結衣「ヒッキーはそんなことも分からないの?バカだね」 (150)

“やはり俺の青春ラブコメはまちがっている”のSSです

甘くなくて苦いです

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同調主義について


                             比企谷八幡

同調主義とは罪であり、悪である。
日本人は小学校はおろか、幼稚園のころから“みんな仲良し”という名の同調主義に毒されている。
人間には好き嫌いというものがあり、しかし教師はそれを押し込めて“みんな仲良し”でいることが正義であるかのように嘯く。
だが、例え教師が学校という名の閉鎖された世界の上位種であったとしても、生徒たち全ての行動を監視できるはずがない。

同調主義を生徒に強要し、学校という名の閉鎖的世界すら監視できない教師に一体何を守ることが出来るというのか。
そして教師が教えるその同調主義の最たる悪癖がいじめ、である。
現代の中国政府による民族浄化・近代のナチ党によるユダヤ人迫害・日本最古の歴史書である古事記など。
これらは同調主義の強要によって生じる無思惟主義なのだ。
そんな無思惟主義によってもたらされるいじめとはマラリアと同じ撲滅できない病なのである。



言って差し支えないだろう。
ではこのような人間の最悪たるいじめをどうすれば撲滅できるか。
答えは否だ。そんなことできるはずもない。
どこで生じるかも分からぬ人災を制御しようと思うことこそが傲慢であり、エゴなのである。
ならば教師はどうするべきか?
答えは簡単だ。

“みんな仲良く”などという塵芥にもならぬ同調主義を強いるのではなく、異分子との共存方法や異分子の自発的なパーソナルセーフティゾーンの形成方法を教えるべきなのだ。
かつてのフランス哲学家、ブレーズ・パスカルは“人間は考える葦”と言った。
ならば己で考えず、周囲の雰囲気に流される人間など犬畜生にも劣る生き物ではなかろうか。
結論を言おう。





全員バカだ




休日の学校、もはや俺専用と言っても過言ではない職員室の一角で俺は椅子に腰掛けていた。いや俺専用は言いすぎか。
なんたって俺の専用スペースと言えば、教室の俺の席だけだ。
なんせ俺の机は誰も座ろうとしないからな!
夏期講習のとき女子が椅子にハンカチを敷いてから座るくらい俺の席にかかった結界は強力なのだ。
俺もう安部晴明に弟子入りしよっかな?

なんてつい最近のことを思い出しつつ、目の前に座って俺の作文を読むその人を見る。
正真正銘、この一角の主である平塚先生は俺渾身の作文を眺めている。
いつもなら先生渾身のファーストブリッドが飛んで来るはずなのに、待てど暮らせどいつになっても拳は飛んでこない。
金曜日の夜に先生からお呼び出しを受け、教師もあまりいない休日の朝八時に俺は学校に来ていた。

そして件の作文を先生に手渡してからすでに四半刻が経ったと言うのに、平塚先生はいまだに作文を読み続けている。
などと考えていたら先生と目が合った。
そして俺の目を見ながら比企谷、と小さく呟く。
え?俺の目ってそんな目を潤ませるほど焼き魚みたいな目してました?
そんなくだらないことを考えながら俺はあの日のことを思い出す。





八幡「よお」ガラッ

雪乃「あら?てっきり最近出没すると言う不審者が学校に現れたのかと思ったわ」

平塚先生の最近不審者が出没するという注意喚起を受けたかと思えばコレだ。

八幡「どんだけ俺が不審者に見えたんだよ」

雪乃「それを言葉にすると400字詰原稿用紙300枚は必要なのだけれど」

八幡「お前は俺の誹謗中傷だけで本一冊書き上げるつもりかよ」

雪乃「なんなら書いてあげましょうか?」ニコリ





八幡「裁判起こすぞ?石に泳ぐ魚事件起こしてやろうか」

雪乃「問題なのは300枚にも及ぶ誹謗中傷されるあなたの生活態度ではないかしら」

八幡「この学校で俺ほど空気に徹しているやつ、他にいねーよ」

雪乃「それはあなたが自分の意思で空気に徹しているのではなくて、ただ単純に存在感が薄いだけでしょう」

八幡「ち、ちげーよ。第一俺ほど有名な奴他に居ないだろ」

雪乃「“著名”ではなく“有名”と言うあたり言葉をよく心得ているわね」





八幡「お前それ、暗に馬鹿にしてるだろ」

雪乃「“暗に”でなく明確に馬鹿にしているのだけれど……。流石は国語成績三位なだけあるわね」

八幡「自分は首位ですよってか」

雪乃「比企谷くん。紙一重の紙一枚は途方もなく厚いのよ」

八幡「つまり二枚差の俺とお前は限りなく厚いってか」

雪乃「あら?まさかそこまで読み取れるとは思わなかったわ。褒めてあげましょうか?」

八幡「いらねぇよ。昔から誰も褒めてくれねぇから俺は自分自身を褒めるって決めてるんだよ」





雪乃「清々しいほどの自画自賛ね。広辞苑の例文に載せたいくらいだわ」

八幡「うるせぇ。……そう言えばバカと言えばこの部のバカは来てないのか?」

雪乃「その思い出し方はどうなのかしら……。由比ヶ浜さんなら今日も欠席よ、平塚先生から連絡があったわ」

八幡「あっそ。にしてもあのバカ自主的にシルバーウィーク満喫してんじゃねぇよ」

雪乃「そういう言い方はあまり感心しないわね。それに平塚先生が欠席を認めているのだから私たちがどうこう言う問題ではないわ」

八幡「そう言えば由比ヶ浜が前サボってたときは平塚先生怒ってたなぁ」

雪乃「平塚先生が欠席を認めている以上、それ相応の理由があるのでしょう。まぁ部長である私にも理由説明がないと言うのは良くないわね」





彼女らが奉仕部の部長である雪ノ下雪乃の機嫌が最近悪いのには理由がある。
さっきの雪ノ下との会話で出てきた奉仕部の部員である由比ヶ浜結衣がここ最近、部活をサボっているのだ。
正直俺も由比ヶ浜を真似てサボって家でゴロゴロしたい、などと考える日々が続いた。
スクールカーストの最上位グループに属する由比ヶ浜が案件のない日に青春を謳歌すると言うのは時々あった。

だがここ最近の由比ヶ浜は部活はおろか、学校にさえ来ない日々が続いている。
始めはバカのくせに風邪なんて引いてんじゃねぇよ、と思った。
そう思いながら惰性で学校に来ていたが、三日を過ぎたあたりから違和感を覚えた。
そしてついに一週間欠席する日が続き、二週間目の木曜である今日になっても由比ヶ浜が現れることはなかった。
いつもは冷静で放任主義気味の雪ノ下でさえも苛立ちを隠せぬほどである。

普段は冷静な雪ノ下でも苛立っているのだから感情直下型の三浦が苛立たないはずがない。
今週の三浦は教師が一つ飛ばしで指名するほどに荒ぶっていた。
そして三浦のかわりに指名された生徒も恐怖心から意見することはない。
誰だって不発弾を踏みたいなどと思うはずもない。
俺は生まれて初めて他人の登校を心から願った。そして翌日も由比ヶ浜は登校しなかった。
土曜日曜の間、由比ヶ浜にメールをしようか迷っているうちに眠りに落ち、そして翌日の月曜に由比ヶ浜は久しぶりに登校した。

長文は残りあまりないので今度から気をつけます



結衣「やっはろー」ガラッ

三浦「結衣!あんた一週間も学校休んでなにやってんのよ。電話にも出ないし……」タタタッ

結衣「あはは。ごめんね、優美子。なんか身体がダルくって……」

三浦「あんたただでさえアホなのに……って大丈夫?顔色すっごく悪いんだけど」

結衣「あはは、大丈夫だよ。ちょっと体調悪いけどそろそろ学校に来ないと勉強も不安だしね」ニコリ

三浦「結衣、もし体調悪いなら保健室行く?なんならあーしがついていくけど」

葉山「結衣!体調はもう大丈夫なのか!?メールも電話もないし心配したんだぞ!」ガラッ





結衣「あ、隼人……心配掛けてごめんね?でも大丈夫だから」

どうやらクソイケメンが朝錬を終えて教室に来たらしい。

らしいっていうのは俺がいつも通り俯きながら寝たふりをしているからだ。

葉山「けど結衣が来てくれて安心したよ。もしまだ辛いなら言ってくれよ?」ポンポン

結衣「……い、いやぁっ!」ペタン

由比ヶ浜の悲鳴に地球の自転が一瞬止まる。

葉山「結衣?」





悲鳴に思わずチラ見すれば、へたり込んだ由比ヶ浜と驚いたまま手を虚空に置いた葉山。

そして由比ヶ浜に駆け寄る三浦がいた。

三浦「結衣?いきなりどうしたし?」

結衣「あ、優美子……急に大声出してごめんね。なんか立ち眩みがしちゃった」

三浦「大丈夫?保健室ついていこうか?」

結衣「うん、ちょっと保健室行ってくるね」

葉山「先生には俺から言っておくから心配しなくていいよ。優美子、結衣を頼むな?」

三浦と共に保健室に向かった比ヶ浜がその日、教室に戻ってくることはなかった。




由比ヶ浜たちが出て行った教室は異様な空気に包まれていた。

しかししばらくするとほとんどの生徒たちはいつも通りに雑談を交えている。

だが葉山やその取り巻き達、海老名など由比ヶ浜と比較的親しい人間達は沈黙に耽っている。

いつもは笑みを浮かべるムードメーカーの葉山はなにやら思い耽っているようだ。

取り巻き達はそんな葉山に遠慮して沈黙を保ち、お調子者の戸部ですら沈黙を守っている。

担任より少し遅れてきた三浦もやはり深刻そうな顔で、教師達の恐怖の日々はまだ続くらしい。

そしてその日、由比ヶ浜は教室にも部活にも来ることはなかった。




再び由比ヶ浜結衣が学校に訪れたのは翌週の月曜日のことである。

いや、“ことである”という言葉は適当ではない。なぜなら由比ヶ浜は教室に現れなかったのだから。

月曜日の朝のショートホームルームを終えた直後、クラスの上位層にいる三浦が文字通り駆け出していったのだ。

三浦はSHRと1限目の短い時間をどこで過ごしたのか、不機嫌と形容するには複雑すぎる顔で戻ってきた。

コミュニケーションの100%を顔や仕草、言語以外を介して会話に交わるプロの俺ですら言い表すことのできないような顔だった。

強いて形容するのであれば、怒り・憎しみ・悲しみ・苛立ちと言った負の感情を凝縮してプレスしたような顔であった。

一限目と二限目の休憩時間、二限目と三限目の休憩時間やその次、果てには昼休憩までどこかに向かって行った。

だが終に三浦の顔が晴れることはなかった。





放課後、二週間ぶりとなる奉仕部全員の部活動とはならなかった。

由比ヶ浜が登校したと言う噂をどこかで聞いたのである雪ノ下は柄にもなく落ち着かない様子であった。

俺が部室に現れた時、雪ノ下はすでにそこにおり平然とした顔を作り、読書をしていた。

平然を作った、と形容したのは間違いではない。

なぜなら俺が席についてから雪ノ下の持つ本は終に一度も捲られることはなかったのだから。

そして部室のドアがゆっくりとスライドした。

文句を口に溜めた雪ノ下は言葉を飲み込む。

そこに居たのはまだ顔を見せぬ由比ヶ浜結衣ではなく、顧問の平塚静であり、雪ノ下は別の言葉を吐き捨てる。




雪乃「……また、由比ヶ浜さんは欠席ということでしょうか」

平塚「そうだ」

八幡「………………」

誰かの奥歯の歪む音が聞こえてきた。

雪乃「……いくら顧問である平塚先生が認めているからとはいえ、部長である私に半月も無断で欠席するのはいかがなものなのでしょうか」

それは雪ノ下にしては歪みのある棘を含んだ言葉だった。





平塚「もちろん友達である雪ノ下に直接言わず部活を長期的に休むというのは褒められたことではない」

雪乃「別に由比ヶ浜さんと私が友達であるかないか、というのは問題ではありません。今問題なのは断りもなく部活を休み、さらにそれを諌めるべき立場にいる平塚先生がそれを黙認しているのが問題だと言っているのです」

平塚「改めてもちろん良くはない、と思っている。だがわたしは事情を知る教師として女として由比ヶ浜を責めることはできない、と言っておこう」

雪乃「それはつまりこのまま由比ヶ浜さんの欠席を容認すると言うことですか」

平塚「そうは言っていない。だがこれは私の口から話す問題ではないと言っているんだ」

雪乃「それは由比ヶ浜さんから直接聞けということでしょうか」

雪ノ下は平塚先生を睨む。





平塚「そういうことだ。物事には時間と言うものも大切だ」

雪乃「それは弱者が問題を先延ばしにするための言い訳では?」

平塚「そうだな。確かに時間と言うのは言い訳かも知れない。だがそれを必要としている人間もいるということだ」

雪乃「納得いきません。訳は言えぬ、されど事は察せよ、というのは奉仕部に対して失礼でしょう」

平塚「だがそれでも待て、としかわたしは言えないな。もしどうしても聞きたいというのであればそれは直接由比ヶ浜に聞くべきことだ」

雪乃「そうですか、わかりました。ならば今から私たちが直接由比ヶ浜さんに話を聞きに行くだけです」

雪ノ下はそう言って身支度を済ませ立ち上がる。そして“早くしなさい、この鈍間”と目が言っている。




雪ノ下に促され、立ち上がろうとしたところで水を差された。

平塚「いや、h…今行くのはおすすめはできないな」

水を差された雪ノ下は終に睨みつける。

雪乃「話は由比ヶ浜さんに直接聞きなさい。けれど今は行くことを許さない。というのはあまりに理不尽ではありませんか?」

雪ノ下のフラストレーションはピークに達したらしい。俺に向けたこともないような苛立ちを平塚先生に向ける。

平塚「確かに理不尽かもしれない。だがわたしの言葉はエゴではなく、由比ヶ浜のことを思ってのことだと理解してほしい」

このままでは埒が明かない。今の空気を継続すればしまいには雪ノ下の苛立ちが俺に向けられるのは明白である。

故に仕方なく、口を開く。





八幡「平塚先生の言うことはわかりました。ただ流石に先生の言葉は横暴すぎます」

平塚「………………」

自覚があるのか平塚先生は閉口する。雪ノ下?あぁ、滅茶苦茶不満げな顔で俺を見てる。

八幡「平塚先生。雪ノ下たちは静観するべきなのか、それとも話し合うためにはどうするべきなのか、くらいは教えてくれてもいいんじゃないっすか?」

平塚「……うむ、しかし」

雪乃「………………」

八幡「別に雪ノ下は由比ヶ浜を理不尽に罵倒しようとしているわけじゃない。由比ヶ浜の力になりたいって言っているんですから、ヒントくらいあげてもいいと思いますけど?」





途中、別に由比ヶ浜さんの力になりたいというわけではないのだけれど、などと雪ノ下がブツブツと呟いていたような気がするが、しばらくの沈黙の後平塚先生は決意する。

平塚「……それもそうだな。生徒の自主性を尊重するのも大切なことか」

そう自問自答し、俺を一瞥してから雪ノ下に向けて口を開く。

平塚「そうだな。答えはわからないが、わたしから雪ノ下に言えるとすれば、由比ヶ浜と一対一で誠実に向き合え、としか言えないな」

健闘を祈る、と告げて平塚先生は部室を後にした。

雪ノ下は急用が出来たわ、と言って平塚先生の後を追った。

俺?俺は部室の戸締りを終えて愛する妹の待つ家に帰った。





翌日、由比ヶ浜結衣は普通に登校して、普通に教室に入ってきた。

結衣「……や、やっはろー」

といつものように間抜けな挨拶で教室に入り、駆け寄る三浦らと談笑する。

教室に入ってきたのだから部室にも来るだろう。

あぁいつもみたいに間抜けな声で取り止めもないことで笑い声を上げる。

俺はいつも通り寝たふりをしてクラスの空気に徹することに励む。

依然と変わりのない日常を送ることになる。

とはならなかった。




火曜日の放課後、部室に向かうとすでに雪ノ下が読書に励んでいた。

気の抜けた事務的な挨拶を交わして俺も読書に励む。

刻一刻と時間は過ぎて行き、気付けば完全下校時間が目前に迫っていた。

そして下校時間を告げるチャイムがなったというのに雪ノ下雪乃は一向に帰る身支度を始めない。

俺は帰り支度を素早く終えて立ち上がる。

……あの、と雪ノ下が俺を呼ぶ声が聞こえた。天変地異か?

部室に来てから雪ノ下が何度も口を開いては閉じる、という動作を繰り返していることを俺は知っている。

悪いけど、しばらく部活休むわ、と告げて俺は部室から出て行く。

ごめんなさい、と誰かが呟いたような気がするが気のせいだ。なんせおれはボッチだからな。




あれから一週間が経った。

授業が終わってからすぐに帰宅するという生活にも慣れた。

いや、元々依頼が来なければ読書をするだけの部活だったのだから慣れるというのも間違っている。

むしろ自由に飲食でき、寝転がったり出来る自宅のほうが快適ですらある。

そりゃそうだ。なんせ俺にとっての安住の地は自宅だけであり、玄関を開ければそこはアウェーなのだから当然快適だ。

一週間部活をサボっても平塚先生に呼び出されることもなく平和だ。

平和と言えば奉仕部が誇るアホの子である由比ヶ浜はあれから自主休校をすることもなく学校に来ている。

平塚先生に叱られているときにボソッと由比ヶ浜が部活に来ていると呟いていたような気がしないでもない。





由比ヶ浜はいつも通り三浦や葉山と言ったスクールカーストの上位グループで意味もないようなことを実に楽しそうに過ごしている。

俺も特段変化はないが、あえて変わったことと言えば、家でゴロゴロとしていると小町に“お兄ちゃんが終に部活をクビに?”という懐疑の視線を送るようになったことくらいだ。

だが生憎、懐疑や好奇の視線に晒されなれている俺にとってはそんなこと些事でしかない。

しかし一つ、由比ヶ浜のことで大きく変化したことがある。

それはスクールカーストの上位に値する由比ヶ浜結衣が好奇の視線に晒されるようになったことだ。

ある日、三浦がキレた。

文字通り盗み聞きすれば、クラスの男子が由比ヶ浜のことを口にしたらしい。





ある程度見れる容姿をしてカースト上位に位置する由比ヶ浜が時折話のネタになることはあったので、今までを鑑みれば三浦のそれは過剰なものであった。

三浦は由比ヶ浜を拉致してそのまま一限をサボった。

そしてそんな由比ヶ浜についての噂が一つ、流れるようになった。

それは由比ヶ浜結衣が痴漢にあった、と言うものである。

ボッチの俺に出すら耳にしたのだから異性同性と戯れることに重きを置く生徒たちは一度は耳にしたことだろう。

それが事実なのか否なのか、というのは瑣末な問題であった。

知名度の高い人間は良し悪しを別にして噂になりやすいものであった





もちろん由比ヶ浜も例外ではない。

三浦が視線過敏症になり、それに噛み付くようになった。

だが好奇の視線と言うのはリアクションに貪欲である。

日に日に視線は厳しいものになっていき、それに比例して由比ヶ浜の笑顔は痛々しいものになっていった。

由比ヶ浜を守るための三浦の防衛反応がより由比ヶ浜を好奇の渦に巻き込んでいくことを三浦は知らない。

由比ヶ浜が痴漢に遭い、それがPTSDとなって学校を休んでいたという噂は事実になり、流布されていくことになる。

全く痴漢の被害者ですらこれほどの噂になるんだから加害者はどれだけ叩かれるのか想像しただけで恐ろしくなるな。


時間がないので続きは明日の22:00から書き始めます





ある程度見れる容姿をしてカースト上位に位置する由比ヶ浜が時折話のネタになることはあったので、今までを鑑みれば三浦のそれは過剰なものであった。

三浦は由比ヶ浜を拉致してそのまま一限をサボった。

そしてそんな由比ヶ浜についての噂が一つ、流れるようになった。

それは由比ヶ浜結衣がララポートで痴漢にあった、と言うものである。

ボッチの俺に出すら耳にしたのだから異性同性と戯れることに重きを置く生徒たちは一度は耳にしたことだろう。

それが事実なのか否なのか、というのは瑣末な問題であった。

知名度の高い人間は良し悪しを別にして噂になりやすいものであった





もちろん由比ヶ浜も例外ではない。

三浦が視線過敏症になり、それに噛み付くようになった。

だが好奇の視線と言うのはリアクションに貪欲である。

日に日に視線は厳しいものになっていき、それに比例して由比ヶ浜の笑顔は痛々しいものになっていった。

由比ヶ浜を守るための三浦の防衛反応がより由比ヶ浜を好奇の渦に巻き込んでいくことを三浦は知らない。

由比ヶ浜が痴漢に遭い、それがPTSDとなって学校を休んでいたという噂は事実になり、流布されていくことになる。

全く痴漢の被害者ですらこれほどの噂になるんだから加害者はどれだけ叩かれるのか想像しただけで恐ろしくなるな。


予定を少し早めて21:00から書きます
胸糞か否かはタイトルから察してもらえれば幸いです

ちょっと早いけど書いていきます

いや好きに書くのは全然構わないんだが、最初に胸糞かどうか書くこともできないの?

>>56 別に胸糞とかじゃないです



火中の栗を拾い、火にガソリンを注ごうとする愚か者は三浦だけではなかった。

ある日、雪ノ下雪乃が2-Fにやってきた。

やってきた雪ノ下の手を繋ぎ、不審者をそれで見られながら廊下に雪ノ下雪乃を連れ出した。

雪乃「軽々しく手を握らないでくれるかしら、セクハラ君。気持ちが悪いわ」

八幡「もはや原型がねぇじゃねーか。せめて名前を弄る意思くらいは見せろよ」

雪乃「全く、用件があるなら手短にしてもらえるかしら。生憎私はあなたに用はないの」

八幡「俺も別に噂の種になんかなりたくねぇよ。さっさと用件を言うぞ。止めとけ」




雪乃「何を止めろというのかしら?全く意味がわからないわ」

八幡「はぁ……あのな、今お前が由比ヶ浜と接触してもカワイソウなヒロインにしかならねーんだよ。余計なことはするな」

雪乃「つまり由比ヶ浜さんには会うな、ということでいいのかしら?」

八幡「そういうことだ」

雪乃「無理ね。というわけでそこをどいて頂戴」

八幡「俺は別に由比ヶ浜に意地悪をしたくて言ってんじゃねーんだよ」

雪乃「そこまで言うからには確証があるということかしら?」





八幡「そうだよ。いいか、これは俺の友達の話なんだがな……」

雪乃「つまりあなたの実体験ということね」

八幡「おいやめろよ。言いにくくなるだろうが」

雪乃「いいから続きを言いなさい」

八幡「……はぁ、いいかとあるH君の話なんだが、彼は言われもないことを噂されるようになった」

雪乃「………………」

八幡「彼は誤解を解こうと努力した。けどな、誤解っていうのは一度解が出てるから噂をする当人からすれば真偽は瑣末なことなんだよ」





雪乃「……それで?」

八幡「それでってどういうことだよ」

雪乃「Hくn……比企谷君はどう対処したのかしら?」

八幡「お前人が折角ぼやかしたのに……まぁいいや。どうもしなかった」

雪乃「……?つまりどういうこと?」

八幡「人の噂も七十五日って言うだろ。つまり何もせずに噂が流れるまで放っておけばいいんだよ」

雪乃「それでは解決策とは言えないのではないかしら?」





八幡「何もしないっていう解決策だろ。要は時間が解決してくれるってことだよ」

雪乃「……真面目に聞いて損をしたわ。全く役に立たないわね」ハァ…

八幡「経験上放置するのが一番いいってことだな。もしくは……」

雪乃「もしくは?」

八幡「今流れている噂以上の何か他の噂が立つか、だな」

雪乃「そんな都合良く噂なんて立つかしら?それに由比ヶ浜さんの噂以上に大きな噂、と言っても具体的ではないわね」

八幡「具体的に、か。そうだな……例えば平塚先生が結婚する、とか?」





雪乃「………………」

八幡「………………」

雪乃「……無理ね」

八幡「……無理だな」

2人でため息を吐く。

八幡「……まぁ、とにかくだ。今お前が教室に行っても由比ヶ浜を好奇の渦を大きくするだけだってことだ」

雪乃「何か方法はないのかしら……」





八幡「ないな。仮に他の方法があったとしてもお前には無理だ」

雪乃「なぜ無理だと断定できるのかしら?」

八幡「だって俺もお前も友達いないだろ。噂っていうのは人の口から流れるものであって友達の居ない俺らに噂は向いてない」

雪乃「………………あなたと一括りにされるというのは非常に、非常に屈辱的なのだけれど、致し方ないわね」

八幡「まぁ教室では三浦や葉山辺りが由比ヶ浜を守るだろうし、お前は部活で由比ヶ浜の話でも聞いてればいいんじゃねーの」

雪乃「……あなたに諭されるというのはどうしてこれ程屈辱的なのかしらね」

雪ノ下はそう呟いて自分の教室に戻って行った。






八幡「誰もいねぇ……」

昼休憩の終わった次の授業、俺は誰も居ない教室で一人呟く。

時計を見れば授業の真っ只中だ。

そして黒板を見れば大きく『次の授業移動教室』と書かれている。

どうやら教室に取り残されたらしい。

きっと授業が終わったら戸塚が『は、八幡ごめんね。八幡が寝てることに気付かなくて』と涙目になって謝りにきてくれるに違いない。

既に授業は終盤に差し掛かり、今授業を受けに行っても欠席扱いになってしまう。

ならば叱られてまで授業に出る必要もない。

俺は誰もいない教室で机に落書きして回りながら時間を潰すのであった。





あの後、涙目になって謝ってくる戸塚に癒されて、その日の授業を乗り切った。

それからも授業を受けて放課後に直帰するという生活を繰り返した。

週の半ば辺りから小町のうわぁ……お兄ちゃんとうとう由比ヶ浜さんにも見捨てられたんだね、という憐憫の視線を向けられたが慣れてしまった。

由比ヶ浜の笑顔は相変わらず痛々しかったが、ある日を境に元のアホっぽい笑顔を見せるようになっていった。

別の噂が流れ始めた、というのもその一因なのだろう。

仕込まれた画鋲の数だけ強くなり、授業中にぶつけられた消しゴムの数だけ涙を呑んで俺は一回り大きな男になった。

そして俺たちはターニングポイントを迎えることになる。





ある日の昼食時、由比ヶ浜はいつものメンバーで食事をしていて俺は不意に三浦と目が合った。

すると三浦は鬼も逃げ出しそうな顔で立ち上がり、こっちを睨みつける。

修羅のような顔で足音を立ててこちらに近付いていき、ついに俺の目の前で止まった。

三浦「ヒキオあんたさぁ。さっきからこっち見てマジキモいんだけど、あーしらに何か言いたいことでもあんの?」

こひゅっと我ながら変な声が出た。

八幡「べ、別になんもねーよ」

三浦「何もないのにあーしらのこと見てたってこと?それとも結衣のことでも見てたとか?どういうつもり?」




葉山が立ち上がる姿が見えた。

八幡「そ、そんなの言いがかりだろ。ただなんか喋ってるって思ってそっち見ただけだよ」

どもりながら喋っていると葉山が止めに入ってきた。

葉山「優美子。ヒキタニ君が驚いてるしやめておこう」

三浦「は?隼人は悔しくないわけ?結衣があんな目に合ってんのに、こいつはヘラヘラ笑ってんだよ?」

葉山「今結衣のこととヒキタニ君は関係ないだろ。ヒキタニ君もいきなり突っかかってごめんな?ほら、頭冷やせ」

八幡「……俺が何したって言うんだよ」ボソッ





三浦「は?今なんて言った?」

葉山「落ち着いて話をしよう、ヒキタニ君」

八幡「……俺が何をしたかって聞いてるんだよ」

三浦「あんた自分がどんなことしたか知っててんなこと言ってるわけ?」

葉山「優美子!やめろって言ってるだろ!」

八幡「そのどんなことを言えって言ってんだよ」

三浦「……あんたって罪悪感もないわけ?もういいし。結衣や隼人が止めるから黙っててあげたけど反省もしないならあーしにも考えがあるよ」

八幡「ふんっ。どうせ口だけだろ。どうせ弱い者イジメして楽しんでんだろ」




葉山「2人ともやめろって言ってるだろ!」

葉山の制止も空しくヒートアップした三浦は口を開く。

三浦「あんたが結衣に痴漢したって知ってんだよ!違うんだったら何とか言ってみなよ!」

八幡「はぁ?由比ヶ浜に痴漢?俺が電車で?そんなの知らねーよ!」

葉山「優美子もいい加減にしろ!頭を冷やせ!ちょっとこっちに来い!」

そう言って葉山は三浦の手を引き、教室から出て行った。

比企谷君、後で話がある、と言う置き台詞を忘れずに。




葉山「2人ともやめろって言ってるだろ!」

葉山の制止も空しくヒートアップした三浦は口を開く。

三浦「あんたが結衣に痴漢したって知ってんだよ!違うんだったら何とか言ってみなよ!」

八幡「はぁ?由比ヶ浜に痴漢?俺が電車で?そんなの知らねーよ!」

葉山「優美子もいい加減にしろ!頭を冷やせ!ちょっとこっちに来い!」

そう言って葉山は三浦の手を引き、教室から出て行った。

比企谷君、後で話がある、と言う置き台詞を忘れずに。





三浦が葉山に連れて行かれた後、教室のざわめきは酷いものだった。

そりゃそうだ。なんたって噂が確証に変わって当事者が教室に残っているのだから、話の種としては最高だろう。

好奇の視線を一身に受けて教室を出る。

途中誰かに名前を呼ばれた気もするが気のせいだ。

授業を受ける気にもなれず、残りの授業は自主休講することにした。

そのまま時間を意味なく過ごし、完全下校時間を告げるチャイムの中教室に戻ると葉山の姿があった。

そして有無を言わせぬ葉山に連れられてやってきたのは屋上だった。





八幡「おいおい。誰も居ない屋上で密会とか海老名辺りが聞いたら噴血ものだぞ」

葉山「冷やかさないでくれないかな、比企谷君。今俺は凄く機嫌が悪いんだ」

そう言う葉山には凄みがあり、いつぞやの時とは桁違いに気が立っているらしい。

八幡「まぁいいや。家には愛する妹が腹を空かせて待ってるから手短にしてくれ」

葉山「今は俺も和気藹々と喋る気分じゃないから率直に聞くよ。なぜあんなことをした?」

八幡「あんなことってどんなことだよ。別に俺とお前はクラスメイトであって意思疎通なんてできる仲じゃないだろ?」

葉山「だからふざけるなって言ってるだろう!なぜあんなやり方しかできないのかって聞いているんだ!」

八幡「ごほ……っ」





胸倉を捕まれて壁に押し付けられた。肺から空気が抜け落ちて苦しい。

これが近頃巷で噂の壁ドンってやつなのか?なら壁ドンに憧れる巷の女子たちはマゾだな。もしくは脳内お花畑だ。

葉山「あくまでしらばっくれるつもりなんだな?なら答え合わせをしようじゃないか!」

八幡「問題もないのに答え合わせなんてあるかよ」

葉山「問題は今の結衣を取り巻く状況だ。結衣は被害者にも関わらず、クラスで好奇の視線に晒されている」

八幡「………………」

葉山「求めるべき答えはどうすれば結衣の噂は払拭されるか、もしくはどうすれば結衣の苦痛は消えるかだ!」

八幡「……で?」

葉山「そして君の出した答えは自己欺瞞だ!あの時から君は全く変わっていないし変わろうとしていなかった!」

八幡「………………」






葉山「君は思った。結衣は痴漢をされて好奇の目に晒されているのなら、それ以上の好奇の対象があればいいのだ、と」

葉山「そして君は思いついた。自分がその対象になればいいのだと。それはつまり、結衣に痴漢した犯人が君であることだ!」

葉山「もし被害者と加害者が同じコミュニティに存在すれば、叩きやすいのは後者だ」

葉山「つまり君は結衣に痴漢した犯罪者と言う存在を作り上げ、好奇の視線を自分に向けた。違うか!?」

八幡「ははは。そりゃすごいな。お前は卒業したら作家や脚本家になるべきだ」

葉山「残念ながら俺は探偵役であって演出家じゃない。そして優美子を利用したことに気付いておきながら、自分が利用されたことに気付かなかった愚か者だ」

八幡「葉山、お前が探偵志望だってことはわかった。けどな、お前はメインキャストであって探偵じゃない」

葉山「つまり自分が首謀者だって認めるっていうことか?」





八幡「違うね。俺はお前の書いたシナリオを論破することが好きなだけの観客だよ」

葉山「どういうことだ」

八幡「もし俺が黒幕だったとして、欠けているものがある」

葉山「………………」

八幡「一つ目は動機だよ。俺が由比ヶ浜に献身してまで助ける理由がない」

八幡「二つ目が絶対的だな。自慢じゃないが俺には友達と呼べる存在が居ない」

八幡「友達の居ない俺がどうやって噂を広めることができるんだ?噂って言うのは火のないところには立たないものだろ?」





葉山「そう、それが分からなかった。君の交友関係はクラスでは戸塚君、部活では雪ノ下さんと結衣、あと材木座君くらいだ」

葉山「戸塚君が人の悪口を吹聴するはずがない。それが友達の比企谷君ならなおさらだ」

葉山「雪ノ下さんも論外だ。公平な彼女が不確定な情報を口にするはずがない。というかもし仮に君が犯人なら君は雪ノ下さんに恐ろしい目に遭わされて今こうして立っていられないだろう」

葉山の中で雪ノ下はどれだけ俺に恐ろしい目に遭ってるんだよ。こええよ、あと怖い

葉山「結衣もするはずがない。もし君が犯人なら脅えるはずなのに脅えないと言うことは違う」

八幡「ちょっと待て、今矛盾があったぞ。由比ヶ浜は電車で痴漢にあったんだろ?なら密着状態で顔を見ずに痴漢されたのかもしれない」

葉山「今の君の発言が正しく君が犯人じゃないと言う証明だよ。彼女はララポートで痴漢にあった」

葉山「学校や彼女の家から一番近い移動手段は電車ではなくてバスだ。つまり君はバスと電車を勘違いしていた」





八幡「もしかしたらわざと間違えたのかもしれない」

葉山「まぁいいさ。今はそういうことにしておこう。材木座君だけれど、彼はまぁいい」

憐れ材木座。今だけは同情してやるよ。

葉山「話を戻そう。交友関係の限られている君では人伝えに噂を流すと言うことができない」

葉山「ならどうやって噂を流したのか。君は書き込んだんだ、机に」

葉山「噂の元を辿っていく内に、俺は噂の源泉を見つけた」

葉山「噂を流した一人に話を聞けば、机に鉛筆で『比企谷八幡は痴漢野郎』と書いてあったらしい」




葉山「それがいつかと聞けば、ある日の移動教室の後かららしいね」

葉山「そう言えば最近、君は登校はしていたのに移動教室だけサボった日があった」

葉山「つまり君は自分自身の悪評を“誰もいない教室で机に落書きして回った”わけだ」

葉山「何か反論はあるかな、ヒキタニ君?」

八幡「……まぁ今の方法なら確かに友達の居ない俺でも噂を流すことはできるだろうな」

葉山「それはつまり認めるということかな?」

八幡「いいや。お前はまだ一つ目の動機を論じていない」





そう問えば、葉山はアメリカ人のように大げさに肩を竦める。

葉山「答えは簡単だよ、比企谷君。それは君、つまり比企谷君だからだ」

八幡「答えになっていないな」

葉山「答えになるさ。君はそれを過去に証明している。千葉村での出来事や、文化祭で君は実行して見せた」

葉山「それこそ君にとっては縁の浅い鶴見さんや相模さんを助けている。なのにより縁の深い結衣を助けないはずがない」

葉山「それに三つ目の理由だ」

八幡「はぁ?俺が言ったのは二つだけだぞ?」





そう問えば、葉山はアメリカ人のように大げさに肩を竦める。

葉山「答えは簡単だよ、比企谷君。それは君、つまり比企谷君だからだ」

八幡「答えになっていないな」

葉山「答えになるさ。君はそれを過去に証明している。千葉村での出来事や、文化祭で君は実行して見せた」

葉山「それこそ君にとっては縁の浅い鶴見さんや相模さんを助けている。なのにより縁の深い結衣を助けないはずがない」

葉山「それに三つ目の理由だ」

八幡「はぁ?俺が言ったのは二つだけだぞ?」





葉山「いいや、三つ目の理由だよ。痴漢をした人間が自分の有罪を必死に証明するはずがないだろ」

あぁ確かに俺の完敗だ。有罪を確定至らしめている噂の流し方を当てられたのなら俺の完敗だ。

だが、やっぱりお前の負けだよ、葉山。

八幡「これが推理小説だったら確かに今のお前の推理なら犯人は認めるのかもしれない。だがお前の負けだ」

葉山「どういうことかな、ヒキタニ君?」

八幡「仮に、だ。お前の推理が当たっていたとしてお前はこれからどうするつもりだ?」

葉山「どうするってこのことをみんなに言って君の汚名を……」



八幡「だからお前の負けだと言っているんだ、葉山」

葉山「………………?」

八幡「仮にお前がこのことを公表したとしてどうなる?折角湿ってきた由比ヶ浜の噂にまたガソリンを注ぐつもりか?」

葉山「……それは」ギリッ

八幡「お前のそれはただの自己満足だ。やっと由比ヶ浜が立ち直ってきたのにお前がまた踏みにじることになるぞ?」ハハッ

葉山「君は……君は自分のせいで結衣が心痛めていることを知っているくせにそんなセリフを吐くのか!?」

八幡「さぁ?少なくとも自分が噂されていた昔と俺が噂されている今なら、今のほうが立ち直っているように見えるけどな」




葉山「俺は君と言う奴がどうしてそういう軽はずみな行動を起こすのが理解できなかった。だけど、今ならはっきりと言える……!」

俺は君のことが嫌いだ、そう吐き捨てて葉山は屋上から去っていった。

取り残された俺はへたり込む。予想よりも葉山の威圧感は凄かった。腰の抜けたまま俺は独白する。

八幡「葉山、やっぱりお前は探偵役じゃなくてメインキャストだよ」

八幡「……探偵役は犯人に犯行を認めさせないと負けなんだからな」

俺は由比ヶ浜の噂を払拭することに重きを置き、葉山お前は俺の汚名を雪ぐことに重きを置いた。

俺は一人の人間の問題を片付けようとして、葉山は2人の人間の問題を片付けようとした。どちらが難しいかなんて明白だ。

俺とお前では最初から戦っているコートが違ったんだよ、葉山。だからお前の負けだ。

今日の分は終わりです
明日Cパートとおまけを書き終わればおわりです

20:00から最後書きます





「おつかれ、ヒッキー」

平塚先生から開放されて職員室を出ると彼女が待ち受けていた。

俺は誰も見なかった。そう記憶を改竄し、愛する妹の待つ家に帰るのだった。

結衣「ちょっと!人がせっかく待っててあげたのにスルーするとかヒドくない!?」

八幡「……お前部活はどうした?」

結衣「今日はお休み!あ、ちゃんとゆきのんと平塚先生から許可は貰ったからね!」

八幡「あっそ。ならお前も帰れば?あのクソイケメンとか金髪ドリルと一緒にプリクラ撮ったりバカみないなことするんだろ?」





結衣「ハヤトくんも優美子も帰ったし!第一金髪ドリルじゃなくてゆるふわウェーブだって言ってんじゃん!」

八幡「俺には一生縁がないから覚えるつもりもねーし」

結衣「もし小町ちゃんがゆるふわウェーブにしたらどうするつもり……?」

八幡「……泣くな。号泣して土下座して元に戻してくださいおねがいしますって懇願する」

結衣「うわぁ……」

由比ヶ浜は割と本気で引いたのか物理的に距離を取って後ずさる。

八幡「俺は帰るから。気をつけて帰れよ。じゃあな」

由比ヶ浜「あ、ちょっと待ってよ!ヒッキー!」





葉山と屋上で口論して一週間が経った。

特段変わったことはないのだが、幾つか変わったこともある。

一つ目に由比ヶ浜の属するグループに目の仇にされていることだ。まぁ噂や葉山との口論を鑑みれば当然のことと言えるだろう。

ただ最初から想定していたことだしあまり精神的なダメージはない。葉山は憐れなクラスメイトを救おうとして、三浦は友達を守ろうとしてしていた。ただ、それだけのことだ。

以前、誤解は間違っていても解は出ていると言ったことがあった。今なら誤った答えでも答えであることに変わりはない、という言葉を付け足そう。

今回の三浦や葉山の行動を答え合わせするなど無粋なことをするつもりもない。

二つ目に俺が奉仕部に復帰したことである。

復帰を言い渡された初日、華麗にスルーしたのだがスマホに平塚先生から鬼のような電話とメールが来た。





しかも無視していると家電にまで掛かってきた。以前ならそんなこともなかったはずなのにな。

三つ目が非常に大変迷惑していることなのだが、由比ヶ浜が物理的に近寄ってくるようになった。

以前は部活で少々話したり、時折メールが来る程度だったが、今では文字通り桁が違う。

日に二桁を越えるメールやラインが飛んできて、さらに最近では電話すら掛かってくる始末だ。

小町に生暖かい目で見られる日々にも慣れたが一つだけ看過できないことがある。

それは学校や教室でも積極的に話しかけてきたりボディータッチが増えたことだ。

それまでは加害者と被害者と言う構図だったのに被害者が加害者に構い出すということで、以前ほどではないにしろ好奇の視線を向けられるようになった。

なんなの?お前ちょっと前までPSTDで苦しんでてイケメンの葉山に触れられただけで脅えてたじゃん。





アホの子っていうのは勉強だけじゃなくPSTDも忘れちゃうのか?なにそれ怖い

結衣「ねーねーヒッキー!」ギュー

八幡「うるさいなぁ。なんだよ」

結衣「なんか甘いもの食べたくなっちゃったしハニトー食べに行こうよ!」

八幡「やだよ。愛する小町の作る晩飯食えなくなるじゃん」

結衣「うわっ!即答だし!しかも理由がキモい!シスコン流行らせすぎると彼女とか出来なくなるってば!」

八幡「うるせぇなぁ……晩飯食えなくなるって言ってるだろ」





結衣「行ーこーうーよ!あ、そうだ!良かったらあたしがご飯作ってあげようか?あれから結構料理勉強したんだよ?」

八幡「なおさらいやだけど。むしろやめてくださいお願いします」

結衣「ひどっ!いくらなんでもヒドすぎでしょ!勉強したって言ってるじゃん!」

八幡「いやだって。カレーに桃入れようとする奴のカレーなんて食ったら腹壊すだろ」

結衣「大丈夫だって!もうカレーに桃は入れないから!」

八幡「どうせあれだろ、桃じゃなくてマンゴーとかスターフルーツとかココナツとかランブータン入れそうだし」

結衣「……ぇ?」





八幡「おいおい、嘘だろ……」

戦慄した。

結衣「だってスターフルーツとか切り口かわいくない?」

八幡「かわいくねーよ。というか入れようとすんな」

結衣「あ、ならヒッキーがカレーの作り方教えてよ!そしたら一石二鳥じゃん!」

八幡「俺は余計な労力使うからいやだね。あとさ、さっきから腕組むのやめてくれないか?」

結衣「え!?もしかしてイヤ!?」ガーン

八幡「イヤとかじゃなくて在らぬ誤解を生みかねないだろうが」





結衣「別にあたしは誤解されてもいいけど?」キョトン

八幡「……もういいや」

結衣「それって腕組んでもいいってこと!?」

八幡「……もう勝手にしてくれ」

結衣「うん、わかった。じゃあ勝手に組むね」ニコニコ

八幡「どうしてこうなった……」

アホ面を晒す由比ヶ浜と帰り道を歩く。





八幡「……そう言えばさ」

結衣「~~~♪ん?なに?」ニコニコ

八幡「いや、言いたくなかったら言わなくていいけど、この前までPTSDだったくせによく腕なんて組めるな」

結衣「PSDS……?新しいゲーム機のこと?」

八幡「はぁ……だから前までは仲の良かった葉山に触れられただけで怖がってたくせに、今はこうして腕組んでるだろ?どういう心境の変化なんだろうと思ってな」

結衣「はぁ……ヒッキーがそれ言うかな……」ボソッ

八幡「え?なんだって?」



結衣「ヒッキーはそんなことも分からないの?バカだね」クスッ

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。




おまけ

平塚「あーあーあー。好きな男の腕組んでニコニコしやがってうらやましいなぁ」ギリギリギリ

平塚「はぁ……わたしも自分のために汚名を被って泥水を啜ってくれるような男があわられてくれないかなぁ……」ハァ…

平塚「大体わたしの何がいけないって言うんだよ……手に職付けているし第一安定した公務員なのに……」グスッ

雪乃「…………はぁ、平塚先生。部室で陰気な空気を垂れ流さないでください」ペラッ

平塚「なぁ、雪ノ下……お前はわたしに何が足りないと思う?」

雪乃「一つ目に生徒達の幸せを見て素直に祝うことの出来ない器量の小ささでしょうか。二つ目は人の幸せを見て自分が不幸だ、不幸だ、と嘆いてばかりいるところでしょうね」クドクドクド

平塚「あぁもう!わかったよ!わかったからこれ以上わたしを苦しませないでくれ!」ウルウル

雪乃「三つ目に自分から行動するのではなく、相手が自分を求めてくるという幻想を抱いてる点。四つ目に自分のことを俯瞰的に見ることが出来ずに現状を嘆くばかり……」

平塚「この話はなしだ!ところで雪ノ下は比企谷と由比ヶ浜を見てどう思う!?」

雪乃「キレ気味に聞かないでください。……そうですね、由比ヶ浜さんの相手がエロ谷くんというのは非常に不服ですが……」





平塚「ですが……?」

雪乃「由比ヶ浜さんが選んだのですから、それこそ外野が口を挟むのは筋違いと言うものでしょう。それに・・・…」

平塚「それに……?」ジー

雪乃「由比ヶ浜さんは私のと……友達ですから、彼女のことを信じなくてどうするんですか///」

平塚「雪ノ下?顔が真っ赤だぞ?」

雪乃「欠点五つ目。思ったことを口にすることです……!」

平塚「ふぁい……。そうだよな……あの雪ノ下ですら成長するんだからわたしも成長しないとなぁ……。胸は一向に成長しないけど」

雪乃「平塚先生?聞こえていますよ?」ニコリ

平塚「あ……」


Fin

と言うわけで終わり

呼び方や改行・間の取り方がおかしくて申し訳ない
二期までに原作読み込んで口調とか直してリベンジするつもり

またSS書き始めたのでこれから今まで放置していたSSとかを手直しして、完結させてから投下するつもりです
まずは俺ガイルや俺妹なんかを修正していくと思います
新しいSSより修正を優先していきます

とりあえず以前俺妹のあやせSSを途中で放置したので今はそれを書き直してるところです

胸糞を期待していた人は申し訳ない
胸糞は苦手なのでホラーや猟奇で代替できればと思ってます

このSSはこれで終わりにしますが、分かりにくかったようなので修正して再度立て直すことにします

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年10月22日 (水) 00:54:30   ID: Xa_Iqqcb

がんばれ。

2 :  SS好きの774さん   2014年10月30日 (木) 14:14:41   ID: Y2xkT8N8

なんか、説明不足というか…

あれからどうやって由比ヶ浜が立ち直ったのか書かれてないし
強引に完結に持ち込んだ感じがする

二週間近く休んでたのにこの心境の変化の仕方はおかしい

3 :  SS好きの774さん   2014年11月11日 (火) 05:56:39   ID: OtLWEx-y

なんて駄作なんだ

4 :  SS好きの774さん   2015年01月08日 (木) 14:30:05   ID: -zsgeK3f

ちゃんと完結してるし、サバサバゆきのんが良かったよ。

5 :  SS好きの774さん   2015年02月28日 (土) 12:24:18   ID: EI5Jz1tH

俺も、この話好きだな。ガハマさんがハッピーエンドって中々無いし。

6 :  SS好きの774さん   2015年11月12日 (木) 21:18:11   ID: 9zJASElu

実際には痴漢にあってないんじゃ?
ヒッキーの気を引きたくて痴漢にあったと嘘をついていた、と考えると納得いく

7 :  SS好きの774さん   2019年10月30日 (水) 00:59:31   ID: -UAcq6Xm

クラスメイト同士が痴漢の被害者と加害者とか余計に関心を集めるだけだし、八幡一人に注目が全て集中するわけない。なにより、自分のために八幡が汚名を被ったなんて知ったら由比ヶ浜にとっては追い討ちにしかならんだろ。

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