なんとなしに進学した高校の入学式が終わった。
クラスへと移動し、定番の自己紹介の時間となった。
女子のトップバッターが立ち上がり、
「市外から進学してきた朝倉涼子って言います。好きな食べ物はおでんです。知り合いが居ないので皆さんお友達になってください。よろしくお願いします」
少女はそれだけ言うとチューリップの様な微笑みと共に軽く頭を下げる。
そしてロングヘアを揺らしながら着席した。
俺は衝撃を受けた。なぜなら、このおでん好きの少女は凄い美人だったのだ。
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※あまり書き慣れていないので変な所があってもご容赦ください。
艶やかなロングの黒髪、柔和で場を明るくする笑み、白磁の様な肌。
この俺をもってしてもポニーテールにしてくれれば等と言う考えを起こさせない程の強烈なインパクトだった。
その時、その瞬間から俺の思考は朝倉からあふれ出る魅力の処理に追われ、全力を傾けても処理が追いつかなくなった。
その他大勢のゴボウや大根の自己紹介を聞き流し、朝倉を凝視し続けた。
俺の視線に気が付いたのか、朝倉が俺を見てニコリと微笑んだ気がした。
素敵だ。今この瞬間、俺の心はとろけてしまった。
もっとも、この至福の瞬間はすぐに破壊されてしまったのだが。
「あんたの自己紹介の番なんだからさっさと終わらせなさいよ!」
後ろから乱暴に声をかけられた。
後ろを見た。一般的には美少女に分類されるであろう少女が不機嫌そうな仏頂面で俺を見ていた。
微笑めばそれなりにモテそうだが、この表情では台無しだ。朝倉の爪の垢でも煎じて飲んだ方がいいだろう。
もっとも朝倉の爪の垢が手に入ったら俺が飲みたい訳なのだが、などと考えていると仏頂面の少女が再度声をかけてきた。
「あんたで詰まってて迷惑してるの。さっさと自己紹介をしなさいよ」
俺を睨みながら心底迷惑をしている様な言い方をする少女に何か言い返そうかと思ったが、特別思いつかなかったので促されるままに立ち上がり自己紹介をした。
おそらくは恙なく自己紹介を終えた俺は着席し、再び朝倉を観察する作業に戻った。
俺の後ろの少女が宇宙人がどうしたとか言っているが、俺の知ったことではない。
朝倉との将来設計を考える方が俺にとっては重要だからな。
郊外に小さくてもいいから庭付きの一戸建てを買おう。子供は少なくても二人は欲しい。勿論出来るならサッカーチーム作れるほどには欲しいが、養育費が大変だし、なにより朝倉の体に負担がかかる。やはり二~三人が適当だろう。子供が多すぎると朝倉、いや、マイハニーとの時間が奪われるなんて情けないことも頭の片隅にあったのは内緒だ。
ハニーを眺めながら将来を夢想していると、突然そのハニーが立ち上がった。
どうやら今日は解散する様だ。
俺は急いでハニーの元に向かった。
「ハニ…、いや、朝倉さんだよな?」
俺が声をかけると、
「うん。そうよ。もう名前を憶えてくれたのね。嬉しいわ」
ハニーは嬉しそうに微笑みながら応じてくれた。
「自己紹介のあれ、どこまで本気にしていいんだ?」
俺は当然の様に自己紹介の話題のを振った。
「自己紹介のあれって?わたし何か変なことを言ったかしら?あなたたちに違和感を与える挨拶じゃなかったはずだけど………」
朝倉は心底意外そうな顔をして、指を唇に当てて何か考えている様だった。
「友達募集中っていう、あれだ」
俺の方から用件を切り出した。
「あれね!もしかして…わたしの友達になってくれる気なのかしら?」
「ああ、もちろんそのつもりで声をかけたのだが……」
「あら、ありがとう。わたしの友達第一号ね。改めてよろしくね」
ハニーはそう言うと握手を求めるかのように手を差し出してきた。
「こちらこそ、よろしくな」
俺は暫く手を洗わないと固く心に誓いながらハニーの手を握った。
翌日、後ろの席に座ってる仏頂面の少女が話しかけてきた。
「ねぇジョン。あんた朝倉の事が好きなの?」
ジョンって誰だよ!なんて突っ込む気も起きなかった俺は質問にのみ答えた。
「いや、違うけど……」
「違うけど、なんなの?」
「愛してる。この気持ちは好きなんてもんじゃないからな」
「そ、そう……」
後ろの席の少女は俺の気持ちに押されたのか声が小さくなった。
「俺に声をかけたのはそんな用事か?」
「え!?あ…うん、まぁ………」
ばつが悪そうに少女が答える。
「そんな用なら声をかけないでくれ。ハニーに他の女と話してるとこを見られて勘違いされたくないからな」
俺はそれだけ言うと前を向いた。
昼休みはハニーの元で食べていたのだが、ほどなくして朝倉の取り巻きに追い出されたしまった。
仕方がなく俺は中学の頃から比較的に仲が良かった国木田とその近くの谷口と言う奴と食べる様になった。
その谷口が俺に話しかけてきた。
「お前、朝倉を狙っていたんだろうけど高嶺の花すぎるだろ」
「想う気持ちでは誰にも負けないのだがな」
「なんて言ってもAAランクプラスだぜ?気持ちだけでは如何ともしがたいこともあるぜ」
こいつは女子を格付けしているようだった。ハニーをそこらのジャガイモやカボチャと比べるとは失礼な奴だ。
「朝倉を諦めても涼宮は止めておいた方がいいぜ?」
ハニーを諦めるなんてことはあり得ないが一応谷口の話に付き合ってやることにした。
「涼宮?誰だそれは?」
「マジかよ!?お前の席の後ろの奴だよ。見た目だけは良い女なのに名前すら憶えないとか変な奴だな」
ハニー以外の女には興味がないのだから仕方があるまい。
「そう言えば、お前に話しかけた涼宮が泣きそうな顔をしてたけど何を言ったんだ?」
「くだらん用事で話しかけるなと言っただけだが?」
「ハァ!?お前よくハッキリ言えたな。涼宮が泣きそうな顔で引き下がったのも信じらんねぇ」
谷口が驚きを隠せない声を上げている。興味の無い相手に何を思われても関係ないだろうに、谷口は何を驚いているんだ?
「まぁ、その調子ならあいつに関する注意は不要だよな」
細心の注意を払いながら、全身全霊をもって、一心不乱に焼き魚の小骨を取り除いている国木田を尻目に谷口は一人納得していた。
そんな感じでクラスに馴染み始めた頃には、連休が開けていた。
連休が明けて暫く経ったある火曜日の事だった。後ろの席の涼宮とやらが再び声をかけてきた。
「ねぇジョン。あたしの髪型どうおもう?」
涼宮の自信なさげな声とは対照的に、見事なポニーテールを結っていた。
ハニーに出会う前のポニーテール萌えだった頃の俺ならば大喜びしたに違いない程に見事なポニーテールだった。
「興味がない」
今の正直な気持ちを告げると俺は前を向いた。
「あっ………」
涼宮が小さな声を出した気がしたが気にしない。
それよりも下手に褒めたりして、それがハニーの耳に入ったりしたら困るからな。
翌日、涼宮は長かった髪をバッサリと切ってきた。
「ねぇ、今度の髪型……」
懲りずに涼宮が声をかけてきた。
「だから、興味がない」
俺は後ろを向かず、それだけ答えた。
「………やっぱり、そうだよね…」
後ろで涼宮の声が聞こえたが、ハニー以外の女に構っている暇はないんだ。勘弁してもらいたい。
数日後、廊下で覆面を被った生徒にいきなり殴られた。
「あなたの所為で新川さんが………」
などと悔しそうに呟いていた。
俺の知り合いに新川なんていない。誰かと間違えたようだった。
これが荒れる学校って奴か?やれやれだぜ。
谷口によれば、涼宮は全部の部活動に入部してみたらしい。
なぜそんな妙な事をしているのかは知らないが、聞いてみたいことがあったので話しかけた。
「なぁ、涼宮」
「な、なによ!あんたから話しかけてくるなんて珍しいじゃない!?」
心なしか上ずった声で応じてきた。
「全部の部活に入ってみたってのは本当か?」
「うん。面白い部活はなかったけどね。それでもあんたが入りたい部活があるなら付き合ってあげてもいいけど?」
質問以外のことも答える涼宮は面倒くさい。
「いや、それは結構だ」
「……そ、そう………そうよね…」
「それよりもマイハニーはどこの部活に参加してるんだ?」
「マイハニー?もしかしてあたしのこと!?」
こいつの頭の構造はどうなっているんだ?
「笑えん冗談だな。朝倉に決まってるだろう」
「え、あ……し、知らないわよ!どこにも居なかったから帰宅部なんじゃないの!!」
涼宮はそれだけ言うと話したくないと言わんばかりにそっぽを向いた。
心なしか目が潤んでいたようだが、ブタクサアレルギーかなにかなんだろうか?
それから数日経ったある日。
涼宮が声をかけてきた。
「ねぇ、ジョン。あんた部活に入ってないわよね」
なんだってこいつは俺のことをジョンって呼ぶんだ?
中学時代からのあだ名であるキョンなら解るのだがと思いつつ、特に突っ込まずに応じる。
「ああ、ハニーが居ない部なんかには興味がないからな」
「ならあたしが作った部に入りなさいよ」
「断る。さっきも言っただろう?ハニーが居ない部には興味がないって」
「……ロリ顔巨乳の先輩とか、窓際での読書が似合う神秘系美少女とかも居るから、そこからあんたのハニーを選べばいいじゃない。どうしてもって言うのなら、あたしを選んでもいいわよ?」
「俺のハニーは朝倉以外にはあり得ん」
「………」
流石の涼宮も勧誘を諦めたのか無言になった。
その日の帰り道、知らない女の人に殴られた。
「田丸さんを失った私たちの痛みはこんなもんじゃないんだからね!!」
泣きそうな声で怒鳴られた。殴られて泣きたいのはこっちだというのにだ。
やれやれ、日本の治安も悪くなったもんだ。
週末、中学時代の友人に相談することにした。
「くっくっくっ……久しぶりだね。君から呼び出されるなんて思っていなかったよ」
駅前で待ち合わせた俺達はそんな挨拶を交わして喫茶店に向かった。
「それで相談って言うのはなんだい?」
「実は一目惚れをしたんだ」
「君がかい!?」
「ああ、俺はその人の背後に後光が差しているのが見えた。錯覚ではない。そう、それはまるで天国から地上に差し込む光のようだった。一目あったその日から片時も忘れることが出来ないんだ」
「……そ、そうかい。それで僕に相談って言うのはなんだい?悪いけど、デートプランや告白方法については相談に乗れないよ」
「ああ、お前がそう言うのに興味がないと言うのは知っている」
友人が小さく呟いた。
「………バカ」
「ああ、そうだ!相談したいのはその事なんだ」
「えっ!?」
「俺は現在のところ、何の社会性もない一介の高校生に過ぎない。それではダメなんだ。俺はこれから猛勉強を開始する。いや実際もうしているのだが、そうやって現役で国公立大のどこかに入る。志望は経済学部だ。そこでも俺は勉学に打ち込み、卒業時には第一席を獲得する。そして就職先だが、あえて国家公務員一種や超一流企業ではなく中堅どころの会社に職を得ようと思っている。だが俺はいつまでもプロレタリアートの地位に甘んじるわけではない。三年………いや二年であらゆるノウハウを吸収し、独立開業するつもりだ。そうやって自分の興した会社が軌道に乗るまで五年……いや三年で何とかする。その頃には東証二部に上場も果たし、年度ごとに最低十パーセントは利益を上げていく計画だ。それも粗利でだぞ。その頃には俺も一息つけるようになっているだろう。そこで、ようやくマイハニーを迎えに行く準備ができるんだ」
「な……なかなかに壮大な計画だね」
「この完璧な計画には一つ大きな落とし穴があってだな」
「一つ………なのかい?」
「ああ。知っての通り俺は勉強が苦手だ。そこで勉強のコツって奴を教えて欲しいんだ」
「まぁ、一緒に勉強する分には構わないんだけど……」
「いや!一緒に勉強する気はない!噂になると困るからな」
「………ところで君の一目ぼれの相手はどんな感じの子なんだい?」
「そうだな。例えるなら、あそこに居るウェイトレス。黄緑色の髪をしたワカメっぽい子が居るだろ?」
「居るね」
「あんな感じに後光が差してる感じの子だ」
「その後光が僕には感じられないんだけど」
「そうか?たまに居るぞ?学校にももう一人後光が差してて魅力的な女子生徒がいるしな」
「………もしかして、一目惚れなんかじゃなくって、異性を好きになることに目覚めたんじゃないのかい?」
「そう……なのか?」
「ああ。君から見て僕はどう見える?」
「友人だろ?」
「………」
そんな感じで旧交を温めたが勉強のヒントは得ることが出来なかった。
翌週。涼宮が余計なことを聞いてきた。
「あんた、朝倉の事をハニーって呼んでるけどデートの一回くらいは行ったの?そんな気配は全く感じないんだけど」
「いや。今の俺だと不釣り合いだからな。自己研鑚に励んでいる所だ」
「不釣り合いって……もしかしてあんた告白もしてないの!?」
「当り前じゃないか!そのうち、待っていて欲しいと言うつもりだがな」
「キモッ!それじゃあ、勝手にハニーって呼んでるの!?それと待っていて欲しいって……なにを?」
「俺が迎えにいくのを、だ」
涼宮が呆れかえった様な声を出して応じる。
「あのね。女の子が不確かなものを信じて待つわけないじゃない。まぁ、あたしは三年の間を不安半分・期待半分で待つことが出来たけどね」
「それでもハニーなら……」
「待っててくれたとして、デート一つしたことがない男が女の子を満足させられると思ってるの?」
「そ、それはそうかもしれんが………」
「そうね。それじゃあ、今週の土曜日。あたしと街に行くわよ。デートの練習ね」
「断る。ハニーに誤解されたら元も子もないだろう」
「………じゃあ、部活として行くからあんたも同行しなさいよ。それなら別にいいでしょ」
涼宮は不満げに代案を提示した。
「……何をするんだ?」
「街をぶらついて不思議やその痕跡を探すのよ」
「くだらんが………街をぶらつく練習くらいにはなりそうだな。まぁ、いいだろう」
「人が折角好意で参加させてあげるって言ってるのに、くだらんとは随分な言い草ね!!」
そう言いながらも涼宮はどこか嬉しそうだった。
そして土曜日。俺は待ち合わせ場所である中央駅前にやってきた。
涼宮が俺を発見して手招きをしている。来いと言うことらしい。
涼宮の所に行くと、そこには他に三人の男女が居た。
俺が彼らに合流すると自己紹介が始まった。
三人の中で唯一の男子生徒から挨拶を始めた。
彼はモデルでも勤まりそうな容姿であり、ジャケット姿も様になっていた。
「古泉一樹と言います。どうかお見知りおきを」
彼はにこやかに挨拶をしてきた。
「聞いたことがある声なのだが、どこかで話したことがあるか?」
挨拶を聞いて浮かんだ素朴な疑問をぶつけてみた。
古泉は笑顔を崩さぬまま、
「同じ学校ですし、どこかで声を聴いたことがあるのかもしれませんね」
さして考える風もなく軽く流してきた。まぁ、おそらくそうなのだろう。
次に名乗った少女は、白いブラウスを着た小柄で巨乳な少女だった。
「朝比奈みくるって言います」
少女はそう名乗ると小動物を彷彿とさせる雰囲気で頭を下げた。
おそらく彼女が涼宮が言っていた童顔巨乳の美少女なのだろう。
最後の少女は「長門有希」とだけ名乗った制服姿の小柄な少女だった。
なんてことだろう。この少女は廊下で見かけたことがあった。朝倉と同じく後光を感じるので強く印象に残っていたのだ。
俺が長門の魅力に打ちのめされ、呆然と立ち尽くしていると、
「こんな場所じゃなんだから喫茶店に行くわよ」
などと涼宮が言いだし、腕を俺の腕に絡ませて引っ張り出した。
長門に思考を奪われた俺は暫く唯々諾々と従っていたが、正気を取り戻すとともに、ハニーに絶対に見られたくない状態にあることに気が付き腕を振り払った。
涼宮は俺の顔を暫く見つめた後に、頬をやや膨らませて大股となり俺達を先導して歩きはじめた。
喫茶店に着くなり、涼宮が「二つのグループに分けて探査するわよ」と提案を始めた。
「あたしとジョン、それと古泉くん達三人のグループでいいわよね?」
涼宮はそのままの勢いでグループを決めた。
「ええ。僕らは異存はありませんし、これに文句を言うのはよほど空気が読めない人でしょう」
古泉は笑顔で涼宮の意見に大いに同意すると共に、異論を言わせぬように牽制をしているようだった。
古泉の意見を受けて涼宮は満足なのか嬉しそうに頷いている。
「ちょっと待て!」
俺としては空気が読めないと言われようとも同意できる話ではない。異議を挟んだ。
「なによ!あんた文句でもあるの」
「文句しかないな。男女が休日に二人で街を散策する。それではまるでデートではないか!」
「それがどうしたのよ」
「ハニーに見られたり、ハニーの耳に入って誤解されたらどうするんだ!」
「そんなの思いたい様に思わせておけばいいじゃない」
「いいわけないだろ!それなら俺は帰るぞ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「いや!待たんな」
「くじ」
長門が突然に口を挟んだ。
俺の顔をじーっと見つめながら続ける。
「くじなら二人っきりになっても納得するはず」
「そうなの?」
自信なさげにハルヒが尋ねてきた。
「……くじで偶然にそうなったというなら、確かに言い訳ができるな」
あわよくばハニーと同じく後光が射す長門と二人で探索できるかも知れないという下心があったことは否定できなかった。
爪楊枝を使ったクジの結果、俺と朝比奈さん、長門他二名の組に分かれてしまった。
爪楊枝を親の仇でも見るような目で睨んでいた涼宮は、
「いい?あたしのグループには有希も居るんだし、例え古泉くんが居たとしてもデートじゃないのよ。解ってよね」
なんて俺に言ってきた。知るか。涼宮が誰とデートしようか俺には関係が無いことなのに何を言いたいんだ?
長門達と別れた俺と朝比奈さんは川のせせらぎを聞きながら、遊歩道を歩いている。
朝比奈さんはためらいがちに俺と並び、なにかの拍子に肩が触れ合ったりすると慌てて離れる。
何も無理に並んで歩かなくてもと思いつつ考えた。
俺にはハニーが居るのにさっきは不覚にも長門に心を奪われてしまった。
非常に情けない浮気心を戒めて、こんなのではハニーに釣りあえないと深く反省した。
俺の心が自己嫌悪で満たされていると朝比奈さんが声をかけてきた。
「わたし、こんなふうに出歩くの初めてなんです」
「こんなふうにとは?」
「……男の人と、二人で……」
デートか何かと勘違いしてるのではないか?俺は呆れつつ、客観的に状況をみてみる。
護岸整備がなされた川沿いの遊歩道を高校生の男女が二人ならんで歩いている。
なんてことだ!!まるで仲が睦ましいカップルではないか!!
俺は衝撃を受けるとともに、朝比奈さんが思い詰めたような表情で俺を見つめていることに気が付いた。
彼女は決然と
「お話したいことがあります」
子鹿のような瞳に決意が露わに浮かんでいた。
「お断りします」
「えっ!?」
「喫茶店での俺はどうかしてたんです。たとえクジでも男女が二人で歩くことが好きな人に対する言い訳なんかになるはずがないですよね」
「あ、あの言っている意味が……」
朝比奈さんは戸惑っている。本当に申し訳ない。
「そう言うわけで、噂になる前に帰ります。他の方々にもよろしくお伝えください」
俺はそれだけ言うと軽く朝日さんに頭を下げて帰り路についた。
後ろで「ふぇっ!?ふぇっ!?」という小動物の声が聞こえるがハニーとの恋路が最優先なので本当に申し訳なく思いつつも無視した。
日曜日。ハニーに出会って以来我慢していたものがその限界に達した。
ハッキリと言おう。夢精をしてしまったのだ。
ハニーと出会って以来、他の女で抜くわけにはいかず、さりとてハニーを性的な目で見るのは今の俺では恐れ多い。
そんな事で我慢していたのだが、それが暴発してしまったのだ。
それでも只の夢精ならいい。だがよりによって夢ではその対象が長門と何時だったかのウェイトレスだったのだ。
昨日の長門との出会いで限界を越えてしまったようだ。
幾らハニーを性的に見れないからと言って他の女で射精してしまうなんて、正直死にたい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
そんな遺書を書いて死にたい気分だった。
こんな気分になるのならば男で射精した方がどれほど楽な気分になれたものだろう。
そこで俺は気が付いた。
夢精する前に男で抜いておけばいいんだ!!
そうと決まれば、少し実験をしてみよう。
国木田や谷口だと抜き難いし、なにより明日からどんな顔で会えば良いのかわからなくなる。
そこで昨日会った美少年、古泉で抜くことにした。彼ならばそう会うこともないし問題ないだろう。
色々と妄想を開始する。
「ああ、古泉、古泉、古泉ぃ~~~っ!!……フゥ」
案外イケるものだ。
問題は虚しさが半端ではないがハニーへの罪悪感で死にたくなるよりはマシだろう。
暫くは古泉をオナペットとして毎日抜くことにした。
国木田や谷口だと抜き難いし、なにより明日からどんな顔で会えば良いのかわからなくなる。
そこで昨日会った美少年、古泉で抜くことにした。彼ならばそう会うこともないし問題ないだろう。
色々と妄想を開始する。
「ああ、古泉、古泉、古泉ぃ~~~っ!!……フゥ」
案外イケるものだ。
問題は虚しさが半端ではないことだが、ハニーへの罪悪感で死にたくなるよりはマシだろう。
暫くは古泉をオナペットとして毎日抜くことにした。
翌日、月曜日。
明らかに不機嫌な涼宮に話しかけた。
「なぁ、涼宮」
「なによ」
ジトーッとした目で睨まれた。
「なにが原因で不機嫌なのかは知らないが部室はどこなんだ?」
「途中で帰ったあんたがなんでそんな事を気にするのよ」
涼宮は疑った様な視線を寄越してくる。
「いや、遊びに行きたくなった時に場所を知らないと行けないだろ?」
「ふ~ん………なんだか腑に落ちないけど、旧館の文芸部って書いてある部屋よ」
「そうか。サンキュー。ついでに古泉の教室はどこなんだ?」
「なんで古泉くんの教室を知りたがるのよ」
「え……まぁ、なんだ…男としてお前には言えないことだ」
涼宮は何を思ったのか急ににやけて、
「なるほど……そういうことね!あたしと古泉くんはあんたが思ってるような関係じゃないから大丈夫よ!なんなら、古泉くんに確認をとっても良いわよ!って、その為に教室を聞いてるのよね?古泉くんは九組よ。」
と、上機嫌でまくし立てた。
なるほど、古泉とは顔を合わせたくないから旧館と九組に近づくのは止めておこう。
「なるほど……嫉妬したから急に帰っちゃったのね」
なんてハルヒが後ろで言っている。早くハニーに嫉妬される立場になりたいものだ。
古泉をオカズにし始めてから一週間ほど経ったある日の事だった。
「あんた、何時になったら部室に遊びにくるのよ」
涼宮が話しかけてきた。
「まぁ、そのうちに行くよ」
俺はと言うとその戯言を適当に聞き流しながら、下駄箱に入っていたノートの切れ端について考えていた。
『放課後誰もいなくなった時。一年五組で待つ』
その紙には、まるでワープロで印字したみたいに綺麗な手書き文字で書いてあった。
これがハニーからだったら嬉しいのだが、残念ながら違う。
断言できるがハニーの文字ならば一発で解る。
ハニーでない以上は無視しても構わないのだが、図書室で勉強を終えた帰りにでも覗いてみるのもいいかもしれない。
放課後、そう思って勉強をしているうちに図書室が閉室となる時間となった。
物のついでと五組の教室の前に立つ。
引き戸を開ける前に考えた。
「毎日、僕でオナニーをしているようですね」
笑顔の古泉が立っていたらどうしよう?
………ええい!ままよ!俺は気合を入れて引き戸を開けた。
教壇の前には思っても居なかった人物が立っていた。
「お前か」
「そう」
長門だった。
「入って」
長門から射す後光と夕日のコントラストに呆然と見惚れていた俺は、長門の抑揚のない声で入室を促されると言われるがままに教室へと立ち入った。
「何の用だ?」
わざとぶっきらぼうに訊く。無表情のまま長門は、
「用があることは確か。その前にあなたに聞きたことがある」
俺の真正面に長門の白い顔があった。
「あなたは朝倉涼子の事を愛していると思っている」
「ああ、全く持ってその通りだ」
「そう」
長門は平坦で抑揚のない声で確認の返事を寄越してきた。
「あなたは朝倉涼子を見ているのではない」
論文を読むような口調で、
「あなたが見ているのは、朝倉涼子ではなく情報統合思念体」
俺は黙って聞いている。長門は同じ声で続けた。
「あなたは朝倉涼子という端末を通じて情報統合思念体とアクセスする超感覚能力を持っている」
夕日が長門の半身を赤く染めている。
「あなたには自分の見たものが理解できていない。有機生命に過ぎない人間と情報統合思念体では意識レベルが違いすぎる」
……そう語る長門に後光が差しているのが見えた。まるで天国から地上に差し込む光のようだった。
「おそらくあなたはそこに超越的な叡知と蓄積された知識を見たのだろう。読みとれた情報が端末を媒介した片鱗でしかなかったとしても、その情報圧はあなたを圧倒させたと思われる」
情報統合思念体が何かは知らないが言わんとすることは伝わってきた。
「俺がそれを一目惚れと錯覚している……そう言いたいんだな」
「そう」
「なるほど、にわかには信じられんが仮にそうだとしても何の問題もない。今の俺は常にときめいていて、未来への希望にも溢れる幸せの絶頂だからな」
長門のくだらない話にもっともな回答をした。
「情報統合思念体に接続するには個人の脳容量は少なすぎる。いずれ弊害が顕在化すると予想される」
「結構な話じゃないか。愛の為になら死ねる。ハニーの…朝倉の為なら死ねる。むしろ死ねることを誇りに思うぞ」
「そう」
長門は無感情な返事を寄越してくると俺にアイアンクローをしてきた。
「お、おい!なにを----」
俺の抗議に聞く耳持たず、長門はアイアンクローはそのままに大外刈りをかけてきた。
俺は見事に倒された。よくも首を捻じらなかったものだと不思議だった。
「や、やめろ!!」
それは兎に角、痛いものは痛い。俺はそう言ってアイアンクローを外そうと長門の腕を掴むがビクともしない。
この小柄な体のどこからこの力が出てくるのだろうか。
頭蓋骨が悲鳴を上げそうなくらいに長門の指がめり込む。
「い、痛い!!勘弁してくれ!!」
頭蓋骨の前に俺が悲鳴をあげた。
「拒否。すでに弊害が顕在化している。あなたの精神の一部が変調をきたしている。痛みは修正に伴うもの」
長門は抑揚のない語りで説明し、それが終わると俺を解放した。
「あなたが持っていた能力を解析し、消去した」
無様に倒れてる俺に対して、長門は見下ろしながら告げた。
その時、突然に教室の引き戸が開けられた。
「もう終わったのかしら?」
ハニーだった。……いや、ハニーなのか?
「うん?……あー」
なんだこの違和感?
「朝倉…だよな?」
「そうよ」と朝倉。
「市外から進学してきた……?」
「うん」
「委員長の……?」
「うん」
「そうなの……か……」
俺が落胆の声を出すと、今度は朝倉の方から声をかけてきた。
「ねぇ?ちょっと聞こえたんだけど、わたしの為なら死ねるって本当?」
今までの感情が嘘の様になんとも思えない。今まで憑き物が憑いていたとしか思えない程に妄執していたのにだ。
「非常に言いにくいのだが……そういうのは無かったことにしてもらいたい」
「あーあ……少し残念。大きな情報爆発が観測できるチャンスだったのになぁ~」
朝倉はわざとらしくガッカリしてみせた。
呆然としている俺を無視して長門が朝倉に話しかけている。
「あなたはわたしのバックアップのはず。今後は放置せずに報告することを要求する」
「は~い」
朝倉が気持ちのこもっていない返事をすると二人そろって出て行った。
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