魔王「旅に出ます」(5)

 魔王は、450歳の誕生日を迎えようとしていた。彼は今も、待ち
続けているのだ、いつかお前を倒すと旅に出た、勇者がやって来る
のを。しかし、なかなか来そうにもないので、自分の長すぎる人生
を、テレビゲームとsexで塗りつぶす日々が続いていた。そして
夜更けには、いつになったら勇者は来るのかと嘆きながら、枕を濡
らしていたのだ。もしかしたら、勇者は旅を途中で放棄しているか
もしれない。そんな恐怖も抱きながら。
 魔王には、8歳になる娘がいた。彼女は年老いて足腰の弱った魔
王の介護に明け暮れていた。だるいと思いつつも、魔王が孤独死す
れば自分にやられる番が回って来るから、魔王を殺さないようにし
ていたのだ。だけど、もう魔王も嘆かわしいほどにやつれて来たの
で、そろそろ介護にも飽きてきたようだ。

 彼女は滅多に愚痴を言わないので、魔王は、娘が父を捨てようとしている
ことなど知らない。それどころか最近は、より一層彼女に甘え、執着するよ
うになった。いい年した、爺さんのくせにである。
 そういう父の姿に怒りを覚えていたから、彼女の中では既に『殺す』という
決意は確固たるものとなっていた。いつか殺す、そう思いながら介護を続けて
いた彼女の懐には、常に毒薬が入っていた。これを彼の食事に入れれば、即死
させることができる。もし殺したのが発覚したときは、自殺もできる。

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