かずみ☆マギカの短編集 (161)


魔法少女まどか☆マギカの公式スピンオフ作品、魔法少女かずみ☆マギカのモブキャラ・サブキャラを主役に据えた誰得短編集(全4編)をオムニバス形式でお送りいたします。

かずみを知らない人は全く楽しめない内容になると思います。

オリキャラのオンパレードですが、それでも構わない方のみお付き合いくださいませ。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1415539950


教師「……」チラ

時計を見る。

11時58分。

まあ、これくらいなら許容範囲内だろう。

教師「よし、それじゃあ授業終わりにするぞー。号令係」

生徒「はい。起立、気を付けー、礼!」

「「「ありがとうございましたー」」」

生徒たちの元気そうな、あるいは気だるそうな声が教室に響く。 

教師「ありがとうございました。それじゃ、次は来週の……」

えっと……。

このクラスは、何曜日だったっけ?

カオル「火曜日でっす!」

教師「そうだった。ありがとう、牧」

カオル「いえいえー」

教師「それじゃあ、終わり」

僕は忘れないように名簿を抱え、昼食の時間らしくにぎわっている教室を後にした。


Chapter.1

似た者同士


※最終話「イノセントマリス」の最後にちょっとだけ出てくる、かずみのクラスの担任の先生が主役のお話です。


後輩教師「あ、お疲れ様です!」

声をかけてきたのは、僕の後輩にあたる教師だった。

教師「ああ、お疲れさま」

後輩教師「あ、そうそう!例の会議ですけど、来週の日曜日になったらしいですよ」

教師「『らしい』って。出るのは君でしょ」

後輩教師「お願いします!」

急に手を顔の前で合わせ、上目遣いで僕の方を見つめてきた。

以前この上目遣いに屈して頼みごとを引き受けて以来、どうも味を占めたようである。

教師「嫌だ」

後輩教師「ええ~?どうせ暇なくせに」

教師「映画観る予定があるんだよ」

後輩教師「また『おひとりさま』ですかー?いい加減、適当な相手見繕ってさっさとくっついちゃった方がいいと思いますよ」

教師「うるさい既婚者」

彼女は僕よりひとまわりも年下の癖に、既に結婚している。

そして、事あるごとにそれを引き合いに出して僕をからかってくるのだ。

というか、いつの間にか立場が逆転しているような……。

頼みごとをしているのは彼女で、僕は頼まれているはずなのに……。


後輩教師「ふふふ。でも実際、結婚する気があるならそろそろ本気で考えないともう一生無理になっちゃいますよー?」

教師「まあ、それは分かってるけど」

後輩教師「まあでも、いっつも一ヶ月も続きませんもんねー。仕方ないか」

ナチュラルに煽っていくスタイル。

最近は特に、先輩としての威厳が失われつつある気がする。

後輩教師「とりあえずですね、何が言いたいかというと。チャンスじゃないかと思うんですよ!今回の会議!」

教師「はあ??」

後輩教師「学校の先生って、一応公務員とはいえそんなに待遇が良いわけでもないし、同じ教師でしか分からないことっていっぱいあるじゃないですか」

後輩教師「実際、それですれ違っちゃったこともあるんじゃないんですか?今まで」

教師「そりゃあ、まあ……」

否定できないのが辛い。

後輩教師「だからチャンスなんですよ!絶対他の学校にも同じようにくすぶってる人いますって!」

教師「くすぶってるって……。いちいち煽って来るなあ」

後輩教師「だって面白いんですもん。とにかく!今回の会議、絶対無駄にしちゃダメですよ!」

教師「会議は合コンじゃないと思うんだけど」

後輩教師「『親睦を深める』のが目的なんだから、大丈夫です!」

教師「なにその理論……。それに、代わりに出るだなんて言ってない!」


後輩教師「それなら大丈夫です。もう代理の申請済ませておきましたから」

教師「はあっ!?」

後輩教師「お願いします!今旦那の実家の方で色々揉めてるらしくて……。今度好きなもの奢りますから!!」

改めて上目遣い攻撃。

別に、それに屈したわけではないが……。

教師「……仕方ないな」

後輩教師「やった!!ありがとうございます!」

ちゃんとした事情があるなら仕方ない。

それに、実際彼女の言葉にほんの少しだけ心が動いたのも事実だった。


『あんた、本当にあたしのこと好きなの?いっつもそう、忙しい忙しいって……。一体あたしはいつまで待ってればいいワケ?』


教師「……」

『前回』、振られたときのことを思い返す。

確かに、同じ教師同士、理解しあえるものがあるかもしれない。

いや……もちろん、会議は会議だ。

間違っても出会いの場にしようだなんて考えちゃいないが。

それでも、仕事とはいえたまには見知らぬ同業者と話すのも悪くは無いかもしれないと思った。


―――そして、会議当日。

教師「……以上が本日の会議の要旨になります。それじゃあ各学校の代表の先生、それぞれ何か報告があれば簡潔にお願いします。まずは見滝原中から」

和子「はい。見滝原中学校の早乙女と申します。本日はよろしくお願いします。まずは、本校での放課後のPTAと連携したパトロールの件についてお話をさせて頂きます。ええと……」

教師(結局来てしまった……。それにしても、司会役の担当だなんて聞いてない!!まあ、それ自体は別にいいんだけど。ひとつだけ心残りがあるとすれば……)

教師(今日観る予定だったあの映画。あれから予告編とか色々チェックしてみたら、これはもうアタリだとしか思えなくなってきた。あれが来週まで見られないのは、辛い……)

和子「……以上です。ありがとうございました」

教師「はい、早乙女先生ありがとうございました。それじゃあ、次は……」

和子(くっ、今回は参加を避けられなかった……。日程調整をしくじったわね)

和子(前回は部活の顧問として、コンクールに付き添う用事があったから欠席。その前は小テストの採点があったから欠席。上手くやりくりしてきたつもりなんだけどねえ)

和子(大体、こういう会議には『暇=未婚者』を出しておけばいい、っていう風潮が間違っているのよ。こういうの本当に苦手なのに……)

教師・和子(それにしても)

教師(さっき発表していたあの人)

和子(司会役のあの人)

教師・和子(何故か妙に親近感を感じる、ような……。いや、気のせいか)


―――終了後。

教師「それじゃ、お疲れ様でした」

「「「お疲れさまでした」」」

他の先生方が帰ったのを確認して、自分も会議室を後にした。

腕時計を見て、時刻をチェックする。

もう夕方の6時だ。

教師(流石に今から観に行くと明日の授業の準備が間に合わなくなる……。今日の会議のまとめもしなくちゃいけないし)

教師(……でも、せめて)

家でDVDを見るくらいならいいだろう。

確か、駅前にレンタルビデオ店があったはずだ。


―――レンタルビデオ店内

教師(こういう時は、なるべくつまらなさそうなもので……。資料のまとめをしながら見ているくらいでちょうどいいんだ、うん)

教師(……これにするか)ヒョイ

???「あっ」

手がぶつかった。

女の人の華奢な手だ。

教師「ごめんなさい」

和子「いえ……。あっ!」

教師「早乙女、先生?」

和子「……どうも」


―――ファミレス店内

教師(早乙女先生もどうやら同じようなことを考えていたらしく、せっかくだし夕食でもどうかという話になった)

教師(ちょっと残念な気もするけれど、今日は映画は無しだ)

和子「映画がお好きなんですか?」

教師「そうですね。早乙女先生も?」

和子「ええ。本当は今日も観たい映画があったんですけど、会議があったから」

教師「もしかして、『ワルプルギスの夜の彼女』ですか?」

和子「えっ……当たり」

教師「あ、あははは……」

僕と早乙女先生は、不思議なくらい気が合った。


和子「……だから私、いつもは他の予定をかぶせるようにして調整してたんですよ。ほら、こういう会議って毎年同じような日程で開かれるじゃないですか」

教師「なるほど、そんな方法が……」

和子「大体、おかしいですよね!?どうして既婚者ばかり優遇されるのか!未婚者であることが、まるで人生の十字架みたいに扱われるなんて、理不尽だと思いませんか!?」

教師「いや全くその通り」

早乙女先生は、本当に僕に似ていた。

お互い未婚者(どうせ左手薬指を見ればすぐに分かる)で同年代ということもあり、想像以上に話は弾み、店に入ってからおよそ2時間が経過しようとしている。

睡眠時間が削ってでも資料作りに勤しまなければならないだろうし、映画は一本も見られない休日になってしまったけれど。

来てよかった。

なんだか彼女(もちろん後輩のことだ)の思い通りになってしまったような気がして少し癪な気持ちもあるけれど、素直にそう思った。

余談だが、この日は早乙女先生も睡眠時間を削る羽目になったらしい。

やっぱり似た者同士だ。


―――教室にて。

教師「……それじゃあ、今日も授業を始めるぞー!号令係!!」

号令係「はいー。なんか先生、嬉しそうっすね?」

教師「ふふふっ……。先生、今プライベートが良い感じだからな!」

おおおっ、と教室が沸く。

カオル(今回はいつまで続くかねえ)ヒソ

海香(さあね)ヒソ

号令係「そんじゃ、きりーつ」


後輩教師「……ふふふっ、生徒たちにも言われたんですか?」

教師「毎度毎度、そんなに分かりやすいかなあ……」

後輩教師「いやー分かりやすいですよ。目つきが変わりましたね。こう、キリッと」

教師「あっそう……」

後輩教師「いやー、やっぱり恋は人を変えますねー」

教師「中学生みたいなこと言うね……」

後輩教師「いいんですう!私の心は永遠の15歳!」

離れたところで50代のおじさん先生が吹き出すのが見えた。

彼女も流石に恥ずかしくなったのか、みるみる顔が真っ赤になる。

後輩教師「でも、今回は本当に今までと違うような気がします」

教師「そう思う?」

後輩教師「はい。自分でも、そう思ってるんでしょ?」

教師「うん……」

今回は今までとは違う。

認めるのは少々恥ずかしいが、結構本気でそう思っている。


映画の話をきっかけにして、僕たちの距離は一気に縮まった。

今まで『おひとりさま』でいた時間が、和子さんと一緒に居る時間に変わっていった。

色々出掛けたり話したりするうちに思ったのだが、この人がまだ結婚していないというのが本当に不思議だった。

可愛らしいし、話は僕より上手だし、生徒想いの良い先生だということが伝わってくる。

結婚願望も僕以上に強いみたいだし……。

もしかしたら、そのあたりが逆にネックになっているのかもしれないけれど。

和子「それじゃ、また」

教師「うん、また来週」

確実に、彼女に惹かれていく自分が居た。

そして彼女もまた、自分を好いてくれているのを感じた。


……でも、そんなに何もかもが順調に行くのなら、誰も苦労なんてしないわけで。

想像もしなかった最悪の出来事は、何の前触れも無く訪れた。


後輩教師「……大丈夫ですか?」

教師「大丈夫」

後輩教師「いやいや顔色悪いですよ。少し休んだ方が……。あ、それ私が代わりにやっておきましょうか?」

教師「本当に大丈夫だって」

後輩教師「あんまり無理すると、彼女さんも悲しみますよ」

教師「……」

違う。

僕は彼女に会いたくて、彼女の笑顔を見たいから、今こうやって頑張っているんだ。

教師「今のうちに全部仕事を片付けて、休みの日にゆっくり休むからさ」

後輩教師「……そうですか」

後輩教師(真面目なのはいいけど、こういうところで容量悪いんだよねー……)

後輩教師(まあ、一回ダウンするところまで行かないと学習しないか。しょうがないね。いいや、ほっとこ)

教師「それじゃ、お疲れ様」

後輩教師「お疲れ様です」

お互いに忙しい中、何とか会う時間を作っているのだ。

意地でも今日中にこの作業を終えたかった。


―――そして、日曜日。

和子「ねえ……。ちょっと顔色悪くない?大丈夫?」

教師「和子さんこそ」

お互い、今日の為に無理をしている。

口には出さなくとも、様子を見れば明らかだった。

褒められたことではないと分かっていても、自分に会うために無理をしてくれていると思うと、嬉しい気持ちがこみ上げてくる。


この日は一緒に映画を観に行って、街をぶらぶら歩いて、美味しそうな洋食屋さんで夕食を済ませ、それから……。



……それから??


―――日曜日、深夜。

海香(かずみ、カオル!魔女の結界、学校の方みたい!急いで!!)

かずみ(オッケー、海香!)

カオル(はいよっ!)

海香(とりあえずテレパシーを飛ばしたは良いものの……。口づけを受けた人が集まり始めているようね、先に手を打っておかないと)

海香「!……あれは」


かずみ「……ごめんっ!遅れた」

カオル「かずみ!……海香、かずみが来たよ」

海香「分かったわ。それじゃ、魔女の方を叩くわよ」

かずみ「海香、今何してたの……?」

海香「魔女の口づけを受けていた人の……対応を、色々とね。後で話すわ。今は魔女を」

かずみ・カオル「了解っ」


―――翌日。

後輩教師「あ、お疲れ様です!」

教師「ああ、お疲れさま」

後輩教師「??……なんか、元気ないですね」

教師「そうかなあ」

後輩教師「寝不足ですかあ?気を付けたほうがいいですよ。……あっそれより、これ見てくださいよ!名前は伏せられてますけど、この写真ってウチの学校ですよね?」

彼女が見せてきたのは、新聞記事の切り抜きだった。



『あすなろ市の中学校で怪事件』

『本日未明、あすなろ市のある中学校の校舎内で、8名の意識不明者が発見されたことが明らかになった』

『このうち2人が軽傷を負ったものとされているが、原因は不明とされている』

『県警は、この事件について「被害者達は命に別状は無いものの、一部記憶に欠損が見られる。組織的な犯行の可能性も考慮すべき」と言及している』



教師「……」

後輩教師「どうですか、これ!?なんか、怖いですよねー!」

教師「……そうだね」


『あすなろ市の中学校で怪事件』。

僕たちもまた、その事件の関係者だった。

ただし、僕たちは警察に見つかる前に意識を取り戻し、学校を出たために取り調べは受けていない。

それでも報道と同じように昨晩の記憶が飛んでいるし、事件の真相については想像もつかなかった。

ただ、嫌な感じがした。

これまでの人生で初めて味わうほど、それほどの嫌な感じ。


―――

かずみ「そっかー、海香たちの学校の先生だったんだ」

海香「それと、彼女さんね。おそらく」

カオル「だろうね。べた惚れだったみたいだし。授業中に惚気るくらい」

かずみ「……ん??だとしたら、魔女の口づけを受けるのってヘンじゃない?それだけハッピーだったわけでしょ、その先生」

海香「そうね。考えられるとしたら、たまたま魔女の近くを通りかかったからとか」

カオル「余程疲れていたから、とか?」

海香「さあね。とにかく、記憶は消しておいたから問題は無いはずよ」

カオル「それよりさ、かずみ」

かずみ「??」



カオル「そろそろ、学校通ってみない?」


―――

目が覚めたとき、僕は無傷だった。

和子さんは腕に傷を負っていた。

僕は訳の分からないまま和子さんを家まで送り届けた。

彼女は一緒に居て欲しいと頼んできたし、僕も元々そのつもりだった。

結構な時間になっていたので眠るつもりは無かったのだが、思ったより疲れが溜まっていたのか、結局仮眠を取ることになってしまった。



その時に、夢を見たのだ。


―――僕が和子さんに傷を負わせる夢を。


―――

和子「……それで、話って?」

事件から一週間。

僕は再び和子さんの部屋にお邪魔していた。

教師「……」

僕には、小細工は似合わない。

やるなら一度だ。

教師「別れよう」

和子「……」

和子さんは、予想通りとても悲しそうな顔をした。

その顔を見たくなくて、彼女が一瞬少しだけ満足げな表情を見せたのを、僕は見ていなかった。

和子「どうして?」

教師「前に、この部屋でシュークリームを食べたよね?あの時から、何か違うと思っていたんだ」

教師「僕はシュークリームは皿に出さなきゃ食べられない」

和子「……それだけ??それに、それならその時そう言ってくれれば」

教師「そういう話をしてるんじゃない」

和子「どういう話よ!?」

教師「大体前から思っていたんだ、和子さんは……!!」

和子「それならあなただって……!!」

こういう不毛な口論には決まりきったお約束がある。

それは、口論の原因とは直接関係のない過去の出来事を蒸し返して互いを攻撃しあうと言うものだ。

一度始まれば泥沼。

お互いが疲れ果てるまで、この無意味な罵詈雑言の連鎖は止まらない。


和子「あなたはいつもそう……!!」

教師「和子さんの方こそ……!!」

終いには、大の大人がふたりして泣き出してしまった。

こんな情けない姿、生徒に見せられたものじゃない。

教師「……」

さあ、仕上げだ。

呼吸を整えて、次の攻撃の準備をする。

教師「……もういい。和子さんとはもう二度と会いたくない」

舌がひりひりと痺れるようだ。

喉もからからに乾いて、痛む。

和子「!!……こっちこそ、あなたみたいな男の人なんて願い下げよ!!」

教師「っ!!」

僕は情けなく鞄を引っ掴んで、何も言わずに彼女の家を出た。


帰り道、僕は人目も憚らずに大泣きした。

道行く人々が僕を見る。

構うものか。

どんなにみっともない姿を晒したとしても、自分だけはどれだけ辛い思いをしたのか知っているのだ。



……結局、その日は大量に酒を買い込み、ひとり酔いつぶれるまで飲み明かした。

僕は知らなかった。

和子さんも僕と同じように、その夜を過ごしていたことに。

僕は知らなかった。

和子さんも僕と同じように、僕を得体のしれない何かから遠ざけようとしていたことに。

そして、僕が和子さんの事情を知らなかったように、和子さんもやっぱり僕の事情を知らないままだった。

皮肉なくらい、最後まで僕たちは似た者同士だった。


後輩教師「……ええっ!?またダメだったんですかあ!?」

教師「うん、まあ……」

後輩教師「まあ、って……。だって、今回は凄く順調そうだったじゃないですか。あ、もしかしてこの前体調崩したりして、それで喧嘩したんですか?それなら早く謝ったほうがいいで」

教師「……授業の時間だ。それじゃ」

後輩教師「へ??……ち、ちょっと!!」

これで、間違ってないはずだ。


教師「……今日はみんなに大事な話がある。心して聞くように」

教師「男子!シュークリームを皿に出さないような女性とは付き合うんじゃないぞ!そして女子!壁紙があるから手づかみでいいなんて女性になるんじゃない!」

教師「先生が言いたいのはそれだけだ……」

男子生徒(ダメだったか)

女子生徒(ダメだったんだね…)

朝のHR。

恒例の説教タイム。

でも、この時間は僕にとって本当に大きな意味を持っているのだ。

こうやって生徒たちに宣言することで、僕は過去と、彼女と決別する。

もう二度と振り返ることは無いだろう。

勿論、こんなところまで似た者同士だったなんてことは知る由もないことだ。

教師「そりゃそうと転校生を紹介しますね」

「「「そっちが後回しかよ!」」」

かずみ「チャオ、みなさん。……かずみです、よろしくお願いします!」

教師「おいおい、苗字は?」

かずみ「えっと、スバル……。昴かずみです!!」



さあ、新しい一日を始めよう。


―――

これは余談だけど。

それから暫く経った後、どこから聞きつけてきたのか、例の夜のことについて尋ねてきた女性が居た。

名前は確か、石島美佐子。

少々冷たい印象を受けるほど整った顔をした美人だった。

彼女は自分が警察の人間であること、ただしこれは職務とは無関係な個人的な質問であることを明らかにしてから、僕に2、3質問を寄越してきた。

この人は信用できそうだと思った僕は、あの夜僕に降りかかった出来事について、正直に話すことにした。

普通に考えたら頭のおかしい人だと笑われても仕方ないような話だが、彼女はメモを取りながらこちらの話に熱心に耳を傾けていた。

大体の事情を話し終えたところで彼女は満足したらしく、お礼を言って去って行った。

不思議な人だった。

彼女は何か知っているのだろうか……。


Chapter.1終了です。

こんな感じでやりたい放題書かせて頂きます。

本編+次回予告(最後の1レス、>>31のことです)のセットで進めていきたいと思います。

今後の予定ですが、今日から毎日1話ずつ投下していくつもりです。

全4話なので、水曜日に完結予定です。

改めて、よろしくお願いいたします。



シュークリーム×和子先生の組み合わせにピンと来ない方は、ドラマCD「Memories of you」をご確認ください。


美佐子「……これで終わり、と」

あすなろ中学校の教師から聞き込みを終えた私は、記憶が新しいうちにと近くの喫茶店に入ってメモをパソコンでまとめ直していた。

美佐子(流石、学校の先生ね。話が整頓されていて聞きやすかった)

パソコンの電源を切り、少し息をつく。

美佐子(……こうして個人的に調査を行うようになって分かったこと)

美佐子(魔女や魔法少女は、私たちのような一般人から巧みに姿を隠しているものの、確実に私たちの近くに存在している)

美佐子(あいにく、私は魔女にも魔法少女にも直接遭遇したことは無いけれど……)

殆ど無意識のうちに、私はポケットから一枚の写真を取り出していた。

そこに写っているのは中学生の時の私と、当時の親友、椎名レミだった。

美佐子(レミ……)


Chapter.2

正義の味方


※石島美佐子刑事の親友、椎名レミ(4巻第16話「イチゴリゾット」参照)が主役のお話です。


美佐子「レミ、帰ろう」

レミ「ごっめーん!あたし、今日は用事あるんだ」

美佐子「えー!?またなの?昨日も一昨日もそうやって言ってたじゃん」

レミ「ごめんごめん、でも忙しいんだって」

美佐子「もう。明日は一緒に帰ろうね?」

レミ「……」フイ

美佐子「もう、目を反らさないの!」

レミ「いやー、なるべく!なるべくね!!そんじゃ!」

美佐子「あ、レミ!ちょっと!!……レミったら」

美佐子(また妙なことに首突っ込んでなっきゃ良いけど……)


あたしは美佐子を振り切ったことを確認すると、人気のない路地裏で変身した。

レミ「きゅっぷい!いる?」

QB「だからキュゥべえだって」

レミ「ええー、きゅっぷいの方がかわいいじゃん」

QB「わけがわからないよ」

レミ「いやいや、仲の良い子にはニックネームつけたくなるもんでしょ」

QB「キミは美佐子のことを名前で呼んでいるじゃないか」

レミ「美佐子は親友だから別枠。女の子はねえ、本当に仲の良い友達は逆に名前で呼ぶものなの」

QB「やっぱりわけがわからないよ」

レミ「そ。……まあ、別にそれでもいいや。さ、今日はどこに行こうかなっと」

QB「ついさっき、町外れに魔女が出現したみたいなんだ。まずはそこに行ったらどうかな」

レミ「まっかせろー!魔女を倒すのは久しぶりだなあ、あたし張り切っちゃうよー!!」


―――

レミ「ふー、楽勝楽勝。全く、張り合いが無いったらありゃしない」

QB「油断は禁物だよ」

レミ「分かってるって、きゅっぷい。それより、そろそろいつもの始めるよ!」

QB「きゅっぷい」


―――

レミ「今日はおじいさんの飼い猫を見つけてあげたのと、横断歩道を渡れずに困ってるおばあさんの手を引いてあげたのと、あとは万引きしようとしてた年下の女の子を注意したのと……。うん、3件だね」

QB「お疲れさま。ソウルジェムの方は濁ってないかい?」

レミ「まさか。だって、ほとんど魔法使ってないもん」

自己紹介が遅れたかな。

あたしの名前は椎名レミ。

このあすなろ市できゅっぷいと最近契約したばかりの新米魔法少女。

叶えた願いは『正義の魔法少女になりたい』。

今は『困っている人や悪い人を発見する魔法』を使って、ボランティア活動みたいなことをしてるんだ。

あ、魔法の力を使うのはそれだけだからね!

あくまで解決は自分の手で。

大事なことだもんね、うん。


QB「夜も遅いし、そろそろ帰ると良い。それじゃ、また明日」

レミ「じゃあねーきゅっぷい」



……でも、そんなあたしにも悩み事がひとつ。

レミ「しゅくだいー……」

もう勉強が全然わからない。

最近全くついていけない、イケてない。

特に数学。

因数分解がもうダメ、よく分かんない。

因数って何?

何を分解してるの?


因みにあたしの親友、石島美佐子はあたしと違って頭が良い。

だからテスト前はいつも美佐子に頼り切り。

この前英語の赤点免れたのは間違いなく美佐子のお陰です、頭が上がらない……。

まあ数学は赤点だったんだけどね。

そんなことをぼんやり考えていたら、思わぬ来客が現れた。

ソラ「おねーちゃん、あーそーぼー」

椎名ソラ、あたしの妹だ。

いつの間に部屋に入ってきてたんだろ、全然気づかなかった……。

レミ「ソラ!!うーん、仕方ないなあもう。お姉ちゃん宿題やってたんだけど、ソラが遊びたいって言うんだから、仕方ないよねえー」

あたしの口元がにやけているのは、妹が可愛いからさ。

宿題をサボる口実が出来たからじゃないんだからね、いいかい諸君。


―――翌朝。

レミ「……っていうことがあってさー。お願い美佐子!宿題写させて!」

結局ソラと遊ぶのに夢中になってしまったあたしは、宿題を終わらせることのないまま次の日を迎えていた。

美佐子「先週の火曜日」

レミ「はい?」

美佐子「はい?じゃない!今と同じ言い訳してたんだよ?先週の火曜日に」

レミ「うおう、流石美佐子様……よく覚えていらっしゃる……」

そういえばそんなことがあった、ような……。

美佐子「いらっしゃる、じゃないっ!いっつも言ってるじゃん、宿題くらいはちゃんとやっておきなよって!だからテスト前になったら毎回毎回……。もう私たち3年生なんだよ!やることはちゃんとやらなきゃ!」

レミ「ストップ、ストップ!……石島美佐子様、今回の椎名レミは非常に反省しております!」ビシッ

敬礼のポーズを取る。

敬ってるんだよ、ほんとだよ。

美佐子「本当に?」

レミ「勿論であります!」ビシッ

だから宿題見せて、お願い!

美佐子「先週の金曜日」

レミ「??」

美佐子「同じこと言ってた」

レミ「」


レミ「ちょ、ちょっと待って!美佐子、一生のお願いだから!」

美佐子「レミの一生のお願いは私が覚えてるだけでももう10回は使ってるよ」

レミ「厳しい!今日の美佐子厳しいよ!!」

美佐子「レミを甘やかしちゃいけないって、私学んだの」

レミ「そんなー!!」

美佐子「今日の放課後も、また予定あるの?」

レミ「あ、うん、まあ……」

美佐子「今日は私の家に来て、一緒に宿題を片付けること。……約束できるなら、まあ、見せてあげる」

美佐子は少し照れたようにそっぽを向きながらそう言った。

あーもう可愛いな、こんちくしょう!!

レミ「さっすが!!」ダキ

美佐子「きゃっ!?」

レミ「あたしの美佐子ー!!神様仏様美佐子様ー!!!」

美佐子「大袈裟な……。じゃあ、予定の方は大丈夫なのね?」

レミ「んー。まあ、いいや」

1日くらい、仕方ないよね。


―――放課後。

美佐子「それじゃあレミ。一緒に帰ろう」

レミ「うん!」

QB(緊急だ、レミ!!聞こえるかい!?)

と、美佐子と手をつなぐと同時に、きゅっぷいがテレパシーを飛ばしてきた。

レミ(きゅっぷい、どうしたの!?)

QB(魔女の結界……。それも、キミの家の近くだ!急いでくれ)

レミ(りょーかいっ!)

レミ「本当にごめん、美佐子!」

美佐子「!?」

あたしは美佐子の手を思いっきり振りほどくと、家の方に向かって駆け出した。

美佐子「ちょっとレミ!?ねえ、レミー!!!」


結界が出来ていたのはあたしの家の近くにある小さな公園だった。

レミ「……参ったな、強そうじゃん」

QB「くれぐれも油断はしないように。あと、もしかしたら一般人が囚われているかもしれない」

レミ「それ、まずいじゃん!」パア

QB「レミ?」

レミ「急ぐよ、きゅっぷい!」


レミ「魔女の棲家までは一本道かあ……」タッタッタッ

こういう、魔女のいる最深部までの道中に使い魔が居ない場合というのは、奥に戦力が集中している場合が多いのだ。

つまり、それだけ苦戦する可能性が高いってこと。

でも、今日はそれだけじゃない。

なんだか、凄く嫌な予感がする……。

―――って、こんな弱気になってちゃ……。

レミ「……あーっ、もう!考えるのやめっ!魔女を倒せばそれで解決だもんね!!」

そんなことをひとりで叫んでいる間に、いつの間にか結界の最深部に辿り着いていた。

QB「ここだよ。かなり強力な魔力を感じる。くれぐれも気を付けてね」

レミ「了解っ!」パア

魔力を注ぎ込んで、扉を開く。

さあ、魔女さんご対面!


ソラ「ぅ……」グス

レミ「ソラっ!?どうして……!!」

結界の最奥部、魔女の近くにソラが居た。

見たところ、怪我はしていないらしいのが不幸中の幸いか。

あたしは使い魔や魔女の攻撃を警戒しながら急いでソラのもとに駆け付けた。

レミ「ソラ!」

ソラ「おねーちゃんっ!!」ダキッ

あたしはソラを確保すると、一旦魔女から離れた。

攻撃を仕掛けてくる気配はない。

こちらから攻撃しない限りは大丈夫そうだ。

レミ「結界っ!!」

あたしは最奥部の入り口付近にソラを避難させ、その周囲にごつい石壁の結界を敷いた。

レミ「おとなしくしててね、ソラ」

これでソラに危害が及ぶことは無いはず……。

レミ「……さあ、そこの魔女!あたしの妹に手を出した罪、あの世で償ってもらうからね!!」

私は目の前の魔女にそう言い放つと、武器である斧を取り出した。


改めて結界を見渡す。

レミ「これは……」

QB「『ままごとの魔女』ってところかな」

あたしの肩に乗ったきゅっぷいが呟いた。

どうやらそうらしい。

結界全体に大きなシートが敷かれ、シートの向こう側に居る巨大な魔女はシートの上に乗っている巨大な人形や箱なんかを操って遊んでいるようだ。

レミ(ソラは人形の代わりだったんだ……。本当、間に合ってよかった)

もう少し遅くなっていたら……。

想像するだけでもおぞましい。

レミ「きゅっぷい、しっかりつかまってて」

QB「きゅっぷい」

レミ「うりゃああああああああっ!!!」ブンッ

あたしは侵入者の存在に気づいていないらしい間抜けな魔女に向かって、手持ちの斧を思いっきり投げつけた。

魔女「……!!」ザシュ

魔女がようやくこちらを向く。

弱い魔女なら今の一撃でも倒せるくらいだが、この魔女には殆ど効いていないらしい。

レミ「堅いね」

QB「キミの斧なら何とかなるはずだ」

レミ「頑張る」

魔女「……!!」

魔女が威嚇するようなポーズを取ると、ビニールシートの上で大人しくしていた人形の一体が、あたしに向かって突進してきた。

レミ「使い魔さんは、いーらないっ!!」ゴシャ

あたしは新たな斧を取り出すと、それを振りおろして人形を真っ二つに割った。

魔女「……!!」

次々に人形が突撃してくる。

単調で、単純な攻撃。

これならいくら数が多くても何とかなりそうだ。

レミ「ふんっ!はあっ!!」ブンッ

遂にすべての人形を破壊した。


魔女「……!!」

全ての使い魔を失った魔女は6本もの手を振り上げ、様々な武器を召喚した。

レミ「あーあー怒ってるね。阿修羅像、だっけ」

その姿は、まるで社会の授業で習った仏像のよう。

でも、この魔女が6本の手を持っている理由は……。

レミ(ひとりでおままごとが出来るように……。きっと、そういうことだよね)

魔女が剣を、槍を、斧を、他にもさまざまな種類の武器を構える。

レミ「でも、相手がいないんじゃ仕方ないよねっ!!」

あたしは一気に加速して魔女の懐に潜り込む。

魔女「……!!」ブンッ

6種類の武器があたしを襲う。

でも、やっぱりどれも単調。

良く見ていれば避けられないほどじゃない。

レミ「これで、終わりっ!!」ブオンッ

魔女「……!!?」ドシャ

魔女の顔面にあたしの斧がクリーンヒットした。


QB「……お見事だったよ、レミ。あのレベルの魔女を無傷で倒してしまうとは」

レミ「相性が良かっただけだよ。それより、ソラ!」

ソラ「お……ねーちゃ……?」

レミ「ごめんねソラ、怖い思いさせて」

ソラ「おねーちゃん!だいじょーぶ?」

レミ「あたしは大丈夫。なんたってあたしは正義の味方!悪い魔女をやっつける魔法少女だからねっ!」

ソラ「まほう……しょーじょ?」

レミ「そう。ま、とりあえず帰ろ!今日のことはパパとママには内緒だからね!」

レミ(ま、3歳の子に話すくらいなら構わないよね)


レミ母「……レミ!ソラ!!」

レミ「ああ、ママ!」

レミ母「ごめんなさい、ちょっと目を離したらソラが居なくなっちゃって、ずっと探してたのよ……。レミが見つけてくれたのね、ありがとう」

レミ「本当に気を付けてよね、ママ!!大変なことになるところだったんだから!」

レミ母「あら……ごめんなさい、何かあったの?」

ソラ「まほ……もがっ」

レミ「あーいやー、何でも無いよーあははー」

レミ(お願いソラ黙ってて)

ソラ「もががー!!」

レミ母「それじゃ、レミも一緒に帰る?」

レミ「っ!!……いや、ちょっと寄るところがあるからいいや。先に帰ってて」

レミ母「分かったわ。それじゃ、ありがと。行きましょ、ソラ」

QB(レミ!)

レミ(大丈夫、分かってるから)


母と妹が去ったところを見計らって、私は『誰か』に声をかけた。

レミ「……さあ、そろそろ出てきたらどう?」

少女「流石だねー、椎名レミさん」

レミ「あなた、昨日の……!」

万引き少女だった。

レミ「まさか、魔法少女だったとはね。何の用?」

少女「いや?ちょっとムカついたからどんな人なのか見てただけだよ」

レミ「逆恨み?やめてよね、昨日のはあなたが悪いんでしょ」

少女「……わたしね、クラスメイトにいじめられてるの」

レミ「!」

少女「昨日は、あれを盗んでこないと乱暴するって言われたの。だから、わたしは……わたしはっ……!!」

レミ「……」

少女「あんたのせいだ……あんたのせいだよっ……!!あたしがあの後、どんなひどい目に遭ったか……!!」ギロ

少女が涙で真っ赤になった眼でこちらを睨みつけてきた。


少女「……なーんて」

少女の口元が嫌らしく歪む。

レミ「……嘘だよね。あたしだってそれくらい分かるよ」

少女「へえ意外。ただのバカかと思ってた」

レミ「魔法少女だったら変身しなくても一般人には負けないくらいの力はつくし、あなたそういうタイプにも見えないもん」

少女「へー、へー、ふーん。……やっぱムカつく」

レミ「あっそ。用が無いなら、あたしはもう……」

少女「ねえ、『正義の味方』の椎名レミさん?」

レミ「何よ」

少女は『正義の味方』の部分を嫌に強調してきた。

いちいち人を馬鹿にするような喋り方が鼻につく。

少女「もし、わたしが本当にいじめられっ子だったらどうしてた?」

レミ「いじめられてるのと万引きするのは関係ないでしょ。自分が辛い立場にあるからってルールを破っちゃうのなら、いじめっ子と変わらないよ」

少女「へー、へー、ふーん。……ムカつく答え、ありがとうございました」

レミ「どういたしまして。それじゃ」

この手のは相手にしたら負けだ。

あたしはさっさと話を切り上げようとした。

切り上げ『ようとした』と言ったのは、残念なことにそこで話が終わらなかったからだ。

少女「……ねえ、どうしてあんなところに魔女が居たんだろうね?」


レミ「は?」

少女「それもこんな時間から」

言われてみればそうだ。

魔女の多くは夜に活動する。

勿論、例外になるような魔女も少なくは無いけれど……。

それに、この公園はもともと人が寄りつくような場所では無い。

たまたまソラが居たのは仕方ないにしても、魔女が発生するほど負の感情が溜まる場所じゃ……。

レミ「っ!!」

繋がった。

レミ「あんた、まさか……!!!」

少女「……」ニヤ

少女は再び、その口元を醜く歪めた。


少女「椎名レミさん。わたし、昨日からあんたのことをずーっと調べてたんだ。だからあんたの家がどこにあるのかも知ってる。椎名ソラさんが今からどこに帰るのかもね」

レミ「!!」

少女「よく小説とかで居るよね、決して自分の手は汚さない!みたいなタイプ。でもわたしは別に潔癖症なわけじゃないからさ。直接『やる』のもいいかなって」

レミ「どうして、そこまで……!!」

少女「それがわたしの『正義』だから」

レミ「そんなの、『正義』なんかじゃないっ!!」

少女「さっすが、分かってないなー。誰が正しくて、誰が間違ってるかなんて、そんなの誰にも決められないんだよ」

レミ「だからって……!!」

少女「わたしは徹底的に弱い者の味方なの。弱きを助け、強きを挫くってね。あんたはどう?椎名レミさん」

レミ「あんたの言うこと、全然理解できない。訳分かんないっ……!!」

少女「へー、へー、ふーん。まあ、理解できなくていいよ。お喋りもこれで終わり。……さあ、椎名レミさん」

少女「わたしを殺さないと、大変なことになっちゃうよ?」


少女「結界」

レミ「っ!?」

魔法少女に変身した少女が宙に手をかざすと、周囲の景色が変化した。

少女「これで落ち着いて戦えるね」

レミ(きゅっぷいと、隔離された……!)

少女「ほら、よそ見しないでよっ!!」

少女が猛スピードでレミに接近し、武器である鎌を振るう。

レミ「っ……!」

こちらも急いで変身し、斧でそれを受け止めた。

少女「椎名レミさん、あんたさっき言ってたよね?」

少女は小柄な体躯をめいっぱい使って巨大な鎌を振り回す。

レミ(速い……!)

少女「『いじめられてるのと万引きするのは関係ない』って。それなら、正当防衛だからってわたしに傷をつけるのも『正義』に反するはずだよねー??」

レミ「違う!」

少女の一瞬の隙を見計らい、斧を振り下ろした。

少女はそれをバックステップでかわす。

レミ「あんたみたいなのを、野放しにしちゃいけない……!!」

少女「あははっ、それそれそれ!それが聞きたかったの!!」

少女はバックステップの反動を利用して、武器を構えながら再び突っ込んできた。

レミ「っ!」

あたしは、さっきと同じようにそれを斧で受け止める。

少女「それじゃ」

つい先程まで愉快そうに笑っていた少女の顔が急に醒めたようになった。

少女「もう遊びは終わり」


少女「チェックメイト」

レミ「!?」

少女の言葉に呼応するように、鎌に異変が生じた。

レミ「うっ……!あ、がっ……!!」

鎌の先端から何匹もの蛇の頭が飛び出し、それがレミの腕に、足に、首に、巻きついてゆく。

少女「結局『正義の味方』って、所詮そんなもんなんだよね。その場の状況に合わせて、自分の『正義』を都合よく書き換えちゃう」

レミ「ち、が……!!」

少女「違わないでしょ?」

レミ「あ、うっ……!?」

抵抗も反論も出来ない。

身体の自由が蛇に奪われていく。

少女「あんたみたいなのが居るから、弱い人が不幸になるんだ。わたしが『正義の味方』じゃないのと同じように、あんたも『正義の味方』なんかじゃない」

少女「だってそんなものは、この世に必要ないんだからさ」

レミ「ち、が……!!」

少女「さようなら、椎名レミさん」

そう言い終えると、少女は指を鳴らした。

首に巻きついていた蛇がその力を一層強める。

レミ「……あああああああああああああああああっ!!!」


死にたくない。

死にたくない。

……死にたくないっ!!!


レミ「あああああああっ!!!」

今度はあたしの叫びに呼応するように、ソウルジェムが光った。

少女「……っ!?」

少女の真上に巨大な斧が召喚され、振り下ろされる。

あたしの目にはそれがまるでスローモーションの映像のように見えた。

少女「……」

斧が少女をソウルジェムごと叩き潰す直前、彼女がまた嫌らしく笑ったように見えた。


レミ「はあ、はあ……」

助かった。

少女の死体を目の前にして、最初に自分の中に湧き上がった実感はそれだった。

レミ「あ……」

次は自己嫌悪。

自分の目の前に転がった少女の死体が、自分のことを卑怯者だと嘲笑っているような気がした。



『自分が辛い立場にあるからってルールを破っちゃうのなら、いじめっ子と変わらないよ』



レミ「……!!」

吐き気がする。

涙で視界が滲む。

頭の中に浮かんだのが自分が使った言葉だとは思えなかった。

レミ「うぁ……!あ……!」

人を殺した後、一番最初に考えたことが『助かった』??

笑わせる。

自分の命にみっともなく執着して。

最後の最後は躊躇いも無く人を殺して……。

あたしは『正義の味方』なんかじゃなかった。

あたしは……。


パキ、パキッ。

パリンッ!

絶望が孵る音が響いた。


―――

美佐子「……レミが、行方不明?」

教師「ああ。石島は、何か心当たり無いか?」

美佐子「もしかして、私と話したのが最後かもしれないです。昨日一緒に帰ってる途中に、急にレミが何処かに行っちゃったんです」

教師「放課後になってすぐのことだよな?」

美佐子「はい」

教師「なら違うかな。その後椎名は妹と一緒に公園に居たらしい。そこを椎名のお母様が発見されて……。まあ、そういうことだ」

美佐子「……」

教師「ありがとうな。後は俺たちの方で探してみる。……心配するな。どうせすぐに見つかるだろうさ」

美佐子「はい……」


――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
――――――――――――――

『お次はこの方です。……最近話題沸騰中のイケメン料理人!キッチンの守護神こと、スライス秋山さんでーす!!』

私の思考は、店の隅に置いてあるラジオの音声によって中断された。

美佐子(……いけない。もうこんな時間)

腕時計の長針がさっき見たときとは反対側に来ていた。

『……自分が料理人を目指すことになったきっかけですか?えー、そうですね』

美佐子(結局、あの後レミはいくら探しても見つからなかった。……当然だ。彼女は『魔法少女』だったのだから)

美佐子(『魔法少女』と『魔女』のことは、レミの妹に教えてもらった。でも、それを信じたのは私だけ。3歳の女の子の、それこそおとぎ話のような証言に耳を貸す人なんて他には誰もいなかった)

『実は、私の実家は喫茶店でね。自分もその手伝いをしていたんですよ』

美佐子(警察官になろうと決意したのはその時だった。レミが行方不明になった裏に、何か大きなものがあるのは間違いない。私はそれを突き止めなきゃいけない)

美佐子(頭の固い上司は私の言うことなんて聞いてくれない……。だったら、私自身が力をつけるしかない。たとえ、どんな手を使ってでも)

美佐子(それが私の『正義』。だから待っててね、レミ……)

『まあ、ちゃんと手伝いと呼べるレベルになったのは高校生になってからでしたがね。その時に出会ったひとりの女の子が……』

私は手早く荷物をまとめ、ラジオの音を後にして喫茶店を出た。


以上で本日の投下分終了です。


ここで言っておかないともう明かす機会が無いので……

レミの妹、ソラの名前は音階から命名しました。

ド『レミ』ファ『ソラ』シド


少女についてはもっと掘り下げたかったんですが、そうすればするほどレミが主役から遠ざかってしまうので封印しました。

彼女のキャラは誰かさんと被りまくってますね。

そんなつもりじゃなかったんですが……。


それは、俺がまだ高校生だった頃の話だ。

雨の夜だった。

トン、トンと入口のドアから音がする。

こんな時間に誰だろうと怪訝に思いながらも覗いてみると、ひとりの女の子がびしょ濡れになって立っていた。

天気予報を裏切る形でのにわか雨。

傘を持っていなかったのも確かに仕方のないことだったろう。

秋山「雨宿り?」

少女「こんな時間に、図々しいんですけど……」

そう言うと、彼女は小さい体をさらに縮ませた。

本当に申し訳なく思っているのが伝わってくる。

秋山父「おー、構わねえよ」

急に口を挟んできたのは親父だった。

秋山父「ついでにタオルも持ってきてやれ。風邪引いちまう」


Chapter.3

イチゴリゾット


※2巻第5話「マギカアラビアータ」で、料理コンテストの決勝戦、ユウリの対戦相手として登場(ほか、2・3・5巻カバー裏でも登場)したスライス秋山が主人公の話です。


秋山「はい」

少女「ありがとうございます」

少女は素直にタオルを受け取ると、丁寧に濡れた身体を拭いた。

中学生くらいだろうか。

少なくとも自分よりは年下に見えた。

秋山「はい、これも」

そう言ってホットコーヒーを差し出す。

何も言わずとも親父が淹れてくれていたものだ。

少女「あ、お金……」

秋山父「いらねーよ。それより早く飲みな。せっかくのコーヒーが冷めちまう」


少女「……おいしい!これ、バターですか?」

秋山父「おお、分かるのか!嬢ちゃん、なかなか見どころあるなあ」

少女「バターコーヒー、あたしの好きな漫画に出てくるんです。疲れたときに飲むと力が出るって」

秋山父「へえ……」

少女「それで一回試してみたことがあって。……こんなに美味しくは出来ませんでしたけど」

素直そうな子だった。

それがどうしてこんな時間に……。

秋山「……」

入り口のドアの隣に置いてある時計に目を遣った。

午前1時12分を指している。


コーヒーを飲み終えた少女は、幸せそうな表情で軽く息をついた。

少女「コーヒー、美味しかったです。本当に、ありがとうございました」

秋山「ああ、気をつけて」

そう言い終えると同時に、ぐう~~~、という音が店内に響いた。

少女「あ……///」

秋山父「はっはっはっ!」

少女は顔を赤らめて恥ずかしそうに俯き、親父はそれを見て豪快に笑った。

俺はというと……。

秋山「親父。『あれ』、出してもいいかな?」

秋山父「……そうだな。丁度いいんじゃないか」


彼女がこんな時間に出歩いていた理由については一旦置いておくとして、どうして俺と親父が起きていたのか、説明をしておこう。

実家は喫茶店を営んでいる家だった。

俺もかなり小さい頃から厨房に立つ親父の姿に憧れて、時間さえあれば手伝いをしていたものだ。

中学生の時までは、厨房に立つことは一切許されず、所謂ホール業務の手伝いをしていたのだが、高校に入ってやっと親父の許可が出た。

今日も、店を閉めた後こんな時間に及ぶまで、特訓に付き合ってもらっていたのだ。

ホールの明かりは全て消してあるとはいえ、こんな時間に電気がついているのはウチだけだろう。

あの子が営業時間外のウチの店に辿り着けたのはそういう理由だ。


親父はまだまだ完成には程遠い俺の料理を、お客様に出すようなことはしなかった。

俺はそれを厳しいと思っていたわけでは無いし、どちらかというとそれで当然だと思っていたのだが……。

それでも、俺の料理を家族や友人以外の誰かに食べてもらえることが嬉しくないかというと話は別だ。

実際、ビーフシチューをよそう俺の手は無様なまでに震えていた。


秋山「どうぞ」

少女「わあ……!」

少女は魅入られるようにしてビーフシチューを覗き込んでいる。

俺はなんとも名状しがたい幸福感に襲われた。

少女「これ、お兄さんがつくったんですよね?」

秋山「ああ。……さあ、冷めないうちに召し上がれ!」

少女は何故かぼーっと俺の方を見ていたが、すぐに意識を料理の方に戻した。

少女「いただきます!」

銀色のスプーンが真っ白なご飯の海に刺さる。

それが持ち上がり、ゆっくりと彼女の口に運ばれるのを、俺は文字通り食い入るようにして見つめていた。

少女「はむっ」

咀嚼する彼女の表情を、一ミリ秒たりとも見逃さないようにぐっと見つめる。

後ろで腕を組みながら、そんな俺の様子を観察する親父のことなんて、全く目に入っちゃいなかった。


少女「……おいしいです!」

そう言って、にっこりと俺に微笑んだ。

ぱあっ、と音がして彼女の周囲の空気が華やいだ気がした。


少女「……また来ます。本当に、ありがとうございました」

秋山父「おう、またこいつの料理食ってやってくれ」

少女「あはは……。今度はちゃんとお金持ってきますね!それじゃ」

秋山「ああ、それじゃ」

バタン、とドアが閉まる。

少し遅れて、カランカランと間の抜けたような鈴の音が店内に響いた。

秋山「……はあああああああああああ」

俺は大きくため息をついた。


秋山父「何だよ、どうした」

ニヤリと笑いながら俺に問いかけてくる親父。

一応質問しながらも、答えはどうせ分かっているのだろう。

秋山「いや……。俺もまだまだだなあって」

『おいしい』と言ってくれた時のあの子の顔。

親父のバターコーヒーの時に見せた笑顔に、完全に負けていた。

秋山父「はっはっはっ!そりゃそうだろ。そんなにすぐに上達したら誰だって苦労しねえよ」

秋山「そりゃそうだろうけどさ……」

秋山父「でもな。あの子の笑顔は作り笑いなんかじゃない、本物の笑顔だったし、『おいしい』って言ってくれたのも心からの言葉だろ?」

秋山「親父…」

秋山父「あの笑顔を忘れるんじゃないぞ。あと感謝の気持ちもな」

秋山「分かってるよ」

忘れない。

絶対に忘れるもんか。

次はもっと笑わせてやるんだ。


秋山「そういえば……結局、あの子のこと何にも聞かなかったな」

秋山父「客の事情に無暗に突っ込むもんじゃねーよ」

秋山「ふーん。でも気になるな、あれだけ素直な子が家出するっていうのも違和感あるし」

秋山父「いやあ、あの年代の子供っつーのはな、大人には分からない色んな問題を抱えてるもんさ。俺も中学3年生の頃に一度家出したなあ……」

そう言ってどこか遠くを見つめる親父。

やけに親切で機嫌が良いと思ったら……昔の自分と重ねてたのか。


それから、およそ半月後。

少女「どうも、お久しぶりです!」

あの子がやって来た。


午後5時13分。

夕食には早いが、まあ常識的な時間帯だ。

秋山「久しぶり、また来てくれてありがとう。何にする?」

俺は彼女にメニューを渡して、注文を取ろうとした。

……のだが。

少女「お兄さんの料理が食べたいです!」

予想外の返事に困ってしまった。

俺が助けを求めるように厨房の方を見遣ると、親父から予想外の言葉が飛んできた。

秋山父「いいんじゃねーの。つくってやれよ」


少女「あ、お兄さんが料理作るところ見ていいですか?」

秋山父「おお、いいぜ。今は空いてるしカウンター席に移りなよ」

今更言うまでもないが、親父はすっかりこの子を気に入っている。

秋山「それじゃ、何を作ろうか……」

少女「チーズリゾットをお願いします」

秋山父「ほう……。リゾットか」

秋山「分かった。待っててくれ」


秋山「よっしゃ、行くぞ!!」

料理をつくるとき、自分の中でルールにしていることがひとつある。

それは、『元気に楽しく料理すること』だ。

秋山「まずはタマネギ!」

オリーブオイルでタマネギを炒める。

自分で食べるときはここに唐辛子を少し入れたりもするのだが、相手はチーズリゾットを望むような中学生の女の子。

シンプルに行くのが良いだろう。

少女「いいにおい……」

秋山「ふふっ」

次はお米を投入。

少女「透明になってきた」

米の白色が抜けるまで炒めるのがポイントだ。

オイルが馴染んできたのを見計らって、白ワインを投入。

アルコールを蒸発させ、じっくり煮込む。

秋山「~♪」

もういいかな。

後はチーズと茸を入れて、終わりっ!!

秋山「完成っ!」

少女「おお~!!」

女の子も嬉しそうに手を叩いてくれた。


秋山「さあ、召し上がれ!」

女の子はどうしてだかまた俺の方をぼーっと見ていたが、すぐに意識を料理の方に戻した。

少女「じゃあ、いただきます」

2回目だが、このドキドキには慣れそうも無い。

俺は相変わらず全神経を彼女の方に向けて集中していた。

少女「……」

秋山「……」

少女「……おいしいです!」

彼女はこの前よりももっと幸せそうに、にっこりと微笑んだ。

秋山(……やった)

俺は彼女に見えないようにガッツポーズをつくった。


チーズリゾットを食べながら、ふと少女が言葉を発した。

少女「お兄さん、面白い人ですよね」

秋山「面白い?」

少女「勿論料理もおいしいんですけど……。なんか、お兄さんが料理をつくってるのを見てるだけであたしも楽しくなってきます」

予想外のコメントに戸惑って、何も言えなくなってしまった。

少女「あ、ごめんなさい……。その、変な意味じゃないんです」

秋山「ああ、分かってるよ」

楽しい、か。

少女「お兄さん、料理するの大好きでしょ?」

秋山「勿論!」

少女「見てるとそれが凄く伝わってきて。あたしも嬉しくなるんです」

そっか、俺の『自分ルール』がこの子にも伝わっていたんだ。

少女「料理そのものも勿論ですけど、そういうところで他の人を喜ばせるのも素敵なことですよね」

秋山「!」

女の子にとっては何気ない言葉だったんだろう。

この言葉が、後に『スライス秋山』の在り様へと繋がることになるだなんて、当時の俺は想像すらしなかった。


少女「……またご馳走になっちゃって。本当にありがとうございました」

秋山父「こちらこそ、息子の練習に付き合ってくれてお礼を言いたいくらいさ」

少女「そんな……」

秋山父「今度は家族も誘っておいで」

少女「はいっ!!」

女の子はにこやかにそう言って、店を出て行った。


彼女に向けて最後まで笑顔で手を振り続けていた親父だったが、ドアが閉まるとくるりと俺に向き直った。

もう、目は笑っていなかった。

秋山父「よし。……そんじゃ、反省会はまた今夜だ。とりあえずフライパンと食器洗っとけ」

秋山「分かった」

秋山父「……にしても、家族の話題を出しても全然反応しなかったな。この前の、家出じゃなかったのか……?」

親父が小さくつぶやくのが聞えた。


そして、その夜。

秋山父「良かったな、喜んで貰えて」

秋山「ああ、まあ……」

少女の前では口にしなかった疑問を、今この場でぶつけることにした。

秋山「あの子が食べてるときの、咀嚼音に違和感があったんだけど」

秋山父「一応気づいてはいたのか。……その正体はな、これだよ」

親父はそう言って米袋を指差した。

秋山「米……?」

秋山父「本当に僅かだが、米に芯が残っていたんだな。あの子も少し噛みにくいと思ったはずだ」

秋山「……」

なるほど、道理で……。

秋山父「まあ、焦ることは無いさ。あの子もまた来てくれるだろうし、ゆっくり上達を目指すんだな」

秋山「親父」

あの子が前回のビーフシチューよりもリゾットの方が喜んでくれたのは、単純に彼女がチーズリゾットを好きだったからだ。

だったら、俺は……。

秋山「あの料理を、中学生の女の子向けにアレンジするには、どうしたらいいかな?」

親父は満足そうに笑った。

秋山父「いい人を紹介してやる」


―――

秋山「……それで、紹介してもらったのが近隣にお住まいだったご婦人」

「へえー!プロの方じゃないんですね」

秋山「ええ。……でもね、料理は肩書きじゃない」

「そんなに凄い方なんですか?」

秋山「そりゃもう。その時に教えてもらったんです、イチゴリゾットのレシピ」

「イチゴリゾット!ファンの皆さんはご存知ですよね。秋山さんの得意料理だそうです」

秋山「初めて食べたときは本当に驚きました。正直、今でも彼女の味を越えられている自信は……」

「そんなに」

秋山「そうです。でも、そんな素敵な料理だったから、当時の私も燃えましたね」

「おおっ!それは女の子の為に?」

秋山「勿論。今度こそは100点満点の料理を出してやる、って」

「お話を聞いた限りだと、秋山さんの料理パフォーマンスは彼女の言葉に影響されているんですか?」

秋山「それどころじゃない。私が料理人になりたいと思ったきっかけが、彼女です」

「では、その夜の出来事が無かったら……」

秋山「『スライス秋山』は存在しなかったかもしれませんね」

「ええーーーーっ!?ファンの皆さんにとっては衝撃的な事実ですよ!」

秋山「はっはっは!」

「それで、結局イチゴリゾットは食べて貰えたんですか?」

秋山「いや」

「えっ?」

秋山「女の子はそれっきり来なかった」

「ええーーーーっ!?」

秋山「今でもイチゴリゾットをつくって待っています。もしもこの放送を聞いているのなら、どうか私のところに来てほしい」

「秋山さんの意外な、ちょっと切ない過去が明かされたところですが……。残念ながらお時間となってしまいましたー!」

秋山「はははははっ!仕方ないさ」

「それでは、この言葉で締めくくりましょう。……『ありがとう、ぼくらのスライス秋山!!』」

秋山「はっはっは!」

「スライス秋山さんでした!」


『……それでは、次のコーナーです!本日は』

海香「切っちゃうの?」

『レイトウコ』に、海香の声が響いた。

かずみ「うん、もういいや」

カオル「そっか」

かずみ「スライス秋山さんって、あいりがファンだった人なんだよね」

海香「ええ。ミチルの日記にはそう書いてあったわね」

かずみ「わたしたちは、あいり達の分まで生きなきゃいけない」

カオル「そうだな」

海香「でも、この子たちはまだ死んでない」

かずみ「うん」

かずみはそう言って、ガラスのひとつに手を伸ばした。

中に入っている少女が動く気配は無い。

かずみ「生きるって……難しいね」


ということで、スライス秋山さんのお話でした。

キャラ崩壊が激しいですが、バラエティ以外での秋山さんは大人しめだと言うことにしておいてください。

『少女』の正体については幾つかヒントを散らしたつもりですが、もしかしたら分かりにくいかもしれないですね……。

もちろんChapter.2に登場する『少女』とは別人です。

念のため。



最終日は再び魔法少女モノをお送りいたします。



最後はカオルにトッコられたあの娘かな?


>>91

どうして分かったんだ……



これから最後の投下を行いますが、このSSに出てくる『トレセン』は、物語の都合上現実のそれとは異なる場合があります。

ご了承ください。


すみれ「はっ、はっ、はっ……!」

ドリブル。

自分の前には相手チームのディフェンスがひとり。

右に避けるふりをして、左に……。

いや、ここは一旦ボールを戻したほうが……。

「いただきっ!!」ドシュ

すみれ「……あっ!?」

ボールが相手チームの手に渡ってしまった。

もう駄目だ。

流石に間に合わないだろう。

これが、最後のチャンスだったのに―――。



試合終了を告げるホイッスルが鳴った。


Chapter.4

魔法少女すみれ☆マギカ


※2巻第7話「ピック ジェムズ」の冒頭でソウルジェムを奪われていた少女、茜すみれのお話です。


すみれ「ごめん……」

「仕方ないって、すみれは良くやったよ!」

「そうそう。別にこれで終わりってわけじゃないんだし」

試合後のロッカールーム。

私は項垂れながら自らの失敗を猛省していた。

「すみれはウチのチームのエースなんだしさ!」

「すみれが暗い顔してたらあたし達も困っちゃうよー!」

すみれ「……うん、そうだね!来週は頑張ろう!!」

「「「おー!!!」」」



私の名前は茜すみれ。

皆にとっての私は、サッカーが大好きな普通の女の子。

でも、私には皆が知らない秘密がある。

それは……。


すみれ「はああっ!」

魔法少女。

それが私の裏の顔だった。

使い魔「ウヒヒ!ウヒヒヒヒヒヒヒ!」

すみれ「っ!?待て!!」

使い魔「ウヒヒヒヒヒ……」

すみれ「……逃げられた」

自分の身を挺して、街の人達の命を守る。

誰にも知られることは無いけれど、やりがいはあった。

それに、この非日常を楽しむ気持ちが無かったわけじゃない。

でも、今夜は……。


すみれ「なんか、調子悪いなあ」

声に出して呟いてみたけれど、その原因は分かり切っている。


『いただきっ!!』ドシュ

すみれ『……あっ!?』


すみれ「……」

ううん、考えても仕方ない。

明日は確実に仕留める。

ただそれだけのことだ。


―――月曜日、夕方。

「次、シュート練!!」

「「「はいっ!!」」」



すみれ「……行きます!」ドシュッ

綺麗な放物線を描いたボールは、ゴールポストに激突して何処かへ飛んで行ってしまった。

すみれ「……!」ドシュッ

ミスは続く。

すみれ「……!」ドシュッ

次も。

すみれ「っ!!」ドシュッ

次も。

すみれ「っっ!!!」ドシュッ

その次も。



すみれ「どうしちゃったのよ?もう……」

茜すみれは、絶不調だった。


「ちょっとすみれー、調子悪いじゃん」

声をかけてくれたのは、私のシュートを受けてくれていたゴールキーパーの女の子。

すみれ「うーん……。ちょっとスランプかも」

「昨日の?」

すみれ「たぶん……。なるべく気にしないようにしてるんだけど」

「うーん、そっかぁ……」

すみれ「どうしよ……」


―――月曜日、夜。

すみれ「終わりよっ!!」ズシャ

使い魔「ウヒイイイイイ!?」

昨日の使い魔だ。

サッカーの方は散々だったが、こちらでは挽回出来たようだ。

とりあえず、ひとつ胸のつかえがとれた。


すみれ「……うーん」

ここ数日、どうも気になる魔力反応がある。

比較的巨大な反応だ。

どうやら強力な魔女がこの地域に少しずつ近づいているらしい。

すみれ「偵察、一応しておこうか……」


すみれ「な……!」

魔女の居所を突き止めた私は唖然とした。

すみれ「大きい……。こんな魔女、初めて見た……!!」

まるで城だ。

外から見た結界のサイズよりも、結界の中に居る魔女の方がはるかに大きい。

今更、魔女の結界で空間の歪みなんて気にするつもりは無いが、いくらなんでもこれは……。

すみれ「攻撃してくる気配は……無いみたい」

試しに薙刀を召喚し、思いきり壁に向かって叩きつけた。

すみれ「……ま、そうだろうと思ったけど」

傷ひとつついた様子は無い。

なるほど、厄介な相手だ。


どんな魔女なのか偵察するという当初の目的は果たしたので、私は早々に撤退した。

自分自身はあまり拘っていないが、縄張り意識の強い魔法少女を相手取るのは面倒だと聞いている。

時には、たった1個のグリーフシードを巡って争いになってしまうこともある。

すみれ(……ま、そんなに夢見てるわけじゃないけど)

何というか。

すみれ(夢の無い世界よね……)


とにかく、あの魔女の対策だ。

何か考えておかなくては……。

すみれ「……」

魔法少女である私のことを攻撃してこなかったとはいえ、一般人に危害が及ばないとも限らない。

あの進行速度なら、今週末には私の地域にやって来てしまうだろう。


――――火曜日、夕方。

すみれ「もおー!!どうして上手く行かないかなー!?」

「荒れてるね、すみれ」

翌日の練習でも、私の不調は回復しないままだった。

「でも、すみれが荒れるのは珍しいね」

「うん、確かに。あんたなんかいっつもだもんね」

「なんだとおー!?」

「否定できないっしょ?」

「そ、そんなことなぁーーい!!」

すみれ「……」

私の住んでいる地域の県リーグ戦は、4週間かけて毎週日曜日に行われる。

そして次の大会への切符を手にするのは、そのうち上位2チームのみ。

日曜日の記憶がフラッシュバックされる。

あれで1敗。

次の試合では、負けは勿論引き分けも許されないだろう。

だから、今週の日曜日までに何とか調子を取り戻さなくちゃいけないんだけど……。

すみれ「……」

今日が火曜日だから、次の日曜日まであと5日。

なんとかしなくちゃ……。


―――火曜日、夜。

ジュゥべえ「なるほどな、頼りになりそうな魔法少女か」

私は例の魔女に独力で勝利することは不可能と判断し、他の魔法少女に協力を仰ぐことにした。

それでジュゥべえに相談しているのだ。

すみれ「うん。……ジュゥべえ、誰か心当たりは無い?」

ジュゥべえ「この辺りの奴らはヘンなのばっかりだからなあ……。あ、勿論すみれは違うぜ!?」

ジュゥべえが慌てて否定した。

すみれ「別にそれはいいんだけど。……そっかあ、じゃあ私ひとりで倒すしかないのかなあ」

ジュゥべえ「性格はともかく、実力は折り紙つきの魔法少女ってんならひとり心当たりがある。ただ、あれは……」

すみれ「??」

ジュゥべえ「……いや、すみれなら大丈夫か。とりあえず、そいつはオイラの方で探しておく」

すみれ「分かった、ありがと」

ジュゥべえ「すみれもあんまり無茶はするなよ。日曜は試合だろ?」

すみれ「覚えててくれたんだ」

ジュゥべえ「あたりめーだろ!そっちも頑張れよ」

すみれ「……うん、ありがと」

ジュゥべえ「??……そんじゃな、チャオ」


―――水曜日、夜。

すみれ「全く、休む暇もありゃしない!!」

水曜日の今日は週に1度のオフの日だった。

サッカーのことも魔女のことも同時に考えなければならない日々が続いたので、ここらできちんと休んでおこうと考えていたのだが……。

すみれ「邪魔っ!」ジャキ

使い魔「ウヒヒッ!?」

魔女が現れたとなればそうは行かない。

それも、この前の使い魔の親玉だ。

すみれ「はあっ!!」ズバ

使い魔「ウッヒイイイイイイイ!!」

こちらを攻撃する意志の無さそうな使い魔は無視。

私の魔力だって限りがある。

もとより必要最低限の数しか相手にしないつもりだった。

それにしても……。

使い魔「ウヒウヒウヒウヒウヒウヒウヒッ!!」

すみれ「あー、もう!うるさいっ!!」


この前と違い、逃げようとする使い魔を追う必要は無いので、結構あっさり最深部に辿り着くことが出来た。

すみれ「面倒な魔女じゃありませんように……」

そう祈りつつ、魔女の居場所へと繋がる扉を開けた。

魔女「……」

すみれ「……!!」

思わず一瞬見惚れてしまうほどに、美しい場所だった。

神殿や教会のような広大な空間。

ところどころに配置された、神々しさすら感じさせるオブジェ。

それらが全て凍っている。

魔法少女の私には寒さなんて大した問題にはならないが、一般人がこんな場所に立ち入ったら、まもなくオブジェの仲間入りを果たしてしまうだろう。

相変わらず馬鹿みたいな声をあげて結界の中を縦横無尽にはしゃいで回る使い魔が、ひどく場違いのように思えた。


すみれ「……」

私は薙刀を構え直し、改めて結界を見渡した。

魔女の本体は中央に位置するあの女神像だろう。

使い魔がこちらを攻撃してくる気配は無い。

騒がしくはあるものの、あくまで私と魔女の戦いを見届けるつもりらしい。

すみれ「さあ、行くよ」

両脚に魔力を込め、加速。

すみれ「薙ぎ払いっ!!」

私は薙刀を両手で強く握り、真横に振った。

そして、薙刀が女神像の喉元を捉える直前。

魔女の眼が蒼く光った。

すみれ「っ!」

魔女「……!」

武器の先端が一瞬で凍りつく。

すみれ「そんな……っ!?」

砕けたのは女神像ではなく、私の武器の方だった。


すみれ「この……っ!」

私はすぐに武器を捨て、新たな薙刀を召喚した。

魔女「……」

女神像の眼がまた光る。

強力な魔力の気配を察知した私は、慌ててその場を離れた。

魔女「……!!」

さっきまで自分が立っていた場所に巨大な氷柱が出現する。

すみれ「っ!!」ブン

その隙を狙って一気に接近して薙刀を振った、が。

魔女「……!」

すみれ「また……!」

あっさりと凍らされてしまった。


魔女「……」

ワンパターン戦法では埒が明かないことを悟った私は、相手の魔女から少し距離を取った。

すみれ「1本でダメなら、2本。2本でダメなら……!」

魔女の周囲を取り囲むように、何本もの薙刀が召喚される。

魔女「……!」

魔女の眼が光った。

すみれ「ラーマ・ロタツィオーネ!!」


回転しながら魔女に迫った計10本の薙刀は、全て魔女の力によって凍ってしまった。

魔女「……」

しかし、私の狙いはそこには無かった。

すみれ「行っけえええええっ!!」

11本目の巨大な薙刀が、魔女の上から襲い掛かる。

魔女「っ!?」ドグシャ

女神像が真っ二つに割れた。



すみれ「……危なかった」

そして、私が安堵の息を吐こうとした瞬間。

すみれ「……ぅあっ!??」

私の左足を小さめの氷柱が貫通した。


直後。

魔女の結界が消えると同時に氷柱も消滅したが、私の脚の痛みは消えないままだった。

すみれ「ぐっ……!!」

精一杯の回復魔法を左脚に集中する。

だけど、これじゃ応急処置にもならない。

私は回復魔法が苦手なのだ。



ジュゥべえ「……オイ、すみれ!?」

そんな時にジュゥべえが現れた。

ジュゥべえ「すみれ、大丈夫か!」

すみれ「ちょっと魔女にやられちゃって……。多分、大丈夫」

回復魔法を維持しつつ、私はジュゥべえに返答した。

ジュゥべえ「大丈夫、って……。ひでえ傷だぞ」

すみれ「見た目ほどじゃないから、平気」

事実、私はそれなりに色々なことを考えられていた。

試合に出られなくなってしまうかもしれないこと。

少なくとも、明日の練習は休んだ方が良さそうだということ。

そして、ジュゥべえがやってきた理由。

すみれ「……見つかったんでしょ?例の魔法少女」


ジュゥべえ「ああ……。でも、その話は別に後でも大丈夫だぜ?」

すみれ「いいよ。今聞いても後で聞いても変わらないし」

ジュゥべえ「……わかった。けど、やっぱりこの話はナシだ。少なくとも怪我が治るまではな」

すみれ「えっ、どうして……」

ジュゥべえ「あいつをすみれと引き合わせても、最初は必ず戦闘になる。全快の状態ならともかく、今はマズい。一方的にやられるだけになっちまう」

すみれ「ちょっと……。そんな人を紹介しようとしてたの!?」

ジュゥべえ「危険なヤツだが、腕は確かだ」

だったら、迷うことは無い。

すみれ「……私、会いに行くよ。その人に」

ジュゥべえ「おい待て!人の話聞いてねーのか!?あいつはお前より強いんだぞ!」

それは初耳。

すみれ「だったら後回しにしたって同じことでしょ。それに、あの魔女を何とかしないとダメなの」

ジュゥべえ「なんでだよ……。別にすみれが解決する必要はないんだぜ?」

すみれ「私が解決しなかったせいで、友達や家族が危険な目に遭うのが嫌なの」

ジュゥべえ「すみれ自身の命を懸けなけなきゃ気が済まないほど嫌なのか?」

すみれ「そうだって言ってるでしょ」

ジュゥべえ「はあ……。仕方ねえなあ……」


―――木曜日、夜。

すみれ「……」

左脚を動かしてみる。

全快とは言わないまでも、昨晩ほど酷い状況ではない。

確かに痛みはあるが、無視できないほどじゃない。

すみれ「……」

今日一日、学校を休んで治療に専念した甲斐があると言うものだ。

私は静かに家を出た。


すみれ「この辺りよね……?」

ジュゥべえに言われるがまま、私は『彼女』が居る場所までやってきた。

ジュゥべえ曰く、『アクティブ』な魔法少女らしいので、縄張りに侵入してしまえば恐らく向こうからコンタクトを取ってくるだろうとのことだった。

私はソウルジェムに魔力を込め、存在感をアピールする。



???「こんばんは。こんな夜遅くに、お散歩?」

すみれ「!」

と、目の前に少女が現れた。

サイドテールに、やや濃いめの眉毛。

間違いない、彼女だ。


すみれ「私は茜すみれ。あすなろ市の魔法少女よ。……双樹あやせさん、よね?」

あやせ「へえ、私のこと知ってるんだあ」

すみれ「あなたのことを探してたの」

あやせ「ご用件は?」

すみれ「強力な魔女があすなろ市に近づいてる。私の縄張りに入って来る前に食い止めたいの。お願い、協力して!」

あやせ「……私のこと、誰に聞いたのか知らないけどさあ。私がそんな提案に従うって、もしかして本気で思ってる?」

すみれ「……」

あやせ「見て」

そう言うと、双樹さんはどこからか小箱を取出し、中身を開けて見せてくれた。

すみれ「!!」

あやせ「私、ソウルジェムを集めてるの。その顔だと、知らなかったのかな?」

ジュゥべえは、『戦闘になる』とは教えてくれたけど、その理由までは教えてくれなかった。

あやせ「あなたの、まあまあ綺麗だし、どうしてもコレクションに加えて欲しいっていうなら考えてあげる」

すみれ「冗談キツいなあ……」

あやせ「冗談じゃないよ??」

そう言ってにっこり微笑んだ双樹さんは、魔法少女に変身した。


すみれ(やっぱり、戦闘は避けられないか……!!)

双樹さんに倣い、私も変身する。

すみれ「ねえ、双樹さん」

あやせ「んー?」

サーベルを右手に携えた双樹さんが訊き返す。

すみれ「あなたに勝ったらソウルジェムはあげる。でも、私が勝ったら私に協力するって、約束して」

あやせ「うん、いいよ。負けるのはどうせあなただもん」

あくまで自信満々。

この人、どれだけ強い魔法少女なんだろう……。


あやせ「アヴィーソ・デルスティオーネ」

すみれ「!」

双樹さんの言葉と同時に、炎の弾が発射された。

すみれ(昨日は氷で、今日は炎……)

私はそれを避けると、一気に加速して双樹さんに接近した。

すみれ(左足は、まだ痛むかあ……!)ズキ

目線は前に集中したまま、左足に少しだけ魔力を送って、痛覚を調節する。

すみれ「薙ぎ払いっ!!」

あやせ「遅い」

すみれ「……っ!?」

満を持して振るった薙刀だったが、あっさりとサーベルに抑えられてしまった。

あやせ「ばんっ」

双樹さんがそう言ったのを合図に、薙刀が手元から発火した。

すみれ「きゃあっ……!?」


あやせ「まだまだ行くよ??」

双樹さんはまた微笑むと、大量の炎の弾を召喚した。

すみれ「……っ!」

あやせ「セコンダ・スタジオーネ!」

今度は炎の弾が緩やかな円弧を描くように私の方へ飛んできた。

すみれ「くっ!」

病み上がりの左足を庇いながら、右足に魔力を込めて、真上に跳ぶ。

あやせ「残念でしたあ」

すみれ「!?」

炎の弾が急に軌道を変え、私の方へ迫り来る。

すみれ(避けられない……!!)

空中で回避行動を取る術を持たない私は、あえなく炎の弾の攻撃を受けて落下した。


あやせ「ルカを出すまでも無いね」

すみれ「??」

私が双樹さんの発言を不思議がるような表情を見せると、彼女はため息をついた。

あやせ「呆れた。あやせのことも知らないで、私に勝負を挑んできたなんて。……ただでさえ、そんなに強くなさそうなのに」

そう言って、双樹さんは地に伏している私の方に近づいてきた。

あやせ「それに、こんなハンデも隠してただなんて……。私、そうやってナメられるのスキくないんだけどなあ」

双樹さんが指を鳴らすと、小さな爆発音がした。

直後、私の左足に燃えるような痛みが走った。

すみれ「う……あああああっ!??」

あやせ「それじゃ、貰うね」

双樹さんが私のソウルジェムに手を伸ばしてきたとき、私は残り僅かしかない力を振り絞って、彼女の前に薙刀を突き立てた。

すみれ「まだ、終わってない……!!」

あやせ「何を……!?」

すみれ「ラーマ・ロタツィオーネ!!」

私は自分のソウルジェムを真上に放り投げた。


あやせ「……っ!!」

流石の双樹さんも驚いてくれたようだ。

今、倒れている私の頭上に、魔力でソウルジェムを浮かせている。

その周りには、ソウルジェムを取り囲むようにして10本の剣を配置。

すみれ「双樹さん。ソウルジェムが欲しいんでしょ?」

双樹さんの頬を一筋の汗が伝うのが見えた。

すみれ「『負け』を認めてくれないのなら、私は自分でソウルジェムを砕く」

あやせ「……っ!!」

滅茶苦茶なのは分かってるけど、もうこれしか……。


不意に、双樹さんのソウルジェムが光った。

ソウルジェムから放たれる眩い光が、彼女の身体を包み込む。

すみれ(変身を、解いた……?)

あやせ?「いいでしょう。私『達』の負けです」

現れたのは、さっきまでの『双樹さん』とよく似た、でも全く異なる雰囲気を纏った少女だった。

よく見ると、髪型も左右反対になっている。

すみれ「あなたは……??それに、私『達』って……」

ルカ「私は双樹ルカ。あやせに非ず。あやせと私は、同じ体に宿りしふたつの心」

すみれ「二重人格……!?」

ルカ「その通り」

『双樹さん』は、にっこりと笑った。

笑い方まで、似ているようでどこか違っていた。


またソウルジェムが光った。

あやせ「ちょっと、ルカ!勝手なことしないで!」

ルカ『たまには、私だって我儘を言いたくなります』

不意に、ルカさんの声がどこからか聞こえてきた。

いや、違う。

これは……。

すみれ「テレパシー!?」

ルカ『その通り。殆どの多重人格者がその人格同士で対話が出来ないように、私達もまた然り。しかしそんな障害も、魔法少女の力を使えば乗り越えることが出来るのです』

あやせ「ルカ、話の腰を折らないで」

ルカ『いいえ。私達は負けを認めました』

あやせ「認めてない!」

ルカ『魔女退治に協力する、そういう約束でしたね?』

急に話を振られたので、少し驚いた。

すみれ「はい」

つい、相手の丁寧語につられてしまう。

あやせ「いい加減にして!私そういうやり方、スキくない!!」

ルカ『約束は約束です。……茜すみれさん』

すみれ「は、はい……??」

ルカ『今日はあやせが動転しているようです。詳しいお話は明日、また』

あやせ「だから勝手に決めないで!!」

またソウルジェムが光る。

ルカ「とりあえず、お怪我を直しておきましょう」

すみれ(回復魔法!すごい、私のなんかとは比較にならない……!)

ルカ「それでは」

双樹さんは、そうやって強引に話を切り上げると、どこかへ去ってしまった。



すみれ「た、助かった……」

私は体の力が一気に抜けるのを感じ、そのままへなへなとその場に座り込んでしまった。


―――金曜日、夕方。

すみれ「っ!!」ドシャ

双樹さんの魔法のお陰で左足の心配をしなくても良くなった私は、サッカーの練習を再開していた。

「おー、すみれナイスシュート!」

「やっと調子戻って来たみたいだね」

チームメイトが口々に言ってくれる通り。

とりあえずは双樹さんの協力を取り付けることに成功した私は、少しずつ調子を取り戻し始めていた。

でも……。


「次、実戦練習やるぞ!」

「「「はいっ!!!」」」



すみれ(ゴール前、マークはひとりだけ……。行ける!)

「すみれ、パス!」

すみれ「任せて!」


『いただきっ!!』ドシュ

すみれ『……あっ!?』


すみれ「っ!!」ドシュ

フラッシュバックした記憶を無理矢理振り払おうと撃ったシュートは、明後日の方向に飛んで行ってしまった。

すみれ(やっぱり、実戦形式になるとダメだ……。どうしよう、もう明後日なのに)


―――金曜日、夜。

私は双樹さんから呼び出され、とある喫茶店に来ていた。

すみれ「作戦会議、ですか」

ルカ「……ええ、情報交換も兼ねて」

すみれ「今日は、あやせさんは?」

ルカ「臍を曲げてしまって。……心配しなくとも、時間が経てば勝手に出てくるでしょう。それより、私達のことは呼び捨てで構いません」

すみれ「えっと……あやせと、ルカ?」

ルカ「敬語も結構。お互い遠慮していられるような生温い関係ではないのですから」

ルカの瞳が冷たくこちらを刺してくるような気がした。


ルカ「まずは、例の魔女のことについて。私達の方でも調べてみました」

すみれ「うん」

ルカ「城塞のような魔女。私達単独でも撃破は困難でしょう。あの防御を崩すには、相当の火力が必要になります」

すみれ「ルカ達でも、無理だなんて……」

ルカ「あくまで私達単独で挑んだ場合です。すみれさんの魔法は、薙刀だけですか?」

すみれ「……ごめんなさい」

ルカ「いえ、構いません」

すみれ「ルカ達は?」

ルカ「ご存じのとおり、あやせが熱を操る魔法。そして私は冷気を操る魔法を使います」

すみれ「熱と、冷気……」

ルカ「相反する私達の魔法を組み合わせれば、空気の収縮と膨張を同時に発生させ、莫大なエネルギーを生み出すことが出来ます」

すみれ「それって……」

ルカ「ええ。端的に言えば『爆発』」

私は息を呑んだ。


ルカ「ただ、あなたの魔法との組み合わせを考えると……」

すみれ「でも、魔力を貸す手伝いくらいなら出来るはず」

ルカ「……そうですね。とりあえず、今夜はその練習をしましょう」

そう言うと、ルカは伝票を取って立ち上がった。



ルカ「それと、これは後で話しますが」

ルカが思い出したように付け加えた。

すみれ「??」

ルカ「あの魔女について、少し厄介な性質があることが分かりました」


ルカ「まずは私達の魔法をお見せします」

ルカが案内してくれたのは、ある魔女の結界だった。

確かに都合は良いけど……。

ルカ「よく見て、タイミングを掴んでください」

すみれ「うん」

ルカ「ピッチ・ジェネラーティ」

すみれ「!」

ルカが構えたサーベルの先端から、熱と冷気を纏った魔法の弾が、それぞれ混ざり合いながら飛んで行き……。

使い魔に当たって爆発した。

すみれ「すごい威力……!!」

ルカ「重要なのはタイミング。ほんの少しでもタイミングがずれてしまえば、この魔法の威力は一気に落ちてしまいます。私達は一心同体ですからその心配はありませんが……」

すみれ「そっか、私は」

ルカ「そういうことです」


ルカ「それじゃ、行きますよ……?」

ルカはサーベルを、そして私はその傍らで薙刀を構える。

すみれ「ピッチ」

ルカ・すみれ「ジェネラーティ!!」

同時に魔力を解放する。

すみれ「……また失敗か」

ルカ「……」

かれこれもう5回目になるが、威力は上がるどころか彼女達が単独で発射していた時よりも落ちている。

すみれ「どうしよう……」

私がそう呟くと、ルカのソウルジェムが輝いた。


あやせ「……」

すみれ「あやせ!」

仏頂面のあやせが現れた。

と思ったら、いきなり説教が始まった。

あやせ「あのねえ!さっきからルカがずっと言ってたでしょ!この魔法はタイミングを合わせないとダメなの!」

すみれ「それは、分かってるんだけど……」

あやせ「時間も魔力も無限じゃないんだから!ほら、ソウルジェム出して!」

すみれ「え……。もしかして」

あやせ「今更あなたのソウルジェムを奪おうだなんて思ってない!」

すみれ「ご、ごめんね」

あやせ「はあ……」

あやせは私のソウルジェムを引ったくると、魔力を込め始めた。

すみれ「それは……?」

あやせ「あなたも、ほら」

そう言って、今度は2個のソウルジェムを強引に押し付けてきた。

あやせ「ソウルジェムが魔法少女の命なら、魔力は血液。お互いの魔力をソウルジェムに込めておけば、より深いレベルでの同調が可能になる」

すみれ「へえ……」

あやせ「へえ、じゃないの!ほら、すみれも早く」

今のあやせは、初対面の時の印象とはかけ離れていた。

最初に会ったときのあやせは、もっと、こう……『普通じゃない』感じに見えたのだが、今はそうでもない。

何だかんだ言いつつも協力してくれるみたいだし、普通に名前で呼んでくれるし……。

一体この子は、どんな魔法少女なんだろう?


あやせ「さあ。それじゃ、行くよ」

すみれ「うん」

深呼吸をする。

……今だ!

あやせ・すみれ「ピッチ・ジェネラーティ!!」

的になった使い魔が弾けた。

すみれ「!」

少なくとも、最初にルカが見せてくれたのと同じくらいの威力は出てる!

あやせ「凄いでしょ?私の魔法」

最初に見せてくれたよりも、自然で魅力的な笑みだった。


―――土曜日、昼。

今日はトレセンの練習だ。

魔女のことで頭が一杯になりかけていたけど、試合も明日だ。

今日中に調子を取り戻して、明日は万全の状態で臨むんだ。



???「……よっす」

と、考え事をしていたら不意に後ろから肩を叩かれた。

カオル「茜すみれさんだよね?よろしく。今日あなたとコンビ組む、牧カオルでっす!」

少しぼうっとしていたようだ。

もうコンビが発表されてたのか。

すみれ「よろしく、牧さん」


トレセンというのは、『ナショナルトレーニングセンター制度』の通称で、簡単に言うと各地域の上手な選手たちを集めた練習会のことだ。

ただ、一口にトレセンと言ってもピンからキリまであって、地区単位→都道府県単位→地域単位→国単位と、単位が大きくなるにつれ、トレセンの数は減っていく。

当然、上の方に行けば行くほど強い選手が集まることになるのだ。

私が通っているのは県トレで、ここに選抜されているのはチームの中で私一人だけだった。

皆が私のことを『エース』扱いする理由もここにあるんだけど……。



カオル「パス練からだね」

すみれ「うん」

この牧カオルさんは、うちの県トレの中でもトップクラス。

次の選抜でナショナルトレセン行きは確実とも言われている超有望株だった。


カオル「……それじゃ、ありがとうございましたー」

すみれ「ありがとうございました」

やっぱり、上手い。

誰が見たって私とは比較にならないほど輝いているのに、サッカーに向かう姿勢はあくまで真摯だ。

カオル「ね、すみれ。もしかして、なんか悩んでたりする?」

人に向き合う姿勢も真摯だ。

それに、鋭いらしい。


カオル「なるほどねー、トラウマかあ。あたしも、無いわけじゃないけど……」

すみれ「えっ……??」

カオル「あ、いいや、何でもない」

すみれ「チームでは私が一番上手だから、絶対ミスは出来ないから……」

牧さんの眉が僅かに動いた。

カオル「んー。それってさ、自分が信じられないだけじゃなくて、チームメイトのことも信じられて無いんじゃないの?」

すみれ「えっ……??」

予想外の指摘に戸惑ってしまう。

カオル「一度くらいミスしたって、誰も責めやしないよ。寧ろ、ミスしたら責められると思っていたことの方が責められると思う」

すみれ「牧さん……」

考えたことも無かった。

チームメイトから見た、私のこと。

カオル「明日なんでしょ、試合。頑張って。応援してるからさ」

そう言って、牧さんは私の肩を軽く叩いた。


―――土曜日、夜。

あやせ「やっぱりいないなあ」

すみれ「……」

私とあやせは、例の魔女を探していた。

あやせ「ルカの言う通り、今日は潜伏してるみたいね」

すみれ「どうしよう……」

昨日、喫茶店を出るときにルカが思わせぶりに言ったこと。

城塞の魔女は、潜伏と出現を繰り返す魔女らしい。

そして、その周期から類推するに今日は潜伏、出てくるのは明日。

すみれ「あ……あのね、あやせ。実は私、明日は……」

あやせ「サッカーでしょ?」

すみれ「えっ、どうして……!?」

あやせ「悪く思わないでね。あなたが本当に信頼できる人か、ちょっと調べさせて貰ったの」

すみれ「そっか」

あやせ「やっぱり、そういうのスキくない?」

すみれ「ううん、それであやせの気が済むなら別にいいの」

あやせ「……」


あやせ「ねえ、すみれ」

あやせが、ふと足を止めた。

すみれ「??」

あやせ「私はソウルジェムを集めるような魔法少女なのに、一緒に居てもいいの?」

すみれ「えっ……?」

そんな質問、全く予想していなかった。

あやせの真意が分からないが、私は私の思うままを答えるしかない。

すみれ「あんまり、何とも思ってないけど……」

私の対応が不満だったのか、満足だったのか。

あやせは読み取りづらい表情をして見せた。

あやせ「すみれは街の人達を守りたいと思ってるんでしょ?」

すみれ「街の人達、っていうか……。私の家族とか、友達とかが守れればそれでいいんだけど」

あやせ「ふうん……」

すみれ「私に魔法少女の友達は居ないし。自分のソウルジェムさえ無事なら、私が口を挟むことじゃないだろうから」

あやせ「……そっか。そうなんだ」

すみれ「あやせ……??」

あやせ「ねえ、すみれは……」

すみれ「??」

あやせ「ううん、何でもない。今日は魔女も現れなさそうだし、私帰るね」

すみれ「え?」

あやせ「明日の夜、また合流しましょ」

すみれ「あやせ!ち、ちょっと……!」

行ってしまった……。

今日のあやせは、よく分からない……。


―――日曜日、夕方。

ついに、運命の時が訪れた。

すみれ「……最終戦、相手は同格。絶対勝つよ!」

「「「おーーーっ!!!」」」


前半戦は膠着状態のまま終了。

勝負が動いたのは、後半戦だった。



「……っ!」

「あっ……!?」

こちらのチームのパスを相手に止められてしまった。

そこから、一気に攻められ……。

「っ!!」ドシュ

先に得点したのは、相手のチームだった。

すみれ「くっ……」


だがその直後。

すぐにこちらのチームにチャンスが回ってきた。

ボールを持っているのはあたし。

フェイントを挟みながら、一気に前進して……。

すみれ「っ!」

味方にパスを出す。

そして。

「っ!!」ドシュ

シュートに繋がった。


すみれ(何とか持ち直した……)

それに、今の攻撃で相手の守備の弱点が見えてきた。

これなら、なんとか……。



すみれ「!!」

不意に指輪が光った。

まさか……!!


あやせ『すみれ!……すみれ、聞こえる!?』

すみれ『あやせ、魔女が……!!』

ルカ『試合の残り時間は僅かでしょう。魔女はこちらで足止めします』

すみれ『でも……!!』

あやせ『すみれは、今の自分に出来ることを』

すみれ『!!』

ルカ『では』


似ているようで全く似ていないふたりだが、ひとつだけそっくりなところがある。

話を打ち切る時の強引さだ。

ともあれ、負けられない理由がひとつ増えてしまった。

すみれ「この試合……絶対に、勝つ!」


―――城塞の魔女、結界。

ルカ「やはり、一般人が集まっています」

あやせ『そういう仕事、スキくないんだけどなあ』

ルカ「約束は約束です」

あやせ『分かってるってば』

ルカ「いいですか、これは大仕事です。ゆめゆめ油断なさらぬよう」

あやせ『だから……そういう説教、スキくないっ!!!』


試合終了直前。

再び私がボールを持つことになった。

すみれ「……」


『いただきっ!!』ドシュ

すみれ『……あっ!?』


違う、大丈夫。

私は、皆を信じてる……!

脚に思いきり力を込め、全力でボールを蹴った。

すみれ「……はあっ!!」ドシュ



歓声が上がった。


すみれ「……ごめん、お待たせ!」

頭をサッカーから魔法少女に切り替える。

ここからは、また違う戦いだ。

あやせ「遅い……」

そう言って、あやせは口を尖らせた。

だが言葉とは裏腹に、保護された一般人がそこここに倒れている。

攻撃魔法しか持たないあやせがどうやったのかは知らないが……。

すみれ「ありがと、あやせ」

あやせ「それはあいつを倒してから言って」

目の前には、巨大な魔女が立ちはだかっている。


すみれ「ねえ。あやせ、ルカ」

あやせ「?」

すみれ「私、大事なこと分かったんだ。これを受け取って」

あやせ「ソウルジェム……??」

すみれ「あやせとルカのこと、信じてるから。だからふたりも私のこと、信じて」

あやせ「ふふっ」

ルカ『勿論』

あやせは小さく笑うと、私の手にふたつのソウルジェムを握らせた。

すみれ「一度で終わらせる」



あやせの息遣いが聞こえた。

ルカの鼓動を感じた。

今だ。

すみれ・あやせ・ルカ「ピッチ・ジェネラーティ!!!」


魔女「……っ!?」

私達の渾身の一撃は、魔女の身体を貫いた。

瞬間、結界が消滅してゆく。



すみれ「か、勝ったぁ……!!」

私はまたへなへなと座り込んだ。

あやせはそんな私を見て笑った。

何が可笑しかったのか、その後あやせは暫く笑い続けたままだった。


暫く経って、やっと笑い終えたあやせは、いつになく真剣な顔で私に告げた。

あやせ「私は私の街に戻るね」

すみれ「あやせ……。ねえ、あや」

あやせ「それじゃ」

彼女は最後まで強引だった。



そんな彼女の贈り物に気付いたのは、家に帰ってからだった。

ソウルジェムを模したキーホルダー。

どうやって作ったのか知らないけれど、それがいつの間にか私のポケットに入っていた。

『回復魔法を閉じ込めてあります。危なくなったら割ってください』

小さい文字で走り書きされたメモが一緒に入っていたけれど、結局私がこのメモに従うことは無かった。

思い出の詰まった宝物を割るだなんて、勿体ないから。


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――――――――――――――――――――
――――――――――――――

あやせ「すっごーい、あれが噂のプレイアデスかあ。見滝原に行く前にあすなろに寄ってて良かった」

あやせ「いいなあ欲しいなあ……。あの子たち」

あやせ「すみれのソウルジェムに触れていいのは、私達だけだって、教えてあげなくちゃ……。ねえ、ルカ?」

ルカ『ええ』

あやせ「……絶対に許さないんだから」


かずみ☆マギカの短編集

おわり

>>159
>あとJBに関しては、あくまでニコがプレイアデスの為に創ったもの(incubator var dependent)なので、実は基本的にプレイアデスの為にしか動かないのでは……。
聖団のためを最優先事項として動くようにはされてると思うけど、箱庭発動時で既にシステム破壊も目的に含まれてるのにGSでの浄化を禁止化しておいたり、QBの記憶情報をJBに置き換えてそれは無いと思う。

>JB浄化の制限
JBの浄化は制限(回数や浄化対象者など)自体は無いと思う
ただ本来のと違ってあくまで実は表面のみのクリーニングで、いづれ作中みたいな事になるという落とし穴付きだった。
もっともこの辺はあくまで結果論に過ぎない部分ではあるけど。

>>160
JBの浄化に制限があるとかじゃないと、トッコ乱発する意味が感じられないような気がして……。
どんな場合でも『表面処理』を施せるのなら、そしてカオル達が表面処理=浄化だと誤認していたのなら、わざわざ監禁する意味が見当たらないような気がするんですよね……。
双樹さんみたいな問題児はともかく、すみれを含めたその他大勢は、普通にJBを貸して浄化させてあげれば良いだけの話に思えるので。

更に言えば、あすなろ市の大きさが不明確なので何とも言えませんが、JB1匹で処理し切れないというのもあんまり信じる気にはなれないのです。
見滝原だと、恐らくインキュベーター1匹でうまく行ってるようなので(まあ、これは完全に推測ですが……)
トッコされたソウルジェムが山積みになるくらいですし(しかも新しい契約は行われていない)、箱庭形成にあたって魔法少女の認識も色々いじられたとか(例えば……。JBという存在は分かっているが、ソウルジェムの浄化まわりの記憶が混乱している、とか)、有ってもおかしく無いんじゃないかなーと。
そもそも『従属する』という表現が引っかかっていて、故意ではなくとも『プレイアデスに』という条件がくっついてしまったのではないかと思ってます。かずみのこともありますし、その位の誤算があってもおかしくはないかな、と。
前後しますが、一応この説にも根拠があって、それは『JBが徹底してプレイアデス目線に立っていること』です。双樹さんとの対決では勿論、あいりの時も、恐らくすみれの時も然りでは無いかと思います。意地悪な言い方をすれば、インキュベーターのように公平な立場の上に居れば他の魔法少女達の浄化に手が回ったのに、必要以上にプレイアデスを優先するせいで魔女化直前の魔法少女が続出したのではないかと……。
とはいえ、聖団以外は完全無視、は流石に極端でしたね。ご指摘ありがとうございました。

大変分かりにくい文章になってしまいアレですが、2つめの主張の方はかなり自分の解釈の癖というか感情が強く入ってるのであんまり絶対視はしていないです。

恐らく本来ここでやるべきではないであろう話に付き合っていただいてひたすら感謝なのですが、ここは結構前にhtml化依頼したのでいきなり落ちるかもです。

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