恒一「こんにちは。相席、いいかな」 未咲「あ、どうぞ」(45)

1998年4月22日

午後・病院談話室

恒一「君も入院してるの?」

未咲「ええ(格好見ればわかるでしょうに・・・)」

恒一「ぼくも少し前から入院してるんだ」

未咲「はぁ」

恒一「こっちに引っ越してきたばっかなのにつくづく運が悪いよ。
   君、地元の人かな?何の病気で入院してるの?学校とかは?
   あと、よかったらこの町のこと教えてくれないかな?」

未咲(なにこれナンパ?)

未咲「・・・お兄さん、ナンパですか?」

恒一「えっ!?そういうつもりじゃなくて。
   年が近そうな子がいたからちょっと話をしようと思っただけで・・・。
   ごめん。不愉快な思いをしたならもう二度と話しかけないから。本当にごめん」

未咲「あ、いやいや、冗談ですって。頭上げてくださいよ。
   私も結構長く入院してて、話し相手がいなかったから丁度良かったですよ」   
   
恒一「その、本当にごめんなさい。こっちへ来たばかりで知り合いもいないし、
   入院でちょっと心細かったから友達にでもなれるかなって浮かれちゃってて」

未咲「ふふっ、いいですよ。特別に許します。
   でも、初対面の人にいきなり質問するなんて、ちょっと遠慮なさすぎです。
   特に病気のこととか、聞かれたくない人だっているかもしれないんですから」

恒一「申し訳ない。返す言葉もありません」ガックリ

未咲「年が近そうって言ってましたけど、おいくつなんですか?」

恒一「15だよ。4月から中3になったんだ」

未咲「あ、私と同じじゃない。じゃあ敬語で話す必要ないね。
   なんか落ち着いた雰囲気だから、最初高校生くらいかと思ったよ」

恒一「え、そう?老けて見えるってこと?」

未咲「あはは。いきなりタメ語で馴れ馴れしかったから余計にね。
   年下だと思ってたでしょ?」

恒一「ふふっ。中学1年生くらいかなって」

未咲「えー!?私そんな幼く見える?
   これでもしっかりしてるねってみんなから言われるんだよ」プンプン

恒一「あはは、冗談だよ」

水野「お、榊原くんここにいたのかー。
   そろそろ時間だから、これもって地下のレントゲン室行ってくれる―?」

恒一「あ、わざわざ呼びに来ていただいてありがとうございます。
   それじゃ、また会えたら」

未咲「うん。じゃあね」バイバイ

水野「あらぁ?逢引のお邪魔でしたかな?」

未咲「そ、そんなんじゃないですって!///」

水野「はっはっは。まあ、仲が良いのはいいことよ。
   榊原くん、引っ越して来てまだ友達もいないみたいだから、仲良くしてくれると助かるわ」

未咲「は、はい」

水野「それじゃ、私も仕事に戻らないとね」

夜・未咲の病室

未咲「今日は久しぶりに同い年の子と話した気がするなあ」

未咲(榊原くん、か。結構カッコよかったな)

未咲「あ~、それにしてももう2か月学校行ってないんだよな~。
   今年は受験もあるのに勉強心配だなあ」

未咲(ま、今月中には退院できるらしいし、どうにかなるでしょ)

4月23日


恒一「やあ、また会ったね」

未咲「こんにちは、榊原くん」

恒一「!あれ、名前教えたっけ?」

未咲「ううん。別れ際に、看護婦さんが榊原くんって呼んでたから」

恒一「・・・一応自己紹介しよっか。
   ぼくは榊原恒一。君の名前も教えてもらっていいかな」

未咲「私は藤岡未咲よ。これから榊原くん、って呼んでいいのかな?」

恒一「え、う、うん」

未咲(ありゃ、明らかに気落ちしちゃったゾ?私何か気に障ること言ったっけ?)

未咲「名字で呼ばれるの、嫌?」

恒一「ううん、そんなことない、けど」

未咲「もしかして去年の事件、かな」

恒一「・・・うん」

未咲「まあ、知らない人はいないからね。
   もしやこっちへ転校してきたのも?」

恒一「・・・直接的に何かされたわけじゃないんだけど、
   名字でクラスメイトにずっとからかわれて」
   
未咲「そっか」

恒一「ストレスが気胸の引き金になった可能性もある、ってお医者さんも言ってた。
   同世代の子に名字で呼ばれると、まだドキッとしちゃうんだ」

未咲「じゃあさ、下の名前で呼んだげるよ!」

恒一「え?」

未咲「恒一くん、こーくん、こーちゃん、こういっちゃん」

恒一「///」

未咲「恒一、はないな。会って二日で呼び捨ては失礼か。
   どったのこういっちゃん?」

恒一「お、女の子に名前で呼ばれたことあんまりないから///
   ちょっと恥ずかしくって」

未咲「えへへ~。照れ屋さんだね~恒一くんは」パシパシ

恒一「ちょ、やめてよ藤岡さん///」

未咲「え~私が名前で呼んでるのに、こーちゃんは名字で呼ぶって不公平~」ブーブー

恒一「じゃ、じゃあ、み、未咲さん///」モジモジ

未咲「ほえ///」ドキッ

恒一「い、いいかな、未咲さん///」

未咲「う、うん、それでいいよ、こ、恒一くん///」

未咲(ううっ、考えたら私も男の子のことを名前で呼ぶなんて中学上がって初めてじゃん!
  やばっますます顔熱くなってきた///)

恒一・未咲(気まずい///)

看護師「藤岡さーん、診察のお時間ですよー」

恒一・未咲(助かった・・・)

未咲「はーい、いま行きまーす。
   またあとでね、恒一くん///」

恒一「うん、未咲さん///」

夜・未咲の病室 

未咲「テレビつまんないなー。鳴も最近お見舞い来てくれないしー」

未咲「・・・・・・」

未咲(えへへ。恒一くんかあ。さわやかでカッコいいけど、どこか可愛くもあるんだよね~)
   
未咲「知り合い居ないって言ってたし、私がこっちでの友達第一号かあ~。
   そのまま恋人になっちゃったりして。えへへっ」バタバタ

未咲(おんなじ中学だったらいいんだけどなあ。次会ったらいろいろ聞いちゃお)
   

未咲(ちょっと名前を呼ぶ練習でもしようかな、へへっ)

未咲「え、えと、うおっほん。こ、恒一くん///」

妄想恒一『なんだい、未咲さん』ニコッ

未咲(はうわっ、ちょー照れるよぉ。本気で好きになっちゃうかも)

4月24日

未咲「おー、恒一くんこんにちは」

恒一「こ、こんにちは///」

未咲(うおっしゃ!練習のおかげか意識せずにしゃべれる。恒一くんの方は照れてるけど)
  
未咲「恒一くんってさ、引っ越してきたんだよね?前はどこに住んでたの?」

恒一「え、ああ。東京だよ」

未咲「おおっ、都会っ子だね。私も渋谷行ってみたいなあ」

恒一「渋谷なら家からそう遠くないし、友達とたまに遊びに行ったりしてたよ」

未咲「えー!?ほんと。なら案内してもらおうかな~、なんて」
  
未咲(やばっ、さりげなくデート誘っちゃった!ま、まぁ断られるよね)

恒一「いいよ。ぼくで良ければ案内するよ」

未咲「ほええええええ?!本当にいいの?」

恒一「え、うん。服屋とか雑貨屋くらいしか知らないけど、それでいいなら」

未咲「全っ然いいよ!じゃあ約束。恒一くんは夏休みあたりに私を東京に連れてくこと!」

恒一「うん、わかった」ニコニコ

未咲(よしよしよしよーし!さっさと退院して夏に備えて自分磨きしなきゃ!)ウキウキ

恒一「今度はこっちから聞いてもいい?」

未咲「なんでもどうぞバッチコーイ。でもスリーサイズは教えないよ」

恒一「も、もうからかわないでよ///
   ぼくは夜見山北中学ってところに転入なんだけど、み、未咲さんはどこの中学なの?」

未咲「私は、夜見山南中だよ・・・」ガックリ

恒一「そっか。ちょっと残念だね」

未咲(私はめちゃくちゃ残念だよ・・・)

未咲「あ、私のいとこが北中にいるよ。3年3組に」

恒一「3組か。じゃあ同じクラスだね」

未咲「そうなんだあ・・・」

未咲(あー、いっそのこと鳴と入れ替わっちゃおうかな。
   そしたら恒一くんと一緒に勉強できるし。えへえへへへ)

恒一「そういえばさ、夜見山の学校給食ってどうなの?
   前の学校は結構凝ったものが出てたんだよね」

未咲「残念でした。市内の中学はみんなお弁当だね」

恒一「そっかあ。給食の方が楽でよかったんだけどなあ。
   病院食も飽きてきたし、どうしても食べ物に意識が行っちゃうんだよね」
  
未咲(よし、ここで料理できますアピールをしとこう)

未咲「北中のいとこは朝コンビニで買うことが多いって言ってた。
   うちはお母さんに作ってもらったりもするけど、自分でやることも結構あるよ」

恒一「へ~、未咲さんも料理するんだね。
   ぼくも前の学校で料理研究部入ってたから結構レパートリー多い方だよ。
   そばやうどんを打ったり、パンを焼いたりすることもあったね。  
   ぼくが一番得意なのは中華料理かな。
   定番の麻婆豆腐や青椒肉絲、油淋鶏に酢豚なんかも夕食でよく作ったね。
   前に東坡肉をやったときは半日蒸してとろとろの---」

未咲(なんかすごい饒舌になった。でも料理出来る男の子っていいなあ。
   恒一くんと一緒に台所に立って料理かあ。えへへ)

恒一「デザートも良くやるんだよね。
   去年の今頃作った桜のムースケーキはおいしかったな。
   桜の花はもう散っちゃったけど、さくらんぼなら」

未咲「恒一くん恒一くん」チョイチョイ

恒一「はれ?あ、ご、ごめん、未咲さん。僕ばっかり話しちゃって」

未咲「ふふっ、恒一くんは料理好きなんだね。後でご馳走してくれたら許しちゃう」

恒一「うん。退院したら家においでよ。何でも好きなの作ってあげるから」

未咲「あ、ありがとう///楽しみがまた増えちゃったね。
   こんどはこっちから質問いい?」

恒一「あ、うん。どうぞ」

未咲「恒一くんがいた中学の話を聞きたいな。なんて学校?」

恒一「私立のk中学だよ。勉強は少し大変だったけど、男子校だから気楽だったね」

未咲「え?!k中って確か東大進学率高いとこだよね。恒一くん頭いいんだね~」

恒一「そんなことないよ。父さんの知り合いが理事をしてたっていうのもあったから」

未咲(頭が良くて料理もできて見た目もカッコよくて。
   こんな完璧な男の子と同じ病院だなんて、私が病気になったのってとんでもないチャンスなのかも)

恒一「あ、ごめん。そろそろ診察の時間だから行かなきゃ」

未咲「う、うん、じゃあまたね、恒一くん」

4月25日

未咲「おはよう、恒一くん」

恒一「おはよう、未咲さん」

未咲「もう名前で呼び合うのには慣れたみたいね?」

恒一「そんなことないよ。まだちょっぴり緊張してるさ」

未咲「ふふっ。あー、夕べね、私のいとこが久しぶりにお見舞いに来たんだよ」

恒一「こないだ話してた夜見山北中の子?」

未咲「そうそう。その子。
   元々あんまり活発な方じゃなかったけど、3年に上がって益々暗いんだよね。
   なんか抱え込んでるような」
   
恒一「3年だし、やっぱり受験の悩みとかじゃないのかな」

未咲「う~ん。なんていうか、私に対して申し訳なさそうな雰囲気なんだよね。
   いつもは大抵話してくれるのに、何かを隠しているって感じするんだよなあ」

恒一「話したくないってことなら、無理に問いただすのは良くないと思う。
   仲が良いならなおさら。相手が相談に来るまで待つのがいいんじゃないかな」

未咲「そうかな」

恒一「それに話してくれなくとも、困っているなら何かサインがあるはずだよ。
   そのサインを見逃さないように、未咲さんも少し注意して見てあげればいい。
   まあ、ただでさえぼくらは入院中だし、何か行動するにも制約が大きいってのもあるけど」

未咲「うん、そうだよね。私と鳴の仲なら、きっと大丈夫だよね。
   とりあえず様子を見てみるよ。
   そうそう、受験といえば恒一くんはどこの高校受けるか決めてたりする?」

未咲(私も頑張ったら同じ高校行けるかな?そしたら恒一くんと楽しい高校生活が)
   
恒一「ああ、高校は東京の学校に通学するんだ。
   夜見山に居るのは父さんが海外出張から帰ってくる来年春までだから」

未咲「そ、そうなんだ」

未咲(あ~残念。でも一年あればもっと仲良くなれるよね。
   東京デートの約束も、家に遊びに行く約束もした。ほんとに退院後が楽しみだな)

民江「あら、恒一ちゃんのお友達?」

恒一「あ、おばあちゃんおはよう。今日は早いね」

民江「ええ。おじいさんの診察もあるから、ちょっと早めに来たのよ」

亮平「おはよう、恒一。具合はいいのか?」

恒一「うん、今は大丈夫だよ。
   未咲さん、紹介するね。ぼくのおばあちゃんとおじいちゃん。
   来年春までおじいちゃんの家でお世話になってるんだ」

民江「うふふ。恒一ちゃんの話し相手になってくれてありがとうね」

未咲「は、初めまして!恒一くんと仲良くさせてもらってます、ふ、藤岡未咲です!」ガチガチ

亮平「ほうほう。美人さんじゃな。恒一の嫁さんにぴったりじゃ」

恒一「お、おじいちゃん。からかわないでよ///」

未咲「よ、嫁。恒一くんのお嫁さん///」プシュー


「三神亮平さん、三神亮平さん。中待合室へお入りください」

民江「あら、呼ばれちゃったわねえ。
   未咲ちゃん。退院したら、いつでも遊びにおいで」

未咲「は、はいっ。謹んでお受けさせていただきますです!」

亮平「はやくひ孫の顔が見たいもんじゃの」

未咲「///」

民江「それじゃあね。恒一ちゃんもまたあとで病室でね」

恒一「ぼくも連れて行くの手伝うよ」

民江「あら、恒一ちゃんありがとう。それじゃ、おじいさんの手を引いてくれるかしら」

恒一「うん。行こうかおじいちゃん」

亮平「ほじゃのう、行くとするか」

夜・未咲の病室

未咲「えへへへへ。家族に紹介されちゃったよ。
   おじいさんもおばあさんも優しそうな人だったな」

未咲(それにしても恒一くんのお嫁さんかあ。
   そうなると榊原未咲ね。うえひひひひ///」ジタバタ

未咲(子供は男の子女の子合わせて3人くらい欲しいかな。
   恒一くんが仕事休みの日には、子供たちを連れて遊園地に行こう。
   メリーゴーランドにコーヒーカップ、観覧車にゴーカート。
   お化け屋敷に入ったやんちゃな長男は、恒一くんに連れられて泣きながら出てくるの。
   出てくるのを待ってた下の子たちもそれを見てわんわん泣いちゃって。
   お昼は二人で作ったお弁当を、みんなで、食べて・・・)

未咲「恒一くんの作った唐揚げ、おいひぃ・・・むにゃ」

4月26日

未咲「こんにちわ、恒一くん♪」

恒一「・・・未咲さんか」

未咲「なんか顔色悪いけど、嫌なことでもあった?」

恒一「今日、担当の先生に手術を薦められてさ。
   この病気2回目だから、再再発を防ぐために切ってしまうのも手だって」

未咲「恒一くんの病気あんまり詳しいことは知らないけど、受けてみたらいいんじゃない?」

恒一「そうか、そうだよね。今の治療は対症療法でしかないことはわかってるんだ。
   けど開胸手術となるとやっぱり不安がさ」

未咲「なーに弱気になってるのさ。恒一くんらしくないぞ」

恒一「そんなこと言っても、不安なのはどうしようもないじゃない!」

未咲「ど、どうしたの、恒一くん?」

恒一「母さんはぼくを生んですぐ死んじゃったし、父さんは仕事人間で今は同じ国にすらいない。
   おばあちゃんは優しいけどおじいちゃんがボケちゃってるから、
   ぼくが弱音を吐いて余計な苦労を掛けたくない。
   叔母さんだってただでさえ仕事で大変なのに、こんな相談できるわけがない」

未咲「・・・」

恒一「周りにできた子、強い子だなんて言われたって、ぼくだってただの中学生だよ。
   一人で病気のこと考えてると心細くなって、不安でどうにかなっちゃいそうなんだ」
      
未咲「・・・私がいるじゃない」

恒一「・・・え?」

未咲「今は私が、恒一くんの側にいる。
   おうちの人に頼れないなら、私に頼ってくれてもいいんだよ」ギュッ

恒一「未咲、さん」

未咲「家族の前で強がってみたって、一人の時に余計につらくなるだけなんだよね。
   私も経験したからわかるよ」ナデナデ
         
恒一「あ、あの」

未咲「手術前で不安に押しつぶされそうなとき、私もいとこに励まされたからさ。
   今度は私が励ます番かなって」

恒一「ありが・・・とう」グスッ

恒一「はは、カッコ悪いとこ見せちゃったね」

未咲「いいよ。同じ病院にいるのも何かの縁だからさ。
   でも退院したら、たっぷり返してもらうからね」ニコッ

恒一「あはは///人前で泣いたのなんて小学校以来だよ。
   でもすっきりした。本当にありがとう、未咲さん」

未咲「・・・最後に、勇気が出るおまじないしてあげる。
   いとこにコレしてもらって手術したら、難しかった私の手術も上手くいったんだよ」

恒一「ぼくあんまりそういうのは信じてないんだけど」

未咲「つべこべ言わないの。恒一くん、ちょっと目つぶってて」

恒一「な、何されるのかな」

未咲「いいからつぶって。絶対目開けちゃだめだよ」

恒一「わかった」

未咲「いくよ」

未咲(うわわ、唇キレイ。まつ毛も長いし、ほんとカッコいいなあ)ンフー

恒一(なんか、顔がくすぐったい)

未咲(あ、うっすらヒゲ?生えてるのかな、これ。
   今も十分カッコかわいいけど、髭をたくわえてダンディな恒一くんも見てみたいな)ジーッ

未咲(あんま待たせたらまずい。覚悟を決めろ、アタシ!)

恒一(もう1分近く黙ってるぞ?一体何されてんのかな)パチリ

チュッ

恒一「!えええ?いま、キス!キスしたの!?」

未咲「もお、目ぇ開けちゃダメって言ったじゃん///」

恒一「」ドキドキ

未咲「えへへ、勇気出た?男の子とは初めてなんだからね///」

恒一「み、未咲さんとキス。あわわわ、ぼくの初めてのキスが未咲さん。
   未咲さんも初めて」ブツブツ

未咲「じゃね、恒一くん。手術頑張って!」タッタッタ

恒一「あ、未咲さん!」


夜・未咲の病室

未咲「えへっへへへっへへへへ、恒一くんとキスしちゃった」バタバタ

未咲「私だって辛い思いしてるんだから、これくらいの役得はいいよね?
   恒一くんだってまんざらじゃなかったみたいだし///」

未咲(恒一くんを意識しちゃうとドキドキが止まらない。
   じっくり仲良くなっていこうと思ったけど、もう我慢できないよ)

未咲「・・・退院出来たら、真っ先に恒一くんに告白しよう」

未咲「そうと決まれば。よし、告白のセリフでも考えておこう」

未咲(会って話をする度に貴方に惹かれていきました。
   恒一くんのことを想うと夜も眠れません。
   私を恒一くんのお嫁さんにしてください」カキカキ
   

未咲「ってこれプロポーズじゃんかyo///」クシャクシャ

未咲(あー、興奮したらなんか気持ち悪くなってきたなあ)サスサス

未咲「ごほっ、なんだろ、痰でも出た・・・」ネチャッ

未咲「・・・え?なにこの血!?」ゾーッ

未咲(とにかくナースコールを)カチッ

未咲「ううっ、ごほっ、げぼおっ」ビチャ

未咲(お腹いたい、イタイ、痛い)

未咲「おかあさ、おとうさ、ごぼっ」ヨロヨロ

未咲「め、いっ、こうい、ち、くん、助け」ビチャビチャ

パタパタ

看護婦「藤岡さん、どうしました?藤岡さん!?」

未咲「うえっ、おええっ」ビチャ

看護婦「吐血?!どうして急に?」


医師「・・・すぐに手術が必要だ。大至急親御さんへの連絡を」

看護婦「はいっ!」

医師「腎臓は順調に回復してたのに、一体どうして」

手術室前

看護婦「藤岡さん、今から手術に入りますから」ガタゴト

未咲(寒い。痛みも感じなくなってきた。
   わたしもう死んじゃうのかな)

藤岡父「こんなとこで負けちゃダメだ、未咲。元気になるって約束しただろう!」

藤岡母「未咲、頑張るのよ、お母さんがついてるからね!」

未咲(ありがとう、お父さん、お母さん)

医師「お父様お母様はここでお待ちください」
   
藤岡父「先生、よろしくお願いします」

藤岡母「先生、どうか、どうか娘を」

医師「ええ、最善を尽くします」

「麻酔入ります」

未咲(眠くなってきた)

「腎臓移植の経過観察患者のはずでは」

未咲(嫌だなあ。もう起きられない気がする)

「原因はわからん。わからんがまず出血を止めなければ」

未咲(鳴、あなたの悩み聞いてあげられなくてごめんね。
   恒一くん、東京デートの約束破ることになってごめんね)


同時刻・恒一の病室

恒一(なんか嫌な予感がする)

怜子「恒一くん、林檎たべる?」

恒一「こんな遅くに間食すると怒られちゃいますよ」

怜子「大丈夫よ、ちょっとくらいなら。剥いてあげるわ」ショリショリ

恒一「うっ、はあっ」

怜子「ん?どうかした、恒一くん?」

恒一「はっ、息が上手く、吸えなっ」

怜子「ちょ、ちょっと恒一くん!?いま看護婦さん呼んでくるから!」

恒一「はっ、はっ、ひゅっ」

恒一「ひゅーっ、ひゅーっ」

医師「肺や心臓が圧迫されていて命に係わる状態です」

怜子「そんな・・・」

医師「すぐに緊急手術を行います」

手術室前

民江「ううっ、恒一ちゃんがどうしてこんな目に」

未咲(なんだか聞き覚えのある声がする)

怜子「お願いします、先生。恒一くんを助けてください」

医師「ええ」

亮平「理津子も、恒一も失ってしまったら陽介くんに申し訳が立たんなあ」

怜子「お父さんっ!縁起でもないこと言わないで!」


未咲(あれ、恒一くんのおじいさんとおばあさんが見える。
   これって幽体離脱って奴なのかな)

怜子「恒一くん、生きて、絶対生きて」

民江「恒一ちゃん、どうか無事で戻っておくれ」

未咲(恒一くんの為に泣いてくれる人、ちゃんと居るじゃない。
   神様、私はどうなってもいいから彼を助けてあげて下さい)

「胃腸の穿孔多数。この出血量では、もう・・・」



藤岡父「先生、娘は、未咲の手術は!?」

医師「手は尽くしたのですが・・・4月27日午前0時20分、ご臨終です」

藤岡母「そんな、なんであの子が、なんで、なんで・・・」

藤岡父「くそっくそっくそっ!どうして未咲が、どうして」

夕方・恒一の病室

恒一「あれ、おばあちゃん」

民子「恒一ちゃん!良かった、目が覚めたのね」

怜子「先生呼んでくるわ」

民子「よかった。本当によかったねえ」ギュッ

恒一「お、おばあちゃん。はずかしいよ」

怜子「あなた死にかけたんだから、本当にもう、心配させて」グスッ

恒一「っていわれても、入院してからのことあんまり覚えてなくって」

医師「一時心肺停止状態にあったため、多少記憶の混乱や欠落が見られるかもしれません」

怜子「記憶喪失ってことですか」

医師「それほど重いものではないでしょう。現に家族の顔もわかりますし、自分が入院してることも分かっている。
   おそらく入院中の短期間の記憶だけでしょうから、日常生活には影響ないでしょう」

怜子「はあ、良かったあ」

民子「今日は家に帰るけど、また明日の朝来るからね」

恒一「うん、ありがとう」

民子「それじゃあね、恒一ちゃん」

怜子「私も仕事終わったら来るから。またね、恒一くん」

恒一「ええ、おやすみなさい」

恒一(そういえば父さんに連絡してなかったな。
   手術も終わったし、今のうちに連絡しておこう)

恒一(エレベーター来た)

ウィーン

鳴「」

恒一「!あっ、すみません」

恒一(驚いた。先客がいたのか)

鳴「・・・」

恒一(この子、どこかで会った気がする。でも雰囲気が違ったような。
   お医者さんが言ってた記憶の混乱ってやつか)

恒一「君って、夜見北の生徒?」

鳴「」コクン

恒一「地下二階に何か用事が?」

鳴「そう」

恒一「だけど地下二階って・・・」

鳴「届け物があるの。
  待ってるから。かわいそうな私の半身がそこで」

恒一(半身・・・。なんだろう、胸が痛む)

恒一「ありがとう」

鳴「え?」

恒一「どうしてだろう。なぜか君にお礼を言わなきゃいけない気持ちになって」

鳴「・・・泣いてる」

恒一「あ、ほんとだ。なんだろうね。別に悲しいことがあったわけじゃないのに」

鳴「・・・」

未咲(私が叶えられなかった夢、鳴にお願いするよ。
   せっかく二人を出会わせてあげたんだから、このチャンス大事にするんだぞ)

恒一「ねぇ、君」

鳴「・・・」

恒一「名前は?なんていうの?」

鳴「鳴。見崎、鳴」

恒一(ミサキ、メイ―――ミサキ、さん?)

『恒一くん』

遠ざかっていく彼女の足音にかき消されそうになりながら
最近よく耳にした誰かの声が、僕の名前を優しく呼んだ気がした


another 本編へ続く

データ整理してたらちょうど1年前、アニメ終了直後に書いた物がたくさん出てきたので投稿してみました
最後のとこ書いてなかったからかなり考えちゃった

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年11月22日 (日) 04:24:27   ID: FMW8nm8t

悲しいなぁ……

2 :  SS好きの774さん   2018年07月28日 (土) 01:13:00   ID: 6EgBtQAq

涙目になった

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