乃莉「女の子って何でできてる?」 (34)

おとこのこって なんでできてる?
おとこのこって なんでできてる?
かえるに かたつむりに こいぬのしっぽ
そんなもんでできてるよ

おんなのこって なんでできてる?
おんなのこって なんでできてる?
おさとうと スパイスと すてきななにもかも
そんなもんでできてるよ

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なずな「乃莉ちゃん、考え事?」


そう呼びかけられるまで、なずなが来たことに全然気づかなかった。
何故だか記憶に残っている、昔どこかで読んだ詩かなにかの一節。
どうしてそんなことを思い出していたのかは自分でも分からないけれど……


乃莉「ううん、何でも」


そう答えてなずなの方を見ると、なずなは不思議そうな顔をしていた。
学校の靴箱の前を、帰路を急ぐ生徒たちが次々と通り過ぎていく。
金曜日だからか皆テンション高い気がするけれど、もしかしたら単に私が休日にワクワクしているからそう見えるだけなのかも。
何にせよ、立ち話するにはちょっと騒がしすぎるかな。


乃莉「……帰ろっか」

なずな「うん、そうだね」

やまぶき高校からひだまり荘までの短い帰り道を、私たちはいつもびっくりするほどゆっくり歩いている。
何となく二人の帰り道が大切なものに思えるから、どちらが言い出したわけでもないけれどちょっとでもその時間を長くしたくて、
気怠そうに歩く他の生徒たちにどんどん追い抜かれていくのが妙に気持ち良かったりして。

でも、私たちが付き合い始めて、前と変わったことはそれくらいだ。
仲が良かったのは元からだし、なずなも全然変わらないし。

どちらからともなく手をつないで、顔を見合わせた。
ちょっと恥ずかしいような、それでいて嬉しいような、複雑な感情が心の中に沸きあがってくる。

なずな「ねえ乃莉ちゃん、明日、どこ行く?」

乃莉「んー、明日かー」

乃莉「なずなはどっか行きたいとこ、ある?」

なずな「うーん……」

なずな「私は乃莉ちゃんと一緒ならどこでもいいよ」


そう言って、なずなはぱっと笑顔になった。
もう、なんでそういうことフツーに言えるかなあ。
顔が赤くなってくるのに気づかれないように、私は考えるフリをして顔をそらす。

なずなの顔をちらりと見て、ああ、と思った。
さっきの詩。
なずなのさらさらの細い髪を編み込んだヘアスタイルや、長いまつげや、白くてつるつるの肌を見ていると、
本当に砂糖とスパイスでできた女の子なんじゃないかと思えてくる。
別に自分がブサイクだとか男っぽいとか思ったことはないけれど、こうやってなずなと並んでみると、
私はどう見ても、カエルにカタツムリに子犬の尻尾、っていう側の人間だ。

なずな「……乃莉ちゃん?」

乃莉「え、ああ、どこでも、って言われてもねえ」

なずな「さっきからぼーっとしてるけど、大丈夫?調子悪い?」

乃莉「いや全然、そういうわけじゃないんだけど。ただの考え事」

なずな「……?」

乃莉「あ、そうだ、明日なんだけどさ」

乃莉「私ちょっと買い物行きたいんだよね」

なずな「お買い物?いいよ」

乃莉「ペンタブの感度が悪くなっちゃってさ」

なずな「?」

乃莉「あー、まあ、電器屋行きたいんだよね」

乃莉「その後は、適当にぶらぶらしよっか」

なずな「うん!」

道を一本渡って、ひだまり荘に着いてしまった。
どんなにゆっくり歩いても、この帰り道はあまりに短すぎて、どうしても名残惜しい気がしてくる。


乃莉「もっと学校から遠ければいいのにな」

なずな「え?」

乃莉「ひだまり荘。もっと遠ければさ、なずなと一緒にいられる時間も増えるのかな、なんて」

なずな「もしかして、それが考え事?」

乃莉「そういうわけじゃないけど」

乃莉「だいたい考えたってしょうがないことじゃん?ひだまり荘移転、なんてできるはずないし」

なずな「うん、私もひだまり荘はここにあるのが一番いいと思う」

乃莉「……じゃあ明日、10時でいい?」

なずな「うん」

乃莉「それじゃ……」

なずな「うん、ばいばい、乃莉ちゃん」

部屋に戻り、真っ先にパソコンの電源を入れるのが毎日のルーティンワーク。
そうすれば制服を着替えている間に起動が終わり、デスクトップが開いている。
あ、そういえば。
ちょっと気になって、ブラウザを開いて検索ウィンドウに文字を打ち込んだ。


乃莉「っと、『女の子って何でできてる』で出るかな……」


エンターキーを叩く小気味良い音に一瞬遅れて、検索結果が表示された。

乃莉「マザーグース?」


トップでヒットしたサイトを適当に見てみると、どうやらマザーグースの一節らしい。
サジェスチョンでも出てくるのはやっぱりマザーグースと、あと、谷川俊太郎?
検索をかけ直してみると、青い表紙の本がヒットした。マザー・グースのうた第1集?
なんとなく見覚えがあるような、無いような……
細かいことは全然思いだせないけれど、多分これを読んだことがあるんだろうな。


乃莉「ふーん……」

乃莉「お砂糖とスパイスと、素敵な何もかも、か……」


もう一度、詩が載っているサイトを開いてみる。

かえるに かたつむりに こいぬのしっぽ
そんなもんでできてるよ


乃莉「まあ、子犬の尻尾なら可愛くて良い気がするけど……」


カエルとカタツムリは、ちょっと、ね。

ブラウザを閉じると、デスクトップの壁紙が見えた。
ひだまり荘の庭で撮った、なずなと二人で写っている写真。この間、ゆのさんにデジカメで撮ってもらった。
満面の笑みで私の腕に抱きつくなずなは、やっぱり砂糖とスパイスでできたいかにも女の子らしい女の子で、
私が素敵だと思う何もかもが詰まっているような気さえしてくる。
……比べてもしょうがないんだけどさ。
ふう、とため息をひとつついて、明日のことを考える。

お昼、何食べよう。
その後はどこに行こうか。
何を話そうかな。

ただ一緒に出掛けるだけなのに、別に付き合い始める前までとすることは変わらないはずなのに、
それでも考えるだけでこんなにもドキドキしてしまうのは何故だろう。

翌朝

なずな「おはよう、乃莉ちゃん」

乃莉「あ、なずな」


支度を終えて部屋のドアを開けると、ドアの前でなずなが待っていた。


乃莉「もう来てたんなら、家ん中入ってても良かったのに」

なずな「でも、このほうが待ち合わせっぽいかな、って」

乃莉「へ?」

なずな「だって、せっかく乃莉ちゃんとデートなんだもん」


そう言って、なずなはちょっと照れた表情を見せる。
白いワンピースのフリルが付いたスカートがひらひらと風になびいた。

乃莉「その服、可愛いね」

なずな「えへへ、そうかな?」

乃莉「うん、すごい似合ってる」

なずな「乃莉ちゃんも、すっごく似合ってるよ」

乃莉「そう?」


下を向いて自分の服を見る。
グレーのチェックのシャツに青のアウター。色味だけ見たら男の子みたいだ。
特に意識して選んだわけではないんだけどな。
昨日のマザー・グースのフレーズを、頭の中でもう一度なぞる。


乃莉「いいなあ、なずなは。そういう服似合って」

なずな「そんなことないよ、乃莉ちゃんだって絶対似合うのに」

乃莉「そんなことあるよ」

乃莉「そういう服は、子犬の尻尾には無理だって」

なずな「?」

乃莉「それに、私も好きでこういう服着てるんだし」

乃莉「まあでも、なずなはオシャレしてるのに、何か私は普段着みたいなカッコで変かな」

なずな「ううん、乃莉ちゃん、すっごく可愛いから大丈夫だよ」

乃莉「えー、なずなのが可愛いって」

なずな「乃莉ちゃんのが可愛いよー」

乃莉「ふふっ」

なずな「あはは」

家電量販店

乃莉「んー、思ってたより高いかも」

なずな「これが乃莉ちゃんが欲しいって言ってたの?」

乃莉「そうそう、ペンタブって言って、なずなも見たことあるでしょ?」

なずな「うん、乃莉ちゃんと先輩たち、前にこれで絵描いてたよね」

乃莉「でさー、前のやつが安いのだったからか、なんか最近調子悪くて」

乃莉「でもいいのはやっぱ高いんだよね」

なずな「そうなんだ」

乃莉「やっぱAmazonとかで買った方が安いのかな」

なずな「えっ、アマゾン?って遠いんじゃ……」

乃莉「ん?ああ」


あはは、と笑ってなずなのちょっと不安そうな顔を見る。
もしかして私が本当に南米まで買いに行くんじゃないかと思ってるのかな。
なんか可愛い間違いだから、何となく説明せずにそのままにしたくなってしまう。


乃莉「まあCG真面目にやりたいし、一応お金持ってきたし、なるべくいいやつ買いたいんだよね」

なずな「ふうん……」

私はペンタブ選びを始めた。試し描き用のペンタブを使ってみる。
へえ、実際に使ってみると、結構描き心地は違うんだなあ。今まで私が使っていたのよりいいかも。
でも、ちょっと思ってたより反応遅いかな?いいやつはもっと速いかと思ってたけど。
なずなはしばらくはそんな私を見ていたけれど、そのうちに横でペンタブをいじり始めた。


乃莉「なずな、何描いてんの?」

なずな「ん?」


ディスプレイを見るとそこに映っていたのは、あいうえお、かきくけこ……
まあ、絵が描けないからっていうのは分かるけど。


乃莉「……なずなならそんなところだろうと思ったけどさ」

なずな「だって私、乃莉ちゃんみたいに絵描けないし……」

乃莉「どうせすぐ消せるんだし、何か描いてみたらいいのに」

なずな「何かって言われても、うーん……」

なずな「あ、こういうのは?」


そういってなずながペンを走らせる。
なんだか懐かしいような、ハートの付いた相合傘のマーク。見るのは小学校以来かも。
なずながそこに名前を書き込んでいく。
右側にはなずなの名前、左側に私の名前。
それを見て、一気に顔が熱くなる。


乃莉「ち、ちょっと、なずなぁ!」

なずな「ふぇ!?」

乃莉「何書いてんのさ!早く消して!」

なずな「う、うん」

慌てるなずなからペンを奪い取って、すべて消去を選択する。
他の雑多なラクガキと一緒に、一瞬で相合傘は消えて行った。
周りを見渡してみたけれど、近くには誰もいなかった。ほっとして胸をなでおろす。


乃莉「……もう、恥ずかしいじゃん」

なずな「えっと、ごめんね、乃莉ちゃん……」


ほっとしたんだけど、何だろう。ちょっと寂しいような、残念なような……


乃莉「まあ、怒ってはないけどさ」


申し訳なさそうに目を伏せるなずなの頭にぽん、と手を置いて声を掛ける。
真っ白になったディスプレイに2人の輪郭が微かに映っていた。

乃莉「あ、もう1時近いね。お昼食べいこっか」

なずな「乃莉ちゃん、ペンタブ買わないの?」

乃莉「んー、もうちょっと考えようかな」

乃莉「まあ、なずなを付きあわせといてなんか悪いんだけど」

なずな「ううん、全然」


街をぶらぶら歩いて、適当にチェーンのハンバーガー屋に入った。
もうちょっとお洒落に、デートらしい、っていうのかな。そういうお店にも行ってみたかったけれど、
さすがにそういうところになずなと2人で入るのは緊張するし、お金もないし。


なずな「美味しいね、乃莉ちゃん」

乃莉「うん」


なずなは無邪気な笑顔でハンバーガーを頬張っている。
それを見ていると、私までなんだか嬉しくなってくる。

なずな「ねえ乃莉ちゃん、飲み物何にした?」

乃莉「これ?ジンジャーエールだけど」

乃莉「なずなはオレンジ?」

なずな「うん」

なずな「乃莉ちゃん、一口ちょうだい?」

乃莉「ん、いいよ」


なずなが私のドリンクを取ろうと手を伸ばす。
それを見ていて、あ、これ、間接キスだな、なんて。
別に女同士じゃ珍しいことでもないんだけど、それでも顔が赤くなる。
それはきっと、目の前にいるのがなずなだから―

なずな「あっ」


なずなが小さく叫び声をあげた。
白いワンピースの袖がなずなのジュースに引っかかったのが見えた。


乃莉「わっ」


慌てて私も手を出そうとするけれど、もうどうしようもなかった。
オレンジジュースは横倒しになって、なずなが急いで元に戻したけれどトレーの中は水びたしになってしまった。

乃莉「大丈夫?ペーパーナプキン持ってくるから!」

なずな「う、うん」


ペーパーナプキンを束で持ってくると、なずなはまだおろおろしていた。
とりあえずトレーの中にペーパーナプキンを半分くらい放り込んで、残りをなずなに渡す。


乃莉「……まあでも、だいたい飲んじゃった後で良かったね」

なずな「そうかな……」

乃莉「ハンバーガーは?」

なずな「ちょっとだけかかっちゃった」

乃莉「そっかー……まあしょうがないよね」

乃莉「服は濡れてない?」

なずな「うん、大丈夫だと思う」

乃莉「そっか、良かった」

なずな「乃莉ちゃん……」


なずなが小さくなっているのが見える。
口には出せないけど、そんな姿も可愛いと思ってしまう。
ふふ、と聞こえないように笑ってから、なずなに声を掛けた。


乃莉「でさ、これ、飲まないの?」

なずな「へ?」

乃莉「ジンジャーエール」

なずな「あっ、えーと、うん」

乃莉「なずな、どっか行きたいとこある?」

なずな「んー……」


ハンバーガ屋を出て、私たちは特にあてもなく歩いていた。
きっと答えは返ってこないだろうな、とか思いながらもなずなに行きたいところを尋ねる。
なずなは口元に手を当てて考えこんだ。そんな仕草に、何故かドキッとしてしまう。


なずな「この辺、私もあんまり来たことないから……」

乃莉「そうなんだ」


そういえばこの辺はお洒落な店が多いな、と気づいた。
きょろきょろと周りを見渡すと、ブティックや雑貨屋さんやレストランが並んでいる。
その中のカフェが目に留まった。ドアの前に飾られた小物が可愛らしくて、窓の中の様子もすごくお洒落。
そう、まるで、素敵な何もかもが詰まっているような。
無意識に私は立ち止まっていた。

なずな「乃莉ちゃん?」

乃莉「あ、いや、何でも……」


そう言いながら、そのカフェの名前が気になった。
どこかで聞いたことのあるような、そんな気が……


なずな「おしゃれなお店だね」

乃莉「うん、私もそう思って……あ」

なずな「?」

乃莉「もしかしたら、ゆのさんに聞いたところかも」

なずな「ゆのさん?」

乃莉「ゆのさんが沙英さんに連れてってもらったんだって、カフェに」

乃莉「店名とかちゃんと覚えてないけど、もしかしたらここかも」

なずな「そうなんだ」

乃莉「……入ってみる?」

なずな「え、えと」

なずな「……うん」


少し緊張しながら、カフェのドアを押す。カラン、とドアベルの音が鳴った。
私となずなが中に入ると、入れ違いで綺麗な女性と背の高い男の人が連れ立って出ていく。かすかに香水の香りがした。
それはまるで、映画のワンシーンみたいで。


店員「2名様ですか?」

乃莉「え、あ、はい」

店員「お好きな席にどうぞ」


いけない、うっかりぼーっとしてた。
ちらりとなずなの方を見る。きょろきょろと落ち着かない様子だった。
あー、なずなは完全に緊張してるな。
いつも通りのなずなを見ていると、なんだかちょっと落ち着いた。

乃莉「じゃ、ここでいっか」


適当なテーブルを選んで、椅子に腰かけた。向かいになずなが座る。
店員さんがメニューも持ってきた。お昼を食べたばかりだから、さすがにお菓子とかはなくていいかな。
2人でお茶だけ頼んでから店内を見渡す。お客さんは私たち以外誰もいなかった。


なずな「乃莉ちゃんが頼んだやつ、どういうの?」

乃莉「ああ、チャイのこと?」

乃莉「んーと……私もよく分かんないや」

なずな「あはは」

乃莉「ここ、貸切だね」

なずな「ほんとだー」

乃莉「昼過ぎで中途半端な時間だからかなあ?」

なずな「うん、そうかも」

なずな「あ、でも、猫はいるね」

乃莉「えっ?」

なずな「ほら、あそこ」

乃莉「あ、ほんとだ」

話をしていたら、注文した紅茶が運ばれてきた。いい香りが辺りに立ち込める。
なずなが鮮やかなブルーに縁どられたティーカップにそっと口をつけた。
その姿に私は見とれてしまう。
絵になる、っていうのかな。お洒落なカフェと、なずなの女の子らしい仕草。
すてきななにもかも、っていうのはきっとこういうののことを言っているのだろうと思った。


乃莉「……」

なずな「?」

乃莉「いや、なんでも」

なずな「飲まないの?」

乃莉「え、ああ、飲むけど」

なずな「……ねえ、乃莉ちゃん」

乃莉「なに?」

なずな「私……今日、乃莉ちゃんに迷惑かけてばっかりだったね」

乃莉「そんなこと……」

なずな「ごめんね乃莉ちゃん、せっかくのデートなのに、全然デートらしくなかったよね」

乃莉「……もう、何でそんなに気にするの?」

乃莉「私がなずなと一緒にいたいから一緒にいるのに」

なずな「うーん、なんていうかね」

なずな「乃莉ちゃんは、どうして私と一緒にいてくれるのかって」

乃莉「そんなの……」


だんだん声が大きくなっていたことに気づかず、勢いで答えそうになってしまった。
でも、意識してそれを言おうとすると、すごく恥ずかしい。顔が熱くなるのを感じた。
店員さんがカウンターの奥に行ったことを横目で確かめてから、口を開いた。


乃莉「……好きだからにきまってんじゃん」

なずな「うん、すごく嬉しい……でもね」

なずな「どうして乃莉ちゃんは私のこと好きでいてくれるんだろう、ってたまに思うの」

なずな「乃莉ちゃんはかっこよくて何でもできて、でも私は……」

そう言われて、何と答えていいか分からなくなった。
どこが好きか?なんて聞かれても、全部としか答えようが無いような気がしたし、好きであることに理由なんてつけられないし。


乃莉「んー……私には、なずなにはいいところばっかりあるような気がするんだよね」

なずな「そうかな……」

乃莉「なずなが何か失敗したところで、それは変わらないし」

なずな「そうやっていっつも助けてもらってばっかりだから、なんだか悪いな、って思っちゃうの」

乃莉「でも、なずなが困ったら私が助けるから、助けてあげたいと思うから……」

乃莉「ああ、そっか」


私は持っていなくて、なずなにはある色んな「素敵な何もかも」。
もしかしたら私は、それにちょっと憧れていたのかもしれない。
でも、カエルにカタツムリに子犬の尻尾の側だからこそ、そんななずなを好きになれたんだ。
私はなずなみたいにはなれないけれど、だからこそ、なずなと一緒にいられる。
それが一番嬉しくて幸せなことだなんて、最初から分かっていたはずなのに。
なずなはきょとんとした顔でこちらを見ていた。

乃莉「……私、子犬の尻尾で良かったかも」

なずな「えっ?」


あはは、と小さく笑ってなずなを見つめる。


乃莉「何でもないよ」

なずな「えー、気になるのに」

乃莉「……私が、なずなのことを世界一素敵だって思ってるって話」


照れるなずなをよそに、私は紅茶を一口すすった。
柔らかな香りの中に、ほのかに砂糖とスパイスの味がしたのは、
素敵な何もかもでできた大好きな人が目の前にいたからなのかもしれないな。

おわり

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