キョン「後ろの席の奴が気になる」 (36)

入学式で一人気になる奴がいた。

目立つそいつはクラスも同じで、よりによって俺の真後ろに座りやがった。

なんで気になったかだって?今言ったように目立ったからだ。

美少女で目立った?とんでもない!

目立つくらいの美少女が後ろに座ってくれる世界ならどんなに良かったことだろう。

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そいつは全身が黒かった。黒人なんてものじゃないくらいにね。

しかもムキムキのマッチョ体型。背も高い。

顔は馬面でつぶらな瞳が特徴的だ。つぶらな瞳をしたゴリラーマンと言った方がいいだろう。

髪型はパンチパーマっぽい。そしてなんだろうね、あれ。少量の毛を二束にまとめて前に突き出している。

ツインテールのつもりだろうか?場所が違うし、あんな少量じゃテールですらない。

言うなれば、アホ毛が二本突き出ている感じになっている。

性別不詳というか、むしろ男に見えるが、着ている制服が女子の物だから辛うじて女生徒だと解る。

担任がやってきて自己紹介の時間となった。

俺の自己紹介も終わり、ここまでは恙なく紹介は終わっていった。

そしてそいつの番がやってきた。

そいつは、

「じょうじ」

と言った。

やっぱり男だったのかと俺は振り返った。

やけに黒くて脂ぎった喉が印象的だった。

そいつはもう一度、

「じょうじ」

と言って、教室見渡すと席に着いた。

その時は自分の名前しか言ってないじゃないかと思った。

担任の岡部がフォローするその時まではね。

岡部が「彼女は涼宮ハルヒさんだ。次の人」と場を回した。

なんだ?『じょうじ』ですらないじゃないか!

数日後、何となく不快なそいつに何故か話しかけてしまった。

「なぁ、自己紹介のアレ」

「じょ」

「お前は涼宮ハルヒなのか?それともじょうじなのか?」

「じょう」

「じょう?」

ここで新たな名前を提出されてしまった。

「じょうじ」

そいつはじょうじと言い直すと、腕を組んでそっぽを向いた。

何かが気にくわなかったようだ。

昼休みになると俺は中学が同じで比較的仲のよかった国木田と、
たまたま席が近かった東中出身の谷口という奴と机を同じくすることにしていた。

じょうじの話題が出たのはその時である。

「お前、この前じょうじに話かけてたな」

何気にそんな事を言い出す谷口。まあ、うなずいとこう。

「じょうじと言われて追い返されただろ」

その通りだ。

「じょうじって…涼宮さんじゃないの?」

焼き魚の切り身から小骨を細心の注意で取り除いていた国木田が口を挟んだ。

「中学の時から『じょうじ』とか『じょう』とかしか言わないから、
 三年になる頃に皆じょうじって呼んでたんだぜ」

「ふ~ん」と国木田が言う。

「食事中に出す名前じゃないな。なんとなく」

俺がそう言うと、

「そうなんだよな~ 何故か食欲がなくなる」

とは谷口の弁。良かった、俺だけじゃなかったようだ。

その日のじょうじの話題は終了。

背後にでっかいゴキブリが居るような不安感を感じつつ日々を過ごしていたある日のこと。

終業のチャイムが鳴ると共に俺はじょうじに腕を掴まれた。

とてつもない恐怖と嫌悪感を抱くと共に、人間とは思えない力で引っ張られた。

「どこ行くんだよ」

「じょう」

やっぱり会話が成立しない。

着いた先は、

文芸部

と書かれたドアの前。

じょうじは目の前のドアを開けるとともに侵入し俺を引っ張り込んだ。

じょうじは部室の中ほどにまで進むと両手を広げて、

「じじょう」

と無表情なままで言った。

事情?なんの事情だ?と思っていたら、生徒が居たのか、声がした。

「長門有希」

声の方を見ると、窓辺に本を片手にこちらを見ている女生徒が居た。

「訳がわからん奴に侵入されて迷惑だろう?
 俺も無理やり連れてこられたんだがスマンな」

「構わない」

少女は無機質な返答をする。

「彼女はあなたと部活をすると言っている」

「何を言っているのかわかるのか」

長門有希は小さく頷く。

「じょうじょう」

じょうじが何かを言っていた。

「明日から放課後はここに集合。来ないと死刑と言っている」

冗談じゃない!こうして俺は無理やりじょうじに付き合わされることとなった。

翌日の放課後、俺は仕方がなしに部室に足を運んだ。

死刑はやだからな。

部室には既に長門が着ており読書をしていた。

「なぁ……なんでじょうじが言っていることが解るんだ?」

「………」

無視された。いや、読書に夢中で聞こえなかった事にしよう。

もう一度、長門に話しかけようか迷って居るとドアが開いた。

「じょう」

じょうじだ。

じょうじは一人の美少女を捕まえていた。

そのまま教室に引っ張り込むと、

「じょうじじょうじ」

と言った。

意味がわからん。

と、俺が思っているとその美少女は、

「わかりました。この部に入ります。
 朝比奈みくるっていいます。皆様よろしくお願いします」

と言って頭を下げた。

何が解ったんだ?俺の頭か耳が悪いのか状況が全く飲み込めない。

「朝比奈さん」

「何ですか」

年上にまったく見えない朝比奈さんは純真そのものの無垢な顔を傾けた。

「一緒に学校に相談しませんか?俺から言っときますから」

「いえ」

立ち止まって、彼女はわずかに目を細めた。

「いいんです。入ります、わたし」

「でも多分、ろくなことになりませんよ」

「大丈夫です。あなたもいるんでしょう?」

死刑が怖いからいるのです。

「おそらく、これがこの時間平面上の必然なんでしょうね……」

つぶらと表現するしかない彼女の目が遠くのほうを見た。

「へ?」

「それにテラフォーマーがいるのも気になるし……」

「気になる?」

「え、や、何でもないです」

朝比奈さんは慌てた感じで首をぶんぶん振った。

それから数日経ったある日のこと。

じょうじが再び文芸部に人間を連れ込んだ。

「じょう」

じょうじがそう言うと、連れてこられた方の奴は、

「古泉一樹です。……よろしく」

ハンサムな男子生徒が笑顔で挨拶をし、

「入るのは別にいいんですが」

と続け、

「何をするクラブなんですか?」

と笑顔のまま聞いてきた。

こいつもじょうじの言葉を理解できる奴なんだろうか?

「じじじょうじじょおじじょうじじじじょう」

じょうじが何かを言っている。

「はあ、なるほど」

と何かを悟ったような口ぶりで呟いて、訳知り顔でうなずいた。

「さすがは涼宮さんですね」

意味不明な感想を言って、

「いいでしょう。入ります。今後とも、どうぞよろしく」

白い歯を見せて微笑んだ。

おおい、解ったのかよ。本当に理解できたのか?

そんな感じ人数が増えた訳だが、今俺は一度古泉に連れてこられたことのある閉鎖空間とやらに居る。

ここに至るまでには色々とあった。

長門に呼び出されたかと思ったら、自分は宇宙人でじょうじを観察していると言って、

おまけにじょうじは周りの情報を書き換えることが出来ると言ったり、

本当のじゅうじは見た目は一般的な人間の少女であったが、

俺を試すためにじょうじになってるなんて言われた。

朝比奈さんにも呼び出された。

行ってみたら、未来からきたと主張する胸が三割増しの朝比奈さんだったのだが。

これまた、じょうじは本当は美少女なんだから見た目に惑わされないでなんて言って、

困ったら白雪姫を思い出してなんて言われた。

古泉にも呼び出された。

超能力者だと自己紹介された上で、じょうじがストレスを感じると発生する空間に連れて行かれた。

こいつに至ってはじょうじを神とか抜かしやがった。

あんなに嫌悪感を抱かせる神が居て堪るかよ。

そうそう、朝倉にも呼び出されたな。

「あなたにこれを渡して涼宮ハルヒへの出方をみる!」

なんて言って、右手に隠していたものを一閃、俺の目の前に殺虫剤を差し出したな。

俺が受け取りを渋っていると、

「虫を殺すのは嫌?でも無理。
 だって、あたしは本当にゴキブリに死んで欲しいんですもの」

なんて言って無理やり殺虫剤を掴まされた。

「それ、薬局でも買えない強力な奴だから。きっと朝倉印の特注品よ。じゃあね」

なんて立ち去って行った。意味が解らなかったなぁ。

昨日はじょうじが、

「じょうじじょうじじょうじょうじじ」

なんて言ってたな。

朝比奈さんによれば、土曜日の朝九時に駅前集合って話だった。

付き合い切れずに無視したなぁ。

そして、その土曜日の晩にベッドで寝てたら、今この場所で目が覚めたって訳だ。

「じょう」とか「じょうじ」って声がするから目を開けたのさ。

そしたら、じょうじの無表情な顔が目の前にあったわけ。

この恐怖………解るよな?

で、朝比奈さんの言葉を思い出した。

白雪の話と同じく、少し考えた訳だ。実際には解ってたのだが、正直考えたくなかったんだが。
じょうじにキスをしたら呪いが解ける様に元の美少女に戻って、
この閉鎖空間からも脱出できるんじゃないかってね。

「なぁ、じょう…ハルヒ、俺、実はポニーテール萌えだったんだ。」

じょうじが無表情な顔で俺を見ている。

「お前のその頭のツインテールの出来損ないはなかなかだぞ」

じょうじの表情から感情を窺い知ることはできない。

そしてキス……じょうじと?じょうじをマジマジとみる。

やっぱり無理。

そしてふと気が付く、俺の右手は朝倉から貰った殺虫剤を握りしめていた。

耐えきれずに、じょうじに殺虫剤をかけてみた。

じょうじは、「キィイイ」という甲高い悲鳴を上げた。

なんだか効いているみたいだ。こんな場所でじょうじと二人っきりは勘弁して欲しい。

俺はその噴霧式殺虫剤をかけ続けた。

じょうじは悶え苦しんでいたが、朝比奈さんが言った事はこの事だったのかもしれない。

白雪姫の最後は意地悪な王妃が赤く焼けた鉄の靴を履かされて、
苦しみながら踊らされて殺される終わり方だったからな。

そんな事を考えていたら、殺虫剤は空になっていた。

じょうじはもう動かない。

代わりに校舎の方で動いている光る巨人をぼんやりと眺め続けた。

ドアが開いた音がした。

妙な夢を見た気がするが、朝がきて、妹が起こしに来たようだ。

何時もの様に俺に飛び乗り、お決まりのフレーズを言った。



「じょうじじょうじ」







チラ裏SS オチマイ

付き合って頂いた皆様においては、お疲れ様でした。

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