輝子「RALLY」 (26)






そんなの、私にはよく分からん
恋なんてなくても死なないし、私にはキノコ達がいる、親友がいる

恋なんてどっか勝手にしてもらって、私は暗いところでジメジメして生きる……キノコと一緒だ、ひっそりと生きる、それでいい……それがいい

そこには勿論親友だっているぞ、だって親友だからな
私の側にずっと居るのが当たり前だ……そして、私も彼の側にずっといる

親友として、側にいる

それでいいと、そう思ってる

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親友と出会ったのはもう結構昔

その日私はよく分からん親戚のパーティかなんかに無理やり連れ出されてた
周りは知らん奴ばっかで……私は隅のほうに隠れてた、というかなんで私なんかが呼ばれたんだあれ、意地悪か

隅っこはやっぱり落ち着いた、だって誰も私に話しかけてこないし、気付かない
何より隅っこってキノコっぽい、あいつらそういうとこ好きだからな

私はそこで一人ひっそり自慢のキノコの歌を歌ってた……いや、目立ちたかったわけじゃないぞ、人前はヤバイし……

それに、誰も気付かないと思ってたしな
これまでもずっとそうだったから


なのに


なのに彼はそんな私に気付いて声をかけてきた、急に私にアイドルにならないかと誘ってきた

普段人と話す時にオーバーヒートして働こうとしない私の頭は、いつも通り働こうとはしない
当たり前だ、知ってる人とも上手く話せないのに……知らない人だぞ、アイドルにならないかとか言って来るんだぞ

でも、何故か口だけは勝手に動いた
頭は真っ白のままなのに、勝手に言葉は紡がれていく


「なる、アイドルでも何でもなりますよー…フフ」


出来上がった拙い言葉は自分でも聞き取り辛くて

錆びた機械のようにぎこちない私の声、相手に聞こえてないことを心から祈ったのに、彼はそんな私の答えに微笑んだ

そして私は……なんでもなれるなら、キノコになりたかったはずなんだが……アイドルになることになってしまった


それが私がアイドルを始めた経緯

親友は誰も気にかけることのないはずの私をキラキラとかチカチカした服に着飾って、大勢の人の目を集めさせた

それはまるで魔法のようで
私は彼の言う通りにすれば本当になんだってなれそうな、そんな気がした

でもあれだ……アイドルって思ったよりずっと大変で……だって光とか凄いからな……

まぁ慣れたらそんな悪くないんだが……最高のショーが出来るし……特にブラックバレンタインの時は良かった、凄く良かった

うん、そういう意味じゃライブは、アイドルは嫌いじゃない……楽しい

……けど、最近になってちょっと困ったことができたんだ


どうも私は売れてきたらしい、よく分からんが、そうらしい
私を売ることができる親友はやはり凄い、私の大親友だから当然かもしれんが

そのことはとても嬉しく思う、だって親友は私が売れるのは嬉しそうだ
彼が喜んでいるのを見ると私も嬉しくなる

でも、有名になった途端色んな奴がなんかこっち来るんだ、知らない人も、別に話したこと無いのも

しかもそのくせ色々聞いてくる

「~~は知ってる?」

「~~は知らないの?」

私は別に服とか知らんし……音楽もあんまり……あ、メタルなら分かるぞ、でもあいつら聞かんし……



「最近様子が変だけど、なんかあったか?」

「……フヒ? 何が?」


親友は眉に皺をよせて変な顔をする
なんだろう、なんか不味かったか、嫌われるのだろうか


「……ぴ、P?」

「……なんでもないよ」


伺うように名前を呼ぶ私の頭を、彼は撫でるように叩く
よかった、どうやら嫌われてはいないらしい
親友に嫌われたら……私は……



「ん……?」


黒い渦のようなモヤモヤが今、胸の内を巡った気がした


「なぁ、P」

「ん?」

「わ、私達……親友だよな?」

「あぁ、勿論」

「そうか……良かった……」


幾度となく同じ質問をしたと思う、その度に彼は私に期待通りの言葉を返してくれる


うん、そうだ、私達は親友だ
そして、それは最高のことだ


「~♪」


私は歌を口ずさむ
何度も彼が歌うのを傍で聞いていた、あのメロディ


「お、それあれか、俺がたまに歌ってるやつ」

「う、うん……そう……」

「そうか、気に入ったならCD貸そうか?」

「……いい……別にいい」


断った理由は、何故だろうか


「そうか? それにしてもお前……いつも歌ってるキノコの歌はもう歌わないのか?」

「う、歌うけど……なんで……?」

「んと……あれだ、最近全然聴いてなかったからさ」


こんなにも不安なのは、何故だろうか


黒いモヤモヤはまだ私の中でずっと巡っている

あの質問は今もまだ私の中でずっと廻っている

それはどんどん大きくなっていって……なんだかもう、爆発しそうだ……いや、爆発とかせんけど……

とにかく、なんか居心地が悪いんだ、隣には親友がいるのに

歌を歌えばそんな気持ちもなくなるだろって思っていた
楽しい時も悲しい時も、そうすればなんだか楽になるから

だけど、さっき歌を歌ったはずの私は、何も変わらない



「これ、俺の大好きな歌なんだ、聞きたくなったらCDいつでも貸してやるから言ってくれよ」

「……うん」

「もうサビとかたまんないんだぞ、こう……」


親友が歌い出す

その歌を歌う彼はとても楽しそうで……彼の声を聞いていたらちょっとだけ安心した

やっぱり親友は凄い、一人で歌うからきっとダメだったんだ、私も一緒に歌おう

もう聞き飽きるぐらい聞いたそのメロディ、私は知らないふりを決めつけながら彼に続く

そうやって歌っていると、まるでラリーのように響く私達の歌声はどこに響くのだろうか、そんなことをふと思った


その時カチリと、音がした
何か歯車が噛み合ったような、引き金を引いてしまったような、そんな音


なんの音かは分からなかったけれど


私はなんだかそうしなければならない気がして、目を閉じる


ーーーー恋は知ってる?


知らん、私にわかるわけないだろそんなの、これまでも、きっとこれからも

肝心なところでミスるというねもう死のっかな

>>10>>11の間に>>13お願いします



「Baby Baby, till the end of day~♪ ……って、輝子!?」

「フヒッ……!? な、なに……なんだ……?」


親友が急に声を荒げて私を呼ぶ
彼に名前を呼ばれるのは悪くないが……叫ぶのはやめてほしい、心臓に悪い


「なんでお前泣いてんだ、何があった!?」

「ん……?」


あれ、なんか湿ってる……これ、涙か?
なんで私は涙なんかでてるんだ……


分からない、分からないのに涙は止まらない


「と、とりあえずほら、これで涙ふけ、な?」


そう言って、彼は私にハンカチを差し出してきた
男性にはちょっと似合わない可愛らしい柄のハンカチを

あ、確かこれ……彼が誕生日にちひろさんから貰ってた……



「……輝子?」


目を開けた、そこには心配そうな彼の顔
親友のそんな顔は見たくない、出来るなら笑ってるのがいい

なんでそんな顔してるんだ
私が泣いているのがいけないのか?


「……お、おいっ?」


私は彼に抱きついた、涙は止まらなかったし……こうすれば彼に涙を見せなくていいと思ったから

ちょっとの間をおいて頭に何かが触れる
あったかくて、大きい何か

きっと今親友はいつものように微笑んでくれてるだろう……流石、天才だな私



「やっぱり……あれだ、今日はレッスン休むか?」


優しく問いかける声
多分、親友はここで私が断っても強引に休ませようとする気がしたから


「……や……絶対、今日はレッスン行く……行くぞ」

「……輝子」


今度はちょっと強い口調、やっぱりこっちに選択権はないなこれ……けど、私も譲れない

分かったんだ、やっと
もしかしたらこれから先のことも分かるかもしれない、だから今日は頑張りたいんだ

彼の目を見た、目はちょっと腫れぼったかったけど、しっかりと見つめる

彼も私の目を見てくれた、いつも真っ直ぐ前を向いてる彼の目は私とはまるで正反対だ

……なんだこれ恥ずかしい、顔熱いんだが



「……はぁ」


彼が溜息をつく


「ダメだ、今日は帰れ……送ってやるから」


その答えに今度は私が溜息を着きそうになったけど、それは落胆とは違ったものの気がした

そして彼が踵を返す、今向かってた方向とは逆の方向に歩き出す

私も慌てて同じ方向に歩き出す


いつものように、彼の袖を掴んだ



「P?」

「ん?」

「あれだ……あの曲のCD……貸してくれるか……?」

「ああ、いいぞ」


やっぱ気に入ったんだな、そう言って彼はまたあの曲を歌い出した
私も一緒に、けれど、気付かれないように歌う



君が口ずさむお決まりのメロディ
知らないふりを決めつけてまた続くラリー


――――恋は知ってる?


知らない、でも

私の欲しいものは分かった気がする

初めて地の文書きました、迷走しました、誤爆もしました


読んでくれてありがとうございました
駄文失礼しましたー

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