西住みほ「誰か私をペットにしませんかー?」武部沙織「みぽりん!?」 (77)

大洗学園艦 日曜日

沙織「みてみて、華。私たちのポスターが貼ってあるよ」

華「本当ですねぇ。戦車道全国大会優勝と書かれていますね」

沙織「もーやだー。町中にポスターなんて貼られたら私のファンが増えちゃうぅ」

華「ファンなんていたんですか?」

沙織「これから増えるかもしれないでしょ。というか、明らかに男の人に声をかけられるようになったもん」

華「それはよく利用するお店の人でしょう?」

沙織「声をかけられるのは本当だもん!」

華「まぁ、有名になってしまったのは否定できませんね」

沙織「私でこうなんだからみぽりんなんてもっと――」

みほ「この辺りでいいかな」

沙織「あれ、みぽりんだ」

華「何をするつもりなのでしょうか」

みほ「だ、誰か私をペットにしませんかー?」

沙織「みぽりん!?」

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みほ「あ、沙織さん……!」

沙織「なにしてるの!? なにいってるの!? どうしちゃったの、みぽりん!?」

みほ「……なんでもないから、気にしないで」

沙織「無理ある! 無理あるから!!」

華「あのみほさんが人の往来でこんなことをしていること事態、異常ですよね」

みほ「華さんまで……」

沙織「何があったの!? ほら、まずは相談して!!」

みほ「でも……これは私の問題だし……」

沙織「みぽりんの問題は私たちの問題!!」

みほ「そんな、沙織さんに迷惑はかけられないよ」

沙織「こんなことされるほうが迷惑だよ!!!」

みほ「そ、そうなの?」

沙織「心配になるじゃん!! 色々と!!」

みほ「ありがとう、沙織さん……」

沙織「で、何があったの? 何かの罰ゲーム?」

みほ「こんなこと友達にいうことじゃないから、ずっと黙ってはいたんだけど……」

華「なんでしょうか?」

みほ「私、今月いっぱいで今の家を出なくちゃいけなくて」

沙織「なんで?」

みほ「家賃、払えなくなって……」

沙織「お金、ないの?」

みほ「う、うん。アルバイトも2ヶ月ほど前から始めたんだけど、1ヶ月のお給料だと学費を払うだけで精一杯……」

沙織「えぇぇ……」

華「食事はどうされているのですか?」

みほ「食事は、幸い戦車道の成績がよくて受講特典の食堂の食券100枚が貰えたから、それでなんとか」

沙織「み、みぽりん……いつからそんなことに……」

みほ「丁度、プラウダ戦が終わったときから、振込みがストップしちゃって」

華「ご実家のほうでなにかあったのですか?」

みほ「私、お母さんに勘当されたみたいで……多分、その所為……」

沙織「か、勘当?」

みほ「うん。私、戦車道を止めるっていう条件で大洗に来たのに、こっちでも戦車道を続けてることがお母さんに知られちゃったみたいなの」

華「それでお母様の逆鱗に触れてしまったと」

みほ「そうじゃないかな。連絡とってないから、分からないけど」

沙織「生活費はまだしも、学費まで払わないといけないって酷いよ」

みほ「私が悪いから」

沙織「みぽりんは悪くないってぇ」

みほ「そ、そうかなぁ」

華「それは分かりましたが、どうしてペットにしないかと呼びかけていたのですか?」

みほ「最初はルームシェアしてくれる人を探そうと思ったんだけど、どう声をかけていいかわからなくて……。いきなり私と住んでくださいって言っても誰も聞き入れてくれないだろうから……」

沙織「それでペットにしてくださいってこと? それ危ないってぇ。変な人が声をかけてきたらどうすわけ?」

みほ「ちゃんと女性限定でってこのプラカードにも書いてあるから、多分大丈夫」

沙織「大丈夫じゃない!! 補導されちゃうから!!」

みほ「補導!?」

華「それに学校に知られたらかなりの問題になりそうです」

みほ「そうなの!?」

沙織「いつからこんなことしてたの?」

みほ「昨日からだけど……。問題になってるのかなぁ……」

華「昨日は誰かに声をかけられましたか?」

みほ「ううん。私の前を数人通り過ぎただけ」

華「それならまだ大事にはなっていなさそうですが」

沙織「1日だけならちょっとふざけてみたって言えるから、いっか」

みほ「……ごめんね」

沙織「まぁ、そういう事情があるなら、とりあえず私の家に来る?」

みほ「私を飼ってくれるの?」

沙織「飼わない!! 一緒には住むけど!!」

みほ「やっぱり、ダメ。沙織さんの気持ちはとっても嬉しいけど、友達の家に住むなんて……」

沙織「でも、どうしようもないじゃん。うちにおいでよぉ」

華「ここは好意に甘えるほうがいいのではないですか? せめて現状が落ち着くまでぐらいは」

みほ「……沙織さん、新しい家が見つかるまでお願いしますっ」

沙織「よし、決定! まずは荷物とかも運ばなきゃいけないかぁ。やることいっぱいありそうだし、今からやっちゃおうか。善は急げっていうし」

西住宅

華「荷造りは殆ど終わっているんですね」

みほ「うん。出て行くことは決まってたから」

華「では、あとは運び出すだけですね」

沙織「ここから私の家までは結構あるし、これを運ぶのはきついよね」

華「そうですわ。わたくしにいい考えがあります」

沙織「どうするの?」

華「少し待っていてください。連絡してみます」

沙織「大丈夫かなぁ」

みほ「あの、沙織さん」

沙織「なに?」

みほ「ここにある荷物なんだけど、やっぱり多いよね? 半分ぐらいにしたほうがいいかな?」

沙織「いや、みぽりんの荷物あまりないじゃん。ぬいぐるみが多少嵩張ってるぐらいでさ」

みほ「バイバイ、ボコ……」

沙織「いや!! 捨てなくていいって!! それも私の部屋にならべようよ!!」

みほ「でも、沙織さんの部屋を圧迫するようなことになったら大変だし」

沙織「これぐらいで窮屈にはならない。気にしすぎだよ、みぽりん」

みほ「沙織さん……」

沙織「さて、華が戻ってくる前に、荷造り完璧に終わらそっか。ダンボールはしっかりガムテープで閉じておかないとね」

みほ「うんっ」

沙織「そういえばこういう場合、やっぱり学校とかには届けておかないとダメだよね。住所変更なんかもしないといけないし。それはまぁ、すぐにしなくてもいいだろうけど」

みほ「うん……」

沙織「あ、ネットとかは解約済んだ? あれって結構面倒なんだよねぇ」

みほ「……」

沙織「あとなにかあったかなぁ。コンタクトレンズの煮沸消毒器がコンセントに刺さりっぱなしになってるとか……って、みぽりんには関係ないか……」

みほ「沙織さんっ!!」ギュッ

沙織「な、なになに?」

みほ「沙織さんがいてくれて……よかった……」

沙織「大袈裟なんだからぁ」

みほ「沙織さん……」

華「連絡ができましたよ――」

沙織「あ、華。どこに連絡してたの?」

みほ「……」ギュゥゥ

華「……あの、お二人になにがあったのですか?」

沙織「え? ああ、みぽりん、離れて」

みほ「ご、ごめん! か、感動しちゃって!!」

沙織「うんうん。勘当されたのはわかったから」

みほ「そっちのかんどうじゃないんだけど……」

沙織「で、華。どこに連絡したの?」

華「勿論、優花里さんと麻子さんにです」

沙織「ゆかりんと麻子に話しちゃったの!?」

華「詳しいことは喋っていません。ただ、運んで欲しい荷物があるとだけ伝えました」

沙織「それならいいけど。みぽりんのことはなるべく黙ってようね」

華「勿論です」

みほ「ありがとう、沙織さん、華さん……本当に……」

華「荷造りはこれでいいですね」

みほ「うん。入れ忘れもないし……」

沙織「キッチンの掃除、おわったよー」

みほ「えぇ!? いつのまに!?」

沙織「といっても、あんまり汚れてなかったけどね。みぽりんが綺麗に使ってたから楽だったよ」

みほ「綺麗に使っていたからというより、半年も使ってなかったからじゃないかな……」

沙織「あ……うん……。いやいや!! みぽりんの使い方がよかったんだって!! 絶対!!」

華「そうですよ。みほさんのお部屋はいつも片付いていましたから」

沙織「そうそう。常に整理整頓が出来てたから」

みほ「沙織さんの家ではもっと気をつけるようにするね」

沙織「だからぁ」

ピンポーン

みほ「だ、誰だろう……大家さんかな……」

沙織「なんで大家さんに怯えてるの?」

みほ「退去手続きに不備があったのかも……」

沙織「そんなことないって……とはいえないか……みぽりんだし……」

みほ「うぅ……」

華「きっと優花里さんと麻子さんですよ。わたくしが出てもいいですか?」

みほ「う、うん」

ピンポーン

華「はぁーい、今あけますわー」ガチャ

優花里「どうも!! 秋山優花里、ただいま参上いたしました!!」

麻子「こんにちは」

華「やっぱり。みほさん、優花里さんと麻子さんが来てくれましたよ」

みほ「あ、優花里さん、麻子さん。折角のお休みにごめんね」

優花里「いえ!! それで、何を運べばいいんですか?」

沙織「このダンボールなんだけど、いける?」

優花里「任せてください。これを武部殿の家まで運べばいいんですね?」

沙織「そうだけど。どうやって運ぶの?」

麻子「戦車で運ぶ」

Ⅳ号戦車内

優花里「では、パンツァー・フォー!!」

麻子「ほいっ」

沙織「まさか、戦車でくるなんて……」

みほ「大丈夫なの? 勝手に動かしたら怒られるんじゃあ……」

優花里「心配はいりません。ちゃんと会長殿の許可ももらいましたから」

麻子「電話一本で許可してくれた」

沙織「会長らしいけど……私物みたいに扱っていいものじゃない気もするけどなぁ……」

優花里「それはそうと、結構な大荷物ですよね。何が入っているんですか?」

みほ「え? あ、えと、色々」

麻子「まるで引越しだな」

みほ「うっ……」

優花里「引越し? 武部殿にご自宅にですか?」

沙織「いや、違う違う。ちょっと預かってほしいものがあるってみぽりんがいうから、一時的に私の部屋に置いておこうってことになっただけだって」

麻子「ふぅん」

武部宅

優花里「よいしょっと。これはここでいいですか?」

みほ「うん。ありがとう、優花里さん」

優花里「お安いご用です」

麻子「では、戦車を返してくる」

沙織「うん、お願いねー」

優花里「私もいきます」

華「わざわざありがとうございました」

麻子「気にするな。……沙織、ちょっと」

沙織「な、なに?」

麻子「あとでちゃんと事情を話してくれ。秘密されると、色々疑いたくなるからな」

沙織「分かった。落ち着いたらちゃんと話すよ」

麻子「頼むぞ」

沙織「とりあえず、来てくれて助かったよ、麻子」

麻子「また明日な」

華「みほさんのぬいぐるみ、たくさんありますね。どこに並べましょうか?」

沙織「ええと……」

みほ「あ、別にダンボールから出さなくてもいいから。一番気に入ってる奴を部屋の片隅に置いてくれたらそれで……」

沙織「はいはい。全部出して並べるから安心して」

みほ「だ、だけど……」

沙織「華、ぬいぐるみはベッドのところに置けるだけ置いて。置けなかった分は猫のクッションがあるあたりにズラーッと並べちゃって」

華「わかりましたぁ」

沙織「あれ? みぽりん、布団とかないの?」

みほ「うん。ベッドは備え付けのを使ってたから」

沙織「じゃあ、今日はどうする?」

みほ「私はもちろん、フローリングで寝るね」

沙織「なんでそうなるのよ」

みほ「わ、わたしは居候の身ですから」

沙織「そんなに畏まらないでよぉ」

華「よしっ。並べ終わりました。次は食事にしませんか?」

沙織「はぁーい。できたよー。引越しそば」

華「おいしそうです」

みほ「こんなに大きな天ぷらが乗ってる……!!」

沙織「そばオンリーは味気ないじゃん?」

みほ「でも、私、沙織さんに飼われてる身だから……こんなに豪華な食事は……!! 食費だって払える見込みがないのに……!!」

沙織「飼わないって!! 一緒に住むだけ!!」

華「そういえばアルバイト代の殆どは学費に消えてしまうんでしたね」

みほ「うん。これからは沙織さんのスネをかじることに……」

沙織「そうやって悪くいうのはよくない!」

みほ「だけど、事実だから……」

沙織「大丈夫!! みぽりん1人ぐらい、余裕で養えるから!!」

みほ「ありがとう……」

沙織「はぁ……」

華「みほさんの性格を考えれば致し方ないと思いますよ」

沙織「だよね。それに、みぽりんじゃなくても気にするなってほうが無理だろうしね」

華「それではわたくしはこれで。おそば、大変美味しかったです」

沙織「お粗末様でした」

華「いえいえ。結構なお手前でした」

沙織「あはは。また明日ね、華」

華「はい。みほさん、さようなら」

みほ「うん。また学校で」

華「はい。お邪魔しました」

沙織「バイバーイ」

みほ「……」

沙織「……みぽりん?」

みほ「は、はいっ。なんでも言って、沙織さん。なんでもするから」

沙織「なんで正座してるの? 足、痺れちゃうよ?」

みほ「あ、なんだか、足を崩すのもどうかなって……初日だし……」

沙織「私が許可するから。ほら、足を崩して、リラックスだよ、みぽりん」

みほ「そ、それではお言葉に甘えて!」

沙織「それじゃあ、多少の貯金はあるの?」

みほ「でも、今月分の家賃でほぼゼロになるから……。携帯代なんかもギリギリで……。むしろ解約しようかなって思ってるぐらいだし……」

沙織「ちょっとの間ならみぽりんの分も払ってあげてもいいけど」

みほ「それはダメ!! そこまでしちゃダメ!!」

沙織「ど、どうして? ケータイないと困るじゃん」

みほ「そこまで沙織さんに負担をかけるなんて、私が我慢できないよ」

沙織「無理しなくていいのに」

みほ「本当にごめんなさい、沙織さん。どうやって恩返ししたらいいか……。あ、マッサージならできなくはないけど」

沙織「いいよぉ。今日からここがみぽりんの家だと思って。ね?」

みほ「家?」

沙織「そうそう。お風呂もトイレも冷蔵庫も、自由に使っていいから」

みほ「う、うん」

沙織「大丈夫だってぇ。私、好きな相手には尽くすタイプだし。ところで、みぽりんはどこでアルバイトしてるの?」

みほ「それは……通学路にあるコンビニなんだけど……」

沙織「あそこ? クラスメイトとか来ないの? っていうか私もよく利用するし」

みほ「何度か見られたけど、みんな何も言わずにそのまま買い物だけしてくれるから」

沙織「あぁ……。まぁ、ちょっとびっくりするよね。みぽりんがコンビニのレジとかしてたら」

みほ「働いてるところみられるのは恥ずかしいから、なるべく見られたくはないんだけど……」

沙織「それならコンビニじゃなくてもっと別のところなかったの? 前、フラワーショップでバイトがしたいとか言ってなかったっけ?」

みほ「少しでも時給がいいところじゃないとダメだから……。お小遣いが欲しいだけなら、好きなところでバイトしたんだけどね」

沙織「ねえ、せめて学費は払ってもらうことはできないの? なんとかお母さんに言ってさ」

みほ「言っても無駄だと思う。お母さん、凄く厳しいから」

沙織「そ、そうなんだ……」

みほ「私、どうしても卒業まで大洗にいたいし、なんとか学費だけでも払っていかないと……」

沙織「みぽりん……」

みほ「ごめんね。いつになるかはわからないけど、私、ちゃんと自立するから!! 今だけお世話になります!!」

沙織「そういう考え方は捨ててよ。むしろ卒業までここにいてくれてもいいから」

みほ「そんな!! なんとか今年中……いや、来年の4月までには……なんとか……!!」

沙織「なんとかって、どうするの? バイトなんて増やせないでしょ?」

みほ「そうだけど……でも……どうにかしないと……このままでいるわけには……」

沙織「さーてと、そろそろお風呂入って寝よう。みぽりん、お先にどーぞ」

みほ「ダ、ダメダメ!! 沙織さんが先に入って!」

沙織「いいから、いいから。ほらほらぁ。タオルは好きなの使っていいよっ」

みほ「沙織さん、そんなに優しくしないで。私はここに入れるだけで胸がいっぱいだから」

沙織「そんなの知らないよぉ。とにかくお風呂! ちゃんと温まってくるようにね。肩まで浸かって、100まで数えてくるように」

みほ「だけど……」

沙織「みぽりん、なんでもするっていったじゃん。うそだったの?」

みほ「あ……う……。沙織さんのいじわる……」

沙織「意地悪で結構。さ、いったいった」

みほ「それじゃあ、お先に失礼します」

沙織「はぁーい。ごゆっくり」

沙織「みぽりんったらぁ。でも、逆の立場なら私もああなっちゃうかな?」

沙織「あ、そーだ。麻子に連絡しておかないと」ピッ

麻子『――もしもし、どうした?』

沙織「どうしたって、約束通り事情を話そうと思ったんだけど」

麻子『そうか……西住さんは勘当されて……』

沙織「そういうわけだから、あまり言いふらさないようにしてよ。気分はよくないけど、ゆかりんにもなるべく秘密にしておいて」

麻子『分かった。沙織がそういうならそうしよう』

沙織「ありがと。話が早くて助かるよ」

麻子『……西住さんは母親とは話したのか?』

沙織「え? ううん、一度も話してないって言ってた」

麻子『話してみるべきだと思うが』

沙織「私も話してみたらっていったんだけど、みぽりんは何を言っても無駄だからって」

麻子『無駄でも話すのは大切なことだ』

沙織「麻子……」

麻子『西住さんには私と同じような後悔はして欲しくはないからな。謝りたいのにいない、言いたいことがあったのにいない。そういうことだって、あり得るから』

沙織「……」

麻子『西住さんのこと頼む。沙織から言えば、言うことを聞いてくれるかもしれない』

沙織「うん。わかった。なんとか言ってみるよ。それじゃ、おやすみ」

麻子『ああ、おやすみ、沙織』

沙織「ふぅー……。さっぱりしたぁー」ゴシゴシ

みほ「……」

沙織「みぽりん、また正座してる」

みほ「あぁ、ごめんなさい。つい」

沙織「もう。みぽりんのしたいようにしてくれていいけど。何か飲む?」

みほ「い、いいです」

沙織「正直に答えてください。喉は渇いていますか?」

みほ「……はい」

沙織「それじゃ、これ飲んで」

みほ「ありがとう……いただきます……」

沙織「ねー、みぽりん。やっぱり現状をどうにかしようと思うならさ、お母さんと話してみるべきじゃないかな?」

みほ「お母さんと……」

沙織「コンビニのアルバイトだけじゃ私から自立はできないよ? あ、私のヒモになるっていうなら別だけどね」

みほ「そんな!! ヒモなんて……!! あぁ、私!! ジュースのんじゃってる!? ヒモなんだぁ……あぁ……」

沙織「ちょっ!? ジュースぐらいでそんな落ち込まなくてもいいでしょ!! 冗談、冗談だってばぁ!!」

みほ「お母さんはきっと私と話してもくれない。そういう人だから」

沙織「そんなのわかんないじゃん。もしかしたらっていうのも」

みほ「……」

沙織「無いんだ」

みほ「うん……」

沙織「な、なら、お姉さんは? お姉さんとは別に話せるでしょ?」

みほ「お姉ちゃんが言ってもお母さんは考えを変えないよ。むしろお姉ちゃんが怒られちゃう」

沙織「そうなのぉ? どうにかできないの」

みほ「……できないよ」

沙織「じゃ、いいや。みぽりんがそう言うってことはそうなんだろうし」

みほ「ごめんね。なんでもするって言ったのに……」

沙織「いーよ、いーよ。とりあえず今日は寝よう。ほら、こっちおいで」

みほ「え? 私はこのフローリングの上で寝るから……」

沙織「背中とか腰とか痛くなっちゃうから、こっちにおいでってば。ほら、このベッド、二人でも眠れるよ」

みほ「そういえば沙織さんのベッド、ちょっと大きいよね。どうして?」

沙織「やだもー!! そんなのいわせないでよー!! きゃー!!」

みほ「え? あの……よくわからないんだけど……?」

沙織「とにかく、こっちこっち。一緒に寝よ」

みほ「いいの?」

沙織「あ、もしかして寝ている間に西住流の寝技が炸裂したりするの?」

みほ「西住流は寝技とかないから!!」

沙織「それなら安心っ。さ、おいで」

みほ「……それじゃあ、遠慮なく」

沙織「ペットだって一緒のベッドで寝るしねぇ」

みほ「はっ……そうなんだ……」

沙織「ウソウソ。ごめんごめん」

みほ「うぅ……」

沙織「じゃ、電気消すね」

みほ「お、おやすみなさいっ」

沙織「おやすみー、みぽりん」

翌朝

沙織「ん……? なんかいいにおいがするぅ……」

みほ「あ、おはよう。沙織さん」

沙織「あれぇ……みぽりん……なにしてるの……」

みほ「朝ごはん、作ってたの。沙織さんみたいに美味しくできてないと思うけど」

沙織「そんな、いいのにぃ」

みほ「よ、よくないよ。せめて、これぐらいはしないと」

沙織「それじゃ、明日は私が作るから」

みほ「ううん!! せめて朝食は私が作りたいの!!」

沙織「……夜は私ってこと?」

みほ「だ、だって、あの……沙織さんの料理は美味しいから……その夜に食べたいなぁ……って……」

沙織「おっけー。なら、朝はみぽりん、夜は私で」

みほ「うんっ!」

沙織「みぽりん。お味噌汁、吹き零れそう」

みほ「あー!? たいへん!! あつっ!?」

沙織「戸締り、よーし。さ、いこっか」

みほ「はぁー。ごめんね。朝から大騒ぎしちゃって」

沙織「みぽりん、昨日からずっと謝ってない?」

みほ「え!? あ、ごめんなさい」

沙織「もー、しょーがないなー」

みほ「だってぇ……申し訳ない気持ちがいっぱいで……なんならずっと謝っておきたいぐらいで……」

沙織「はい、これ」

みほ「え?」

沙織「合鍵。いるでしょ?」

みほ「ありがとう」

沙織「無くさないでよ。合鍵作るの結構大変だしさぁ」

みほ「き、きをつけます。あの、沙織さん、今日はアルバイトの日だから、ちょっと帰りが遅くなるけど」

沙織「いいよ。晩御飯は待っててあげる。一緒に食べたいし」

みほ「いや、先に食べててって言おうとしたんだけど……」

沙織「気にしないの。私、好きな相手のためなら何時間でも待てるタイプなんだぁ」

大洗女子学園 教室

華「おはようございます。みほさん、沙織さん」

沙織「おっはよー」

みほ「おはよう、華さん」

華「やっぱりお二人で登校してきましたね」

沙織「いや、別々で登校したほうが不自然でしょ?」

みほ「変な目でみられちゃうのかな。それなら時間をズラしたほうが……」

沙織「いいって、いいって。おりょうさんたちだって一緒の家に住んでるんだし」

華「なんだか微笑ましいです」

桃「西住」

みほ「は、はい? おはようございます」

桃「生徒会室まで来てくれ」

みほ「今からですか?」

桃「そうだ。武部と五十鈴もこい」

沙織「な、なんだろう……?」

生徒会室

杏「おはよう、西住ちゃん。朝から呼びつけて悪いね」

みほ「い、いえ。それでなんですか?」

杏「土曜日のことなんだけど、変な情報が入ってきてね。あまりに常軌を逸してるから、一応確認しておこうと思って」

みほ「え……」

沙織「も、もしかして……」

華「恐らくあのことですね……」

桃「西住、土曜日に2時間ほどペットにしてくださいと書かれたプラカードを持って立っていたというのは事実か?」

みほ「あ、えと……」

沙織「それはちょっと罰ゲーム的な……あれで……」

柚子「そんな罰ゲームやっちゃダメだよぉ」

杏「うちらも割りと有名になったからね。おかしなことするとすぐに噂が広まっちゃうから」

桃「軽率な行動は控えろ!! 戦車道や我が校のイメージを損ねるようなことはするな!!」

沙織「はいぃ!! すみません!!」

みほ「すみません!」

杏「まぁまぁ、河嶋。西住ちゃん、ホントに罰ゲームなの?」

みほ「は、はい……」

杏「武部ちゃん」

沙織「なんですか?」

杏「今朝、西住ちゃんと一緒に登校してきたんだってね。そど子が言ってた」

沙織「な、なにかおかしいですか?」

杏「おかしなことはないけど、西住ちゃんの奇行となんか関係してるのかなって」

沙織「あー……いえ……たまたまです……」

柚子「何か隠してる? 正直に言ってくれないと、私たちも守ってあげられないんだけどぉ」

みほ「……」

桃「西住」

みほ「えと……」

杏「最近、西住ちゃん、コンビニでバイトしてるよねぇ。あれ、なんのため?」

華「そんなことまで知っているのですか?」

杏「いやいや。あんな通学路のど真ん中にあるコンビニでバイトされたら嫌でも見かけるよ」

桃「何があったんだ?」

柚子「説明してくれないかなぁ?」

みほ「実は……」

沙織「みぽりん」

みほ「いいから」

沙織「……」

みほ「実は、仕送りを止められてしまって、アルバイトの収入でなんとか学費を払えている状態で……」

桃「なんだと?」

杏「学費でなんとかって、寮費とかは?」

みほ「払えなくなったので、昨日出ました」

柚子「えぇ!? それじゃあ、昨日はどこで一夜を過ごしたの?」

みほ「昨日は武部さんの家に泊めてもらって……いえ、今日も明日も、泊めてもらうことになっているんですけど……」

杏「……河嶋」

桃「はい。西住、お前は我が校の恩人だ。学費と寮費に関しては免除する。こちらで全ての手続きはしておこう。今後アルバイトの収入は食費と雑費に充てろ」

みほ「えぇ!? そんな!! 私だけ特別扱いはやめてください!!」

杏「特別扱いって、西住ちゃんは特別だから」

みほ「だけど……」

桃「無理をするな」

みほ「……」

沙織「みぽりん、こう言ってくれてるんだし、甘えておこうよ」

みほ「……いえ、その厚意を受け取ることはできません」

杏「西住ちゃんの活躍を鑑みれば当然だと思うんだけどなぁ」

みほ「自分でなんとかします」

華「なにか当てでもあるのですか?」

みほ「無いけど……でも、ここで甘えたら、私がなんのために戦車道をやってきたのか、わからなくなりそうで……」

柚子「そんなことないよ」

みほ「ごめんなさい!」

杏「いいの? 本当になんとかできる?」

みほ「……はい」

杏「分かった。西住ちゃんがいらないっていうなら、そうするかぁ。この話はおしまいっ。解散」

昼休み 食堂

麻子「そんな破格の条件を蹴ったのか」

沙織「もーびっくりだよぉ」

華「西住さんの矜持が許せなかったのかもしれませんね」

麻子「……」

沙織「でも、学費と寮費が免除だよ? 私なら即オッケーなのに」

麻子「西住さんは沙織とは人間として出来方が違うからな」

沙織「どーいういみよー!!」

華「ですが、これからどうするつもりなのでしょうか。学費だってギリギリということは、場合によっては足りなくなる月もでてくるのでは?」

麻子「貯金もないんだろ?」

沙織「うん。2万円ぐらいはあるみたいだけど」

麻子「それは厳しいな」

みほ「おまたせー。食べよう」

優花里「西住殿、今日も食券で買っていましたね」

みほ「えへへ。もらったら使わないと」

放課後 格納庫前

杏「んじゃ、おつかれぇー」

優花里「お疲れさまです!!」

みほ「みんな、また明日」

優花里「はい!! お疲れさまです、西住殿!!」

沙織「バイバーイ、みぽりーん。また明日ぁー」

麻子「さて、帰るか」

華「今日も疲れましたねぇ」

沙織「早く帰って休まないとね」

麻子「沙織」

沙織「なぁに?」

麻子「西住さんには言ってくれたのか?」

沙織「言ったけど、ダメだってさ。なんか、みぽりん自身あまりお母さんとは話したくないのかも」

麻子「それはどうだろうな」

沙織「どういうこと?」

優花里「お話中、すみません」

沙織「ゆかりん、どうしたの?」

麻子「……」

優花里「私の勘違いならいいのですが、西住殿何か悩んでいませんか?」

沙織「え?」

優花里「戦車に乗っているときはいつもの凛々しい西住殿なのですが、降りたらどこなく元気がないような気がして」

沙織「みぽりんも色々と悩んでるんじゃない? ほら、進路とか考えなきゃいけない時期ではあるしさ」

優花里「そういうことですかぁ。西住殿のことです、きっと戦車道に力を入れている大学へ進学されるはずですが、有名なのは六大学もありますね。迷うのも分かります」

沙織「そうそう」

優花里「……分かりました。ありがとうございます、武部殿」

沙織「あ、うん。い、今ので納得できたの?」

優花里「はい。何も問題ありません。それでは」

沙織「ゆかりん……?」

麻子「私も帰る。沙織、またな」

沙織「うん。またねー。さてと、食材買ってかえろーっと」

武部宅

沙織「ふんふふーん」

みほ「ただいまー」

沙織「あ。おかえりー。みぽりーん」テテテッ

みほ「あ、お邪魔しますのほうがいいよね」

沙織「ただいまでいいよぉ。帰ってくるの結構早かったね」

みほ「そうかな? もうすぐ9時だけど」

沙織「ごはんはできてるけど、先にお風呂にする? 戦車乗ったあとそのままバイトいったから、臭いとか気になるでしょ?」

みほ「う、うん。実はそうなの」

沙織「じゃ、まずはお風呂ね。さー、ぬげー!!」

みほ「きゃー!? ちょっと、沙織さん!!」

沙織「さっさとお風呂いってこーい。こっちはお腹ペッコペコなんだからぁー!!」

みほ「すぐにはいってくるからぁ!! 無理やり脱がさないでー!!」

沙織「はい、タオル。しっかり温まってね」

みほ「ありがとう。何から何まで……」

みほ「はむっ」

沙織「どう? 今夜のディナー」

みほ「美味しいっ」

沙織「でしょー? まぁ、手料理は男を落とすためには基本中の基本だからねぇ」

みほ「これも、おいしい。やっぱり、沙織さんの料理は食べるだけで笑顔になれるね」

沙織「明日のご飯は何がいい? 今ならみぽりんのリクエストになんでも答えるけど」

みほ「ええと、なんでもいいよ。沙織さんの料理ならなんでも」

沙織「てーいっ」ペシッ

みほ「いたっ」

沙織「そういうのが一番ダメなの。なんでもいいなんて嬉しくないんだから」

みほ「んー……。それなら、和食がいいかな。魚とお味噌汁みたいなの」

沙織「和食。私の得意とするものを選んだわけかぁ。食べたらあまりの美味しさに失神するかもね」

みほ「それはちょっと嫌だなぁ」

沙織「ふふん。私に和食を注文したこと、後悔させてあげる」

みほ「あはは。なんか怖いよ」

みほ「ごちそうさまでした。食器は私が洗うね」

沙織「いいって、いいって。みほはバイトで疲れたでしょ? 休んでて」

みほ「でも、これぐらいは」

沙織「じゃ、一緒に洗う?」

みほ「うん!」

沙織「さぁー。やるぞー」

みほ「よいしょ……。お皿は私がやるから」

沙織「……ねえ、みぽりん?」

みほ「なに?」

沙織「学費と寮費全額免除を断ったってことはさ、みぽりんはお母さんと話す気なの? アルバイトだけじゃどうにもならないんだし」

みほ「……」

沙織「私とこうして一緒に住むことを選んでくれるなら、それはそれでいいんだ。私もみぽりんとなら一緒に住んでもいいよ。ただ悩んでるなら……相談してほしいというか……」

みほ「……正直、なんで断ったのか自分でもよくわからなくて」

沙織「え?」

みほ「沙織さんに負担をかけるだけの生活を続けるより、断然いいはずなのに。なんで断ったんだろうって、今更思ってて……」

沙織「それって、やっぱりみぽりんがお母さんと話したいってことじゃない?」

みほ「……」

沙織「今日ぐらい、電話してみたら?」

みほ「……」

沙織「でもさぁ、みぽりんは嫌なんでしょ、こうしてるの。私だって、ずーっと申し訳なさそうにしてるみぽりんは見たくないよ」

みほ「……ごめんなさい」

沙織「みぽりん……」

みほ「怖いのかも」

沙織「怖い?」

みほ「お母さんにもう自分の子どもじゃないっていわれるのが……怖いのかも……」

沙織「な……」

みほ「ごめんなさい……」

沙織「……あ、洗おう。ほら、みぽりん」

みほ「うん……」

沙織「テキパキ手をうごかして、みぽりん!! ほらほらー」

沙織「電気消すね」

みほ「うん……」

沙織「よしっ。おやすみー」

みほ「やっぱり今日はフローリングで寝るから」

沙織「いいじゃん。折角、二人で寝られるベッドなんだからさぁ」

みほ「だけど……」

沙織「みぽりんは私のペットでしょ。言うことききなさい」

みほ「そうだった」

沙織「ねー、考えたんだけどさ、やっぱり現状を打破するにはみぽりんがお母さんと話すしかないと思うんだぁ」

みほ「分かってるけど、それは……」

沙織「怖いことなんてないよ」

みほ「沙織さんは私のお母さんのことを知らないから、そう思えるんだろうけど……」

沙織「何の話?」

みほ「え?」

沙織「確かに私も毎日電話やメールで大好きだよって言ってくれるお父さんが、次の日から嫌いだーとかお前は俺の娘じゃないとか言ってきたら、多分暫くは立ち直れないかなぁ」

みほ「……」

沙織「でも、私が元気なくなったら、きっと不器用なりに麻子も心配してくれそうだし、華なんて花を持ってきてくれそうだし、ゆかりんだって色々気にかけてくれるのは間違いないでしょ」

みほ「うん」

沙織「みぽりんは私のこと必死に元気付けてくれる?」

みほ「あ、当たり前だよ」

沙織「だよね。だったら、時間はかかってもどん底にいてもきっと立ち直れると思うんだ。こんなに良い友達がいるのに、いつまでも落ち込んでいられるほうが不思議だもん」

みほ「沙織さん……」

沙織「だから、もし、もしもだよ? みぽりんのお母さんが何か酷いこといってみぽりんが落ちそうになったら、私が、華が、ゆかりんが、麻子が、みんながみぽりんを引っ張り上げるよ」

沙織「どんなにみぽりんが泣いてたって、絶対に笑わせるから。約束する。つか、みぽりんのこと一生養ってもいいよ!」

みほ「……」

沙織「それぐらいのことはしてあげるからさ、お母さんと話してみなよ。これだけ後方支援があれば何も怖くないじゃん?」

みほ「……」ギュッ

沙織「みぽりん……?」

みほ「沙織さん、そのときは傍にいてくれる?」

沙織「私はいつでも傍にいるよ、みぽりん」

翌日 大洗女子学園

みほ「ふぅー……ふぅー……」

沙織「みぽりん、落ち着いてぇ」

麻子「あの調子で電話ができるのか」

華「もうかれこれ5分以上は携帯電話と睨み合っていますね」

みほ「ふぅー……ふぅー……」

沙織「そこを押すだけだから、みぽりん」

みほ「えいっ!!」

沙織「押せてないよ!! みぽりん!!」

みほ「やぁ!!」

華「いつになったら電話ができるのでしょうか」

沙織「こうなったら……。みぽりん!! パンツァー……!!」

みほ「フォー!!」ピッ

沙織「よし!! 押した!!」

みほ「押しちゃった!?」

みほ「……出ない」

沙織「えぇ……うそー……」

みほ「やっぱり、私の電話には出たくないんだと思う。これが答えなんだよ」

沙織「それは……」

麻子「もう一度だ」

みほ「え……」

麻子「何度もかけたほうがいい。繋がるまでかけたほうがいい」

沙織「麻子……」

麻子「西住さん、そのままだと絶対に悔やむことになる。あのとき、話していればよかったって、絶対に思うから。だから……」

みほ「……」

麻子「何度でもかけたほうがいい。こっちには用件があるんだ。諦めないでくれ」

みほ「うん。かけてみる」

華「そのほうがいいと思います」

沙織「ネバーギブアップだよ、みぽりん」

みほ「うん!!」

みほ「ダメみたい……」

沙織「よし!! じゃあ、お姉さんにかけてみよう!! お姉さんからお母さんに繋いでもらえばいいんだよ!!」

みほ「……やってみる」ピッ

華「お姉さんは応じてくれるでしょうか」

麻子「……」

みほ「あ、もしもし。お姉ちゃん」

まほ『どうした?』

みほ「あ、あの、お母さんと話したいんだけど、どうしたらいいかな?」

まほ『お母様はみほと言葉を交わすことはない』

みほ「そ、そう……なんだ……」

まほ『用件はそれだけか?』

みほ「お、お姉ちゃんから……頼んでも……?」

まほ『無理だ。お母様のことはみほもよく知っているだろう』

みほ「うん……そう……だね……」

まほ『残念だけど、諦めてほしい』

みほ「……」

まほ『もういいか?』

みほ「あ、うん……」

沙織「ダメ!!!」

みほ「沙織さ――」

沙織「貸して!!」

みほ「あ……」

沙織「もしもし!! 武部沙織ですけど!! 通信手やってます!!」

まほ『なんだ?』

沙織「みほがどれだけ勇気を振り絞って電話したと思ってるんですか……」

まほ『……』

沙織「みほがどれだけ不安を抱えながら電話をかけたと思っているんですか?」

まほ『……』

沙織「みほが!! どれだけ怖がっていたのか!! お姉さんにはわからないんですか!?」

みほ「沙織さん、もういいから……私は……もう……」

沙織「仕送りがなくなって、みほはずっと怖がってたんですよ!? それでも私たちには一言も相談しないで、隊長までやってくれたんです!!!」

まほ『……』

沙織「みほは黙って現実を受け入れて、アルバイトだって必死にやってたんですよ!! 恥ずかしがり屋のくせにクラスメイトに働いているところを見られても我慢してたんです!!!」

まほ『そんなこと……』

沙織「そんなこと!? そんなことってなによ!? お姉さんならもっとかけてあげる言葉があるはずなのに!!!」

みほ「沙織さん、やめて。もういいよ。ありがとう」

沙織「よくない!!」

みほ「さ、おりさん……」

沙織「昨日、あんなに震えてたじゃん!! 本当だったら逃げ出しててもいいのに、みぽりんはちゃんと戦ってきた!! なのに、相手が逃げるなんて、私は絶対に認めないんだから!!」

華「……沙織さんの言うとおりです」

みほ「華さん……」

華「みほさんは逃げなかった。生徒会の厚意を捨ててまで、みほさんは立ち向かおうとしていたはずです。それで相手が姿を見せないなんて、あってはなりません」

麻子「私も同じ気持ちだ」

みほ「みんな……」

沙織「いいから!! みほとお母さんに話しをさせてよ!!! 話しぐらいさせてあげてよ!!!」

まほ『……』

沙織「聞いてるの!? もしもーし!!!」

みほ「沙織さん、電話代わって」

沙織「でも、まだなにも」

みほ「いいから」

沙織「……はい」

みほ「ありがとう。……お姉ちゃん?」

まほ『……』

みほ「私は、大丈夫だよ」

まほ『みほ……』

みほ「こんなに素敵な友達がいるから……。なんとかやっていけると思う。ううん、絶対にやっていける」

まほ『いいの?』

みほ「うん。また試合で会おうね」

まほ『……ああ。また会おう』

みほ「ありがとう。お姉ちゃん」

沙織「みほ……」

みほ「はぁー。ありがとう! みんな! もうすっきりしたから!」

華「ですが……」

麻子「西住さん、諦めるな」

みほ「諦めたわけじゃないよ。これが答えだから、いいの。私は西住流のやり方にはついていけなかった、だから勘当された。それだけだよ」

沙織「ダメ!! もう一回! もう一回だけ電話してみよ!! ね!?」

みほ「さ、もどろ。次は戦車道の授業だし、急がないと」

麻子「一生、悔やむぞ?」

みほ「覚悟はできたから」

麻子「……」

華「行きましょう、麻子さん」

麻子「分かった」

沙織「……」

みほ「沙織さん、ほら、早くっ」

沙織「おかしい!! おかしいよ!! なんでみほが納得してるの!? 私が納得してないのにみほが納得しないでよ!!!」

みほ「もういいの……ありがとう……」

沙織「ふざけないで!! 私は怒ってるんだよ!?」

みほ「ごめんなさい……」

沙織「あんなに怯えてたのに!! 苦しんでたのに!! なんでよぉ!!! 勝手に納得しないで!!」

みほ「沙織さん……」

沙織「かってに……納得しないでよぉ……」

みほ「本当にありがとう。沙織さんがいるから、怖くないよ」

沙織「そんなの……!!」

みほ「嘘じゃない。沙織さんが傍にいてくれるだけで、私には十分」

沙織「……」

みほ「ね? ほら、いこうよ」

沙織「うん……」

みほ「あぁ、走らないと遅刻しちゃうかも」

沙織「そうだね、急ぐよぉ」

みほ「うんっ!」

格納庫

桃「遅いぞ!!」

沙織「すみませーん!!」

みほ「すぐに乗ります!!」

桃「全く!」

沙織「みんな、ごめーん」

麻子「別に待ってない」

みほ「すぐに出発しましょう」

華「あのぉ、優花里さんはどこに?」

沙織「え? いないの?」

麻子「既に乗っていると思ったが、いなかった」

沙織「三度のごはんよりも戦車のほうが好きなゆかりんがいないなんて」

みほ「風邪かな?」

桃「何をモタモタしている!!! さっさと出ろ!!!」

みほ「は、はい!! パンツァー・フォー!!」

放課後

桃「今日の訓練は終了する!」

桂利奈「おつかれさまでしたぁ!!」

沙織「結局、ゆかりんはこなかったね」

華「今日は朝からお休みだったのでしょうか」

麻子「だろうな」

みほ「それならあとでお見舞いに行かない?」

沙織「いいね。そうしよっか」

杏「あー、秋山ちゃんは病欠じゃないよ」

華「そうなのですか?」

桃「とある仕事を秋山に依頼した。帰ってきたらまた報告してやろう」

みほ「そうなんですか?」

杏「今日はもう家におかえりぃ」

みほ「はい。お疲れ様でした」

沙織「お疲れ様でした」

武部宅

沙織「それでこれからはどうするの?」

みほ「あ、えと、あの……沙織さん……」

沙織「なに?」

みほ「私をペットとして養ってください……」

沙織「いや、そんなことしないってばぁ。普通に二人で暮らそうよ」

みほ「私、色々迷惑かけちゃうと思うけど……その……」

沙織「大丈夫だよ。みぽりんのためならなんでもしてあげるから」

みほ「はぁ……でも、私……完全にヒモだよね……」

沙織「えーと、それはまたこれから考えればいいじゃん? あと生徒会にもう一度頼みこむのも手だし」

みほ「それしかないよね。やっぱり」

沙織「そうだ! 寮費も免除ってことはさぁ、みぽりんがここに住めば私の寮費も無料になるのかなぁ?」

みほ「それは無理だと思うな」

沙織「えー!? なんでよぉー!?」


ピリリリ……ピリリリ……

生徒会室

優花里「秋山優花里、ただいま戻りました!!!」

杏「おかえりぃ。どうだった?」

優花里「接触するまでが一番大変でした。でも、西住殿のお母さんには私たちの想いと西住殿の努力は伝わったようです」

桃「そのために会長は事前に西住の様子を調べていたのだからな」

柚子「西住さんもがんばったんだから、これぐらいのご褒美はないと」

優花里「でも直接話してみて思ったのですが、西住殿のお母さんは既に認めていたようにも思えます」

杏「それじゃ、余計なお世話だったってこと?」

優花里「私はそう思います。きっと、お互いに話すきっかけがなかっただけなんですよ」

桃「それで、秋山。西住の母親は電話をすると約束してくれたのか?」

優花里「はい! ただ煮え切らなかったので私のほうが少し感情的になってしまいましたぁ」

杏「おぉー。秋山ちゃんがキレたところは見てみたかったなぁ」

優花里「やめてくださいよぉ」

柚子「秋山さんがそれだけ真剣だったってことよね」

優花里「真剣にもなります!! あんなにも西住殿は追い詰められていたのですから!! 見ているこっちが辛かったですよぉ!!」

数日後 日曜日

沙織「よっしゃー!! 今日は流行のファッションを極めるよぉ」

みほ「あと、今日は牛肉がお買い得なんだけど」

沙織「それもゲットぉ! 今晩は豪勢にいこー!!」

みほ「うんっ」

沙織「いやぁー。一時はどうなるかと思ったけど、こうして買い物にいけるようになってよかったね」

みほ「そうだね……。ちゃんと話せてよかった……」

沙織「麻子もよろこんでたよぉ。あとはみぽりんが私の部屋から出て行ければ完璧だね」

みほ「それは、もう少しあとになるかな」

沙織「そうなんだぁ。まぁ、ずっといてくれてもいいけどね。みぽりん、ペットの犬みたいで可愛いもん」

みほ「えぇ!? そんなぁ!?」

沙織「冗談だよぉ、冗談。さぁ、目当ての服と食材を目指して、パンツァー・フォー!!」

みほ「あ。ちょっと待って、沙織さん」

沙織「どうしたのぉ? 折角気合いれたのにぃ」

みほ「あ、あそこ……五十鈴さんがいる……」

華「……」

沙織「華、なにやってるの?」

華「沙織さん、みほさん! 恥ずかしいところを……見られてしまいましたね……」

みほ「そのプラカードは……?」

華「みほさんに倣ってルームシェアをしてくれる人を募集しているのです」

沙織「なんで……?」

華「実はお母様と華道の方向性の違いから、勘当されてしまいまして……最低限の貯蓄すらとられてしまい……無一文に……」

みほ「えー!?」

華「わたくし……飢え死にしてしまいそうで……今日は朝食を食べていませんもので……」

沙織「……私の家に来る?」

華「いいのですか!? はぁい!! まいりますぅ!!」

みほ「牛肉、たくさん買わなきゃね」

華「何作るのですか? ハンバーグですか? それともステーキ? うふふ、わたくし、どちらも大好きです」

沙織「早く、仲直りしてよね……もー……」


おしまい。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年02月25日 (水) 23:33:01   ID: wfOvwLMi

続こうよ、良かったもの

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