ひぐらしのなく頃に  恋難し編 (228)

圭一「魅音」

背後から名前を呼ばれ、振りむく。

魅音「ん、圭ちゃん?どしたの、神妙な顔して?」

圭一「俺、やっと気付いたんだ。俺さ、すげぇ鈍感で、気付かないうちに魅音を傷つけたりしたこともあったかもしれないけどさ……」

魅音「え、え?ちょっ、何の話っ?」

ものすごく真面目な顔をした圭ちゃんが、少しずつあたしの方へ歩み寄って行く。

圭一「それでも、魅音は俺の事許してくれるか?こんな俺でも、お前の隣にいていいか?」

魅音「隣、って……いっつも部活で、あたしたち一緒にいるじゃない?そんな急に改まってするような話でも……」

圭ちゃんが何を言っているのかなんとなく察したあたしは、じりじりと距離を詰めて来る圭ちゃんから後ずさり始める。

圭一「逃げるなよ、魅音。もう、俺も逃げないから」

腕をガシリと掴まれ、更に距離を詰めてくる。

魅音「け、圭ちゃん近い近いっ!!?」

圭一「魅音……―――」

魅音「~~~~~~~―――!!」

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―――――



―――



魅音「―――っ………」

気が付くと、仰向けで天井に向けて手を伸ばしている自分がいた。

魅音「ゆ、ゆ……夢……?」

そう気付くのに、時間は掛からなかった。

魅音(夢に見る程、あたしは……圭ちゃんの事を……)

まぁ、自覚はしていたとは思う。

圭ちゃんとは気の合う最高の仲間である以上に、異性として好意を寄せている自分がいることは。

だけど、今までは夢に見ることなんてなかった。ましてや、今みたいな夢なんて。

そんな夢を見てしまったと言う事は、つまり……。

魅音「……~~~~!!」

そこから先の思考を、足をバタバタとさせることで強制停止する。

ふと、どこからか視線を感じた。

魅音「………」

いやーな予感がして、ドアの方を一瞥する。

詩音「ごめんなさいお姉、どうやら妄想でお楽しみの最中だったようですね♪」

詩音は言うだけ言って、ドアをぴしゃりと閉めて去って行く。

魅音「し、詩音ーーーーー!!待って、誤解だってばぁぁぁぁぁっっ!!」

当然のように、あたしは詩音の後を追うのだった。

――――――

詩音「わかってますよお姉。圭ちゃんの事が好きで好きで仕方なくて、妄想していたんですよね?」

魅音「だから違うってば!!ちょっとうたた寝して、圭ちゃんの夢を見ちゃっただけっ!!」

詩音「あらぁ、夢に見る程圭ちゃんの事が好きってことですか?もう、普段は男勝りなのに、こう言う時は誰よりも女の子になるんですから」

魅音「ち、ちがっ……!!」

詩音「それで、どんな夢だったんですか?」

あたしの言葉を遮り、詩音はからかうような笑みを浮かべながらあたしに訪ねて来る。

魅音「ど、どんな夢……って……」

詩音「思い出して悶えるくらい、お熱い夢だったんですか?」

詩音にそう言われ、先ほどまで見ていた夢を思い出す。

圭一『魅音……』

いつもあたしと話す時のような軽い雰囲気は微塵も感じさせず、真剣そのものの瞳であたしに迫ってきた圭ちゃんを思い出して……―――

魅音「~~~~~~~~~~!!!」

詩音と話していることなどすっかり忘れ、畳の上をゴロゴロと転がる。

詩音「あらら……もしかして、結構な重症ですか」

魅音「違うっ!!!あ、ああああああああたしはべべべべべべつにいつも通りよっ!!?」

詩音「動揺しまくり目線泳ぎまくりで言われてもちっとも説得力ありませんよ、お姉」

魅音「そ、そうよ!!あ、あたしと圭ちゃんは気の合う親友なんだから!!」

詩音「お姉と圭ちゃんが親友というのは否定しませんが、お姉はその関係に満足しているんですか?」

魅音「ま、満足って何よ?」

詩音「はぁ……いいですか、お姉?ハイ、そこに座って」

からかう様子のなくなった詩音が、自分の正面に座るよう促して来る。

それに逆らう事もなく、あたしは詩音の正面に正座する。

詩音「まずひとつ確認しておきたいことがあります。お姉は圭ちゃんの事、好きなんですよね?」

魅音「だっ、だからっ……!」

言い訳をしようとするが、詩音の真面目な雰囲気を感じ取り、あたしもそれに答えることにする。

魅音「……~~~……―――う、うん……好き、だよ……」

しかし、気恥ずかしさだけは如何ともし難く、語尾は尻すぼみとなってしまう。

詩音「それで?」

魅音「それでって……何よぅ……」

我ながら、いじけたような情けない声が出てしまった。

でも、仕方ないと思う。だって、こんな気持ち、初めて……なんだし……。

詩音「はぁ……だから、圭ちゃんの事が好きなら現状のままじゃダメなんじゃないですかって言いたいんですよ、私は」

魅音「そ、そんな事言ったって、あたしだってどうすればいいのかわかんないし……」

詩音「エンジェルモートで圭ちゃんとはち合わせた時は、私の名を語って積極的に迫ったんでしょう?あの時と同じようにやればいいじゃないですか」

魅音「だって、あの時はその……あたしとは別人を装ってたからこそ、出来たことだよ?すでに友達として成立しちゃってるあたしが、圭ちゃん相手に積極的になるなんて……気恥ずかしいじゃない……」

またも、語尾が小さくなる。我ながら、部活で培った度胸はどこへ行ったんだと思う。

詩音「でも、好きなんですよね?」

魅音「っ……」

無言で頷く。

そうだよ、好きだよ。この気持ちは理屈でどうこう出来るものじゃないと思ってる。

詩音「だったら、勇気を出してもう一歩歩み寄ってみたらどうですか?私は応援しますよ、お姉の事」

魅音「詩音……あんた……」

詩音「なんですか、お姉?」

魅音「何を企んでるの?」

薄気味悪くなり、ついそう尋ねる。

詩音はと言うと、予想外のことを言われたとでも言うようにずっこけていた。

詩音「あ、あのねぇ、お姉……私はお姉の事を心配して言ってるのに、そういう事言うのは酷いんじゃないですか?」

魅音「えー……なんか素直に受け止められないんだけど……どういう風の吹きまわしよ、詩音?」

詩音「別に、他意はないです。お姉の煮え切らない態度もいい加減見飽きてきたし、そろそろ発破を掛けてもいい頃かなって思っただけです。ホントですよ?」

魅音「うー……」

まさか、普段はからかってばかりの詩音に発破を掛けられるほど今のあたしの状態は酷いのだろうか?

詩音「お姉の方から歩み寄る勇気が出ないって言うのでしたら、私が協力してもいいですよ?圭ちゃんは激鈍だし、お姉は超が付くほどの奥手なんですから……このまんまだと、何の進展も無くお姉は卒業しちゃいますよ?」

魅音「卒業……そうか、そうだよね……」

詩音に指摘され、そう遠くない未来の事を思い描く。

雛見沢分校を卒業して進学し、圭ちゃんと離れ離れになって……。

魅音「…………」

詩音「お姉?」

魅音「……圭ちゃんと一緒の学校に通えるのも、そんなに長くないんだなぁ……」

そう考えたら、酷く寂しさが込み上げて来る。

魅音「違う学校に行くようになって、一緒に過ごす時間が少なくなったら……圭ちゃん、あたしのことなんて忘れちゃうのかなぁ……」

詩音「ちょっと、お姉ー?」

魅音「それは、嫌だなぁ……心が離れちゃうのは、悲しいなぁ……」

詩音「あちゃー……ホントに重症ですね、これは……」

――――――

詩音「帰ってきましたか、お姉?」

魅音「………う、うん。ごめん」

詩音「別に謝るようなことではないですけれど……」

はぁ、と小さいため息ひとつついてから、詩音は話を再開する。

詩音「圭ちゃんに忘れられるのが嫌だって言うのなら、忘れられないようにすればいいんです」

魅音「忘れられないように……」

詩音「そうです。お姉は、圭ちゃんが卒業して離れ離れになってしまった人を忘れるような冷たい人だと思うんですか?」

魅音「そんな風に思ってるわけないじゃん!圭ちゃんは情に厚い人だよ!?」

詩音「ええ、私もそう思います。だけど、万が一ってことがないとは言い切れない。だからお姉は不安に思うんじゃないですか?」

魅音「……っ、それは……」

その通り、だった。

圭ちゃんがあたしの事を忘れるような人じゃないとは思ってるし、あたしも圭ちゃんの事を忘れるなんてことはないと思っているけど。

絶対とは……言い切れない。

詩音「そういう不安を覚えるのは、お姉と圭ちゃんの間に成立しているのは現時点では『友情』だからですよ」

魅音「どういう……こと?」

詩音「ただの友達なら、離れ離れになってしまったら記憶が薄れてしまうかもしれない。お姉から圭ちゃんへは友達以上の感情を持っているんでしょうが、現時点ではそれは一方通行。
    圭ちゃんからお姉への感情は、お姉にはわからない。それが不安を覚える原因だと私は思います」

魅音「……なるほど」

詩音の言葉には、確かな説得力があった。

圭ちゃんはあたしのことをどう思っているのかは、あたしにはわからない。

そりゃ、嫌われてるとは思わないし、思いたくもないけど。

少なくとも、友達と思ってくれているのは間違いない………はず。

詩音「なら、その不安を払拭するにはどうしたらいいか?ここからが本題ですよ、お姉」

魅音「お、おうっ!」

詩音「今までお姉はいいだけ回り道をして来ているから、私は単刀直入に言わせてもらいますけど。ズバリ、恋人同士になっちゃえばいいわけです」

魅音「………こ?」

詩音「コ・イ・ビ・ト・です」

この子は。本当に、単刀直入に言ってくれる。

魅音「恋人おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっ!!??」

詩音「どうしてそんなに驚くんですか、お姉?極々自然な流れだったと思いますけど?」

魅音「ま、待って、いくらなんでも話が飛躍しすぎてない、詩音!?そりゃ、圭ちゃんと恋人同士になれたら素敵だなって思うけど、でも、そんな……あたしたちにはまだ早いって言うか、そのぉ……」

詩音「まあ落ち着いてください、お姉」

魅音「っ………」

詩音に宥められ、どうにかこうにか落ち着きを取り戻す。

詩音「問題は、圭ちゃんからお姉への感情が分からないから不安を覚えるってことです。これはいいですよね?」

口を開くことが出来ず、控え目にコクリとだけ頷く。

詩音「だったら、分かるようにしてしまえばいいってわけです」

魅音「分かるようにって……その手段が、恋人になるって事なの?」

詩音「そうです。圭ちゃんからお姉ちゃんに向けられている感情が友情止まりだった場合、忘れられちゃうかもしれないって思うんですよね?でも、向けられている感情が恋愛感情だったとしたら?忘れるなんて、あり得ると思いますか?」

魅音「流石に恋人の事を忘れるなんてことは、ないんじゃないかな……」

詩音「それです。お姉が目指すべきはそこですよ」

魅音「な……なるほど……」

またしても、妙な説得力に納得させられてしまう。

しかし、何と言うか……。

魅音「手段と目的が、逆転してるような……?」

詩音「いいんですよ、最終的に納得できる結末を目指すなら。手段も目的も、関係なし!自分が分校を卒業しても圭ちゃんには忘れられたくない。
    なら、自分の事を強く印象に残しておきたい。じゃあ恋人になればいいんだ!……何かおかしな点、ありますか?」

魅音「ない、ような……あっても有無を言わさずないと言い切られるような……」

詩音「それくらいわかりやすい理由でいいんですよ。小難しく考える必要なんてないでしょう?」

魅音「むむ……」

あ、あたしと圭ちゃんが、恋人同士……。

恋人……。

圭一『魅音……』

魅音「……………」

詩音「……お姉ー?」

魅音「恋人同士なら……そう言う事をするのが普通……なんだよね……」

詩音「お姉ー?」

魅音「うん……うん。もう、あたしも逃げない……圭ちゃんの隣に、いたい……」

詩音「ハイそこまで!」

突然、目の前で衝撃が炸裂した。

魅音「―――……!」

詩音「今日はいつにもまして乙女ですねぇ、お姉は。圭ちゃんのこととなると、周りが見えなくなっちゃうんですか?」

状況から察するに、詩音があたしの眼の前で手を叩いたようだった。

いわゆる、猫だましと言う奴だ。

魅音「あー……その、ごめん」

詩音「大丈夫ですよ、お姉。その続きは、現実でやればいいだけですからね」

魅音「うぅ……うん」

詩音「あたしが協力してあげますから、しっかり圭ちゃんをモノにするんですよ?いいですね?」

魅音「ど、努力するよ……」

こうして、あたしと詩音による、前原圭一攻略作戦が始まるのだった。

          貴女が選ぶのは、障害物のない遠回りの道。


          そっちよりも、こっちの方が険しいけれど距離は近いと私は知っていた。


          貴女が行きたい道を行けばいいと思う私は、何も言わない。




          貴女の選ぶ道でも、目的地へはゆっくりと確実に近づいているけれど。


          近づけば近づく程、目的地への障害は増えていく。


          それに貴女も気付いているでしょう?




          どれだけなだらかな道を歩いても、目的地に辿りつくためには障害物を越えなければならない。


          それを越える決心をするのは、誰でもない、貴女しかいないんだよ。




     Frederica Bernkastel




ひぐらしのなく頃に   
                   『恋難し編』



   

初回の投下、ここまで
タイトルの通り、ひぐらしのなく頃にのSSです。魅音、圭一がメインの話となる予定です
時系列的には、祭囃し編終了後の袋小路を抜けた後となっています
よろしければお付き合いください



日曜日、興宮市。

何故かあたしは、図書館の前に佇んでいた。

魅音「………っ」

なんか、周囲の視線が自分に集中しているような気がしてならない。

どこかおかしなところがあるのだろうか?

自分の姿を見降ろしてみるが、特におかしいところは見当たらない……はず。

魅音(うぅ……落ち着かないなぁ……)

早く来てよ、圭ちゃん……。

~~~~~~

詩音「まず聞いておきたいんですけど、圭ちゃんとお姉の現時点の関係を教えてください。出来るだけ詳細に」

魅音「圭ちゃんとの関係、って言われても……気の合う友達?部活仲間?」

詩音「それはみんなと一緒にいる時ですよね?二人きりになった時ってどうなんですか?」

魅音「二人きり……二人きりの時は……互いに遠慮ない言葉を交わし合ったり、たまにちょっと落ち着いたいい雰囲気になったり……かなぁ……」

詩音「………」

魅音「し、詩音?」

詩音「その、いい雰囲気になったりって言うのは?」

魅音「あ、べ、別に手を繋いだりしてるわけじゃないよ!?ほら、二人きりだと会話が途切れたりすることもあるでしょ?そういう時、ちょっといい雰囲気かな?なんて思ったりして?」

詩音「ふーん……現状でも、かなりいい関係を築けているんじゃないですか」

魅音「い、いい関係!?脈はあるのかなぁ!?」

詩音「落ち着いてください、お姉」

魅音「う……うん……」

詩音「性格はちっとも似てないはずなのに、どことなく悟史くんに通じるところがありますもんね、圭ちゃん。お姉が言ってること、私にもなんとなくわかりますよ」

魅音「そう、だね……」

悟史は、詩音の想い人だ。

あたしも、昔はちょっとだけ悟史の事が好きだったから、詩音の言い分もわからないでもない。

詩音「じゃあ、まずは圭ちゃんとなるべく二人で行動する時間を多く取りましょう」

魅音「圭ちゃんと二人で……」

詩音「まさか、嫌だとは言いませんよね、お姉?」

魅音「ま、まさか!言うわけないじゃん!」

口ではそう言うが、実際にこういう話を詩音とするようになって、あたしは圭ちゃんの前で平常心を保つ事が出来るだろうか?

先ほど見た夢も相まって、まともに顔を見ることも出来ないかもしれない。

詩音「思い切って、デートにでも誘ってみたらどうですか?」

魅音「で、で、で、デートぉ!?」

いきなり何を言い出しやがりますか、この子は!?

詩音「もちろん圭ちゃんにそう言うのではなくて、ちょっと付き合って欲しいところがあるとか適当に言えばいいんですよ。若い男女が二人で出掛けていれば、それだけでデートと言えるものになるでしょうし」

魅音「付き合って欲しいって、いや、そんなっ!?急過ぎるよ、詩音!!」

詩音「暴走し過ぎですよーお姉ー」

魅音「う、うぅ……」

顔が熱い……もしかして詩音、こうやって慌てるあたしを見て楽しんでるだけなんじゃないのかなぁ……。

詩音「適当に口実作って圭ちゃんと二人で出掛けて、お姉の女の子らしい一面を少しずつ見せてあげればいいんですよ。第一作戦はそれで決まりですね!」

魅音「だ、第一作戦ってことは、まだ続きがあるってことだよね……?」

詩音「もちろんですよ、お姉!あの鈍感男をモノにしようって言うんだから、生半可な覚悟では済みませんからね!」

魅音「が、頑張ってみるよ……うん……」

詩音「とりあえず、今度の日曜、朝10時に鹿骨市立図書館前で待ち合わせですね。圭ちゃんには私の方から伝えておきますので、間違いなくその時間には、待ち合わせ場所で待機しているようにしといてください」

魅音「えっ、なんで詩音から?それくらいはあたしが……」

詩音「まぁまぁ、いいじゃないですか♪あ、それと服装なんですが―――」

~~~~~~

魅音(なんか、詩音の口車に乗せられただけなんじゃないかって気がしてきたよ……)

まあ、今更そんなことで後悔したところで後の祭りなわけだけど。

しかし、本当に遅い。

待ち合わせ時間は10時だったはずなのに、もうとっくに過ぎてしまっている。

魅音(詩音のやつ、ちゃんと圭ちゃんに連絡入れたんでしょうね……)

ちらりと時計に視線を移す。

長針は、そろそろ6を指そうとしている頃だった。

魅音(まさか、圭ちゃん、来ないんじゃ……?)

ふと、そんな不安が湧いて来る。

待ち合わせの時間から30分近く経過しているのだ。その可能性は十分にありえる。

魅音(いや、でもそんなまさか……圭ちゃんに限って、約束をすっぽかすなんてことは……)

圭一「……詩音?」

悶々と思考を巡らせ始めた頃、圭ちゃんは姿を現した。

魅音「圭ちゃん!違う、あたしは魅音!」

開口一番、そんな言葉が飛び出してくる。

圭一「あ、魅音か。悪い、なんかいつもとちょっと違った雰囲気の服着てるから、一瞬詩音かと思っちまった」

魅音「え……あ」

圭ちゃんに指摘され、改めて自分の姿を見降ろす。

間違えるのも、無理はないかもしれない。

あたしが今着ている服は、詩音から借りたものだった。

上着はちょっとフリルの装飾のついたもので、下はズボンではなくスカート。

最初、詩音にこの服を着て行けと言われた時は無理無理と断ったんだけど、詩音に言いくるめられて結局着るハメになったのだった。

魅音「全く、未だにあたしと詩音を間違えるんだね、圭ちゃんは。いい加減見分けられるようになってよ、もう……」

圭一「悪い悪い、その物言いは間違いなく魅音だな!」

魅音「それより圭ちゃん、遅い!今何時だと思ってるのさ!」

ビシッと時計を指差す。

詩音が間違いなく伝えているのなら、待ち合わせの時間は10時のはずだ。

それを30分も遅刻して来るのは流石に遅過ぎる!

圭一「え、いや、俺としてはかなり早い時間に来たつもりなんだけど?」

魅音「この時間で早い?約束の時間から30分も過ぎてるんだけど?」

圭一「30分過ぎてる?30分早いの間違いだろ?」

魅音「えぇ!?約束の時間は10時でしょ!?」

圭一「いやいや、11時って魅音が言ってただろ?」

あるぇー?なんか話が噛み合わないぞ?

圭一「それに、詩音と間違えたのは何も服装に限った話じゃないぞ。約束の時間の30分前にすでに来てると思ってなかったからっていうのもある」

魅音(………まさか)

まさか、詩音……?

魅音「圭ちゃん、ちょっと変なこと聞くけど、いい?」

圭一「なんだよ?」

魅音「約束を取り付けた時、どういう約束をしたんだったっけ?」

圭一「えーと……確か、11時に図書館の前で待ち合わせって約束だったっけな。くれぐれも時間厳守で、遅れるなんてことのないように、ってお前に念押しされたのを覚えてるけど」

まさか、詩音?

魅音「それって、あたしが圭ちゃんに言ったんだよね?」

圭一「本当に変なことを聞くな……そうだろ?昨日の夜、魅音から電話掛けて来たんじゃないか」

魅音「………ごめん、そうだったね」

詩音の奴ーーーっ!!わざと約束の時間をずらしたなーーーっ!!?

しかも、あたしを装って約束取り付けてるしっ!!

圭ちゃんも圭ちゃんだよ!昨日も昨日で見分けられて(聞き分けられて?)ないんじゃん!

圭一「魅音が遅れることのないようにって強調して言うから、ちょっと早めに出てきたんだぜ?まさか魅音がそれより早く来てるなんて思わないだろ」

魅音「あ、あぁ、うん!ごめんね、なんだか早くに目が覚めちゃってさ!折角だし、ちょっと早くに行こうかなって思っただけなんだよ!」

圭一「? そっか、ならいいんだけど……?」

魅音(絶対訝しんでるよ、圭ちゃん!)

一体何の意図があって詩音はそんな事をしたんだろう……?

圭一「で、どうしたんだ、魅音?わざわざ興宮まで呼び出すなんて。つーか、どうせ雛見沢から出るのは同じなんだし、待ち合わせは雛見沢でも良かったんじゃないのか?」

魅音「えーとね、ごめんね。詩音との先約があって、先にそっちの方を済ませてたから、圭ちゃんの方から来てもらった方が都合が良かったんだ」

これは嘘じゃない。

一度詩音の住んでるアパートに寄って、そこで着替えてからこの待ち合わせ場所に来ていたから。

……思えば、その時の詩音はなんだか妙にニヤニヤとしていた。

その時は全く気にしていなかったけど、なるほどこういう思惑があったからこそニヤついていたんだな、と思う。

圭一「あー、そうだったのか。っつーことは、その服も詩音からの借り物なんだな」

魅音「えっ?」

図星を突かれて、ちょっとだけドキッとする。

圭一「普段の魅音が着るような服じゃないもんな!」

そう笑顔で言う圭ちゃんに、胸がチクリと痛む。

やっぱり圭ちゃんも、あたしにこの服は似合わないって思ってるのかな……。

魅音「や、やっぱり、あたしにはスカートなんて似合わないよね!」

なんて、自虐気味な言葉を口にしてみる。

あたしにも少しだけ自覚はあったりするからだろう、その言葉は特に違和感を伴わずに口から出てきた。

圭一「んー、別にそういう意味で言ったわけじゃないんだけどな。その服も、結構似合ってると思うぞ?」

魅音「……えっ?」

圭一「つーか、スカートを着た魅音なんて今まで想像したこともなかったしな!いい意味で期待を裏切られた気分だ!」

魅音「っ……あ、ありがとう……」

ヤバい、顔が熱い……。多分、今のあたしの顔、真っ赤だ……。

圭一「そんじゃ、行こうぜ、魅音!」

魅音「あっ、待ってよ圭ちゃん!」

歩き始める圭ちゃんの隣に並ぶ。

まぁ、言いたい事は色々あるけど、とりあえずは今日と言う日をセッティングしてくれた詩音に感謝する。

折角作ってくれたチャンスだ、無駄にしないようにしないと!

――――――

Side-詩音

詩音「よしよし、紆余曲折あったみたいですけどとりあえずデート開始ですね」

電柱の陰から二人の様子を見守りながら、そう呟く。

詩音「それじゃ、お二人のお熱いデートでも拝ませてもらうとしましょうか♪」

圭ちゃんとお姉には気付かれないように、尾行を開始する。

ふふ、今日は楽しい一日になりそう……♪

本日の投下、以上
Side詩音は今後ちょくちょく挟むと思います

Side-魅音

圭ちゃんと二人、並んで歩く。

慣れない服を着ているうえ、デートだと詩音に散々煽られたからだろうか、胸の高鳴りがさっきからずっと続いている。

でも、不思議と居心地の悪さは感じない。

詩音に聞かれた時に答えたような、いい雰囲気―――だと思う。

圭ちゃんも、あたしと同じ気持ちなのかな?

聞いてみたい気もするけど、そんなことを聞くのは無粋な気もする。

圭一「………」

圭ちゃんの顔色を窺ってみるが、何を考えているのかは読み取れない。

いや、少し表情が険しい?もしかして圭ちゃん、ちょっと緊張してる?

圭一「……なぁ、魅音」

だとしたら、なんで緊張してるんだろう?あたしと二人で歩くなんて、そう珍しい事でもないはずなのに。

あたしが普段とは違う雰囲気の服を着てるからかな?

圭一「おーい、魅音?」

魅音「え、あ、え?ごめん、圭ちゃん、呼んだ?」

いけないいけない、少しボーっとしてたみたい。

せっかくのチャンスなんだから、無駄にしないようにしないとってさっき考えてたばっかりだっていうのに。

圭一「ちょっと聞きたいんだけどさ」

魅音「うん、なに?」

圭一「俺達、どこに向かって歩いてるんだ?」

魅音「………」

すっかり忘れてた。というか、考えてすらいなかった。

あたしは一体、この後どこへ行って何をすればいいんだろう?

圭一「……魅音?」

魅音「ご、ごめん、ちょっと待ってね!」

手で圭ちゃんを制し、頭をフル回転させる。

詩音と今日の事を話し合ったんだ、きっとその中に今後の行動が……!

~~~~~~

魅音「ねぇ、詩音……」

詩音「何ですか、お姉?」

魅音「圭ちゃんとデートするってのは、まぁ、いいんだけどさ……いざ二人で出掛けたとして、どこに行けばいいのかな」

詩音「流石にそれはお姉が自分で考えるべきことでしょう?大丈夫ですよ、興宮なら行くところ色々あるでしょうし」

魅音「えー、そこは丸投げなのぉ……?」

詩音「大切なのは、二人で出掛けるという事ですよ。二人で食事してみたり、ウィンドウショッピングしてみたり。やる事はたくさんあると思いますよ?プランを自分で組み立ててみるのも楽しいものだと思いますよ」

魅音「う、うーん……なるほど……わかった、考えてみるよ」

詩音「お姉のデートプラン、楽しみにさせてもらいますからね」

魅音「……?」

詩音「あ、でもひとつだけ―――」

~~~~~~

魅音「……………」

そういえば、そんな感じの話をした……うん、確かにしたよ。

自分でプランを……って。

魅音(何にも考えてない……圭ちゃんと二人で出掛けるって事ばっかりに気を取られてて、忘れてたんだぁーっ!!)

当然ながら、今更そんなことを悔いたところでどうしようもない。

と言うか、詩音は一体どういう用件で圭ちゃんを呼び出したんだろう?

魅音「ね、ねぇ、圭ちゃん?」

圭一「どうした?」

魅音「もう一度変なことを聞いてもいいかな?」

圭一「またか?なんだよ?」

魅音「あたし、昨日圭ちゃんになんて言って呼び出したんだったっけ?」

圭一「えっ?」

魅音「っ……」

流石に、この質問は不自然過ぎただろうか?圭ちゃんの表情が少し険しくなる。

圭一「……えっと、ちょっと付き合って欲しい、としか言われてないけど」

あたしから目を逸らしながら、それだけ答える。

魅音「そ、そうそう!確かそう言ったよね、あたし!」

呼び出した内容は結構簡単なものだった。

なら、後はあたしが付き合って欲しいところを考えればいいわけだ。

鞄の中にしまってある財布の中身を思い出し、どこに付き合ってもらうかを頭の中で必死に考える。

圭一「………!」

魅音(ええと、ふ、服を買いに行く?いや、それだと圭ちゃんを誘った理由としては弱いし、もっと男の子を誘うような理由を……!」

圭一「………なあ、魅音」

魅音「ふぁいっ!?」

突然名前を呼ばれ、裏声が出てしまう。

魅音「なっ、何、圭ちゃんっ?」

圭一「ちょっと早いかも知れないけど、昼飯食いに行かないか?」

魅音「お昼ご飯?うん、いいよ!」

考えがまとまっていなかった為、その申し出はありがたかった。渡りに船とはこのことだ。

ご飯を食べている間に、どこへ行くかを考えることにしよう。



やってきた先は、エンジェルモート。

……デートで来る場所としてここはどうなのかという疑問もあったが、他にいい候補も特になかった為、自然とここに足が向いてしまったのだった。

店の中へ足を踏み入れる。

と。

女性店員「いらっしゃいませー!おめでとうございます、あなた方は当店へのご来店、記念すべき10000人目のお客様です!」

その挨拶と同時に、クラッカーをいくつか鳴らされた。

魅音「え、えっ?」

圭一「………え、マジで?」

女性店員「景品として、本日のお食事は無料とさせていただきます!」

義郎「ありゃー、今日辺り出るだろうとは思ってたけど、身内に当たっちゃったかぁ」

圭ちゃんと二人、ポカンとしたまま席まで案内されたところで、この店の店長であたしの親類でもある義郎伯父さんが葉巻を吹かしながらやってきた。

魅音「義郎伯父さん?これ、どういうことです?」

義郎「どういうも何も、見たまま聞いたままだよ。魅音ちゃんと圭一くんが、我がエンジェルモートの記念すべき来店10000名様ってわけだ」

圭一「今までずっとカウントしてたんですか?」

義郎「そうだとも。身内贔屓だと思うかい?」

圭一「いや、そうは思っていないですけど……でも、無料って本当にいいんですか?」

義郎「構わん構わん!はっはっは、魅音ちゃんも隅に置けないねぇ!休日に彼氏とデートかい?」

魅音「なっ、何言い出すんですか、義郎伯父さんっ!?あ、あたしと圭ちゃんは別にそんなっ!?」

義郎「いいのいいの、そんな謙遜しなくても!どうしても納得いかないって言うんなら、伯父さんからのささやかなプレゼントとでも思ってくれ!魅音ちゃんが彼氏を連れてきたお祝いだよ!」

それだけ言い残すと、義郎伯父さんは豪快な笑い声を響かせながら店の奥へと戻って行ってしまう。

魅音「もうっ、義郎伯父さんったら……」

圭一「相変わらず、豪快な人だなぁ……」

魅音「ごめんね、圭ちゃん。伯父さんの早とちりで、その……か、彼氏だなんて言われちゃって」

圭一「ああ、別に気にしてないって。ああいう人だって分かってるつもりだし。それじゃ、おじさんもああ言ってたことだし、言葉に甘えさせてもらう事にするか!」

魅音「う、うーん……なんだか釈然としない気もするけど……まぁ、義郎伯父さんがいいって言ってるんだし、いいのかなぁ」

まぁ、いざとなったら後であたしが個人的にお金を払えばいいか、という結論に達する。

――――――

Side-詩音

詩音「ありがとうございます、義郎伯父さん!」

義郎「なぁに、園崎本家次期頭首に彼氏が出来たっていうんだ!これくらい、安いもんさ!」

詩音「あー、正確にはまだ彼氏じゃないんですけどね。お姉が圭ちゃんにお熱ってだけで」

義郎「ありゃ、そうなのかい?ふーん……あの魅音ちゃんがねぇ」

詩音「で、私はその二人がうまくいくようにとこうして画策しているわけです」

義郎「姉想いのいい妹だねぇ詩音ちゃんは。おじさんも、上手く行くように祈ってるよ」

詩音「私に任せといてください!あの二人、見事にくっつけて見せますから!」

義郎伯父さんと別れて、自分のテーブルへと戻ってお姉と圭ちゃんの席を見てみる。

詩音(あれ、お姉も圭ちゃんもいない?)

お手洗いにでも行っているのだろうか?

圭一「やっぱり後を付けてたな、詩音」

詩音「っ!?」

後ろから圭ちゃんの声が聞こえて、慌てて振り向く。

そこには腕を組んで、半眼を向けて立っている圭ちゃんがいた。

圭一「なんとなーく違和感があったんだ。興宮に呼び出すってのもそうだし、付き合って欲しいって話なのにどこに行くって具体的な話もないし……。昨日の電話も、お前だったんだな、詩音?」

詩音「あ、あははは……何の話ですか?」

まさか、こんな早くに圭ちゃんに勘づかれるとは……。

圭一「ごまかさなくてもいいぞ、詩音。何が狙いだ?俺と魅音を冷やかすつもりか?」

詩音「いやぁ、そんなつもりは……」

少しだけあったりして。

圭一「ったく、魅音も魅音だ。なんで詩音の口車に乗ってるんだ?」

詩音「口車だなんて、酷いですね圭ちゃん。私は、お姉のお手伝いをしてるだけですよ?」

圭一「何の手伝いだよ?」

詩音「それは秘密です。と言うか、私の口から言うべきことではないです」

圭一「………」

相変わらず疑い眼を向けている圭ちゃん。

まぁ、別に言っちゃっても私は構わないんですけどね。ただ、そうすると後でお姉に怒られるのは私だし、そんな無粋な真似は出来る事ならしたくないのも事実だ。

圭一「……来店10000名様っていうのも、詩音の差し金か?」

詩音「嫌ですよ圭ちゃん、私にそこまでの力があると思いますか?」

圭一「思う」

詩音「ありゃま、即答ですか。残念ですけど、私もこのお店にアルバイトとして雇ってもらっている身ですから、そんな事は流石に出来ませんよ」

これは半分本当で、半分嘘だ。

私がやっているのは、あくまで『お姉が男の子と一緒に来るから、何かしらの形でお祝いしてあげて欲しい』と頼んで回っているだけだ。

雛見沢や興宮で営業している店の大半は園崎親類の経営なので、そう頼むだけで割と二つ返事で了承してくれたりする。

仮にも園崎本家次期頭首だ、その肩書きは伊達じゃない。

圭一「ふーん……まぁ、詩音がそう言うなら一応信じるけどよ」

詩音「今日の事に関しては、後でお姉の口から話があると思います。それまでは、お姉と付き合ってあげてください」

『に』ではなく『と』と言うのがミソだ。こう言う事に関しては鈍感な圭ちゃんのことだ、これくらいでは気付くこともないだろうけど。

圭一「まあ、わかったよ。詩音もただ悪ふざけだけでやってるわけじゃないってことだろ?」

詩音「人聞きが悪いことを言わないでください。私には悪ふざけする気はこれっぽっちもないんですから」

圭一「どうだかな……」

半ば呆れたように頭を掻きながら、圭ちゃんは席へと戻ろうとする。

詩音「あっ、そうそう圭ちゃん!」

ひとつだけ、お願いしなければならないことがあったのを思い出した。

お姉には前の作戦会議の時に伝えているが、先ほどまでの様子を見る限りだと覚えているか怪しいし、圭ちゃんにも一応伝えておかないと。

圭一「ん、なんだ?」

詩音「この後行く場所なんですが……」

――――――

Side-魅音

魅音「この後は部活で使う新しいゲームを買いに行く……新しいゲームを買いに行く……」

忘れないようにぶつぶつと呟きながら、席へと戻る。

魅音「お待たせー、圭ちゃん」

圭一「ん、おう」

魅音「何食べるか決まった?」

自然を装いながら、席に座る。

圭一「俺はカレーかな。魅音は?」

魅音「あたしも……」

カレー、と言いかけたところで思いとどまる。

魅音「み、ミートスパゲッティで」

危ない危ない……こういう些細なところでも女の子らしさを醸し出すようにしようって話を詩音としてたんだ。

圭一「ああそうそう、魅音。この後行くところなんだけど……」

魅音「圭ちゃん、この後なんだけど……」

被った。

魅音「け、圭ちゃんからどうぞ」

圭一「いや、魅音から言ってくれよ。そもそも今日は、魅音に付き合ってくれって言われて来てるわけだし」

魅音「あたしの用事は、別に急ぐようなことじゃないからさ。圭ちゃんがどこか行きたいところがあるなら、そっち優先しようよ!」

それに、あたしの方はついさっき考えついたばかりのものだ。

圭ちゃんに行きたいところがあるなら、そっちを優先してくれた方があたしとしてもありがたい。

圭一「んー……魅音がそう言うなら。ちょっと小耳に挟んだんだけどさ、今日の午後1時から雛見沢ファイターズの練習試合があるらしいんだ。良かったら、見学に行かないか?」

魅音「練習試合?そんな話初めて聞いたんだけど……」

圭一「俺もついさっき知ったばっかりだよ。なんで悟史、教えてくれなかったんだろうな?」

魅音「うーん……復帰したばっかりでまだ本調子じゃないから、出来るならあまり知り合いに見られたくなかった、とか?」

圭一「あー、確かにな。それはありそうだ」

適当に誤魔化してみるが、本当の理由は知っている。と言っても、大した理由じゃないんだけど。

悟史は練習の時は調子よく活躍するが、いざ試合となると中々その調子が出せない人だった。本番に弱い性格、と言う事だろう。

それに加えて、今言った理由も上乗せされている。多分、その二つの理由であたしたちには何も言わなかったのだろう。

……そう言えば、詩音との打ち合わせの時もそんな話をされた気がする。あの子はマネージャーをやっているから、最初から知っていたのだろう。

魅音「それじゃ、悟史には気付かれないように見学だけってことにしておこうか」

多分、そこには詩音もいるだろう。あの子は知ってたはずだし。

圭一「あぁ、そうだな」

――――――

食事を済ませ、興宮の野球グラウンドへと足を向ける。

圭一「雛見沢ファイターズの試合を見に行くのは、これが初めてだな」

魅音「そだねぇ。前はピンチヒッターで試合に参加したし、見学は圭ちゃん初めてだね」

圭一「復帰したばかりとは言え、悟史は雛見沢ファイターズのエースだったんだろ?ちょっと楽しみだな。俺、まだ悟史とはそんなに話したことないし」

魅音「あまり期待し過ぎると、悟史には却って重荷かもよ?ま、軽い気持ちで行こうよ」

圭一「ま、俺達が見に行ってることには気付かないだろうし、後日教室で見に行ってたって言ってやればいいか」

魅音「ん、そだね。変にプレッシャーを掛ける必要はないし」

グラウンドに到着すると、すでに試合は始まっているようだった。

圭一「おっ、やってるやってる」

魅音「まだ始まったばっかりっぽいね。どれどれ、悟史はどこに入るかなー……っと……」

途中で言葉が途切れる。

圭一「どうした、魅音?………あー……」

圭ちゃんも、あたしの様子がおかしい理由をすぐに悟ってくれた。

詩音「ファイトー!!雛見沢ファイターズっ!!」

設けられている応援席の先頭で、ハチマキを巻いて必死に声援を張りあげている詩音の姿があった。

更に、詩音の手には大きい応援旗まで握られている。

圭一「……なんか、偉い気合い入ってるな、詩音の奴……」

あたしと圭ちゃんは、その姿に呆気に取られるしかなかったのだった。

圭一「いつの間に来たんだ、詩音……」

魅音「ハハハ……まぁ、悟史の試合だしね……」

悟史がいなくなってからはすっかり幽霊マネージャーだったのに、悟史が復帰すると同時に詩音もすぐさまマネージャーに復帰していた。

我が妹ながら、なんと調子のいいことだろう。分かりやすいと言うか、隠す気がないと言うか。

沙都子「ファイトですわよ、にーにー!」

レナ「悟史くーん!頑張ってー!」

梨花「ふぁいと、おーなのですよーっ!」

よくよく見ると、応援席には部の面々もいた。

沙都子はまぁ妹だから分かるが、レナと梨花ちゃんはどこで聞き付けたんだか。

しかしまぁ、いい感じに悟史にプレッシャーを与えているように見える。

圭一「悟史の奴、これはカッコいいところ見せなきゃ締まらないな」

魅音「どうする、圭ちゃん?レナ達もああして応援してるし、あたし達も合流して応援する?」

圭一「え、あ、うーん……」

あたしの提案に、何故か唸り始める圭ちゃん。

圭一「い、いや、いいんじゃないか?ほら、本来俺達は今日試合があるってことを知らない事になってるんだしさ」

あら、珍しい。圭ちゃんなら乗って来ると思ったのに。

圭一「それに、今日は俺が魅音に付き合うって約束したしな。ここに来たのは俺の提案だし、悟史にこれ以上変なプレッシャー掛けるのも悪いしな」

魅音「っ……ふーん、圭ちゃんも色々考えてるんだね」

色々理由を並べられたが、その中でも「魅音に付き合う」っていう理由に少しだけやられた。

圭ちゃん自身、自覚あるんだか無いんだか……。

圭一「ここから観戦してるだけでいいだろ。それに、試合終了まで見てたら魅音に付き合う時間なくなっちまいそうだしな」

魅音「ま、まぁ、圭ちゃんがそう言うならあたしも構わないけど……」

また、顔が熱い。

圭ちゃんの殺し文句は、不意打ち気味で来るから反則だよ……。

あたしとの約束を、そこまで大切に想ってくれてるのも嬉しい。

………ごめんね、悟史。今日一日は、あたしと圭ちゃんに時間ちょうだいね。

Side-詩音

圭ちゃんにばれてしまった為、尾行の継続を断念したあたしは、圭ちゃんに今日の試合の事を伝えてからひと足先に興宮小学校のグラウンドへ来ていた。

まあ、私に出来る事はひと通りやっておいたはずだし、あとはお二人水入らずにしてあげてもバチは当たりませんよね。

しかし……。

詩音「……なんで皆さんお揃いなんですか?」

レナ「沙都子ちゃんから聞いたんだよ!だよ!悟史くんの復帰してから初めての試合でしょ?これは応援に来ないわけにはいかないんだよ?だよ?」

沙都子「申し訳ありませんわ、詩音さん。にーにーと詩音さんから口止めされていたと言うのに、いざ詰め寄られたら言わないわけにはいかなくなりまして……」

梨花「人の口に戸は閉てられないのですよ、詩ぃ」

レナ「圭一くんと魅ぃちゃんにも電話してみたんだけど、二人とも今日はお出掛けしてて家にはいなかったんだ。残念だなぁ、みんなで応援したかったんだけど」

詩音「ああ、お姉なら……」

言い掛けて、止める。

私の見る限り、レナはお姉にとって最大のライバルだ。

それに、圭ちゃんにとって多分異性として一番ポイントが高いのも、恐らくこの子。

そんなレナに、馬鹿正直に教えてしまっていいものだろうか?

レナ「? 魅ぃちゃんなら……?何かな、何かな?」

詩音「ふふ~ん、聞きたいですか?実は今日、お姉と圭ちゃんはデートしてるんですよ♪」

まぁ、別に構わないだろう。

恋と言うのは、障害があればあるほど燃え上がるものだし♪

レナ「え……で、デート?圭一くんと魅ぃちゃんが?」

詩音「そうです。まあ、デートは少し言い過ぎかもしれませんけど、二人でお出かけしているのは本当です」

レナ「ふ、ふーん……そうなんだ……」

ありゃ、レナの表情がちょっと曇った?

……これは本格的にライバルかもですよ、お姉。

沙都子「あら、魅音さんと圭一さんに連絡がつかないと思ったらお二人でお出かけしていたんですの?」

梨花「魅ぃと圭一が……」

詩音「お姉がどうしても圭ちゃんと二人で出掛けたいーって言うから、私が一肌脱いであげたんです。お姉ったら、我が姉ながら奥手も奥手なんですから」

ここで、沙都子が少し意地の悪い笑みを浮かべた。

沙都子「そういう詩音さんはどうなんですの?」

詩音「えっ、私ですか?」

沙都子「本当にわたくしのねーねーになってくださいますですの?」

詩音「……っ!?」

意外な反撃を食らった。

レナ「はう!レナも気になるな!なるな!」

詩音「ちょっ、レナまで……」

梨花「みー?詩ぃは沙都子のねーねーになるのですか?」

詩音「梨花ちゃままで!?」

三人にじり、じりと詰め寄られる。

詩音「あ、あったりまえじゃないですか!と言うか沙都子!私のことはねーねーと呼びなさいと前にも言ったはずですが!?」

沙都子「それはごめんあそばせ。にーにーが帰って来てからと言うものの、詩音さんはなんだか意気消沈してしまわれたような気がしていたものですから、本当にその気があるのかと疑問に思ったんでございましてよ」

い、言ってくれるねこのお子様は……!

私だって園崎の血を引いてるんだ、そうまで言われて黙っているのはプライドが許さない!!

詩音「……わかりました。沙都子がそう言うのなら、私の悟史くんへの想いを見せつけてあげることにします!!」

グッと握りこぶしを作り、そう宣言する。

沙都子「ちなみに応援旗はこちらにございますですわよ」

そう言って、傍らに置かれているものを指差す。

梨花「更に、こんなところにはハチマキまであるのです。昨日の夜、沙都子が悟史の為にと一生懸命作っていたのですよ」

沙都子「ちょっ、梨花ぁ!それは言わない約束だったはずですわよ!?」

梨花「でも、沙都子は困っていたのです。せっかく作った応援旗が、ちょっと気合いを入れ過ぎたせいで自分では振る事が出来ない大きさであることを失念していたのです。
    誰か代わりに振ってくれる人がいないかと探していたのですが、適任な人がいなくてしょぼくれていたのですよ」

沙都子「ふ、ふん!圭一さんに、にーにーの応援団長と言う大役をお任せしようと最初から画策してただけですのよ!」

梨花「でも、圭一は他に用事があったようで来れなかったのです。その理由は、たった今知ったばかりなのですが」

レナ「はう……レナが頑張っても良かったんだけど、これ結構重いんだよ。圭一くんがいたら、派手に振りまわしてくれたと思うんだけど、残念」

詩音「へぇ……その応援旗を、私に振って欲しいと、そう言うわけですか?」

沙都子「詩音さんのにーにーへの想いが本物であるなら、この程度は造作もありませんですわよね?」

満面の笑みで、沙都子はあたしに向かってそう言う。

面白い、あんたの挑発に乗ってやろうじゃない―――!!

――――――

悟史「えっと……」

詩音「悟史くん!今日は頑張ってくださいね!!私、一生懸命応援しますので!!」

レナ「頑張って、悟史くん!」

梨花「復帰後初めての試合、気合い入れて頑張るのです。私たちも、精一杯応援しますですよ、悟史」

悟史「……沙都子、これは一体何がどうなってるの?」

沙都子「………ごめんなさい、にーにー。つい、口が滑ってしまったのですわ」

悟史「……詩音……?その大きな応援旗は一体……?」

詩音「沙都子が作ってくれたものです!今日はこれを振りかざして、一生懸命応援しますからね!」

悟史「……僕、ここ一番に弱いってこと、みんな知ってたよね……?」

レナ「はう!弱点を弱点のままにしておくのはダメなんだよ!だよ!魅ぃちゃんがこの場にいたら、我が部の一員なら弱点を克服して見せろって言うと思うな!」

悟史「………むぅ」

詩音「大丈夫です!悟史くんならやってくれるって、私信じてますから!」

悟史「ものすごいプレッシャーをありがとう、詩音……」

この面々に圭ちゃんとお姉がいないことに突っ込む気力もないようだった。

まぁ、本来だったらマネージャーである私と、妹である沙都子しか来ないことになってたはずだったから、無理もないですけどね。

レナと梨花ちゃまには沙都子から、お姉と圭ちゃんには私から教えてしまっているので、すでに色々手遅れなんですけど……その事は、まあ黙っておく事にしよう。

悟史「まぁ、無理しない程度に頑張るよ……」

そう言って、悟史くんはベンチへと戻って行く。心なしか、少し元気がないようだ。

これは私の応援で元気づけてあげなくては!!

――――――

詩音「ファイトー!!雛見沢ファイターズっ!!」

レナ「一時はどうなるかと思ったけど、ちゃんと旗を振ってくれる人が現れて良かったね、沙都子ちゃん!」

沙都子「おーっほっほっほっ!全てわたくしの計算のウチでございますわ!」

梨花「偶然に偶然が重なっただけなのに、沙都子は調子がいいのです」

本日の投下、以上
悟史くんのキャラがイマイチ掴みきれてない今日この頃

それと、ひとつ訂正
>>27で祭囃し編終了後と言っていましたが、正しくは『澪尽し編終了後』のお話になります
羽入がいないのも、澪尽し編後だからですね

澪尽しを知らない人の為に、祭囃し編終了後と澪尽し編終了後の大まかな違いを書いておきます

・羽入がいない
・悟史が最後の最後に復帰する
・間宮リナ、北条鉄平が※されている

他にも細々とした違いはありますが、これだけ押さえておけば大丈夫と思われます

――――――

Side-魅音

圭一「……魅音、そろそろ行かないか?」

魅音「ま、待って、もう少しだけ」

圭一「………」

これで、何度目のやり取りだろうか。

試合を見学し始めてから一時間近くが経過した頃から、圭ちゃんはあたしにそう提案し始めていた。

……別に、その提案を断る理由なんて何もなかったのだが、いざとなるとなんだかものすごく気恥ずかしくなるのだ。

見学に来る前までの空気なら、最初に提案された時に頷いていたと思うんだけど……。

魅音(う~~~……今二人っきりになったら、どんな話をしたらいいのかわからないよぅ……)

さっきの圭ちゃんの言葉で、圭ちゃんも今日二人で出掛けるというのをそれなりに大事に考えてくれているのがわかった。

多分圭ちゃんの事だから、それ以上の意味なんてないと思うけど……それでも、色々と考えてしまうのがあたしの性分だ。

圭一「魅音が試合を見たいって言うならいいけど、そろそろ試合終わりそうだぞ?」

魅音「う、嘘っ!?」

そう指摘され、スコアボードの方を見てみる。

試合経過は現在8回の裏が終了した頃だった。

圭一「ずっと試合見てたんじゃなかったのか?なんか考え事でもしてたのかよ」

魅音「え、あっ……」

しまった、思わず素の反応をしてしまった。

魅音「ご、ごめん……ちょっと、ボーっとしてたみたい」

圭一「大丈夫か?どっか具合でも悪いんじゃないのか?」

魅音「だっ、大丈夫大丈夫!なんともないから、うん!」

圭一「そっか?なら、いいんだけど」

ええい、こうなったらヤケクソだっ!

魅音「そんじゃ、そろそろ行こっか、圭ちゃん!」

圭ちゃんの手を取ると、半ば強引に引っ張る形で歩き始める。

圭一「おっ、おい!引っ張るなって!」

魅音「ホラホラ、きりきり歩く!」

勢いを保ったまま、興宮の町中を歩いて行く。

圭一「わかった、わかったから引っ張るなって!」

魅音「なにー?離して欲しいの、圭ちゃん?」

ぴたりと立ち止り、振りむいてそんな質問をぶつけてみる。

圭一「っとと、急に立ち止まるなよ……別に、離して欲しいってわけじゃないけど、歩きにくいだろ?」

魅音「それじゃ、歩きにくくなければいいんだね。ほら、あたしの隣に並ぶ!」

その手を引き寄せて、あたしの隣に並ばせる。

魅音「並んで歩けば、手繋いでても歩きにくくないでしょ?」

圭一「い、いや、まぁ……そうだな」

魅音「はい、それじゃ行くよ!」

強引に話を中断し、また歩き始める。

魅音「………」

圭一「………」

手を繋いだまま、お互い無言で歩き続けるあたしと圭ちゃん。

魅音(つい、勢いでこうなっちゃったけど……)

ここから一体どうしたらいいのでしょう。

話が途切れ、冷静さを取り戻したところで急激に恥ずかしさは込み上げて来るし。

圭ちゃんはあたしと手繋ぐのを拒否しないし。

あたしはあたしで多分また顔が真っ赤だろうし。

魅音(いっそ誰か殺してよ……)

圭一「………っ!?」

ふと、圭ちゃんが突然繋いでいた手を離して立ち止った。

魅音「ど、どうかしたの、圭ちゃん?」

圭一「……いや……その……すまん、なんでもない」

魅音「……?」

なんだろう、圭ちゃんの様子がちょっとおかしい?

圭一「そ、それより、魅音!次は、どこへ行くんだ?」

魅音「えっと、次は……あたしのバイト先の、おもちゃ屋さんに行こうかなって考えてたんだけど……」

圭一「おっ……おもちゃ屋……?」

おもちゃ屋と聞いて、圭ちゃんが動揺を見せる。

魅音「部活で使う、新しいゲームでも探そうかなって……それで、圭ちゃんを誘ったんだけど……?」

考えついた理由としては、中々真っ当な理由だと思う。

あたしの卒業後は圭ちゃんに正式に部を任せようと思ってるし、妥当なはずだ。

圭一「……その、ひとつ聞いていいか、魅音?」

魅音「な、なに?」

圭一「その、他の部員に声を掛けずに、わざわざ俺だけを誘ってしかもそのゲーム屋に行くって言うのは……何か、考えがあってのことか?」

魅音「……?」

圭ちゃんの言わんとしている事が、よくわからない。

他の部員に声を掛けずに。これはまぁ、圭ちゃんに部を任せようと思ってるからってことで理由としては成り立つはず。

わざわざ圭ちゃんだけを誘って、と言うのもこの理由で十分なはず。

それで、そのゲーム屋に行くって言うのは……よくわからなかった。

魅音「な、何?あのゲーム屋、圭ちゃん嫌い?」

圭一「いやいや、そんなことはないぞ?ただ、その……その店に、魅音と二人で……ってのは、だな……」

魅音「………っ!!」

ようやく、圭ちゃんの言いたい事がわかった。それでまた顔が熱くなる。

魅音「え、あ、べ、別に深い意味なんてないよっ!?」

圭一「………」

それだけ言うと、あたしは圭ちゃんの顔を直視出来ず俯く。

圭ちゃんは圭ちゃんで、気恥ずかしそうに明後日の方を向いていた。

魅音(そうだよ、ちょっと考えたらわかることじゃんっ!!)

あの店は、前にゲーム大会のお礼ってことで店主から配られた人形を、圭ちゃんがあたしに渡してくれたことがあったっけ……。

あの時は、圭ちゃんには『女の子』としてではなく、『親友』として渡すって言われて、あたしもそう言う事にして受け取ったけど。

傍から見ても分かるくらい、そんなのはただの口実でしかなかったはずだ。

圭ちゃんから人形をもらったことも、あたしに渡すという選択を選んでくれたことも、すっごく嬉しかった。

あたしの自惚れかもしれないけど、圭ちゃんも多分……その時は、あたしの事を『女の子』として見てくれていた……と思う。

そんな店に、わざわざ圭ちゃんだけを呼びだして、二人で向かうのだ。

あたしが何を考えていても……まぁ、実際にはそんなこと全く頭の中にはなかったんだけど……圭ちゃんからしてみたら、その、そういう意味と取られても、仕方ないかもしれない。

と言うか、それを思い出してしまった時点であたしももうあの店に行くのは避けたかった。

圭一「あー……と……だな。魅音?」

魅音「へっ!?な、何!?」

圭一「もしかして、今日のこれは、そのー……」

魅音「っ……」

圭一「で、で、でー……デート、だったりする……のか?」

恥ずかしそうに後ろ頭を掻きながら、それだけ聞くとまた視線を明後日の方へ向ける。

魅音「……ど、どうしてそう思うのかな?……かな?」

ヤバい。頭がまわらな過ぎてレナみたいな言葉づかいになってる。

でもどうしようもない。だってどうしていいかあたしにもわかんない。

圭一「……わざわざ呼び出して待ち合わせして、二人で飯食って、買い物に行くって……やっぱり、そういう事だったのかなー……なんて……さっきまで、手も繋いでたし……」

圭ちゃんの指摘の半分以上は、詩音との話し合いでこうしようと決めたものだった。

詩音曰く。

『待ち合わせはデートの基本中の基本』

『お昼を挟む時間帯を選び、食事に行く』

『買い物の時は女の子らしさを見せる一番の勝負どころ』

『手を繋ぐ』っていうのは……含まれてなかった、かな……。

まぁ、そんなこんなで詩音の言った通りの行動を取っていたわけだけど、デートと呼べるものになっているかどうかは……あたしには判断出来かねる。

魅音「う、うん……実は……ね、そうなんだ……」

だから、素直にそう答えることにする。

魅音「詩音に相談して、色々教えてもらって……」

圭一「………」

魅音「……ゴメン。その、デートって言うのは、恥ずかしかったから、ただ付き合ってくれとしか言わなくて……め、迷惑、だったかな……?」

なんとかそこまで絞りだしたけど、後半なんかはもう自分でもわかるくらい声が震えていた。

これで迷惑だ、なんて言われたらどうするよあたし?

圭一「いや……迷惑ってわけじゃないけど、な……」

圭ちゃんは圭ちゃんで歯切れが悪い。

でも、迷惑とは思ってなかったんだ。それだけで嬉しくなる。

圭一「……~~~……えぇい、俺も男だっ!!」

気合いを入れるように両手で頬をバシンと叩くと、圭ちゃんはあたしの手を握って来る。

魅音「けっ、圭ちゃん!?」

圭一「魅音に付き合うと言った以上、二言はない!それに、デートなんだろ?なら、手を繋ぐのが普通なはずだ!」

いや、これは『繋ぐ』と言うよりも文字通り『握る』と言った方が正しい。

圭一「さー行くぞー!」

魅音「ま、待って待って!?」

圭ちゃんに手を握られたまま、再び歩き始める。

これは、圭ちゃんもどうしたらいいのかわからなくなってる……!?

魅音(ど、どうなっちゃうの……なんか展開がおかしくなってきてるよ、詩音~~~っ!?)

心の中で、詩音にSOSを送る。

双子の姉妹だ、きっと届いてくれるはずっ!!

――――――

Side-詩音

詩音「お疲れ様、悟史くん!」

沙都子「最後のバッティング、すごかったですわにーにー!」

レナ「はう~!悟史くんが最後に打ったボール、レナが拾ってきたんだよ、だよ!かぁいいよぅ~お持ち帰りぃ~!」

梨花「あの本番に弱い悟史が最後にホームランとは、劇的で感動したのです。にぱー☆」

悟史「ハハ、ありがとう。みんなの応援があったからだよ」

謙遜しながら、悟史くんは笑う。

やっぱり、私が惚れた男です!悟史くんすごい!!

詩音「悟史くんなら私の応援がなくても活躍してたと思いますよ!」

悟史「いやいや、僕を過剰評価し過ぎだよ詩音」

沙都子「それと、さり気なく自分一人の応援だとアピールしましたわね」

悟史「えーと……そう言えば試合前は気付かなかったけど、魅音と圭一は来てないんだ?」

詩音「ああ、お姉と圭ちゃんなら今頃は二人でよろしくやっていると思いますよ」

悟史「……えっ」

沙都子「せっかくのにーにーの復帰試合だと言うのに、あのお二人はどこで何をしてらっしゃるんでしょうかねぇ」

梨花「仕方ないのですよ、沙都子。魅ぃは今、戦っているのですから」

沙都子「戦ってる……?何の事ですの?」

レナ「沙都子ちゃんも、もう少し大きくなったら分かるようになると思うよ?」

沙都子「むっ、子供扱いしないでくださいます!?」

悟史「……ごめん詩音、話が良く見えないんだけど?」

詩音「うーん、そうですねぇ……悟史くんの試合も終わったし、みんなでお姉と圭ちゃんの後でも追いかけてみますか?」

特に何も考えず、そんな提案をしてみる。

沙都子「え、詩音さんはお二人が今どこにいるのか知っているんでございますですの?」

詩音「ふふん、これでも私はお姉の双子の妹ですよ?姉の行動なんて、私にはお見通しの筒抜けです」

梨花「でも、あまり褒められた行為ではないと思うのです」

レナ「レナも梨花ちゃんに同意。どっちから誘ったのかはわからないけど、二人で楽しくお出かけしてるんなら邪魔しちゃったら悪いんじゃないかな」

詩音「大丈夫ですよ、二人に勘付かれないようにつければいいだけですから」

沙都子「なんだかよくわかりませんけど、どうせならみんなで遊ぶのも楽しそうですわね」

詩音「それに、多分『楽しく』はしてないんじゃないかなぁ~?」

お姉の事だし、未だにギクシャクしているに違いない。

レナ「? どういう意味かな、かな?」

梨花「詩ぃの言ってる事がよくわからないのです」

悟史「……まぁ、魅音と圭一のいるところがわかるのなら、行ってみようか?」

詩音「よっし、決まりですね!じゃあ、行きますか!」

お姉を応援すると決めたんだ、変にこじれるとあたしも困るし。

圭ちゃんには、是が非でもお姉とくっついてもらわないと!

――――――

お姉と圭ちゃんのいるであろうおもちゃ屋へ向かっている途中。

詩音「沙都子ー、ちょっとこっちにいらっしゃい」

沙都子「? なんでございますですの、詩音さん?」

詩音「また言った!いいですか、私のことは『ねーねー』と呼んでください!」

沙都子「……まだ根に持ってたんですのね……」

沙都子には、もう一度だけ釘を刺しておいた。

私はお姉と違って奥手ではない!絶対悟史くんをものにしてやるんだから!

本日の投下、以上
魅音も詩音も、本質的には似た者同士ですね。何と言っても双子ですから、ええ

以下、ひぐらしを読み直していて見つけたどうでもいい疑問
エンジェルモートを経営している伯父さんと、おもちゃ屋を経営している伯父さんは同じ「義郎」なのに別人に描かれている…(コミック版の綿流し、目明しで確認)
園崎の親類には同姓同名の別人がいるんでしょうかね

では

――――――

ゲーム屋の近くまで来たところで、物陰に隠れ様子を窺う。

悟史「……ねえ、詩音」

詩音「シッ!静かにしてください、悟史くん!誰かに勘付かれたらどうするつもりですか!」

悟史「え、圭一と魅音に勘付かれなければいいだけじゃないの?」

詩音「何をそんな甘い考えでいるんです!いいですか、ここは興宮……言わば園崎の支配下にあると言っても過言ではない場所ですよ!?どこからお姉に情報が行くかわからないんです!」

沙都子「詩音さん……ね、ねーねーが妙に生き生きしてますわね……」

沙都子に視線で指図し、呼び直させる。

レナ「あはは……詩ぃちゃん、この状況自体をちょっと楽しんでるんじゃないかな、かな」

詩音「楽しんでいる、とは心外ですねレナ。私はただ、お姉の事を案じてこうしているだけです」

口ではそう言うが、実際は私も少し楽しんでいたりする。

だって慌てるお姉、かわいいんですもん♪

梨花「みー、詩ぃに悪魔の尻尾がついているように見えて来たのです……」

詩音「あっ、店から二人が出てきましたよ!」

私のひと言で、みんなはさっと私の後ろに隠れる。

なんだかんだ言ってみんなもこの状況を楽しんでいるんじゃないですかね。

沙都子「圭一さんが手に何かを持ってますわ。あれはなんなのでしょう?」

レナ「か、かぁいいものかな?かぁいいものかな?」

梨花「レナ、落ち着くのです。もしかぁいいものだったとしても、お持ち帰りしてはダメなのですよ?」

悟史「……あれ、本当に魅音?」

詩音「ええ。普段とはちょっと雰囲気の違う服を着てますが、紛れもなくお姉です」

と言うか、この位置からではよく見えないが、二人の距離がどうも近い気がする。

まさか……?

詩音「お姉と圭ちゃん、手を繋いでる……?」

そうポツリと呟く。それがどのような結果を招くことになるのかも考えずに。

悟史「て、手をっ?」

沙都子「魅音さん、いつになく積極的ですわ!」

レナ「え、嘘、嘘っ!?」

梨花「……意外なのです。魅ぃはもっと奥手だと思っていたのですが」

詩音「ちょっ、押さないでくださいみんなっ!」

沙都子「あっ、お二人、向かい合って見つめあっていますわよっ!?」

悟史「ほ、本当にあれは魅音なの!?」

レナ「は、はう~~~っ!!」

悟史「おぐっ!?」

詩音「悟史くんっ!?」

沙都子「ああ、れなぱんがにーにーに炸裂しましたわっ!?」

レナ「そ、そういうあれは、まだ早いと思うな!思うな!」

悟史「なんで……僕が……」

詩音「ちょっとレナ!?悟史くんを殴るってどういう了見ですかっ!?」

梨花「暴走したレナの近くは危ないのです。これは悲しい事故なのですよ」

レナ「れ、レナ達はまだ子供なんだよ!順序を踏まえて、清く正しくすべきだと思うな!」

詩音「だからって悟史くんを殴る事はないでしょう!?」

レナ「行き場のない何かが悟史くんの方向へ向かっただけなんだよ!」

詩音「悟史くんに謝ってください、レナ!」

梨花「あの」

レナ「―――はっ!?」

沙都子「レナさんが正気に戻りましたわ!」

レナ「え、えっと……ごめん、悟史くん。つい……」

悟史「うう……どうせ僕なんか……」

詩音「悟史くん、そんな卑屈にならないでください!守ってあげられなくてごめんなさい!」

梨花「みー、あのー」

詩音「なんですか梨花ちゃま!?私は今忙しいのですが!?」

梨花「二人にばっちり気付かれてしまっているのですが」

梨花ちゃまのひと言で、その場の空気が凍りつく。

圭一「……あー……と、だな……」

この状況についていけず、後ろ頭を掻いている圭ちゃん。

魅音「――――――」

完全に動作が停止しているお姉。

詩音「………」

やってしまった。まさか、私の呟きがこうまで騒ぎを大きくするとは。

魅音「―――……えー、あー、ち、違う違うっ!!?あ、あああああたしと圭ちゃんはそういうあれじゃないから!!?」

誰に問い詰められたわけでもないのに、お姉は言い訳を始める。

魅音「き、今日は、たまたま!そう、たまたま圭ちゃんとはち合わせて、それで一緒にゲーム屋に来てただけでー……うん!そう、それだけ!!」

梨花「言い訳しなくていいのですよ、魅ぃ」

魅音「り、梨花ちゃんっ!?」

梨花「一部始終、しっかりと見させてもらったのです。にぱー☆」

お姉に面と向かってそう言い放つ梨花ちゃん。あなたの方がよっぽど小悪魔テイルが似合うと思いますけどね。

魅音「あ……う……」

沙都子「魅音さん、お顔が赤いですが大丈夫ですの?」

魅音「う……い……」

レナ「顔が真っ赤な魅ぃちゃんもかぁいいよ?お、お持ち……」

詩音「ストップですレナ!またれなぱんを無差別に放つおつもりですか!?」

レナ「はうっ……」

魅音「ち……違……」

悟史「……大体の話はわかったよ。天下の園崎魅音の意外な一面、だね」

魅音「違うの~~~~~~~~っ!!!」

圭一「あっ、魅音っ!?」

お姉は繋いでいた(握られていた?)手を振りほどくと、全速力で走り去ってしまった。

ごめんなさい、お姉……今回ばかりは私が悪いです……。

――――――

詩音「ごめんなさい、圭ちゃん……安易にお二人の後をつけなければ、こんなことには……」

圭一「いや……それはいいんだけどよ……」

お姉が走り去った後、私は圭ちゃんと二人で話がしたいとみんなに言って、こうして話させてもらっていた。

詩音「別に、邪魔するつもりはなかったんですよ?ただ、色々と予想外な事態が連発しましてですね……」

圭一「予想外な事態……なぁ……」

詩音「はぁ……お姉、今頃お屋敷の中で泣いてるかもしれませんねぇ」

圭一「うっ……や、やっぱり、今からでも追いかけた方が……」

詩音「圭ちゃんが追いかけたところで、何も解決しませんよ。お姉の方は、私がフォロー入れておきますから」

圭一「あー……わかった、頼む」

圭ちゃんも、なんだか歯切れが悪い。

と言うか、さっきはやっぱり手を繋いでいたんだなと思う。

詩音「まさか圭ちゃん、お姉と……?」

あの奥手なお姉が今日一日でケリを付けられるとはとても思えなかったが、なんとなくそう聞いてみる。

圭一「い、いやっ!それは本当に違うぞ!」

詩音「だとしたら、何故ゲーム屋から出てきた時は手を繋いでいたんですか?」

圭一「あ、あれはー……えっと……」

詩音「それに、今日お姉と出掛けていたのがなんだったのかも、なんだかわかっているような態度ですが?」

圭一「お、俺の口からそれを言わせようってのかよ!?」

詩音「そう言うってことは、流石に鈍い圭ちゃんも感付いたんですね」

圭一「うぐっ……くそ、口先の魔術師とも呼ばれたこの俺を誘導尋問するとは……」

詩音「ということは、お姉の気持ちにも気付いて……いえ、ここから先は無粋でしたね」

圭一「………」

詩音「まぁ、どうするかを決めるのは圭ちゃん自身ですが、私としてはお姉を傷つけるようなことはしないで欲しいな、と言ったところです」

圭一「あ、あぁ……」

詩音「ところで、ゲーム屋さんから出てきた時からずっと持っているその袋は、なんなんですか?」

圭一「これ?これは―――」

――――――

レナ「はうー……今日はレナも失敗しちゃったよ……」

梨花「よしよしなのです。仕方ないのですよ、レナ」

沙都子「で、結局何がどうなっているんですの?」

悟史「沙都子。それはね、複雑な事情が絡まりあってるんだよ」

沙都子「魅音さんは走って行ってしまいましたし、圭一さんはさっきからずっとし……ね、ねーねーと話しこんでいますし……」

悟史「あまり深く詮索しないであげて……魅音も今頑張ってると思うからさ……」

沙都子「まぁ、にーにーがそう言うのでしたら……」

悟史「ところで、沙都子」

沙都子「? なんですの、にーにー?」

悟史「どうして、さっきから詩音の事をねーねーって呼んでるの?」

沙都子「どうしてもなにも、詩音さんがそう呼べって言うんですもの」

悟史「詩音が……?それは、どういう意図で?」

沙都子「さぁ~?なんでも、行く行くはわたくしのねーねーになってくれるからだとかなんとか言っていましたけれど」

悟史「……?」

――――――

みんなで雛見沢への帰路へついている時。

悟史「ねぇ、詩音」

詩音「なんですか、悟史くん?」

悟史「行く行くは沙都子のねーねーになるっていうのは、どういう意味なの?」

詩音「っ!?」

思わず、沙都子の方を見る。

ニヤニヤしながら、わたしと悟史くんの様子を見ていた。

悟史「?」

詩音「あ、ええっと、それは、その、ですね!あ、あれですよ!お姉の件に決着がついたあと、お話しますから!」

悟史「そう?なら、いいんだけど……」

圭一「悟史……」

悟史「? なに、圭一?」

圭一「お互い、大変だな……」

悟史「う、うん……?」

詩音(何がお互い大変だな、ですか!あんたら二人とも、鈍すぎなんですよ!!)

本日の投下、以上
暴走する部活メンバーを書くの楽しかったですハイ
では

詩音のレナを呼ぶときの呼称が違うぞ
正確には「レナさん」な

すみません、>>1です
次の投下で終わり、もしくは終盤に近いところまで行こうと思うので、もう少しだけ時間かかると思います
以上、報告でした

>>145
そうだっけ?と思って見返したら、本当にレナさんって呼んでるんですね
詩音と悟史のセリフと一人称、二人称を調べる時は目明し編ばかり確認してたんで注意不足でした

永らくお待たせしました
完結まで一気に投下して行きます

――――――

魅音「詩音のバカあああああ!!!」

園崎の御屋敷に入って、私に浴びせられた第一声がそんな言葉だった。

詩音「落ち着いてくださいお姉、今回の事は謝りますから!」

魅音「明日からどんな顔してみんなに会えばいいのよー!!」

詩音「ごめんなさいって!今後の事を話しあう為に来たんですから、まずは落ち着いて!ね?」

魅音「うぅっ……」

未だに暴走気味のお姉をどうにか宥めすかせ、座らせる。

詩音「今回の件に関しては、私も少なからず悪かったと思っています。ですから、今後は真面目に協力しようと思います」

魅音「……『今後は』?」

詩音「正直に白状します。今回の件、少しだけ私も楽しんでいました。でも、勘違いしないでくださいね。お姉の事を心配して、と言うのは本当なんですから」

魅音「うー……」

詩音「で、今日のゲーム屋から出てきた後のあれは一体なんだったんですか?圭ちゃんと手を繋いで、お互いに見つめあって……」

魅音「~~~っ!!お、思い出させないでよぉ!!」

お姉はゴロンと寝転がり、もがき始める。

どうやらあの時のあれは、相当見られたくない所だったようだ。

詩音「圭ちゃんからは聞きそびれてしまったんです。あの時のあれがどういう状況だったのかで今後どうするかも変わって来ると思うから、出来れば詳細に教えてください」

魅音「う、うう……どうしても話さなきゃダメぇ……?」

頭を抱えながら、涙目でそう聞いて来るお姉。やっぱりかわいい。

詩音「私の協力がいらないと言うのだったら別にいいですけど。でも、お姉一人であの鈍感男を落とすことが出来るとは思えませんよ?」

今日の圭ちゃんの様子を見る辺り、あとひと押しな気もするが、それは言わないでおく。

魅音「……茶化さないでよ?絶対だからね?」

詩音「茶化しませんよ。もう、私にとっても他人事じゃないんですから」

魅音「……?」

私の言葉に疑問を持ったのか顔に疑問符を浮かべながらも、お姉は話し始める。

―――――

―――



Side-魅音

半ば圭ちゃんに引っ張られる形のまま歩き続け、ゲーム屋に到着する。

圭一「こ、ここでいいんだろ、魅音?」

魅音「………」

圭ちゃんの顔を直視出来ず、俯いたまま少しだけ首を縦に振る。

ドアを開け、中へと入る。

店主「いらっしゃーい……って、魅音ちゃんと圭一くんか」

椅子に座った伯父さんが、あたしたちを出迎えてくれる。

店主「手なんか繋いじゃって、ずいぶんと仲睦まじいねぇ?」

魅音「ち、違うの伯父さんっ!?き、ききき今日は、次期部長の圭ちゃんと一緒に部活で使う新しいゲームを買おうと思って!?」

あたふたと手を動かしながら、そう弁解をする。

左手は圭ちゃんにがっちりホールドされている為、圭ちゃんの手を巻き込んだままの形で。

店主「そう恥ずかしがることないって、魅音ちゃん!そっかそっか、園崎家次期頭首の旦那か、うんうん」

圭一「あ、あのー……魅音?」

魅音「はっ!?」

ここで、我に返る。

魅音「ご、ごめん圭ちゃんっ!?」

動かしていた手を降ろし、またも俯く。

もう、どうしてあたしの親戚連中はみんなこう……。

圭一「それで、店長さん。何かオススメのゲームとかって、ありますか?」

店主「うーん、特に目新しいものはないかなぁ」

腕を組み、唸りながらそう答える伯父さん。

魅音「そ、そっか!ないなら仕方ないよね、行こう、圭ちゃんっ!」

いつの間にか離されていた圭ちゃんの手を今度はあたしが取り、店の外へ出ようとする。

恥ずかし過ぎて、もう一秒たりともこの場にいたくなかった。

とにかく、頭を冷やしたい。

圭一「あ、魅音、ちょっとっ!?」

店主「ゲーム関連で目新しいものはないけど、こういうのなら、どうかな?」

圭一「えっ……?」

店から出ようとするあたしと圭ちゃんにそんな事を言いながら、伯父さんはカウンターの下から何かを取り出した。

圭一「なんですか、これ?」

店主「今の二人に、ぴったりなものだと思うよ」

それは、少しだけ大きめの箱だった。それを得意げな顔をしながら、伯父さんは開ける。

中から出てきたものは、デザインは同じで色だけが違うリストバンドだった。

店主「僕の古い知り合いから譲ってもらったものでね。誰かと大切な約束をする際、これを二人で分け合えば、いつまでもその約束を覚えていられるものだとかなんとか」

つまりは、おまじないの一種のようなもののようだった。

約束の桜の木だとか、卒業生の第二ボタンだとか、そう言った類のものだ。

店主「ほら、来年には魅音ちゃん、ひと足先に卒業しちゃうだろ?そうなったら、二人は離れ離れだ。でも、二人でこれを分け合えば、お互いに忘れてしまうこともないだろう?」

圭一「なるほどな……」

魅音「で、でもこれ、お揃い……」

圭ちゃんと、お揃いのリストバンドをつけて、手を繋いで……。

…………ちょっとだけ、いいかもしれない。

店主「僕からのささやかなプレゼントだ。これ二つとも、圭一くんにあげるよ」

圭一「え、俺に?」

店主(ほら、キミから魅音ちゃんに渡してやればロマンチックだろ?)

圭一(……もしかして、これも詩音の差し金かなんかですか)

店主(なんだ、圭一くんと詩音ちゃんの間では話が通っているんだな。なら話は早い、詩音ちゃんと僕の顔を立てる意味も込めて、受け取ってくれよ)

圭一(………わ、わかりました。俺も男です)

店主(よく言った!式をあげる時は園崎家総出で祝わせてもらうよ!)

圭一(いや、気が早いっ!?)

店主(ちなみにばれてるようだから全てネタばらしさせてもらうけど、さっきのも全部作り話だからね)

圭一(………)

店主(そんな微妙な顔をしない!)

圭一(はぁ……)

あたしがボーっとしている間に、圭ちゃんは伯父さんから紙袋をひとつ受け取っていた。

圭一「それじゃ、また来ます、店長さん」

店主「はいよ!魅音ちゃんを泣かすなよ、圭一くん!」

魅音「もうっ!!伯父さんのバカ!!」

少々乱暴に店のドアを閉める。

圭一「さて、と……」

店から出るとすぐに、圭ちゃんはまたあたしの手を握ってきた。

魅音「っ……」

こ、こういうのには早く慣れないと。もし万が一、その、そういう関係になったら、こんなのなんて日常茶飯事になるんだし……。

魅音「とっ、ところでさ、圭ちゃん!さっきのリストバンドなんだけど……」

あたしとは別の誰かと、と言おうとしたところで、圭ちゃんは握ったあたしの手を引き寄せる。

当然、あたしはそれに従う形で圭ちゃんの方へと引き寄せられる。

魅音「っ……」

圭ちゃんにぶつかる直前で、どうにか踏ん張る事が出来た。

圭一「あー、あのな、魅音……」

魅音「け、圭ちゃん……?」

圭ちゃんの眼は、あたしをしっかりと捉えていた。

……ダメだ。今回のこれは、何故だか逃げられる気がしない。

圭一「今もらってきたこれ、なんだけ―――」

「は、はう~~~っ!!」

どこからか聞こえてきた暴走モードのレナの声が、圭ちゃんの言葉を遮った。

声のした方を見ると、倒れこんでいる悟史と、暴走モードのレナと、怒り心頭といった表情の詩音と、悟史の側に寄り添っている沙都子と、こちらの様子をガン見している梨花ちゃんの姿があった。



―――

―――――

魅音「―――記憶はそこで途絶えている……」

詩音「……大体分かりました」

気が付いた時には、あたしは家へと戻って来ていた。

多分、興宮からここまで奇声を発しながら帰ってきたんじゃないだろうか。

今言ったように記憶は途絶えているから確認のしようがないし、したくもないけど。

詩音「断片的に聞いた圭ちゃんとの話とも矛盾はないですし、どうやら本当みたいですね」

魅音「え、圭ちゃんからも聞いてたの?じゃああたしから話すことなかったんじゃ……」

詩音「詳細までは聞いていませんでしたから、聞いておく必要があったんです」

詩音は口ではそう言っているが、実際はこれも詩音の悪ふざけの一環なのではないだろうか。

まあ、それも確認するつもりないし、どうせ聞いても答えないだろうけど。

詩音「………お姉自身は、今日のデートはどうだったんですか?」

魅音「ど、どうだったって言うのは?」

詩音「手ごたえがあったのかどうかですよ、もちろん」

魅音「て、手ごたえ……手ごたえ、かぁ……」

今日一日の行動を思い返してみる。

待ち合わせで合流した時、食事に行った時、悟史の試合の見学に行った時、ゲーム屋に行った時………。

魅音「うーん……収穫はあったような、無かったような……」

と言うかその辺は、圭ちゃんと冷静に話をしてきた詩音の方が測りやすいんじゃないだろうか。

詩音「はぁ……お姉も、圭ちゃんの事をどうこう言えないですね」

魅音「ため息つかないでよぉ!あたしだっていっぱいいっぱいだったんだから!」

詩音「まあ、いいです。それで、今後の事なんですが」

あたしの抗議をさらりと受け流し、詩音は話し続ける。

詩音「多分、もう私がどうこうする必要はないと思われます。あとはお姉自身が、巡って来るチャンスをモノに出来るかどうかだと思いますよ」

魅音「巡って来るチャンス……って……」

詩音「今回のデートは、効果ありだと言っているんです。あとは圭ちゃんの出方を窺っていれば、自ずとチャンスは分かりやすい形で巡ってきますよ。お姉はそのチャンスを、掴んでしまえばいいだけと言うわけです」

魅音「つ、つまりどういうこと?」

詩音「明日からは普通に過ごせばいいと言う事ですよ。次の接触は圭ちゃんからしてくるだろうし、それを待つ形です」

魅音「ふ、普通に!?無理無理、そんなの出来るわけないじゃん!圭ちゃんとのあんな、その、あれを見られて、どんな顔して会えばいいのさっ!?」

詩音「うぐっ……それを言われると、私も困ります……みんなを扇動したのは、私ですからね……」

魅音「どうにかしてよ、詩音ー!」

詩音「………わかりましたよ。ですが、明日一日だけですよ?」

それから、詩音は二つ目の作戦を話し始める。

詩音「明日一日だけ、入れ替わりましょう」

魅音「うん、それで?」

しかしそれは、作戦と呼べるようなものではなかった。

詩音「え、それだけですが?」

魅音「それだけ!?何の解決にもなってないじゃん!!」

詩音「そう?圭ちゃんの様子を、自分とは違う……『園崎詩音』として、観察出来るんですよ?」

魅音「それがどうなるっていうのよー!」

詩音「圭ちゃんの顔を見ることで、心の整理が出来るようになると思うんですけどね、私は」

魅音「う、うぅー……」

詩音「圭ちゃんを観察出来ると言う意味もありますし、お姉の心の整理も兼ねられる。これ以上ない良策だと思いますけどね」

魅音「そ、そうかなぁ……?」

詩音「それにお姉だって、いつまでも圭ちゃんを目の前にしてあたふたするわけにもいかないでしょう?恋人同士になるって目標を目指すのなら、避けては通れない道ですよ」

魅音「そっか……うん、分かった。が、頑張ってみるよ……」

詩音「何とも頼りないお言葉ですね……」

――――――

Side-詩音

翌日、お姉から聞いたいつもの待ち合わせ場所で圭ちゃん、レナさんと合流する

レナ「魅ぃちゃん、おはよー!」

詩音「おはよー、レナ!」

圭一「……よ、よう、魅音」

詩音「ん、おはよ、圭ちゃん」

圭一「………?」

レナ「魅ぃちゃん、昨日はゴメンね。圭一くんと二人っきりのところを邪魔しちゃって……」

詩音「あー、別に気にしてないから、ダイジョブだって!そんなしょんぼりしないでよ、レナ!」

レナさんにフォローを入れながら、圭ちゃんの方を一瞥する。

その手には、あの紙袋が握られていた。

……まさか、学校で渡すつもりだったんですかね、この男は。

詩音「どしたの、圭ちゃん?なーんか戸惑ってるみたいだけど」

その紙袋には気付いていない振りをしながら、圭ちゃんに声を掛けてみる。

レナ「圭一くん?どうしたのかな、かな?」

圭一「………なぁ」

圭ちゃんはあたしの眼を見ながら、ようやく声を発した。

詩音「ん?何?」

圭一「……すまん、レナ。魅音と二人で話をさせてくれないか?」

レナ「えっ?う、うん、わたしはいいけど……?」

圭一「魅音、ちょっとこっちに」

圭ちゃんは私の手を取ると、レナさんと少しだけ距離を置いた木の下まで歩いて行く。

詩音「ちょっと、どうしたのさ圭ちゃん?まさか、昨日の続きでもしようっての~?」

茶化し気味に、そう聞いてみる。

圭一「……はぁ。何のつもりだ、詩音?」

ありゃ、もう気付いちゃったか。まあ別に圭ちゃん相手には隠すつもりなかったから、当然と言えば当然だけど。

それでも一応、茶々を入れてみる。

詩音「流石、私とお姉の区別は付けられるんですね。最早二人の間に余計な言葉はいらない!的な?」

圭一「茶化すなよ。第一お前、隠す気なかっただろ?」

詩音「そこまで看破されてましたか、流石です。だけど、レナさんや他のみんなには、内緒にしておいてくださいよ?」

圭一「……魅音が、そう頼んだのか?」

詩音「頼まれた、と言うわけではないですよ。昨日の一件は私にも責任がありますし、今日一日だけ入れ替わってあげようと思った、ただそれだけです」

圭一「今日一日入れ替わったところで、何か変わるのかよ?」

詩音「ええ、変わります」

きっぱりと、そう言い放つ。

圭一「………一応、今日、俺も覚悟を決めて出てきたんだけどな。それに関しては?」

詩音「うーん……圭ちゃんが今日決着をつけると言うのなら、私は止めませんけど……お姉が、それを真正面から受け止められるかどうかはわかりませんよ?」

圭一「いいんだ。もう―――逃げないし、逃がさない」

そう言う圭ちゃんの顔は、決意に満ち満ちていて……不覚にも、少しだけカッコいいと思ってしまった。

なるほどね……お姉が惚れた気持ち、ちょっとだけ分かっちゃった気分だな。

詩音「……それじゃ、お姉のこと、圭ちゃんに……いえ、お義兄(にい)に任せます。泣かせたら、承知しませんからね?」

圭一「はは……気が早いな。まあ、沙都子にねーねーって呼ばせてるくらいだし、それが詩音の普通か」

詩音「そういうことです、お義兄」

それからはレナと合流し、他愛ない話をしながら学校へと向かう。

圭ちゃん―――お義兄の覚悟は、もう十分だ。

あとはあなた次第ですよ、お姉。

――――――

Side-魅音

詩音と入れ替わったあたしは、ひと足先に学校へと来ていた。

………まだ正式な転校の手続きは済ませていないはずなのに、詩音はもうすっかりここ、雛見沢分校の生徒の一員と化している。

あの一件の後から、婆っちゃもかなり丸くなったようだったし、詩音が雛見沢に居着いているのも黙認している。

北条家に対する村八分を解いたことで、婆っちゃも吹っ切れたのかな。

或いは、一年前の悟史の失踪から詩音にずっと負い目を感じていて、悟史が帰って来た事で詩音の気持ちを酌んでいるか。

まあ、実際のところは婆っちゃのみぞ知るってところさね。

そんなわけで、詩音に扮しているあたしは、しかしちゃんと雛見沢分校へ登校したと言うわけだ。

魅音「おはようです、みんな!」

教室のドアを開け、みんなに挨拶する。

沙都子「おはようございますですわ、詩音さ……ね、ねーねー?」

魅音「おはよ、沙都子」

少し前までは沙都子のトラップに注意しなければならなかったのだが、悟史が帰って来てからはそれもなくなっていた。

もう、トラップで自らを守る必要もなくなった、と言う事だろう。沙都子は沙都子で、悟史が帰って来た事で変わったのだった。

梨花「おはようなのですよ、詩ぃ」

魅音「おはようございます、梨花ちゃま」

あの一件で、一番変わったのは梨花ちゃんかもしれない。

たまに大人びた雰囲気を垣間見せていた梨花ちゃんは、あの一件以来その様子を見せなくなってしまった。

あの一件の終結後、圭ちゃんと梨花ちゃんが言っていた―――羽入と言ったか―――子が、梨花ちゃんと別れてしまったからだと思うが、本人はその事を語りたがらない。

今は元気を取り戻したようだが、少し前まではすごく落ち込んでいたものだった。

悟史「おはよう、詩音」

魅音「っ……お、おはよう、悟史……くん」

危ない危ない、いつもの癖で呼び捨てにするところだった。

悟史は、あたしの見る限りでは特に変わった様子はなかった。

一年もの間眠っていたのだから、当然と言えば当然か。

悟史「………?」

魅音「いやー、昨日は参ったね。悟史くん、大丈夫ですか?」

悟史「え、あ、ああ……うん、大丈夫だよ。そんなに強く殴られたわけじゃないし」

梨花「悟史も沙都子の手前、弱音を吐くわけにはいかないのですよ。強い子なのです」

悟史「アハハ……別に、そういうわけじゃないんだけどなぁ」

沙都子「レナさんには困ったものですわ。あの見境なくなるモードは、どうにかならないのでございましょうかねぇ?」

魅音「まあ、そんなにレナを責めないであげてよ。レナには、あたしからちゃんと言っておきましたから」

沙都子「別に、責めているわけではございませんが……」

悟史「………キミ、本当に詩音?」

魅音「っ!」

急に悟史にそう指摘され、ドキリとする。

魅音「な、なんでそんな事を聞くんです、悟史くん?あたし、どこかおかしいところありましたか?」

悟史「うーん……なんだろう、なんとなく違和感が……」

梨花「? 詩ぃは詩ぃじゃないのですか?」

沙都子「え?詩音さんじゃない?」

ヤバい、ヤバい!

魅音「ご、ごめんなさいみんな!ちょっと、悟史くんお借りしますね!」

このままだとみんなに看破されると思ったあたしは、悟史の腕を取ってみんなと距離を置く。

悟史「ちょ、ちょっと詩音っ?」

魅音「シーッ!声を沈めて、悟史!」

悟史「………やっぱり、魅音だった」

魅音「っ……その、ゴメン。みんなには、黙っておいてくれると嬉しいんだけど」

悟史「いや、それは構わないけど……どうして詩音になり済ましてるの?」

魅音「悟史だって、昨日のあの現場に居合わせてたんだからなんとなくわかるでしょ?み、みんなに一部始終見られて、それで尚普通に魅音として振る舞う事なんて、あたしにはとてもじゃないけど出来ないよ!」

悟史「……何と言うか、まあ、僕が眠っていた一年の間に、魅音もずいぶんと乙女チックになったねぇ」

魅音「うっ、うるさいうるさいっ!茶化さないでよ!恥ずかし過ぎてあたし死んじゃうよ!?」

悟史「落ち着いて、魅音。えーと、それじゃ、詩音の方が魅音として登校してくる、ってことでいいのかな?」

魅音「……そうなるはずだよ。詩音がちゃんとしてくれていれば、だけどね」

悟史「少しは詩音のことを信用してあげなよ、魅音。昨日の一件は、詩音もだいぶ反省していたみたいだったし」

魅音「それは分かってる……つもりだけどさぁ……」

悟史とそんな押し問答をしている間に、三人が登校してきた。

レナ「おはよー、みんな!」

詩音「おはよう!」

魅音「おはよう、お姉、レナ。それに……」

圭一「……おはよう、『詩音』」

魅音「……」

まあ、とりあえずは信用しても良さそう……かな?

魅音「……ん、おはよう、圭ちゃん」

圭ちゃんと会うと、また胸が高鳴り始める。

でも、ちゃんと詩音として振る舞えている……と思う、多分。

詩音「おはよう、悟史『くん』!」

悟史「………」

圭一「………」

魅音「………」

詩音「………あ」

レナ「あ、あれ?な、何かな、何かな?この微妙な空気?」

前言撤回。やっぱり不安だ。

――――――

その日は一日、冷や冷やされっぱなしだった。

詩音は悟史のことを呼び捨てに出来ない性分で、悟史の名前を呼ぼうとする度に声は震えているし、悟史は悟史であたしと詩音の姿を見ては微妙な表情をするし。

あげくの果てに、圭ちゃんは圭ちゃんで事ある毎に詩音と二人で話をしてるし。

いや、まぁ、それも目的のひとつではあるんだけどね?

でも、昨日のあの一件があった後で、圭ちゃんと『魅音』がそんな内密に話をしてるなんて、なんか、それ、もう、あれじゃん!!ダメじゃん!!

何がどうダメなのかは具体的には言えないけどさ!!なんか、周囲の目から見たら既成事実出来ちゃってるみたいじゃん!!

あたしだって女の子だよ?その、自分の好きな人が、自分の双子の姉妹とは言え、自分じゃない子とそんな親密に話してるところをしょっちゅう見ちゃってたら、ヤキモチ妬いちゃうよ!?

ああ、でも、圭ちゃんはあたしと詩音が入れ替わってるってことは知らないはずだし、そういう意味合いでは間違ってないのかな?なんて考えだすと、頭がこんがらがって来る。

そんでもってあたしは今現在『詩音』なのだ。だから、その通りに振舞わなければいけないわけで。

沙都子には悟史との中を色々冷やかされるし、悟史は悟史でそう冷やかされるとまた微妙な表情をするし。

あたしに至っては悟史が口を滑らさないように細線の注意を払わなきゃならないから悟史と二人で話さなきゃならないことにまでなるし!

悟史と二人で話しているところを詩音に目撃されるたびにその視線はあたしにチクチクと刺さって来るし!!

………まあ、そんなこんなで色々あったけど、どうにかこうにか放課後がやって来た。やって来てくれた。

長かった一日が、ようやく終わるのだ。なんか、当初の目的ってなんだっけって気がしてくるが、そんなのはもう些細なことだと思えるようになっていた。

梨花「魅ぃ、今日は部活は無いのですか?」

魅音「っ……」

梨花ちゃんのその言葉を聞いて、思わず反応してしまいそうになる。

危ない危ない、今のあたしは詩音……詩音……。

詩音「うーん、ゴメンね。今日は詩音がさ、ちょっと用事あるらしいんだ。だから今日の部活は無しってことで」

沙都子「あら、部活はないのでございますですのね。でしたら帰りましょうか、梨花、にーにー」

梨花「用事があるんだったら仕方ないのです。帰りましょう、沙都子、悟史」

悟史「あー、うん、そうだね」

そう言って、沙都子と梨花ちゃんと悟史は教室を出ていく。

レナ「詩ぃちゃん、用事っていうのはこの後すぐ行かなきゃならないところなのかな、かな?」

魅音「そうですね。バイトを急に頼まれてしまいまして。今から興宮に行かなきゃならないんです」

適当に理由をでっちあげる。とりあえず、これ以上みんなと行動を共にしていたらボロが出てしまいそうだ。

レナ「それじゃ、詩ぃちゃんとはここでお別れだね。帰ろう、圭一くん、魅ぃちゃん?」

圭一「………悪い、レナ。俺もちょっと、放課後は用事があるんだ」

魅音「………?」

なんだろう。圭ちゃんの様子が、なんだかいつもと違うような……?

レナ「……そうなんだ。それなら、仕方ないね。魅ぃちゃん、一緒に帰ろう?」

詩音「そだね、帰ろっか、レナ!」

圭一「詩音、俺も興宮の方に用事があるんだ。途中まで一緒に行こうぜ」

魅音「え……?う、うん……」

今は『詩音』になり済ましているあたしと一緒に行こう、か……。

昨日はあたしと……『魅音』とデートしたって言うのに、なんだか寂しい。

あるいは、これが圭ちゃんなりの答え……なのかな。


校門前まで、四人で歩く。

レナ「それじゃ詩ぃちゃん、圭一くん、また明日ね」

圭一「ああ、また明日な、魅音、レナ」

魅音「また明日です、お姉、レナさん」

詩音「バイト頑張ってねー、詩音!圭ちゃんも、また明日!」

四人それぞれ挨拶をして、分かれる。

魅音(それにしても、圭ちゃんの用事ってなんだろ?)

興宮に行くような用事と言ったら、結構限られて来ると思うんだけど。

圭ちゃんの用事についてはさっぱり見当もつかなかった。

圭一「ふぅ……ようやく、長い一日が終わったな」

魅音「あっはは、そうですね。本当、今日は長い一日でしたよ」

あたしはあくまで『詩音』の口調で、圭ちゃんと対する。

圭一「だってよ、誰の目から見ても明らかなのに、誰もそれを言い出せないんだぜ?例えとしては悪いかもしれないけど、北条家に対する雛見沢の姿勢を思い出しちまったよ」

魅音「ええ、分かります。大体―――……」

あれ?なんだろう、この話は?

圭一「もう二人っきりだぞ?……―――魅音」

圭ちゃんはそう言って、立ち止まる。

魅音「え、あ……」

その指摘を受け、辺りを見渡す。

確かに、今この場には、あたしと圭ちゃんしかいなかった―――

Side-詩音

詩音「はぁ~、やれやれ、世話の焼ける姉だこと」

レナ「ふふっ、何言ってるの、詩ぃちゃん?」

詩音「あ、やっぱり気付いてたんですね、レナさん?」

もう隠す必要もなくなったため、ストレートにそう聞いてみる。

レナ「もちろんだよ。多分、みんなも薄々気付いてたんじゃないかなぁ?」

詩音「そうそう!誰にも気付かれてないって心底信じてたのなんて、お姉くらいなものですよ」

レナ「圭一くんも、多分気付いてたんだよね。それで、魅ぃちゃんと二人っきりになろうとして、用事があるって言い出した……違う?」

詩音「―――ええ、そうです。なんだ、そこまで気付いてたんだ、レナさん?」

レナ「ふふっ……これでも、わたしは魅ぃちゃんの親友だよ?何も気付かないほど、鈍くはないよ。圭一くんじゃあるまいし」

詩音「おっ、レナさんも言うようになりましたね~?」

でも―――レナさんには、悪い事をしてしまったかもしれない。

レナさんの気持ちにも薄々気付いておきながら、私はお姉を応援する事にしたんだから。

レナ「何考えてるの、詩ぃちゃん?」

詩音「ん……。恋って、難しいなぁ……、てね」

レナ「……そうだね」

詩音「レナさんにも、悪い事をしちゃったなって気持ちはあるんですよ?でも、それに関して謝るのは、なんだか違うような気もするし……ホント、難しいです」

レナ「わたしはね、詩ぃちゃん。みんなが笑って暮らせるようになるんなら、それでいいんだよ」

詩音「………」

レナ「魅ぃちゃんと圭一くんも、二人がお付き合いをすることでこれからも笑顔で暮らせるなら、わたしはそれでいいの」

詩音「レナさんは、強いですね」

私の言葉には言葉では返さず、レナさんは笑顔で返してくる。

だけど、その笑顔は、どこか寂しさが感じられた。

レナ「詩ぃちゃんも、頑張ってね?」

詩音「………」

レナ「わたしにとっては、魅ぃちゃんと同じくらい……ううん、比べる必要なんてないよね。詩ぃちゃんも、わたしの大事で大切な、親友だから。幸せになって欲しいなって、そう思うの」

詩音「っはー……参った。レナさんには一生敵わないです」

少しだけあった心残りも、当人の言葉によって解消された。

これで、私はお役御免ですね。

後は頑張ってください、お姉―――

――――――

Side-魅音

圭一「魅音……」

背後から名前を呼ばれ、振りむく。

魅音「け、圭……ちゃん……」

当然、そこにいたのは、圭ちゃんただ一人だけだ。

圭一「俺、やっと気付いたんだ。俺さ、すげぇ鈍感で、気付かないうちに魅音を傷つけたりしたこともあったかもしれないけどさ……」

魅音「……っ……」

いつか、どこかで聞いたような言葉だった。

これは、そう……詩音と二人で、前原圭一攻略作戦を始めた日に見た夢だ。

と、言う事は……。

圭一「それでも、魅音は俺の事許してくれるか?こんな俺でも、お前の隣にいていいか?」

魅音「あたしの、隣に……。い、いいの、圭ちゃん?あたしの隣に、いてくれるの?あたし、こう見えてすっごいヤキモチ妬きだよ?ずっと、あたしの隣にいてくれるの?」

口でそう言いながら、足はジリジリと後退する。

あたしの言葉で、少しでも圭ちゃんが怯むようなら……申し訳無いけど、今のあたしにはそれでも尚手を伸ばす勇気なんて出ない。

圭一「逃げるなよ、魅音。もう、俺も逃げないから」

少しも怯む様子を見せずにそう言い放ち、あたしの腕を掴む圭ちゃん。決して強く握っているわけではないのに、その手からは強い意志が宿っているような気がした。

魅音「け、圭ちゃん……?」

圭一「魅音……―――」

圭ちゃんの顔が近付いて来る。少しずつ、ゆっくりと。

腕を掴まれているせいで、逃げることも出来ない。

……多分、逃げる事が出来たとしても、逃げてはいなかっただろうけれど。

魅音「~~~~っ………!!」

意を決して、あたしは固く目を閉じる。

あたしの見た夢は、ここで途切れている。ここから先、どうなるのかなんてわからない。

眼前まで近づいて来た圭ちゃんの顔は、あたしの顔を素通りして、耳元で止まる。

圭一「お前に、渡したいものがあるんだ。……受け取って、くれるか?」

魅音「―――………うん。受け取る。受け取るよ、圭ちゃん」

夢の続きに、進むことが出来た。

それが、何よりも嬉しくて……今も、夢の中にいるんじゃないかって気がして。

圭一「昨日、ゲーム屋の店主からもらったものだ。話は、魅音も聞いてたよな?」

魅音「うん……聞いてたよ」

それは、確か―――

魅音「『誰かと大切な約束をする際、これを二人で分け合えば、いつまでもその約束を覚えていられるもの』……」

圭一「ああ、そうだ。それで、その約束っていうのは、魅音の方があるんだろ?」

魅音「………」

口を開くことが出来ず、コクリと頷く。

圭一「聞かせてくれよ、魅音。俺が、ずっとお前の隣にいられる為の言葉を」

そう言って、圭ちゃんはリストバンドの片方を、あたしに差し出して来る。

後は、あたしが、伝えたい言葉を……約束を、口にするだけだ。

魅音「あたし……あたしは……」

不器用でも構わない。あたしは、あたしに出来るように言葉にする。

魅音「圭ちゃんとは、ひとつ歳が離れてて……来年には、雛見沢分校を卒業して、高校に進学しちゃう身なんだよね。だから、ずっと圭ちゃんの隣にいることは、出来ないけど……。
    いつかまた、同じ場所に帰ってきたら……その時は、あたしの隣には、圭ちゃんがいて欲しい。離れ離れになってしまっても、ずっと、ずっと、お互いの事を忘れないでいよう?」

なんだか、言いたい事を詰め込んだら支離滅裂になってしまった気がする。

でも、これがあたしの言いたい全てだ。

何一つ偽りのない……あたしの気持ちだ。

魅音「ずっと、あたしの事を、覚えていてくださいっ……」

そう言って、圭ちゃんから差し出されたそれを受け取る。

圭ちゃんがそれを持つ手を離してくれれば―――この約束は、二つのリストバンドが繋げてくれる。

圭一「―――………ああ、勿論だ。俺は、魅音の事を絶対に忘れない」

その言葉と同時に、圭ちゃんはリストバンドをあたしに受け渡してくれた。

圭一「俺の隣は魅音の居場所だし、魅音の隣は俺の居場所だ。―――そういうことで、いいな?」

魅音「圭、ちゃん……!うん、うん……!」

圭ちゃんから受け取ったリストバンドを胸に抱きながら、あたしは何度も頷く。

届いたんだ、あたしの想いが。

ずっと、忘れずにいられるんだ……。

圭一「そのー、なんだ。まぁ、これからは……って言うと、なんかおかしいか。これからも、よろしくな、魅音。お前の気持ち、確かに受け止めたからな……もう、離さないからな」

魅音「こっちこそ……よろしく、圭ちゃん!」

そうして、あたしは圭ちゃんの胸の中へ飛び込んだ。




ああ、なんだろう。

すっごく恥ずかしくて、今にも泣きだしそうだけど。

口の端が上がって行くのを、止められない。笑顔になるのを、止められない。

きっと、それが恋をするっていうことで。

言葉では言い表せない、難しい気持ちで胸がいっぱいだった。


 

『恋難し・終幕』

圭ちゃんと、今度はしっかりと手を繋いで、日の落ちていく様子を眺めながら雛見沢の田舎道を歩く。

あれから、然したる会話もなくただ流されるように二人並んで歩いていた。

あたしの思い描いていた関係とは、ちょっと違ってしまっているかもしれないけれど。

それでも、今、あたしの胸の中は幸せでいっぱいだった。

そしてその気持ちは多分、圭ちゃんと共有出来ていると思う。

気恥ずかしいけど、視線が合えば、お互いに笑いあう。

うん。まぁ、あたしたちはまだ、子供なんだし。

こういう距離感が、一番正しいのかもしれないね。

詩音「はろろーん、お二人さん♪」

園崎の屋敷の前に到着すると、満面の笑みを浮かべた詩音が出迎えてくれた。

詩音「その様子は、どうやらうまく行ったみたいですね?」

魅音「うん……まあ、ね」

ちらりと圭ちゃんに視線を送る。

圭ちゃんは恥ずかしそうに視線を明後日の方に向けていた。

詩音「一件落着、めでたしめでたし!ってところですね」

レナ「はう~!おめでとうなんだよ、二人とも!」

沙都子「やれやれですわね。まぁ、今後とも仲睦まじくやるとよろしいですわ」

梨花「おめでたいのです。魅ぃ、圭一、末永くお幸せにしやがれなのですよ、にぱー☆」

悟史「おめでとう、魅音、圭一。二人が幸せそうで、何よりだよ」

詩音の後ろから、他の部活メンバーも顔を出して祝福の言葉をくれた。

魅音「たはは……まぁ、一応、そういうことだから。な、なんか、気恥ずかしいね、全く!」

照れ隠しに笑いながら、みんなに改めて報告する。

圭一「えーっと、だな。改めて、魅音の隣にいることにしたから、今後ともよろしくお願い、します」

そう言って、恭しくみんなに向けてお辞儀をしている圭ちゃん。

少し滑稽な光景だったけど、みんなは優しい笑顔で返してくれた。

詩音「しっかし、これで本当に公認カップルってわけですねぇ。圭ちゃんはこれから大変だと思いますよ?園崎家の方々は、そりゃあ怖い方もいますからね」

圭一「大丈夫だよ、詩音。例えどんなことがあったって、俺はもう魅音を離さないって決めたんだから。な、魅音?」

魅音「~~~……ま、まあ、一応、そういうことになっちゃってるってことで……うん」

詩音「ありゃまー、もう茶化しても意味なしですかー、つまんないのー」

魅音「残念でしたー!いつまでも詩音に茶化されてたまりますかっての!」

詩音「ふふっ……ホント、おめでとう、魅音」

魅音「―――うん、ありがと、詩音」

詩音「それじゃ、これからは本格的にお義兄って呼ばせてもらいますからね、お義兄?」

圭一「一応、年齢で言えば詩音の方がひとつ年上ではあるんだがな……ま、気安く呼んでくれ!」

とまぁ、そんなわけで、あたしと圭ちゃんは付き合う事になった。

今後、二人で少しずつ、付き合うっていうことがどういうことなのかを、模索していくことになるだろう。

それがとても楽しみで、ちょっとだけ不安もあって。

でも、圭ちゃんと一緒なら、なんでも楽しくやれるだろうって。

そんな確信めいた想いが、あたしの胸中にはあった。


恋難し編・完

以上、「ひぐらしのなく頃に 恋難し編」はこれにて終了となります
これを執筆中、全部で三部作にしてやろうとか、色々考えていたりするんですが、今後どういう感じで投下するか悩み中です
タイトルは

ひぐらしのなく頃に 夢
第一章 「恋難し編」
第二章 「語遺し編」
最終章 「鏡写し編」

で、ある程度あらすじも考えています
支障がなければ、二章以降もこのスレで投下しようかなと考えています
よければ、意見を聞かせてくれると嬉しいです

スレを閉じるにしても、依頼の方は明日やろうと思っています
では

>>1です
このスレで続き書けそうなので、このまま投下続けようと思います
次は「語遺し編」ですね
今度の投下は月曜か火曜辺りにやる予定です

一応読み方はそれぞれ「こいがたし」「かたりのこし」「かがみうつし」になります
よろしければもう少々お付き合いくださいな

では



夏休みに入った、ある日の事。

俺は、興宮のゲーム屋へと足を運んでいた。

別にこれと言った用事があったわけではなかったのだが、ある日を境にここに来るのが癖になっていたのだった。

ある日とは……まあ、そんなのは些細な問題だろう。

今重要なのは、ここで店主から見せてもらう事になるものだ。

店主「やあ、いらっしゃい圭一くん」

圭一「こんにちは、店長さん」

店主「そろそろ来るかなと思っていたよ。実はね、キミに見せたいものがあったんだ」

圭一「俺に?」

この人は、ゲーム屋を営んではいるのだが、それとは別に自身の趣味で色々なものを入荷している。

その中には意図的に割られた形跡のある石や、羽根の形をしたペンダント等々、よく言えば神秘的、悪く言えば怪しげなモノも多々あった。

基本的にそれらは店に並べることはなく、自身のコレクションにしているようだったが、俺がここへ来る事が多くなって仲良くなってからは、それらを見せては楽しい話を聞かせてくれるようになった。

そして今回見せてくれたものは、金色の輝きを放つ箱だった。……やはり、怪しげだ。

圭一「……なんですか、これは?」

店主「僕の古い友人から譲ってもらったものだよ」

第一声は必ずと言っていいほどこれで始まる。

この人自身、それほど歳は取っていないように見えるのだが、その辺りは突っ込んだら負けなのだろう、多分。

更に言うなら、それが真実であるのか作り話であるのかすら、俺には判断が出来ない。嘘を吐くのがうまいと言うか、園崎の人間にはそういうスキルを持っている人が多いのかもしれない。

店主「このパズルを解きし者、闇のゲームを受け継ぎ正義の番人として悪を裁く―――なんて言い伝えがあるいわくつきのものらしい」

圭一「パズル?」

その言葉に疑問を抱きながら、箱の蓋を開けてみる。

中に入っていたのは、バラバラのパズルのピースだった。

圭一「へぇ……なんだか、面白そうですね」

店主「だろう?圭一くんは魅音ちゃんがやっている部活の部長を引き継ぐんだし、こういうものも喜んでくれるんじゃないかと思ってね」

圭一「ちょっと、組み立ててみてもいいですか?」

店主「ああ、いいよ。と言うより、それは圭一くんにあげようと思うんだ。持ちかえってもらっても構わないよ」

圭一「え、もらってもいいんですか?」

店主「いやね、恥ずかしい話……僕が自分で組み立ててやろうと思ったんだが、何故か完成させられないんだ。そんなに難しくもなさそうに見えるのに、僕の腕も衰えたかな」

圭一「……いわくつきですね」

箱の中身を全て出してみるが、俺が見てもそれほど難しそうなパズルには見えなかった。

店主「もし完成させることが出来たら、僕にも見せてくれないかな。部長となる者の腕を、僕に見せてくれよ」

圭一「分かりました、俺なんかでよければ」

なんて言ってみるが、この人が完成させられなかったものを俺が完成させられるとはちょっと思えなかった。

俺は別に、ゲームが得意というわけではない。今も、部活では頻繁に罰ゲームを受けている身だし。

ただ、ちょっとした好奇心だった。

闇のゲーム、正義の番人、悪を裁く……。

燃えるじゃねえか!!

          小さなカケラがひとつ零れた。


          その存在には誰も気付かず、それはいつの間にかどこかへ消えてしまった。



          小さなカケラがひとつ零れた。


          誰にも見せたくなかった者が、そのカケラを隠したまま忘れ去ってしまった。



          小さなカケラがひとつ零れた。


          誰もが見向きもしない程小さなそれは、しかし確かに零れたものだった。



          零れたたくさんのカケラはいつしか一所に集まり、今日も誰かの目に触れる日を心待ちにしている。





     Frederica Bernkastel





ひぐらしのなく頃に  夢
            第二章  『語遺し編』



   













          要するに、しょーもない小ネタ集なのですよ。にぱー☆

   Furude Rika






その1  「前原圭一の明るい闇」




  

短いですが本日の投下、以上
そんなわけで、語遺し編の始まりです
分からない方もいると思うので一応。今回圭一がもらったものは千年パズルと言うもので、遊戯王とのちょっとしたクロスになります
が、分からない人でもちゃんと読めるように書くので、悪しからず
ショートストーリーの寄せ集めで、全部で五つになります
それぞれ圭一主人公、レナ主人公、沙都子&詩音主人公、梨花主人公、魅音主人公で書く予定です
基本的にゆるーい感じで進めていくつもりなので、生温かい目で見守ってくれるとうれしいです
では

えーとカプssは終了ってことでいいの?
続きや別のカプでも書くなら読むけど、クロスは求めてないので他行く

>>217
2章は小ネタいくつか書くですが、最終章の鏡写し編は詩音、悟史メインで書こうと思ってます
あと説明不足だったんですが、遊戯王とのクロスはその1で少しだけ使うだけです

報告遅れました、>>1です
リアルの方が忙しく、しばらく書く暇がなさそうなので、このスレはここで投下終了にさせていただきます
続きは今のところ未定ですが、鏡写しだけは書きたいので、いつか新スレを立ててそこで書こうと思います
HTML依頼に行ってきます

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