ペルソナ☆バンチョウ (35)
ペルソナ☆バンチョウは八十稲羽高校の番長である。
彼は事件の謎を追いテレビの中を駆ける特捜隊のリーダーである。
事件の真犯人を求めて新たなダンジョンへの冒険の旅、
これはそんなどこにでもいる高校生達の壮大な物語である。
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陽介「夏は道連れ世は欲望のままにじゃんよ」
〔フードコート〕
悠「……」
陽介「あー……」
クマ「クマー……」
悠・陽介・クマ「「「暑い……」」」
陽介「んだよ、この暑さ……おかしいだろ……」
悠「最高気温は38℃だそうだ……」
クマ「クマのクマ皮もしんなりしてるクマよ……」
陽介「俺も頭が茹だっちまったわ……」
クマ「ヨースケ……クマ、アイス食べたいクマ……」
クマ「サクサク香ばしいコーンにつめたーいバニラアイスクリームを乗せてペロペロしたいクマよ……」
陽介「そりゃいいな……でも、俺の財布は絶賛寒冷化中なんだ……」
陽介「この前新しく買った通学用のマウンテンバイク、ウキウキして試し乗ったら前方不注意の車に轢き逃げされてさ……」
陽介「仕方ねぇからボロボロの体で自転車押して修理に出そうとしたら、フレームごとペシャンコだから修理は無理だって言われて……」
陽介「おかげで俺の心も財布もフレームごと逝っちまった……」
クマ「悲惨クマ……よよよ……」
悠「お気の毒に……」
陽介「泣いてくれんのかお前ら……グスッ……」
悠「せめてもの憐れみだ、俺からみんなにアイスクリームを振る舞わせてくれ……」
クマ「センセェ……!」
陽介「相棒……!」
悠「昨日、家庭教師のアルバイト代が入ったばかりなんだ。だから少しは懐に余裕が……」
悠「!!!」
陽介「ど、どうした相棒? こんなクソ暑いのに真っ青な顔して……」
悠「……した」
クマ「……した? とんねるずクマ?」
陽介「ま、まさか……」
悠「財布……落とした……」
〔1時間後〕
陽介「……見つかんなかったな」
悠「……ああ」
クマ「センセー、ごめんクマ……クマの鼻がチョーシ悪いばかりに……」
悠「いや、いいんだ。俺こそ、二人に手伝わせてしまってすまない……」
陽介「気にすることねーよ。それより、俺らこれからどーするかだ」
悠「どういうことだ?」
陽介「考えてもみろよ。夏真っ盛りだってのに、文無しで何もせずに残りの日を過ごすのか……? ありえねーだろ!」
陽介「海! 山! レジャー! 夏祭り! こんな面白イベント達を俺らは指くわえたまま黙って見てるのか!?」
クマ「そんなの嫌クマ! クマ、チエチャンとユキチャンとリセチャンの水着も薄い夏服も浴衣も見たいクマ!」
悠「俺もだ!」
陽介「だろ? 俺だってそーだ!」
悠「ならば、短期バイトでも探して資金を稼がなければ……!」
陽介「いや、今からだと時間も掛かるしバラバラに動いても効率が悪いだけだ」
クマ「じゃあ、どうするクマ?」
陽介「俺に考えがある」
〔マヨナカテレビの中〕
悠「なぁ、陽介。何故俺達はテレビの中に?」
陽介「決まってるじゃんよ、ザコ敵を倒して経験値と金を稼ぐのはRPGのお約束だろ?」
陽介「ただバイトするより、ここでなら小遣いを稼げて、ついでにレベルアップも出来て一石二鳥!」
悠「しかし……テレビの中に入る時は全員集合している時だけだとみんなで約束を」
陽介「俺達、金がないからちょっと小遣いを稼ぐのに付き合ってくれーって言うのか? んなダッセーこと言えるワケないだろ……仮にも完二とりせの先輩だってのによ」
悠「確かに」
陽介「それに、何も無茶するワケじゃねーんだ。安全を計って一度クリアしたダンジョンにだけ潜るつもりだしさ」
陽介「ナビはクマの鼻だけだし、ちょっとでも危険だと思ったらすぐ撤退だ」
悠「なるほど」
陽介「目標金額は3人合わせて10万! こんだけあれば少なくとも何も楽しめないってことは無いだろ!」
悠「ああ! 青春の風が俺達を待っている!」
陽介「相棒!」
悠「陽介!」
クマ「むーん……」
悠「クマ?」
陽介「おーい、クマ、まだ着かねーのかよ。結構歩いてんぞ」
クマ「変クマね……」
悠「何が?」
クマ「本当なら、ユキチャンのお城にとっくに着いていてもいい頃クマよ」
クマ「なのに、なーんも見当たらんクマ」
クマ「……ここ、どこクマ?」
悠「えっ」
陽介「なっ」
陽介「どっ、どどどーゆーことだよクマ!? 俺らどこに居んだ今!?」
クマ「わからんクマ」
悠「迷ったのか? そ、そういえばさっき鼻の調子が悪いって」
クマ「いくらクマの鼻がきかん坊だからって、さすがに一度行った場所のニオイは覚えてるし辿れるクマよ」
クマ「クマが変だと言ったのは、ユキチャンのニオイはするのにそれ以外はなーんのニオイもしないってことクマ」
陽介「はぁ? 言ってる意味がよく……」
クマ「つまりクマね……」
クマ「ここ、シャドウの気配が全く無いクマ。どこまで行ってもユキチャンのニオイの『跡』しかないの」
クマ「まるで、最初からそれ以外何もかも無かったみたいクマ……」
悠「なんだと……」
陽介「……それって、ヤバイの?」
クマ「それもわからんクマ……なにぶんこんなことは初めてなクマなもので……」
クマ「クマ、お手上げ侍」
悠「……ここは戻った方が良さそうだな」
陽介「あ、ああ……何があるか分かんねーし」
クマ「ムム!?」
クマ「セ、センセー! ヨースケ! 上から巨大なシャドウの気配がするクマ!」
陽介「うそっ!?」
ズドォォォォォォォォォォン!!!
悠「……デカい!」
陽介「か、かなりの大きさだぞ!」
クマ「城の巨人……番人タイプのシャドウクマー!」
クマ「逃げようにも出口はアイツがいる方向クマよー!」
陽介「どどどーすんだ、相棒!?」
悠「ヤツがここの番人だというのなら……俺は八高の番長だ! ゆえに撤退の二文字は無い!」
陽介「意味がわかんねーよ!!!」
クマ「シャドウが攻めてくるクマー!」
陽介「うおおおおおーーーッ!?」
悠「シャドウの巨大な手に捕まったら一巻の終わりだ! 二巻に続くかどうかは読者次第! 回り込め陽介!」
陽介「んなこと言ったって……!」
悠「隙は俺が作る!」
カッ!
悠「イザナギ!」
バチバチバチィッ!!!
悠「(大して効いていないみたいだが……目くらましにさえなれば!)」
シャドウ「オオオオオ……」
陽介「スクカジャ!」
シュバァッ!!!
悠「クマはアナライズを!」
クマ「任せるクマ! クンクン、クンクン……わからんクマ!」
悠「か、回復とサポートだ!」
クマ「まかせんしゃい! ブフーラでシャドウの足元を氷漬けクマー!」
ピキィン!
悠「よし! 陽介!」
陽介「おう! コイツの背中は取ったぜ! 喰らえ! ソニィーック・パァーンチ!!!」
バキャアッ!
陽介「へへっ、やったか!?」
悠「あっ、馬鹿!」
シャドウ「グオオオオオオオオオオ!!!」
チュドーン
モクモクモクモク……
クマ「ば、ばたんきゅー……クマ」
陽介「うう……体が動かねぇ……自爆って……ボスが自爆するって……ズルくね……」
悠「陽介がフラグを立てるから……ぐはっ」
悠「(だが、シャドウも無事ではないはずだ……今のうちに……)」
ガシャン ガシャン ガシャン
クマ「シ、シャドウの欠片が集まって再生してるクマ……」
悠「馬鹿な……」
陽介「ちくしょう……俺ら、ここで死ぬのか……」
陽介「ごめん、悠、クマ。全部俺のせいだな……俺がテレビの中で小遣い稼ごうなんて言ったから……」
クマ「ヨースケ……」
悠「……俺達もそれに乗ったんだ。陽介1人のせいじゃない」
悠「それと俺はまだ……諦めていない!」
陽介「悠!?」
悠「いいか、俺が今から最後の力を振り絞ってシャドウに一撃をかます。その一瞬をついて陽介とクマは出口まで逃げるんだ」
クマ「そ、そんなのダメクマ、センセイ!」
陽介「そうだ! やるってんならここは俺が!」
悠「いいから行け! 俺は……」
悠「俺が番長だ!!!」
シャドウ「オオオオオ……!!」
悠「タダでは死なないさ……」
悠「陽介、クマ! 生き延びてどうか奈々子に伝えてくれ!」
悠「お兄ちゃんは、お兄ちゃんは最後まで奈々子のことを想っていたと!」
シャドウ「グオオオオオオオオオオ!!!」
悠「ペルソナアアアアアアアアアア!!!」
陽介「相棒おおおおおおおおおお!!!」
クマ「センセエエエエエエエエエエ!!!」
番長の勇気が世界を救うと信じて……!
ペルソナ☆バンチョウ 完
シャドウ「グオッ」
悠「うん? シャドウが何かを差し出している?」
悠「これは……手紙だ! 読んでいいのか?」
シャドウ「グオッ」
悠「では、失礼して……えーと」
『ただいま、雪子姫の城ダンジョン及び城内シャドウ達は夏休み休暇中です。お引き取りを』
悠「……」
悠「夏、だもんな」
シャドウ「グオン」
陽介「夏は道連れ世は欲望のままにじゃんよ」終
千枝「牛も豚も鳥もみんな生きてるじゃんよ」
里中千枝は夢を見ていた。
千枝「ここは……?」
場所はいつも自分が通っている見慣れた八高。
その屋上に千枝は立っていた。
千枝「はて?」
千枝「なーんであたしこんなトコになんかいるんだろ。さっきまで数学の宿題と格闘してたはずじゃ……」
そう言い終えると同時に千枝の脳内では一つの結論が導き出される。
千枝「あ、夢か」
千枝「よっしゃ! 夢ならなんでもし放題じゃん! つまり肉も食べ放題じゃん!」
千枝「そうと決まれば、肉を求めてレッツゴー!」
里中千枝の行動原理は『肉』だった。
〔八高三階廊下〕
千枝「にっくー、にくにっくー、にっくにくー」
千枝「脂がじゅわっと、おっにっくさーん」
千枝「およ?」
肉を求め鼻歌交じりに闊歩する千枝の前に小さな影が見える。
どうやらその影はため息をついて落ち込んでいるようだった。
?「ハァ……そうだよな……どうせオレなんかよ……」
千枝「……にわとり?」
?「ああん? 誰が鳥頭だコラァ! いやまぁ、鳥なんだけどよ……」
完二(鶏)「俺には巽完二って立派な名前があんだ、馴れ馴れしくニワトリだなんて呼ぶんじゃねぇ」
千枝「鳥が喋ってる……キミ、食べれるの?」
完二(鶏)「うっ! お前、鳥が気にしてることを……」
完二(鶏)「……オレァよ、出来損ないの鳥なんだ」
完二(鶏)「家畜として生まれてきたことが気に食わなくてツッパってよ。たまたま、オレと同じようなヤツ見つけてツルンでたら人間に見つかって『お前らは出来損ないだ、出荷も出来ない。殺処分だ』なんて言われちまって」
完二(鶏)「カッとなってそいつをブチのめしたら農場から追い出されちまったんだ」
千枝「ふんふん」
完二(鶏)「行くとこもねーし、フラフラしてたら仲間ともはぐれちまって……気がついたらいつの間にかココにいてよ」
完二(鶏)「そっから、ちょっと考えてたんだよ。オレは何のためにこの世に生まれてきたんだ……って」
完二(鶏)「その……オレは雄鳥だから美味い卵を産めるワケでもねぇ、人懐っこく飼われる気だってサラサラねぇ。じゃあ、オレに出来ることってなんだよ……みてぇな」
完二(鶏)「それってやっぱり、誰かにオレを食ってもらうことなのかってよ。そりゃ死ぬのは怖ぇし、人間に食われるのなんかムカついて仕方がねぇ」
完二(鶏)「でもよ、この世に生まれてきたヤツらみんなに……なんだ、自分のやるべきこと、みたいなのがあるとしたら……オレにとってのそれはそーゆーことなのかな……つーか。そんで、そうだとして……こんな出来損ないのオレを誰が食ってくれんだろうな……とかガラにもねーことを……」
完二(鶏)「ああクソ、なんで見ず知らずの人間なんかに、んなことペラペラ喋ってんだオレ……カッコわりぃ」
千枝「なるほどね……アンタも色々あるんだ」
完二(鶏)「つーことでよ、オレは今ブルー入ってんだ。邪魔する気ならどっか行ってくれ」
千枝「あたしが食べてあげてもいいぞよ?」
完二(鶏)「あぁ? ……マジか?」
千枝「あたし、肉なら何でもオッケー!みたいなところあるからさ。キミがそう望むなら手伝ってあげられると思うんだ!」
完二(鶏)「ホ、ホントすか……?」
千枝「うんうん!」
里中千枝の行動原理は『肉』だった。
千枝「チキンかぁ?……唐揚げに焼き鳥に鳥刺しにソテーなんかも良いかも……!」
完二(鶏)「やべえ……なんか知らねぇけど、涙が出てきやがったぜ……」
完二(鶏)「こ、こんなオレですが! ふつっ、ふつつかものですが! や、や、優しくしてください!」
千枝「(あ、でも鳴上君がここにいないなぁ。鳴上君に料理してもらえたら良かったんだけど)」
?「ちょ?っと待ったぁ!!!」
?「そうだ! 待つんだ!」
様々な調理法を思い浮かべ、
思わず口元からヨダレをこぼしてしまっている千枝の前に新たな二つの影が現れた。
完二(鶏)「ああん? なんだぁテメーら……」
陽介(豚)「豚です!」
悠(牛)「牛です!」
陽介(鶏)「ちょっと待ちな鳥公、そいつに食ってもらうのはこの俺だ!」
悠(牛)「いや、俺だ!」
千枝「おおおーーー!?」
悠(牛)「いいか、ニワトリ」
完二(鶏)「ニワトリ言うな!」
悠(牛)「お前一人だけが……じゃなかった、お前一羽だけが人間様に食べてもらえると思うな! 俺だって家畜だ! それでも食べてもらう人間くらいは選びたい!」
陽介(豚)「どーせ食われんなら、可愛い女の子に食ってもらいたいだろ!」
千枝「あ、あざす……!」
陽介(豚)「オメー一人だけ……じゃなかった、オメー一羽だけに抜けがけなんてさせねぇ!」
完二(鶏)「ふっ、ふざけんな! オレァそんな不純な動機で食ってもらおうとしたワケじゃ……!」
悠(牛)「どうだここは……一つ己の体を使って勝負しようじゃないか」
悠(牛)「ビーフorポークorチキン! この中の誰が彼女に食してもらうに相応しいのか!」
陽介(豚)「望むところだぜ……俺は前からお前のことが気に食わなかったんだ! 何かってーと、『牛肉こそが肉界の頂点ですけど?』みたいなカオしやがって!」
悠(牛)「フッ、なんのことやら」
陽介(豚)「それだそれ! この野郎!」
千枝「あのー、あたし、キミらくらいの量なら楽勝で全部イケるよ? だから……」
完二(鶏)「何だか知らねーがやるってんならよ……」
完二(鶏)「上等だコラアアアアアアアアアア!!!」
陽介(豚)「来いやぁ!!!」
悠(牛)「勝つのは俺だ!!!」
ボコスカラッシュ!!!
千枝「あちゃ?」
千枝の目の前で二頭と一羽が煙を巻き上げながら争う。
時々、「ブヒィ!」やら「んモウ!」やら「コッコー!」などの悲鳴が聞こえてきたが、
それもしばらくすると煙が晴れてくると同時に収まったのであった。
千枝「ん?」
煙の中に二頭と一羽の姿は無い。
代わりに……
千枝「なんだろコレ……? ぺろっ」
千枝「バター!?」
そこには黄金に輝くバターが鎮座していた。
とろりと滑らかに、そして眩いばかりに光を放つそれは、まさしく生命の恵みであった。
千枝「ああ、そっか……これって……」
ジリリリリリリリリリリ バン!
千枝母「千枝、いつまで寝てるの。早く起きなさい。朝ごはん出来てるわよ」
千枝「……」
千枝母「冷蔵庫に昨日の残りのトンカツが入ってるから食べるならレンジでチンして……」
千枝「お母さん、今朝はパン食べてく」
千枝母「……パン? 珍しいわね」
千枝「なんかそんな気分なの」
千枝母「ふーん。何でもいいけどさっさと支度なさい」
千枝「それとさ……家にバターってあったっけ?」
千枝母「いいえ? 最近はずっと高いもの……マーガリンならあるけど」
千枝「牛も豚も鳥もみんな生きてるじゃんよ」終
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