【咲 -saki-】松実父「宥、玄、準備はできたかい?」 (21)

玄「お父さん早く早く!」


「はは、待ってくれよ」


急かす娘にあわててついていく


宥「お母さんをあまり待たせちゃダメだよ?」


「ああ、そうだな」


見晴らしのよい山間にその人のお墓はある


僕の妻であり前を歩く二人の母親である露子さんのお墓だ


玄「あまり待たせるとお母さん怒っちゃうのです!」


「ごめんごめん」


昔は難なく登れたこの山も年々キツくなってきている気がする


まだまだ若いつもりなんだけどなあ

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宥「まずは掃除からだね」


「水を汲んできてもらってもいいかい?」


玄「おまかせあれ!」


宥「わ、私も行くよ!」


持ってきたバケツを手に二人がもう少し登ったところにある水汲み場へと向かう

「露子さん、今年も来たよ」


二人が戻って来るまでの間はわずかながらも僕と露子さんのお話の時間だ


といっても掃除をしていないのでほんの少しの言葉しか交わせないが


「三人で今年も元気にやってるよ」


「あと今年は二人が麻雀で全国大会にも出場したんだ」


「本当はおやすみにして応援に行きたかったんだけどね……」


こちらからの一方的な言葉を流していると二人が戻ってきた


「じゃあお墓を綺麗にしようか」


宥・玄「「うん!」」

寒さの苦手な宥は周りの草取りを、僕と玄は墓石の掃除だ


玄「お母さん喜んでるかな?」


「綺麗好きな人だったからきっと喜んでるよ」


宥「じゃあもっと喜んでもらえるように頑張らなくちゃね」


玄「うん!」


もともとそんなに大きくないお墓は三人で掃除すればあっという間に綺麗になった


「ふぅ……お参りしようか」


宥・玄「「うん」」

持ってきたお供え物を供え線香に火をつける


「「「…………」」」


三人で並んでお参りする


背中を焦がすような日差しと時折吹き抜ける風が心地よい


玄「このお菓子は穏乃ちゃんが作ったんだよ」


「ほう……穏乃ちゃんも上手になったね」


宥「お母さん喜んでくれるかな?」


「お母さんは高鴨さんのお店の和菓子が好きだったからね」


宥・玄「「そうなんだー」」


「今度会ったらお礼を言わないとね」


玄「穏乃ちゃん喜ぶと思うよ」


宥「うん、そうだね」

宥「じゃあお父さん、先に帰ってるね?」


「ああ、気を付けて帰るんだぞ?」


玄「了解なのです!」


先に帰る二人の娘を見送り改めてお墓に向き合う


「改めて久しぶりだね、露子さん」


風が林を吹き抜ける音が聞こえる


「本当はもっと来たいんだけどなかなか忙しくて……」


事実旅館は大繁盛とはいえなくても繁盛はしている


だけど忙しさを来ない理由にしているのは嫌気がさした


たしかに忙しいのは本当だ


だけど年に一度しか来ない理由は他にある







「まだ露子さんが死んじゃったなんて信じられないよ……」




「露子さんが死んじゃったときあんなに小さかった宥も玄も高校生だよ」


そう、これが最大の理由だ


僕はまだ露子さんが亡くなったという事を受け入れきれていないんだと思う


「二人とも美人なところは露子さん似だね」


たった一才しか違わないはずの宥と玄


だけどあの頃の一年はかなり大きなものだったらしい


「宥はともかく玄は露子さんのことを覚えてるのかな?」


宥はなんとなく察したようだが玄は本当にわかっただろうか?


本当は寂しい思いをしてるんじゃないだろうか?


考えても考えても答えは出ないんだけどね……



「そろそろ帰るね?」


火の消えた線香やお供え物を片付ける


せっかくの穏乃ちゃんが作ってくれたお菓子をからすに食べられちゃうのも癪だからね


帰って改めてお仏壇にお供えするから待っててね?


「じゃあまた近いうちにくるね、露子さん」


その近いうちが一年経たないようにと心に決めて山を下って旅館へと戻った……

宥・玄「「おかえりなさい、お父さん」」


「ああ、ただいま」


宥「お母さんとお話しできた?」


「ああ、色々話してきたよ」


玄「お母さんはなんて?」


「みんな元気でやってるみたいで安心したってさ」


宥「そっか……」


玄「ねえお父さん?」


「なんだい?」


玄「新しいお母さんは欲しくないの?」



「……え?」

玄「憧ちゃんが男の人は一人だと寂しいって……」


「そうだね」


宥「やっぱり……」


「でも僕には露子さんや宥や玄以上に好きになれそうな人はいないかな」


宥「そうなんだ……」


「だから二人には寂しい思いをさせてごめんね?」


宥「ううん、気にしてないよ」


玄「お父さんとお姉ちゃんがいれば大丈夫なのです!」


「それはそれで困るんだけどなあ……」

宥「お父さんは私たちがお嫁に行ってもいいの?」


「今はイメージがわかないかな」


玄「じゃあお姉ちゃんがお嫁に行っても私が残るから大丈夫なのです!」


宥「わ、私だって残りたいもん!」


「そっか……二人ともありがとう」


宥・玄「「えへへー」」


嬉しそうに笑う二人の頭を撫でてやる


まだまだ娘離れはできそうにないな……


でも、露子さんと僕の大切な娘だから僕がしっかり守らないとね!



カンッ

以上です

お盆なので書きました

阿知賀の昔の話は個人的に読んでみたいです

可能性は限りなく低いでしょうが……


お読みいただいた方はありがとうございました

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