じゃりん子チエ「ドラえもん…?」(263)

じゃりん子チエとドラえもんのクロスです。

じゃりん子チエを読んだことない人は、あまり楽しめないかも。
ごめんね。

ホルモン屋チエちゃん 店の前

チエ「東京?」

花井「そや、ワシ、明後日から2週間程仕事で東京行くんやけど、チエちゃん今、夏休みやろ。一緒にどうや思てな」

チエ「一緒にどうやて…。何でウチが」

花井「長い夏休みや。少しくらい花の都で見聞を広めたらどうや」

チエ「見聞て…。そら、あかんわ、おっちゃん。ウチおらんなったら店どうするねん」

花井「チエちゃんはまだ小五やろ。このまま夏休み中、ホルモンを焼くだけの少女でおるつもりかいな」

チエ「ウ、ウチ、別にホルモン焼くだけの少女とちゃうで」


屋根の上

ジュニア『そらそうや、ヒラメちゃんと遊んだり、塩せんべ食べたり、サイダー飲んだり、ヒラメちゃんと遊んだりせなあかんしな』ニャアニャア

小鉄『…お前、バカにしてるやろ』ニャアニャア

ジュニア『いやだなー、おじさん、歳とってヒガイモーソーしちゃって』ニャアニャア

小鉄『なに言うてんねん。しかし、妙やなあ…』ニャアニャア

ジュニア『何がやねん』ニャアニャア

小鉄『花井センセ、あないにしつこう誘うような人とちゃうやろ』ニャアニャア

ジュニア『愛のトーヒコーいうやつやないの。なりふり構ってられへんねん』ニャアニャア

小鉄『こ、こら!おとろしいことゆうな!何で花井センセの愛の逃避行の相手がチエちゃんやねん!』ニャアニャア!

ジュニア『まあ…違うやろうね』ニャアニャア

小鉄『当たり前じゃ!』ニャアニャア!

ジュニア『ただの冗談やんけ。…お前、ほんまチエちゃん絡むと冗談通じへんな』ニャアニャア

小鉄『ワシ、チエちゃんのファンなんや!次、チエちゃんのしょうもない冗談言われたら、ワシ狂っちゃうよ』ニャアニャア!

ジュニア『アイドルの親衛隊ゆうのはこうゆう奴ばっかりなんやろな…』ニャアニャア

小鉄『あないなもんと一緒にすな!』フニャー!

花井「ああ…ワシ、暑さですっかり頭やられてしもとるな。話す順番間違うたがな」

チエ「順番?」

花井「そや。これはな、テツを就職させようという作戦でもあるんや」

チエ「な!?」

花井「せやからな、チエちゃんが家出するねん」

チエ、小鉄、ジュニア「『『家出!!』』」

花井「そや。チエちゃんがテツにこう言うねん。テツがこの店の主人としてふさわしい態度示すようになるまで、ワシ、家出するでってな」

チエ「ウチ、ワシなんか言わん」

花井「おっと、こらいかん。それでな、チエちゃんはワシと東京に行くねん。一人で行くわけとちゃうから、ヨシ江はんも許してくれるやろ」

小鉄『なるほど…』

花井「もちろん、ほんまの家出とちゃうからチエちゃんは2週間後には戻ってくる。テツがそのころ真面目にこの店で働いてるかどうかは微妙なとこやけど、チエちゃんの決意を示す意味では効果的やろ」

ジュニア『そらええわ、テツ、本気でびびりよるで』

チエ「それは…、ちょっとおもろいな」

花井「そやろ、そやろ」

チエ「でもやっぱり店のことも気になるな…。そらテツがちゃんと働いてくれるなら話は別やけど、そんなもんに期待するのバクチみたいなもんやし…」

花井「せやからワシ、ここ来る前にチエちゃんのおばあはんとこ行って、事情話して来たんや」

チエ「え、おばあはんとこに?」

おばあはん「チエー」

チエ「あ、おばあはん」

おばあはん「いやー、センセ、もう来てはったんでっか」

花井「善は急げゆうからな」

おばあはん「それで…チエにあのこともう言わはったんでっか?」

花井「おお、言うた。言うたが、このホルモン少女は、自分があけてる間の我が店がご心配のようや」

おばあはん「そうでっしゃろ。チエはそう言うと思ってたんですわ。…それで、チエ」

チエ「なに?」

おばあはん「花井センセから話、聞きなはったんやろ?どうだすねん?」

チエ「どうだすねんて…」

おばあはん「店のことならわたいに任しときなはれ」

チエ「お、おばあはんに?」

おばあはん「テツが素直に働くかはわかりまへんけどな、わたいが責任持ってこの店見てますさかい、安心して東京行ってきなはれ」

チエ「あ、安心してて…。ウ、ウチ、別に東京なんか…」

花井「旅費も食費もワシが出すんやぞ」

チエ「あん!?」

ジュニア『ほんまかいな…、何か裏がありそうやな』ニャアニャア

チエ「お、おっちゃん、何か他にも企んでるんとちゃう?」

花井「はっはっは、チエちゃんは何でもお見通しやな」

おばあはん「あれ。センセ、それはまだ言うてなかったんでっか」

花井「そうなんや、なんや、今日は頭のめぐりが悪うてな。テツのテリトリーに近付き過ぎて、影響受けとるんかも知れん」

チエ「毎日ここで暮らしてるウチはどうなるねん」

花井「いや、あのなチエちゃん。今回の話には目的が3つあるんや」

チエ「3つ?」

花井「そうや、そのうち2つはさっきも言うたように、毎日ホルモンばっか焼いとるチエちゃんに東京旅行でもしてほしいゆうこと、もう1つは、テツを就職させたろゆうこと。もう1つは…ワシの仕事を手伝うてほしいねん」

チエ「おっちゃんの仕事を?」

花井「そや」

チエ「おっちゃんの仕事て…、おっちゃん、なんや難しいこと研究するのが仕事なんやろ?ウチ、そんなんよう手伝わん」

花井「いや、今回の仕事はな、李白の研究とはべつもんやねん」

ジュニア『おい小鉄。リハクちゅうのは、なんやねん』

小鉄『わしもよう解らんけど、昔中国におった偉い人らしいで』

ジュニア『そないなもん研究して、花井のおっさん、どうやって稼ぐねん』

小鉄『人間ちゅうもんは知的財産にカネを払うもんやねん』

ジュニア『どういうこっちゃ』

チエ「べつもんて、どういうこと?」

花井「今回はな、教育者としての論文を書こうと思とるんや。テーマは言語の差異における子供の育ち方の違いっちゅうてな、関西弁の子供と東京弁の子供のふれあいをもとに、ワシが立てた、ある仮説の確証をとりたいわけや」

チエ「よう解らんけど…ウチは何したらいいの?」

花井「簡単なことや。毎日、東京の子ぉらと遊んで、夜に日記書いてくれたらいいねん」

チエ「それだけ…?」

花井「そうや」

おばあはん「な、チエ、ええ話でっしゃろ」

花井「要するにチエちゃんはわしの仕事を手伝うバイトみたいなもんや。旅費と向こうでの食費はそのバイト代やな。おまけとしてチエちゃんは東京に旅行が出来るし、上手くすればテツ働かすことも出来るわけや」

チエ「そ、そういうことやったら…い、いや、でもウチ別に東京なんか…参ったなあ」ニコニコ

ジュニア『おい、あれほんまに参ってんのか?』

小鉄『いやあれはもうすでに心が東京に行ってもうてるな…その上で体裁してんねん』

チエ「そやけどこれでテツが心入れ替えてくれたらと思うと…いやー迷うなあ」ニコニコ


ホルモン屋チエちゃん

ガラッ
テツ「くそー!負けたー!」

ヨシ江「お、おかえり…」

テツ「おかえりやあるかー!人が絶望背負って帰ってきたのに、呑気なこと言いやがって!」

小鉄『お前と結婚したことがヨシ江はんの絶望や』

チエ「またバクチか」

テツ「何ぬかす。ワシ、ここんところずっとバクチ我慢してたやんけ」

チエ「当たり前のことを偉そうに言うな」

テツ「せやからワシ、バクチの勘、鈍ってしもて、大負けしたんやど」

チエ「…テツ、ウチ、聞きたいことがある」

ヨシ江「これ、チエ…、お父はんにテツて…」

チエ「お母はんは黙ってて」

テツ「な、なんやねん、怖い顔して」

チエ「テツの本業はなんやねん」

テツ「ほ、本業てなんやねん」

チエ「うちが聞いてんねん」

テツ「ほ、本業て…。あー!!!お前、まさか、この期に及んでおとろしいこと言う気やないやろな!」

チエ「普通のことを聞いてるだけや。テツの本業は、この店の主とちゃうんか」

テツ「な、な、な、…、お、おいヨシ江、どないなっとんねん、チエ、あんなこと言うてるぞ。お前どんな教育しとんじゃ」

チエ「なにメチャクチャ言うてんねん!」

テツ「メチャクチャ言うてるのはそっちやないか!ワ、ワシ、ワシ…」

チエ「…よう解った」

テツ「あん?」

チエ「テツの気持ちはよう解った言うてんねん」

テツ「ど、どうゆうことや」

チエ「テツがいつまでも変わらんのやったら、ウチにも考えがある」

テツ「か、考えて…」

チエ「ウチ、もう今日は寝る」

テツ「お、おい、チエ。チエ!…なんやねんあいつ。おいヨシ江、あいつどないなっとんねん」

ヨシ江「……」

翌日
ひょうたん池

ヒラメ「東京!?

」チエ「そやねん、花井のおっちゃんとな、2週間くらい…」

ヒラメ「2週間も」

チエ「うん」

ヒラメ「すごいなあチエちゃん、東京に2週間も」

チエ「べ、別にすごないよ」

あ、かぎかっこがずれた。
さーせん。

ヒラメ「東京タワー行くん?」

チエ「どうやろ…行けたらええけど」

ヒラメ「もし行ったら、話、聞かしてな」

チエ「行ったらね」ハハハ

ヒラメ「でも…2週間もチエちゃんおらんようなるの、寂しいなあ」

チエ「ウチもヒラメちゃんと2週間も会えんの寂しいわ」

ヒラメ「いつから行くん?」

チエ「明日からやねん」

ヒラメ「え!明日から!急やなあ。そうかあ…明日から2週間も」

チエ「うん。そやから今日はヒラメちゃんとテッテ的に遊ぼ思て」

ヒラメ「…2週間もやもんね。…うん、今日はテッテ的に遊ぼ」

チエ「あ、そや、忘れる前に言うとかんと…」

ヒラメ「…?」

チエ「あのな…変に思わんといて欲しいねんけど…今回の東京行きのこと、他の人には内緒やねん」

ヒラメ「内緒…?」

チエ「うん…このこと知ってるのは他に、うちのお母はんとおばあはん、あとは花井のおっちゃんだけやねん」

ヒラメ「なんでまた…?」

チエ「それは…なんとゆうか、身内の恥に関わる話やから…」

ヒラメ「…?何かよう解らんけど、ウチ、知らんほうがいいみたい」

チエ「内緒にしててくれる?」

ヒラメ「うん、もちろん」

チエ「おおきに」

堅気屋

テツ「ブツブツブツブツブツブツ…」

百合根「たまらんなあ…」

テツ「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツ…」

百合根「ああ…」

テツ「…おい、おっさん」

百合根「…なんでっしゃろ」

テツ「なんでっしゃろやあるかい。ワシのお好み焼、いつ出てくるんじゃ」

百合根「さっき食べとったがな」

テツ「なにぬかしとんじゃ!わし、今、機嫌悪いねん」

百合根「見たら幼稚園児でも解るがな」

テツ「そしたらはよ、次のお好み焼出さんかい。わし、機嫌悪かったら、腹減るやんけ」

百合根「はあ…なんや知らんが、迷惑やなあ…」

テツ「なんか言ったか」

百合根「いいえ」

とりあえず今日はここまで。

ドラちゃん出てくるの、かなり後になります。

たぶん。

とりつけときますね。

おやすみなさい。

テツ「…」

百合根「(くそっ…生地おもいっきり水でのばしたろかい)」

テツ「おい、おっさん」

百合根「なんや」

テツ「おっさんとこのガキは元気かい」

百合根「あん!?」ズルッ

テツ「なにずっこけとんねん」

百合根「な、なにて…。お前、熱でもあるんとちゃうか」

テツ「何でわしが熱ないといかんのじゃ」

百合根「何でて…。お前がうちとこの子、気にかけるなんて」

テツ「やかましわい!元気かどうか聞いとんじゃ!」

百合根「げ、元気やと思う…」

テツ「…反抗期は終わったんかい」

百合根「あん!?」

テツ「はよ答えんかい」

百合根「は、反抗期て、うちとこのカオル、チエちゃんと同い年やで。反抗期なんてまだまだ先やがな」

テツ「なにぬかす。それは正常な家庭の話やろうが。お前とこみたいな異常な家庭と同じにすな」

百合根「…」

テツ「お、おい、おっさん、どこ行くねん」

百合根「今日は閉店じゃ」

テツ「な、なんでやねん。まだ夕方やないか」

百合根「お前みたいなもんを素面で相手出来るかい。今から一杯ひっかけるから待っとかんかい」

テツ「こ、こらぁ、一杯で終わるんやろなあ」

ひょうたん池

チエ「ああ…お腹すいたなあ」

ヒラメ「ほんま…よう遊んだもんなあ」

少し遠くの木の上

ジュニア

『しかし、ものすごかったなあ、日本の少女のパワフルなこと』

小鉄『お前にはあれがパワフルに見えたか』

ジュニア『なん?』

小鉄『ワシはあんなに切ない光景、見たことないよ』

ジュニア『切ないて…。あの二人、ヤケクソなくらい遊んでたやんけ』

小鉄『そのヤケクソが切ないんや…』

ジュニア『…?』

チエ「今からどうしよか」

ヒラメ「そやなあ…まだ帰らなあかん時間までは大分あるし、そや、お好み焼き屋のおっちゃんとこ行かへん?ウチ、チエちゃんにお好み焼きおごるわ」

チエ「え!?」

>>31
訂正

「ジュニア

『しかし、ものすごかったなあ、日本の少女のパワフルなこと』」

「ジュニア『しかし、ものすごかったなあ、日本の少女のパワフルなこと』」

ヒラメ「チエちゃん、2週間も東京行くんやろ。東京ってお好み焼きなさそうやもん。行く前にチエちゃんにお腹一杯お好み焼き食べてほしいねん」

チエ「お、お腹一杯て…」

ヒラメ「な、チエちゃん、そうさせて」

ジュニア『ええ話やな』

小鉄『君にもそれくらいのことは解るんだね』

ジュニア『こいつ…どついたろか』

チエ「ヒラメちゃん…。そしたらお言葉に甘えさせて…!!!」ブルッブルッ

ヒラメ「?」

小鉄『…!?』

チエ「(な、なんやあ、この寒気は…)」

ヒラメ「チエちゃん…?」

チエ「危険や…」

ヒラメ「危険…?」

ジュニア『危険て…なんの話やねん』

小鉄『…』

チエ「(なんや解らんけど、ウチの勘がそう告げとる。おっちゃんとこは危険や…!)」

ヒラメ「どないしたん…?」

チエ「か、回転焼にせえへん?」

ヒラメ「回転焼?」

チエ「うん。ヒラメちゃんの気持ちはありがたいねんけど、この時間にお好み焼きなんか食べたら、晩御飯が…」

ヒラメ「あ、そうか、晩御飯…」

チエ「うん。せやから…」

ヒラメ「そうや、晩御飯のこと、ウチ忘れてたわ…」

チエ「え?」

ヒラメ「ウチがこんな寂しいねんから、チエちゃんとこのおばちゃん、もっと寂しいゆうの、考えてへんかったわ。
そうやんな、出発の前日くらい、家族でゆっくりご飯食べたいやんな。ああ、ウチはどこまでどんくさいんやろ…」

チエ「い、いや、ヒラメちゃん…」

ジュニア『お、おい。何か話が変な方向に…』

小鉄『…』

ヒラメ「チエちゃん、堪忍な。ウチ、今日はもう帰るわ…」

チエ「あ、ヒラメちゃん…」

ヒラメ「東京の話、聞かしてな…」テクテク

チエ「ヒ、ヒラメちゃん、…気ーつけて帰ってな!」


ジュニア『お、おい小鉄、どうゆうことやねん』

小鉄『…ジュニア、ちょっとついてこい!』ダツ

ジュニア『あ、ちょっと、どこ行くねん!』ダッ

小鉄『チエちゃん、確かにヨシ江はんに作ってもらうご飯、残さんと食べる子や。でも、ああゆうシチュエーションやったら、ヤケクソになってでもヒラメちゃんとお好み焼き食べて、家に帰ってもちゃんと晩御飯食べるはずやねん』タッタッタ

ジュニア『それは解るけど、俺らは今、どこに向かっとんねん』タッタッタ

小鉄『お前のオヤジんとこや』タッタッタ

ジュニア『あん!?』タッタッタ

小鉄『チエちゃん、あれは何か、第六感が働いたんや。チエちゃんの第六感はよう当たるねん』タッタッタ

ジュニア『何やねん、うちとこに何があるんや』タッタッタ

小鉄『チエちゃんの第六感の対象ゆうたら1つしかないやろ!…あ!やっぱり!』

堅気屋
店前

テツ「こ、こらー!おっさん!とりあえずその一升瓶から手え離さんかい!」

百合根「アホんだらー!どの口が異常な家庭やと抜かすんじゃー!」

テツ「ま、待て、話せば解る…」

百合根「しかも言うに事欠いて、チエちゃんが反抗期やとー!?」

小鉄、ジュニア『あん!?』

百合根「チエちゃんが反抗期なんかになるくらいの子やったら、チエちゃんとっくにお前殺しとるわー!お前はまだあの子の強さと優しさが解らんのかー!それでも親かー!」

テツ「こ、こらおっさん、その振りかぶった一升瓶、どうするつもりやねん!」

百合根「チエちゃんの代わりにお前、いてもうたるんじゃー!」

テツ「こ、こらあかん」ダッ

百合根「こらー!逃げるなー!」

テツ「アホが。アル中に付き合っとれるかい」タッタッタ

小鉄『おのれはー!』

テツ「ん?」

小鉄『少女の友情にいらん波風立てくさりやがってー!』パカーン!

テツ「な、なんやー」バタン

小鉄『アホが…』

ジュニア『お、おい、小鉄…。俺、いまいち話の流れが解らんのやけど…』

ホルモン屋チエちゃん

店内

チエ「…」

ヨシ江「チエ、どうしましたんや」

チエ「…なにが?」

ヨシ江「なにがて…なんやえらく元気ないみたいやないですか」

チエ「…お母はん」

ヨシ江「なんです?」

チエ「ウチ…、明日からのことやけど」

ヨシ江「東京行きのことですか?」

チエ「うん…。そのことやけど…、ウチ、やめようか思てんねん」

ヨシ江「…なんかありましたんか?」

チエ「…」

ヨシ江「…まあ、無理には聞きませんわ。それに、私も行かんことには賛成です。皆で寄ってたかって騙して…お父はんが可哀想やないですか」

チエ「お父はんのことは…まあ、別に…。あんな、お母はん、今日、ヒラメちゃんとな…」

ガラツ
テツ「くそー!ヨシ江ー!毒ダンゴ買うてこい!」

チエ「絶妙なタイミングやなあ…」

ヨシ江「また…どないしましたんや」

テツ「どないもこないもあるかい!ここ見てみい!」

ヨシ江「あら、どないしましたんや、こんなとこに大きなタンコブ作りはって」

テツ「小鉄のアホや」

チエ「あん!?」

テツ「あのババ猫、ワシを一升瓶でどつきよったんじゃ」

ヨシ江「一升瓶!」

テツ「あのアホ、ご主人様がちょっと甘やかしたらこのザマや。せやからあいつのエサに毒ダンゴ混ぜて、地獄であいつにご主人様が誰やったか思い出させてやるんじゃ」

チエ「なにアホなこと言うてんねん…」

ヨシ江「あんた、そんなことよりまず手当てを…」

チエ「…テツ、大丈夫か?」

テツ「…」

チエ「…テツ、頭、大丈夫か?」

テツ「…」

チエ「こらっ!人がせっかく心配してるのに、なに無視してんねん!」

テツ「やかましわい。ワシ、お前とは喋りたないんじゃ」

チエ「あん!?」

テツ「お前みたいな、反抗期…不良娘…」ブツブツ

チエ「…」

テツ「ブツブツブツ」

チエ「…テツ、ウチが反抗期であんなこと言うた思てんのか」

テツ「反抗期以外に何があんねん、親に向かってなめくさったこと言いやがって」

チエ「…お母はん、ウチ、ちょっと出てくる」

ヨシ江「これ、チエ、こんな時間にどこ行きますんや」

チエ「すぐ帰ってくるから…」ガラガラ

ヨシ江「これ、チエ…」

テツ「…不良少女が」ケッ

チエちゃんち近くの路上

チエ「…」

小鉄『チエちゃん…?』

チエ「…小鉄か」

小鉄『何してんるんや、こんな時間にこんなとこで』

チエ「…テツの頭、一升瓶でどついたらしいな」

小鉄『!い、いや、チエちゃん、あれはな…』

チエ「ああ、ええねん。別に怒ってるんやない。小鉄そんなことするなんて、滅多なことやないもんな。大方、テツになんかされたんやろ」

小鉄『なんかされたというか、なんというか…』

チエ「ウチ、東京行ってくるわ…」

小鉄『そう…』

チエ「お父はんが変わるかどうかは解らんけどな…」

小鉄『あれは、死んでも変わらん思うで…』

チエ「ウチな、お父はんとお母はん、それとウチの3人であの店やっていきたい。それだけやねん」

小鉄『チエちゃん…』

チエ「はあ…。そや、小鉄。ちょっとついておいで。用心棒や」

小鉄『…?』

平山家

チエ「ごめんくださーい」

ヒラメ母「はーい。あれ、チエちゃんやおまへんか。どないしましたんや、こんな時間に」

チエ「おばちゃん、こんばんは。夜分にすいませんけど、ヒラメちゃん、いますか…?」

ヒラメ母「ええ、いてますよ。ヒラメー、チエちゃん来なはったでー、降りといでー。…まあチエちゃん、そんなとこおらんと、お入りなさい」

チエ「いや、ウチ、ここでいいです」

ヒラメ母「ここでて…」

トントントン
ヒラメ「チエちゃん、どないしたん?」

チエ「あ、ヒラメちゃん、ごめんなこんな夜遅うに」

ヒラメ「それはかめへんけど…どないしたん?」

チエ「ええと、その…」

ヒラメ母「…! わたし、ジュースでも入れてきますわ」

チエ「あ、おばちゃん、おおきに」

ヒラメ「チエちゃん…?」

チエ「あんな、ヒラメちゃん、夕方のことやけど…」

ヒラメ「夕方?」

チエ「うん、お好み焼屋に行けへんかったことやけど…その…ごめんな」

ヒラメ「なんでチエちゃんが謝るん?」

チエ「ウチ…違うねん、ほんとはヒラメちゃんとお好み焼食べたかってんけど、晩御飯食べなあかんとかそういうことじゃなくて、…嫌な予感がしたねん」

ヒラメ「嫌な予感」

チエ「うん、そう…。お好み焼屋のおっちゃんとこ行くの、嫌な予感がしたんや。それだけやねん。それだけやのに、ウチ、せっかくのヒラメちゃんの誘い断って…。ヒラメちゃんなんも悪ないのに、自分のこと…その…どんくさいて責めて…」

ヒラメ「チエちゃん…」

チエ「ほんま…堪忍な…」

ヒラメ「そんなこと言うだけのために、うちに来てくれたん…?」

チエ「そんなことて…。ウチ、明日から2週間、おらんようなるから…」

ヒラメ「チエちゃん…」

チエ「ヒラメちゃん…」

ヒラメ「チエちゃん!」

チエ「ヒラメちゃん!」

小鉄『雨降って、地、固まるやな。よかった、よかった』

翌日

テツ「こらー!どこじゃここはー!」

テツ「…お、おい、お前、チエか?」

テツ「どないしたんやお前、ちょっと見ん間にえらい大きなってないか?」

テツ「お、おい、チエ。何で黙ってんねん」

テツ「しかもお前それ…化粧しとるんちゃうか?」

テツ「こらー!お前なに考えとんねん!女の腐ったみたいなことしやがって!」

テツ「お、おい、チエ、どこ行くねん」

テツ「その横におる男は誰やねん」

テツ「おいチエ…おい!チエ!チエー!!!!」


テツ「チエー!!!!!!」ガバッ

テツ「……」

テツ「なんや夢かい。しょうもな」ゴロン

テツ「……」

テツ「あーあ、つまらんのう。チエは反抗期やし、お好み焼屋のおっさんはアル中やし…」

テツ「そや、久々にヤクザ殴って遊んでこよ」ガバッ

テツ「最近わし、おとなしいにしとったからなー。あいつらワシの恐ろしさ忘れてるんちゃうやろなー。くそー、今日は10人殴るまで帰らんどー」

テツ「…ん?なんやこれ。手紙…?て、つ、へ。テツへ?なんやこれ!わし宛やないか!まさか果たし状とちゃうやろうなー!それやったらワシ、めちゃくちゃ楽しめるやんけー!」

「テツへ。

 ウチは、家出します。テツがまじめにはたらくまで、ウチは帰ってきません。

 それではさようなら。

 チエ」


テツ「な、な、な、な、なんじゃこれー!!!!!!」


ジュニア『クックック、あせっとる、あせっとる』

小鉄『さて、これがどう出るか、やな』

ジュニア『おいテツ、泡吹いてるぞ。あのまま死ぬんちゃうか』

小鉄『チエちゃん家出したくなるどころのことやないこと散々やっておいて、なに今更、泡ふいとんねん…』

テツ「チエー、チエー」ブクブクブク

新幹線車内

チエ「なあ、おっちゃん」

花井「なんや」

チエ「…テツ、変わるかなあ」

花井「そうやなあ。あの変わらなさもテツのええとこっちゃええとこなんやがなあ」

チエ「またそんな無責任なこと言うて…。ウチ、せっかく東京まで行くの、アホらしなってくるやん」

花井「まあ、期待しとったらアホを見る。テツに期待してたらあかん」

チエ「な、なんちゅうこと言うねん。ウチ、これでもテツの娘やで」

花井「チエちゃんはテツに期待してるんか」

チエ「え!…どうやろな、それは、うーん」

花井「あんな、チエちゃん、わし思うんやけど、期待っちゅーもんは、あんまり上等なもんやないんとちゃうかなあ」

チエ「…え?」

花井「期待っちゅーもんは、かけたほうも、かけられたほうも、どんどんしんどくなる。見返りを求めるからや」

チエ「見返り…」

花井「ワシはテツに期待なんかいっぺんもしたことないで。その代わりに、信じとる」

チエ「おっちゃん…」

花井「例えばあいつは、堅気には絶対に手を出さんやろ。女にも手をあげん。ワシはあいつのそういうところを信じとる」

チエ「なんか、ものすごくレベルの低い話みたい…」

花井「何を言う。そんなことすら守れんやつら、ワシ、いっぱい見てきたんや。ほとんどが塀の中にいるか、あの世に行ってもうてるやつらばっかりやけどな」

チエ「あの世!!」

花井「テツはあれで、ええところもある。ワシはそれを信じとるんやなあ」

チエ「うーん」

花井「チエちゃんはテツの何を信じてるんや」

チエ「え?」

花井「そういうことを東京でゆっくり考えてみたらどうや。テツと2週間も離れるんや。ええ機会やろ」

チエ「…おっちゃん、まさかそのためにウチを東京に?」

花井「ん?いやー、それだけちゃう、ゆうたやろ、目的は3つあるって。でもまあ、一番大きな目的は、チエちゃん東京でゆっくりさせたりたいゆうことやなあ」

チエ「なんで…ウチ…そんな」

花井「わし、チエちゃん好きやねん」

チエ「あん!?」

花井「ワシ、テツとヨシ江はんを引き合わせたこと、後悔することもあるんや。なんちゅうことしてしまったんやろってな。でも、そのおかげでチエちゃんと出会うことが出来たからなあ。人生、一筋縄じゃいかんゆうこっちゃ」

チエ「お、おっちゃん、なんか今日は恥ずかしいことようけ喋るなあ…。あ!おっちゃん、お酒飲んでるやん!」

花井「かっかっか。酒は旅の親友や」

チエ「なに言うてんねん。ウチ、ちょっと感動しそうになったがな」

花井「遠慮せんと感動したらええがな」

チエ「もう出来ん。あと、おっちゃん、ウチに、東京の子と遊べゆうてたけど、まさかそこらへんでひっかけろってことちゃうやろなあ」

花井「かっかっか。チエちゃんならそれも出来そうやけどなあ。安心せえ、今回の仕事に協力してくれる向こうの人たちがおんねん」

チエ「協力?」

花井「そうや。昔の教え子でな。まあ、そのへんはあとで説明したる。とりあえずそろそろ駅弁でも食おか」

チエ「あと、ウチ、もう一個心配してんねんけど…」

花井「なんや」

チエ「夏休みの宿題、2週間もやらんわけにはいかへんから持ってきたんやけど、やれるかなあ」

花井「なんや、渉のやつ、夏休みに宿題なんか出しよったんか。底意地の悪いことするやっちゃのう」

チエ「…おっちゃん、その言い方、なんか、テツっぽいで」

東京
空き地

「「「無人島!?」」」

スネ夫「そう、僕のパパの友達が島を一つ持っててね。この夏休みを利用して、その島で従兄弟とサバイバルしてきたのさ」

のび太「…」

ジャイアン「サバイバルかよ!すげー!」

しずか「でも、無人島なんて怖くなかった?」

スネ夫「ハハハ、きちんと用意をしていけば、怖いことなんてないよ」

のび太「…」

ジャイアン「メシとかはどうすんだよ?」

スネ夫「もちろん現地調達さ」

のび太「…」

しずか「現地調達って…何を食べるの?」

スネ夫「意外と野生の木の実が自生してるんだ。あとは釣竿を作って、餌になりそうなものを探して釣りとかね」

のび太「…」

ジャイアン「男のロマンって感じだなー!」

スネ夫「そうだ、良ければ君達も招待するよ」

のび太「…」

ジャイアン「なにー!?うおー!心の友よー!」

しずか「怖そうだけど、楽しそう!」

スネ夫「チャーター機で行くんだ」

ジャイアン「チャーター機!?すげえ!」

のび太「はいはい、で、チャーター機は3人乗りなんでしょ」ボソッ

スネ夫「で、このチャーター機は5人乗りなんだ」

のび太「え!?」ドキッ

スネ夫「といっても、そのうちの一人はパイロットさんだから、実質4人乗りだね」

のび太「うん、うん」ドキドキ

スネ夫「だから、のび太」

のび太「ス、スネ夫ー!」

スネ夫「悪いけど君は連れてけないんだ」

のび太「ずこーっ!」ズコー

のび太「な、なんで…」

スネ夫「だって考えてもごらんよ、子供達だけで無人島なんかに行けるわけないだろう?僕の従兄弟についてきてもらうのさ」

ジャイアン「そうか、そういうことなら仕方ねーよな、のび太」ガハハ

のび太「そ、そんなー…」

スネ夫「ま、今回はあきらめるんだね」

のび太「な、な、なんだい!無人島なんか!全然うらやましくないもんね!」

スネ夫「そうか、そりゃ良かった。じゃあ皆、僕の家でジュースでも飲みながら計画をたてようじゃないか」

のび太「…」





のび太「なんだい、なんだい」テクテク

のび太「なにが無人島だよ」テクテク

のび太「無人島なんかちーっとも」テクテク…

のび太「うらやましいよー」ダダダダダ

のび太「ドラえもぉぉぉぉん!!!!!!!」ダダダダダダ

映画のはじまりっぽい(自画自賛)。

今日はここまでですごめんなさい。

皆さんよい週末を。

※秘密道具について

漫画やアニメオリジナルの秘密道具だけでなく、筆者が勝手に考えた秘密道具も出てきます

また、ドラえもんに詳しい方、「何でここであの道具を使わない!」と思われる箇所が出てくるかもしれませんが、素人の作品ということでどうかひとつ

野比家
二階

のび太「オーイオイオイ(泣)」

ドラえもん「なるほど、無人島ねえ…」

のび太「エーンエンエン(泣)」

ドラえもん「で、またのび太くんだけ仲間外れになったと」

のび太「ワーンワンワン(泣)」

ドラえもん「まったく、毎度毎度、スネ夫くんも意地が悪いなあ」

のび太「ヒーンヒンヒン(泣)」

ドラえもん「よし解った、のび太くん。僕たちも無人島に行こう!」

のび太「ほんと!?」ナミダピターッ

ドラえもん「うん。でも、ただ行くだけじゃ、芸がない。確かここらへんに…」ゴソゴソ

ドラえもん「無人島ツクール!」ジャジャーン

のび太「無人島ツクール?」

ドラえもん「うん、その名のとおり、無人島を作る道具なんだ」

のび太「無人島を作る!?そんなこと出来るの!?」

ドラえもん「22世紀にはほとんど未開の地がなくなっててね、無人島もあるにはあるんだけど、ほぼ100%、電波も通ってるし道も舗装されているんだ」

のび太「ふーん」

ドラえもん「それじゃ面白くないっていうので、全く情報のない無人島を作ってサバイバルを楽しみたい人向けに開発されたのがこの無人島ツクールなんだ」

のび太「すごい!それで?」ウキウキ

ドラえもん「まず、難易度を選択…のび太くんはサバイバル初めてだから、一番簡単なのを選択するよ」

のび太「難易度ってなに?」

ドラえもん「島の快適度とか、安全性のこと。難しくなればなるほど、食料調達が困難になったり、危険な野性動物が発生したりするんだ」

のび太「へー!」

ドラえもん「次に、島の大きさと、場所を決める…こんなもんかな。太平洋の真ん中、直径10km、名付けてドラえもんアイランド!」

のび太「えー、もっと格好いい名前にしようよー」

ドラえもん「どういう意味だ!」

のび太「まあいいけど…」

ドラえもん「まったく…。さて、準備が出来た。で、この実行ボタンを押す!」ポチッ

無人島ツクール「サクセイチュー、サクセイチュー、サクセイチュー、…カンセイシマシタ」チーン

のび太「え!?もう出来たの?すごい!」

ドラえもん「さあ、これで、誰も知らないところに僕らだけの無人島が出来た」

のび太「…あれ?でも、どうやって行くの?」

ドラえもん「ふふふ、この転送って書いてあるボタンを押してごらん」

のび太「え?これ?」ポチッ

無人島ツクール「テンソウシマス」

のび太「え?…う、うわあああ」ヒュンヒュンヒュン




のび太「…あああああ!」ヒュンヒュンヒュン

のび太「…び、びっくりしたあ」

のび太「…あれ?ここ、どこ?」

ドラえもん「お待たせー」ヒュンヒュンヒュン

のび太「あ、ドラえもん!ねえ、ここってもしかして…」

ドラえもん「そう、僕たちの無人島!」

のび太「うわー!やったー!すごーい!」ダダダダ!

ドラえもん「あ、のび太くん、待った待った!」

のび太「え?」

ドラえもん「無人島でいきなり走り回ったら危ないよ。難易度が一番低いとはいえ、道の舗装なんかされてないんだから」

のび太「えへへ、ごめん、ごめん」

ドラえもん「さて、のび太くん]

のび太「は、はい!」

ドラえもん「本来、君がサバイバルをするなんて、無茶だ。ありえない。この世の終わりだ」

のび太「い、いきなり、そこまで言わなくても…」

ドラえもん「でも大丈夫。この無人島は難易度が低いし、もし危険を少しでも察知したら、お家に帰れるようになってるんだ。はいこれ」

のび太「なに?この蛙の形したシールは」

ドラえもん「無人島ツクールの付属品の、お家にカエールだよ。このシールを3回撫でると、無人島ツクールがある場所、つまり、僕らの家に帰れるんだ」

のび太「へえ、便利だなー」

ドラえもん「よしそれでは改めて…。ごほん。のび太くん、僕らは無人島にたどりつきました。さあ、まず、すべきことはなんでしょうか?」

のび太「すべきこと?」

ドラえもん「そう、サバイバルとは生き延びること!そのためにはまず、現状を把握することから始まるのです」

のび太「ほうほう」

ドラえもん「では、何か使えるものがないか、周りを探してみましょう」

のび太「使えるもの?」

ドラえもん「そう。サバイバルで重要なのは4つ。水を確保すること、火をおこすこと、雨風をしのげる安全な拠点を見つけるまたは作ること、食料を確保すること」

のび太「…なんだか大変そうだなあ」

ドラえもん「そりゃそうだよ、本来、サバイバルっていうのはそういうものなんだから。でも、今回は難易度が低いから、ほらここに、初心者用キットがあるんだよ」

のび太「初心者キット?」

ドラえもん「そう。えーと、何が入ってるかな。プラスチックのコップに、ライター、空のペットボトルにブルーシート、うわ、薪もあるよ。それに、ナイフと、鍋が3つも入ってる」

のび太「…ねえ、ドラえもんのポケットに何でも入ってるけど」

ドラえもん「だめ。そんなんじゃサバイバルにならないの!」

のび太「ちぇっ」

ドラえもん「それじゃあ、陽もまだ高いし、水の確保から始めようか」

のび太「ここから海が見えるし、水はいつでも手に入り放題じゃない」

ドラえもん「ダメダメ、海水なんてとんでもない」

のび太「ダメなの?」

ドラえもん「海水っていうのは塩水だからね。難しいことはのび太くんには解らないだろうから詳しくは省くけど、塩水っていうのは、飲めば飲むほど体内の水を奪うんだよ」

のび太「へえ。じゃあ、どうやって水を確保するの?」

ドラえもん「色々な方法がある。例えば、川を探したり、雨水をろ過したり、もしくは植物の茎を切ってそこから染み出る水を集めるという方法もある」

のび太「それって、時間かかる?」

ドラえもん「かかるとも」

のび太「そうと解ると、さっそく喉が渇いてきちゃった…」

ドラえもん「もう!」

のび太は情けないことを言いながらも、ドラえもんに教示されながら、水の確保を試みた。
まず、葛らしき植物をすぐ近くで発見。茎を横に切り、切り口をペットボトルの飲み口に入れる。
こうすることで、葛という保水に優れた植物が、自分の溜め込んでいた綺麗な水をすっかりとペットボトルに吐き出してくれるのだ。
次に、乾いた小枝と落ち葉を拾ってくるように指示される。
泣き言を言いながらも、不自然なほど大量に落ちている乾いた小枝と落ち葉を採取。
その間にドラえもんが湧き水の出る場所を見つけてきた。

のび太「はあ、はあ、ドラえもん…喉渇いたし、お腹減ったし、足も腰も痛いし、帰りたいよう!」

ドラえもん「根気がないなあ…。でも確かに、のび太くんと僕だけだと大変だ。怪我でもされたら困るし、楽しいうちに今日は帰ろうか」

のび太「た、楽しくない…」

そう言って倒れこむのび太。
君が来たいって言ったんじゃないか。困った顔でそう呟くドラえもん。
まあいいや。明日は、しずかちゃんたちも誘ってみよう。
そうすればきっと、この困った僕の親友も、少しは張り切るだろう。
この夏の間に、少しはたくましくなるかも知れない。
そんな思いを抱きつつ、ドラえもんは自分とのび太の「お家にカエール」を撫でたのだった。

だめだーわしの文章力だと地の文章入れないと状況描写できない。

すいません、以後、ちょいちょい地の文入ります。

そして少ししか書いてませんが、今日はここまでです。

おやすみなさい。

翌日
野比家

ピンポーン
たま子「はーい」ガチャッ

たま子「あら、出来杉くんじゃない」

出来杉「こんにちは」

たま子「まあまあ、珍しいわね、出来杉くんがいらっしゃるなんて。のび太?いるわよ。さあ、どうぞ、あがってあがって」


のび太部屋

のび太「しずかちゃんちに?行く行く!…でも、なんで?」

出来杉「実はね…」

前日
東京駅

花井「あー、やっと着いたのう。やっぱり東京は遠いわい」

チエ「…おっちゃん、よう飲んだなあ」

花井「そら旅路は酒飲むええ機会やからな」

チエ「よう解らんわ」

紳士「花井先生!」

花井「…おお! 来てくれたんか!」

チエ「…?」

紳士「お久しぶりです!」

花井「すまんなー、わざわざ迎えに来てもろうて」

紳士「何をおっしゃいます。…ああ、君がチエちゃんだね?」

チエ「え…?あ、はい、こんにちは」

紳士「こんにちは」

花井「チエちゃん、こちらは出来杉くんゆうてな、ワシの元教え子なんや」

チエ「おっちゃんの…?」

花井「ああ。ゆうても、1年しか教えてはないんやけどな」

出来杉(父)「ええ。親の仕事の都合で1年だけ大阪で暮らしたあの日々は、私にとって、本当に忘れられないかけがえのない思い出ですよ」

チエ「(自分のこと『わたし』ゆう男の人、ウチ、初めて見た)」

出来杉(父)「チエちゃんのお父さん…テッちゃんにも、とってもお世話になったんだよ」

チエ「あん!?」

花井「なんやよう解らんが、この二人はウマがおうてのう。出来杉くんに影響されてテツもええ子になるか思てたんやが、出来杉くんが東京に帰ってすぐにあのアホ、鑑別所送りや」

チエ「は、はは…」

出来杉(父)「それでこそテッちゃんですよ。チエちゃん、テッちゃんは元気?」

チエ「げ、元気とゆうか、元気すぎるとゆうか、元気のつかいどこ、間違うてるとゆうか…」

出来杉(父)「ふふふ、まあ、そのへんはまた、おいおい聞かせてもらおうかな。ああ、紹介します。私の息子です。ほら、英才、ご挨拶なさい」

出来杉「こんにちは、初めまして。出来杉英才です」

花井「おお、やっぱり英才くんかいな。いやいや、君が小さい頃に一度会うてるぞ。大きなったなあ」

チエ「初めまして…竹元チエです」

出来杉(父)「電話でも申しましたが、今回の花井先生の研究、微力ながらうちの息子がご協力させてもらいます」

花井「ああ、英才くんなら安心や」

出来杉「チエちゃん、よろしく!」

チエ「…え?あ、はい、よろしく…お願いします…?」

花井「如才ないなあ。昔のお前、見てるみたいやで」

出来杉(父)「僕はもう少し、生意気なところがありましたよ」

花井「そうかもしれんな、かっかっか!」

チエ「ええと…?」

花井「ああ、そや、説明しとかんとな。新幹線ん中でもちょこっと言うたが、チエちゃんはこの英才くんと今回色々行動を共にするっちゅうわけや」

チエ「行動を共にて…男の子やんか!」

花井「なんや、チエちゃんでも男とか女とか気にするんか」

チエ「当たり前や!」

花井「はっはっは!冗談や。心配せんでええ。別に二人きりで行動せえとは言わん。なんや、英才くんが所属するボーイスカウトかなんかに参加させてもらえるんやろ?」

出来杉(父)「ええ、最初はそのつもりだったんですが…」

出来杉「僕の友人に、とても面白い人たちがいるんです。せっかくなら、彼らを紹介したいと思って」

花井「ふうん、ま、どっちゃでもええ。英才くん、よろしくな」

出来杉「はい!」

チエ「なんかウチ、こうゆうの苦手やわ…」ハア…

野比家

出来杉「…ということなんだ」

ドラえもん「へえ、大阪から」

のび太「よく解んないけど、その子と遊べばいいんだよね?」

出来杉「うん…。それで…急にこんなことを言って申し訳ないんだけど、協力してくれるかな…?」

ドラえもん・のび太「もちろん!」

のび太「えへへ、出来杉くんが僕らに何か頼むなんて何だか嬉しいね」

ドラえもん「ふふふ、そうだね」

のび太「そうだ!ドラえもん、丁度いいじゃない、皆で…」

ドラえもん「うん、そうだね!」

出来杉「…?」

ドラえもん「出来杉くん、それで、その子が今、しずかちゃんの家に?」

出来杉「うん。源くんが…しまった!」

のび太「どうしたの?」

出来杉「チエちゃんが…その大阪から来た子なんだけど…源くんの家にいるときに、バイオリンに興味を示してて…」

ドラえもん・のび太「バイオリン!!」

出来杉「もしかしたら…」

ドラえもん「こうしちゃいられない!すぐ行かなきゃ!」

のび太「危険が危ない!」

まだかな

大阪

ジュニア『暇やな…』

小鉄『ワシ、暇なくらいが助かるわ…。この頃の暑さは、ほんま、かなわん』

ジュニア『情けないやっちゃのう。チエちゃんが東京もんにいじめられてるかもしれんのやど』

小鉄『チエちゃんいじめるような根性あるやつ、そうそうおるかい』

ジュニア『あれー、小鉄さん、その言い方はまるでマサルにも根性あるみたいやで』

小鉄『マサルなあ…。ちょっとは根性あるかもわからんが、あれはいじめとは言わん。いちびりや』

ジュニア『…?いちびりといじめ、何が違うねん』

小鉄『相手が強いか、弱いかや』

>>96
ごめんね。のんびりお付き合いください。

ジュニア『まあ…チエちゃん、大抵のことには強いわな…』

小鉄『そうゆう意味ではテツに鍛えられとんねん』

ジュニア『まあ…鈍感ともゆえるけどな』

小鉄『あん!?』

ジュニア『そら鈍感なくらいやないと、テツの子は務まらんよなあ』

小鉄『お前なあ…』

ジュニア『いや、実際そうやで、皆が風邪ひいたときも、ちょっとも具合悪くならんし、あのテツの大いびきの前で平然と寝よるし、なんとかゆう有名な絵描きのおっさんの絵ぇ見てラクガキやゆうとったやないか』

小鉄『…チエちゃんは度量が広いねん』

ジュニア『お前、言葉を美しく言い換えるの得意やな』

小鉄『嫌なこと言うな』

ジュニア『ま、チエちゃんはそんじょそこらの嫌がらせにはびくともせんわな』



東京 源家前

急いでしずかちゃんの家まで走ってきた三人。

しずかちゃんのバイオリンが聞こえることに気付いた三人は絶望に襲われる。

出来杉「遅かった!」

のび太「たたた、大変だ、ドラえもんどうしよう!」

ドラえもん「お、落ち着いて!まずは…、のび太くん、出来杉くん、この耳栓を…。あとは…、お医者さんカバン!これで緊急措置を…」

しずかちゃんの部屋

しずかちゃんが壊滅的な音でバイオリンを弾いている。

チエ「」

ダダダダダ・・・バタンッ

のび太「お、おじゃまします!」

しずか「あら、のび太さん、いらっしゃい。待ってたのよ」

のび太「し、しずかちゃんこんにちは。…そ、その子がチエちゃんだね?」

しずか「ええ」

のび太「チ、チエちゃん、気を確かに持って!今、お医者さんカバンを…」

チエ「…しずかちゃん、めっちゃバイオリン上手いなー!」

のび太「…えー!!?」

しずか「そんなことないわよ、うふふ」

出来杉「(ど、どうなってるんだろう)」

ドラえもん「(わ、わからないけど…大丈夫そうだね)」

チエ「感動したわ…。ウチ、芸術に目覚めそう」

しずか「うふふ、チエちゃんたら、お上手ね」

出来杉「(…気がふれたってことはないよね?)」

ドラえもん「(そ、それならそれでこのお医者さんカバンが役に立つけど)」

しずか「あ、そうだ、紹介するわね、チエちゃん。こちらは野比のび太さん。私と出来杉さんのクラスメイト」

のび太「こ、こんにちは。初めまして…(本当に大丈夫かな)」

チエ「こんにちは…って、ちょ、ちょっと、しずかちゃん」

しずか「ん?」

ドラえもん「?」

チエ「家にタヌキが上がりこんでるで!」

ドラえもん「…タ、タヌキじゃなーい!」

チエ「うわー!タ、タヌキが喋った!」





ドラえもん「…というわけで、僕はタヌキじゃなくて、未来から来た猫型ロボットなのです」

チエ「ロボットて…」

出来杉「最初はなかなか信じられないよね」

のび太「でも、本当なんだよ」

チエ「びっくりやわ。…東京は何でもありなんやな」

しずか「東京だからってわけじゃないと思うけど…」

のび太「ドラえもん、何か道具見せてあげようよ」

ドラえもん「そうだなあ…じゃあ、身近なところで…」

チエ「…?」




練馬区 上空

チエ「な、なんやー!」

のび太「ね、チエちゃん、すごいでしょ!」

しずか「それはタケコプターっていって、こういうふうに空を飛べるのよ」

ドラえもん「うふふふふ」

出来杉「他にもドラえもんくんは色々な道具を…チエちゃん、君、大丈夫?」

チエ「あ、あかん、ウチ、あげそう…」※あげる=吐く

のび太「わ、わー、大変だー、ドラえもん!」

ドラえもん「き、緊急着地!あそこの空き地に…!」

空き地

のび太「チ、チエちゃん、大丈夫…?」

チエ「だ、大丈夫…。ちょっと休んだら、ようなるから…」

ドラえもん「最初の道具にしては少し過激だったかな…。ごめんね、チエちゃん」

チエ「う、うん、大丈夫…」

大阪

ホルモン屋チエちゃん
屋根の上

ジュニア『しかし…』

小鉄『なんや』

ジュニア『ほんま暇やなあ。少しはおもろなる思たのに、全然やがな』

小鉄『まあ、こうなることは解ってたけどな』

ジュニア『そしたらチエちゃん、東京行き損やないか』

小鉄『行き損ちゅなことあるかい。花井センセと東京行って、チエちゃんも色んな経験してくるやろう。少女は旅を経て大人になるんや』

ジュニア『しかし…肝心の男がちっとも大人になれてへんやんけ』

ホルモン屋チエちゃん
店前

おばあはん「はあ…」

おじいはん「おお、やっぱりここにおったか」

おばあはん「…なんですねん」

おじいはん「なんですねんて…その…テツの具合はどうやねん」

おばあはん「どうもこうもありませんわ。あんさん、中に入って様子見てきたらどうでっか」

おじいはん「そ、そしたら」ガラガラ

おじいはん「テ、テツ、おるかー」

テツ「…」

おじいはん「…、な、なあ、テツ、1日中家にひきこもっとらんと、少し気分転換に外に出てみたらどうや」

テツ「…」

おじいはん「テツ…」

テツ「ほっといてくれ…」

店前

ガラガラ
おじいはん「あかん、テツ、まったく覇気がないなあ」

おばあはん「まったく…情けない。どこの世界に娘に家出されて引きこもる父親がいてますねん」

おじいはん「せやけどお前…あれはほんまに傷ついてるやないか。そこまで言わんでも」

おばあはん「何ゆうてますねん。あんさんも見なはったやろ、チエからの置き手紙。真面目に働くまで帰ってこんとまで娘に言わせて、その上でなお布団からもよう出てきまへんねんで。寝言ゆうのもいい加減にしなはれ」

おじいはん「…お前には父親の気持ちが解らんのや」

おばあはん「ほう、あんさんが父親を語りまっか。こらおもろい。聞かせてもらいまひょか」

おじいはん「…」

おばあはん「やめときまひょ。あんさんと喧嘩しても一銭にもなりませんわ。とにかく今は、チエが帰ってくるまでわたい、この店を切り盛りせんとあかんのですからな。あんさんも老体にムチ打って、一人でうちとこの店、あんじょうやりなはれや」

おじいはん「それやけど、お前…チエがどこ行ったか、ほんまは心当たりあるんやろ?」

おばあはん「…あんさんそれ、ほんまに覚悟して聞いてますねんやろな?」

おじいはん「あん!?」ドキッ

おばあはん「それを聞いて、あんさん、テツに隠しきれるんでっしゃろな」

おじいはん「そ、それは…」

おばあはん「どうだすねん」

おじいはん「な、なんで隠さなあかんねん。テツ、それさえ知ったら少しは…」

おばあはん「あんさん、チエがなんであんなことしたかちっとも解ってへんやないですか」

おじいはん「な、なんでて…」

おばあはん「チエはテツに働いて欲しいからあんなことしましたんや。家出先なんかテツにばれてみなはれ、あの男、捜しに行きますやろ。そしたらチエの考えが、皆、パーになるやないですか」

おじいはん「パ、パーて…。でも実際テツ、あんなふうに腑抜けになってるやないか」

おばあはん「あんさん、ほんまに物の道理が解ってまへんな。チエの居場所が解ったらテツは探しに行く。これはもう、100パーセント間違いおまへん。そうなったらテツ、チエ見つけるまで働くどころやおまへん。それが、今の状態やと、心入れ替えて働き始める可能性が1パーセントでも残ってますがな」

おじいはん「そ、そうかもしれへんけど…」

おばあはん「さあ。今の話を聞いた上で、それでもあんさんは聞きたいと思うんでっか?」

おじいはん「わ、わし、店の準備してくるわ…」

おばあはん「はあ…。肝心なときに肝心なことから逃げ続けてきた結果、息子があんなふうになりましたんや」

空き地

ドラえもん「それで、これが、スモールライト。これで何かを照らすと…」ピカー

チエ「わ、土管が小さくなった!」

ドラえもん「そしてこれがビッグライト。これで照らすと…」ピカー

チエ「…大きくなった。はー、ものすごいなあ…」

ドラえもん「ふふふ」

出来杉「そういえば野比くん、さっき、皆で何かをやろうって言いかけてなかった?」

のび太「え?あ、そうだ!昨日ね、ドラえもんと一緒に無人島を作ったんだけど、皆でサバイバルごっこをしないかなと思って!」

チエ「む、無人島を作ったの…?」

しずか「すごい!素敵!」

出来杉「サバイバルかあ。それは面白そうだね。どうかな、チエちゃん」

チエ「サバイバル…。そら面白そうやけど、子供だけでそんなんしてええの?」

のび太「へーきへーき!ドラえもんもいるんだしさ!」

ドラえもん「じゃあ、さっそく出かけよう!」

無人島

出来杉「うっわー!!すごい!」

しずか「とても大きい島みたいね」

のび太「そういえば、この島、どれくらいの広さなんだろう。ねえ、ドラえもん、タケコプターを…」

ドラえもん「駄目!この島では秘密道具は禁止なの!」

のび太「えー、なんでさー」

ドラえもん「じゃないとサバイバルにならないでしょ、もう」

のび太「ちぇーっ」

しずか「私、海で泳ぎたいわ。水着、持ってくればよかった」

チエ「皆、慣れてるなあ…。あかん、うち、テツで非現実は慣れてるつもりやなのに、まだまだやんか…。よーし! 気合入れて遊ぶどー!」

出来杉「サバイバルならまずは水を確保しないとね」

のび太「あ! 出来杉くん。水のことなら任せてくれよ」

出来杉「?」

ドラえもん「ふふふ」

のび太「ほら、ここに…僕が集めた落ち葉と枯れ木があるでしょ。これを…どうするんだっけ、ドラえもん」

ドラえもん「ずこーっ」

のび太たちはその後、鍋に海水を汲み、枯れ木と落ち葉に火を点け(点火ではチエが大活躍した)海水を煮出した。その水蒸気を集め、真水を集めるのだ。
のび太が仕込んだペットボトルに、葛の木から染み出た水が溜まっていたのを見つけたのには、のび太の喜びもひとしおだった。

のび太「ほら!しずかちゃん!これ、僕がやったんだよ」

しずか「ほんと、すごいわ、のび太さん」

テツ「なに大層に言うとんねん。湧き水汲んできたら終わる話やんけ」

チエ「こらっ!そんなことゆうな!」

のび太・しずか・ドラえもん・出来杉「???」

チエ「あ…うち、今、その…空耳が…」

出来杉「だ、大丈夫?(やっぱり源くんのバイオリンを聞いた後遺症が…)」

チエ「だ、大丈夫…」

チエ「(な、なんやあ!?う、うち、今、テツの声を…?)」

チエ「(ま、まさか、うち、言葉が綺麗なんに慣れてないから、知らず知らずのうちにテツを求めてるんやないやろなあ…)」

花井『チエちゃんは、テツのなにを信じとるんや』

チエ「(あ、あかん…。花井のおっちゃんが変なこと言うから、うち、テツの呪縛から…)」

大阪
チエちゃんち

ガラガラッ
朝子「ごめんくださーい」

※朝子は花井の義理の娘(息子の嫁)

テツ「…」

朝子「わ。テッちゃん、いたの」

テツ「なんや、花子か…」

朝子「朝子よ!」

テツ「…何の用や」

朝子「テッちゃんに用と違うの。ヨシ江さんに用があって」

テツ「そうか…まだ帰ってきとらんで」

朝子「??? 何、テッちゃん、どうしたの?」

テツ「ほっといてくれ」

朝子「な、なんなの…?」

10分後

テツ「な ん や と お お お !!!!!」

朝子「な、何よ、急に大声出して」

テツ「なんで花井のボケが東京に行かなあかんのじゃー!」

朝子「な、なんでて…。仕事よ」

テツ「そしたらチエも東京行っとるんちゃうんかー!」

朝子「チエちゃん?チエちゃんがなんで…」

テツ「くそー!」

朝子「あ、ちょっと、テッちゃん!どこ行くの!?」

おばあはん「よっこらせっと…て、テツ、どうしましたんや」

テツ「やかましい!」

おばあはん「あん!?ちょ、ちょっとテツ、どこ行きますねん」

朝子「あーあ、行っちゃった」

おばあはん「あれ、朝子はん、来てはったんでっか」

朝子「ええ、ヨシ江さんにアキラの靴下を縫ってもらったから、そのお礼に…」

おばあはん「そうでっか…。それにしてもテツ、どないしましたんや」

朝子「さあ…お義父さんが東京行ってるって言ったら急に…」

おばあはん「ええ!!?」

朝子「な、なんかまずかった?」

おばあはん「こらあかん!朝子はん、ちょいと留守番頼みますわ!」

おばあはんち

おじいはん「はあ、はあ、はあ」

おばあはん「ちょいと、あんさん!」

おじいはん「お、おう」

おばあはん「テツ、来ましたやろ」

おじいはん「な、な」ギクッ

おばあはん「テツ、来ましたやろ!?」

おじいはん「き、来たわい、そう大きな声、出すな。心臓に悪い」

おばあはん「それで!?テツはどこでんねん!?」

おじいはん「ど、どこでんねんて、わし知らんがな…」

おばあはん「…あんさん、まさかとは思いますが、テツにカネなんか渡してまへんやろな」

おじいはん「…」

おばあはん「(あかん、これは完璧に渡してる…)」

菊(おばあはん)にとって、朝子の訪問は想定外だった。
朝子に「花井は東京に行っている」と聞かされたテツは、チエもくっついていっているに違いないと確信したのである。
根拠も何もない、テツの勘だが、勘とやけくそ、根性だけで生きてきたテツである。その勘は見事に当たっていた。

チエが東京に行っているに違いないと考えたテツは、まず旅費を用意しなければいけない。そこでテツは父親のところに行き、カネをせびった。隣人がその際のテツの野獣のような声を聞いている。

「こらー!おっさん!はよカネ出さんかい!」

「クソババに許可なんているかい!」

「チエのピンチになにせこいこと抜かしとんねん!」

よっぽど警察に通報しようか思うたで…とは隣人がのちに菊に語った言葉である。

しかし菊は焦ってはいなかった。テツ一人で東京まで行けるわけがない。切符の買い方も知らない男なのだ。もちろん、待っていれば帰ってくるとも限らない。それどころか人様に迷惑をかけてでもやりたいことをやり通す息子である。そうなる前に、大阪駅でうろうろしているところを捕獲しよう。それが菊の算段であった。

おじいはん「し、しかし、あいつ、チエの居所が解ったゆうてたけど、東京行って何をどうするねん。近所の商店街に行くんとちゃうねんぞ」

おばあはん「あの男に人間の理屈が通用しますかいな。それに、カネ渡したあんさんにそんなこと言う資格、おまへん」

おじいはん「わ、わしはもっと具体的にチエの居場所が解ってると思ったんや…」

おばあはん「それやとしてもですわ。この前のわたいとの会話、忘れたんですか」

おじいはん「それはその…あのままカネ渡さんと、心臓止まるくらいテツに脅されそうやったから…」

おばあはん「寿命にしがみついて今生に何かまだ期待でもしてますんかいな」

ジュニア『おうおうおう、今日は特に過激やないか、お前とこのおばあはん』

小鉄『そら、まあなあ…』

ジュニア『それより小鉄、テツほんまに東京行くんやろか』

小鉄『うーん、あの男の活動範囲はせいぜいがひょうたん池までやからなあ。一人じゃよう行かんやろ』

ジュニア『そうか、残念やな…。テツについて東京行ったろか思てたのに…』

小鉄『なにゆうとんねん。そんなことしたらまたお前とこのおっさんの、わしへの追求が始まるんやぞ』

ジュニア『愛の捜索と言ってくれ…』

小鉄『アホか…。それより小鉄、わしらもおばあはんについて行くぞ。テツを捕獲する手伝いするんや』

この、菊と小鉄の読みは、大方当たっていた。
しかし、いくつか読み違いもあった。まず、テツはその足で駅に向かうことなく、交番まで出向いたのである。


テツ「ミツルおるかー!」※ミツル→テツの友人。警官。

ミツル「な、なんやねん、テッちゃん、そんな大きな声で…」

テツ「お前の声が小さすぎるんじゃ。そんなことはどうでもええ、ミツル、お前、鉄砲貸せ」

ミツル「あん!?」

テツ「それが無理ならお前も東京まで着いて来い!極悪誘拐犯を撃ち殺させたるぞ!」

ミツル「あ、あのなあテッちゃん…」

テツ「はよ用意せい!」

ミツル「ちょっと落ち着いて、事情を…」

テツ「そんな時間ないんじゃ!もうそろそろジジイがクソババにちくっとる頃なんじゃ!」

もちろん、鉄砲うんぬんは(半分)冗談である。
テツの狙いは「同行者」の確保であった。
菊と小鉄の読みは正しかった。しかし、テツも自分を自分で冷静に把握できるだけの頭はあったのだ。
梅田あたりまで行くならまだしも、東京に行くのはテツとて不安だった。
だからこそ、協力者をあらかじめ確保しようというテツの行動は、菊と小鉄の予想を見事に上回った。

ミツル「だ、だから、なんの話やねん」

百合根「こんなとこで何しとんじゃ、テツ。とうとうお縄を頂戴したか」

テツ「あん?なんや、お好み焼屋のおっさんやんけ。わし今、お前の相手してる場合ちゃうんや」

百合根「さよか…ほなさいなら」

テツ「…ん?お、おい、おっさん」

百合根「ん?」

テツ「お、お前…なんやねんその大荷物。まさかお前も東京行くんやないやろなあ」

百合根「何でわしが東京行かなあかんねん。わし、今からちょっとカオル(息子)に会いに甲子園まで…」

テツ「な、なにー!?」

百合根「ああ…いらんことゆうてしまった。ほなわし行くで」

テツ「ちょ、ちょっと待たんかい、そしたらお前、いや、おじさん、甲子園には何使て行くの?」

百合根「電車に決まっとるやないか」

テツ「お、おじさーん」

百合根「な、なんやねん、気色悪い」

テツ「おじさん、僕と一緒に駅まで行って。ほんで僕のぶんの切符も買うて」

百合根「あん!?な、なんでわしがお前と一緒に甲子園まで行かなあかんねん」

テツ「違う違う、おじさんが買うのは東京までの切符」

百合根「東京??テツ、お前、何言うて…」

テツ「ええからさっさと行くんじゃー!!!」

百合根「うわー!」

テツ「人が気使て敬語まで使てるのに、いつまでも何だらだらしとんねん!カネはわしが出すんじゃ。気持ちよう買ったらんかい」

百合根「な、なんやねん、一体…」

こうしてテツは、東京に行く手段を手に入れた(といっても、出向く方向が反対の百合根に東京行きの切符を買ってもらっただけだが)(いちいち新大阪まで連れて行かれた百合根にはいい迷惑だった)。

ところで、テツを探していたおばあはんと小鉄、ジュニアだが、結局、テツを見つけることが出来なかった。テツは(百合根の後ろで常にブツブツ言ってはいたが)決しておばあはんらが期待したように、騒いで目立つようなことはなかったのである。

そしてそのあと、先ほどのやりとりを不審に思った勤務明けのミツルがおばあはんのもとを訪ねてきた。ミツルもテツのむちゃくちゃには慣れていたが、それでも「鉄砲貸せ」だの「極悪誘拐犯」だのいったことは、さすがに剣呑だと考え、事情を聞きにきたのである。

おばあはん「そ、それで、テツは百合根はんと一緒に駅のほうまで行ったんでっか?」

ミツル「ええ…。それで俺、おばちゃん何か知らんかなーと思って」

おばあはん「はあ…」

ミツル「ど、どないしたんや、おばちゃん」

屋根の上

ジュニア『そういや親父、今日から2日間、息子のとこ行くゆうてたな…』

小鉄『こら!なんでそれを先に言わんねん!』

ジュニア『な、なんでて…』

小鉄『それさえ解ってたら、まだやりようがあったんや!』

ジュニア『なんでやねん。うちとこの親父、縛りつけでもする気だったんかい』

小鉄『あー、あかん、心配や、心配や。そや、この際わしもヒッチハイクかなんかで東京に…』←聞いてない

ジュニア『お前…ほんまチエちゃん絡むとただの猫やな。落ち着かんかい。おまえとこのおばあはんのほうがよっぽど落ち着いとるがな』

おばあはん「まあ、済んだことはしょうがないですな」

おじいはん「済んだことて…」

おばあはん「今回の作戦は失敗ゆうことですわ。最初から成功すればラッキーくらいの気持ちでしたし、テツが向こうでチエ見つけられるとは思えまへんし、
あとはチエが帰ってくるの待つだけですわ」

おじいはん「お前、また、そんな…」

おばあはん「あんさん、チエにちゃんと説明しなはれや」

おじいはん「え!せ、説明て、何をや」

おばあはん「テツにカネ渡したのは自分ゆうことですわ。今回の作戦失敗の主な原因はあんさんてことです」

おじいはん「ま、またお前はそうやって心臓に悪いことを…」

おばあはん「少しは心臓鍛えなはれ」

ミツル「??? どういうことやねん」

東京
夜 旅館

出来杉(父)「先生、先生」

花井「おお、どうぞ」

出来杉(父)「失礼します。お仕事の進み具合はいかがですか?」

花井「うん、はかどっとるよ。やっぱり、たまに枕変えると調子出るのう」

出来杉(父)「解ります」

チエ「はー、疲れた」

花井「おお、チエちゃん、東京一日目はどやった」

チエ「もうクタクタ。うち、お風呂呼ばれてくるわ」

花井「おお、そうせい、ええ湯やで。…出来杉くん、すまんな、送ってもろうて」

出来杉(父)「いえいえ」

花井「それにしてもチエちゃん、ほんまに疲れてたな」

出来杉(父)「まあ、慣れない環境ですしね」

花井「いやいや、あの子はそんなやわな子ちゃうぞ」

出来杉(父)「あはは、テッちゃんの子ですもんね」

花井「野獣の子や…かかか、いかんいかん、こんなことゆうたらチエちゃんに怒られるな。どや、あの頃の思い出を肴に、一杯」

出来杉(父)「光栄ですが…お仕事は大丈夫なんですか?」

花井「こんなもん、わしが終わりや思ったら終わりや。よーし、今日はとことん飲むどー」

大浴場

チエ「はあ…ほんまに疲れたなあ」

チエ「それにしても…ドラえもん…未来から来たロボットて…ほんまやろか」

チエ「でも、不思議な道具、一杯、持ってたしなあ」

チエ「そや、うち、今日から日記つけなあかんのや」

チエ「…書きにくいなあ。東京まで来て、無人島行ったて。でもほんまのことやもんなあ」

チエ「のび太くんは…なんか根性ないように見えるけど、優しい子やったな」

チエ「しずかちゃんは、いかにも女の子、って感じ」

チエ「出来杉くんは賢いけど、ちっとも偉ぶらん。マサルとは大違いや」

チエ「…」

チエ「テツ、何しとるやろ…」

チエ「…」

チエ「はっ、あかんあかん、テツのことなんて考えたらあかん。そうやねん、今までうちはテツを甘やかし過ぎたんや。うちはとりあえず…」

チエ「とりあえず、なんやろう…?」

チエ「…」

花井『チエちゃんは、テツの何を信じてるんや』

チエ「そんなん、解らんわ。考えたこともない…」

チエ「信じるって…なんや口に出したら違うもんになるんとちゃうやろか…」

チエ「…あかん、のぼせてきた。あがろあがろ、テツのこと考えてのぼせるなんてアホらしすぎるわ」ザバー

翌日

出来杉「おはようございまーす」

花井「おお、おはようさん。すまんのう、迎えに来てもろうて」

出来杉「いえいえ」

チエ「うち、多分、明日から一人で電車乗れるで」

出来杉「本当に?でも、迷子になったら怖いなあ」

チエ「出来杉くんも一人で電車乗ってるやん。平気よ」

花井「かっかっか。大丈夫や英才くん。チエちゃんは迷子になんかなるような子とちゃうからなあ」

出来杉「解りました。じゃあ、とりあえず、行こうか、チエちゃん」

チエ「うん、そやね。そしたらおっちゃん、行ってくるわ」

花井「おお、楽しんどいで」

電車内

チエ「今日も無人島行くんやろ?」

出来杉「そのつもりだと思うけど…、チエちゃんの好きなようにしてもいいよ。観光とかもしたいんじゃない?」

チエ「観光…うち、その…いつでもええねんけど、東京タワー行きたいねん」

出来杉「東京タワー?いいとも。じゃあ、のび太くんたちも誘おうよ。とりあえず、のび太くんちに向かおう」

チエ「うん」

出来杉「そういえば、チエちゃんのお父さんってさ」

チエ「あん!?」

出来杉「え、あ、ごめん、藪から棒に」

チエ「い、いや、別にええんやけど、急やったから…で、ウチのお父はんが…なに?」

出来杉「ん、チエちゃんが東京に来るって聞いてから、僕のパパがずっとチエちゃんのお父さんの話をしてるんだ。とてもいい友人だったって…」

チエ「ほ、ほんまかなあ…」

出来杉「だから、どんな人なんだろうなって」

チエ「ど、どんな人って…。ええと…」

出来杉「お仕事はなにをしてるの?」

チエ「え!!」ドキッ

出来杉「…!(もしかして、聞いちゃいけないことを聞いたかも知れない)」

チエ「え、ええと…」

出来杉「…まあ、お父さんがどんな仕事してるのかって、よく解らないよね。僕も、パパがどんな仕事してるのか、よく解らないし」

チエ「へ、へえ、そうなんや。でも、出来杉くんのお父さんは、その、めっちゃ優しいと思う…」

出来杉「え?」

チエ「東京駅に迎えに来てくれたし、昨日もウチのこと、宿まで送ってくれたし」

出来杉「東京駅はパパが通勤で使う駅だし、宿だって近いんだから、大したことないよ」

チエ「そ、そう…」

出来杉「…」

チエ「…」

出来杉「(しまったな…話題を間違えたかも…)」

チエ「(なんやねん、皆して、テツテツって…。ウチ、テツのことなんて忘れたいねん)」


さて、その頃、当のテツは…

駅員「ちょっと、ちょっと、あなた!」

テツ「ぐーぐー」

駅員「参ったな…、ちょっと!ここで寝られたら困るんですけど!」

東京駅の中で寝ていた。

野比家

のび太「あーあ、暇だなあ」

のび太「ドラえもんはミイちゃんとデートに出かけちゃったし」

のび太「チエちゃんたち、早くこないかなあ」

ピーンポーン

のび太「あ、きた!」

のび太「はーい」ドタドタ

ガチャ
ジャイアン「おう、のび太、迎えに来てやったぞ」

のび太「ひっ、ジャ、ジャイアン!」

ジャイアン「なんだその態度は。せっかく俺様が迎えに来てやったのによ!」

スネ夫「あ、ジャイアン、きっとのび太のやつ、忘れてるよ!」

ジャイアン「なにー!?おい、のび太、この野郎!」

のび太「え!?」

ジャイアン「今日は野球の練習だっつったろーが!俺様がばしばししごいてやるから覚悟しろよ!」

のび太「え?…あ!」

スネ夫「あーあ、本当に忘れてたんだね。こりゃあ、罰として、ノック100本は受けなきゃ」

ジャイアン「ばーか、そんな甘いわけねーだろ。ノック500本だ」

のび太「そ、そんなー」

空き地
のび太「ひい、ひい、ひい」

ジャイアン「おらー、のび太、まだ10本もノックしてないぞ!」

のび太「そ、そんなこと言ったって…はあ、はあ」

ジャイアン「そら、いくぞ、おら!」カキン!

のび太「わ、わー!」アタマカカエー

ジャイアン「このやろうのび太、よけてどうすんだよ!」

のび太「あばばばば」

ジャイアン「次、いくぞー!」

のび太「ま、待って…」

ジャイアン「おら!」カキン!

のび太「あいたっ」ボスッ

ジャイアン「次ー!」カキン!

のび太「あう!」ボスッ

チエ「なにしとんねん、あんたー!」ダダダダ!

ジャイアン「ああん!?」

チエ「のび太くん、大丈夫!?」

出来杉「野比くん、大丈夫?」

のび太「チ、チエちゃん…出来杉くん…」

ジャイアン「なんだ、この女」

ここまで来てなんなんですが、のび太って出来杉のこと「くん」付けしないんですよね。

今回は「くん」付け統一ということでなにとぞ。

チエ「あんたそれはなんやねん」

ジャイアン「ああ!?」

チエ「その手に持ってるのは何かって聞いてんねん!」

ジャイアン「何って、バットだよ、見りゃ解んだろ!」

チエ「バットだよて…。そんなもん持たんと喧嘩も出来ひんのか、あんた」

ジャイアン「ああ!?なんだ、お前。別に喧嘩してるわけじゃねえよ、これは特訓だ」

チエ「特訓て…どこがやねん。どこからどう見てもいじめやんか」

ジャイアン「いじめだと!?おう、のび太、なんだこの女は」

チエ「ウチはのび太くんの友達や!」

ジャイアン「友達ぃ?」

チエ「…」

ジャイアン「…ようし、わかった」

チエ「…なにがやねん」

ジャイアン「お前がのび太の友達だってんなら、のび太の代わりにノックを受けろ」

のび太「ええ!?」

チエ「…」

ジャイアン「別に俺はのび太のこといじめたくてこんなことしてた訳じゃねえ。こいつが今日の約束を忘れてたから、その落とし前つけさせてただけだ。それがかわいそうだっつうんなら、お前が代わりにノック受けろ。友達なんだろ?」

出来杉「ご、剛田くん、女の子にそんな…」

チエ「…解った」

出来杉「チ、チエちゃん」

チエ「のび太くん、グローブ貸して」

のび太「え?…あ」

スネ夫「ジャイアン、見なよ、あの子。下駄履いてるよ、ぷぷぷ。多分、超がつくくらい貧乏なんだよ」

ジャイアン「…」ギロリ

スネ夫「…ええと、うん、貧乏は、関係、ないよね、あはは」

ジャイアン「おい、お前」

チエ「なんや」

ジャイアン「そんな足元で俺のノック受ける気かよ」

チエ「関係ない。ウチはこれで充分や」

ジャイアン「そうかよ。あとで泣き言言っても知らねえぞ」

チエ「言うか!」




ジャイアン「はあ、はあ、はあ」

チエ「はあ、はあ」

ジャイアン「はあ、はあ、よんひゃくきゅーじゅう、はち!」カキーン

チエ「はあっ」バシッ

スネ夫「す、すごいぞあの子。ジャイアンの地獄のノックを…」

のび太「…」

ジャイアン「よんひゃくきゅーじゅう、きゅう!」カキーン

チエ「やあっ!」バシッ

ジャイアン「最後だ…、ごひゃくー!」カキーン

チエ「だああっ」バシッ

ジャイアン「はあ、はあ、はあ、やるじゃねえか」

チエ「はあ、はあ、…ああ、しんど。ちょっと座ろ」

ジャイアン「おい、のび太」

のび太「…え?」

ジャイアン「お前、なかなか根性あるやつと友達になってるじゃねえか」

のび太「…え、あ、うん」

ジャイアン「よう、お前、名前なんて言うんだよ」

チエ「…竹元チエや」

ジャイアン「竹元か。俺は剛田たけしだ」

チエ「ジャイアンゆうのはあだ名か」

ジャイアン「え?ああ」

チエ「ウチもそう呼ぼ。ぴったりのあだ名や」

ジャイアン「…へっ」ニヤリ

スネ夫「な、なんだか、不良同士が命がけの喧嘩をしたあとに友情が芽生えるシーンみたいに…」

出来杉「ははは。…それにしてもチエちゃん、本当にすごいなあ」

のび太「…」

のび太「(情けない…)」

のび太「(もとはと言えば、僕のせいなのに)」

のび太「(全部チエちゃんに助けてもらって)」

のび太「(チエちゃん、女の子なのに…)」

のび太「(あんなにボロボロになるまで僕の代わりに…)」

のび太「(なのに、僕は、見てるだけで…)」

のび太「(なんなんだ…)」

のび太「なんで僕はこんなに格好悪いんだ…)」

のび太「(なんで…)」

東京駅
出来杉(父)「あ、部長ですか、お疲れ様です、出来杉です」

出来杉(父)「先方との打ち合わせ終わりまして、はい、今、東京駅でして。今から帰社しようかと…」

出来杉(父)「え?ああ、はい。そうですか。でもまだ…はい、ええ、解りました、ありがとうございます。そうしたら今日は直帰させていただきます。はい。いえ、はい、お疲れ様です」ガチャン

出来杉(父)「ふう。まだ夕方だけど…まあ、いいか」

出来杉(父)「ん?」


駅員「だからー、そういう人探しは警察に言ってもらわないと」

テツ「なんでじゃー!なんでわしがポリコの世話になるんじゃー!」

駅員「いや、そういうことじゃなくてですね

テツ「わしの娘と誘拐犯をここまで運んできたのはお前らやんけ!ポリコの世話になるのはお前らじゃ!高いカネとって犯罪者の手助けしやがって!」

駅員「め、めちゃくちゃだ、この人」

駅員2「もういいよ、警察呼んじゃおうぜ」

出来杉(父)「あれ…もしかして…」

テツ「もうええ!解った!ポリコでもなんでも連れてきたらんかい!くそー、こんなときにミツルおったらこいつら逮捕させたるのに…」

出来杉(父)「テッちゃん?」

テツ「あん?」

出来杉(父)「やっぱりそうだ…。花井先生に一度、大人になってからのテッちゃんの写真を見せてもらったことがあるし…」

テツ「なんやねんお前。わし、東京もんに知り合いなんておらんど」

出来杉(父)「覚えてないかな…あの、僕、中学校のときに1年だけテッちゃんんと同じクラスだった出来杉なんだけど…」

テツ「…あー!!!!お前、デキクソやないか!」

駅員、駅員2「」ズルッ

出来杉「デキクソ…!ははは、そう呼ばれるの、久しぶり」

駅員「ど、どうでもいいんですけど、知り合いならその人ひきとってもらえます?」

駅員2「まじめいわく」

テツ「なんやとお前らー!!」

駅員、駅員2「わー!!!」ダーッ

のろのろ更新でごめんなさい。

また少し、間があきます。

デキクソて。

出来杉父の独白、思い出

親の都合とはいえ、東京から離れるのは本当に嫌だった。しかも行き先は大阪だという。大阪なんて野蛮な街というイメージしかなかったし、気持ちはどんどん沈み、私たち一家が住むことになる西荻の駅に降り立ったときにはもう私はその場によろよろとへたりこみそうになった。それは……その頃の私の語彙にはなかったが、そこがドヤ街だったからだ。

こんなところに住むの? 私は力なくそう、父親に呟いた気がする。父親は大きな手で私の頭を力強く撫で、東京だって10年前はどこもこんな感じだったさと笑った。

花井「おお、君が出来杉くんか。ワシが君の担任の花井や。困ったことがあったら何でも言うてくれよ」

新しい中学も最悪だった。花井という教師はまるで教師らしくなく、ヤクザのような言葉を使うし、クラスメイトも東京では見たこともないような目つきの悪さ。何より訳の解らない関西弁を聞くのは本当に苦痛だった。

花井「今日からうちのクラスメイトになる、出来杉くんや。皆、仲良くしたってくれ」

出来杉「…よろしくお願いします」

うまく行けば1年後には東京に戻れるはずだ。父のその言葉だけが希望だった。

??「おい、出来杉」

出来杉「(1年だけだ)」

??「こら、出来杉」

出来杉「(1年だけ我慢すれば、東京に帰れるんだ)」

??「……」

出来杉「(それまでは出来るだけひっそりと…)」

??「こらー!!デキクソー!!!」

出来杉「うわー!!」

??「お前さっきから何無視しとんじゃこら、ええ度胸やんけ」

それが竹元テツ……テッちゃんとの出会いだった。

竹元テツは東京から来た私が珍しいのか、ことあるごとにちょっかいをかけてきた。

テツ「おいデキクソ、お前、東京で力道山見たことあるか?」

出来杉「…ないよ。それと、デキクソって呼ぶのやめてくれないかな」

テツ「なんや、もっとええあだ名つけて欲しいんか」

出来杉「いや、そうじゃなくて、僕の名前は出来杉だから」

テツ「なにぬかす。東京おって力道山も見たことないようなやつはみんなクソじゃ」

出来杉「なんだよそれ」

テツ「くそー、わしが東京おったら弟子入りするんやけどなあ」

竹元テツ……テッちゃんは、野蛮な大阪を象徴するような人物に私には思えた。話しかけられるたびに、私の中の何かが汚れていくような気がした。しかし、頼むから話しかけないでくれというほどの勇気も、私にはないのだった。


「デキクソ、一緒に帰ろうや」

出来杉「…あ、今日は寄りたいところがあるから」


「デキクソくん、ここのこれ、教えてくれへん?」

出来杉「…僕に聞くより、先生に聞いたほうがいいよ」


「なんやねんあいつ」

「転校生と仲良くしたろゆう俺らの気持ちが解らんのか」

「東京もんやいうて、すかしとるな」

「いっぺん解らせたらなあかんのとちゃうか」

「なあ、テッちゃん。一回、しめたろうや」

テツ「…しょうもないことゆうな」

「あん!?」

テツ「わし、別にあいつのこと好きでもなんでもないけど、いきってもないようなやつ殴っても、なんもおもろないやんけ」

「テッちゃんがやらんでも、俺らがやるで」

「ああ、あいつ、俺らのこと絶対馬鹿にしくさっとんねん」

私は、校舎裏に集まっている、クラスの中でもとりわけ柄の悪い男達のこの話し合いを偶然聞いてしまった。自分のことを言っているのだとすぐに解った。

テツ「しょうもないことゆうな、ゆうとんねん」

出来杉「!!」

「で、でも、テッちゃん」

テツ「でももクソもあるかい。お前ら、あんな青瓢箪みたいなんと勝負して何がおもろいねん」

出来杉「(あ、青瓢箪…)」

テツ「とにかく…あいつにいらんことするやつおったら、わし、許さんど」

出来杉「…」


テッちゃんは喧嘩が好きだったけれど、弱いものには手を出さなかった。でも、そんなことは当たり前で、喧嘩が好き、という点でもう、私にとっては軽蔑する対象であった。そんな竹元テツにかばわれたからといって、それが私に感慨を覚えさせることは全くなかった。

現在
喫茶店

出来杉(父)「嬉しいなあ、テッちゃんに会えるなんて」

テツ「…デキクソ、わしもお前に会えたのは嬉しいけど、くつろいどる場合とちゃうねん」

出来杉(父)「でも変だなあ、花井先生はこっち来るのは先生とチエちゃんだけって言ってたけど」←メニュー見ながら

テツ「あん!?」

出来杉(父)「別件でこっちに何か用があったの?」

テツ「(やっぱりそうや…花井のクソ、チエとこっちに来とるやんけ…。そしたらデキクソは共犯かい。このアホンダラの恩知らずが…ここは一発どついて…)」

テツ「(待て。待て待て待て。こいつどついて花井でも呼ばれたら面倒や…。ここは慎重に…)」

出来杉(父)「テッちゃん?」

テツ「それは、その…わし…チエに…その…」

出来杉(父)「うん」

テツ「内緒で来て…その…」

出来杉(父)「内緒?」

テツ「そやねん。チエ、わしに会いたくてホームシックになっとんちゃうか思てな。内緒で会いに来たってん」

出来杉(父)「へえ!そうなんだ。今、チエちゃんは英才…僕の息子と遊びに出かけてると思うんだけど…そうだ、そういうことならテッちゃん、僕の家で待ってなよ。夜ご飯を皆で食べようよ」

テツ「…そう?そこまで言われたらわし、断れないなあ。人が良いから」

テツ「(…むはは、やった)」

出来杉(父)「そうだ、花井先生も呼んで…」

テツ「あん!?」

出来杉「え?」

テツ「い、いや、花井…センセは呼ばんでもええんちゃうかなあ」

出来杉(父)「どうして?」

テツ「それは…」

テツ「…」

テツ「ん?」

テツ「お前の息子と一緒にて…そしたらチエはお前んとこに世話になっとんかい」

出来杉(父)「いやいや、そういうわけじゃなく、先生とチエちゃんは温泉旅館に…」

テツ「温泉旅館!?」

テツ「(なんやあのおっさん、このくそ暑いのにわざわざ東京くんだりまで来て温泉て…。ま、まさか…)」

テツ「お、おい、デキクソ、その温泉ゆうのは身体に良いとかそんなんか?」

出来杉(父)「え?そりゃ、まあ、そうだろうね…」

テツ「(待て。待て待て待て)」

テツ「(そしたら花井、実は死にかけとんちゃうか。そらそうや。あのおっさん、ワシがガキの頃からおっさんや。それでなくてもこの暑さや。もうそろそろくたばってもおかしない。それでカイフクするためにわざわざ東京くんだりまで来て温泉に泊まっとんねん)」

出来杉(父)「確か、心臓に良いみたいな効能だった気が…」

テツ「心臓!!!」

テツ「(決まりや…。あのおっさん、くたばりかけとる…)」フヒヒ

テツ「…あかん!!」

出来杉(父)「え!?」

テツ「(こんなとこでのんびりしとったらあのおっさん蘇りやがる!そうなる前にトドメささんと…)おいデキクソ、花井が泊まってる宿はどこや!」

出来杉(父)「…え?」

旅館近くの道

花井「はあ…旅館ゆうとこは次から次へとメシ食わせてきてたまらんなあ…。少しは散歩でもして体動かさんと、ワシ、大阪帰る頃には糖尿病になるんとちゃうか…」

花井「…ん!?」カクレッ

花井が隠れた木の側をテツが爆走する。

テツ「むはははー!大チャンスや大チャンスや!くそー、まっとれよクソジジイ!わしがあの世への切符、もぎりまくったるからなー!」ダダダダ!

花井「テ、テツが何でこんなとこにおんねん…!ま、まさか出来杉くんが…いや、そんなわけあれへんな。しかし大チャンスとは、あいつまた何か勘違いしとるな」

花井「…まあええ。来てしもうたもんはしゃあない。よっしゃ、散歩にも飽きてきた頃や。テツと遊んで運動したろ」

旅館
女将「花井先生ですか?はあ、それなら長寿の間にご滞在中でございます」

テツ「ちょ、長寿やとお?な、なんちゅうゲンクソの悪い部屋に泊めとんねん!」

女将「はい?」

テツ「(いや、違うな…あのジジイ、そうやって、部屋の名前にも頼らなあかんくらい弱っとんねん…)」フヒ、フヒヒ

女将「あのお?」

テツ「それで、花井はどれくらい弱っとんねん」

女将「はい?」

テツ「そうやな…あいつが温泉に入ったところで十字固め決めてのぼせまくらせるか…もしくは弱りきって布団に入ってるところを上から押さえつけたるゆうのも…」

女将「あ、せんせ…」

花井「(シーッ)」ソローッ

テツ「もしくは湯を水と替えといて心臓麻痺起こさすゆうのも…」

花井「この…あほたれー!」パカーン!

テツ「きゃいん!」

花井「何を!考えて!お前は!こんなとこまで!のこのこ、来とんじゃー!」パカーン!パカーン!パカーン!パカーン!パカーン!

テツ「びゃあ!」

女将「あ、先生、そんな下駄で叩くなんて…」

花井「大丈夫や。こいつの場合、心配せなあかんのはむしろ下駄のほうや」

テツ「ほがー」バタン

東京タワー

チエ「うわー、やっぱり大きいなあ」

スネ夫ママ「じゃあ、スネちゃま、2時間後に迎えに来るから、ちゃんとここで待ってるざますよ」

スネ夫「うん、ママ」

しずかちゃん「送ってくださってありがとうございました」

ジャイ出来杉チエ「ありがとうございましたー」

スネ夫ママ「いいえ、スネちゃまをよろしくね」



ジャイアン「あちーな。おいスネ夫、アイス買おうぜ」

スネ夫「え、いいけど、そのお金は」

ジャイアン「お前、金もらってたじゃねえか。ほら行くぞ」

スネ夫「いや、あれは東京タワーに登るための…、あ、待ってよジャイアンー」

チエ「(あのスネ夫ゆうのは、マサルと腰ぎんちゃくが混ざったような性格やな…)」

のび太「…」

チエ「…?」

チエ「のび太くん、どないしたの?」

のび太「え?」

チエ「何か元気ないやんか」

のび太「…ううん、なんでもないよ」

チエ「…そう?」

旅館

花井「で? お前は一体、何しにこんなところまで来たんや」

テツ「やかましわい、この誘拐犯。頭の形変わるくらいどつきやがって」

出来杉(父)「ゆ、誘拐犯!?」←テツを追いかけてきた

テツ「保護者の同意も得ずに人の娘こんなところまで連れてきやがって。立派な犯罪者じゃ」

花井「いっぺん保護者らしくしてからほざかんかい。それにヨシ江はんの許可は得とる」

テツ「なにー!? あ、あのクソガキ、そんなことワシに一言も…」

花井「当たり前や。お前に知られたら何もかもパーになるからや」

テツ「なんやとお!!」

花井「おい、テツ、お前、チエちゃんからの置き手紙読んだやろ」

テツ「あー!!やっぱりあれ、お前らの入れ知恵かい!」

花井「人聞きの悪いこと言うな。それよりテツ、お前、チエちゃんからの手紙読んだんやろが」

テツ「あん?」

花井「あれ読んでお前どう思ったんや。何を思って東京まで追いかけて来たんや」

テツ「何がじゃ。あの手紙もお前が書かせたんやろうが」

花井「あれは正真正銘、チエちゃんの気持ちや。お父はんとお母はんとあの店をやって行きたいゆうチエちゃんの気持ち、お前も知らんはずがないやろ」

テツ「…」

出来杉(父)「テッちゃん…」

テツ「チエはいつ帰ってくるんや…」

花井「大体、夕飯前くらいやな」

テツ「…」スタスタ

花井「こらっ、どこへ行くんや」

テツ「散歩じゃ」

花井「…まったく」

ここにセメダインがあるじゃろ?
( ^ω^)
⊃セメダイン⊂

これをこうして…
( ^ω^)
≡⊃⊂≡

( ^ω^)
  ⊃⊂

( ・ω・ )
⊃⊂

(´・ω・`)
 ⊃⊂

>>186
かわいい

東京タワー

チエ「そ、そやけど、ものすごい人の数やなあ…」

出来杉「去年、水族館がオープンしたからね。それもあるんだと思うよ」

チエ「へえ…水族館」

しずかちゃん「行ってみる?」

チエ「うーん、でも、人、多そうやからなあ…。とりあえず先に登ろうかな」

のび太「…」

チエ「…なあ、しずかちゃん」

しずか「なあに?」

チエ「なんかのび太くん、元気ないことない?」

しずか「うーん?」

のび太「…」

しずか「確かに…なんだか…。ねえ、のび太さん」

のび太「…ん?」

しずか「なにかあった…?」

のび太「ううん、何もないよ」

しずか「そう…?今日、ドラちゃんもいないし、喧嘩とかしたのかなあと思って」

チエ「あ、そういえば今日はドラえもんはどうしたの?」

のび太「今日はミィちゃんとデートだって…」

チエ「デ、デート!」

しずか「喧嘩したわけじゃないのね?でも、本当、のび太さん、元気がないみたい…」

のび太「う、うん…。夏バテかなあ?今日はもう帰ろうかなあ」

しずか「え?」

チエ「大丈夫?」

のび太「うん。少し家で休めば良くなると思うよ」ニコリ

ジャイアン「おう、のび太。アイスうめーぞ。欲しいか?がはは、自分で買ってくるんだな」バクバク

スネ夫「へへへ」

チエ「…ほっとこ、ほっとこ、のび太くん、駅まで送ろうか?」

のび太「ん?大丈夫、大丈夫」

ジャイアン「あん?なんだ、どうかしたのか、のび太」

しずか「体調が悪いみたいなの」

ジャイアン「体調? そんなふうには見えねえけどな。アイス食うか?」

のび太「ううん、大丈夫」

チエ「何で体調悪いゆうてる子につべたいもん食べさすねん…」



テツ「ブツブツブツブツ…」

子供「ママー」

母親「しっ! 指差しちゃいけません」

テツ「な、なんちゅう失礼なやつや。ワシ、歩いてるだけやんけ」

テツ「しかし…」

テツ「なんもない町やのう。お好み焼屋もうどん屋もないやんけ」

テツ「ヤクザも歩いてへんし、こんな町でチエは何して遊ぶねん」

テツ「チエ…」

テツ「…」

テツ「…!!!」

ドラえもん「もう、ミィちゃんたら『離れたくない』だなんて、うふふふ」

ミィちゃん「ニャーニャー」

テツ「おい…おいおいおい」

テツ「な、なんやあのバケモン」

テツ「青い…タヌキか?」ソーッ

ドラえもん「そうだね、今度は海のほうに遊びに行ってみようね」デレデレ

ミィちゃん「ニャーニャー」

テツ「(しゃ、喋ってる…!)」

テツ「み、見つけた…」

テツ「ついに見つけた…。カネの成る木や…!珍獣や!」

ドラえもん「でも、もうそろそろ僕も行かなきゃ」

ミィちゃん「ニャーニャー」

ドラえもん「うん、ミィちゃんも気をつけてね」

ミィちゃん「ニャーニャー」

ドラえもん「うふふ、またねー」バイバーイ

テツ「(どういう生き物や、あれは…)」

ドラえもん「さて、僕も帰ろう」テクテク

テツ「……」ソーッ

ドラえもん「ん?」

テツ「どりゃー!!」パカーン!

ドラえもん「はらひれほろはれー」バタン

テツ「やった…やったった…!あとはこいつをペットショップに…」キョロキョロ

テツ「…あかん。ペットショップの場所解らんがな。いや、待てよ…ここ来るときに見たような…」

ドラえもん「きゅー」

テツ「こいつ、重そうやなあ…。…っよ、と、と、と、なんじゃこいつ、めちゃくちゃ重いやんけー!くそー!覚えとけよお前!ひゃくまん以上で売れへんかったら海に沈めたるからなー!」

東京 野比家

のび太「ただいまー」

たま子「あら、のびちゃん。もう帰ってきたの?」

のび太「うん、ちょっと疲れちゃって」

たま子「あらま。大丈夫?」

のび太「うん、大丈夫」

たま子「ならいいんだけど…。そうそう、ドラちゃん見てない?」

のび太「ドラえもん?デートじゃないの?」

たま子「お買い物についてきてもらう約束してたのにまだ帰ってこないのよねえ…」

のび太「何時に約束してたの?」

たま子「3時なんだけど…」

のび太「もう4時じゃない」

たま子「そうなのよ…」

のび太「どうしたんだろ…」

大阪

おじいはん「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ」タッタッタ

ミツル「あれ、おっちゃん、そんな急いでどないしたんや」

おじいはん「ちょ、ちょっと…」タッタッタ

ミツル「…ちょっとなんやねん」

ホルモン屋チエちゃん

おばあはん「テツが見つかったー!?」

おじいはん「はあ、はあ、はあ、そうやねん」

おばあはん「あの男、まさか警察沙汰にでもなったんでっか」

おじいはん「違う、違う。花井センセから電話があったんや」

おばあはん「え!?そしたらテツ、向こうでセンセとチエ、見つけましたんかいな!?」

おじいはん「そ、そうみたいやな」

おばあはん「なんとまあ…なんちゅう悪運のある男でっしゃろ」

小鉄『人智を超越してるなあ…』

ジュニア『とゆうかケモノや、あれは』

おばあはん「そ、それでテツはどうしてますねん?」

おじいはん「とりあえず心配はいらんゆうことやけど…」

おばあはん「…とりあえずて、どうゆうことですねん」

おじいはん「いや、センセが電話してきたんは渉はんのとこやねん」
※渉=花井の息子・チエの担任

おばあはん「そうでっしゃろな。うちとこ電話なんか置いてまへんからな」

おじいはん「そう…それで、花井センセが渉はんに電話で事情伝えて、それをワシが又聞きしとるから、なんやいまいち要領を得んでなあ…」

おばあはん「はああ…。要領得んのはあんさんの頭ですがな。こんな重要なことを曖昧なままにしておいて、ようもまあ、そんな顔して生きてますなあ」

おじいはん「その、それは、ワシ…一刻も早くお前に伝えなあかん思て…」

おばあはん「一番知りたいことが伝わってきまへんがな。ま、よろし。わたいが渉はんとこ、ひとっ走り、行ってきまひょ」タタタ

ジュニア『おい、小鉄。俺らも行くか。やっと物語が再開した感じがするがな』

小鉄『そうゆうメタ発言は感心せんなあ…』

小鉄『ん?』

ジュニア『どないしたんや』

小鉄『いや、おじいはんが』

ジュニア『あん?』

おじいはん「…テツかてチエが心配でわざわざ東京まで行ったんやないか。なんで誰もそこを評価したらんのや…」

ジュニア『あんなこと言うてまっせ』

小鉄『…あれも一つの父親の愛なんやろ』

ジュニア『愛は身を滅ぼすゆう、一番の見本やな』

野比家

のび太「…」

のび太「…」

タダイマー

のび太「!!」ガバッ

のび太「お帰りなさーい」バタバタ

たま子「ただいま」

のび太「なんだ、ママか…」

たま子「なんだとは何よ!」

のび太「ごめんなさい…」

たま子「ドラちゃんはまだ帰ってこないの?」

のび太「うん…。どうしちゃったんだろう」

たま子「とりあえず晩ご飯作っちゃうわね。待ってれば帰ってくるわよ」

のび太「うん…」

テツ「ぶつぶつぶつぶつ」

ドラえもん「…」

テツ「ぶつぶつぶつぶつ」

ドラえもん「あのう…」

テツ「…」ギロリ

ドラえもん「なんか…すいません」

テツ「すいませんやあるかいお前。ワシがどんだけ苦労してペットショップまで運んだ思うとるんや。無敵のテッちゃんの腰が痛なっとるがな。どんだけ重いねん、お前」

ドラえもん「はあ」

テツ「挙句の果てに、こんな得体の知れんもん買えんとまで言われたんやぞ。お前、悔しくないんかい。なんやったら今からあそこ戻って喧嘩してきてもええんやぞ。ワシ、加勢したるがな」

ドラえもん「いやあ、僕は喧嘩とかは…」

テツ「ちっ、根性なしが。あるのは体重だけやないかい。少しはダイエットせんかい」

ドラえもん「すいません…」

テツ「それで君はいつまで僕についてくるの」

ドラえもん「そんなこと言われても…。ここはどこですか?」

テツ「知らんがな。どこぞにでも行かんかい」

ドラえもん「うーん…」

テツ「記憶喪失なんて、高等なもんにかかりやがって。そもそもお前、なんやねん。どうゆう生き物やねん」

ドラえもん「それが僕にも解らないんですよねえ」

テツ「どう考えても珍獣やないか。これが買えへんて、どうゆう了見やねん…」

久々すぎてトリ間違えてました。

ちょっとだけ続き書きます。

のび太「ごちそうさま…」

たま子「はい、おそまつさま」

パパ「それにしても、ドラえもんはまだ帰ってこないのかい?」

たま子「ええ、そうなのよ。どうしちゃったのかしら…」

のび太「…」

たま子「のびちゃん、心当たり、ないの?」

のび太「うん…」

旅館

チエ「テ、テツが来てるー!!?」

花井「そうやねん、あのアホ、もう来てしもうたもんはしゃあないのに、チエちゃんの顔見る勇気もないねん」

チエ「勇気もないて…。テツ、今、どこにおんの?」

花井「さあなあ…。散歩行くゆうてたけど」

チエ「…」

花井「チエちゃん、心配か」

チエ「え!? 心配て、なんでウチが…ウチ…心配ゆうか…」

花井「(働いてほしいゆうて家出の真似事したのに、その父親がのこのここんなとこまでやってきたら、そらやりきれんやろなあ…)」

花井「(ほんまにあの男だけは…)」

花井「(どこで油を売っとんねん。散歩なんかより先にすることがあるやろうが)」



ドラえもん「あのう…」

テツ「なんじゃい」

ドラえもん「どこに向かってるんですか?」

テツ「ポリコんとこや。どこあるか解らんから勘で歩いてるけどな。ペットショップが引き取ってくれへんねん。ポリコにお前引き取ってもらうしかないやろがい」

ドラえもん「ポ、ポリコ…」

テツ「何や不満なんかい。海に沈めたってもええんやど」

ドラえもん「ぼ、暴力的な人だなあ…」

テツ「まったく…わしタヌキのバケモンの面倒見とる暇なんかほんまはあれへんのやぞ…チエになんて言うか考えなあかんのに…」ブツブツ

ドラえもん「タヌキ…?」

テツ「…あん? なんや?」

ドラえもん「いや、何だかこう、思い出せそうな気がしてきて」

テツ「…お、おい、お前、…実はほんまに人間に殺されたことを恨んで出てきたタヌキのバケモンとちゃうやろなあ!」

ドラえもん「うーーー」

テツ「な、何を唸っとんねん。ワ、ワシ、タヌキに悪さなんかしたことないど。呪い殺すんならマサルみたいにインケンな奴を呪い殺さんかい!」

ドラえもん「ぐ、ぐぐぐぐ…」

テツ「な、なんやこいつ…何を睨んどんねん。お、お前、ほ、ほんまにワシはタヌキには何の恨みも…」

ドラえもん「違う…タヌキじゃ…うううう」

テツ「(あ、あかん、よく考えたらこんなバケモンと仲良しこよしで歩いてること自体が間違いやった)」

テツ「(ワ、ワシ、ヤクザなら何も怖いことないけど、バケモンと戦うのは…)」

テツ「ん!?」

テツ「あ! そうや! おいバケモン! ちょっとついてこい! 呪い殺すにぴったりの、極悪犯罪者のところに連れてったる! こっちや!」タタタ…

ドラえもん「うー、うー」タタタ…

旅館

花井「出来杉くん、今日はもうええよ。奥さんも心配しとるやろ。帰り」

出来杉(父)「はあ…」

チエ「…」

花井「なあ、出来杉くん。何らかの責任を感じてるんやとしたら、お門違いやで」

出来杉(父)「いや、しかし、知らなかったとはいえ、私は余計なことを…」

チエ「ううん、おっちゃんのせいちゃう。こういうのは誰のせいでもないねん」

出来杉(父)「チエちゃん…」

キャー オラオラ、ドカンカイ! ヘタニジャマシタラノロワレルド! キャー バタバタ

花井「ん? なんや、えらい騒がしいのう」

チエ「(あ、あの声は…)」

ガラガラ!
テツ「おらおらー! おっさん、今日が年貢の納め時じゃー! こちらにおわすはタヌキ大明神…! う、うわー! チエ!」

チエ「あー!」

テツ「ち、違うねん、チエ、これは…」

チエ「なんでテツとドラえもんが一緒におんねん!!」

テツ「あん!?」

テツ「ど、ドラえもんて、このタヌキの名前かい」

ドラえもん「…ドラ…え…もん」ピピピピピピ

ドラえもん「……!!!」カシャカシャカシャン!

ドラえもん「僕は…」

テツ「あん?」

ドラえもん「僕は22世紀から来た猫型ロボット、ドラえもん! タヌキじゃなーーーい!!!」

テツ「う、うわー!!!」

チエ「なんでテツとドラえもんが一緒におんねん!!」

テツ「あん!?」

テツ「ど、ドラえもんて、このタヌキの名前かい」

ドラえもん「…ドラ…え…もん」ピピピピピピ

ドラえもん「……!!!」カシャカシャカシャン!

ドラえもん「僕は…」

テツ「あん?」

ドラえもん「僕は22世紀から来た猫型ロボット、ドラえもん! タヌキじゃなーーーい!!!」

テツ「う、うわー!!!」





花井「しっかし……ケッタイやのう。未来からきたロボットとは…」

チエ「うん。ウチも最初は信じられへんかったけど、おっちゃんもドラえもんの不思議な道具見たら信じるようになると思うで」

花井「ほう。そらぜひ見てみたい。しかし、今はそんなことより…おい、テツ!」

テツ「!!」ドキッ

花井「お前、どっちゃ向いとんねん。こっち向いて皆の輪の中に入らんかい」

チエ「輪の中て…」

テツ「な、何でワシがそんなケッタクソの悪い中に入らなあかんのじゃ。バケモンに犯罪者に家出少女…まともなもんが一人もおらんやないかい」

ドラえもん「バケモン?」ムッ

花井「まともじゃないもんの親玉がなにぬかしとんねん」

チエ「…テツ」

テツ「!!」ドキッ

テツ「な、なんじゃい」

チエ「ウチの手紙、読んだんか」

テツ「な、何が手紙じゃ、あんなもん」

チエ「ウチ、別に東京までただ遊びにきただけちゃうねんで」

テツ「…」

出来杉(父)「テッちゃん…」

ドラえもん「…あーーー!!!」

チエ「な、なんやー!?」

ドラえもん「い、今、何時ですか!?」

花井「何時て…もうすぐ8時になるな」

ドラえもん「うわーしまった! 早く帰らないとママに叱られちゃう!」

花井「ほう、ロボットくんには門限があるんかいな」

チエ「あ、それならウチついてくわ。ウチも謝りたいし」

花井「こらこら、こんな時間にチエちゃん、そのロボットくん送っていって、帰りはどうするつもりやねん」

出来杉(父)「野比さんちだよね? 僕が送っていくよ」

花井「ほな、ワシもいこかな。行きしに、その不思議な道具とやらを見せてもらおやないかい」

テツ「お、おい、ちょっと待たんかい」

花井「なんや」

テツ「な、なんやて…その…ワシはどうすんねん」

花井「どうすんねんてこっちが聞きたいわい。テツ、お前、今日の宿はどうするつもりやねん」

テツ「どうするて…その…ワシ…」

花井「何も考えてないんやろ、どうせ。ええ、ええ。今日だけはワシがお前の宿代出したる。その代わりテツお前、チエちゃんと留守番しとれ」

テツ「なに恩着せがましく言うとんねん。カネならワシ、お前に出してもらわんでもここに…ここに…」

チエ「(嫌な予感…)」

テツ「あーー!!!! ないーー!!!」

チエ「また…」

花井「おおかたどっかに落としたんやろ」

テツ「な、なに冷静に抜かしとんねん! あ、あ、あれ、ワシの全財産なんやぞ!」

花井「どうせおじいから巻き上げたカネやろ。おおぎょうに言うな」

テツ「なんちゅうことぬかすんじゃ! どっから出たカネでもワシのもんになったもんはワシのもんじゃ!」

ドラえもん「あ、あの、そういうことなら…」

テツ「あん?」

尋ね人ステッキー!!

ドラえもん「これを地面に突き立てて倒すと、探してるもののほうに向かって倒れるんです」

花井「ほう、これがドラえもんくんの不思議な道具かいな」

テツ「そんなもんで解ったら苦労するかいな」

チエ「こらっ」

ドラえもん「ではさっそく…」

グッ   ポテッ

ドラえもん「こっちですね」

花井「ほんまかいなと言いたいところやけど、他に何の手がかりもないしな。ほれテツ、行くで」

テツ「どいつもこいつもタヌキのバケモンに化かされとんちゃうか…」

ドラえもん「タヌキじゃない!!」

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