グリP「アイドル達の育成に失敗した」 (85)
翼「うわーん! また彼氏に二股かけられたー!」
静香「うどん……うどん……」ズルズル
未来「ああああのあの二人とも……どぅひぃっ、どどどどぅひひひっ」
P「どうしてこうなった……」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403873589
P(原因は分からない)
P(ただその『変化』が表れたのは数週間前、俺が地方に出張していた時の事だった)
P(翼は元々のビジュアルの良さ、そしてその恋愛に対する欲求の高さから年上のダメ男達との絡みが多くなっていったらしく……)
P(未来に関しては、何故か事ある度に日常会話で吃るようになっており……)
P(静香は毎日素うどんをすすり、ファンの皆を困惑させ続ける日々)
P「………」
P「これ、社長になんて報告しよう……」
小鳥(プロデューサーさんって苦労人よねえ)
P「しかし、数週間前のほんの僅かな期間に一体何が……」
P「未来達の事はともかく、あの翼があんなにも軽い女になっているなんて」
翼「あっ、プロデューサーさん!」
P「ああ、おはよう翼」
翼「ねえねえ聞いてよー、昨日話してたA君とデートしてたらさー……」
P「す、すまんがその話はまた今度にしてくれるか?」
翼「えー、どうして?」
P「聞いてみたいことがあってな」
翼「聞いてみたいこと?」
P「ああ。その、なんていうか……」
翼「なんていうか?」
P「いつから翼は、そういう男の子達と交流を深めるようになったのかなーっと……」
翼「………」
翼「………」
P「………? 翼?」
翼「へえー」ニヤ
P「な、なんだよ。そのニヤケ面は」
翼「プロデューサーさん、もしかして嫉妬してくれてるの?」
P「いや、そういうわけでもないんだが……」
翼「あはは、別にごまかさなくたっていいじゃーん。私とプロデューサーの仲なんだし」
P「あのな。俺はただ、今後の活動に支障が出ないかどうかを心配してるわけで……」
翼「もー、素直じゃないなあ」グイ
P「へ?」
翼「ほらプロデューサーさん、チュー♪」チュウッ
P「」
P「おおおおま、何して」
翼「あはは、プロデューサーさん顔真っ青だよ? かわいー!」
P「ふ、普通は顔面蒼白の人間を見た時、カタチなりとも心配するものなんだぞ」
翼「えー、なんでちゅーした相手を心配する必要があるの?」
P「この先俺を待ち受けるであろう、社会的な死という悲しい未来がお前には見えんのか」
翼「もう、よくわかんないことばっか言わないで大人しくしててよー」グイグイ
P「ちょ、馬鹿押し倒すなっ」ドスッ
翼「要は事務所の皆にこの姿を見られるのが問題ってことだよね?」
翼「大丈夫大丈夫。今周りに誰も居ないし、どうせしばらく誰も帰ってこないって!」
P「そ、そういうことでもなく、俺にも立場というものがあってだな……」
翼「むー。普通女の子にここまでされたら、流れでおっぱいぐらい揉んでくるもんだと思うんだけどなー」
P「いい歳した大人が、流されるまま女子中学生の胸揉んだらそれこそ問題だろが」
翼「しょうがないなー。じゃあ実力行使!」ガバッ
P「えっ」
翼「ねえ、プロデューサーさん……」
翼「私とイイコト、しよっ?」チュ
P「アッ――――――!!」
星梨花「のの、のり子さんっ!」
のり子「んー? どうしたの?」
星梨花「いいい今何か、事務所から野太い悲鳴がっ!」
のり子「ああ。じゃあプロレスごっこか何かでしょ、きっと」
星梨花「なーんだ。そうだったんですね」ホッ
――数時間後――
P「あ、危なかった……」
P「あの後星梨花がプロレスごっこと勘違いして、楽しそうに俺達に乱入したのち……」
P「誤って翼を気絶させていなければ即死だった……後で星梨花にはご褒美を買ってやらないとな」
P(それにしても、あの翼の変化はやはり妙だ)
P(以前はあそこまで積極的な女の子じゃなかったはずなのに……いや、それぐらい男の存在は女を変えてしまうってことか?)
静香「うどん……うどん……」ズルズル
P(む。事務所のデスクで静香がうどんをすすっているな)
静香「うどん……うどん……」ズルズル
P(ここは思い切って声を掛けてみよう)
P「おーい、静香ー!」
静香「うどん……うどん……」ズルズル
P(やはりだんまりか……)
P(静香は静香で、何故か『うどん』以外の言葉を口にしない)
P(しかし仕事はキチンとこなしている分、ファンと俺の頭を悩ませているという点を除けばそこまで害があるわけでもないんだが)
静香「………」チラッ
P「………」
静香「」ズルズル
P「………」
静香「………」ギラッ
P(時折見せる意味ありげな視線が怖い)
P「まいったな……二人とも中々解決の糸口を見出せそうにない」
P「残った一人は本来一番扱い易い女の子のはずなんだけど」
未来「おおおおおお、おっ、おひゃっ、おひゃようごじゃりまするううううう!!」
P(まず、マトモにコミュニケーションが成立したことがないのがなあ)
未来「ぷ、ぷろりゅーさーしゃんっ、おひゃっ」
P「ああ、おはよう。今日はラジオの収録があるからな、気合い入れて行こう!」
未来「ふゃ、ふゃいいいぃぃ!」
P「ははっ、そう気負わなくていいさ。いつも通りリラックスしてくれればそれで……」
未来「はひぅぅぅぅ!!」
P「………」
未来「ふひゅっ、ふひゅ」
P「………」
未来「はひっ、はひ」
P「………」
P「みらいひゃぁぁぁぁぁあああんっ!」
未来「ぶっふぉっ!」
小鳥(プロデューサーさんが壊れた)
P「己を見失ったあの日から数日……」
P「結局、三人が変わった大きな手掛かりは見つけられなかったな」
P「仕方ない。ここは気分転換にテレビでも見てリフレッシュするか」ピッ
司会『さて本日のゲストはこの人! ―――――です!』
?『どうぞよろしゅう~』
P「お、他の事務所のライブ映像か……どれどれ」
?『こんちきちん♪ こんちきちん♪』
P「うおお、凄いな……和服を着た美人が、ヘドバンしながら華麗な歌とステップを決めて観客を沸かせている」
P「参考になるなあ。やっぱり今のアイドルに必要なのは個性だよ個性」メモメモ
P「………」
P(いや待てよ。むしろ俺達も、そのままこの方向性で売り出してみても良いんじゃないか?)
P「そもそも、静香にしたって仕事に影響は出てないわけだし。ファンの心に影響が出てるだけで」
P「それにバラエティのトーク番組で、あれだけ何も喋らず一人うどんを食べ続けていくスタイルはある種一つの個性とも言える」
P「未来に至ってはあの奇妙な喋り方が好評で、面白がって真似する一般人のファンも増えてきたって噂だからな」
P「よし! 今後はあえてあいつらの変貌っぷりをPRして新たなファン層の拡大を目指そう!」
P「ふふ、待ってろよ三人とも!」
P「今俺がトップアイドルへの階段を最短距離で駆け上らせてやるからな!」
小鳥「あの、昨日の翼ちゃんのスキャンダルの件についてなんですが」
P「」
P「はあ……これでようやくクレーム処理も終わりか」
P「くそう……何がスキャンダル系アイドルだ。皆して翼のことを馬鹿にしやがって」
P「翼はそんな子じゃ……そんな子じゃ……」
――――――
翼『プロデューサさんおっはよー!』
翼『あのね! いつもお仕事で疲れてるって思って、私コーヒー買って来たんだー』
翼『えー、別に何も企んでないもん。そんな若いうちから疑い深い性格だと禿げちゃうよー?』
翼『あはは、嘘嘘。そもそもプロデューサさん、頭の形P型だし大丈夫だって』
翼『………』
翼『あのさ、プロデューサーさん』
翼『……いつもプロデュース、ありがとうね』
――――――
P「………」
ガチャ
未来「あああ、あのプロデューサーしゃ、わらひコーヒィー持ってひっ」
P「ぬおおおおおおおっ!!!」ガンガンガン
未来「うっひょおおおおおおおおお!?」
P「やっぱり駄目だ! あの子達はあんな変わった売れ方をしちゃ駄目なんだ!」
未来「あ、あのプロリューサーしゃっ」
P「翼もそう! 静香だってそうだ! あの子も一年前はもっとクールでシリアスなキャラだったはずだ!」
P「少なくともあの765プロの銀髪の美女と、進んで一緒にうどんの大食い対決で競い合ってしまうような女の子じゃなかったはずなんだ!」
未来「ああああああ、あの、あの!」
P「お前もそうだろ、未来!」ガシッ
未来「ふぁいっ!?」
P「以前のお前なら、この状況でもさして空気を読まずに俺にコーヒーを差し出したはずだ!」
P「いや、むしろ『プロデューサーさんにコーヒーを渡す』という目的も忘れて、事務所仲間とお茶会を開いていた可能性だってあっただろう!」
未来「しゃ、しゃしゅがにわらひ、そんなに馬鹿ひゃっ……」
P「頼む、教えてくれ未来」
P「数週間前、お前たちの身に一体何があったんだ!」
未来「………」
未来「………」
P(やはり、駄目なのか……?)
未来「」ポンッ キュッキュ
P(ん? 紙とマジックを取り出して……)
紙『あの二人がどうしてああなったのかは分かりません』
紙『だけど、なんで私がこうなったのかは話せます』
P「ああ、なるほど! 筆談か!」
未来「」コクコク
P「はは、なんだよ未来。こんな簡単な意志疎通の方法があったなら、もっと早く言ってくれればよかったのに」
未来「え、えへへ……」
P「本当、もっと早く言ってくれればよかったのになあ」グリグリ
未来「いっひゃあああああ!?」カキカキ
紙『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
紙『もう、酷いですよプロデューサーさん!』
P「俺を謎のストレスで苦しめたお前らよりは良心的だと思うが」
紙『そ、その点については謝りますけど、こっちにも立派な理由があるんですよう!』
P「理由?」
紙『そうです』
紙『……緊張、しちゃうんです』
P「緊張?」
P「緊張って、何に?」
紙『それは、その……』
P「………」
未来「………」
P「……未来?」
未来「………」カキカキ
P(えーと、何々……)
P(『好きな男の人の前で緊張しちゃうのは……』)
P(『そんなに変なことですか?』、かあ)
P「なるほどなあ」
未来「………」
P「………」
未来「………」
P「」
未来「………」カアアアア
P「は? へ、何?」
未来「だ、だってだって! プロデューサーさん、この間出張でいなかったから!」
P「そ、それと今の話とどういう関係が……」
未来「だ、だから! それでその、居ない間に有難味を知ったというか、いいいい、意識するようになっちゃって!!」
未来「気が付いたら好きになってて!」
未来「緊張して!」
未来「プロデューサーさんの前だとあんな喋り方になっちゃったんですよおおおお!!」
P「」
未来「うう……緊張も通り越してよくわかんなくなってきました」
未来「もお……本当はもっと乙女チックな感じで伝えたかったのに……」グスッ
未来「これも全部、プロデューサーさんが悪いんですからね……?」
P「………」
未来「ってあれ、プロデューサーさん……?」
P「………」
P「そうだな……全ての原因は俺にある」
ガシッ
未来「えっ」
未来「ええええと、その、ぷ、プロデューサーしゃん?」
P「すまなかったな未来。お前の気持ちに気付いてやれなくて」
P「俺はプロデューサーという立場から、無意識のうちに一線を引いて関わるようにしてたのかもしれんな」
未来(ちちちち、近い……!)
P「知らなかったよ」
未来「ぷ、プロデューサーさん! ちょ、ちょっとだけ待って……」
P「まさか未来が俺の事を……」
未来「ま、まだココロとカラダの準備が……っ!」
P「まるで家族のように思ってくれていたなんて」
未来「えっ」
P「いやあ、プロデューサー冥利に尽きるってもんだな。いつの間にか、未来からそんなに厚い信頼を得ていたとは」
未来「えっ、ちちちちちがっ!」
P「ああ大丈夫。何も言わなくても、お前の気持ちは誰よりも理解したつもりだ」
未来「絶対理解してないですよねその反応!?」
P「要は俺が出張にいったせいで、逆ホームシックみたいになっちゃったってことだろ? いやあ、俺も罪な男だなあ」
未来「それもちがーう! そ、そもそも私、お父さん達が出張に行ったぐらいでここまで切ない気持ちになったことありませんし、それにっ!」
P「はは、照れるなって。そうだ、このコーヒーありがたく貰っとくよ」
P「この後、社長達と打ち合わせもあるんでな」
未来「だ、だからだからっ! loveじゃなくてlikeの方の感情で……! あれ、逆?」
P「じゃあな未来。タクシーは用意しておくから、あまり遅くならないようになー」
未来「あっ、あのちょっ」
バタン
未来「………」
未来「」ジワッ
ガチャ
このみ「ただいまー。お土産買ってきたわよー」
このみ「いやー、今日も疲れた疲れた……」
未来「ばかあああああぁぁっ!!!」ブワッ
このみ「なんでよっ!?」
チュンチュン
P「うーん、心地の良い朝だ」
P「事務所の中、朝一で飲むコーヒーの味はまた格別だな」
P「昨日の未来の件も問題なく解決出来たみたいでよかったよかった」
P「さて、残る問題は翼と静香か……む?」
パサッ
P「床に雑誌が落ちてるな……なになに」
P「『夏の大特集! 意中の相手を落とす方法百選』?」
P「よくよく見ると女性向けのティーン雑誌っぽいが……ってあれ」
P(そういえばこれ、熱心に読み込んでたアイドルをどこかで見かけたような……)
ガチャッ
静香「うどん……うどん……」ズルズル
P「おお、おはよう静香。相変わらず早いな」
静香「うどん……うどん……」ズルズル
P「はは、また朝からうどんか? よく飽きないなあ」
静香「うどん……うどっ!?」ガタッ
P「へ?」
静香「………っ!」
P(な、なんだ? 俺を見た途端……いや、違う)
P(俺の持つ雑誌を見た途端に、この数日間仕事中ですら止むことのなかったうどんのすすり音が、止まった……?)
静香「………」
P「し、静香、どうし」
静香「」ポロポロ
P「!?」
静香「うう……ぐすっ」ポロポロ
P「し、静香!? どうした、体の調子でも悪いのか!?」
静香「ひぐ、えっぐ……」
P「え、ええと、そうだ! もし体調が優れないんだったら休暇を取ってもいいぞ!」
P「なんなら、小鳥さんが消化する予定だった有給を全部静香に使ってもいい!」
P「だ、だからここはひとまず泣き止んで……」
静香「……だ、大丈夫です」グスッ
P(………!?)
P(静香が……普通に喋った!?)
静香「ただ……泣いてしまったのは、そう」
静香「未来に申し訳が立たなくて……」
P「え? 未来?」
P「未来に申し訳ないって、どういう……」
静香「その雑誌……」
P「あ、ああこれか? 今日事務所に来たら床に落ちててな」
静香「………」
P「興味があるなら読んでてもいいが、内容はあまり静香とは合わないと……」
静香「それ……私のなんです……」
P「え?」
静香「今までそういった類の物は買ったことなかったんですけど、その特集が目当てで、つい……」
P「と、特集ってまさか、この意中の相手を落とす方法って奴か?」
静香「はい……」
P「どうしてまた急に……」
静香「………好きな人が、出来たんです」
P「………へ?」
静香「そして未来も、私と同じ男性を好きになってしまったことをつい最近に知ってしまった……」
P「」
――――――
未来『静香ちゃん、ちょっと相談があるんだけど……』
未来『私、もしかしたら好きな人が……え!? なんで分かったの!?』
未来『そう! プロデューサーさん! なんだか最近、出張で居なくなってから意識するようになっちゃってさ』
未来『あっはは、変な話だよねー! 前までは本当、恋愛のレの字の感情も持ってなかったのにさー!」
未来『あはは……』
未来『………』
未来『ねえ、静香ちゃん』
未来『私、これからどうすればいいのかな?』
――――――
静香「……悪い、女ですよね」
静香「私は未来の気持ちをメールで知っていながら……」
静香「いえ、知ってしまったからこそ慌ててその雑誌を手に取った……」
静香「そう。同じ意中の男性の理想に、より近づく為に……!」
静香「抜け駆けするような形で、私は未来の信頼を裏切ったんです……!」
P「ちょ、ちょっと待ってくれ。もしかしてその意中の男っていうのは俺も知らない人間か?」
P「お前達の共通の知り合いで、恋に落ちてもおかしくなさそうな相手なんて昴ぐらいしか思いつかないが……」
静香「………」
P「静香?」
静香「……わ、私」
静香「今迄プロデューサー以外の男の人と話したこと、ほとんどありませんよ……?」
P「………」
静香「だ、だからっ、その!」
P「」ナデナデ
静香「ぷ、プロデューサー?」
P「分かってる。分かってるよ」ナデナデ
静香「プロデューサー……」
静香(やっぱり私、この人の優しくて感が鋭いところ、好き……)
P(よくわからんがぼっちだったんだな……可哀想に)ナデナデ
静香「あの、プロデューサー」
P「なんだ?」
静香「私、別に未来に許してもらおうとか……」
静香「プロデューサーともその、だだだ、男女の仲になるとか……そんな大それたことはもう、考えていません」
P(だんじょ……? ああ、俺とは談笑し合うようなホットな仲では居たくないってことか。少し寂しいなあ)
静香「ですが、その……ひ、一つだけお願いがあるんですけど、聞いて頂いてもいいですか?」
P「おう、別に構わんぞ」
静香「ありがとうございます……では」
静香「……し、仕事が成功……い、いえ、大成功……?」
P「?」
静香「あ、アイドルランクがC……いや、B、いやいや、A……?」ゴニョゴニョ
P「どうした静香?」
静香「……もうっ! あ、あのですね!」
P「お、おう」
静香「私がっ、アイドルの頂点に立った時には!」
P「!」
静香「ま、また……」
静香「今みたいに、頭を撫でてもらってもいいですか……?」
P「………」
P(俺の頭ナデナデに、そこまで高い価値が……?)
P「そんな約束なくても、言ってくれれば頭ぐらいいくらだって撫でてやるぞ?」
静香「そ、そうまでしないとその、自分にも未来にも納得してもらえないような気がして……」
P「はは、何言ってるんだ? 流石にあの未来でもトップアイドルの凄さぐらいちゃんと理解してるさ」
静香「そう……でしょうか」
静香(なんだか話がかみ合ってないような気もするけど……)
P「」ナデナデ
静香(い、今ぐらいは、何も考えず惚気るぐらい良いかな……)フフ
P(そういや俺、好きな男がいるはずの女の子にこんなことして良かったんだろうか)ナデナデ
P「ああ、そうだ。一つ聞いてみたいことがあったんだが」
静香「はい……なんですか?」
P「結局、あのうどんはなんだったんだ?」
静香「あっ、あれは、その……」チラッ
P「?」
静香「その雑誌に載っていた、キュンとくる異性の仕草というのを真似してみただけで……」
P「キュンとくる仕草?」
静香「はい……1番最初のページに、沢山食べる女の子はポイントが高いと書いてあったので……」
静香「それならとりあえず私はうどんかなと」
P「成る程……」
静香「あ、あの……もしかしてやりすぎましたか?」
P「そんなことないさ。強いて言えば、静香の影響で事務所の軽食が全部うどんに変わったぐらいだ」
静香「そうですか……よかった」ホッ
P(正直冗談かとも思っていたが、本当にあの雑誌の持ち主は静香だったのか)
P(俺の記憶だと、もっと違うアイドルが読み込んでいたような気もしてたんだが……おっさんの記憶なんてアテにならんな)ナデナデ
静香(けど、おかしいな……)
静香(そもそもあの雑誌、読んですぐ事務所のゴミ箱に捨てておいたはずなのに……?)
翼「………」
P「ん……」
チク
タク
チク
タク
P「おおっと、いかんいかん。静香が仕事で出掛けたうちに、いつの間にかデスクで寝てしまったらしい」
P「さあて。正直なんだかよくわからないうちに静香の問題も解決したことだし」
P「気分を入れ替えて仕事に励むか!」
ガチャ
P「ああ、小鳥さん。遅いですよ、早く二人で事務仕事……」
翼「………」
P「翼……?」
P「どうした翼。今日はお前休養日じゃなかったか?」
翼「………」
P「まあいいか。どうだ、暇ならまた小鳥さんのPS3でも使って遊ぶか?」
P「いやあ、今日は杏奈に勧めてもらったゲームしかないんだがな。しかしこれがまた出来が良くて」
P「題名はワンフォーオー……」
翼「プロデューサーさんはさ」
P「ん?」
翼「こないだの私のスキャンダル、怒らないんだね」
P「ああ、あったなあそんなこと」
翼「………」
P「心配するな。仮に翼側に非があったとしてもしてもだ、俺はいつだってお前の味方になってやる」
P「はは。こう長い事お前達のプロデューサーやってきたが、それを考えても大した事件じゃないしな……」
翼「………どうして」
P「?」
翼「どうして誰もっ、私の事叱ってくれないのおっ………!」ポロポロ
P「!?」
P「つ、翼!? どうした、また悪いお兄ちゃんに変なことでもされたのか!?」
翼「わっ、私っ知ってたのに!」
P「し、知ってたって何を」
翼「未来と静香がっ、プロデューサーさんのこと好きだってことっ!」
P「!」
翼「そりゃ、二人ともあんなに明らか様な態度取ってたら気付いちゃうよ!」
翼「それなのに私はこうしてプロデューサーさんの気の引くような真似ばっかして、事務所にも迷惑掛けて!」
P「き、気の引くような真似って……ただお前は、彼氏達と楽しく遊んでただけだろう?」
翼「嘘だよっ!」
P「……は?」
翼「彼氏なんて本当は居ないよっ、だって全部作り話なんだもん!」
翼「あのスキャンダルもっ、私が悪徳記者さんに頼んででっち上げた偽物だよっ!」
P「お、お前、何言って……」
翼「だ、だってだって! 未来と静香、私より年上な上に、すっごくすっごく可愛いし!」
翼「このままだと、皆にプロデューサーさん取られちゃうって思ったんだもんっ!」
翼「だからっ、ダメな男の子に引っ掛かってるって嘘ついて、少しでもプロデューサーさんから注目浴びようとして、だからっ」
P(い、言ってることが支離滅裂で良く分からん……)
翼「だからっ………!」ジワッ
翼「うわあぁぁぁんっ! プロデューサーさん、未来、静香! 事務所の皆もごめんなさぁぁぁいっ!!」ブワッ
P(どうしようこれ)
翼「うえ、うええええんっ!」
P(正直、俺自身も混乱して頭が追い付いてないんだが……つ、つまり)
P(要はあの翼の男慣れしていた様子は全部演技で……)
P(男絡みの話も、俺に構って欲しくてついた嘘だったってことか……?)
P(し、しかし。経験がないにしてはこの間俺が翼から受けたキス諸々は、やけに生々しかったというか。その、手慣れていた感があったんだが)
P(あの今後役に立ちそうなスキルは一体何処で……)
パサッ
P「ん?」
P(これは……さっき静香が置いて行った例の雑誌か)
P(って、これ……)
ガチャ
P「!」
志保「ただいま戻りました……」
P「志保か……お疲れ、早かったな」
志保「………」
P「志保……?」
志保「プロデューサーさん」
P「なんだ?」
翼「びええええんっ!」
志保「これは一体どういうことでしょう?」
P「見てわからんのか」
志保「わからないから今こうして改めて聞いているんですが」
翼「うわぁぁぁぁんっ!」ポロポロ
志保「まあ……さし詰め、この子のことです」
志保「どうせまたプロデューサーさんをたぶらかそうとして失敗したんでしょう」
志保「最近の彼女なら、彼氏に二股でもかけられたショックで泣き叫んでいる、という可能性も充分考えられますが……」
翼「……し、志保ちゃん。そのことなんだけど、実は……」グスッ
P「おいおい、何を言ってるんだ志保」
志保「?」
P「翼に彼氏なんているわけないだろう」
志保「……は?」
翼「ぷ、プロデューサーさん?」
志保「どういうことですか?」
P「そのまんまの意味さ。翼には男なんていなかった」
P「この間のスキャンダルも、翼自身が頼んででっち上げた偽物だ」
志保「……要は、嘘をついていたと?」
P「そうだ」
志保「はあ。成程、そういうことでしたか……」
翼「うう……志保ちゃん、ゴメンね……?」
志保「残念ですが、信じられませんね」
翼「!?」
P「………」
翼「し、志保ちゃん?」
志保「普通に考えてそうでしょう。そんなデリメットしかなさそうな嘘をついて、一体なんの得があるんですか?」
翼「そ、それには色々理由があって……」
志保「全く……プロデューサーさんもプロデューサーさんです」
志保「こんな分かり易そうな嘘を真に受けてるようじゃ、貴方達2人ともこの先生き残れない……」
P「それは違うぞ、志保」
志保「? 違う……とは?」
P「確かにお前の言う通り、俺は事務所の仲間の言うことを真に受けすぎてる部分もあったかもしれない」
P「実際、近所のおっさんから話を聞くまで千鶴を本物のセレブだと信じて疑わなかったこともあったし」
P「亜利沙が日曜日にやたら風邪で仕事を休んでいたのは、毎週推しメンのアイドルを応援しに行く為の口実だったと気づいたのもついこの間の事だった……」
志保(この人、今までどうやってこの嘘だらけの芸能界を渡り歩いてきたんだろ……)
P「しかし、それでも俺はお前達を信じてる」
P「生き残ってみせるさ。このアイドルの猛者達がひしめく、辛く厳しい業界で」
P「俺はこの事務所の仲間達と……」
P「伊吹翼と一緒にトップを取ると、そう昔に決めたからな」
翼「プロデューサーさん……」
志保「……話をすり替えないでください。今は、その子がしでかした問題について話を……」
P「証拠なら、ある」
翼「?」
志保「証拠……?」
P「要は、翼に男相手の経験が殆どないことを証明出来ればいいんだろう?」
志保「そ、そんなの、証明なんて出来るはずが……」
P「」パサ
志保「これは……雑誌?」
翼「………!?」
P「ああ。元々は静香のモノだったんだが、そもそもあいつはその雑誌を『捨てた』と言っていた」
P「おそらくはゴミ箱に入っていたこの雑誌を興味本位で手に取り、盗み見した人間がこの事務所の中にいる」
志保「そ、それとこれと一体何の関係が……」
P「最後の方のページ、読んでみろ」
志保「………!?」
志保「こ、これはっ……」
志保「『夏の暑さと色気にカレもくらくら!? オトコの悦ばせ方百せry』」
翼「きゃーーーー!! きゃーーーーーーっっ!!!」
P(やはり、犯人は翼か……)
志保「こ、これは一体……!」
P「ご覧の通りさ」
P「こんな根も蓋もない特集に、わざわざマーカーやラインを引いて必死に勉強している女の子が経験豊富なわけないだろう!」
志保「くぅっ!!」
翼「ちょ、ちょっとおおお! ま、まだ私がその雑誌を読んだって決まったわけじゃ……!」
P「何を言ってる翼」
翼「へ?」
P「ちゃんとこの特集の横に、誰に影響されたのか分からないお前の奇怪なイラストが沢山描きこまれてるじゃないか!」
翼「そそそ、それは、そのっ!」
志保「し、しかもこのキスの特集のページ……『日本と外国におけるフレンチキスの違い』について、キッチリ花丸でマークがされてる……!」
P「翼的には気になる問題だったんだろうな」
翼「解説はやめてええええええっ!!」
志保「他にも、え………そ、そそその、せ、性欲関係についても万遍なくマーカーが……」
翼「志保ちゃんも、恥ずかしいなら無理して読まなくていいからあああっ!!」
P「これで証明できたな」
P「伊吹翼は、男についての知識が全くない……」
P「そう、まぎれもないチェリーガールであるとっ!」
翼「いやああああああっ!」
志保(言い負かされたのは私なのに、欠片も悔しくならないのはなんでなんだろう)
P「どうだ志保。これでもまだ、翼が例のスキャンダルを起こすような女の子に見えるのか?」
志保「残念ながら、貴方の言い分を認めざるを得ないようですね……」
翼「少しぐらい否定してよお……」グス
志保「いいでしょう。このことは私がそれとなく皆に話しておきます」
P「え?」
志保「当たり前です。プロデューサーさんは、今私にした説明を他の皆にもそっくりそのまま伝えるつもりなんですか?」
P「一体どこに問題が……」
志保「強いて言えば、貴方のその単純な頭の中身でしょうか」
翼「志保ちゃん、ありがとお……」グス
志保「お礼はいいです。その代わり……」
P「?」
志保「さっきの言葉通り」
志保「……ちゃんと一人残らず、トップアイドルに導かないと怒りますから」
P「行っちまったな、志保」
翼「急に事務所を飛び出して、一体どうしたんだろ……」
P「さあな。意外と義理堅いアイツのことだ、今頃翼のスキャンダルの件も含めて弁明しに行ってくれてるんじゃないか?」
翼「そうかなあ」
P「そうだよ」
翼「んー……ねえ、プロデューサーさん」
P「ん?」
翼「さっき話してた、未来と静香のことについてなんだけど……」
P「ああ、二人が俺を好いてるって奴か? いやあ、プロデューサーの俺としてはそこまでお前達の信用を勝ち取れるようになったのが嬉しいよ」
翼「……ばーか」ボソッ
P「え?」
翼「何でもない! 私達、もうプロデューサーさんがそういう人だって知ってるもん!」
P「そ、そういう人って……」
翼「デリカシーないし! 私がこの間決死の覚悟でチューしてみても、大して反応してくれないぐらいの鈍感さんだし!」
P「顔の色が本気で変色してしまうぐらい、割と大きなリアクションをした記憶があるんだが……」
翼「そういうんじゃなくて……あー、もうっ! プロデューサーさん!」
P「お、おう?」
翼「今は私、まだまだ子供だし」
翼「アイドルとしても、全然未熟だけどっ」
ガバッ
P「うごっ!? お、おい、また……!」バタン
翼「周りより一足先に天下取った時には、またこうしてプロデューサーさんの事、襲いに行っちゃうからさっ」
翼「……私があの雑誌で身に付けた知識、無駄にさせないでよ?」チュ
P(あれからまた、数日経って)
P(静香は元通り、クール系なアイドルとして売り始めている)
P(一部のファンからは以前のうどんキャラに戻ることを強く強要されたが、静香本人にとってはもう触れられたくない歴史らしく、いつの間にかただの気の迷いだったとして人々の頭から忘れられていった)
P(冷静に考えて、自分がおかしなことをしてたとようやく気が付いたんだろうな……)
P(翼も翼で元通り……いや、前以上に甘え上手なキャラクターとして売れ始めた)
P(スキャンダルの件に関しても、所詮は三流記事のゴシップだったのであまり拡散せず、ほぼ問題にならなかったといってもいい)
P(余談ではあるが、ファンとマスコミ間で何故か、ジュピターのリーダーがそのスキャンダルを引き起こした一因であると述べ……)
P(ジュピターはあられもない事実に責任を取って解散。新天地での活動を始めた)
P(この予期せぬ翼のファインプレイもあり、ライバル事務所を蹴散らした俺達はまた一つトップアイドルに近付いたといっても過言ではない)
P(それとあの一件があってから心なしか、翼と静香の距離……いや)
P(段々物理的な距離も縮まっていったような気がするのだが……まあ、気のせいだろう)
P(そして、あの未来はというと……)
未来「」ムスー
P「なあ未来」
未来「なんですか」ブスー
P「一体何にそんな怒ってるんだ?」
未来「自分の胸に聞いてみてください!」カッ
P(このように、俺との会話を拒むようになってしまった)
P(せっかく普通に喋れるようになったというのに……俺の何がそんなに気に食わなかったのだろう?)
P「なあ。いい加減機嫌直してくれよ」
未来「いやですー」ムスー
P「せっかくまともに話せるようになったんだし」
未来「ふーんだ。どれだけ面白い話のネタ見つけても、私しばらくプロデューサーさんにはお話してあげませんから」
P「参ったなあ。今日はせっかく、未来の尊敬するあの春香先輩と同じ仕事を取ってきてやったのに」
未来「えええ!? それ、本当ですかっ!?」
P「うっそー」
未来(こいつ……!)
未来(……けどいい加減、私も変な態度取り過ぎなのかなあ)
未来(そりゃ、この間のこともあって気まずいっていうのもあるけど……)
未来(あれから皆、プロデューサーさんにベタベタしすぎというか……)
未来「………」
P「どうした未来。急にそんな黙りこくって」
未来「別に、なんでもないですよー……」
P「………」
P「……ああそうだ。未来、今日誕生日だろ?」
未来「へ? そうですけど……」
P「ほれ」スッ
未来「?」
P「今日はまたラジオの出演があるからな。準備遅れるなよー」
未来「あ、あのちょっ」
バタン
未来「………」
未来「急にどうしたんだろ、プロデューサーさん……」
未来「まさかまた去年みたいに、生のカエルとか無意識に仕込んでたり……?」
未来「あはは、あり得るなあ。プロデューサーさん、私以上に抜けてるとこあるし……」
未来「………」パカッ
未来「!」
未来「これ……」
未来「前に仕事で、私が冗談で欲しいって言ってた高めのネックレス……」
未来「………」
バタン
小鳥「ただいまー。あら未来ちゃん、一人?」
未来「………」
小鳥「………? 未来ちゃん?」
未来「………」
未来「えへへぇぇ………」ニヘラ
静香「」チラッチラッ
翼「………」ジーッ
小鳥(ああ、成る程。これは……)
小鳥(プロデューサーさん、アイドル達の育成に失敗してますわ)
おしまい
おつー
ちなみになんで本編メンバーを別の事務所見たいに扱ってるの?
>>75
なんとなくこっちの方が書きやすいかなーって思っただけで、深い意味はないよー
見てくれた人達、ありがとうございました!
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