勢
 しかしあの新型MSの前ではそれも過信は出来ない

 万全を期し、最善を尽くす
 戦友に背を預け、想いを共にする者と同じ場所を見据え、ただ前に突き進む

 グラハムは、その眼差しに一片の恐怖も宿さず、敵陣の真っ只中に飛び込んだ



————

ヤザン「ちぃっ!!」

ヤザン「しつけえ……んだよッ!!」

 垂直に振るうビームサーベル、円を描くような配置の爪が受け止め、粒子の火花が散った
 GNフィールドによるコーティングがなされた特別製、奇妙な図体だが新型に相応しい性能を有しているようだ

ダンケル『ヤザン大尉!』

ヤザン「ぬぉっ!?」

 一呼吸、敵の爪が開けた間合いを一瞬で詰めて襲い来る
 とっさに回避したものの、肩先の装甲を軽く抉られた

 モニターには、倍近く伸びた敵MSの腕が映し出されている
 見方によっては可愛らしさすら感じる外見に、初めて寒気のような恐怖を感じた

ヤザン「やりにくい……がたいはデカいのに、こう水辺が近くちゃな」

ラムサス『大尉、手は空きそうですか!?』

ヤザン「馬鹿野郎! 新型相手にそう簡単に事が運ぶものか!」

ラムサス『り、了解! バディクラフトを付けたイナクトが暴れてるんです、早めに頼みます!』

ヤザン「おう、すぐに片を付ける!」

 ふと辺りを見回し、通信などから状況を軽く確認する

新型MSは見えているだけでも総勢、七

 茶色く頭でっかちなMSが四、首なしの水色の坊主頭が三
 それとまだ姿は見えないものの、強力な粒子砲を装備したMSが水中に数機確認出来た

 水色は明らかに太陽炉搭載型MSと思われるが、茶色は性能も一段階低く、まだ断定は出来なかった

 紅海アフリカ側基地は、北上してきていた敵部隊により、既に挟み撃ちの状態になっていた
 何とか数と性能を頼みに陸側は押し返したものの、海側は既に多数のMSが撃破されていた
 基地に隣接する分、ヤザンが離れるわけにはいかない
 必然的に、防衛戦と足止めを同時に強制される形となった

ヤザン「良いか、落ち着いて対処すりゃあ問題ない!」

ヤザン「腹をくくらんか! 戦う前からビビってたんじゃ、勝負にならんぞ!!」

 情けないことに、周囲の友軍は新型に攪乱され、右往左往している
 それに向かい檄を飛ばしながらも、飛来するGNミサイルを目に付く限り片っ端から叩き落とす
 それでも海中から次々に立ち上ってくるミサイル、きりがないという叫びが通信からも響いていた

ヤザン「糞ッ! 新型のくせに臆病風か!」

 先ほど戦っていた新型MSも、囲まれそうになるや否や一目散に水中に飛び込んでしまっていた
 一切手出しが出来ない海中からの攻撃を、歯軋りしながら受け止めていく
 如何に新型とて、ヤザンとの真っ向勝負は危険と判断したのだろう
 まともに戦えば新型だろうが潰してやるものを——ヤザンは不快感を露わにしていた

ヤザン(俺の周り、手の届く範囲にしか新型はいない……)

ヤザン(評価はされてるってことか。しかし妙だ……展開にまるで乱れがなかった。)

ヤザン(まるで、最初から俺の居場所が分かっていたような……)

ヤザン「……最初から俺の配置がバレていた……?」

 通信からひっきりなしに伝えられる救助要請
 どうやら紅海を警備していた艦船が底に大穴を開けられ、傾いているらしい
 旧型の水中用MA、名前さえ思い出せないポンコツもどうやらさっさと沈められたようだ
 RGMも慣れない水中戦闘に仕事が出来ていない
 どいつもこいつも、全く、情けない限りだ

ヤザン「ダンケル、グラハムのいる基地の様子は分かるか!」

ダンケル『駄目です、ジャミングがひっきりなし、報告もまちまちで!』

ヤザン「だろうな。あっちにも襲撃の手が伸びてるっつうことだ」

ヤザン「……これで死ぬならそれまで——そうだろう? グラハム……」

ダンケル『はっ……?』

ヤザン「……うるぁぁッ!!」

 背後に迫っていたのは、水色の新型MSの三本の爪
 飛び上がり斜めに打ち据える、全重量を乗せた一撃だ

 ブレイドライフルを諸手で握り、ブーストと脚部の踏ん張り、切り上げる動作を一つに結ぶ
 迎え撃つ、全力のカウンター
 ぶつかり合った衝撃が、目に見えるような豪快な交錯

 ブレイドライフルが耐えきれず砕け散るが、新型MSもまた地面に放り出され、叩きつけられた

ヤザン「間合いが甘いってんだよ!!」

 数に差があるとはいえ、新型MSのせいで後方にGNーXを縫い付けられている
 サイクロプスの出現の連絡が来ていない以上、オーバーフラッグスと奴らが対峙している可能性も十分にあった

ヤザン「もしそうだとしたら……ナメられたもんだぜ……!」

 RGMから手渡された予備のブレイドライフルを、ビームサーベルと共に両手で構える
 重装型のこのイナクトならば、新型MS相手に瞬間的なパワーで押し負けることはない

 ニュータイプ? そんなものはまやかしだ

 情報漏洩? 知ったことか

 サイクロプスが真っ先に此方に来なかったこと、それは自分に対する【侮辱】に等しい行為だ
 このヤザン・ゲーブルを甘く見た代償、新型MSのスクラップで払わせてやる

まだ見ぬ死闘が自分を待ち受けている感覚に、熱い吐息が洩れるのを止められずにいた

——前線基地・司令室——

グッドマン「反政府ゲリラめ、悪あがきをする……」

リー「……」

 報告を受け、興が乗らぬのか椅子の背もたれに身を投げ出すグッドマン司令
 いかにも高級そうな作りをした椅子は、その体重に悲鳴を上げ大きく軋む
 リー・ジェジャンが軽くせき込むのを、グッドマンは不思議そうに眺めながら言葉を続けた

グッドマン「奴らがまた新たなMSを開発した……このことは由々しき事態だ」

リー「いよいよ、奴らがソレスタルビーイングと繋がっているという疑惑が本格化したかと」

グッドマン「うむ」

グッドマン「だがこれを口実に、各国は軍備増強路線を邁進することになるだろう」

グッドマン「それにより、国連は更なる連結強化を求められ、やがては地球に国境というものがなくなる……」

グッドマン「大局的なモノの見方をすれば、奴らの存在は世界統一の為の生け贄とも言えるな」

リー「……」

グッドマン「数千万規模の兵力を有した地球圏防衛を担う唯一最強の軍隊……」

グッドマン「その威容が瞼に浮かぶようではないか……ジェジャン少佐」

 時計の針がゆっくりと外周をなぞっていく
 そろそろ食事の時間だ、グッドマンはそれが待ち遠しいのだろう
 彼の視線が何度も分針に向くのを、リーは何も言わず無表情で見ていた

リー「! ……司令」

グッドマン「どうした?」

リー「定期貨物を載せた輸送機が、着陸を要請しているとの連絡が入りました」

グッドマン「定期の? またタイミングの悪い……警備のMS隊に通させるよう通達してやれ」

リー「はっ」

グッドマン「さて……作戦は何分で片が付くか」

リー「…………」

グッドマン「賭けるかね? ジェジャン少佐」

リー「賭け金(ベット)によりましては、喜んで」

グッドマン「ふ、良かろう」

グッドマン「賭の結果が、食後のデザートに間に合うといいが」


————

ミーナ「新型……ですって!?」

ビリー「……それも水中作戦に特化した機体。備えはあっても憂いは消えず、か」

 MSドック内には、オーバーフラッグスの整備班が集結、事の成り行きを見守っていた
段階的な部隊移動、本来ならオーバーフラッグスと共に整備班も紅海前線へと赴く筈であった
 しかし爆雷の製造や不足するフラッグのパーツの捻出には設備が足りず、日にちをずらしての移動を予定し基地に滞留ていたのである

ミーナ「グラハム達なら何とか……なると思いたいけどね」

ビリー「防衛戦はオーバーフラッグスの不得手とするところだからね……」

ビリー「若干不可解なことも多い。不測の事態に対処できるよう、万全の準備を頼むよ」

ミーナ「ラージャ、了解ね」

フェルト「……」

 フェルトは、あれから今まで以上にミーナの手伝いやビリーの補佐を積極的に勤めていた

 あくせく働く間だけでも、まざまざと見せつけられた世界の現実から離れられるような気がしたからだ

フェルト「……」

 実のところ、あまりにも熱心に働き過ぎて、予期せぬ疑念を周りから抱かれていた
 年齢不相応のオペレーション技術、電子機器の高度な扱い方、それらを惜しげもなく披露した為である


 【彼女は、一体何者なのか】


 ただのNTとして預けられたという肩書きでは、到底隠しきれない技量の数々
 今更悔やんでも遅いと、フェルトは半ば開き直って毎日を過ごしていた

フェルト(スメラギさんからの連絡……無いなぁ)

 唯一心残りなのは、混乱したままの頭でかけてしまった、スメラギ・李・ノリエガへの電話だった
 盗聴されているかも、という懸念さえ忘却の彼方、たった一言の言葉を吐露して終わらせてしまった

 アレから連絡が来た様子は無く、ミーナやグラハム少佐にもスメラギからのコンタクトは来ていないらしい
 何か誤解して、行動を起こさないだろうか
 意識下に刺さる棘の抜けぬまま、輸送機に積み込んだ貨物の集計をコンソールに叩き込む

「チーフ、仮設基地へのフライトは中止ですか?」

ビリー「戦闘がいつ集結するとも分からない。どのタイミングでも飛べるよう準備だけは引き続き進めておいてくれ」

「了解です」

ミーナ「オーバーフラッグは破損したら修理が利かないものね」

ビリー「マリーダならある程度は可能だけど、戦闘中、独りで部隊の全てを見るのは……ねぇ」

ビリー「我が隊の勝利の女神にも、不可能はあるさ」

フェルト「…………」

 恐らく、グラハム少佐は真っ向から敵部隊に当たるだろう
 性能を最大限生かした、部隊一丸となっての特攻だ
 元々性能では劣る旧型MSが太陽炉を搭載したMSに対抗するには、瞬間的な爆発力で圧倒するより他にない
 それを一番体現出来るのが、オーバーフラッグの加速をそのまま攻撃に転用する【グラハムスペシャル】であり、何より彼の実績がそれを証明していた

 勿論、即座に修理が可能ではない現在のような場面では賭でしかない
 輸送機で物資と技術者を運んでから直ぐに修理、という離れ業は相当馴れた者達でなければ短時間ではこなせない
 オーバーフラッグという特殊な機体なら尚更だ

ビリー「きっと、それでもグラハムは真っ正面から往くだろう」

ビリー「向こうに着いたら直ぐに修理と整備だ。最悪戦闘中の基地に強行着陸もあり得るな……」

ミーナ「それでも彼は正面衝突を選ぶ、信頼されてるわね技術顧問さん?」

ビリー「盟友の苦悩だね、これは」

フェルト「……あれ?」

 ふと、プチモビが動かす荷に目を奪われた
 積み込まれていくフラッグの胸部装甲板、留め金が甘かったのだろうか、カバーが外れ露出していた
それには塗装を塗り直しても分かる凹みが、ありありと残っていた

フェルト「これ、あの時の……」

ビリー「あぁ、そうだよ」

 あの時——

 突然始まった、グラハムとヤザンの一騎打ちのことだ
 今でも、思い出すだけで背筋に氷柱が突き刺さるような錯覚を覚える
 そんなフェルトの様子に気づかぬまま、ビリーは装甲板に歩み寄っていった

ビリー「あの後積み込み作業と平行して仕上げるのが無理そうだったから、一回剥がして取り付け直したのさ」

ビリー「見た目は悪いけど、表面塗料を凹凸に合わせて加工したから強度も風の受けも問題ない」

フェルト「…………」

ビリー「フラッグの実機はイナクトのそれより少ない……無駄には出来ないよ」

 ビリーの手が、黒い装甲板を愛おしげになぞる
 その手つきは、恋人へ向けるそれのようでもあり、我が子へ差し伸べるそれにも似通っていた
 彼のフラッグに対する愛情が本物であることを、何よりも顕した瞬間だった

?「失礼!」

フェルト「あ、ごめんなさ……?」

ビリー「さぁみんな、早く作業を終えて食事にしよう。グラハム達の安否も気になるからね、食べられる時に食べておかないと」

?「…………」

 ビリーの掛け声に皆が呼応し、急ピッチで資材機器が輸送機に運び込まれていく
 その横を、トラックがクラクションを鳴らし微速で通り抜けていった

フェルト「……?」

ミーナ「どうしたの? 此処じゃお邪魔になっちゃうわよ」

フェルト「えぇ……」

ミーナ「定期的に基地に物資を届けてくれる輸送隊ね、もう少し通る場所考えてくれないかしら?」

 ミーナは頬を膨らませ、足早に基地へと歩いていってしまう

フェルト「……」

 小さくなっていく車体
妙な胸騒ぎを覚え、目が離せないままその場に立ち尽くす
それが見えなくなるまでその場から動けずにいた



「……感づかれたか?」

「まさか、あのグラハム・エーカーならまだしも、女の子ですよ?」

「だな……」

「しかし呑気なもんですね。前線からいくら離れているからって……」

「油断するなよ。今回の作戦は、私達の手に掛かっているんだ」

「分かってますよ。では……」

「あぁ、すぐに始めよう。キャプテン達が待っている」

本日は此処まで

遅れた、ごめん

【ゴッグ】

疑似太陽炉搭載機。GN粒子砲とびっくりなくらい硬いGN複合装甲、GN粒子で鋭いクローアームが武器
トリロバイト同様、GN—Xみたいに飛べません。その代わり水中ではヤバい速い
水陸両用、地上ではそこまで速くはない。

【ズゴック】
疑似太陽炉搭載機。ゴッグほど硬くないが素早い。GNビームガンを両手に装備しGN粒子による鋭い爪が武器
GNミサイルもあるよ
同じく飛行は不可能


【アッガイ】

袖付きが他の二機同様、【サルベージ】と呼ばれる行為により製造した水陸両用MS
疑似太陽炉非搭載機でありながらEセンサーにも極端に反応しにくい高いステルス性能と、各関節の柔和性による伸縮自在な機動を可能にしている
エネルギーは主に軌道エレベーターから受信するタイプで、GNコンデンサーは主に火器転用、関節防護に利用されている
武装はクローアーム/腕部内蔵ロケット/低出力GNビームガン/頭部バルカン
パワーが圧倒的に足りないものの、他の二機とは違いコストが圧倒的に低く、唯一地上で製造可能な水陸両用MSである

なお、ゴッグ、ズゴックはGNドライブを完全に内蔵しているので外見は変わらず皆UC準拠

俺が好きだかr水陸両用という概念が00には少ないので、結構強めに描写

バンシィ1/144が出たなフラッグファイター

アームド・アーマーの詳細もばっちりだ、うんグラハム死ぬなこれ

ではまた

続きを投下する前に言っておくッ!
                    おれは今VIPの恐ろしさをほんのちょっぴりだが体験した
                  い…いや…体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが……

         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|          あ…ありのまま さっき 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|       『おれはこのSSの続きを書こうと
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ        思ったらコブラ×メトロイドのSSを書いていた』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人        な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ        おれも何故書いたのかわからなかった…
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ        頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r ー---ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \    乗っ取り即興だとかRDがリディにしか見えないとか

   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ    そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ  }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...       イ  それは まぎれもなく ヤツさ……

1月も師走って呼ぶべきだと思うんだ
生存報告&投下予告だフラッグファイター

済まない。そろそろ頑張る

明日から投下再開及び加速する

ではまた

リディ「隊長、俺気付いたんですよ」

リディ「ゲームに勝つ方法ってやつです」

リディ「坊ちゃんだから時間かかっちゃいましたけど」

ビリー『そ、その機体は……!』

リディ「勝つためには誰かが負ければいい……」

リディ「俺以外の誰かがッ!!」



そういやマリーダさんは烏殺しだったな
まるで未来を暗示するかのようnゲフンゲフン
投下再開だフラッグファイター

——海中——

カークス「状況はどうだ?」

兵士「イナクト隊は初期の二十機と追加の十機展開から七機損失」

兵士「ゴッグは損傷皆無ですが、基地への攻撃効率は68%に留まっています」

 ソナーの単調な高音が、無音のブリッジに鳴り響く
 クルー達が息を殺し従事していることもあり、それははっきりと耳に届いていた

カークス「いちいち海に逃げ込んでいれば……そうもなるか」

兵士「しかし、相手が相手です」

カークス「分かっているさ、マッドアングラー隊は実によく働いてくれている」

カークス「否定するつもりの発言ではないことは、理解してもらいたいな」

 定期的に響く高音に耳を澄まし、副官と同じやり取りを延々と繰り返す
 辺りを囲む潜水艦【ユーコン】からは、地上目掛けGNミサイルが打ち上げられていくのが見える
 国連軍の攻撃の届かぬ位置にいるせいか、妙な脱力感を覚え椅子に深々と腰を据えた

カークス「艦長の席を借りるが、構わんかね?」

兵士「えぇ、艦長からは自宅のようにくつろいでくれとのお達しです」

カークス「ははっ、こんな良い家を持てる暮らしか。想像もつかんよ」

兵士「お褒めの言葉として受け取っておきますよ」

カークス「しかし……本当に良い艦だ」

兵士「えぇ、【ユーコン】も含め、国連軍にだってこれほどの潜水艦はありません」

カークス「地上での戦線を維持するため、制海権を何よりも優先した……フロンタル大佐の目は正しかった訳だな」

 水陸両用型MSの運用を想定して開発された、GNドライブ搭載型大型潜水艦【マッドアングラー】
 付随する潜水艦【ユーコン】と共に【袖付き】からもたらされた戦力であった

カークス「……【袖付き】か」

カークス「一体、どの様にしてこれほどの戦力を独自開発、製造出来たものかな」

兵士「さぁ……噂だと、三国内にもシンパが沢山いると聞きますが」

カークス「俺の戦っていたAEU本国にもいたのかな、シンパとやらは」

兵士「? 少佐は【棄民政策】に関わっていた宇宙移民の帰還民と聞きましたが」

カークス「主導だったのはユニオンだがな、裏では三国が結託して【アステロイドの地均し】を行っていたのさ」

カークス「ん……火、あるか?」

兵士「あ、どうぞ」

カークス「……ふー……」

カークス「……下層市民ってのは、いつの時代も、何処にいても、見上げることだけは止められないんだ」

カークス「宇宙にいたとしても……な」

兵士「……」

 宇宙に上がったことを、実のところ後悔はしていなかった
 当時まだ十代半ばの若造だった自分から見ても、世界の閉塞感は息の詰まるものだったからだ
 事実、その澱んだ世界が今宇宙に自由を求める心、【ジオニズム】を広め、地球の重力から魂を解放せんともがく原動力にもなっている

 始めてしまった

 始まってしまった

 宇宙の暗闇に投げ捨てられて二十年を過ぎ、今なお我々の【戦争】は続いているのだ

カークス「……時間だな」

兵士「例の機体確認しました、護衛のズゴック、アッガイを出します」

カークス「地上部隊、及びブーン大尉のズゴック隊に連絡を。【三角頭】は一発限りだ、タイミングを逃すなよ!」

兵士「了解!」

 二百年、無理やりに押し込められた人々の意識は遥かな宇宙を目指し、既に拡散しつつあった
 ガンダムにより世界が変革を踏み出した今、それは止め処ない一つの濁流となり歴史を動かしていく
 西暦2308年、もはや人類は地球という揺りかごに収まりきりはしない

それを収めるものこそが、まさしく【ジオン】という器なのだ

兵士「ミッションタイムクリアッ! 【シャンブロ】、目標地点到達!!」

カークス「これが、宇宙移民のもとめる真の変革の狼煙となる……!!」

 連動したモニターから真紅の閃光が迸り、ブリッジを赤く照らし上げる
 カークスはその憎しみの光を、敢えて真っ向から見つめ続けていた

——地上・アフリカ側基地——

クラウス「ライセンサーッ!」

ヤザン「サンドチャリオットか!? しゃらくせえ!!」

 串刺しにされた茶色の頭部、だらしなく投げ出された伸縮性のある腕部
 破壊された新型MSを挟むようにして、二機の異なるイナクトが刃を交えた
 片方はイナクトの姿をしているが、重量、出力推力、武装に至るまで異質な改造機
 もう片方もまた下半身が完全にユニットによる補正を受け、イナクトの上半身のついたホバークラフトといった外見の専用機だ

 そして、それを駆るは国連軍最強の【野獣】と、反乱部隊最高峰のエースパイロット
 その間に割り込める人間など、いるはずもなかった

クラウス「もうこれ以上は、やらせんッ!!」

ヤザン「来いよ、もっと楽しませてみろってんだァ!!」

 クラウスは滑るような高速移動で回り込み、建造物との僅かな隙間を利用し防御と攻撃を両立
 ヤザンに接近の余地を与えまいと、距離を保ち弾幕を張る
 ヤザンは障害物の配置から、滑るクラウスの動きを読んでいく
 牽制弾を難なく回避し、先回りするように砲弾を撃ち込む

 お互いが一瞬の隙を見計らい、間合いに入るタイミングを狙う、刹那の睨み合い
 装甲すれすれ、1m以内の誤差を抜けるライフルの応酬

 それでも互いの距離は狭まっていく
 そして、にじりよるヤザンのイナクトが、遂にクラウスを間合いに捉えた

ヤザン「……っ!?」

 咄嗟の判断、まさにただの勘としか説明出来ぬ一歩
 わざわざ詰めた間合いを、ヤザンは一歩引いていた

 その直後、狙いすました弾道がイナクトの影を貫いた
 リニアライフルの遠距離砲撃、引いていなければ間違いなく頭部を撃ち抜いていただろう

ヤザン「スナイパーッ……やはり囮か!?」

ネフェル『ちっ! どいつもこいつも当てにくいね、ライセンサーってのは』

クラウス「済まない、誘いが露骨すぎたかもしれん」

ネフェル『アレに正面勝負挑んでくれただけでも大助かりさ、お気になさらず』

ネフェル『でも同じ手は使えないよ。ほら、さっさと退却っ!!』

クラウス「了解だ!」

ヤザン「うぉっ!?」

 イナクトのセンサーが狙撃手を捉えたときには、同時に大量のマイクロミサイルが視界に入る
 ビームサーベルを下げ、即座に後退するヤザン
 爆風は天まで巻き起こり、一帯を朱の光に飲み込んだ

ネフェル「やった……訳ないわよね。つくづく化け物だらけだわ、この戦場」

クラウス「……君が来たということは、始まるのだね」

クラウス「【大佐】が考案した、例の作戦が」

ネフェル『そういうことね』

ネフェル『……キャプテン、大丈夫かしら』

クラウス「信じるしかない。我々は、我々の使命を果たそう」

ネフェル「そう……よね」

  ・
  ・
  ・

 撤退を始める反国連勢力
 その背を見つめながら、ヤザンは瓦礫を払い、ゆっくりと機体を起こした

ヤザン「逃げられた……か」

 足元には、茶色の新型MS【アッガイ】の亡骸
 コクピットと頭部に幾つもの刺し傷を残し、完全に沈黙していた
 しかし、ヤザンの目には仕留めた獲物より逃がした獲物が映っている
 近づいてきた部下にも視線を向けぬまま、じっと地平線を見つめていた

ラムサス『流石は大尉、お見事です!』

ヤザン「さっきのイナクト……いい腕だったが小綺麗過ぎる、まだグラハムの方が貪欲だな」

ラムサス『はっ?』

ヤザン「くく……あと二年ってところか? 次が今から楽しみだぜ」

ラムサス『……っ』

ラムサス(最前線で戦って、新型まで落としてるってのに、まだ戦い足りないのかよこの人は)

ラムサス(たまに思うぜ……俺達は、とんでもない獣の下で働いてんじゃねえかって……)

ヤザン「よし、部隊を編成し直す! 間違いなく次が来るからな、万全の……」

ダンケル『た、大尉!!』

ヤザン「あん? どうしたダンケル」

ダンケル『今通信で、その……!』

ヤザン「勿体ぶるんじゃねえ! 一体何だってんだ!」

ダンケル『前線基地が……』

ダンケル『前線基地が、壊滅したとの連絡が、本営から入りました……!』

ラムサス『なっ!?』

ヤザン「なんだとぉ?!」

ヤザン「馬鹿を言うな! いくら戦力をこっちに集結させたからといって、あっちにRGM含め何十機残してあると思ってる!!」

ヤザン「前線基地が落とされるような戦力が動けば、何処かの基地から必ず情報が入る! 仮にガンダムレベルの少数精鋭だとしても、こんな短時間で潰されるほどグッドマンとて無能ではない筈だ!」

ダンケル『しかし、デマじゃありませんぜ大尉』

ラムサス『確かに……腑に落ちない点はありますが、本営からならガセじゃあないですね』

ヤザン「ちっ……!」

ヤザン「こっちはもう抑えられるだろう! だったら今すぐ……」

『紅海沖に高熱源反応!』

ヤザン「次から次へと……今度は何だぁッ!」

 ——ヤザンは、いつになく苛ついていた

 普段の彼の素行から分かるとおり、一度頭に血が昇れば周りの言葉などでは止まりようがない
 【野獣】と揶揄される性格の、分かりやすい一面である


ヤザン「っ!?」


 その【野獣】が、止まった

 それは、それほどに彼の視界に入ったものが異形であるという、証でもあった

 海から粛々と顔を出していた異形、それは見たこともない形状と大きさを持った機動兵器であった

 鋭角の刺々しい嘴、真っ赤に塗られた装甲
 威圧感を漂わせるクローアーム等々、現存するどの兵器にも類似しない、特異な外見

 MAという形態の、戦闘に於ける正当進化が廃れたこの西暦世界において、存在し得ない存在

ヤザンのみならず、その場にいた誰もがその怪物に萎縮し、困惑しきっていた

ラムサス『大尉、ありゃあ何です!?』

ヤザン「……!」

ヤザン(敵機の撤退……同時に現れた敵性勢力)

ヤザン「まずい……!」

 嘴にあたる部分、大口径GNメガビームカノンに臨界状態の粒子が圧縮される
 その妖しい輝きにさえ、誰も動こうとはしない 
 ただ一人、数々の死線を潜り抜けた【野獣】を除いては……

ヤザン「避けろオォーッ!! 来るぞぉぉぉぉーッ!!!」

 ヤザンの叫びが広がり、ようやく兵士達は自分の置かれた立場を知った

 しかし、もう遅い

 慌てふためくMS機甲大隊の中心目掛け、溢れ出たメガビームカノンの一撃

 寸分違わぬ精度により、それは撃ち込まれた

 海を蒸発させ、大地を融かし、一直線に国連軍へと食らいつく膨大な圧縮粒子の一撃
 飲まれたMSはまるで火中の氷の如く形を崩し、やがては消滅していく
 MSの火力に対応するはずの基地施設の防御機能など、直撃を免れても意味がなく
 高熱量の余波に襲われ、至るところで誘爆や火災が発生、容赦なく命を灼き尽くす

ヤザン「うおぉ……!!」

 とっさに射線から離脱したヤザン隊は、その光景をまざまざと見せつけられていた

 やがては粒子の光も消え、赤い三角形の頭もまた水面の底に消えた

 残ったのは、破壊から逃れ呆然と立ち尽くす兵士達と、甚大な被害を被った仮設基地のみ

 たった一撃の砲撃が、事態を軽々一変させてしまった

ヤザン「……ッ!!」

 悔しさが、言葉にすらならない
 ヤザンは、モニターに有らん限りの力を込めて拳を叩きつけた
 火花を散らし、消える映像

ヤザン「おおぉぉぉーーーーッッ!!!!」

 彼はそのまま、とある人物からの通信が入る一時間の間
 行き場の無い怒りに身を焦がし、俯いていた

本日はここまで

別口の質問に「ヤザン強すぎね?」と有りました
実のところ、00世界にはフォン・スパークのような「別の進化の可能性」みたいな示唆がされており、このヤザンは00世界においてそちら側の存在であります

ですのでぶっちゃけまだ強くなります。戦闘技術だけなら現段階最強です

ではまた

所詮SS投稿だ、刺激的にいこうぜ


投下再開だ、首輪付き

 ・
 ・
 ・

 前線基地壊滅の報と、アフリカ側仮設基地の機能停止の連絡は、ほぼ同時にオーバーフラッグスに届いていた
 被害甚大、被害甚大
 ただその一言のみが、壊れたレコードのように通信機から連呼されている

 しかし、それに耳を傾けるものは誰一人としていなかった 皆、一様に空を見上げていたからだ


ジョシュア『がッ……くそ……!』

タケイ『う……ッ』

リディ『な……あ……?』

 両断された新型MS
 大破し、力無く倉庫に寄りかかるオーバーフラッグ
 打ち砕かれ、残骸と化したイナクトは文字通り死屍累々と辺りに散らばっていた
 そして皆の視線は、朱に染まる空に浮かぶ、ただ一つのMSに結ばれていた

『此処からだ……』

グラハム「……貴様はっ……!」

『俺様は此処から、全てを見通す眼を手に入れる!』

グラハム「……まさか……?!」

『あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!』

 【トランザム】の輝きをその身に纏い、もぎ取ったフラッグの左腕を掲げ狂ったように笑う悪魔
 カモフラージュの仮面を自ら剥ぎ取り、その素顔を惜しげもなく晒してみせた
 それはまさに一年前、世界に楔を打ち込んだ存在

 【ガンダム】そのものであった……


To Be Continued


「……GNキャノン、及び強襲用コンテナ。作戦領域に到達」

「ティエリア・アーデ、ミハエル・トリニティ。ミッションプランに従い作戦行動に入る」

うん、済まない。こんな最後の一つくらいさっさと投下しろよ童貞技術顧問という蔑みの眼差しが感じられるよ

続きはまた明日、遅れは取り戻したいものだな

【グラハムの階級に関して】

ブリティッシュ作戦立案

AEU・人革は指揮官クラスを出せたもののユニオンには該当者がいない

焦るユニオン、このままじゃ我々ばかりが前線に立たされてジンクスを使い潰されてしまう(ただの思い込み)

そうだ、グラハム上級大尉を少佐に引き上げて形は保とう

半ば無理矢理な理由で少佐に昇進

ロックオンとのスキャンダル

ユニオン手のひらを返してグラハム追放を思案

もたらされた情報によりグラハム釈放、しかし元からそんなに良く見られてなかったのもあり少佐の話はお流れに

後日改めて昇進

こんな流れです。グラハムがブリティッシュ作戦に合流した段階では上級大尉と名乗っているのもその為です
グラハムとカタギリが捕まる直前昇進に大してやたら反応が薄いのも、そういう舞台裏に霹靂していたからでもある

一年経っても私のマリーダさんへの愛は何ら色褪せることはない
あ、グラハムさんには特に何も……はい


投下再開だ、フラッグファイター

————

ダリル「隊長ッ!!」

グラハム「来るな、ダリルッ!」

 二つの異なる刃が唸りを上げて目の前に迫る
 胸元を無残に抉られたフラッグでは、逃れる術もあるはずがなかった

 ダリルのオーバーフラッグが割り込み、ビームサーベルで真っ向から受け止める
 だが、一瞬の閃光と共に両腕は吹き飛ばされ、それぞれが建造物に叩きつけられ粉々に散った

グラハム「ダ……!」

グラハム「ダリル・ダァァァァッジ!!」

 崩れ落ちるフラッグ、そして立ちはだかる紅のガンダム
 脳裏に浮かんだのは、MSWAD基地をスローネが襲撃したあの日、あの時
 ハワード・メイスンが逝った、あの瞬間の映像だった

 ——割れんばかりの雄叫びと、最大出力で吶喊するオーバーフラッグ

 グラハムの咆哮と共に、二機の刃が交錯した

——紅海基地・中東側——

 元より真っ赤に彩られた装甲に、更なる朱を足したトランザムアストレア
 地に墜ちた黒き巨鳥を見下す深紅の悪魔は、半ばから砕かれたフェイスカバーを自ら剥がしガンダムヘッドを露わにする

874『フォン、トランザムの限界時間到達までカウント30』

フォン「あげゃ、思ったよりかかっちまったか」

フォン「撤退する。高度を維持すりゃ粒子不足を叩かれる心配も無いだろう」

874『よろしいのですか? オーバーフラッグスは全機健在ですが』

フォン「どうでもいい、手土産があれば十分だ」

874『了解』

フォン「まぁ、俺様のガンダムに傷をつけたのはまあまあだと誉めてやるか」

フォン「あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!」

 二機の間に転がるビームサーベルが、光を失う
 見下されたフラッグ、左腕は引きちぎられアストレアの手の中にある
 他のオーバーフラッグスもまた手酷く傷つけられており、無傷なのはマリーダ機と、たまたま離れていたリディ機のみであった

マリーダ「ッ!」

フォン「おっと、今更強化人間とやり合う趣味はない!」

マリーダ「逃げるか、ガンダムッ!!」

フォン「そう睨むな……勝敗は決している」

フォン「あばよ、フラッグファイター! あげゃげゃげゃげゃげゃげゃッ!!」

 超速で去りゆく背中を見つめ、グラハムは血が滲むほどに強く、唇を噛み締める
 じわり、じわりと、敗北の味が口一杯に広がっていった

グラハム「見逃されたと……いうのか……!?」

ジョシュア『ダリル! 返事しろ、おいッ!』

グラハム「ッ!?」

リディ『くっ、ダリルさん! 隊長!!』

マリーダ「マスター、ダリルが……!」

グラハム「ダリル!」

 敵はガンダムの突入と同時に撤退、既に目視範囲には一機たりとも姿は見えない
 そのことからもあのガンダムが反国連軍に関わっているとは言い難い……と、後に判断したのはカティ・マネキン大佐であった
 たった一機のガンダムに壊滅的打撃を受け、ただ無様に見送るしかない
 それが今のグラハムの、オーバーフラッグスの現実だった

グラハム「ダリル、私を庇って……!」

ヴィクトル『衛生兵……衛生兵はまだか……!』

ジョシュア『ダリル、ダリィィル!!』

 圧倒的な性能に叩き潰され、膝を屈し、地を舐め這いつくばって
 悠然と背を向けられ、追うことも出来ず、矜持を目の前で踏みにじられて

グラハム「何が……」

グラハム「何がフラッグファイター……!!」

 たった数分の出来事に打ちのめされ、思い知らされた

 ——彼等は、空を取り返せてなどいなかったということを

——ガンダムアストレア・コックピット——

874『…………』

874(フォン・スパークの奇襲タイミングは完璧だった)

874(グラハム・エーカーのフラッグが新型MSの腹部を刺し貫いた瞬間、海面より浮上し新型MSの背後から強襲)

874(新型MSごとフラッグを斬りつけることで胸部装甲と基幹部に損害を与え、倒れ込んだ隙に周りのオーバーフラッグスへ即座に攻撃を開始する)

874(これに関してはオーバーフラッグスの奇襲に対する反応速度の高さもあり、よくて中破程度に抑えられた)

874(更にダリル・ダッジ機が無傷でアストレアの前に立ちふさがり、グラハム機を庇う)

874(フォンはアストレアの加速力とトランザムの爆発的出力に任せ、ビームサーベルの上から押し切りダリル・ダッジを圧倒)

874(そして、その一瞬の隙間を縫うようにグラハム機のビームサーベルが突き出されアストレアの胸部に……)

874「……あのタイミングの一撃、シェリリンのGNリフレクションがなければ……」

フォン「違うな」

874「!」

フォン「GNリフレクションがあるからこそ突っ込んだ。俺様に見抜けぬものなどない」

874「……」

874「結果論ではないと、いうことですか? フォン」

フォン「当たり前だ」

874「…………」

874(最初の奇襲の瞬間、マリーダ・クルスがグラハム・エーカーから離れていたのが一番の成功要因だろうが……)

874(この場合運も実力のうち、と考えるべきだろう。フォン・スパークという存在から考えて……)

フォン「あげゃ?」

874「いえ、何も」

フォン「それより腹を括れよ874」

フォン「イオリアの爺さんの隠し子共だ……鬼が出るか蛇が出るか」

フォン「楽しみじゃねえか、あげゃげゃげゃげゃげゃ!!」

874「……光暗号通信、着陸を許可するとのことです」

フォン「降りる!」

874「了解」

 ・
 ・
 ・


 アフリカ大陸の閑散とした荒野、岩山と枯れ木の立ち並ぶ生の尽きた土地

 それらがまるで上辺とでも言うように巨大な二枚扉が口を開く
 アストレアを飲み込み、再び閉じれば元の木阿弥
 そこはもう一つのヴェーダが作り出した、本来あってはならない隠れ蓑……

——秘密基地——

 周囲の緊張感は最高潮を迎えていた
 それもそのはず、世界にたった四機で喧嘩を打った【ガンダム】が目の前にいるのだ
 騒がないのは頭のネジが飛んだ戦争屋か自殺志願者か、よほどの馬鹿だけだろう

ジンネマン「来たか、予定通りとは憎たらしい」

 見上げれば思い出す、地上に降りた直後のあの記憶
 今思えばあれもただの激しい自己紹介に過ぎなかったのかもしれない
 一応ギラ・ドーガを二機とヅダを待機させてはいるものの、此処まで入り込まれてしまえば状況は同じだろう
 【大佐】からも手荒な真似はするなと釘を刺された以上、黙って相手の出方を待つしかなかった

ネフェル「なんだ、キャプテンはギラ・ドーガに乗らないの?」

ジンネマン「ネフェル、お前こそイナクトに乗らんのか」

ネフェル「見れば分かるでしょ? 仕事終わりのシャワー浴びて、またパイロットスーツなんて御免被るわ」

ネフェル「それにあたしのイナクトじゃ、逆立ちしたってあれを止められやしないわよ」

ジンネマン「生身でいるよりは、生き残る可能性が高いかもしれん」

ネフェル「今更だよ。何したって死ぬときゃ死ぬ、それだけさ」

 濡れた白髪をタオルで拭きながら、ネジの飛んだ戦争屋は煙草に火をつけていく
 アストレアが左腕に握ったフラッグの腕部パーツを手離せば、足元に群がっていた兵士たちは叫びをあげその場から逃げ出した

ネフェル「相変わらずむちゃくちゃね、あの子」

ジンネマン「とりあえずやり合うつもりはなさそうだが……人払いしてさっさと本題に移るか」

ネフェル「あれ、クラウスは?」

ジンネマン「さっきガンダムを撮るとかいってカメラを取りに行ったきりだ」

ネフェル「馬鹿だったの? あいつ」

ジンネマン「今頃気付いたのかお前、アイツ馬鹿だぞ」

————

クラウス「くしゅんっ」

クラウス「風邪かな……?」

————

 談笑もそこそこに、アストレアの足元に寄る二人

 開け放たれたコクピット、見下ろす不敵な笑みがそれを迎えた
 最狂のガンダムマイスター、フォン・スパーク
 以前ジンネマンらに襲いかかったことなど、まるでなかったかのような態度であった

フォン「あげゃげゃげゃ、まだ生きていたのか? ネフェル・ナギーブ」

ネフェル「生憎、しぶとさだけは定評があってね」

ジンネマン「お前がガンダムのパイロットか……【久し振り】だな」

フォン「あぁ、【お久し振り】」

ジンネマン「人と話したければまず礼儀を知ることだ。見下してないでさっさと降りてこいこのクソガキ」

フォン「あげゃ、そうさせてもらうぜこのクソジジイ」

 フォンはワイヤー伝いに降りてくると、手土産のフラッグの腕に足を置きジンネマンに顔を近付けた
 至近距離でぶつかる視線と視線、睨み合う二つの眼差し

 それを見つめるガンダムマイスター874の電子の脳髄は、こう考えていた

 西暦世界の異端児【フォン・スパーク】と、本来この世界に存在し得ぬ【袖付き】
 この二つの邂逅が何を意味するかは、ヴェーダを介してみても分かりはしないだろう
 だが、それが平穏な結果を生むことはまず有り得ない……と

——前線基地——

 まだ1ヶ月と経っていないのに、風景はまさに荒廃の一言
 破壊されたMSの残骸さえ処理されていない状況からは、戦争の臭いがくすぶり漂ってくるような気さえした

リディ「……」

ルドルフ「ひでえな、こりゃあ」

タケイ「…………」
 まず帰還した隊員達の目に付いたのは、基地に空けられた【穴】であった
 地面が丸々抜けたような穴が三ヶ所、重要区画の隣にぽっかりと存在しているのだ

ジョシュア「残念ながら真実だったわけか……突拍子もないから少し軽く考えてたけどよ」

リディ「地面からの侵攻、脅威のメカニズムって訳ですか」

 穴はどれほど下に続いているのだろうか、見当もつかないほどに深い
 残留反応から計算するに、どうやらMSにより掘り出されたものらしい
が、そんなことが本当に可能なのか、全く想像も出来ない自分がいた

ヴィクトル「皆、集まってくれ」

リディ「大尉」

ルドルフ「どうでしたか? 司令部は」

ヴィクトル「状況は、はっきり言って最悪だな」

ヴィクトル「二日前に到着したカティ・マネキン大佐がグッドマン司令に協力し、不眠不休で指揮しているらしいが、被害が大きすぎて何が何やら……」

ヴィクトル「見たけりゃ仮設管制室に行ってこい、スリムなグッドマン司令が見れるぞ」

ジョシュア「見たいようで見たくねぇ……」

ヴィクトル「アフリカ側の基地も、謎のMAによって破壊されちまった。MS二十七機損失、中破小破含め三割超」

ヴィクトル「俺達の紅海基地は戦力の被害こそ少なかったが、オーバーフラッグスのダメージが強すぎて到底賄いきれんのが実状だな」

ルドルフ「くそっ! やってくれるぜ反乱軍の奴ら」

ジョシュア「デカブツの主砲にケツ掘られて負けたぁ、ヤザンでも同情したくならぁな」

リディ「これからどうなるんです? まさか撤退とか……」

ヴィクトル「国連軍の威信もある……まずそれはあるまい。ガンダム同様、まずは敵新型の戦力の解析と戦術の確立が課題となるがな」

ヴィクトル「新型が水中性能を重視する以上、此方の地上侵攻に対抗出来るとは考えにくい」

ジョシュア「隊長やヤザンがダメージを与えられた以上、GNーXならもっとやりようがあるはずだからな」

ヴィクトル「勿論、これでは当分戦いようもあるまいが……」

タケイ「……」

リディ「ダリル少尉、大丈夫ですかね」

ルドルフ「……大丈夫なわけあるもんか」

リディ「ですよね……」

「お〜い! 準備できたぞ〜!」

ジョシュア「おっと、お呼ばれか」

リディ「? 飯ですか」

ジョシュア「馬鹿、お前聞いてなかったのか? 発掘だよ発掘」

リディ「???」

タケイ「……」

ジョシュア「駄目だコイツ、マジで何も聞いてなかったのか」

リディ「……スイマセン……」

ジョシュア「しっかりしろよお坊っちゃん……じゃあお前は……」



 ・
 ・
 ・



「命に別状はありません。粒子汚染による人体影響も無いので、しっかり治療すれば無事に退院出来ますよ」

マリーダ「ありがとうございます」

「生まれつき頑丈なんでしょう、聞かされていたよりずっと軽傷でしたから」

マリーダ「ふふ……成る程」

「ですが、途中で抜け出したり出来る状態じゃあありませんからね。フラッグファイターは医者の間じゃ、嫌な噂が多いから……」

 軍医らしい軽口に一安心しながら、マリーダは今日初めて安堵の感情を見せる
 これでオーバーフラッグス全員の無事、再起が確認された
 特にダリルの登場していたフラッグは完全に破壊されていたのもあり、その安否は皆の心を煩わせていたのだ

マリーダ「……まだ、ハワード・メイスンに会いに行くわけにはいかないよな。ダリル」

 医師も次の患者に向かい、機器の脈動だけが耳をくすぐっていく
 付き合いも長く、オーバーフラッグスのまとめ役としてグラハムの信頼が最も厚い男だ
 まだ死ぬべき男ではない。眠りに就くダリルの肩に手を置き、マリーダは静かに語りかけていた

マリーダ「!」

 と、背中に当たる微風。扉が開いたことを知らせる風だ
 背後に立つのは、恐らく彼だろう
 振り向く前からそれは確認に変わっていた

グラハム「…………」

マリーダ「マスター」

グラハム「先ほど医師から報告を受けた。ダリルは無事だそうだな」

 立ち上がろうとするマリーダを制止し、傍らに立つグラハム
 ダリルの寝顔を覗き込んだその表情は、暗い後悔の念に沈んでいた

グラハム「……自惚れていた」

マリーダ「え?」

グラハム「オーバーフラッグスならば、いや私ならばガンダムに旧世代機でも対抗しうる……」

グラハム「そんな増長が、今回の結果を生んだのだ」

マリーダ「マスター……」

 何時もならば否定するであろうマリーダも、こればかりは反論が浮かばなかった
 常に攻撃の側に立てればオーバーフラッグでも対抗しうる、確かにそれは事実だ
 しかしひとたび立場が逆転すれば抗うことは出来ず、この様な形の結末を迎えることになる

【旧世代機では、ガンダムに勝てない】
 分かりきっていた、そのはずなのに
 グラハムは微動だにせず、横たわる部下の姿を見つめていた

マリーダ「……しかし、我々がガンダムに通用していたのは紛れもない事実」

マリーダ「ダリルもあの日、その矜持を胸に貴方の背中を守っていた筈です」

グラハム「……」

マリーダ「……確かに、グラハム・エーカーは最強のフラッグファイターです」

マリーダ「でも、どうしようもないことはどうしようもない。人は人である以上、神にはなれないから」

マリーダ「だからオーバーフラッグスがあり、カタギリ顧問がいて……私が存在していられる」

グラハム「マリーダ……」

マリーダ「あまり御自分を責め苛まないでください、マスター」

マリーダ「ダリル・ダッジの……貴方を誰よりも尊敬する、勇敢なフラッグファイターの為にも」

 それは慰めの言葉ではなく、労りの言葉とも違っていた
 敢えて言うならば、覚悟であった
 軍人である以上避けられぬ死の可能性、そしてそれを受け入れ職務を全うせんという覚悟
 それを改めて言葉にした、オーバーフラッグスの総意であった

グラハム「……」

グラハム「先走るな、という念押しにも聞こえるな?」

マリーダ「あまり速く飛ばれては、追いつくのも一苦労ですから」

 向かい合って聞いているはずの言葉は、グラハムは背中で受けたように感じた

 ——もし

 ——もし、その時が来たとしても

マリーダ「マスター」

グラハム「ん?」

マリーダ「もし、その時が来たとしても……」

 ——あなたは

 ——あなただけは



『失礼します!』

グラハム「!」

マリーダ「!」

リディ「あ、隊長……マリーダ中尉も来ていたんですか」

グラハム「リディか、ダリルなら無事だ。粒子による細胞障害も起きてはいない」

グラハム「全治二ヶ月、重傷だが後遺症の心配も無いという。皆に報せてくれ」

リディ「え? あ、はぁ……」

マリーダ「……」

グラハム「なんだ、その反応は。言いたいことは口にせねば分からんぞ、マーセナス准尉」

リディ「……えーっと…………」

リディ「お邪魔しちゃったかな、なんて。へへ」

マリーダ「っ……!」

リディ「うごっ!!?」

 次の瞬間、廊下にまで響き渡る重厚な殴打音
 リディは頭を抱え膝をついた為、真っ赤に染まったマリーダの表情を見ることは叶わなかった

マリーダ「馬鹿をぬかす暇があるならさっさと機体の修理に手を貸せ……!」

リディ「ぼ……暴力はいけない……」

グラハム「くっくっ……」

マリーダ「マスター!」

グラハム「失敬。だがこれ以上の騒音は病院のマナーに反するな」

グラハム「行くぞフラッグファイター。ダリルの不在を支えるのはオーバーフラッグス一人一人の双肩だ」

グラハム「重さに潰れるなよリディ」

リディ「肩幅は広い方ですので、幾らでも!」

グラハム「上等ッ!」

 病室から足早に、それでいて静かに退出する三人
 ダリルは薬によって深い眠りについているのだが、誰に言われた訳でもなく、自然と彼等は静寂を重んじた

グラハム「……」

 最後に、小さな敬礼がフラッグファイターに送られる
 再び瞳に火を点した男からの、決意の表れであった

グラハム「マリーダ」

マリーダ「はっ」

 リディはすぐさま二人と別れ、部隊の仲間にダリルの無事を知らせに走っていった
 まだリディの背が消えぬ内に、堪えられなくなったようにグラハムが口を開いた

グラハム「もう、もしもの話などするな。想定も金輪際許さん」

マリーダ「!」

グラハム「異論反論、一切認めん。いいな?」

グラハム「付いて来いマリーダ。私がどれほど速度を上げたとしても、お前だけは隣にいろ」

マリーダ「……」

マリーダ「了解、マスター」

グラハム「良い返事だ」

 マリーダは、ふと思った
 以前のグラハムならば、戦場の死は兵士の常であると、其処まで深く考えはしなかっただろう
 いや、考えていたとしてもそれを見せなかっただけなのかもしれない

 それを自分やリディ、他々の部下に僅かでも垣間見せている
 優しさは得てして弱さに繋がる。その兆候は、確かに感じていた

マリーダ(……良いじゃないか、甘くとも)

マリーダ(そうでなくては、支えがいも無い)

グラハム「何を笑っている、マリーダ」

マリーダ「いえ、何も」

グラハム「?」

 変わることが世の常なら、彼の変化もまた当然のことなのだろう
 人も国も、世界さえもいつかは変わっていく
 そのままでいられるものなど、この世に何一つとしてありはしない

 それでも、願わくば……
 変わらぬまま、こうして隣に居続けられんことを
 マリーダは言葉にせず、内なる神にそっと祈りを捧げた

——仮設司令室——

マネキン「グッドマン司令、そろそろお休みになった方がよろしいのでは?」

グッドマン「何故かね」

マネキン「司令が最後に仮眠を取ってから既に三十七時間が経過しています。食事は三回、このままではお身体に障りましょう」

グッドマン「ふん、私のタイムスケジュールを覚えていられるとは、流石天才。随分余裕と見える」

グッドマン「君には分かるまいよ。受け持った基地を破壊された屈辱の味などな……」

マネキン「……」

マネキン(重症、だな。無理もない)

マネキン(今回敵部隊が執った作戦は過去類を見ない……いや、見たとしても此処まで規模の大きなものはなかっただろう)

マネキン(掘削用のMS……そもそもこんな変態的なものをよく造ったものだ……を用いた地中からの強襲、その後基地を盾にサイクロプスを展開、警備中のMS隊を次々に攻撃)

マネキン(同時に予め基地に忍び込ませていた工作隊が基地の重要区画及びMSドッグを爆破、その機能の破壊を確認し即座に離脱……)

マネキン(リカバーが間に合った分、むしろ司令はよくやれた方だ)

マネキン「仰る通り、前線基地は壊滅的打撃を受けました」

マネキン「基地機能の一刻も早い復旧は我々が成すべき使命であり、この紛争に参加している兵士全てが強く願うところでもある」

グッドマン「そこまで分かっているのなら……」

マネキン「ですが——どの様な状況に置かれても、司令がこの基地の最高指揮官であることには変わりありません」

マネキン「もし司令が過労で病床に伏すようなことがあれば、復旧作業はそれこそ致命の遅延に晒されることと相成りましょう」

グッドマン「ぬぐっ……」

マネキン「不敬、無礼は承知の上です」

マネキン「御身の健勝が守られるならば、このカティ・マネキンは軍法会議も辞さぬ覚悟とお考え下さい」

グッドマン「…………」

マネキン「今ならばジェジャン少佐、エーカー少佐の両名が健在」

マネキン「復旧作業に関してはエーカー少佐に些かの不安を覚えますが、副官であり、基地を知るジェジャン少佐がそれを補って余りある能力を発揮してくれましょう」

マネキン「司令の御不在の間だけならば、十分耐えられるかと」

グッドマン「ふむ、それもそうか……」

マネキン(我ながら歯が浮く、煽てるのは好みではないのだが……)

マネキン(だが話したことは嘘ではないし、何より私が休むことを考えれば尚更万全でいてもらわねばならない)

マネキン(今ここでグッドマン司令に倒れられるのだけは、避けなくてはな)

オペレーター「司令、大佐。軍用回線から、基地への着陸要請の通信が入っています」

マネキン「何?」

グッドマン「こんなときに……誰からだ?」

オペレーター「発信者は……ライセンサーとだけ」

マネキン「!」

グッドマン「まさか、新しいライセンサーだと?」

マネキン(それとも……彼女なのか……)

オペレーター「如何致しましょうか?」

セルゲイ『私が、その輸送機の応対に当たろう』

グッドマン「スミルノフ大佐……来て早々済まんな」

セルゲイ『オーバーフラッグスの機能しない現状、万が一に備えるのが我々頂武の使命と認識させていただきます』

マネキン「よろしくお願いします。大佐」

セルゲイ『うむ、構いませんかな? 司令殿』

グッドマン「……」

セルゲイ『了解です』

マネキン(突如として現れたガンダム……新しいライセンサー……謎の新型MS)

マネキン(事が起きるのが早過ぎる……間に合うのか、我々の対応は)

本日は此処まで

ではまた

間に合ったか……!?
済まないフラッグファイター、肺炎で涅槃の少佐の下に召されるところだった
この程度の病魔に身体が耐えられんとはな……喀血はリアルでやると気持ちの悪いものだとよく分かったぞ
貴重な体験だな

生存報告など生ぬるい。今夜改めて投下させていただく
今夜もマリーダさんに憎しみを流し込まれる作業が始まるお……

ではまた

グラハム「…………」

マリーダ「マスター、体重計に視線が釘付けになっていますが如何されましたか」

グラハム「いや、不摂生が祟ったらしい。少し太りすぎた」66キロ

マリーダ(適正体重ですらない)

180cm62キロとか痩せ杉ってレベルじゃないよね


投下再開だフラッグファイター

マネキン「ん、あぁそうだ、人員輸送用の緊急便は何時来るのだったか?」

オペレーター「確か一週間後だったかと」

マネキン「そうか、ありがとう」

オペレーター「確かあれは非軍属の客員や労働者を避難させる第二便のはずですが……一便をあれだけ出して、まだ乗る人が?」

マネキン「うむ……グラハム少佐たっての要請で急遽な」

マネキン「何でも、必ず送り届けねばならない友人がいるとのことだ」

オペレーター「友人?」

マネキン「彼のプライベートが謎に包まれているのは、今に始まったことではないさ」

オペレーター「たった一人の為に護衛付きの要人輸送機とは、職権乱用というかなんというか……」

マネキン「なに、いざとなればホーマー・カタギリを通じてユニオンに補償してもらうだけのことだよ」

オペレーター「いつものこと、ですね」

マネキン「あぁ、いつものことだ」

————

ホーマー「ぶぇくしょいっ!!」

————

マネキン「第二便の話を伝えたら私も食事を取るとするか……パトリック!」

コーラサワー『はい大佐! すぐにお持ちいたしますっ!』

マネキン「助かる」

コーラサワー『あ、ケバブにかけるソースはどうしましょう?』

マネキン「ヨーグルトソース以外に何がある」

コーラサワー『ですよね〜、流石はフィンランド出身!』

オペレーター(は? チリソース一択だろ常識的に考えて……)

——東南アジア・海域——

 真夜中の闇に紛れライトグリーンの光を放つ艦影が、小島の茂みへと降りていく
 それは強襲用コンテナにGNアーマーのバーニアだけを付け足した、急増の輸送艇であった
 青と白に塗り分けられた装甲には無理やり塗装で接合した痕が見受けられ、事情を知らずともそれは痛々しさを感じさせるに十分なものであった

ティエリア「……着陸完了」

ヨハン「Eセンサー再確認、範囲内に敵影無し」

ヨハン「来てしまったな、イアン・ヴァスティには相当の無茶をさせてしまったが」

ティエリア「ソレスタルビーイングの一員であるなら当然の義務だ」

ティエリア「それに、彼でなければこのような突貫作業は頼めはしなかった。彼には感謝すべきだろう」

ヨハン「……そう、だな」

 ブリティッシュ作戦時と何ら変わらぬ出で立ちのティエリア・アーデとは対照的に、ヨハン・トリニティの顔には未だ癒えぬ傷を隠すかのように包帯が巻かれている
 辛うじて目鼻口だけが見えるその容貌は見る影もないが、その眼差しから確かな光をティエリアは見つけていた
 四人いた正規のガンダムマイスターも、今となってはティエリアただ一人である
 使える者は誰でも使う、当初ヨハンを連れて行くことにそんな程度の意識しか持ち合わせていなかったティエリアだが、ここに来て微かな変化を覚えてもいた

ティエリア「ヨハン・トリニティ、まだ約束の時間まで間がある」

ティエリア「包帯を巻き直したらどうだ? 見るに耐えん」

ヨハン「……そうか?」

 ヨハンは若干渋るような声で、額の分厚い布の壁を指でなぞる
 確かに巻き方はお世辞にも上手いとは言えないが、ヨハンの手は一向に解こうとしない
 彼がそれを望まない理由をティエリアは知っていたが、彼に気を遣うつもりも無いと考え言葉を続けた
 勿論、それらの思惑は一切表情に出さずして、だ

ティエリア「基地内において、君に唯一好意的に接してくれたリンダ・ヴァスティの心遣いを無駄にしたくない気持ちは理解出来る」

ティエリア「だが万が一それのせいで今回の作戦に支障が出るようなら、先の約束通り私は君を見捨てることも辞さない」

ヨハン「……」

ティエリア「只でさえ今回の作戦は不確定性が強い。此方にコンタクトしてきた【ヴェーダの眼】とやらも信用に足る相手かは判らないし、罠である可能性も否定は出来ない」

ヨハン「だが我々は来た。それら全てを理解した上で……!」

ティエリア「そうだ、だからこそ我々が出来うる努力は惜しまないでもらいたい」

ティエリア「……時間だ。付け直すなら早くすることだ、私はGNキャノンに乗る」

 言うや否やティエリアは飛び出すように席を立ち、振り向くことなく格納庫に消えていった
 ヨハンの返答も待たず出たのは、若干の後ろめたさを隠すためだったのかもしれない
 吐息と共に心を鎮め、ティエリアはコンテナ内部のライトに照らされた機体を見上げる

 そこに安置されていたのは、紫色の装甲とガンダムらしからぬフェイスパーツ、両肩部に二門ずつの粒子火砲を備えた試作支援MS【GNキャノン】
 ヴァーチェと外見、用途の似通ったMSであり、元々はガンダムの支援を目的に開発された代物だとイアンは語っていたが、本人もよくは分かっていないらしい
 そもそもこんなものを運用する可能性があり、事実存在していたのなら、何故実際の計画に僅かでも反映され得なかったのだろうか?
 もしこの機体が何らかの形で導入され、パイロットも確保出来ていたなら——

ティエリア(そうしたら……ロックオンも……)

ヨハン『ティエリア・アーデ!』

ティエリア「!!」

ヨハン『今からハッチを開く、後は其方で頼む』

ティエリア「あ、あぁ……了解した」

ヨハン『? 巻き直したのだが、まだ変だろうか』

ティエリア「問題は無い。ティエリア・アーデ、GNキャノン。出撃し周囲を警戒する」

ティエリア(彼が包帯巻き直す間、私はずっと呆けていたのか……?)

ティエリア(不味いな……邪推は目的を鈍らせる。集中せねば……私はガンダムマイスターなのだから)

 降り積もる疑念を払い、メットを固定しコクピットへと乗り込んだ
 乗り心地は上々、似ている機体の割にはヴァーチェより堅い印象をティエリアは受けた

ティエリア(…………)

 ——【ヴェーダの眼】に連絡を受けたのは、ほんの一ヶ月前に遡る
 それは何の前触れもなく入電してきた暗号通信から始まった
 物資や医療機器、そしてこのGNキャノンを搭載した補給艦——民間用のではあるが——を、とある座標に隠した、という連絡がファーストコンタクトだったと記憶している
 半信半疑で指定された座標を捜索したところ、連絡通りの物資が満載された補給艦は確かにあった
 ただ、この場所と時刻を記したデータを残し、まるで次はここだと言わんばかりに自動航行システムに記録まで作ってあるオマケ付きではあったが——

ティエリア(現在ヴェーダは我々ガンダムマイスターの情報にプロテクトをかけ、更には我々の追跡が出来ないよう細工を施している)

ティエリア(何故我々を見つけられたのか……何故我々を助けるのか……そもそも何者なのか)

ヨハン『聞きたいことは山積みだな』

ティエリア「……勝手に人の思考を読むな、不愉快だ」

ヨハン『顔に書いてある通りに喋っただけだ、気にするな』

ティエリア「何……だと……?」

ヨハン『その点においては、君は実に分かりやすい』

ティエリア「…………」

黄HARO『センサーニ感! MSセッキン! MSセッキン!』

ヨハン『来たか』

ヨハン『頼むぞティエリア・アーデ、万が一のときは君だけが頼りだ』

ティエリア「……言われずとも、こなしてみせるさ」

ティエリア「そういえば連れてきていたのか、そのHAROを」

ヨハン『我々に万が一のことがあっても、彼がいれば少なくとも【情報】は帰ることが出来るからな』

ティエリア「随分と後ろ向きだな」

ヨハン『間違いを重ねすぎれば……臆病にもなる』

ティエリア「…………」

 如何にも整備不足、というような重い音を立ててハッチが開く
 夕闇にGNキャノンの巨躯が浮かび上がると、そのボディは星屑が散りばめられたかのように満天の夜空に映えた
 武力を行使し、破壊をもたらす兵器に在らざる美しさだ
 ヨハンは僅かに見とれるも、すぐにコンソールに向き直った
 目視範囲にまで接近した未確認のMSからは、GN粒子のライトグリーンの淡い光が尾を引いていた
 オリジナル太陽炉を搭載したMS……此処までは予測の範囲内
 緊張感が波となりGNキャノンのコクピットを満たす、肝心なのはここからなのだ

ヨハン『GNドライブの識別は分かるか?』

黄HARO『データ照合…………GNドライブノ登録ト一致』

黄HARO『対象ノGNドライブ、ガンダムキュリオスノGNドライブト一致』

ヨハン『やはりヴェーダによって回収されていたのか……』

ティエリア「……だが、この機影は……」

 MSは規則性のある光、光暗号通信を放ち、GNキャノンに敵意が無いことを伝える
 受信すると同時に、GNキャノンは照準をMSに合わせた

ヨハン『ティエリア・アーデ!』

ティエリア「黙っていろ」

 その名に冠する程の威容を誇る、四門の粒子火砲がMSに向けられる
 暗号通信に返答も貰えず、武器を向けられたMSの次なる一手
 ヨハンは生きた心地がしないままそれをただ待つしかなかった

『困ったね、警戒されるのは予想通りだけど……まさかアジト護衛用のGNキャノンを持ち込む手段があったとは』

ティエリア「!」

ヨハン『通信回線に割り込みを!?』

『大丈夫、僕は敵じゃない。臭い言い方かもしれないけど……僕は君達の【希望】になりうる存在さ』

 言うや否や、MSは持っていたリボルバーバズーカをGNキャノンの足元に投げ捨てる
 続けて腰の両側に備え付けられたビームサーベルを抜き放つと、一つ、また一つと垂直に地面へと落としていく
 見る限り全くの丸腰、MSはそのままゆっくりと、地面へと降りていった

ティエリア「何の真似だ」

『見れば分かるだろう。武装解除さ』

『とりあえず顔を出すよティエリア・アーデ、君もキュリオスの太陽炉を失いたくは無いだろう?』

ティエリア「脅しのつもりか?」

『太陽炉を失いたくないのは僕もさ。それにこの機体も修理がすぐに出来る訳じゃないからね』

『此処で闘うのはお互い百害あって一利なし……だよ』

 ヨハンが強襲用コンテナのライトを使い、MSを照らす
 降り立ったそれは、青い装甲に身を包み、両肩にシールドのような装置を付けた【ガンダム】
 それは第二世代ガンダム【ガンダムサダルスード】を元にした、typeFと呼ばれる改良機であった

ティエリア「…………」

ヨハン『ティエリア・アーデ、とりあえずは話を聞こう』

ティエリア「まだ安心は出来ない」

ヨハン『落ち着け。キュリオスの太陽炉を取り返したいのは分かるが、今は当初の目的を達成するのが先決だ』

『もしもーし?』

ヨハン『一応確認はさせてもらおう。君が【ヴェーダの眼】である証拠はあるのか?』

『冷静だねヨハン・トリニティ。あのロシアの荒熊率いる頂武GN—X部隊から逃げ延びられただけはある』

ヨハン『……世間話がしたいだけなら、サダルスードを置いて消えてもらうだけだが』

《ちょっと! せっかくヒクサーが譲歩してくれてんのに、さっきから何なの!?》

ヨハン(……少女の声……?)

『まあまあ887、うん、懸念はごもっともだ』

『じゃあとりあえずサダルスードからは降りた方がいいね。話は……強襲用コンテナの中でもいいかな?』

ヨハン『構わない』

 ガンダムサダルスードのコクピットが開き、中から白いコートを着用した青年が姿を現す
 少し癖のある金髪に蒼い瞳、微笑を浮かべた中性的な顔は、街中を歩けば老若男女振り向かずにはおれまい美男子のそれであった

ヒクサー「うん……サダルスードはティエリアに見てもらうとしよう」

ヒクサー「行くよ887、黒HARO。此処にいたら二人が警戒を解いてくれないからね」

887「なーんか釈然としないなぁ」

黒HARO『シカタナイ、シカタナイ』

ヨハン『……私が出迎えるまでそこにいてもらおう。構わないな?』

ヒクサー「あぁ、問題はない」

 短いやりとりを重ね、話を進めるヒクサーとヨハン
 一分一秒が惜しいのはどちらも同じこと、許された時間の中でヨハンは可能な限りの警戒をして事に当たっていた
 ヨハンを待つヒクサーの横顔を、ティエリアは高感度センサーで拡大して表示する
 やがてティエリアの脳髄は、該当するデータを探し出し朧気ながら投影を開始する
 それは武力介入が始まる前、ヴァーチェが未だ粒子兵装と実弾兵装、どちらを実装するか思案の域を出ていなかった頃の記憶にあった

ティエリア「ヒクサー……まさか、そうか、君は……!」

ヒクサー「久しぶりだねティエリア、ヴァーチェフィジカルの模擬戦以来かな?」

ティエリア「生きて……いたのか……」

ヒクサー「あぁそうか、君にはあの後僕の【人間のデータ】が抹消された段階までしか知り得なかったんだったね」

ティエリア「【人間】? 【抹消】!? 何を言っている!?」

ヒクサー「済まないティエリア。ヴェーダはこの情報を君に開示するのを許可していない」

ヒクサー「いずれ分かるよ、これは君が必ず通らなければならない道だから」

ティエリア「……っ」

 通信は一方的に切られ、ティエリアは無駄にかき回された【知りたい】という感情に胸中を灼く羽目となった
 あまりに小さく、聞き取れない愚痴を吐き捨てると、ヨハンとヒクサーのやり取りに耳を傾けた
 自分の身を焦がす好奇心を癒せる何かを、会話の中から見出すために


——強襲用コンテナ——

ヒクサー「……君達が知りたい気持ちは理解できるつもりだけど、今僕は文字通り首輪が繋がっている状態だ」

ヒクサー「あまり君達からの期待には応えられないことを、あらかじめ伝えておこうと思う」

 そう言うとヒクサーは首筋を緩め、ヨハンにそれを見せつける
 傍らの887は明らかな拒否反応を示し、悲痛な表情を浮かべ目をそらした
 文字通りの首輪として装着されている、ソレスタルビーイング謹製の【爆弾】
 目の当たりにしたヨハンは小さく、やはりか、と呟いた

ヒクサー「そういえば、君はこれを知っていたんだったね」

ヨハン「以前フェレシュテのオリジナル太陽炉とガンダムの回収を試みた際、我々トリニティに逆らったフォン・スパークがヴェーダに反逆者と認定された時にな」

ヨハン「爆発すれば頸椎骨折、頸動脈破裂。普通なら即死してもおかしくないダメージを負う代物だとは理解しているさ」

ヒクサー「ふふ……ヴェーダ内部での演算の結果、フォン・スパークが死ななかったことにより爆薬の量は当社比五割増しだそうだよ」

ヨハン「あれを基準にしてもらってはかなわんが……まあいい」

ヨハン「君が【ヴェーダの眼】である証拠だが……」

ヒクサー「あぁ、そうだったね」

 爆薬の話を軽く切り上げると、ヒクサーは【証明】を淡々と述べ始める
 それはファーストコンタクトの際、補給艦に積まれていた物資の内約そのままであった

 補給艦内部にあった一覧を一字一句そのままなぞらえた語り口、勿論ヨハンもそれが証明になるだろうと最初から確認もしていた
 徹頭徹尾、隅から隅までを言い終えてから、思い出したかのようにヒクサーは付け加えた

ヒクサー「あぁ、後GNうまい棒が三本、コクピットの隙間に挟んであったはずだよ」

ティエリア『!』

ヨハン「……ティエリア・アーデ」

ティエリア『あぁ、確認した……』

ヨハン「……やはりあれはそういう用途の為のものか。用紙に記入されていないものだったから、恐らくとは思っていたが」

ティエリア(知っていてそのままにしていたのか……?)

ヒクサー「っっっ……やっぱりちょっと狙いすぎだったよね、ごめんごめん」

 声を出さない、音を飲み込むような特徴的な笑い方をヒクサーはする
 心なしか、会話を楽しんでいるような印象をヨハンは感じていた

ヨハン「ふう……まあいい。まず一つ、君を信用しよう」

ヒクサー「ありがとう」

ヨハン「話を聞くに、我々の知りたいこと全てには答えられないと言ったな」

ヒクサー「勿論、君達のリクエストに沿った情報提供はするさ」

ヒクサー「ただこれが綱渡りであることには変わりない……」

ヨハン「……そうまでして我々に関わる理由は何だ?」

887「ばっかねー、今だからこそなんじゃない」

ヒクサー「そう……【僕達のヴェーダ】が万全じゃない、今だからこそ、ね」

ヨハン「何?」

ティエリア『どういうことだ!』

ヒクサー「うん、その辺も追々説明していこうか……彼もそろそろ動き始めたみたいだし」

ヒクサー「じゃ、まずは何が聞きたい?」

 問われると、ヨハンは横に視線を泳がせた
 其処では改造され取り付けられた専用台座に安置されている黄HAROが、耳とおぼしき部位をパタパタと動かしていた
 ——もしあの男なら、ロックオン・ストラトスなら必ず最初にこの事を聞くだろう
 ヨハンはヒクサーに向き直ると、真っ直ぐ目を見つめて口を開いた

ヨハン「アレルヤ・ハプティズムと刹那・F・セイエイ……二人の居場所を知りたい」

——反国連軍・秘密基地——

フォン「あげゃげゃッ!!」

ネフェル「っ、なによいきなり笑い出して……」

フォン「今のはくしゃみだ」

ネフェル「はいはいくしゃみねくしゃみ……くしゃみ?!」

874『フォンには良くあることです』

クラウス「世界は広いなぁ……」

ジンネマン「何に感心してんだお前は」

クラウス「はは、まぁガンダムマイスターとやらを見るのは初めてで、つい」

ジンネマン「浮かれるのは構わんが、まだ最後の詰めが残っている」

ジンネマン「気は抜くなよ……っと」

 ジンネマンの横すれすれを、深くフードを被った少年が台車を操り足早にすり抜けていく

???「す、すみませんでした!」

ジンネマン「あぁ……構わんよ」

ネフェル「キャプテン、ちょっとダイエットしたら?」

クラウスは「ちょっと横幅が厳しくなってきましたねぇ、ははは」

ジンネマン「お前らなぁ……」

フォン「…………」

 誰も彼も皆、慌ただしく作業に従事している基地内では、珍しくもない光景
 しかしフォン・スパークの眼差しは、去っていく少年の背中にじっと注がれていた

874『フォン?』

フォン「……まさかこんなところで逢えるとはな」

フォン「面白くなって来やがったぜ!! あげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!」

 頭を両手でかきむしり、嬉しそうに笑うフォン・スパーク

 遠のいていく背中は、やがて通路の暗闇にかき消えて見えなくなった


???「…………」



「刹那・F・セイエイ、不明組織の基地に潜入完了。独自の判断により、介入行動を開始する」


To Be Continued


グラハム「今、何と仰いましたか……」

マネキン「…………」

グラハム「もう一度お答え願いたい! 今ッ! 何と言いましたかッ!!」

マネキン「……先ほど言ったとおりだ」
マネキン「【我々国連軍は、貴公が対峙したMSをガンダムと認めない】」

グラハム「……!!」


 ・
 ・
 ・

今回はこれで終了だフラッグファイター

【GNうまい棒】

ヴェーダから支給されている軍用糧食(コンバット・レーション)の一つである
GNうまい棒とは形状だけの俗称で、実際はチョコバーのような固形物であり、GN粒子ももちろん入っていない
しかし凄まじい栄養価(一本食べれば一日分のあらゆる栄養を補給可能)と引き換えに飲み込むことすら困難なレベルの味に変化しており、食糧として扱うのに致命的な欠陥を持っている
名前の由来は第二世代ガンダムマイスター、ルイード・レゾナンス(フェルトの父)があまりの不味さに「これ絶対GN粒子入ってるよ」と呟いたことから
保存性も抜群である為備蓄量ばかり増えていくのが悩みどころ

ではまた
肺炎はだいたい何とかなっているのでご安心あれ

刹那「俺がガンダムだ」
プルトェルブ「お前がガンダムか!ガンダムは敵!倒すべき敵!」

ガンダムスローネ 突然「ガンダムは敵!」って言われてボコボコにされました。
GN−X 「おまえもガンダムか〜!」と言われてフルボッコにされました・・

ハワード「ハリウッドからオファーが来ますぜ! HAHAHA」

グラハム「来たぞ」

ハワード「えっ」

ダリル「えっ」

グラハム「……だから来たぞ、オファー」

サーシェス「8月17日が楽しみだな」

グラハム「全くだ」


キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー、みんなもDVD買おうぜ!
8/17のアベンジャーズにはサーシェスも参加だ!

投下再開だフラッグファイター

——フェレシュテ基地——

 組織とは、様々な役割を担う者がいて初めて成り立つ集合体である
 ソレスタルビーイングもまた例外ではなく、実働部隊であるトレミーとガンダム四機を支えるため、多数の支援部隊を保持している
 その中で唯一、ガンダムを有し戦力を持った支援部隊
 それがフェレシュテ、だった

エコ「フォンがガンダムを使って国連軍を急襲……!?」

シェリリン「ウソ……それじゃあフォンは【袖付き】の仲間になったっていうの!?」

エコ「そうとしか考えらんないだろう……!」

シャル「…………」

 フェレシュテには特異な人材が多数在籍している
 パイロットとしての技量はガンダムマイスターにも劣らぬが、イレギュラー要素に極端に弱い予備パイロット:エコ・カローレ
 モレノ医師が戦地で保護し、ソレスタルビーイングの組織性から一員となった、フェルトの親友でもある技術士:シェリリン・ハイド
 そして以前は第二世代ガンダムマイスターにして、フェルトの両親の同僚、フェレシュテの提唱者兼指揮者の元マイスター:シャル・アクスティカ
 此処に元テロリストにしてガンダムマイスター、フォン・スパークを加えれば、フェレシュテの全構成員となる
 数は少ないがガンダム単騎で行える程度の作戦が主軸なだけに、人員は事足りていた
 その結果、誰もフォンを抑えることが出来ず、今ではGNドライブの無い二機のMSを抱えたまま立ち往生という有り様であった

シャル「……ヒクサーは……」

シャル「連絡は無いよ。フォンがいなくなってすぐ、ガンダムを持って消えたっきり……」

エコ「アイツ信用していいのかぁ? いきなり現れて、『フォンは危険な男だ』とか言ってきてよ……」

エコ「シャルが言うからガンダムと太陽炉預けたけど、あの太陽炉だってキュリオスのなんだぜ? 万が一太陽炉を失いでもしたら……」

シェリリン「文句言わないっ! ヒクサーはシャルの昔の仲間なんでしょ? じゃあ信じるしかないじゃない!」

エコ「アイツに預けなきゃ俺がだなぁ……!」

シェリリン「作戦とちょっとでも違うと命中率0パーセントのエコ・カローレ先輩がなんですって?」

エコ「……うぐっ……」

シェリリン「えーっとぉ? 第七次適性試験、【四つあるコンテナの内一番左のコンテナから武器を取り出す】の第一工程を改変、パイロットの独断で【一番右に武器を収納】したところ武器を取り出すのに四分三十五秒もの時間を……」

エコ「わーっ! わーーっ」

シャル「……」

シャル(あれから世界は目まぐるしいまでに動いている……ソレスタルビーイングの残存部隊との合流を急がなくてはならないのに……)

シャル(フォン……あなたは何処にいるの? 私はどうすれば……)

 シャルは眼鏡を外し、潤む瞳からそれが流れ落ちる前に拭い去る
 すると、モニターに通信の印が点滅し、応答を願うとばかりに点滅を始めた

シャル「!」

エコ「通信!? フォンか、ヒクサーか!」

シェリリン「シャル!」

シャル「繋げて」

 発信対象は、ガンダムサダルスードtypeF
 ヒクサー・フェルミに預けられた第二世代ガンダム
 しかし、意外にも回線は繋がった瞬間向こう側から切断されてしまう
 皆が呆気に取られていると、メールが一通、すぐに送られてきた
 内容は、たったの一文
 しかし、三人に僅かな希望を持たせるのに、これ以上はないものであった

『ソレスタルビーイングとの接触に成功、連絡を待て』

おっと、【パイロットの独断で〜】の部分を【パイロットに無断で〜】に変更してくれ
済まない

エコ「おい……これ……!」

シェリリン「ヒクサーがやってくれたんだよ……きっとそうだよ!」

シャル「ええ……ヒクサーなら、間違いないわ」

エコ「? じゃあ何故回線を切ったんだ?」

シェリリン「それは……」

シャル「……戦っているんだわ」

エコ「え?」

シャル「彼は戦っている……私達の敵と」

 シャルは確信と共にそう呟いていた
 それは、ソレスタルビーイングの中で初めて確認されたNTの能力の残滓が感じさせたのだろうか
 だが、これで少なくともフェレシュテの存在意義は守られた
 彼等は即座に行動に移る
 物資の積載、修理に必要になるであろうパーツの選別、追加のHAROの充電に起動
 今まで彼等がやってきたことをそのまま辿るように、作業は流れるように進んでいった

 彼等は必ず帰ってくる、そう信じて
 フェレシュテは自らの職務をこなしていった

 ・

 ・

 ・


ヒクサー「逃げろ887! 今すぐに!」

887『ヒクサー!』

ヨハン『ヒクサー・フェルミ! これはどういうことだ?!』

ティエリア『何故だ、何故……』

ティエリア『何故Oガンダムが此処にいるッ!?』

 急浮上を始める強襲用コンテナの背に、無数のビームが撃ち込まれていく
 サダルスードは武器を捨てその前に躍り出ると、圧縮粒子の小さな壁でそれを防いでいく

ティエリア『GNフィールド!?』

ヒクサー「ッ……サダルスードの粒子コントロールじゃ、せいぜい手のひら二つ分が関の山だけどね……!」

ティエリア『だが、守ることが出来るなら!!』

 GNキャノンの四門のロングキャノンが地面から狙いを定め、次々に対象に撃ち込んでいく
 盾がいるなら、自らが矛となればいい
 ティエリアらしい容赦のない粒子ビームの雨は、その敵の接近を許さず、少しずつ離してさえ見せる

ヨハン『緊急離脱を開始する!』

ヒクサー「例の座標で落ち合おう! すぐに追いかける!」

887『ヒクサー、必ずだよ!?』

黒HARO『ヒクサー、ガンバレ』

HARO『ティエリア、ティエリア』

ティエリア「私なら大丈夫だ、ヨハン、後は任せた」

ヨハン『了解した……!』

 隙を突いて一気に加速、コンテナはどんどんと高度を上げ、その場から離れていく
 サダルスードはGNキャノンに投げ渡されたリボルバーバズーカを受け取り、目の前の【Oガンダム】を睨む
 背に負う疑似太陽炉以外は、成る程確かにOガンダムと同じである
 武装は両手にビームガンを持ち、シールドは無いもののサーベルも二本、腰にはバズーカらしき装備も見える
 全く想定されていない乱入に、ヒクサーもまた心中穏やかではなく
 また、Oガンダムのパイロットから感じる感覚に、冷たい何かを感じ取っていた

ヒクサー「残って良かったのかいティエリア、これは罠かも知れないよ」

ティエリア「…………」

ヒクサー「こうやって君を分断し、太陽炉を奪うつもりなのかもしれない」

ティエリア「もしそうなら、こんな回りくどい手段で君は来なかったはずだ」

ティエリア「MSを運ぶ方法があることも知らないようだった……それに!」

ヒクサー「ッ!」

 Oガンダムは後方に飛び退くと両手のビームガンをそれぞれのMSに向け、引き金を引く
 襲いかかる粒子ビームをサダルスードはフィールドで弾き、GNキャノンは繊細な左右への挙動により的確に避けていく
 二機より反撃が返されればOガンダムは高く飛び上がり、回るように飛行してまた森の中に飛び込んでいく
 僅かに訪れた静寂、無人の離島に張り詰めた空気が広がっていくようであった

ヒクサー「それに、何だい?」

ティエリア「……君は信用に足る人物だ。少なくとも僕はそう感じた」

ヒクサー「それは嬉しいな、出来れば信頼になることを望んでやまないよ」

ティエリア「この戦いを切り抜け、ガンダムを駆る不埒者を断罪したら考えよう……ッ!」

ヒクサー「それは夢のある話だ……!!」

 GNキャノンのロングキャノンが、強大な粒子を蓄えたまま森林に狙いを定める
 【ビーム兵器の複数砲身を同軸同時射撃した場合、威力は倍増する】という理論に基づいた、四門のロングキャノン
 二門の高出力ビームキャノンと化したそれは、夜の離島を貫く一条の光の柱を放ち、辺りを紅に染めていく

ヒクサー「見えたッ!」

 正確な射撃に炙り出されたOガンダムが空に飛び上がる
 その瞬間を見逃さず、弾頭を変えたリボルバーバズーカが立て続けに発射されていった
 一発、二発と炸裂し、数十・数百の散弾が吹き付けられるように散らばっていく
 Oガンダムはとっさにカメラアイを両腕で覆い隠すも、両手のビームガンはそうもいかず
 合計数千もの顆粒を浴びせられ、ビームガンは粒子を噴き上げながら炎上を始めた

ヒクサー「まだだ!」

 サダルスードは両肩のセンサーシールドを使い一気に飛翔、ビームサーベルを抜き放ち肉迫する
 Oガンダムもまた爆発寸前のビームガンを投げ捨て、サーベルを抜き迎え撃った
 赤と紅の刃がぶつかり、まるで極小の太陽のように光が暗い海を照らしあげる
 改良機サダルスードtypeFの推力に勝るとも劣らぬOガンダムの勢い、二機は刃を挟み拮抗していた

ヒクサー「……やはり、この脳波は……ニュータイプ」

ヒクサー「このパイロットは、ニュータイプだ!」

ティエリア「ヒクサー、何をする気だ!?」

 ヒクサーは躊躇無く接触回線を開き、Oガンダムとの対話を試みる
 無論GNキャノンとの回線は開いたまま、これならばティエリアにも話は聞こえる上、通信にも加われる
 もし彼が怪しむようなら撃てばいい。そう思えるほどに、ヒクサーはティエリアを信頼していたのだった

ヒクサー「Oガンダムのパイロット、此方は君が戦っているガンダムのパイロットだ!」

『!』

ヒクサー「君に問う! その機体、ガンダムの意味を君は理解しているのか! そして、僕達の存在意義も!」

 脳波の乱れが感じられる。動揺している証しだ
 この混乱に乗じれば、何かが聞けるかもしれない
 そのまま言葉を続けた

ヒクサー「もし君が何も知らないなら、僕は話をする用意がある!」

ヒクサー「だから剣を収めてほしい! 僕もそうしよう!」

ティエリア「…………!」

『話……存在意義……?』

ヒクサー(かかった!?)

 声は若い男の声、それもかなり若い
 脳波の乱れは更に強くヒクサーに響き、言葉が彼の精神に強く働きかけていることが分かった
 このままなら行ける、そう確信した瞬間

 それは、ヒクサーの心に【観せた】

ヒクサー「ッ!?」

『理由ならよく知っている……存在意義など一つで構わない』

『お前達は空を落とす……僕の敵だぁぁぁぁぁッ!!』

ヒクサー「ぐぁっ?!」

 Oガンダムの前蹴りがサダルスードの腹部を捉え、打撃を見舞いながら距離を離す
 激しい衝撃がヒクサーの意識を乱し、何重もの映像を網膜が映す
 襲い来る吐き気に耐えながら、歪む光景を必死で見つめるヒクサー
 そこには、粒子ビームをかいくぐり二刀流でサダルスードに猛進する、Oガンダムがいた

ヒクサー「ッ……!!」

『ははははははっ! 死ねぇぇえ!!』

ティエリア「ヒクサーーー!!」

 交差しながら振るわれたビームサーベルを、片方はサーベル、片方はGNフィールドが受け止める
 更に、突き出した脚でOガンダムの下腹部目掛け突き出し、カウンター気味に叩きこみ距離を即座に離した

『がぁッ……!』

ヒクサー「お返し……だ……!」

ティエリア「その隙をッ!!」

『ッ?!』

 揺らぎながら宙に飛ぶOガンダムに、再び粒子ビームが撃ち込まれていく
 超人的な反射でOガンダムは体勢を立て直すが、左腕に一撃をまともに受け、二の腕の中ほどからへし折れてしまう

『しまった……まだ反応速度が足らないって言うのか!』

ヒクサー「さあ、まだやるかいニュータイプ」

ヒクサー「悪いけど、一度差し伸べた手を払われて優しくできるほど、僕は人間が出来てないよ……?」

『ぐっ……!』

 リボルバーバズーカとGNロングキャノンを向けられ、硬直するOガンダム
 元より二対一、しかも相手は歴戦のガンダムマイスターである
 しばらく睨み合い、やがてOガンダムは高度をゆっくりと上げ始めた

ティエリア「逃がすか!」

ヒクサー「待つんだティエリア、これ以上コンテナを放置しちゃいけない!」

ヒクサー「逃げてくれるなら好都合だ……見逃そう」

ティエリア「くぅっ!」

『お前達は……地球の敵……何億もの人間を殺す……っ』

『この……悪魔め……!!』

ヒクサー「悪魔……?」

 そして、機体を翻し一気に距離を離すOガンダム
 コンテナが飛行した座標とは反対方向、恐らく追尾はしてこないだろう
 後には元の静かな海と、取り残されたMSだけが佇んでいた

ティエリア「……空を落とす、と言っていたな」

ヒクサー「何のことか分かるか、ヒクサー・フェルミ」

ヒクサー「さっぱりだね。もしかしたら、以前フォン・スパークが提唱した地球への隕石落としがそれに当たるのかもしれないけれど」

ティエリア「なら人違いで私達は狙われたのか?」

ヒクサー「どうかな、この場所が割れていたってことは、突入を見られていたか、情報が漏れているかの二択しかない」

ティエリア「もし情報が漏れていたら、全ては水泡に帰すことになるが」

ヒクサー「わざわざ疑似太陽炉搭載型の、しかも【節々を改良した】Oガンダムまで駆り出す相手だ、その可能性があるならOガンダム単騎で向かわせはしないだろうけどね」

ティエリア「楽観的だな」

ヒクサー「希望に前向きなんだよ、ティエリア」

ヒクサー「さあ行こうか、今からならまだ余裕をもって追いつける」

ティエリア「あぁ、分かっている」

ヒクサー「座標は此処だ。フェレシュテも待機してくれているはずだ、急ごう」

ティエリア「……確認した。ティエリア・アーデ、GNキャノン。目的地に向け飛翔する」

ヒクサー「…………」

ヒクサー(あの光景……円柱状の巨大構造物が街に落下し、全てを飲み込んでいく映像)

ヒクサー(作り物にしては妙に生々しいものだった。まるで自分自身の記憶を見せられているかのような……)

ヒクサー(……考えすぎるのは止そう。今は彼等を送り届け、支援することから始めなければ)

ティエリア「ヒクサー・フェルミ」

ヒクサー「! なんだいティエリア」

ティエリア「大事はないか? その、先ほどの戦闘で怪我をしたりは」

ヒクサー「? 特にはないかな」

ティエリア「そうか……ならいい」

ヒクサー「ふふ、相変わらず君は優しいね、ティエリア」

ティエリア「か、からかうなっ!」

ヒクサー「はいはい、じゃ、行こうか」

ティエリア「ぬう……」


 ・

 ・

 ・

本日は此処まで

ガンダムMK—2はいないわオリジナルガンダム出す勇気も無いわで一応ガンダムのプロトタイプとしてOガンダムに乗せてみた
後悔はあるが反省はしていない

ではまた

プルツー「何でトゥエルブはこんな……」ブツブツ

グラハム「キャンキャンうるせぇぞクソガキ! 口の聞き方に気ィ付けろや、[ピーーー]ぞ」

プルツー「!?」ビクッ


ああいう役もいいね

再開だフラッグファイター

ちなみにグラハムの顔は綺麗、まだ
刹那との決闘直後はスカーフェイスでしたがね、治したというよりは治させられたが正確。変な日本語だ

——輸送機・格納庫——


 暗い——夜の闇をそのまま引き込んだかのような黒に塗りつぶされた、格納庫の内部
 そこには大柄な男が二人、通信機を音声のみで作動させ突っ立っていた
 
ヤザン「……仕上げるのに随分と時間がかかったじゃねえか、あぁ?」

「…………」

 右に立つ金髪の男……ヤザン・ゲーブルは、隣の男を睨みつけ喧嘩腰で言葉を投げつけた
 対して、もう一人の男……赤毛で中性的な面もちの青年は、どこ吹く風といった表情で手元のコンソールを叩いている
 険悪な雰囲気であることは違いないのだが、とどのつまり、どこか煮え切らない空気なのだ

「勘違いは困る。我々の仕事はこれを国連軍から受け取り、迅速に送り届けることだけだ」

ヤザン「だぁからよぉ! 基地が丸々吹っ飛ばされてからじゃ、迅速も何もあったもんじゃねーっつってんだよッ!」

『それくらいにしてやりなヤザン』

ヤザン「プルツー……」

『このMSの改良自体は完全に国連に任せてたんだ、こいつらの責任じゃあない』

『だが事に気付くのが遅かったのは認めるよ……悪かった』

ヤザン「……けっ、謝られたって負けは負けだぜ」

ヤザン「第一、お前が謝る理由が……」

「照明を点ける。確認をしてくれ」

 青年の言葉から数拍間を置いて、闇を切り裂き天から光が差し込んだ
 ライトアップされたのは深緑の装甲に身を包んだ国連軍最新鋭MS・GN—X
しかし、その外装は通常の機体とはかけ離れたモノに変わっていた

ヤザン「ほぉ……!」

「GN—X・アドヴァンスドtypeヤザン・ゲーブル仕様」

「機体各部のバーニア出力を強化し、脚部にバーニアを追加」

「現在ハードポイントには開発中の試作型、四連GNバルカンと複合したGNランスを基本装備として搭載」

「他にはビームサーベル銃剣を装着したGNビームライフル、希望していた大型GNビームソード、諸々のオプションを準備してある」

『本来ならもっと後になるはずのカスタムメイドGN—Xを、無理言って造らせたんだ』

『まだGN—Xのノウハウも掴めちゃいない連中にこれだけの情報提供、リジェネ・レジェッタを説得するあたしの身にもなってくれ』

『で、感想は?』

ヤザン「最高だぜ、プルツー」

ヤザン「これなら新型の鼻も明かせるってもんだ!」

『そりゃあよかった』

『戦果を期待してるよ、ライセンサー』

「…………」

ヤザン「んん?」

 ヤザンの視線が、自身の専用機からゆっくりと左にずれていく
 大型アンテナを搭載し通信機能を増強、各種武装を追加しつつ基本性能を全て底上げしたエースパイロット専用GN—X
 それがこの格納庫には【二機】、存在していたからだ

ヤザン「コイツは何だ? サーシェスのか、それともお前等のか?」

「今はまだ我々が出る幕ではない」

『なに、少し発破をかけてやろうと思ってね。こいつはその代金代わりさ』

ヤザン「代金?」

『こっちの方はリボンズを言いくるめるのに苦労したんだ』

『まあ、見てなよ。とても愉快なことさ』

 ヤザンには、彼女が悪戯を画策し喜ぶ幼子のように感じられた
 声はいつものように、上から見下ろすような尊大な調子を崩してはいない
 だが、もしこれを悪戯とするならば、それを仕掛けられる相手は彼女より絶対的に立場の弱い人間なのだろうと、おおよそ理解は出来た

ヤザン「……まぁた何か良からぬことを企んでやがるな、お前」

『かもね』

『それより、【追い込み】はしっかりな』

ヤザン「俺ぁ軍人だ。任務はこなすぜ」

ヤザン「それ以外のことは此方の都合でやらせてもらうが、な」

『あぁ、それでいい』

ヤザン「ふふ……次の戦いはいつになる? 明日か、それとも一週間後か……待ちきれんなぁ」

 命のやりとりの場を、指折り数えて待ち望むヤザン
 青年は、首筋を冷たい何かが伝うのを確かに感じていた
 目の前の男が、人のようで違う、一種理を外れた野獣のように感じられた、恐らくはそのせいなのだろう

 ・

 ・

 ・

『不機嫌そうじゃないか、デヴァイン・ノヴァ』

デヴァイン「……彼が人間の枠を超えた、有能な戦士であることは認めよう」

デヴァイン「だが我々イノベイターが、わざわざ人間のご機嫌取りに駆り出される……気分の良いものではない」

『他に回せる人員がいなかった、というのは言い訳だね』

『今回の一件でリボンズは疑心暗鬼になってる、ヴェーダを攪乱されて情報を鵜呑みに出来なくなってるからさ』

『おまけにサーシェスの【仕事】が捗っていない。監視者の中にも、奴らと繋がっていた連中がいるってことだ』

デヴァイン「だから我々が動かざるを得ない、と?」

『最近地球でも正体不明のガンダムタイプが確認されている』

デヴァイン「例のOガンダムの……?」

『あぁ。あたしもしばらくは火消しに回らなきゃならない』

『こういった野暮用一つでも、少なからず信じられる人員を動かしたいんだろ。良かったじゃないか、アイツが他人を信用するなんて珍しいことだよ』

デヴァイン「むしろ、我々イノベイターに君ほどの信頼が向けられていない事実こそが私には重い」

『買いかぶりすぎだよ。計画の前ではお前らもあたしも、歯車の一つでしかない』

デヴァイン「…………」

『ふふ、信じられないかい? すぐに信じられるようにしてやるよ』

デヴァイン「……先ほども言っていたな。何をするつもりだ?」

『なに……迎えに行くだけさ』

『妹を、ね』

——翌日・司令室(臨時)——

マネキン「貴公等が今回の臨時便に同乗した補充要員か」

ジニン「はっ! バラック・ジニン少尉他五名、本日を以てグッドマン司令及びマネキン大佐の指揮下に転属致します」

マネキン「ご苦労だった。道中の疲れをゆっくり癒してくれ……と言いたいところだが、状況も状況だ」

ジニン「理解しております。先の戦闘で散った戦友達の名に恥じぬよう、我等六名、身命を賭して任務に当たる所存であります」

マネキン「うむ、戦果を期待させてもらおう」

PPP

マネキン「失礼……私だ」

マリーダ『職務中失礼致します。セルゲイ・スミルノフ大佐指揮下の哨戒部隊が、先ほどポイントC767にて未確認のMS部隊と交戦状態に入りました』

ジニン「未確認!? まさか例の……!」

マネキン「……どうだ、マリーダ」

マリーダ『スミルノフ大佐の連絡によれば、フラッグ1、イナクト2、陸戦型ヘリオン4』

マリーダ『ポイントC767の地形では、恐らく奇襲や待ち伏せの可能性は低いかと』

マネキン(斥候にしては数が多い……部隊の移動中に哨戒部隊に接触したか)

マネキン「大佐ならば問題もなかろう。経過は逐一報告を」

マリーダ『了解、失礼致します』

マネキン「待て、マリーダ」

マリーダ『はっ』

マネキン「グラハムは今、臨時便の方か?」

マリーダ『はい、マスターならば恐らく、ダリル少尉とフェルト・グレイスの搭乗に立ち会っているはずです』

マネキン「そうか」

ジニン(マスター……!?)

部下A(マスター……?)

部下B(マスター……)

部下C(マスター……!)

マネキン「……例の一件に関しては、何か言っていたか」

マリーダ『いえ、一言も……』

マネキン「そうか……分かった、もういい」

マリーダ『失礼致します』

マネキン「…………」

マネキン「!」

マネキン「いや、済まない。余計な間を挟んでしまったな、少尉」

ジニン「いえ、指揮官が状況を把握するのは当然であります」

ジニン「ときに……先ほどの女性は、マリーダ・クルス中尉でありますか?」

マネキン「知っているのか」

ジニン「はっ、優秀なニュータイプ兵士である、という程度ではありますが」

ジニン「となれば、マスターはあのマスター・グラハム……」

マネキン「そうなるな」

ジニン「…………」

マネキン「…………」

ジニン「うら若き乙女にマスターと呼ばせるのは、その、趣味、でありますか?」

マネキン「……明言は控えさせてもらおう……」

——緊急便——

兵士「揺らすなよ、麻酔は効いてるが重傷だからな」

兵士「せー……のッ!」

兵士「……ふーっ……」

 集中治療カプセルに入れられたまま、ダリル少尉が輸送機に運ばれていく
 ジョシュア、タケイ、リディ……遠目ながら、やはり見送る者達は多かった
 カプセルに向け敬礼をすると、何も言わず隊員達は持ち場に戻っていく
 その表情は険しく、無言の中に無念が見えるようであった

兵士「よーし、良いぞ」

医師「医務室に運んでくれ、経過は私が見よう」

兵士「了解致しました」

 手続きを手短かに済ませると、軍医が荷物を重たげに担ぎ上げる
 傍らにはグラハムが、消えぬ隈を目元に残し立っていた

グラハム「ダリルを宜しくお願いします、先生」

医師「……グラハム少佐、ガンダムの件は……」

グラハム「……意識が戻り次第、経過を見てお伝えしていただきたい」

グラハム「出来れば、ダリルが起きる前に我々が証明してやりたいのですが……それも叶いますまい」

医師「心中お察しするよ、少佐」

グラハム「軍人なぞこんなものです」

グラハム「それと彼女の身柄も……」

ミーナ「ごめんなさ〜い! 待たせちゃった!?」

医師「!」

 声を張り上げ、大きなキャリーバッグを引いてきたのは、何時もの白衣に身を包んだミーナ・カーマイン
 目元の化粧がいつもより濃いのは、恐らく見間違いではないのだと軍医は理解した
 そんな、気丈に振る舞う彼女の後ろから、最後の搭乗者であるフェルト・グレイスが付いて来る
 俯き、泣き腫らした目を隠すように、手提げ鞄を抱きしめて
 ミーナに比べるとかなりの時間を要しながら、輸送機の搭乗口に到着した

兵士「これで臨時便の搭乗者は最後ですか?」

グラハム「あぁ、出発の準備をしてくれ」

フェルト「…………」

グラハム「……短い間だったが、君と共にいた時間はかけがえのないものだった」

フェルト「っ……」

ミーナ「大丈夫よフェルト。こっちで戦いが終わってから、また連絡すれば……」

フェルト「終わるんです、か?」

ミーナ「え……」

フェルト「相手……ガンダムなんですよね……本当に、この戦い終わるんですか……?」

グラハム「……」

フェルト「ダリル少尉は大怪我で済んだけど、グラハムさん、またガンダムと闘うんですよね……?」

フェルト「また……逢えるんですか……? 生きて、逢えるんですか……!?」

 フェルトの問いに、三人は答えられなかった
 グラハムは無言のまま立ち尽くし、軍医は眼鏡の位置を直すも言葉を発せず
 ミーナは、無理に作っていた笑顔が、今にも崩れそうになっていて
 フェルトは、悟ってしまった
 グラハム達が、ガンダムの手により死ぬかもしれない、という事実を
 それが、この世界では当たり前なのだと

医師「フェルト君、軍人というものはだね……」

フェルト「嫌です……やっぱりイヤ!」

グラハム「!」

フェルト「帰りたくない、逃げたくないっ!! 死んじゃうかも知れないのに、グラハムさんもマリーダさんも、死んじゃうかも知れないのにっ!」

フェルト「私だけ逃げるなんて、そんなのイヤッ!!」

ミーナ「フ、フェルト、落ち着いて……ねっ」

フェルト「お願いです! 私を此処に置いてください!」

ミーナ「リーサとの約束が……!」

フェルト「知らないっ! 関係ないっ!」

フェルト「また……家族が死んじゃうなんて……見てるだけなんてっ……!」

兵士「しょ、少佐」

グラハム「黙っていろ」

フェルト「グラハムさんっ! 私、ガンダムのパイロットと話します! そうすれば、もしかしたらっ!」

 瞬間、乾いた音が響き渡る
 落涙を拭おうともせず、半狂乱のまま行われた少女の嘆願を止めたのは、一発の平手打ちだった

ミーナ「……いい加減にして……!」

フェルト「え……っ」

 グラハムに詰め寄った肩を引き剥がし、ミーナの渾身の右がフェルトを強かに打ち据えたのだ
 何が起きているのか分からない、そんな表情でフェルトは膝を折る
 今まで一切無かった暴力に、気力も一瞬吹き飛ばされ、フェルトは時が止まったかのように動かなくなる
 グラハムは何もいわず、兵士に手掌で合図を送った

グラハム「…………」

兵士「え? あ……はい!」

医師「……後のことは、引き受けたよ」

グラハム「頼みます」

医師「気にすることはない、大人の役割などこんなものさ」

 グラハムの促すままに、医師と兵士はフェルトを立たせそのまま輸送機に連れ込んでいく
  後に残されたのは息も絶え絶えのミーナと、輸送機に背を向けるグラハムのみ

 やがて輸送機が離陸準備に入り、護衛のリアルドが滑走路を走り出す
 耐えかねたように、ミーナが口を開いた

ミーナ「大人って汚いわね……あの子の言い分なんか全部無視して、最後は暴力よ……」

ミーナ「叩いて混乱させたまま輸送機に放り込ませて……あたし、自分が自分で信じらんない」

グラハム「……リーサ・クジョウとの契約以前に、基地が主戦場になった時点で彼女は安全な場所に移さねばならなかった」

グラハム「君は正しかった。君が打っていなければ、私がそうしていた」

ミーナ「三日三晩説得して最後は平手打ち……か」

ミーナ「正しさって、何なのかしらね」

グラハム「明確な基準があれば、戦争など起こりはしないさ」

グラハム「だがあれだけ抵抗して見せたと言うことは、それだけ彼女が何か大きなものを背負っていたという証拠か……」

ミーナ「……またって……あの子、そう言ってたわ」

ミーナ「……調査するの? フェルトとリーサを」

グラハム「まさか」

グラハム「私は彼女と接するときは、一人の男として、友人として接すると決めている」

グラハム「たとえ彼女の素性がどうあれ、今更何かを追求するつもりはないよ」

ミーナ「……そっか」

グラハム「軍人失格だな、私は」

ミーナ「そうね、でも嫌いじゃないわ。そういうの」

ミーナ「ありがとうグラハム」

グラハム「礼には及ばん。あくまで私個人の意向だ」

グラハム「さて……次はカタギリの説得だな。気が重い」

ミーナ「手伝えることがあるなら、いつでもどうぞ」

グラハム「その好意に感謝しよう」

 やがて輸送機の影は高々と空へ舞い上がる
 巻き起こる風が責めるように二人の背中へと吹き付けられた
 それに後押しされるかのように歩を進める二人
 堪えきったのだろうか、はたまた堪えきれなかったのだろうか
 グラハムの隣からは、嗚咽交じりの呼吸が聞こえ始めていた
 施設内に着くまで数百メートル、グラハムが彼女の方を向くことは終ぞなかった

——秘密基地——

 煌々と辺りを照らす、大型の照明器具
 その下ではMSが次々と運ばれ、巨大な鉄の筒へと呑み込まれていくのが見える
 一体、これほどの電力を何処から供給しているのか
 それを知った今では、疑問は別の方面へと向けられていた

刹那「…………」

「新入り、交代だ! 休んで良いぞ!」

刹那「あ、はい! ありがとうございまぁす!」

 現場監督らしき男の声と共に、本日の仕事は終了を迎えた
 この後は配給の食事を済ませ、決められた湯量の入浴をし、各々に与えられた寝床で眠るだけである
 今日は高所での溶接作業、昨日はMSの整備と運搬、恐らく明日は積み込み作業の増員に加わることになるだろう
 マイスターとして培った様々な技術が活き、加入して間もないにも関わらず地下基地での作業従事が認められていた

刹那(だが、かえって厄介なことになったかもしれない)

刹那(巨大テロ組織の内情を調査し、その内容次第では国連軍にリークも考えていたが……)

刹那(地下基地そのものは、先進国家クラスの技術に加え、相応の警備体制が敷かれている)

刹那(【計画】が此処まで進行してしまった時点では、もはやリークなど無意味か……)

 この基地のことを知ったのは、とある偶然の出来事によるものであった

 ——20年以上も前、ユニオン主導の初期開拓政策により、数多の人種が宇宙へと運ばれていった
 そんな宇宙に進出した者達が苦心して造り出し、安定運用に成功した数少ないコロニーの一つ、【シャングリラ】
 結果としてユニオンら三国の恥部となり、太陽光紛争の引き金ともなったこの初期コロニーは、今では委託を受けた民間企業の管理下に置かれていた
 廃材やMSの残骸が多数転がる宇宙のゴミ溜め、管理体制も杜撰なその場所に潜り込むのは、ガンダムマイスターであれば容易なものであった
 異常現象を引き起こしたカスタムフラッグ�に破壊され、機能の大半を停止していたガンダムエクシア
 その修繕と応急処置に使えそうなパーツを探しているとき、彼等に出逢ったのだった

刹那(そうだ……俺はMSの残骸の山の中で、【袖付き】に接触した)

 ——【袖付き】
 200年も昔のジオニズムを掲げ、反体制反国連を謳い活動を表面化させたテロ組織
 その活動はあまりにも膨大かつ正確な情報に支えられ、テロ組織でありながら独自開発の疑似太陽炉搭載型MSさえ所持している
 しかも、まるで何百年も周到に準備を重ねたかのように、既に彼等は宇宙コロニー間の組織ネットワークと多数の次世代型基地施設を保有していたのだ

 まるで、【ソレスタルビーイング】のように——

刹那(…………)

 其処から、【袖付き】傘下のテロ組織に入り、予め決められていたルートから地上に降下
 密航に密航を重ね、漸くこの地下基地へと辿り着いたのだ 彼等が行おうとしていること、その真意は分からない
 だからこそ知らなければならない。場合によっては、破壊せねばならないだろう
 それがソレスタルビーイング、世界への反逆者の役割なのだから

刹那(エクシアは、ガンダムマイスターの危機回避プログラムに従い隕石に偽装した小型格納庫に保管してある)

刹那(何億ものデブリの中にある数千の隠れ蓑……その中の一つ。恐らくは安全だ)

刹那(エクシア……俺のガンダム。今はゆっくり休んでいてくれ)

刹那(俺は世界を、俺達が起こした変革の結末を見極める……!)

 兵士の哨戒ルートは既に調査してある。監視カメラの向きやその死角も調査済みだ
 物資や廃材で入り組んだ廊下を抜け、プチモビの隙間を縫い、ミドルMSの下をくぐる
 十数分後、目的の場所に到着する
 そこには大人一人通れるか否かというサイズの通風孔が、口を開けて待っていた
 刹那の体躯ならば易々と潜り込める。小さな身体が潜入という条件にはこの上なく合致していた
 目当ての部屋はすぐ側にある。全てを明らかにするため、刹那は再び闇へと飛び込んだ

今夜はここまで

一応知らない人の為のフェレシュテ構成員解説


【エコ・カローレ】

第三世代ガンダムマイスター候補に挙げられていた人。つまりラッセと同じ。三十歳・男
MSパイロットとしては凄い腕前で予備マイスターとして登録されてる
じゃあ何でラッセみたいにトレミーに乗れなかったの?→アドリブ不可能な人だから
的を撃つ訓練のときに何も知らせずにMSをリモートで出すと、ただ直進してるだけのMSにさえテンパって全く当たらない
「これは模擬MSです」「あらそう」→命中、という、想定された中でしか働けない人。罠があること前提なトレミー組にいちゃいけない人
00Fではフォンに出番食われてガンダムに乗れないままだった
組織内で基本的に立場がない


【シェリリン・ハイド】

十四歳つるぺた。ウェーブがかった金髪ロングの褐色肌の女の子
モレノさんが拾ってイアンが色々教えた若きMS技師
若い頃からかなり優秀。GNアーチャーの開発者で他にも色々造っている
一期→二期で一気におっぱいがデカくなる。何があった
フェルトの親友という設定


【シャル・アクスティカ】

第二世代ガンダムマイスター。今はフェレシュテの提唱者にして指揮官
少女の頃からガンダムマイスターしてた。ガンダムプルトーネのマイスターだったが陰謀により作戦途中でGNドライブが暴走、これによりフェルトの両親が死亡する
本人も細胞異常により定期的なナノマシン投与が必須の身体になりガンダムマイスター資格も剥奪されてたりする
フェルトが赤ちゃんのときに抱っこしたりしてる
フォンに見つめられて堕ちてる

【フォン・スパーク】

本名ロバーク・スタッドJr.
フェレシュテのガンダムマイスターにしてテロリスト
宇宙労働者であった両親が事故で死亡、そのまま報復のためにテロリストとなるという太陽光紛争時のテンプレート的な生い立ちを持つ
サーシェスと元同僚。同年代の刹那と違うのは、刹那が操られた駒に対し、フォンは頭脳明晰で破滅的思想をもった、テロリスト側からしても頭のおかしい危険分子だったこと
一応このSSではネフェルさんのいう裏の部隊に当たる人物
強い。傲慢。頭いい
父親のロバーク・スタッドはフェルトの母親マレーネの命を救った人でもある。真面目な労働者だったらしい
ちなみに00F一期の時間軸では、プルツーから追っかけ回されては逃げ延びてたりする

2ヶ月に一回とかいい加減笑えないでござる、改善せねば
投下再開だフラッグファイター

————

 通風孔を辿り、目的地のすぐ真上に刹那は到着する
 見える範囲では、部屋は大きな正方形の机を中心に据え、巨大なモニターが壁の一面を占めているようであった
 残念ながら角度のせいかモニターは端かどしか見えず、何が映っているかは殆ど見えない
 しかし、その音声だけは、五月蝿い位に響き渡ってきた

ジンネマン「連れてきました、大佐。例のガンダムのパイロットです」

『御苦労だった、キャプテン。先の三点同時強襲も我が軍の圧勝と聞く』

『話し合いの席を持つ前に、まず感謝の意を述べさせてくれ。君には苦労をかけさせるが、いずれ功労に見合うだけの見返りは与えるつもりだ』

ジンネマン「ありがとうございます、大佐」

『では、はじめまして、ガンダムマイスターフォン・スパーク』

『私が【袖付き】の首魁……今は、フル・フロンタル大佐と名乗らせてもらっている』

刹那(くっ……顔は見えないか)

フォン「テロリスト共の親玉に名前を知られているとは、恐悦至極」

ジンネマン「……おい!」

フロンタル『キャプテン、構わんよ』

ジンネマン「しかし……」

フロンタル『見た限り、彼はそういう人間だ。ならば止めるだけ無駄な話だよ』

874『フォン、痛烈に皮肉られていますが』

フォン「アー、アー、聞こえねえ」

フォン「能書きは良いから、さっさと本題に入ってくれ。ガンダムマイスターは忙しいんだ、あんたと違ってな」

ジンネマン「この野郎言わせとけば……!」

フロンタル『構わないといった、キャプテン』

ジンネマン「ぐっ……」

フォン「あげゃげゃ」

 椅子に深々と背を預け、机に足を投げ出す金髪紅眼の青年
 刹那は彼に見覚えなど無かったものの、彼が搭乗していたガンダムには見覚えがあった
 第二世代ガンダムの一号機、エクシアの前身にして第三世代ガンダムの根幹ともいえる、正義の女神名を冠するガンダム【アストレア】だ
 加えて使われているのはオリジナルの太陽炉、認めたくなくともあのガンダムが本物であることは疑いようがなかった

フロンタル『ふふ、データベース通りだな。傲岸不遜、しかしながら腕前は超一流……その態度は自身の能力への揺るぎない自負からか?』

フォン「悪いか? 自分が何もかもを知り、何もかもを成せると信じるのは」

フロンタル『少なからず君の中ではそうなのだろう? ならそれを否定はしないさ』

フロンタル『我々は我々の中で下した評価に基づき、君と手を結ぶだけだ』

874『フォン、完全に煽られてます』

フォン「……あげゃ」

刹那(ガンダムマイスターが【袖付き】と手を結ぶ……だと?)

刹那(……ッ……!!)

 腹の底から煮えたぎった何かが湧き上がってくるのを、刹那は感じていた
 ロックオンは命を賭け、最後まで世界を変えようと抗い続けた
 あのティエリアが、ロックオンの為に、と言ったときの自身の感動は、これからも忘れることは無いだろう
 ヨハン・トリニティは重症だったが、生還できたのだろうか?
 あの時その場にいなかったアレルヤの安否も、一日とて気にならなかった日はなかった

 テロリストとして自我の無い人生を生きてきた今の刹那を形作っていたのは、ソレスタルビーイングの仲間達との日々
 たったの一年足らずではあったが、かけがえのない日々の記憶であった
 それらを無碍にするような行い、それが刹那の逆鱗に触れていた

刹那(貴様がガンダムマイスターであるかはどうでもいい……)

刹那(だが貴様がガンダムを駆り、世界に混乱と戦争をもたらすというのなら)

刹那(俺達が、ガンダムマイスター達が為してきたことを否定すると言うのなら!)

刹那(俺は必ず貴様に対し介入する……ガンダムとして!!)

フロンタル『さて、話を戻そうか』

 込み上げる怒りを抑え、刹那は耳を澄ませ携帯端末を取り出す
 見た目はありふれた今どきの携帯だが、中身はイアン謹製の魔改造品である
 その多機能さは小型のHAROと呼べるほどであり、ガンダムマイスターが潜入時に必要とするあらゆるものを備えている
 その内、カメラによる撮影機能と集音・録音機能を使い、刹那は状況を記録することにした
 万が一に備え、【証拠】となるものを集める為に、だ

874『……フォン』

フォン「構うな。好きにさせろ」

フォン「むしろこっちの手間が省ける……お手並み拝見といこうじゃねえか」

874『了解しました』

ネフェル「?」

フロンタル『……君のお陰で厄介な小バエを落とすことには成功できた、そのことには感謝しよう』

フォン「あんたがすべきなのは俺への感謝じゃなく、疑似太陽炉搭載型MSを使いながら旧型すら落とせない部下への叱責だな」

フロンタル『勿論既に済んでいる。身内への愚痴を他人に向けて言うほど、私は恥知らずではないつもりだ』

フォン「へっ、それで? 【発射】は何時になる予定だ」

フロンタル『稼いでくれた時間をフルに活用して一週間、といったところか』

フォン「随分とのんびりなことで」

フロンタル『慎重だと言って欲しいものだ』

クラウス「…………」

クラウス(同じ手は二度も使えない。逸ってミスをすれば、逆に一網打尽になるのは此方の方だ)

クラウス(それを理解しているのだろう、大佐の念の入りようには恐れ入る)

ジンネマン(只でさえ開発途上だった【シャンブロ】は、GNメガカノン発射後に各部で小規模の爆発さえ起こしたと聞く)

ジンネマン(地球に残って任務を継続するマッドアングラー隊への最大限の補給、相手の目を引っ張れるだけ引っ張る役割、意味はあるってこった)

ネフェル(何で大佐は仮面してるんだろうね……ファッション?)

フロンタル『フォン・スパーク』

フォン「あげゃ?」

フロンタル『君は我々に所在不明のGN—Xを三機譲渡し、その見返りに我々の【計画】への参加を要求してきた』

フロンタル『だが我々に対し何か明確な要求をするわけでもなく、かといって組織での地位を求めても来ない』

フォン「……何が言いたい」

フロンタル『腹を割って話して貰いたい、ただそれだけだよ』

フロンタル『我々はお互いを警戒し探り合っている、だが君の目的如何によっては、【袖付き】は君を強くバックアップする用意がある』

フォン「はっ、今更懐柔するつもりか?」

フロンタル『勿論、君の行動を阻害するような真似はすまい。君の目的が我々に対する妨害なら、わざわざ回りくどいやり方をせずに叩けば良いのだ』

フロンタル『それに、これはあくまでビジネスの話になるが……私は君のくれたモノがチケット代に見合うものとは考えていない』

フォン「!」

刹那(!)

 大佐がそう告げたと同時に、部屋には数名の武装した兵士が入ってくる
 突入、と呼べるほど仰々しいものではなかった
 殺意の薄さ、そして袖付き側の重要人物の表情から、警告とさえ呼べない、大佐の不快感のようなものを表すものだと刹那は考えた
 言うなればお互いの立場をはっきりしたい、意思表示に近いものなのだろう
 それを理解しているのか、フォン・スパークの態度は相変わらずふてぶてしいものであった

フォン「……てめぇ」

フロンタル『君が求めて来たのは対等な交渉だ。我々にも危害が及ぶ以上、勿論君にも相応の手札は見せて貰わねば話にならない』

フロンタル『勿論、今そこで君に暴れられでもすれば、我々は甚大な被害を被るだろう』

フロンタル『だがそれは君が宇宙に上がれなくなることに繋がり、そのことで利益を得るのは我々と君の共通の敵だけだ』

刹那(共通の敵……国連軍か?)

フロンタル『君は負けることを嫌う男ではない。しかし同じ土俵に上がることすら出来ぬままでは、それは敗北にすら届かぬ凋落だよ』

フロンタル『それが分からぬ君ではないと、私は思っているのだが……』

フォン「ふん、どうだかな? こちとら手の打ちようは幾らでも……」

フロンタル『我々は【箱】の情報も手にしている、と言ったら?』

フォン「……!」

刹那(?)

フロンタル『やはり、そうか。どこで知ったのかは知らないが、ますます君に興味が湧いてきた』

フォン「そんな餌に俺が……」

フロンタル『釣られてくれると思ったからこそ、さ』

フォン「嘘かもしれねぇ」

フロンタル『もしそうだったなら、いつでも牙を剥いてくれて構わない』

フォン「あげゃげゃげゃ! 俺の牙は鋭いぜ?」

フロンタル『手を咬まれる覚悟も無くて、【袖付き】を率いることなど出来はせん』

 再び、静寂が会議室を包み込む
 モニターの大佐を睨みつけるフォン・スパークの表情は、何処となく嬉しそうに見えた
 恐らく大佐とやらも笑みを浮かべて向かい合っているのだろう
 先ほどのやり取りが嘘のような、それでいて緊張の糸だけはそのままに、はりつめた空気が部屋の隅々にまで広がっていた

刹那(仲違いか……それとも……)

 他の幹部達も固唾を呑んで成り行きを見守っている
 フォン・スパークの答え一つで、ガンダムが敵にも味方にもなるのだから、当然の反応であろう
 肝心の当人はコップ一杯の水を飲み干し、満足げに息を吐いている
 闘うためだけに存在する男、そう説明されれば信じ込めると、刹那は思った

フォン「…………」

フロンタル『…………』

874『……! フォン』

フォン「来たか」

874『はい』

 相槌程度の短いやり取りの直後、基地の警報がけたたましく鳴り響く
 未だ余韻に酔いしれた基地全体を覚醒させるには、十分過ぎるほどの衝撃
 部屋の中にいた人間は皆、一様に天井を見上げた

ジンネマン「敵襲か……!」

クラウス「しかもこの音、第一戦闘配備!?」

フォン「874」

874「モビルスーツ三個小隊が此方に接近……全機GN—Xtypeです」

フォン「世界を牛耳ってる野郎の差し金か。上等!」

 基地内は瞬く間に騒然となり、兵士達は武器を手に慌ただしく持ち場に走り出していく
 いち早く飛び出したネフェルとクラウスは、もう姿が見えないほどに遠のいていた
 部屋に残されたのはジンネマンとフォン、874HARO、そしてモニターの向こうのフロンタルだけとなっていた

ジンネマン「……大佐、私も迎撃に向かいます」

フロンタル『任せる。私がその場にいれば最良なのだが、仮定の話をしても仕方あるまい』

フォン「……」

フロンタル『もっとも、私の代わりとして成り立つだけの能力がある者はいるようだが』

フォン「うぜぇ。遠回しに言ってくるんじゃねえよ」

フロンタル『ならば単刀直入に言えばいいか? 私のような人種から命令されることを一番嫌う類の人間だと思っていたがな、君は』

フォン「生憎、決めつけられるのと分析されるのも大嫌いだ」

フロンタル『ならば……自主的な行動に期待するとしよう』

フォン「チッ、狸が」

 最後にフォン・スパークが立ち上がる
 それに追随し、874と呼ばれたHAROが立体映像を解除して転がっていく

刹那(……)

フォン「……へっ」

刹那(?!)

 一瞬、だがしかし、確かに視線が交わった
 フォンは明らかに通気口の刹那の方を見て、小さく、はっきりと笑みを浮かべたのだ
 とっさに身を隠す刹那、しかしフォンは何もモーションをかけずにそのまま部屋を出ていってしまう
 見逃されたのだろうか、それとも仲間と勘違いされたのか?
 今の刹那に、彼の意図を読み取ることは出来なかった

刹那(ッ……とにかく、状況は完全に袖付き優位のままに進んでいる)

刹那(この基地……これほどの設備をヴェーダに悟られずに造り出すような組織、放置するわけには行かない)

刹那「当初の予定よりも作戦を繰り上げる必要があるか……」

刹那(……こんなとき、スメラギ・李・ノリエガがいればもっと別の作戦を取れた筈だが)

刹那(止そう……いない者の力を頼りにするのは)

 決意を新たに、刹那は仄暗い迷路の中を這って移動を始める
 予定よりだいぶ早い行動にはなるが、敵機の襲来した今なら恐らく基地内の警備は手薄になるに違いない
 図らずも得た絶好の機会を生かさんと、その身が汚れるのも厭わず通気口を這いずり進んでいった

To Be Continued


マリーダ「……」

 肩に重くのしかかる疲労感をそのままに、マリーダ・クルスは自室に逃げ込むように帰ってきた
 今日もまたグラハムとは会話らしい会話をしていない、それどころか、隣に立つことすらままならなかった
 仕事上の問題もある、ただ彼女にはそれ以上の壁が、彼と自分の間に立ちはだかっているように思えてならなかった
 それは、かつて自身の仲間達の命を奪い、自らに消えぬ毒と傷跡を残した存在
 そして今、彼女のかけがえのないよすがをも消し去ろうとしている存在であった

マリーダ「……ガンダム……ッ」

『成る程。お前を苦しめているのはそいつか』

マリーダ「ッ!?」

 暗闇の中から聞こえてきた、声
 マリーダはその声の主を知らなかったし、この部屋に自分以外の人間がいること自体、認知していないことであった

マリーダ「誰だ!」

『誰だ、はないだろう? 血の繋がった姉にかける言葉じゃないね』

マリーダ「姉……ッ?」

マリーダ「……まさか……!」

 ホルスターの拳銃を掴む手の力が、ゆっくりと抜けていくのが分かった
 安堵によるものではない。これは、畏怖によるものだとマリーダは知っていた
 暗闇の中から声だけが響いてきていた
 感情や脳波は一切感じられない
 そんなマリーダの様子をせせら笑う調子で、それでいて、案ずるかのように
 ただ、声だけが響いてきていた

『さ、話をしようかトゥエルヴ』

『お前のマスターの命に関わる……大事な大事なお話をねぇ?』

マリーダ「なっ……!?」

本日はここまで
本当にごめんなさい
だいたい流れは掴んでる筈なんだが、二期ばかり頭に浮かんでくるのが辛い
なるべく早く更新はしたい

ではまた

お疲れさまでした。
待っている間にVSFBにレギュラーメンバーの機体がそろっちゃったよww

全裸大佐がフォンに「箱」の存在をちらつかせたけど、
この世界の「箱」の中身はなんでしょうね?
あと何気にプルツーとマリーダが初対話。
さすがにばんしぃはまだ先かな?

今夜の夜に投稿したい
済まない

待たせるにも程がある、謝るよりまず投下だな
再開だフラッグファイター

——フェレシュテ・秘密基地——


 その日は、基地全体が華やいだ雰囲気に包まれていた。
 恐らくフェレシュテ発足以来、初めてであろう正式なガンダムマイスターの来訪。
 そしてそれは、フェレシュテが当面の最重要目標として掲げていた、ソレスタルビーイングの実働部隊との合流でもあった。

エコ「…………」

シャル「どうぞ、こんなものしか無いけれど……」

ティエリア「お心遣い、感謝する」

ヨハン「有り難く頂く」

 パイロットスーツから私服に着替えた二人に、茶と菓子が振る舞われる。
 依然として予断を許さない状況ではあったが、フェレシュテも、マイスター二人も、苦境を打破する糸口を掴めたことを素直に喜んでいた。

シェリリン「えっと……紅茶は口に合わなかったかな?」

ヨハン「いや、美味しく頂いている」

ティエリア「あぁ、何か問題でも?」

ヒクサー「っっ……」

ティエリア「何がおかしい、ヒクサー」

ヒクサー「ごめんごめん、二人とも表情がピクリともしないから、フェレシュテのみんなは緊張しているんだよ」

シャル「ヒクサー!」

ティエリア「む」

ヨハン「……済まない、そんなつもりは無かったのだが」

シェリリン「気にしない、気にしない!」

シャル「えぇ、でも良かった。こうやって合流出来たのは、私達全員にとって本当に幸いなことだもの」



シェリリン「これでソレスタルビーイング復興の第一歩、だね!」

黒HARO『バンザーイ』

黄HARO『バンザーイ』

エコ「いや、ちょっと待った!!」

 長机を囲む面々に対し、エコが机を叩いて立ち上がる。
 皆は驚きの表情を浮かべたが、その視線の先を確認し、彼が何を言い出すのか直ぐに理解できた。
 ソレスタルビーイングへの世界の反感を増幅させ、フェレシュテにも事実上の襲撃をした、チーム・トリニティ。
 その構成員たるヨハンへの不満が、全く無い筈などないのだから。

ヨハン「…………」

エコ「まずはっきりしようじゃないか! なんで此処にコイツ……!」

ティエリア「予備マイスター及びフェレシュテ構成員、エコ・カローレ」

エコ「へぁっ?!」

ティエリア「彼はブリティッシュ作戦の折、危険を省みず我々ソレスタルビーイングに合流し、黒幕であるアレハンドロ・コーナーとの決戦時には先陣を勤めた実績がある」

ティエリア「確かにトリニティとしての活動、それがもたらした世界への影響と結末に関しては万死に値する行いだと断言出来る」

ティエリア「しかし今はソレスタルビーイングの復興の為、少しでも実力のある者が必要なのも事実だ」

ティエリア「ヨハン・トリニティには、贖罪の意味も多分に含め、身命を賭して未来の為に働いて貰う。それで構わないか?」

エコ「えっと……そのぉ……」

ティエリア「構わないな?」

エコ「でも……」

ティエリア「…………か」

エコ「はい、構いません。はい」

ティエリア「よし」

887(わぉ、苛烈ぅ……)

 有無を言わさず意見を叩き潰され、エコは椅子に座り直すと黙り込んでしまう。
 縮こまるエコに、ふんぞり返るティエリア。
 たった一度のやり取りながら、エコ・カローレという男の立場がよく顕された展開であった。

ヨハン「寛大な処置に感謝する。私は私の役割を全力で果たすと約束しよう」

ティエリア「当然だ。馬車馬のごとく働け」

ティエリア「もし怠けたり、背信行為に走ろうものなら、我々は背中からでも君を撃つ」

ヨハン「肝に銘じよう」

887(あ、乗っかった)

シェリリン(まあ今回は、分かり切ってることを今更聞いたエコが悪いってことで)

シャル「……ハァ」

ヒクサー「うん……それじゃ、そろそろ話を始めよう。忙しくなるしね」

シャル「えぇ」

ティエリア「話し合うべきことは星の数ほどあるが、個人的に優先して考えたい案件が幾つかある」

シャル「どうぞ」

ティエリア「この基地内に残されている第二世代型ガンダム……その内稼働可能なものは幾つある?」

ヨハン「…………」

シャル「シェリリン」

シェリリン「えっと……アストレアはフォンが持って行っちゃったし、サダルスードはヒクサーがマイスターとして仮登録」

シェリリン「プルトーネは、以前トリニティが太陽炉確保の為に基地を襲ったとき、自爆して喪失しちゃったから……」

ヒクサー「残存しているのはたったの一機、ガンダムアブルホールだけだね」

ティエリア「アブルホール、か」

シャル「アブルホールね……」

ヨハン「アブルホール……」

シェリリン「アブルホール……じゃあねえ……」

 皆、一様に唸ると続く言葉を飲み込んでしまう。
 これほど落胆するのには、大きな理由があった。

 第二世代ガンダムは、武力介入に実用される第三世代ガンダムの製造の為の前身であり、全てが実験機である。
 そしてガンダムアブルホールはその中でも特に、その意味合いが顕著なMSであった。

 可変機構を有しているとはいえ、実験機ゆえに未完成で純粋な人型にはなれず、飛行機に頭と脚が生えたような外見。
 固定武装および標準装備はGNバルカンとミサイルのみ。
 巡航形態時の機動力はキュリオスに比べても遜色ないレベルだが、肝心のMS形態は火器も白兵戦能力も貧弱、おまけに巡航形態でもユニットの有無で大きく離されてしまう。

 あのフォンですらアブルホールの使用には偵察と旧世代機との戦闘を徹底、イレギュラーとの接触時は撤退し、戦闘行為がメインの任務には一切出撃させなかったと言えば、その戦闘力は容易に理解出来るだろう。

ヒクサー「GN—XやRGMがあちらこちらに配備されている現状、むしろ機動力に富み、戦わないという選択肢を徹底出来るアブルホールは優秀な機体だよ」

ヨハン「それは理解している。しかし、地上では第三世代ガンダムに匹敵するMSが増産の一途、宇宙には例の所属不明機が何機いるか分からない」

ヨハン「せめてプルトーネがあればと思ってしまうのは……後悔、なのだろうな」

ティエリア「……」

 ヨハンは、血が滲むほど握りしめた拳を、静かに机の下に隠した。
 フェレシュテの太陽炉を回収せんと三機で恫喝した過去に、フォンとマイスター874の起死回生の機転でガンダムプルトーネは自爆、消滅しているからだ。
 プルトーネ一機あれば事態が変わるなどということは勿論有り得ない。
 しかし、Oガンダムの襲撃以来、防衛の為の戦力確保は急務となっていた。

 とどのつまり時機と用途の問題でしかない。
 だが自身の行いが仲間の首を絞めていると、ヨハン自身は考え、苦悶していた。

シャル「過ぎてしまったことを今更悔やんでも、得るものは何もありません」

シャル「まずは出来ることをする。そしてこれから起きることを考える。尽くしましょう、最善を」

ヨハン「……」

シャル「シェリリン、GNキャノンと強襲用コンテナは……」

シェリリン「GNキャノンの方は被弾も無いしオールグリーン、問題は強襲用コンテナの方かな」

シェリリン「ちょっと見ただけなんだけど、大気圏突入時の外装の不具合、無理やりくっつけたスラスターの調整、コンデンサの取り替え……時間、結構かかるよ」

シェリリン「でもすごいね、これ師匠がやったんでしょ? これだけの形に仕上げるなんて、やっぱり流石だなぁ」

ティエリア「……強襲用コンテナの修理にかかる時間は」

シェリリン「あ、ごめん。えぇとガタガタの基幹ユニットを騙して使うと考えて、も……」

シェリリン「……ん〜……パーツ吟味や回収、諸々考えれば最低ひと月、かな……」

ティエリア「ならば、並行して頼みたいことがある」

ティエリア「アブルホールの準備にはどれくらいかかる?」

シェリリン「そっちは問題無し、フォンがいつでも使えるよう整備しといたから、片手間でもバッチリ」

ティエリア「……そうか、ならば」

ティエリア「粒子貯蔵タンクを搭載し、太陽炉無しで稼働させた場合どれくらいの稼働時間になる?」

ヒクサー「ティエリア、待ってくれ」

ティエリア「GNアームズ及び強襲用コンテナに搭載しているのは大型のものだが、敵の量産型MSには太陽炉非搭載型が多数配備されている」

ティエリア「内蔵粒子火器が少なく、プラズマによる噴射機構もあるアブルホールならば、GNキャノンを同じように改造するよりは遥かに長持ちするだろう」

シャル「……確かに、もとより戦いが出来る状態でもないし、国連軍は反乱軍との睨み合いで動きは読みやすい」

ヒクサー「ティエリア!」

 今度はヒクサーが立ち上がり、向かいに座るティエリアに詰め寄る。
 険しい眼差しを向けるヒクサーに対し、真っ直ぐに見つめ返すティエリア。
 狼狽えを見せるフェレシュテとは対照的に、ヨハンは静かに一部始終を見守った。

ヒクサー「……まさか、残存するガンダムを総動員してアレルヤ・ハプティズムの救出する、なんてことは考えてないよね?」

シェリリン(救出……?)

シャル(あぁ……そういうこと、ね)

ティエリア「それは違う。私は、アレルヤ・ハプティズムの存命を君に聞いてから、一瞬たりとも救出作戦のことを考えなかったことはない」

ティエリア「だが今は、今はまだその時ではない。然るべき時に、必ず迎えに行く」

ヒクサー「……そうか、考え過ぎたようだね。済まない」

ティエリア「如何なる可能性をも考え対処する、その用心深さを賞賛こそすれ非難はしないさ」

 エコ一人、置いてけぼりにしながら議論は終わり、二人の視線は離れていく。
 ティエリアが紅茶を一口啜る頃、またヒクサーが口を開いた。

ヒクサー「もしアブルホールが使用可能になったとして、乗るのは君かい?」

ティエリア「GNキャノンにようやく慣れ始めたところだ、私は乗らない」

ティエリア「手の空いたマイスターを搭乗させる、それが一番合理的だ」

ヒクサー「成る程……ね」

887「ってことはパイロットは……」

エコ(俺!?)

ティエリア「ヨハン・トリニティ」

エコ(あ、やっぱり……?)

ヨハン「私がアブルホールに、か?」

ティエリア「コンテナの操縦は手の空いたマイスター、もしくはHAROに任せるさ」

ティエリア「それにスローネトゥルブレンツを操縦した経験のある君なら、アレルヤほどではないにせよ、私よりは上手く扱えると思うが」

ヨハン「……」

黄HARO『マカセロ マカセロ』

ヨハン「了解した。その期待に必ずや応えよう」

エコ「お、お、おれ……」

ヒクサー「エコ、アブルホールのミッションは偵察が主だから、イレギュラー発生率もダントツだよ?」

エコ「……ナンデモアリマセン……」

シャル(ヒクサー、エコをいじめないの!)

ヒクサー(っっ……ごめんごめん、つい、ね)

ヨハン「……シェリリン・ハイド」

シェリリン「?」

 ヨハンは机に大容量メモリを滑らせ、シェリリンに投げ渡す。
 シェリリンは何も言われはしなかったが、それがスローネから取り出した、ヨハン自身のパイロットデータであることをすぐに理解した。
 準備の早さから、乗る気満々だったんじゃないのか? と887が口にしそうになったが、ヒクサーがそっとその口を塞ぎ、声になることはなかった。

シャル「あとは此方側で話をつけるわ、シェリリンは直ぐにでも仕事について頂戴」

シェリリン「OK、直ぐに調整するよ」

ヨハン「宜しく頼む」

 席を立ち、自らの仕事場へひた走る少女。
 二機のHAROが異なるテンポで飛び跳ね、その背中を追っていった。

 向き直る一同。
 その表情は一転、暗鬱に沈んでいた。

ヨハン「……良かったのか? 彼女に聞かせなくて」

シャル「明日や明後日にでも教えるわ、でも出鼻を挫かれるのは避けないと……あの子はノれる時にノらないと駄目なのよ」

ティエリア「……ヒクサー、先ほどの情報は本当なんだな?」

ヒクサー「信頼できる情報だよ。オリジナル太陽炉搭載のガンダムアストレアが戦場に突如襲来、国連軍を牽制し反乱軍に加わった」

ヒクサー「国連軍は一部報道や記事に乗ったそれらを公式に否定、映像のそれはガンダムに似せた模造機であると公表するらしい」

ティエリア「しかし……」

シャル「えぇ、本物でしょうね。まごうことなき」

ヨハン「となればパイロットはフォン・スパークか……こんな馬鹿げた行いを堂々とやってのける奴が、他にいるとは考えたくない」

エコ「本当に何考えてんだアイツ?! ガンダムがテロリストの味方なんて……!」

887「え〜? 天下のフォン・スパークよ〜?」

887「世界がイヤになって心中なんてことしてもあたしは不思議じゃないわね、なんたって極悪人の、凶悪なテロリストなんだもの」

シャル「……」

ティエリア「それはヴェーダが万全ではない、という言葉に重なることだな? ヒクサー」

ヒクサー「御名答。その様子ならもう、当たりはついてるんじゃないかい、ティエリア」

ティエリア「……憶測でしかない、荒唐無稽で突拍子もない意見だ」

ティエリア「だが今の今までヴェーダの力が悪用され、ねじ曲げられたことはあっても、ヴェーダの機能そのものが低下するようなことは一度たりともなかった」

ヒクサー「……」

エコ「ってことは……内部の問題ではない?」

ティエリア「恐らくはな」

ティエリア「だがヴェーダを操る存在の不手際でもない。そいつはあくまでヴェーダの方針と力を操作しているだけで、ヴェーダそのものを傀儡には出来ていない。」

ティエリア「もしこれが内的要因に起因する不具合ならば、その原因を引き起こした者は最悪ヴェーダからアクセス権を取り上げられる、そういうレベルのミスだ。リスクを考えても手を出す理由が無い」

ティエリア「そして、その何者かが守っているヴェーダへ、第三者からの物理的な接触など殊更有り得ん」

ヨハン「では……?」

ティエリア「ならば原因はただ一つ、【ヴェーダへのアクセス権を持ち、外部からヴェーダの機能を制限するだけのサイバーアタックを仕掛ける存在】……それが不調の原因だ」

シャル「そんな存在……」

ティエリア「有り得ない。そうだ、有り得ないんだ、だが実際それは起きている」

ティエリア「ならば、この仮定が示すモノが存在する、ということになる」

ティエリア「……そう……もう一つのヴェーダが」

————

シェリリン「なーんか盛り上がってるかんじがするなぁ。あたしを追い出して皆だけで、何やってんだろ?」

黒HARO『ぷっ……ぷるる……』

シェリリン「え? 」

黒HARO『ぷるる……ぷるるる……ブツン』

シェリリン「ど、どうしたの黒HARO? エネルギー切れ? 精密機器の故障?」

黒HARO『……映像を受信した。シェリリン・ハイド、フェレシュテのメカニックとお見受けする』

シェリリン「へっ? ふぇっ!?」

黒HARO『ヒクサー・フェルミ、もしくは887に至急繋いで貰いたい、【財団】からと伝えて貰えばすぐに判るはずだ』

黒HARO『急いでくれ……奴らが、【袖付き】が動き出す!』


——国連軍前線基地・士官用個室——


 最初にその存在を示唆されたのは、自分が粒子の毒で倒れたときであった。
 スミルノフ大佐——当時はまだ中佐だった彼から名前だけ聞かされた。
 【プルツー】、自分と同じプルの名前を冠した、ニュータイプ。
 その出自は誰よりも自分が一番理解しているだろう。

マリーダ「…………」

リヴァイヴ「モニターの準備は完了したよ。いつでもいい」

『……持ったままでかい?』

リヴァイヴ「君が彼女をどう思っているかは知っているつもりだけど、【彼】は彼女を其処まで信用していない」

マリーダ「!」

リヴァイヴ「彼女なら端末を回収して私を振り切り、組織の内情に多少なりとも近付ける可能性がある」

リヴァイヴ「万が一にも愚は犯したくはない……とのお達しさ。用心だね、君のマスターは」

マリーダ(確かにその手は考えた……だが……マスター、か)

『……ここはアイツにも一定の評価をされていると、一応喜んでおくところかい?』

リヴァイヴ「好意的な解釈だね。君らしくもない」

『まるであたしが冷血漢だと言いたげじゃないか。まあいいさ、じゃあ見やすいように抱えてろ』

リヴァイヴ「そのつもりだよ」

 通信端末からモニターが立ち上り、そこには栗色の髪の少女の姿が映し出される。
 緋色のパイロットスーツなど、見覚えのないものもあるにはあった。
 しかし、その顔は紛れもなく、疑いようもなく。
 十九年間自身が付き合い続けてきた、自分自身の顔、そのものであった。

マリーダ「っ……く……」

プルツー『どうだい? 最近まで冷凍庫の中にいたから、見た目は子供のままだけどね』

プルツー『ま、顔くらいは現代の整形手術ならいくらでもいじれるだろうけどさ……少なくとも気は済んだだろう』

プルツー『私はプルツー、製造番号からしたら一番最初、正真正銘お前の姉だ』

マリーダ「……!」

プルツー『面と向かって顔を合わせればもっと確実なんだが……』


マリーダ「どうして……」

プルツー『?』

マリーダ「どうして今頃になって……まさか、またあの計画を始めようというのか……?」

プルツー『……あぁ、お前が連絡しなかったのはそれを危ぶんでたのか? てっきり手紙の中身をリヴァイヴに任せたせいかと』

マリーダ「もしそうなら、私は……!」

プルツー『何が出来るって? 現場主義者の成り上がり将校の腰巾着に』

マリーダ「っ」

リヴァイヴ(おっと)

プルツー『少し、黙れ。邪推、つまらない勘ぐり、最悪の想定……あぁ、好きにすればいい』

プルツー『でもいちいち口には出すな。あたしはお前に話をしに来たんだ、お前の話を聴きにきたんじゃない』

マリーダ「う……っ」

リヴァイヴ「……」

 猫が首根っこを捕まれるが如く、言葉も出ずに俯いた。
 脳波のプレッシャーも、外見的な威圧感も無い。
 にも関わらず黙らざるを得なかったのは、彼女の存在が計画を想起させるのと
 やはり、自らの姉だという事実が内側から蝕んでいる、ということなのだろう。

 本来ならば歓喜の感情が沸き起こっても仕方ない筈なのだが、それはすっかり鳴りを潜めてしまっていた。
 あの手紙が来たときから、薄々は感づいていたことだったからかも知れないが。

リヴァイヴ「じゃ、そろそろ話をしてもいいかな?」

マリーダ「!」

プルツー『お前なぁ……』

リヴァイヴ「ふふふ、モニター越しでは感動の再会には程遠いだろう」

リヴァイヴ「それにデヴァインを待たせすぎると少し面倒なんだ。脳量子波が短気なんだよ、彼」

プルツー『知ったことか』

リヴァイヴ「まあ、手紙を蔑ろにされたのに関しては、今の叱責で少し気が晴れたよ」

プルツー『なんだ、お前意外にちょろいな』

リヴァイヴ「流石に前言撤回させるのが早すぎるよ小娘」

マリーダ「……マスター、いや、グラハム・エーカーの命に関わる話だと聞いた」

リヴァイヴ「ん、あぁ、その通りだ」

リヴァイヴ「君達が遭遇した【ガンダムもどき】……政府見解ではガンダムと認知されていないが」

リヴァイヴ「我々はあれがガンダム、ないしはそれに酷似した機能を有したMSであると判断している」

マリーダ「判断している……か」

リヴァイヴ「ふふ、あまり此方から言わなくても分かるだろう? このままフラッグでぶつかり合えば、彼は間違い無く二階級特進だ」

リヴァイヴ「奇襲という戦術的要素は絡んだが、初戦があのざまだ。君とて、よもやあれに骨董品で勝負出来るなんて思ってないだろう?」

マリーダ「……喧嘩を売りに来たのなら、言い値で買うぞ」

リヴァイヴ「ふふ、失敬、フラッグファイター。でも我々からしても頭の痛い問題なんだ、アレはね」

マリーダ「……」

リヴァイヴ「つまりは、それに対する君達の懸念、回避を試みる努力、グラハム少佐個人の意志……」

リヴァイヴ「全てを解決に導く手段を、我々から用意させてもらった……ということだよ」

マリーダ「…………」

リヴァイヴ「場所を変えよう。付いてくると良い、百聞は一見に如かず、だ」

 立ち上がるリヴァイヴ、合わせるように壁から背を離す。
 しかし、寸前で出口の前に動き、リヴァイヴを留めた。
 朱と蒼、二つの視線が交わる。
 リヴァイヴは一瞬だけ腰のホルスターに手を延ばしたが、眼を見て何かを感じたらしく、ゆっくりと手を離した。

リヴァイヴ「……何かな、お嬢さん?」

マリーダ「これだけはこの場で聞かせてほしい。誰から私達のことを聞いた?」

プルツー『おい、トゥエルヴ』

リヴァイヴ「良いじゃないかプルツー、一つなら」

プルツー『ちっ』

リヴァイヴ「さて……質問の意図が曖昧だが、調査したから、じゃ不足かい?」

マリーダ「お前の頭がそうは言っていない……と言ったら?」

リヴァイヴ「はは、成る程、そう来たか」

リヴァイヴ「ならば此方の答えは、すごく念入りに調査したから——だ」

マリーダ「…………」

リヴァイヴ「さあ、道を開けてくれ。君の甘い体臭に酔いしれるのも結構だが、同僚の抗議を受け続けるのもなかなかに辛いものでね」

リヴァイヴ「ただ、君の好奇心を満たす機会はいずれ必ず訪れる、と約束するよ」

マリーダ「良いだろう」

 視線は外れ、遮るものの無くなったリヴァイヴが再び歩み始める。
 後に続くマリーダは、疑念と根拠を脳内で吟味し、予測する。
 彼らに情報を与えた者、その正体を。


————

中断
また来ます

>>401の最後に

ヒクサー「確かに、彼はテロリスト出身の超危険人物だ」

ヒクサー「だが今回の一件、どうやら彼の行動を注視するのみに留める必要があるかもしれないね」

887「えっ!?」

ヨハン「ヒクサー、何を!」

ティエリア「成る程、そういうことか……」

を付け足しておいて欲しい
済まない。ミスだ

ようやっとだ……済まないなぁ


再開だフラッグファイター

——前線基地近辺・南方二十キロ——


 金属の弾ける音が、まずは一発、続けてまた一発。
 繰り返し三発の破裂音が発せられた。
 両腕を千切られ、腹に大穴を空けた陸戦型ヘリオンが大地に倒れ伏す。
 それを作り出した張本人は一瞥すらせず、次なる目標へと銃口を向けた。

セルゲイ「状況、知らせ!」

『全機健在! しかし、四番機と五番機を振り切り、フラッグが!』

セルゲイ「……そいつは私が倒す! 周囲の警戒を怠るな!」

『了解!』

『了解しました、大佐殿!』

セルゲイ「……敵機の加速確認……接触タイミングはカウント20……」

セルゲイ「タオツーならば、雑作もないッ!」

 両肩の偏向スラスターが火を噴き、群青色のティエレンは矢の如く加速し突貫する。
 全領域対応型試作量産タイプ、しかし彼ら頂武特務部隊は皆、彼等の仲間が駆っていた【タオツー】の名前で呼んでいた。
 他ならぬセルゲイ・スミルノフ大佐も、である。

 迎え撃つは地上型に調整された陸戦型のフラッグ、通称【シェルフラッグ】
 それも重装型と呼ばれる、フラッグでありながら頑強な装甲と強大な火力を確保している機体である。

 フラッグはセルゲイの駆るティエレンに劣らぬ速度で突進、速射型のリニアガンで弾幕を張る。
 跳ねるような挙動のフラッグに対し、地を滑るティエレン。
 ひたすらに撃ち込まれる蒼弾をかいくぐり、左手の無骨な斧刃を盾代わりにセルゲイは更に前進した。

セルゲイ「腕は確か、だが若い!」

 牽制目的の滑腔砲が地面を砕き、フラッグが僅かに体勢を崩す。
 そんな状態からでも右脇のロケットランチャーが正確に狙いを定め、ティエレン目掛けて引き金を引く。

 砲弾は限界まで姿勢を低く取ったティエレンの頭上を掠めるに留まる。
 反撃の滑腔砲、追撃のリニアガン、大口径砲の応酬は砂塵を巻き上げ大地を削る。
 しかし、跳ねる先に撃ち込んでも、着地地点に撃ち込もうとも、ティエレンのそれは大型ディフェンスロッドの防護の前に弾かれ、体勢もまたパイロットが無理やりに立て直していく。
 流石にそこはフラッグファイターか、とセルゲイは小さくほくそ笑んだ。

 距離は詰まり、あと一歩でクロスレンジ。
 ティエレンの得物は重厚なカーボンブレイド、フラッグの手にはプラズマソードが握られている
 止まることなく、されど勢いに呑まれることもなく、両者が同時に圏内へと飛び込んだ

『大佐ッ!!』

セルゲイ「ッ……!」

 刃と刃の交錯は散った火花に照らされ、遠目からもその激突の激しさが分かる程であった。
 数秒間、二機は互いに支え合うようにして立ち尽くす。
 やがて光を失ったソニックブレイドが、握る腕ごと足元に転がる。
 引き下がるティエレン。フラッグは背中にカーボンブレイドを生やしたまま、崩れるように地面へと倒れた。

セルゲイ「…………」

『大佐、お見事です!』

セルゲイ「周囲に敵影は」

『ありません。予定であれば友軍はもうすぐ目視圏内の筈ですが……』

セルゲイ「ならば我々は友軍の到着と同時に離脱する。まさかとは思うが、陽動の危険性は少しでも減らしたい」

『了解です』

 金属同士の擦れが生み出す、耳障りな高音がセルゲイの顔をしかませた。
 カーボンブレイドが一気に引き抜かれた際の、干渉音であった。
 シェルフラッグはぴくりとも動かないが、コクピットを避けている以上、まだ中にはパイロットがいるはずだ。
 下した命令を変更するつもりはなかったが、その実、セルゲイは中にいるパイロットと話してみたいとも感じていた。

セルゲイ「フラッグ……生産ラインの停止により少数しか存在しないMSだと聞いている」

セルゲイ「離反者が少なからず三国内のパイロットにもいる……か」

『大佐、フラッグの機体照合が完了しました』

『登録パイロットはイェーガン・クロウ少尉。このシェルフラッグと共にMIA(戦闘中行方不明)となっていたようですが……』

セルゲイ「……そうか」

セルゲイ「同じパイロットかどうかは開いてみなくちゃ分からんな……グラハムにもあまり良い土産にはならんか」

『はい?』

セルゲイ「いや……何でもない」

『大佐殿、友軍を確認しました』

セルゲイ「全機、帰還する!」

『了解!』

 ・
 ・
 ・

——同時刻・輸送機・MSドック——

 導かれるまま乗せられた車が、輸送機へと載り込んでいく。
 逆三角形の筒状のボディが特徴的な輸送機、明らかに宇宙での運用が目的のフォルムだと感じた。

リヴァイヴ「着いたよ」

マリーダ「これは……!」

 見えてきた二つのシルエットに、まだ車が走っているにも関わらず身を乗り出した。
 一瞬ハッとして身体を引きはしたが、視線だけは文字通り釘付けとなっていた。
 深緑と漆黒、守護神の如く聳え立つ二機のGN—X。
 バーニアの大型化、特徴的な肩部のハードポイント。
 特殊調整機だと、一目で分かった。

リヴァイヴ「良いリアクションだ……リジェネの視線を背中に受け続けた甲斐もあったということだ」

マリーダ「……済まない、取り乱した」

リヴァイヴ「いいさ。この二機にはそれだくの価値がある、むしろそう来なくては」

『マリーダ!!』

マリーダ「! この声……」

リヴァイヴ「……早いな、君の差し金?」

プルツー『揺さぶれることが前提ならば、いっそ二人の方が落としやすい』

リヴァイヴ「ふふ、悪い子だ、君は」

 車がGN—Xの足元に止まる。
 MSを囲むように組まれた足場から、ビリー・カタギリ技術顧問が顔を覗かせていた。

ビリー「こっちだマリーダ!」

 車がジープであることも幸いし、ドアも開けず飛び越した。
 背後からリヴァイヴの忍び笑いが聞こえたが、気になどしてはいられなかった。
 すぐさまリフトに乗り込み、声の方へと急ぐ。
 二機のMSの威風堂々たる様に、昇る最中にも視線を釘付けにされる自分に気付きながら。

ビリー「やぁ、マリーダ……!」

マリーダ「カタギリ顧問、これは!?」

ビリー「あぁ、僕が聞きたいくらいだよ! 仮眠中にそこの赤毛のエージェントに叩き起こされて、連れてこられたかと思えば、だ」

デヴァイン「事態は急を要した、無礼は承知の……」

ビリー「あぁごめん、ちょっと黙ってて」

デヴァイン「!」

マリーダ「これはGN—X、なのですか?」

ビリー「スペックの写しは貰ったけど……全くもってナンセンスだよ、ほら!」

マリーダ「これは……は……?!」

ビリー「全く、こうも易々とGN—Xのアップグレードを生み出してくるなんてね。どうやら彼等は隠すつもりもないらしい」

デヴァイン「隠すとは心外だ。我々は……」

マリーダ「五月蝿い!」

デヴァイン「……済まない」

マリーダ「…………っ」

マリーダ「……最高速度、旋回性能、加速性能、反応速度に対応のOS、どれを取っても現行のMSを遥かに凌駕している……!」

ビリー「任されてみたのはいいけど、気分はリップヴァンウィンクルだ……ライト兄弟が超音速旅客機を修理するときなら、似たような感情を抱くかもね」

ビリー「こいつはまさに怪物だよ。それこそガンダムに匹敵……いや、それ以上のだ」



デヴァイン「…………」
リヴァイヴ『デヴァイン、打ちひしがれてないでリフトを降ろしてくれ』

デヴァイン「……了解した」

プルツー『いつの間にあんな技術屋気質になったんだ、あいつ』

リヴァイヴ『さぁ?』

 渡されたデータは、漆黒の機体の方であった。
 二機は基本性能こそ同等で、カタギリ顧問曰わく武装面の差別化が計られている、とのこと。
 機動性もさることながら、特筆すべきはまさにその武装面だと一目で理解できた。

 ビームサーベルを銃剣に据え、通常のビームライフルとは違い速射性を重視したビームマシンガン。
 大腿部に外付けされた、粒子ビームを拡散するフィールドを作り出す粒子グレネード。
 伝達力を高め高出力ビームに対応したことで、結果威力を増したGNクロー。
 だが一際目を引くのはやはり、MSにも匹敵する無骨で巨大な刃、かつてグラハム・エーカーがガンダムから奪い取ったものと同型の大型粒子実体剣だろう。 詰め込まれた武装に圧倒的な性能、これだけ並べてみれば、容易に想像は付いた。
 これは明らかに【対ガンダム用装備】であり、このGN—Xは【対ガンダム専用機】なのだと。
 そして今までの流れから見て、彼等の目的が何なのかも。

プルツー『かたや筆舌に尽くしがたく、かたや立て板に水の如くまくし立てる』

プルツー『満足いただけたようで光栄だね、お二方』

ビリー「君は……?」

プルツー『良いだろう、それ?』

ビリー「……あぁ、素晴らしいよ。嫉妬を通り越してバラバラにしたくなるくらいにね」

リヴァイヴ「それは良かった。いつの時代も嫉妬は力になる、この機体を糧に君達が更なるステップに踏むことを願っているよ」

リヴァイヴ「では」

デヴァイン「ならば」

プルツー『あぁ、もう良いな?』

プルツー『マリーダ・クルス……いや、プル・トゥエルヴは貰い受ける』

ビリー「は……?」

マリーダ(やはりッ…………!)

 そして、はっきりと分かった。

 自分は、この【申し出】を断れないことを。


To Be Continued...
セルゲイ「…………本気かね、大佐」

マネキン「本気も本気、大真面目でありますよスミルノフ大佐」

マネキン、「奴らがこの計画を実行するというのなら、阻止する役目は我々をおいて他にありますまい」

セルゲイ「期限は」

マネキン「一週間」

マネキン「一週間後、反国連軍の基地を強襲、宇宙への打ち上げを阻止します。」

明日また続きを投稿します。
春までにはさっさといきたい。
ではまた

00外伝は一通り出していくつもりだけど、とりあえず00Fが読みやすいと思われる
面白いのは00Pと00V、前者はあまり戦いメインという感じではないがフェルトの両親やCB実働部隊結成の裏側が知れて面白い
後者はMSVに近いノリ。ただどちらも文章


再開だフラッグファイター

——ミーティングルーム——

 その日、基地内では整備士達の格闘する声と作業の音が絶えず響いていた。
 本来基地施設の復旧に当てられていた人員も、全てが輸送機とMSの点検・整備に回されていた。
 此処は軍事基地、軍人が聞く音はかくあるべきと言うように、そのけたたましいまでの騒音に誰も反応を示さない。
 ただ目の前のモニターをじっと見つめ、己の役割を頭に叩き込んでいた。

マネキン「……以上が、本作戦の概要であります。」

グッドマン「……甚大な被害を被った後の、このような短期間で行える電撃戦ではないかもしれない」

グッドマン「だが我々は一矢でも報いねばならない! あの日死んでいった多くの英霊達の苦悩を、我々こそが世界の秩序を護るのだという矜持を!」

グッドマン「諸君らならば、必ずや無法の軍勢に思い知らせてやれると私は確信している」

グッドマン「今回諜報部からもたらされた情報は、今までの反国連組織の行動の中でも特に異質かつ大規模なものである!」

グッドマン「だからこそ! 奴らのこの最後の作戦を阻止しうるは、諸君ら前線の最精鋭を置いて他には無い!」

グッドマン「たった今から144時間後、作戦名【ファイアワークス】を開始する!」

グッドマン「諸君等の健闘に期待する! 以上!」

 グッドマン司令の激励に、その場の全員が敬礼する。
 軍人があらゆる想いを込める、ただ一つの礼。
 何度も作ってきたこの形が、今は重く感じてしまう。

リディ「…………」

グッドマン「解散!」

 グッドマン司令の檄が飛び、兵士達が一斉に部屋を飛び出していく。
 何せあと六日間で、大規模な電撃戦を可能にしなくてはならないのだ。
 ある者は鈍った身体を鍛え直そうとトレーニングルームへ、ある者はMSの調整の為にドックへ。 各々が為すべき事を成すために、わき目もふらずに走っていった。

 そして、オーバーフラッグスは作戦時の部隊編成の都合上、ミーティングルームに残った。
 隊長であるグラハム少佐の欠員、及びMS数の不足を補うため、頂武特務部隊のティエレン隊、そして補充要員のジニン隊との共同作戦が決定したからだ。
 オーバーフラッグスは、イナクトを除けばマリーダ中尉と自分しか出られない。
 そのプレッシャーが、自然に嫌な汗をかかせていた。

セルゲイ「久し振りだな、マリーダ」

マリーダ「大佐こそ、お変わりないようで何よりです」

セルゲイ「うむ。だが再開を喜んでいる場合ではない」

セルゲイ「我々は【最精鋭の囮】だ。寄せ集めかも知れないが、それは各員の力量で補えるものと確信している」

セルゲイ「本作戦を再度確認したい。全員、席に着いてくれ」

リディ「はっ!」

マリーダ「了解」

 出撃を見合わせる他の隊員も、全員がこの場に集まり話に耳を傾けていた。
 何故なのだろうか、オーバーフラッグスから参加する二名に自分が選ばれた際、誰一人と反対意見を出すことはなかったのだ。
 正直、技量では一番劣っている自分を出す理由が分からない。
 もちろん聞いてはみたが、誰一人まともに答えてなどくれず、レオーノフ大尉には説教まで食らう始末。
 辞退したいわけではなかった。
 ただ選ばれた理由を知りたいだけだったのに……そんな泣き言を飲み込んで、作戦の内容に耳を傾けた。

セルゲイ「本作戦の要は皆が知っての通り、此処にはいない二人のライセンサーが握っている」

セルゲイ「グラハム・エーカー少佐、ヤザン・ゲーブル大尉。この両名の乗る特務型GN—Xの敵陣中央突破及び敵基地からのロケット発射の阻止」

セルゲイ「それが本作戦の肝となる。我々は多重の敵防衛ラインを引きつけ突破を支援、そして彼等の背後を追撃させないよう食い止めることが任務となる」

セルゲイ「ジニン隊はまだ交戦経験は無かったな。反国連勢力の防衛ラインには、水陸両用と思われる太陽炉搭載型MSが多数配備されていると思われる」

セルゲイ「決して楽な戦いではない。友軍の被害を抑える意味でも、諸君等のRGMには期待させてもらうぞ」

ジニン「はっ、身を粉にして任務に当たる所存であります!」

リディ「…………」

 そうだ、敵はガンダムもどきだけではない。
 水中を航行できる新型MS、そして基地を破壊した強力なビーム兵器を有する機動兵器も存在している。
 敵陣中央を強襲するグラハム少佐だけじゃない、自分達だっていつ死ぬか分からないんだ。

 ダリル少尉は幸運にも生き延びられた。
 でも、彼よりも技量の劣る自分は……もしかしたら助からないかもしれない。

リディ(殺されてしまうかもしれない——。)

 いつも隣り合わせにあるはずの死が、その時ばかりはやけに身近に感じられて。
 マリーダ中尉の指が肩に触れるまで、きっと情けない顔をしていたことだろう。

マリーダ「リディ准尉?」

リディ「っ! は、はい!?」

マリーダ「いや、何でもない。反応するのか確かめただけだ」

リディ「……すみません……」

セルゲイ「大丈夫かね。新兵だと聞いているが、オーバーフラッグスからは彼が出るのだろう?」

マリーダ「マスターの推薦です。若くはありますが、必ずや作戦遂行の一助になるかと」

ジニン「若……い……?」

ジョシュア「あぁ止めとけ、そこつっこんでたらキリないぜ」

セルゲイ「ふむ、成る程な」

セルゲイ「あの男が言うなら、そうなのだろう。よろしく頼むぞ、准尉」

リディ「……はい」

 一度でも、そう考えてしまったのが悪かったのだろうか。
 その日のミーティングの内容は、結局まるで耳に入らずじまいで。
 結局、フェルトに電話をしようと思っていたことも、少佐に自分を推薦した理由を聞くことも。
 何もかもすっかり忘れ、ベッドの中に沈み込んでしまったのだった。

——輸送機・MSドック——

グラハム「…………」

 レバーを掴み、左右に軽く機体を動かす。
 火を入れた炉が粒子を放出し始めると、身体全体が重力から解き放たれたかのように軽くなるのを感じた。

グラハム「これほどとはっ……!」

『どうだいグラハム、君のGN—Xの乗り心地は』

グラハム「フラッグと比べるとかなり軽いな。まだ起動しただけだが、ここまで柔らかいとは」

グラハム「サイコミュを搭載していなくともこの反応、見事と言わざるを得んな」

 名残惜しさを残しつつ、コクピットを解放し席を立つ。
 新しく開発中らしい、専用のパイロットスーツのおかげだろうか、キャットウォークに踏み出す一歩が驚くほど軽く感じられた。
 作戦の内容から、試運転らしい試運転が出来ない問題があるため、その性能を確かめる術がないのは残念といえる。
 しかしはっきりと言えること、それは、今まで自分が乗ってきたどのMSをも、このGN—Xは易々踏破する性能を有しているということである。

グラハム「…………」

ヤザン「ようグラハム」

グラハム「断固辞退する」

ヤザン「まだ何も言ってねえぞ」

グラハム「お前のことだ、どうせこのGN—Xで模擬戦をしたいとか言い出すに決まっている」

ヤザン「おうおう、ニュータイプ兵士殿は人の心を御理解なさっておられる!」

グラハム「お前の考えていることなどパトリックでも分かる」

ヤザン「……俺が単純馬鹿だと言いてえのか、てめえは」

グラハム「そうは言っていない」

ヤザン「……女がいなきゃ何も出来ねえ甘えん坊が、一丁前に……」

グラハム「あ?」

ヤザン「ん?」

グラハム「…………チッ」

ヤザン「…………ペッ」


整備士A「おい、お前あの二人止めてこいよ……なんかすげえ睨みあってるよ……」

整備士B「やだよ、まだ死にたくねえもん」

ビリー「グラハム!」

グラハム「カタギリ」

ヤザン「…………」

ビリー「何時までも降りてこないから心配したよ。で、大尉と何かあったのかい?」

グラハム「特に何も」

ヤザン「そういうこった、邪魔したな技術顧問殿」

ビリー「はぁ……」

グラハム「……命拾いしたな」

ヤザン「どっちがだよ……せいぜい背中に気をつけな」

グラハム「…………」

ビリー「…………」

ビリー「君、ヤザン大尉にはやたら突っかかるよね。何かあった?」

グラハム「生理的に駄目な人物というのはいるものだ。自身に似ているならばなおさら、な」

ビリー「同族嫌悪までくると、僕にはちょっと分かりかねる範囲だね」

グラハム「それよりカタギリ、GN—Xの調整に関してだが……」

ビリー「あぁ、抜かりないよ。ユニオンフラッグ時代から君のデータは逐一記録し、調節しているからね」

ビリー「おおっぴらに動かせないのが辛いところだけど、基本的なデータ調整はGNフラッグのコピーをマイルドにして当てればOK、かな」

グラハム「流石だな、盟友」

ビリー「僕くらいじゃないと、君の無理難題にはつき合ってやれないからね」

グラハム「後はマリーダくらいのものだな。二人にはいつも世話になりっぱなしだ……」

ビリー「……グラハム?」

 カタギリは僅かな言い回しの変化にも気付き、訝しがる。
 遠回しに追及してみようとも考えたが、恐らくボロは出すまい。やはり付き合いが長すぎるのだ。
 やはり真っ正面から問いただすに限る。
 お互い、いつだってそうしてきたのだから。

グラハム「なぁ、カタギリ」

グラハム「……私に何か隠し立てをしてはいまいな?」

ビリー「……突然だな……何か思い当たる節でもあるのかい?」

グラハム「……このMSさ」

グラハム「ただでさえNT兵士に対する対応が硬化しているときに、私に対して明らかにオーバースペックのGN—Xが送られてきた」

グラハム「こんなもの、普通ならあと数年隠してもおかしくはないMSだ。それをあろうことか、彼らの不信をその身に受ける私が受領したのだぞ」

グラハム「それだけでも、どうしても拭い去れぬ違和感を私は覚えるのだよ」

ビリー「…………」

グラハム「だのに、だのにだ。お前もマリーダも、私以上に鋭敏であろう二人が、私に何の疑問も口にしない」

グラハム「私自身の違和感よりも、むしろそのことが気にかかるくらいだ」

ビリー「それは……」

グラハム「カタギリ、何があった」

グラハム「いや……お前とマリーダに、誰が何を言った?」

ビリー「ッ…………!」

 明らかに表情を崩し、視線を外すカタギリ。
 その時だった。背後から、【殺意】が向けられたのは。
 それもかつて自ら感じたことのある、二度目の【殺意】を。


「おやおや、作戦前に仲間割れですか?」


グラハム「ッ……!」

リヴァイヴ「いけませんね。この作戦の中心はあなたと大尉のGN—Xだ」

リヴァイヴ「下手な勘ぐりで自ら機を逃すのは、貴方としても不本意の筈では?」

ビリー「君は…………!」

 声をかけられ、とっさに振り向く。
 予想外に近い位置、自身と二歩の間しかない場所に彼は立っていた。
 スーツ姿の、中性的な顔立ちの若い青年。
 端麗なその顔に仮面のような冷笑を浮かべ、真っ直ぐに此方の目を見つめながら、淡々と警告をしてきていた。

グラハム「……軍人の背後に近寄るのは、あまり誉められた行為ではないな」

グラハム「何者だ。カタギリやマリーダとの関係は」

リヴァイヴ「失礼、私はリヴァイヴ・リバイバル。このGN—Xの、いわば担当者ですよ」

グラハム「担当者、だと?」

リヴァイヴ「えぇ」

リヴァイヴ「最新鋭の技術の粋を集めた、いわば地球圏最強のMSがこのアドヴァンスドGN—X」

リヴァイヴ「それがたとえライセンサーと言えども、所有するに相応しくないと判断された場合、機体の受領を保留にする権限が我々には与えられております」

グラハム「ほう……」

グラハム「その相応しくない理由とは、力量か? それとも態度のことか?」

リヴァイヴ「双方……もちろん、それだけではありませんがね」

リヴァイヴ「そのことについては、少佐のMSを任されているお二方には既にお話ししていたのですが、少々深刻に受け取られてしまったようで」

リヴァイヴ「今回の作戦で結果を出していただけたなら、もちろんそんなことを心配する必要も無くなると思うのですが……?」

グラハム「くっ……!」

 わざわざ挑発するかのように、肩を指でなぞっていく。
 その感覚が不快で振り払おうとしたが、腕が何かに触れることはなく。
 リヴァイヴと名乗った青年も、いつの間にか数歩も間を広げ去ろうとしていた。

グラハム「っ、待て!」

リヴァイヴ「待ちませんよ。貴方に出来るのは戦い、勝つことだけ」

リヴァイヴ「そのとき、貴方は初めて全てを理解するでしょう。全て、ね」

リヴァイヴ(そして思い知ることになる……己の立場が、薄氷の上に等しく脆い場所にあると)

グラハム「っ……!」

ビリー「……」

 唇を噛み締め、拳をきつく握るカタギリの様子を見て、もう何も言うことは出来なかった。
 ただ一つ、生きて任務を終わらせることだけが真相を知る術なのだろう。
 相手はガンダム。それも相当の手練れが駆る、暴力の化身。
 倒さねばならぬ、という使命感と共に、また戦える、という高揚感が沸々と湧き上がってくるのが分かる。
 盟友達に延びた魔の手の真相が掴めぬ不快感、それ故に生まれるわだかまりから離れるように、兵士としての自分に浸っていく。

 この不明を、後に酷く後悔するとも知らずに。



——ジオン・秘密基地——


 ひっきりなしに響き渡る基地内放送、止まることのない人の流れとコンテナの山。
 減ればまた積み上げられ、集まったかと思えばまた目の前を通り過ぎていく。
 為せることなど何一つ無いというのに、毎日足繁く通う自分に気付いたのは、つい最近のことである。

デュバル「まさに壮観、だな」

 キャットウォークの広めの場所に寄りかかり、絶え間なく動く人と物を見つめ、ただ過ぎ行く時間に身を任せる。
 昨晩のGN—X襲撃も偵察だったのだろうか、幾何と戦わぬ内に退いてしまった。
 こんなことが続くものだから、戦闘要員である自身は、たとえ自ら申し出たとしても何もさせてはもらえなくなっていた。
 これは数少ない【袖付き】からの援軍であると同時に、疑似太陽炉搭載型ヅダに乗れる人間が自分独りのみという事実を暗に証明してもいた。

 限られた人間しか乗ることの出来ない、操縦難度の高いMS。
 機動兵器としては失格とも言える事実より、自身がヅダに選ばれし存在だと夢想し逃避している自分に嫌気が差す。

兵士「デュバル少佐、お疲れ様です」

デュバル「うむ」



 通り過ぎる兵士に挨拶され、会釈する。
 あれはユニオンのパイロットスーツだ。此処では国籍や人種による差別が見られないのが心地いい。
 人革連ではあまり良い思いをしなかっただけに、なおさら強く感じるのかもしれない。

デュバル「ん……?」

 搬入路には昼夜問わず人員と物資が送り込まれている。
 そんな数多に分かれた支流の中で、ティエレンだけは目ざとく見つけてしまう。
 視線を吸い寄せるのは、ティエレンとヅダ、結びついた二つの因縁によるものだろう。 
 あの時、幾何の違いさえあれば、ヅダは歴史の闇から抜け出せた筈だと。
 その胸中にくすぶる思いが、いたたまれぬ過去が。
 そう、目の前の鉄機へと、怨嗟の視線を送っていた。


「おぉ、怖い怖い」

デュバル「!」

 はたと声のした方へ振り向く。
 驚いたのは、誰のものかは分かっていたが、その誰かが問題であったから。

フォン「……まるで親の仇でも見つめるような目だ」

デュバル「フォン・スパーク……!?」

フォン「邪魔するぜ」

 不敵な笑みに紅い瞳が光る。
 だらしないともいえる着崩した身なりにボサボサの金髪、それでも隙一つ無い剣呑な雰囲気がただ者ならぬ印象を作り上げていた。

 周りには彼一人とマスコットロボットが一機だけ。
 どうやら監視役の兵士は捲かれたようである。
 此処に来て日が浅い筈の男がやれることではないのだが、疑念はさして湧きはしなかった。

デュバル「何か用かね」

フォン「用が無けりゃ会いに来ちゃいけないか」

デュバル「君が求めているような情報を、こんな所でくすぶっている私が持っているとでも?」

フォン「俺に何が必要で、何が不要かを決めるのは俺だけだ」

デュバル「…………」

874『フォン、余計警戒されています』

フォン「あげゃげゃ、想定内だ」

 掴みどころの無い、それでいて一種の危うさを秘めた感触。
 一度MSで対峙した自分だからこそ分かることがある。
 この男は、非常に危険だ。

フォン「ヅダ」

デュバル「!」

フォン「形式番号EMS-10。何年前だったか、宇宙開発及びテロリズムの宇宙拡大に先立ち、宙間戦闘に於ける絶対的優勢確保を名目に開発されたMS」

フォン「あらゆる宇宙仕様MSに対抗すべく開発されたその性能は、MSJ-06II-Eティエレン宇宙型はおろか、現在のイナクト、フラッグの宇宙仕様に勝るとも劣らぬ性能だったとか」

デュバル「止めてくれ」

フォン「最大の特徴である土星エンジンの系譜、太陽炉との親和性も上々」

フォン「良い性能だ、流石は……」

デュバル「止めろと言ったッ!!」

874『…………』

フォン「あげゃ」

デュバル「……済まない、取り乱した」

フォン「気にするな。わざとだ」

フォン「その様子じゃ、どうやら太陽炉をまんま載せても駄目だったらしいな」

デュバル「…………」

フォン「……実地試験では、ティエレン宇宙型六機を相手に、二機で圧倒的とも言える性能差を見せつける」

フォン「しかし、障害物を盾に退避するティエレンを追いかけた二番機が突如として制御不能に陥り、そのまま爆散」

フォン「パイロットは死亡、機体は大破……」

フォン「その後の調査で、ヅダには構造上致命的な欠陥があることが判明し、採用は見送りとなったとさ」

デュバル「ぐぅ……っ」

フォン「あげゃげゃげゃげゃ!!」

 耳障りな高笑いと、搬入作業の音が混ざり合う。
 まるで、己が所業を責め立てるかのように頭に響く。
 手すりを掴み、折れそうになる膝を何とかして支えていた。

デュバル「貴様は、私を笑いに来たか……!?」

フォン「まっさか。そんな非生産的なことに時間は費やさん」

フォン「ただ気になっただけだ。何故現存する唯一のヅダが此処にあり……」

フォン「何故、当時実地試験で一番機を駆っていたあんたが此処にいるのか、な」

デュバル「っ…………!」

 一時、辺りの喧騒が消え失せたような錯覚を覚えた。
 フォンは真っ直ぐにこちらの眼を見据え、不敵な笑みを崩そうともしない。
 ほんの数秒、そのとてつもなく長い数秒の後、耐えられずに視線を外し、口を開いた。
 内なる呵責を吐くその様は、他人が見たらまるで懺悔のようであろう。

デュバル「ヅダは……当時の水準、いや、現行量産機と比較しても足るほどの性能を持って生まれたMSだった……!」

デュバル「初めてコクピットに座り、最高速度にまで踏み込んだ時の感動は、今でも昨日のことのように思い出せる……」

フォン「…………」

デュバル「問題点はあったかもしれない。だが、たった一度の過ちで表舞台から消え去って良いはずがなかった!」

デュバル「なかったのに……人革連はあれから一度たりともヅダへの対応を変えようとはしなかった……!」

874『…………!』

デュバル「そしてガンダムが現れた! フラッグやイナクトでさえ対処出来ない存在だ、ティエレンで対抗出来るわけがない!!」

デュバル「ならばヅダがッ! 今こそヅダの性能が求められて然るべきだったのだッ! 」

デュバル「だのに!! だのに奴らは、ティエレンを桃色に塗り潰して御満悦だッ!!」

デュバル「自国の要たる軌道エレベーターをテロリストに護られ、四十機体制で臨んだ捕獲作戦にも失敗!!」

デュバル「ティエレンの相次ぐ失態にも、ヅダは汚名返上の機会すら与えられなかった! そんなことが、許されるのか!? 許されていいのか?!」

デュバル「良い……訳が無いぃ……ッ!!」

フォン・スパークの表情から、笑みが消えた。
その理由など、ただの一つしか有り得ないだろう。

 吐き出せるだけ、全てを吐き出した。
 少しずつ音が戻ってくるのが、不思議に心の猛りを抑え込んでくれた。
 哀れだ。何と情けのない、子供じみた姿だろう。
 もはや己の為に流す涙すら惜しい、醜い亡者の嘆きだ。

フォン「……滑稽だな。その一言に尽きる」

デュバル「…………」

874『フォン』

フォン「だが、あんたはそれを自覚している。己に酔ったテロリストに比べたら、まだ多少はマシだ」

デュバル「……慰めにもならん……」

フォン「慰めてるつもりはない。事実、あんたはGN—Xのテロ行為を見てショックを受けていた」

デュバル「!?」

フォン「組織に荷担してりゃ同じこと、確かにそうだ。それでも、あんたはヅダに命を賭けても魂は売り渡しちゃいない」

フォン「性能を評価してほしいからって、護るべき対象に銃口向けてりゃ本末転倒……そしてあんたは気付いちまった」

フォン「此処はヅダに相応しい戦場ではない、とな」

デュバル「な……何を……!?」

フォン「ジャン・リュック・デュバル、あんたはもう気付いてもいいはずだ」

フォン「あんたを苛んでいるのは【ヅダを評価しなかった連中】じゃあない、【ヅダをこんな場所に連れてきてしまった自分自身】だとな」

デュバル「ッ……?!」

 フォン・スパークが言い放った直後、警報機が赤色灯と共に吼え出した。
 敵襲、第一種警戒態勢を告げるときの声だ。
 先ほどまでとは別種の慌ただしさが波のように伝わる。
 騒然となっていく搬入路で、自分とフォン・スパークだけが、取り残されたように立ち尽くしていた。

デュバル「フォン・スパーク……お前は……」

フォン「おおかたフロンタルにヅダの量産計画でも打診されたんだろう。だがアイツはヅダを量産したりはしない、絶対にだ」

フォン「恐らく、あんたがその理由を一番理解してると踏んだ上で誘っている。誘った理由は知ったこっちゃないが、どうせろくでもない小細工の布石だろう」

フォン「少なくともヅダやあんたが欲しかったわけじゃあないのは確実だ」

デュバル「…………」

フォン「投げた賽は戻らない。あんたはもう一線を越えちまった」

フォン「だが、今ならまだけじめくらいはつけられる。努々忘れないことだ」

デュバル「けじめ……か」

フォン「選ぶのはあんただ。見届けさせてもらうぜ、ゴーストファイター」

 彼は軽く肩を叩くと、警報にも負けないけたたましさで笑いながら去っていった。

 けじめ。
 それは果たして、何に対し何を為すことなのだろうか。
 恐らくその答えは自分の中にしかなく、そしてそれは既に固まりつつあることで。



 自分がヅダに乗って出来る、最期のことだとも解り始めていた。

 ・
 ・
 ・


フォン「盗み聞きは趣味が悪い、そうは思わないか?」

クラウス「!!」

フォン「あげゃげゃ、ある意味唆しの現場を押さえたことになるな、お前はどうする?」

クラウス「…………」

クラウス「一つ聞かせてほしい。デュバル少佐は、迷いを断ち切れたのだろうか?」

フォン(ほう……)

フォン「……さぁな。俺様はただ道を示しただけだ」

フォン「どの道を行くかはアイツ次第だ。ただ、どうあれ永くはない」

クラウス「分かっていて、教えたのか」

フォン「アイツが選ぶ前ならまだ選択の余地はあったが、まぁ道化のまま死ぬよりは遥かに……」

クラウス「……良かった」

フォン「は?」

クラウス「いや、デュバル少佐のことさ」

フォン「……アイツと道を違えることが嬉しいってか?」

クラウス「まさか! 彼には何度も助けられた、出来ればこれからも良い関係でいたいとも思っている」

クラウス「ただ……彼はここ暫く、ずっと何かに悩んでいるようだった。それが気になって、機を見て話しかけたり、作業に誘ったりしていたんだよ」

クラウス「彼が前を向けるようになったのならば、戦友として素直に喜ぶべきことだろう? それからのことは、お互いその時に考えるさ」

フォン「…………」

クラウス「ははは、何だか恥ずかしい話なんだがね。結局少佐からは相談もされずじまいだから、少し寂しいかなとは思ってもいてさ」

クラウス「でも彼が吹っ切れたのなら、きっかけや往く先がどうあれ、素直に嬉しいと思う。僕だけかもしれないけれど……」

874『…………』

フォン(……コイツ……)

フォン(天然か)

クラウス「?」

フォン(いや、だとすれば……あげゃげゃ、成る程、これは面白い)

フォン(フロンタルが欲しがる逸材こそが、まさに奴にそぐわぬ油というわけだ)

フォン「面白い……あぁ、実に面白い。あげゃげゃ」

クラウス「??」

フォン「忠告しといてやる。クラウス・グラード、お前も、いつかは選ぶ日が来る。必ずな」

クラウス「……忠告?」

フォン「予言ともいう。俺様には全て見える。全て、な」

フォン「だが、賽はまだお前の手の内にある。投げてしまう前に手札を充実させておくことだ……フロンタルの鬼札に対抗出来うる、手札をな」

クラウス「……仲間を集めておけ、と? 今から参加する組織の中で、離反するために?」

フォン「あげゃげゃ……」

クラウス「言っている意味が分からない。承服しかねるな」

フォン「忠告といった。選ぶときが来るのは、予言だ。」

フォン「そのときが楽しみだぜ、あげゃげゃげゃげゃ……!」

クラウス「…………」


 ——以降、数回の哨戒機との接触と、小競り合いを避けるように動く国連軍の動きに戸惑いながらも、反国連勢力は着々と準備を遂行していく。

 そして144時間後。
 たった二人の人間の手のひらの上で、国連軍と反国連勢力、双方の一大反攻作戦が開始されようとしていた。

To Be Continued...


ヤザン「おう、パトリック!」

コーラサワー「げ……ヤザン大尉」

ヤザン「お前の部隊に俺のMSと部下を預けとく。面倒見てやってくれや」

コーラサワー「え?」

ヤザン「GN—Xを貰っちまったからもう要らねえんだが、あのイナクトも気に入ってんだ」

ヤザン「大事に使ってやってくれや、じゃあな」

コーラサワー「え、いや、あの……」

コーラサワー「……えぇ〜……」

本日は此処まで
次回は来週。
ではまた。

スランプで全然書けなくて、2/14は板がエタるわ3月一杯ボロボロで全然来れなくて申し訳無い

本当に申し訳無い

気分転換に即興で書いたものがあるので、良かったら読んで楽しんでいただけたら幸いです

「このSSを書けよボケ!歪んだ男!」

という指摘はごもっともです。すみません。


ガルマ「グフとか要らないんじゃあないか?」シャア「えっ」

シャア「私もギャンが欲しいなぁ」ガルマ「えっ」

ララァ「大佐、私専用のザクレロが欲しいわ」シャア「えっ」

ではまた

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