ミノタウロス「黒い悪魔が出たむぉ!」 モヒカン「汚物は消毒だ~!!」 (186)




ミノタウロス「~」女騎士「~」の番外的続編になります。



ミノタウロス「明るい家族計画しない?」女騎士「そんな予定はありません。」
ミノタウロス「明るい家族計画しない?」女騎士「そんな予定はありません。」 - SSまとめ速報
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ミノタウロス「嫁を紹介するむぉ」女騎士「嫁じゃないです。」
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ミノタウロス「めちゃくちゃにしてやるむぉ!」 女騎士「ひどいことしないでっっ」
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   『黒い悪魔』



遥かな太古より地上に蠢き、度々現れては人々を恐怖に陥れるそれは、いつからか黒い悪魔と呼ばれる。

人類は総力を挙げ幾度となく黒い悪魔に戦いを挑んだが、今だ決定的勝利に至ってはいない。

矮小で知能も無いその黒い悪魔は、いつの時代でも人々の平安な暮らしを脅かすのだ。




【登場人物】

ミノタ:ミノタウロス(16)
自称・凶暴で残虐無慈悲な怪物。嫁を手に入れて絶好調。
帝国辺境の牛丼レストラン・ツインカウベルの店長兼料理人兼掃除係。

お姉さん:人間(17)
王国の騎士だったが権力抗争に巻き込まれ帝国に亡命、いろいろあってミノタの嫁。
今でも周りに騎士どの、騎士さま等と呼ばれている。ツインカウベルの看板娘兼会計兼用心棒。

母上:人間(3x)
ミノタの母親。牛魔王の妻にしてロリBBA。ツインカウベルの実質的経営者

コボルト:妖魔(31)
商売人にして労働者。嗅覚に優れる変態。母上の犬

アらラ:不思議生物(年齢不詳)
妖精かエルフの少女のような容姿だが身体を蔦が取り巻き四季の花を咲かせ実をつける自称アルラウネ。
ツインカウベルの臨時従業員。

モヒカン:人間(2x)
街道敷設業者の従業員。路面を焼き固める担当。
工事用火焔放射器を貸与され大喜び。肩パッドとサングラスを愛用

労働者:人間
街道敷設の業者の作業員達。気のいいおっさん達

女役人:人間(??)
帝国衛生管理局に務める役人。職業柄黒い悪魔に詳しい。魔術の知識に長ける。

ゴブリン:妖魔
雑魚代表のバカな妖魔。ろくな事をしない。

黒い悪魔:??
多くの人が嫌悪する悪魔。空を飛ぶ。






(帝国クレータ自治領・ゴブリンの集落隣の遺跡)



ゴブリンA「ギャハハハ! 人間ども、思い知るがいいゴブッ!」

ゴブリンB「あいつら、オレ達の縄張に道を敷くなんてトンデモ無い! やっつけるゴブッ!」

ゴブリンC「間違いない、これが悪魔召還の魔法陣ゴブッ!」

ゴブリンA「悪魔を呼び出して、人間どもをけちょんけちょんにしてやるのさ、ギャハハハ!」

ゴブリンC「さあ持ってきたイケニエを捧げるのだッ!」

ゴブリンB「イケニエはこれだゴブッ でも本当にコレ?」

ゴブリンA「生ゴミ? こんなんで本当に"悪魔"が呼び出せるゴブッ?」

ゴブリンC「"腐乱したモノが黒光りする悪魔を招く"と古文書にあるゴブッ!」

ゴブリンB「小蠅がたかってたまらんっ よいしょ…臭いッ」

ゴブリンA「その"黒光りする悪魔"ってどんな恐ろしい悪魔ゴブッ?」

ゴブリンC「"見た者はあらん限りの声で絶叫し狂気に陥いる"と、古文書にあるゴブッ!」

ゴブリンA「それは神話にある狂気の邪神くらい凄いゴブッ! 期待! ギャハハハ!」

ゴブリンB「さあ、儀式を始めるゴブッ!」

ゴブリンC「呪文はええと… これだこれ、『 チンカラホイ! 』 」






魔法陣   ゴゴゴゴッ




ゴブリンA「何か開いたゴブッ!」

ゴブリンB「……何にも居ないゴブッ?」



      カサカサカサ...



ゴブリンC「シッ! 気配がするゴブッ!」

ゴブリンA「ゴブッ? 今ちょっと思ったんだけど」

ゴブリンB「何だ?」

ゴブリンA「オレ達、逃げなくてもOK?」

ゴブリンC「え」



      ザワザワザワザワザワ...!




ゴブリンC「こっ、これはっっ!?」

ゴブリンB「にににっっ、逃げるゴブ~~ッッ うわああああ!!」

ゴブリンA「ヒイイイイイッッッ!! た、助けてえええっっ!! うわあああああ!!」









(帝国クレータ自治領・ツインカウベル一号店・二階居住室)



ミノタ  「やっと部屋にベッドを置けたむぉ~」

お姉さん 「一つだけですけどね。」

ミノタ  「一つでいいむぉ?」

お姉さん 「…そうですね」 (///

ミノタ  「これで迷宮の上の家から毎日通わなくても済むむぉ。
      朝に弱いお姉さんもゆっくり朝寝坊できるむぉ」

お姉さん 「ちょっと嬉しいです」

ミノタ  「もうランプ消すむぉ」

お姉さん 「月が綺麗です。」

ミノタ  「月の綺麗な夜に男と女がする事は一つむぉ!」

お姉さん 「ババ抜きですね?」

ミノタ  「えっ そうなの!?」


お姉さん 「冗談ですってw では脱ぎますから…」

ミノタ  「ババ抜きと言えば、母上が居るなら静かにしないと拙いむぉ」

お姉さん 「そうですね、声が聞こえてしまいそうですw
      それにしてもババ呼ばわりは気の毒ですよ?」

ミノタ  「お姉さんが始めに言ったむぉ?」

お姉さん 「違いますよっ!?」

ミノタ  「いま母上は隣に?」

お姉さん 「どうでしょう? そのうち戻られるんじゃないかと。」

ミノタ  「じゃ大声出さないようにヤるむぉ!」

お姉さん 「あたし、そんな大声出した事ないですよ!?」

ミノタ  「じゃ、今日こそ悲鳴上げさせてやるむぉ~www」

お姉さん 「あ、あたしだってそんな簡単にはっ! そうはいきませんからねっ!? えいっ」

ミノタ  「ちょっ、脱いだパンツをボクの角に引っ掛けるの、やめるむぉ~www」

お姉さん 「とってもバカっぽく見えてかわいいwww」

ミノタ  「凶暴で残虐無慈悲なミノタウロスをかわいいとは何事むぉ! おしおきむぉ~www」

お姉さん 「きゃっ ちょっとぉ、やだくすぐったいwww ひゃんwww」









(帝国クレータ自治領・ツインカウベル一号店・二階居住室)



お姉さん 「ふぁ…あぁ… んっ ううんっ… あああっ…」 ピクッ ピクッ

ミノタ  「むぉっ やっと入ったむぉっ お姉さん、後ろからが好きむぉ!?」

お姉さん 「お…同じですよっ input変えてみてもoutputは同じですっ ああ…っ」

ミノタ  「そういう実も蓋も無い事言いながら、身体は震えて悦んでるむぉ?www」

お姉さん 「んん… ご、ごめんなさい、すごく濡れちゃうかも…」

ミノタ  「お姉さんもだいぶえっちになってきたむぉwww」

お姉さん 「手を離さないで…も、もう腰に力が…ああっ」

ミノタ  「むぉ、イヤと言っても離さないむぉwww ちょっとばかり動いてみるむぉ~」



      カサカサッ



お姉さん 「!?」 ピクッ


ミノタ  「むぉ」 ズチュッ

お姉さん 「わあああああっっ!? いやあああああああっっ!!」 ビクビクッ

ミノタ  「むぉっ!?」

お姉さん 「やだあっっ!! いやあっっ!! やめてっっ! やめてえええっ!!」 ビクンビクン!

ミノタ  「ちょっ、お姉さん!?」

お姉さん 「お願い、やめてえええっっ!! いやだああっ!! 放してえええっ!!」 ビクンビクンビクン

ミノタ  「むぉおお!? すごい締め付けむぉ!?」

ミノタ  「でも魔物にレイプでもされてるみたいな大声はどうなんむぉ?」

お姉さん 「もうっ、もう抜いてええええっっ!!」 ジタバタ

ミノタ  「むぉおおおっっ!」 ブルブルッ




      ドンッ

                          カサカサカサカサ..


ミノタ  「うはっ、隣の母上から壁ドン来たむぉwww」

お姉さん 「ああ… イ(行)った… はぁっ、はぁっ」

ミノタ  「お姉さん、叫び声すごいむぉ~www 母上、きっと腹抱えて笑ってるむぉ?www」

お姉さん 「イ(行)っちゃった… ああっ…よかったっ……! ぐすっ」

ミノタ  「泣いて悦ぶほど良かったむぉ!?www」

お姉さん 「でっ、出たのっ! 出たのぉっ!」

ミノタ  「出たむぉwww お姉さんがあんまし締め付けるから我慢出来なかったむぉwww」

お姉さん 「出たのよぉっ もう、放してぇっ… ぐすっ」

ミノタ  「どうしたむぉ? 出されたら嫌だったむぉ?」

お姉さん 「イ(行)ッちゃったわっ ぐすっ」

ミノタ  「お姉さん、乱れすぎむぉ~? イク時もう少し自重するむぉwww」

お姉さん 「そうじゃないのっ! 出たのよ! 行っちゃったけど!」

ミノタ  「??」









(帝国クレータ自治領・ツインカウベル一号店・一階食堂)



母上   「他に何か連絡事項は?」

ミノタ  「そこの道が帝国の街道になるんで、今月からこの店は帝国の法治下に入るむぉ。」

母上   「道の工事始まるみたいだね。ご立派な街道になるらしいけど。」

コボルト 「その関係で、近い内に帝都から衛生管理局ってぇお役人の抜き打ちがありやす。
      ウチは問題ないと思うが一応、粗相が無いよう注意してくだせえ。」

アらラ  「あららー? 事前に来るの判ったら、抜き打ち検査にならないですネ」

コボルト 「お役所なんて体裁さえ繕えりゃ、何でもいい加減なモンでさ。」

母上   「コボルトさんの情報網は助かるわね。」

コボルト 「へへ。お安い御用でさ。商売柄、あちこちから色々耳に入って来るんで。」

ミノタ  「敷設工事の連中が何人もお昼にやって来るむぉ。
      仕事柄、魔物には慣れてるらしいけどケンカとかしないようにするむぉ」

母上   「よろしい。では各自開店の準備っ」


お姉さん 「……おはようごさいます。」

母上   「おー、騎士どの、やっとお目覚めかい? 調子はどうだい?」

お姉さん 「すみません、すぐ支度に掛かりますっ」

母上   「お盛んなようで何よりwww
      今日はアらラちゃん手伝いに来てくれてるから、ナンなら寝てても構わないのですよ?」

アらラ  「あららー、どうせお昼までお客なんか来ないですネ。」

ミノタ  「お姉さん、昨夜は殆ど眠れて無いむぉ?」

コボルト 「一晩中ヤッてたんで? 擦り切れちまいまさぁw」

ミノタ  「違うむぉ。朝まで震えてたむぉ」

アらラ  「あららー?」

お姉さん 「……部屋にっ、で、出たんです! "黒い悪魔"がっ!!」









(帝国クレータ自治領・ツインカウベル一号店・一階食堂)



モヒカン 「ヒャッハー! お昼は生姜焼きだ~!」

労働者A 「ちゃーす。お昼いっすかー?」

労働者B 「牛丼レストラン? ダセえwww」

労働者C 「へー、ミノタウロスが店長やってるとかいうわりに普通の店なんだな?」

お姉さん 「いらっしゃいませっ! どうぞお好きなお席へっ」

女役人  「ふうん、こんな所にね。」

労働者B 「二人牛丼定食。あとこいつは牛丼大盛だと。こっちは生姜焼き定食。」

モヒカン 「ヒャッハー! お席は真ん中だ~!」

労働者A 「お前その奇声上げるのやめれwww」

労働者B 「嬉しくて仕方ないのは判るwww」

労働者C 「道路に焼き入れる係がそんなに嬉しいか?」

モヒカン 「判らないか!? 火焔放射器だぜ!? 漢のロマン!!」

お姉さん 「あの、その大きなお荷物、お預かりしましょうか?」

モヒカン 「いいや。時は世紀末、油断は出来ない。火焔放射器はここに置かせてもらう。」

労働者A 「いつ世紀末になったんだよwww」

労働者B 「街道の工事にどうして肩パッド着けてくるんだよwww」




アらラ  「あららー、お待たせしました、生姜焼き定食ですネ。牛丼定食もすぐお持ちしますぅ」

労働者C 「お嬢ちゃんかわいいねえwww エルフ? もしかして花の妖精か何かかい?」

アらラ  「あららー? アらラはアルラウネ、妖精じゃなくて植物ですネ。」

労働者C 「植物系女子かぁ」

労働者B 「歳いくつ? 好きな物は? パンツ何色?」

アらラ  「年齢は忘れました。お日様に当たるのが好きですネ。パンツは穿いてません。」

労働者A 「すばらしい!」

労働者B 「じゃこのメニューにある"アルラウネの野菜サラダ"ってのは、
      嬢ちゃんを頂けるのかい?www」

アらラ  「今朝アらラに生ったミニトマトみたいな野菜とレタスとツナのサラダですネ。
      アらラちゃん今年は変わったお花が咲いたと思ったら、朝になって実が付いたですぅ。」

労働者A 「実が生るって、お嬢ちゃんはホントに植物なのか~」

アらラ  「いっぱい生るといいのですが、少ししか採れないので限定メニューですぅ」

労働者B 「出た! 限定商法www 俺それ追加でwww」


労働者C 「アルラウネだろ? 大丈夫なんか?
      催淫効果とかあったりしたら真昼間から大変だぞ?www」

お姉さん 「みんなで試食してみたのですが、特に問題ないですよ?
      ちょっと元気になれる感じがしますw」

労働者A 「バカ高いインチキサプリ有り難がって食うより、女の子(?)から採れる野菜(?)の方が
      身体にいいだろ! 俺もそれ追加!www」

労働者C 「そういう如何わしい言い方するかね。
      そう聞くと注文せずに居られないだろ、俺もそれwww」

アらラ  「あららー、ありがとうございますぅ♪ すぐお持ちしますネ!」



      パタパタパタ..



モヒカン 「なっ……?」



      カサカサ..



モヒカン 「うおおおおおーっっ!? オレの生姜焼きにいいいいっっ!?」


モヒカン 「こんのおおおっっ!! 悪魔めえええ!!」

モヒカン 「火焔放射器フルチャージ!!」 ガッシュンガッシュンガッシュンガッシュン

労働者A 「あーっ!? こんな処で何をっ!?」

アらラ  「あららー!? どうされましたあ!?」

モヒカン 「 ヒャッハー!! 汚物は消毒だ~っっ!! 」



      ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!









(帝国クレータ自治領・ツインカウベル一号店・屋外)



お姉さん 「すみませんっっ! 本日は休業させていただきますっ 本当にすみませんっっ!」

労働者A 「おめー何てことすんだよ! お陰で昼飯抜きになっただろ!」

モヒカン 「"黒い悪魔"め、生姜焼きの仇、思い知ったか! ヒャッハー!」

女役人  「"黒い悪魔"ですって!?」

モヒカン 「おうよ、オレの生姜焼きにタカってくれやがったから、消毒してやったぜ!」

労働者C 「店の中で火焔放射器ぶっ放す奴があるかっ!」

アらラ  「あららー、お尻が丸焼けになるかと思いましたネ」

ミノタ  「まだ店の中が臭いむぉ。今日の営業はもう無理むぉ~」

お姉さん 「みなさんお怪我が無くて何よりでした。申し訳ございませんっっ」 orz

労働者B 「いいよ姉ちゃん、このバカが悪いんだ。」

労働者C 「何しやがるっ、昼飯どうすんだよっ!」


ミノタ  「厨房は無事むぉ。牛丼しか作れないけど外でよければ食べてくむぉ?」

労働者A 「それは助かる! 昼飯抜きで肉体労働なんか出来ねえ!」

労働者B 「話の分かるミノタウロスじゃんか!」

労働者C 「何でもいいから食わせてくれ!」

女役人  「いえ、ちょっと待って。それは承諾しかねます。」

労働者B 「あんた誰だ?」

女役人  「帝国衛生管理局査察係の者です。この店舗の衛生管理状況の確認に来ました。」

お姉さん 「ええっ!? お役所の抜き打ち検査っ!?」

女役人  「この店舗の衛生管理に疑念が生じたと評価せざるを得ません。
      帝国食品衛生法に基づき、検査が終わるまで営業の一時休業を命じます!」









(帝国クレータ自治領・ツインカウベル一号店・一階厨房)



女役人  「……。ふーん」

お姉さん 「あの、どうでしょうか…」

女役人  「大変清潔に見えます。帝都の飲食店より遥かに。」

ミノタ  「当然むぉ。少しでも不潔にしてたら父上にぶっとばされるむぉ」

アらラ  「定期的な洗浄も欠かして無いですネ。」

女役人  「これが食材の倉庫…。仕入れは?」

ミノタ  「昨日入れた物ばかりで毎日使い切りむぉ。何日も有るのは燻製の肉だけむぉ」

女役人  「設備も倉庫も綺麗ですね。」

お姉さん 「ぐすっ… 何がいけなかったのでしょうか?」

女役人  「査定項目は全てクリアしてます。問題の、混入した"黒い悪魔"を見たいのですが」

ミノタ  「掃除したけどどこにも居ないむぉ。たぶん、跡形もなく焼失したむぉ」

アらラ  「アらラがお客さまにお持ちした時、全然気が付きませんでしたネ。」

女役人  「黒い悪魔には、"来訪者"と"居住者"の二通りがいます。」

女役人  「外から飛んでやってくるのが"来訪者"で、その建物で生まれ育ったのが"居住者"」


女役人  「まれに外から飛んで来た"来訪者"が、たまたま食事に混入することはあります。」

女役人  「その場合だと、査定項目を満たしていれば衛生上の問題では無いという事になってるので、
      営業を再開して結構です。役所からの処分はありません。」

ミノタ  「"居住者"だった場合、どうなるむぉ!?」

女役人  「衛生管理面の問題とされ、改善命令が下されます。
      改善が認められるまで営業は許可されません。」

ミノタ  「それマズいむぉ~ 新聞に載って店の評判ガタ落ちむぉ~」

お姉さん 「ど、どうしよう、せっかく建てたお店なのにぃ~っっ うっ、ぐしゅっ、えぐっ」 orz

ミノタ  「お姉さん、泣かないむぉ~ まだそうと決まって無いむぉ?」

アらラ  「見ただけでどちらの悪魔さんか判りますかネ?」

女役人  「ええ。私の師匠は帝国隋一の"黒い悪魔"専門のエクソシスト!
      その一番弟子として教えを受けた私なら、種類など一目で見抜けます!」

ミノタ  「エクソシストって悪魔祓いの事むぉ? 黒い悪魔専門の? 大げさむぉ~」

アらラ  「あららー、世の中にはそういうピンポイントな専門職もあるのですネ。」









(帝国クレータ自治領・ツインカウベル一号店・一階食堂)



コボルト 「ひでえ臭いが漂っていると思ったら、そういう事ですかい。ちっ、厄介な……」

お姉さん 「ごめんなさい。えぐっ、ぐしゅっ」

母上   「騎士どの、泣かないの。貴女の所為ではないでしょうに。」

ミノタ  「全部あの黒い悪魔が悪いむぉ! 次見つけたらぶち殺すむぉ! フシュッ!」

コボルト 「そのお役所から来たって女役人サンにカネを包んで、
      何も見なかった聞かなかったって事にして貰えば良かったんでサ。」

ミノタ  「贈賄は別の意味で不潔むぉ」

お姉さん 「それだけじゃないです。今もこの建物に、い、居るんじゃないかと思うとっ」

母上   「確かにねえ。黒い悪魔がうろつくお店でお食事したいとは思わないものね。」

アらラ  「あらら、汚店ですぅ~」

コボルト 「ラーメン屋じゃねえから、汚い店ほど美味い店と思い込んでる阿保どもに好評って
      事にもならねえだろうしなあ…」


お姉さん 「あ…あたし怖くて眠れませんっ ふえええっ」

ミノタ  「ボクが見張っててあげるから安心するむぉ」

コボルト 「だらしねえなぁ。ホントにこの間まで王国の騎士だったのかってんで…。」

母上   「私もね、黒い悪魔のいる部屋は落ち着かないわ。」

コボルト 「あっしが見張っていますから安心してくだせえ」

母上   「新聞と牛乳の配達があるのではなくて?」

ミノタ  「どさくさに紛れて母上にちょっかい出そうと企んでるのが見え見えむぉ!」

コボルト 「ゲフン! ゴフン!」

アらラ  「黒い悪魔は夜に活発になると女役人さんが言ってました。
      もし"居住者"だったら、そのお店にはわんさか住み着いてると言ってましたネ」

お姉さん 「いやあああ~っっ!」









(帝国クレータ自治領・ツインカウベル一号店・二階居住室)



お姉さん 「月が綺麗です。」

ミノタ  「月の綺麗な夜に男と女がする事は一つむぉ!」

お姉さん 「……。」

ミノタ  「……。」

お姉さん 「すみません。はぐらかす台詞が思いつきません。」

ミノタ  「じゃ、このままおっ始めるむぉ?」

お姉さん 「はい。」

ミノタ  「……。お姉さん、全然楽しくなさそうむぉ?」

お姉さん 「いえ、そんなことは……」

ミノタ  「目が泳いでるむぉ」

お姉さん 「ご、ごめんなさいっ!」

お姉さん 「さっきから黒い悪魔の気配がするような気がしてっ! 気が気じゃないですっ!」

ミノタ  「今日はやめとくむぉ。見張ってるから眠った方がいいむぉ」

お姉さん 「うん。ごめんなさい。」




母上   「きゃあっ」

      ガチャン






ミノタ  「むぉ?」

お姉さん 「何っ!? 母上さんっ!?」 ガバッ

ミノタ  「隣の部屋で何かあったむぉ?」

ミノタ  「母上? 入るむぉ」 ガチャ

母上   「ああ、息子よ、驚かせてすまないね。ちょっとびっくりしたもんで。」

お姉さん 「ど、どうしました?」

母上   「水を飲もうとしたら、コップの中でダンスしてたのっ! ああもうっ」

ミノタ  「黒い悪魔むぉ!?」

お姉さん 「ひいぃぃ~~っっ き、気持ち悪すぎますっっ!!」

ミノタ  「もう許さんむぉ! どこへ行ったむぉ!?」

母上   「さあ? まだそこらに居ると思う。このコップ、気に入ってたのに割っちゃったわ。」

ミノタ  「二人とも、足を怪我するから動かないほうがいいむぉ。今掃除するむぉ。」




      カサカサ..



ミノタ  「むぉ?」



      パタパタパタ..!



ミノタ  「っ…!?」



       ピトッ!



ミノタ  「……。鼻の頭に何かとまったむぉ」

お姉さん 「……!!」



お姉さん 「ミノ…ミノミノッ………」 パクパク

ミノタ  「フン」 ムシッ

お姉さん 「……あ…あ…あ"……!」

ミノタ  「捕まえたむぉ。黒い悪魔めっ、潰してやるむぉっ」



      プチッ



ミノタ  「フン、ざまみろむぉ」

お姉さん 「い、いやあああっっ!?」 ....スザザザッ!

ミノタ  「むおっ!? お姉さんどうかしたむぉ!?」

お姉さん 「わあああっっ いやっ こっち来ないでっっ!!」

ミノタ  「もう黒い悪魔はぶち殺したむぉ。怖がらなくても大丈夫むぉ」

お姉さん 「やだあああっ! 近寄らないでっっ! その手で触らないでええっっ!」 ..ズザザザザッ!

ミノタ  「ちょっ、お姉さんっ!?」

お姉さん 「 きゃあああ~っっ! 」

ミノタ  「………どうして逃げるむぉ………」









(帝国クレータ自治領・ツインカウベル一号店屋外・月夜)



母上   「騎士どの、こんなとこに居たのね。」

お姉さん 「母上さん…。」

母上   「若い娘がそんな下着姿で表に居ちゃダメじゃない」

お姉さん 「はい…。」

母上   「まあ、こんな時間にこんな処に人が来るわけ無いけどねw」

お姉さん 「……。」

母上   「まだ気にしてるのですか?」

お姉さん 「ミノタさんに悪いことしてしまいました。まるで怪物にでも出くわしたみたいに……」

母上   「あら? ミノタは怪物ですよ? 残忍で冷酷無慈悲なミノタウロスw」

お姉さん 「そうですね……。」


お姉さん 「素手で黒い悪魔を潰しちゃうなんて、
      あんな気持ち悪い事、平気で出来ちゃうなんて思わなくて。」

お姉さん 「今まで、ミノタさんを得体の知れない怪物みたいに思った事、無かった筈なのに。」

母上   「まあ、母親の立場から言うのはどうかとは思うけど、少々大げさでしょう?」

お姉さん 「ええ。判っています。人間だってあのくらい平気でできる人はいます。」

母上   「ならどうしてこんな所で、一人でイジケてるのです? らしくない。」

お姉さん 「怪物だなんて思いたくなんかないのに、どうしてミノタさんを怖いと思ったのか、
      戻って何と言って謝ったらいいのか、全然分からなくて。」

母上   「騎士どのが怖かったのは、貴女が何を怖がっているのかをミノタが
      理解していないだろう、その事だと思うのです。」

母上   「ミノタは全然平気ですから、黒い悪魔を怖がる貴女の気持ちは理解していないでしょう。」

お姉さん 「……。そうだったかも知れません。
      あのまま黒い悪魔を握った手で身体に触られるんじゃないかと、そう思ってしまって。」

母上   「あの子はそういうトコは無神経だから、しかたないわね」

お姉さん 「でも、好きな人なら怖がったりしちゃいけないと…」

母上   「まさか! そんな訳無いわ、イヤなもんはイヤよwww」

お姉さん 「そう…ですか?」

母上   「好きな人なら何でも無条件で平気なんて、恋愛脳を患ってる女の戯言よ? ないわーw」


母上   「私だって、主人にいろいろ気に入らない事は文句言ったもの」

お姉さん 「その、ご主人は怒ったりは?」

母上   「牛ヅラを思い切りぶん殴ったこともあるけど、可笑しそうに笑うだけだったわ。」

母上   「男…というか怪物の器が違うのw」

お姉さん 「そういうノロケ方されても。ふふっw」

母上   「愛し合ってるなら何から何まで理解できるなんて、幻想よ?
      ミノタは怪物ですからなおさらです。」

お姉さん 「あたしは怪物だなんて…」

母上   「いいのですよ? ミノタは怪物だと思われて傷ついたりなんかしないでしょう。
      どう取り繕ってみた所で、ミノタウロスに変わりありませんから。」

母上   「怪物のお嫁はイヤですか?」

お姉さん 「そんなことありません。ミノタさんが好きです。」

母上   「怪物だと思って、その上で愛してやってくれますか?」

お姉さん 「……!」

お姉さん 「そうですよね。おかしいです、判ってたはずなのにw」

母上   「じゃ、戻ってミノタに言っておやりなさい」

母上   「"黒い悪魔に触った手を消毒するまで、近寄るな!" ってねwww」









(帝国クレータ自治領・ツインカウベル一号店・一階食堂・深夜)



コボルト 「んで、騎士の嬢ちゃんに悲鳴あげて逃げられて、イジケてたんで?」

ミノタ  「初めて出会った時だって、あんな怖そうな顔しなかったむぉ。何が悪かったむぉ?」

コボルト 「たぶんアレだ、ヤキモチって奴」

ミノタ  「ヤキモチ?」

コボルト 「ダンナが黒い悪魔をこう、ぎゅっと情熱的に握り締めたりしたから、
      ダンナを黒い悪魔に取られると思って、ヤキモチ焼いて見せたんスよ。」

ミノタ  「んなわけねーむぉっ!」 ボカッ!

コボルト 「ギャフン!」


コボルト 「冗談ですぜ、そういう可愛げなトコがあってもいい年頃だって、そう言ってるだけでサ。」

ミノタ  「真面目な話をしてるむぉ! もういいからさっさと新聞配りに行くむぉ!」

コボルト 「んな、気にするような事じゃありませんぜ?」

ミノタ  「お姉さん、騎士だっただけあって肝据わってたむぉ。
      なのに黒い悪魔が相手だとテンでダメ。まるで天敵に出会ったみたいむぉ。」

コボルト 「人間の女ってのは感性と感情の動物なんだと、そう聞きやした。」

コボルト 「あっしらみたいな妖魔やダンナみたいな怪物は、強さが全て。
      それに比べ人間の女てのは、感性と感情が全てってこってす。」

ミノタ  「感性? なにそれ、おいしいむぉ?」

コボルト 「ステキとかカワイイとかナウいとか、そういう曖昧な感覚の事でさ。」

ミノタ  「ナウいって、何時の時代の言葉むぉ?」

コボルト 「その感性には許容範囲があって、それをハミ出ちまうもんは感情が受けつけない。
      拒絶せずにいられない。」

コボルト 「強いとか金があるとかそういう絶対的な価値より遥かに重要なんで。」

ミノタ  「男は顔って意味むぉ?」

コボルト 「男の顔の良し悪しは絶対的な価値でさ。
      イケメンはどの女が見てもイイと言うし、ブ男は…言わずもがな。」

コボルト 「だけど、いくらイケメンでも感性が受け付けられないとハジかれるんでサ。
      それくらい感性の優先度は高い。」


ミノタ  「お姉さんの感性がどうだと言うむぉ?」

コボルト 「あの騎士の嬢ちゃんは、その辺の感性がだいぶ…言葉が悪いが狂ってる。
      ダンナみたいな頭が牛の男でもいいなんて、許容範囲が広過ぎでサ。」

コボルト 「人間の女としてどうかしてるんで。」

ミノタ  「それ、本人に聞かせちゃダメだむぉ。お姉さん自分で判ってて気にしてるむぉ。」

コボルト 「んで、それだけ広く何でもOKの嬢ちゃんの感性でも、黒い悪魔は許容範囲の遥か外。」

コボルト 「それだけダメ、キモいって事なんでサ。」

ミノタ  「黒い悪魔に触ったのが良くなかったむぉ?」

コボルト 「どれだけ考えても魔物のあっしらには、黒い悪魔の何が怖いかなんて分からねえんで。
      だから分からなくても分かったフリするんでサ。」

コボルト 「そうすりゃ嬢ちゃんに怖がられることは無い。
      夫婦円満てのは互いがそうやって作るものらしい。」

ミノタ  「一匹狼がそれを語るむぉ?」

コボルト 「嫁は欲しいが相手が……居ないんでサ」









(帝国クレータ自治領・ツインカウベル一号店・二階居住室)



お姉さん 「ミノタさん?」

ミノタ  「むぉ? お姉さんもう大丈夫むぉ。手はちゃんとアルコールで消毒したむぉ」

お姉さん 「さっきはごめんなさい」

ミノタ  「気にしないで欲しいむぉ。お姉さんがキモいって思うならもうしないむぉ」

お姉さん 「ミノタさんが黒い悪魔をやっつけてくれなかったら、
      あたし今夜も眠れない夜を過ごす事になるのに。」

お姉さん 「それなのに怖いとか気持ち悪いとか、あたしひどい女。」

ミノタ  「そのくらいの我侭、全然おkむぉwww 次からスリッパ使うむぉwww」

お姉さん 「それあたしのスリッパですっ!」

ミノタ  「むぉっ!? これはしたり!」

お姉さん 「プッ、くすくすwww」

ミノタ  「むぉ?」

お姉さん 「両手にスリッパはめてるミノタウロスって、ものすごくバカっぽくてかわいいwww」

ミノタ  「凶暴で残虐無慈悲なミノタウロスをバカっぽいとは何事むぉ! おしおきむぉ~www」

お姉さん 「きゃっ やだぁ~くすぐったいwww ひゃんwww」









(帝国クレータ自治領・ツインカウベル一号店・一階食堂)



女役人  「これは! マカイクロツヤフライングゴキカブリ!」

ミノタ  「黒い悪魔の名前むぉ? なんだか偉そうむぉ~」

女役人  「種類です。こいつは、そこらに居るはずのない悪魔です。」
      召還術によって、魔界から召還されたのです!」

お姉さん 「えええ!?」

アらラ  「あららー、魔法使いさんの仕業ですかネ?」

女役人  「本来の生息域である魔界とは環境が大きく違うために、
      こいつらはこちらで数日と生きられません。」

女役人  「すぐ死ぬし繁殖も無理なので野生は居ないのです。」

アらラ  「あらら? 黒い悪魔はものすごく生命力が強いと聞いていましたですネ。」

女役人  「どこでも生息域にしているように思われていますが、地域ごとの環境に合わせて
      適応しているだけで、どこに行っても生きていける訳ではないのです。」


女役人  「そんなわけで近日中に何者かに呼び出されたと考えられるのです。」

お姉さん 「こ、こんな気持ち悪いものを呼び出すって、どうしてっ!?」

ミノタ  「何者かって、誰むぉ?」

女役人  「この辺に魔術師とか召還術に長けた者は?」

ミノタ  「ウチの迷宮の警備兵してるゴブリンどもが、コックリさんを呼出して遊んでるくらいむぉ」

アらラ  「それ、召還術じゃないですネ」

女役人  「こいつらの移動範囲は広くありません。誰かに運ばれたという場合でない限りは、
      近所1~2キロ以内で召還術によって呼び出されている筈。」

ミノタ  「近所1~2キロって、ゴブリンの集落があるだけで魔術師なんて居ないむぉ?」

女役人  「どうやら犯人はゴブリンですね。」

母上   「ゴブリンにそんな悪魔召還の魔術なんかできるのかしらね?」

女役人  「うーん、そうですね。では、遠くから何か運んでくる者は?」

ミノタ  「コボルトが毎日、新聞配達に遠くから来るむぉ。」

女役人  「では犯人はコボルトですね。」


コボルト 「ちょっと待ったあっ!
      どうしてあっしが黒い悪魔を運んで来た事になるんですかいっ!?」

ミノタ  「じーっ」

お姉さん 「じーっ」

アらラ  「じーっ」

コボルト 「ちょっ!? そりゃないっすよっっ!? あっしを疑うなんてそりゃあんまりだっ!」

コボルト 「黒い悪魔が寄って来るほど、あっしは臭くも汚くもありやせんぜっ!?」

母上   「コボルトさんはお風呂を覗くことはあっても、
      そちらの意味でフケツな方ではありませんよ?」

コボルト 「ゲフン!! ゴフン!!」


女役人  「冗談はさておき、元凶はご近所にあるはずです。」

母上   「ともかくも、食事に混入した黒い悪魔は"来訪者"って事で、いいかしら?」

女役人  「ええ、この店舗の衛生上の問題ではないので営業再開して構いません。」

お姉さん 「ああ、よかったっ! ありがとうございますっ!」

女役人  「でも何者かが故意に黒い悪魔を呼び寄せた訳ですから、
      放置するとまた同じ事が起こるかも知れませんよ?」

ミノタ  「迷惑な話むぉ~!」

アらラ  「いったいどこで召還されたのでしょうネ?」

お姉さん 「この辺りには、年代不明のよく判らない遺跡や廃墟が沢山ありますね?」

一同   「それだ!」









(帝国クレータ自治領・ツインカウベル一号店・一階食堂)



労働者A 「一時はどうなるかと思ったが、食堂が再開出来てよかったじゃんよ?」

労働者B 「俺たちも昼飯に困らずに済むぜ。もう握り飯は飽きた。」

お姉さん 「ありがとうございますっ どうぞお席へ!」

労働者C 「食べ損なった牛丼定食な! こいつは大盛!」

モヒカン 「ヒャッハー! 今度こそ生姜焼きだぜー!」

アらラ  「あららー すみません、店内への火焔放射器の持ち込みはご遠慮下さいませ。」

労働者C 「お嬢ちゃん、今日も穿いてないのかい?」

アらラ  「はいー。穿いてたらあの時きっと燃えてしまいましたネ。」

労働者C 「すばらしい!」

労働者B 「アらラちゃんの限定サラダ、今日あるかい?」

労働者C 「そうだそうだ、俺もっ! もぎたて女の子野菜www」

アらラ  「あららー、できますよぉ。ありがとうございますぅ」

ミノタ  「いかがわしいメニューみたいに言われてるむぉ~?」

お姉さん 「あはははは…」 (^^;


労働者A 「そういやあのうっとうしい連中、今日も居なかったな?」

労働者B 「飽きたんじゃねえの?」

労働者C 「この辺にいる煩いゴブリンども、今日もお休みかい?」

アらラ  「あららー? コブリンさん達ですか。あまり交流がありませんので良く判りませんネ。」

お姉さん 「ゴブリン達が何か?」

労働者A 「俺たちの仕事の邪魔するんだよ。」

労働者B 「遠巻きにしてギャーギャー喚くくらいならいいけどよ? 石投げてきやがる。」

労働者C 「自分たちのナワバリに人間が道作るのが気に入らないんだろ。」

モヒカン 「あまり煩いと消毒してやるぜヒャッハー!」

ミノタ  「あのバカ達、ロクな事しないむぉ~ 領主としてきつく言い聞かせておくむぉ!」









(帝国クレータ自治領・ゴブリンの集落)



ゴブリン長「ひっひっ… これはこれは領主様、お越し頂き恐悦ですじゃ ひっひっ…」

ミノタ  「あの焚き火は一体何を燃やしてるむぉ!? 酷い臭いで吐きそうむぉ!」

コボルト 「ダ、ダンナ、鼻がどうかしそうでサ」

ゴブリン長「ひっひっ… 黒い悪魔の死骸をね… 沢山… ひっひっ…」

コボルト 「あっしはもう我慢できませんっ ちょっと吐いてきやす…オエェッ」

ミノタ  「あれ全部、黒い悪魔の死骸むぉ!?」

ゴブリン長「ひっひっ… 村の若い三バカども、遺跡へ入って悪さしたらしい… ひっひっ…」

ミノタ  「ここで何があったむぉ!?」

ゴブリン長「黒い悪魔の大群が押し寄せ、村の物を何もかも食い荒らしてしまった、何もかも…
      そして勝手に死んだ… ひっひっ…」

ミノタ  「やっぱりお前たちの仕業だったむぉ! いい加減にするむぉ!」

ゴブリン長「ひっひっ… どうかお許しを… 人間にナワバリを荒らされると若い衆が…」

ゴブリン長「領主様の意向だから従えと言っても聞かんのですじゃ ひっひっ…」


ミノタ  「これ以上街道工事を邪魔すると、皇帝が怒って帝国軍遣すかも知れないむぉ!」

ミノタ  「そうなったらボクだってお前らの事なんか知らんむぉ! お前らみんな消毒むぉ!」

ゴブリン長「ひっひっ… やらかした三バカは穴倉に閉じ込めた… 当分出さないからお許しを…」

ミノタ  「そう言いながら、お前はさっきから一体何を食ってるむぉ?」

ゴブリン長「ひっひっ… 黒い悪魔が唯一、食べなかった唐辛子」

ゴブリン長「こいつを黒い悪魔と交互に串に刺して軽く火で炙ると…結構イケますじゃ」

ゴブリン長「悪魔、唐辛子、悪魔、唐辛子… ひっひっ…」

コボルト 「オエエエエエエエェ~~~ッッ ゲロゲロゲロゲゲボッッ」 orz









(帝国クレータ自治領・ゴブリンの集落隣の遺跡)



ミノタ  「ゴブリンどもが黒い悪魔を召還したのはこの遺跡の奥にある魔法陣むぉ」

女役人  「なるほど、この古代遺跡にまだ稼動しうる召還魔法陣があったなら、
      連中みたいなおバカさんでも呪文一つで黒い悪魔を呼び出すことができたのも頷けます。」

お姉さん 「どど、どうしてそんな、黒い悪魔なんてただただ気持ち悪いものを呼び出す呪文なんて
      訳の分からないものがあるのっ!?」

女役人  「嫌がらせの為だけに編出された呪文だとか、生ゴミを生贄に契約が成り立つから
      練習や実験に向いてるとか諸説あります。」

女役人  「いずれにしても魔道士なんて奇人変人が多いですから。」

ミノタ  「お姉さん、無理してついて来なくてもいいむぉ?」

お姉さん 「いいえ、あ、あたしも行きます!」

お姉さん 「黒い悪魔が滅びるかっ、あたしが店をたたんでこの地を去るかっ!
      この戦いは生存権を賭けた決戦ですっ!」 ブルブル

ミノタ  「大げさむぉ~?」


モヒカン 「ヒャッハー! この火焔放射器さえあれば黒い悪魔など恐るるに足らず!」

労働者B 「全員分の火焔放射器を用意するの、けっこう大変だったんだぜ?」

労働者A 「種火を絶やすなよ? こいつが消えたらいざと言う時、火が出ねえ」

お姉さん 「"いざと言う時"って!?」

労働者A 「へへへ…暗闇の向こうから、黒い悪魔の大群が一斉に…!」

お姉さん 「ひぃいいい~っ」 ><

ミノタ  「お姉さん、そんなにくっついたら歩きにくいむぉ?」

労働者B 「こういうシーンで一人はぐれたら、そいつから食われるんだよな……。」

お姉さん 「食われる!? 何にっ!?」

労働者B 「遺跡のヌシよ…! 巨大に成長した黒い悪魔の親分がオレ達を狙っているのさ!」

労働者A 「一人、また一人と食われていくんだぁ~!www」

お姉さん 「ふえええぇ~っっ」 ><

ミノタ  「お姉さんを脅かすの止めるむぉ~」

労働者A 「はぐれた猫を探しに行くとかもフラグだよ。」

女役人  「しっ! アレ見て!」


労働者B 「臭っせぇ!」

労働者C 「生ゴミの山だっ! 黒い悪魔の大群が群がってやがる!」

お姉さん 「はわわわわわ」

女役人  「遺跡の召還魔法陣が稼動してるわ! 止めないと次々に湧いて出てくる!」

ミノタ  「全部焼き払って、魔法陣を破壊するむぉ!」

ミノタ  「じゃ、練習通りにいくむぉ!」

労働者A 「火焔放射器フルチャージ!」 ガッシュンガッシュン

労働者B 「種火よし! 圧力よし! やってやろうぜ!」

労働者C 「よーし、合図をっ!」

モヒカン 「 ヒャッハーーーーッッ!! 」

全員   「 汚物は消毒だああああ~~~っっ!!! 」



      ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ

      ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ

      ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ









(帝国クレータ自治領・ツインカウベル一号店・一階食堂)



お姉さん 「みなさん、お疲れ様でしたっっ!」

労働者A 「おつかれーっす!」

労働者B 「おつかれっ! 今日はいい仕事した!」

労働者C 「ビールが、んめぇ~っっ」

お姉さん 「好きなだけ召し上がって下さいね!」

モヒカン 「ヒャッハー! タダ飯だ~っwww」

女役人  「召還設備は使えないように壊したから、もう黒い悪魔は出ないわ。」

ミノタ  「悪の巣窟を叩いたむぉ。これでひと安心むぉ。」

労働者A 「俺たちも、昼飯の心配なく安心して工事に懸かれる。」

労働者B 「街道が港まで開通すれば、人が通るようになってここも少しは賑わうよ。」

労働者C 「いい所に店建てたじゃないかい。
      この近辺には他に何も無い。行商も駅馬車もみんなこの店に立ち寄る。大繁盛さ。」

ミノタ  「邪魔者は居なくなったし、がんばって繁盛させるむぉ~!」

お姉さん 「みなさんのお陰です。有り難うございますっ」

モヒカン 「また消毒が必要になったら、いつでも呼んでくれ!」 ニカッ!









(帝国クレータ自治領・ツインカウベル一号店・二階居住室)



お姉さん 「月が綺麗です。」

ミノタ  「月の綺麗な夜に男と女がする事は一つむぉ!」

お姉さん 「はいっ ミノタさん愛してますっ!」 ギュッ!

ミノタ  「むほっwww」

お姉さん 「黒い悪魔を撃退してっ これでお店に平和が… ぐすっ」 ウルウル

ミノタ  「よかったむぉw これで安心して子作りできるむぉ~www」

お姉さん 「もう誰もあたし達の邪魔をする者は居ませんっ」

ミノタ  「お姉さん、何時になく積極的むぉ?www」

お姉さん 「今夜は寝かせませんから。んふっ♪」 チュッ









                                 カサカサ..

THE END.









お話にお付き合い頂き乙でした。

また後日に続けてもう一本、番外的過去編いきます






     『アルラウネの果実』


 女の姿で人を誘い捕食するという植物の魔物アルラウネ。
草花と同じく環境に応じて多種多様な生態に別れ、多岐に分類される。

 中でも凶暴なアルラウネとして知られるその希少種は
魔術師のダンジョン、ミノタウロスの迷宮、ヴァンパイアの城などに好んで根を張る。

 その華麗な花弁の下に鋭い棘の葉を忍ばせ、その身に触れた者を一瞬にして覆い飲み込み
串刺しにして犠牲者の血肉を喰らうのだ。

 そのような恐ろしい魔物だが、人を喰らい魔の力を得た希少種がつける"果実"は、
どのような病にも効く秘薬であると伝えられる。

 故に、アルラウネ収集家はもちろん一攫千金を夢見る者達にとっても垂涎の的であり、
其の為に不用意に彼女に近づき、犠牲になる者は後を断たない。

 "彼女"の本当の恐ろしさは、人の命を糧に結ぶその実の誘惑にあると言えよう。



                        ―ダークエルフ著・アルラウネの生態より―




【登場人物】

エルフ少女:エルフ
活発で好奇心旺盛な女の子。
病弱な姉を唯一の家族と慕い、いつか姉の病を治す薬を見つけようとあちこち探索する。

エルフ姉:エルフ
エルフ少女の姉。病弱で外へ出かけることができない。
一日の大半を読書で過ごす毎日だった為か博識。特に伝記や探検記などを好み外の世界へ憧れる。

アルラウネ:アルラウネ科(多年草?)
大きな花の中から少女の上半身が生えた姿をした植物系モンスター
無数の蔦を伸ばし花を咲かせ、つけるその実は秘薬と伝えられる。
多種に及ぶアルラウネの中でも希少種で「あららー?」としか喋ることができない。

牛王:ミノタウロス(年齢不詳)
屈強で凶暴なミノタウロス。のちのミノタの父。
迷宮"ラビュリントス"の主として、アルラウネやコボルトその他、迷宮に巣食う魔物を統べる。
逆らう者はぶち殺し欲しい物は力で奪うジャイアニストにしてロリ好きのペロリスト。

重傷娘:人間(14)
王家の血縁者だったが為に気の触れた王族の罠によって拷問にかけられ
半死半生で魔物の巣食う迷宮に打ち捨てられた少女。のちの母上

母上:人間
重傷娘のその後。牛王に拾われ命を救われた後、ミノタを産んで牛王の妻となる。ロリ体質。

コボルト:妖魔
牛王の子分。嗅覚に優れる変態。雑魚妖魔だが情報通で頭も悪く無いため牛王から重用される。
のちに母上に惚れ込み報われぬ忠誠を尽くす。

アらラ:不思議生物
アルラウネのその後? 
エルフに似た姿で自在に動く蔦を生やし、四季の花を咲かせ野菜や果物を生らす。
人並みに食事をして活発に歩き回り、二本足の姿で歩くようになってからは運動も得意という有様で、
彼女はアルラウネを自称しているが周りは懐疑的。










     ―― 十七年前 ――









(王国辺境・迷宮ラビュリントス内部・アルラウネ生息域)



エルフ少女(エルフ少女探検隊はただいま迷宮の奥深く、魔物の巣窟の只中までやって参りました。)

エルフ少女(探検隊と言っても私一人だけ、しかもミノタウロスが支配すると言われるこの迷宮には
      凶暴な怪物が跋扈しており、大変危険なのですよ!)

エルフ少女(はい、手練れの騎士でも無双の戦士でも強力な精霊使いでもない唯のエルフの女の子が
      こんな処に潜入するのはまさに自殺行為、いいカモなのですネ)

エルフ少女(でも、湧きあがる使命感とちょっとばかりの好奇心とが、
      私をこんな危険地帯へと誘って止みませんのネ)

エルフ少女(幸いにして私は缶蹴りのスキルだけはカンスト! エースです!
      敵に発見されずに近づく事にかけては誰にも負ける気がしませんネ!)

エルフ少女(そんなわけで、コックリさんに興じてるお馬鹿なゴブリン達を余裕ですり抜け、
      筋トレに余念の無い脳筋オーガー達の階層も突破)

エルフ少女(よく判らないけど見えない敵を相手に戦ってる中二トロルのフロアも難なくやり過ごし、
      迷宮最深部近くまで辿り着きました!)


エルフ少女(今居るここは、"アルラウネ要塞防御隊"の陣取る階層! 入り口にそう書いてあるですよ)

エルフ少女(お日様の光が差し込む広いフロアいっぱいに植物の蔦が這っていて、時々蠢きますネ。
      きっとアルラウネさんの触手です。迂闊に踏んづけると見つかってしまうですネ)

エルフ少女(そして真ん中に、緑色の肌の裸の女の子が両手を広げてお日様の光を浴びていますネ。)

エルフ少女(頭から綺麗なお花を咲かせて、かわいい実まで生らせています。
      アルラウネさん間違い無しですネ)

エルフ少女(はい。私はそのアルラウネさんに用があって、こんな危険を犯して迷宮奥深くまで
      忍び込みましたのですよ!)

エルフ少女(ではさっそく、風下から気づかれないように接近します!)

エルフ少女(そ~っ)

エルフ少女(そ~っ)

エルフ少女(ん? なんだか甘い、いい匂いがしますネ?)




エルフ少女「そ~っ」

エルフ少女「そ~っ って、あれれ?」

アルラウネ「あららー?」

エルフ少女「はうぅん!? 今どーして、"そ~っ"なんて口に出して言っちゃったかな私はぁ!?」

アルラウネ「あららー!」



      ザワワワワワッ!



エルフ少女「ひゃあっっ! わあああ、放してえええっ!」

エルフ少女「ごめんなさいいい~っっ!」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス最深部・ボスの間)



コボルト 「お頭、このガキ、侵入者です。アルラウネが捕縛しやした。」

アルラウネ「あららー」

コボルト 「他のオーガーやゴブリンどもは気が付かなかったようで。…たくあいつら使えねえ」

牛王   「……フシュッ」

エルフ少女「ごえんにゃしゃい~うるひてくらはい~」

コボルト 「アルラウネの放つ瘴気にやられてラリったようで。どうしやす? ……始末しやすか?」

エルフ少女「おねがいれすぅ、なんれもしまふから、うるひてくらはい~」

コボルト 「お前みたいなちんちくりんじゃ、ガキ生ませることも出来やしねえ。
      何の役に立つ? 何ができるってんだ?」


エルフ少女「私には病気のおねえひゃんがいるでふぅ、お薬持って帰るの待ってるれすぅ~」

牛王   「……薬だと?」

エルフ少女「アルラウネひゃんの実はどんな病をも治す強力なお薬になるとご本にあったのれ、
      貰えにゃいかと思って来たのれすぅ」

アルラウネ「あらら?」

コボルト 「なんでぇ? アルラウネの実がどんな病も治す薬? そりゃ本当か?」

アルラウネ「ふるふる」 ><

コボルト 「んだよ、ガセだろ、ったく。」

コボルト 「んーなヨタ話信じてこのミノタウロスの迷宮奥深くに忍び込んだってのかよ、
      とんでもねえガキだ。」

牛王   「……そいつを連れて来い」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス居住区・牢獄)



エルフ少女「ひっ……!?」

重傷娘  「あ… うぅ…」

エルフ少女「この…女の人は…!?」

コボルト 「見ての通りだ。死にかけてる」

エルフ少女「血だらけです…… ああっ、ひどいっっ……!」

重傷娘  「…おねがい…、もう…殺して… 楽…に… して…」

エルフ少女「何があったですか!?」

コボルト 「拷問でサ」

エルフ少女「拷……!?」

コボルト 「皮膚が破れるまで鞭で打ったんでサ…。たとえ助かってもこの傷はもう消えやしない」


コボルト 「身体の表面だけじゃねぇ、もっと酷いのは……まあいい」

エルフ少女「……私にもこうするつもりなの……!?」 ブルブル

牛王   「この娘の命を救ってみせよ」

エルフ少女「え!?」

コボルト 「……。お頭、このガキに?」

牛王   「出来るか? 答えろ」

エルフ少女「て…手当てはします! しますから、この人にもう酷い事しないでっっ!!」

牛王    ギロリ

エルフ少女「か弱い女の子にこんな酷いっ!」

エルフ少女「弱い者を甚振って喜ぶなんて、でかいのは体ばかりのクズよ、このビーフ野郎!」

コボルト 「てっ…てめえ!! お頭に向かって何て事をっ!?」

エルフ少女「サイコロステーキのクズビーフ! 狂牛病になってハゲて死んじゃえ!」

牛王   「フシュッ!」


コボルト 「お頭っ、すみません! こいつ今すぐ始末いたしやす!」

牛王   「よいわ。このガキなかなか見所ある。アルラウネ、放してやれ。」

アルラウネ「あらら」

エルフ少女「醜い化物! 土下座して生まれてきた事を謝れっ!」

コボルト 「このクソガキ! 言いたい事吐き散らしやがって! 調子に乗るなっ!」

エルフ少女「この人が何をしたって言うのですネ! あんまりですぅ! わあああ~~んっっ」

牛王   「フン」

コボルト 「おい、いい加減にしろ! この女をこんなにしたのは、お頭じゃねぇよ!」

エルフ少女「……え?」

コボルト 「王城の人間どもの仕業だっ!」

エルフ少女「あなたたちじゃないの?」

コボルト 「ちげーよ! 何が楽しくてこんなんするかってんでぇ!」


コボルト 「こんな血まみれに弄ってこの迷宮に放り込んで行きやがった!」

エルフ少女「……そうなの? どうして?」

コボルト 「知るかっ! てめえその罵詈雑言どこで倣ったっ!?」

エルフ少女「……。ごめんなさい。その…言い過ぎましたですネ」

牛王   「フッ、強者に罵声を浴びせるその度胸や良しとしよう。」

牛王   「この女を助けられるか?」

エルフ少女「わかりました。助けます! きっと!」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス近辺・エルフの村)



      パチン!



エルフ少女「っ……」

エルフ姉 「ど、どうしてそんな危ない事をっ!!」

エルフ姉 「アルラウネを探すなんてそんな危ない事、絶対にダメって、ダメって言ったのにっっ!」

エルフ少女「……ごめんなさい、姉さま」

エルフ姉 「ぐすっ… あなたにそんな危ない事して欲しくないのっ! …ぐすっ」

エルフ少女「……ごめんネ? でも、きっと姉さまの病に効く秘薬を…」

エルフ姉 「…ぐしゅっ 分かってる。私の為にしてくれたのに、なのに叩いたりして…ごめん」

エルフ姉 「だけど、もうそんな危険なことしちゃだめ!
      もしあなたが戻らなかったら、私もうどうしたらいいの…?」

エルフ少女「心配させちゃってごめんネ。でもまた迷宮に行かなくちゃ…」

エルフ姉 「ダメよ!? 絶対ダメ!」


エルフ姉 「ミノタウロスの潜む迷宮なんて二度と行っちゃダメなんだから! ――うぐっ、かふっ」

エルフ少女「姉さま、落ち着くですよ。ほらまた吐血しちゃうですネ…」

エルフ姉 「はぁはぁ… 行っちゃダメ…」

エルフ少女「女の人が死にそうなのですネ」

エルフ少女「助かるかどうか分からないけど、でもあのまま手当てもされずに、
      魔物の巣窟で一人で息絶えるなんてあんまり惨めで可哀想ですネ。」

エルフ姉 「どうしても行くの?」

エルフ少女「あの人をこのまま見捨てたりしたら、もう一生お日様を仰いで笑うことが
      できなくなってしまうような気がするのですよ……」

エルフ姉 「……。なら私も一緒に行くわ」

エルフ少女「身体に障りますぅ。大丈夫、迷宮のボスの命令なので危険は無いですネ」

エルフ姉 「でも、文献によるとミノタウロス一族はとても残忍で、女を犯し弄り飽きたら殺すと…」

エルフ少女「そういうふうには見えなかったのです。
      悪い人間たちの、あの女の人への仕打ちに怒ってるように見えましたネ。」


エルフ少女「このまま見捨てる事はできないのです。
      あの女の人が生きている限りは、出来る事はしてあげたいのですネ。」

エルフ姉 「そう…。文献からでは知り得ない事を、あなたなら肌で感じる事ができるのね。
      うらやましい… けふっ、こふっ」

エルフ少女「そんな事無いですネ。姉さまは私が知らない事を、本でいっぱい知ってるのですよ。」

エルフ姉 「書物で知る事ができるのは、人が見聞きしたそのおすそ分けに過ぎないの。
      あなたはどこへでも行って自分の目で確かめて直に感じる事が出来る。素敵な事よ。」

エルフ少女「いつか姉さまを、その病から解放してあげるのですネ。」

エルフ少女「元気になったら一緒に外へ出て、世界のいろんなものを見て肌で感じるのですよ!」

エルフ姉 「ううん、いいの。私の為に危ない事しないでね、お願い。」

エルフ少女「姉さまは私のたった一人の家族なのですネ。ずっと一緒だから安心するですよ。」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス居住区・牢獄)



エルフ少女「姉さまに本を借りて来ました! ここに怪我に効く特効薬の作り方が書いてありますネ」

コボルト 「……。通商語の文字じゃねえな。あっしには読めねえ…」

エルフ少女「魔道士が使う文字ですネ。」

エルフ少女「アルラウネの若葉に世界樹の雫を沁みこませ蒼の鉱泉の苔に――」

コボルト 「お前、こんなものが読めるんだ?」

エルフ少女「姉さまにご本を読んでもらううちに自分で読みたくなって、
      いろんな文字を姉さまに教わりましたネ。」

重傷娘  「……」

エルフ少女「今、怪我の手当てをしてさしあげますネ! だから気をしっかり持って欲しいですネ!」

重傷娘  「た…すけて… くれるの……?」

エルフ少女「いまお薬を作ります! きっと助かりますネ! だから諦めてはいけないですネ!」

重傷娘  「ありがと……」


コボルト 「蒼い鉱泉ならこの近くに湧いてる。けどなんとかの雫ってのはなんでぇ?」

エルフ少女「結晶のお薬です。姉さまの飲み薬に混ざっているので貰ってきましたネ」

コボルト 「あとはアルラウネの葉っぱか!」

エルフ少女「コボルトさんは鉱泉と苔を摘んできて下さいネ。
      私はアルラウネさんに葉っぱをお願いしてきます!」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス内部・アルラウネ生息域)



エルフ少女「アルラウネ…さん?」

アルラウネ「あららー?」

エルフ少女「お薬を作るのに、あなたの葉が沢山必要なのですネ」

アルラウネ「あらら」

エルフ少女「分けて…もらえないでしょうかネ」

アルラウネ「あらー」

エルフ少女「ありがとう、嬉しいですぅ! ではちょっと、毟らせてもらいますネ」

アルラウネ「んっ…」

エルフ少女「あっ、もしかして葉を毟ったら痛かったりするのでしょうか?」

アルラウネ「あぅ」

エルフ少女「大丈夫ですって? ならいいのですけど。」


エルフ少女「あ、この葉っぱ少しばかり薄毛が生えてますネ」

アルラウネ「ふあっ」

エルフ少女「あれ? なんか震えてますネ。本当に大丈夫ですか? 痛くないですか?」

アルラウネ「あ…あらら…」

エルフ少女「お花の蕾がヒクヒクしてますネ。何だかお顔も紅いですよ?」

アルラウネ「ああぅ」

エルフ少女「え? 私のせいですかぁ?」

アルラウネ「あららぅ」

エルフ少女「そう言われても、どう優しくしたらいいか分からないですネ」

アルラウネ「はんっ」

エルフ少女「あれー、蕾の花弁がしっとり湿ってきましたネ。花の蜜ですかネ?」

アルラウネ「んっ…んふうっ」

エルフ少女「ちょっと触りますよ?」

アルラウネ「あっ、あああっ」

エルフ少女「わぁ、蔦を絡ませないで欲しいですネ、ああっそんなに締め付けちゃダメですぅ!」

アルラウネ「あららぁ~っっ」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス居住区・牢獄)



牛王   「薬は出来そうか?」

エルフ少女「調合は済みましたです。でも、成分が発酵して出来るまで二日掛かると…」

コボルト 「二日!? 何とかなんねえのか!? この女くたばっちまうかも知れねえっ!」

重傷娘  「……」

エルフ少女「えーと、口に入れて四半刻ほど咀嚼することにより発酵は大幅に早まる、とありますネ。」

コボルト 「咀嚼? 口ん中に入れてもぐもぐするって事で?」

エルフ少女「ただし注意書きがあって、それをすると味覚を失う、と…」

コボルト 「どういう意味でぃ!?」

エルフ少女「たぶん、材料のどれかから舌によくない毒素か何かが発生するのだと思うのですネ」

エルフ少女「ちょっと試してみますネッ」

コボルト 「まてまてっ、迂闊な事をするな。まずあっしがやりまさぁ。」


コボルト 「嗅覚にぁ自信がある。この鼻でやべえ食い物を何度も見分けて生き延びて来たんでサ…」

コボルト  くんかくんか

エルフ少女「……。どうですかネ」

コボルト 「よく判らん……。ちょっとだけ… はむっ」

コボルト 「うぐっ!? ぶえっ! ぺっぺっ! ぺっぺっ!」

エルフ少女「大丈夫ですかっ!?」

コボルト 「こりゃひでぇ、口中ごわごわんなっちまうぞ!? 味覚がどうこうどころじゃねえよ!」

コボルト 「これを四半刻口のなかでもぐもぐしろって、無茶な話ですぜ!?」

エルフ少女「そんな、どうしよう…」

牛王   「その薬、四半刻のあいだ咀嚼してその後どうする?」

エルフ少女「舌に成分が抽出されるから、患部に擦り付けると書いてあります。」

エルフ少女「つまり舐めるのですネ」

コボルト 「冗談じゃねえ、その前に舌が壊死するかも知れないですぜ」

牛王   「どれ」 モシャッ

コボルト 「ちょっ、お頭っ!?」


牛王   「フン、こりゃ酷い味だ」 モシャモシャ

コボルト 「お頭っ、平気なんで!?」

牛王   「黒い悪魔の串焼きでもここまで酷い味ではあるまい。
      が、それ以外はどうという程の物でも無い。」

エルフ少女「ミノタウロスさんの口は特別なのでしょうかネ?」

コボルト 「確かに牛はごっつい草でも一日中食ってるって言うが…」

エルフ少女「四半刻くらいの間もぐもぐして、傷口を舐めてくださいネ」

コボルト 「傷口たって、身体中ですぜ…?」

エルフ少女「感染症も心配ですから、身体中の怪我させられてる所を全部、舐めてあげないとですネ」

コボルト 「拷問でやられたのは身体の表面ばかりじゃねえよ……」

エルフ少女「表面だけじゃなく?」

コボルト 「……。女の大事なとこって言えば分かるか?」

エルフ少女「え……」

コボルト 「女の尊厳を徹底的に踏みにじって殺してやろうってんだろ。
      最期は魔物に甚振られながら息絶えさせるつもりで、この迷宮に捨てたんでサ」

エルフ少女「あんまりです…!」

コボルト 「胸糞悪ぃ。どうしてここまで陰惨な事するかね、人間てぇのは」


牛王   「女よ、今一度問う」

重傷娘  「……」

牛王   「このまま静かに果てるか、辱めを受けてでも生に執着するか」

牛王   「どちらが望みだ?」

重傷娘  「生きたい…です… 助けて…ください…」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス内部・アルラウネ生息域)



エルフ少女「アルラウネさんっ!」

アルラウネ「あらら?」

エルフ少女「葉っぱをたくさんありがとうですぅっ!」 ギュッ

アルラウネ「ららぁっ!」

エルフ少女「え? 急に抱きつくのやめれ、ですかぁ? ごめんなさいですぅ」

アルラウネ「らぅー」

エルフ少女「えへへー、忘れてましたぁ。
      アルラウネさんは魔物で、人間やエルフを捕まえて食べちゃうんですよネ。」

アルラウネ「あらー?」

エルフ少女「はい。おかげでお薬を作るところまではなんとか。」

エルフ少女「あとはお頭さんがもぐもぐして、あの女の人の傷を舐めて差し上げれば、
      助かるかも知れません。」

エルフ少女「いえ、きっと助かるですよ!」

アルラウネ「あらー」


エルフ少女「あっ、ここ樹液が垂れちゃってますぅ。葉っぱ毟っちゃった所為ですネ、ごめんですぅ」

エルフ少女「そうだ、これ貼ってあげるですよっ!」

アルラウネ「あらら?」

エルフ少女「絆創膏! 小さな怪我なら傷にペタっと貼るだけで血が止まる魔法のぺったんこですぅ!」

エルフ少女「じっとしててくださいネ。こうして~、ぺたっ」

アルラウネ「ぺた?」

エルフ少女「あれっ? なんだかカワイイですネー。植物さんに絆創膏が似合うですかネ」

エルフ少女「あっ、お顔の真ん中にも張るともっとカワイイかも!? えいっ、ぺたっ♪」

アルラウネ「ぺたっ?」

エルフ少女「んふふふっ カワイイですぅ、男の子みたいですぅ~」

アルラウネ「あらら~?」


エルフ少女「探険に行くとネ、あちこち怪我しちゃう事、結構あるんですよ~
      だから絆創膏いっぱい持ってますぅ」

アルラウネ「らっ」

エルフ少女「危ないところ行っちゃダメ、ですか?
      アルラウネさんまで、姉さまみたいなこと言うのですネッ」

アルラウネ「あらら」

エルフ少女「こんな危ない所まで来たから、アルラウネさんとお友達になれたんじゃないですかぁ!」

アルラウネ「あら?」

エルフ少女「お友達? なにそれ美味しいの? …ですか!? 美味しくないですぅ~っ」 ><









(王国辺境・迷宮ラビュリントス居住区・牢獄・夜)



エルフ少女「あの女の人の様子はどうでしょうかネ?」

コボルト 「今は眠っていますぜ。お前にも礼を伝えて欲しいそうだ。」

エルフ少女「今夜、ここに居てもいいですかネ。近くに居てあげたいですネ」

コボルト 「そうして欲しいとこなんだが、部屋も寝台も無え。あるのは牢屋と拷問部屋だけでサ」

エルフ少女「牢屋と拷問部屋…… あなたたちもそういうこと…するですか…」

コボルト 「ねーよ。ここはな、ン千年も前に建てられた迷宮で、牢屋とか拷問の部屋だって
      その当時に作られたモンだ。」

コボルト 「ちょっと前まで、ここは他のミノタウロスが根城にしてたのサ。
      そいつをお頭がぶっ殺して奪い取って、そのまま住んでるわけだ。」

エルフ少女「そうですか、ミノタウロスはとても残忍な魔物と聞いたのでつい…」

コボルト 「残忍には違いねえな」


コボルト 「お頭は聖人だろうが悪魔だろうが癇に障れる奴は即ぶち殺す、おっかねえお方だ。
      拷問とかそういう趣味は無いってそれだけサ。」

エルフ少女「即ぶち殺されずに済んでよかったですぅ」

コボルト 「お前も脳天からケツまで真っ二つにされたくなきゃ、口の利き方に気をつけろや。」

エルフ少女「勝手に勘違いして、味噌糞に言ってしまいましたネ」

コボルト 「まったく、怖いもの知らずなガキだ。」

エルフ少女「怖いけど……謝りに行くですよ」

コボルト 「それはやめとけ、お頭は気にしちゃいねぇ。五月蝿がられるのがオチだ。」

エルフ少女「そうですか? わかりましたネ」

コボルト 「それより、寝るなら毛布あるから持っていきな。石壁の迷宮は寒い、風邪引くぜ。」

エルフ少女「……。ありがとう。コボルトさんは魔物なのに親切ですネ。」

コボルト 「なんだと? 雑魚だと思って軽く見るとお尻ぺんぺんすっぞ!」

エルフ少女「ふえぇぇ、ごめんなさいですぅ」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス内部・アルラウネ生息域・夜)



エルフ少女「アルラウネさん……」

アルラウネ「あらら?」

エルフ少女「眠れそうな場所が見つからなくて、また来ちゃいましたネ」

アルラウネ「あらら」

エルフ少女「少しの間、ここであの人を見守る事にするですよ。傍に居てあげたいですネ……」

アルラウネ「ららー」

エルフ少女「え? 眠れる場所が無いならだっこしてあげる、ですか? えー、うわあっ?」

アルラウネ「ららぁ」

エルフ少女「きゃはっ、蔦のハンモックみたいですネ、楽しいですぅ~」

アルラウネ「あらら~」


エルフ少女「アルラウネさん、夜のお花も咲くのですネ。いい匂いがしますぅ」

アルラウネ「あららー」

エルフ少女「……。この匂いでエルフや人間を誘って、捕まえて食べちゃうの?」

アルラウネ「あらら」

エルフ少女「アルラウネさんは誰かを食べた事あるの?」

アルラウネ「ふるふる」

エルフ少女「あのお頭さんがいいって言ったら、私を食べたい?」

アルラウネ「あら」

エルフ少女「うわぁっ、やっぱり食べたいのっ!? ふぇえええ~っ」

アルラウネ「あららー?」

エルフ少女「そんな事言ったって、怖いものは怖いですぅ」

アルラウネ「あらら」

エルフ少女「今はまだ食べる時期じゃない、ですか?」


エルフ少女「さっ、さては肥え太らせてからおいしく頂こうみたいな、
      どこかの悪い魔女みたいに邪なコト考えてるですネ!?」

アルラウネ「あららー」

エルフ少女「ああ、な~んだ」

エルフ少女「アルラウネさんがもう少し育って、それから誰かを食べると立派なアルラウネになれると、
      そういう事ですネ。」

アルラウネ「あら」

エルフ少女「でもアルラウネさんは、蔦の触手もいっぱいあるし、お花だって咲かせられるし、
      もう立派に育ってるんじゃないのですかネ?」

アルラウネ「あら?」

エルフ少女「それとも、お胸がぺったんこなのを気にしてるの?」

アルラウネ「ふるふる」><

エルフ少女「だいじょうぶ、私もぺったんこですぅ!
      姉さまのご本に、貧乳は希少価値と書いてありましたですぅ!」


アルラウネ「あーらーらっ」

エルフ少女「はい、分かりましたネ。子供はもう寝る時間ですネ。」

アルラウネ「あら~?」

エルフ少女「えー、子守唄歌ってくれるですか?」

エルフ少女「うーん、さすがに私、もう子守唄って歳じゃないですよ?」

アルラウネ「あらら…」

エルフ少女「そんな残念そうな顔しないでください、わかりました、聞かせてくださいネ」

アルラウネ「らら♪ こほん」

アルラウネ「ら~ら~らら~♪」

エルフ少女「くすっ、変わった子守唄ですネ」

アルラウネ「ららら~らら~ら~♪」

エルフ少女「おやすみなさいですぅ…」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス居住区・牛王の部屋)



エルフ少女「包帯は毎日取り替えるですよ。ベッドのシーツも取り替えて、清潔にするですネ」

牛王   「うむ」

コボルト 「洗濯はあっしがきっちりやりやすんでお任せくだせえ。」

エルフ少女「裸じゃかわいそうですネ、着る物持ってくるですよ。かわいいの作って来ますぅ」

重傷娘  「ありがとう……」

エルフ少女「大丈夫、きっと助かるですネ」

牛王   「世話を掛けた」

コボルト 「あっしじゃ拙い事もお前のおかげで何とかなって助かるが、一度家へ帰れや。」

エルフ少女「うん。でもまた来ていいですよネ?」

コボルト 「本来、エルフのガキがうろうろしてていい場所じゃねえが、この際しょうがねえ」


牛王   「コボルト、村まで送ってやれ。お前の毎日の仕事だ。」

コボルト 「へい、了解しやした。」

エルフ少女「えへへー、よろしくですネ、コボルトさん。」

コボルト 「ちっ、どーもガキのお守りってのは慣れねえなあ」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス近辺・エルフの村)



エルフ少女「姉さまっ!? 姉さましっかり!!」

エルフ姉 「あ…あなた、無事だった…よかったっ!」

エルフ少女「姉さま、また倒れたのですか!? とにかくベットで横になってくださいネッ」

エルフ姉 「ああ、無事で帰って来た…よかった… うっ、ううっ、ぐしゅっ」

エルフ少女「帰りが遅くなってごめんですネ、心配させてしまったですぅ」

エルフ姉 「もう大丈夫。怖い思いはしなかった?」

エルフ少女「今が一番怖いですぅっ」

エルフ姉 「ふふ、ちょっとあなたを心配させてやろうと…… 面倒くさい姉でごめんね…」

エルフ少女「お医者を呼んできましょうかネ!?」

エルフ姉 「ううん、いいの。呼んだって特に何かできる訳もない…」


エルフ姉 「それよりあなたが傍に居てくれるほうが、よほど薬になるわ。」

エルフ少女「わかったですネ。傍にいるですよ。」

エルフ姉 「ごめんね。私がこんなんじゃなければ、あなたは自由なのに…
      私が居なければ、世界のどこまでだって行けるのに…」

エルフ少女「確かに、姉さまが居なければどこまでだって行けますネ」

エルフ姉 「ごめん…」

エルフ少女「でも、姉さまが居なければ、帰って来る事も無いのですよ。
      どこまでも行って帰れなくなって、きっとどこかでノタレ死にしてますネ。」

エルフ少女「帰る場所があるから、外へ行くのが楽しいですネ。私は必ず帰ってきますネ。」

エルフ少女「だからそんな寂しい事を言わないで欲しいのですよ。」

エルフ姉 「うん。そうね。私はあなたの帰るのを待ってるから。」










(王国辺境・迷宮ラビュリントス内部・アルラウネ生息域)



エルフ少女「アルラウネさんっ!」 ギュゥ

アルラウネ「ひゃん!」

エルフ少女「え? 抱きつくのやめれ、ですかぁ? そうでした~」

アルラウネ「らぅーっ」

エルフ少女「今日は、いいものを持ってきましたネ。じゃーん!」

アルラウネ「あらら?」

エルフ少女「ナニこれ? 服ですよ?」

エルフ少女「あの女の人の服と一緒に、アルラウネさんにもかわいいワンピース作ってきましたぁ!」

アルラウネ「?」

エルフ少女「女の子がいつも裸じゃよくないと思うのですネ! 服着るときっとかわいいですネ!」

アルラウネ「あらら??」

エルフ少女「植物が裸でいて何が悪い、ですかぁ?」

エルフ少女「そんな、どこかの公園で捕まった人みたいな事言わないで、着てみるですよ!」


アルラウネ「……。」 ワサワサ

エルフ少女「そうじゃないですネ、巻きつけるんじゃなくて、頭から被るですよ。」

アルラウネ「……?」 ワサワサ

エルフ少女「頭を出さないと見えませんネ、手も袖から出すですよ。」

アルラウネ「らー?」

エルフ少女「そのままじゃ飛んできた洗濯物が引っかかってるみたいですネ。…そうそう」

アルラウネ「あらら」 ファサッ

エルフ少女「わぁ、かわいいですネ! とっても似合うですぅ~!」

アルラウネ「あらら~♪」

エルフ少女「スカートの長さも丁度ですネ。あっ、自分でめくっちゃダメですネ。」

アルラウネ「あらら?」

エルフ少女「女の子のスカートの中はロマンですぅ。ご本にそう書いてありましたネ!」

エルフ少女「だから風が吹いてもめくれないように手で押さえるですよ?」

アルラウネ「あらーん」


エルフ少女「男の子にめくられた時はいやーんて嫌がって見せるのですぅ」

アルラウネ「あららー?」

エルフ少女「別に嫌じゃない? そうですねー減るものじゃないし、どうってこと無いですよねー。」

エルフ少女「私にもよくわかんないですぅ」

アルラウネ「あらら」

エルフ少女「どうしてスカートめくられていやーんなのか、姉さまに聞いてみるですよ。」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス居住区・牛王の部屋)



重傷娘  「ふあっ、あああっ…」

牛王    ぺろぺろ

重傷娘  「んんっ、んんん~っ」

牛王    ぺちゃぺちゃ

重傷娘  「ああっ…あぁんっ!」

牛王   「フン、あいかわらずよく囀る」

重傷娘  「んんっ… ああっ! ……はぁ、はぁ」

牛王   「だらしのない顔をしおって」

重傷娘  「はしたない姿を晒しております…っ」


牛王   「怪我の治療だからと舐めてやってるというのに、べたべたに濡れて悦びおって」

重傷娘  「わ、私はもうすっかりダメな女になってしまいました、んんっ…」

牛王   「快楽に溺れる唯の雌になったようだな?」

重傷娘  「ミノタウロスよ、貴方がいけないのです。堕とした女を詰るなんて酷いですわ」

牛王   「詰られて悦ぶ変態がよく言う」

重傷娘  「これだけ恥辱を受ければ、おかしな性癖に目覚めても仕方ない事と申し上げます」

牛王   「雌豚の面倒を見させるつもりか。自尊心の欠片くらいは残していろ」

重傷娘  「貴方に辱められる事に、傷は癒え生存への希望が強くなるのですから、
      女の自尊心より雌の悦びが先立つのは道理ですわ」

牛王   「フン、拷問で弄られた"女"も、癒えたようだな?」

重傷娘  「はい。貴方に責められ、淫らに濡れて痴態を晒すばかり」

牛王   「ならば、我の子を孕ませてやろう」

重傷娘  「……!」


牛王   「その胎に精を注いでやるわ。我の子を宿せ。」

重傷娘  「はい。この身はもはや貴方のものです。どうぞお望みのままに……」

牛王   「我の子とは即ち化物ぞ。覚悟しろ」

重傷娘  「小さな私に貴方の子が産めるでしょうか?」

牛王   「お前は小さな身体をしているが、女として成熟しているようだ。」

重傷娘  「子を成す事が叶わずともご容赦くださいませ」

牛王   「殊勝だな。嫌がりもせん」

重傷娘  「嫌がる女を組み敷いて犯すのがお望みでしたか?」

牛王   「口の減らない女め」

重傷娘  「私にはもう人の街で安寧な日々を送ることが叶いません。
      刺客の影に怯えることなく過ごせるのは貴方の元だけなのです。」


重傷娘  「貴方の元に置いてさえいただけるなら、どのようにされても…」

牛王   「哀れだな?」

重傷娘  「はい。人の道から外れようとしております。せめて女として可愛がって下さいませ」

牛王   「いい覚悟だ。孕むまで何度でもその胎に満たしてやる」 グィッ

重傷娘  「あっ、どうぞお手柔らかにお願いいたします」

牛王   「フン、嬉々として身体を震わせおって!」 ズブッ

重傷娘  「あっ… ああっ! んんっ! ああああ~っっ!」





エルフ少女(ドキドキ…)









(王国辺境・迷宮ラビュリントス内部・アルラウネ生息域)



コボルト 「んで!? そんでどうしたってんで!?」

エルフ少女「え、あ、そのですネ、コボルトさん鼻息荒いですよ?」

アルラウネ「はなー?」

コボルト 「むはーっっ! くっそ~お頭っ、旨い事ヤるもんですぜ! ったく!」

コボルト 「あっしもあの娘を手篭めに出来たらどんなにか~っっ」

エルフ少女「テゴメ? なにそれ。美味しいの?」

コボルト 「あ? あ~こほん、お嬢ちゃんにはまだ早い…てか、知らなくていい」

エルフ少女「……。」

アルラウネ「……?」

コボルト 「いいんだよ! それより続きだ続き! どんなだったよ!?」


エルフ少女「重傷娘さんとても苦しそうな、でもなんだか嬉しそうにですネ、えーと」

コボルト 「ぬ、濡れ濡れだったってか!?」

エルフ少女「濡れ濡れ?」

アルラウネ「ぬれー?」

コボルト 「ああっ畜生め、こんなチビに聞いてもわかんねーよなあ、くそ~っ」

エルフ少女「チビとは失礼ですネ! えっちな場面を濡れ場と言う事くらい知ってますネ!」

アルラウネ「ぬれれー!」

コボルト 「……。じゃお前、ガキがどうやって出来るか、知ってるか?」

エルフ少女「えっへん! 知ってますぅ!」

エルフ少女「お父さんとお母さんが愛し合うと、不死鳥フェニックスが赤ちゃんを連れてくるですよ!」

コボルト 「どっかの勇者の伝説かなんかかそれは? ちっ、言わんこっちゃねえ」

エルフ少女「違うのですか!?」

コボルト 「お前にはまだ早いっ」

エルフ少女「ぷーっ」

アルラウネ「ぷー」


コボルト 「それよりだ! アレか!?
      あの娘、快感のあまり"あひぃー"とか"ひぎぃー"とか悲鳴上げてなかったか!?」

エルフ少女「怪獣ごっこじゃないと思うですよ?」

アルラウネ「ぎゃーす」

コボルト 「んなこたー、わーっとるっ!」

コボルト 「んじゃ、"いやあああーイクうううー! イッちゃううううー!" みたいな!?」

エルフ少女「どこへ行くのですかネ?」

アルラウネ「ごぅ!」

コボルト 「だあああっ、どこへもイカねえよ! んんじゃ、えーと、そうだ! 潮吹いたり!」

エルフ少女「潮ぉ?」

コボルト 「びゅーっ! "あああ~っ、でちゃうううううぅぅうう~っ!" みたいなっ!?」

エルフ少女「活きのいいアサリが笊から逃げ出そうとしてるのですかネ」

アルラウネ「ぴゅーぴゅー」

コボルト 「ぬおおおっ! ちくしょーめ~っっ!!」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス近辺・エルフの村)



エルフ少女「姉さま、テゴメって何ですか? 美味しいですか?」

エルフ姉 「グフッ!! ゴフッ!!」

エルフ少女「きゃあ!? 姉さまどうしたですか!? しっかり!!」

エルフ姉 「あなた、それ誰に聞いたの!?」

エルフ少女「迷宮の番犬のコボルトさんですぅ」

エルフ姉 「な、何かされたの!?」

エルフ少女「ううん、子供は知らなくていいって、何にも教えてくれないですぅ」

エルフ姉 「ああ、なんだ、よかった」

エルフ少女「姉さまは知ってるですか?」

エルフ姉 「え? ええ、一応…」


エルフ少女「いいな~、私にも誰か、テゴメくれないかなー?」

エルフ姉 「いや、あのね? 絶対欲しがるものじゃないからね? ダメよ? 強請ったりしちゃ」

エルフ少女「くれなくても、見せてくれるだけでもいいですぅ」

エルフ姉 「うーん、子供を悪い大人に近づけてはいけないという意味がよく分かったわ……」

エルフ少女「??」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス内部・アルラウネ生息域)



エルフ少女「えーっ、好きな人ができたですかぁ?」

アルラウネ「こくこく」

エルフ少女「誰ですかっ!? この辺の人ですかっ!?」

アルラウネ「あらら」

エルフ少女「人じゃない?」

アルラウネ「あるるー」

エルフ少女「そうですかぁー植物の方ですかぁ。そうでしたね、アルラウネさんは植物さんでしたネ。」

アルラウネ「ららー」

エルフ少女「ドリアンさん…というですか?」

アルラウネ「ふるふる」

エルフ少女「じゃなくてドリアードさん?」

アルラウネ「あららー」


エルフ少女「話しかけてみたいけどどうすればいい? ですか? そうですネー」

エルフ少女「かわいくしてみるのがいいですネ!」

エルフ少女「例えばですネ、両手を握って小指と小指をくっつけて……そうそう、そのまま口元にね?」

アルラウネ「あら」

エルフ少女「うーん、何か違うですネ」

エルフ少女「あ、わかった、表情が硬いのですネ。笑ってみるのですぅ」

アルラウネ「にぱー?」

エルフ少女「パクるのは無しですネ。全力で作り笑いするより微笑んでみるのがいいですよ?」

アルラウネ「にやり?」

エルフ少女「え~、そんな笑い方したら、捕って食う気満々! って感じで怖がられてしまいますぅ」

アルラウネ「あらら?」

エルフ少女「あっ、それ! 今の首傾げるそれっ! いいですぅ~!」

アルラウネ「あららら?」

エルフ少女「いやん、かわいい~っっ そんなアルラウネさんがとってもかわいいのですぅ!」


エルフ少女「思わず抱き締めちゃうのですぅ!」 ギュッ!

アルラウネ「ひゃんっ!」 ビクッ

エルフ少女「ひゃん? なんだか女の子みたいな鳴き声ですぅ」

アルラウネ「あららーっ」 ><

エルフ少女「え? 思わず捕食しそうになった?」

アルラウネ「らぅー」

エルフ少女「触られると身体が勝手に反応しちゃう? どこかで聞いた台詞ですネ」

エルフ少女「あ! 大人のご本のえっちな場面の決まり文句ですネ!」

アルラウネ「あらら!?」

エルフ少女「アルラウネさんてば、おませさんですぅwww」

アルラウネ「つーん」

エルフ少女「あらら? 旋毛曲げちゃったですかネ?」

アルラウネ「あらら?」

エルフ少女「あっ、思わずアルラウネさんの口癖が写ってしまいました。あららwww」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス居住区・私室)



エルフ少女「わあ、赤ちゃん出来たですか!?」

重傷娘  「そうなの」

アルラウネ「あららぁ?」

エルフ少女「もうお腹の中で動いたりするですか?」

重傷娘  「ん~、もう少し先かな?」

エルフ少女「お頭さまにテゴメにされて赤ちゃんが出来ちゃったですか?」

重傷娘  「テゴメ? ああ、手篭め…。んー、どうかしらね?」

重傷娘  「望んでこうなった訳じゃないけど、でも嫌だった訳でもないわ」

アルラウネ「いやー?」

重傷娘  「これは運命の悪戯かしらね……」


重傷娘  「生まれてくる子が牛頭の怪物でもね、女として子を宿してるのは……
      何ていうのかな、満足してる。」

エルフ少女「やっぱり嬉しいですかネ?」

重傷娘  「あの怪物が命を拾い上げてくれなかったら、今頃しゃれこうべだもの。
      この身をすべて捧げても恩に報いるわ。」

エルフ少女「恩返しに赤ちゃん産むのですかネ?」

重傷娘  「……。ふふ、そうね、素直に言うとそんなのじゃないわね」

重傷娘  「牛頭でも怪物でも、惚れてしまったんだもの、子供作ったっていいじゃない?」

エルフ少女「そうですかー、あのお頭さまが好きになったですかぁ」

重傷娘  「怪物に絆されるなんて、我ながらアタマどうかしてるけどね、くっくっ」

重傷娘  「もうあの方無しには生きられない身体なんだって、傷が疼いて主張するんだもの」

エルフ少女「怪我はまだ痛むですか?」

重傷娘  「ええ、でもずいぶん良くなったわ。あの方が毎日、その…」

エルフ少女「ぺろぺろですか?」

アルラウネ「ぺろー」

重傷娘  「か…身体中舐めたりされたら、もうあの方以外の所にお嫁に行ける訳…無いじゃない?」

アルラウネ「てれー?」


エルフ少女「舐められちゃったら、お嫁になって赤ちゃん産まなければいけないですかネ?」

重傷娘  「そんな事ないけど……もう、こんな話あなたにしちゃいけないわね」

エルフ少女「私はもうお子様じゃないですネ!」

重傷娘  「ふふ、そうね。立派なレディよね、ごめんなさいw」

アルラウネ「れれぃー?」

エルフ少女「女の子は好きになったら赤ちゃん産みたくなるの?」

重傷娘  「んー、難しい質問ね?」

重傷娘  「そうね、多くの女の子が好きな人と赤ちゃん作りたくなるわ。」

エルフ少女「じゃあ私はアルラウネさんの赤ちゃん産みたくなるですかネ?」

アルラウネ「あらー!?」

重傷娘  「好きの意味がちょっと違うんじゃないかしら?」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス内部・アルラウネ生息域)



エルフ少女「あららー? アルラウネさん、元気ないですネ? お腹すいたですか?」

アルラウネ「あらら…」

エルフ少女「え? 失恋ですか? あっ、ドリアンさんとお話できたですかネ?」

アルラウネ「あらら」

エルフ少女「ドリアンじゃなくてドリアード? こまけぇことはいーんですよ」


アルラウネ「あらー」

エルフ少女「えー? 魔の森で根を下ろして八百年くらい一緒に暮らそうって言ってくれたですか!?」

エルフ少女「それって仲良くなれたんじゃないですかネ?」

アルラウネ「あうー」

エルフ少女「……。そうすると、私と会えなくなる、ですか……」

アルラウネ「こくこく」

エルフ少女「ん~っ! アルラウネさんは、ドリアンより私を選んでくれたんですぅ!」

エルフ少女「私もアルラウネさん大好きですよぅ!」 ギュゥ!

アルラウネ「ひぁんっ!」 ピククッ

エルフ少女「あー、またやっちゃった。ごめんですぅ」












     ―― 十三年前 ――










(魔道書『アルラウネの果実』ダークエルフ著)



 多種に渡るアルラウネの中でも深いダンジョンに繁殖するその希少種は、とりわけ魅力的である。
"彼女"はダンジョンに巣食う雑多なモンスターすらも容赦なく捕え、喰らう。

 女の肉体を模した蕊で獲物を誘い、放つ瘴気で理性を狂わせ、肉欲を求めて触れた獲物を一瞬にして無数の棘で串刺しにする。

 巨大で華麗な花弁の下には、杭のごとく鋭く巨大な棘が無数に生えた葉を潜ませている。
彼女の捕食行動は本能に基づく反射的動作であろう、女を模る蕊に触れる者があると、彼女はその凶器を一瞬にして閉じて獲物を包み捕える。

 捕らわれた犠牲者は、彼女の肉体をその腕に抱きながら無数の棘に刺し貫かれ、全身を痙攣させ血を流しながら息絶える。

 彼女は犠牲者の亡骸をゆっくりと溶かし跡形もなく吸収する。そしてまた何事も無かったかのように咲き誇るのだ。




エルフ少女「アルラウネさんって、本当はとても怖い魔物なのですかネ?」

エルフ姉 「本当ならあなたはとっくにアルラウネに食べられてる筈なんだけれど…」

エルフ少女「この本はインチキですネ。今度お芋焼くときの種火にして燃しちゃうですネ」

エルフ姉 「ダメよ、出鱈目とも限らないわ。あなたのお友達のアルラウネが例外なのかも。」

エルフ少女「……。ここに書いてある、本能に基づく反射的動作で、というのはどういう事ですかネ」

エルフ姉 「そうねー、例えば… こっち来て?」

エルフ少女「なんですかねー?」

エルフ姉  ふぅっ

エルフ少女「ひゃん!」 ビクッ!

エルフ姉 「くすっ かわいいっ」

エルフ少女「も~っ、いきなり耳の後ろに息かけられたらビクッとしますぅ~」

エルフ姉 「それと同じような感じで、アルラウネは身体に触られるとビクッて身体が
      勝手に動いて、相手を捕食しちゃうみたいね。」

エルフ少女「それでアルラウネさん、私が抱きつくと怒るのですかぁ」

エルフ姉 「ええっ? そんな危ないことしちゃダメよ?」

エルフ少女「ビクッってなるのを我慢してくれたのですかネ。今度から気をつけるですぅ」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス周辺・森の陽だまり)



ミノタ  「ちょうちょ、ちょうちょー」

エルフ少女「ミノ坊、おはよーですぅ!」

ミノタ  「むぉ? おはよーむぉ」

母上   「あら、お久しぶり」

エルフ少女「おひさですぅ!」

アルラウネ「あららー!」

エルフ少女「アルラウネさんもおひさですぅー!」 ギュゥ!

アルラウネ「ひゃん!」 ビクッ

エルフ少女「あっ、いけない、抱きしめたらいけないのでしたネ」

アルラウネ「らぅー!」


母上   「これ、気をつけないと。捕まってばっくり食べられてしまうわよ?」

エルフ少女「忘れてましたぁ」

ミノタ  「捕まえるとどうなるむぉ?」

エルフ少女「ん? えーとね、捕まえたら、それは死んじゃうの」

ミノタ  「死んじゃう? どうしてむぉ?」

エルフ少女「殺してしまうからですネ。捕まえる為に殺してしまうのですよ。」

ミノタ  「これも… 死んじゃったの?」

母上   「なんだい? あっ…」

ミノタ  「ちょうちょ、捕まえたむぉ」

アルラウネ「あららー」

エルフ少女「手で握ったら、ちょうちょは潰れて死んでしまうですよぉ」

ミノタ  「ボク、殺しちゃった…」


母上   「あらー。どうしてちょうちょ捕まえたんだい?」

ミノタ  「欲しかったむぉ……」

母上   「そう。捕まえてみて、どうだい?」

ミノタ  「……。死んじゃった」

母上   「そうなの。」

母上   「世の中にはね、欲しいと思って力づくで捕まえようとすると、
      あっというまに死んだり壊れたりしちゃうものがたくさんあるの。」

ミノタ  「かわいそうな事したむぉ」

母上   「そうね。かわいそうね。」

ミノタ  「もう…こんなことしないむぉ~」

母上   「もうしなければ、死んじゃったそのちょうちょさんも、お前のした事を許してくれるよ。」









(魔道書『アルラウネの果実』ダークエルフ著)



 ダンジョンに生息するその希少種は様々な獲物を捕縛し喰らうが、とりわけ人間やエルフを喰らったアルラウネは魔力を得て劇的な成長を遂げる。
成長した"彼女"は、時にはダンジョンの主すらも退け、外界から閉ざしてしまった例も存在する。

 アルラウネが人を喰らいその犠牲者の命で実らす果実こそ、あらゆる病を治すと伝えられる"アルラウネの秘薬の果実"である。
あらゆる病を治癒したと伝えられる神秘の薬・エリクサーの正体とは、このアルラウネが実らす果実に他ならないと結論する。

 何時の日か私は、人間やエルフを喰らったアルラウネより果実を採取し持ち帰り、"アルラウネの秘薬の果実"の実在を証明するだろう。




エルフ少女「姉さま、エリクサーってお薬をご存知ですかネ?」

エルフ姉 「ええ。聖教会が高値で売ってるポーションよ。」

エルフ少女「それ買えば、姉さまの病が治らないですか?」

エルフ姉 「無理ね。教会が金儲けの為に売り出してる物は眉唾ばかり。
      病人の心理につけ込んだインチキ商法。アガリスクみたいなものよ」

エルフ少女「ではこの魔道書に書いてある事はやっぱりインチキなのですかネ?」

エルフ姉 「ああ、そこにあるのは伝説の秘薬のエリクサーの事ね。
      実在したのかどうなのかさえ定かでないわ。」

エルフ少女「アルラウネさんが人を食べて、その命で実らす"果実"が、エリクサーだって」

エルフ姉 「エリクサーもアルラウネの果実も、どちらもお話の域を出ないわ。」

エルフ少女「本当なら、姉さまの病を治せるのに……」

エルフ姉 「仮に本当だったとしても、誰かの命を犠牲にしなければ実らないし。
      期待するような代物じゃないわ。」

エルフ少女「いつか本当だと証明してみせるって書いてあるですネ」

エルフ姉 「その観察記が魔道書と言われる所以よ。
      そこに書いてある事が本当だと証明された時、どんな事が起こると思う?」


エルフ少女「……。誰かを病から助ける為に、自分の命で…」

エルフ姉 「そうね、でもそれだけならまだいいと思う。もっと酷い事が起こるわ。」

エルフ少女「ど、どんな事ですか!?」

エルフ姉 「そのアルラウネの果実は高く売れる筈だから、それに目をつけて他人の命を犠牲に、
      つまりアルラウネに人を食べさせて、そうして果実を得て儲けようとする悪魔が現れるの」

エルフ少女「そんなのいけないですぅ!」

エルフ姉 「だから魔道書なの。王国では禁書に指定されているわ。」

エルフ少女「では、この本はインチキだったほうがいいのでしょうか……」

エルフ姉 「そうね、証明されてはいけない書。似非専門家が書いた妄言だったほうがいいわね」

エルフ少女「……。でも、本当に姉さまの病を治せるお薬になるなら…」

エルフ姉 「そこに書いてある事なんか、忘れたほうがいいわ。」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス内部・アルラウネ生息域)



ミノタ  「えいー、このー」

アルラウネ「あれーっ!?」

エルフ少女「わあっ、ミノ坊、アルラウネさんをいじめちゃダメですぅ」

ミノタ  「むぉ? いじめてないむぉ?」

アルラウネ「あららーっ」 ><

ミノタ  「でっかい植物に絡み付かれて困ってるむぉ。ボクが助けてあげるむぉ!」

エルフ少女「ダメですよぅ、アルラウネさん嫌がってますネ。毟っちゃいけないですぅ」

アルラウネ「あららら」 ><

エルフ少女「アルラウネさんは蔦もお花も全部合わせてアルラウネさんなんですぅ」

ミノタ  「むぉ? 全部?」

エルフ少女「そう。全部アルラウネさんの身体なのですネ。」

アルラウネ「あらら」

ミノタ  「助けてあげなくてもいいむぉ?」

エルフ少女「大丈夫、アルラウネさんは困ってるわけじゃないのですよ。」


エルフ少女「ミノ坊はアルラウネさんを助けてあげようとしたんですネ?」

ミノタ  「むぉ!」

エルフ少女「さすが男の子、勇敢で優しいですぅ」

ミノタ  「そのままでいいむぉ? 動き難いむぉ」

エルフ少女「アルラウネさんは女の子じゃなくて植物さんですから、これでいいのですよ。」

アルラウネ「あららー」

ミノタ  「ごめんむぉ」

アルラウネ「ららぁ」

エルフ少女「ううん、気にしてくれてありがとう、だって。」

ミノタ  「お姉さんはどうしてアルラウネさんの言ってる事判るむぉ?」

エルフ少女「えー? どうしてでしょうかネ? きっとエルフだからですよ、うん。」

ミノタ  「ボクもアルラウネさんとお話してみたいむぉ。どうしたら言葉が判るむぉ?」

エルフ少女「アルラウネさんとお話? そうですねー」


エルフ少女「まず、アルラウネさんの目を見て、アルラウネさんが何を伝えたいのか、感じ取るですぅ」

ミノタ  「じー」

アルラウネ「じー」

ミノタ  「目が母上になんとなく似てるむぉ」

アルラウネ「あら」

エルフ少女「じゃ、アルラウネさん、何か簡単でわかりやすい事を言ってみるですよ」

アルラウネ「あららー」

ミノタ  「……。見ないでください、むぉ?」

エルフ少女「こんにちは、ですよぉ。次、どんどん言ってみるですネ」

アルラウネ「あらら」

ミノタ  「優しくして」

エルフ少女「ちょっと違いますネ、穏やかなお天気ですね、ですネ」

アルラウネ「あらら」

ミノタ  「気持ちいい」

エルフ少女「少し近いですかネ。お元気そうですね、ですネ」

(ミノタの台詞を重症娘に言わせてみたら……)


アルラウネ「あらら」

ミノタ  「来て下さい」

エルフ少女「惜しいですぅ! 遊びに来ませんか、ですネ」

アルラウネ「あららー」

ミノタ  「濡れてきた」

エルフ少女「近いですネ。雨が降ってきます、ですぅ」

アルラウネ「あらー」

ミノタ  「激しすぎます」

エルフ少女「もう少し! 雷雨が恋しいですね、ですぅ」

アルラウネ「あららぁ」

ミノタ  「もうらめぇ」

エルフ少女「ん? ろれつ回ってないですよ? 素敵です、なのです。」

アルラウネ「あららー」

ミノタ  「熱いのぉ」

エルフ少女「近いのになかなか当たらないですネ。今日は暑いですね、ですぅ」


アルラウネ「あららぁ」

ミノタ  「もっとして」

エルフ少女「え? 何です? ごちそうさま、ですネ」

アルラウネ「あらら~」

ミノタ  「また孕んでしまいそうです」

エルフ少女「……!? いえ、アルラウネさんは植物なので――」

エルフ少女「って、あ、あれ!? さっきからミノ坊の言ってるの、何かおかしいですよ!?」

ミノタ  「違うむぉ? 難しいむぉ~」

エルフ少女「ちょっ!? ミノ坊ってば、どうしてそんなえっちな言葉を知ってるですかっ!?」

ミノタ  「えっち? なにそれ美味しいむぉ?」

エルフ少女「子供には美味しくないですぅ! いったい誰に教わったですかっ!?」

ミノタ  「むぉ?」


エルフ少女「さてはコボルトさんですネ!?
      悪っるい大人ですネ! 今度会ったらテゴメにしてやるですよ!」

ミノタ  「母上むぉ」

エルフ少女「えー!?」

ミノタ  「かくれんぼでベッドの下に隠れてたむぉ~
      そしたら、母上が父上と一緒にベッドの上でぎしぎし暴れ始めたむぉ」

エルフ少女「」

アルラウネ「あらら」






コボルト 「へっーくしょーいっ!」

母上   「くしゅん」






>>127 早くもバレてた件w







     ―― 十一年前 ――









(王国辺境・迷宮ラビュリントス居住区)



エルフ少女「ミノ坊、おはよーですぅ!」

ミノタ  「むぉ?」

エルフ少女「おはようなのですぅ」

ミノタ  「もうすぐお昼むぉ? お昼はこんにちは、むぉ!」

エルフ少女「あーっ、ミノ坊、かわいくないんだーっ」

ミノタ  「ボクはミノタウロスむぉ。かわいくないむぉ!」

エルフ少女「あららー? 何を拗ねてるのかなー?」

ミノタ  「あららーってアルラウネさんみたいむぉ?」

エルフ少女「えへー、口癖が写ってしまいましたネ」

ミノタ  「アルラウネさんとお友達むぉ?」

エルフ少女「そだよー? お姉さんとアルラウネさんはお友達。」

ミノタ  「兄弟じゃないむぉ?」

エルフ少女「兄弟? あ、女の子の場合は姉妹と言うのですよ」

エルフ少女「アルラウネさんは姉妹ではないのですネ。でもお家に姉さまが居ますのネ」


ミノタ  「弟が生まれて、ボクお兄さんになったむぉ」

エルフ少女「そうですネ! ミノタお兄ちゃんですネ!」

ミノタ  「しっかりしないといけないむぉ。でも何すればいいか分からないむぉ」

エルフ少女「おー、ミノ坊がいまや立派な男の子の仲間入りですネ!」

ミノタ  「どうすればしっかりむぉ?」

エルフ少女「んー、私の姉さまはしっかりした姉さまですネ
      病でお外へ出かける事ができませんが、その代わり何でもよく知ってますネ」

ミノタ  「ボク、まだ何にも知らないむぉ」

エルフ少女「それはいいのですよ。」

エルフ少女「私が姉さまを一番頼りに思うのは、
      誰より一番私を好きでいてくれて、気にかけてくれる姉さまだからですぅ」

ミノタ  「ミノチもミノツもちっちゃいむぉ。母上しか頼れないむぉ」

エルフ少女「なら母上さんを支えてあげるですよ。ミノタ兄さんにも出来ることがきっとあるのですぅ」

ミノタ  「わかったむぉ。お姉さん、ありがとむぉ」


母上   「ミノタや、お昼ご飯にするよー。」

ミノタ  「むぉ~ ご飯むぉ」

母上   「あら、いらっしゃい。」

エルフ少女「えへへー、またアルラウネさんに会いに来たのですネ」

母上   「ふふ、アルラウネさんもあなたを恋しがっていましたよ」

エルフ少女「ほんとですか!? 嬉しいですぅ~」

母上   「早いものね、あなたと私とアルラウネさんが出会って、もう5、6年かしら?」

エルフ少女「そうなんですよねー。あの頃は私、まだ小さかったですよネ」

母上   「あなたは背が伸びたわ。追い抜かれてしまったかしら、ふふ」

エルフ少女「成長期です! えっへん!」

エルフ少女「母上さまはあまり変わってないですネ?」

母上   「あの子達産んでから、なんだか成長止まっちゃったみたいでちょっと残念」

エルフ少女「私は、お胸がちっとも成長しないのですよー。はぁ~」

母上   「私もなかなか母乳が出なくてねえ、はぁ~」

エルフ少女「牛乳飲んでもダメですかネ」

母上   「殿方に毎晩揉んでもらうとおっきくなるって話があるのは知ってる?」

エルフ少女「えー、姉さまは根拠の無い唯の都市伝説だって言ってましたネ」

母上   「うーん、やっぱりそうよね。事実、私ちっとも大きくならないもの。くっくっ…」

エルフ少女「ふぇぇ、遠まわしにえっちな事言わないでくだしゃいっっ」 ><

母上   「あら、かわいいっwww 年頃のレディに言うことじゃなかったわねwww」


エルフ少女「そうそう、ミノチちゃんミノツちゃんは元気ですかネ?」

母上   「元気だよー。目を離すとすぐ部屋から脱走するくらい元気だよー。」

エルフ少女「くす、そうですかぁ」

母上   「ミノタに面倒見させてるけど、双子たちが迷宮の下層に行ったりしないように、
      念のためアルラウネさんにも注意してもらってるわ。」

エルフ少女「ミノ坊、お兄さんとしてしっかりやらなきゃ、って」

母上   「ミノタがねぇ、ふふ」

エルフ少女「ミノ坊、優しい男の子になりましたですネ」

母上   「怪物ミノタウロスだからねえ、どう育てたものかと考えたものよ。」

エルフ少女「きっと優しくて立派なミノタウロスになるですよ。」

母上   「ちょっと間が抜けてるところは私に似たのかしらね?」

エルフ少女「お頭さまのペロリストなご趣味が似ると困りますネ」

母上   「まっ、怪物にあるまじき紳士ぶりねっ? くすくす」






牛王   「フシュッ! フシュッ! フン、またどこかで我の噂を…フシュッ!」











     ―― 十年前 ――









(王国辺境・迷宮ラビュリントス内部・アルラウネ生息域)



アルラウネ「あららー?」

エルフ少女「えー? 大丈夫なのですよ、私は元気ですぅ…」

アルラウネ「あらー」

エルフ少女「…ごめんです。このごろ姉さまの病がよくないのですよ。」

エルフ少女「姉さまは隠してますが、もうお薬も効かなくなってきてるみたいで……」

アルラウネ「らー…」

エルフ少女「ずっーと、姉さまの病を治す方法がないかいろいろ調べたりしたのですよ。」

エルフ少女「お薬もいろいろ買ってみたし、評判のお医者にも診て貰ったですよ、でもダメなのです。」

アルラウネ「あららー」


エルフ少女「アルラウネが人を食べると"秘薬の果実"を実らせる事ができると、
      怖い魔道書にそう書いてありましたネ」

アルラウネ「あらら」

エルフ少女「アルラウネさん、誰かを食べて"秘薬の果実"を実らせる事、できますかネ?」

アルラウネ「んー」

エルフ少女「……。アルラウネさんにもわからないですか。」

エルフ少女「私は姉さまのためならどんなことでもするですよ。でも、どうしたらいいか判らない…」

アルラウネ「あららー」

エルフ少女「アルラウネさん、教えてほしいですネ。どうしたらいいですか? …ぐすっ」

アルラウネ「……。」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス近辺・エルフの村)



エルフ少女「姉さまっ!?」

エルフ姉 「ぐ……ごほっ!」

エルフ少女「姉さましっかり!!」

エルフ姉 「はぁはぁ… ああ…」

エルフ少女「お、お薬を…!」

エルフ姉 「……もう、効かないみたい…。もう、ダメなのかな… はぁはぁ」

エルフ少女「姉さまっ、そんなこと言わないでくださいネ!」

エルフ姉 「…ごめんね、あなたを一人にしてしまうわ。私が死んだら、本は全部あなたにあげる。」

エルフ少女「姉さま、死んではダメですっ、イヤですぅっ!」

エルフ姉 「あなたは自由になれるわ。」

エルフ少女「……!」


エルフ姉 「どこまでも行って、自分の目で見て、感じて、いろんな人に会って…ぐふっ、かふっ!」

エルフ少女「姉さまはそれを望んでいるですか……?」

エルフ姉 「ええ、あなたがうらやましいわ…… はぁはぁ」

エルフ少女「姉さまの望み、叶えてあげるですよ!」 ダッ!

エルフ姉 「……!? どこへ…!」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス内部・アルラウネ生息域)



エルフ少女「アルラウネさんっ!」

アルラウネ「あらら?」

エルフ少女「わ、私を食べたくはないですかネ!?」

アルラウネ「あららー!?」

エルフ少女「私、きっと美味しいですよ!」

アルラウネ「あららら?」

エルフ少女「た…助けて欲しいですぅ~っ 姉さまが、姉さまがっ~! わあああ~っ」

アルラウネ「あら…?」

エルフ少女「姉さまの病が悪化してて、姉さまがひどく苦しんでるですネ!
      なのに私にはもう、して差し上げられる事が無いですネ!」

エルフ少女「ぐすっ… 姉さま、このままではもう長くない、助からないですネ」

アルラウネ「あらら」

エルフ少女「でも、アルラウネさんが私を食べて、私の命で実らす果実なら、
      きっと姉さまを助けることができますネ!」

アルラウネ「あらぁ…」

エルフ少女「"秘薬の果実"を実らせて、それを姉さまに食べさせてあげて欲しいのですぅ!」


エルフ少女「だから私を食べてほしいのですよ、がぶっと!」

アルラウネ「ふるふる」><

エルフ少女「えー、そんなことできないですかぁ?」

エルフ少女「それでしたら、私が力いっぱい抱き締めてあげますネ!
      そうすれば、身体が勝手に動いて捕食するのですよネ?」

アルラウネ「らぅー!」

エルフ少女「イヤ? そう言わないで助けて欲しいですぅ!」

エルフ少女「私を食べれば、アルラウネさんもすごく成長できるはずですネ」

アルラウネ「あらら」

エルフ少女「分かってますネ。食べられるって事は死んじゃうってこと。」

エルフ少女「笑ったり、お話したり、探険したり、おいしい物食べたり、恋したり、赤ちゃん産んだり、
      そういうの全部、出来なくなっちゃいますネ」

エルフ少女「でも姉さまを元気にして、そういう事全部、姉さまにさせてあげたいのですよ。」

アルラウネ「あらららっ!」><

エルフ少女「えー? 姉さまとアルラウネさんとどちらを選ぶの、ですかぁ?」

エルフ少女「私の身体はアルラウネさんにあげますネ。アルラウネさんは成長できますよ?」

エルフ少女「その代わり、私の命で、姉さまを助けて欲しいですぅ…」

アルラウネ「あららぁ……」


エルフ少女「さあ、力いっぱい抱きしめてあげるですよ! 一思いに私を食べてくださいネ!」

アルラウネ「あ…ら…」 ブルブル

エルフ少女「一度、アルラウネさんを思いっきり抱きしめてみたかったのですよ」

エルフ少女「アルラウネさん、大好きですぅっ!」



      ぎゅっ…



アルラウネ「らあっ、ああっ、あああ~っっ!」









      ザシュッ――







エルフ少女「か… は…っ! はぐ…っ!!」

エルフ少女(分かってはいましたがっ、身体中を棘で刺されるのっ、とっても痛いですネッ……!)

アルラウネ「らら…らら…!」

エルフ少女(心配しなくて…いいのですよ… か…覚悟…してたですからっ)

アルラウネ「らら…ら…」

エルフ少女(あ…すぐに麻痺の毒が効いて楽にしてくれるですか…… よかったですぅ)

アルラウネ「ららぁ…」

エルフ少女(失血で死ぬまでに少し時間がかかるですか?)

エルフ少女(いいですよ、大丈夫。まだ痛いけどそんなに苦しくは無くなってきましたネ…)

アルラウネ「らら…?」

エルフ少女(ううん、怖くないですよ、平気ですぅ)

エルフ少女(食べられるのってもっと怖いのかと思っていたのですが、
      姉さまが苦しみながら死んじゃうくらいなら、こっちのほうがずっといいですネ)


エルフ少女(アルラウネさん、私を食べて、私の命で実を実らせて、
      絶対、姉さまを元気にして差し上げてくださいネ)

アルラウネ「あららー!」

エルフ少女(えへへ…ありがとう)

アルラウネ「ら~らら~ら~♪」

エルフ少女(ああ、いつか聴かせてくれた、アルラウネの子守唄ですネ)

エルフ少女(……気が遠くなってきましたですネ。でもなぜでしょう、気分はいいのですよ)

アルラウネ「ららら~ら~ら~♪」

エルフ少女(……。)

エルフ少女()












エルフ少女「……?」

エルフ少女「私は夢を見てるのですかネ? それとも死後の世界に来たですかネ?」

アルラウネ「あららー」

エルフ少女「あれ? アルラウネさんも居るですか? どして?」

アルラウネ「あらら」

エルフ少女「えー? 私は今、死の間際の幻覚を見てるですか?」

エルフ少女「そうですかー。最期にアルラウネさんの夢を見てるですネ」

エルフ少女「あ、そうだ、私は美味しかったですかネ?」

アルラウネ「あらら~」

エルフ少女「そうですかぁ~、喜んでもらえたなら良かったですよ、うん」

アルラウネ「あららー!」

エルフ少女「これ…? これが私の命で出来た実ですか!? わあ~っ!」

エルフ少女「綺麗でかわいくて、おいしそうですぅ~」


エルフ少女「姉さま、これでやっと元気にして差し上げられますネ」

アルラウネ「あらら~!」

エルフ少女「え、姉さまの処に一緒に食べさせてあげに行こう! ですか?」

アルラウネ「あらら!」

エルフ少女「でも、残念ですが私、食べられてしまいましたですよ?」

エルフ少女「もう身体中穴だらけで血がいっぱい出て、そろそろ死んでますよネ?」

アルラウネ「あららぁ」

エルフ少女「そうですかぁー。どういうことかよく分からないけど…」

エルフ少女「これからよろしくですネ! "アらラ"!」









(王国辺境・迷宮ラビュリントス近辺・エルフの村)



エルフ姉 「はぁ、はぁ… くっ… くふっ……!」

エルフ姉 (ごめんなさい、どうやらあの世からお迎えが来るようです……)

エルフ姉 (あなたが戻る頃には、私はもう冷たくなっているのでしょう)

エルフ姉 (あなたは泣いてくれるのでしょうね。でも、後は忘れて欲しい。)

エルフ姉 (私が叶わなかった分も、自由にどこへでも…どこまでも…)

エルフ姉 (さようなら、私のたった一人の妹……)







      ギィ… 



      ザワザワザワ…



エルフ姉 「…っ?」

アルラウネ「……。」

エルフ姉 「だ…誰…!?」

アルラウネ「あららー」

エルフ姉 「なっ…!? なぜここにアルラウネがっ…!?」

アルラウネ「あららー 姉さま、驚かせてごめんなさいですネ」

エルフ姉 「どうして妹の姿を…!? げぶっ、ごふっ!!」

アルラウネ「申し遅れました。私はアルラウネの"アらラ"と申しますですよ。」



エルフ姉 「妹をっ、どう…どうしたって言…っ! ――うっ、ぐっ、うぐっ…!」

アルラウネ「姉さまをその病から解放して差し上げますネ」

アルラウネ「姉さまを自由にしてみせます! 今すぐに!」

エルフ姉 「あなたは…いったい…!?」

アルラウネ「妹さんの願いで、どんな病をも治す伝説の秘薬"アルラウネの果実"、出来ましたネ!」

アルラウネ「アらラからの贈り物です、受け取ってくださいですぅ」

エルフ姉 「"アルラウネの果実"…? 人の…命と引き換えに…実る…?」

アルラウネ「そう。これを食べて、どうか元気になって欲しいですネ」

エルフ姉 「妹は…!?」

アルラウネ「あららー、妹はもう戻らないですネ」

エルフ姉 「妹を…! 妹を返してっ! ぐはっごほっ! はぁはぁ…!」

アルラウネ「妹はもう居ないですよ……」

エルフ姉 「……!!」


アルラウネ「お姉さまを病から救って元気にして欲しい、そう言い残しましたネ」

エルフ姉 「"言い残した"って…どういう…!?」

アルラウネ「あららー…何と言えばいいのか、困りましたですネ」

エルフ姉 「あ…ああ… そ、そんな…そんなあああ…!」

アルラウネ「あららー お別れは悲しいですけど、そんなに泣かないで下さいネ。
      アらラには判りますネ。妹は笑っているですよ。」

アルラウネ「さあ、食べてください? 妹の命を宿すアルラウネの実ですネ」

エルフ姉 「そんな、どうしてっっ!! うっっ ゲボッ、グフッ…!」

アルラウネ「あ、そうだ! 口移しして食べさせてあげますネ!」

エルフ姉 「んっ! んんっ…!」

アルラウネ「あららー、そんなに怖がらないでくださいネ。大丈夫、何も怖い事はありませんネ」

アルラウネ「アらラは姉さまが大好きですよ」

エルフ姉 「……!」

アルラウネ「うん…ん…」 チュッ

エルフ姉 「んふぅ…んんっ……ん…」 チュ..チュ..

エルフ姉 「ん……」

エルフ姉 「」











エルフ少女「姉さま、姉さま…」

エルフ姉 「え…?」

エルフ少女「姉さま、お別れですぅ」

エルフ姉 「お別れ…? いやよ! そんなのいやっ!!」

エルフ少女「姉さまが次に目を覚まされる頃には、もう病はなくなってすっかり元気ですぅ」

エルフ姉 「いやよ!」

エルフ姉 「あなたが帰ってくるなら、私は例え血を吐きながらでも、いつまででも待ってる!」

エルフ少女「私がお外で探してるのは、いつも姉さまの病をやっつける方法でしたネ。
      生涯を賭してでも探し出すつもりでいました。手遅れになる前に見つけましたネ。」

エルフ少女「元気になって外へ出て、姉さまがこれまでに読んできたご本のあまたの先人の知恵を、
      存分に発揮して欲しいのですよ。」

エルフ姉 「あなたが居ないなら、外なんてどうでもいいの!」

エルフ少女「そんな事言わないで。お外へ出ていろんな人に出会って、楽しいですネ。」

エルフ姉 「でも、あなたはっ…!」

エルフ少女「私はいいのですよ。私はアルラウネのアらラと一緒ですネ。
      母上さんと、魔物ですがミノタさんやコボルトさんも居て、楽しいのですよ。」

エルフ少女「姉さまにも、これからきっと楽しい事が待ってるですネ!」


エルフ少女「あ、もうお別れの時間みたいですネ。」

エルフ姉 「待って…! 待ってっっ! 私を一人にしないでえっっ!」

エルフ少女「姉さま、元気でネ。さよならですぅ」






エルフ姉 「わあああっっ!」

エルフ姉 (……!?)

エルフ姉 「……」

エルフ姉 (夢? 幻覚?)




エルフ姉 「……! この果実……!?」

エルフ姉 (……身体が軽い…。さっきまで朦朧としてた意識も。それに…苦しくない…)

エルフ姉 (あれ!? 私の病……治ったの!?)

エルフ姉 (……。この果実で…)

エルフ姉 (あの子が、命を引き換えにして実らせたこの果物で……!!)

エルフ姉 「あああ…!!」

エルフ姉 「うあああああああ~~~っっ!!」














     ―― 現在 ――









(王国辺境・迷宮ラビュリントス周辺・小高い丘の上)



母上   「んー、渡る風が気持ちいい……。ここも久しぶりね。」

コボルト 「帝国へ亡命して以来ですぜ。」

アらラ  「ありました。あの木ですぅ」

母上   「ああ、また大きくなったかねえ」

コボルト 「あっしらが居なくなった割りには周りも綺麗で、手入れされているようですぜ」

アらラ  「あららー、きっと姉さまがお世話してくれてるのですネ」

母上   「この木があなたの、いえ、あの子の――」

アらラ  「はい。エルフ少女さんの墓標ですぅ」


コボルト 「墓標ってもなぁ」

アらラ  「姉さまが植えてくれたですネ。エルフのお墓には木を植えるのですよ。」

コボルト 「この木の下にあの嬢ちゃんが眠ってる訳じゃねえし」

アらラ  「あららー、それは仕方がないのですよ。あの子はアらラが食べてしまいましたネ」

コボルト 「あの姉さんとは、どうなんでサ?」

母上   「このごろ、お話できる仲くらいにはなれたのよね?」

アらラ  「はい。なんとか許してはもらえたようなのですネ……」

コボルト 「しばらく仇みたいに噛み付いて来てたもんでサ」

アらラ  「姉さまが心から愛していらした妹を、食べてしまったですネ。仕方ないのですよ…」


母上   「とても戸惑っていたみたいだわ。
      あなたの顔や姿はもちろん一挙手一投足までもが、妹にしか見えないって。」

アらラ  「あららー、そうですかネー。確かにお顔はあの子に良く似てしまったですぅ」

母上   「私にも、アらラちゃんにはエルフのあの子が重なって見えるわ。」

コボルト 「エルフの嬢ちゃんを喰らって成長したかなんか知らんが、
      話し方があの嬢ちゃんそっくりでサ」

アらラ  「あらら? それもきっと、仲が良かったので似てしまっただけですネ」

母上   「あなたは一緒に暮らした事が無いはずなのに、"姉さま"の事よく知ってるのね?」

アらラ  「よく姉さまの夢を見ますぅ。姉さまの事はとても身近に感じるですよ。」

アらラ  「食べたあの子の思い出が、姉さまの夢を見せるのかも知れないですネ」

コボルト 「そんなことが有りうるんで?
      そりゃ、恨みとか怨念とかで毎晩夢に出てきてうなされて、ってんなら分かるけどよ?」

アらラ  「あららー、あの子は笑っていたですよ。怨念なんかじゃないですぅ」

アらラ  「でもアらラのどこかにあの子が居るような、そんな気がするのですよ」

母上   「どこかに、ねえ……」


コボルト 「ん? 誰か来ますぜ。エルフの匂いだ。」

母上   「ほら、あの娘ではなくて?」

アらラ  「あらら~!」

エルフ姉 「…!」






エルフ姉 「アらラ……!」

アらラ  「あららー 久しぶりですぅ」

エルフ姉 「アらラ…」

母上   「……。」

コボルト 「……。」

アらラ  「……。」

エルフ姉 「いいのよ? "姉さま"って呼んでも」

アらラ  「姉さま……!」


アらラ  「姉さまお久しぶりですぅ~っっ!」 ギュウ!

エルフ姉 「きゃっ!? そんなに力いっぱい絞めたら苦しいってばっ!」

アらラ  「姉さま姉さま! 大好きですぅ~! ん~っ!」

エルフ姉 「ちょっ、キスだめーっ! 女の子同士ですることじゃないのぉっ!」

アらラ  「母上さまとコボルトさんしか見てませんネ、恥ずかしがる事ないですぅ~っ」

コボルト 「いや恥ずかしがれよ」

母上   「どこで教育を間違えたのかしらね?」

エルフ姉 「お二人も、お久しぶりになります」

母上   「お元気そうですね。息子達はしっかりやってますか?」

エルフ姉 「ええ、ミノチさんミノツさんお二人のお陰で、どんな探険にも困りません。」

母上   「あなたの書いた探険記、楽しく読ませてもらってるわ。もう、とても面白くてっ」

エルフ姉 「ありがとう。私も探検物の本が好きで、いつか自分も、と思っていたのです。」

母上   「学会からも評価されているようね? すごいじゃない!」

エルフ姉 「はい、おかげで探索に掛かる費用を提供してもらえるようになりました。」

コボルト 「また探検記だか冒険記だか書く為に、どこかヤバいとこへ探険に行くつもりで?」

エルフ姉 「そのヤバい所へ探険に行って、先日戻ってきたところです」


母上   「あら、今度の探険はどこへ?」

エルフ姉 「ヴァンパイアの牙城に調査に入ってみました!」

コボルト 「ヴァンパイアの城に殴り込みだぁ? そりゃまたえらく豪気な話でサ」

アらラ  「あららー、なんだか面白そうですぅ!」

エルフ姉 「ミノタウロスのお二人がついてて下さるお陰で、どんな化物が出ても無双です!」

コボルト 「またあの双子どもは、蹂躙の限りを尽くしたんで?」

エルフ姉 「ちょっと暴れたら城主のヴァンパイアロードさんに、城が崩壊してしまうから
      どうかお引取り下さいと土下座されてしまったのでほどほどにしておきました。」

母上   「やはり怪物ミノタウロスなのかねえ、ミノチもミノツも血の気が多くて。
      乱暴な事されたりしてないかい?」

エルフ姉 「いえ、お二人ともとても優しくて頼もしいです。お婿にもらいたいくらいです」

母上   「まあっ、ミノタウロスを婿にだなんて男の趣味悪いわよ? ふふっ」

コボルト 「母上さま、あまり人の事言えませんぜ?」

アらラ  「今度は何を探しに行かれたのですかネ?」

エルフ姉 「アらラの謎を解明したくて、アルラウネの調査をしてきたのです!」

アらラ  「アらラの謎ですかぁ!? あららー!?」


エルフ姉 「アらラ、貴女は自分が何者なのか、疑問に思う事は無いかしら?」

アらラ  「あらら? アらラはアらラですぅ…」

エルフ姉 「アルラウネさんと同じ種族がヴァンパイアの城の奥深くに生息していて、
      そこに出入りする収集家がその"謎"の手がかりを掴んでいました。」

母上   「収集家? アルラウネのコレクターかい? おかしなマニアも居るものね?」

エルフ姉 「そいつは収集だけに飽き足らず、アルラウネに生きたエルフを餌として与えるような
      とんでもない外道でしたので、成敗しました。」

コボルト 「……。好事家の成れの果てかい。
      んな物騒な所に出入りできるなんてのは、只者じゃねえよな?」

エルフ姉 「ええ。そいつはダークエルフで、
      以前からアルラウネに関する有名な観察記を書いていた者でした。」

アらラ  「あらら? 昔、姉さまが読んで下さいました魔道書の著者ですかネ!?」

エルフ姉 「ええ。人を喰らったアルラウネが実らすと伝わる秘薬の果実…
      奴はそれを自分の手で実現させようと、捕えたエルフの女の子で非道な実験を。」

母上   「アルラウネにエルフを食べさせて、伝説を確かめたって言うの?」

アらラ  「あららー、酷いですぅ!」

コボルト 「お前もあまり人の事言えねえんじゃねーかい?」

アらラ  「アらラの場合は、あの子の達てのお願いだったから食べたですよぅ!」 ><

エルフ姉 「そう! あなたの"達ての願い"だったからこそなの!」

アらラ  「あらら? "達ての願い"?」


エルフ姉 「そこにいたアルラウネはエルフを食べても、あなたのように食べたエルフの姿を
      模倣するようなことは無かったし、生き写しの心を持つことも無かったわ。」

アらラ  「あら?」

コボルト 「へー? アらラの嬢ちゃんは、お前さんの妹を喰ってからまるでそっくりに
      変わっちまったけどな?」

母上   「まるで、あの子の魂がそのまま宿ってしまったみたいよね?」

コボルト 「今じゃ普通に脚まで生えちまって、好きに歩き回って、朝から牛丼のお替りまでしやがる。
      んなアルラウネが他にどこに居るよ?」

エルフ姉 「そうよ! アらラ、あなたはアルラウネじゃないわ」

アらラ  「……??」

エルフ姉 「食べられたのはあなたではなかった」

エルフ姉 「あなたがアルラウネを食べたの!!」

アらラ  「あらららら~~っっ!?」


コボルト 「な、なんだってぇ?」

母上   「あらー、やっぱりそういう結論よねぇ…」

コボルト 「やっぱりって、母上さま、判ってたんで?」

母上   「姿はアルラウネでも、する事為す事が全部エルフのあの子にしか見えなかったからねえ」

アらラ  「…………」

コボルト 「まあ……そりゃそうなんですがね、
      納得がいかないって言うか、認めちゃいけないって言うか…」

アらラ  「でも、でも! アらラにはお花咲くし、おいしい野菜も生るですよ!?
      蔦生えてますしアルラウネですネ!」

エルフ姉 「あなたがアルラウネを取り込んで、そういう身体になったの。」

アらラ  「アらラが……アルラウネさんを……」


エルフ姉 「収集家のダークエルフが言ってたわ。
      アルラウネの秘薬の果実は、"アルラウネを喰らい、取り込んだ者が実らすもの"だったと」

アらラ  「私が……アルラウネさんを、食べてしまった…ですか…?」

エルフ姉 「アルラウネは、あなたの糧となりあなたの一部になってくれたのよ」

エルフ姉 「あなたの"達ての願い"を叶える為に!」

アらラ  「どうして……!? どうしてそんな事になっちゃったですか!?」

エルフ姉 「……。犠牲になってくれたのです。命に代えても私を助けたいと言うあなたの代わりに。」

アらラ  「どうして……!」

エルフ姉 「大好きな、あなたの為に」

アらラ  「ああ…! あああああーっ! そんなっ、そんなのやだああああーっ!」

アらラ  「アルラウネさん…ごめんなさい…! わあああああああ~っ!」




      ぎゅっ…



エルフ姉 「泣かないのっ」

エルフ姉 「あなたに救ってもらって、私も泣いたんだから。」

アらラ  「姉さま… ぐしゅっ」

エルフ姉 「でも、こうしてまた会えたし、抱きしめてあげることだってできる。
      悲しい事なんか無いんだから。」

アらラ  「ぐすっ、お友達だったアルラウネさんはもう…いないです……ぐすっ」

エルフ姉 「ううん、そんな事ない。」

エルフ姉 「アらラ、ここに"種"があるわ」

アらラ  「……!」

エルフ姉 「あなたが食べさせてくれた"アルラウネの秘薬の果実"の中にあった"種"よ。」


エルフ姉 「あなたの形見と思って、ずっと大切にとっておいたの。」

アらラ  「……綺麗ですネ。真珠みたい」

エルフ姉 「この種は、アルラウネが残した種。言わば、彼女の分身なの。」

アらラ  「アルラウネさんの分身……?」

エルフ姉 「きっと、またいつかあなたとお話がしたいと願って、アルラウネが残したのよ。」

アらラ  「アルラウネさん…!」

エルフ姉 「だからあなたの手で、その"種"を育ててあげなさい?」

アらラ  「育ててあげれば、またアルラウネさんと会えるですかネ!?」

エルフ姉 「ええ、きっと!」

アらラ  「お話できるですかネ!?」

エルフ姉 「ええ!」

アらラ  「あらら~! 一生懸命育ててあげるですぅ!」









(クレータ自治領・ネオラビュリントス・海を見晴らす家)



アらラ  「あららーっっ!!」

ミノタ  「むぉっ!?」

お姉さん 「むにゃ…?」

アらラ  「大変ですぅ! 出ました! 出ましたネ!!」

お姉さん 「えっ!?」

ミノタ  「出たむぉ?」

お姉さん 「きゃーっ!! いやーっ!!」 ゴスッ!

ミノタ  「痛いむぉっ お姉さん、寝ぼけるのやめるむぉ~っ」

お姉さん 「……はれ?」

ミノタ  「黒い悪魔はもう出ないむぉ~」

お姉さん 「あ、ごめんなさい。つい裏拳が…」


母上   「こらー。どうしたんだい、こんな朝っぱらから大声出して」

アらラ  「あららー! 芽が出たのですよ!」

ミノタ  「芽? アルラウネむぉ?」

お姉さん 「あっ かわいい葉っぱが出てるっ」

アらラ  「芽が出たと思ったらもう葉を広げたですぅ~」

母上   「その植木鉢じゃ、小さいかもね?」

アらラ  「すぐに大きくなるですかネ!?」

お姉さん 「お日様にあててあげましょう」

アらラ  「もうすぐアルラウネさんに会えるですネ! 楽しみですぅ~っ」









(クレータ自治領・ネオラビュリントス・海を見晴らす家)



コボルト 「わんわんお! 牛乳お持ちしやしたー。…って、なんじゃこの鉢植え幼女は!?」

アルラウネ「あららー?」

アらラ  「あらら~ コボルトさん、おはようですぅ!」

母上   「コボルトさんおはよう。待ってたの。朝食一緒にいかが?」

コボルト 「おはようございます母上さま、馳走になりやす。」

アルラウネ「あらら!」

コボルト 「……んで、このちっこい鉢植えの幼女は、嬢ちゃんの…!?」

母上   「そうなの。アルラウネの幼生ね。お人形みたいでかわいいでしょ?」

お姉さん 「ほんとかわいいwww」


アルラウネ「あららー」

アらラ  「あららー? アらラはお母さんじゃないですよぉ お友達ですぅ」

お姉さん 「このアルラウネちゃん、アらラちゃんをお母さんだと思ってるようですね?」

母上   「甲斐甲斐しく世話したからねえ?」

エルフ姉 「うーん? てっきりアルラウネの分身かと思ったのですが……」

ミノタ  「分身というより、娘むぉ?」

お姉さん 「なら、やっぱりアらラちゃんはお母さんですね?」

アらラ  「あららー!? アらラまだお婿さんもらってないですよ!?」

ミノタ  「どうしてこうなったむぉ~?」

エルフ姉 「うーん、植物だから…? ますます判らなくなりました……
      謎は深まるばかり、また調査に行かねばならないようです。うーん」


アルラウネ「あららー?」

アらラ  「あら? こちらはアらラの姉さまなのでアらラに似てるですぅ」

エルフ姉 「そう、姉妹よね。」

アルラウネ「ららー?」

アらラ  「あらら? コボルトさんは母上さまの飼い犬じゃないですぅ」

コボルト 「なぬっ!? ちっ、核心を突いてきやがる……!」

アルラウネ「あらら」

アらラ  「あららー? 母上さまは合法です、年上の人にロリとか言っちゃダメですぅ」

母上   「あら、光栄ね。ふふっ」

アルラウネ「あららら」

アらラ  「あらー!? ミノタさんとお姉さんは夫婦漫才やってるわけじゃないですよ!?」

アらラ  「これでも本当の夫婦で、そのうち赤ちゃんも生まれるですよ?」

ミノタ  「むぉ!? それ本当むぉ!?」

お姉さん 「ど…どうかしら? まあその、そのうちにね?」


アルラウネ「あららー?」

アらラ  「あらら? どうしてアらラちゃんはエルフとアルラウネが一緒なの? ……ですか?」

エルフ姉 「一緒!?」

母上   「一緒……。そうなのかも知れないねえ?」

コボルト 「嬢ちゃんに関しては、もう何がどうなってても驚きゃしないんでサ」

お姉さん 「どうしてでしょう? 不思議な事もあるのですね?」

ミノタ  「やっぱりアらラさんは不思議生物むぉ~」

アらラ  「……。よく判らないけど――」

アルラウネ「…あら?」

アらラ  「あららー! アらラはアルラウネさんが大好きですぅ~!」 ギュッ!

アルラウネ「ひゃんっ!」 ><

アらラ  「あ、またやっちゃった、ごめんですぅ」






fin









長々とお付き合い頂きおつかれさまでした。
ミノタとその一味のお話はこれで一旦終了です。

楽しんでいただいた方々ありがとうございました。



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