【オリジナル】異能犯罪捜査官【安価】 (178)


異能力……科学では説明しきれないような現象を起こす力、その力を持つ者は『異能力者』『異能者』『異能』等と呼ばれる。


近年、急激にその存在が確認された《異能力者》達は社会問題にまで発展した。
特に問題視されたのは《異能力者》によって起こされる犯罪である。

例えば駅のホームで異能力者が念動力のような見えない異能力を使って5m先にいる被害者を触れずに線路へ突き飛ばした。被害者は駅に入ってきた列車に跳ねられてしまった……このような場合は突き飛ばしたとされる異能力者の犯行を立証出来るだろうか?

異能力発現の原因も判別方法すら確立していない現状では、個々千差万別の能力を持つ異能力犯罪者を法で裁く事は困難を極める。


そこで政府が立てた対応策は犯罪の厳罰化、各種の法改正。そして……

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異能犯罪捜査官が相棒の異能力者と捜査したりバトルしたりするスレです


とりあえず異能力募集
戦闘だけでなく捜査にも使えそうな能力も

5、6つほどお願いします

 
私の仕事は異能力犯罪捜査官。国家公務員に属するものだ。その内容は異能力者と組んで異能力犯罪者の追跡、捕獲……時には始末する事もある。
しかもコンビを組む異能力者も司法取引によって罪を免れた、または減刑された犯罪者の場合も多々あるのだ。
内容が内容なだけに公には出来ない職種である。

ある日私は上司に呼び出された。
 

 「お呼びでしょうか?」

上司「ああ、君は今《犬》がいなかったね?」

 「……先日殉職しました」

 
《犬》とは相棒である異能力者の蔑称の事である。その呼び方から上司の彼等に対するスタンスが見て取れる。

1 (そんな言い方……彼等だって人間だろうに……)
2 (まあ、事実上はそうだな)
3 その他、独白の内容も

※主人公の相棒に対する初期の対応が決まります。

安価↓1


 (まあ、事実上はそうだな)

酷い呼び方だがこの業界ではごく普通に用いられる隠語的な名称だ。実際の扱いも犬に等しい所がある。

上司「新しい犬がいるだろう」

 「はい」


上司「今度君が担当するのはかなり特殊でね……まあ、連中は大体厄介者ばかりだが」

 「特殊……ですか?」

上司「うむ、前任者が奴等とは組めないと泣きついてきてね。君に預けようかと思っている」

 「……奴等?私の担当はチームでしょうか?」

「違う」と言って上司は私の相方となる《異能力者》達のファイルを手渡した。
 





 「私がお前の新しい飼い主だ」


?「……」

ファイルの顔写真と同じ顔……>>15は私の顔をじっと見ている。


>>15相棒の名前
>>17相棒の性別

ゴードン・ヘル


ゴードン・ヘル……彼が私のパートナー。国際化の波が押し寄せる昨今ではあるが、流石に外人……ではなくハーフの帰化人と組むのは初めてだ。


ゴードン「ボクはゴードンよろしく!」

意外に社交的な奴なのか?笑顔で強引に握手してきた。

 「お前の頸椎付近には爆弾が埋め込まれている……理解しているな?」

ゴードン「え、ええ……そっすね」


 「なら良い……早速だが仕事だ」

元異能力犯罪者のパートナーにはこういった措置が施されている。《飼い主》である私が持つスイッチで何時でも爆破出来るようになっている他、飼い主が死んだり飼い主から1㎞以上離れても作動する。逃亡や反逆を防止するためだ。

ただ、ゴードン・ヘルは犯罪者ではない……資料によると自ら捜査官のパートナーとして志願したとある。

ゴードンって名前聞くとどうしても
某物理学者の方を思い出してしまうな…



私が調査中の事件はある連続殺人事件……まだ異能力者の犯行と断定されていないが、被害者の遺体が異常すぎる事から異能力犯罪の疑いがある。


発見される遺体の状態>>20

再安価>>26

安価下





ゴードン「うえぇぇ!」


安置所にある被害者の遺体を見てゴードンは吐いた。

 「吐くな。お前のやるべき事は遺体から残留思念を読み取る事だろうが」

ゴードン「す、すんません」


口元を袖で拭いながらゴードンは恐る恐る遺体に手をかざした。


 (右腕が右足の位置、右足は左足、左足が左腕……左腕を首、頭を右腕……切断した後わざわざ縫合したのか?)

確かに異常な遺体だが接合部が縫合してある以上、ただのイカれた前衛芸術家の作品という可能性もある。私はゴードンの異能力《サイコメトリ》の結果を待った。


ゴードン「う、うぅ……解りました。凶器は……」


1「ノコギリです」
2「プラスチックのナイフです」

>>29

2


ゴードン「……プラスチック製のナイフです」

 「何だそれは?訓練用のナイフみたいな物か?」

ゴードン「いえ、そういうんじゃなくてファーストフード店とかのパンケーキに使うような小さいやつです」


 「…………犯人の顔は?」

ゴードン「女……だと思うんですけど」

 「はっきりしろ」

ゴードン「すんません!……ただこの人の意識が凶器に集中していたみたいで……」

 「チッ……行くぞ」


小さなプラスチック製のナイフで人体を解体出来るわけがない。これは異能力犯罪だ。
出ようとした私が安置所の扉に差し掛かると、背後で何かが倒れるような物音がした……とは言ってもここには私以外には倒れそうな奴は一人しかいなかった。


 「……チッ」

続く
募集した能力は必ずしも採用されるとは限りませんので悪しからず

これって随時募集してんの?

>>32
それじゃ次の更新までひっそりと能力案を募集(戦闘、捜査問わず)
必ずしも採用されるとは限りませんので悪しからず


ゴードン「……うぅ……ん」

 「何時まで寝ているつもりだ?」

ゴードン「…………誰?」

次の目的地に向かう車中、助手席のゴードンが目を覚ましたようだが何やら様子がおかしい。私に対する警戒心をあらわにしたその表情から、ある可能性を思い見た。

 (こいつ、まさか…………『代わった』のか……?)

ゴードン・ヘルの資料に特記事項がある。

 
『解離性同一症の兆候あり』
 

いわゆる《多重人格》というやつだ。そして……
 
『それぞれの人格が別の異能力を持つ《多重異能力者》』

ともある。


資料には彼の生い立ちも記されていた。
その内容は何というか、人格障害も『然も在りなん』という壮絶で陰鬱な人生を歩んでいた。よくシリアルキラーにならなかったものだ……一歩踏み違えれば我々に追われる立場になっていただろう。

実際に彼は16歳の時、児童養護施設の職員を異能と思われる力を使って殺害している。
後の調査でその職員からの虐待を受けていた事実が判明し、精神鑑定の結果『責任能力無し』と判断されたゴードンは不起訴となった。


上司から渡された資料はゴードンのものの他に二名分……いずれの顔写真もゴードンと同じ顔だが、その表情からそれぞれ別人のような印象を与えていた。


 
 (この雰囲気……どっちだ?それとも資料にはない別の人格か?)



別人格の名前と性別(別人格なので必ずしも外人名でなくても良いです)
>>42>>43>>44

コンマ中間の値の人格が出現

ハデス 最低のゲス

ゲルニカ

クリス おネエ


?「誰って聞いてるのよ?」

 「私はお前の飼い主だ。お前こそ誰だ……名乗れ」


クリス「あたし?あたしは【クリス】よ。名前も知らないであたしの担当が勤まるワケ?」


 (初見で判るか!)

私は頭に叩き込んだ資料の内容を引き出した。

クリス……ゴードンの別人格で性別は男性。しかし『心は女』としばしば発言している。精神年齢は二十代から四十代前半。『性同一性障害』

 (多重人格でオカマとは……なんとも紛らわしい奴だな)


クリス「ねえ、前の小父様はどうしたの?」

 「前任者の事か?彼はお前達の担当を降りた」

クリス「残念だわ……惚れた男はあたしの前から去っていく運命なのね」

クリスは溜め息を吐いた後……


クリス「でも……貴方も結構、こ・の・み・か・も」


熱い視線を私に向けた。前任者が担当を辞退したのはコイツのせいじゃないのか?

コンマ間違えた

×クリス ○ゲルニカ

やり直します。ゲルニカの性別は女で良いのかな?


私は車を寄せて停車させるとゴードン(?)に向き直った。

 「お前は誰だ?」

?「……ヒッ!?」

着ているパーカーのフードを目深かに被り私と視線を合わせようとはしない。この反応は……


 「ゲルニカだな?」

ゲルニカ「…………」

暫くして小さくうなずいて肯定した。


ゲルニカ……性別は女。推定精神年齢は五、六歳から十代前半。『極度の対人恐怖症でありながら愛情を欲する人格』と資料にはあった。

 (……面倒な奴が出てきたな)


ビクビクしながら私の様子を伺うゲルニカ。しかしその見た目は高身長の外人青年……なんとも奇妙な光景だ。


私は子供の扱いは苦手だ。
ましてや見てくれが大の男だと、泣き出しようなものなら思わず殴ってしまいかねない。


くぅぅ……

ゲルニカ「……あ」

慌てて腹を押さえるゲルニカ……今のは彼女(?)の腹が鳴いた音らしい。先程ゴードンの時に盛大に嘔吐したのも効いているのだろう。

私は腕時計で時間を確認した。

 (もう昼時か……)


私はギアを入れ車を発進させた。

 
1休息は必要だ。近くのファミレスに入る。
2急速で次の現場へ向かう。

>>50


向かった先は大手ファミレスチェーン店。店に入る私の少し後をゲルニカが付いてくる。
店員に案内され席に着き注文をする。ゲルニカには私が勝手にお子さまランチを頼んだが特に不満は無いようだった。


ゲルニカ「…………あ」

食事が来るのを待っている時、うつむき気味のゲルニカが突然何かに反応したかのように顔を上げた。しかし、私と目が合うとまたうつむいてしまった。

 「どうした?」

ゲルニカ「……」

フードに隠れた顔からは表情は分からない。私達のテーブル付近だけ沈黙が流れた……元から会話など無かったが。


 (何だ今のは……気になるな)

果たしてどうしたものか?


1「はっきりしろ」と恫喝する。
2ゲルニカから話すのを待つ。

>>52


はっきりしない態度に苛つくが、相手は子供……たとえその容姿が男だとしても私が怒るのは逆効果かもしれない。私はゲルニカから話すのを辛抱強く待った。

数分後、彼女は口を開いた。


ゲルニカ「《いのう》の人が……いる」

 「なに……ここに異能力者がいるのか?」

ゲルニカ「……うん」


当初、ゲルニカの異能力は確認されていなかった。ある日彼女の人格が現れていた時に、偶然近くを通りかかった局の異能力者の能力を感知した。

ゲルニカは『異能力を感知し、その内容を解析』する事が出来る。


 「どいつだ?」

 「……あの人」

彼女がおずおずと指さしたのは窓際の席にいる女だった。



01234 (……知らない女だな)
56789 「あいつは……」

コンマ判定>>55

えい


 (知らない女だな……)

制服姿から学生と判断した。当然だがその姿は普通の女子校生だ……ゲルニカ以外には異能力者とは気付ける者はいないだろう。

 
 「どんな能力だ?」

ゲルニカ「…………とりかえっこの……力」

 「……?」

ゲルニカの異能力は捜査において非常に役立つものだが、いかんせん彼女の人格は幼い。
能力の本質を見抜いても彼女の語弊で説明するには難しい事があるのだろう。


私は異能力者とおぼしき女子校生を横目で観察した。『とりかえっこ』の能力が気になったからだ。

異能力者全員が犯罪者というわけではない。むしろ犯罪に走る異能力者はごく一部で大半はその能力を隠したがる……世間の目は異能力者には厳しいのだ。


食事を終えた女子校生は財布を取りだし、一枚の万札とテーブルの端にあるお客様アンケートの用紙を並べたようだ。

 (……何をしているんだ?)

更に財布からシートのようなものを出した。引っ掻くようにシートから赤丸を剥がしたところで、私はそれが事務用品の赤丸シールだと気が付いた。

女子校生は先程並べた万札にシールを貼っているようだ……もう一枚赤丸シールを剥がして同じようにアンケート用紙に貼ると、両方財布に戻し席を立ち会計に向かった。


店員「お待たせ致しました。お子さまランチのお客様……」

 「すまないがそれは食えない。会計を頼む」

ゲルニカ・店員「え?」

唖然とするゲルニカと店員、私はゲルニカの腕を掴みレジへ向かう。ゲルニカは名残惜しそうな悲しい顔をしていた。


会計係「820円になります」

女子校生「はい」


レジではちょうど女子校生が精算をしていたところだった。
女子校生は財布から一万円札を取りだし、会計係に渡そうとした……その札には赤丸シールが張り付いている。


『とりかえっこの力』『二枚のシール』『万札とアンケート用紙……二枚の紙』


私はある仮説に行き着いた……が、それが正解という確証もないし勘違いかもしれない。



1「流石にそのシールじゃ無理があるだろう」と釘を刺す。
2黙って犯行を確定させる。
3(思い過ごしだな)と見なかった事にする。

>>60

1


 「流石にそのシールじゃ無理があるだろう……目立って印象に残るぞ?」

女子校生「……!?」

女子校生だけに聞こえるよう小声で言うとハッとしたように彼女は振り返った。その表情は驚愕に満ちている。


会計係「あの……一万円札で宜しいでしょうか?」

女子校生「あ……千円あります……!」

渡しかけの万札を引っ込め代わりに千円札を会計係に渡す女子校生。彼女は明らかに落ち着きを欠いた様子で精算が済むのを待っていた。


釣りを受け取り大慌てで店を飛び出して行く少女を追いかけるために、私は万札と注文伝票を会計係に手渡し「釣りは要らない」と伝えて女子校生を追った。

 (くそっ、何で万札しかないんだ!?)


領収書を書いてもらう暇も無かった私は自腹を覚悟した。

果たして女子校生が連続殺人犯なのか?

続く。


登場人物

主人公 異能力犯罪捜査官。性別は男、異能力者ではない。

ゴードン・ヘル 多重人格の青年。 異能力《サイコメトリ》

 ゲルニカ ゴードンの別人格の少女。対人恐怖症というより人見知りになっている。 異能力は《異能力の感知と解析》

 クリス ゴードンの別人格で出る場所を間違えたおネエ。多分また出ると思う。

女子校生 異能力者。《二つのモノを入れ換える能力》


女子校生「何なのよあの……きゃ!?」

女子校生はあっさりと捕まった。
追ってくる私に気を捕られ過ぎて段差に躓いて盛大にスッ転んだからだ。





 「何故逃げた?」

女子校生「……おっさんが追ってきたから」


 (おっさん……)

ゲルニカ「おっさん……?」

私は車中で女子校生を職務質問をする事にした。


 「名前は?」

女子校生「…………」



女子校生の名前>>81

間違えた>>71


女子校生「山田花子」

 「山田花子か。何か……」

倉井「嘘よ、間違えたの!ホントは倉井日向(くらい ひなた)」

 「どっちなんだ……?」

倉井「倉井日向だって!」

 「倉井日向……何か身分証明出来るものは?」

倉井日向は私に学生証を見せた。○○女子高校三年……確かに【倉井日向】の名前、顔写真も彼女のものだ。


 「異能力者だな?」

倉井「ハァ?意味わかんないんですけどぉ。そもそもオジサン何?ケーサツ?」

 「そんなところだ。異能がらみの事件を扱っている」

倉井「…………」


私を警官と勘違いしてくれるのならありがたい。

色々と後ろ暗い業務が多い《異能力犯罪捜査官》という職は表向きには存在していない。知るのは一部の政治家や官僚のみ……
《異能力者》自体の存在定義が定かではない現状ではこの世界に《異能力者》は『いない』事になっているのだ。

いない筈の異能力犯罪者を追う……《異能力犯罪捜査官》とはなんとも矛盾した仕事だ。


しかし六年前に起きた『地下鉄車両内連続殺傷事件』を皮切りに次々と起きる異能力犯罪事件のせいで世間に《異能力》の存在が知れる事となった。

当初は《超能力》と呼ばれていたが、その異質さからか何時しか《異能力》という言葉が定着化していった。



 「さて倉井さん、君の力についてだが……」

倉井「知らないっつってんでしょ!」

ゲルニカ「……ッ!?」

 「怒鳴るな……話を聞きなさい」

異能力疑惑を否定し声を荒げる倉井をなだめた。
助手席のゲルニカはビクビクしながら大きな体を縮みこませている。


 「『二つのモノの位置を交換する力』か?」

倉井「……」

 「シールは目印だな?貼っておくと能力の精度が上がるような」


私は『お見通しだぞ』と、さも自信ありげに話すが全ては想像の域だ。もし違っていたらかなり恥ずかしい。


倉井「……!?何で……わかったわけ?」

それでも倉井には効果があった。どうやら正解を引いたらしい。

続く……安価取れんかった


能力案募集。次の更新まで
必ずしも採用されるとは限りませんのであしからず


倉井によると《異能力》が発現したのは半年ほど前らしい。
友人と一緒に撮影したプリントシールを手帳と自室のコルクボードに貼ったら(きっかけは分からないが)双方の位置が入れ代わったという……ちなみに同じシールを貼って自身にも印象付けしないと異能力は発動しないそうだ。


 「会計で一万円札を払い、精算したら異能力でアンケート用紙と入れ換える。札は却ってきた上に釣り銭分を儲ける……考えたな」

倉井「……お金でやろうとしたのは初めてよ」

 「本当か?」

倉井「…………う、うん……マジで」

 「本当か?」


倉井「…………前に千円札で……もうやらないよ」

気まずそうに打ち明ける倉井。そんな事だろうと思ったが万札でやるのは本当に初めてなのかもしれない。
事前に仕込んでくればいいものを、店内でシールを貼ったりと手慣れた感じがしなかった。

今回は未遂に終わった事だし反省の色も見える……正直な所、私にはどうでもいい。問題は件の連続殺人との関係だ。


倉井の異能力であの死体を作る事は出来るだろうか?

1 出来る。倉井に任意同行を求めるべき。
2 出来るかもしれないが気になる点が……

>>80

2
屍体は部位を縫合していた。一般的な女子高生には不可能な技術であり、
彼女の能力にはその必要性がないように思われる


屍体は部位を縫合していた。一般的な女子高生には不可能な技術であり、彼女の能力にはその必要性がないように思われるが一応、倉井に聞く必要がある。

 「倉井さん、君の力の事なんだが」

倉井「……な、なに?」


 「もしシールを人間の両手に貼って力を使ったらどうなるんだ?」


倉井「……?………………………………………………ハァ!?オジサン頭おかしいんじゃない!?そんな事したら……!」

質問の意味に気付いた倉井は一気にまくし立てる。どうやら彼女の倫理観は正常のようだ…………無線飲食と釣り銭窃盗は魔が差しただけだろう。

もしこの反応が演技だとしたら、かなりの役者か精神異常者だ。


倉井の嫌疑が晴れたわけではないが、彼女はこの事件との関係性は薄いように思われる。

倉井を解放し車から下ろすと彼女は不安そうに話しかけてきた。


倉井「あのさ……私が異能だって事は……」

 「私には個人情報の守秘義務がある……誰にも言わないから安心しなさい」

倉井「……そうなんだ」

嘘だ。異能力者を発見した場合、当局はたとえそれが善良な一般市民でも把握しておく必要がある。倉井の事を上司に報告する義務もまた私にはあるのだ。


倉井「良かったぁ、周りに異能の事バレたらヤバイじゃん?《異能狩り》とかさ……」

 「ただし、犯罪を犯せば異能の情報を公開される……次は無いぞ」

安堵した様子で饒舌になり始めた倉井に釘を刺しておく……が、これも嘘だ。いない筈の異能力者の情報が公開される訳がない。

倉井「わ、わかってるし……もう絶対しない……」

 「解れば良い。もういいぞ……いや、最後に言っておく事がある」

倉井「……なに?」


 「私は三十代前半だ。オジサンと呼ばれる筋合いはない」


倉井は「オジサンじゃん!」と捨て台詞を吐いて行ってしまった……ちょっとショックだった。




 「ホットケーキを二つ」

店員「ご一緒にお飲み物はいかがでしょうか?」

 「そうだなコーヒーを二つ……いや、コーヒーとオレンジジュースを」

店員「コーヒーはホットとアイス、どちらに致しますか?」

 「ホットで」

店員「ご注文は以上で宜しいでしょうか?」

 「ああ、以上だ」

店員「ご注文を繰り返しまーす」


私達は倉井との一件で食い損ねた昼食をファーストフード店で簡単に済ませる事にした。
同僚からは《鉄面皮》と呼ばれる私と、その背中に隠れるように寄り添う(私より背が高い)外人青年という怪しい二人組の注文でも店員の女性は笑顔で応対してくれた。




 「……思ったより小さいな」

薄っぺらい生地が二枚重ねのホットケーキは昼食としては物足りないボリュームだった。

ゲルニカ「んむんま」

既に一枚平らげたゲルニカは二枚目に取りかかっていた。


 「これか」

私は袋から『それ』を取り出した。
ホットケーキを注文した理由は昼食の為だけではない。ゴードンが《サイコメトリ》で視たという凶器……【プラスチック製のナイフ】がどんな物か確かめたかったのだ。

試しにナイフを掌に押し当てて引いてみたが傷はつかない。柔らかいホットケーキは切れても人間の腕や足を切断するのは当然無理だろう。

 (やはり異能なのか?それとも……)


ゲルニカ「…………」

ホットケーキを完食したゲルニカが私のホットケーキを見つめていた。

 「……食べたいのか?」

ゲルニカ「…………ん」

 「……………………一枚だけだぞ」



プラスチックのナイフが人を切断するほど強化されたのか、
人がプラスチックのナイフで切れるほど一時的に軟化したのか


昼食を済ませ次の現場に向かおうとした時、緊急の連絡が入った。連続殺人に関係すると思われる新たな犠牲者が発見されたらしい。

車を方向転換させ新たな犠牲者が発見されたという川へ向かう最中、ゲルニカに異変が起きた。


人格変換

1234 ゴードン
567  オカマ
89  ゲス野郎
0   ?

コンマ判定>>88

安価下

ごめん最初の安価通り>>88(21:38:29.31)
ゴードンでいきます。


ゴードン「…………え……あれ?」


 「誰だお前は?」

ゴードン「え?ボクはゴードンですよ。忘れちゃったんですか?」

 「そうか、ゴードンか」


もうゲルニカでないのなら遠慮しない。私はゴードンの胸に肘鉄を喰らわせた。

ゴードン「何故に!?」

 「ホットケーキの恨みだ」

ゴードン「意味ワカンナイっすよ!」


多少、気の晴れた私はゴードンに質問した。

 「お前、自分の病気は知っているよな」

ゴードン「え?……まあ」


 「他の奴ら……ああ《人格》とは記憶の共有とか情報交換的な事は出来ないのか」


ゴードン「そうですね……」


1 無理。別人格はあくまで他人。
2 特定の人格とだけ共有している場合が……
3 眠っている時に夢の中で他の《ボク》と会話とかしてますよ。

安価下


ゴードン「……夢を観るんですよ」

 「……?」


ゴードン「白い部屋に他の《ボク》達がいて……会話とかしたりする事があります」

 「ほう、興味深いな……ゲルニカもいるのか?」

ゴードン「ええ……でも彼女はあまり他の《ボク》達と関わろうとしません。クリスとかよく構っていますけど」

 「……そうか」

解離性人格症は別人格時の記憶が無い場合もあるそうだが、ゴードンは違うらしい。

 「他の《お前》は何人くらいいるんだ?」


ゴードン「沢山います。良い奴も嫌な奴も……多分会った事もない、ボクの知らない《ボク》も……」






老刑事「……またあんたか」

 「どうもその節は」

新たな犠牲者が出た一級河川に到着すると現場は大勢の警官と野次馬でごった返していた。
以前に別件(異能力事件)で顔見知りとなった老刑事は私を見るなり渋い顔をした。ちなみに私達は『異能力の専門家』という事になっていて警察の上層部にも話が通っている。


 「遺体はどんな感じですか?」

老刑事「酷いな……犯人は完全にイカれてる」

 「四人目か……」

老刑事「異能だろうが何だろうが物証は残されてるんだ。あんたらの出る幕は無いよ……ホシは我々警察が絶対挙げてやる」

 「…………」


老刑事「詳しい話はあんたらのご同輩に聞くんだな」

 「ご同輩?」


同僚「……どうも」

異能力者「……」


 「ああ……お前らか」

そういえばこの事件を追っていたのは私だけではなかった。先に到着したらしい同僚の捜査官とパートナーの異能力者はあまり友好的ではない態度で私に挨拶した。


同僚の名前と性別↓1
異能力者の名前と性別↓2


等木「彼が新しいパートナーですか?」

 「ああ……ゴードン」

ゴードン「はい?」

 「等木捜査官と相棒の光峰だ。彼女らもこの事件の担当だ……挨拶しろ」

ゴードン「あ、はい。ゴードン・ヘルです。ヨロシクね!」

等木「よ、よろしく」

予想外に陽気なゴードンに少々面喰らいながらも等木は握手に応じた。
ゴードンは光峰にも手を差し出すが光峰は冷ややかな眼差しをゴードンに向けた。


光峰「……なにそれ?」

ゴードン「あ、握手を……」

ひきつった笑顔のまま固まるゴードンを光峰は鼻で笑う。

光峰「ハッ……別に仲良しごっことかする必要ないっしょ」

等木「江子!」


準捜(準捜査官)の頃から優秀な等木だが、正規捜査官となりパートナーの手綱を握るようになって約一年……異能力者の扱いには難儀しているらしい。


 「等木、躾がなっていないな」


光峰「あ?」

等木「江子!……お言葉ですが彼女は犬猫ではありません。躾とか……」

私に喰って掛かろうとする光峰を押し止めながら等木は反論した。
以前、彼女とは私のパートナーへの扱いについて口論した事がある。等木曰く、私は「彼らを便利な道具のようにしか見ていない」との事だ。


 「訂正しよう。教育が行き届いていないようだな」


等木「…………」

 (こいつは異能力者を必要以上に情を掛けすぎる傾向があるな)

私は実際に彼らを犬扱いしているわけではない。

だが自由を得るために爆弾という首輪をはめてまで猟犬として道を選んだゴードンや光峰という『元・異能犯』(正確にはゴードンは違うが)と協力し、その能力を有用して事件を解決に導く……それが異能力犯罪捜査官というものだ。


 「その議論はまた後にしよう……今はこの件が先決だ」


等木「……はい」

光峰「チッ」


私達は件の被害者と対面した。
現場は葦(よし)が群生している水辺で人目につきにくかったのか、遺体はかなり腐敗が進行していた。

等木「本日正午過ぎ、地元住人があそこの土手で野鳥撮影中に発見したそうです」

 「土手で?……ああ、望遠レンズを覗いていたら、うっかり死体を見つけたのか」

等木「え、ええ……そのようです」


ゴードン「ウプッ」

 「吐くなよ?」

ゴードン「イ……イエス・サー」


被害者は女性、十代後半から三十代前半。衣服は身に付けておらず身元を確認出来るような物は無い。
頸部に深い切創……左上腕部切断、胸部から下腹部にかけても切り開かれて、しかも再び縫い合わされている。縫い目は酷く乱雑……。


 「腐敗が酷いな。首が落ちかかっている……骨まで切断しているな」

等木「はい。警察の見解では凶器は鋭利な刃物だろうと……詳しくは司法解剖待ちですが」


 「鋭利な刃物か……ゴードン、仕事だ」

ゴードン「は、はい!」

ゴードンは目を閉じて集中し始めた。


光峰「アイツなにやってんの?」

等木「シッ……彼の異能力よ」


ゴードン「…………この『場』からは事件に関連しそうな《思念》は感じられません」

腐り具合からいってこの遺体が遺棄されてから、かなりの日数が経過しているようだ。

ゴードンの《サイコメトリ》は時間が経過するほど残留思念を読み取りづらくなる。
では遺体は?殺害される瞬間に加害者との強い感情の交錯が起きる可能性が高い被害者なら時間が経っても何か視えるかもしれない。


 「そうか……よし、次は遺体だ」

ゴードン「うげ……マジですか?」

 「とっとと始めろ」


ゴードン「ぬうぅ……」

遺体の肩の辺りに触れてから数秒後……ゴードンがワナワナと震えだした。


ゴードン「……なんでよ……何でわかってくれないよのォォォォーーッ!?」


等木「!?」

光峰「何だ……?」

 (これは人格が……いや違う!)

《サイコメトリ》によるフラッシュバック……ゴードンは何者かの感情に感化されている。


ゴードン「あなたがァッ!あなたが悪いのよォッ!わたしを否定した……わたしを馬鹿にシテェェッ!!」

両腕を、頭を振り乱し暴れ始めたゴードン。このままでは現場や遺体だけでなくこの場にいる者にも被害が及びかねない。

私は拳を強く握り締めた。

ゴードン「切ってやる……切断してから醜い姿にしてやるわ!わたしを!わたしの姿をォ!わたしのチカラをひていし……おゴォ!!?」


 「……手間をかけさせるな」

頬に鉄拳を喰らったゴードンは派手な水音と共に川に落ちた。


光峰「あーあ」

等木「………………ハッ!やり過ぎですよ!ゴードン君、大丈夫!?」


 「……フン」

私に抗議しながらゴードンを川から引き上げようとする等木を無視して、私は先程のゴードンの様子について考えた。


 (ゴードンが感化された人物、あの口振り……おそらく加害者……犯人の可能性が高い)

遺体本人の残留思念より犯人の感情が強く残ったのか、それとも遺体という『物質』を通して犯人の残留思念を読み取ったのだろうか?

等木に助けられたゴードンが戻ってきた。

ゴードン「……すんません」

 「何を感じた?」


等木「他に言う事は無いんですか!?」

 「何だ等木、邪魔をするな」

等木「ゴードン君をあんな目に合わせて……!」

 「……チッ」

光峰「うわ……感じ悪いわぁ」


私を非難する等木と不快感を表す光峰……こいつらは何も解っていない。《サイコメトリ》がどれだけ危険な能力なのか。


ゴードン「あの等木さん、ボクは大丈夫っすから!」

等木「大丈夫って……君ねぇ」

光峰「怒れよ。あんだけ酷え目に合わされてなにヘラヘラしてんだよ」

ゴードン「いや、むしろ殴られてなかったらボクがヤバかったんです」

等木、光峰「ハア?」


ゴードン「《サイコメトリ》は深く『入り』過ぎちゃうと戻れなくなっちゃうんすよ」

殺人事件に関する残留思念は怨恨や嫉妬など『負の感情』が多いものらしく、ゴードンの《サイコメトリ》は、それら『負の感情』に呑まれてしまう場合がある。
その状態が長引くとゴードンは『加害者』または『被害者』そのものになってしまう……それを阻止するのも彼の担当者である私の責務だ。


光峰「…………」

等木「そんな……」


 「ゴードン、何を感じた?」

ゴードン「……凄まじい怒りと…………なんていうのかな……うぅん」

 「何だ?」

ゴードンは言葉を選んでいるようだが、巧く言い表す事が出来ずもどかしそうにしている。


ゴードン「『認めてもらいたい』って気持ちが……」

等木「名声欲……のようなものでしょうか?」

ゴードン「あ、それに近いような気がします」


 「怒りと……名声欲か」

光峰「目立ちたがり屋の変態なんだろ?だからわけのわかんねえ死体を作って面白がっているんだ……そんな奴に限ってTVのインタビューとかシレッと受けてんだよな」


等木「……あの、さっきのゴードン君の様子からすると犯人は……」


犯人の性別は?
↓1


等木「犯人は女ではないでしょうか?」

先程のゴードンの口振りといい、安置所でもゴードンはそんな事を言っていた。


 「その可能性は高いな……ゴードンはどう感じたんだ?」

ゴードン「え?そうっすね……そうだ!確かに『自分は女だ』って意識がありました」

 「それを早く言え」


光峰「でもさ、普段から自分の性別って意識するもんなの?あたしはしちゃいねーけど」

等木「そうね……私も嘗められないように自分が女だって意識しないようにしているわね」


 (捜査官としてはそれでも良いが、女としては駄目そうだな……こいつら)


切り開いた傷を縫合している遺体……おそらく殺害現場はここではない。だとすると気になる点がある。


 「女が一人で遺体をここまで運んだのか?」


光峰「……そりゃ、やって出来ねえ事はねーだろうよ」

 「世の女は誰しもお前のような馬鹿力じゃないぞ」

光峰「なにあんた……喧嘩売ってんの?」

ゴードン「ま、まあまあ」

遺体を車で運んだとしても土手の向こう側までだ。そこから土手を越えてここまでは結構な距離がある。


等木「共犯者がいたという事ですか?」

 「可能性はある」

ゴードン「いや、でも残留思念は一人分しか感じられませんでしたよ?」


 「それは時間が経っているから…………そもそも、この被害者が殺されたのはいつだ?」

等木「詳しくは司法解剖待ちと……」

 「私達が追っている連続殺人事件はいつから起きている?」

等木「二ヶ月前から……あ!」

光峰「え、なにどしたの?」


かなり腐敗が進行している遺体。水に浸かっていたせいもあるだろうが遺棄されてからかなりの月日が経過しているはずだ。


 「この遺体は一連の事件の最初の被害者である可能性がある」

ゴードン「あ、そうか!」

そしてゴードンが感化された犯人と思われる女の台詞。あれはかなり激昂していた様子だった……もしあれが犯行時の再現だとすると……


等木「この被害者は突発的に殺害された?」

 「そうだ、計画的にではなく弾みで殺されたんだ」


ゴードン「ええと、なにか違うんすか?それ」

 「大違いだ。突発的な犯行は被害者の周辺人物、交遊関係が怪しくなる」

ゴードン「おお、なるほど!」

等木「これは大きな手掛かりですよ」


光峰「ふーん……でさ、この仏さんは誰なわけ?」


 「…………」

等木「…………」

ゴードン「…………」


とりあえず今日は解散となった。被害者の身元を探すのは警察の方が得意なのだ。
今後の方針はまた明日、等木や上司と相談する必要がある。

続く

連続殺人事件とか凶器とか色々限定しすぎて難しくなってしまった。
ちなみに川から上がった死体が最初の被害者……は『羊たちの沈黙』のパクり。


帰りの車中、ゴードンに聞き忘れていた事を質問した。

 「ゴードン、今回の凶器は何か視えたか?」


ゴードン「凶器……ぼんやりとですけど【カッターナイフ】のような物かと」

 「カッター……工作とかで使う替刃式のやつか?」

ゴードン「はい、小さいやつです」

仮に凶器が小さなカッターナイフだとして首の骨まで切断出来るだろうか?


 「この事件の犯人は異能力者だと思うか?」

ゴードン「え、それは……そうだと思います」

 「私もだ……でないと我々が動く意味が無い」

《サイコメトリ》中にゴードンが口走った「チカラ」とは、やはり異能力の事なのだろうか……どのような能力なのか?


ゴードン「多分『切る』能力……ですよね?」

 「おそらくな。問題はどう『切る』のか……物質の硬質化か?逆に切る対象を軟化させる能力か?それこそプラスチックのナイフで人体を切断出来るほどに」

ゴードン「なるほど……ありそうっすね」





車はゴードンの住む寮に到着した。ゴードンは車から降りずに思い詰めた様子で私に話しかけた。


ゴードン「……あの、もしボクが《サイコメトリ》でとんでもない殺人鬼とかになって戻れなくなった時には……」


 「安心しろ。すみやかに殺してやる」

ゴードン「た、頼もしいっすね……安心しました」


 「そうならないように努力しろ…………相棒を失うのはもう御免だ」

ゴードン「……は、はい!」


車から降りたゴードンは笑顔で寮に入っていった。


 「……おかしな奴だ」


ゴードンを寮に送り私も帰宅した。捜査官は都合上パートナーである異能力者の近くに住まなくてならない。

 (やはり半径1㎞は短いな……今度上司に【リード】の上限距離について掛け合うか)

ちなみに等木は自宅に光峰を住まわせて世話を焼いているらしい……まあ本人が良いのなら私がとやかく言う事ではないだろう。


私は捜査資料を机の上に広げた。

『二ノ宮 晴信』……23歳、男性。会社員(今年入社)。最初に発見された被害者で首に深い切創、両手を切断され左右逆に入れ換えて縫合されていた。

『塩三 ゆかり』……18歳、女性。大学1年生。2番目に発見された被害者。首に深い切創、切断された両手を両脚に両足を両腕に縫合されていた。

『須藤 亜津子』……39歳、女性弁護士。午前中に安置所で見た3番目に発見された被害者。首、両腕両足を順繰りに入れ換え縫合されていた。


この事件の被害者達の資料だ。犯行の手口が回を追う毎にエスカレートしている。


 (被害者達の接点は無し。共通点は……いずれも首へ致命傷、切断と縫合、住居があるのは同じ市内くらいか……ん?須藤亜津子は一ヶ月前に離婚しているな。旧姓は……『四谷』?)


 (…………まさかな)

あまりにも馬鹿馬鹿しい。流石にそれはないだろう……と、思いたい。




翌日、私と等木、上司で打ち合わせをすることになった。

 「一、二時間はかかりそうだ。ゴードン、お前は体力無さそうだから運動場で走り込みでもしてろ」

ゴードン「マジっすか?」

等木「それならジムに行くと良いわ。江子もいるはずだから」


ゴードン(どうしよう?)


1 走り込み
2 ジムへ
3 局内の探索

↓1


局内にはジムが併設されている。異能力犯罪捜査官は体力勝負、ジムの一角で光峰江子はサンドバッグを叩いていた。


ゴードン「おはよう、コーコ」

光峰「あん?気安く声かけてんじゃねーよ……ってか名前で呼ぶなよ」

ゴードン「アハハ、等木さんがここにコーコがいるって言ってたから見に来たんだよ」

光峰(チッ、アサコめ!)


光峰の拳がひときわ大きくサンドバッグを揺らした。するとそこへ壮年の男が近づいてきた。
男の体はたくましく、明らかに只者ではない雰囲気。


?「おう、ここでは見かけん顔だな……光峰の彼氏か?」

光峰「違ぇよ!オッサン!」

ゴードン「あ、ボクは捜査官のパートナーをやってまして……」


?「む、異能力者か?」

ゴードン「は、はい」

?「フム……」

男はゴードンの身体をジロジロと見回した後、いきなり尻を叩いた。

ゴードン「うわ!?」

?「ガハハ!もっと身体を鍛えろ!そんな細っこいと体力がもたんぞ!」


男の名前
↓2


持田「俺は持田。教官をやっている」

ゴードン「教官でしたか、自分はゴードン・ヘルであります!担当の捜査官は……」

持田「そんなに鯱張るなよ。暇な時にはここでトレーナーをしているからいつでも寄ってくれ」

ゴードン「あ、はい」


教官とは新人の教育や訓練をする指導者、その多くは現役を引退した捜査官だ。


持田「しかし、たっぱがあるな……身長はいくつあるんだ?」

ゴードン「えっと、たしか……」

光峰「……」

持田と話し込むゴードンに目もくれずサンドバッグを打つ光峰。


ゴードン「コーコはよくここに来るんですか?」

持田「おう、光峰の担当の等木は俺の教え子でな、それもあってよく面倒を見てるよ」

ゴードン「へえ」

光峰「…………」

光峰は黙々とサンドバッグを叩く。


ゴードン「コーコは強いですか?」

持田「格闘戦だったら、ここでもかなり上の方だな……もちろん能力抜きでだが」

ゴードン「おお、やっぱり!」

光峰「………………ッ!」

光峰はサンドバッグを……


ゴードン「コーコは……」

光峰「ダァーーッ!さっきからあたしの名前を連呼してんじゃねぇよ!」


ゴードン「え、コーコどうしたの?」

光峰「名前で呼ぶなってんだよ!」


ゴードン「…………なんで?」


光峰「てめえムカつくな。殴らせろ」

持田「やめんか!」

ゴードンに殴りかかりそうな勢いの光峰を押し止めながら持田は提案した。

持田「そういうのはリングの上でやれ!」

光峰「よし、今すぐグローブ着けてリングに上がれ」


ゴードン(えぇッ!?)


ヘッドギアとグローブを装着したゴードンが光峰の待つリングに上がると、トレーニングしていた局員達がワラワラと集まりだした。

「なに?喧嘩?」

「光峰と新人(?)がスパーだってよ」

「お、新入りでかいな」

「新人くん死ぬなよー!」


ゴードン(な、何故こんな事態に……!?)

持田「拳を交え友情を深める……王道だろう?」

リングサイドの持田が親指を立てて白い歯を見せた。


光峰「オッサン、ごたくはいいから早くゴング鳴らせよ!」


ゴードン「コーコ……ホントにやるの?」

光峰「名前で呼ぶなって!……いや、あたしに勝てたら名前で呼ぶのを許してやるよ」

ゴードン「え、ホント!?」

光峰「ああ、蹴りでも頭突きでも、なんなら武器を使っても構わない……あたしに勝てたらな」


ゴードン「……!いや、ボクもボクシングでお相手するよ」


持田「3分1ラウンドだけな。もちろん異能は無しだ」


ゴードン「はい!」

光峰「分かってるよ」

ゴングが響いた。


ゴードン「…………」


持田「ほう」

光峰(こいつ……)

光峰はゴードンと真正面から対峙するとその高さを実感した。
身長差は約20㎝……長身痩躯のゴードンが長い腕をしっかり折り畳みファイティングポーズをとるその姿は、獲物を狙う蟷螂の様な不気味な威圧感がある。

持田(リーチでは圧倒的にゴードンが有利だが……)


光峰「……ッ!」

ゴードン「!!」

光峰はゴードンとの距離を詰めるべく一気に踏み込んだ。




「……嘘……だろ」

持田「…………」

局員の誰かが思わず声を漏らした。


光峰(こいつ…………見かけ倒しすぎんだろ!?)


ゴードン「」

白目をむいて大の字で伸びているゴードンの姿を光峰は見下ろしていた。


光峰「……いや、むしろ見かけ通りか」

秒殺……いや瞬殺だった。弛いジャブをかい潜った光峰の左ストレートは見事にゴードンの顎を打ち抜いたのだ。

持田「完全に伸びているな……誰か氷のうもってこい!」


光峰「……あほらし」

ゴードンに駆け寄る持田を尻目に光峰はリングを後にしようとした。


持田「ゴードン?おい、大丈夫か!?ゴードン……?」

光峰「……?」


―――――――――――――――――

上司「なるほど……被害者の苗字に数字か」

等木「私もそれは気になりました。だとすると犯人はどうやって被害者の名前を知ったのでしょうか?」

 「そうだな……SNSや電話帳、いくらでも調べる方法はあるが……」


上司「しかし、この事件……証拠も残されているな。異能絡みとはいえど警察に任せた方が良いと思うのだが」

 「まだ犯人の異能力は正確に判明していません。その判断はまだ早計かと」

上司「だがね、警察が立件出来る事案にわざわざ介入して……」

 (そういえばこの人は元・警察庁出身だったか)

秘密裏に組織されたここには各省庁から優秀な人材が集まっている。それゆえこの人のような考え方の者も数少なくはない。


上司「そもそも凶器が【プラスチック製のナイフ】や【カッターナイフ】というのは本当かね?」

 「ヘル準捜の《サイコメトリ》は毎月のテストでも高精度の結果を残しています」

等木(私達が異能力の存在に懐疑的になってどうするのよ?)


その時、会議室の電話が鳴った。

等木「はい、第一会議室……はい……え?ゴードンがですか?」




 「チッ、どいつもこいつも!」

電話はジムからの連絡だった。光峰とのスパーリングでK・Oされたゴードンが目を覚ましたら様子がおかしいとの事だ。
会議は引き続き捜査を継続という事でお開きとなり、私と等木はジムへ向かった。


等木「ゴードン君、例の……ですか?」

 「ああ、多分な」



ゴードンの人格変換

1234 ゲルニカ
5678 オカマ
9   ゲス
0   ?

コンマ判定
↓1


続く

新しい人格の名前と性別
↓1、2、3でコンマの値が間のもの

あと能力案を常時募集します。必ずしも採用されるとは限りませんのであしからず。


ゴードン?「だから僕はゴードンではないと言っている」

持田「打ち所が悪かったか……?」

光峰「え?ヤバ……」

ゴードン?「違う、僕は……」


 「失礼します」

私達がジムに入ると慌てた様子の光峰が等木に駆け寄ってきた。

光峰「あ、アサコ!こいつ、一発殴っただけでなんかおかしくなったぞ」

等木「落ち着いて江子。多分大丈夫だから」


持田「お前がゴードンの相棒だったのか久し振りだな。等木も一緒か」

 「持田さん」

等木「持田教官、ご無沙汰してます」

 「すみません、うちのがご迷惑を」

持田「いや……しかし一体これはどういう事なんだ?」


ゴードン?「僕の眼鏡は?あれが無いと落ち着かない」


 「実は……」




アポロンと名乗る人格は自分(ゴードン)のデイバッグから取り出したノンフレーム眼鏡を念入りに磨いてから掛けて私へ向き直った。

アポロン「貴方が僕の担当捜査官か?」

 「ああ」


アポロン「始めに言っておこう……僕は貴殿方には協力するつもりはない」


等木「……!?」

持田「これは……また」


 「……自分の立場を理解していない様だな」

アポロン「立場?ゴードンはそのつもりの様だが、僕は飼い犬になった覚えはない」


アポロンはニヤリと笑うとベンチに腰を下ろし脚を組む……はっきりいってムカつく。一発殴ってやろうか?

光峰「なにコイツ、もしかして《人を苛つかせる》能力とかなの?殴って良いかな?」

等木「ま、待ちなさい!」

どうやら光峰も同じらしい。


 「ならば仕方ないな……協力できないならお前など必要ない」


等木「え!?」

アポロン「フッ、爆弾か?やれるものならやってみろ。ただし貴殿方が必要としているのは『僕だけ』ではないはずだ」


 「…………」

等木「駄目ですよ!?」

アポロン「起爆して『彼ら』もろとも僕の脳をかき混ぜてみるがいい」

ゴードンやゲルニカを人質を捕ったつもりか?ならばこちらにも考えがある。


 「光峰、許可する。コイツの人格が消えるまで殴れ」

光峰「OK、話がわかってるじゃん」


アポロン「な……暴力で解決するとでも思っているのか!?この野蛮人どもめ!」

大義名分を得たと拳の間接を鳴らす光峰に狼狽するアポロン。


持田「まあ待て」

 「持田さん……?」


持田「まあ、言い分も分からんでもない。ここはひとつ彼の話を聞いてみようじゃないか」

 「しかし……」

持田「彼を乱暴に扱えば、もしかしたら他の人格にも悪影響を与えかねん」

 「……そうですね」

ゴードンは他の人格と会話できる様な事を言っていた……確かに持田教官の言う事も一理ある。


持田「アポロンといったかな?俺は持田だ。よろしく」

アポロン「…………」

持田「歳はいくつかね?」

アポロン「…………十六」

持田「十六歳か」


持田教官の話術は見事なものだった。
ある時はアポロンの自尊心をくすぐり、はたまた意見を対立させ彼との議論に興じた。そして……

アポロン「分かった……協力するよ」

持田「そうか、ありがとう」

 (……流石だ)

等木(私には真似できない)

光峰(『年の功』ってやつ?)


アポロン「ただし条件がある」


 (コイツ、何様だ?)

持田「何だね?」

アポロン「僕は戦闘には参加しない」

光峰「チッ、ただのヘタレかよ」


アポロン「どうとでも言いたまえ。僕の能力は戦闘向きでも捜査向きでもないので無理なんだよ」

 「なに?お前の異能力はなんだ?」

アポロン「フッ……秘密だ。さあ、捜査資料を見せたまえ」




――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
 

『○市○○川で腐乱した女性の遺体が発見された事件で、遺体の一部が切断されている事から警察は殺人死体遺棄事件として……』
 

五来「うわぁ……」

五来徹(ごらい とおる)が同僚達と休憩中、TVは昨日起きた事件が盛んに報道されていた。

 
 (……意外と見付かるのに時間がかかったわね…………でもまた報道規制されてるじゃない……!)
 

桐崎「やだぁ○市ってすぐ隣じゃないですかぁ」

節田「これって最近起きているバラバラ殺人かしら?」

怖がる後輩の桐崎彩(きりさき あや)と興味津々な同期の節田恵子(せつだ けいこ)、その節田が五来に話しかけた。


節田「五来さん知ってます?最近起きている連続バラバラ殺人事件の被害者にある法則があるらしいですよ」
 

五来「法則?……知らないけど」

桐崎「え、なになに?なんですかぁ?」

節田「これよ」

節田が一冊の週刊誌を広げてみせた。

桐崎「フムフム『数字順に殺害される被害者!?』『苗字に数字』え?本当ですか?」

五来「『二ノ宮』『塩三』……『須藤(旧姓 四谷)』……へえ」
 

桐崎「あれ?じゃあ『一』の苗字の人は?」

節田「だからこのニュースでやってる昨日川で見つかった人よ」

五来「この順番だと次は『五』だろ?」

節田「腐っていたってニュースで言ってたじゃない?きっと二ノ宮って人より前に殺されたのよ」


桐崎「そっかぁ……なんて人なんだろ『一条さん』?」

 
節田「『一之瀬さん』かもよ?まあ、それは分からないけど……五来さんも気をつけた方がいいわよ?」

五来「え、なんで俺?」

桐崎「あ!『五』来さんですもんね」

節田「次の被害者は五来さんだったりして」

五来「ちょっとやめろよな。節田さん趣味悪いよ」

節田「あれ、引いてる?」
 

桐崎「節田先輩って、こうゆう話好きですよねぇ……でもぉ、女子としてそれってどうなんですかぁ?」

節田「ちょっと!彩ちゃん!」

桐崎「ごめんなさぁい」

五来「ハハッ」


 
 (次は『五』……どんな風にしようかしら?報道規制されないくらい人が集まる目立つ所に飾ってやるわ)


――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
 
アポロン「……どうやって被害者の名前を知る事が出来たのか……ね」

資料を読み終え捜査情況を聞いたアポロンは眼鏡のブリッジを押し上げた。

アポロン「まずは地道に調査した可能性……確かにSNSや一軒一軒世帯を見て回れば二や三の苗字が見付かるかもしれないね」

等木「でも三人目の須藤亜津子は……」


アポロン「そう、須藤は旧姓『四谷』この姓を知る者は彼女の関係者しか知らない……」

光峰「じゃあ、須藤の関係者を洗えば良いんじゃね?」

アポロン「……とも、限らない」

光峰「何なのお前?もっとハッキリ出来ないワケ?」


アポロン「そこで、もうひとつの可能性……犯人は被害者の情報が集まってくる様な環境にいた」

 「犯人の……例えば職場がそういう仕事だと?……確かにその可能性は高いな」

アポロン「被害者の三人は同じ市内に住んでいた。二ノ宮は新社会人として、塩三は大学の新入生として、そして須藤は離婚したばかり……いずれも新生活をこの市で始めたばかりだ」


等木「同じ市内に住む三人の情報が集まる所……」

光峰「T○UTAYAか?」

アポロン「君は馬鹿なのか?」

光峰「んだとぉ!?」

持田「まあ、ある意味間違ってはいないかもな」



等木「病院……いえ、市役所ね」


アポロン「その通り。等木女史は物分かりが良いね、誰かさんとは大違いだ」

光峰「ぐぬぬ」

 「確かに役場の職員なら個人情報を入手するのも容易いか……とりあえず範囲は絞り込めたが犯人の特定は難しそうだな」

等木「情報収集の為にも市役所に行ってみます」

 「ああ、そうだな」

持田「お前達」

市役所へ向かうべくジムを後にしようとした私達を持田教官が呼び止めた。


持田「犯人の異能力だが……あまり『切る』という行為に囚われ過ぎるなよ」

等木「……はい。心得ています!」

異能力というものは物理法則を無視した力だって引き起こす。『常識を捨てろ』……捜査官となるに当たって教官から耳にタコが出来るほど聞かされた言葉だ。




 (犯人の特定か……)

等木達とは分乗して二台の車で市役所へ向かう。

 (ゲルニカの能力なら難しくはないだろうが……)

アポロン「ゲルニカなら犯人の特定も楽だったのにな」

まるで私の思考を読んだかのようにアポロンは言った。


 「そうだな……だがお前のおかげで犯人を市役所の関係者に絞り込めそうだ」


アポロン「まだそうと決まった訳ではない……もしかしたらTSUTA○Aの従業員かもしれないぞ?それに貴方だってこれくらい気付いていたはずだ」

 「そうかもしれないな」

アポロン「……僕を試したのか?」

 「どうだろうな」

アポロン「喰えない人だ」

「そう言えば」とアポロンは思い出したように先程の持田教官の話を始める。


アポロン「異能力だけではない。これまでの捜査から得た情報についても先入観を捨てた方が良い」

 「『捨てろ』とは唐突だな」

アポロン「捨てろは言い過ぎか……『よく吟味しろ』だ」

 「そのつもりだが……?」

アポロンが何を言わんとしているのか私は図りかねた。


アポロン「例えばゴードンの《サイコメトリ》……あれは場の残留思念を感じ取ったり視たりするだろう?」

 「ああ、そうらしいな」

アポロン「自分が視たものをゴードンは貴方に『言葉』で伝える。その時点で100%の情報を伝えきれないものだよ」

 「……そうかもな」

アポロン「ゴードンが受けた印象で情報の方向性だってかなり変わってしまうだろう……彼が『視た』ものから彼が『判断』して『必要』と思われる情報を貴方に『言葉』で伝えるんだ……その時点で様々な情報が欠落していく」


ゲルニカが異能力で倉井を探知した時の場面が頭によぎった。彼女のまだ数少ないボキャブラリーから『言葉』としてアウトプットすると、それは漠然としたものになってしまう。それも同様だろう。


アポロン「『受け取り手』である貴方だって彼が言わんとしている事を100%汲み取れるかい?そうはいかないだろ?何か見落としていないか?貴方は情報の取捨選択を間違っていないか?」

 「……何が言いたいんだ?」

アポロン「まあ、思い込みや思考放棄は良くないって話さ……目的地に到着したようだね。健闘を祈るよ」

 「こないつもりか?」

アポロン「言っただろ?戦闘には参加しないってさ……僕の異能力は意味が無い、何の為にあるのかすら解らない役立たずのチカラなんだよ」




市役所に入ると近場の職員に声をかけた。

 「市長に会いたいのだが」

職員「市長は出張中ですが……アポイントメントをお取りでしたか?」


等木「いきなり何聞いているんですか!?」

 「いや、やはり上に話を通さないと……」

職員「あの……?」

等木「あ、私どもは政府の要請で異能力事件の調査をしている者ですが……」

等木の交渉の甲斐もあり私達は応接室へ通された。対応してくれたのは三十代くらいの男性職員だった。


五来「お待たせしました生活課の五来と申します」

渡された名刺には『生活課 係長 五来徹』とあった。

等木(……五来)

五来「申し訳ありません。課長の山崎は出張中でして私がお話を伺います」

 「いえ、こちらこそ急ですみません」

仮身分の異能力研究機関の名刺を渡すと五来は怪訝そうな顔をした。


五来「『異能力研究局』……ですか?」

 「はい、民間の研究機関ですが政府の要請がありまして、この市で起きている事件の調査しています」

警察に捜査協力している旨などを伝えて五来の理解を得てから本題に入る。


 「我々が調査したところ、事件の被害者達はここ半年でこの市内に住所を移している事が判明しました」


五来「え、そうなんですか?」

等木「この市役所で転入届けの手続きをしているはずです」

 「実際に応対した職員に被害者の様子を聞きたいのですが」

五来「は、はい……少々お待ちを」

五来は担当者を調べる為、被害者の氏名を確認して席を外した。



等木「……あの五来って方、どう思います?」

 「どうとは?」

等木「とぼけないでください。『五』来ですよ?犯人に狙われる可能性があるんじゃ?」

 「流石に考えすぎだろう……もし市役所内に犯人がいたとしても身近な人間を狙うのはリスクが高すぎる」

等木「それはそうですけど……」



五来「お待たせしました」


主に窓口で応対していたのは桐崎彩という若い女性職員、二ノ宮だけ交代していた節田恵子が応対していた。それぞれ個別に面談してみたが……


桐崎「ごめんなさい……正直、覚えていません。市役所にくる方ってかなりいますしぃ……」


節田「二ノ宮さんは最初印象に残っていなかったんですけど、後でニュースで思い出して……ビックリしました」


と、いった感じだった。


 「ありがとうございました。時間を取って申し訳ありません」

五来「いえ、こちらこそあまりお力になれなかったようで」

等木「また伺うと事もあると思いますので宜しくお願いします」

光峰「…………」

 「では……」






?(警察の捜査に協力ね…………ウフフ、もしかして《異能専門の殺し屋》って眉唾物の噂話じゃないのかしら?)



等木「……手懸かりになりそうな情報はありませんでしたね」

 「確たる証拠があってここに来たわけではないからな」

光峰「…………」

等木「江子……どうかしたの?」


さっきからだんまりの様子が気になるのか等木は光峰に問いかけた。


光峰「ん……いやな、あの五来ってひとからほんのりと香水みたいな匂いがしてたから」

等木「香水?」

 「今時、男でも香水くらい付けるだろう……私は使っていないが」

光峰「あんたの事はどうでもいいんだよ。ま、付けてるかも分からないくらい、ほんのちょっとしか匂わなかったんだけど……」


その時、ロビーの方からスーツ姿の五、六人の一行がやって来た。その先頭にいる顔には見覚えがある……警察官だ。


老刑事「ん、何であんたらがここに?」

 「どうも、被害者は住所編入届けをしていたはずなので調査を」

老刑事「まったく……それは警察の仕事だ。もうやらんでいいよ。それに今から重要参考人を確保するから」

等木「え?」



老刑事「昨日発見された仏さんの身元が判明してな」

 (聞いていないぞ!?)

警察が意図的に情報を流さなかったのか?それとも我々まで情報が降りてこなかったのか……事件に対し消極的姿勢を見せていた上司の姿が私の脳裏をよぎる。


 「もし犯人だとしたら異能力者の可能性があります。我々も同行します」


老刑事「……邪魔をするなよ?」




光峰「おい、あれって……」


老刑事と共に行くと刑事達に囲まれていたのは五来だった。節田と桐崎は戸惑いながら遠巻きに見守っていた。


刑事1「五来徹さんですね?」

五来「そうですが?」

刑事1「我々は警察の者です。壱岐那奈(いちき なな)さんをご存知ですよね?」


五来「いちき?……知りませんが」

刑事1「とぼけないでくださいよ。半年前の四月十一日にレストランで食事してたじゃないですか。店の前に設置した監視カメラに映ってましたよ?」

五来「…………ああ、あの方?そう言えば壱岐さんでしたね……ちょっとした知り合いでして、一緒に食事したかもしれませんね」

刑事1「その翌日に壱岐那奈さんは失踪している」

五来「え、知らなかったな」

刑事2「しかも、昨日死体で発見された」

五来「お気の毒に」

刑事1「詳しくお話を伺いたいので署までご同行してくださいませんか?」

五来「困ったな……一緒に食事しただけでしょ?」


刑事1「あんた、壱岐さんと不倫していたでしょ?裏は取れてますよ」


五来「…………困ったな」

五来は左手で頭を掻く……そして刑事から見えないように右手をポケットに入れたのを光峰は見逃さなかった。

――瞬間。


光峰「ッラアッ!」

五来「っげぐっ!?」

解き放たれた矢のような速さで飛び出した光峰の鋭い蹴りが五来の胸に突き刺さり、五来は椅子や観葉植物を巻き込みながら窓際まで吹っ飛んで壁にしたたか叩き付けられた。


光峰「妙な真似すんなよ」

一瞬で起きた嵐のような出来事に場が唖然としている中、光峰はしたり顔で言い放った。


刑事2「貴様ぁ何するかーーッ!?」

光峰「うおッ!?」

等木「江子!?」

我に返った刑事達に組伏せられる光峰。それに狼狽した等木は光峰に駆け寄ろうとすると光峰は自分にのし掛かる刑事達に向かって叫んだ。


光峰「そいつが!右手をポケットに入れて何かしようと……!してたんだよ!」

等木「え!?」

 「等木、光峰の言った事は事実だ!五来から目を離すな!」


私はジャケットの内側に手を忍ばせ銃のグリップを掴んで五来の様子を伺った。


五来「……ったくいきなり酷いじゃない」

壁を背に崩れる五来が取り出した右手にはスマートフォンが握られていた。


光峰「……あれ?」

老刑事「携帯だな」

拍子抜けしたような光峰と呆れたような老刑事。
若い刑事が五来を起こそうと手を差し伸べた。


刑事1「おい、大丈夫か?」

五来「でも、良い勘している娘ね」

刑事1「は?」


五来は掴んだスマートフォンで刑事の手を払うと、ボトボトと何かが床にこぼれる。



五来「刑事さん、落ちたわよ…………指」



刑事1「…………ぁああああぁあぁーーーッ!!?!?」


老刑事「……!?」

等木「な……?」


親指以外の指の無い手から赤い鮮血が勢いよく溢れ出す様を確認して初めて刑事はそれが自分の指だと気付き、襲いかかる激痛にひめいを


五来「……ったくいきなり酷いじゃない」

壁を背に崩れる五来が取り出した右手にはスマートフォンが握られていた。


光峰「……あれ?」

老刑事「携帯だな」

拍子抜けしたような光峰と呆れたような老刑事。
若い刑事が五来を起こそうと手を差し伸べた。


刑事1「おい、大丈夫か?」

五来「でも、良い勘している娘ね」

刑事1「は?」


五来は掴んだスマートフォンで刑事の手を払うと、ボトボトと何かが床にこぼれる。



五来「刑事さん、落ちたわよ…………指」



刑事1「…………ぁああああぁあぁーーーッ!!?!?」


老刑事「……!?」

等木「な……?」


親指以外の指の無い手から赤い鮮血が勢いよく溢れ出す様を確認して、刑事は床に落ちたそれが自分の指だと気付き襲いかかる激痛に悲鳴を上げた。


老刑事「げ、現逮(現行犯逮捕)だ!」


老刑事の指示に反応した刑事達が五来に詰め寄る。

刑事3「五来、抵抗するな!」

刑事4「凶器を捨てろ!」

五来「…………」

 「やめろ奴に近づくんじゃない!」


刑事達に右腕を捻り上げられスマートフォンを取りこぼした五来は、まだ自由の利く左手で大柄な刑事の袖を掴んで引いた。

刑事4「いぎゃあッ!?」

袖から切断された腕が大量の血液と共に滑り落ち悶絶する刑事4、その事態に動揺した一瞬の隙を付いた五来は刑事3のネクタイを掴む。


刑事3「……ひっ!やめ……っ!?」

じわじわと絞めていくネクタイが自分の首にまさしく食い込んでいく恐怖……刑事3は眼前の男の狂気と殺意を目の当たりにした。

五来「嫌よ♪」

刑事3「……っば!?」


五来が一気にネクタイを引くと刑事3の頭部が胴から離れた。


節田「いやぁーーッ!!」

桐崎「ヒィ!?」


等木「……異能力……なの?」

刑事2「い、異能!?」

光峰「てめ……いい加減どけよ!」


――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――

アポロンが車で待機中、何者かが窓を叩いてきた。


倉井「もしもーし」

アポロン「…………」

倉井「ねえねえシカト?もしかして私の事忘れちゃった?」

アポロン「…………」

倉井「もしもーし?」


あまりにものしつこさに根負けしたアポロンはドアを開けて車から降りた。


アポロン「何だ君は?」

倉井「マジで!?倉井日向よ。昨日ファミレスで会ったじゃん!」

アポロン「知らないな」

倉井「がーん!?……警察のおじさんと一緒にいたお兄さんだよね?眼鏡かけてたっけ?なんか昨日とフインキ違うけど」

アポロン「雰囲気(ふんいき)だろ」


倉井「私さっきまで向かいの図書館で勉強してたんだ。一応、受験生だし」

アポロン「あー……今、仕事中なんだ。世間話なら他でやってくれないか?」

倉井「エーッ?車の中で眠たそうだったじゃん!?」

アポロン「気のせいだ」

倉井「……まあいいや。あ、お兄さんケータイ番号教えてよ?イケメンだから私の友達リストに登録してあげる」

アポロン「残念だ。生憎と携帯電話は持たない主義でね」

倉井「マジで!?……いや嘘でしょ?今時ケータイ持ってない人なんかいるわけないじゃん教えてよぉ」

アポロン「本当に何なんだ君は?」


結局押しきられる形でアポロンは携帯電話を渡した。倉井は赤外線通信で登録操作を始めると庁舎の方が騒がしくなる。
するとアポロンは目眩を起こしたようにふらついた。

倉井「え、ちょっと大丈夫!?」

アポロン?「…………行かなきゃ」


体勢を持ち直したアポロン?は倉井を置き去りにして庁舎の方へ駆けていった。


倉井「え、あれ?……あ、名前聞いてない」

――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――


 「……奴に近付くのはヤバイぞ」

等木「はい……どうします?」


五来の異能力は接触する事で発動するタイプなのか……とにかく奴とは距離を取るべきかもしれない。


 (撃つべきか……しかし刑事や職員が五来の周りに……)



1 私はホルスターからSIGを抜き五来を狙った。
2 光峰「……要は奴に触らせなきゃ良いんだろ?」

選択肢↓1


光峰「……要は奴に触らせなきゃ良いんだろ?」


等木「江子……?」

光峰「どけよてめえ!」

刑事2「お、おう」


のし掛かった刑事が離れると光峰は軽く伸びをすると、五来に向かって歩き始める。

 「おい、光峰!」


五来「この惨状を見てわたしに近付くなんて……あなたも殺しちゃうわよ?」

光峰「うるせーよ。オカマ野郎」


距離にして3m。そこまで近付いた光峰の姿がブレた。

五来「……!?ゲホォッ!」

次の瞬間、五来の鳩尾に光峰の左拳がめり込んでいた。



光峰「触られる前にボコボコにしてやんよ」


五来「……ぐっ!」

光峰「おせぇ!」

五来「ブァッ!?」

うずくまりながらも腕を掴もうとした五来よりも速く光峰の強烈な右フックが炸裂する。


《身体能力の強化》それが光峰の異能力。筋力のみならず動体視力、反射神経などありとあらゆる身体能力が強化された光峰はプロボクサーのジャブの連打すら回避する。


光峰「オラァッ!」

五来「ぐげ!」

光峰「なめんじゃねーぞカスが!」

五来「ギャッ!?」

光峰「テメーごときがあたしに触れるかよ!」

五来「ヒィ!?」

光峰の拳が、蹴りが、肘や膝が、五来を一方的に痛めつけていく。


五来「や、やめ……」

光峰「あ?何か言ったか……よ!」

五来「ぶひゃッ!?」


鼻血を流しながら吹っ飛んだ五来がぶつかった衝撃で窓ガラスは砕け散る。

五来「ま……待ってくれない?」

光峰「嫌よ♪」

カーテンに掴まって立ち上がる五来に光峰は渾身の前蹴りを食らわせると五来は窓から外に蹴り飛ばされた。


光峰は窓枠をひょいと飛び越え五来を追い詰めていく。

光峰「待ちなよ」

五来「っひぃ!」

掴んだまま引き摺るカーテンを光峰が踏みつけられると、思わぬ抵抗に五来は不様に突っ伏した。


光峰「立てコラ」

五来「…………つぎは……」

光峰「あん?」


五来「次はあなたが這いつくばる番よ……!」

光峰「!?」


カーテンを踏む光峰のブーツが裂けた。

光峰「…………っあぐぅッ!!?」

ブーツごと爪先から甲にかけて裂けた足から鮮血を迸(ほとばし)らせ光峰はその場に崩れる。


等木「江子!?」

老刑事「な、何が起きた……!?」


五来「……クッフフ……アッハハッハッハッゲホォ!……あー痛い……まったく酷い目に合ったわ」


口元から滲む血を拭いながら立ち上がる五来の手には、まだカーテンが握られている。


 「そういう事か……!」

老刑事「銃!?お前!」


五来「銃を下ろしなさい!説明しなきゃ分からないの!?」



私が向けた銃口を牽制するように五来はカーテンを握り締める。


 「チッ!」

等木「一体……どういう……?」


 「……カーテンだ」

老刑事「カーテンだと!?」


刑事の指を切断した時、五来が『握って』いたのはスマートフォン。袖を『掴んで』腕を切り離した。首を落としたのはネクタイを『掴んだ』後だ。


 「奴は『掴んだ』カーテンで光峰の足を切ったんだ」

等木「……『掴んだ物で切る』能力とでもいうんですか!?」


五来「大正解よぉ!よく出来ました!!」


《異能力》は常識に縛られない。
たとえボールや豆腐でも五来が掴めばそれは鋭利な刃物と同等の……いや、それ以上の凶器に成りうるに違いない。

そして、この状況。五来が『掴んだ』カーテンの上にくず折れる光峰は、奴に命運を握られたも同然だ。

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