ヘレン「SEKAI NO LEVEL」 (24)
朝。布団から出た私は真っ先にカーテンを開くの。
目の前に広がる景色は少しずつ明るみを増していきながら太陽の目覚めを待っている。
太陽の輝きは世界レベルである私の輝きそのもの。
だから私はこうして欠かさず日の出を眺めるの。
立ち上る太陽を見つめることで、ヘレンというアイドルの姿を確認するのよ。
「おはよう。今日も輝いているわね」
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身だしなみを整えながら私は鏡の向こうの私に問うの。
貴女は何者?
別に病んでいる訳ではないわ。
こうやって現在の自分をしっかりと認識することで、さらなる高みを目指す指標にするの。
鏡が反射した問いに返す答えはいつだって決まっているわ。
「私はヘレン、世界レベルのアイドルよ!」
どんなに多忙であろうと朝食を欠かせば世界レベル足り得ないわ。
私の朝食は行きつけのカフェでモーニング。
食事の後はゆっくりとコーヒーを……あら、電話ね。何かしら。
……先方の都合で収録の開始時間が早まった?
いつもはコーヒーを飲みながら食後のひとときを送るのだけど、仕方ないわね。
「ご馳走様、相変わらず私に相応しいメニューだったわ。……ヘーイ、タクシー!」
道を急ぐタクシーの中で今日出演する番組の内容を改めてチェック。
トークメインのバラエティ番組ね。
どんなパスにも完璧な受け答え、そして新たなパスを出せるように普段から入念なシミュレーションを繰り返しているわ。
あまりトークは得意ではないのだけど、求められている物を上回って応えてこそだもの。
練習の必要がない人なんていないわ。むしろ大物と呼ばれる人ほど陰で膨大な努力を積み重ねているものよ。もちろん、私も。
「ありがとう、領収書を頂けるかしら? 宛名は――プロダクションよ」
スタッフや共演者全員に挨拶をしてから楽屋へ。何事にも挨拶は欠かせないわ。
共に番組を作り上げるチームだもの、これくらいは当然よ。
軽くメイクの手直しをしてから大まかな流れの書かれた台本に目を通す。
……これなら準備してきたネタで大丈夫そうね。
そうしている内に出番を告げるノックの音が私を呼ぶ。
「さあ、世界のモードを起こすわよ!」
あの後二本の番組の収録を終えて、Pの運転する車の中で今日の出来を自己評価するの。
……優・良・可で言えば、良ね。今の自分は出し切ったと自負しているけど、これが私の最大だとは思わないわ。
いかに優れていようと、『極めた』と思ってしまえばそこでおしまいよ。停滞してしまえば後は朽ちて消えていくだけだもの。
常に高みを目指し、走り続けなければならないわ。そう、マグロのように!
……この例えだとみくは嫌がりそうね、七海は喜びそうだけど。みくにも受け入れられる比喩を考える必要があるわ。
「聞きなさい、P。アイドルとは立ち止まることの許されない、言わばマグロよ!」
事務所近くで車を降りた私はプロダクション専用のレッスン場へ足を運ぶの。
今はバラエティ番組がメインだけど、それだけを見ていては世界レベルどころかアイドルとしても失格だわ。
私は歌とダンスで世界を魅了するためにアイドルになったの。他の事に対して努力をしても、それを理由に歌とダンスをなおざりにするなんて許されないわ。
壁一面の鏡に映る私は輝いているかしら? もちろん、輝いているわ。
疑問は持っちゃ駄目。疑問は自信を曇らせ、実力を鈍らせてしまうから。自分に自信を持つこと、それが世界を変える者の義務よ。
「心まで……ダンサブル!」
シャワーで汗を流し終えた私が向かうのは事務所。
ここは共に世界を目指す仲間たちが集う場所。一筋縄ではいかない人たちがごまんといるわ。
時には助け合い、時にはぶつかり合う。そんなライバルとも呼べる仲間たち一人一人がかけがえのない存在なの。
あら、意外かしら? どれほど高みに上り詰めても、周りに誰もいなければそれはただの孤独な迷子よ。
ドアノブに手をかけると、ドア越しに聞こえてくるのはいつも通りの楽しげな喧騒。私もその輪に加わるべく、ドアを開くの。
「さあ、世界の凱旋よ!」
これにて終了です。今日発売のSOUL CATCHER(s)五巻の宣伝のつもりで書きました
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