婆さん「来たか……」(17)

――とある田んぼ

婆さん「爺さんが死んで半年……。ついにこの時がやってきおったか」

――何十年も前から毎年この時期に行われる稲刈り。
だが、8年ほど前からここの稲を襲いに、大量のイナゴが襲撃してくるようになった

婆さん「この羽音……来たか。爺さんと共に守ってきたこの稲田、決してお主らの好きにはさせんぞ」

婆さん「うめぇ米を収穫するため、研ぎに研いだこの鎌の切れ味、その体で味わってみんしゃい!」

――イナゴの軍勢へと一人で立ち向かう婆さんの過酷な戦いが、今幕を上げた

婆さん「ずぅぅええぇぇぇぇい!!」 ザシュッ!

――素早い鎌捌きでイナゴを次々に切り落としていく婆さん

……だが!

婆さん「くっ、増援!? す、少しずつ前線が押し上げられて……っ!」

婆さん(まずい、このままではジリ貧に……なれば!)

――婆さんは一か八かで攻める勢いをあげ、前線を押し戻す作戦にでる

……しかし!

婆さん「なっ!? しまった、右23、左31、上6抜かれた!」

――僅かな隙をつき、60匹のイナゴが婆さんを突破、稲田へと強襲。絶体絶命かに思われた

……そのとき!

婆さん「稲田を前にしてイナゴが停った……? いんや、違う!」

婆さん「あれは網じゃ! 網に絡めとられているんじゃ!」

キャベツ畑のおっちゃん「ふう、間に合った。全く、水くせぇじゃないですかい」

おっちゃん「人手が足りないんなら儂らに相談してくれれば何時でも力になりますぜ」

――そう言いながら新しい編みを構え、婆さんの隣におっちゃんが並ぶ

トマト畑のじい様「虫に狙われたときはお互い様じゃよ。のう、婆さんちゃんや」

――さらにトマト畑のじい様も枝切りバサミを装備し、前線へ

婆さん「お前しゃん達……スマンのう。なら改めて頼む。力を貸してくれんか」

おっちゃん「ったりめぇだぜ!」

じい様「この物量、ペース配分を考えてる余裕はなさそうじゃな」

じい様「最初から“くらいまっくす”といこうか。のう、婆さんちゃんや」

――数時間にもわたり、イナゴと格闘する3人

じい様「こいつで終いかの。のう、婆さんちゃんや」 チョッキン

婆さん「はぁ……はぁ……」

婆さん(じいさん……儂ゃやったよ。今年もあたしらの稲を守りきったんだよ)

――皆、既に満身創痍だったが、無事にイナゴの波を乗り切ることに成功

……したかに思えた!

おっちゃん「お、おい……なんだよありゃ? まるで黒い霧のような……」

じい様「ほ、ほっほっほ。こりゃもう一仕事しなきゃならんようじゃな。のう、婆さんちゃんや」

婆さん「お前さん達が付き合うこたぁないよ。と言っても、お人好しのお前さん達には無駄な言葉なのかもしれんが」

――それは先ほどの数十倍はあろうイナゴの大群だった。
もはや嵐や台風級の災害と言っても過言ではない“それ”は、一目散に稲田へと押し寄せてくる

――初戦にて体力の限界を迎えつつあった3人は、必死に迎え撃つも、
数匹が仕留めきれずに素通りになってしまう

婆さん(爺さん、爺さんや! 儂らに力を……あの思い出の詰まった稲田を守れる力を……!)

――そんな戦いの最中、婆さんが足を滑らせて転倒。大量のイナゴが婆さんへと襲いかかる

婆さん「ひっ!?」

――もうダメかと思われた

……次の瞬間!

婆さん「……え?」

――婆さんの目の前にいたイナゴ達が、一瞬にして微塵に切り裂かれていたのだ

?「相変わらずおっちょこちょいだなぁ。でもま、それでこそ親孝行のしがいがあるってもんだ」

――そこには40代のおっさんが、2本の鎌を持って立っていた

婆さん「なっ!? おめぇ、男でねぇか!? どうすてここへ?」

男「会社員はオラには向いてねがったンでな。地元さけぇって畑仕事を手伝いにきたっつうわげよ」

男「婆さんやじい様達は下がっててくんろ」

――そう言うと男は鎌を構え、イナゴを物凄い勢いで切り裂いていく

婆さん「あの型は爺さんの……まるで若い頃の爺さんが蘇ったみたいじゃ」

おっちゃん「男の野郎……ったく、いいとこ持って行きやがって。へへっ」

じい様「うむ。実に、実に立派に育っておるじゃないか。のう、婆さんちゃんや」

――しばらくして、全てのイナゴの撃退に成功。無事に稲田は守られた
そして一週間後、そこには笑顔を浮かべながら稲刈りをする親子の姿が……

――めでたしめでたし

短いけど終わりです

読んでくれた方々に感謝。次回作もよろ

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