男「独裁者になろう!」(22)

これはある王国の物語──



遠い異国にいた独裁者の本を読み終えたある男が、目を輝かせていた。

男「素晴らしい……!」

男「これこそが俺が望んでいたものだ!」

男「独裁者になろう!」

男「よぉ~し、そうと決まればさっそく王様から政権奪取だ!」

男は城に向かった。

国王「ふむ……何用かな?」

男「今日から俺が……王になる」

男「いや、王をも超えた独裁者になる!」

国王「なんと!」

国王「つ、ついにこの時が……!」

男「というわけだ」

男「今日からお前は俺にひざまずくのだ」

国王「ああぁぁ~~~~~ん! ひざまずくぅ~~~~ん!」ビクビクッ

国王「ああああぁぁぁ~~~~~~~~~ん!」ビクビクッ

国王「あうあうああぁぁぁぁ~~~~~~~~ん!」ビュルルルルッ

男「いや……やはり処刑しよう」

男「家族もろともな!」

国王「首斬られちゃう~~~~~! ああぁ~~~~~~~~~~ん!」ビュルルルルルッ

王妃「くいぃぃぃぃぃん! 剣で斬首されちゃうのおおおおおおおおお!」ジュン…

王子「ボク、処刑されりゅぅぅぅぅぅ! まだ子供なのにぃぃぃぃぃぃぃ!」ピュルルルルッ

王女「うら若き乙女なのに殺されちゃうのおおおおおおおおお!」ジュワワァァァ…

ザシュッ!

男「ついでに権力を一点に集中すべく、議会は廃止する」

議長「議会廃止されちゃうぅぅぅぅ! 問答無用しゅぎぃぃぃぃぃ!」ビクンビクン

議員「圧倒的独裁パワーで廃止されちゃうのぉぉぉぉぉぉ!」ビクビクッ

女議員「路頭に迷っちゃうのおおおおおおおおおおお!」ビックンビックン

男「心配するな。全員、死刑にする」

議長「ありがとうごじゃいましゅううううううううううう!」ビュルルルルルルッ

議員「議員クビになって転職先はあの世なのおおおおおおおおおおお!」ビュルルルルルッ

女議員「いやっ、いやっ、いやあああああん! あんあんあんあん!」ブッシャアアアアアア

ザシュッ!

男「税率は……収入の1000%にする」

市民A「1000%ォォォォォ! 10倍ィィィィィ!」ビクビクッ

市民B「搾取されちゃうのおおおおおおおおおお! らめぇぇぇぇぇ!」ビクビクッ

男「払えない者は……死だ」

市民C「死ぬのぉぉぉぉ! 死確定なのおおぉぉぉぉぉ!」ビクンビクン

市民D「あはぁ~~~~ん、こんなムチャクチャ初めてぇ~~~ん!」ビクビクッ

男「払えても……死だ」

市民たち「しゅごいぃ~! しゅごしゅぎるのぉ~~~~~!」ビュルルンルンッ

男「新しい宮殿と私の銅像を作れ。一週間以内にな」

工夫A「いっしゅうかんんんんんんんん!?」ビクビクッ

工夫B「みじかいぃぃぃ! 期限みじかしゅぎぃぃぃぃぃぃ!」ビックンビックン

男「作れなければ……死刑」

工夫C「厳しいぃぃぃぃぃ! 厳しいのぉぉぉぉぉぉ!」ビュルッ

工夫D「事実上の死刑せんこきゅううううううううう!」ビュルルラララッ

男「もし完成できたとしても……死刑だがな」

工夫たち「しゅごいぃぃぃぃぃ! 報われないのぉぉぉぉぉぉ!」ビュルルルルルルルルッ

男(宮殿は完成した……が、工事関係者はみな処刑した)

男「食事をしよう……うまい。コックは死刑」

男「ワインを飲もう……うまい。ワイン職人も死刑。ついでにウイスキー職人も」

男「食べすぎて胸やけがする……ので腹いせに執事とメイドも死刑」

コック「まずいじゃなくおいしいのに、死刑とか新しいぃぃぃぃぃ!」ビュルルルルッ

ワイン職人「赤ワイン作ったら人生がレッドカードなのぉぉぉぉぉ!」ビュルルルルッ

ウイスキー職人「巻き添えぇぇぇぇ! なにもしてないのにぃぃぃぃぃ!」ビュルルルルッ

執事「こんな死に方しちゃうなんて……執事冥利に尽きるぅぅぅぅぅぅ!」ビュルルルルッ

メイド「冥土にいっちゃいましゅぅぅぅぅ、ご主人しゃああああっ!」ジュンジュワァ…

処刑人「処刑、終わりました!」

男「よくやった!」

処刑人「私だけは処刑要員として、ずっと生かして下さるのですよね?」ビクッビクッ

男「そんなわけないだろう」

男「よって、お前も死ね」

処刑人「しょけえええええええええええええええ!」ビュルルルルルッ

ザシュッ!

男「逆らう者は殺す」

男「逆らわなくても殺す」

男「老若男女、全て殺す!」

男「処刑人は自害させてしまったので、俺の手で処刑してやる!」

男「なぜそこまで人を殺すのか、だと?」

男「なぜなら俺は独裁者だからだ!」

男「俺は俺の夢のため、とてつもない独裁者にならねばならないのだ!」

男「特に理由はないが、どんどん処刑してやる!」



老人「おっほぉぉぉぉぉぉう! 老い先みじかしゅぎぃぃぃぃぃ!」ビュルルルルルッ

老婆「たまらんのぉぉぉぉぉぉぉぉ! ぐらんどまざぁぁぁぁぁ!」プシャアアアア

美女「いいわぁ~~~~~~~~ん! 美人はくめぇぇぇぇぇぇ!」ブシャアアア

赤ん坊「おっぎゃああああああん」ビュルルルルルルルルッ

青年「独裁されちゃってるのおおおおお、たまらないのおおおおお!」ビュルルルルルルッ

幼女「ふえええええええええええええええ」シャアアアアア



ビュルルルルルッ ブッシャアアアアア ビュルルルッ ビュルルルルルッ ジュン… プシャアアアア

ビュルルルッ ビュルルルルンッ プシャシャッシャアアアア ビュルッ ジュゥゥン… ビュルルルルルルッ

男(ふふふ、我ながらみごとな独裁っぷりだ)

男(なにしろ独裁者とは、理不尽に国民を粛清するものだからな)

男(さて、そろそろ俺の夢が叶う時が──)

男「!」ハッ

男「しまった! 国民全てを粛清してしまった!」

男「これでは俺の夢が叶えられないではないか!」





この男の夢とは──

昔読んだ本──



『長年にわたり悪政を続けた独裁者はついに逮捕されました』

『国民から袋叩きにされ、死体は晒し者にされ、皆から唾をかけられました』

『せっかく作った宮殿と銅像は破壊され、家族も処刑されてしまいました』

『今でもこの国では、この独裁者を国の恥として忌み嫌っています』



男『素晴らしい……!』

男『これこそが俺が望んでいたものだ!』

男『独裁者になろう!』



そう、男は重度のマゾだったのだ!

男「くっそぉ~、なんでどいつもこいつも抵抗せずに処刑されるんだ!」

男「勢い余って、国民全てを処刑してしまったじゃないか!」

男「これでは俺を袋叩きにしたり、死体を晒したりする奴がいないじゃないか!」



仕方のないことだった。

なぜならこの国の住民は、全員が例外なくマゾだった。

誰もが心の奥底で、男のような存在を待ちわびていたのだから……。

男「自分で自分に苦痛を味わわせてもなにも面白くない!」

男「俺は俺の手で、俺に痛みを味わわせるはずの人々を消してしまった!」

男「痛みを味わえないということが、これほどの苦痛だったとは!」

男「つまり……これはこれで快感~~~~~~~~~~!」ビュルルルルルルルルルルルルルルルッ



ビュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ





全てを出し尽くした男も、やがて力尽きた。

こうしてマゾだらけの国の住民は一人残らず全滅した。

滅亡後──

マゾだらけの国は解体され、土地や資源は周辺国に分配されることとなった。

元々大した国でもなかったので、分配はさほど揉めなかった。





一人のマゾが描いた愚かな夢で、一国が滅んでしまったのである。

この亡国を、他国の知識人たちはこぞって非難・酷評した。



「自国民全員を粛清するなんて、独裁者というかただのバカだ!」

「こんな輩に権力を手渡した王もどうかしている! 見る目がなかった!」

「国民も国民だ! なぜまったく反抗しなかったのか!」

「指導者が狂人で、国民も自分で考える力を持たない、滅んで当然の国だった!」

「こんな国が長年存続できただけでも奇跡だ!」



どれももっともな意見であった。

しかし、今やあの世で暮らす彼らにとっては──



国王「また現世でウチの国が酷評されてるのおおおおおおおおお!」ビュルルルルルッ

王妃「やったわああああああああああああああああああ」ジュワァァァ…

王子「気持ちいい! 気持ちいいよおおおおおおお!」ピュルルルルッ

王女「もっともっとぉぉぉぉののしってええええええええええええ!」ブシャアアアア

処刑人「しょけええええええええええええええええええええ!」ビュルルルルッ

議員たち「ウチの国を茶化す演劇まで生まれたのおおおおん!」ビュルルルルルルッ

市民たち「我々が酷評されてるんるんるんるんりゅぅ~~~~~~ん!」ビュルルルルルッ

工夫たち「銅像とか宮殿作ったのになんにも報われないのぉぉぉぉぉ!」ビュルルルルルルッ



男「あっはぁ~ん! 独裁してよかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」ビュルルルルルルルルルルッ





最高の娯楽にすぎなかった。





~ END ~

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