お初に立てさせていただきます。
不慣れなため、お見苦しいところを見せてしまうかもしれませんが
自分の創作物を少しでも楽しんでいただけるよう努めますので
どうぞ、よろしくお願いいたします。
もし何かあれば、ご指摘いただければと思います。
【ジョジョ】the-BORDER-board【オリ&安価】
*注意!
・これは、3~4部、~6部の間、空条承太郎が過ごした空白の時間を勝手に埋めようという趣旨の二次創作です
・承太郎の奥さん=徐倫のお母さんをオリジナルキャラとして補完します。苦手な方はご遠慮ください
・時間軸は3部終了後ですが、物語の設定上、アヴドゥル、花京院、イギーも参戦します。
ジョセフ、ポルナレフはもちろんです。
・3部は1987年説を採用しております。1987年12月~1988年2月が3部。このお話は1988年秋から始まります。
・物語の中で、敵スタンドの能力や名前、承太郎のとる行動等について、ちょくちょく安価をとります。
よろしければ、ぜひご参加ください。
・言うまでもない事ですが、念のため。
「ジョジョの奇妙な冒険」に関するあらゆる権利は、荒木飛呂彦先生および集英社に帰属します。
この二次創作に登場する人物・団体・設定は、実際の人物・団体・設定とは一切関係がありません。
この創作物がどなたかに不利益をもたらした場合、また、関係者方々から要請のあった場合には、
速やかにこのスレッドを消去いたします。
*安価について
・物語中に登場する敵スタンド使いを安価で募集します。
また、承太郎たちの行動や、敵と戦うキャラクターを安価で決めてもらう事もあります。
・安価をとる時は、記事No.で指定をします。
・どれくらい安価をいただけるかわからないので、各安価に期限を設けます。
その期間内に返信いただかなかった場合は自分のオリジナルで進めようと思います。
次記事から本文が始まります。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1412949195
1988年9月。あのDIOとの死闘から約半年が過ぎたある夜。
人影のなくなった夜道を、空条承太郎は全速力で駆けていた。
普通の人が見れば、その姿はただ単に帰途を急ぐ学生に見えただろう。しかし見る人が見れば、彼のすぐ後ろに迫る巨大な『口』に気がついたはずである。
男「あーっはっはっは、逃げろ逃げろ。だが逃げ切れまい。俺のスタンドは、一度決めた獲物はどこまでも追っていくのだからな」
その『口』はまるで巨大なハエトリソウ。ハエの代わりに人を食うハエトリソウである!
口の後方から尾のように伸びる茎には男がまたがっており、下卑た笑みを承太郎に向けている。
男「許してほしいか承太郎? 見逃してほしいかよ、ええ? だがな、考えてもみろよ。ただの日本人のガキを一人殺すだけで名前が売れる。俺の事なんて見向きもしなかったような奴らが、俺を称え、一目置き、恐れるようになるんだぜ。たまんねえじゃないかよ、なあおい。新しい闇の世界でのし上がるパスポートが手に入るんだぜぇ……。こんなうまい話をみすみす見過ごせるかよ」
承太郎「ちっ」
舌打ちとともにスタープラチナを発現させる。それを見て男はほくそ笑んだ。
男「おお、やる気だな。だが、よく考えろよ承太郎。ハエトリソウがどういう風にハエを逃げられなくするか知っているかよ、ええ? どんなにお前のパンチが早くても、俺のスタンドに一口パクリとやられればおしまいなんだぜぇ。お前の両腕を肩からもぎ取って、出汁も取れないくらいに食い尽くして無残な骨くずにしてやんよ」
承太郎「フン。口数の減らない奴だ。確かに、何でも食いそうな下品な口をしたスタンドだが」
スタプラ『オラァ!』
承太郎がゴミ箱の上に飛び乗ると同時に、スタープラチナがそのゴミ箱を叩き潰す!辺りにもうもうと土ぼこりが立ち上った。
男「おいおい、目くらましのつもりか。しらけるじゃあないか承太郎。そんな事しても俺のスタンドからは逃れられない……おう?」キョロキョロ
男「なんだ?どこへ行った?逃げたのか」
承太郎「馬鹿にするな。てめえごときを相手に逃げるかよ」
ぎょっとして振り返る男。背後にスタープラチナを従えた承太郎が立っていた。
男「て、てめぇッ!いつの間にッッッ!」
承太郎「さあ、どうだろうな。てめえが間抜け面してくっちゃべっていた間に、じゃねえか」
拳を突き出す承太郎。対して男は見るも哀れなほどに縮みあがってしまった。
男「ち、ちっきしょォォォォ!俺の背後に立つなよォォォ!てんめえッ、俺の弱点を知っていたな!俺の弱みを握っていやがったな!どこで知ったんだよ畜生ぐぁぁぁ!」
承太郎「フン。貴様の弱点なんか知りもしねえ。ただ、」
承太郎「こんな下品な大口を向けてきた野郎に、真正面から殴りかかるような馬鹿は誰もしねえ。だろう?」
男「時を止めたのか!?まことしやかに噂されているあのッ……!あの最強の能力を使ったのかァァッ!?」
承太郎「フン、まさか。てめえごときに使うような能力じゃねぇぜ、あれは。せめて」
承太郎「DIO程の実力者じゃねぇとなぁ!」
スタプラ『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!』
派手に吹っ飛ぶ男。男が再起不能に陥ったのを確認して、承太郎は帽子をかぶり直した。
承太郎「やれやれだぜ……」
???「一丁あがり。と、思うだろう?」
ハッとして頭上を見上げる承太郎。屋根の上に、点滅を繰り返す丸いものを持った別の男がいた!
男2「真正面から行くのが得策じゃねえなら、迂回する。弱みを突く。それは何もあんただけじゃない。それって自明の理じゃねえ?ジョジョ」
承太郎「…………」
男2「家の中には、あんたの大事なママがいる。だろう?ジョジョ。もし俺が、この爆破のヴィジョンでここをふっ飛ばしたら――」
承太郎「……てめえら、どうあってもこの俺を怒らせたいらしいな」
承太郎が怒りの拳を握りしめるのと、男2が手を開くのとはほぼ同時だった。
―空条承太郎、再び海を渡る その1―
ジリリリリ。
けたたましい目覚まし時計の音が鳴り響く。手を伸ばして承太郎はスイッチを切った。
承太郎(もう朝か……やれやれ、寝た気がしねえぜ)
まだ冴えてこない頭を振りながら居間に出る。ホリィが食卓にせっせと皿を並べていた。
ホリィ「あら承太郎、おはよう。朝ごはん用意できているわよ」
承太郎「ああ」
ホリィ「あら嫌だ。承太郎、寝不足なの?冴えない顔しているわよ」
承太郎「そんな事ねぇ。顔洗えば直る」
ホリィ「なら良いんだけれど。遅くまで受験勉強しているんじゃない?あまり根を詰めちゃダメよ。一年の遅れくらい、社会に出ちゃえばどうってことないんだし、承太郎ならどこの大学だって入れちゃうんだから、ノープロブレムよぉ」
承太郎「…………」
ニュース『今朝早く入ってきたニュースです。昨夜未明、身元不明の外国人二人が、首から大量の血を流して死んでいるのが発見されました。場所は――』
ホリィ「あら、うちのすぐ近くじゃない。不審死ですって、怖いわねぇ。確か、数日前にも似たような事件なかったかしら」
承太郎「…………」
ニュース『どちらの遺体にも、死ぬ前に全身を殴打されたような痕があり、警察では集団暴行致死事件とみて捜査を続けています』
承太郎(俺は、致命傷は与えていない。再起不能にしただけで、川にも連れていっていない。スタンドさえ発現できなくすりゃ、後は道に転がしておけば勝手に逃げるだろうと踏んでいた)
承太郎(数日前にやってきた刺客もそうだった。その前も……殺し屋同士で潰しあったか?)
ホリィ「……ま、うちには関係ないわね。さあ承太郎、さっさと朝ごはん食べちゃって。学校に遅れちゃうわよ」
とぅるるるるん、とぅるるるるん
突然鳴りだしたベルの音に、ホリィは目を丸くした。
ホリィ「あら、こんな朝早くに電話?もしもーし、空条でーす。……あらパパ」
ジョセフ『おお、ホリィ。Good evening, my dear daughter!』
ホリィ「パパったら、こっちは朝よ。Good morning!」
ジョセフ「おおそうか、NYと日本では13時間ズレているんじゃったな。すまんすまん。――ところで、承太郎はおるか?」
ホリィ「いるわよ。承太郎、おじいちゃんからよ」
受話器を受け取って、承太郎はおもしろくなさそうに低く鼻を鳴らした。
承太郎「……何の用だ、くそじじい」
ジョセフ『相変わらずじゃのうお前は。かわいくなさ過ぎて涙が出るわい。その後どうじゃ?学校にはちゃんと行っておるか?』
承太郎「てめえのせいで遅刻するかもしれねえな。ちゃんと学校に行けって言うなら、こんな時間に電話してくるんじゃねえ」
ジョセフ『Oh, s**t! わしとした事が、とんだ時間に電話してもうたわい。まあ、じゃが承太郎。今回ばかりは学校よりもこの電話の方が重要じゃ』
承太郎「?」
ジョセフ「承太郎、お前、アメリカの大学に来る気はないか?」
承太郎「アメリカ?大学だと」
ジョセフ『といっても1年間の留学という形でじゃが。手続きはSPW財団がやってくれると言っておる。10月の新学期から通えるはずじゃ』
承太郎「……何で今なんだ。もし勘違いしているんなら、じじい、俺はまだ高3だ」
ジョセフ『それくらい分かっておる』ムッ
ジョセフ『50日間、しかも12月から2月にかけてエジプトに行っておった上、その後のごたごたで結局3月もまともに高校へ行けなかったんじゃ。大学受験もできんかったんじゃから、もう一度、高3をやり直すのは至極自然な話というもんじゃよ、なあ』
承太郎「…………」
ジョセフ『承太郎、お前今、頻繁にスタンド使いに狙われておるな?』
承太郎「!」
ジョセフ『あれほど、何か異変があったら知らせて来いと言っておいたのに。遂に黙っておったな』
承太郎「……やれやれ。事が大きくなれば、嫌でもSPW財団から話が行くだろう。わざわざ俺が言う事でもねえ」
ジョセフ『事が大きくなってからじゃ遅い事もあるじゃろうが』
ジョセフ(全く……余計な心配をかけるまいと考えての事じゃろうが、もう少し気軽に頼ってくれるようにはならんものか。プライドの高い若造とはいえ)
ジョセフ『アメリカ行きは、そいつらを引き剥がすためじゃ。全く誰にも知られずというのは難しいかもしれんが、秘密裏に日本を出れば、いくらかの刺客は煙にまけるかもしれん』
承太郎「…………」
ジョセフ『きゃつら闇の中に生きる人間にとって、承太郎はDIOという悪のカリスマを倒した象徴 (シンボル)。力の象徴のようじゃ。その象徴を倒せば、自分が次のカリスマになれると、そうのぼせあがっておるんじゃろう。DIOには刃向えないのに、そのDIOを倒した承太郎は倒せると勘違いしておる』
ジョセフの言葉に、承太郎は目を閉じて今までの敵を思い返した。DIOの忠臣だった者。DIOがいなくなり、自分が次の覇権を握ろうと思いあがった者。金で雇われ、承太郎の命を狙った者。単に注目を集めたかった者。実に様々なスタンド使いが登場しては破れていった。
承太郎(それも、DIOのカリスマ性が成せる技か……正義は正義の、悪は悪のスタンド使いと惹かれあう、という事か)
ジョセフ『同じアメリカなら、わしも力になりやすいじゃろうし、何なら同じ家に住むという手も』
承太郎「その必要はねえ」
ジョセフ『あん?』
承太郎「俺は一人で大丈夫だ。じじいが一緒じゃ却って迷惑ってもんよ。それより、もっと大事なことがあるだろう」
ジョセフ『…………』タラー
ジョセフ『……わかった。念のため、ホリィはわしとスージーの3人で世界旅行に出かけさせる。ちょうど、スージーも久しぶりにNYを出て、色々な場所を旅してまわりたいと言っておったところじゃ。もちろん極秘裏でな、SPW財団も協力を申し出てくれておる。奴等、もともと承太郎にしか興味を持っておらんようじゃし、一か所にとどまらなければわざわざ追ってくることもないじゃろう』
ジョセフ『じゃから、ホリィの事は心配ない』
承太郎「…………」
ジョセフ(事前にSPW職員と話しておった通りになったわい。承太郎の奴め、てこでもわしを巻き込む気はないらしい。まあ、気持ちは分からんでもないが……)
ジョセフ(なるべく、学生生活は順調に送らせてやりたいし、危ない目には遭わせたくない。必要な時には手を貸してやりたいが、ジョースターの血を引くスタンド使いが複数人かたまっていれば、それだけで奴等の気を引く可能性が高いともSPW財団は言っていた。これくらいが落とし所か……全く、痛し痒しといったところかのう)
承太郎「……やれやれだぜ」ジョセフ「やれやれじゃわい」
数日後。NY.
ジョン・F・ケネディ国際空港。
巨大都市NYの空の玄関口として有名なこの空港は、アメリカを代表する国際空港の一つである。日本とは、1976年より東京は羽田空港と直行便を結んでいる。NY現地では通称「J・F・K」と呼ばれており、世界でも名だたる繁忙空港である。
ホリィ「パパーッ、来たわよーッ」
両手を大きく広げてゲートから飛び出すホリィ。その後ろを承太郎が悠々と歩いてくる。
ジョセフ「おお、ホリィ。無事来たか。よかった、よかった」
承太郎「俺はむしろ、これからの旅の方が不安だがな。じじいと乗り物に乗るとロクな事がねえ」
ジョセフ「わしだって何も、年中墜落しておるわけじゃない」ムッ
スージーQ「あら、それなら心配ないわよ承太郎。何しろ私は、この人と一緒になってこっち、これまで乗った乗り物がどうにかなった経験なんてないんですからね。ジョセフと乗った時だって、ねえ」
承太郎「…………」
承太郎「……じじいがこれまで生き延びてこられた理由が、分かったような気がするぜ」
スージーQ「うん? 何か言った?」
承太郎「いいや、なんでもねえ」
ジョセフ「よぉし、ぐずぐずしとらんと出かけるぞ! 何せ世界中を回らなきゃならんのだからな」
承太郎「おい、じじい。てめぇ出かける前に渡すもんがあるだろうが」
手を出す承太郎。おお、そうじゃったと、ジョセフは懐から鍵を取り出した。
ジョセフ「わしが一時期使っておったマンションの部屋じゃ。お前が通う予定の大学に近い。数日前に家具やらなんやらは手入れをしておいたから、自由に使えばいい」
スージーQ「ああ、あの、対岸のビーチが一望できるマンションね。良い所よォ。うふっ、あのヌーディストビーチを見た時のジョセフったら」
承太郎「…………」
ジョセフ「エーオホン。あー、オホン、オホン」
ジョセフ「おい承太郎。今度はおまえが言うべき事があるんじゃないのか」
ジョセフの言葉に、承太郎は肩をすくめて帽子をかぶり直した。
承太郎「……Thanks, sir.」
ジョセフ「Good.」
ホリィ「承太郎。しばらく会えないけれど、きちんと三食食べて、たっぷり寝て、健康に気をつけて過ごすのよ。それから友達100人!帰ってきたら紹介してもらいますからねっ」
承太郎「うっせぇ、さっさと行け」
シッシッと振った承太郎の手を、ホリィは優しく握った。承太郎はその手に絡みつく、たわわに実を結んだみずみずしい植物を見た。
ホリィ「そばにはいないけれど、心はいつも一緒にいますからね。あなたが傷ついた時、心細い時、少しでも力になれるように、いつも想っているから。安心して」
承太郎「…………」
植物型のスタンドを通して、何か温かいものが流れてくるのを承太郎は感じた。自分の中にある飢えのようなもの、渇き、疼くようなものが消えていくような気がする。
承太郎(エジプトでの俺たちは大ケガ続きだったが、何とか回復が追いついていた。じじいの流す波紋の効果だと思っていたが、実は……いや、考えすぎか)
ホリィ「承太郎?」
承太郎「……土産はいらねぇからな。俺も買わない」
ホリィは朗らかに笑った。
ホリィ「OK!楽しみにしていて。マーライオンの原寸大お人形とかどうかしら」
承太郎は空を見上げると、帽子を目元までずり下げた。
承太郎「それは絶対に何があってもいらねぇ」
地下鉄JFK Air port駅
人でごった返している地下道を見て、承太郎は肩をすくめた。
承太郎(……やれやれ。日本の通勤ラッシュも大概だが、アメリカはいつ来てもゴタゴタしてうっとおしいぜ)
少年「号外!号外だよ!NYの栄えある紳士諸君!これを読まないと昼休みの話題についていけやしませんよ。ああ、麗しき淑女の奥様方!賢明なご婦人方ならここに書かれている情報の重要さをお分かりいただけるに違いない」
少年「あ、ごめんよお兄ちゃん!」ドシンッ
承太郎の足につまずいた新聞売りの少年は、かぶっていたキャップをちょっとつまんで律義に頭を下げた。
少年「お詫びにこれをあげるよ、綺麗な顔のお兄ちゃん。わざとじゃないんだ、許してくれよ」
売っていた新聞を一つよこすと、少年はするりと雑踏を抜けて瞬く間に姿が見えなくなった。
大きなため息をついて、承太郎は新聞の記事に目をやった。物騒な単語が紙面いっぱいに踊っている。
承太郎「……謎が謎を呼ぶ、姿なき殺人鬼。今度は帰宅途中の銀行マンを全身串刺しにして殺す」
通行人1「またかよ。今回もご丁寧に、死体のそばに血文字で書いてあったそうだぜ。〝スピアーズ・サーカス〟ってよ」
通行人2「いつだって死体が穴だらけになるほど串刺しにしているのだものな。ぴったりの名前だよ、実際」
背後で誰かが低く口笛を吹いている。妙に物悲しいメロディだ。
♪~ When Johnny comes marching home again, Hurrah, Hurrah...
通行人1「しかし、不気味だな。目撃者が一向に出てこない。なのに白昼堂々、どこかで誰かが公衆の面前で殺されるんだ。身体中を穴だらけにされて」
通行人2「いや、噂では、小さな女の子がうろうろしているのを見た奴がいるそうだぞ。その子ににっこりされて、ついフラフラッとなっちまった奴が、隙を突かれてやられるんだ」
♪~ We’ll give him a hearty welcome then, Hurrah, Hurrah...
通行人1「ばか。その女の子を見た奴が殺されるなら、その噂は誰が流すんだよ。死人に口なしだろう。それに、小さな女の子に大の大人を串刺しにする力はねえだろうし」
通行人2「ははっ、違いねぇ」
承太郎(確かに妙な事件だ。犯人(ホシ)はスタンド使いか?一応、落ち着いたらSPW財団に確認するか)
駅員「まもなく電車が参ります!ご注意ください!」
地下道に、電車が滑り込む轟音が響く。
と、電車に乗り込もうとする承太郎の背後に、するりと何者かが立った。
???「この列車には乗らないで。あんたも、逃げ場のない車内で無関係の人をまきこみたくないでしょう?」
承太郎「ッ?」
驚いて目を見開く承太郎。口笛のメロディは、いつの間にか聞こえなくなっていた。
???「勘の良いやつだ。あんたがこの街に来た事をもう嗅ぎつけた。久しぶりに暴れたくてウズウズしている……」ゴゴゴゴゴゴ
承太郎「てめェ、何者だ!?」
← To be continued...
安価の第一回目、敵スタンド使いの安価をとりたいと思います。
(1) 敵スタンド使いの名前・性別 >>10
(2) 性格 >>13
(3) スタンド名・能力 >>16
(4) 対戦相手 (今回は安価しません)
空条承太郎 (確定) ??? (確定)
※被った場合には、下の安価が適用されます。
※スタンド能力は「既存のスタンド能力の流用」、「他作品の能力の流用」、「物語の続行が不可能なチート能力」、「下ネタ」の使用はご遠慮ください。
※安価の期限は12日いっぱいとします。
それまでに返信がつかなかった場合は、オリジナルで進めます。
>> 6
わざわざコメントありがとうございます。
やっぱりイマイチですかね…申し訳ないです。
もう少し回を重ねたら、なじんでくる…と、いい、な無理かな。
とりあえず、もう少し書かせてください。
あまり不評であるようなら、スレッド削除申請させていただきます。
トーマス キャンベル 男
始めのうちは安価もう少し近くてもいいかもst
名前 ブルースドライブモンスター
能力 触れた物を歪ませる
―空条承太郎、再び海を渡る その2―
轟音とともに滑り込んできた列車は、蒸気とともにたくさんの乗客を吐き出し始めた。
と同時に、また多くの人間が列車の中へと飲み込まれていく。
人の波。響き渡る靴音。蒸気の熱と音。
承太郎はその中で微動だにしなかった。人々が彼を避け、岩に割かれた滝川のように流れていく。
誰も足早に道を急いでおり、彼以外に動かない者はいない。
承太郎「…………」
いや、他に二人、いた。
男「…………」
見るからにがたいの良い巨体をスーツに包んだ男が、前方を注視したまま突っ立っていた。人々は彼を避け、みるみる列車の中へと消えていく。
???「…………」
そして、承太郎の後ろにも一人。
こちらも全く動こうとしない。ちらりと後ろを振り返って、承太郎は首をかしげた。
承太郎(女か。小柄だ。見た覚えのない顔だがスタンド使いか?あの男の方を睨んでいる……こっちの方を見ねぇ。それとも、これも作戦か?)
やがて列車は吐き出すのも吸い込むのもやめ、口を閉じると、のろのろと動き始めた。
男「行ってしまったね。君が電車に乗らなかったのは意外だった。なにせ、ここは電車に乗るための場所だからねぇ。その証拠に、ほら、もうほとんど誰も周りにいない」
男「皆、電車に乗るのが目的だからね。乗ってしまえばここからいなくなるし、降りてしまえばここに用はなくなる」
男「どうにかして、さりげなく同じ車両に乗って、さりげなく隣の席に座ろうと思っていたんだが、まさか乗らないとは思わなかった。私の想像力が低レベルだったという事か。だから出世しないのかもしれないねえ、私は」
男は、自分の言葉に自分で不快になったらしかった。舌打ちし、顔をぐしゃりとゆがめる。
男「……君は、倒れるまで働いたことはあるかね?」
男「ないだろうなぁ。若く、世間への反逆に燃えている。そんな顔をしているものなぁ」
男「仕事ッ!ああ、それこそ私の日常、私の生涯!休日、食事をしていようが趣味にいそしんでいようが、子どもの手を引いていようが、私の頭は常に会社のことでいっぱいだ」
男「そしてもちろん、平日にはずっと仕事だ。朝から夜遅くまで。毎日、毎日、そう文字通り、倒れるまで働くのだよ」
承太郎「……随分と、つまらない人生だな」
承太郎の言葉に、男は前方を見つめたまま、にやりと笑った。
男「妻と同じことを言うね。まあぁ~、トォーマス~。あなたってなんてつまらない男なのォ」
男「……フン。だがしかし、何の文句がある?君の人生でも、彼女の人生でもない。私自身の人生なのだよ」
男「妻に愛想をつかされようが、子どもが私の顔を見て怖がろうが、そんなことはどうでもいい。私の居場所は会社にある。あすこで結果を出し、認められ、報われる事こそ全てなのだよ……」
男「ああッ、それなのにッッ!!」
叫んだとたん、男はどっかりとその場に腰を下ろしたかと思うと、両手を力いっぱい地面に振り下ろした。
一度だけではない。何度も、何度も振り下ろす。
男「会社は私を評価してくれない!こんなにも尽くし、私の力の全てを捧げているというのにッ!いかに怠けて日々を過ごすかにのみ腐心する他の奴等と変わらぬ待遇しかよこさない!!」ドガッ、ドガッ
男「何故だ!?少し頭を使えば分かる事だ。誰を優遇すべきか……会社の益になる人物とはどういうものなのか。それが分からないのは、きっと、周囲の無能共が私をねたみ、私が出世して会社のためにさらに力をふるう事を阻んでいるからなのだ。私の有能さを隠しているんだ……こんな世界、馬鹿げている。変えてやらねばならない」ドゴッ、ドゴッ
承太郎(なんだコイツ……まるで駄々をこねる子どもだな)
呆れる承太郎を後目に、男は何度か床を殴りつけたあと、まるでぜんまいが切れたかのようにぴたりと動きを止めた。
男「……ああ、話がずれてしまったね。すまない」
さっきとは打って変わった穏やかな声色が、逆に不気味である。
男「倒れるまで働く話だったね。君は経験がないって事だったから、体験させてやらないとね」
男の言葉に、承太郎はハッとして身構える。と同時に、奇妙な感覚に襲われた。
承太郎「ッ!?なんだっ」
不意に足元がぐらりと揺れたのである。地震ではない。足元を確認して承太郎はぞっとした。
承太郎(床がッ……歪んでやがるッ!?)
まるでゼリーのように床が波打ち、形を変えていた。立っていられず、思わず承太郎は座り込んだ。強烈に酔ったような、なんともいえない気持ちの悪さが這い上がってくる。
男「そう、それだよ。倒れる寸前までいくと、世界が歪んでみえてくるんだよ。あの気持ちの悪さ、ゲロ吐く一歩手前といった感じさ。フフ、慣れてくると段々病みつきになってくるんだがね」
承太郎「てめぇ、やはりスタンド使いか。何をしやがった!」
男「ああ、では名刺交換と行こう。尤も、君のことはよく知っているから君の名刺は不要だがね、空条承太郎くん。世界を統べるはずだった吸血鬼を倒し、悪をくじいた英雄。この世界が変わるのを阻止してしまった大馬鹿者」
床に手をつく男の隣に、竜と人が混ざったような姿をしたヴィジョンが現れた。
男「私はトーマス・キャンベル。スタンド名はブルースドライブモンスター。能力は――」
ぐにょりと床が波打ち、立ち上がろうとした承太郎に勢いよく尻餅をつかせた。
男「触れたものを歪ませる。自分の意のままに、ね」
キャンベル「ブルースドライブモンスターは既に床に触れているッ!そして私は私の気が向くまま、君の足元だけを歪ませ、転ばせることができる」
キャンベル「地に足のついた奴なら誰しも、この気色悪さに参るんだ。吐いたやつも何人かいたよ。だから、君も我慢することはないんだ。私も仕事を始めたばかりの頃はよくゲロったものさ」
承太郎「これしきで吐く?なめられたものだな……俺はそんなやわな男じゃねえぜ」
キャンベル「ほう、それは素晴らしい。だが、その強がりもいつまでもつかな」
承太郎はなんとか立ち上がろうとするが、そのたびに床がのたうち、うまくいかない。スタープラチナで殴りかかろうとしても、床が伸びて邪魔をする。承太郎は舌打ちした。
承太郎(これでは射程距離を縮められない。どうにかして立たなけりゃ……)
キャンベル「苦しそうだなあ、承太郎くん。手を貸してやろうか、ほれ」
そう言ってトーマスが差し出したのは、どこからか持ってきたらしい案内標識だった。みるみる、その上半分がぐにゃぐにゃと歪みだす。
キャンベル「死ぬ手助けを、なァーーーッ!!」
歪んで鋭い板と化した標識が、承太郎をめがけて勢いよく伸びる!
承太郎「ちっ!」
足場の悪い中で何とか身をよじり、避けるも、標識はどんどん歪んで承太郎を追尾する。
承太郎(避けているのじゃ埒があかねぇ。いつか絶対にぶつかる。止めるしか!)
めまいをこらえつつ、必死に目前の標識へと目を凝らす。目と鼻の先まで迫った瞬間、承太郎はスタープラチナを発現させた。
承太郎(方法はねぇ!)
スタプラ『オラァ!』
両手で標識を挟み込み、渾身の力で抑えつける。標識はぶるぶると尾のように棒の部分を震わせ、承太郎へと迫ろうとするが、スタープラチナはそれを許さない。
承太郎(ふう、これでひとまずは……だが、圧倒的不利な状況であることには変わりない。なんとかして、奴を攻撃する手立てを考えなければ)
キャンベル「おお、さすがだね承太郎くん。そんな視界がぐにゃぐにゃの世界で、よくそれを止めることができた。だが、それでは私は仕留められない。このまま私が、もうちょーっと歪めてやれば」
ブルースドライブモンスターが床をなでると、承太郎の足元がスロープのように勢いよく反り返った!
たまらず体勢を崩す承太郎。スタープラチナの力が緩み、標識が肩へと突き刺さった。
承太郎「うぐわあっ!」
キャンベル「ふはははははっ、さすがの空条承太郎くんも、歪んだ世界ではうまく戦えないようだねえ。ぶ、ぶふ、ぶふふふっ、ぶはははははっ」
大口をあけて笑うキャンベルの背後に、その時、声をかけた人物がいた。
???「そうだね。じゃあ、私が手助けする、っていうのはどうだろう。ハンデで」
キャンベル「ああ?今、なんだって」
???「トーマス・キャンベル。危険スタンド使いとして報告されている人、だよね?スタンドの見えない一般人にもたびたび能力を吹っかけている。そして今度はこんな公衆の場でスタンドバトル……少々、お遊びが過ぎているんじゃあないですかね」
短い黒髪をかきあげてファイティングポーズをとる女。
黒いTシャツ、白い半ズボンに小型のリュックサック。足には何故かローラースケート。ひじとひざに防具をつけている。
その左手小指からスタンドヴィジョンが現れた!
???「ABC (エンジェル&ビースト・キャッツ)ッ!」
ABC『ミギャーッ!』
それは奇妙な格好のスタンドだった。
骨か何かをつなぎ合わせて作ったネコの『外枠』のようなものが2匹、互いの尾を絡めて寄り添っている。一体は白く、もう一体は黒い。その尾の先端は女の小指につながっているようだ。
承太郎(スタンドは一人に一体のはずだが……いや、尾がつながっているから一体、なのか?)
???「行け!」
女の掛け声とともに、白が右から、黒が左から、挟み込むようにしてトーマス・キャンベルに迫る!
キャンベル「小癪な小娘だな。ブルースドライブモンスターッ!」
ブルース『オオンッ!』
ブルースドライブモンスターが2匹をつかもうと太い両腕を伸ばす。が、尾がつながっているにもかかわらず、2匹の動きは軽快で滑らかだった。
???「あなたのスタンドは恐ろしい能力を持っているけれど、スピードと精密動作性はそこまででもないみたい、だよね?」
???「その動きじゃ、私のABCは捕まえられない。蝶のように、風に舞った落ち葉のように、逃げてしまうよ」
その言葉通り、ABCは空気の塊か何かのようにふわりと、ブルースドライブモンスターの掌から逃げ出した。
そしてトーマス・キャンベルの首元に迫る!
???「“Bite”!」
キャンベルの首に左右からかみつくABC.
一瞬顔をしかめたキャンベルだったが、ダメージはそれほどなかったようで、すぐにブルースドライブモンスターを戻すと2匹を引き剥がした。
ブルースドライブモンスターが手に力を込めると、あえなく2匹は形を崩し、消えてしまった。
???「うぐっ!」
女の頭を血が伝う。それを見て、キャンベルは満足げに唇をひきつらせて笑った。
キャンベル「このチビどもが、なめやがって!小娘!てめえもすぐ、ぐにゃぐにゃに歪ませてやるッ!」
???「あっと、その暇はないよ。ABCは既にあなたに“A(キス)をした”ッ……!」
キャンベル「ああ?」
???「“Comes Equal”!Mr. キャンベルの平衡感覚を、Mr. 空条の感じている平衡感覚と“平等に”する!」
きょとんとしていたキャンベルの顔が、次の瞬間、いびつに歪んだ。
キャンベル「うぎゃああああああああッ!」
胸を抱えてうずくまるキャンベル。
キャンベル「やめてくれ!この感覚は二度と味わいたくなかったんだ……ああ、嫌な思い出がよみがえる。吐きそうだ、クソが!」
キャンベル「やってもやっても仕事が終わらない!先輩とかいう名前をかさにきた糞どもが、俺をうすのろとののしるッ!顔を上げる度に、書類の山は減らないのに時間は何処かへと消えていくんだ!チキショウッ!」
???「そんな嫌な感覚を、人に押し付けていたの?屑だね、あなた」
キャンベル「だがしかし、何の問題がある?俺以外の奴らは、この苦しみを味わったことがないんだ。だから体験させてやる。その何がいけない?だが……ああ、もう限界だ」
ぐったりと床に突っ伏すキャンベル。
と、同時に、承太郎は自分を悩ませていた地面のゆがみが消えていることに気がついた。
承太郎(なんだ?やつがスタンド能力を解除したのか)
???「大丈夫、Mr. 空条?良かったら、手をとって」
女が差し出した手を、片手を制して断り、承太郎は身を起こした。固い地面が嬉しい。
承太郎「助かった。だが、お前は何者だ?」
???「名前はキキ。キキ・J・スプリット。それ以外の複雑な事情は後で。ここを片づけてから、ね」
キャンベルもやがて、脂汗を拭きながら身を起こした。
キャンベル「ああ……なるほど、なるほどね。小娘。お前のスタンド能力は敵と味方の感覚を一緒にするってものか。なかなかトリッキーな能力だが、こちらが攻撃をやめてしまえば、こちらのダメージもなくなるというわけだな」
キキ「そう。ただ平等に分ける、それだけの能力だよ。だから言ったでしょ、A, B, C, Eはあるけれど“Deathはない”んだ」
キャンベル「ごちゃごちゃうるせぇッ!何がABCだッ、言葉遊びがしたいなら学校で友達とぴーちくぱーちく言っていろ、屑が!」
怒号とともにブルースドライブモンスターを出現させる!
キャンベル「さっき、私のスタンドはスピードと精密動作性が低いとか抜かしてくれたな。だがな、それは他に偉大なる長所があるからなのだよ。小手先の素早さなど、ハン、馬鹿馬鹿しくなるくらいのな」
キャンベル「私の長所は溢れるスタミナ!そしてパワー!この力で、お前らまとめてぺしゃんこにしてくれる!」
再びABCを出そうとするキキを制して、承太郎はずいと前に出た。
承太郎「さっきは助かったが、このおっさんの相手は俺だぜ。あんまり、でしゃばらないでもらおう」
キャンベル「いい度胸じゃないか、承太郎!だが、すぐに後悔させてやるぜェッ!」
拳で風を切り、承太郎へと迫るブルースドライブモンスター。その拳を、スタープラチナがとらえた!
承太郎「シンプルなパワー比べというのは、俺も嫌いじゃねぇ。やはり最後の大一番っていうのは、こういうのじゃないとな!」
キャンベル「ぬがっ、こ、拳が動かない!コンクリートにも穴をあけられる、道路標識だってひっこ抜けるこの、ブルースドライブモンスターの拳がッ!受け止められていてッ!動かせないだとォッ!?」
スタプラ『オラオラオラオラオラオラオラオラァッ!』
スタープラチナのラッシュを受けて、キャンベルはたまらず倒れ込んだ。それでも、吹っ飛びはせずにその場に倒れたのは、キャンベルの言うスタミナ力の表れだったのだろうか。
駅員「まもなく電車が参ります!ご注意ください!」
再び地下道に、電車が滑り込む轟音が響き出した。
まるで止まっていた時間が戻ったかのように、再び、列車に向けて人の波が現れる。
駅員「皆さん、お下がりください!……おや、人が倒れている?どうされました、お客様!」
駅員が駆け寄ってくるのに気がついて、承太郎は深く帽子をかぶり直した。
承太郎「大したことはねえ。どうやら、仕事のしすぎで目を回しちまったらしい」
駅員「えっ、あ、はぁ?で、ですが、殴られたような外傷がありますが。鼻血も出ていて」
承太郎「自分を殴って激励しながら仕事していたらしいぜ。医務室にでも運んで、手当てしてやるんだな」
電車の扉が開く。承太郎とキキは、茫然としている駅員を残してその電車に乗り込んだ。
承太郎「気が付いたら、もう仕事はやめて家族を大事にしろとでも言っておけ」
扉が閉まる。
だんだんと小さくなるキャンベルを目端で確認して、承太郎はやれやれだぜ、と呟いた。
←To be continued...
―キキ・J・スプリット―
JFK空港から各市へ出るには、地下鉄が便利である。
タクシーやバスという手もあるが、観光客などNYに不慣れな者と見られると法外なチップをぼったくられる危険性があるため、注意が必要なのである。
それを避けるには、運転手と流暢に英語でやり取りをしてみせたり、相手の言い値を断固拒否する毅然とした態度を示す必要があるが、承太郎にはそれが面倒だった。
自然、さほどしゃべらないで済む地下鉄の利用が多くなる。
そんなわけで承太郎は、祖父ジョセフから借りたマンションに向かうため、地下鉄を利用しマンハッタンへと向かっていた。
地下鉄は満員だった。
向かい合って壁際に立ち、空条承太郎とキキ・J・スプリットの二人は、長く無言でいた。
承太郎「出血は止まったか」
キキが、額を押さえていたハンカチを鞄にしまうのを見て、承太郎が口を開いた。
キキ「うん、大丈夫。多分、もう出ないと思う」
キキ「さっきは、ありがとう。逆に助けられてしまったね」
承太郎「そんな事はねぇ。お互い様だろう」
承太郎「感覚を平等にするとか言ったな。それが、てめぇのスタンド能力か」
キキ「そう。事後報告になっちゃって申し訳ないんだけど、声をかける直前に、あなたにもA (キス) しておいたんだ」
両手でキツネの形を作り、両側から口づけするジェスチャーをする。
キキ「二人以上にキスすることで、キスした者同士の任意の感覚を平等にできるの。自分にキスすることもできるよ。平等にできるのは聴覚とか嗅覚とか、あと精神状態とかもね。それがABCの能力」
キキ「でも、勝手にキスするのは、これを最後にする。約束するから」
承太郎「……何も知らねぇやつが聞いたら、ぎょっとしそうな言葉だな」
承太郎がうんざりした顔で言うと、キキはケタケタと笑った。
キキ「あのブルースドライブモンスターはとても強力なスタンドだから、力不足を心配はしていたんだ。能力の相性は良いと思っていたけれど」
キキ「さすが、聞きしに勝るスタンド使い、だね?」
承太郎「そんなに有名になっているのか。俺の事は……」
キキ「そりゃあ勿論。良くも悪くも、あのDIOというスタンド使いは人の目を引きつける人物だったしね。私達みたいに、スタンド使い同士である程度コミュニティを持っている人間の間じゃ、それなりに有名かな。うちのリーダーなんか、あなたの大ファンなんだよ。あなたの事ばかり話している」
サインもらっちゃおうかなぁ。
おどけて、そう言う。
キキ「あなた方一族の戦いは、DIOとあなたにスタンドが発現したその時から、スタンド使いの間ではちょっとした注目の的だったんだ。敵味方がどうとか、そういうこととは関係なく。だからこそ今、ちょっとばかり騒ぎになっている。それもまた、善し悪しだけどね」
キキ「あなた方にはただ迷惑なだけの話かもしれないね。申し訳ないけどまだまだ狭いんだよね、この世界は」
承太郎「俺がNYに来たことも、筒抜けか」
キキ「そうでもない。あなた方のバックはすごくよくやっている。ほとんどのスタンド使いは、あなたがまだ日本にいて、どこかに隠れていると思っているはず」
キキ「だけどどんな世界にも、賢しいやつっているのよ。詳しくはまだわからないけれど、誰かが、あなたの動きをキャッチした。そしてあいつ、トーマス・キャンベルを送り込んだ」
キキ「私たちは、やつらが変な動きをし始めたことに勘付いて、それで初めて空条承太郎の渡米を知ったってわけ」
承太郎「やつの単独犯じゃないと言い切れるのは何故だ」
キキ「そういうタイプじゃないんだよ、Mr. キャンベルは。彼は、同じ会社の気に入らない同僚を懲らしめたり、自分を冷たくあしらったフード店の店員に嫌がらせをしたりはするけれど、なんていうか、自分の縄張り (テリトリー) からは出てこないタイプなんだ」
キキ「確かに彼は、DIOを崇拝するような発言を繰り返していた。けど、だからといって執念を燃やして、あなた方の行動を監視していたとは思いにくい。また、それができる能力があったとも思えない」
誰かが自分の行動を監視している……そして刺客を送り込んできている。
承太郎は表情を険しくした。
いい加減にしてくれと言いたかった。
せっかく、因縁の相手であるDIOを倒したというのに、因縁の鎖は断ちきれない。悪の種はどんどん蒔かれ、行く先々で自分たちを脅かす。
これでは、正義を示すことなど、悪に抗い勝つことなど、なんの意味もないのではないかと思えてくる。
承太郎「その黒幕は、DIOの配下か」
キキ「さあ……有能で忠誠心の強いやつってのは、ほとんどがあなたと戦って敗れているからね。でも、可能性はある。なかなか尻尾を出さないんだ」
キキの口ぶりに、承太郎は首をひねった。
承太郎「……お前は、何者だ。まるで、組織ぐるみで動いているような口ぶりだな」
キキ「ああ、うん。そうだね、一口で言えば『警察』かな。スタンド使い専門の、非公式の警察」
承太郎「警察?」
キキ「非公式だから、どっちかっていえば自警団かなぁ。スタンド使いが起こした事件を調べたり、犯罪を起こした、あるいは起こしそうなスタンド使いを取り締まったりしているんだ。なにせ、普通の警察官にはスタンドが見えないからね。犯罪を起こされても、それがスタンドの仕業だってわからないことが多いから」
そう言って、キキは左手の小指を見せた。
先ほど、彼女のスタンドが結びついていた指だ。
銀色の小さな指輪がはまっている。蛇が自身の尾に食らいついているデザインだ。
キキ「これがメンバーの証。特に力を入れているのが、子どものスタンド使いの保護なんだ」
承太郎「子どもの?」
キキ「生まれつきの、ね。彼らは、幼い精神に似つかわしくない強力な力を持ってしまったせいで、すごく不安定なんだ。うちのリーダーは、そういう子どもたちを集めて、正しいことにその力を使えるよう指導している」
キキ「そうしないと、危険なんだ。他のスタンド使いが周りにいない状況で育ったスタンド使いは、歪みやすい。怖いものがなくなってしまうんだ。と同時に、大事な心の機微も失ってしまう」
承太郎はかつての敵、ンドゥールの言葉を思い出していた。
彼は、死さえも恐ろしくないと語った。生まれつきスタンドが使える自分には、怖いものなど何もないと。
人間を小馬鹿にした態度を繰り返すイギーを指して、あの犬は俺の気持ちがよく分かるだろうぜ、と言っていた。
おそらくその通りだったのだろう。
キキ「私もね、そういう子どもだったんだ。私はリーダーに助けられたスタンド使いの第一号なんだよ。リーダーの指導を受けて、今の仕事をするようになって、本当に良かったと思っている」
キキ「だから、今度は私が恩返しをする番なんだ」
誇らしげに口元をほころばせるキキ。
しばらく小指の指輪をなでていたが、やがておそるおそるといった風で承太郎の顔を見上げた。
キキ「……あー、さて、あなたもよく聞いていると思うんだけど、スタンド使いって基本的には人に能力を教えない。自殺行為になるから」
キキ「だから逆に、能力や背景をべらべらしゃべるのは、降伏の証というか。あなたと仲間になりたいなー、って事なんだけれど?」
承太郎「何が言いたい」
キキ「リーダーに会ってほしい」
顔をこわばらせてキキは言った。
キキ「リーダーは、あなたと話したいことがあるんだって。あなたの力になりたいの。NYのスタンド使いについては私達が断然詳しいし、きっとあなたの役に」
承太郎「悪いが」
早口でまくし立てるキキを、承太郎は手で制した。
承太郎「そんなものは必要ねぇ。帰ってそのリーダーに伝えろ。俺は人の役に進んで立とうなんて殊勝なやつじゃあないが、自分の身くらいは自分で守れる」
承太郎「俺に会っている暇に、もっと建設的なことができるはずだぜ。そんな大層な仕事をしているんならな」
キキ「……私、何か、あなたの気に障ることをした?」
承太郎「いいや。ただこれは、俺の信念みたいなもんってやつだぜ」
承太郎の言葉に、キキはしばらくうつむいて考えているようだったが、やがて小さく頷いた。
キキ「うん、そうだね。まだ会ったばかりだし、無理もないかな。あなたにも、考える時間が必要だと思うし」
ちょうど折よく、電車が次の駅に着いた。
キキは電車を降りると、承太郎に手を振った。
キキ「また様子を見にくるよ。多分あなたの実力なら問題ないと思うけれど、でも十分気をつけて。そしてぜひ、NYを楽しんで。ここはとても良い街だから」
承太郎「ああ。てめぇもな」
笑って敬礼するキキの前で電車は扉を閉じ、走り始めた。
段々小さくなる電車を見送って、キキは、あーあ、とため息をついた。
NYの秋風が、短く切りそろえられた黒髪をばさばさとかきあげる。
その首元に、刺青が見えた。蛇が自身の尾を噛んで、輪の形になっている刺青である。
キキ「せっかく、お友達になれると思ったのになぁ」
呟いて、首筋の刺青に触れる。
キキ「……呼ばれているな。行かなきゃ」
手を後ろで組んで、歩き始める。
自然と、口笛が口をついて出た。
♪~When Johnny comes marching home again, Hurrah, Hurrah.
We'll give him a hearty welcome then, Hurrah, Hurrah.
キキはこの曲のいわれを知らない。
ただ、“リーダー”がよく鼻歌で歌っているから覚えてしまっただけである。
♪~The men will cheer and the boys will shout, the ladies they will all turn out.
キキは知らない。“リーダー”が誰を待ち望んでいるのか。
ただ、彼がよくこの歌を歌った後に「俺のジョニーはまだか」と呟くのを聞いているだけである。
♪~And we'll all feel gay, when Johnny comes marching home.
キキはそれで良いと思っている。
すべては時が来れば、自然と“リーダー”から教えてくれるに違いないのだ。
ジョセフが用意してくれたマンションは、なるほど海岸が一望できる景観の良い部屋だった。
冷蔵庫やベッド、テレビそのほか、必要な家財道具はほぼ全てそろえられているようだ。
承太郎「持つべきものは、スケールが大きくて人好きな不動産王のじじい、か」
冷蔵庫にコーラが並べられているのを見て、承太郎は思わず唇をほころばせた。
中東を旅していた頃、ジョセフが潜水艦の中にまでコーラを用意させていたことを思い出したのだ。
とぅるるるん、とぅるるるん
静かな部屋に、電話を知らせるベルが鳴り響いた。
承太郎「……もう電話まで開通していやがるのか」
ジョセフの手際の良すぎさに半ば呆れながら、承太郎は受話器を取った。
承太郎「……空条だ」
???『ああ、承太郎様ですね。無事マンションに着かれたようで、よかった、よかった』
承太郎「あんたは?」
???『申し遅れました。私はサイモン・ピーター・ウォー。SPW財団の職員です。承太郎様のNYでの生活をサポートする役目を任されたものです』
承太郎「サイモン・ピーター・ウォー?」
承太郎は一瞬、冗談だろうかと逡巡した。
承太郎「イニシャルSPWか。とんでもない偶然の一致か、それともからかっているのか、まさか仕事への情熱をこじらせて改名でもしたのか?」
受話器の向こうで、SPWと名乗った男はくすくすと笑った。
サイモン『ええ、ええ、そうですね。すごい偶然なんです、天文学的な感じの、ね』
承太郎「SPW財団の職員なら、祖父の一行はどうしているか、情報は入っているか」
サイモン『はい。ジョセフ・ジョースター様ご一行は先ほど、イギリスはガトウィック空港に到着されたと連絡がありました。そこから欧州を一通り回られるそうです』
ジョセフ達が無事に旅行を楽しんでいると聞いて、承太郎は安堵の息を吐いた。
サイモン『最近はNYも物騒です。スタンド的な意味でも。そちらに着かれるまでの間、何かありませんでしたか?』
承太郎「ああ……スタンドバトルになった。スタンド使い専門の警察だとかいう女が現れて、手を貸してくれた」
サイモン『それは、それは、よかった。その女というのは、キキ・スプリットですか』
承太郎「知っているのか」
サイモン『ええ。サイモンは保証いたします。彼女は信用に足るスタンド使いです。便利な女性です。あなたほどではありませんが、実践も積んでいますしね』
承太郎「そうか」
サイモン『今後もお付き合いを?』
承太郎「いや……断った。初対面の相手を引き回すのは性に合わねぇ。NYのスタンド使い事情も分からなかったしな」
サイモン『そうですか、そうですか。さすがはジョースター家の血をひく方だ。簡単には他人に頼らない、黄金の意志を持っていらっしゃる』
サイモンは感心した風で言った。
サイモン『ただ、ただ少しばかり、頑なになっておられることはありませんか。失礼ですが、また仲間が傷つくこと、命を落とすことを怖がっていらっしゃるのでは』
承太郎「何が言いたいんだ」
承太郎は思わず低くうなっていた。固く握った受話器がキチキチと音を立てる。
サイモン『失礼いたしました。出過ぎたことを申し上げました』
サイモン『ただ、ただ、サイモンは心配なのです。ジョースター家の皆様をサポートし、安全に過ごしていただくこと。それがSPW財団の明確な目的であり、存在意義なのです』
サイモン『僭越ながら、サイモンは申し上げます。もし、また何かあった時には、サイモンに相談してください。きっと良い知恵をお授けいたします。電話番号は、電話の隣のノートに書き付けてございます』
承太郎「ああ……分かった。……怒鳴ってすまなかった」
サイモン『とんでもございません!しゃしゃり出たサイモンに落ち度があったのです』
サイモン『それから、明日から通う大学についてですが、同じノートに資料が挟んでございます。大学の名前は――』
サイモンが告げた名前を手帳に書き付ける。
慣れない地域だ、あとで道順を確かめる必要があるだろう。
サイモン『以上でございます。また何かご用があれば、いつでもご連絡ください』
承太郎「ああ、すまないな」
サイモン『とんでもありません。くれぐれも気後れなさらず、いつでもどんなことでも、ご連絡くださいね』
受話器を置くと、承太郎はため息をついた。
慣れない土地で戦った疲れが出たのだろうか、急に疲労感を感じて頭が重たかった。
少し横になるかと電話から離れて、
そこでふと、足を止めた。
承太郎「……うん?ちょっと待て、俺は今何を」
自分が今し方置いた受話器をまじまじと見つめて、承太郎は首を傾げた。
今さっき、自分がやったことが自分で信じられなかった。
承太郎(初対面……いや正確には、まだ会ったこともない相手だ。その相手に俺はぺらぺらとさっきの出来事を……まんまとしゃべらされた、ということか)
それだけ、相手の話術が巧みだったということか。
先ほどの会話を思い返してみたが、判然としなかった。
それを感じさせないというのもまた、話術の一つなのかもしれないが。
承太郎(それに大学の名前……じじいが言っていた大学は、その大学だった、か?)
確かに、他のことに気を取られていてちゃんと大学名を覚えていなかったのは確かだ。
だが、今になって思い返してみると、何故か祖父の言っていた大学名とは違うような気がしてくるのだ。
そして、何より奇妙なのが――
承太郎(何故俺は、“やつとしゃべっている間”には、“そのことを疑問に思わなかった”んだ――?)
いくら考えてみても分からない。それならば、考えるだけ無駄ということだ。
まあ、相手はSPW財団の職員なのだ。
必要以上に警戒する必要もないだろう。
承太郎はため息をつくと、冷蔵庫からコーラを一本取りだし、勢いよく栓を抜いた。
NY市内マンハッタン区は、五番街やタイムズスクエアといった有名な繁華街、ウォール街と呼ばれる金融街などがあり、また教育面でも、ノーベル賞受賞者を多く輩出しているコロンビア大学、名門音楽学校として名高いジュリアード音楽院などが存在する大都市である。単に「ニューヨーク」と言う場合には、このマンハッタン区を指すことも多い。
承太郎は学長にあいさつをすませ、最初の講義が行われる教室を目指して廊下を歩いていた。
そこここには足早に教室へと向かう学生達があふれ、靴音、大声でしゃべり合う声、ロッカーを開け閉めする音で騒がしい。
承太郎(どの教室も同じに見えるな……105教室はどこだ)
その時だった。不意に視線を感じて、承太郎は勢いよく振り返った。
誰もいない。
承太郎(だが、何者かの気配を感じる。誰かがこちらを狙っている……スタンド攻撃を仕掛けるタイミングをうかがっている気配を感じる……ッ!)
キョロキョロと辺りを見回すが、走り回る学生が見えるのみで、不審な人物は見つからない。
いやむしろ、そこにいる誰もが怪しく見えてさえきてしまう。
承太郎(こちらからは見えないが、あちらは十中八九、こちらの位置を把握している。どうする?移動して視界をよくするか……だが、どこに?)
その時だった。
一人の学生が近づいてくるのを感じて、承太郎はそちらを振り返った。
???「あー、留学生さん?もしかして、105教室を探している?」
近づいてきた女学生は、そう言って微笑んだ。
その顔をまじまじと見て、承太郎は思わず目を疑った。
承太郎「……スプリット?」
つい昨日出会ったキキ・J・スプリットに瓜二つなのだ!
黒髪で少年のような格好をしていたキキと異なり、この女学生は濃いハチミツを思わせる金髪を背中まで伸ばし、華やかな小花模様のロングスカートを履いている。
だが、そんなささやかな雰囲気の違いなど気にならなくなるほどに、二人の顔はそっくりだった。
承太郎(これは生き写しなんてもんじゃあねえぜ……世の中には三人、同じ顔の人間がいると聞いたことがあるが……こいつは驚いた)
???「えっと、私の顔に何かついているかしら?」
心なしか頬を赤くしながら、女学生は髪に手をやった。
???「私、ジョディ。ジョディ・K・シェパード。あなたのこと、色々と面倒見てあげてと言われているの。105教室に行くんでしょう?だったら一緒に行きましょう」
ジョディと名乗った女学生は、そう言って手を伸ばしてきた。
だが、承太郎はそれどころではない。
先ほど気がついた視線。それは段々と強くなっているようだった。
いつ襲ってくるとも限らない。
こんな学生が多いところでスタンドバトルなどを始めたら、どうなるか分からない。
特に今、自分の近くにいるこの女学生は危険だった。
なんとかして、体勢を整える必要がある。
承太郎「しょうがねぇ……>>34に行くか」
←To be continued...
閲覧ありがとうございます。説明回、終了です笑
次回からはまた、スタンドバトルを入れていきます。
ということで第二回の安価をとりたいと思います。
今回は、
承太郎の行き先、敵スタンド使い、承太郎と共にバトルする仲間、
について安価をとります。
承太郎の行き先>>34
(実質、スタンドバトルの場所を選ぶ安価です)
○敵スタンド使いについて
名前、性別、(年齢も可) >>35
性格>>36
スタンド名、能力>>37
対戦相手>>38
承太郎 (確定)
※アヴドゥル、花京院、ポルナレフ、イギーの中から1人選択
能力等に関する注意事項は前の安価>>8を参照ください。
今回、安価と安価の間を全くあけておりませんので、かぶった場合は
その内容に合う安価内容を最初に書かれた方から先着でとるという方式にしたいと思います。
もしこれで混乱するようなら、次回は少しだけあけていくようにしてみます。
ところで、オリキャラやスタンド等の元ネタは需要ありますか?
シナリオの進行にはほとんど関係ありませんし、自由に推測・気づいてもらえれば良い類のものですが、もし知りたいという方がいれば…。
待ってましたッ!
オリキャラ、スタンドの説明に関しては、自分は大丈夫です。他読者の意見に合わせます
場所は学園内のプールでッ!
ポール ハリスン(75) 男
冗談好きな気前のいいおっちゃん
名前:AKG(アジアンカンフージェネレーション)
能力:スタンドが食べた物(生物以外)をスタンド体内で複製し、取り出す又は吐き飛ばせる
もし>>1さんがスタンド像をまだ考えていなければ・・・
人型だか両腕が無く、複数の黒い革ベルトを頭から脚のつま先まで包帯のように巻いている姿。
唯一口元だけ露出しており、1メートル程開く大きな口と頑丈な牙で、コンクリや鉄柱をも削り喰らう。
というのを個人的に希望・・・(汗)
花京院
安価出そろいました!皆さんさっそくありがとうございます。
元ネタに関しては、希望される方がいないようなので、とりあえずは省きます。
気になるものがあれば、聞いていただいた時に答えるという方針で…
以下、安価内容をまとめます。
○対戦場所
学園内のプール
○スタンド使い
名前: ポール・ハリスン (75歳) 男
性格: 冗談好きな気前のいいおっちゃん
○スタンド能力
名前: AKG (アジアンカンフージェネレーション)
能力: スタンドが食べた生物以外の物をスタンド体内で複製し、取り出したり吐き飛ばしたりできる
○対戦相手
空条承太郎 花京院典明
スタンド像は>>37さんの仰った形で承りました!
書け次第アップいたしますので、よろしくお願いします。
ーU-a memory (You're memory) ー
承太郎(間違いない。近くにスタンド使いがいる。俺を監視しているッ……!)
承太郎(早く奴の居場所を見つけなければ、こちらが圧倒的に不利だ)
承太郎は、不思議そうにこちらをうかがっている女学生ーージョディの方に向き直った。
承太郎「おい、女」
ジョディ「ジョディよ」
承太郎「…………」
ジョディ「ジョディ」
承太郎「……ちっ、ジョディ。一つ確認したい」
ジョディ「何を?」
承太郎「てめえはスタンド使いか?」
ジョディはきょとんとして、大きな眼をぱちぱちと瞬かせた。
ジョディ「あー……あなた、発音上手だからきっと言い間違いではないのよね」
ジョディ「ごめんなさい、意味がわからなかったわ。スタンド……電気スタンドだったら、多分購買に売っていると思うんだけど」
承太郎「…………」
念のためスタープラチナを出現させる。
目の前に拳を振りかざしてみるが、ジョディは全く反応しない。
スタンドが見えているなら、反応せずにはいられないであろう距離なのにもかかわらずだ。
承太郎(嘘はついていないようだ。あるいは、よっぽど肝のすわった奴なのかもしれないが……いや)
承太郎(呼吸の乱れも動悸も感じられない。これで嘘をついているのなら、ダービー兄弟以上の食わせ者だぜ)
承太郎「わかった。……わけのわからない事を言ってすまなかった。てめぇは違うようだ」
その時、不意に承太郎の全身を刺すような視線が走った!
承太郎「!!」
それは間違えようのない感覚!「殺意」!!
承太郎は確信した。誰かが自分を殺そうとしている。
亡き者にしようと待ち構えているッ!
承太郎「ジョディ。俺は大事な用ができた。講義には出られない」
ジョディ「えっ?」
目を白黒させるジョディに、承太郎は教科書とノートを押し付けた。
承太郎「あとは頼んだぜ。適当にあしらっておいてくれ」
ジョディ「で、でも、あ、ちょっと!留学生さん!」
引き留めようとするジョディの方には目もくれず、承太郎は走り出した。
どんどん小さくなっていく背中を見送ることしかできず、ジョディはおろおろとするばかりである。
ジョディ「どうしよう……もしかして何か、危ない事をしようとしているんじゃ……」
青ざめるジョディ。
彼女は「不安」という感情に弱かった。
その昔、彼女がまだ幼い少女だった頃、見送ってしまった人間の記憶が今も消えないのだ。
そこに、男子学生が一人、教科書を手に現れた。
ジョディの幼なじみのフレッド(フレディ)・メルクリウスである。
フレディ「おいジョディ。何やっているんだ、こんなところで。講義、始まっちまうぞ。……おい、大丈夫か?顔、真っ青だぞ!」
ジョディ「あ、ああ、フレディ。ごめんなさい、少し貧血……あの、留学生さんが……大丈夫かしら、私、すごく不安になって」
そのまま、フラフラと倒れこみそうになるジョディ。
すんでのところで、フレディはその身体を抱き起こした。
フレディ「しっかりしろよ。貧血なんて久しぶりじゃないか。医務室に行くか?」
ジョディ「イイエ、もう大丈夫。ちょっとくらっとしただけだから。……ほら、もう顔色も大分良いでしょう?もう大丈夫だから」
ジョディ「あの留学生さんの背中を見ていたら、急に不安になったの。何か……私が理解できないものに立ち向かっていくような気がして」
ジョディ「その感覚を、随分前に私、感じたことがあるような気がするのよ。だから私、過剰に反応してしまったのね……だめね」
フレディ「あんまり無理するなよ。講義なんて休めばいいじゃないか。なんなら俺、代返するぜ。その留学生の奴のも、ジョディがそうしてほしいんならやってもいい」
ジョディ「あなたのその声で、どうやって私の代返をするのよ」
ジョディはクスクス笑った。
さっきよりも、随分と気分は楽になっていた。
>>41
コメントありがとうございますッ!
書き込める文字数の関係で、ここでお返事させてください。
そうですね、これからは、アイディアのある方にはスタ ンドのイメージも書いてもらいます!
むしろその方が、自分もイメージが広がってうまく書けそうです
承太郎(早く、どこか見晴らしのいいところに出なけりゃ危ない!くそ、日本の短い廊下が懐かしくなってくるぜ)
談笑する学生や教師の間をかいくぐり、承太郎は外へと走る。
と、その足元から、何やらパタパタという、薄いものをはためかせるような音が聞こえてきた。
承太郎「?」
足元を注視すると、落ち着いたマーブル色をしていたはずの床の色が、いつの間にか、原色の赤と青に変わっていた。
しかも、それらは薄いパネルがいくつも敷きつめられているかのように、風もないのにパタパタとはためいている。
承太郎(ちっ、これは……スタンド攻撃かッ!?)
パネルが広がった場所は人の姿がなくなり、承太郎だけが取り残されている。
やがてパネルの中央がみるみる盛り上がったかと思うと、大きなルーレットが出現した。
人生ゲームに登場しそうな、単純なデザインのやつだ。
その上に、緑色のずた袋を重ねたような、不恰好なものが乗っかっている。
承太郎「あれは!やはりスタンドかッ!」
???『ヨウコソ!黄金ノ国、夢ノ叶ウ場所、“ジュ=マンジ”ヘ!賽ヲ振リ、君ノ望ムモノヲ手ニ入レヨウ!』
承太郎「何?」
承太郎「賽を振れ、だと?サイコロなんてどこにある」
承太郎の言葉が終わらないうちに、ずた袋型のスタンドは手をじゃらじゃらとさせてサイコロを取り出した。
???『振ルヨ、振レヨ、サァ振ロウ!ソシテ、マスノ指ス方向ヘ進メバ、黄金ノ国ハ貴方ノ居場所ニナル!』
承太郎「おい、待て止めろ!そのサイコロを振るんじゃあない!」
スタンドの手から放たれたサイコロは弾みをつけて転がり、承太郎の足に当たって止まった。
★★★★★
水難の相。圧倒的な自然の力が君の進む気力を奪うでしょう。
ただし、君を手助けする思いがけない再会の予感。
仲間の影は君の思い出の中に……
???「オオォォォォ!!」
承太郎の目の前に、双六のマスのようなものが広がった。
その上を、承太郎そっくりの人形がてくてくと歩いていく。
1……2……3……4……5!
???『イベントノマスニ止マッタネ!イベント名ハ“水鏡”!水ノ脅威ガ君ノ命ヲ狙イ、行ク手ヲ阻ム!』
いつの間にか、スタンドは承太郎の背後に回っていた。
承太郎の肩に手を置き、ささやきかけてくる。
???『ケド心配シナイデ!君ノ困難ハ君ノ過去ガ手助ケシテクレル!水面ニ映ル仲間ノ影ヲ見落トスナ』
???『困難ヲ乗リ越エ、黄金ノ国ヘノ道ヲ開コウ!』
スタプラ『オラァ!』
スタンド目がけてスタープラチナが拳を振り下ろしたが、スタンドは煙状になって拳を避け、元いたスロットの上へと戻っていった。
そしてそのまま、パネルやスロットと共に消えていく。
承太郎「あ、おい、待てッ……!」
制止の声も虚しく、スタンドは地面の中に溶け込むようにして消えてしまった。
と共に周囲に喧騒が戻り、人間の姿も戻ってきた。
先程までの奇妙な映像が嘘のようだ。
承太郎(今のが刺客のスタンド攻撃か……?それとも?)
一旦足を止めて、承太郎は辺りの気配をうかがった。
そして探すものを見つけ、冷や汗と共ににやりと笑った。
承太郎(いや、違うな……?)
息を弾ませ、承太郎はプールサイドへとやってきた。
もう水遊びをするには肌寒い季節である。講義中である事もあってか、付近に人の姿はない。
承太郎(ここなら見通しが良い。誰かが襲ってきても分かる。それに、無関係な奴を巻き込む危険性も低い)
辺りに目を配る。そして、プールの縁近くを動く影を見 つけた。
老人だ。髪の毛も白く、顔も手足もしわだらけである。
祖父ジョセフより年上だろうかと承太郎は目算した。
随分かくしゃくと動いてはいるが、かなり歳を重ねているようだ。
清掃員なのだろうか、長靴に水仕事用のエプロンを着こんで、デッキブラシを手に、威勢よく歌を歌いながら床を磨いている。
老人「♪~クリ クリニー、クリ クリニー、クリ ク リ クリーナー。わしはしがない清掃おじさん」
老人「♪~クリ クリニー、クリ クリニー、クリ ク リ クリーナー。町一番の働き者。皆さん聞いてくださいなぁー、っと」
老人「おや、お若いの。この季節外れのプールに何の用じゃ。今の時分は、プールは利用できんよ」
承太郎「フン、しらばっくれるのもいい加減にしろよ、 じいさん。てめぇの視線がさっきからチクチク刺さって気持ち悪ぃんだ。俺が室内にいる時からな」
承太郎「だから直接、その視線を止めに来たってぇわけよ」ゴゴゴゴゴゴ
老人「ほう、わしの視線が、のう。確かに古いことわざに、目は口ほどに物を言うというのがあるが」
老人「じゃが、何を恐れる事があるのじゃ若者よ。老い先短いこのじじいに何ができるというのじゃ」ゴゴゴ……
老人「この脂が浮いた顔を見よ、ガニ股の痩せこけた脚、骨と皮しかない細い腕を。こんなわしにできることはせいぜい、」
老人「デッキブラシを振り上げる事くらいじゃよぉっ!」バアァァン!
持っていたデッキブラシで承太郎を襲う老人!
承太郎が難なくそれを弾くと、老人は年齢を忘れさせる素早い身のこなしで承太郎から距離をとった。
カンフーのように片足を上げ、両ひじをまげてポーズを とる。
老人「うっひょっひょぉ!見事じゃ見事!さすが若いモンは違うのぉ。わしもお前さんくらいの頃は、西洋のブルース・リーと言われたものじゃよ。というのは冗談じゃがのぉ、ひょっひょっひょ」
老人「やはり肉体言語で語り合うには、ちとこちらが不 利じゃのう。ならばやはり、スタンド使い同士が出会った時にすることはただ一つ!」ズズズズズズッ
老人「スタンドバトルと行こうじゃあないかァッ!」
老人の言葉と共に、後ろにスタンドの像が浮かび上がっ た。
一見人型をして入るが、腕にあたる部分がない。頭から足先まで黒い革ベルトでぐるぐる巻きになっている。
まるで、ベルトで拘束されたヘビ人間といった様相だ。
ベルトばかりが目立つ全身の中で、唯一、大きく開かれた口だけが歯をぎらぎらと光らせ、激しく自己主張している。
ハリスン「敵とはいえ、これから命を賭して戦う者同士、挨拶くらいは交わしておこう!わしの名はポール・ハリスンじゃ。スタンド名はAKG (アジアンカンフージェネレーション)」
ハリスン「イカしちょるじゃろ?覚えきれぬようなら、メモにでも書いておいたらどうじゃ」
承太郎「その必要はねえ。てめぇの名前なんざ端から覚える気はねぇし、必要もねぇ。その減らず口と、気味の悪いスタンド像さえ分かれば十分だ」
承太郎「昨日の奴は、無関係な人間が多い中で襲われたせいで再起不能にするのが精いっぱいだったが……ここは俺とじいさん、二人しかいねぇ。暴れ放題ってやつよ」
承太郎「てめぇには訊きたいことが山ほどある。洗いざらいしゃべってもらうから、覚悟するんだな」
スタープラチナを出現させる承太郎。
そのスタンドヴィジョンをしげしげと眺めて、ハリスン はウンウンと頷いた。
ハリスン「なるほど、噂通りのシンプル・イズ・ベストといったスタンドじゃの。シンプルな奴ほど強い。これは物事の真理といっていいものかもしれんのう」
ハリスン「じゃがのう、わしに言わせればちと退屈。若いうちはそれでもいいかもしれんが、人生長い、いつまでもそう面白みがなくちゃ、総合的に見て損をする。そうは思わんかの?」
承太郎「余計なお世話だ。退屈かどうかは、てめぇ自身が味わって決めな!」
スタプラ『オラァ!』
AKGに向かって拳を突き出すスタープラチナ。
しかし、AKGはぬるりと身をよじってその拳を避けた!そしてそのまま、プールの中へ!
承太郎(早いッ!スタープラチナの拳を避けて、死角へ!動きに無駄がねぇ)
ハリスン「AKGのスピードは一級品じゃ。そして百戦錬磨の経験もついておる」
ハリスン「経験を侮ってはいかんよ、若いの。たとえ非力であっても、戦い方一つで戦況はひっくり返せる。たとえば――」
AKG『うぶあっしゃぁ!』
突如プールから顔を出したAKGが、その口から大量の水を噴き出した。
そのあまりの水圧に、たまらず承太郎はフェンスへと叩きつけられた!
すんでのところでスタープラチナを繰り出し、フェンスを殴った反動でダメージを抑える。
倒れ込んだ承太郎に、ハリスンは優しく言い聞かせるような口調で語りかけた。
ハリスン「今あんたは、AKGがプールの水を吸い込んで、その水圧で攻撃してきたと思っているじゃろう。若いの
ハリスン「いや、別に責めているわけじゃあない。誰だってきっとそう思う。詳細を知らなければ、わしだってそう思う」
ハリスン「じゃが、現実はもっと奇妙で優れているのじゃよ。それを、あんたに教えてやろう」
いつの間にか水からあがってきたAKGが、ゆらりと揺れながら承太郎の前に立った。
その腹はぺちゃんこで、水は全て吐き出してしまったように見える。
が、次の瞬間、AKGが大きく息を吸い込むと、その腹がみるみる膨れ上がった!
ハリスン「AKGの能力は、吸い込んだものを吐き出す、ではない。一度口にしたものを体内で複製し、自由に吐き出すことができるのじゃ」
先ほどと同量、いやそれ以上の大量の水が承太郎を襲った!
爺さんも承太郎もカッケー
>>48
どうもお昼に書いたコメントが、時間がかぶってしまったようで
お返事すれちがってしまい、すみませんでした。
俄然書く意欲がわいてきました。がんばりますッ。
ハリスン「おっほー、見事じゃ、見事」
ハリスン「よくぞまあ、あの距離から避けたのう」
ハリスンは立ちあがった承太郎に拍手を送り、どこか満足げに言った。
承太郎はとっさに寝転がって移動し、AKGの水圧攻撃を避けていたのだった。
ハリスン「やはり、噂通りの男じゃのう。空条承太郎。 若々しいガッツに溢れた、いーい男じゃわい」
承太郎「……じいさんに褒められても、全く嬉しくねェな」
ハリスン「まぁそう言うな。わしが人を褒めるのは珍しいのじゃぞ」
ハリスン「あんたさっき、わしに訊きたいことが山ほどあると言っておったな」
ハリスン「大体察しはつく。黒幕は誰か。何故自分の命を狙うのか。まぁ大方、そんなところじゃろう」
顎を撫でながら、ハリスンはウンウンと頷いた。
ハリスン「さすがに何でもかんでも教えるというわけにはいかんが、少しくらいなら話してやってもいいかのう」
ハリスン「自分で言うのもなんじゃが、わしゃ気前のいい男での。気に入った人間には気っ風よく振る舞ってやりたくなるのよ」
そう言って、ハリスンはにやりと笑った。
ハリスン「わしらの思想は本来、二言三言では語り尽くせんが……敢えて言うなら、わしらは“平等”を求めておるのじゃ」
承太郎「平等?」
ハリスン「おうともよ。この世は不平等じゃ、それは言うまでもないじゃろう?」
ハリスン「この不平等を是正するためには、世界を一度作り変える必要がある。わしらは、その為の準備をしているんじゃよ」
承太郎「世界を作り変えるだと?また大風呂敷を広げたものだな」
承太郎は、昨日遭遇したスタンド使い、キャンベルの事を思い出していた。
奴も確か、世界を作り変えるだのどうの言っていたような気がする。
ハリスン「さるお方の指示に従ってのう。そしてそのお方の言われるには、目指す理想郷には、DIO様の崇高なる意思を挫いたジョースターの血は入れてはならないそうな」
承太郎「何?」
ハリスン「ジョースターの血は異分子じゃ。わしらのような人間とは決して相容れぬ、磁石のN極とS極のようなもの。それを除くまでは、わしらの目的は達成できんのじゃ」
ハリスン「特に承太郎。あんたは空条家の跡取り。次の世代を作る事ができる人間じゃ。その存在を許すわけにはいかぬ」
ハリスン「つまり、わしらは互いが存在する限り、反発し争い合う運命なのじゃよ」
承太郎「馬鹿馬鹿しい」
一言で吐き捨てる承太郎。
承太郎「結局のところ、てめぇらがやっているのはそこらのケチな悪党と変わらねぇ」
承太郎「ただ、自分達の思想に合わないものを排除して、お山の大将ごっこにいそしんでいるだけじゃあねぇか」
承太郎「何が平等だ。理想の世界だ。思い上がったちゃちな欲求を、他人に押し付けるんじゃあねぇぜ」
ハリスン「……思い上がった欲求、か」
ハリスンはやれやれという風に肩をすくめると、諭すような口調で語り始めた。
ハリスン「その“境界”は、どこにあるんじゃろうな?」
承太郎「境界、だと?」
ハリスン「夢を追えと人は言う。理想を追い求めよと。だがその一方で、思い上がった事をするなと言う」
ハリスン「理想のため努力しろと言いながら、欲のために動くなと言う。その境界はどこじゃ?明確な答えなぞあるのか?」
承太郎「…………」
もう何度も、自分や他人と似たような問答を繰り返してきたのだろう。
ポール・ハリスンの言葉によどみはなかった。
ハリスン「そちらとて同じじゃろう、若いの?お前は自分を正義、わしらを悪と決めてかかっておるが、それは本当に正しいのかの?その根拠は何じゃ?」
承太郎「…………」
ハリスン「わしらを悪として裁く。その権限が承太郎、あんたにあるのか?」
承太郎はしばしの間、沈黙した。
側から見れば、どうすればいいのかと思い悩んでいるようにも見える。
だが、承太郎の目を見ているハリスンには分かっていた。
承太郎の答えは既に決まっている!
ただ、言葉を選んでいるのに過ぎないのだと。
承太郎「じいさん、確かにあんたの言いたい事は分かるぜ。明確な境界なんてありはしねぇ」
承太郎「人の方が多様すぎてな。これと線引きしようとしたら、ケンカになって話なぞまとまらんだろうよ」
承太郎「夢とエゴ、理想と盲信、正義と悪。言葉にしちまえば簡単だが、現実にはその一つ一つを誰もが納得するように分ける事なんぞできねぇ」
承太郎「だが俺には、俺の心は分かる。俺の心が、血が、吐き気のするような邪悪と判断するものがわかる!」
承太郎「明確な答えなぞない。だからこそ俺は、俺の心に従って行動する。俺の血が納得するように裁く!」
ハリスン「ほお……」
ハリスンはしばらく無言で顎をなでていたが、やがてふるふると肩を震わせだしたかと思うと、腹を抱えてカラカラと笑いだした。
ハリスン「ほっほ、これはいい。自分の心に従って裁くか。なるほどのぉ。ひっひっひっひっひ」
ハリスン「全く、久しぶりにこれは、という男に出会ったわい。気持ちのいい男じゃ。 敵同士とはいえ、会えた事を幸運に思うよ、わしゃ」
ハリスン「わしも全く同じ考えじゃよ、若いの。最後は自分の心が決める。正義だの悪だの、しょせんは相対評価。それに囚われておっては、何もできん」
にやりと笑って言いきるハリスン。その背後に、ゆらりとAKGが控える。
ハリスン「これで互いに理解したわけじゃな。やはり、わしとあんたは戦うより他にない。これは運命じゃ」
承太郎「…………」
ハリスン「見たところ、あんたはスタンドバトルの日々に、いい加減嫌気がさしているようじゃ」
ハリスン「だが承太郎。ゆめゆめ『自分は巻き込まれている』等と思うなよ。そんなしみったれた考えはあんたには似合わん」
ハリスン「あんたは今、自分で言ったな。自分の心が我慢ならないから裁く、と」
ハリスン「おうともよ。あんたはあんたの意思で巻き込まれていくのじゃ。あんたの望むものを手に入れるために、その道に踏み込んでいくのじゃ」
ハリスン「スタンドバトルとは、そういうものでなくてはな!」
改めて戦闘の構えをとるハリスン。その身体を飛び越えて、AKGが承太郎に牙をむいた!
AKB『うぶっしゃあ!』
スタプラ『オラァ!』
とっさに繰り出したスタープラチナの拳に、AKGの鋭い歯が突き刺さった!
承太郎の拳からも血が吹き出る。
承太郎「くっ」
ハリスン「のう、承太郎。AKGの歯は鋭いじゃろう?まるで研磨したダイヤモンドのようじゃ」
ハリスン「ただ、水を飲んで吐き出すだけなら、こんな立派な歯は必要ない。そう思わんか?」
承太郎「……するとつまり、もっと固いものでも飲み込めるって事か」
ハリスン「ご明察!」
ハリスンの言葉と同時に、AKGはその身体を大きくくねらせ、コンクリートの地面へとダイブした!
承太郎「何っ!」
瞬く間にコンクリートを食い荒らし、地面の中へと消えるAKG。
と思った瞬間、承太郎の背後でコンクリートの割れる音がした!
ハリスン「わしのAKGは、水の中じゃろうがコンクリの中じゃろうが平気の平左衛門よ」
ハリスン「こんな安っぽいコンクリートなんぞ、モリモリ削りとっていけるわい」
承太郎は急いで身をよじり、振り返ろうとしたが、一瞬、間に合わなかった。
AKG「ふがしゃーっ」
AKGの口から放たれる無数のコンクリートの塊!
それはまるで、石のつぶてでできたマシンガンのように承太郎を襲った。
承太郎「うおおっ!」
たまらず吹っ飛ばされる承太郎。
その先には、プールに使う水が貯められた貯水タンクがあった。
承太郎「がはっ!」
承太郎の身体は勢いよく貯水タンクに叩きつけられた。
タンクがへこみ、水が噴き出る。
冷たい水が、承太郎の頬を叩いた。
承太郎(やれやれ、ざまぁねえぜ……あんな、ヘビみてぇなスタンドにやられっぱなしとはな)
承太郎(水か……あの不気味なスタンドが言ったとおりになったな。水難の相、か)
承太郎(あのスタンドが予知をしたのか、それともあいつが俺を水難に遭わせたのか……果たしてどちらなんだろうな)
承太郎(いや、今はそんなことはどうでもいいか)
身体を起こそうと、タンクに両手をつく。
顔を上げると、無残にへこんだ貯水タンクと、そこから漏れ出す水が見えた。
承太郎は、その光景に見覚えがあった。
自分の仲間がかつて、同じようにして水の中に倒れているのを見たのだ。
決して忘れられない、衝撃的な光景だった。
承太郎「…………」
数ヶ月前にタイムスリップしたかのような錯覚を、承太郎は味わった。
今にも、あの仲間の声が聞こえてきそうな気がする。
あのエジプトへの道中では、あいつの機転に何度か助けられた。
今のようなピンチに陥った時、いつも先陣を切って攻撃をしかけ、道を切り開いてくれたものだ。
承太郎(だが……あいつは、もう……)
ハリスン「うむ、わしの見込んだ男も、どうやらここまでかのう」
承太郎が呆然としているのを、ハリスンは再起不能一歩手前と勘違いしたようだった。
ハリスン「せめてもの情けじゃ、ひと思いにトドメをさしてやるとしよう」
ハリスン「くらえ!名付けて必殺・流星群じゃあ!」
AKG「うぶあっしゃぁ!」
AKGの口から再び、コンクリートの塊が吐き出される。
回避する余裕はない。受けきるしかない!
一つでも多くスタープラチナの拳で撃ち落としてやろうと、承太郎はかすみそうになる目をかっと見開いた。
その時だった。
???「エメラルドスプラッシュ!」
緑色の閃光がきらめいたかと思うと、宝石を含んだ鮮やかなエネルギーヴィジョンが、AKGの放った石片を押し戻した!
ハリスン「な、なんじゃあ!?あ、AKG!」
AKG「うぶあっ!」
AKGに更に水を吐き出させ、防御するハリスン。
自分とハリスンの間に立った人物の姿を見て、承太郎は驚愕した。
見覚えのある姿だった。
裾の長い学ランが、風を受けてはためいている。
だが、そんな事があり得るのか?
やっと絞り出した承太郎の声は、かすれていた。
承太郎「……花京院!?」
花京院は振り返ると、サングラスを外してにっこりと微笑んだ。
花京院「やあ、しばらくぶり。承太郎」
←To be continued...
支援ッ!
>>54
支援ありがとうございます!
返信遅くなってしまい、すみませんでした。
そう言っていただけるたびに、書く意欲がわいてきますッ!
―焼きついた、まぶたの裏―
承太郎「てめぇ……本当に花京院なのか」
承太郎は、目の前の光景がなかなか許容できずにいた。
死んだはずの、自分の目で直接その遺体を確認した仲間が、目の前に立ち、ぴんぴんした姿で笑っている。
花京院「ああ。それ以外に、何か別のものに見えるかい?」
状況が飲み込めていないのは、ポール・ハリスンも同じのようだった。
ハリスン「な、なんじゃ、なんじゃ貴様は。突然現れおって。どうやらスタンド使いのようじゃが」
花京院「おっと、失敬。僕は花京院典明。ここにいる空条承太郎の、」
花京院「友人だ」
承太郎「…………」
花京院「話は聞かせてもらった。君らがジョースター家を排除するという共通の志を持つ集団なら、僕は彼と、空条承太郎と同じ正義の志を 持つスタンド使いだ」
花京院「承太郎の正義のため、ジョースター一族の戦いの終結のために」
花京院「僕もこの戦いに参加させてもらう!」
ハリスンはしばしキョトンとしていたが、やがてやれやれといった風でため息をひとつはくと、白髪頭を掻いた。
ハリスン「なんとま……空条承太郎は先の戦いで仲間を失ってからは、他人を寄せ付けん一匹狼じゃと聞いておったが」ボリボリ
ハリスン「あんたの表情を見るに、それはどうやらデマだったようじゃのう」
ハリスン「随分と、心強そうな顔になったわい」
承太郎「…………」
ハリスン「じゃが、わしには関係のない事じゃ。排除するものが一人から二人に増えた。AKGの歯に切り裂かれるものが少し増えただけの事」
ハリスン「まあ、誤差範囲じゃの」
ハリスンが右手を振り下ろすと、再びAKGが大きく息を吸い込み始めた。みるみる腹がふくれていく。
ハリスン「わしのAKGは、一度口にしたものなら何度でも複製できる。何度でも吐き出す事ができる」
ハリスン「まずは承太郎ッ。因縁ある貴様から始末してやろう!くらえ、渾身の流星群をォッ!」
AKG『うばっしゃーっ!』
未だ身動きとれずにいる承太郎へ、AKGが無数の石片を吐きつける!
花京院「承太郎!」
承太郎「おう!」
花京院「法皇の緑 (ハイエロファント グリーン)!」
ハイエロファントグリーンが出現とともに触脚を伸ばし、潰れた貯水タンクから承太郎をひきはがす。
空に浮かんだ承太郎の身体を、ハイエロファントの触脚がうまくバランスをとって支えた。
承太郎「星の白金 (スタープラチナ)!」
スタプラ『オラオラオラオラオララオラァッ!』
スタープラチナの目にも止まらぬオラオラッシュが、飛んでくる石片を打ち砕く!
あれよあれよという間に、一弾たりとも承太郎へ届かせることなく、全てのコンクリート片を粉砕してしまった。
花京院「相変わらずのようで安心したよ。これなら、僕の手助けは必要なかったかな」
花京院「君の時をも止める能力があれば、大概のスタンド使いは相手にならないだろう」
だが、花京院の言葉に承太郎は黙って首を振った。
承太郎「それは、無理だ。花京院」
花京院「え?」
承太郎「今の俺に、 時は止められねえ……」
花京院「…………」
花京院が驚いた顔をしたのは一瞬だった。
すぐに笑顔に戻ると、花京院は大きくうなずいた。
花京院「わかった。じゃあ、僕のスタンドも役に立つかな。全力でアシストしよう」
ハリスン「ほぉー、 さすがは光速のスタープラチナ。あまりに素早いせいで時が止まって見えるといわれるだけの事はあるわい」
ハリスン「では、これはどうじゃ?」
身体をうねらせ、再 び地中へと潜るAKG。二人の視界から完全にその姿が消えた。
ハリスン「どこから攻撃されるか分からなければ、いくら拳や飛び道具があっても簡単には防げんじゃろう?」
承太郎「じじい、考えやがるな……!」
ハリスン「言ったじゃろうが。経験は何にも勝る武器じゃと」
その言葉が終らないうちに、花京院のすぐ足元が崩れ、AKGが頭だけを飛び出さ せた!
花京院「うっ、エメラルドスプラッシュ!」
ハリスン「やるな! じゃが、一歩遅いわッ!」
超至近距離からコンクリートの雨を降らせるAKG!
その一部がエメラルドスプラッシュをかいくぐり、花京院へと迫る!
スタプラ『オラァッ!』
すんでのところで、 承太郎がその石片をはたき飛ばした。そのまま、AKGをとらえようと手を伸ばす。
しかし、その手が届く前に、AKGは再び地中深く潜っていってしまった。
承太郎「ちっ、ちょこまかと。どこへ行きやがった」
花京院「ううむ。……ハッ、承太郎、君の後ろだ!」
花京院の言葉を待っていたかのように、承太郎の背後からAKGが飛び出した。
スタープラチナの拳がすぐには届かない、見事な死角からの攻撃!
花京院「させるか!エメラルドスプラッシュ!」
ハイエロファントグリーンから放たれたエネルギーが、承太郎に噛みつこうとしていたAKGを押し流した。
対象を攻撃しそこなったAKGは、そのまま地中へと逃げ込む。
特にそれと打ち合わせたわけでもなく、いつしか二人は背中合わせになっていた。
相手はどこから攻撃を仕掛けてくるかわからない。気を抜いている暇はない!
ハリスン「ふむふむ、なかなかの連携プレーじゃのう。じゃが、それもいつまでもつかな」
花京院「確かに、これでは埒があかない。承太郎、僕に一つ、試させてくれないか」
承太郎「策があるのか?」
花京院「ああ……!奴を必ず、地中から引きずり出してやる!」
花京院のその言葉とともに、ハイエロファントグリーンがするすると触脚を伸ばし始めた。
長く、長く、長く。 そしてその先端は地面の中へと入っていく。
花京院「僕のハイエロファントグリーンは、特に力があるわけでもなければ、スピードに優れているわけでもない。少々遠い所まで行く事はできるが、特別、器用な事ができるわけでもない」
花京院「いわゆる“器用貧乏”というやつだな。大きく苦手なものもなければ、大きく得意なものもない」
触脚はどんどん伸びていく。地面にもずんずんと入っていくが、それ以上に更に伸びていく。
みるみるうちに、花京院の周囲はハイエロファントの触脚で埋め尽くされた。
花京院「だが、それを補い長所とすることが僕にはできる。僕はハイエロファントを誰よりも知っている。どうすればハイエロファントを生かす事ができるか、誰よりも理解しているのだからな」
ハイエロファントの結界!
目には見えないが、地面の中には幾重にもハイエロファントグリーンの触脚が張り巡らされた!
花京院「これは、お前のスタンドを捕えるための網だ。すくい取るための桶だ。どんなにスピードで劣っていても、僕は必ずお前を捕まえる!」
ハリスン「ほう、天賦のものではない、自らの力で掴みとったものがあるというか」
ハリスン「じゃが、 世の中には“限界”というものもあるぞ。どんなに努力しても、たとえジョイナーであっても、チーターと並んでは走れんのと同じようにな」
ハリスン「確かにあんたのスタンドの動きには無駄がない。じゃが、このスピードの差は致命的じゃ」
ハリスン「感じるじゃろう?あんたのスタンドの触脚は、AKGにかすりもしないわい」
ハリスンの言葉は正しかった。
AKGが結界に触れる度、 側を走っている攻撃用の触脚がAKGを貫こうとするが、触脚が動く前にAKGはそれを察知し、身をよじって逃げてしまう。
花京院「まだまだ。これならどうだ!」
触脚の動きがさらに激しくなる!だが、ハリスンは余裕の表情で高笑いした。
ハリスン「ほっほっ ほ、鈍い鈍い。ノロイの呪いをかけられたようじゃ、なんての」
ハリスン「どんなに激しく動こうと無駄じゃよ。どんな角度で突こうと、AKGはすり抜ける!そんなやわなスタンドに貫かれるようなヘマはせん」
花京院「……ヘマはしない、か」
花京院「それは、どうかな」
ハリスン「何を言っておるのじゃ。現にAKGはあんたの触脚をいとも簡単に避けて」
ズボッ
ハリスン「んあっ?」
突如、AKGが勢いよく地面を突き破って姿を現した!
ハリスン「な、何故じゃッ!?AKGは地中深くを移動して……ッ!奴の触脚を避けて、それで何で地面の外 にィィィッ!?」
花京院「AKGが地表近くに上がってくるように、触脚で誘導していたのだ。触脚をかわすたび、少しずつ位置が上に向くように、触脚の出し方を調節していたんだが……気づかなかったのか?」
ハリスン「位置を修正していただとッ!?し、しかも、しかも“この位置”はッ――!」
再び地面に潜ろうとしたAKGの頭を、大きな手ががっちりとつかんだ!
ハリスン「承太郎の目の前かァーーッ!!」
花京院「言ったはずだ。地中から引きずり出すと。最初からそれが、僕の目的だったのでね。自分の手で攻撃する事じゃない」
花京院「僕が無理してそうする必要はない。僕はただ、僕らのフィールドにお前を引きずり出せればそれで良いんだ」
承太郎「やるじゃねぇか、花京院」
にやりと口角を上げる承太郎。
承太郎「しかしこのスタンド、腕がない上に全身がベルトで拘束されていて、人型というよりはまるで、ヘビ型のスタンドだな」
花京院「フフッ」
承太郎「?何がおかしい」
花京院「いや、すまない。君に出会ったばかりの頃、同じような事を言われたなと思ったんだ。緑色で筋があって」
承太郎「まるで光るメロン、か。……フ、そんな事もあったな」
スタプラ『オラオラオラオラオラオラァッ!』
スタープラチナ渾身のラッシュが、AKGを襲う!
がっちりと捕まえられて、その自慢のスピードを封じられたAKGには、もはや為す術はなかった。
ハリスン「うぶげぇっ!」
全身にダメージを受け、ハリスンはたまらず目を回して倒れた。
それとともに、AKGの姿も消滅する。
承太郎「どうやら、俺とじいさんの“理想”勝負は、俺の勝ちらしいな。じいさん」バァン!
ハリスン「……さ、さすがじゃ」
顔を上げる気力もほとんど出ないまま、それでもハリスンはどこか満足げだった。
ハリスン「さすがは、わ、わしの見込んだ……男。上出来、上出来……げふ」
―ポール・ハリスン&AKG (アジアンカンフージェネレーション)―
―再起不能―
花京院「それで、ケガは大丈夫なのか、承太郎」
ハイエロファントの触脚を周囲へと飛ばしながら、花京院が尋ねた。
ポール・ハリスンは 「わしら」と言った。他にも、こちらの命を狙うスタンド使いがいるという事だ。
用心をしておくにこしたことはない。
承太郎「ああ、問題ない。制服はずぶ濡れで、すっかり重くなっちまったがな」
花京院「相変わらず頑丈だな、君は。あんなにコンクリートの雨あられを浴びたというのに、少し青痣ができただけか。君ん家のカルシウム事情が知りたいな」
承太郎「フン。他がやわ過ぎるだけだ」
倒れたハリスンに顔を近づけ、様子をうかがう。
怒涛のラッシュを浴びて、すっかり目を回してしまったようだ。泡を吹いて白目をむいている。
花京院「ところで承太郎、さっきの話だが」
承太郎「時を止められなくなった、って話か?」
頷く花京院。
承太郎「正直な話、俺にもよく分からねぇ。むしろ、あの時どうしてあんなことができたんだって方が不思議なくらいだ。あの時は」
承太郎「とにかく、 無我夢中だったからな。DIOに勝つためにはどうしたらいいかと、必死で方法を探していた」
花京院「極限状態で編み出した技だったんだな。確かに、そんな究極の技をすぐに使いこなせる方がおかしいか」
花京院「まあ、だが、一度はものにした能力なんだ。いつかまた、使えるようになるさ。また、必要になった時に」
承太郎「ああ、そうかもしれねぇな」
承太郎「……しかし、花京院。何故てめぇ、俺の時止めの能力の事を知ってやがる?」
承太郎「そもそも何故、てめぇは今、ここにいるんだ?」
だが、花京院はただ笑って、その質問に答えなかった。
花京院「それで承太郎、これからどうするんだ」
承太郎「ああ?」
花京院「せっかく敵の一人をとらえたんだ。これでおしまい、ってつもりはないんだろう?」
承太郎「……こいつに、知っている事を全部話してもらうさ。必要ならじじいを呼び戻して、念写してもらう」
承太郎「自分の好きな事ばかりぺらぺらしゃべりやがって。少しは、俺が訊きたい事をしゃべってもらってもバチは当たらねぇだろうよ」
花京院「そうだな。 今はまだ、分からないことばかりだ。情報は多い方がいい」
その時だった。
気絶していると思ったハリスンが、突如目を開いたかと思うと、恐ろしい勢いで跳ね上がった。
承太郎「ッ!?」
ハリスンは、妙にぐにゃぐにゃと腕を揺らしながらも、承太郎達に背を向けた体勢でぴたっと着地した。
そして、なんとそのまま首と背を後ろに反らし、承太郎達の方を振り返った。
見ているこっちが、頭に血がのぼってしまいそうな姿勢だ。
ハリスン「だばばばばばばッ!ヘイッ!だレがお前の好きに話してヤルってぇぇんだ、承太郎ッ!?」
承太郎「何?」
ハリスン「このトンマがぁッ!誰がそンな事を許すってぇンダよォ!許さネェよ、このダボぐわっはっはっは」
承太郎「な、なんだ、いきなり」
花京院「お、おい承太郎、見てみろ!あのじいさんの目を」
花京院「焦点が合っていない!両目とも、目の玉がぐるぐる動いているぞ!」
ハリスン「全く、タイミングの悪い事よのォ。あとモウ少しで空条承太郎を始末できるところだったのにナァ。逆に再起不能に陥るトは情けナイ」
ハリスン「だが、ここマデだよ承太郎ッ。これ以上はてめぇの思う通りにはさせねェッ」
そう言ったかと思うと、ハリスンはその体勢のまま、自分の首に両手をかけた。
そのまま、まるで鶏の首にやるように――!
承太郎「お、おいッ、やめろじいさん!」
手をどけさせようと承太郎が手を伸ばしたが、間に合わなかった。
花京院「うっ」
鈍いごりっという音が聞こえて、花京院は思わず目をそらした。
承太郎「畜生が!」
駆け寄って、脈を確かめる。生命の証が消えてしまっているのを確かめて、承太郎は思わず拳で地面を叩いた。
花京院「承太郎…… 僕は今、ものすごく恐ろしい想像をしている……!」
花京院「そのじいさんは、自ら死を選んだわけじゃない。誰かに“死なせられた”んだ……!自分の意思に関係なく!死ぬ羽目に陥らされたんだッ!」
承太郎「ああ……俺も同じ考えだぜ、花京院」
承太郎「こいつの口から情報が漏れるのをまずいと考えた誰かが、何らかの方法で口封じをしたんだ」
承太郎「おそらくはスタンドの能力。まるで悪魔憑きみてぇな、不気味で吐き気のしそうな低俗野郎の仕業だ」
誰か人影は見えないかと辺りをうかがうが、目に入るものは何もない。
かなりの遠距離型なのか。承太郎は身震いした。
姿も見えない程遠くから、人間を思いのままに操る能力。おそろしく厄介な敵なのは間違いなかった。
承太郎「……うん?なんだ、これは」
ハリスンの遺体を探っていた承太郎は、その首筋に奇妙なものを見つけた。
承太郎(刺青……?ヘビの模様だ。尾を噛んでリング型になってやがる。随分と趣味の悪い刺青だが、なんでこんな首元に?)
承太郎(まるで、俺たちジョースターの一族にある、星型の痣のようじゃねぇか)
承太郎(……待てよ。これとよく似た模様を、最近見たような気がするぞ……?)
承太郎「おい花京院。この刺青をどう思う?」
振り返って、承太郎は再び目を疑った。
承太郎「花京院……?」
後ろには誰もいなかった。
先程まで花京院がいたところには、ただ青空が広がり、水面が揺れているだけである。
承太郎「花京院!どこへ行ったんだ、花京院ッ!」
大声で呼んでみても、答えはない。
承太郎(だが、さっきまで確かにーー)
急いで辺りを見回して、それでも誰もいない事を確認すると、承太郎はがっくりと肩を落とした。
承太郎(いや、分かっていたはずだ。最初からおかしかったんだ)
承太郎(あいつは、あの時……DIOとの戦いの中で、既に……!)
承太郎(それなのに俺はいつの間にか、あいつが戻ってきたと錯覚していた。そう信じ込もうとしていた)
承太郎(きっと、信じたかったんだ。それが真実だと信じたかったんだ)
恐らくは、あの謎のスタンドの能力だったのだろう。
攻撃してこないどころか、花京院の姿を借りて自分を助けてくれたということか。
一体何の目的があるのか、全く見えてこないが……。
とにかく、これ以上の長居は無用だ。
直に、騒ぎを聞きつけて人がやってくるだろう。
うっかり巻き込まれでもしたら、恐ろしく面倒なことになる。
承太郎はちらりとハリスンの方を振り返ると、帽子のつばに手をやって敬礼し、
そしてそのまま、その場を後にした。
一方その頃。
キキ・J・スプリットは、プール近くの家の屋根から、承太郎の様子をうかがっていた。
その顔は蒼白で、冷や汗までかいている。
キキ「な、何故よ……何故、あのスタンドが発動している!ジュ=マンジ!あのスタンドが」
キキ「しかも何故、彼と一緒にいる!空条承太郎と!?」
キキ「私の知らないところで、事が動いているの……?これは、確かめないと」
承太郎の方へと飛び出そうとするキキ。
だが次の瞬間、うっと呻いて倒れこんだ。首元に手をやる。
「痛つつ……呼んでいる。こんな時に」
下唇を噛みしめる。
本当なら、無視して承太郎に詰め寄りたい。
しかしこの“呼び出し”は、無視していると、どんどん悪化してしまう。
移動できないほどの痛みになる前に帰らなければ……。
キキ「ちっ」
一瞬のちゅうちょの後、キキは回れ右をした。
訓練された身のこなしで屋根伝いに移動する。
風のように飛び回るキキの首筋では、あのヘビの刺青が、まるで燃えるように真っ赤に変色していた。
乙でしたッ!
スタンド(AKG)をここまで細かく動かしてくれるとは……考えた自分も嬉しいです
あとは、文書の最後や次の書き込みに「今日はここまで」や「ラリホー」(笑)等の締めの文を書いて置けば>>47さんのような事にはならないかと……
今夜も楽しみに待ってますッ!
個人的には感想に対する全レスも話全体の完結以外での投下終わり文も要らない
こういう人種もいるから>>1の好きなスタイルでどうぞ
>>63
>>64
アドバイスどうもありがとうございます!
そうですね、読みたい時に読みたいだけ読んでいただければいいという思いと、後からまとめ読みされる時に邪魔になると嫌だと考えて、「今日はここまで」はつけてきませんでした。
わがままな話ですが、「お、更新する時間とストックがある!」という時に更新したいという事もあり…。
本当は、いつもTo be continued.までキリよく書ければいいのですが、どうにも遅筆でうまくいかなくて←
もう少し、今のまま「ここまで」は付けずにやらせてください。
希望する声が多ければ付ける方針に変えることも検討しますので、ご意見のある方はどしどしコメくださいね。
確かに「ラリホー♪」とかは付けると楽しいかも、ですね。
あと、いただいたコメは書くための貴重なエネルギー源となっていますので、全レスも今のまま続けさせてください。
本当に感謝しています。今後も、少しでも楽しんでいただけるように頑張ります。
次から本文が始まります。
その日結局、空条承太郎は講義に出席しなかった。
木漏れ日が心地よい芝生の上に、承太郎は目を閉じて横になっていた。
濡れてしまった上着は、側の木に引っかけて乾かしている。
と、不意にその顔に影が落ちた。
承太郎「ん?」
急に暗くなったのをいぶかしんで目を開ける承太郎。
ジョディが自分の顔を覗き込んでいる事に気がついて、渋い顔になった。
ジョディ「見つけたわよ、留学生さん。結局、一度も教室に来なかったわね」
そう言って、ジョ ディは承太郎の教科書とノートを差し出した。そして何枚かのプリント。
その中にノートの写しを見つけて、承太郎はギョッとなった。
承太郎「これは、お前が?」
ジョディ「ええ。 だってあなた、ノートを押し付けていくんですもの。てっきり、写しておけって事かと思うじゃない?」
ジョディ「あ、でも、直接は書かなかったの。それ、ノートに書き写すだけでも勉強になると思うわ。講義に不安があるのなら、余計に」
どうやらジョディは、承太郎が英語の講義を恐れて逃げ出したと思っているらしい。
億劫な気持が勝って 特に訂正しなかったが、それでも承太郎は良い気持ちがしなかった。
ジョディ「……あら、あなた、ケガしているの?」
うまく隠したつもりだった痣を目ざとく見つけて、ジョディは顔を曇らせた。
少しの躊躇のあと、 おそるおそる腫れた承太郎の頬に触れる。
ジョディ「ケンカなの?まさか、留学生だからいじめとか、そんな事、この大学にはないと思っていたけれど。でも、もし誰かにやられたのなら言った方がいいと思うわ」
ジョディ「そうだ、 医務室から氷嚢をもらってくる。冷やせばきっと早く治るから」
承太郎「いらねぇ、 放っておけ」
添えられた手をそっけなく振りはらう承太郎。
ジョディは一瞬シュンとなったが、それでもひるまなかった。
ジョディ「でも、痛いでしょう。放っておくとよくないわ、跡が残るかも」
承太郎「いいから失せろ、やかましい」
思わず声を荒げる承太郎。
と、不意にその額をめがけて、上から本が振り下ろされた!
承太郎「ッ!?」
痛みは全くなかったが、驚いて目をパチパチさせる承太郎。
金髪の青年が本を握り締め、ものすごい形相で承太郎をにらみつけていた。
青年「てめぇ、いい加減にしろよ。一体何様だ、ああん?」
承太郎「あぁ?何だ、てめぇは」
ジョディ「ちょ、ちょっとフレディ。やめなさいよ」
青年「お前もお前だ、ジョディ。もう放っておけよ、こんな奴。世話を焼く価値なしだぜ」
ジョディ「そんなことないわよ。新しい環境になって少し、戸惑っているだけよ。ちゃんと話しあえば、きっと私達お友達になれるわ。そんな気がするの」
青年「こいつとお友達ィィ?やめてくれよジョディ。俺めまいがしてきたからさぁ」
言い合う二人を眺めつつ、承太郎はため息をついた。
どうやったら、このうるさい二人を遠ざけることができるだろうか。
ジョディ「留学生さん。こっちはフレッド・メルクリウス。私の幼馴染なの」
フレディ「仲のいい奴はフレディって呼んでいる。だけどてめぇは、メルクリウスって呼びな」
ジョディ「フレディ!なんだってあなた、そんなにこの人につっかかるの」
フレディ「これが、つっかからずにいられるかよ。いいか留学生。ジョディはさっきからあんたの事ばかり言っているんだ」
フレディ「さっきなんて、あんたが心配だとか言いながら貧血で倒れたんだぜ。それなのに、てめぇときたら」
ジョディ「ちょっ、 フレディッ!」
ジョディはみるみる顔を真っ赤にしたかと思うと、持っていた自分の教科書でフレディをはたき始めた!
フレディ「痛てっ! 痛てぇって、やめろよジョディ!」
ジョディ「知らない!知らない!なんでそんな事を言うのよ、馬鹿!」
ジョディ「私、きっと、変な女だって、思われたわッ。馬鹿のフレディ!」
フレディ「な、なんだよー……事実を言っただけだろう」
ふてくされるフレディ。
その言葉に、承太郎はふと、床にふせっていた頃の母・ホリィを思い出した。
承太郎(貧血で倒れた、だと?)
アヴドゥル『自身のスタンドが害になる事もある。私は過去、自分のスタンドが害になって死んでいった人間を何人か目撃してきた』
承太郎(まさか、あの妙なスタンドは、この女が……)
承太郎(だが、こいつはスタンドが全く見えていない。いくら自分で制御できていないからといって、そんな事があり得るのか?)
承太郎(まだ確信は持てない。だが、気をつけておいた方がよさそうだ)
ジョディ「もう、貧血はそういうことじゃないって、何度も言っているじゃない」
ジョディ「小さい頃は、もっとしょっちゅうあったのよ。うまく言えないんだけれど、急に不安でたまらなくなる事があるの。お医者様は、軽いパニック症候群だろうけれど心配ない、って」
ジョディ「それで、ときどき不意に気分が悪くなったり、倒れたりするだけ。特に理由があるわけじゃないのよ」
そう言ってうつむくジョディ。
フレディ「本当に、記憶も心当たりも何もないのか?」
ジョディ「ええ、全く」
ジョディはそう言って肩をすくめた。
ジョディ「……目を閉じるとね、まぶたの裏に何かが浮かぶような気がするの。忘れている何かが見えるような……」
ジョディ「だけど、結局何も思い出せないのよね」
承太郎「…………」
承太郎(嘘をついているようには見えない。本当に何も知らなさそうだ。あるいは、“覚えていない”)
承太郎(だが“あいつ”は、少なくともこの女よりは、色々と知っていそうだな)
ジョディ「そうだ、留学生さん。あなた名前はなんて言うの?教えてもらえない?」
ジョディ「いつまでも留学生さん、じゃ呼びにくくてかなわないから」
ジョディの言葉に、承太郎は一瞬、答えるか否か迷ったが
承太郎「……承太郎。空条承太郎だ」
素直に答えることにした。
ジョディ「ジョタロー?」
承太郎「……発音しにくければ、ジョジョ、でいい」
ジョディ「ジョジョ?それがあなたの愛称なの。すてきね」
承太郎「空『Jo-Jo』太郎だからだ。特 に、大した意味があるわけじゃねぇぜ」
承太郎「だが、てめぇは」
そう言ってフレディを指さす。
承太郎「空条って呼びな」どーん
フレディ「ぬ、ぬわにぃを~!生意気だぞこの野郎。上等だ!誰がジョジョなんて呼んでやるものか!いや、誰がてめぇの名前なんざ呼ぶかよ!このスカタン!」ガルルルルル
目を剥いて怒り狂うフレディの顔を見て、ジョディは思わず噴き出した。
さっきまでの深刻な表情が吹き飛ぶような、あっけらかんとした明るい笑い声をあげる。
ジョディ「あー、おかしい。あ、ねぇジョジョ、明日は講義に出るわよね?」
ジョディ「今日の欠席だったら気にしなくていいわ。フレディが代返してくれたから」
フレディ「言っておくが、てめぇのためじゃあないからな。ジョディがどうしても、って言うから。ジョディのためなんだからな!」
ジョディ「チャーリー先生のだけはスモール・グループ・ディスカッションだったから無理だったけれど。けどあの先生なら、後で謝りに行けば減点しないでくれるから大丈夫」
ジョディ「なんだったら私、一緒に先生のところに行ってもいいわ。それから、」
承太郎「悪いが、」
まくしたてるジョディを、承太郎は一言で遮った。
承太郎「気が変わった。講義には出ない。留学も取りやめだ」
ジョディ「な、何故?」
承太郎「てめぇには関係ない。せっかくノートをとってもらって、悪かったな。だが、そういうことだ、俺にはもう構うな」
立ち上がると上着を手に取り、去ろうとする承太郎。
ジョディはその背に向かって、大声で叫んだ。
ジョディ「あら、意外と弱虫さんなのね!一度も挑戦せずに尻尾を巻くなんて!」
承太郎「……なんだと?」
ジョディの言葉にカチンときて、承太郎は振り返った。
承太郎「てめぇに何が分かる」
ジョディ「分からないわ!だって、説明してくれないんですもの」
ジョディ「若い間の時間なんてあっという間なのよ!なのに、投げ出していいの?あなたは何かをするために、ここに来たんじゃないの?」
ジョディの言葉に、承太郎は無言でかぶりを振った。
承太郎(違う。俺は逃げ出してきただけだ。そしてまた、逃げていくだけだ)
承太郎(何かがしたくてここに来たわけじゃねぇ。あの時のように……エジプトへの旅のように、明確な目的があってここに来たわけじゃあねぇんだ)
ジョディ「そんなの……私、私なら嫌だわ、自分以外のものに振り回されて、何かを諦めるなんて。まっぴらごめん」
ジョディ「私だって、毎日不安だし、急に何もかもから逃げ出したくなる。逃げられなくて、うまく呼吸できなくなって、倒れてしまうことだってある」
ジョディ「それでも、だからって足がちゃんと動くうちに、自分から逃げ出すのは嫌。私なら、身体がちゃんと動くうちは、自分のやりたい事をやるために歩きたいわ……!」
承太郎「……ちっ」
イライラと舌打ちする承太郎。
のちに苦笑とともに思い出す事になる、承太郎とジョディの記念すべき初言い争いだった。
承太郎「……そういう問題じゃねぇ」
承太郎「俺がここにいると厄介事が起こる。一般人には対処できない事だ。迷惑千万な話だが、俺にもどうすることもできねぇ。側に いれば、てめぇも巻き込まれる」
承太郎「それが嫌なら、俺には構うな」
ジョディ「…………」
その言葉に、ジョディはしばらく呆然と考え込んでいたが、承太郎が再び背を向けて歩き出すと、意を決したように駆け寄り、承太郎の上着を両手でつかんだ。
ジョディ「構わないから、構うわ」
そう言って、不敵に笑う。
ジョディ「ジョジョ、あなた強そうだもの。もし私が巻き込まれたら、私の事、護ってくれるでしょう?」
承太郎「ああ?」
承太郎は舌打ちして、帽子ごとガサガサと頭を掻いた。
承太郎(こいつ、俺の言葉を冗談だと思っている!サボるための口実だと思っていやがるな!)
承太郎(大体、論点がずれてやがる。俺が迷惑だと言っているんだッ!)
ジョディ「そうだ!今週末、仲のいい友達とビーチに遊びに行く予定なの。もう泳ぐには寒いけれど、でも潮風にあたるって、とても気分がいいの。仲間の一人がオープンカーを出してくれる予定なのよ」
ジョディ「私と、フレディ、それにジムとメアリー……あ、こんな事言っても、ジョジョはまだ会った事がないんだから、わからないわね」
ジョディ「とっても気持ちのいい子ばかりよ。きっと楽しめるわ。ねえ、そうしましょう。決まり!」
フレディはその後ろで、もうどうにでもなれといった風で遠い目をしている。
ジョディ「だからジョジョ、それまでは学校に来てちょうだい。きっと、ここも悪くないと思うようになるわ。ね、お願い」
承太郎「…………」
これは、承諾するまで引きそうにない。
承太郎は帽子を目深にかぶり直すと、大きくため息をついた。
承太郎「やれやれだぜ……」
――その日の夜。
承太郎は結局、明日も大学に行く事を約束させられて帰ってきた。
久しぶりに「わからずや」な女と話をして、すっかりヘトヘトだった。
承太郎「なんなんだ、あのアマ。都合のいい話しか耳に入っていきゃあしねぇ」
ぼやきながら、電話の受話器を上げる。
ジョセフに、今日遭遇した奇妙な出来事について報告するつもりだった。
……が、ダイヤルを回し始めたその手が、途中でぴたりと止まった。
承太郎「…………」
誰かが自分の命を狙っている。今ではそれは、自明の真実となっていた。
そんな状態の自分が祖父に電話をかけたら、敵側に祖父たちの居場所が知られてしまうかもしれない。
それでは、せっかくバラバラに行動している努力も水の泡だ。
承太郎はしばし悩んだ後、一度受話器を置いて、先刻とは違う番号をダイヤルし始めた。
何度かの呼び出し音のあと、にこやかな優しい声が聞こえてきた。
サイモン『はい、サイモンでございます』
承太郎「空条だ」
サイモン『これは、これは、承太郎様。ご機嫌麗しゅう。何かございましたか』
承太郎「またスタンド使いに襲われた。どうやら俺は、何らかの組織に狙われているらしい。居場所も知られている。今後も、定期的に襲われる可能性が高い」
承太郎はサイモンに、今日の事件をかいつまんで説明した。
サイモン『エエ。ポール・ハリスン氏の変死についてはサイモンの耳にも入っております。そうですか、やはり彼はスタンド使いでしたか』
承太郎「ああ。そこでだ、祖父にうかつに連絡して、奴らに家族の居場所がばれるのは避けたい」
承太郎「だからしばらく、俺からは連絡を入れない事にする。もし、SPW財団に問い合わせがあったら、何の問題もなく過ごしているからと答えておいてくれ」
サイモン『分かりました。サイモンはお約束いたします。必ず、そのようにいたしましょう』
承太郎「よろしく頼む」
ホッと安堵して、承太郎は受話器を置いた。
今度こそドッと疲れがわいてきて、承太郎はぐったりとベッドに突っ伏した。
無理もなかった。スタンド使いと死闘を繰り広げたのだ。それに、あの女――!
ジョディ『……目を閉じるとね、まぶたの裏に何かが浮かぶような気がするの。忘れている何かが……』
承太郎「…………」
仰向けにベッドに寝転がり、承太郎は両の眼を閉じた。
たき火が見えた。五人と一匹で夕食の後、たき火を囲んでいる。
皆、微笑を浮かべている。食後のコーヒーとガム。たわいのないものを賭けたポーカー。フランス人のナンパ方法。冗談の押収。壮大すぎる昔話……。
承太郎「…………」
承太郎はゆっくりと目を開けた。
承太郎(こんなにも、まぶたの裏にくっきりと残っているものですら思い出せないなんざ)
承太郎(よっぽどの事があったんだな。あの女……)
――その夜、ジョディ・K・シェパードはなかなか寝つけなかった。
必死に目を閉じているのに、その奥にあるもう一つのまぶたが閉じられないような、そんな奇妙な気分なのだ。
そのうち、眠れないことにすらイライラしてきて、ジョディは枕を放り投げた。
一緒に暮らしている父は、今日は仕事で遅くまで帰らないと言っていた。少しくらい、うるさくしていても問題はないだろう。
ジョディ「ああもう、どうして思い出せないの!こんなにも考えているのに!」
両手で顔を覆ってジョディは叫んだ。いっそ泣き叫びたかった。
だが何故か、ジョディは小さい頃から涙を流すことができなかった。
あくびをした時や、目に異物が入った時などはちゃんと涙が出る。涙を流す器官は正常なのだ。
にも関わらず、悲しい時に泣こうとしても、涙が一滴も出てこないのだった。
かつてホームドクターが、父を相手にこう言っていたのを、ジョディは聞いたことがある。
『せめて泣くことができれば、お嬢さんもいくらか楽になると思うのですが』
『涙を流すことは心を落ち着かせ、傷を洗い清めます。それができないお嬢さんの心には、普通以上に、悲しみがたまっているのかもしれません』
ジョディ「覚えているはずなのよ。まぶたの裏に、きっと残っているはずなのよ。それなのに……どうして思い出せないの」
髪をかきむしりながらジョディは呻いた。答えるものは、ない。
結局、ジョディが疲れ果てて明け方やっと眠りにつくまで、その問答は一晩中、続いたのだった。
←To be continued...
閲覧ありがとうございます!
それではここで、第3回目の安価をとりた いと思います。
今度はダブル・バトルです。舞台は青い海&白い砂浜のマンハッタンビーチ!
(1) 承太郎グループ
○スタンド使い
・名前、性別、あれば年齢も可 >>72
・性格、あれば見た目等、詳しく追加可 >>73
○スタンド
・名前、能力、あれば見た目等、詳しく追加可 >>74
○対戦相手 >>75
・“承太郎と面識がある”第3部タロット編の敵キャラから一人
【確定】空条承太郎
(2) キキグループ
○スタンド使い
・名前、性別、あれば年齢も可 >>76
・性格、あれば見た目等、詳しく追加可 >>77
○スタンド
・名前、能力、あれば見た目等、詳しく追加可 >>78
○対戦相手 >>79
・アヴドゥル、ポルナレフ、イギーの中から一人選択
【確定】キキ・J・スプリット
安価ルール等は>>8をご参照ください。
期限は10/21いっぱいとします。
安価内容が被った場合は早かった方を優先。
ルールにのっとらないものが入った場合や、安価が被った場合は、その次のコメントから順に採用します。
※ あまりに混乱した場合はとり直す事もあります。
よろしくお願いいたします。
ゴーチ・M・ラッサー 中年男性
中肉中背の偽善者、その場での賞賛を得る為にマッチポンプもやる
名前 サイレンスド バイ ザ ナイト
能力 スタンドから半径5m(扱いづらかったら変えて大丈夫です)内にいる相手の聴覚を遮断する
ズィー・ズィー
ケイティ・ペリー 妙齢の女
名前:ブルーハーツ
能力:1度触れた物なら、次触れた時に熱や重さ,勢いを無視して簡単に弾く
金色の長髪で、紺碧に輝く西洋の甲冑に身を包み、白く長いスカーフを巻いた人(前安価により女性)型のスタンド
イメージ→ジャンヌダルク
凛とした美人 DIOに恋していた
―寸分違わず平等に―
翌朝。
空条承太郎は電話のベルの音で目を覚ました。
時計を見れば、自分が起きようと思っていた時間より少し早い。
母・ホリィに起こされるわずらわしさから解放されたと思っていた承太郎は、寝起きのイライラした頭をガリガリ掻きながら受話器を上げた。
ジョディ『ああ、ジョジョ?おはよう。どう、目が覚めた?』
承太郎「…………」
受話器からジョディの元気な声が漏れてきて、承太郎は目を白黒とさせた。
ジョディ『電話番号も教えていないのにどうして、って思っているでしょうね』
ジョディ『昨日言い忘れたけれど、私の父は大学の校長なのよ。それで、あなたの電話番号が分かるから、かけて大学に来られそうか聞いてあげなさい、って』
承太郎「…………」
ジョディ『私も、あなたが約束通り学校に来るか気になって。ねえ、ちゃんと始業に間に合うように来てね。今日の講義の先生はちょっとイカしているのよ』
承太郎「…………」
ジョディ『あ、でも朝食はちゃんと食べてこなきゃだめよ。フレディなんて、前に空腹で目を回しちゃったことがあるんだから。それ から』
承太郎は不機嫌全開で声を張り上げ怒鳴った。
承太郎「いい加減にしろッ!うるさいぞッ!!」
苛立ちのままに受話器を叩きつける。
ため息をひとつ吐いて、承太郎は身支度を始めた。
言う通りにするのも正直しゃくだが、このまま大学に行かなくて、やはりサボッたと思われるのはもっとしゃくだった。
何より、無視したら次に何をされるか分かったものじゃない。
と、昨夜に比べて格段に身体が軽い事に気がついた。痣も随分、薄くなっている。
承太郎「?」
いくらなんでも回復が早すぎると身体をまさぐって、ふと自身の右手中指に、小さなツタ植物のツルが巻きついているのに気がつい た。
触れようと指を近づけると、透けて向こう側が見える。
スタンドだ。しかも見覚えがある。
承太郎「~~~~ッ」
妙に回復が早いのは“これ”のおかげか。
どうやら皆、てこでも自分を一人で放っておかないつもりらしい。
トーストをモシャモシャと口に運びながら、承太郎は起きてからすでに何度目かとなるため息をついた。
承太郎「やれやれ……どいつもこいつも」
承太郎の懸念に反して、それから週末になるまで、スタンド使いの襲来はなかった。
てっきり、エジプトにいた頃のような連日連戦を覚悟していた承太郎は、この事実にやや拍子抜けしてしまった。
集団で命を狙っているという、あのハリスンの言葉はハッタリだったのだろうかと疑ったほどだ。
もちろん、それは嬉しい誤算だった。
お陰で承太郎は、一旦は諦めた『学生らしい生活』を始める事ができたのだった。
そっけなく粗暴な態度はとるものの、承太郎はもともと、人に好かれる性質を持っている。
この久しぶりに平和な一週間で、ジョディとフレディ、そしてこの二人を通して何人かの友人ができた。
そして、NYに来てから初めての 休日。
承太郎は友人達とともに、マンハッタンビーチへとドライブする事になったのだった。
マンハッタンビーチ。
NYに住む多くの若者たちが青春を過ごす場所である。
カリフォルニア地方を代表する海岸であり、サーフィンやビーチバレーボール、サイクリング、ローラーブレードや釣り等々を楽しむ人たちでにぎわう。
沿岸にはビールやハンバーガーを味わえる店が立ち並び、心行くまでNYの海を堪能できるスポットだ。
ちなみに「マンハッタンビーチ」という名前は、1902年、その地域の土地を所有していた二人の地主が行ったコイントスによって決まったと言われている。
承太郎達が海を目指して車を走らせている頃。
サーフィンでぺこぺこになった腹を落ち着かせようと、二人の男、オーバックとカーニーは海岸近くのレストランに入っていた。
食事をする席が店の外になっており、潮風と波の音を楽しみながら食事をすることができるのだ。
特大のハンバーガーを買い、席についたところで、オーバックがカーニーの脇腹をひじで小突いた。
オーバック「おい、カーニー!あれを見てみろ、とびきりの美人がいるぞ」
オーバックの言う通りだった。
出入り口から最も遠い席に女が一人腰かけ、ぼんやりと海の方を眺めながら物思いにふけっていた。
その瞳は深い憂いに彩られ、今にも涙をこぼしそうに潤んでいる。
柔らかいストロベリー・ブロンドが潮風にあおられ、程よく日焼けした頬や肩をなでる様はなんとも悩ましげだった。
厚く血色のいい唇。豊満な胸、ウエストの曲線美、長い足。どれをとっても完璧だ。
カーニー「ワーオ、すげぇ。あれ人間か?浜に打ち上げられた人魚なんじゃねぇのか」
オーバック「馬鹿、よく見てみろ。あの小麦色の足を、よ。人魚だったらあんな立派な足は持っていないぜ。あれは貝から生まれたビーナス様だ、間違いない」
カーニー「一人か?あんな美人が一人で海にいるなんて、何かの間違いだろう」
オーバック「ああ、世界の損失だ。あの憂いの表情。心ない男に捨てられたのかもしれない。こんなカップルの多いビーチで、かわいそうに」
カーニー「じゃあ、声をかけて救ってあげようぜ。それこそ親切ってもんだろう」
オーバック「そうとも!彼女の唇に微笑を浮かべさせられれば、世界はもっと明るくなるはずだぜ」
二人は食事もそぞろに、そわそわと立ち上がると、彼女の前に立った。
突然近づいてきた見知らぬ男に気がついて、海から視線を外して小首をかしげる女。
オーバック「あー、綺麗なお嬢さん。一人かい?そんなぼーっと海ばかり見ていて、つまらなくないか?よければ、俺達と時間をつぶさないかな」
カーニー「俺達、二人でサーフィンをしているんだ。なかなかの腕なんだぜ。何なら教えてあげるぜ」
オーバック「あんたみたいな美人なら大歓迎さぁ。なあ、どうだい」
女「…………」
女は無表情で二人の顔を交互に見比べていたが、やがてふと、その視線を二人の後ろに移した。
オーバック&カーニー「?」
後ろを振り返る二人。
パッとしない中肉中背の中年男が、ドリンク二つを手にやってくるところだった。
???「待たせたな、ケイティ。行くぞ」
男の言葉に、ケイティと呼ばれた女は立ち上がった。上着のフードをかぶり、二人の前に立つと
ケイティ「邪魔だよ、退きな」
まるで氷のような冷たい言い方に、二人は驚いてさっと道を譲った。
その間を、まるで女王のようにケイティが闊歩する。
奪うようにして中年男からドリンクを受け取ると、そのまま一度も振り返らずに店を出ていってしまった。
二人はしばらく、魔法にかかったように動けず、呆然としていた。
やがて、冬眠から覚めた熊のようにのろのろと首を回して、カーニーは相棒の方を振り返った。
カーニー「ぶったまげたなぁ、あのカワイコちゃん。まるでマフィアみたいにドスがきいてやがったぜ」
オーバック「誰か、名のある首領の愛人なのかもしれねぇな。あるいは娘」
カーニー「あのオッサン、あの美人の彼氏だと思うか?」
オーバック「いや、違うね。あれはどっちかっていうと付き人だ。あるいはヒモ」
カーニー「それだ、間違いねぇ」
うんうんと頷き合う二人。それにしても美人だったと互いに言い合った。
オーバック「ぞっとするような美女だったぜ。なのに、目の覚めるような毒舌」
カーニー「ああ、全くだ。俺、ああいう女の事を何て言うのか知っているぜ」
カーニー「美しい花にはとげがある、って言うんだ」
???「また、ナンパされていたのか。美しいって事は罪な事だな」
店を出たところで、中年男はにやにやと笑いながら女に声をかけた。
ケイティ「うるさいよ、ラッサー。それに、馴れ馴れしく名前を呼ぶのはやめてちょうだい」
いらいらとストローを口に運ぶケイティ。
口では乱暴な言葉を吐きながらも、その目はやはり重い憂いを湛えており、水平線のかなたを見つめている。
ケイティ「私の心はDIO様のものだよ。DIO様たった一人のものだ。あんなゴミカス共にどう言われようと関係ないのさ」
二人は、海岸伝いに伸びる遊歩道『The Strand』を歩いていた。
ケイティは空いている左手で、すれ違いざま、停まっている自動車や自転車、街灯といったものに触れていく。
持ち主に見とがめられないよう、たった一瞬だ。
中年男――ラッサーはその目的を知っているため、敢えては問わない。
ラッサー「計画だが、予定通り“奴”の関与がなければプランA、関与ありならプランBで進める。いいな」
ケイティ「“あの子”は、首を突っ込んでくるかしら」
ラッサー「“あの人”の予想はよく当たるからな。どうも最近、変に疑い深くなって色々と嗅ぎまわっているらしい。その可能性は高いだろう」
ラッサー「で、その重要なプランBの場合なんだが、君の標的はこいつだ。俺はこっち」
ポケットから写真を出し、ケイティに見せる。
ケイティの顔色が変わった。
ケイティ「待ってよ!話が違う!」
ケイティ「私は復讐ができるって聞いてやってきたのよ。なのに、なんでこっちなのよ!?」
ドリンクの入っていた紙コップを握り潰し、ラッサーを睨みつける。
その刃物のような鋭いまなざしに、ラッサーは思わずたじろいだ。
ラッサー「まあ、そんなに熱くなるなよ。話しただろう?俺の能力は“あいつ”とは相性が悪いんだ」
ラッサー「その点、君の能力なら距離をとって戦えるだろう?向こうは射程距離が異常に短い。君の方が楽に倒せるんだ」
ラッサー「それに失礼だが、君があの空条承太郎を出し抜いて勝てるとは思えないね」
ラッサーの言葉に、ケイティは唇をかみしめた
ケイティ「……あんたなら、勝てるって言うの?あの、空条承太郎に」
ラッサー「ああ、勝算はある」
紙コップをゴミ箱に投げ捨て、ラッサーはにやりと笑った。
ラッサー「なんなら、とどめは刺させてやるからよ。そうカリカリするなよ」
その頃。
言い合いながら歩く二人の姿を、少し離れた建物の屋根から監視している人物がいた。
キキ・J・スプリットである。
キキは昨日、たまたまあの二人が“リーダー”の家から出てくるのを目撃し、不審に思って尾けてきていたのだった。
キキ(あの二人、どうも胡散臭い匂いがする。リーダーと何の話をしていたんだろう。見たところ、スタンド使いのようだけれど……)
キキ(この距離からじゃ、会話は聞き取れないか。ああ、もどかしい!)
あの日、大学のプールで承太郎と共に発現しているジュ=マンジを見つけてから、キキは不安な毎日を送っていた。
リーダーは何か、重要な事を自分に隠しているのではないか。
自分の預かり知らないところで、承太郎やジュ=マンジを巻き込んだ『何か』が進行しているのではないかと、気が気ではなかった。
キキ(あれからMr. 空条をずっと監視し ていたけれど、あれ以降スタンド使いの襲撃はなかった)
キキ(てっきり、刺客が次々と現れるかと思っていたのに、当てが外れてしまった。けれど、あのおじいさんが黒幕とも思えなかったし)
キキ(私が監視をしているのがばれている?まさか……)
監視を続けながら、キキの左手は無意識のうちに、首元にある刺青へと伸びていた。
ヘビの紋様がある事を確かめるかのように、そっとなでる。
キキ(あの日、ジュ=マンジを目撃した後、リーダーに会って話をした。リーダーはいつもと変わりない様子だった)
キキ(だけど、何かが変だ。安心する事ができなかった)
キキ(いつもなら、リーダーと話をすれば、何もかもがよく分かって、何一つ不安な事はなくなるのに)
目では二人を追いつつ、キキはこの間の事を回想した。
あの日、刺青の痛みに呼ばれ、承太郎を問い詰める事を諦めたキキは、“リーダー”の待つ本拠地へと帰ったのだった――。
ゴーチさんって絶対グラサンだよな
>>86
よく分からずググった自分を許してください
なるほど!よく名前を見てみたら…そういうことでしたか
という事は、スタンド能力を出してくださった方は
これに気がついていたということなんてますね
うーん、自分、ニブチンでした
~数日前~
キキ「キキです、リーダー。帰りました」コツコツ
リーダー「入りなさい」
キキ「失礼します。すみません、遅くなりました」
キキと目が合うと、“リーダー”は左目のない強面をほころばせて笑った。
昔、聞いたところによると彼は退役軍人であり、戦争で左目を失ったのだそうだ。
リーダー「いいや、構わないよ。こちらこそ、呼び立てて悪かった。用というのはね――」
“リーダー”の用件は、わざわざ外出していたキキを呼び戻す必要性の特に感じられない、緊急性の低いものだった。
キキ(普段のリーダーなら、私の知っているリーダーなら、こんな用件で私を呼び戻したりしない……ような気がする)
キキ(私につけられたウロボロスの刺青は、心拍や神経の緊張具合、ケガの状況等をリーダーに伝えているらしい。どれくらい詳しい事が分かるかは知らないけれど)
キキ(私が緊張状態だった事が、きっとリーダーには分かったはず。それなのに呼び戻して……こんな簡単な情報伝達だけで……どうして)
リーダー「以上だ。足労をかけたな。戻ってくれ」
キキ「……それだけ、ですか」
リーダー「?なんだ、何かあるのか?」
キキ「いえ、あの……私、不安なんです。私の知らない事が、思っていたより多い気がして。リーダーは、Mr. 空条を助けるために私を派遣したんですよね?」
キキ「Mr. 空条を……殺すためではないですよね」
リーダー「当たり前じゃないか。現にお前は、彼をキャンベルから助けただろう?」
キキ「それは、そうですけれど」
キキ(Mr. 空条を安心させるために、Mr. キャンベルを噛ませ犬に使ったのかもしれない……とは言えない)
リーダー「……キルスティン」
ゆるりと立ち上がると、“リーダー”はキキの頭に手をやった。
キルスティン、というのはキキの本名である。“キキ”は愛称、あだ名のようなものだ。
リーダー「自分の左手の小指を見てみなさい。私のあげた指輪がはまっているはずだ。自分の背中を見てみなさい。私と揃いの刺青が入っているはずだ」
リーダー「お前は私の大事な右腕だ。優秀なスタンド使いだ。私はお前を頼りにしているんだ。そんなお前に、どうして私が嘘をつく必要がある?」
リーダー「覚えているだろう?私達の理想。目指すものがある事を知っているだろう?」
リーダー「私は幼い頃、貧困街で生まれ育ってとても苦労をした。軍隊に入ってからも、出身地の事で蔑まれ、差別された。全ては不平等が招いた不幸だ。私達はそれを解消しなくてはいけない」
リーダー「“寸分違わず平等に”――私達が掲げたスローガンだ。人を不幸にする不平等はなくさなければならない。私達のスタンド能力は、そのためにあるんだ」
リーダー「……お前にも、正したい不平等があるだろう?獲得したい平等があるんだろう。そうだったな?」
キキが小さく頷くと、リーダーはよし、と言って笑った。
リーダー「今はまだ足りないが、私達は着実に力を蓄えつつある。ウロボロスの印の意味を知っているだろう?あれは、自分の尾を噛むことで自身の強大な力を抑え、機会をじっとうかがう蛇神のマークだ」
リーダー「あれは私達の象徴だ。来るべき時のために力を蓄えている。世界はあの印と同じ、何度でも巡る。何度でも新しくなる。い つか必ず、私達の世界が開けるはずだ。だが、それには力が必要だ」
リーダー「私には、お前だけなんだ。私を信じてくれ、キルスティン」
キキ「…………」
キキ「……はい、分かりました。パ……あっ」
リーダーが顔を強張らせたのに気がついて、キキは口を押さえて言葉を飲み込んだ。
キキ「リーダー。あの、変な事を聞いてごめんなさい。私、失礼します」
リーダー「ああ、気をつけてな。また何かあれば、些細な事で構わない、教えてくれ」
後ろ手に扉を閉める時“リーダー”がまた、『あの歌』を口ずさんでいるのが聞こえた。
アメリカの有名なマーチの一つだ。
なんでも軍隊にいた頃、よく仲間と歌ったのだそうだ。
リーダー「♪~ジョニーが故郷に凱旋して戻ったなら フレー!フレー!温かく歓迎してやろうじゃないか フレー!フレー!」
リーダー「♪~男どもは歓声を上げ 子どもらは叫び 女達は皆、外へ出てくる」
リーダー「♪~そして私らは彼を心に刻むだろう ジョニーが凱旋してきたなら」
……キキが出ていったのを確認して、“リーダー”は満足げな笑みとともに呟いた。
リーダー「……あともう少しだ。私のかわいい“ジョニー”。お前だけが私の希望だ……!」
暗い表情のまま、キキが外へと続く廊下を歩いていると、キキの姿に気がついた数人の子どもたちがわっと側に駆け寄ってきた。
この施設で保護した、スタンド使いの子どもたちだ。
その多くは、スタンドを理解できない親元から離れ、この施設で共同生活をしている。
カルキン「どうしたの、キキ姉ちゃん。そんな怖い顔をして。何か嫌な事があったのかい」
キキ「……ううん!そんな事ないよー。ちょっと考え事をしていただけ。私は元気だよー」
プラチナブロンドの少女がキキの袖をひっぱり、手話で『大丈夫?』と語りかける。
この施設では最年少のブライトニーだ。
彼女は昔、両親に育児を放棄され、孤児同然の生活をしていた後遺症で、言葉を話す事ができない。
歌う事はできるので、発声できないわけではないのだ。ただ、言葉だけがどうしても出てこない。
キキ「ありがとう、ブライトニー。心配かけてごめんね」
キキ(そうだ、私にはこの子たちがいる。守るべき、道を指し示してあげるべきこの子達が)
原因は分からなかったが、最近、NYでは子どものスタンド使いが急激に増加していた。
それに伴い、スタンドの暴走や悪用による事件も増えてきている。
キキ「そうだよ……私がしっかりしなくちゃ」
回想を終えると、キキはよしッと気合を入れた。目の前の二人組に意識を戻す。
キキ(要するに、分からないから不安なんだ。疑心暗鬼になるんだ。だったら、分かるように行動するしかない)
キキ(そのためにもまずは、“リーダー”の屋敷から出てきた、あの二人のスタンド使いから目を離さないようにしなければ)
そう思った、その時だった。
キキに背中を向けていた二人が、首筋に手をやったかと思うと、一斉にこちらを振り返ったのだ!
キキ「ッ!」
キキ(しまった、気づかれていたッ!?)
ケイティ「あら、本当に来てしまったわね」
そんな言葉が聞こえたような気がした。
ケイティ「邪魔ね。人の事を隠れて見ているなんて、失礼だわ」
二人組の内、女の方が左手を上げたかと思うと、その手につかんだ『何か』を右手でチョイ、とつついた。
よく見れば、女の右手近くにスタンドが発現していたのが見えたはずだが、キキにはそれを確かめる余裕などなかった。
次の瞬間、その『何か』が猛スピードでキキめがけて飛んできたからだった。
キキ(な、何か飛んでくるッ!あ、あれは――紙コップゥ!?)
防御姿勢をとったキキを、紙コップはあり得ないスピードではじきとばした。
宙に舞うキキの身体。そのまま地面に叩きつけられた!
DIO「きさま!見ているぞッ!(支援)」
フレディ「もうとっくにシーズンは過ぎたと思っていたけれど、思ったより人が多いな。まだ海に入っている人もいる」
メアリー「今年は残暑が厳しいし、名残を惜しんでいるサーファーが多いんじゃない。そういえばフレディあなた、サーフィンを練習するんだってボードを買っていたけれど、乗れるようになった?」
フレディ「ま、まあ、ね。俺様にかかれば波乗りなんて、あっという間に完璧よ」
ジョディ「ふふ、嘘よメアリー。この人ったら波に乗るより波に乗られる回数の方が多いんだから」
他愛もない事を話しながら、若者達は海岸沿いの道『The Strand』を歩いていた。
道沿いには多くの店が出ており、軽食はもちろん、アクセサリ等の土産物を買う事もできる。
ジョディ「あ、ねぇジョジョ見て。これ、すてき」
ジョディがそう言って、店のカウンターからイルカのブローチをつまみあげた。
ジョディ「あなたの帽子、色々なバッジがついているじゃない?きっとこれも似合うわ……ほら」
店の主人に代金を支払い、承太郎の帽子にイルカを付ける。
ジョディ「私、人にブローチを選ぶの得意なのよ。この間の父の日も、パパに三日月のブローチを贈ったんだから。怖い顔をしている人って、こういうブローチを付けると優しげに見えてよ」
承太郎「それは、俺の顔が怖いという事か」
フレディ「お、なんだよ承太郎。まさかお前、自分の顔が怖くないとでも思っていたのか」
どっと笑う仲間達。承太郎はやれやれとため息をついた。
承太郎「支払う。いくらだ」
ジョディ「あら、良いじゃない。安物なんだし、プレゼントさせて」
ジョディ「私、ジョジョが一緒に遊んでくれてとても嬉しく思っているの。大学にもずっと来てくれているし。それに驚いたわ、あなたすごく頭が良くて……とにかく嬉しいの。だから、プレゼント」
承太郎「…………」
承太郎「なら別のものを買う。何か、気に入ったものはないのか」
ジョディ「えっ、いいの」
ジョディ「え、ええっと……そうね」
メアリー「あー、ねぇジョディ。見て見て、変な車が走っていくわよ。けっさくだわ」
メアリーが歓声を上げて、道路を指さした。
なるほど、まるで祭車のような派手な改造車が猛スピードで道路を南下していく。
運転している男の腕が、窓からだらりと伸びているのが見えた。
ジョディ「まーっ、派手な車ね」
メアリー「自分で飾りつけたのかしら?きっとそうよねーッ」
ジョディ「私、昔ああいう改造車に追っかけまわされてから、どうも苦手だわ。やたら煽ってくるし、いつまでも絡んでくるし」
承太郎(派手な改造車。車から伸びた手。粘着質な運転に煽り)
承太郎(そういえば、そういうスタンド使いがいたな。……どこにでもいるんだな、あーいう奴ってのは)
改造車を追って、道路を移動する承太郎の視線。
そしてその先に、偶然にも見知った人物の姿を見つけた。地面に突っ伏す、黒くて小さな人影を。
承太郎(!あれは、スプリット!?)
承太郎(訊きたい事が山ほどあるってぇのに、どうにも姿が見えねぇと思っていたが!よりにもよってなんであんな所にいやがる)
承太郎「悪い。急用を思い出した。少し抜けるぜ」
そう言い置くと、言い返す暇を与えず承太郎は走り出した。
ジョディ「あ、えっ、ジョジョッ?」
承太郎「すぐに戻る。心配するな、てめぇらで楽しんでいろ」
ジョディ「で、でも……」
あっという間に走り去った承太郎の背中を見送って、ジョディは顔をむくれさせた。
ジョディ「……何よ、んもう!」
※93
意外ッ!それは支援ッ!
どうもありがとうございます。
まさか更新リアルタイムでいただけるとは!
それなのに、またまた短い更新でお恥ずかしいです。
や、やっと次からはスタンドバトルなんだぜ…。
いただいたどちらのスタンド使い&能力ともイメージが膨らんできて、
書くのがとても楽しいです。
頑張ります
あ、失礼
[読むだけで楽しんでいる人もいる]
こっちの方がわかりやすいかな?
では今度こそ…ラリホーゥ♪
さるさんとかも無いから投下中は>>1の話だけ追いたい人が読み難くなるだろーな、と気が引けるんだわ
読んでるよ
>>98さんのように、そこまで考えて配慮していなかった俺は一体……
以後気を付けます
元ネタ
ゴーチ
交響曲第1番《HIROSHIMA》
ttp://www.youtube.com/watch?v=E6PMI331Gmw
Keane - Silenced By The Night
ttp://www.youtube.com/watch?v=5HrV_B0qrdY
Katy Perry - Roar (Official)
ttp://www.youtube.com/watch?v=CevxZvSJLk8
ブルーハーツ 人にやさしく
ttp://www.youtube.com/watch?v=hhOMoTkYh9I
間違ってるの有るかも?
承太郎「スプリット!」
駆け寄った承太郎が目にしたのは、地面に突っ伏すキキと、それを見下ろす男女二人組の姿だった。
どうやらここは道路工事の真っ最中らしく、砂利や資材を積んだトラックがそこここに停まっている。
海から離れている事もあってか、他に人は見当たらなかった。
承太郎の声に反応して、キキはゆるゆると顔を上げた。頭に手をやって顔をしかめる。
キキ「あれ、Mr. 空条……?何でここに……痛つつ。ああ、良かった紙コップで。もう少し硬かったり重かったりしたら、こんなのじゃすまなかった」
承太郎「何ではこっちの台詞だ。ここで何をしている。……てめぇらは」
最後の言葉は、キキを冷たい目で見下ろす二人に向けたものだった。
承太郎「何者だ」ゴゴゴ
キキ「…………」ごくっ
ケイティ「…………」ゴゴゴゴゴ
ラッサー「…………」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
互いににらみ合ったその瞬間、承太郎は本能で感じ取った。
この見知らぬ二人がスタンド使いである事!そして、自分に殺意を向けているのだという事をッ!
ラッサー「……何者かだなんて、はは、本気で訊いているのか?」
ラッサー「いや、仮にそうだとしても、答える必要はないと思うがねぇ。答える気がないというより、必要がない。何故なら、」
ラッサー「君はもう答えを察しているんじゃないか、と思うからなんだがねぇ。空条承太郎くん」
承太郎「……俺を知っているようだな。てめぇらも、俺を殺しにきた刺客か」
ラッサー「ほうら、必要なかった」
ラッサー「ご明察だよ承太郎くん。いや、探す手間が省けて良かった。ここにきているという情報は掴んでいたんだが、詳しい位置までは分からなかったのでね。そちらから来てくれて助かった。しかも、お友達は置いてきてくれたようだ」
ラッサー「なんなら、今のうちに自己紹介しておこうか?俺はゴーチ・M・ラッサー。隣はケイティ・ペリー。いかにも、あんたの命をもらいにきたスタンド使いだ」
ラッサー「だがそんな事より、もっと大事な事をはっきりさせておいた方が賢明だと、俺は思うんだがね」
ラッサー「たとえば、そこにいるキキ・J・スプリットの立ち位置だとかね」
キキ「?私が、何だって言うの」
ラッサー「君、ごく当たり前のようにそちら側に立っているが、実際は“こちら側”だという事に気が付いていないのではないかと思ってね」
ラッサー「だから、俺達を尾行するなんて愚行を犯したんだろう。違うかね?」
キキ「私が!?」
うろたえるキキに、ラッサーとケイティの二人は徐に髪をまくると後ろを向き、首筋をあらわにしてみせた。
キキ「!それは……ウロボロスの印ッ!」
そこには、尾を噛んで丸く円をかたどったヘビが描かれていた。
それは古代より、永遠、死と再生、完全性などの象徴として使われてきた空想上の生物――ウロボロス!
承太郎(あのじいさん……俺を襲ったハリスンの首にあったものと同じだ)
承太郎(そして確かこの女、スプリットは同じ印の指輪をしていた。この様子だと……刺青もしているようだな。恐らくは、同じデザ インのものを)
承太郎(じいさんの刺青を見た時、真っ先に思い出したのがこいつの指輪だった。会って問いただす気でいたが……この反応……こいつは“真実”を知らないのか?)
承太郎(俺の持っている情報。どこまでが嘘で、どこからが真実だ。その“境界”はどこだ……ッ!)
ラッサー「君の“リーダー”は、この印の事を君にどう説明した?」
ラッサー「この印を持つ者は、志を同じくする者。仲間だと――そう言ったんじゃないかと思うんだがね」
ラッサー「君は、疑う必要のないものを疑ったようだな。疑心暗鬼って奴だ。その結果、リーダーの指示に従いきれなかったどころか、仲間である俺達を尾行するなんて事をした」
キキ「……そう、なのかも、しれない」
のろのろと呟いたキキの声は震えていた。
キキ「だけど、それでも腑に落ちない事が、ある。今の、あんたの言葉だ」
キキ「あんたらは、Mr. 空条の刺客だと言ったッ!Mr. キャンベルと同じく!Mr. ハリスンと同じくだ!」
キキ「だが、それはあり得ない!リーダーは、あの人は空条承太郎を刺客から守れと言った。彼の力になりたいから、と。彼のファンなのだ、と。私はそう聞いている!」
ラッサー「ああ、そんな事か」
ラッサー「説明してしまえば、簡単な事なんだがね。それはあの方が、君を信用していなかったからだ」
キキ「なッ……」
その一言に、キキは今度こそ、完全に打ちのめされたようだった。
ラッサー「あの方は様々な策を使って、何としても空条承太郎を仕留めるつもりなのさ。その策の一つとして、味方のふりをして承太 郎に近づく『トロイの木馬』が必要だった」
ラッサー「だが君は、今しがた気付いたと思うが、幼稚で自ら墓穴を掘る性格だ。全てを教えては、承太郎をだましきれないかもしれ ない。それどころか、余計なヒントを与える可能性もある」
ラッサー「だから、真実を伝えなかったのさ。まぁ、部下を隅々まで把握した上での“親心”ってぇ奴だな。結局、墓穴を掘るのを防ぐことまではできなかったようだがね」
ケイティ「ま、ファンだっていうのはあながち間違いじゃないかもしれないわね。何せジョースターの星を真似て、私達にこんな趣味の悪い印を入れさせるくらいだもの」
ケイティ「DIO様とも一緒だと思え ば、それも悪くはないけれど」
キキ「…………」
ラッサー「君が承太郎の監視なんて馬鹿な行為を思いつかなければ、リーダーは君を通じて承太郎を罠にかけるつもりだった。だが君は、愚かな行為を選んだ」
ラッサー「このままでは、仲間のスタンド使いとぶつかって余計なゴタゴタを引き起こす可能性がある。だからリーダーは、俺達に伝えてきた。スプリットを止めろ、とね」
キキ「リーダー、が?」
ケイティ「私達があんたの尾行に気づいたのは、連絡があったからよ。このウロボロスの印を通してね」
ラッサー「俺達の手によって、君が殺されるのは忍びない。これはリーダーの愛情だぜ?」
ラッサー「まぁ、それで本命の空条承太郎まで呼び寄せてしまったのは嬉しい誤算だったがな」
ラッサー「さぁ、これで分かっただろう、スプリット。君が俺達と敵対するのは全くのお門違いだ。俺達と共に戦うか、まあ、それが 無理ならせめてここから立ち去れ」
ラッサー「なんなら、リーダーに会って確かめれば良い。空条承太郎は俺達が始末する。もう今なら、リーダーも本当の事を君に教えられるだろうよ」
キキは蒼い顔で、ラッサーとケイティの二人を交互に見つめていた。
しかし、その視線が隣の承太郎に映ったところで、彼女は覚悟を決めたようだった。
キキ「どちらも、断る」
ラッサー「あん?」
キキ「あんたらの言葉をそのまま、ハイそうですかと鵜呑みにすることはできない。自分で理解できていない事に、人に説明できない 事にそのまま従うのは嫌だ」
キキ「どんなに冴えない生き方でも、私は自分自身に胸を張れる行動を重ねていきたい」
キキ「リーダーの、私に対する指示は解けていない!私の心がそう感じているッ!だからッ、私はこの場を離れるわけにはいかな い!」
キキ「私の信念に沿った行動――今の場合、それはMr. 空条を助けることだッ!」
キキの言葉に、ケイティはうんざりした表情でラッサーの方を見やった。
ラッサー「……プランBだ」
ケイティ「嫌になるわ、全く」
吐き捨てるように言うと、ケイティは隣に止まっていたトラックへと手を伸ばした。
その荷台にあった鉄パイプの束に触れる。
そして次の瞬間、その鉄パイプを恐ろしい勢いで弾き飛ばしてきた!
キキ「な、なにィ――っ!?」
承太郎「ちっ、星の白金 (スタープラチ ナ)!」
スタプラ『オラオラオラオラァッ!』
飛んできた鉄パイプをスタープラチナの拳で撃ち落とす!
承太郎「今度はこっちから行くぜ!」
スタプラ『オラァッ!』
スタープラチナは撃ち落とした数本の鉄パイプを手に取ると、逆にケイティの方へ全力で投げ返した。
だが、ケイティは涼しい顔をして避けようともしない。
ケイティ「残念でした。今まであんたを狙ってきた刺客と違って、私は用意周到なのよ」
ケイティの傍らに、金色の髪をなびかせた甲冑様のヴィジョンが姿を現した。
首には白いスカーフを巻き、手に美しい装飾の施された槍を携えている。
全体的に無骨な甲冑ではあるが、肩や腰など、そこここの造作が女性らしい。
承太郎「それがてめぇのスタンドか」
承太郎「甲冑の姿をしたスタンドは俺の知り合いにもいるが、奴は騎士らしく自分の剣(レイピア)で道を切り開いていたぜ」
承太郎「てめぇのスタンドも槍(ランス)を持っているようだが、どうやら能は物を弾くだけか?とても騎士らしいとは言えねぇな」
ケイティ「フン、なんとでも言えばいいわ。その騎士らしくないスタンドにあんたはやられる。私の恨みの深さを思い知るがいい」
ケイティ「ブルーハーツ!」
ブルーハーツ『キュミーッ!』
飛んできた鉄パイプに対し、ブルーハーツが槍を一振りする。
その槍が触れた途端、鉄パイプはまたも物理的にあり得ない動きをした。
スタープラチナが投げた運動力がキャンセルされたばかりか、槍が振られる動きに合わせて向きを上空へと変え、そのまま空に向かって飛び出したのである!
ケイティ「サーブ&レシーブよ。そして、これはサービス。弾いた力に、落下運動による加速度も追加してあげる」
ケイティ「空高く上がった鉄パイプに、ブルーハーツの槍で触れて」
ケイティ「あんた達の方へ打ち返すッ!」
ブルーハーツに触れられた鉄パイプは、まるで重力も、空気との摩擦も、打ち上げられた推進力さえも忘れてしまったようだった。
そのまま、承太郎達めがけて猛スピードで突っ込んでくる!
ケイティ「今度もスタープラチナで迎え撃ってくれてもいいわよ!串刺しになりたければ、だけど!」
承太郎「スプリット!こっちに来い!」
とっさに承太郎はキキの首根っこを掴むと、後方に止まっていた車の後ろへと走り込んだ。
その車体にぶすりぶすりと鉄材が突き刺さる!
轟音が響き渡り、さすがに周囲にいた人間が驚いてこちらを振り返った。悲鳴が上がる。
通行人「お、おい、なんだ今の!」
通行人「荷崩れか?おい、危ないぞ。誰かあの車の持ち主を探せ!」
承太郎「ちっ、やれやれだぜ。見たところ、さしずめ重さや摩擦を無視して物を飛ばす能力ってところか。厄介なスタンドだぜ」
承太郎「飛ばす物にどんな制約があるのか知らないが、あの速度でぶつけられたら、どんなものだって凶器になり得る」
承太郎「しかも、こんな人も物も多い場所だ。どこか、もっと周囲を気にせずやれる場所はないのか」
スタープラチナの高精度な目を使って、辺りの様子に目を配る。
その傍らで、キキはすっかりしょげかえっていた。
キキ「……リーダーは若い頃、不当な差別を受けて苦労したんだ。だから、世界から不平等をなくしたい、全てが寸分違わず平等な世界を作りたいって、ずっと言っていた」
キキ「そのために、志を同じくするスタンド使いを集めていた。スタンド使いの力には、世界を思う方向に巡らせる力がある。リー ダーはそう考えていたんだ」
キキ「だから、自分の周囲にスタンド使いを集めて、その力で世界を回そうとした。と同時に、その流れをせき止めるような、考えが敵対するスタンド使いを取り締まってきた」
承太郎「……俺が大学のプールで戦ったじいさんも、“平等”を目指しているって言っていたぜ。その首には、てめぇらと同じヘビの印があった」
承太郎の言葉に、キキは顔をこわばらせた。
承太郎「それに、その『考えが敵対するスタンド使い』ってのを俺に当てはめれば、何の矛盾も生じねぇな。自分の目的のために他人を消そうなんざ、いかにも奴らが考えそうな事だ」
キキ「そんな……敵対するって言っても、今まで私が戦ってきたのは犯罪者ばかりだよ!通常の警察では取り締まれないような……私怨ではないし、第一、Mr. 空条とは違う!」
承太郎「そいつが罪を犯しているっていうのは、誰から聞いたんだ」
承太郎「大方、そのリーダーって奴からじゃあねぇのか。どこまで本当やら、分かったもんじゃねぇ」
キキ「…………」
承太郎「……南側の石橋は工事中で通行止めか。北側には、立ち入り禁止の崖があるようだな。左手側と右手側、どちらかに移動した方がよさそうだ」
承太郎「おい、しゃきっとしろ。今度はかなりの距離を走る事になるぞ」
キキ「……Mr. 空条は、私を連れて戦ってくれるの?」
キキ「こんな事、自分で言うのも嫌だけれど、本当は私がとても演技がうまくて、彼らから孤立したように見せかけているだけかもしれないよ?現に、」
そう言って髪をかき上げ、自身の首筋にある刺青を見せる。
キキ「私にも、ウロボロスのマークは入っているわけだし」
承太郎はやれやれと肩をすくめた。
同じ顔だが、元気の良さはこうも違うものか。
承太郎「てめぇのその湿気た面を見ていたら、疑う気がなくなったぜ」
承太郎「まぁ、あの女は、本気でこちらを殺そうと攻撃してきたしな。てめぇにあの鉄パイプを防ぐ手立てがあれば話は別だが、あの貧弱なスタンドじゃ、それも無理だろう」
その言葉に、キキは泣き笑いのような表情になった。顔が引きつって、うまく表情を作ることができない。
キキ「……ご推測の通りでございます」
キキ「……ありがとう」
目じりの涙をぬぐい、承太郎の顔を見上げて微笑むキキ。
と、次の瞬間、その顔が驚愕の表情に変わった。自分と承太郎との間の空間を指さす。
キキ「ひッ、ジュ、ジュ=マンジッ!?」
承太郎とキキとの間に、いつの間にか、腕が二本生えていた。
見覚えのある、太くて緑色の腕だ。手のひらでサイコロを転がしている。
承太郎(ジュ=マンジ?このスタンドはジュ=マンジってぇのか!)
承太郎(あの日、大学で俺の前に現れたスタンドッ!目的は分からねェが、花京院のイメージを作り出し、俺と共に戦った!)
承太郎「おい!このスタンドの本体は誰だッ、てめぇ知っていやがるなッ!?」
キキ「そ、それは……」
目をそらすキキ。その胸ぐらを承太郎は両手でつかんだ。
承太郎「ジョディ・シェパードか!?」
キキ「!」
承太郎「どうなんだ、答えろッ!」
キキ「……やっぱり知っているんだね、ジョディの事」
キキ「…………」
観念したように、キキはうなだれると小さくうなずいた。
キキ 「……そうだよ。本体は、ジョディ・K・シェパードだ……!」
←To be continued...
>>101
メルシーボークー。由来の紹介、恐縮の至り。
字数の関係で、お返事が更新の下になってしまい申し訳ありません。
安価でいただいたキャラ名&スタンド名の由来となった曲を視聴するのはとても楽しいですッ!
ジョジョ安価はこういう楽しみ方もあっていいですね。
特に自分の好みの曲に出会えた時は、とても得した気になります。
今回も更新時間がすっかり遅くなってしまいました。
ラッサーさんはいい調子でしゃべってくれているのですが、なかなか彼のスタンドを出すまで至らず、もどかしいです。
サイレンスド バイ ザ ナイトを安価でくださった方、お待たせして申し訳ないです。すぐに活躍させられると思いますので、もう少し待ってやってください。
もちろんケイティ&ブルーハーツも、これからどんどん戦わせていきます。
明日は更新できそうにありませんが、あまり日を空けずに次も投下していきたいと思います。
またお時間ある時に、目を通してやってください。
乙
楽しみにしてます
>>107
コメントありがとうございます!
そう言っていただけると書く意欲がわいてきます。頑張ります!
―Cap Cat Car Chevalier =?―
ジュ=マンジの本体はジョディ・K・スプリット――。
薄々感づいていたこととはいえ、承太郎は衝撃を受けていた。
あの、他のスタンドも見えない、自分のスタンドが何をやっているかも知らないような女が、底抜けに明るいだけが武器のような女が、スタンド使いなのか――。
承太郎「……やはり、そうか」
承太郎「スプリット。このスタンドを発現させないようにするにはどうしたらいい」
承太郎「こいつは間違いなく、本体の負担になっているぜ……!このまま発現させておけば、とり殺されかねねぇ」ドドドドドド
承太郎の言葉に、キキはううと呻き声を上げた。
キキ「……無理なんだ。このスタンドは完全自動型で……一度、対象者が決まってしまうと、だれにも止められない。自動的に出てくる」
キキ「私も、ジョディの事は気に病んでいるんだ。でもこればかりは、私には手の打ちようがない……」
キキ「それよりMr. 空条!ジュ=マンジ に賽を振らせないでッ!コマを進めてはいけない!」
キキ「でなければ、呪い殺されてしまうッ!」
承太郎「何ッ?」
承太郎「呪い殺されるだと……?どういう意味だ、それは!?」
視界の隅で、ジュ=マンジの手から落ちたサイコロが転がるのを承太郎は目撃した。
あッと手を伸ばしたが時すでに遅し!
サイコロは「2」の目を出して止まっていた。
そして、まるでそのサイコロを拾おうとでもいう風に、ジュ=マンジがその全身を現した!
ジュ=マンジ『オオゥ、君ハイツモピンチダネ、承太郎!』
ジュ=マンジ『ダガ気落チシナイデ!人生ハ山アリ谷アリサ』
ジュ=マンジ『ダカラコソ人ハ黄金郷ヲ目指ス!サァ、イザ進マン!理想郷ヲ求メテ!』
承太郎そっくりの人形がジュ=マンジの手元に現れ、マス目を歩いていく。
たまらなくなって、キキはジュ=マンジの肩をつかみ叫んだ。
キキ「頼むジュ=マンジ!もうやめてくれ、Mr. 空条には構うな!」
キキ「君がそうやって暴走すればするほど、君の本体であるジョディの精神は蝕まれていくんだぞッ!」
ジュ=マンジ『手ヲドケテクダサイ』
承太郎相手に機嫌よくしゃべっている時とは異なり、ジュ=マンジは冷たくそっけなかった。
ジュ=マンジ『貴方ハ“プレイヤー”デハアリマセン。口ヲ出ス権利ハナイ』
承太郎人形が大きなマス目に止まったのを見て、ジュ=マンジはオォと歓声を上げた。
ジュ=マンジ『イベントマス!今度ノイベントハ“仲間探シ”ダヨン!』
ジュ=マンジ『君ニハドレ位ノ仲間ガイルノカナ、承太郎。敵ノ敵ハ?味方。デハ味方ノ味方ハ?』
ジュ=マンジ『味方!コノ世界ハ仲間ニ溢レテイルネ!』
ジュ=マンジが両手を振ると、手の平の上にカードの山が一つずつ出現した。
どちらのカードも裏を向いていて、右手のカードの背にはにはFellow, 左手のカードにはEnemyと書かれている。
ジュ=マンジ『イベントマスヲクリアスルタメノ、僕カラノササヤカナ手伝イダ。一枚ズツ引イテ使ッテクレ!』
承太郎「…………」
承太郎はためらいつつも、山からカードを一枚ずつ引いた。
中身はあえて見ないようにして、手の中にしまう。
目が合うと、ジュ=マンジはニヤリと笑ったようだった。
ジュ=マンジ『ソレジャア承太郎!イベント達成ヲ応援シテイルヨ!大丈夫、君ナラキットデキル』
まるでフィルムを逆回しにするように、先程とは逆の動きで消えていくジュ=マンジ。
あっという間にその全身はかき消え、承太郎の手元にカードが2枚だけ残された。
承太郎「仲間のカードと、敵……いや、敵の敵、のカード、か」
承太郎「今、俺を呪い殺すと言ったな。あのスタンドは、俺を助けるわけではないのか?」
承太郎の問いかけに、キキはううんと頭を振った。
キキ「いや、助けるよ。今さっきやってみせた通り。あれはサイコロを振り、出た目に沿って“プレイヤー”に“イベント”をこなさせる」
キキ「その際、プレイヤーが思い浮かべたものを呼び寄せて、プレイヤーの手助けをさせるようなんだ」
承太郎「呼び寄せる?」
承太郎「それは、本物を出現させるという事か?姿を借りるとか、生み出すってわけじゃあねぇのか」
承太郎(もし、そうだとしたら)
承太郎「なら死者は?死者を思い浮かべた場合はどうなる?」
承太郎(あの時の花京院は――)
承太郎の問いに、キキは顔をしかめて首を横に振った。
キキ「……分からない。“私は魂の在り方を見た事はない”から」
承太郎「……“魂の在り方”?」
キキ「あのスタンドには、とにかく謎が多いんだよ。分からない事が多すぎるんだ。発現したばかりの頃は、その危険度の高さからろくに検証をしないまま“封じてしまった”しね」
キキはしばらく、言おうか言うまいか逡巡しているようだったが、やがて思い切ったように口を開いた。
それは、承太郎にとって思いもよらない言葉だった。
キキ「……ねえ、ジョディには言わないと約束して。彼女はあのスタンドで、母親を死なせてしまっているんだ……!」
承太郎「!」
承太郎「それは一体どういう――ハッ!」
何か大きいものが迫ってくる気配を感じて、承太郎はとっさにスタープラチナを発現させた。
背にしていたトラックごと、ぶつかってきた『それ』を殴りつける!
スタプラ『オラオラオラオラオラオラオラララアッ!』
承太郎「ちっ、これは、ミキサー車かッ!」
セメントをたっぷり積んだミキサー車が、二人を押しつぶそうと猛スピードで突っ込んでくる!
しかし、スタープラチナも負けじと拳で応戦する。
間に挟まれたトラックは、もはやスルメのようにぺちゃんこだった。
承太郎「スプリット、これを持っていろ!」
承太郎は手に持っていたカードのうち、Fellowと書かれたカードをキキに手渡した。
キキ「えっ?」
承太郎「最終的に呪い殺されるとかどうとかっていうのは、今は関係ねぇ。今この瞬間、ジュ=マンジの能力が俺を助ける方に働くの なら」
承太郎「てめぇの助けにもなるはずだぜ」
キキ「Mr. 空条……」
承太郎「今にこのトラックがはじける。爆発に紛れて南へ走れ。俺は北へ行く。なるべく一般人のいねぇところで奴らを迎え撃つ!」
キキ「わ、分かった」
二人の会話が終わるのを待っていたかのように、挟まれ潰されたトラックがキィィと悲鳴のような音を立て、次の瞬間、爆炎をあげた。
承太郎の奮闘を高みの見物で眺めていたラッサーは、炎を目にして歓声を上げた。
ラッサー「おーお、派手にいったな。これで俺の出番がなくなれば、楽でいいんだがね」
ケイティ「ちょっと、何のんきな事を言っているのかしら。空条承太郎を始末できるって吹聴していたのはどこの誰」
ラッサー「君が俺の事を忘れて暴れるからだろう」
ラッサー「まぁ、その方が俺は楽、君は復讐ができてウィン・ウィンなわけだがね……うん?」
爆炎に紛れて人影が動くのに気がついて、ラッサーはにやっと口角をあげた。
ラッサー「ま、世の中そううまくはいかねぇよな」
ケイティ「何、何かいたの?」
ラッサーの方にケイティが注意を向けたその時、炎の中から何かが彼女に向かって飛び出した!
キキ「ABC (エンジェル&ビース ト・キャッツ)!Bite!」
ケイティ「ちっ」
首筋に噛みつこうとするABCを、ケイティは身をひねってかわした。
ブルーハーツで踏み台にしていた木を弾き、その反動で一気に後方へと下がる。対象に逃げられたABCは空を噛んだ。
キキ「な、早いッ!」
ケイティ「あら、違うわね。あんたが遅すぎるのよ」
ブルーハーツが槍を一振りする!キキの身体は吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられた。
槍の触れたところが切れ、血が噴き出る!
ケイティ「残念、上っ面を切っただけか。それにしてもあんた、本ッ当に射程距離が狭いのね。腕一本分もないんじゃない?」
ケイティ「よくそれで今まで生き残ってこられたものね。エジプトだったらあんた、とっくに死んでいるわよ」
キキ「ちぇっ……悪かったね、私はどっちかっていうと頭脳派なんだよ」
キキ「私の事を仕留めたいのなら、ついてきな!返り討ちにしてやるけどね!」
出血した肩を押さえ、キキは走り出した。承太郎の言う、南へ!
この先の石橋は工事中で、一般人は近づかないはずだ。そこなら存分に戦える――!
ラッサー「おいケイティ。プランBだからな」
追いかけ渋るケイティに声をかけるラッサー。
分かったわよと苛立たしげに返事をして、ケイティもキキを追いかけて走り始めた。
ラッサー「……さて、こちらも始めるとしますかね」
呟いて、炎の方へと歩み寄る。と、その顔めがけて“影”がゆらりと拳をあげた。
承太郎「てめぇの相手は……この俺だぜ!」
スタプラ『オラァッ!』
先手必勝とばかりに、ラッサーの顔をスタープラチナで殴りつける!
ラッサーは鼻と口から血を噴いて吹っ飛んだ。
が、その表情には依然として、余裕の笑みを浮かべている。
ラッサー「フフフ、承太郎くん、君は今この俺を、組み易い相手だと考えたな?」
承太郎「…………」
ラッサー「うまく二手に分かれられたと考えているだろう。しかし実は、それは大きな間違いだ」
ラッサー「君達は“私達の計画通りに”二手に分かれさせられたのだよ。フフフ……」ゴゴゴゴゴゴ
承太郎「…………!」
ラッサーの傍らに、黒くてシャープな姿をした人型のスタンドが出現した。手に、鎖のようなものを持っている。
と、同時に、承太郎は自分の胸に赤い印のようなものがくっつけられていることに気がついた。
印は、スタンドが持っている鎖の先とつながっているようである。
ラッサー「契約締結……ッ!もうあんたの耳は使い物にならねぇぜ、承太郎ッ!」
>>108
ちょうど更新と重なってしまい、お返事遅れてしまいました。
そうです、チャリオッツと対比させて書きたいなという思いがあったので、
槍は私の方で追加させていただきました。
金髪をなびかせて戦う青い甲冑とか、映像で見てみたい…!
今回のタイトルですが、プラスの記号 (+) が文字化けで消えてしまったようです汗
正しくは、それぞれの単語の前にプラスが入ります。
―Cap + Cat + Car + Chevalier =?―
(全角で打ってみましたが今度は出るかな…?また化けちゃったらごめんなさい)
ラッサー『俺のスタンド、サイレンスド バイ ザ ナイトが、あんたにアンカーを付けた!あんたはもう、俺のスタンドから逃れる 事はできない!』
ラッサー『そして、俺のスタンドの能力ッ!俺のスタンドから5 m以上離れない限り、あんたの耳にはどんな大きな音も入らない!』
ラッサー『どうだい、どんな気分だね承太郎くん?全く無音の世界というのは』
ラッサーの言う通りだった。
すぐ側でトラックがひしゃげ、炎が燃え盛っているというのに、金属の曲がる音も炎のはぜる音も何も聞こえてこない。
突然、サイレント映画の世界に放り込まれてしまったかのようだ。
ラッサー『耳が聞こえないのに、会話できるのは変だと思っているね?スタンド使い同士はスタンドを介して会話できるのさ。経験あるだろう?』
承太郎(確かに、エジプトの海でダイビングした時には、海の中でもスタンドを使って話ができたな)
承太郎『音を奪ったくらいで、随分余裕じゃねぇか。これで俺に勝ったつもりか?』
承太郎『耳が聞こえなくとも、見えてさえいりゃ、てめぇをのすのは簡単だぜ』
ラッサー『言うねぇ。じゃあ試してみればいい』
鎖でつながった承太郎を起点として、サイレンスド バイ ザ ナイトが空中で旋回を始めた。
勢いをつけて、承太郎へと突進する!
承太郎『この程度のスピードなら、スタープラチナの敵じゃあねぇぜ!』
スタプラ『オラァッ!』
近づいてくるサイレンスド バイ ザ ナイトめがけ、スタープラチナが拳を振り上げる。
が、サイレンスド バイ ザ ナイトはその直前、急にコースを変えて拳をかわした!
まるで殴られる事をあらかじめ予想していたように、つまり――
承太郎(最初から、俺を攻撃するつもりはなかった!あのスタンドの行動はフェイク!)
承太郎(奴はどこへ行った!?)
スタンドの動きに気をとられているうちに、ラッサー本体の姿が消えていた。
きょろきょろと辺りを見回す承太郎。耳をふさがれているせいで、普段より人の気配に鈍くなっているようだ。
ラッサー『おい承太郎くん。俺を探しているんだろう。こっちだぜ』
急に背後から、ラッサーの腕が伸びてきた。
手にスプレーのようなものを持っており、それを承太郎に勢いよく吹きつける!
承太郎「うおおおおぉぉっ!」
目に激痛が走り、承太郎は思わず叫び声を上げた。
ラッサーがいた辺りをスタープラチナで攻撃するが、ラッサーは既に安全圏へと避難しており、拳を浴びせる事はできなかった。
ラッサー『効き目はどうかな?承太郎くん。すっごく熱くてピリピリ痛むだろう?俺特製の催涙スプレーというやつだ。唐辛子エキス2割増し!』
ラッサー『これは俺の商売道具なんだがね。目薬が必要ないと思い込んでいる人に、目の痛みをとる薬がどんなに素晴らしいものかを理解してもらうために使うのさ』
ラッサー『俺は、やはり人生に大切なのは、謙虚さと感謝の気持ちだと思うんだがね。俺のスタンドやこのスプレーは、視力や聴力の素晴らしさを再確認し、俺の売る薬を感謝しつつ買う事ができるようにする優れものというわけだ』
承太郎(ちっ、こいつぁとんだ食わせ物だぜ……!)
承太郎(目が全く開けねぇ。目の奥が焼けるように痛い……!)
スタープラチナの視界は無事だが、逐一情報をもらってから命令を出すのではタイムラグが大きい。
加えて痛みのせいか、視ている情報を伝えてくれるはずのスタープラチナの“声”が頭の中にうまく入ってこない。
ラッサー『それだけ目が痛むと、集中できなくてスタンドからの情報が入ってきにくいだろう?これで、スタープラチナご自慢のスピードも随分と抑制されたんじゃないか?』
ラッサー『知っているか?辛みは痛みなんだよ。神経を走る痛みのシグナルが、舌に乗ると辛みとして認識されるに過ぎない。神経を直に伝わる化学的な痛みってわけだ』
ラッサー『視力と聴力、両方を失ってしまえば、さすがの空条承太郎も手も足も出ない。違うかね?違わないね!この勝負、どうやら俺の勝ちのようだな』
承太郎『フン、慌てるんじゃねぇ。てめぇのようなカス野郎に簡単に負けるほど、スタープラチナはやわじゃねぇよ』
ラッサー『……相変わらず、威勢だけはいいな。空条承太郎』
ラッ サー『だがッ!それもいつまでもつかな?サイレンスド バイ ザ ナイト!』
先程のように旋回しながら、サイレンスド バイ ザ ナイトが承太郎に襲いかかる!
聴力の上に視力まで奪われてしまったせいで、承太郎にはサイレンスド バイ ザ ナイトがどこから向かってくるか分からない。
スタプラ『オラァッ!』
代わりにスタープラチナが、自身の判断で拳を振り上げる!
が、承太郎の判断力や思考といったものを欠く分、どうしても攻撃が単調にならざるを得ない。
近づいてくるサイレンスド バイ ザ ナイトへのけん制にはなったが、ダメージを与える事はできなかった。
ラッサー『確かに君らは強い。だが、視力と聴力を奪い、痛みでスタンドとの連携を阻害してやれば、俺達にも勝機が見えてくる』
ラッサー『俺達は攻撃をかいくぐって、君らに動きを悟られないように動きまくって、』
ラッサー『隙を見て!攻撃できる!お前らに!!』
複雑な動きを繰り返していたサイレンスド バイ ザ ナイトが、遂にスタープラチナの腕をかいくぐり、その頭に一撃を与えた!
ダメージは承太郎にも伝わり、額を血が伝う。
承太郎『ちィ、ちょこまかと……これならどうだッ!』
スタプラ『オラオラオラオラァッ!』
拳が届く限り、四方八方へと殴りかかる。が、手ごたえはない。
ラッサー『無駄だよ無駄。言ったろう、5 mだ、承太郎くん』
ラッサー『サイレンスド バイ ザ ナイトは、5 mまでの範囲内に効果を及ぼせるんだがね。裏を返せば、5 mまでは離れることができるという事なんだよ』
ラッサー『こちらは視力も聴力も正常だ。君の拳をかわす事なんか、ハハ、造作もない事だ』
またもサイレンスド バイ ザ ナイトから一撃を受けて、承太郎はうめき声をあげた。
承太郎(くそ、俺とした事が、ざまぁねぇぜ)
承太郎(何とか、この最悪の事態を打破しなくてはならない。分かっているが、うまく頭が働かない。目の痛みのせいか……)
思いを巡らせるあまり、承太郎は自分の懐から、ジュ=マンジのカードがこぼれ落ちてしまった事に気づいていなかった。
はらりと裏返り、絵の面が上になって落ちるカード。そのまま地面にしみ込み、消えてしまった。
ラッサー『さて、もう一撃食らっていただこうかな。一撃一撃は力不足だと俺も分かっているさ。スピードも褒められたもんじゃな い。うむ、言われるまでもない事なんだがね』
ラッサー『だが、こうして工夫すれば、俺にだって最強の空条承太郎を倒す事ができるのさ。地道な攻撃を積み重ねてなァ!』
承太郎『野郎……やってみろ。やれるもんならな……!』
応戦しようと拳を固める承太郎。
と、その時、聞こえないはずの承太郎の耳に、クラクションの音が届いた!
ぱっぱっぱーっ!
???『じょ、承太郎さん!承太郎さァーんッ!』
承太郎『!? 誰だ?声が聞こえるという事は、スタンド使いか!?』
???『い、位置そのままッ!右手を出してーッ!』
不思議な感覚だった。
周囲の音は全く聞こえない。辺りを走る車の音は聞こえてこないにも関わらず、承太郎は背後から迫る車のエンジン音を聞いた。
いちかばちか、差し出した右手を誰かが掴んだ。
そのまま車内へと引きずり込まれる感覚。気がついた時には、猛スピードで走る車の中にいた。
相変わらず音は聞こえないのに、この“車”の音だけは正常に聞こえる――。
承太郎『てめぇは……何者だ?』
……一人、取り残される形になったラッサーは、呆気にとられて、走り去る車を見送っていた。
ラッサー「なんだ、あれは……。車型のスタンドを使う仲間がいるなんて情報は聞いた事がないが」
ラッサー「まあ、いい。アンカーを打ちこんでいる以上、どこまで行こうと奴らは俺のスタンドからは逃げられない。射程距離だけは、ちぃっとばかり自信がある」
ラッ サー「どこへ行こうと同じだ。せいぜい、逃げ回るがいいさ……!」
承太郎(車が走っているのを感じる……このエンジン音、振動、かなりのスピードだ)
承太郎(奴から随分と離れたはずだが、聴力が回復しねえ)
自身には見えなかったが、承太郎は今、ゴツい装飾の施された大きな改造車の後部座席に収まっていた。
改造車は猛スピードで北へと走っているが、サイレンスド バイ ザ ナイトは離れる気配がない。
承太郎『おい、俺の身体に、奴のスタンドはまだくっついているか?』
???『えっ?あっ、ああ、その胸に付いている鎖っスかーッ?』
???『どうやら、対象にくっつく形のスタンドだな!振り切ろうと超スピードで走っているがッ!全く離れねぇーッ!』
落ち着きがなくヒステリックに答える運転手。
丁寧な言葉を使おうと努力はしているようだが、そこここに小物臭漂う粗暴な言い方が混ざる。
その声に、やはり承太郎は聞き覚えがあった。
承太郎『てめえ、前に会ったことがあるか?知らない奴の気がしねぇ』
???『エエーッ!むしろ覚えてないのかよォー!?』
口調が完全に崩壊した。
???『俺だよ俺!ズィー・ズィーッ!!』
怪訝そうな表情全開になる承太郎。
承太郎『……知らねえな』
ズィー・ズィー『てめぇ!』
ズィー・ズィー『……いや、待て。あの時は名乗らなかったっけか』
ズィー・ズィー『いや、そもそもあの時!俺の名前もロクに聞かずに去ったお前らが悪ぃんだぜーッ!』
ズィー・ズィー『だがッ!このスタンドの事は覚えているだろう!?この美麗で逞しい車型のスタンドはよォッ!!』
承太郎『車型のスタンド……』
ズィー・ズィー『エジプトまでの道中!インドとパキスタンの国境近くで会ったろうがァ!』
ズィー・ズィー『マジで覚えてないのかよ、ひき肉にしてぶちまけるぞこのクソガキー!!』
そのガラの悪い口調に、やっと承太郎は合点がいった。
承太郎『ああ、あの腕だけ野郎か。パキスタン国境でさんざコケにしやがった……』
ズィー・ズィー『思い出すの遅ぇぇ!』
承太郎『ああ!?』
ズィー・ズィー『ヒィィ〜、す、すいませんんん〜!!』
承太郎が声で威嚇しただけで、ズィー・ズィーはすっかり縮み上がってしまった。
承太郎『しかし、てめぇは岩にくくりつけてパキスタン国境に置いてきた筈だ。何でこんな所にいやがる』
ズィー・ズィー『何でも何も!そっちが呼んだんじゃないっスかあぁー!」
承太郎『何?』
ズィー・ズィーは懐からタロットカードを取り出した。
目を潰されている承太郎には見えなかったが、そのカードは先程ジュ=マンジが出したEnemyのカードだった。
カードの絵柄は“運命の車輪”ッ!
大アルカナ10番目のタロットカードである!
ズィー・ズィー『いきなりアメリカくんだりに呼び出されて、何かと思えば空条承太郎を助けろだなんて言われるしよー。もう散々だぜこっちはよーッ!』
苛立たしげにハンドルを切る。
立入禁止区域までもうすぐだ。
ズィー・ズィー『こちとら一度再起不能に陥って辛い目に遭ったってのに、何が悲しくて再起不能に追い込みやがった張本人を助けにゃならんのか』
ズィー・ズィー『だが、一度はあんたの前に姿を現さないと、ここから消えられねぇって言われてよー』
ズィー・ズィー『スタンド使いと睨み合っているあんたを掴み上げた時は、正直、肝が冷えたぜ』
ズィー・ズィー『な、なあ、もういいよな?一度あんたを助けたわけだし!こうして人気のないところまで連れてきたんだしよォーッ!』
承太郎『ああ!?』
ズィー・ズィー『ヒィィ〜ッ!嘘ですごめんなさい〜ッ!!』
承太郎の威圧に、ズィー・ズィーはすっかりタジタジである。
以前、承太郎に再起不能にされた経験が尾を引いているようだ。
承太郎が車内にいる、つまりスタンドのない状態で向き合っているのに近いからという事もあるのかもしれない。
承太郎『つまりてめぇは、ジュ=マンジの能力で呼び寄せられたということか』
承太郎『だが、何故てめぇなんだ?スプリットの話では、ジュ=マンジは俺が思い浮かべたものを召喚するらしいが』
ズィー・ズィー『そんな事知らねえよ。思い浮かべたんじゃないのかよ、この俺をよー』
承太郎『そんな筈が……ん、待てよ』
承太郎の脳裏に、海岸で見かけた改造車が浮かんだ。
承太郎(あの時か……)
確かにあの時、腕をだらりと出して派手な改造車を運転するその姿に、このスタンド使いを連想した。
承太郎(全く、よりにもよってこいつを呼び寄せてしまうとはな)
承太郎(だが何にせよ、あの野郎と距離をとりつつ、人気のねぇ場所に移動できたのは良かった)
承太郎『とにかく、てめぇはこのまま崖まで走り続けろ。トランスポーターのように豪快かつ繊細な運転で、可能な限りの最速スピードでな』
ズィー・ズィー『んな殺生な〜』
ズィー・ズィー『っていうか、あのカーチェイスはスタント!スタンドじゃなくてスタント!!』
承太郎『文句あるのか?ああ!?』
ズィー・ズィー『ウエエェェ!イイエありませんんん!精一杯やらせていただきますゥ〜!!』
承太郎『頼んだぜ』
しばしクッションに身を預けて、承太郎は中指にくっついているホリィのスタンドを、両目に近づけてみた。
目の痛みは少し和らいだものの、目を開けていられるほどにはならない。
さすがにすぐ全回復というわけにはいかないようだ。
承太郎(こりゃあ、あいつを倒すまで、視力は諦めるしかねぇようだな)
承太郎(やれやれ……こいつは厄介だぜ)
ホウィール・オブ・フォーチュンには助けられたが、正直な話、この車のスタンドでラッサーに勝てるとは思えない。
何とか、視力なしにあのスタンドを止める術を考えなくては。
承太郎(要は、音と視界以外の方法で、奴の動きが分かればいい――)
承太郎(そうか……一か八か、試してみる価値はありそうだな)
承太郎『おい、ズィー・ズィー。向こうに着いたら、やってほしい事がある』
ズィー・ズィー『?』
承太郎『あの野郎が追いついてきたら……その時が勝負の時、ってやつだぜ』
承太郎がホウィール・オブ・フォーチュンに乗りこんで北へ向かっていたその頃。
キキ・J・スプリットは南を目指し、全速力で走っていた。
キキ「うぎっ!」
突如、足に激痛を覚えてひっくり返る。
見ると、右足のふくらはぎにナイフが深々と刺さっていた。
出血覚悟で抜き取り、シャツの袖を破って止血する。
キキ(さっきから、ABCのbiteを警戒されて距離をとられている)
キキ(なのに、向こうはスタンド能力で摩擦を無視してナイフを投げられるお陰で、まるで至近距離からブッ刺されたみたいにナイフ が深く突き刺さっている!)
キキ(フェアじゃないよね、どう考えたって。平等にいこうよ、平等にさ……!)
ケイティ「鬼ごっこには満足した?私、もう飽きちゃったんだけれど」
ケイティ「ついでに、あんたにも飽きちゃった。そろそろ終わりにして、あっちに合流したいのよ」
ケイティ「確かに、相手の五感を異常にするタイプの能力なら、あんたのスタンド能力は脅威なんでしょうけれど。残念ながら私には、つまらないだけのチンケな能力にしか思えないわね」
キキ「それはどうも。使う本体が優秀だから、何とかこれまで仕りましてね……ッ!」
キキ「飽きてきたっていうには私も同感。ここら辺で」
辺りを見渡す。目標の橋には到達できておらず、一般人もまだまだ周りにいるが仕方がない。
キキ「決着をつけ――うげぶ!」
鼻のあたりに、敵が弾き飛ばした露店の看板が命中して、キキは地面に突っ伏した。
ケイティ「飽きた、って言ったでしょう。あなた、もう喋らなくていいから」
ケイティ「私がこの場でガッタガタにして、二度と立ち上がれないように再起不能にしてあげる。面倒くさいから、何もせずにそこで寝ていてよねェ――ッ!」
露天に出ていた大きな長机が、横滑りしながらキキを襲う!
突然、氷の上のように滑りだした机を見て、露店の店主が目を丸くしているのが見えた。
キキ「地面との摩擦も無視って!本当ッ!フェアじゃないんだから!」
キキ「ABC (エンジェル&ビースト・キャッツ) !」
ABCの頭突きを食らわせ、机を押し戻す。が、こちらからの打撃は摩擦も抵抗もかかってしまう。
キキ(それに対して、向こうからの攻撃は――!)
ケイティ「射程距離に加えて打撃力もお粗末ね。本当に、つまらないスタンド」
いとも簡単にABCの打撃を無効にし、 更に加速度を追加して机を押し戻すブルーハーツ!
キキ「本当にッ!本当と書いてマジでッ!不平等極まりないッ!!」
キキ(もう一度跳ね返そうにも、机のスピードが速すぎて、これじゃあABCが間に合わないッ!)
キキ(あのスピード!高速道路を突っ走る自動車かっていうのッ!)
キキ(机の下に空いている空間にうまく身体を潜り込ませれば……!でも少しでも触れれば、いや擦れただけでもッ、大ダメージは避けられない!)
キキ(ええいままよ!南無三!神様仏様ママ!)
覚悟して地面に這いつくばる。
その拍子に、先程、承太郎から預かったカードが手から離れた。
キキ「あっ……」
カードは、そこで話しこんでいた通行人の足元に転がった。そのまま地面に染み込み、見えなくなる。
呆然とするキキの耳に、その通行人の会話が聞こえてきた。
???「だーかーらー、冗談はやめて真面目にいこうぜェーッて話なのよ。もう一度訊くぜ。ここは何ていう場所だ?」
???「マンハッタンビーチだァ?おいおい頼むぜ。フランスにマンハッタンなんて地名はないだろうが。アメリカじゃあないんだぜ」
???「何ィ?ここがアメリカァ?んな事があってたまるかよ。俺はさっきまでパリにいたんだぜ、パリとマンハッタン!何km離れていると思う!?」
キキ「そ、そこの人ッ!危ない、逃げてェーッ!」
キキの渾身の叫びに振り返る通行人の男。
迫る机と、その前に倒れこんでいるキキを見て、すっと腕を上げる。
その背後に、銀色に光る影が現れた。
キキ「!?」
???「銀の戦車(シルバーチャリオッツ)ッ!」
チャリオッツ『パミィーッ!』
目にも止まらぬ剣さばきでレイピアを振るうスタンド・シルバーチャリオッツ。
机はあっという間に幾片にも分けて切り刻まれ、スピードを完全に失って粉砕した。
???「どうやらスタンド関連の現象だろうと見当はついていたが、早速攻撃を受けるとはな」
その手には、裏にFellowと書かれたタロットカード!
大アルカナの7番!「戦車」のカードであるッ!
???「全く、スタンド使いはスタンド使いと引かれ合うと言うが」
???「俺としちゃあ、スタンド使いよりももっと優しくて心温まるものと惹かれあいたいもんだぜ」
キキ「銀色の甲冑を着たスタンド……じゃあ、あなたが、Mr. 空条の言っていた」
???「空条?するってぇとマドモアゼル、あんた承太郎を知っているのか?」
???「承太郎がピンチだから助けてやってくれって言われて、強引にここまで連れてこられたんだが。肝心の承太郎が見つからなくてよー」
ケイティ「あ、あなた……その身なり!そのスタンド!」
肩をぶるぶると震わせてケイティが近づいてきた。心なしか、頬を紅潮させている。
その美貌と迫力に、男はたじたじとなった。明らかにキキとは接し方が違う。
キキは思った。やはり不平等だ!と。
ケイティ「ちょっと、あなた!名前、名前を教えてちょうだい!」
???「こ、これは、美しいマダム」
???「ポルナレフ。ジャン・P・ポルナレフです。 以降、お見知りおきを」
ケイティ「ああ、やっぱり!」
顔を赤く染めて、心なしか涙まで浮かべて、うっとりとケイティはポルナレフの顔を見つめた。
ケイティ「ずっと会いたいと思っていましたの……まさか、こんな所で会う事ができるなんて」
ポルナレフ「あ、会いたいと思っていた!?あなたみたいな美しい女性からそんな事を言われるとは、男冥利に尽きますなあ」
ポルナレフ「そんなに有名ですかね?俺の名前は」
ケイティ「エエ、勿論。有名人ですわ。何せ」
にっこりと笑った顔が、刹那、怒りの般若へと豹変する。
ケイティ「DIO様を裏切った大馬鹿者ですからねェッ!ポルナレフゥッ!!」
ブルーハーツ『キュミーッ!』
ポルナレフめがけてブルーハーツが槍を振り下ろす!その切っ先を、シルバーチャリオッツの剣先が受け止めた。
ポルナレフ「……やっぱりスタンド使いが引かれ合うのは、スタンド使いなわけね。ちょっぴり期待した俺が馬鹿だったぜ」
ケイティ「ちっ、だから大馬鹿者だと言っているでしょう!」
ケイティ「いいから!この場で私にッ!貫かれて死になさいッ!!」
恐ろしい剣幕で槍を繰り出すブルーハーツ。
しかし、シルバーチャリオッツは優雅に全ての攻撃を退けて見せた。
ポルナレフ「マダム。あんた顔は美しいが、男の趣味は最悪だぜ。よりにもよってDIOを崇拝するなんざ、愚行としか言いようがねえ」
ポルナレフ「あんたもまだ若いんだ。DIOの呪縛にしがみつくんじゃなくて、心機一転、正しい道を歩いちゃあどうなんだ?なんなら俺が手助けするぜ」
ケイティ「フン、冗談は顔だけにしておいて。あんたにはDIO様の素晴らしさが理解できないのよ。DIO様は私に全てを与えてくだすった」
ケイティ「希望を与え、恐れを消してくだすったの。DIO様と共にある間は、何の心配も不安もなかった」
ケイティ「それなのに、そのDIO様を、あんた達は私から奪った。さも、これが正義だと言って……!」
ケイティ「正義ですって!笑わせないで。私から心を、全てを奪っておいて!何が正義よッ」
ケイティ「ここで会えたのはDIO様のお導きだわ。復讐を果たせというメッセージだと理解したわ!」
ケイティ「私はケイティ・ペリー。DIO様の誇りと安らかな眠りを護る露払いの騎士!」
ケイティ「ジャン・P・ポルナレフ!DIO様に代わってその魂を地獄に突き落としてやるッ!」
宣言と共にポケットに手を入れ、何かを掴み出したかと思うと、それをスタンドで弾くケイティ。
その瞬間、『それ』はまるで銃から放たれた弾丸のように飛び、ポルナレフのイヤリングを片方吹き飛ばした!
ポルナレフ「!?」
息継ぐ間も与えず、次々と『それ』を飛ばすケイティ。まるで人間機関銃であるッ!
たまらずポルナレフとキキは並んで逃げ出した。南へと全速力で走る!
ポルナレフ「な、なんだありゃーッ!?」
キキ「!ポルナレフさんッ、ビー玉!ビー玉ですッ!」
ケイティが飛ばしているのは、色とりどりのビー玉だった。
摩擦も熱も抵抗力も全て無視できるケイティにとっては、ビー玉も弾丸と同じなのだ。
キキ「しかも、何かにぶつかると粉々に砕け散る!下手な散弾銃より危険です!」
ポルナレフ「な、なんちゅうスタンドだありゃぁ!これが本当の『ハジキ』ってかあ!?」
キキ「ビー玉ですって!『オハジキ』じゃなくてビー玉ッ!」
ポルナレフ「そんなこたぁどうでもいいんだよ!」
ポルナレフ「チクショウ~、まさか俺の方が名乗りを上げられて復讐される日が来るとはなーッ!しかもDIOの手下によーッ」
ポルナレフ「エンヤ婆の時も大概だったが、あんな、伝説のジャンヌ・ダルクを彷彿とさせるカワイコちゃんに……俺って何でこうも 女性運に恵まれないかねえ」
死に物狂いで走る二人。その前方に、目指す南端の橋が見えてきた。
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