アナスタシア「可憐なる魔獣」 (75)


結局、今日も夜空は見上げられませんでした。
かじかむ両手を吐息で暖めて、望遠鏡を片付けようと立ち上がります。


 「――それ、覗かせてもらっても良いですか?」


背中から、声を掛けられました。
驚いて振り向くと、そこに立っていたのは優しげな眼をした男の人。

 「ア……どうぞ」

 「ありがとうございます」

場所を譲ると、男の人がそっと望遠鏡を覗き込みます。
見晴らしの良い丘なのに、いつの間に来たのか。スーツにマフラーだけで寒くないのか。
不思議な雰囲気とは裏腹に、レンズを覗く表情はとても楽しげでした。

 「えっと、調整はこのネジですか?」

 「ニェート……こっち、です」

慣れない手つきでくるくるとネジを回します。
さっきまでの調整通りなら、70倍の大きさで三日月が見えている筈です。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1416053247


 「綺麗ですね」

ほぅ、と白い息を吐き出して、男の人が望遠鏡から目を離しました。
私に番を譲るように差し出された手に、ふるふると首を振って答えます。

 「見ないんですか?」

 「星はきらきら綺麗です。でも、私はそこまで行けません。手も届かない、です」

 「そうですね。宇宙飛行士でもなかなか難しいでしょう」

 「それが、とても悲しい。だから、見ないです」

レンズを外して、カバーを嵌めて。
折り畳もうとした三脚は、手を引っ込めてしまうくらい冷えきっています。


 「星に手を伸ばせる方法を。私は、知っています」


バッグのファスナーを降ろす手が止まりました。
思わず見上げると、男の人は空をじっと見つめています。

 「……プラーヴダ……本当、ですか?」

 「私もあなたも、努力は必要です。ですがあなたなら、決して夢のままでは終わらないと思います」


初めて会った人の、初めて聞いた言葉は。
驚くくらいまっすぐに、私の胸の中へ入ってきました。


 「――星に近付くために。まずは、涙を拭きましょうか」


久しぶりに見上げた、星空の美しさと。
北海道の冬の夜の、切れそうなくらいに澄みきった空気と。
差し出されたハンカチの、それに負けないくらいぽかぽかとした暖かさを。


私は、これからもずっと、忘れません。


白銀の妖精ことアナスタシアちゃんと、漆黒の堕天使こと神崎蘭子ちゃんのSSです


前作とか

モバP「加蓮、なんか近くないか?」 北条加蓮「そう?」 ( モバP「加蓮、なんか近くないか?」 北条加蓮「そう?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1413616683/) )
こっちはあんま関係無い

高垣楓「時には洒落た話を」 ( 高垣楓「時には洒落た話を」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1413010240/) )
こっちの前後くらい


Pは蘭子ちゃんを担当してます。新しくアーニャの担当にもなりました

― = ― ≡ ― = ―

 「煩わしい太陽ね!」
 (おはようございます!)

ゴールデンウィークも明けて、久しぶりに事務所へ来ちゃった!
いっぱいお休み出来たし、今日の私はやる気でいっぱいです!

 「こら、蘭子ちゃん。いつも言ってるだろー」

 「あぅ……お、おはようございます」

 「よし。いつもは蘭子ちゃんの個性を発揮してくれていいけど、一番最初だけはしっかりなー」

うぅ、はじめの一歩から怒られちゃった。
重要なお話があるって聞いてたからしっかりやろうと思ってたのに……。
き、気を取り直さなくちゃ。

 「……して、我が友よ。予期せぬ福音とは」
 (それで、プロデューサー。大事なお話って何ですか?)

 「おぉ、そうそう。新しく担当アイドルが一人増える事になってな」

 「ほう。新しき息吹か」
 (新人さんですね!)

何人も担当してるプロデューサーさんも居るから、その内にとは思ってたけど。
新人さん、どんな娘だろう? 仲良くお出掛けできたりしたらいいな♪


 「ヴェールの奥底は如何に?」
 (どんな人なんですか?)

 「それがなー、すっごい美少女だぞ。びっくりするぞ」

 「…………む。プ、プロデューサーがスカウトしたの?」

 「いやぁ、俺にそんな度胸は無いよ。蘭子ちゃんをスカウトしてくれた人、居るだろう? お髭の」

 「フフ。未だ交わりの熱は冷めやらぬ」
 (はい。今でもよくお話しますよ!)

担当にはならなかったけど、とっても優しい人です!
今でも気にかけてくれて、お髭が可愛くて、きっと紳士さんってあんな人を言うんだろうな。

 「そうそう。またあの人がスカウトした娘でな。もう一人預かれないかって相談されたんだ」

 「表舞台に寄り添わぬのか」
 (プロデュースはしないんでしょうか?)

 「うーん、そこが分からないんだよなぁ。あの人の考えは読めなくて」

何人もスカウトしてるけど、確かに担当アイドルさんは居ないかも。
……ま、まさか。
ひょっとして、ぷれいぼーいっていうやつ!?
ううん、そんな人じゃないもん。でも……うぅん……。


 「まぁ、その辺はあとあと。応接室で待ってるから早速会ってくれ」

 「心得た」
 (楽しみです!)

 「じゃ、開けるぞー。……やぁ、お待たせ。アナスタシアさん」

 「なすた……?」

ドアを開けて、プロデューサーに招き入れられます。
おそるおそる中に入ると、そこに居たのは、

 「……雪の妖精か?」
 (雪の妖精さんですか?)

 「ちがわい。アナスタシアさん、この娘が担当中の神崎蘭子ね」

 「……ランコ? ミーニャ ザヴート アナスタシア」

 「……!?」

ソファに、とっても綺麗な女の子が座っていました。
青い眼……外国の人、だよね?
ど、どうしよう。英語じゃないみたいだし……えっと、えっと……!?

 「…………や」

 「ヤー?」

 「闇に飲まれよっ!!」
 (はじめましてっ!!)

― = ― ≡ ― = ―

 「ヤミニ……?」

きらきらした女の子が、そう叫んだように聞こえました。
ヤミーニ……そんな役者さんがいた気がします。それとも、私の知らない言葉でしょうか?
やっぱり、日本語はちょっと難しいです。

 「蘭……あー、今回は俺が悪いか。『はじめまして』だよ、アナスタシアさん」

 「なるほど。『私の名前はアナスタシアです』、です。ランコ」

 「あ、日本語……よろしく! アニャスタシアちゃん!」

 「蘭子ちゃん、噛んでるぞ」

 「あぅ……」

ランコが顔を赤くしています。私の名前、難しいのかも。
……なら…………。

 「ンン……呼ぶの難しかったら、アーニャ、で、大丈夫です」

 「アーニャ……ほ、ほら、噛んでなかったっ」

 「いや、噛んでたろ思いっ切り」

 「あうぅ…………」

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