志保「変わらない私たち」【ミリマスSS】 (21)


 薄暗い階段を登る。階下からは誰かの笑い声。怒っているのはきっと律子さん。

 その中で一際目立つ男性の声、これはプロデューサーだとすぐにわかる。

 そんな喧騒も一歩一歩上がるごとに遠のいて、代わりに歌声が聞こえてきた。

 ちょっとだけズレた音程、それはいつもと同じだけど、今日は少しだけ元気がない。

 階段を登りきった。このドアの先に彼女がいる。

 私は驚かせないように、そっとドアを開いた。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1408371171


「輝いたステージに立てば~」

夜空の下、薄暗い屋上で可奈は歌っていた。

曲名は『自分REST@RT』。可奈は一人でいるときよく歌っている。

理由を聞いたら、一番好きだからって言ってたっけ。

「夢なら覚めないで、あっ! 志保ちゃん!」

 チラッと見えた暗い表情が、パッと笑顔に変わった。けど、やっぱりいつもの可奈じゃない。


「こんなところで歌ってると風邪引くわよ」

「今は夏だよ? 大丈夫大丈夫!」

「まったく……ねぇ、パーティーには行かなくていいの? 今日はあなたの誕生日だけど」

「うーん、ちょっと休憩! ダメ、かな……?」

「大丈夫じゃない? みんな好き勝手に遊んでるわ」

「そっか! なら、もう少しここにいるね」

 可奈は歌うのをやめて、手すりに捕まってぼんやりと空を見上げはじめた。


「そう……じゃあ私もここにいるわ」

「えっ? 志保ちゃんは戻っててもいいよ?」

「私が、ここにいたいの」

 そう言うと、可奈はキョトンとしたあとすぐに笑顔になった。

「そっか……えへへ! じゃあ一緒にいよ!」

 二人で空を見上げる。ここじゃ満面の星、とはいかないけど、それでも星は輝いていた。


「大空を飛ぶ鳥のように 翼を広げて羽ばたきたい」

 可奈がさっきの続きから歌いだす。

「可奈、音程」

「ええぇ!? んん、大空をーとーぶー鳥ーのー」

「とーぶー鳥ーのーよーうにー」

 私も一緒に歌いだす。可奈は私に合わせて、私はお手本になるよう思い出しながら。

「「夢だけでは 終わらせたくない」」


「えへへ、志保ちゃんはやっぱり凄いね」

「私なんてまだまだよ。千早さんたちに比べれば全然」

「ううん、凄いよ……」

 パタパタと足を動かしながら、可奈は寂しそうに言った。

 私はなんて声をかけてあげればいいのか分からず、可奈を見つめることしかできなかった。

支援だよ
>>2
北沢志保(14) Vi
http://i.imgur.com/Sb7J0XM.jpg
http://i.imgur.com/9B8beEo.jpg

矢吹可奈(14) Vo
http://i.imgur.com/Y1OWwVh.jpg
http://i.imgur.com/cSfghlm.jpg


「……この一年、いろんなことがいっぱいあったね」

 ポツリと可奈が呟く。

「そうね。ライブに、イベント。この前は、ついに全員でのライブも成功した」

「ハッピーパフォーマンス、楽しかったね。お客さんもみんなもキラキラしてた」

「サイリウムの明かりが星空みたいで、綺麗だったわね」

「うん! ずっと歌ってたかったな……」

「ええ。夢なら覚めないで、ってまさにこのことなのね」

 目を閉じて思い出す。待機しているときの緊張、お客さんの声援に勇気をもらって、歌い切った瞬間。

 誰もが笑顔になるあの瞬間は、最高としか言えない。


「変わって……いくのかな……」

「えっ?」

「みんなと一緒にライブすることも少なくなって、バラバラにならないかな、って……」

 可奈は不安に声を震わせながら、ポツポツと話し始めてくれた。

「お仕事も増えてきてるし、みんなと一緒にいる時間もどんどん減ってきてる」

「何日も会わない日が続いたり、最近一人の時間がどんどん増えてて」

「なんだか……やだなぁ……」


 それは、誰もが感じていることなのかもしれない。私も、少しだけ同じことを考えていた。

 でもそれが売れるということだ。忙しいのは喜ばしいことだ。

 それでも、可奈にとっては無視できないほどの大きな変化なんだ。

「きっと、仕方のないことなのよ」

「そう……だよね」

「でもね……今日はこうして、可奈のためにみんなが集まった」

「あっ……」

 下の窓から漏れる、みんなの笑い声。全員が可奈のために、今日集まったのだ。


「環境が変化したって、会えない時間が増えたって、私たちは変わらないわ」

「私たちが変わらないかぎり、バラバラになんてならない。そう思うわ」

「うん……うん! きっと大丈夫だよね!」

「ふふ、一人で不安になるの、悪い癖じゃない?」

「そ、そんなことないよ! 矢吹可奈! 完全復活です!」

 そう言ってガッツポーズをする可奈。不安なんて綺麗さっぱり吹き飛んだようだ。


「まったく……可奈は何も気にせず歌ってればいいのよ」

「うんうん! みんなで歌えば怖くない~! いつも一緒で幸せに~! ほら、志保ちゃんも!」

「ええ!? えっと」

 即興の歌に合わせる。上手とは言えないけど、心が暖かくなる歌。

 可奈はそれでいい。純粋に歌を、アイドルを楽しむ可奈を放っておく人はいないだろう。

 私がそうなのだから、他の人だって同じだ。


「あっ! さっきの続き、歌おう?」

「まだ歌うの?」

「ダメ? お願い!」

「……はいはい、わかったわよ」

「ほんとに!? やったー!」

「ほら、さっさと歌って戻るわよ」

「うんうん! それじゃいっくよー!」


 自分REST@RTを可奈が好きな理由、私にもなんとなく理解できる。


「「誰からも知られ愛される 存在になる道を選んで」」


「「苦労は絶えないけれども 後悔してない」」


 これは私たちアイドルのための歌だから。


「「毎日が楽しいから!」」

おわりです。可奈の誕生日になんとか間に合った……
急いで書いたので雑になってしまいすみません!かなしほが書きたかった!
それでは、読んでくださったみなさん本当にありがとうございました!

乙です、可奈ちゃん誕生日おめでとう!

参考
>>8のハッピーパフォーマンス可奈と志保
http://i.imgur.com/QppGODX.jpg
http://i.imgur.com/WCdTXGA.jpg

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