【咲-Saki-】クラブ白百合へようこそ (525)

辻垣内グループが経営する女性専門のデートクラブ「H・L(ホワイトリリー)」
そのH・Lを舞台にした咲キャラたちの恋愛模様を書いていきます
スレタイ通り百合物・パラレル(年齢等)につき閲覧注意です

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1417194649



穏乃「好きになったらしょうがない」

穏乃「もしもし憧?何だよ春休みに入って以来じゃん」

憧「あのさ、あんた明日ヒマ?」

穏乃「いきなり何だよ?まぁヒマっちゃヒマだけどさ」

憧「実はさぁ、あんたを紹介してくれって奴がいるんだけど」

穏乃「へっ?」

憧「たまたまシズの写真見せたら気に入っちゃったらしくてさー」

穏乃「ええっ?私恋愛とか興味ないよ」

憧「まあまあ、そう言わずにちょっと会う位でいいからさ」

穏乃「ええー…」

憧「それに気に入らなかったらさっさと帰ってくればいいし。ね、お願い」

穏乃「ん…、分かったよ。憧の頼みなら仕方ないな」

憧「恩に着るわ」


・・・・・・


・・・・・・

穏乃「ええっと、待ち合わせ場所ってここで良かったかな」キョロキョロ

穏乃「それにしても緊張するなぁ。私あんまり男の人としゃべったことないし」

穏乃「どんな男の人が来るんだろう…」ドキドキ

?「うっ…」ドサッ

穏乃「へっ?隣に立ってた女の人が急に倒れちゃった…」

女「きゃあああ!!誰か救急車を!!」

ピーポーピーポー

穏乃「大丈夫かな?あの人…」

穏乃「…ん?白い百合の花が落ちてる。今の人が落としていったのかな?」ヒョイ

穏乃「きっと誰かと待ち合わせだったんだろうな。…それにしても綺麗な花だなぁ」ジッ


??「ごめん、待った?」


穏乃(き、来たあああああああ!!)

穏乃「いえっ!私も今来たとこで……」バッ


竜華「おっ、予想以上にかわええ子やなぁ」


穏乃(えええええっ!?お、女の人おおおおおお!?)

竜華「私は清水谷竜華いうねん。今日はよろしゅうな」

穏乃「は、はい…高鴨穏乃です。よろしくお願いします…」

穏乃(憧の奴ううう!女の人なんて一言も聞いてないぞ!)

穏乃(しかも大人の女の人…見たところ23、4歳くらいかな)

竜華「ん?どうしたん?」

穏乃「あ、いえっ」

竜華「緊張してるん?まあ私に任せてリラックスしてな」

穏乃「はぁ…」

竜華「じゃあ穏乃ちゃん、馬でも見にいこか」

穏乃「うま??」



穏乃「わー、すげー!!私本物の馬見たの初めてだ!!」

竜華「良かったら乗ってみるか?」

穏乃「乗せてもらえるんですか?やったー!!」

竜華(かわええなぁ穏乃ちゃん)

穏乃「歩いてる歩いてる!!」

穏乃「目線が高い!!すげー!!」

竜華(気持ちいい位素直な子やなぁ)



竜華「一人で降りれる?手貸そうか?」

穏乃「平気です。よいしょっと…」

穏乃「わわっ!?」ガクン!

竜華「おっと!!」ダキッ

穏乃「あ…」

竜華「大丈夫やった?」ニコッ

穏乃「あ、はい…どうも///」


穏乃(何だかんだで楽しんじゃったな…)


・・・・・・

竜華「ここは私のおごりやから好きなの選んでな」

穏乃「はい、ありがとうございます」

穏乃(ってすっげー高そうなレストランなんだけど…)

竜華「メニューは決まったん?」

穏乃「えっと、私よく分からないんで竜華さんにお任せします」

竜華「そうか?じゃあこれなんてお勧めやで」

穏乃「おお、美味しそうですね!」

穏乃(竜華さん、大人だし優しそうでいいなぁ)

穏乃(もし私にお姉さんがいたらこんな感じなのかな…)グビッ

穏乃「ん、このジュース美味しい!」

竜華「それはジュースやなくてカクテルやで」

穏乃「えっ、お酒?」

竜華「せやで」

穏乃「ええええっ!?私未成年ですよ!!」

竜華「そうやったん?クラブの紹介やしてっきり成人してるのかと思ってたわ」

穏乃「クラブ??」

穏乃「あ…、頭がぐらぐらしてきた…」

竜華「大丈夫かいな?」

穏乃「だいじょうぶれぇす…///」

竜華「全然そうは見えへんけどなぁ」

穏乃「そういや竜華さんは私なんかのどこが気に入ったんですかぁ?///」

竜華「んー、そうやな。素直で可愛いところやな」

穏乃「それは光栄れす…///」

竜華「穏乃ちゃんほんまに大丈夫か?」

穏乃「全然平気れすよぉ///」

竜華「そうか?それは良かったわ」


竜華「何せ夜はこれからやしな……」


・・・・・・


・・・・・・

穏乃「ん…、んん…」

竜華「はぁ…」クチュクチュ

穏乃(何かすごく気持ちいい…何だろ…)パチッ

竜華「ん、穏乃ちゃん…」クチュクチュ

穏乃「………わあああああっ!!?」ガバッ!

竜華「あ、起きた?」

穏乃「り、竜華さん!?何やって…」

竜華「起きたんならもっと激しくいくで」グチュグチュ

穏乃「あっ!やめっ…!そんな所触らないでくださ…っ」ビクン!

竜華「穏乃ちゃんのココ、もうビショビショやで」グチュグチュ

穏乃「あああああああああっ!!」ビクンビクン!

竜華「お、もうイッたんか。意外と早いなぁ」

穏乃「はあ、はあ、はあ///」

竜華「じゃあ次は本番いかせてもらうで」グチュッ

穏乃「ひゃんっ!な、何を…」

竜華「何って、定番の貝合わせに決まっとるやろ」ズチュズチュ

穏乃「ひゃああああああああ!!」ビクビクッ

竜華「そんなに感じてくれるとこっちもやる気が出るわ」ズチュズチュ

穏乃「あああああああ、気持ちい……っ」ビクビクッ

竜華「ほんならラストスパートいくで」ズチュズチュズチュッ

穏乃「んああああ、竜華さ、そんな強く擦らない、で……っ///」ビクンビクンビクン!

竜華「んっ、私もイク……っ」ビクンビクンビクン!

穏乃「はあはあはあ……」グッタリ


竜華「穏乃ちゃん、今日は凄くよかったで」

穏乃「……ん?」

竜華「お金、ここに置いとくな」

穏乃「は!?お金!?」

竜華「よかったらまた頼んでもええかな?穏乃ちゃんのことが気に入ってん」

穏乃「たの…む?」

竜華「何てゆーか、ぎこちない所が妙に初々しくてな」

竜華「もしかして初めてかと思ったぐらいやで」

穏乃「…………っ」ワナワナ

竜華「穏乃ちゃん?」


穏乃「ふざけんなっ!!!」


竜華「……」ボーゼン

穏乃「何なんですかこのお金は!!口止め料のつもりですか!?」

穏乃「第一私は…私は…」


穏乃「うわあああああん!!初めてだったのにいいいいい!!」


竜華「……え?はじめて?」

竜華「だってクラブの紹介で」

穏乃「クラブって何ですか!!知りませんよそんなの!!」

竜華「だって穏乃ちゃん、目印の白い百合の花持って立ってたやない」

穏乃「あの花は救急車で運ばれてった隣の女の人が落とした物です!!」

竜華「じゃあ、何で穏乃ちゃんが持って…」

穏乃「落ちてたのをたまたま拾っただけです!!」

竜華「……マジで?」


HLマネージャー「申し訳ございません清水谷様!!本日紹介の子が急に入院してしまいまして…」

HLマネージャー「このお詫びは後日必ずいたしますので…」

ツーツー…

竜華「……」

穏乃「……」

竜華「……」

穏乃「……」

竜華「えっと、穏乃ちゃん?」

穏乃「……」

竜華「うちはてっきり穏乃ちゃんがクラブの紹介で来たプロだとばかり思っとったから…」

穏乃「……」

竜華「その、謝ってすむ事やないけど…ごめんな」

穏乃「………帰ります」

竜華「えっ?ほんなら送っていくわ」

穏乃「結構で…」クラッ

穏乃(…あれ?視界がぐにゃっとしてる…)

竜華「穏乃ちゃん!?」

穏乃「あ…」バタッ!

竜華「穏乃ちゃん!!」

・・・・・・


・・・・・・

穏乃「…ん、あれ?」パチッ

穏乃「ここ、私の部屋…いつの間に帰ってきたんだろ」

~♪

穏乃「ん?憧から電話だ…」

憧「もしもしシズ?昨日はほんとごめん!!」

穏乃「憧!?」

憧「紹介しようとしてた子、急に気が変わっちゃったらしくてさ」

憧「この埋め合わせが今度必ずするから!じゃあね!」


穏乃「………憧おおおおおおおおお!!」

穏乃「はぁ、とりあえず朝ごはん食べよう…」

穏乃「お母さーん、何か食べるものない?」ガラッ


竜華「お母様なら買い物に行かれたで」ニッコリ


穏乃「」

穏乃「」

穏乃「」


穏乃「な、な、な……」

穏乃「何で竜華さんが私の家にいるんですかあああああ!?」

竜華「まあまあ、とりあえず落ち着いてや」

穏乃「落ち着いていられますかって!!」

竜華「昨晩倒れた穏乃ちゃんを車で送っていったのはうちなんやけど、覚えてないん?」

竜華「穏乃ちゃんの生徒手帳で住所確認してな」

穏乃「それは…どうもご迷惑をおかけしました…」ゴニョゴニョ

穏乃「で、まだ私に何か用なんですか?」

竜華「…うちな。あれから自分なりに考えてみたんや」

穏乃「はぁ…」

竜華「もちろん穏乃ちゃんにとっては災難やったろう」

竜華「確かにあれは事故のようなもんやった…」

穏乃「……」


竜華「でもうちは、本気で穏乃ちゃんを好きになってしもたんや!!」


穏乃「………は?」

竜華「始まりがどうであれ今の私は真剣や」

竜華「だからどうか、この思いだけは分かってほしいんや」

穏乃「……」

竜華「穏乃ちゃん?聞いとる?」

穏乃「……」フラア

竜華「穏乃ちゃん?」

穏乃「……っ」バタッ!

竜華「わああ!!穏乃ちゃんがまた倒れたあああ!!」



穏乃(ああ神様、私の平穏な日々を返してください…)


つづく

乙 他にどんなキャラが出るのか気になる

>>20
憩、怜、咲、智葉は確定してます
週一ペースのまったり更新ですがよければお付き合いくださると嬉しいです

略すならWLじゃねって気がするけど期待

>>25
ぴゃああ!間違えましたああ!
後でスレ建て直しますorz

穏乃(最近私はバイトをはじめました)

穏乃(理由はひとつ。忙しくなれば私に猛アタックをかけてくる竜華さんと会う機会が減るから)

穏乃(そう思ったんだけど……)


穏乃「……お待たせしました」カチャ

竜華「ありがとうな、穏乃ちゃん」ニッコリ


穏乃(毎日凝りもせずバイト先に遊びにくるんだよな、竜華さん)

穏乃(これじゃ何のためにバイト始めたんだか…)

~♪

穏乃「はい、サイゼリ○××店です」

穏乃「あれ?お母さん?いったいどうし…」


穏乃「ええええっ、家に泥棒が入ったあああああ!?」


・・・・・・


・・・・・・


穏乃「うわぁ、家の中ぐちゃぐちゃだ」

竜華「こりゃ酷いな。それで警察は…」

穏乃母「今ちょっと前に帰ったとこなんだけど…」

穏乃(何で当然のように竜華さんがいるんだろう)

穏乃母「まあ泥棒が入ったって言っても家の中荒らされたわりに大した物は取られてないから良かったんだけどね」

穏乃「そうなのか~、良かったぁ」

穏乃母「それよりも京都にいる主人の方が…」

穏乃「お父さん?何かあったの?」

穏乃母「電話したら風邪こじらせて寝込んでるらしいのよ」

穏乃「だからこんな時に急なんだけど、これから京都まで様子見に行ってこようかと」

穏乃「えっ?」

穏乃母「で、その間申し訳ないんだけど竜華さんに穏乃の面倒みてもらえないかと思ってね」

穏乃「は!?」

竜華「そうなんですか。そういうことなら喜んで…」

穏乃「ち、ちょっと待てーっ!!」

穏乃「私べつに一人でも大丈夫だって!!」

穏乃母「料理もろくに作れないあんたが一人で大丈夫なわけないでしょ」

穏乃「ぐっ…」

穏乃母「4、5日で帰ってくるから」

ブッブー

穏乃母「あ、タクシー来たわ。それじゃあ竜華さん、うちの子をお願いしますね」

竜華「はい、お任せくださいお義母様」

穏乃(誰がお義母様だっつの!!)

竜華「じゃあ穏乃ちゃん、うちの家に案内するわ」ニコッ

穏乃「…はぁ」


・・・・・・


・・・・・・


竜華「どうぞ遠慮なくくつろいでな、穏乃ちゃん」

穏乃「はぁ、どうも」

穏乃(ってすげー高級マンションだなぁ)

竜華「…」ニコニコ

穏乃「何でそんなに笑ってるんですか?」

竜華「え?だってこれからしばらくの間穏乃ちゃんと一緒に寝られると思ったら嬉しくってな」

穏乃「ねねね、寝るううううう!?」

竜華「あ、もちろん眠るって意味やで。うち、無理やりは好きやないしな」

穏乃「ほっ…。って、何で一緒に眠るってことになってんですかっ!?」

竜華「だってうちのベッド、キングサイズやし!」

穏乃「何で一人暮らしでキングサイズなんですかー!!」

竜華「もちろん寝込みを襲うような真似はせえへんで。安心してや」

穏乃(安心できるかあああああ!!)


・・・・・・


穏乃(はあ、結局一緒に寝るはめになってしまった…)

穏乃(仕事があるから先に寝てていいって言われたけど、眠れるわけないよなぁ)

穏乃(…なんて思ってたのに、何だか瞼が重く…なってき…た…)

穏乃「すー、すー」



穏乃「……ん?」パチッ

穏乃「何だこれ!?両手に手錠が!?」

穏乃「くそっ、外れないっ!!」ガチャガチャ

竜華「…穏乃ちゃん、大人しくしててな」

穏乃「ちょ、竜華さんやめてください!!離して!!」

竜華「穏乃ちゃん…」クチュ

穏乃「や、やめ…っ、あっ」

竜華「ほら、もうこんなに濡れてきたで」クチュクチュ

穏乃「あっ、あっ…ああああっ!!」


がばっ

穏乃「……っ!!」

穏乃「あ、あれ?夢…か」

穏乃「はあ、びっくりした……ん?」チラッ

竜華「んー…、穏乃ちゃ…」スッパダカ


穏乃「全裸で寝るなあああああああ!!!!」


・・・・・・


穏乃「なー、憧ぉ。4、5日でいいから泊めてくれよぉ」

憧「ごめーん、今あたしの家彼女いるから」

穏乃「は!?彼女ぉ!?」

憧「セーラってば、あたしから離れたくないって居候してきたんだよね。全くモテる女は辛いわ」

憧「ってことで他をあたってちょうだい」

穏乃「くっ、なんて友達がいのない奴なんだ…」



穏乃「300円のお返しです。ありがとうございましたー」

穏乃(うーん、ここのバイト先じゃ泊めてもらえる程仲の良い人ってまだいないしなぁ)

穏乃(いっそ家に……)

カラン!

穏乃「いらっしゃいま…」

竜華「穏乃ちゃん、迎えにきたでー」ニコッ

穏乃「………はぁ」


・・・・・・


竜華「穏乃ちゃん、今晩何食べる?」

穏乃「はあ、何でもいいです」

穏乃(せめて別々に寝られるように何とかしないとな…)

穏乃「…ん?何だこの部屋、本だらけだ」キイ

竜華「ああ、ここは仕事部屋やで」

穏乃「仕事?そういえば竜華さんのお仕事って…」

竜華「色んな本の翻訳をやってるんや」

穏乃「へーっ、凄いなあ」

穏乃(…そうだ!この本めちゃめちゃにすれば仕事の邪魔になるからとか理由つけて出ていけるかも…)

穏乃(って、何考えてんだ私!そんな酷いことできるわけ…)

竜華「あ、穏乃ちゃん。これ…」

穏乃「えっ!?」ビクッ

グラッ・・・

竜華「あぶないっ!!」グイ

ばさばさばさっ!!

穏乃「……っ!!」

竜華「はーびっくりしたわ。積み方が悪かったんかな?」

竜華「ごめんな穏乃ちゃん。怪我はないか?」

穏乃「あ、私…」

穏乃「って竜華さんこそ指から血が!!」

竜華「ああ、今の衝撃で切ったみたいやな」

穏乃「……ごめんなさい。私のせいで」

竜華「穏乃ちゃんが謝ることやないで」

穏乃「…っ」

竜華「あ、そうそう。これ渡そうと思ってな」ヒョイ

穏乃「鍵…?」

竜華「うちの家の鍵や。4、5日とはいえあった方がええやろ?」ニコッ

穏乃(…そんな風に笑わないで)


・・・・・・


ザアアアア…

穏乃「あーもう!今日は雨って言ってなかったのにー!!」ダダダッ

穏乃「早くお風呂に浸かって身体温めないと…」

ピンポーン

穏乃「…出かけてるのかな。鍵使うか…」



竜華「ただいまー。穏乃ちゃん、帰ってきとるん?」バタン!

竜華「身体濡れてもうたな…、とりあえず浴室でタオルを…」

ガチャッ

竜華「あ…」

穏乃「…っ!!」

竜華「穏乃ちゃ…」


穏乃「わああああああっ!!!!」

穏乃「み、み、見るなあああああっ!!」

竜華「穏乃ちゃん、あぶな…っ」

穏乃「えっ、わわっ!?」ツルッ

ガッツーン!!

竜華「穏乃ちゃん!!」

穏乃(いったああ…頭タイルに思い切りぶつけた…)

穏乃(早く起きないと…全裸なのに…、ここままじゃ…やば…)

穏乃(…………)



穏乃「……っ!!」ガバッ!

穏乃「…あれ?ここ、ベッドの上…?」

穏乃「あ、パジャマ…竜華さんが着替えさせてくれたのかな…」

竜華『これからしばらくの間穏乃ちゃんと一緒に寝られると思ったら嬉しくってな』

竜華『穏乃ちゃん、今晩何食べる?』

竜華『うちの家の鍵や。4、5日とはいえあった方がええやろ?』


穏乃(私、バカだ。竜華さんはただ親切心で接してくれてただけなのに)

穏乃(なのに勝手に下心があるって決め付けて、警戒して)

穏乃(こんなに迷惑かけまくって……)

コンコン、キィ…

竜華「穏乃ちゃん、もう起きて大丈夫なん?」

穏乃「あ、竜華さん…」

竜華「頭は痛くないか?他に痛めたところは?」オロオロ

穏乃「…もう、平気です」ニコ

穏乃「それよりもう遅いし寝ましょう」

竜華「ん。そうやな。おやすみ穏乃ちゃん」

竜華「…ん…」スースー

穏乃「竜華さん、ごめんなさい…」ボソッ

穏乃「……さて、私も寝ようっと。お休みなさい」


・・・・・・


竜華「お母様は何時の新幹線やって?」

穏乃「昼ぐらいって言ってました」

竜華「そっか…」

穏乃「ん、何ですか?」

竜華「ああ、やっぱり帰したくないわ穏乃ちゃん…」ガシッ

穏乃「!?」

竜華「このまま一緒に暮らさへんか?幸せにするで?」スリスリ

穏乃「…っお断りします!!」バッ

竜華「つれないなぁ」シュン

穏乃「うっ…」

穏乃「そ、その。たまに…遊びに来ますから///」

竜華「ほんまか!?」

穏乃「はい」

竜華「やった!ありがとうな穏乃ちゃん!!」チュッ

穏乃「っ!?」バッ

穏乃「い、今き、キス……」

竜華「ん?まあこの位ええやん。ご馳走さま」ペロッ


穏乃「わ、わ、私のファーストキスがあああああ!!!!」


つづく

スレはこのままでいこうと思います。
ご意見ありがとうございました。

竜華「なあ穏乃ちゃん、GWどっか行きたいとこある?」

穏乃「え?」

竜華「何も予定ないって言ってたやろ?せっかくの休みなんやしどこか遠出しようや」

穏乃「いいですけど、今から宿なんて取れるんですか?あと三日ですよ」

竜華「大丈夫や。いざとなったらラブホって手もあるし!」

穏乃「それは却下です!」



穏乃(竜華さんから鍵をもらってから早3ヶ月)

穏乃(こうして竜華さんの家に遊びにきて話をするものすっかり日常になったなぁ)

穏乃(竜華さんに迫られるのは相変わらず慣れないけど…)

ピンポーン

竜華「ん?誰やろ」

ガチャ、バタバタ…

穏乃「えっ!?勝手に入ってきたっ!?」

バタン!!

智葉「おい竜華!いつまで待たせるんだ!」

竜華「ああ、今日はあんたと食事する約束しとったっけか」

智葉「まさか忘れてたんじゃないだろうな?」

竜華「すまへんなぁ。穏乃ちゃんが遊びにきてくれた瞬間からすっかり記憶の外に放り出されたわ」

智葉「おい」

穏乃「あの…」

竜華「あ、この怖い顔の人は私の古くからの友人なんや」

智葉「誰が怖い顔だ。辻垣内智葉だ」

穏乃「あ、どうも。高鴨穏乃です」

智葉「…」ジッ

穏乃「ん、何ですか?」

智葉「平凡な女子高生だな」

穏乃「は?」

智葉「竜華が本気で惚れたって言うくらいだから、どんな上玉かと思ってたんだが」

竜華「智葉!!」

穏乃(惚れたって……え?何で……)

穏乃(もしかしてこの人、全部知って……)

竜華「ええと穏乃ちゃん、W・Lって覚えとるかな?」

竜華「実はそこ、智葉が経営しとるんや。つまりオーナーってことや」

穏乃「……あー!!高級会員制レズ・デートクラブ!!」

穏乃「私のお初が奪われた元凶の……」

智葉「今は竜華とうまくいってるんだろ?ならいいじゃないか」

穏乃「でも私、レズじゃないし…」

智葉「何だそれは?女に抱かれたのがそんなに恥ずかしいか?まあ不本意だったのならしょうがないかも知れんがな」

智葉「でもそれなら何故お前は今も竜華と一緒にいるんだ?」

穏乃「そ、それは…」

智葉「金持ちで便利だからか?こいつは真性のレズなんだぞ」

穏乃「だって…、竜華さんが追いかけてくるから…」

智葉「ふざけるな!お前はいつまでも被害者ヅラして竜華に甘えてるだけだろうが!」

智葉「本気で嫌ならいつでも縁が切れたはずだ!それをしないのはお前も竜華が好きだってことだろう」

穏乃「…ちがうっ!!好きなんかじゃないっ!!」ダッ

竜華「あ、穏乃ちゃん!!」

智葉「放っとけ、あんな小娘」

竜華「もう智葉、あんまり穏乃ちゃんいじめんといてぇな」

智葉「本当のこと言っただけだろう。というかお前はあんな小娘のどこが良いんだ」

智葉「どこにでもいるような普通の子供じゃないか」

竜華「…せやな。すごく普通の家庭で育った子や」

竜華「だからこそ好きになったのかも知れへんな」

智葉「……それが一番やっかいなんだろうが」

竜華「あはは。そうなんよなぁ」


・・・・・・


ピンポーン

穏乃「……はい」ガチャ

竜華「穏乃ちゃん、はいこれ忘れ物のカバン」

穏乃「どうもわざわざありがとうございます」ムスッ

竜華「(ありゃ、まだご機嫌ななめやなぁ)…今日はお母様は?」

穏乃「また京都のお父さんのところです。書置きがありました」

竜華「ってことは穏乃ちゃん、ご飯はまだ?良かったら一緒に食べようや」



穏乃「わー、お寿司なんて久しぶりだー!!」

竜華「遠慮せんとどうぞ」

穏乃「それじゃあいただきまーす!!」

穏乃「うはー!!おいしーっ!!」

竜華(やっぱりかわええなぁ穏乃ちゃんは)

竜華「そうそう、GWに行くところ、良い場所見つかったで!」

穏乃「ほんとですか?」

竜華「せや。釣りに乗馬にキャンプも出来て、しかも温泉つきや!」

穏乃「わー、すげー!!」

竜華「穏乃ちゃんは明後日まで学校やし、明後日の夕方こっちを出ようか」

竜華「待ち合わせは…そうやな、初めて会ったあの公園に午後6時でええかな?」

穏乃「はい、分かりました!」

竜華「そんじゃあ今日はこの辺で帰るわ」

穏乃「えっ、もう帰るんですか?」

竜華「ん?」

穏乃「あ、いえ…」

竜華「…うちが帰ると寂しい?」

穏乃「べ、別にそういうわけじゃ…」

竜華「しゃあないな。そんなら泊まってこうか。何なら添い寝も…」

穏乃「お断りします!」

竜華「うん、いつもの元気な穏乃ちゃんやな」ニコッ

穏乃「…っ」ドキッ

竜華「じゃあ帰るけど、戸締りはきちんとな。何かあったらメールして」

穏乃「はい…お休みなさい」

パタン・・・

穏乃「…………」


・・・・・・


憧「しず、はい今日の課題のノート」

穏乃「あ、サンキュー憧……」

憧「何よ。元気ないわね」

穏乃「そう……?」

憧「あ、ねえねえ。明日の夕方からパーティやるんだけど、あんたも来ない?」

穏乃「えっ、明日は……」

憧「何か用事でもあるの?」

穏乃「…………ううん。行くよ」



穏乃「うわー、すっげー高いビル!!」

憧「こっちよ、しず」

穏乃「あ、うん」タッ

穏乃(今頃、待ってるかな竜華さん……)

ドンッ

穏乃「あ、すいません」

智葉「ん?お前は…」

穏乃「げっ!何であなたがここに!?」

智葉「自分の店にいて何が悪い。ここは私の持ち物だ」

智葉「それより何で今頃こんな所にいるんだ?今日は竜華と約束してたんじゃなかったのか」

穏乃「そ、それは…っ」

智葉「……来い」グイッ

穏乃「いたっ!ちょっと、離してくださいっ!!」


憧「……あれ?しずはどこ?」


・・・・・・


・・・・・・


ブロロロ・・・

穏乃「下ろしてくださいってば!辻垣内さん!」

智葉「ふざけるな。だったら最初から約束なんてするな!」

穏乃「じ、事情が変わったんです」

智葉「ならちゃんと竜華に言え。黙ってすっぽかすなんて真似絶対にするな」

穏乃「……っ」

キキーッ バタン!

智葉「ほら、着いたぞ」

穏乃「だから…私は」

智葉「竜華のことが嫌になったんならとっとと縁を切ってしまえ。中途半端に期待させるような真似はするな」

穏乃「それが出来ないから悩んでるんです!!」

穏乃「竜華さんとの縁を切るなんて……私には……」


智葉「――――だとよ。竜華」


穏乃「……へっ?」

竜華「穏乃ちゃん……」

穏乃「……っ!!」ダッ

竜華「あ、待って穏乃ちゃん!!」ダッ

竜華「……穏乃ちゃん、捕まえた!!」ガシッ

穏乃「……っ」

竜華「なあ、一体どうし…」

穏乃「こんなの…変だよ」

穏乃「竜華さんも私も女なのに…、竜華さんが頭から離れなくなるなんて…」

竜華「穏乃ちゃん…」

穏乃「気づいたら怖くなったんです……竜華さんのことが好きなんだって」

竜華「………」

穏乃「………」

竜華「なあ、穏乃ちゃん」

穏乃「……はい」

竜華「うちとご飯食べるの好き?」

穏乃「えっ?」

竜華「好き?」

穏乃「…はい」

竜華「じゃあ一緒にドライブに行くんは好き?」

穏乃「はい…」

竜華「映画見たり昼寝したり買い物行ったりとかは?」

穏乃「…好きです」

竜華「じゃあうちのことは?」

穏乃「……」

竜華「うちは穏乃ちゃんが好きや」

竜華「でも、だからって無理に答えを求めたりはせえへんよ」

竜華「穏乃ちゃんの気持ちがハッキリするまでゆっくり考えてええねん」

竜華「今は曖昧な『好き』でも、その気持ちだけで嬉しいから」

穏乃(……竜華さんはいつも一番言って欲しかった言葉をくれる)

ギュ・・・

竜華「穏乃ちゃん…?」

穏乃「私、すっごい悩んだんですよ?」

穏乃「なのにあっさりまとめちゃうなんて…、あれこれ悩んだ私がバカみたいじゃないですか…」ギュウッ

竜華「……穏乃ちゃん」チュッ

穏乃「んっ…、ふ…」チュクチュク

竜華「……ん」ペロッ

穏乃(私のセカンドキス、またもや竜華さんに持っていかれちゃった…)

竜華「嫌やった?」

穏乃「い、言わせないでください///」

竜華「真っ赤になった穏乃ちゃんかわいいわぁ」ギュッ

穏乃「もう、調子に乗らないでくださいっ!!」

穏乃(でも、悪くないかも……な///)


・・・・・・


キキーッ バタン!

竜華「到着したでー。穏乃ちゃんそろそろ起きてや」

穏乃「…ん、むにゃむにゃ」

竜華「あ、そうそう。言い忘れてたけどな…」

智葉「遅い!いつまで人を待たせる気だ!」

穏乃「えっ…この声は…」

智葉「案内するからさっさと来い!」

穏乃「つ、辻垣内さんっ!?何でここに…」

竜華「実はここ、智葉の別荘なんや」

穏乃「えっ…」

智葉「そういうわけだ。三日間よろしくな」ニッ

穏乃「えええええええええええっ!?」


つづく

穏乃「はぁ、せっかくの旅行なのに雨なんてなぁ…」

竜華「まぁこればっかりはしょうがないわな」

竜華「でも今日はホームパーティがあるらしいから、ご馳走たくさん食べれるで?」

穏乃「えっご馳走!?やったー!!」キラーン!

竜華(やっはり穏乃ちゃんはかわええわぁ)



ざわざわ

穏乃「わー、ご馳走がいっぱい!!」

穏乃「どれから食べようかな……、ん?」

怜「……」

穏乃「あの壁際に立ってる女の人、どこかで見たことある気が…」

智葉「おい高鴨、竜華はどうした」ヌッ

穏乃「わっ!びっくりした」

智葉「ここにもいないか。ピアノの生演奏させようと思ったのに逃げられたか…」

穏乃「ピアノ?」

智葉「いいか、見つけたらつかまえとけよ」

穏乃「はぁ…」

竜華「……智葉は行ったようなや」ヌッ

穏乃「竜華さん!どこ行ってたんですか?いま辻垣内さんが…」

竜華「しーっ。なぁ、二人でこっそり抜け出さへん?」

穏乃「え、いいんですか?ピアノ演奏がどうのとか言ってましたけど」

竜華「ええねん。智葉やって弾けるんやし」

穏乃「竜華さんピアノ弾けるんだ!すげー!!」

竜華「(かわええなぁ)まあ今度聴かせたるな。とりあえず今は逃げよ」

穏乃「あ、竜華さん待って!あの骨付きチキン食べてからでいいですか?」

竜華「分かったわ。じゃあ裏庭にある温室で待っとるからな」

穏乃「はいっ」

竜華「…」スタスタ

怜「あの、すいません」

竜華「はい?」

怜「失礼ですが清水谷様でいらっしゃいますか?」

竜華「そうやけど…あんたは?」

怜「申し遅れました。私、W・Lの怜と申します」

竜華「え……ああ!あの時の!」

怜「いつかお詫びをと思っていたんです。お会いできてよかった」

竜華「こちらこそ。うちが今幸せなんはあなたのお陰なんですから」

竜華「なんて言うのは失礼かな?入院してたって聞いたんですけど、もう大丈夫なんですか?」

怜「はい……、うっ!」

竜華「怜さん!?大丈夫ですか!?」

怜「……っ」グラッ

竜華「怜さん!!」ガシッ

怜「ほんますいません、ご迷惑を…」ゴホゴホ

竜華「喋らんほうがええ。いま智葉を呼んで…」

怜「!!待ってください!!」

竜華「えっ?」

怜「駄目です、呼ばないで…今日は仕事やなく、私が勝手に来ただけで…」

竜華「そんなこと言ってる場合やないやろ!」

怜「あの人に迷惑かけたくないんです!!」

怜「薬がありますから…、だいじょ、ぶ…」ゴホゴホ

竜華「怜さん……」



穏乃(竜華さん、遅いな……)

穏乃(もしかして辻垣内さんに捕まっちゃったのかな)

穏乃(いったん部屋に戻ってみるか……)

ガチャッ

穏乃「竜華さん?戻って…」


竜華「…んっ」チュウ

怜「ふ…」


穏乃「………え」


怜「すいません…」

竜華「気にせんといてぇな」


穏乃(なんで…、他の女の人と、キス……してるの?)

キィィ・・・

竜華「ん?……あっ」

穏乃「………」

竜華「穏乃ちゃ…」


穏乃「竜華さんのバカッ!!!!」


バタン!!

竜華「穏乃ちゃん待って……!!」

穏乃「……っ」ダッ

ドンッ

智葉「つっ…おい、廊下を走るな!」

穏乃「…っ」ダダダ

智葉「何なんだ全く…」

竜華「あっ、智葉!」ダダダ

智葉「何だ、お前までそんなに急いで」

竜華「怜さんがうちの部屋の中におるから介抱よろしくな!」

智葉「怜が来てるのか?」

竜華「せや。じゃあうちは急ぐから!!」ダダダ


・・・・・・

穏乃「竜華さんのバカ、竜華さんのバカ…!!」ダダダ

穏乃「…うわっ!?木の根が足に引っかかって…」ガッ!

ドサッ

穏乃「いったぁぁ……」

穏乃「…………」

穏乃「…………痛い」

穏乃(……待ってろって言ったくせに)

穏乃(私が一人で待ってる間に竜華さんは)

穏乃(他の女の人とキスしてたんだ……)


竜華『穏乃ちゃん、大好きやで』


穏乃「竜華さんの言葉にいつの間にか本気になって、浮かれて」

穏乃「ばかみたいだ、私……」ジワッ

・・・・・・


・・・・・・

智葉「まったくあいつらは…人の別荘で何をもめてるんだ」

怜「…私はまた清水谷様にご迷惑をおかけしてしまったみたいですね」

智葉「あいつらのことは気にするな。それより怜」

智葉「一週間後に手術を控えた病人が何だってこんな所にいるんだ?」

怜「……」

智葉「まあいい。それは後でゆっくり聞く」

智葉「とりあえず表に車を待たせてある。一刻も早く病院に戻れ」

怜「(一緒には…行ってくれんのやな)オーナー、歩けません」

智葉「はぁ、全く…」フワッ

怜「…ありがとうございます。あの、どうしても手術を受けないといけませんか?」

智葉「長生きしたければな。なんだ怖いのか?」

怜「いえ…身体に傷をつけたくないんです」

智葉「ふ…お前らしい。だが気にするな」

智葉「たとえ痕が残ろうと、お前がうちのNO、1だということは変わらない」

怜「……はい(いっそこのまま心臓が止まればええ)」

怜(この人の腕に抱かれたまま、この夢のような幸福のままで……)


・・・・・・

竜華「穏乃ちゃん、お願いやから話を聞いてぇな!」

穏乃「うるさいうるさいうるさい!」

穏乃「他の人とキスしてたくせに!!」

竜華「だからあれは…っ」

穏乃「竜華さんの…竜華さんのうわきものー!!」ポロポロ

竜華「穏乃ちゃん…」

穏乃「ひっく…ぐすっ…」

竜華「……」ナデナデ

穏乃「触ら…ないで…ください…」ヒックヒック

竜華「ほんまにごめんな」ナデナデ

穏乃「……」ギュウッ


・・・・・・

竜華「……落ち着いた?」

穏乃「…」コクン

竜華「じゃあうちの話聞いてくれるか?」

穏乃「…」コクン

竜華「あんな。さっきのアレはキスじゃなくって、ただ薬を飲ませてただけなんや」

穏乃「薬?」

竜華「病人なんやて。目の前で倒れたら放っておけんやろ?」

穏乃「……はい」

竜華「わかってくれて良かったわ」

穏乃「でも、もう他の人とキスなんてしてほしくない…です」

竜華「穏乃ちゃん…」

穏乃「心狭くてごめんなさい…」

竜華「…ううん。嬉しいで、そんなにうちのこと思ってくれて」ギュッ

穏乃「竜華さん…」ギュウ

竜華「もう絶対にせえへんよ。穏乃ちゃんだけや」チュッ

穏乃「…ん」

竜華「穏乃ちゃん…」ドサッ

穏乃「あ、竜華さ…///」


智葉「竜華、帰ってきてるのか?」ガチャ


穏乃「わあああああっ!!」ガバッ

竜華「智葉…、あんた馬に蹴られんで…」ハア


カン!

これで穏乃&竜華編は一旦終わり。
次からは咲&智葉のターンです。



咲「あなたに出会えた幸せ」

咲(冬は嫌い)


みさき「ごめんなさい咲ちゃん、ごめんなさい…」


咲(いつも決まって、何かを無くすから)



ブロロロ・・・

誠子「オーナー。本日のお仕事お疲れさまです」

智葉「ああ」

誠子「明日も予定通りのお時間にお迎えにあがります」

智葉「ん、頼む」

誠子「…ん?わわっ!!」

キキィーッ!

智葉「!?どうした!!」

誠子「急に女の子が飛び出してきて…」

智葉「跳ねたのか!?」

誠子「いえ。間一髪避けましたので…」

智葉「っ!!」ガチャ


咲「…」

智葉「おい、大丈夫か!?おい!!」

咲「…」

誠子「気絶してますね。どうしますオーナー」

智葉「とりあえず病院に運ぼう」

・・・・・・


・・・・・・

憩「骨、脳波とも異常なしや」

智葉「そうか」ホッ

憩「そのうち気づくやろ」

コンコン、ガチャッ

耕介「失礼します!あのっ、咲ちゃんは…」

憩「ご家族の方ですか?」

耕介「あ、いえ…俺は白築耕介と言います。彼女の―――宮永咲の身元引受人です」


咲(……声がする。人の声が……)

咲(キャンドルの明かり。楽しげな笑い声)

咲(お父さんにお母さん、お姉ちゃんもいる)

咲(家族みんなでクリスマス……幸せな日)

咲(ずっとこんな日々が続くものだと思ってた)


咲(あの日までは――――)

咲父『うわあっ!?対向車がつっこんできた!!』キキーッ!

咲母『きゃああああ!!』

照『咲っ!!』グイッ

咲『お姉ちゃん!!』


バァァァン!!グシャッッ!!


咲(気づいた時には……視界一面の赤――――)

咲(潰れた両親の身体――――)

咲(私に覆いかぶさる血まみれのお姉ちゃん――――)

親戚A『まだ13歳なんてどうするんだ?』

親戚B『施設に入るか里親を見つけるかするしかないんじゃないか?』

親戚C『会社はおろか自宅までも部下だった社員に乗っ取られて…』

親戚A『一人だけ助かったってこれじゃあ…』

親戚B『いっそ一緒に死んでた方が良かったんじゃないか?』



みさき『今の社長さんがね…うちで身元引受人をしてるのが気に入らないらしいの』

みさき『マンションのローンだって残ってるし、今リストラされるわけにはいかないのよ』



智葉「……い、おい!!」

咲「……っ」ハッ

智葉「目が覚めたか。大丈夫か?」

咲「あ……」

智葉「ここは病院だ。何も心配いらないから」

智葉「だから、そんなに泣くな…」

咲「……」ポロポロ


・・・・・・

憩「吐き気も頭痛も今のとこナシやな。うん、まあ大丈夫やろ」

憩「もし少しでもおかしいと思ったらすぐに病院に来るようにな」

咲「…ありがとうございました」


耕介「あ、咲ちゃん」

咲「…耕介さん」

耕介「その、妻のみさきが色々言ったようだけど…」

咲「今までどうもありがとうございました」ペコッ

耕介「咲ちゃん?」

咲「私なら平気です。他に誰か探します」ダッ

耕介「咲ちゃんっ!!」


咲「……」ハアハア

智葉「おい」

咲「っ!?」ビクッ

智葉「車を回してくるからそこで待っていろ。送ってやる」

咲「…大人の責任ってやつですか?だったら結構です」

咲「それに私、車は好きじゃないし」

智葉「なら仕方ない。歩いていくか…家はどの辺だ?」

咲「ほんとに結構で…」

智葉「うだうだ言ってないでさっさと来い」

咲「…っ」



大家「おいっ、今までどこに行ってたんだ!!」

咲「大家さん…?」

大家「これを見てみろ!!」

咲「嘘…、アパートが全焼して…」

咲「荷物…!!位牌だってあるのにっ…!!」ダッ

大家「逃げる気か?そうはさせねぇぞ!!」グイッ

咲「えっ!?」

大家「お前がうっかりしてガスをつけっぱなしにでもしたんだろう!!」

大家「今あそこにはお前しか住んでなかったんだ。それしか考えられないじゃないか!!」

咲「そんな…」

大家「どうしてくれるんだ!!アパートだけじゃなく母屋まで焼けちまったんだぞ!!」

大家「今すぐ保証人を呼べ!!」

咲「そ…れは…」

大家「どうした!?未成年なんだから保証人がいるだろう!!」

咲(ど、どうしよう…)

大家「黙ってないで何とか言ったらどうなんだ!!」

大家「ガキが一人で可哀想だと思ったからお情けで貸してやったってのに」

大家「それを仇で返しやがって……お前のせいだ!!お前が悪いんだ!!」

咲「…っ」

グイッ

大家「な、何だあんたは!?手を離せ!!」

智葉「……」

大家「年寄りに暴力を振るう気か!?」

智葉「……暴力?あんたの言った言葉の方が暴力なんじゃないのか?」

大家「なっ…」

智葉「だいいち証拠があるのか?後で恥をかくのはあんただぞ」

智葉「あんたも災難だったろうがこいつの方がもっとショックだろうが」

智葉「八つ当たりもいい加減にしろ。みっともない」

大家「くっ…」

通行人A「そうよねぇ、あの女の子も可哀想…」

通行人B「あのアパートも古かったし、漏電か何かじゃ…」

大家「…ふん!もういいわ!」チッ


咲(…どうして?)

咲(なんで私のせいにするの?)

咲(全部私が悪いの?)

みさき『咲ちゃんが悪いわけじゃないの』

みさき『でもね。もう家ではあなたの身元引受人はやめたいのよ…』

みさき『他にも誰か探せばなってくれる人もいると思うし』

みさき『前の社長…あなたのお父さんには恩があったから今まで我慢してきたけど…』

みさき『うちも生活がかかってるのよ…』


親戚A『生きてても仕方ないよなァ』

親戚B『入院費用に治療代…金がかかってしょうがない』


咲(何にもない…)

咲(貯金も。服も。位牌も。行く場所も)

ポツ、ポツ…ザアアアア…


咲(お父さん、お母さん、お姉ちゃん…)

咲(誰か…、誰でもいいから)

咲(この潰れそうな心を救って…)


智葉「―――いつまでそうして突っ立っている気だ」

咲「…っ」ビクッ

智葉「…行くぞ。風邪を引きたくなきゃ着いて来い」

咲「……」


咲(これが、私と智葉さんの同居生活の始まりだった――――)

今回はここまでです。


・・・・・・

咲(冷たい雨の中、辿りついたのは)

咲(マンションの一室――――)


智葉「ほら、布団だ」

智葉「あいにくうちには余分な部屋はないからな。悪いが寝るのはソファで我慢しろよ」

咲「……あの」

智葉「何だ?」

咲「いいです、私帰りますから…」

智葉「黒焦げのアパートへか?それとも行くアテはあるのか?もう夜中の1時だぞ」

咲「……」

智葉「ガキが遠慮してないでさっさと寝ろ」

智葉「…ん、そういやまだ名前きいてなかったな」

咲「あ、宮永咲です…」

智葉「咲か。私は辻垣内智葉だ」

智葉「じゃあ、もう遅いし早く寝ろよ」ガチャ

パタン・・・

咲「……」


・・・・・・

教師「宮永、昨日は大変だったな。大丈夫だったのか?」

咲「はい」

教師「そうか。あ、それとな」

教師「その、成績のことなんだがな…」


第二学期末考査成績

第四位 宮永咲


教師「お前も分かってると思うが、我が校の特別全額奨学金の制度が適用されるのは」

教師「学年三位以内なんだ――――」


咲「このままだと学費を払うか、自主退学になるしかない、か…」

泉「何や宮永、これから昼ご飯か?」

咲「二条さん…」

泉「ご飯っていうてもド貧乏なあんたは今日も水のガブ飲みやろ?」

泉「学年ベスト3からも落ちたし、こりゃいよいよやなぁ」アハハハ

咲「……」



憩『ふぅん…それであまりに可哀想で拾ってあげちゃったわけや』

憩『なんというか智葉らしいなぁ』

智葉「憩、今は仕事中だ。他に用がないなら切るぞ」ブツッ!

憩『うわ、即効で切りよった…』ツーツー


・・・・・・

智葉「郵便物は……ん?」

咲「あ…」

智葉「何だってエントランスなんかで突っ立ってるんだ。ちゃんと合鍵渡しただろうが」

咲「あ、あの私…」

智葉「いいから入れ、ほら」

咲「…はい」

智葉「…ん?何だその手に持ってる大量のパンの耳は」

咲「これですか?ここ3日分のご飯です」

智葉「は!?」



智葉「ほら、出来たぞ。飯くらいちゃんと食べろ」

咲「…いただきます」

咲(オムレツなんて久しぶり…)

智葉「咲、お前しばらくここにいろ。引っ越すにしても金がいるし色々大変だろう」

咲「別に…平気です」

咲「学校に忍び込んだり、雑居ビルでこっそり眠ったりしたこともあるし」

智葉「…いいからいろ。そんな生活私が認めん」

咲「…はあ」

ピンポーン

憩「こんばんはぁ咲ちゃん」ガチャ

咲「先生?」

憩「その後の具合はどうかな?」

憩「あ、智葉コーヒー」ニッコリ

智葉(…さっき電話切ったの怒ってやがる)

咲「あの、先生は智葉さんとお知り合いなんですか?」

憩「ん、私らは従姉妹やねん。ってそんなことより大事な用があるんや!」

咲「はい?」

憩「コレ!咲ちゃんに服買ってきてん。智葉の服じゃデカイやろうしな。ちょっと袖通してみてくれへん?」

咲「え、あの…っ」

憩「ええから遠慮せんと」

咲「はあ…」ゴソゴソ

憩「ん。良かった、ピッタリやな」

咲「で、でも私…こんな高そうな服貰えないです」

智葉「そういう時は素直に貰っていればいいんだ。変な遠慮なんかするな」

憩「せやせや。他にも必要なものがあったら私か智葉が買ったるからな」

咲「……お金持ちなんですね」

憩「智葉はいくつか店持っててな、そこのオーナーなんやで」

憩「まぁほとんど水商売なんやけどな」

智葉「…憩、そろそろ帰れ」

憩「エステにブティックに美容室、バーに女専門のデートクラブ」

憩「あ、でも智葉はレズってわけじゃないから安心してな」

憩「バイセクシャルやけど仕事馬鹿で色恋沙汰には一切興味ないからなー」

咲「…はあ」

智葉「憩!変なこと教えるな!」

憩「はいはい帰りますよーぅ」

憩「でも、その前に咲ちゃんに一言な」

咲「え?」

憩「世の中には見返りなんて考えずに親切にする人もいるねんで」

憩「警戒心もあった方がええとは思うけど、咲ちゃんはもう少し人に頼ったり甘えたりすることを覚えたほうがええよ」

咲「……」


咲(頼ったり甘えたり…)

咲(でも、そうしてまた裏切られたら?)


・・・・・・

店員「咲ちゃん、こっちのお皿も洗っといてー」

咲「はい」ジャージャー

店長「咲ちゃんは仕事が早くて助かるよ」


咲(いくらキレイ事を言ったって、しょせん世の中はギブ&テイクじゃない)

咲(いっそ見返りを期待された方がよっぽど気が楽だよ)


智葉「遅かったな。明日も早いんだろう?」

智葉「ほら、晩飯だ。早いとこ食べて寝ろ」

咲「……はい」


咲(優しくされると…信じて、期待したくなっちゃう…)


・・・・・・

店長「はい、今月分のお給料」

咲「ありがとうございます。お先に失礼します」



泉「あれ?宮永やん」

咲「二条さん…」

初瀬「あ、ほんとだ」

いちご「こんな時間に何してるんじゃ?」

泉「どうせバイトやろ?ほら、給料袋みっけ」ヒョイ

咲「あっ…返してっ!!」

泉「そうや、そんなに金が欲しけりゃ私らが稼がせてやるで?」

泉「もっと簡単にな……」ニヤッ

・・・・・・


・・・・・・

泉「ほら、そっちの足もテーブルに固定して縛ってや」

初瀬「はいはい」

いちご「了解じゃ」

咲「んー、んー!!」

泉「口封じてんのにうっさいなぁ。あんたはド貧乏なんやから金さえ出せば何やってもええんやろ?」

咲「んんー!!」

泉「あんまり暴れると、この給料袋燃やすで?」

咲「…っ!?」

泉「まあ騒いだところで防音完璧のパーティルームやし、誰も来んやろうけどな」ニイッ



誠子「オーナー、この後は予定通りで宜しいですか?」

智葉「ああ。モニターをチェックしたら一旦帰る」

誠子「まだ子猫は懐かないんですか?」

智葉「…は?」

誠子「あ、違った仔猫でした。憩様から聞きましたよ」ニッ

智葉「あいつめ、余計なことを…」

誠子「様子を伺ってくるようにと憩様が」

智葉「…放っておけば飯は食べないし、鍵が閉まってれば決して自分からは入ってこない」

智葉「この私がいちいち世話をしに戻らないといかんとは…全く」

誠子「そのわりには随分と可愛がっておいでですね」

智葉「…誰が」

プーッ、プーッ、プーッ

誠子「はい」

誠子「えっ?…それで…了解」ピッ

智葉「どうした?」

誠子「モニター室からパーティルームの一室がちょっとマズイと連絡が…」

智葉「分かった。すぐに行く」


・・・・・・

初瀬「私らは外で見張ってろって酷くない?」

いちご「まあまあ。それにしても泉も好きじゃのぉ、宮永いじめるんが」

初瀬「ほら、泉の父親ってウチの学校の理事じゃん」

初瀬「やっぱ成績とか煩いらしくてストレス溜まってるらしいよ」

いちご「ああ、だから余計にすました顔して頑張ってる宮永が気に入らんってやつかの」


泉「大人しくなってきたな。それでええんや宮永…」サワサワ

咲「ん…、んん…」

バターン!!

泉「な、何や!?」

智葉「…このっ!!」バキッ!

泉「ぐはぁっ!!」ドサッ

智葉「咲、大丈夫か!!」

咲「……っ」ホッ

・・・・・・

智葉「…この馬鹿!!」

咲「…っ」

智葉「お前はたかが金のためにやられそうになってたのか!?」

智葉「未遂で済んだから良かったものの!そんなに金が大事か!?」

咲「……ええ。大事です」

咲「お金さえあれば何だってできるし、みじめな思いをすることだってない」

智葉「だからってあんな…」

咲「そういうあなたはどうなんですか!?」

咲「バーとかクラブとか他人に身体はらせておいて、楽にお金儲けしているだけじゃないですか!!」

智葉「……ああ、そうだ」スッ

智葉「生憎と私は汚い大人なんでな」ガチャ

パタン・・・

咲「……」

コンコン

誠子「失礼。コーヒー飲むかい?」ガチャ

咲「…あの、あなたは」

誠子「私は智葉様の秘書で亦野誠子っていうんだ。君は咲ちゃん、で良かったかな」

咲「…はい、宮永咲です」

誠子「君の噂は憩様から聞いてるよ」

咲「先生から…」

誠子「私はね、秘書になってもう大分たつんだけども、今日のように取り乱したオーナーは初めて見たよ」

咲「…え?」

誠子「普通はどんなことがあろうともオーナー自らお客様に手を出したりはしないんだ」

誠子「だからよっぽど咲ちゃんのことを特別に思ってるんだなあって」

咲「…そんなこと」

誠子「どうでもいい相手にわざわざ忙しいなか食事の支度をしに帰ったり、鍵を開けて待っていたりはしないと思うよ」

咲「……」

誠子「さっきあんなに怒ってたのも、きっと咲ちゃんが心配だったからだよ」

誠子「オーナーは身体を商品にするということがどういう事か、誰よりも身にしみて分かってらっしゃるから」

咲「え……?」

誠子「元々ご自分で望まれてオーナーになられたわけじゃないからね」

誠子「いくら先代の遺言とはいえ、こういう商売にはやはり抵抗がおありなんだ」

誠子「とはいえ、やるからにはトップを目指してしまうところがやっぱりオーナーなんだけどね」

咲「……」


智葉『生憎と私は汚い大人なんでな』


咲(……私、酷いこと言っちゃった)

咲(何にも知らないで……、あの人は私を助けてくれたのに……)

ガチャッ

咲「!!」ハッ

智葉「そろそろ帰るぞ、咲」

咲「え……」

智葉「早く来い」

咲「……」

智葉『帰るぞ、咲』

智葉『ちゃんと合鍵渡しただろうが』

智葉『飯くらいちゃんと食べろ』

智葉『遅かったな。明日も早いんだろう?』


咲(言い方はそっけないのに)

咲(その言葉はいつでも温かかった……)


智葉「どうした?」

咲「……私、本当にいてもいいんですか?」

咲「迷惑じゃないんですか?ご飯代だって、きっと少ししか払えませんよ」

咲「それに途中でうっとおしくなったって、お金ができてアパートが借りれるまで出て行かないかも知れません」

咲「それでも……」

智葉「バカ。何度も言ってるだろう」

智葉「……いいからうちにいろ」グイッ

咲「……っ」ギュッ

咲(智葉さんの腕の中、あったかい)

咲(……信じよう)

咲(もしかしたら、また裏切られるかもしれない)

咲(でも信じよう)

咲(差し伸べられた、この救いの手を)


咲「私、何だってします。どんなことでも…」

智葉「ああ」

咲「何でもしますから…」

智葉「分かったよ。咲」


咲(―――その後、私はマンションまで車で送ってもらった)

咲(事故にあって以来車は全然駄目だったのに、この夜は不思議と何ともなかった)

智葉「じゃあ今夜はもう帰らないから、ちゃんとロックしてから寝ろよ」

咲「あ、あの…っ」

智葉「ん?」

咲「ありがとうございます…」

咲「その、色々と助かります///」カア

智葉「……早く寝ろよ」フッ

咲(あ、笑った……)

バタン・・・

咲(タバコとコロンの大人の匂い)

咲(辻垣内、智葉さん……か)

咲(笑ってくれたのは初めてだ……)

咲(へんなの、たったそれだけのことなのに)

咲(何だかすごく嬉しい)

咲(へんなの……)

・・・・・・

今回はここまでです。


・・・・・・

咲「…え?やめなくて良いって…本当ですか?」

教師「ああ!ただしもう1回特別に試験をしてみてその成績いかんだがな」

教師「今回だって実際は3位とは1点差だったし、今までの実績もあるしな」

咲「じゃあ…」

教師「ああ。今まで通り全額奨学金の制度が受けられるそうだ。よかったな宮永、頑張れよ!」

咲「…ありがとうございます!」


咲(運っていうのは、一ついい方向へ転ぶとこんなにも開けるものなのかな)


智葉「今帰った」ガチャ

咲「あ、おかえりなさい智葉さん」

智葉「何だ、まだ起きてたのか咲?テスト勉強もいいが程ほどにしとけよ」

智葉「それと、ほら。土産だ」

咲「シュークリーム?」

智葉「ああ。もらいもんだがな」

咲「ありがとうございます。いただきます」

咲(実際智葉さんに拾ってもらってから大分変わったと思う)

咲(ご飯や寝場所だけでなく、最近ではバイトまでも紹介してもらった)


咲「こんにちは、怜さん」

怜「いらっしゃい咲ちゃん」


咲(時給千五百円という破格なバイト料の仕事内容は)

咲(この病弱で綺麗な女の人の話し相手をすること)


怜「マフィン焼いたんやけど食べるか?」

咲「はい。いただきます」


咲(一緒にお茶を飲んで話をするだけでそんなにお金を出すなんて)

咲(すごく大事にされてる人なんだな)

咲(すごく………)


・・・・・・

咲「それでは失礼します」パタン

咲「……」コツコツ

咲「…ん?あ……」

耕介「やあ。久しぶりだな咲ちゃん」

咲「耕介さん……」



耕介「咲ちゃんが元気そうで安心したよ」

咲「……はい」

耕介「辻垣内さんの所でお世話になってるそうだけど、その後はどうするんだ?」

咲「え?」

耕介「ずっと居られる訳ないだろうしな。元々彼女と一緒にいる理由もないし、いつかは出て独りで生活する気だろう?」

耕介「あ、うちのことは心配するなよ。妻が何と言おうと俺は咲ちゃんの身元引受人をやめるつもりはないからな」

咲「……」

咲(一緒にいる理由……)

咲(そんなの考えたことなかった)

咲(―――じゃあ、あの人はどうなんだろう?)

咲(智葉さんは、どうして私を置いてくれてるんだろう……)



憩「咲ちゃんを怜の所へ行かせてる?」

智葉「ああ。怜も自宅療養中で退屈してたようだしな」

憩「それはまた…随分と気に入ったもんやな」

憩「あの智葉がなぁ…へぇ…ふぅん…」

智葉「何が言いたいんだ憩!?」

憩「いやいや、まさか智葉が高校生に落とされるとは思ってもみぃひんかったわぁ」

智葉「…は!?」

憩「え、違うん?」

智葉「いったいどうやって解釈すればそんな答えが出てくるんだ!」

憩「え、だって珍しいやない。あんたがそこまで他人のこと可愛がるなんてな」

智葉「別に可愛がってるわけじゃない!」

・・・・・・

智葉「全く、憩の奴…」ガチャ

咲「あ、おかえりなさい」

智葉「…ああ」ジッ

咲「?」

智葉「…ガキは趣味じゃない」ボソ

咲「え?」

智葉「何でもない。すぐ飯作ってやるから待ってろ」

咲「……」



怜「どうしたん?咲ちゃん」

咲「え、何がですか?」

怜「さっきからこっちばかり見とるから」

咲「…いえ。怜さんは綺麗で大人だなって」

怜「…なあ咲ちゃん。一つお願いがあるんやけど…」

咲「え?」

・・・・・・

怜「…気ぃつけてな。無理やと思ったらええからな」

咲「はい。大丈夫です…あ、もう少しで取れそう」

智葉「――――何をしてるんだ?」

怜「…オーナー!!来てらしたんですか」

智葉「ん?……なっ」

智葉「何で木になんて登ってるんだ咲!?」

咲「え?怜さんが木にタオルが引っかかったから取ってほしいって…」

智葉「いいからさっさと降りろ!!」

咲「は、はい…」スタッ

智葉「全くバカが…」ガシッ

咲「…智葉さん」ギュウ

怜「……」


・・・・・・

憩「―――もしかしてさっきのタオル、わざと木に引っ掛けたん?」

怜「……少し」コクン

怜「彼女に意地悪してみたくなったんです…」

怜「落ちて怪我でもすればええのにって」

憩「……」

怜「いつも、ここに来ては私の知らないオーナーの話をする彼女が」

怜「何だか憎らしくて…」ジワッ

憩「…だから私にしときって、いつも言うてるやん。怜…」ギュウ

怜「先生……」

ザアアアア・・・

・・・・・・

智葉「はぁ…車検で車が無い時に降られるとはな」

咲「智葉さん、これタオルです」バタバタ

咲「私お風呂沸かしてきま…」

智葉「その前に自分の頭を拭け!風邪引いたらどうするんだ!」

咲「大丈夫で…っくしゅん!」

智葉「ったく。言ってるそばから…」フワッ

咲「わぷっ!」

智葉「拭いてやるから大人しくしておけ」フキフキ

咲「…ありがとうございます///」


咲(いいなぁ、こういうの)

咲(私、好きだな……智葉さん)

咲(無愛想でそっけないけど本当は結構やさしくて)

咲(先生にはちょっと弱いみたいだけど)

咲(大人でカッコよくて、いつも私を助けてくれる……)

咲(この人の傍にいたい)

咲(ずっと一緒にいられたらいいのになぁ…)




憩「38度2分。完全に風邪やな」

智葉「……」

憩「まったく雨に濡れたぐらいで情けないなぁ」

智葉「……」

憩「とりあえず水分摂って安静にしとるようにな」

コンコンッ

咲「先生。智葉さんの具合は……」カチャ

憩「おっと咲ちゃん、染ると大変やから向こうに行きましょうねぇ」

憩「智葉はただの風邪なんやし一人で寝かせとけば大丈夫や」

咲「は、はい…」

智葉(私の方が風邪を引いてしまうとは…かっこ悪すぎる…)ハア


・・・・・・

智葉「…ぅ」パチッ

智葉(頭が重い…また熱が上がったか…)

智葉「…ん?」

咲「…」スースー

智葉(咲…)

咲「…」スースー

智葉(ずっとついててくれたのか…)

咲「ん…」ブルッ

智葉(寒いのか。今ブランケットを…)ファサッ


憩『だって珍しいやない。あんたがそこまで他人のこと可愛がるなんてな』


智葉(……何をやってるんだ。私は――――)

智葉「…咲!起きろ」ユサユサ

咲「ん……」

智葉「こんな所にいたらお前まで風邪を引いてしまうだろう。寝るならちゃんと向こうで寝ろ」

咲「智葉さんの具合、どうかなって気になっちゃって…」

智葉「寝てりゃ治る。それよりも自分の心配をしろ。テストは明日なんだろう?」

咲「はい…あ、明日の朝先生が通勤する前にここに寄るって言ってました」

智葉「憩が?…医者ってのはよっぽど暇らしいな」

咲「……あの」

智葉「ん、何だ?」

咲「その……智葉さんはどうして私をここに置いてくれてるのかなって」

智葉「………」

咲(ただ理由が欲しい。少しでも一緒にいられる理由が…)

智葉「……まぁ、成り行きだな」

咲「……え?」

智葉「元々大した理由もないし。余裕があれば誰だってするだろう」

智葉「ボランティアみたいなもんだ。意味はない」

咲「…………そう、ですか」


・・・・・・

咲「ボランティア、か……」

咲「あの人から見れば、私なんて捨てられた犬猫と同じだったんだなぁ」

咲「……ふふ。変な勘違いする前に聞いておいてよかったよ」

咲「うん…、よかっ…」ジワッ

咲「……っ」


咲(その夜は一晩中、コチコチと鳴る部屋の時計の音を聞いていた)

咲(目が覚めるととても静かで)

咲(いつの間にか朝が来ていた――――)

・・・・・・

咲(……今は集中しよう)

咲(テストのことだけ考えて頑張ろう)

ピンポンピンポンピンポーン!

憩「おはようさん、咲ちゃん」ガチャ

咲「あ…おはようございます先生」

智葉「何だ、朝っぱらから騒々しい!」ガチャ

憩「あ、智葉。具合はどうや?」

智葉「良いわけないだろうが…」ゴホッ

憩「さすがに1日じゃ治らんか…ってあれ?咲ちゃん日曜やのに制服なんて着てどないしたん?」

咲「今日はテストなんです」

憩「へ~大変やなぁ。何時から?」

咲「テスト開始は9時からです」

憩「え?こんなにのんびりしてて良いん?」

咲「えっ?」

憩「もう8時40分やで?」

咲「!?」

咲「え?だってまだ…」チラッ

咲「…っ!!」

咲(部屋の時計、止まってる……)



ブロロロ・・・

咲「智葉さん、具合悪いのにいいですって!私走っていきますから!」

智葉「それじゃ間に合わんだろうが!大事なテストなんだろう!?」

智葉「車が苦手でも少しの間だけ我慢してろ」

咲「…っ」

智葉「8時50分か…もっと飛ばすぞ」

咲「……」

智葉「ん?何だ前の車、ずいぶんフラフラと…」

キキッ!

咲「なっ!?前の車、急に止まって…っ」

智葉「くそっ、居眠りか!!」

キキィィィィィッ!!

咲「―――っ!!」

智葉「咲っ!!」グイッ


ガシャンッ!!!グシャッ!!!


咲「………ぁ」

咲「い、や……」

咲「お父さん……お母さん……お姉ちゃ……」ガクガク

智葉「……き、咲!!」

咲「っ!!」ハッ

智葉「大丈夫か!?怪我はないな!?」

咲「………智葉、さん」ポロッ

智葉「泣くな…、ちゃんと生きてるから…」

智葉「もう…怖くない…ぞ…」ガクッ

咲「智葉さん!?」

智葉「…け」

咲「え?」

智葉「行け…、ここからなら…歩いて間に合…う…」ドサッ

咲「智葉さ…」ユサユサ

どろっ・・・

咲「血…、私を庇って…そん、な…」



咲「嫌ああああああああっ――――」




・・・・・・

誠子「憩様、失礼します!」ガチャ

憩「随分と早かったな誠子ちゃん」

誠子「一大事ですから!それでオーナーは大丈夫なんですか!?」

憩「ああ。外傷は派手やけど命に別状はないで」

誠子「それは良かった…」ホッ

憩「肋骨2本の骨折とわき腹を少々切っただけや、すぐ治る。それよりも私の車の方が重体や…」



智葉「…」スースー

咲(神様…、感謝します)ポロポロ



咲(テストのことは、もう私の中でどうでもよくなっていた――――)


・・・・・・

教師「事情が事情だし、もう1回試験を受けれるよう学年主任に掛け合ってみたんだが」

教師「特例は1度しか認めてもらえないそうでな…」

咲「……はい」

教師「宮永がどんなに頑張ってたかは分かってるんだが、こればっかりはな…」

教師「本当、何でお前ばかりがこんな目に…って思うよ」

咲(自主退学、か…)



智葉「…」スースー

咲「智葉さん…」



教師『住み込みで一人働き手を探してる所があるんだ』

教師『ケーキ屋なんだがクリスマスシーズンで人手が足りないそうでな…やってみないか?』

咲「智葉さん…ありがとう」

咲「……お元気で」ガチャ

バタン・・・


智葉「……ん」パチッ

誠子「オーナー!!良かった、やっと気づかれましたか」

誠子「丸2日も眠られたままだったので心配しました」

智葉「ここは…病院か?」

誠子「はい。いま憩様を呼んでまいりますので、そのまま安静になさって下さい」ガチャ


智葉(胸が痛む……肋が折れたか)

智葉(……そうだ、咲は?)

智葉(あの後どうした?)

智葉「…ん?サイドテーブルに手紙…?」

チャリッ・・・

智葉「鍵と金!?」


――――智葉さんへ お世話になりました 


智葉「あのバカ…!!」ガバッツ

智葉「…つぅっ!!」ズキン!

憩「智葉!?何起き上がってるねん!!」ガチャ

誠子「オーナー!!しっかりしてください!!」


――――少ないけど食費代と鍵をお返しします

――――今まで本当にありがとうございました 宮永咲


・・・・・・

咲(独りで生きていこう)


店長「急なことで部屋が見つからなくてな」

店長「悪いが決まるまで先輩の池田と同居でよろしくな」

咲「はい。よろしくお願いします」


咲(もう十分すぎるくらい暖かい思いをさせてもらったから)


店長「それにしても汚い部屋だなぁ…掃除くらいしろよ」

華菜「これでもしたんだし!」

咲「…」クスッ


咲(それを支えに、また独りで生きていこう)

・・・・・・

誠子「―――学校を自主退学した後、教師の勧めた就職を決めたそうです」

誠子「一応マンションにもお伺いしてみましたが、咲ちゃんの荷物等は一切ありませんでした」

智葉「……」

誠子「就職先もお調べしますか?」

智葉「……いや、いい。仕事に戻ってくれ」

コンコン・・・

竜華「智葉!良かった元気そうやな」ガチャ

智葉「竜華…」

竜華「事故なんて聞いたからビックリしたで」

智葉「別に。これくらい大したことない」プイ

竜華「なんや、また随分と機嫌悪そうやなぁ」

竜華「憩さんに聞いたんやけど、可愛がってた仔猫に逃げられたんやって?」

智葉(憩~~~~っ!!)

竜華「あんたがそんなに気にかけるなんて、よっぽど大事にしてたんやな」

智葉「別に。元々金が出来て済む所が見つかるまでの約束だったしな」

竜華「ふぅん、それにしては随分と寂しそうに見えるけど」

智葉「……気のせいだろう」



智葉(そうだ。気のせいだ)

智葉(……なのに……どうして)

智葉(私は、咲のことばかり考えているんだろう……)


・・・・・・

店長の妻「宮永さん、私が入るからお昼行ってきて」

咲「あ、はい」

店長「あまり無理するなよ。お腹も大きいんだから」

店長の妻「大丈夫よ、あなた」


咲(店長夫妻にはもうすぐ子供が生まれる)


咲「お昼入ります」

華菜「おう。行ってくるし!」


咲(先輩の池田さんは、遠距離恋愛中の彼女と毎晩長電話してる)

咲(ここには色んな幸せが詰まった人が沢山いて)

咲(ギスギスしながら学校にしがみ付いてた頃からは想像もできないくらい)

咲(毎日は穏やかに過ぎてゆく――――)



咲「先輩の彼女、来られそうですか?」

華菜「おう!25日には着くってさ」

華菜「ってか宮永はどうなんだし!」

咲「えっ?」

華菜「好きな人とかいないのか?」

咲「……いましたよ」

咲「でも私なんて、全然相手にしてもらえなかったけど……」



智葉『ボランティアみたいなもんだ』


咲(犬猫なみの私……)

咲(もし私が怜さんみたいな大人だったら)

咲(あの台詞も違っていたのかな……)



咲(そしてクリスマスがやってくる――――)



・・・・・・

咲「300円のお返しです。ありがとうございました」

?「こちらにも一つ」

咲「かしこまりまし……あ」

誠子「やあ、元気そうだね」

咲「誠子さん……」



憩「んむ、こりゃうまいわぁ」モグモグ

智葉「おい憩!何をしてる!?」

憩「ん?何って?」

智葉「人の病室でケーキ食ってるんじゃない!ってか勤務中だろ!」

憩「今日はクリスマスやろ?ケーキを食べるのは当たり前やんか」

誠子「駅前の『ガトーショップ・クリーム』のケーキです。智葉様もどうぞ」

憩「住み込みで働いてるそうやで…何ならうちが迎えに行ってこうか?」

智葉「…。何のことか私には分からん。悪いが一人にしてくれ」

憩「…はいはい。分かりましたよーぅ」


・・・・・・

咲「ではお先に失礼します」

店長「ああ。お疲れさん」

華菜「咲、帰るし!」

咲「はい。せんぱ……」

未春「―――華菜ちゃん!!」ダッ

華菜「みはるん!?来るのは明日じゃ…」

未春「私、一刻も早く華菜ちゃんに会いたくって…」ジワッ

華菜「もーっ!泣くなし!」ゴシゴシ

未春「だってぇ…」

華菜「…私も会いたかったし」ギュッ

未春「華菜ちゃん…」


咲(……今、無性にあの人に会いたいと思った)

咲(勝手に出てきたくせに――――)


・・・・・・

智葉(いつもいつも思い出すのは)

智葉(泣きながら見上げてくる咲の眼差し―――)


智葉『竜華はまだあのガキと付き合ってるのか?』

智葉『ガキなんて自分勝手で我侭で、どうせすぐ心変わりするに決まってる』

智葉『いい大人があんな小娘一人に振り回されてみっともないと思わないのか?』

竜華『うーん、まぁ……それでも好きやからな』

竜華『子供でも大人でも、本当に欲しいものがあったらなりふりなんて構ってられへんやろ?』


智葉(……全くお前らしいよ。竜華――――)

・・・・・・

ポツ・・ポツ・・

咲「あ、雪……」

咲「こんな日に学校しか行くところ思いつかないなんてね……」

咲「メリークリスマス。…一人で言うのもこれで3回目かな」

咲「…………」

咲「寒い、なぁ………」

咲「すごく、さむい――――」ポロッ

咲「ふぅ…ぅ…っ」ポロポロ



智葉「また一人で泣いてるのか?」



咲「………えっ」

智葉「ったくバカが。探したぞ」

咲「どう、して…」

咲「だって…成り行きで私のこと拾ったんでしょ?ボランティアなんでしょ?」

智葉「私はガキは趣味じゃない」

咲「…っ」

智葉「バカで我侭で自分勝手で、責任も常識もない」

智葉「……でもお前は別だ。咲」

咲「…ほん…とに?」

智葉「ああ」

咲「迷惑じゃないですか?」

智葉「ああ」

咲「私…、智葉さんと一緒にいてもいいの…?」

智葉「ずっといろ。…私のそばに――――」チュウ

咲「んっ……」

咲(私がまだ小さかった頃)

咲(クリスマスになると、お父さんは決まっていつも同じ話をしていた)


咲父『父さんはな、一年の中で一番クリスマスが好きなんだ』

咲父『母さんと出会ったのもクリスマスだったんだぞ』

咲父「あと、わけもなく幸せな気分になれるしな』

咲父『誰かれ構わず幸せを祈りたくなってくる』

咲父『みんなが幸せでありますようにって――――』


咲(子供の頃はそんなことよく理解できなかったし)

咲(事故で独りになってからは、そんな余裕なんて全然なかった)


咲(でも、今は……)

咲(お父さんの言ってた気持ちが少し分かるよ)


咲(先生や誠子さん)

咲(怜さんや店長たち)


咲(どうかみんなも幸せでありますように――――)


・・・・・・

咲(寒空の学校の中、智葉さんと長いキスをした後)

咲(私達は病院へと戻った)

咲(その後二人して先生に怒られてしまった)


咲(翌朝、先輩のアパートへ戻ると彼女さんはもう帰っていた)

華菜「……」ムスッ

咲「どうしたんですか先輩、頬が腫れてますけど…」

華菜「…昨日いきなり部屋に893みたいな女が来て、宮永咲はいるかって聞いてきて」

華菜「私たちに気をつかって出て行ってくれてるみたいだって言ったら、いきなりガツンだし!」

咲「えっ…」

華菜「おまけに『こんな寒空の下にほうり出したのか!』って怒鳴るしさ」

華菜「まぁその後みはるんが心配してくれていい雰囲気になったのはいいけどさ」

咲(智葉さん、そんなに探してくれてたんだ……)

華菜「おい咲!何笑ってるし!」

咲「いえ、笑ってないです」フフ

華菜「笑ってるだろー!!」プンプン

咲(大嫌いだった冬、そのクリスマスに)

咲(私は自分の居場所を見つけた)


咲(誰かれ構わず祈りたくなってくる)

咲(みんなが幸せでありますようにって)


智葉「咲、もっと傍に来い」

咲「…はい///」


咲(幸せでありますように――――)


カン!

これで咲&智葉編はひとまず終わりです。
次からは春&久のターン。



春「強引に愛して」

ドタドタドタ・・・

久「春~会いたかったわ~」バタン!

春「久、扉はちゃんとノックして」ツン

久「一月ぶりに帰ってきた恋人に対してつれなくない?」

春「…ふん」

久「相変わらず可愛げがないわねぇ」

春「悪かったね」

久「ほら、久々の再会なんだしもっと触らせてよ」スッ

春「!!離してっ」

久「春を専属にしてどの位たつと思ってるのよ」

久「いい加減観念してヤらせなさい!」ガバッ

春「このっ…けだものっ!!」


パリーン!!!


PM3:21 W・L本社ビル13階の窓ガラス破損・・・


・・・・・・

智葉「……お前たち。罰として13階のワンフロアー全部の窓を拭いてこい」

春「はい。すみませんでしたオーナー」ペコリ

久「ええ~!?何でそんなことしなきゃならないのよ!私は客よ!?」

智葉「出入り禁止にされたいのか?」ギロッ

久「い、行ってきま~す」ビクビク



智葉「ったく。余計な仕事増やしやがって」

誠子「あの久様の引っかき傷。相変わらずですねぇあの二人は」

誠子「あんなでも久様はトップモデル。くれぐれも顔だけは傷つけないよう春にも言ってあるんですが」

誠子「どうしてああ育ってしまったのか…」

智葉「…しょうがないだろう」

智葉「何せ春を教育したのは、あの菫だからな」ハア


・・・・・・

菫「……ん?」スタスタ

春「久、そっちの窓もよろしく」フキフキ

久「はぁ…分かってるわよ」フキフキ

菫「何やってるんだお前ら」

久「げっ」

春「菫!帰ってきてたの?」パアッ

菫「ああ、さっきな。元気だったか春?」ナデナデ

久「ちょっと!何勝手に人のものとイチャついてるのよ!」

菫「やあ久。その引っかき傷が女っぷりを上げてるな」

久「うるさいわね。だいたいあんたがそうやって春を甘やかしてるから客に手を上げるような女になるのよ!」

菫「分かってないな。そこが春の可愛いところじゃないか」

菫「な、春」ギュッ

春「菫…///」

久「………っ!!」

久「このっフェロモン垂れ流し女!!」


ガシャーン!!!


PM4:00 13階の窓ガラス、再び破損・・・


・・・・・・

久「はあ、今日は散々だったわ。あの後さらに窓拭きのノルマ増やされるし…」

久「…ん?春、何を熱心にテレビ見てるの?」

春「…」ジッ


『今回の注目は素材が――――』


久「ああ、私が出たショーを見てるのね」

春「久、ちゃんと仕事してるんだね…」

久「当たり前でしょ。春をキープするのにどれだけお金かかると思ってるのよ」

春「そんなの久の好きでしてることだし。私は頼んだ覚えなんてない」

久「そんなつれないこと言わないでよ。あ、また私の出番よ」

春「……」

久「どう?働いてる私は。見違えるでしょ?」

春「…自画自賛するのはどうかと思う」

久「はあ。ほんと春は可愛げがないわねぇ」

久「あー、もう寝よ寝よ」スタスタ

春「………」



久「ところで春」

春「なに」

久「まさか今晩も何もさせないで寝るつもり?」

春「嫌なら他の部屋で寝れば?」

久「……よし!それならコレで決めましょ!」バッ

春「花札?」

久「そう。春が勝ったら大人しく寝てあげるわ」

春「…久が勝ったら?」

久「もちろん、ヤらせてもらうわよ」ニッ

春「……いいよ。勝ったらね」


・・・・・・

久「ま、まさかこの私が一勝もできないなんて…」プルプル

春「約束だよ。大人しく寝て」

久「ぐぬぬ…じゃあちょっと触るだけ」

春「……」

久「ちゅーだけ」

春「……」

久「ね~、春ぅ…」

春「……」

久「寝たフリしてるの?襲っちゃうわよ」

春「……」

久「……はぁ。もう寝よ……」バサッ

春「……」



春「………ばか」ボソ

・・・・・・


・・・・・・

久「ねぇ、春」

春「……何」

久「何だか朝っぱらから機嫌悪いわね。具合でも悪いの?」

春「……別に」

久「そうだ!天気もいいことだしこれから出かけない?」

久「たまには車で遠出して小旅行でもしましょうよ」

春「……」

久「明後日は仕事入ってるけど、どうせ昼からだし」

春「……」

久「あら、気に入らないの?」

春「……」

久「はぁ…たまには恋人のお願い聞いてあげようとか思わない?」

春(……恋人?)

春「…きだって…、言ったこともないくせに…」

久「えっ?」

パリーンッ!!

久「きゃっ!…ちょっと春!湯のみなんて投げたら危ないじゃないの!」

春「うるさい!」ダッ

久「春っ!!」



菫「……春、ここにいるな?」ガラッ

春「菫……」

菫「何かあるとこの保管室に逃げ込む癖、相変わらず直ってないな」

菫「久に湯のみ投げつけたんだって?」

春「……」

菫「怪我がなかったから良かったがな、相手は客でトップモデルだぞ」

菫「教育しなおせってオーナーからご指名をもらった」

春「……だって、ムカつくんだもん」

菫「春、気の強いところはお前の売りだ」

菫「だが自分はあくまでも客に買われてるってことを忘れるな」

春「……」

菫「どうやらオーナーの言うとおり、もう一度仕込み直す必要があるようだな」グイ

春「あっ!!」ドサッ

菫「ほら、まずは誘ってみろ」グッ

春「…っ」ビクッ

菫「ここを開くんだろ?」スルッ

春「…や、あ…」


春(久っ……!!)


菫「――――なんてな」パッ

春「っ!?」

菫「恐かったか?いくら何でも春を襲うわけないだろう。ただの脅しだ」

春「あ……」ジワ

菫「でもまた懲りずにオイタをしたら、次は本当にお仕置きだからな。分かったか?春」ナデナデ

春「……ん。ごめんなさい菫」ポロポロ

ガチャッ

久「やーっと見つけたわ!」

菫「…ん?」

春「久…」

久「って……」

久(赤い目元、乱れた髪、着崩れた服……)

久「ちょっと春!まさか菫にナニかされたんじゃないでしょうね!?」ガシッ

春「べ、別に…久には関係ない…」

久「……これはナニかあったようね」

久「来て!体に聞いてあげるわ!」グイグイ

春「ちょっと久!引っ張らないで!」

菫(これは…お仕置き決定かな?)


・・・・・・

ドサッ

春「いたっ!何するの久!」

久「自分の立場が分かってるの?春は私のものなのよ!」

久「なのに何で他の女といちゃついてるのよ!」

春「…いじゃない」

久「え?」

春「ならさっさとヤればいいじゃない!」

春「いつも肝心なところで何もしないのは久でしょ!」

春(昨夜だって、結局何もしてこなかったくせに…)

久「…じゃあ何で拒むのよ」

久「嫌だ、なんて言われたらそれ以上できるわけないでしょう」

春「違う…、久が最初に拒んだの…」

久『……あなたが怜?』


春(初めて久に出会ったあの日)

春(柔らかな赤い髪、すらりと伸びた肢体、どこか人を魅了する瞳)


久『何だ、あなた怜じゃないの?話が違うわ』

久『私が指名したのはNO、1の怜よ。何で2番目が来るのよ』


春(見とれて、惹かれて)

春(その瞬間 否定された――――)

久『怜は長期療養中?なら仕方ないわね』

久『じゃあ2番目でも良いわ』


春(悔しくて、みじめで、殺したくなる位憎かった)

春(ベタベタしたがるくせして、一度だって好きだなんて言ったこともない)


久「……泣くほど私が嫌いなの?」

春「嫌い……、大っ嫌い……」ポタポタ


春(なのに、こんなにも……)

春(こんなにも久のことが好きだから――――)


久「……分かったわ」

春(いつも久はこっちで仕事がある時、必ずW・Lのこの部屋を訪れていた)

春(『もうここは私の家みたいなものね』それが口癖で…)


久『……分かったわ』


春(その夜出て行ったきり、朝になっても)

春(久は戻ってこなかった――――)

今回はここまでです。


・・・・・・

春(久と喧嘩してから三日がたった)

春(あれから久は一度も会いにこない)



菫「春、入るぞ」ガチャ

春「……何か用?」ゴゴゴゴゴ

菫(うーん、日増しに機嫌が悪くなってるな)

菫「オーナーがお呼びだ。何でも久のことで話があるらしいぞ」

春「……久の?」


・・・・・・

智葉「単刀直入に言う。久がお前との専属契約を打ち切りたいと言ってきた」

春「え……」

智葉「来週から始まるミラノのショーを皮切りに、仕事の拠点を海外へ移すそうだ」

智葉「但しお前が久に同行するならこの話は白紙に戻すと言っている」

智葉「どうするかはお前次第だ。春」

春「……」


春(安定して暮らしていける日本を選ぶのか)

春(慣れない海外での暮らしでも、久といることを望むのか)


春(私は――――)


・・・・・・

菫「いつまで人の部屋に居座る気だ、久」

久「しょうがないでしょ。春に嫌われちゃったんだし…」

菫「…ったく。春もそうとうキてたぞ」

久「春が!?」

菫「あんまり泣かせるなよ」ガチャ

パタン・・・

久「……そんなこと言ったって」

久「私だって、泣かせるつもりなんてなかったわよ」

久「でも……」


春『嫌い……、大っ嫌い……』


久「私の方が泣きたいわよ……」


・・・・・・

春『…この紙は?』バサッ

智葉『日本滞在中の久の仕事スケジュールだ』

智葉『時間を見つけて本人と話してみろ』


春(話したくても…久は戻ってこない)


春「……ッ」ポロッ

春「ううー……」ポロポロ


智葉『久がお前との専属契約を打ち切りたいと言ってきた』

智葉『但しお前が久に同行するならこの話は白紙に戻すと言っている』


春(今さら何でそんなこと聞くの?)

春(今までだって、これからだって…)

春(欲しかったらいつだってさらっていけば良いのに)


春(…きっと久にはこの気持ちは分からない)

春(ちゃんと言わなきゃ、分からないんだ――――)


・・・・・・

久「はぁ…この寒い中水着撮影かぁ」

カメラマン「じゃあ久、コンセプトは説明どおりだから」

久「はいはーい」

スタッフ「とりあえず日の出待ちですね」

久「あら。このシャワー、まだ水出るのかしら」

スタッフ「出るらしいけど間違えても被らないでくださいよ」

スタッフ「風邪なんてひかれたら大変ですからね」

久「はいはい……ん?」

久「窓の下にいるの、春……?」

久「…っ」ダッ


・・・・・・

久「春っ!!」

春「久…」

久「どうしてここに…」

春「……」

久「今までどんなに誘っても興味ないって言って来なかったのに…」

久「もしかして、私に会いにきてくれたの?」

春「……久のバカ!鈍感!甲斐性なし!」

久「は、春!?」

春「何で今さら専属切るなんて言うの?」

春「今までさんざん迫りまくってたくせに手のひら返すみたいに!」

久「なっ…そんなの春が私のこと大嫌いって言ったからでしょ!」

久「泣くほど嫌いだって言われてるのに、無理やり海外になんて連れて行けるわけないでしょう!」

春「…だから何でそんなにバカなの?」

久「えっ?」

春「専属までしてるのに、なのに…」

春「本気で嫌いなわけないでしょう!!」

久「……!!」

久「それって、私のことが好きだってこと…?」

春「っ///」カア

春「…帰る!」

久「あ、待って春。足元滑るから気をつけて…」

春「…あっ」ズルッ

久「春っ!!」グイッ!

バシャン!!

久「……何でこんなとこに水溜まりが」ビショビショ

春「あ……」


・・・・・・

スタッフ「あ、いたいた。何処行ってたんですか久さ…」

スタッフ「ってどうしたんですかその格好!?泥だらけじゃないですか!!」

久「ちょっとコケてしまって」テヘ

スタッフ「どうするんですか!朝日は待ってくれないんですよ?」

スタッフ「メイク直したって今からじゃ間に合わないし…」

春「あ、あの…私…」

久「春、いいから」

春「久…」

久「春が思わず惚れ直すくらい良い仕事してみせるから。あなたは何も心配しないで」

春「…っ」


スタッフ「朝日が出ます!どうしますか?」

カメラマン「…予定どおり始めるぞ」

久「オッケー」



シャアアアア・・・

スタッフ「……コンテじゃシャワーは使わないはずなのに」

カメラマン「いいぞ……久!」

カシャッ、カシャッ

久「…」ニッ

春「っ///」ゾクッ

スタッフ「さすが久さん。ずぶ濡れでも絵になるなぁ」

カシャッ、カシャッ



春(それは初めて見た、仕事の顔をした久の表情だった――――)

スタッフ「お疲れさまでーす!」

カメラマン「良い物が撮れたよ、久」

久「皆お疲れー。……春」

春「……こ」

久「こ?」

春「今晩はちゃんと帰ってきてよね!///」

久「……春」ギュッ

春「久……」

久「好きよ、春」

春「……今さら遅いよ。バカ」ジワッ

・・・・・・


・・・・・・

久「…春、ほんとに良いの?///」ゴクリ

春「い、嫌なら別にやらなくてもいいよ///」

久「そんなわけないでしょ!」グイ

春「あ…」ドサッ

久「こんなにも好きになっちゃったんだから…」チュウッ

春「んっ…」

久「春、舌出して…」

春「ん、ふうっ…んんっ…」チュパチュパ

久「ん、んん…ふ…」チュパチュパ

春「…はぁっ」

久「キス、上手いじゃない。どこでこんな嫌らしいこと覚えたの?」

春「え…」

久「菫に教わったの?」

春「ちが…!教わってなんか…」

久「本当に?」

春「何でそんなこと聞くの」

久「だって春ったらいっつも菫といちゃいちゃしてるし」

春「いちゃいちゃなんて、してな……あっ!」クチュッ

久「春、もう濡れてる…」クチュクチュ

春「あっ、あっ…」ビクン!

久「感じてくれてるのね。私のココも、もうこんなよ」チュクッ

春「…久」グチュ

久「ふふ、嬉しい。春の方から合わせてくれるなんて」ズチュズチュ

春「久、久…っ」ズチュズチュ

久「春のと私のが擦れ合わさって、凄い気持ちいい…っ///」ズチュズチュ

春「わ、私も…///」ゾクゾクッ

久「もう私以外の誰ともいちゃついたりしたら駄目よ、春っ…」ズチュズチュ

春「あっ、あっ…久ぁ、もう…っ」

久「イきそう…?」ズチュズチュ

春「う、ん……あっ、ああーっ!」ビクンビクンビクン!

久「私も、イくぅ…っ」ビクンビクンビクン!

春「はっ、はっ、はぁ…」

久「春…、もう1回してもいい?」

春「っ///」カア

久「春?」

春「…聞かなきゃ分からないような鈍感には、ミラノに行くまでおあずけ!」チュッ

久「春…」チュウ

・・・・・・


・・・・・・

久「春、早く早く!」

春「待って久、そんなに急かさないで…」ハアハア

久「さあミラノまでちゃっちゃと行くわよ~」

春「何でそんなに急いでるの…」

久「だって~早く春といちゃいちゃしたいんだもん」

春「…久のバカ///」


カン!

春&久編は終わりです。
次はまた穏乃&竜華のターン。

乙 菫さんにはお相手がいるのかな

>>207
菫がメインの話もいずれ書きます。
相手を誰にするか迷い中ですが



穏乃「誘惑しないで」

穏乃(最近ちょっと困っていることがある)


竜華「穏乃ちゃん、今書いたとこスペル間違っとるよ」

穏乃「えっほんとですか?やっぱり英語って苦手だなぁ…」

竜華「んっとな、ここの単語」スッ

穏乃「っ」ドキッ

竜華「な?」チュッ

穏乃「ちょっ…どさくさに紛れてキスしないでくださいっ///」

竜華「ああ、ごめんな。あんまり穏乃ちゃんがかわええから、つい」

穏乃「……っ///」プルプル


穏乃(竜華さんが妙に積極的で戸惑ってる)


・・・・・・

憧「そりゃお互い好きだって分かったらベタベタするのが当然ってもんでしょ!」

穏乃「そうは言ったってなぁ…」

憧「ま、あんたは経験不足だし戸惑うのも仕方ないけどね」

穏乃「お子様で悪かったな」

憧「そこまで言ってないでしょーが」



穏乃(お互い好きならベタベタするのは当然、かぁ…)

穏乃(………)

穏乃(キスは好き、かも知んない)

穏乃(竜華さんキス上手いし…正直気持ちいい)

穏乃(……でも、その先ってなると……」

竜華『穏乃ちゃんのココ、もうビショビショやで』


穏乃「…………っ!!//////」カアアアアッ

穏乃「うう…もうやることはやってんだよな一度///」

穏乃「…でも、あの時はお酒が入ってたし。今は…」

穏乃「やっぱり少し、怖いかな」


穏乃(だからもう少し)

穏乃(もう少しだけ、先送りしてもいいよな…)

・・・・・・

穏乃「竜華さんこんにちは~」ガチャ

智葉「よう、元気そうだな」

穏乃「辻垣内さん!?何で竜華さんの家に…」

智葉「竜華なら今買い物に出てるぞ。もうそろそろ帰ってくると思うが」

穏乃「あ、そうなんですか」

智葉「今日はお前にいい物を持ってきてやったぞ」

穏乃「いい物?」

智葉「甘いものに目がないって竜華から聞いたんでな」スッ

智葉「ウチで作ってるオリジナルクッキーだ」

穏乃「わあっ!高級そうなクッキー!これ貰ってもいいんですか?」

智葉「ああ」

穏乃「じゃあ遠慮なく。頂きまーす!!」パクッ

穏乃「うわー、すっげーうまい!!」パクパク

穏乃「うおお!こっちもうめー!!」パクパク

智葉(なるほど、竜華はこの手で落としたんだな)

ガチャ、バタン

智葉「お、竜華が帰ってきたようだな」

智葉「じゃあ私は帰るから、後はあいつにたっぷりと可愛がってもらえ」

穏乃「へ?なにを?」


竜華「ちょっと待ってや、もう帰るって智葉!」

竜華「あんたがココア飲みたいなんて言うからわざわざ買ってきたってのに…」

智葉「悪いな、時間切れだ。それより早く小娘の所に行ってやれ」

竜華「…またいじめたりしてないやろうな?」

智葉「するか。クッキー食わせただけだ」

智葉「こないだの見舞いの礼だ。…じゃあな」ガチャ

パタン・・・

竜華「クッキー?ま、まさか…」

竜華「穏乃ちゃん!」バタン!

穏乃「あ…竜華さん…」トローン

竜華「穏乃ちゃんしっかり!」

穏乃「私、クッキー食べすぎたかな…なんか体が熱くて…」

穏乃「中に入ってた洋酒で酔ったのかも…」

竜華(やっぱりいいいいいいいい!!)



穏乃「ん…なんか私、へんかも…」ハアハア

穏乃「胸のあたりがじんじんしてきて…」ハアハア

竜華「あのクッキーはW・Lのオリジナルでな、中に媚薬が入ってるんや」

穏乃「なんだよそれ…辻垣内さんめ、変なもん食べさせてくれちゃって…」ハアハア

竜華「穏乃ちゃん、はいこれ水。飲めるか?」

穏乃「はい…ん…んくっ…んんっ…」ハアハア

竜華「………」

穏乃(このまま…私、竜華さんと…しちゃうのかな…)

竜華「穏乃ちゃん…辛いか?」

穏乃「体、熱いです…すごく…」ハアハア

竜華「たぶん1,2時間で自然に治まってくると思うから」バサッ

穏乃「竜華さん?上着なんて着てどこか行くんですか?」

竜華「うん……」コク

竜華「このままここにいると理性が持ちそうにないからな」

穏乃「えっ……いいんですか?」

竜華「……してもええん?」

竜華「後悔せんか?穏乃ちゃん……」

穏乃「……」

竜華「穏乃ちゃん…」スッ

穏乃「…っ」ビクン!

竜華「ほら、やっぱり怖いんやろ?」ポフッ

竜華「だからええねんで、今は。穏乃ちゃんに嫌な思いさせたくないしな」

穏乃(竜華さん…気づいてたんだ、私が怖がってたこと)

穏乃(臆病な私を待っててくれてるんだ)

穏乃(竜華さん………)スッ

竜華「穏乃ちゃん?」

穏乃「…」チュッ

竜華「穏乃、ちゃん……ええの?」

穏乃「……はい。抱いて、ください…///」

竜華「穏乃ちゃん…っ」ドサッ


・・・・・・

穏乃「あっ、ああっ…」クチュクチュ

竜華「穏乃ちゃん、もっと声だして…」クチュクチュ


穏乃(今までエッチって、ただしたいとか、気持ち良くなるためだとか)

穏乃(そういうことでするんだとずっと思ってた)


竜華「穏乃ちゃん、好きや」

竜華「好きやで…」


穏乃(でも、違うんだ)

穏乃(好きだから……)

穏乃(好きだからするんだ――――)

穏乃「あっ…そんなとこ舐めないで…っ///」ハアハア

竜華「気持ちよすぎて怖いん?」チュパチュパ

穏乃「ああっ…はああ…」ハアハア

竜華「体の力抜いて、うちに委ねて…」クチュクチュ

穏乃「んああっ…竜華さ…ああっ、竜華さんっ」ビクン!

竜華「…ん?」

穏乃「すき…///」

竜華「…ありがと。穏乃ちゃん」チュウ


竜華(幸せすぎて眩暈がするわ……)


・・・・・・


・・・・・・

穏乃「…ん?」パチッ

穏乃「あれ…、竜華さん…?」キョロキョロ

穏乃(どこ行ったんだろ…)

竜華「穏乃ちゃーん!」ダキッ

穏乃「わっ!?ビックリしたじゃないですか、もう!」

竜華「あはは、ごめんな」

穏乃「どこか出かけてたんですか?」

竜華「ん、ちょっと智葉の所にな」

穏乃「辻垣内さん?何しに…」

竜華「ひっぱたいてきたわ」ニコッ

穏乃「ええっ?いったいなんで…」

竜華「だって、穏乃ちゃんにちょっかい出したからな」

穏乃「私?」キョトン

竜華「うちの一番大切な女の子に悪戯したんや。それがうちのためでも許せることやない」

穏乃「竜華さん……///」

竜華「穏乃ちゃん、体はもう平気か?」

穏乃「はい……」ギュッ

ポトッ・・・

竜華「……ん?」

穏乃「竜華さん、ポケットから何か落ちましたよ」ヒョイ

穏乃「って、これ……私が貰って食べたクッキーと同じ箱……」

竜華「な、何でこれがうちのポケットに……っ」

穏乃「ふーん…なんだかんだ言っといて、本当はコレを買いにいってたわけだ…」ワナワナ

竜華「ご、誤解や!いつの間にかポケットに入ってたんや!」



穏乃「問答無用!!」ビシッ!

竜華「穏乃ちゃぁーん!!」



智葉(ふん、私をひっぱたいたお礼だ竜華)


カン!

次からはまた咲&智葉のターン。



咲「明かされた真実」

咲(ほんの2週間前までは)

咲(こうしてまた、ここに帰ってこられるなんて思ってもみなかった)


智葉「どうした咲。早く入ってこい」

咲「はい…」


咲(この瞬間)

咲(また、智葉さんとの生活が始まった――――)


・・・・・・

咲「お疲れさまでした」

華菜「お疲れだし。咲は帰ったらまた勉強か?」

咲「はい。3学期学校へ行かない分は自分でやらないと。新しい学校への編入試験も辛くなりますし」

華菜「そっか…偉いなぁ咲は」

華菜「交通事故で家族を亡くしても、ちゃんと一人で頑張ってるんだもんな」

咲「いえ。それに今は一人ではありませんから」ニコ

華菜「ああ、あの893もどき……咲!!」ガシッ!

咲「は、はい?」

華菜「大丈夫か?あの辻垣内って奴にいじめられたりしてないか?」

咲「へっ?…あの、智葉さんはすごく優しいですよ?」

華菜「いや分かってる、私だってそれは分かってるんだし!」

華菜「飯作ってくれたり、寝床提供してくれたりで親身になってくれてるんだろ?」

華菜「それは十分わかってるんだし!」

咲「…もしかして先輩、クリスマスに智葉さんに殴られたこと根に持ってるんじゃ…」

華菜「」ピクッ

華菜「あの時はマジで痛かったし…」フルフル

咲「は、はぁ…」

華菜「ってそんなことより!」

華菜「咲は私の妹分みたいなもんだからな。ちょっと気になったんだし///」

咲「先輩……」

華菜「まぁ辛くなったらいつでもうちのアパートに戻ってくるし!じゃあな!」タッ

咲「あ、先輩っ」

咲(……先輩、ありがとうございます)

・・・・・・

咲「ただいま…」ガチャ

咲「智葉さんはまだ仕事か…」


咲(誰もいなくても『ただいま』なんて言うようになったのは)

咲(智葉さんと一緒に暮らすようになってから)


智葉『おい、黙って入ってくる奴があるか』

智葉『家に帰ってきたら言う言葉があるだろう?』

咲『え…あ、ただいま…?』

智葉『そうだ!朝はおはよう、夜はお休み、飯を食う時はいただきます』

智葉『挨拶は基本だ。分かったか?』

咲『は、はいっ!』

智葉『…よし』ナデナデ

咲『ん…』


咲(ただいまとか、おはようとか)

咲(そんな当たり前のことすら忘れてた)

ガチャッ

智葉「…咲?何やってるんだ、こんな玄関先で考え事か?」

咲「あっ、た、ただいま!」

咲(って間違えたー!!)

智葉「お帰り、だろう?」クス

咲「…っ///」



咲(全てをなくした13歳の冬。その時から)

咲(春も夏も秋も冬もずっと一人きりで)

咲(ご飯なんて食べれるだけで何でも良かった)

咲(いつか這い上がって、この惨めな状況から抜け出してみせる)

咲(それだけを思って生きてきた)


智葉『いつまでそうしている気だ?』

智葉『行くぞ。風邪をひきたくなければついてこい』


咲(辻垣内智葉さん。この人に拾われてから私の世界は大きく変わった)

咲(智葉さんは色んなことを教えてくれる)

咲(挨拶することの大事さとか、ご飯の暖かさとか)

咲(誰かを好きになる気持ちとか――――)


智葉「待ってろ。すぐに飯作ってやるから」

咲「あ、私も手伝います」


咲(心が満たされていく)

咲(きっと、これが幸せってことなんだと思う――――)


・・・・・・

憩「今日はわざわざお越しくださってありがとうございます」

憩「一度咲ちゃんの身元引受人の白築さんとは、ちゃんとお話したいと思っていたんですよ」

耕介「こちらこそ。咲ちゃんが随分とお世話になってるそうで」

耕介「確か病院で…お医者様でしたね」

憩「ええ、あの時は従姉妹の智葉がとんだご迷惑を…」

憩「でもまぁそれが縁で今、咲ちゃんをお預かりしてるんですけどね」

耕介「実はそのことなんですが…」

憩「白築さん。私共としてはこのまま咲ちゃんを家でお預かりしたいと思っているんですよ」

耕介「え…?」

憩「智葉は独身ですし、経済的にも多少のゆとりはあります」

憩「春からはまた高校にも行かせてあげたいと思ってるんですよ」

耕介「いや…、しかし…」

憩「それに咲ちゃんにとっても、これ以上の環境の変化はあまり望ましくないと思うんです」

憩「白築さんにとっても何ら悪い話ではないと思いますが」

耕介「………」


・・・・・・

耕介「咲ちゃん、前にも言ったと思うけど…」

耕介「やっぱり俺は辻垣内さんの所でお世話になるのはどうかと思うよ」

咲「……」

耕介「高校のことは俺だって何とかできるし」

耕介「とにかく俺は、これからもずっと咲ちゃんの引受人をやっていきたいと思ってるんだ」

咲「……耕介さんには凄く感謝してます」

咲「私一人だったら、きっとここまで生きてこられてないと思うし」

咲「だからこれ以上ご迷惑おかけするのが嫌なんです」

耕介「そんな、迷惑なんて」

咲「耕介さんのお気持ちは凄く嬉しいです。…でも、すみません」

咲「私、智葉さんと一緒にいたいんです」

咲「本当に今までありがとうございました――――」

耕介「………」


・・・・・・

健夜「藤田さん、あなたも大概しつこいね」

健夜「今度の総武百貨店のコンペのことなら無駄だよ。私はとうに政治は引退した身だし」

靖子「そこを是非とも小鍛冶先生のお力添えを…せめてウチを推薦して頂けませんでしょうか?」

健夜「私に頭を下げにくるぐらいなら技術を上げた方がいいんじゃない?」

健夜「聞けはあなたの所の嶺上建設は、前任の宮永社長が亡くなられてから随分と質が落ちたそうじゃない」

靖子「そ、それは、その…」




靖子「ちっ、上手くいかないな……ん?」

耕介「じゃあそろそろ席に戻ろうか、咲ちゃん」

咲「はい……、あ」

靖子「白築じゃないか。お前もホテルで食事か?」

耕介「社長!どうしてここに…」

靖子「……ん?」

靖子「なんだ、死んだ宮永のガキと一緒か」

咲「……」

靖子「白築、お前…やめておけって忠告したのに、まだこの死にぞこないの面倒見てるのか?」

耕介「社長…」

靖子「ふぅん、それにしても随分と大きくなったじゃないか」グイ

咲「やっ!触らないで!」パシッ

靖子「つっ…このガキが!」ドンッ!

咲「きゃっ」フラッ…

ガシッ!

咲「あ、智葉さん…」

智葉「私の連れに何をしている」ギロッ

靖子「何だお前は?そのガキの知り合いか?」

ザワザワ・・・

健夜「――――いったい何の騒ぎ?」

靖子「あ、小鍛冶先生…」

健夜「智葉じゃない。その子はあなたの連れなの?」

智葉「はい」

靖子「あ…、先生のお知り合いで…?」

健夜「友人だよ。それにしても…」

健夜「藤田さん、あなたの性根は見せてもらったよ。もう金輪際あなたの顔は見たくない」

靖子「あ…っ」カタカタ

健夜「私がこれ以上怒り出す前に、さっさと帰ってね」ニッコリ




憩「咲ちゃん、さっきの人は?」

咲「…藤田靖子。お父さんの会社を乗っ取った人です」

憩「!!」

咲「私が入院している間に会社も家も遺産のほとんどが、副社長をしてたあの人のものになってた…」

智葉「……」

咲「警察に言っても、もうどうにもならなくて…嶺上建設の名前はお母さんの好きな言葉からとったものなのに」

健夜「あなたが宮永社長の娘さんだったなんて…彼は本当に優秀な人だったよ」

憩「咲ちゃん、こちら小鍛冶健夜先生。知っとるかな?」

咲「元建設大臣…今は評論家をされてますよね」ニコ

健夜「!!やだ、笑うとすっごい私好みで可愛いじゃない!」

咲「へっ?」

智葉「!?」

健夜「咲ちゃんだったかな。お姉さんと遊んでみない?はいこれ名刺ね♪」スッ

咲「は、はぁ…」

憩「先生それじゃただのエロBBAです」

健夜「この子一日貸してくれない?智葉」

智葉「お断りします!!帰るぞ咲」グイ

咲「は、はい」

健夜「ちぇっ。智葉のケチー」

憩「咲ちゃん、あの人はW・L会員の真性レズやから近づいちゃ駄目やで」

咲「はぁ…」


・・・・・・

靖子「ちくしょう!!」

靖子「お前があんなガキの面倒なんて見てるからだ!何だってあんな所にいたんだよ!」

耕介「……社長」

靖子「今度のコンペがどれだけ重要かお前には分からないのか!?」

靖子「やっと手に入れた会社だってのに……」

靖子「お前もお前だ!なにてめぇで危ない橋渡ってるんだよ」

耕介「!!な、何のこと…ですか…」

靖子「とぼけてんじゃねえよ、この偽善者が!!」



靖子「お前があのガキの家族を殺したんじゃないか!!」



耕介「――――っ!!」


・・・・・・

咲(……雪?)

咲(へんなの…雪なのに、赤い…)

咲(!!違う…これ、血…っ)

咲(お父さん、お母さん、お姉ちゃん!!)



咲「あ……っ!!」ビクン!

咲「……」ハアハア

咲(事故の夢なんて、しばらく見なかったのに……)

智葉「……どうした?」ガチャ

咲「あ、智葉さん…」

智葉「顔色が悪いな。嫌な夢でも見たのか?」

咲「……っ」

智葉「何だバカだな。夢ぐらいでそんな泣きそうな顔するな」ナデナデ

咲「あ……」


咲(ああ、そうだ)

咲(大丈夫。一人じゃない)

咲(目が覚めても、もう一人じゃないんだ――――)

・・・・・・


・・・・・・

ガチャ バタン!

みさき「あなた、やっと帰ったの!?もう夜中よ」

耕介「……しまい……だ……」

みさき「なぁに、酔ってるの?」



耕介「もう……、おしまいなんだ……」ガクッ


・・・・・・


・・・・・・

華菜「じゃあな、お疲れだし」

咲「はい。お先に失礼します」ガチャ

耕介「……やあ咲ちゃん。バイトお疲れさま」スッ

咲「耕介さん?」



ブロロロ・・・

誠子「オーナー、本日もお仕事お疲れさまです」

智葉「ああ。…ん?電話か」ピッ

智葉「憩か?何の用だ」

智葉「……なんだと!?」



耕介「さ、あがって咲ちゃん」

咲「……あの、やっぱり私帰ります。こんな時間じゃおばさんにもご迷惑だし…」

耕介「いないよ…」

咲「え?」

耕介「妻は実家に帰したんだ…」

耕介「外は寒かったから、温かいお茶でもいれようか」

咲「…?」

コポコポ・・・

咲「……あの、耕介さん」

耕介「……」

咲「どうして私が智葉さんの所でお世話になるのを反対するんですか?」

耕介「……」

咲「さっさと私と縁を切っちゃった方が、耕介さんだって……」

耕介「……て」

咲「え?」

耕介「どうして一緒に死んでくれなかったんだ……」

耕介「あの時ちゃんと死んでいれば、こんなことにはならなかったのに」

咲「え……」

耕介「誰にも怪しまれることなく幸せになれたのに……」

耕介「どうして生き残ったりしたんだ――――!!」

今回はここまでです。

グイッ

咲「っ!?」

耕介「ちゃんと殺せたと思ったのに!」ギュウウッ

咲(っ…凄い力で…首、絞められて…)

耕介「君のせいで何もかも終わりだ!もうおしまいなんだ!」ギリギリ

咲(苦し…息が…つま…る…)

耕介「頼む!死んでくれ!」

咲「ぅ…っ」

耕介「死ね!!」

咲(…っ!!)

咲(私……このまま殺されるのかな……)

咲(死んだら……お父さんたちに会える……かな……)


智葉『咲』


咲(智葉さん……)

咲(……嫌。智葉さんに会えないのは、嫌……)


咲「…嫌っ」ドン!

耕介「!!」フラッ

咲「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」

耕介「……あ、俺、は……」

咲「…っ」ダッ

ガチャッ、バタン!!


・・・・・・

咲「はぁ、はぁ、はぁ…っ」ゼーゼー

咲「帰ってきた…」

咲「頭の中、モヤモヤする…」

咲「シャワー…浴びよう…」


ザアアアア・・・


咲(ただの事故じゃなかったなんて……)

咲(耕介さんのせいだったなんて……)


咲「うっ…、うう…」

咲「…さん、智葉さん…っ」


・・・・・・

ブロロロ・・・

智葉「…咲。電話に出ないか」ピッ

誠子「まだバイトが終わっていないのでは?」

智葉「いや、この時間ならもう終わってるはずだ」

ブブブ

智葉「憩か?」ピッ

智葉「その後藤田の容態はどうなった?」

憩『まだICUに入ったままや。出血も多かったし今夜がヤマって所やな』

憩『とにかくウチの病院に運ばれてきたのが幸いや』

智葉「壷で後頭部をガツンとやられたんだったか」

憩『せや。そしておそらく藤田社長を襲ったのは……白築氏――――』

ガチャ、バタン!

智葉「咲!いないのか!?」

ザアアアア・・・

智葉「水音?風呂場か…」



智葉「咲、いるのか?」コンコン

シーン・・・

智葉「開けるぞ」ガチャ

ザアアアア・・・

咲「…」

智葉「咲っ!!」


・・・・・・

咲「…ん」パチ

智葉「起きたか」

咲「私、どうして…」

智葉「風呂場に倒れてたんだ。ビックリしたぞ全く」

咲「智葉さん…」

智葉「今夜はもう眠れ。話なら明日いくらでも聞いてやる」

咲「だから安心して寝ろ。咲が寝付くまでここにいてやるから」

咲「…はい。智葉さん…」

智葉「ん?どうした」

咲「このベッド…智葉さんの匂いが…して…安心…す…」ウトウト

咲「…」スー

智葉「………咲」ギュッ


・・・・・・

ヒョオオオオ・・・

耕介(雑居ビルの最上階……)

耕介(ここから飛び降りて、全てを終わりにしよう)

耕介(終わりに……)スッ

ガシッ!

耕介「なっ!?」

憩「……」

耕介「あなた…は…」

憩「白築さん。忠告します」


憩「ここに警察が来るまえに自首してください――――」

耕介「自首…?」

耕介「今さら自首してどうなるんだ…」

耕介「俺は人殺しなのに!!」



咲「…ん……」

耕介『咲ちゃん』

咲(耕介さん?)

耕介『君は、他人の運命を変えたことがあるかい?』

咲(そう聞かれたのは、何年前のことだっけ…)

咲(ん…体熱い、熱があるのかな…)

咲(喉…乾いたな…)

カランッ

咲(氷の音?)

すっ

咲(あ…、口元に氷が…)

咲(冷た…美味しい…)

咲(…あ、溶けてく…終わっちゃう…)

咲(もっと、もっと欲しい…)チュパチュパ

咲(もっと……)

智葉「咲…」

咲(…智葉さん?)パチッ

智葉「私の指は食うな…///」

咲「っ!!」ハッ

咲「ご、ごめんなさいっ///」カアアア

智葉「食うならこっちにしろ」スッ

咲(コンソメスープ、あったかい…)

咲「……いただきます」




耕介「そう、俺が殺したんだ」

耕介「自首したって殺人じゃ罪なんて軽くならない」

耕介「いっそ死んだ方が償えるんだ…!」

憩「…っ」シュッ

バシッ!!

耕介「ぐぅっ!!」

憩「…死んだ方が償える?」

憩「ふざけんなや!そりゃあんたは楽でしょう!」

憩「でも白築さんに死なれたらあの子がもっと傷つくんですよ!」

憩「理不尽な罪を一生かかえなきゃならへんのや!」

耕介「…!!」

憩「死んで逃げようなんて、楽なことしないで下さい」

憩「本気で償いたいなら生き恥を晒して罰を受けるべきや」

耕介「………」

憩「第一、白築さん。あなたは人なんて殺してませんよ」

耕介「え――…」



咲「殺してない?でも耕介さんは…あの時…」

耕介『ちゃんと殺せたと思ったのに!』

智葉「だがお前の家族は事故死だ。それは警察もちゃんと答えを出してる」



憩「白築さん。今回咲ちゃんの身元引受人をするにあたって少々あなたのことも調べさせて貰ったんですよ」

憩「昨夜うちの病院に、昼間会った藤田社長が運ばれてきました」

耕介「…!!」

憩「出血多量で一時は危険な状態でしたが、何とか一命はとりとめています」

耕介「…生きて、いる…?」

憩「やったのはあなたですね?白築さん」

耕介「…そんな、てっきり死んだと…」

耕介「だって仕方がなかったんだ。社長があのことを…」

耕介「俺が咲ちゃんの家族を殺したことを知っていたんだ…!」

憩「あれは事故です。あなたの所為じゃない」

耕介「違う、俺が…、俺がブレーキに細工したんだ…!」



智葉「白築氏は5年前軽い気持ちで手を出した株で失敗している」

智葉「マンションも20年ローンで買ったばかり。妻にも内緒で作った借金だから誰にも相談できない」

智葉「困った白築氏は会社の金に手をつけた。つまりは横領だ」

咲「…!!」

智葉「だがそんなものはすぐにバレる。当然会社はクビだろう」

智葉「でも、バレなければ?うやむやにすることはできないのか?」

智葉「社長がいなくなればいい。宮永社長の椅子を欲しがってる人間は大勢いただろうし」

智葉「会社のトップがいなければ、どさくさ紛れに誤魔化せる。白築氏はそう思ったんだろう」

咲「………」



憩「だから車のブレーキを切ったんですか?」

耕介「…計画通りうまくいったんだ。なのに…」

憩「生憎ですがうまくなんていってませんよ」

憩「宮永氏は、あなたが細工した車には乗らなかったんですから」

耕介「……え?乗らな…かった…?」



咲(そう、あの日はお母さんの車で会社までお父さんを迎えに行って)

咲(そのまま皆で食事に出かけたんだ……)

智葉「だが偶然にも事故は起きてしまった」

咲「………」

智葉「結局は白築氏の思惑どおり、横領はうやむやになった」

智葉「だがさすがに当時副社長だった藤田にはうすうす勘付かれていたらしい」

智葉「同じ穴のムジナみたいなもんだからな」

智葉「そして藤田にバレたと知った白築氏は、とうとうキレて藤田やお前に手を出したんだ」

咲「………」

智葉「白築氏は誰も殺していない」

智葉「全ては単なる思い込みにすぎなかったんだ――――」

咲「……だったらどうして」

咲「どうして耕介さんは、私の身元引受人になってくれたんでしょう」

咲「本当は私なんかと関わるのは危険だって分かってたはずなのに……」

智葉「……罪悪感プラス、秘密保持のための監視もあったのかも知れないな」

咲「監視……」

耕介『辻垣内さんの所でお世話になるのはどうかと思うよ』

耕介『とにかく俺はこれからもずっと咲ちゃんの引受人をやっていきたいと思ってるんだ』


咲(私を監視するためにそう言ったんですか?)

咲(事故後、退院するまでお見舞いにきてくれたのは耕介さんだけたっだ)

咲(お骨や位牌、お墓だってお世話してくれたのに)

咲(あれは全部偽りの気持ちだったんですか―――!?)


プルルル・・・

智葉「はい…ん、分かった」ピッ

智葉「咲、起きられるか?」

咲「え…」

智葉「白築氏が自首する前に、お前に一言謝りたいと言ってるそうだ」

咲「―――!!」

智葉「どうする…?」

咲「………」


・・・・・・

耕介「咲ちゃん……」


咲(私は……どうすればいいの?)

咲(怒ればいいの?泣けばいいの?許せばいいの?)

咲(死ねとわめきながら私の首を絞めたこの人を)

咲(私は、どうすればいいんだろう……)


耕介「咲、ちゃん…」スッ

咲「…っ」ビクッ

耕介「あ…」

咲「…」フルフル

耕介「………」

ガバッ!

咲「!?」

耕介「すみません…、すみませんでした…」

咲(耕介さんに目の前で土下座されてるのに…何も言葉が浮かんでこない…)

耕介『咲ちゃん、君は他人の運命を変えたことがあるかい?』

耕介『明けましておめでとう。妻からのおせちの差し入れだよ』


咲(殺人未遂の罪で耕介さんは警察に捕まる)


耕介『家のことなら何も心配しなくていいからな』

耕介『妻が何と言おうと身元引受人をやめるつもりはないから』


咲(刑務所に入れられて何年も暮らすんだ……)


耕介『すみません…、すみませんでした…』


咲「……っ」ズキン!

憩「時間です、白築さん」

耕介「……はい」スッ

咲「耕介さん…っ!!」

耕介「咲ちゃん…?」

咲「…っ」ポロッ

耕介「!!」

咲「……」ポロポロ

耕介「……咲ちゃん、ありがとう」ジワッ

憩「……行きましょう」

耕介「分かりました。……元気でな、咲ちゃん」

バタン!ブロロロロ・・・



咲(……怖かった)

咲(殺されかけたことより、真実の重さより)

咲(他人の運命を変えてしまうことの方が怖かった)

咲「私…、何にも言えなかった…」

咲「嘘でもいいから『いいよ』って、『気にしてないって』…」

咲「そう言ってあげれば良かったのかな…」

智葉「…咲」ギュッ

咲「…っ」ポロポロ

智葉「白築氏が自分で蒔いた種だ。お前が傷つくことはない」

智葉「許せなければ許さないでいい。憎ければ憎んでいろ」

智葉「人の記憶や感情なんて嫌でも薄れていくものだ」

智葉「苦しんでまで無理やり消すことはない…」

咲「……はい」



咲(多かれ少なかれ)

咲(どんな人間も怒りや憎しみ、悲しみを抱えて生きている)

咲(いつかは薄れていくものだとしても、それでも祈らずにはいられない)


咲(どうか一日も早く、過去を許せますように)

咲(明日を愛せますように――――)


カン

次からはゆみ&エイスリン&白望のターン。
咲と智葉は次回のメインパートで進展させたいです。



ゆみ「青い瞳の皇女様」

加治木ゆみ

高級会員制女性専用デートクラブ 攻め役NO、2

食事、エスコート、旅行、SEX

客の要望ならば暴君役から恋人役まで

どんなことでもお望みのままに――――

誠子「お待たせしました」ガチャ

ゆみ「おや…オーナーはどうされました?」

誠子「オーナーはただ今咲ちゃ…仔猫とデート中ですので」

ゆみ「仔猫??」

誠子「なので今回は私の方から指示するようにと承りました」

ゆみ「はぁ…そういえば今回のお相手はスペシャルVIPと伺ったんですが」

誠子「はい。それはそれは大層なお相手です」

ゆみ「No、1の菫さんでなく、私をご指名されるとは…」

誠子「菫さんはただ今他のお客様に指名されておりますので」

ゆみ「そうですか。それではNo、2の名に恥じないよう勤めさせて頂きます」

誠子「よろしくお願いします」

・・・・・・

ゆみ(どこかの国のお姫様がお忍びで女を買う)

ゆみ(しかもマネージャーを通さずオーナー自らの依頼とは)



ゆみ「失礼します」コンコン、ガチャ

ゆみ(……ここが皇女の私室か)

エイスリン「……」

ゆみ「皇女様、英語はお分かりになりますでしょうか?」

エイスリン「うん…」

ゆみ「それは良かった。お初にお目にかかります、W・Lのゆみと申します」

エイスリン「ゆみ……だね。分かった」

エイスリン「じゃあ、ゆみ……」


エイスリン「どうか今すぐ、私を……汚して―――…」


・・・・・・

ゆみ(いきなり拘束プレイをご所望されるとは……)

ゆみ「皇女様、縄はきつくないですか?」

エイスリン「ん……」フルフル

ゆみ「今からそんな状態では最後まで持ちませんよ?」

エイスリン「……私、初めて…だから……」

ゆみ「怖いですか?」

エイスリン「……」

ゆみ「こんな扱われ方は初めてでしょう…どうですか、今のご気分は?」

エイスリン「あ、あの……私……っ」

ゆみ「はい、何でしょう」

エイスリン「……気持ちわるい」ウップ

ゆみ「……へっ?」


・・・・・・

エイスリン「うっ、うっ……」

ゆみ「そんなに泣かないでください皇女。もうシャワーも浴びて綺麗になりましたし」

エイスリン「……怒らないの?」

ゆみ「はい。まぁ汚す前にこちらが汚されるとは思いませんでしたが」

エイスリン「ごめんなさい……わたし、緊張して……」フルフル

ゆみ「……皇女」ナデナデ


ドタドタドタ・・・

ゆみ「……ん?」

白望「お邪魔をする」バタン!

ゆみ「……どちら様で?」

白望「あなたに名乗る名などない」

エイスリン「シロ……」

白望「エイスリン!」タッ

白望「支配人に聞いてまさかとは思ったけど…何をやってるの」

白望「人が使いに行っている隙に得体の知れない女なんて連れ込んで…」

白望「自分がどんな立場にいるのか分かってるの?」

エイスリン「……」

白望「あなたはこれから…神に仕える身になるのに…」

エイスリン「……っ」フルフル

ゆみ「…そんなに怒ると嫌われるぞ?」

白望「あなたには関係ない。さっさと消えて」

ゆみ「関係なくはないさ。皇女は私の客なのだから」グイッ

エイスリン「あっ」

白望「待って!エイスリンをどこへ連れていく気?」

ゆみ「…秘密の花園にな」タッ

白望「っ!!エイスリン…!!」

・・・・・・

エイスリン『シロ……』

エイスリン『父上に、20歳を迎えても出来ることが見つからなければ大司教様の元で神にお仕えしろって言われた』

エイスリン『どうしよう、シロ……』

白望『……そっか』

エイスリン『………』

白望『じゃあ、これで私もようやくあなたから解放されるんだね』

エイスリン『っ!!』

白望『私、エイスリンの従者をやめて国に帰る……』

エイスリン『……どう、して?シロ』

エイスリン『私はあなたのことが……』

白望『それ以上は言っちゃだめ!!』

エイスリン『……っ』

白望『駄目、なんだ……』フルフル

エイスリン(……どうして?)


エイスリン(神様が許されないから――――?)


・・・・・・

エイスリン(……甘い匂いがする……)

エイスリン「ん……」パチッ

エイスリン「ここは……」キョロキョロ

エイスリン「!!」


エイスリン(部屋の中に、庭園がある――――!?)

エイスリン(色とりどりの花が咲き乱れて……すごく綺麗……)


ゆみ「お目覚めですか、皇女」

エイスリン「あ、ゆみ……」

エイスリン「ここは、何処?」

ゆみ「W・Lの中にある秘密の花園です」ニコッ


・・・・・・

エイスリン「もぐもぐ…」

ゆみ「たい焼きがお気に召したみたいですね」クス

エイスリン「うん。日本に来たら一度食べてみたかったの」

エイスリン「でもシロが……ジャンクフードは駄目だって……」

ゆみ「……」

エイスリン(いつもいつも傍にいてくれた、私の大切な従者)

エイスリン「私はシロが好き」

ゆみ「……なのに私と寝るんですか」

エイスリン「汚れないといけないから」

エイスリン「綺麗なままじゃ、駄目なの……」

ゆみ「……いいですよ。皇女」フワッ

ゆみ「なら、優しく汚してさしあげます――――」

ゆみ(ほんのひと時でも、がんじがらめになった貴方の心が)

ゆみ(この体で癒されるなら――――)


エイスリン「あ……」ドサッ

ゆみ「大丈夫、何も怖くない」チュウ

エイスリン「んっ……」

ゆみ「目を閉じて」

ゆみ「ただ、感じていればいい……」クチュ

エイスリン「……っ」ビクン!



エイスリン(シロ……)


今回はここまでです。


・・・・・・

ゆみ「……きつかったですか?皇女」

エイスリン「ううん……でもビックリした。とっても気持ちよくて……」

ゆみ「それは良かった」

エイスリン「……ゆみ」

ゆみ「はい?」

エイスリン「あなたは優しいね。行為中、不慣れな私をずっと気遣ってくれてた」

ゆみ「……」


エイスリン(神の教えに背き、同性と交わることは罪深き汚れ)

エイスリン(そう思っていたけれど……)


エイスリン「あなたに抱かれて『汚れ』ようなんて、とても失礼なことでした」

エイスリン「ごめんなさい。どうか許してほしい」

ゆみ「……全く。素直すぎるのも危険ですよ。皇女」


ゆみ(帰したくなくなってくるじゃないですか――――)


・・・・・・

ゆみ「……」スタスタ

エイスリン「……」スタスタ

ゆみ「恐れながら、皇女」

エイスリン「なに?」

ゆみ「手と足が一緒に出てます」プッ

エイスリン「あ……///」カア

エイスリン「つい、これからのことを考えると緊張しちゃって……」

ゆみ「まぁ朝帰りですからね」

エイスリン「シロは怒るととても怖いから…」フルフル

コンコン・・・

ゆみ「失礼します」ガチャ

白望「………」ゴゴゴゴゴ

エイスリン「あわわわわ……」カタカタ

白望「……エイスリン」

エイスリン「はい……」

白望「その女と……寝たの?」

エイスリン「………」コクリ

白望「……どうしてそんな事を」

エイスリン「『寝る』のはそんなにいけない事なのかな……」

白望「当たり前。修道女になるあなたが何を言ってるの」

エイスリン「私は……修道院には行きたくない!」

白望「何で!毎日喜んで祈ってたじゃない」

エイスリン「あれは、嬉しかったから……」


エイスリン(あの日、シロから貰ったクルスが嬉しかったから――――)

エイスリン(私が10歳の誕生日を迎える前日)

エイスリン(待望の弟が生まれた)

エイスリン(初めての皇子の誕生に、父上の喜び様はすごかった)


白望『エイスリン?どうしたの、そんな隅っこで』

エイスリン『……ちょっとね。ねえシロ』

白望『ん?』

エイスリン『もう赤ちゃん見た?』

白望『……ん。さっき王様に付き添ってた時に』

エイスリン『そう……』

白望『ベビーベッドに、エイスリンが昨日王様から贈られるはずだったクルスがかかってた』

エイスリン『……お父様は、ずっと男の子が欲しかったんだって』

白望『私はエイスリンの方がいい』

エイスリン『……え?』

白望『あげる』スッ

エイスリン『このクルスは……シロの?』

白望『ん。大事なものだったけど、エイスリンにあげる』

エイスリン『……っ』パアッ

エイスリン『ありがとう、シロ……』


エイスリン(それがシロの父親の形見だと知ったのは)

エイスリン(ずいぶんと後になってからだった――――)

白望「大司教様もエイスリンにはお目をかけてくださってる」

白望「今なら神もあなたの過ちをお許しくださるはず」

ゆみ(過ち、か)

エイスリン「……」ジワッ

白望「っ!!」

エイスリン「……どうしてそんなに否定するの?」

エイスリン「この気持ちは神様を思うのと同じくらい、私にとっては尊いものなのに」

エイスリン「たとえ神様がお許しにならなくても構わない」

エイスリン「私は……シロが好き」

白望「……それ以上は、言っては駄目」

エイスリン「……っ」ポロポロ


・・・・・・

ゆみ「あの一途さに免じてちゃんと答えてやれば良いものを」

白望「……」

ゆみ「あーあ、可哀想に……冷たくされて皇女様トイレに引きこもってしまったぞ」

白望「……あなたには分からない」

白望「もう子供じゃない。過ちじゃ済まされない」

白望「何より、私達の信仰する神が許されない……」

ゆみ「それでも皇女は誰かさんを選んだ」

白望「…!!」

ゆみ「神に仕える喜びよりも」

ゆみ「遠い国の見知らぬ女に汚されてまで、好きな女の傍にいることを願った」

白望「……」

ゆみ「あんまり一途すぎて、この私でさえ最後まではできなかったくらいだ」

白望「……そんなこと、あの子の顔をみればすぐに分かったよ」


白望(ずっと一緒にいたんだ)

白望(ずっと……大事にしてきたんだ)

ゆみ「愛に優劣があるのか?」

ゆみ「女同士の何が悪い。お優しい神様なら少し位目を瞑ってくれるんじゃないか?」

ゆみ「背徳でも罪悪でも本気で好きなら抱き合えばいい」

ゆみ「それが最もシンプルで、一番幸せになる方法だと私は思うぞ」

白望「………」




エイスリン「さあ、飲んで飲んで飲みまくるよ!」

ゆみ「……このボトル、全部お空けになるつもりですか?」

エイスリン「ヤケ酒だから当然!」ゴクゴク

ゆみ(今度は吐かないでくださいよ……)

エイスリン「……私、ばかみたいだね」

エイスリン「自分の気持ちをシロに押し付けて、泣いて困らせて」

エイスリン「結局また拒絶されてしまった……」ポロッ

ゆみ「……皇女」スッ

ゆみ「こういうシチュエーションでは泣いては駄目ですよ」

エイスリン「……えっ」

ゆみ「さもないと、悪い女につけこまれますよ――――」チュウ

エイスリン「んっ……」

ゆみ「ん……、ふ……」グッ

エイスリン「んぅ……っ」ゴクン

ゆみ「……飲みましたね」

エイスリン「いったい何を……?」

ゆみ「今、あなたに魔法をかけました。さぁ目を閉じて――――」

エイスリン「……ん」スウッ


ゆみ(きっと、素敵な夢が見れるはず……)

エイスリン(……夢?)

エイスリン(夢でも、望みはただ一つ)

エイスリン(シロ……)



エイスリン「ん……」パチッ

白望「……」

エイスリン「……ふふ。本当に魔法だ」

エイスリン「目の前に、シロがいる……」ジワッ

白望「……エイスリン」

エイスリン「シロ、好き……好きだよ」

エイスリン「大好き……っ」

白望「……」

エイスリン「好きになって、ごめんなさい……」

白望「……ばか」

エイスリン「……えっ」

白望「ずっと我慢してたってのに……人の努力を簡単に無駄にして……っ」グイ

エイスリン「あっ……」ドサッ

白望「好きだよ……エイスリン」チュウ

エイスリン「ん……っ、んん……」チュ、チュ

白望「……はぁ」

エイスリン「シロ……」ギュウ

白望「優しくはできないから」クチュ…

エイスリン「んっ!……いいよ。ひどくしてもいいから」ハア…

エイスリン「いっぱいいっぱい、して」

白望「エイスリン……」グチュッ

エイスリン「あっ……!シロ……っ」ビクン!



エイスリン「好き、大好き――――…」



・・・・・・


・・・・・・

エイスリン「ゆみ、あなたには随分とお世話になりました」

ゆみ「ふふっ。良い笑顔になりましたね皇女」

エイスリン「あなたが魔法をかけてくれたお陰です」

エイスリン「本当に……ありがとう」ペコリ

白望「私からもお礼を。……ありがと」ペコリ

ゆみ「……お幸せに」ニコ



ゆみ(――――こうして皇女様は、幸せな笑顔とともにご自分の国へと帰られた)

ゆみ(きっと……未来は明るいものばかりではないだろう)

ゆみ(それでもあの皇女様ならお堅い従者を振り回し、何とかしてしまうに違いない)

ゆみ(神をも怖れぬ愛の力で――――)


カン

次は穏竜&咲智のダブルデート回です。



穏乃「ダブルデート!!」

竜華「愛してるで穏乃ちゃん」クチュクチュ

穏乃「……」ハアハア

竜華「穏乃ちゃんは?うちのこと愛してる?」クチュクチュ

穏乃「……」ハアハア

竜華「なぁ、穏…」クチュクチュ

穏乃「……あのですね」



穏乃「こうやって身体重ねてんですから言わなくっても分かるでしょう!!」


・・・・・・

竜華「相変わらずそっけないんやから穏乃ちゃんは」グスン

竜華「たった一言でいいのになぁ…」

穏乃(だって恥ずかしいんだもん///)

竜華「未だに一緒にお風呂に入ってくれへんし」

竜華「穏乃ちゃんから手マンもクンニもしてくれたことないし」

竜華「まぁ、うちはマグロの穏乃ちゃんも好きやけどな!」

穏乃「……っ///」カアアッ

竜華(真っ赤になっちゃって…ほんまかわええなぁ)

竜華「なぁ穏乃ちゃん。明後日いっしょに出かけへん?」

穏乃「お出かけ…ですか?」

竜華「せや。外で待ち合わせてビリヤードしようや」

穏乃「ビリヤード!?一度やってみたかったんです!!」パアッ

竜華「じゃあ決まりやな」


・・・・・・

穏乃(えっと、待ち合わせ場所ってココでいいのかな…)キョロキョロ

チャラ女A「ねーねーそこのあんた」

穏乃「えっ?私?」クルッ

チャラ女B「そうそう。ちょっとガス代たんなくてさぁ」

チャラ女A「私らに小遣いくんない?」

穏乃(げっ…これはもしや…カツアゲ!?)

穏乃「いや~、私いま小銭しかなくって…」アハハ

チャラ女A「もったいぶってねぇで出せよオラ」

コツコツ・・・

咲「……そこで何してるんですか?」

穏乃(女の子!?しかも私と同じくらいの)

チャラ女A「何だよお前、こいつのお仲間かぁ?」

チャラ女B「ああ別にあんたでも良いや。金くんねーかな」

咲「……」

チャラ女A「持ってるんだろう?金」

チャラ女B「さっさと出せよ!!」

咲「……嫌です」

チャラ女B「何だとぉ!?」

グイッ!!

チャラ女B「痛っ!!」

智葉「全く…いつまでたっても戻ってこないと思ったら…」ギリギリ

チャラ女B「いてえええっ!腕離せぇ!!」

智葉「ほらよ」ポイ

チャラ女A「くそっ、覚えてろ!!」ダダッ

チャラ女B「おいっ待ってくれよ」ダダッ

智葉「…何を変な輩に絡まれてるんだ、咲」

咲「智葉さん…」

穏乃「辻垣内さん!?」

咲「えっ?」

穏乃「ん?」

竜華「穏乃ちゃんごめんな、遅くなってもうて」タタッ

竜華「…って智葉!?」

智葉「竜華、何でお前がここに…」




智葉「…ったくバカが!進んでトラブルに巻き込まれる奴があるか!」

咲「ごめんなさい…」

智葉「カツアゲなんてされる方が間抜けなんだ。そんな間抜けは放っとけ」

穏乃「間抜けで悪かったですね!」

竜華「まあまあ。二人とも無事やったんやしもうええやない」

霞「そうですよオーナー」ニコッ

霞「いくら『仔猫ちゃん』が心配だからって、そう怒鳴ってばかりじゃ可哀想ですわ」

智葉「お前まで~~~…出所は憩か!?」

竜華「霞さん、お久しぶりやな」

霞「竜華さんもお変わりなく」

智葉「霞。オープン前に悪かったな」

霞「構いませんわ。オーナーの頼みですもの」

霞「今夜は貸切にしますから、お二人も気兼ねせず楽しんでいってくださいね」

穏乃「ありがとうございます店長さん!」

咲「どうも…」ペコリ

竜華「……で。智葉」

智葉「何だ」

竜華「いい加減彼女のこと、紹介してほしいんやけどな」

智葉「……わかった。訳あって今私の所に住んでる宮永咲だ」

咲「初めまして」ペコリ

智葉「こいつは友人の清水谷竜華」

竜華「どうも。さっきは穏乃ちゃんが危ないところをありがとうな」

咲「いえ…」

竜華「で、こっちが…」グイッ

穏乃「わわっ!」

竜華「うちのかわええ恋人、高鴨穏乃ちゃんや!よろしくな」

咲「えっ…恋人…?」

穏乃「……っ///」カアアッ



穏乃「竜華さんのバカああああああ!!///」


・・・・・・

智葉「あの小娘も相変わらずだな」ククッ

竜華「まあな。恥ずかしがり屋なとこが口説き甲斐あるで」

智葉「ふっ。マゾめ」

竜華「ところで智葉」

智葉「ん?」

竜華「高校生に堕とされるとか、うちと同じ穴のムジナやな」ニッ

智葉「…うるさい///」



穏乃「なあなあ。咲って言ったっけ」

咲「ん、何?」

穏乃「マジであの辻垣内さんと一緒に暮らしてんの?」

咲「そうだけど…」

穏乃「ええー!!大丈夫!?苛められてない!?」

咲「智葉さんはいい人だよ?」キョトン

穏乃「あの辻垣内さんが…いい人っ!?」

咲「うん。硬派で格好いいし大人で優しいし」

咲「私、あの人には凄くよくしてもらってるから…」

穏乃「ふ、ふ~ん…そんなに好きなのかぁ…」

咲「…うん///」

穏乃(わっ、照れてる…可愛いな)

咲「…今日だって」

穏乃「ん?」

咲「私、年明けから色々あって…全部片付いたのってここ最近のことで」

咲「そしたら智葉さんが『よく頑張ったな』って言ってくれて」

咲「仕事だって忙しいのに、わざわざ私のために時間つくって遊びに連れ出してくれたの」

穏乃「…そっか」

咲「あ…、私ったら初対面の人にべらべらと…ごめんなさい」

穏乃「ううん。私と咲はもう友達だろ?」

咲「えっ…う、うん///」

穏乃「ん?何でそんなに照れてるんだ?」

咲「わ、私…同年代の友達ってずっといなかったから…」モジモジ

穏乃「…ああもうっ!!そんな可愛い反応されるとこうだぞっ!!」ガバッ!

咲「きゃっ!急に抱きつかないで高鴨さんっ」

穏乃「穏乃だよ」

咲「…穏乃ちゃん///」

穏乃「そう。咲、向こうで一緒にビリヤードやろう!」

咲「…うんっ」


・・・・・・

穏乃「うりゃっ!!」ペシッ

コロコロ・・・

咲「……」

竜華「……」

智葉「ブレイクもできんとは。話にならんな」

穏乃「ぐぬぬ…初心者なんだから仕方ないでしょう!」キッ

智葉「いいか小娘。ブレイクってのは…」カタン

智葉「こういうことだ!」ドンッ!

ガコンッ!!・・・ゴトン、ゴトン・・・

智葉「ブレイクショット。ま、基本だな」

咲(智葉さんカッコいい///)ポー

智葉「ちなみに曲打ちまで出来るぞ?」ニッ

穏乃「…っ」ムッ


穏乃「竜華さん!辻垣内さんと勝負してください!!」

竜華「えっ?うちが?」

穏乃「あの高慢ちきをギャフンと言わせてやりたいんです!!」

竜華「でもなぁ…智葉は下手なプロより上手いねんで。うちも過去2回位しか勝ったことないし」

穏乃「そんなの気合で何とかなりますって!3度目の正直とも言いますし!」

竜華「それ使い方違うんじゃ…ま、そうやな」

竜華「何かご褒美くれるってんならやってやってもええかな~」

穏乃「よっし!!じゃあ勝ったら何でもいう事聞いてあげます!!」

竜華(勝ったらなんでも勝ったらなんでも勝ったらなんでも勝ったら何でも勝ったら…)モンモン


竜華「…そういうことやから今回ばかりは勝たせてもらうで智葉!!」カッ!

智葉「いいぞ、受けてやる。ゲームは何にする?」

竜華「1回だけのコールシャットや!」

竜華「ただし自分でコールするんじゃなく、相手のコールに従ってポケットに落とすこと」

穏乃「コールシャット?」

霞「球をポケットに落とす時に入れる、球とポケットをコール(指名)して落とすゲームよ」

霞「この場合、コールどおりにポケットの入らなければ負けってことになるわ」

竜華「じゃあ智葉、11をここへ」

智葉「ああ」

穏乃「…」ドキドキ

咲「…」ドキドキ

智葉「よし…ここだ」ドン!

コッ・・・

智葉「ちっ。少しずれたか」

穏乃「ほっ」

穏乃(これで落とせば…竜華さんの勝ちだ!!)

智葉「3を左のポケットに」

竜華「オッケー」

穏乃「…」ドキドキ

竜華「…ん、ここやな」ドン!

コッ・・・トンッ・・・

穏乃(入れ~~~!!)

スッ・・・ガコン!

穏乃「やったああああ!!竜華さんの勝ちだ!!」パアアッ

智葉「あんな簡単な手も読めないとは…小娘がビギナーで良かったな」ボソ

竜華「ありがとな、智葉。今度飲みに行く時は奢るわ」ボソ



穏乃「うおお!!たくさん遊んだあああ!!」

咲「ふふ。楽しかったね」

智葉「おい小娘。あんまり夜の街中でデカイ声出すなよ」

竜華「はしゃいでる穏乃ちゃんかわええなぁ」

穏乃「咲、また今度遊ぼうな!」

咲「うん、穏…」ハッ

チャラ女A「おらあああああっ!!」ダダダダ

咲「危ない智葉さんっ!!」バッ

智葉「咲!?」

チャラ女B「さっきの仕返しだコラ!!」ブンッ

穏乃「うわあっ!!バッド振り回さないでっ!!」ヒー

智葉「さっきのチンピラか!このっ…」ドゴッ!

チャラ女A「ぐえっ!」

竜華「よっと」ドゴッ!

チャラ女B「ごふっ!」

智葉「リベンジは相手をよく見てからやるんだな」ギロッ

チャラ女A「やべっ…こいつら強すぎ…に、逃げるぞ!!」ダダダ

チャラ女B「ま、待ってくれよ姉御おおお!!」ダダダ


竜華「ふ~…、穏乃ちゃん怪我はないか?」ナデナデ

穏乃「えっ…う、うん…///」

智葉「咲…このバカ!!」

穏乃(な、何だ!?)ビクッ

智葉「私を庇ってるヒマがあったらまず逃げろ!!」

咲「だって…びっくりして…、とっさだったし…」

智葉「バカ…、ビックリしたのは私の方だ…」ギュッ

咲「智葉さん…」ギュッ

穏乃(……何だか)

穏乃(見てはいけないものを見てしまった気がした…///)




竜華「穏乃ちゃんお風呂あがったで」フキフキ

穏乃「はい…ねぇ竜華さん」

竜華「何や?」

穏乃「あの二人って、デキてるんでしょうか」

竜華「ん~、どうやろなぁ…気になるん?」

穏乃「はい、少し。でも本人にはさすがに聞けないしなぁ」ウーン

竜華「まぁ、二人だけの秘密もあるやろうしな」

穏乃「そうですね」

竜華「…ところで穏乃ちゃん」

穏乃「はい?」

竜華「さっき言ったこと、忘れてへんやろうな?」ニッ

穏乃「へっ?」

竜華「ビリヤードで勝ったら何でもいう事聞いてくれるって言ったよなぁ」ニヤニヤ

穏乃「…っ!!」ハッ

竜華「さあ穏乃ちゃん…、今日は遠慮せんといかせてもらうで…」

穏乃「お…、お手柔らかにお願いします…」ダラダラ

竜華「穏乃ちゃあああああん!!」ガバッ!

穏乃「わあああああっ!!」


カン!

次からはまた咲と智葉のターンです。
2人の仲が進展する…はず



咲「いちばん大切なもの」

郁乃「宮永咲、16歳」

郁乃「四年前の冬に家族を事故で亡くして以来自活」

郁乃「昨年の冬、住んでいたアパートを焼失」

郁乃「現在に至るまで辻垣内智葉と同居中」

トシ「……辻垣内?」

郁乃「はい。あの『辻垣内』です。会長――」


・・・・・・

友香「宮永さん?」

咲「…え?」クルッ

友香「やっぱり宮永さんでー!」

咲「あ、もしかして森垣さん?」

友香「覚えててくれたんでー。隣のクラスの編入生って宮永さんのことだったんでー」

友香「中一以来でー。宮永さん急に転校しちゃうから」

友香「あれからどうしてたんでー?あんな事故でよく生き残れたってみんなで……っと」

咲「いいよ。気にしてないから」


憩「おーい!咲ちゃーん!」ブンブン

智葉「憩、校門前で大きな声を出すな」

咲「あ、先生!智葉さんも…」

憩「迎えにきたで。今日うちで編入のお祝いするって言ってたやろ?」

咲「はい」

憩「でも良かった。制服もサイズぴったりやね」

咲「合格祝いに制服までプレゼントしてもらって…ありがとうございます、先生」

憩「うう~ん、それじゃ足りないなぁ」

咲「えっ?」

憩「『先生ありがとう♪』って言ってギュッと抱きついてくれへんとな」ニッ

智葉「!?」

咲「えっ…でも、あの…///」

憩「やっぱ態度で示してくれへんとな。なぁ咲ちゃん」カモーン

咲「せ、先生ありがとう…///」ギュッ

憩「はい、どういたしまして♪」

智葉「……いい加減にしろ。憩」

憩「なんや?妬いてるんか智葉」

智葉「時と場所を考えろって言ってるんだ!」

友香「」ジー

咲「あ、森垣さん…」

憩「咲ちゃんのお友達?」

友香「は、はい!」

憩「これからも咲ちゃんをよろしくね」ニッコリ

友香「はい…///」ポー

咲「じゃあね、森垣さん」

友香「うん。また明日でー」



憩「舞い散る桜の花びら…うーん、風流やな」

咲「そうですね」


咲(先生に智葉さん)

咲(今まで会ったどんな大人の人よりも尊敬できる人たち)

智葉「ん?咲、唇に花びらがくっついてるぞ」スッ

咲「あ…」

智葉「ほら。取れた」

咲「…ありがとうございます///」


咲(この人にふさわしい人間になりたい)

咲(そしていつか……私がこの人を誇りに思うように)

咲(智葉さんに誇りに思ってもらえるような、そんな人間になりたい――――)


・・・・・・


・・・・・・

咲「おはようございます」ガチャ

店長「おはよう咲ちゃん」

華菜「おはようだし!」


咲(バイトもそのまま続けている)

咲(居心地も良いし、店長の奥さんは育児でまだまだ忙しい)

咲(それに、智葉さんにお世話になっている分を少しでも返すためだ)


・・・・・・

智葉「咲、ベッドの上のジャケットをクリーニングに出しておいてくれ」

咲「はい。これからまたお仕事ですか?」

智葉「ああ。遅くなるから先に寝てろ」

咲「わかりました。行ってらっしゃい」

バタン・・・

咲「えっと、ベッドの上のジャケットは……あ、これだ」

フワッ・・・

咲(智葉さんの匂いがする……)

咲(トワレの『エリート』、生意気な名前だって先生がからかってたっけ)

パフッ

咲(智葉さんのベッドからも、タバコとトワレの匂い)

咲(凄く落ち着く、心地の良い匂い)

咲(智葉さん……)


・・・・・・

智葉「ただいま」ガチャ

智葉(ん、ソファに咲の姿がない……?)

キィ・・・

智葉「咲……?」

咲「…」スースー

智葉「私の部屋にいたか」

咲「…」スースー

智葉(細い肩……髪も随分と伸びて)

智葉(以前よりも穏やかな顔で眠るようになったな)

咲「ん……智葉さ……」

智葉「ん?何だ咲」

咲「…」スースー

智葉「……寝言か」

咲「…」スースー

智葉「咲……」チュッ

咲「…」スースー

智葉「…」スッ

ガチャ、パタン・・・

智葉「……寝込みを襲うなんて、我ながららしくない事をしているな」ハア



咲「ん……」

智葉「咲、いい加減起きないと遅刻するぞ」

咲「……あっ!」ガバッ

咲(も、もう朝っ!?)

咲(私あのまま寝ちゃったんだ!!///)カアアッ

智葉「ほら、朝飯だ」

咲「いただきます……」

智葉「ああ」

咲(勝手にベッドを占領してずうずうしく寝ちゃって……)

咲(しかも智葉さんのジャケットを握り締めてたのまで見られちゃった///)

智葉「ほら、早く食べないと本当に遅刻するぞ」

咲「は、はいっ」パクパク

咲(智葉さん、何とも思ってないのかな……)



咲「じゃあ、いってきます智葉さん」ガチャ

智葉「ああ」


・・・・・・

友香「おはよー咲」

咲「おはよう友香ちゃん」

友香「昨日は夜更かししたんで眠いんでー」

咲「ああ、課題多かったもんね」



郁乃「……間違いあらへんな」

郁乃「彼女が宮永咲―――」



プルルルル・・・

智葉「はい……ああ誠子か。今から出るところだが」

誠子『オーナー!申し訳ありませんが至急来ていただけませんか!?』

誠子『私一人ではどうにも対処しきれなくて……』

智葉「どうした、何があった!?」

誠子『それが……』



智葉「何!?W・Lの会員が強請られただと!?」

郁乃「あの~、すんません」

咲「はい?」

郁乃「宮永咲さんやね」

咲「えっ?そうですけど……」

郁乃「やっぱそうやねんな!お迎えに参りましたで~」

咲「お迎え?……いったい何を言ってるんですか?」

郁乃「あんたのお祖母様のご命令で、あんたをお屋敷へとお連れする様仰せつかって参ったんや」

咲「えっ……」

郁乃「ほな、いきましょか。お祖母様がお待ちやで~」

咲「……お祖母様?」

咲「あいにく生まれてこのかた、そんな人に会ったことはありません」

郁乃「まぁ突然やしな。あんたが信じられないのも無理はないで」

咲「今さら…お祖母さんがいようがいまいが私には関係ありません」

咲「では失礼します」クルッ

郁乃「ええの?辻垣内智葉がどうなっても」

咲「!?どういう意味ですか」

郁乃「…どうやらあんたは何も知らへんらしいな」


郁乃「辻垣内のことも、あんた自身のことも――――」

今回はここまでです。


・・・・・・

誠子「オーナー!こちらです!」

智葉「誠子、強請られた会員の名前は!?」

誠子「それが…」

智葉「かなりのVIPか?」

誠子「はい…、実は小鍛冶先生なんです」

智葉「!!」



健夜「これが今朝、うちのポストに投げ込まれてた脅迫文だよ」スッ

健夜「ご丁寧に写真付きで。黙ってほしければ五千万払えと言ってきた」

智葉「……」

健夜「しかも脅してきたのは誰だと思う?」

健夜「なんと、あの藤田さんだよ」

智葉「…!!」

健夜「例の白築さんが捕まった所為で社長は首」

健夜「会社も他人に明け渡して一家離散したらしいけど」

健夜「身の程知らずにも、この私を強請ろうなんてね」

健夜「余程お金に困ってるらしい――――あるいは怨恨か……」

智葉「……」

健夜「秘密厳守はW・Lの原則」

健夜「どんな理由があろうと会員を守るのが、オーナーである智葉のお仕事だよね」

智葉「もとより承知。――――で、金の受け渡し日時は?」

健夜「本日午後3時 ホテルキャッスル東京507号室」

健夜「現金で1千万円 残りは銀行振り込みとのこと」


・・・・・・

靖子「まさか、あの時宮永のガキと一緒にいたあんたがオーナーだったとはな」

智葉「……」

靖子「で、金はちゃんと持ってきたんだろうな?」

智葉「……失礼だが藤田さん。あなたは何か勘違いされているようだ」

靖子「何だと!?」

智葉「私はあなたに金を払うつもりでここに来たわけじゃない」

靖子「なっ…バラされてもいいってのか!?」

靖子「元政界のお偉いさんが女買ってたなんて大スキャンダル、マスコミに売っぱらったら…」

智葉「出来るものならやってみろ」

智葉「ただしその場合、こちらは恐喝及び名誉毀損で告訴させてもらう」

靖子「…!!」

智葉「あんたのことだ、叩けば余罪の一つや二つ出てくるだろうし到底裁判でも勝ち目はないだろう」

智葉「務所で老後のひと時を楽しむのもまた一興だな」

靖子「くっ…」ギリッ

智葉「マスコミに売りたきゃ売ればいい。ただし今後日本で生きていけると思うなよ」

智葉「あんたはそれだけの人物に喧嘩を売ったんだからな」

靖子「…っ!!」

智葉「さあ、どうする?」

智葉「これでもまだあんたは金が欲しいと言うのか――――?」

靖子「あ……」カタカタ



智葉「誠子、念の為今後の藤田の動きもチェックしておいてくれ」

誠子「かしこまりました」

靖子『ネタの提供者!?私も分からないんだ』

靖子『郵便受けに写真と一緒にネタと計画書が入ってたんだ』


智葉(普通なら藤田ごときにW・Lの存在がバレることはない)

智葉(会員同士は不可侵の誓約があるから、まず他人を売らないし売れない)

智葉(関係者も先代から忠誠を誓っている者たちばかりで裏切りは皆無だ)


智葉(W・Lの存在を知りつつ、なおかつ正面から喧嘩を売れる人物……)

智葉(余程の権力者が裏で動いてるってことか――――?)



えり「会長。やはり藤田は役に立たなかったそうです」

トシ「もとより期待してないよ。それより咲の方には接触したのかい?」

えり「はい。今朝に赤阪が」


トシ「じゃあ、例の件を進めておくれ――――」


・・・・・・


・・・・・・

智葉「帰ったぞ」ガチャ

智葉「…ん?咲、帰ってないのか?」パチッ

咲「……あ」

智葉「何だ、いるなら明かりくらいつけろ」

咲「ごめんなさい…」

智葉「どうした?具合でも悪いのか?」

咲「……これ」スッ

智葉「ん?…戸籍謄本?」

咲「私…、家族みな死んじゃって、ずっと独りだって思ってたのに」

咲「本当はお祖母さんがいたんだって…」

智葉「!!会ったのか!?」

咲「ううん、使いの人が来て…私にこれを読めって…」

智葉「……」

咲「私のこと引き取って、一緒に暮らしたいんだって」

咲「今までずっと放ったらかしにしてきたくせに…」

智葉「祖母…一体誰が…」チラ


智葉「――――熊倉トシ!?」


ブルルルル

智葉「私だ。どうした」

智葉「…………分かった。すぐに行く」ピッ


智葉「咲、出かけるぞ。辻垣内の本家の方にお祖母さんの迎えが来てるそうだ」

智葉「お前と話がしたいらしい」

咲「………私、行きたくないです」フルフル

咲「智葉さんとここにいたい!」

智葉「バカ、誰も出て行けとは言ってないだろう」ポン

咲「あ……」

智葉「話をしに行くだけだ。それに以前言っただろう」


咲『私…、一緒にいていいの?』

智葉『ずっといろ。…私のそばに――――』


・・・・・・

郁乃「夜分の訪問失礼します」

郁乃「主人の熊倉の命によりお伺いしました、赤阪と言います」ペコリ


憩「……で?要するに熊倉さんは、咲ちゃんを引き取って跡取りにしたいと仰る訳ですか」

咲「……」

智葉「……」

憩「ですが今さら都合がよすぎるとは思いませんか?」

郁乃「それはごもっともです」

郁乃「こちらの皆様には大変お世話になっている様子ですし」

郁乃「それなりの御礼はもちろんさせて頂きます」スッ

憩「(小切手…)あいにくですが、うちもお金には困っておりませんので」ビリッ

憩「それに跡取りなら1年前に養子を取られたと聞いてますが」

郁乃「さすがはよくご存知で」

郁乃「一人娘の咲母を、熊倉はとても大事にしておりました」

郁乃「それゆえ咲父と駆け落ちされた時は怒りと悲しみで咲母を勘当されてしまった」

咲「……」


咲『ねえねえお母さん』

咲母『なあに?咲』

咲『おむかいのモモちゃんにはお祖父ちゃんもお祖母ちゃんもいるのに、どうしてうちはいないの?』

咲母『お父さんもお母さんも一人だったからよ』

咲『天国に行っちゃったの?』

咲母『……そうね。もう会えないの……』


咲(お母さん……、そういうことだったんだ……)

郁乃「ですが熊倉ももう年ですし、加えて咲ちゃんは咲母の忘れ形見でもあります」

郁乃「引き取りたいという気持ちも道理。何とぞご理解いただけないでしょうか」

咲「……あの、すみませんけど私……」

郁乃「咲ちゃんと二人で少々お時間いただけないでしょうか?」

咲「あ……」

郁乃「皆様の前では遠慮して言いづらい事もあるでしょうし」

郁乃「熊倉からも伝言を言付かってまいりましたので」

智葉「……分かった」



郁乃『少しは考えてもらえたかいな?咲ちゃん』

咲『……』



憩「さっきの部屋に盗聴器仕込んでおいたんや。これで会話が盗み聞きできるで」

智葉「……お前な」ハア

智葉「熊倉トシ。熊倉開発社長」

智葉「一代で日本屈指のリゾート開発王にまでのし上がったエリート、か……」

憩「まさかそんな大物が出てくるなんてな」

憩「やっかいやな……熊倉相手じゃ辻垣内といえど分が悪いわ」



郁乃『で、咲ちゃん。一緒に熊倉に来てもらえるかいな』

咲『……お断りします』

郁乃『……』

咲『今さらお祖母さんがいるって分かっても、私にはもうどうでも良い。自分の力で生活していきます』

郁乃『自分の力?辻垣内の力の間違いやあらへん?』

咲『!!』

郁乃『あんたのような子供が当たり前のように私立の名門校に通い、まっとうな生活ができるんは…』

郁乃『全て辻垣内の後ろ盾があればこそやろ』

咲『……』

郁乃『でも、それは汚れた力や』

咲『!!』

郁乃『辻垣内智葉が何をしているのか知ってるん?』

郁乃『会員制のデートクラブなんてキレイ事言っとるけど、ようは売春の斡旋や』

郁乃『人身売買。最低の行為やとは思わへんか?』

咲『…っ』

郁乃『他人の秘密を握り美味しい蜜を吸う。これ以上ないスキャンダルを切り札に持ってるんや』

郁乃『誰も辻垣内には逆らえへん』

咲『違います!智葉さんはそんなのじゃない!』

咲『好きでやってるんじゃないんです!智葉さんは…!』

郁乃『それでもデートクラブのオーナーという事実は変わらへん』

咲『っ!!』


智葉「……」

郁乃『このことが世間やマスコミに知れたら辻垣内は身の破滅や』

咲『あ……』

郁乃『そんな輩の傍に大事な孫娘を置いてはおけないと、お祖母様も大変ご立腹や』

郁乃『ただ咲ちゃん。あんたが自分の元へ来るのなら、辻垣内のしている事については不問に付すそうや』

咲『!!』

郁乃『お祖母様と暮らすか、それとも恩を仇で返すか』

郁乃『どっちにするのが良い判断なんか、あんたはもう分かっとるはずやで』

咲『………』



智葉「――――くそっ!!」ガシャン!

憩「智葉……」


・・・・・・

咲(たった一日……)

咲(なのにもう、昨日までの朝はどこにもない)

咲(いつだって世界は大人を中心に回ってるんだ)


智葉「咲。ここにいろ」

咲「智葉さん……」

智葉「お前が本当に、自分がいたい場所を選んでいいんだ」

咲「私、は……」

智葉「お前の我がままなら聞いてやる。言ってみろ」

咲(私……、私の望みは……)

咲「…っ」ギュッ



咲「私、お祖母さんの所へ行きます――――」

智葉「……」

咲「唯一の身内ですし、一緒に暮らすなら血の繋がった家族の方がいいと思って」

咲「それに、これからは生活の面倒も全部みてくれるんだって」

咲「無理してバイトしなくても…お金の心配もしないで済むし…っ」フルフル

智葉「分かった。咲、もういい」

咲「智葉さんに気使って同居続けるのも…どうかと思いますし…」フルフル

智葉「咲…っ」グイッ

咲「…っ」

智葉「もういい、咲…ちゃんと分かったから…」チュウ

咲「んっ…」



咲(このキスを最後の思い出に)

咲(私は智葉さんの家を出ていった――――)

今回はここまでです。


・・・・・・


咲(子供の頃)

咲(長い休みには必ず祖父母の家に遊びに行くという友達を羨ましいと思った)



郁乃「会長。咲ちゃんをお連れしました」

トシ「待ちかねたよ。……咲」



咲(はじめて会う祖母。でも私には)

咲(ただの他人としか思えなかった――――)

トシ「早速だけど明日からこの熊倉を継げる様、一通りの帝王学を身に付けてもらうよ」

咲「……学校とバイトがあります」

トシ「そんなものは必要ないよ。学業から礼儀作法に至るまで、全て家庭教師を用意してある」

トシ「それと小遣いなら毎月口座から好きなだけ使うといいよ」

咲「もう跡継ぎはいるんでしょう?」

トシ「あの子はまだ幼い。跡を継ぐには時間がかかりすぎる」

トシ「とにかくお前は私の言う通りにすればいい。わかったね」

咲「……はい」



郁乃「本日よりこちらに住むことになった宮永咲さんや。皆、心してお世話してな」

咲「……どうも。よろしくお願いします」


マホ「出ていってください!!」バタン!

咲「……え?」

マホ「突然現れたあなたなんかにマホの居場所は渡しません!!」

煌「マホお嬢様、何てことを…」ハラハラ

マホ「…っ」ダッ

煌「あ、お嬢様!お待ちください!」ダッ



咲「……彼女が養子の?」

郁乃「せや。マホお嬢様もあんたがいると自分の立場が危ういのが分かるんやろな」

咲「私は跡なんて継ぎません」

郁乃「今さらゴネてもしゃあないやろ」

郁乃「辻垣内の元へ戻ればあんたの存在は、ただ迷惑をかけるだけやで」

咲「…!!」

郁乃「大事な辻垣内のためにも、あんたはここで生きていくしかないんや」

咲「……っ」

郁乃「それからこの鍵……」スッ

咲「それは…智葉さんの家の鍵!返して!!」

郁乃「嫌や」ポイッ

咲「あっ!!」

郁乃「こんなもん、もういらんやろ」

咲「窓の外に捨てるなんて…ひどい…」ギリッ

郁乃「もう辻垣内のことは諦め」

咲「……」

・・・・・・


・・・・・・

コンコン・・・

咲「失礼します…」ガチャ

使用人「まぁ咲様!こんな厨房まで…」

咲「お茶ご馳走様でした。美味しかったです」

使用人「言って下されば下げに伺いましたのに」

咲「いえ。ついでがあったので」

咲「…ところで、電話なんですけど。外線はまだ駄目なんでしょうか」

使用人「あ…、申し訳ございません。トシ様がまだ暫くは駄目だと」

咲「そうですか…」

使用人「あの、お許しが出たらすぐにお知らせしますから」

咲「ありがとうございます…」


咲(ここに来て一週間、まだ電話も繋げてもらえない、か…)


・・・・・・

使用人「でもさ、何で電話も駄目なんだろうね?」

使用人B「さあ?でもマホお嬢様の事どうするんだろ」

使用人「トシ様も最近お忙しくてほったらかしだしね」

使用人C「やっぱり実の孫の方が可愛いとか?」

使用人「しかも咲様って優秀なんでしょ?」

使用人B「みたいね。高校も凄い所通ってたらしいし、家庭教師もベタ褒めって話らしいわよ」

使用人C「ご飯の食べ方なんかも綺麗だしね。どことなく品があるっていうの?」

使用人「大きな声じゃ言えないけど、マホお嬢様はしょせん養子だしねぇ」

使用人B「出所の分からない子供より、よっぽど跡継ぎに相応しいってもんじゃない?」

使用人C「だよねぇ」


マホ「………」

煌「あ、お嬢様お帰りなさいませ。こんな所でどうしましたか?」

マホ「あんな使用人クビにしてやります!!」ダッ

煌「お嬢様!?」



マホ「お祖母ちゃ…」キイ

トシ「咲の様子はどうだい?」

えり「なかなか優秀なようです。諦めたのか、今のところ大人しくしているようですし」

トシ「来月には正式な後継者として役員に顔見せするよ。それまでにちゃんと教育しておくように」

えり「かしこまりました」


マホ「あ……」


・・・・・・

トシ「マホはまだ来ないのかい?」フウ

使用人「申し訳ございません…」

使用人B「今晩はトシ様も久々にご一緒の夕食だと、何度もお呼びしてるんですが…」

トシ「もういい、興がそがれたよ。食事は部屋でとるから、えりにそう伝えておくれ」

使用人「かしこまりました」

トシ「咲、お前がマホを呼んできなさい」

咲「……」

トシ「お前たちには仲良くやってもらわないと困るんだよ」

トシ「内輪もめなんぞ外にバレたら熊倉の信用もガタ落ちだ。分かったね」

咲「……はい」


咲(仲良く?自分で火種を作ったくせに、そんなこと本気で思ってるんだろうか)

コンコン・・・

咲「夕飯の時間だよ。早く来ないと…」ガチャ

マホ「勝手に開けないでください!」

咲「……」

マホ「あなたが来なきゃ…、あなたが…」チキチキ

咲「……」

マホ「あなたなんて…大っ嫌いです!!」ザシュッ!

咲「つうっ…!」

マホ「あはっ!ザマーミロです!カッターだってよく切れるんで…す…」

咲「ぅ…」ドクドク

マホ「あ……っ」カタカタ

バタン!

使用人「きゃあああ!咲様っ…」

使用人B「早く!誰か医者を…!!」


・・・・・・

医師「神経まで傷つかなくて幸いでしたね」

医師「でも暫く動かしたり無理しないようにしてください」

咲「ありがとうございました」



煌「マホお嬢様」ガチャ

マホ「……」

煌「お医者様は帰られましたよ。10針も縫ったので暫く安静らしいですけど」

煌「若いからすぐに治るし、痕も残らないだろうとおっしゃってました」

マホ「……」

煌「お嬢様?もう眠ってしまわれましたか?」

マホ「……」


・・・・・・

咲(ここにもない、か…)ガサガサ

マホ「……」コソッ

咲「…何か用?」

マホ「…っ」ビクッ

咲「……」ガサガサ

マホ「こ、こんな夜更けに何してるんですか?安静にしてなくて良いんですか」

咲「…探し物だよ」

マホ「そんなの昼間にすれば良いじゃないですか」

咲「昼間はスケジュールがびっしり詰まってて無理なの」

マホ「だ、だったら誰かに探させれば…」ズルッ

咲「!!」

マホ「きゃあっ!!」

咲「危ない!!」ガシッ

どさっ

咲「つうっ!」

マホ「あ…だ、大丈夫ですか?」

咲「…大丈夫」

マホ「っ…、ごめ、なさ…」

マホ「カッターであんなに切れるとは思わなくて…」ポロッ

マホ「血がどくどく出てきて…全然止まらなくて」ポロポロ

咲「……」

マホ「あんなに怪我させる気なんて、なかっ…」ポロポロ

咲「…誰かを傷つけるとね。必ずその痛みはいつか自分に返ってくるんだよ」

咲「体の傷は治るけど、心が痛いのはなかなか治らないから」

咲「だから、もうああいうことは二度としちゃ駄目だよ」

マホ「はい…ごめんなさい」

咲「ん。いい子だね」ナデナデ

マホ「…///」カア

マホ「…ねぇ。咲さん」

咲「なに?」

マホ「お祖母ちゃんの跡、継ぐんですか?」

咲「…継がないよ」

マホ「でもお祖母ちゃんが…」

咲「関係ないよ。私は大事な人のためにここに来ただけ」

マホ「大事な人?」

咲「そう」コクッ


咲(嬉しい時、辛い時、悲しい時)

咲(いつも心に浮かぶのは失くした家族だった)

咲(それが智葉さんに変わったのはいつからだっただろう…)

咲(ただ一緒にいられるだけで嬉しかった)

咲(大好きで、大切な人)


咲(智葉さん……会いたい)


郁乃『辻垣内の元へ戻ればあんたの存在はただ迷惑をかけるだけやで』

郁乃『大事な辻垣内のためにも、あんたはここで生きていくしかないんや』


咲(智葉さん――――)


・・・・・・


智葉「……」カチカチ

憩「頭使ってる時はタバコ控えた方がええで、智葉。脳機能が低下する」

智葉「…そんなことは分かってる」カチカチ

憩「誠子も心配しとる。ちゃんと帰って寝てるんか?」

智葉「……」カチカチ

憩「電話は?相変わらず繋げてもらえないん?」

智葉「……ああ」カチカチ

憩「咲ちゃんが出ていってもう2週間。辻垣内の名前を出されてあんたが黙ってるはずないやろ」

憩「どうしたん?いつになく消極的やない。相手が熊倉じゃ手も足も出えへんか?」

智葉「別に関係ない。それに叩けるだけのネタはもうとっくに揃ってるしな」

憩(…確かに。不正、闇献金、横流し、裏帳簿まで調べてある…)チラ

憩(これがメディアに流れれば熊倉のダメージは相当なものになるはず)

憩(なのに何故動かないんや?あんたらしくないで、智葉)


憩(真の切り札は……熊倉の手の内)

憩(囚われの身のお姫様、か――――)

今回はここまでです。


・・・・・・

マホ「咲さん!お庭にいたんですか」タタッ

咲「ん…」ガサガサ

マホ「部屋にいないと思ったら、また鍵探してるんですか?」

マホ「ちゃんと待っててって言ったのに…」ブツブツ

咲「…それよりも先に言うことがあるよね?マホちゃん」

マホ「え?」

咲「今朝私にこう言ったよね。今日は早く帰ってくるからお昼食べずに待ってて、って」

マホ「うっ…」

咲「さて、今は何時でしょう」

マホ「に、二時…です…」ゴニョゴニョ

咲「はぁ…。じゃ、ご飯にしようか」

マホ「本当に待っててくれたんですか?」

咲「うん。約束したしね、それに一人で食べるの嫌なんでしょ?」

マホ「は…はいっ!!」パアッ

使用人「どうそ、昼食です」

咲「ありがとう」

マホ「うえ…ピーマン嫌いです…」ノケノケ

咲「マホちゃん、出されたものは全部食べようね」

マホ「うう、はぁーい…」

使用人「くすくす」



マホ「ごちそう様でした!」タタッ

使用人「ふふ。すっかり懐かれちゃいましたね咲様」

咲「…ごちそう様です」ニコ


コンコン・・・

マホ「咲さん、遊びにきました!」ガチャ

咲「今勉強中なんだけど…」

マホ「ちょっとくらい良いじゃないですか。ねぇ、明日遊園地に行きませんか?」

咲「びっしりと予定が詰められてて無理だよ」

マホ「ええーっ」

咲「仕方ないでしょ。あなたのお祖母さんにスケジュールを決められてるんだから」

マホ「……」シュン

咲「……まぁ、来週なら行けるかも知れないけど」

マホ「ほんとですか!?」パアッ

マホ「絶対ですよ!お祖母ちゃんの会社が作った遊園地なんです!」

咲「へぇ…」

マホ「でも私が大人になったらお祖母ちゃんの跡を継いで、TDLよりも大きな遊園地を作るんです!」エッヘン

咲「…それは楽しみだね」

マホ「咲さんはうちで暮らすの嫌なんですか?」

咲「私がいると嫌なのはマホちゃんの方でしょ?出てけとか言ってたじゃない」

マホ「うっ…」

マホ「あ、あの時はよく知らなかったし…それに」

咲「それに?」

マホ「何だかお祖母ちゃんを取られそうな気がしたから///」

咲(…かわいい)

マホ「で、でも今は違います!お祖母ちゃんにも言われてるし…」

マホ「でも社長になるのは私ですからね!!」ビシッ!

咲「…はぁ」

ばたん!

咲(…マホちゃんを見てると昔の自分を思い出すな)

咲(だからかな…何となく目が離せないのは)

咲(広い部屋、暖かいベッド、美味しいご飯)

咲(自分にかしずく使用人、いくらでも自由になる小遣い)

咲(一人で生きてた頃は欲しくてたまらなかったのに)

咲(今は何の魅力も感じない…)


咲(智葉さん――――)

咲(毎日智葉さんのことばかり考えてる)

咲(会いたい……)

咲(贅沢な暮らしなんていらない。智葉さんに会いたい)


咲(望みはただ、それだけなのに――――)


・・・・・・

憩「智葉、はいこれ。プレゼントや」スッ

智葉「これは…」

憩「それが熊倉が咲ちゃんを欲しがった理由ってやつや。連れ戻すなら早いほうがええ」

智葉「……本当にそう思うか?それは咲にとって良い事なのか?」

憩「智葉……いったい何を躊躇しとるん?」

憩「熊倉を敵に回すこと?それとも咲ちゃんの将来?」

智葉「……」

憩「ずっと大事にしてきたのに、横取りされて黙ってるあんたじゃないやろ?」



智葉(そういや以前に竜華も言っていたな…)

智葉(大人でも子供でも、本当に欲しいものがあったらなりふりなんて構ってられないって)


智葉(……じゃあどうすれば良かったんだ)

智葉(エゴ丸出しで、傷つけてでも自分のものにして縛りつければよかったのか?)


智葉(あの日が来るまでは……この腕の中に、確かにいたはずなのに)



智葉(咲…――――)


・・・・・・

ブロロロ・・・

郁乃「今日は銀座でスーツの採寸をしてもらうで」

郁乃「来月、正式な後継者として役員への顔見世の時に正装で出てもらうことになるしな」

咲「……」

郁乃「本来ならデザイナーを呼ぶんやけど、多少の気分転換も必要だろうとトシ様がおっしゃるんでな」

咲「…外に連れ出したりして、私が逃げたらどうするんですか?」

郁乃「ふっ。どこか行けるところでもあるん?」

咲「!!」

郁乃「熊倉の元へ来ると選んで決めたんはあんたやろ。咲ちゃん」

郁乃「今さら熊倉の所以外で戻れる場所なんて、あんたにはないはずや」

咲「……」

咲「…っ」ブルブル

郁乃「どうしたん?えらく震えとるけど」

咲「気分、悪い…」フラッ

郁乃「ああ、そういえば車は弱いんやったな。まぁもうじき着くで」

咲「……あっ!!」ハッ

咲(窓の外に…智葉さんが歩いてる!!)

郁乃「どないしたん?」

咲「智葉さんっ!!」ガチャ

郁乃「ちょ、咲ちゃん!?」

ばたん!!

咲「智葉さん、待って…!!」ダッ

咲「はあ、はあ…っ」ダダダ

咲「智葉さんっ!!」グイ

女「ん?あなたは?」

咲「あ…っ」


咲(後姿だけ似た別人だった…)


・・・・・・

ブーブー

智葉「…はい」ピッ

憩『智葉!咲ちゃんがいなくなった』

智葉「――――!!」

憩『今日の昼間車から飛び出したきり、そのまま戻ってないそうや』

憩『熊倉がうちに来てないかと連絡してきたんやけど…そっちには戻ってないやんな?』

智葉「ああ」

憩『どこか咲ちゃんが行きそうな場所に心当たりはない?』

智葉「……」



ざあああ・・・

咲「雨、降ってきた…寒…」

咲(バイトもクビになっちゃってるだろうから先輩の所にも行けない)

咲(どのみち、どこに行っても迷惑かけることになる…)


咲(以前必死になってしがみついてた学校)

咲(今の私にはこんな所しか行ける場所がないなんて)

咲(……まるで、あの雪の日のクリスマスみたい)


咲(あの日は次から次へと降ってくる雪の中)

咲(寒くて、寂しくて…帰りたいのに帰る場所が見つからなくて)

咲(私は消えそうになってた……)


智葉『また一人で泣いてるのか?』


咲「智葉さん……」

コツコツ・・・

咲(足音…?)クルッ

咲「っ!!どう、して…」

智葉「咲…」

咲「私がここにいるって、あなたには分かるんですか…っ」ジワ

智葉「…」グイッ

咲「あっ…」

智葉「…咲」ギュウ

咲「智葉さん…っ」

智葉「会いたかった…咲」

咲「…っ」ギュウ

今回はここまでです。


・・・・・・

憩「…じゃあ、咲ちゃんは無事に見つかったんやな」

智葉『ああ。今は私の家にいる』

憩「よかったわ。じゃあな」ピッ


誠子「まずは一安心ですね。で、熊倉への連絡はどうしましょう」

憩「ほうっておけばええ。私もそこまで野暮やないわ」

誠子「かしこまりました」

憩「そんなことよりもっと重大な問題があるやろ!」

誠子「重大な問題?」

憩「あの二人、今夜こそデキそうな気がせえへんか?」

誠子「ありえますね。最近咲ちゃんも色気が出てきましたし」

憩「ふんふむ」


・・・・・・

咲「智葉さん…」ガチャ

智葉「着替えたか?咲」

咲「はい。でも智葉さんの服、私にはちょっと大きいです///」ブカブカ

智葉「…」ジー

咲「智葉さん?」

智葉「あ、いやっ何でもない///」

咲「?」

智葉(思わず見とれたなんて…言えるわけないだろうが///)

咲「袖の部分、ちょっと折らないと駄目ですね」

智葉「お前の服はもう全部熊倉の所だからな。まあ仕方ないだろう」

咲「……そうですね」


咲(だからお前の居場所はここにはない)

咲(一瞬、そう聞こえた気がした…)

咲「……あの。私もう行かなきゃ」スッ

智葉「咲?」

咲「赤阪さんに見つかると何か言われそうだし…」

智葉「待て、咲!」グイ

咲「痛っ!」

智葉「…咲?腕に怪我でもしてるのか?」スルスル

咲「あっ…」

智葉「これは…傷跡…?」

咲「あ、ちょっと怪我しちゃって…でももう抜糸も済んでますし大したことな…」

智葉「…………いろ」

咲「え?」

智葉「熊倉の所へなんて戻らなくていい。お前は私といろ」

咲「で、でも…っ」

智葉「もうどこにもやらない。お前を誰にも渡さないし、後悔なんてさせない」

智葉「私のものになれ…咲」

咲「智葉さん…///」

智葉「嫌か?」

咲「……嫌なわけ、ありません」ギュッ

智葉「咲…」

ドサッ

智葉「咲…」チュッ

咲「んっ」

智葉「脱がすぞ」スルスル

咲「あ…あのっ!」

智葉「何だ?今さらやめてくれっていうのは聞かないからな」

咲「いえ、そうじゃなくて…その、恥ずかしいから電気消してほしいなって///」

智葉「…却下だ」

咲「な、何でですかっ?」

智葉「咲の全てを見たいからだ」モミッ

咲「あっ!」

智葉「ここ、もう尖ってる…気持ちイイのか?」クリクリ

咲「んんっ…はい…///」

智葉「ふ、素直だな。…もっと良くしてやる」チュクッ

咲「ひゃんっ」ビクン!

智葉「もう濡れてる…感じやすいな」チュクチュク

咲「あっ…あんっ…」ビクビク

智葉「咲、女同士での愛し合い方は知っているか?」クチュックチュッ

咲「ぁ…んん…知らな…っ」ビクビクッ

智葉「では教えてやる。ここをな、こうするんだ」グチュ…

咲「あっ…智葉さんと私のが合わさって…///」ゾクッ

智葉「動くぞ」ズチュッズチュッ

咲「ああっ…ああああっ…」ガクガク

智葉「咲…イイか…?」ズチュッズチュッ

咲「はい…んあぁっ…気持ち、イイ…///」ビクビク

智葉「私も…凄くイイ…腰が、止まらない…っ」ズチュズチュズチュ

咲「あぁん…そんな…激しくされたら…私、もうっ…///」ビクビクッ

智葉「イってもいいぞ…」ズチュズチュズチュ

咲「ふあぁっ…んん…っ!!」ビクンビクンビクン!

智葉「くっ…私も、イク…っ」ビクンビクンビクン!

咲「はぁっ、はぁっ、はぁ…」

智葉「咲…愛してる…」ギュッ

咲「ん…私もです、智葉さん…」ギュウ


・・・・・・

トシ「咲はまだ見つからないのかい!?」

えり「はい…八方手を尽くしているようなんですが…」

マホ「お祖母ちゃん、お薬飲むのに白湯持ってきました」ガチャッ

トシ「後で飲むよ。そこに置いておいとくれ」フウ

マホ「またどこか体悪いんですか?」

トシ「お前が心配することじゃないよ。もう寝なさい」

マホ「咲さんなら絶対帰ってきます!だって昨日約束したんですから」

マホ「来週の日曜は一緒に遊園地に行こうって。だから…」

トシ「煩いよマホ。いつまでも起きてないでさっさと寝なさい」

トシ「それに人の心配ばかりでなく自分の心配をしな」

マホ「…っ!!」

トシ「最近成績が随分と下がってきているようじゃないか」

トシ「お前も一応熊倉を名乗ってるのなら、私に恥をかかせる真似はするんじゃないよ!」

えり「会長、あまり興奮されては…」

ガチャンッ!

マホ「何で…私じゃ駄目なんですか…」

えり「マホお嬢様…?」

マホ「私が本当の子供じゃないから!?」

トシ「マホ…?」

マホ「咲さんの方が大事なんですか!?」ガバッ!

トシ「っ!!」

えり「お嬢様!!」

マホ「血が繋がってなきゃ駄目なんですか!?」ユサユサ

トシ「…ぅっ!!」ガクッ

マホ「え…、お祖母ちゃん…?」

えり「会長!!しっかりなさって下さい!!」


えり「会長――――!!」


・・・・・・

智葉「」スースー

咲(……不思議)

咲(あんなに会いたかった人が、今はこんなに近くにいるなんて)

咲(………)

咲(し、しかも…しかも…しかも…!!)

咲(私、智葉さんと…っ///)カアアア

グイッ

咲「あっ…」

智葉「夜中になに悶絶してるんだ。早く寝ろ」

咲「智葉さん…起きてたんですか///」

智葉「明日は熊倉の所へ宣戦布告しに行くからな」

咲「…そうしたら私、ずっとここにいてもいいの?」

智葉「当然だ。もう離さないって言っただろ」チュッ

咲「ん…///」


・・・・・・

智葉「支度はすんだか?咲」

咲「はい」コクッ

智葉「では行くぞ」

ピンポーン

智葉「ん?誰だ、こんな朝っぱらから…」ガチャッ

憩「おはようさん、智葉」

智葉「憩?」

憩「お客さんやで…」スッ

煌「朝早くにすみません、咲様」

咲「煌さん?」

煌「実は…お祖母様がお倒れになられまして…」


咲「――――…っ!!」


・・・・・・

マホ「お祖母ちゃん…」グスグス

煌「お嬢様、夕べからずっと泣いていらっしゃるんです」

咲「……」

煌「えりさんや赤坂さんは会社の方で手一杯らしくて…」

煌「誰もお嬢様のことは眼中にないんです…」

咲「……分かりました」スッ


憩「ええん?智葉…咲ちゃん止めなくても」

智葉「……」


咲「マホちゃん…大丈夫?」ポンッ

マホ「ひっく、ぐすっ…、咲さん…」

咲「マホちゃん…」

マホ「お祖母ちゃん…し、死んじゃうかもしれないって…」グスグス

咲「え……?」

マホ「胃癌で…かなり進行してて…危ない…って…」

咲「…っ!!」

マホ「わああああああん!!」ガシッ

マホ「お祖母ちゃん、お祖母ちゃんっ!!」ポロポロ

咲「マホちゃん…」ギュウッ



咲『私、ずっとここにいてもいいの?』

智葉『当然だ。もう離さないって言っただろ』



咲(智葉さんといたい)

咲(答えは決まっていたはずなのに――――)

カツ・・カツ・・


咲(智葉さんの靴音が遠ざかる…)

咲(でも私は最後まで、マホちゃんの手を振りほどけなかった)




憩「……まさかこんなに早く熊倉の病状が悪化するとはな」ハア

智葉「………関係ない」

憩「え?」

智葉「熊倉がどうなろうと関係ない」

智葉「咲をどこにもやらない。離さない」

智葉「そう誓ったんだ――――」

今回はここまでです。


・・・・・・

トシ「……ん」パチ

咲「あ、目が覚めましたか」

トシ「……ああ。私は倒れたのかい」

咲「はい…」

トシ「ふっ…どうやら私の時間はもう僅からしいね」

咲「……」

トシ「浮かない顔だね。私が死ねば何十億という金が手に入るってのに」

咲「熊倉の名は継ぎません」

トシ「……」

咲「お金や地位が大事だっていうのは私にもわかります。貧乏だと…心まで貧しくなりますし」

咲「何で皆死んじゃったんだろう、どうして私だけ生き残ったんだろうって」

咲「ずっとそんなことばかり考えながら生きてきました」

咲「……あの日、智葉さんに会うまでは」

咲(会ったばかりの子供一人)

咲(放っておくことだってできたはずなのに)


智葉『行くぞ。風邪を引きたくなければ着いてこい』


咲「あの人に私は救われたんです」

咲「無条件であんなに人から大事にされたことなんて、今まで一度もなかった」

トシ「……」

咲「端から見たら智葉さんの仕事は汚れてるかもしれない。でも私にはそんな事どうだっていい」

咲「あの人がどんな人だったとしても、私には智葉さんが正義なんです」

咲「何よりも、誰よりもいちばん大事なんです……」

トシ「……そうかい」

トシ「夫を亡くし、娘を無くした私は事業を大きくすることだけが生き甲斐になっていた」

トシ「だが跡を継げる者がおらん。だから咲、お前を呼んだんだ」

咲「マホちゃんは?そのための養子なんでしょう?」

トシ「…あれには無理さ」

咲「どうして?まだ幼いから?」

咲「あなたの跡を継いで世界一の遊園地を建てるんだって…楽しそうに話してましたよ」

トシ「…私が死ねばマホは一人ぼっちだ」

トシ「マホが熊倉を継げば、あの子を利用しようとする輩が必ず出てくるさ」

トシ「私はマホをそんな目に合わせたくない。跡なんて継がなくてもいい」

トシ「…ただこの先マホがずっと幸せなら、私はそれでいいんだよ」

咲「……」

トシ「癌と告知を受けた時、マホを一人にしてしまう。それだけが気がかりだった」

咲「だから私を呼んだんですか?」

トシ「確かにマホの側にいて欲しかったのもあるさ。けどもうひとつ…」

トシ「咲、お前に少しでも償いがしたかった」

咲「え…」

トシ「無くしたあの子の分まで私に出来る精一杯の何かを、最後に残してやりたかったのさ」

トシ「だがどうやら余計なお世話だったらしいね」

トシ「すまなかったね。咲…」

咲「…そんな事、どうして今さら…っ」ジワッ



咲(手術しても延命の見込みは薄いらしく)

咲(お祖母さんはホスピスに行くことを選んだ)



咲(熊倉をマホに譲ることを遺言状に残して――――)



コンコン・・・

煌「咲様、お客様がいらしてます」ガチャ

智葉「咲…」

咲「あ…智葉さん…」



智葉「……そうか。やはり手術は無理だったか」

咲「はい…」

智葉「……」

咲「……私、もう暫くここにいようと思います」

咲「お祖母さんはもう私の好きにしていいって言ってたけど、マホちゃんを一人で放っておけない」

咲「マホちゃんを私みたいな目に合わせるのだけは嫌なんです…」

智葉「……わかった。お前の気の済むようにすればいい」

咲「……ごめんなさい智葉さん。せっかくここまで来てくれたのに……」

咲「ごめ、なさ……」

智葉「咲が自分で選んだんだろう?それにこれが永遠の別れってわけじゃない」

智葉「その気があればいつだって会える。だから……」

智葉「そんな顔をするな、咲――――」チュウ

咲「ん……」




郁乃「おや、もうお帰りですか?」

智葉「……」

郁乃「いや~しかし咲ちゃんにはしてやられたなぁ」

郁乃「人間氏より育ちってのはあながち嘘やないってな」

智葉「…っ」グイッ

郁乃「な、何やねん…うちを脅す気…もごっ!」グッ

智葉「お前ら熊倉の悪事がたっぷり染み込んだディスクのコピーだ。さぞかし美味いだろう」

郁乃「もご…っ」

智葉「いいか!?今後咲に何かしてみろ。次は貴様の顔も熊倉も本気で潰すからな!」

郁乃「ふ、ふぁい…」カタカタ



マホ「咲さん!!」ダッ

咲「マホちゃん…」

マホ「咲さんを連れていくんですか!?」

智葉「……私に聞くな」ビシッ!

マホ「いったーい!!デコピンなんてひどすぎますー!!」ヒリヒリ

智葉「……ったく。これだからガキは嫌いなんだ――――」

ブロロロ・・・

咲(行ってしまう……智葉さん……)

マホ「あれが咲さんの大事な人なんですか!?」

マホ「あんな意地悪な人のどこが――――」ハッ

咲「……」

マホ(なんて……悲しげな顔してるんですか、咲さん……)

咲「……家に入ろっか。マホちゃん」

マホ「……はい」


・・・・・・


煌「おはようございます。咲様…」キョロキョロ

咲「おはよう。どうかしたの?」

煌「それが、先ほどからマホお嬢様を探してるんですが見当たらなくて」

咲「えっ?」

煌「今日はトシ様をホスピスまでお送りすることになっているってのに一体どこへ…」

咲「……」



マホ「あ、いたいた。咲さーん!!」ダッ

咲「マホちゃん!?今までどこへ…」

煌「お嬢様!?そんなに泥だらけになって…何をしてらしたんですか!」

マホ「咲さん……これ」スッ

咲「あ……」

咲(智葉さんにもらった家の鍵――――)

マホ「それを持って、あの人のところへ行ってください」

咲「……もしかして……ずっと探してくれてたの…?」

マホ「……」コクン

咲(顔も手も服も泥だらけになって……)

咲(あの広い庭から見つけ出すのはどんなに大変だったろう)ジワッ

咲「あり…がと…」ポロッ

マホ「な、何で泣くんですか!?別に追い出したいわけじゃないですよ!?」アタフタ

咲「うん…」ギュッ

マホ「はわわっ///ふ、服汚れますよ咲さん!?」

咲「うん…」

マホ「…咲さん。いつでも帰ってきてくださいね」ギュウ

咲「うん…っ」




咲「はあはあ、はあ…っ」ゼエゼエ

咲「戻ってきた…智葉さんのマンションに」

咲「智葉さん、いるかな…?」

ガチャッ・・・

咲「わっ!びっくりした!!」

智葉「……咲!?」

咲「あ、あの…智葉さん。戻ってきまし…」

智葉「…っ」グイッ

咲「あっ」

智葉「咲…、咲…っ」ギュウ

咲「…智葉さん。ただいま」ギュッ

智葉「…ああ。おかえり」ヌガセヌガセ

咲「わわっ!?あ、あのっ…まさかここで…?///」

智葉「ああ。もう待ちきれない」チュウッ

咲「んんっ」



智葉「もう二度と私から離れたくなくなる程良い思いをさせてやるから覚悟しとけよ」

咲「あぅぅ…///お、お手柔らかにお願いします///」



カン!

次からは揺杏&菫のターンです。
マイナーカプですみませ…



揺杏「難攻不落のアイツ」

揺杏「あー暇だなー…ナンパでもすっかなぁ」

揺杏「…お、可愛い子発見!」キュピーン!



淡「ああもう!楽器ってなんでこんなに重いのー!?」

揺杏「よっ!そこの彼女。重そうなの持ってんね」

淡「えっ…ああ、このクラリネット?最近習い始めたんだ」

淡「って、あんた誰?」

揺杏「私?ちょっと暇してるただの女だよ。ところでさー」

淡「なに?」

揺杏「クラシックに興味あんなら、コレ!」ピラッ

揺杏「コンサートのチケット2枚持ってんだけどさ。よかったら一緒にいかね?」

淡「…んー、いいよ。レッスン終わって暇だったしね」

揺杏「おっけ。そんじゃ決まりだな!」


・・・・・・

菫「お手洗いは…ここか」ガチャ

菫「早く手を冷やさないとな…」ジャー

バンッ!!

菫「…ん?」クルッ


淡「ふざけてんじゃないよ!!」

揺杏「なんだと!?」

淡「いきなりクンニしろとか偉そうにバッカじゃない!?」

淡「自分だけ気持ちよくなりたきゃヘルスにでも行けバカ女!!」ダッ

揺杏「待てよこの……わっ!?」フラッ

ドサッ!!

揺杏「いってー…ちくしょ、トイレの床に転ぶなんて我ながらダセェ…」

菫「……良かったら手を貸そうか?お嬢ちゃん」

揺杏「(お嬢ちゃんだぁ~~!?)別に、こんくらい一人で立てるし」

菫「そうか」

バタン!!

明華「菫!!火傷はよく冷やしましたか!?」

菫「明華さん」

明華「ごめんなさい、私がちゃんとカップを受け取らなかったから…」

菫「ちょっと赤くなっただけだから大丈夫ですよ」ニコッ


揺杏(おいおい…外人と外国話話してるよ…)

菫「…ん?」チラッ

揺杏(やべっ!じろじろ見てんのバレた!?)

菫「…」ニッ

揺杏「っ」カチン!


揺杏(……なんか)

揺杏(視線でバカにされたみたいですっげームカつく!!)


・・・・・・

ガチャッ

揺杏「洋榎、お風呂あいたぞ」バタン!

洋榎「なんや相変わらずカラスの行水やな、揺杏」

揺杏「濡れんの嫌いなんだよ。だから未だにカナヅチ」

洋榎「タオル貸してみ、拭いたるから」フキフキ

揺杏「……」ムスッ

洋榎「…まだ機嫌直らんようやな。すまんなぁ揺杏」

洋榎「せっかくチケット取ってくれたのに仕事で行けなくて…」フキフキ

揺杏「……別に」


揺杏(もともとチケットは人からのもらいモンだったし)

揺杏(その事でムカついてるわけじゃねーんだけど…)


菫『良かったら手を貸そうか?お嬢ちゃん』


揺杏(そりゃアンタみたいな大人の女から見りゃ私なんてガキだろうよ)

揺杏(女コマそうとして逃げられたし?)

揺杏(ヤル気満々でトイレの床にコケたさ!)

揺杏(ああそうさ!我ながらカッチョ悪かったともっ!!)

洋榎「お詫びに今度うまいもんでも食べに行こうや」ダキッ

洋榎「そのままどこかのホテルに一泊するのもええな」

揺杏「……ん」




晴絵「ははっ。それで珍しくへこんでたのか、揺杏」

揺杏「…笑うことないっしょマスター」

晴絵「あんたも見た目だけは良いからなぁ」

揺杏「何だよ、だけって」

晴絵「女に逃げられるのがいい証拠だよ。なぁゆみ」

ゆみ「さてな」

揺杏「…現役NO、2にまで言われたら傷つくっつーの」

揺杏「あーあ、私もゆみ先輩みたいにホストになって女を磨こうかなー」

揺杏「高級会員制デートクラブとか面白そうじゃん」

ゆみ「揺杏…」

晴絵「やめとけ揺杏。あんたにはそういうのは向かないよ」

揺杏「……」

揺杏(私、何でこんなに焦ってんだろ…)ハア


菫『お 嬢 ち ゃ ん』


揺杏「……っ!!」ピキッ



揺杏(こうなったら忘れる手段はただひとつ!)

揺杏(快楽に溺れるのみでアル)



洋榎「…はー幸せやー。ホテルのご飯もワインもデザートもめちゃ美味かったし!」

揺杏「――――で?食欲が満たされたら次は?」

洋榎「んなもん決まっとるわ。性欲や!」チュウッ

揺杏「……だな」ドサッ

洋榎「ん…んふ…っ」チュッチュッ

揺杏「ふ…ん…んん…」チュクチュク

ピリリリリ・・・

洋榎「あ、仕事の電話や…ちょっとスマン」ムクッ

洋榎「はいもしもし…はい…え?あ、わかりました」

揺杏「…」ムスッ

ピッ!

揺杏「…なに?ひょっとしてまた仕事とか言う?」

洋榎「ん。なんかクライアントと揉めてるらしいし、上司のうちが行かんとな」

揺杏「マジかよー…」ハア

洋榎「今夜中に帰ってこれるか分からんし精算済ませて行くわ」

洋榎「ほんまスマンな、揺杏」チュッ

揺杏「…あんま放っとかれると浮気しちゃうかもよ?」

洋榎「ええで」ニッ

バタン・・・

揺杏(にっこりと笑って、洋榎は色恋よりも仕事を選ぶ)

揺杏(見てくれで選ばれた私はそんな彼女のペット)

揺杏(まあ、お互い恋愛感情抜きで付き合ってるから気楽でいいけど)

揺杏「あー、ヒモってホント楽だよなぁ」

揺杏「……さてっと」

揺杏「せっかくホテルの部屋もあることだし、また女でも引っ掛けてくるかな」



姫子「あんたなんてお断りばい!!」バシン!

揺杏「いてェ!!」



揺杏(……………おかしい)ヒリヒリ

揺杏(確実にツキが落ちてる気がする)

揺杏(今まで女なんてチョロイもんだったってのに)ツカツカ

揺杏(ちくしょう、あの女に会ってからろくなことがないぜ)ツカツカ

揺杏(……ん?ホテル内のプールサイドに人が立ってる……?)ピタッ


菫「……」ゴクゴク


揺杏「あ……」

菫「……ん?ああ、また会ったな」ニッ

揺杏「……っ」ドキッ

菫「私のこと覚えてるか?」

揺杏「……インパクトありすぎて一秒だって忘れたことねーよ」

菫「これはまた随分と熱い告白だな。お嬢ちゃん」フッ

揺杏「人のことお嬢ちゃんお嬢ちゃんってガキ扱いすんじゃねえよ」

菫「ん?名前を知ってればちゃんと呼ぶさ」

揺杏「揺杏!岩館揺杏!」

菫「揺杏か。私は弘世菫だ」

揺杏(弘世菫……菫、か……)

揺杏「こんな所で何してんだよ?」

菫「仕事明けに静かに一人で酒と夜景を楽しんでる」

揺杏「……邪魔なら邪魔ってはっきり言えよ」

菫「揺杏」

揺杏「あ?」

菫「実はさっきからずっと言おうとしてた事があるんだが」ジッ

揺杏「な、何だよ…」ドキッ

菫「プールサイドは土足厳禁だ」ニッ

揺杏「…っ///わ、わーったよ!靴脱げばいいんだろ!!」

菫「素直でよろしい」

揺杏「ふん///……っとと」グラッ

菫「おいおい、プールに落ちるなよ」

揺杏「わ…っ」

バッシャン!!

菫「…!!」

揺杏「あぶっ…ごほごほっ…た、助け…っ」バシャバシャ

菫「まさか泳げないのか!?…ったく!!」バッ!

ザブンッ!!

揺杏「わあああっ!!」ジタバタ

菫「おい、掴まれ!!」ガシッ!

揺杏「あああああ!!」ジタバタ

菫「おい、もう大丈夫…」

揺杏「わああああああ!!」ジタバタ

菫「…ちっ」

グイッ

菫「」チュウッ

揺杏「!?」

菫「」チュウウ

揺杏「ん…っ///」

菫「…ぷはっ」

揺杏「はぁ、はぁっ…///」

菫「落ち着いて立ってみろ。ちゃんと足がつくから」

揺杏「…い、今…っ」

菫「ん?ああ…」

菫「あいにく暴れる人間を大人しくさせる方法はキスしか知らなくてな」

揺杏「…っ///」

菫「悪く思うなよ」ニッ


従業員「お客様!!どうかなさいましたか!?」バタバタ

菫「ああ、プールに落ちてしまってな。悪いがタオルを貸してもらえるか?」

従業員「はいっ、ただいまお持ちします!!」


揺杏「…………」ポタポタ


揺杏(11月のプール……)

揺杏(冷たいはずの水が、火傷するほど熱かった――――)

今回はここまでです。


・・・・・・

晴絵「やあ、揺杏」

揺杏「マスター。ゆみ先輩は?」キョロキョロ

晴絵「今日は仕事だって言ってたぞ」

揺杏「……そっか」


揺杏(私、ゆみ先輩に何を聞いてもらうつもりだったんだろーな…)


男「おっ、カルマンギアじゃん」

女「ねえ!乗ってる人も凄い美人じゃない!?」

揺杏「ん…?」チラッ

菫「…」バタン!



揺杏「……………っ!!」

揺杏「タクシー!!」

キキッ!!

揺杏「あの車を追ってくれ!!」バタン!

運転手「ん?ああ、あの渋い外車ね」

揺杏「ああ!!急いでくれ!!」


揺杏(弘世菫……私はその名前しか知らない)


運転手「お客さん、この先関係者以外は駄目みたいですよ」

揺杏「分かった。これタク代な」バタン!


揺杏「どこに行った、あいつ……」ダダダ

揺杏「このビルの中のどこかに……」ダダダ

ビーッ、ビーッ、ビーッ

揺杏「!?」

バタバタ・・・

黒服1「おい!ここで何をしている!」

黒服2「ここはIDのない者は入れないことになっているんだが」

揺杏「待ってくれ!会いたい女がいるんだ!」

黒服1「駄目だ。お引取り願おう」

揺杏「頼む!呼び出してくれるだけでもいいんだ!」

黒服1「連れ出せ」

黒服2「はっ」グイ

揺杏「はっ、離せ…!!」バッ


ゆみ「――――揺杏?」


揺杏「あ……ゆみ先輩……」

ゆみ「何でお前がこのクラブに……」

ゆみ「お前、どうやってここに入ったんだ?」

揺杏「え?ここって……」


菫「――――何だ、ずいぶんと賑やかだな」コツコツ

揺杏「あ……」


揺杏(艶のある、女にしては低めの声)

揺杏(香るアルマーニ)

揺杏(蘇る体温。唇の感触)


揺杏(弘世菫……)


菫「よう、揺杏」


揺杏(どうしても――――この女が欲しい)


・・・・・・

プーッ、プーッ

咲「智葉さん、電話が…」

智葉「ほっとけ。電話なんて」サワサワ

咲「あっ…で、でももう着替えも渡したし…送ってくれた先生が待って…」

智葉「…」チュウッ

咲「んっ…ふ…んん…っ」チュクチュク

智葉「…咲。今から私の名前以外は口にするな。…いいな」

咲「智葉さん…はい///」

智葉「それでいい…」クチュ…

咲「ああっ…!」ビクン!


・・・・・・

誠子「オーナーが電話にでない…やはりお取り込み中ですか…この非常時に」ハア

菫「誠子、オーナーは?まだ繋がらないのか?」

揺杏「……」

誠子「生憎と!ここ一週間ばかりご自宅にも戻れないくらいの忙殺ぶりですから!」ニコニコ

誠子(嗚呼…やっぱり咲ちゃんに差し入れをお願いしたのは危険すぎだったなぁ…)

菫「そうか…」

誠子「あ、今お茶をお持ちします」ガチャ


パタン・・・


誠子「さて、どうしたものか…私も馬には蹴られたくないし」

?「やっ!誠子」

誠子「あ……っ」


・・・・・・

菫「……で?揺杏」

揺杏「……」

菫「私の後を追いかけてきて一体何がしたかったんだ?」

揺杏「……」

菫「ゆみの後輩なんだってな。ならこのW・Lがどんな所か知っているはずだな?」


揺杏(もいちどあんたに会いたかった)

揺杏(あんたを私のものにしたい)

揺杏(あんたに近づきたい)


揺杏(……ならどうすればいい?)

揺杏(今の私にできること――――)

揺杏「この店のホストになりたいんだ!!」


憩「ほーぅ。まさかホスト希望だったとはなぁ」ガチャッ

揺杏「…あんたは?」

憩「ん?私はこの店のオーナーやで」ニッ

揺杏「あんたがオーナーか、ずいぶんと若いな」

菫(……智葉はどうしたんだ?)

憩(この所仕事でろくに帰れない智葉のため咲ちゃんを連れてきてやったってのに)ニコニコ

憩(この私を締め出すとはいい度胸や智葉!)ニコニコ

憩(こうなったらあんたがニャンニャンしとる間私も遊んだるで!)ニコニコ

誠子(すみませんオーナー。でもこの場合憩様にお任せするしかありませんよね!)ニコニコ

憩「コホン。揺杏ちゃん、やったかな?」

揺杏「…」コクッ

憩「ええよ。あんたのW・L入りを許可するで」

揺杏「ほ、ほんとか!?」バッ

憩「ん。…菫」

菫「はい」

憩「揺杏ちゃんについては全てあんたに任せるわ」

憩「責任を持って教育するように。ええな」

菫「……かしこまりました『オーナー』」フッ

菫「来い揺杏。私の部屋に行くぞ」

揺杏「おう!」


揺杏(やりぃ!第一関門突破だぜ)

揺杏(これで私もホストになれる!菫の側にいられるんだ!)

ぱたん・・・

誠子「しかし、オーナーにバレた時のことを考えると怖いですね」

憩「ええんや。今回は智葉の自業自得なんやから」ニッ




揺杏「うええ…、すっげーゴージャスな部屋…」ポカーン

菫「揺杏」

揺杏「なんだ菫?」

菫「脱げ」

揺杏「…へっ?」

菫「聞こえなかったか?服を脱いで裸になれと言ったんだ」

揺杏「なっ///」

菫「W・Lでホストになりたいんだろう?ならお前にどれだけの価値があるのか私に見せてみろ」

揺杏「うう…///」

菫「どうした?誰かに手伝ってもらわないと服も脱げないのか?お嬢ちゃん」

揺杏「っ!!」カチン!

揺杏「脱げばいいんだろ脱げば!」

ばさばさっ・・・

菫「……ふむ」ジッ

揺杏「…っ///」カアア

菫「細いが悪くはないな」ジー

揺杏(あ、やべ…)

菫「スタイルも申し分ない」

揺杏(見られてるだけなのに…興奮してきた…)ジュン

菫「どうした?揺杏」

揺杏「べっ、別に…///」

菫「女と寝たことはあるか?」

揺杏「あるよ。なんたって私、キャリアウーマンのヒモだしな」

菫「そうか。…ならここで感じたこともあるんだな」クチュ…

揺杏「あっ…!!」ビクン!

菫「即効性の催淫剤を入れた。後には残らないから安心しろ」

揺杏「…っ」ゾクゾクッ

菫「ただしW・Lオリジナルなんで相当キツイがな――――」


・・・・・・

揺杏「はあっ、はあっ…はあ…っ」ビクビクビクン!

菫「今ので4回目。…まだまだイケそうだな。揺杏」グチュグチュ

揺杏「ざけんなっ……も、無理……ああっ」ビクビクッ

菫「これで5回目だ」グチュグチュ

揺杏「あっあっ……ああああっ……」プシャアアア!

揺杏「ち、くしょ……っ」ブルッ




がちゃ、ばたん・・・

洋榎「揺杏?こんな時間までどこ行ってたんや」

揺杏「……」

洋榎「朝帰りするんならメールくらいしてきいや」

揺杏「……」

洋榎「…揺杏?どないしたん?」

菫『――――分かったか?揺杏』

菫『ホストって言えば聞こえはいいが、うちでやるのはこういうことだ』

揺杏『……』グスグス

菫『たかが薬を使われたくらいで泣き入れてるお前には到底無理な仕事だ』

揺杏『……』

菫『帰れ。そして忘れろ』

菫『お前だって、これ以上傷つきたくはないだろう?』

揺杏『……』



洋榎「なあ、ほんまどないしたんや揺杏」

揺杏「………ごめん。洋榎」



揺杏「私…――――」


菫『帰れ。そして忘れろ』

菫『お前だってこれ以上傷つきたくはないだろう?』



揺杏(――――答えはNO!!)



菫「……ん?」

揺杏「……よう」

菫「その顔の傷はどうしたんだ?」

揺杏「『ホストになるから別れる』っつったらビンタはられて引っかかれたんだよ」


揺杏(傷ついたってかまわない)

揺杏(それがたった一つの接点なんだ)


揺杏「これで文なし宿なしだ!責任とって絶対ホストにしてもらうからな!」

菫「……諦めの悪いやつだ」フウ

菫「部屋は隣のゲストルームを使え。言っておくが私の躾は厳しいぞ」

菫「もっとも昨日のアレで実証澄みだろうがな」

揺杏「ふん。望むところだぜ」



揺杏(弘世菫。絶対あんたを落としてやるからな!!)



ゆみ「またアイツも見事にハマッたもんだ」

菫「ゆみ」

ゆみ「朝っぱらから私の所へ来るなり『いいからここへ連れてってくれ』だからな」

ゆみ「ちょっとたらしフェロモン濃すぎじゃないか?菫」

菫「可愛い後輩をホストになんてしたくないって所か。ゆみ」

ゆみ「あまり揺杏を泣かさないでくれよ?」

菫「ふっ…心配するな」


菫「――――スペシャルに可愛がってやるさ」ニッ

今回はここまでです。


・・・・・・

菫「今日から二週間、ページガールの見習いをしてこい」

揺杏「はあ!?なんで…」

菫「新人の基本だ。接客のノウハウを学んでこい」

揺杏「あんたが教えてくれるんじゃないのかよ」

菫「まずはそこそこのマナーを身につけてからだ。一日の終わりには必ずテストするぞ」

菫「W・Lの構造、会話やテーブルマナー、ベッドメーキングに至るまで」

菫「手っ取り早く覚えるにはページガールが一番いいからな」

揺杏「…わーったよ。行けばいーんだろ」

菫「揺杏。言ってるそばからそれか?」

揺杏「ぐっ…わかりました!行ってまいりますっ」ダッ



揺杏(くっそー菫めぇ…)

揺杏(こうなりゃやってやろうじゃねーの!!)

揺杏「岩館揺杏です。よろしくお願いします」ペコリ

同僚「よろしくー」


揺杏「…はい、お煙草ですね。名柄は…ラークですか、かしこまりました」ピッ


揺杏「ワインは香りを確かめた後、少量口に含んで…」グビ


揺杏「…よし!ベッドメーキングも完璧だぜ!」フー

菫「まぁ、80点てとこだな」

菫「今日のテストはこれで終わりだ。後の時間は好きにしていいぞ」

揺杏「……///」ボー

菫「…ん?どうした、そんなに見つめて。私に惚れ直したか?」

揺杏「ばっ…///んな正装してパーティにでも行くのかよ?///」

菫「ああ、今夜急に指名が入ってな。スペシャルVIPのお相手だそうだ」

揺杏「っ……そいつと寝るのかよ?」

菫「……それが仕事だ」ガチャ


バタン・・・


揺杏「………」


・・・・・・

揺杏「――――なーにが『それが仕事だ』だよ!ふざけんじゃねーっ!!」

ゆみ「飲みすぎだ、揺杏」

揺杏「まだまだ飲めるっての!マスター酒ちょうだい!!」

晴絵「はぁ…ゆみからお前がW・Lに入ったことを聞かされた時はびっくりしたが」

晴絵「まさかあの菫に惚れてるなんてね。そりゃ相手が悪すぎるってもんだ」

揺杏「えっ!?何でわかんだよ!?///」アセアセ

ゆみ(バレてないとでも思ってたのか…)

晴絵「客に惚れさせはしてもホストからは惚れない。客に夢を見せるのが商売だしな」

晴絵「当然、ホスト同士の恋愛もタブー」

晴絵「私がちょっと前までホストやってた時、菫から口を酸っぱくして言われていた言葉だ」

ゆみ「そんな相手を落とすなんて到底無理な話だな。揺杏、傷つく前にすっぱり諦めた方が…」

揺杏「……」ポロッ

ゆみ「ゆ、揺杏っ!?」ギョッ

揺杏「…んなこと…わかってんだよ…」

ゆみ「揺杏…」ポンポン

揺杏(どんなに傷ついたって私は…菫が欲しい)

揺杏(先輩の言うように到底無理なのかもしれないけど)

揺杏(今は出来ることからやるしかねえ)



揺杏「右からシャトーマルゴー、シャルドネ ドメーヌ ラバチェス」

揺杏「ブランケット ド リムーブリュット…?」

菫「正解だ。もう目隠し取っていいぞ」

揺杏「やった!味覚には自信あるんだよなー」バッ

菫「…揺杏。お前に渡すものがある」

揺杏「えっ?」



揺杏「おおっ!すっげー高そうな服!」ピラッ

菫「予想以上に仕事を頑張ってたしな。私からのご褒美だ」

揺杏(ご褒美…マジ嬉しいかも///)

菫「それから揺杏。予定より少し早いが」

揺杏「ん?」

菫「お前のホストデビューの日が決まった」

揺杏「…!!……いつ?」

菫「六日後だ」

揺杏「……っ」

菫「なんだ?念願のホストだろうが」

揺杏「……」

菫「お前のために最高の客を選んでやる。この服はその時に着るといい」

揺杏「…んで……何でんなこと言うんだよ……」

菫「揺杏?」

揺杏「私が欲しいのは菫だ!!あんた以外の人間なんて欲しくない!!」

菫「……」

グイッ

揺杏「あ…っ」

菫「…」チュッ

揺杏「ん…」

菫「……落ち着け」

揺杏「――っ」


菫『あいにく暴れる人間を大人しくさせる方法はキスしか知らなくてな』


揺杏(1%の好きもない無意味なキス……)

揺杏(それは……この上ない拒絶の言葉)

揺杏「……ちゃんと私を見ろよ」

菫「……」

揺杏「私じゃ駄目なのかよ……」

菫「……私はホストだ。揺杏」

揺杏「…っ」

菫「指名が入ればどんな客のエスコートもするし、ベッドのお相手だってする」

揺杏「……それって結局、あんたは誰のもんにもならないってこと?」

菫「……」ガチャ


パタン・・・


揺杏(初めて本気で欲しいと思ったんだ……)

揺杏(プライド捨てて、みっともなく追いかけて、告って)

揺杏(………なのに)


揺杏(サイテー…――――)


今回はここまでです。


・・・・・・


揺杏『私が欲しいのは菫だ!!あんた以外の人間なんて欲しくない!!』



揺杏(生まれて初めて自分からした告白は)

揺杏(あの日以来、なかったことにされた)



揺杏(菫は大人の余裕で、私はガキくさいプライドで)

揺杏(二人の間の空気を変えることはしなかった――――)


・・・・・・


・・・・・・

智葉「咲、これからまた仕事に出る。帰りは遅くなるから先に寝てろ」

咲「…」ハアハア

智葉「どうした?具合でも悪いのか?」グイ

咲「っや…!」ビクン!

智葉「…咲?」

咲「な、何でもありませ…///」ハアハア

智葉「バカ、何でもないわけ…」ハッ


智葉「――――おい、そのテーブルの上にあるのはまさか…っ」ワナワナ

咲「今日…学校の帰りに偶然先生に会って…」


憩『はいっ!咲ちゃんにプレゼント♪W・Lオリジナルクッキー(媚薬入り)ですよーぅ』


咲「今晩の…デザートに食べてねって…///」ハアハア


智葉(憩いいいいいいいいっ!!)


・・・・・・

菫「いよいよホスト初仕事だな。揺杏」

揺杏「……」

菫「その服、よく似合ってるぞ」

揺杏「……なあ。最初の最後で一回だけ」

菫「なんだ?」

揺杏「マジなキスさせて」

菫「……」

揺杏(他の女と交わる前に……)

菫「そういうことは客とするもんだ。今ここですることじゃない」

揺杏「……」


菫「さあ、行ってこい――――」

揺杏(ダダこねて縋ってみたかったけど)

揺杏(そうしたら菫に嫌われそうで、怖くてできなかった)



誠子「ではこちらがルームキー。部屋のナンバーは305号室です」

誠子「すでにお客様はお待ちですのでよろしくお願いします」

揺杏「……はい」

憩「揺杏ちゃん。今ならまだ引き返せるで?」

揺杏「……行ってきます。オーナー」


バタン・・・


誠子「……憩様。やっぱりオーナーはいらっしゃいませんでしたね」

憩「せやな」

誠子「一体どうやって足止めされたんですか?」

憩「ん?ちょっと咲ちゃんにクッキー(媚薬入り)をプレゼントしただけやで♪」ニッ


・・・・・・

揺杏(今ならまだ引き返せる、か……)

揺杏(そんなのとっくに無理だよな)

揺杏(だってこんなにも、あの女にハマってる)


揺杏(菫と少しでも関わっていたい)

揺杏(そのためだったら、他の女とヤるくらい別にいいや)


揺杏(305号室……ここか)

揺杏(……………)スーハースーハー

揺杏(………よし!!)

揺杏「初めまして。揺杏で……す……」

揺杏「……って、え……?」



菫「挨拶ひとつに何分かけてるんだ。揺杏」



揺杏「な……なんで、ここに菫がいんの……?」

揺杏(客は?もしかして私を引きとめに来てくれた?)

揺杏(いや、そんなわけ……)


菫「ここまで来たことは褒めてやる。でもお前がホストになるのは無理だ」

揺杏「!!なんで…っ」


菫「ん?ぜーんぶ嘘だから」ニッ


揺杏「…………は!?」

揺杏「嘘ってなにが!?だって私オーナーから鍵ももらって…」

菫「だから、それも嘘なんだよなぁ」

揺杏「え?…え?」

菫「お前がオーナーだと思い込んでる人は、本当はオーナーの従姉妹だし」

菫「お前がホストとしてうちに採用されたっていうのも嘘!」

揺杏「…………ふ…」ワナワナ



揺杏「ふざけんじゃねえええええええ!!」

揺杏「今さら嘘ですむかってんだ!!じゃあ『ホスト修行』は何だったんだよ!?」

揺杏「人に散々エロイことしたり、めちゃめちゃコキ使いやがったじゃねーか!!」

菫「あれはお前が人の後をつけてきてW・Lに乗り込んだりしたお仕置きだ」

揺杏「お仕置きだぁ!?ふざけんじゃ…っ」

ぐいっ

菫「…」チュウッ

揺杏「…んっ!」

菫「やっぱり暴れる人間を大人しくさせるにはキスにかぎるな」

揺杏「…っ///」

がばっ

揺杏「…だったらもっと暴れてやる!!思う存分キスしやがれ――――」チュウッ

菫「ん……」


・・・・・・

揺杏「…」ペロペロ

菫「…ん…揺杏…」

揺杏「…」ペロペロ

菫「揺杏。もうやめとけ」

揺杏「やだ!もうこうなったら何が何でもあんたと寝てやるんだ!」

揺杏(それにしても人が必死でクンニしてんのに全く動じないなんて…NO、1ホストは伊達じゃねぇ…)

菫「気絶してもしらないぞ?揺杏」ニッ

揺杏「///の、望むところだ!」

菫「そうか。では遠慮なくいかせてもらうぞ」グチュッ

揺杏「あっ…」ビクン!

菫「…」ズチュッズチュッ

揺杏「あっ!あっ!あっ!」ガクガク

揺杏「いっ、いきなり…激しすぎんだろっ…んっ!」

菫「お前が遠慮するなっって言ったんだろう」ズチュッズチュッ

揺杏「だからって…んあっ!」ガクガク

菫「その割りには随分と気持ち良さそうじゃないか。揺杏」ズッズッ

揺杏(こ…こんな激しい貝あわせ初めてで…良すぎて意識が…飛びそ…っ)

揺杏「んっ!あっ!…なぁ…あんたも気持ちイイ…?」ハアハア

菫「善がってるのはお前だろう」ズッズッ

揺杏「ちげーよ!んっ…私は…菫を気持ちよくしたい…んだよ…」ハアハア

菫「……」チュウッ

揺杏「んっ!」

菫「…」チュクチュク

揺杏「ふっ…んん…んぅ…」

揺杏(菫の舌…、熱い…)ゾクゾクッ



揺杏(菫――――…)


・・・・・・

揺杏(……あーあ。これで終わりか)

揺杏(でも最後に菫とセックスできたし……)

揺杏(私、頑張ったよなぁ……)

揺杏(……服も着直したし。行くか……)ヨロッ



菫「どこに行く気だ?揺杏」

揺杏「どこって、W・Lを出てくんだよ。ホスト採用の話が嘘ならいつまでも居らんねーだろ」

菫「そうか。じゃあこれも必要ないか」ピラッ

揺杏「ん?なんだよその紙……」

菫「お前への正式なページガール採用通知」


揺杏「………は!?」


菫「正真正銘オーナーのサイン付きのな」ニッ


揺杏「~~~~~~っ///」




揺杏「あんた本当は私のこと好きだろ!?」



カン!

次で終わる予定です



憩「それぞれの幸せ」

竜華「でな、そん時の穏乃ちゃんがめっちゃ可愛くてな!」

智葉「…その話はもう3回も聞いた」ウンザリ

竜華「え、そうやったっけ?」

憩「せやな…」

竜華「まあええやん。つまりうちの穏乃ちゃんは世界一可愛いってことで!」

智葉「は?世界一可愛いのは私の咲だ」

憩「はいそこ張り合わない張り合わない」

竜華「そういや憩、あんた今日デートとか言うてなかった?」

智葉「ああ、怜か。もう体調も回復しつつあるんだったな」

憩「せや。じゃあ怜を迎えに行ってくるな~」

竜華「いってら~」

智葉「ってか竜華、お前はいつまで私の仕事場に居座るつもりだ」

竜華「穏乃ちゃんとのデートの時間までや!」

智葉「はぁ…」


・・・・・・

憩「竜華も智葉もうまくいってるようで何よりや」

憩「…ん?あれは…」



久「このW・Lに来るのも久しぶりね~」

春「うん。何だか懐かしい…」

久「オーナーにお土産持って来ただけなんだけどね。…あら」

小蒔「…」スタスタ

久「随分と可愛い子ね。新しいホストかしら?」

春「…久。浮気は許さないから」ギュッ

久「いたた!そんな心配ないから耳引っ張らないでっ」



憩「…あれがカカア天下ってやつやな」シミジミ

ザワザワ・・

憩「ん?今度は何や?」



美穂子「ゆみさん、お弁当作ってきたんですけど良かったら…///」

ゆみ「ああ。ありがとう」

桃子「ゆみさんを今指名してるのは私っす!横から入り込んでこないで下さいっす!」

美穂子「あら。でも私はその次に指名待ちしてるから」

桃子「そんなの関係ないっす!」

ゆみ「まあまあ二人とも。そんなに喧嘩腰だと愛らしい顔が台無しだぞ?」ニコッ

桃子「はううっ///」ズキューン!

美穂子「ゆみさん…///」ポッ



憩「…あれが天然タラシってやつやな」シミジミ

憩「さてと。怜に花でも買っていくかな~」スタスタ

白望「…あの、すみません」

憩「ん?うち?」クルッ

白望「上野へ行くにはどの電車に乗れば…」

憩「ああ、えっとな~」

・・・・・・

白望「ん、分かった。どうもありがとう」

エイスリン「シロ、イコウ!」ギュッ

白望「ん…」ギュッ

憩「なんや、手なんて繋いで仲ええなぁ。恋人同士かいな?」

エイスリン「ワタシタチ、シンコンリョコウキタ!」

憩「そうかいな。お幸せにな~」

白望「ありがとう。じゃあエイスリン、行こうか」

エイスリン「ウン!」

憩「さてと。先を急ぐか」スタスタ

憩「…ん?向こう側を歩いるのは咲ちゃんと…」



穏乃「このバナナクレープ美味い!」ハムハム

咲「こっちのイチゴクレープもなかなかだよ」パクパク

穏乃「マジで?一口食べさせて咲!」

咲「良いよ。はい穏乃ちゃん」

穏乃「ん…うまーい!!」

咲「ふふ。良かった」



憩「うんうん、健全な女子高生らしくてええなぁ」

穏乃「ん?咲、うなじの部分が赤くなってるよ」

咲「えっ?……あ、これは…っ///」カアッ

咲「って、そういう穏乃ちゃんも首筋に赤い痕が…///」

穏乃「ええっ?……こ、これはその…っ///」カアッ

咲(智葉さんに付けられたなんて言えない…///)

穏乃(竜華さんのバカ!見える部分には付けないでって言ったのに!///)



憩「……うん。前言撤回やな」ニッコリ

揺杏「なあなあ菫~」

菫「なんだ、揺杏」


憩「おっ…あの二人は…」


揺杏「今日はオフなんだろ?デートしようぜ!」

菫「しょうがないな。付き合ってやる」

揺杏「マジで?やったー!!」

菫「どこか行きたい所はあるか?」

揺杏「ホテル!!」

菫「」

菫「お前なぁ…」

揺杏「だって菫のテク超上手いし///」

菫「…はぁ。分かった…お前が満足するまでとことんヤッてやる」グイッ

揺杏「へへっ///」ギュッ



憩「真昼間からお盛んなことで…」

憩「ま、幸せそうで何よりやね」

憩「なんや。うちも早く怜に会いたくなってきたわ…」ムラムラ



憩「よっし!!待っててや怜~~~!!」ダッ



カンッ!

以上でこのスレは終わりです。
半年間お付き合いありがとうございました。
マイナーカプが増えることを願ってます。

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