切嗣「安価で第四次聖杯戦争を勝ち抜こう」 (609)

切嗣「さて、僕はアインツベルンを後ろ盾に聖杯戦争に参加することとなったのだけど」

切嗣「どうもこのままの作戦ではうまくいかない気がするんだ」

切嗣「昨日もクレイジーでサイコなホモ神父に追いかけられる悪夢を見たしね」

切嗣「そこで君たちに助言を求めたい」

切嗣「なに、簡単な話だ。弾丸を身に受けるのも、引き金を引くのも僕だ。君たちはただただ僕を導けばいい」

切嗣「ちなみにまだ英霊は召喚されていない。アハト翁からは『全て遠き理想郷』を受け取ったが……はてさて、僕とアーサー王との相性はどうなのだろうね」

切嗣「そこら辺も含めて、記念すべき最初の安価は>>5に頼むとしようか」

切嗣「期待しているよ……この世界の外側の住人たち」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1401810692

切嗣「ちなみに、今から『全て遠き理想郷』放棄して、別の聖遺物を探すことも不可能ではない」

切嗣「そういった柔軟な安価も歓迎しよう」

切嗣「加えて僕はstay nightの知識は皆無だから注意しておいてほしい」

切嗣「至極当然。その時代には僕はもう生きちゃいないからね」

シンパシーをきりつぐが一方的に感じている

切嗣「>>5これはアーサー王をそのまま召喚するということでいいのかい?」

切嗣「それでは早速召喚の儀式を執り行なおう」


切嗣「――誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者――」

カッ

セイバー「問おう――貴方が私のマスターか?」

切嗣(女……? あのアーサー・ペンドラゴンは女だったというのか!?)

セイバー「……もう一度問う。貴方が私のマスターか?」

切嗣(僕は英雄が嫌いだ。さも戦争に道理があり、さも戦場に華があるように吹聴し、人を血みどろの地獄へとせっせと駆り立てる――そんな”英雄”が嫌いだ)

切嗣(だが、僕の目の前にいる”英雄”は何だ? どう見ても年端もいかない少女じゃないか)

切嗣(覇を求む豪傑でも、栄華を極めんとする猛者でもない……ただ岩から剣を抜いただけの、少女)

切嗣(こんな者に戦争の何がわかるっていうんだ、殺し合いの何がわかるっていうんだ)

切嗣(自らの性を偽ってまで就かなくてはならなかった”王”という座は、彼女にとって呪いのようなものだったに違いない)

切嗣(――ちょうど僕が夢見た”正義の味方”という幻想のように)

切嗣(結局、彼女も戦争や殺し合いの被害者じゃないか)

切嗣(赦せない――こんな少女に”英雄”という呪いを押し付けた世界が)

セイバー「あの、マスター――」

切嗣「セイバー、君の願いはなんだい?」

セイバー「……私が万能の願望機に託す願いは一つ、ブリテンの救済です。もう……あんなことは……」

切嗣(ああ、そうか。アーサー王の末路は……)

切嗣「そうかい。僕もね、救済を願うつもりなんだ。血が流れ止まないこの悲しい世界の、ね」

セイバー「それは本当ですかマスター!? ならば切望を共にする者として何としてでも聖杯を――」

切嗣「セイバー」ギュッ

セイバー「!?」

切嗣「君も辛かっただろう。この聖杯戦争はきっと、君にとって更に過酷を強いることになるかもしれない――それでも、ついてきてくれるかい?」

セイバー「と、当然です! ですがその、これは、その……」アタフタ

切嗣(……舞弥とアイリに続いて、僕はまた血塗れた運命に巻き込まれただけの人間を利用するのか)

切嗣(だが、僕は世界平和のために迷いなく彼女たちを切り捨てるだろう。それが僕が――衛宮切嗣が唯一見出した”正義”の在り方)

切嗣(”正義の味方”という幻想に取り憑かれた僕と、”英雄”という妄像に取り憑かれた彼女で……きっと聖杯を掴んでみせる)

セイバー(何やら同類相憐れむような目で見られている気がするのですが気のせいでしょうか……)

アイリ「ちょっといいかしら?」ゴゴゴゴゴ

セイバー「はいっ!? マスターこのご婦人は一体?」

切嗣「ああ、紹介しよう。僕の妻で、僕の代わりに君と行動を共にしてもらうアイリスフィールだ」

セイバー「お、奥方ですか!? では今のを見られたのは些かまずいのでは……」

切嗣「うん? どうしてだい?」

セイバー(もしや、この時代ではあれくらいは挨拶のようなものなのでしょうか?)

アイリ「セイバー、あとで私の部屋に来てくれる?」ゴゴゴゴゴ

セイバー(やっぱりまずかった)


切嗣「とまあ、こんな感じに無事に英霊を迎えることができた」

切嗣「当初の作戦通りだと、僕と舞弥、アイリとセイバーが別動隊となって冬木に赴く予定だが……」

切嗣「どうするかは>>17に任せるとするよ」

間桐のマスターの雁夜と密かに同盟を結んでいる、僕に協力する変わりに間桐臓硯の排除と間桐桜の助けるが条件だが

prrr……

切嗣「――ああ、こちらは順調だ――そうか、そちらも召喚は完了したようだな――わかった、それでは冬木で――」

アイリ「切嗣、一体誰と電話してたの? 舞弥さん? 浮気相手? それとも浮気相手の舞弥さん?」

切嗣「どれも不正解だ。アイリ、これを見てごらん」ペラ

アイリ「間桐雁夜……間桐の魔術師!?」

切嗣「そう、そして七人のマスターの一人……」

アイリ「ということは切嗣、あなたまさか間桐を懐柔したの?」

切嗣「鋭いねアイリ。しかし、僕は間桐を懐柔したわけじゃあない。間桐雁夜個人と同盟関係を結んだんだ――何を以ってしても、僕が聖杯を手にする手助けをするように、ね」

アイリ「でも一体どうやって? 全ての願いが叶う万能の願望機に匹敵する条件をどうやって出したの?」

切嗣「簡単な事さ、この情報のここを見てみるといい」

アイリ「『願望:間桐家の養子、間桐桜の救出』……これを、あなたがやると持ちかけたのね」

切嗣「その通り。向こうは『間桐家当主、間桐臓硯の排除』も条件に出してきたけどね」

アイリ「そんなの無茶よ! アレは何千年と生きている化物――」

切嗣「そう、間桐臓硯は昔ながらの魔術師、そして僕の異名は――」

アイリ「――『魔術師殺し』」


切嗣「僕の手腕を以ってすれば不可能な話ではない。それに他のデータを見てごらん」

アイリ「遠坂時臣、根源への到達。ケイネス・エルメロイ・アーチボルト、武勲が為。ウェイバー・ベルベット、自らの沽券の為……確かにこの中では一番、取り入りやすいわ」

切嗣「加えて彼は出来合いの魔術師らしいからね。独力での勝利は難しいと踏んだんだろう」

切嗣「彼には君たちの見えないところで暗躍してもらうよ――ところでセイバーはどこだい? 彼女にもこの話を伝えておかないといけないんだけど……」

アイリ「ああ、あの泥棒ネk……セイバーならこの部屋に近づかないように言ってあるわ。いくらサーヴァントとはいえ、切嗣の仕事の邪魔はさせられないじゃない♪」

切嗣「そうかい、じゃあ今夜の作戦会議で全て連絡するとしよう」


切嗣「何故か僕がセイバーと仲良くなるとアイリとセイバーは不仲になるようだ」

切嗣「では作戦会議の内容は>>25で」

切嗣「どのような組み合わせで動くか、どのように立ち回るか等、今後重要になる作戦だからよろしく頼んだよ」

セイバーに囚われてる可哀相な子を助けるからと言いくるめ、エクスカリバーをぶっ放してもらい、なんやかんや騒ぎになってる間にアヴァロン入れた切嗣がタイムアルターで雁夜と桜を連れ出す


切嗣「……というわけで、セイバーには間桐桜救出に協力してもらう」

セイバー「か弱い少女を監禁し、嬲るとは……外道の極み! 切嗣! どこですか、そのマトウとやらの居城は!」ドンッ

切嗣「セイバー」

セイバー「なんですか切嗣! 何でしたら今からでも……!」

切嗣「セイバー!」

セイバー「!」

切嗣「落ち着いて聞いてほしい、間桐家の襲撃は僕と間桐雁夜の陣営のみが残った時、もしくは、僕たちが聖杯を掴んだ後だ」

セイバー「ッ! それでは桜という少女は――」

切嗣「セイバー、僕たちの同盟は結ばれたといってもそれは条件一つで繋がった薄弱で脆弱な関係だ。早々に悲願を遂げた間桐雁夜が最後まで僕たちのために命を賭けると思うかい?」

セイバー「ですが――」

切嗣「君も知っているはずだ。知らないとは言わせない。裏切りがどれだけ容易く行われるかを……」

セイバー「……わかりました。ですが、その時に至れば、罪なき少女を必ず救うと、この剣に誓います」

切嗣「ああ、間桐臓硯は聞くに違いなく、正真正銘の化物だ。セイバーの力も恐らく必要になる」

セイバー「ええ、任せて下さい」

切嗣「今日は以上だ。明日は日本に発つ、しっかり休んでおいてくれ」

――――

アイリ「ねえ切嗣」

切嗣「なんだい、アイリ」

アイリ「あなたは本当に間桐桜という女の子を救うつもりがあるの?」

切嗣「……それはどういう意味だい?」

アイリ「私は何年もあなたの側にいたのよ? 衛宮切嗣という人間がどういう勝利の掴み方をするか、知らないわけじゃないの。ねえ、本当に間桐雁夜との約束を果たす気があるの?」

切嗣「……まさか。確かに、必要であればやるさ。でも不必要に危険な賭けに出るつもりはない」

アイリ「……やっぱり」

切嗣「見てごらん、アイリ」ペラッ

アイリ「自己強制証明……ではないわね」

切嗣「ご明察。これはなんの根拠もない贋物だよ。相手はね、こんな子供騙しに引っかかるような素人だ。……それを利用しない手はない」

アイリ「でもそれじゃあセイバーが……」

切嗣「関係ないさ。僕たちの本願は聖杯による闘争の終結。その為なら全て切り捨てる……それが衛宮切嗣という人間の勝利の掴み方だ」

アイリ「でも、セイバーにそれを伝えることはできなかった」

切嗣「ッ!」

アイリ「本来のあなたであれば無理矢理でもあなたに従わせようとするはずよ。でもできなかった」

アイリ「切嗣、あなたセイバーに自分の影を重ねて見ているんでしょう?」

切嗣「アイリ……!」

アイリ「それが衛宮切嗣という人間の在り方。無感情な機械であればいいのに、誰かを想わずにはいられない。それが私の愛した衛宮切嗣という人間の在り方……」

アイリ「セイバーを傷つけたくないんでしょう?」

切嗣「ああ……だけど……僕は……!」

アイリ「大丈夫よ切嗣」ギュッ

アイリ「きっとうまくいく。誰も悲しまない、誰も傷つかない世界を、あなたは、いいえ、あなたたちなら実現できるわ」

アイリ「だからきっとあなたたち二人なら桜って子もなんとか救い出せるわよ!」

切嗣「ああ、善処するよ。ありがとう、アイリ」ギュッ

――――

「君も知っているはずだ。知らないとは言わせない。裏切りがどれだけ容易く行われるかを……」

セイバー(サー・ランスロット……)

セイバー(私は……)グッ


切嗣「少し雰囲気暗くなってしまったが、ついに日本、冬木に到着だ」

切嗣「ここで班の割り振りを行いたいと思う」

切嗣「当初はアイリとセイバーに面で戦ってもらい、僕と舞弥が裏で動くというものだったが……」

切嗣「如何せん、嫌な予感がするんだ」

切嗣「確かにこちらのほうが効率は良いのだけどね」

切嗣「そこで ①アイリセイバー&切嗣舞弥 ②切嗣セイバー&アイリ舞弥 のどちらで動くか>>35に決めてもらうとしようか」

アイリ「それで?」

舞弥「」

アイリ「なんで?」

舞弥「」

アイリ「切嗣とセイバーが二人っきりなのよおおおおおお!」

舞弥「マダム、お気を……」

アイリ「こうなったら切嗣が変な気を起こさないように徹底的に監視しなくちゃねえ」フフフフフ

舞弥「しかし、マダムは追跡術は……」

アイリ「あら、舞弥さん。私を誰だと思っているのかしら? アイリスフィール・フォン・アインツベルン、錬金術の至高を極めしアインツベルン家が最高峰の魔術と技術を結集して作り上げた奇跡のホムンクルス。この私に不可能なんてないわ、行くわよ、舞弥さん!」

舞弥(この組み合わせで本当に良かったのだろうか……)

セイバー「切嗣……」

切嗣「どうしたセイバー。その格好が気に入らなかったかい?」

セイバー「いえ、男装には慣れていますし、動き易くもありますので。それよりも、アイリスフィールを私と貴方、どちらの目の届く範囲にも置かなくて良かったのですか?」

切嗣「問題ない。前線に出なければアイリが狙われることはないだろうし、舞弥が付いている。二人にはサポートに回ってもらう」

切嗣「問題があるとすれば僕だ。僕は正面切っての戦闘は好まなくてね。どちらかというと影から暗殺、というのが常套手段なんだが……」

切嗣「アイリを危険な目に合わせたくはないしね」

切嗣「それに僕が敵と直接的に対峙することにメリットがないわけではない」

切嗣「一つは戦闘に関してアイリよりも効果的な判断を即時に下すことができる。そしてもう一つは僕の霊装に関係するんだけど……それは後々披露することにしよう」

セイバー「成る程、確かに一理あります。それでは私も誠心誠意サーヴァントとして切嗣を護衛します」

切嗣「ああ、頼んだよセイ――!」

セイバー「これは……!」

切嗣「……誘いを掛けてきている、か」


切嗣「ここで君たちの出番だ」

切嗣「>>42コンテナ置き場で待っていたのは?」

ランサーvsライダーすでに戦闘中

意識が朦朧としてきたので今日はもう寝ます
また明日チマチマ書いていきますよ

ライダー「AAAALaLaLaLaLaie!!」ガガガガガガッ

ランサー「くっ」ヒュン

神威の車輪。

雷槌の如き破壊力を秘めたそれは、美貌の槍兵目掛け盤石のアスファルトをまるでビスケットのように粉砕しながら猛進、突撃する。

たとえ身の丈を超える長槍の操り手であるランサーとて、高速で右往左往する巨大な戦車(チャリオット)に騎するライダーにその刃を届かせることは叶わない。

故に防戦一方。

三大騎士クラスの一角であるランサーはライダーの蹂躙を回避するだけで精一杯だった。

相性は最悪。

時の運はランサーに背を向け、ライダーに与した。

ライダー「おうおうランサー、誘いを掛けてきたのはお主であろう。もっと余をワクワクさせてみんか!」

ランサー「くっ……ライダーよ! 騎士と騎士の一騎打ちにそのような戦車を持ち込むなど、卑怯だと思わんのか! 貴様も名を轟かせた英雄ならば己が剣を持ってその覇を示せ!」

ライダー「ううむ、そうはいわれてもなあ……蹂躙し、侵略し、征服する――それがこの征服王イスカンダルの覇道故!」

ランサー「何ッ!?」

ウェイバー「あぁー! バカバカバカ! 真名をわざわざ自分でバラすバカがどこにいやがりますか!」

ライダー「小僧、余は征服王であるぞ? 名乗るに恥ずべき名ではあるまいて」

ウェイバー「そういう問題じゃなーい!」

ライダー「ともかくだ、ランサーよ。余はライダーで貴様はランサー、各々が各々の武器を以って戦うのに卑怯もクソもあるまい」

ライダー「何よりも余は騎士ではなく王だからのう」

ランサー「ふっ、成る程な。ならば名乗りを上げたお前の心意気に応じ、俺の槍術の鱗片を見せてやろう」

ライダー「ふふん、中々に面白いではないか。見せてみよ、貴様の覇道を!」

切嗣「慎重に魔翌力を辿って来てみれば、もう事が始まっていた……これが遠坂邸の一戦に続く二度目のサーヴァント同士の戦闘、か」

切嗣「まさか、始まって早々真名を明かす馬鹿なサーヴァントがいるとはね」

セイバー「切嗣、ここは私も――」

切嗣「いや、それはまずい。三つ巴の戦闘となると、弱った一人が残りの二人に狙われる構図になる場合がある。あの二体のサーヴァントの能力がわからないうちは、迂闊に手は出したくはない」

切嗣「願わくば、彼らには殺し合ってもらい、生き残った方を僕たちが倒すというパターンが最高なのだけど」

切嗣「幸い、僕たちの存在は感知されていない。とにかく、今は様子見に徹する。僕たちに必要なのは情報だ」

セイバー「わかりました。しかしそれは些か卑怯なのでは……」

切嗣「……卑怯さのない策略なんて駄計だよ。どんな汚い手を使ってでも勝利を掴む……それが僕のやり方だ。セイバー、君はそんな僕を非難するかい?」

セイバー「いえ……私もかつては一国の主でした。闘争はただ正面から突き進めばいいというものではないということも、重々承知しています。それに……」

セイバー「私は私のマスターを信じていますから」

切嗣「……よし、では舞弥に周囲の状況の確認、及びにランサー側のマスターの探索を当たらせよう」ピッピッ

セイバー「! 切嗣、彼らは何かを仕掛けるつもりです!」

再びライダーの従える二頭の神牛が白雷を帯びる。

心なしか、纏う魔翌力も先程よりも強力に感ぜられた。

ランサー「我が主、宝具の開帳を――」

ケイネス「――許可する」

ウェイバー「!」

ランサーの長槍に巻きつけられていた呪布が剥がれ、崩れ、消え去る。

魔的なほどに紅く染められた槍身が露わになる。

魔翌力に満ち満ちたそれが、ランサーの宝具の真の姿であることを、その場にいた誰もが確信した。

ライダー「ほう……」

二つの伝説が、二つの武勲が、二つの英霊が、睨み合う。

正真正銘、宝具と宝具のぶつかり合い、破格の魔翌力の鍔迫り合いが始まろうとしていた。

ライダー「いざ、征かん!」

ライダーの一吠えを合図に、神威の車輪が最大出力、最高速度にて進撃を開始する。

地は轟き、空は響く。

目前の敵を、一塵も残さず轢き[ピーーー]という殺意を以って、ライダーは雄叫びを上げた。

ライダー「AAAALaLaLaLaLaie!!」

だが、ランサーはその場から動かない。

神威の車輪の軌道から逸れようともしない。

ただただ、不遜な笑みを、その美貌に浮かべるのみ。

メル欄にsagaって入れれば「殺す」もちゃんと表示されるんやで

ランサー「いくぞ、ライダー!」

ランサーが構えを変える。

長槍を逆手に握り、肩より上方に置く構え。

そう、斬、突、のみならず槍という体系の武器に与えられたもう一つの機能――投擲。

ランサーは一歩踏み込み、一直線に魔槍を射ち出す。

放たれた紅は吸い込まれるように双牛の片割れの脚を穿った。

ライダー「ぬおおッ!」

飛蹄雷牛の一角がバランスを崩した戦車は制御を失い、速度も落ちた。

しかし、それでも、蹂躙は止まらなかった。

ライダー「ふははは! 存外にやるではないか、ランサーよ。だが余の遥かなる蹂躙制覇はこの程度では足止めにすらならんぞ! さあ、武器を失った貴様はどうこの窮地を脱してみせる!」


>>50
ありがとうございます

ランサー「ふっ、やはり王とは慢心する生き物なのだな」

不敵な笑みのまま、ランサーは地面を一蹴する。

そこから浮き上がってきたのはもう一本の魔槍。

ライダー「二槍使いか……!」

ランサー「はァ!」ダッ

ランサーは跳んだ。

前でもなく、横でもなく、後ろでもなく、上に。

戦車として、攻撃の用を為すことはもちろん、小要塞並みの堅牢さを誇る神威の車輪は、前後左右からの攻撃を意に介さぬほどの鉄壁だが、構造上唯一、頭上からの攻撃には無防備であった。

ランサーはその孔を見事に突いた。

ランサー「もらったぞ、征服王!」

迷いない刺突がライダーに迫る。

だが、紙一重でキュプリオトの剣を抜いたライダーが黄槍を弾く。

それでも、不覚を突いた一刺しは、僅かにライダーの頬を抉った。

ランサー「豪放なようで、意外と隙がないな、ライダー」ニヤッ

ライダー「お主も見合わず大胆な手に出るものよ」ニヤッ

ライダー「! これは……呪いか。ははあ、ランサーよ、その二槍捌き、不治の呪槍、余はなんとなーくお主の真名に心当たりがあるぞ」

ランサー「ふっ、遥かマケドニアの王にまで知られているとは、俺の伝説も捨てたものじゃないな」

――――

切嗣(思いの外、拮抗しているな。英霊――やはり一筋縄ではいかないか)

prrr

切嗣「舞弥」

舞弥「ポイントに到着。こちらからランサーのマスターを確認、補足しました」

切嗣「……狙撃はできそうか」

舞弥「不可能ではありません。しかし……別のポイントにアサシンの姿があります」

切嗣「なんだって……?」

切嗣(アサシンはアーチャーに倒されたのではなかったのか? やはり、何かきな臭いな)

舞弥「どうしますか、指示を「ちょっと舞弥さん代わって!」ちょっマダム」

アイリ「切嗣! そんな薄暗いところでセイバーと二人で何をやってるのかしら?」

切嗣「あ、アイリ!? どうして君がそんなところに……」

アイリ「そんなことはどうでもいいのよ! それより私の質問に答えて、切嗣」

切嗣「え、何って……ただ戦闘を見張っているだけだけど……」

アイリ「それならいいけれど。あ、あとセイバーに代わってちょうだい」

セイバー「え」

アイリ「セイバーちゃーん♪あとで私のお部屋に来てねー♪」

セイバー「」ガクガクガク

舞弥「申し訳ありません、ついてくると言って聞き入れて頂けなかったものですから……」

切嗣「兎に角アイリがいる以上慎重に行動してくれ。アサシンやランサーのマスターに動きがあったらまた報告を」

舞弥「わかりました」ピッ

――――

ライダー「ところでなあ……おおい! 聞こえておるのだろう!」

ライダー「どこの誰かはわからぬがコソコソと覗き見をしている者共よ!」

ランサー「なんだって?」

ライダー「ここまで来ておいてウジウジしおって! 折角与えられた戰場(いくさば)、戦わずして何となる!」

ライダー「今すぐ姿を現し、余らと相対せい! さもなくば征服王の侮辱を免れ得ぬものと思え!」

ライダー「ランサー、お主も好敵手は多いほうが良かろう?」

ランサー「ふっ、違いないな」

ライダー「ほれ、小僧。お主も余のマスターとして何か気の利いたことを言わんか」

ウェイバー「あ……あ……」ガクガク

ケイネス「誰かと思えば、そこで縮こまっているのは、見知った顔じゃないか」

ウェイバー「ひっ!」ビクッ

ケイネス「まさか私の聖遺物を盗んだこそ泥が君だったとはな、ウェイバー・ベルベット。まあいい、君にはこの聖杯戦争を通して私の特別授業を受けてもらおう」

ケイネス「骨の髄まで叩き込んであげようじゃないか……魔術師同士が本気で殺し合うということの意味を」

ウェイバー「うわ……あ……」ガクガク

ライダー「……小僧」ポン

ウェイバー「え?」

ライダー「貴様が元々余のマスターになる予定だった? ならばこうなったのは天命。貴様なぞ余のマスターの器ではないわ!」

ライダー「戰場に臨むこともせず、自分は姿を隠す? はっ、余とともに世界を馳せるマスターがそのような臆病者など笑い話にもならぬ!」

ライダー「見よ、この小僧は非力ながら自らの意志で戦車に乗った――貴様にそれが真似できるか?」

ケイネス「くっ……こいつを今すぐ殺せ、ランサー……!」

――――

切嗣(まずいな……恐らくライダーには僕たちがここに隠れていることは知られている)

切嗣(このまま隠れていてもいずれ……)

切嗣(しかし、ランサーとライダーが戦闘を継続させれば、こちらに手は回ってこないだろう)

切嗣(アサシンがいるせいで舞弥たちも迂闊に動かせない)

セイバー「切嗣、ここまで辱められては騎士王の名が廃ります! どうか、出陣の命令を!」

切嗣(騎士王さまはなんだか戦いたがっているが……)


切嗣「となると、やはりここも安価で切り抜けよう」

切嗣「>>63の案を採用する。どんなものでもいい、ここはひとつ、頼んだよ」

ちょうどその頃、間桐雁夜が切嗣と合流

prrr

切嗣「……僕だ」

雁夜「衛宮、切嗣か……」

切嗣「その声は間桐雁夜だな」

雁夜「ああ……今、コンテナ置き場近くの下水道にいる……お前もどうせ……その辺りにいるんだろ……」

切嗣「そうだ」

雁夜「どうするつもりだ……あの英霊二体が潰し合うまで待つか……?」

切嗣「いや、ライダーに僕たちの存在が察知されている。恐らく、君たちもだ」

雁夜「ちっ……」

切嗣「機会を見て、セイバーとバーサーカーで叩く。向こうは多少ではあるが消耗している上に元々協力関係にない、僕たち二組でやれば倒せないことはないだろう」

雁夜「わかった……合図だけくれ……そうしたらバーサーカーを送り込む……」

切嗣「ああ」

――――

ライダー「はあ、結局誰も現れず終いか。聖杯戦争などと大仰なものに参加するほどなのだから、もちっと骨のある奴らだと思ったのだがなあ」

ライダー「まあ良い。先にお主との決着をつけるとしようぞ、ランサーよ」

ランサー「我が主への侮辱は俺にとっての侮辱だ。悪いがライダー、その身を以って報いを受けてもらうぞ」カチャ

ライダー「――いざ!」ダッ

切嗣「――今だ」

セイバー「はあああああッ!」

バーサーカー「■■■■■■■!!」

ランサーライダー「「!?」」

ドドドドッ

騎士王と狂戦士、二つの刃がライダーとランサーを手に掛けようとしたその刹那、無数の武具が二組のサーヴァントを分かつように降り注ぐ。

その威力、そしてその発射源で煌々と輝く金色は、マスターたる魔術師が使い魔を通じ数日前に目撃した光景と一致していた。

――アーチャーだ。

アーチャー「ほう、この一夜に王を名乗り、尚且つ我(オレ)の宝を巡って小競合う雑種が四匹も現れるとはな……」

アーチャー「天上天下に王は唯一我一人、誰の許しを得て王を騙るか、雑種!?」

ライダー「そうは言われてもなあ、余は民草に王と呼ばれ、自らも王を自負する生粋の王故、王を名乗らんわけにもいかんだろう」

アーチャー「ならば貴様から死ぬか? 雑種」ギュゥン

バーサーカー「■、■■」

雁夜「見つけた……見つけたぞ、アーチャーああああああ!」

バーサーカー「■■■■■■■■!!」

バーサーカーが狂乱の叫喚を上げ、身体から漆黒のオーラを噴出させる。

次の瞬間、目にも留まらぬ疾さで地面に突き立てられたアーチャーの宝具を掴み、放った。

回転しながら風を切る凶刃は、アーチャーの立する街灯を切り倒す。

アーチャー「この我を、見上げるべきこの我を貴様らと同じ大地に立たすか……よほど死にたいようだな、駄犬!!」


切嗣「まずい、非常にまずいぞ」

切嗣「アーチャーの登場は想定外だ」

切嗣「よりにもよってバーサーカーはそのアーチャーに攻撃を開始」

切嗣「アーチャーがライダー、ランサーと手を組めば二対三……こちらが圧倒的に不利」

切嗣「それにこの場にはアサシンもいる……クソッ」

切嗣「僕は一体どうすればいい、>>80

切嗣セイバーにキッスでヤル気を出させよう

修羅場ktkr
ご飯食べてたんで今から書きますね

バーサーカー「■■■■■■ッ!」ギンッギンッギンッ

アーチャー「駄犬がァ!」ビシュンビシュン

ランサー「貴様、騎士の戦いに水をさすつもりか?」

ライダー「いやはや、実に活きが良い。戰場とはこう、波瀾万丈でなくてはな!」

ライダー「それで、お前さんはどちらから相手にするかね? チャリオットの機動力の落ちた余か? それとも槍を一本持って行かれたランサーか?」

セイバー「くっ……」

切嗣(アーチャーはバーサーカーが釘付けにしているが、ライダーとランサーは……致し方ない。この盤を返す方法は一つ)

切嗣「セイバー」

セイバー「はい」

切嗣「――エクスカリバーだ」

セイバー「! しかしそれは――」

切嗣「ここでそれを使用すれば間違いなく宝具はおろか真名すら晒すことになる、それは正しい」

切嗣「それでもサーヴァント二体に睨まれた状況では、君の宝具の力に頼らざるをえない」

切嗣「ライダーとランサーを同時に撃退し、僕たちが生き残るにはこれしかないんだ」

セイバー「わかりました。下がっていてください、切嗣!」

切嗣(では、お手並み拝見だ。僕の可愛い騎士王さん)

セイバー「ふう……」ビシュン

セイバーが深く息を吐き出すと同時に、エクスカリバーを覆っていた風王結界が散り、大気に混じる。

もはや見知らぬものはないであろう、有名すぎる黄金の伝説が顕現する。

ランサー「あれは……!」

ライダー「ほほう」

兵の夢が、祈りが、耀う粒子となって空間を舞い、光の剣へと収束する。

――まるで、尊い希望に導かれるように。

そして今、常勝の王は高らかに、手に執る奇跡の真名を謳う。

其は――

セイバー「『約束された―――勝利の剣』ッ!!」ゴッ

ライダー「ぬうッ! 翔べぃ、飛蹄雷牛!」モオオッ

セイバーの一振りにより光の束は巨大な光の柱となり、軌道上にあるものを全て寸刻の余地なく呑み込む。

ランサー「これがかの伝説、アーサー……王……」

全てが手遅れと悟ったランサーは背を向け逃げることも、徒爾なる抵抗もせず、眩しさの中に掻き消えていった。

――ランサー/輝く貌のディルムッド・オディナ、真名を名乗ることもなく、敗退。

安価無視なのか安価間違えてるのか

>>96
ちゃんと安価は回収するからご安心ください

ライダー「やれやれ、あの小娘がこれだけのものを持っていたとはなあ。よし小僧、もういいだろう撤退するぞ」

ライダー「さらばだセイバー! 次に相見える時には万全を期して戦いに臨もうぞ! ALaLaLaLaie!!」

ウェイバー「さ、さっさと帰りたい……」

切嗣「とりあえず一難は去った、といったところか」

セイバー「しかしまだアーチャーが」

切嗣「いや、アーチャーのマスターは他の連中よりかは聖杯戦争のなんたるかを理解しているようだ」

――――

アーチャー「ッ! 時臣、貴様の諫言でこの我に引けというのか!? チッ、悪運に感謝するんだな、駄犬」スウッ

バーサーカー「…………」

切嗣「何はともあれ、今夜はもう拠点に戻ろう。アサシン陣営について調べなくてはならいことも――」

バーサーカー「■、■■■■■■!!」

切嗣「!?」

セイバー「切嗣、危ない!」ザッ

マスターが身を庇うためにセイバーがバーサーカーの前に躍り出る。

彼女はバーサーカーの得物は切嗣目掛けて突き出されたものだと思い、それを払おうとした。

しかし、それが大きな誤算だった。

セイバー(違う! これは私を――)

バーサーカーの凶器は初めからセイバーだけを狙っていたのだ。

セイバー「ぐッ!」

僅かな誤差、些細な取り違えがセイバーの手を狂わせる。

その結果――狂戦士が手にした街灯の一部だったモノは魔力で編まれた鎧をいとも容易く貫き、騎士王の脇腹に突き刺さることとなった。

セイバー「が、ァッ!」キィン

バーサーカー「■■■■■!」

セイバーは鉄管を弾き、距離を取る。

しかし、バーサーカーは追撃の手を緩めない。

ダメージを負ったセイバーは怒涛狂乱の攻撃を受けるのが限界であった。

セイバーが動く度に、鮮血が冷たいアスファルトに斑点を描く。

バーサーカー「■、■!!」ギィン

セイバー「しまっ――」

バーサーカーに剣ごと両腕を打ち上げられたセイバーは、瞬間、死を覚悟した。

しかし。

バーサーカー「■■■■■■■!!」ガシャン

黒甲冑の狂戦士はその場に崩折れ、寒気のするような絶叫を上げたかと思うと、靄のように消滅した。

切嗣「……間に合ったみたいだね」

舞弥「間桐雁夜の制圧、完了しました」

セイバー「うぐ……切嗣、バーサーカーは……?」

切嗣「心配ない、奴のマスターに、少し眠っておいてもらった。それより、君の傷のほうが深刻だ」

セイバー「はあはあ……うっ……」

切嗣「仕方ない。セイバー、少しじっとしていてくれ」

セイバー「は、はい……」

切嗣「」チウ

セイバー「むぐ! むむぐぐ、むぐぐ(きりつぐ、なにを)!?」

切嗣「ぷはっ」

セイバー「えっ、あのっ、わた、私はサーヴァントで、その、切嗣は妻帯者で、お、おおお……///」

切嗣「どうだい、セイバー?」

セイバー「どどど、どうって――はっ!? 傷が、治っています……」

切嗣「治癒が済んだならアイリを城まで送ってくれ。僕は、舞弥ともう一仕事あるからね」

セイバー「わかりました……」

セイバー(一体全体、今のはどういう魔術だったのでしょうか?)

切嗣(……『全て遠き理想郷』。やはり、僕の肉体に埋め込まれていても体の一部でも繋がれば本来の持ち主であるセイバーに作用する、か)

切嗣(この先もこいつには世話になるかもしれない)

切嗣(さて、兎も角彼には、この落とし前をつけてもらわないといけないな)

――――

アイリ「ウフフフフフフフフフフフ」

舞弥「マダム……?」

アイリ「あー聖杯発動しそう、アンリマユ目覚めそう」ドロドロドロ

舞弥「マダム、落ち着いてください!?」

アイリ「わかったわ……わかったわよ切嗣……」フフフフ

アイリ「舞弥さぁん、もっと私にイロイロ教えてね?」

舞弥「えっ」

アイリ「これ以上切嗣が変なフラグを建てる前に他の参加者を倒さなきゃね……♪」ウフフフウッフ

舞弥(切嗣とセイバーのせいでマダムの殺る気がヤバイ。正直怖い)

――――

切嗣「結局、間桐雁夜を拷m……問い質してみたが、裏切るつもりはなかったらしい」

――――

切嗣「それで、どんな理由でバーサーカーに僕たちを襲わせた?」ギリッ

雁夜「知らない! アーチャーが消えた瞬間、あいつのコントロールが効かなくなって……」

切嗣「そんな言い訳に、僕が聞く耳を持つと思うかい?」パァンッ

雁夜「ッ! 本当だ! お前もマスターならわかるだろ、バーサーカーの性質を……」

切嗣「言え。誰に依頼された。それとも、お前自身の判断か?」カチャ

雁夜「……は、ハハハ。撃つなら撃てよ。この体はもう、痛みすらまともに感じないんだ」

雁夜「俺に残された痛覚はただ一つ、蟲が肉体を貪りながら這いまわる激痛だけ……」

雁夜「さあやれよ! それともここでサーヴァント同士を戦わせるか!?」

雁夜「っぐはッ、げほっ、がはっ」

雁夜「俺は聖杯に興味なんてない。ただ、ただただ桜ちゃんが幸せなら――」

雁夜「だからアンタに頼ったんだ! それを可能にできる、『魔術師殺し』に!」

切嗣「……ああ、そうだったな。わかった。今回の件についてはこれ以上は不問としよう」

――――

切嗣「確かにバーサーカーのクラスの英霊は制御が効かなくなることが多々あるらしい」

切嗣「間桐雁夜に僕を裏切る理由もない」

切嗣「それはそれで厄介だ」

切嗣「何よりあのセイバーに対する敵意……もしかして、彼女に縁のある英霊か? まさかな……」

切嗣「セイバーとバーサーカーを共闘させられないとなると、非常に不便だ」

切嗣「何か、上手い対策を講じなくては」


切嗣「話は変わるが今日は本来ならばランサーのマスターの魔術工房(笑)を発破するつもりだったのだけど、その必要がなくなってしまったから暇なんだ」

切嗣「これから何をするかは>>110に考えてもらうとしようかな」

桜ちゃんとお出かけ

切嗣「そうだ、いずれ襲撃することとなるのであれば、間桐邸を下見する必要があるな」

切嗣「時間もあるし、偵察に行くとしよう」

――――

切嗣「ここが間桐家か。噂に違わず、下衆な魔術の気配が――え?」

切嗣(結界が、緩い!?)

切嗣(いやいやいや、仮にも聖杯御三家の本拠地だぞ? こんなに防御が甘いわけが……)

切嗣(しかし、罠とは思えない……完全に無防備なのではなく、必要最低限のみの守り……これは、い け る)ゴクリ

――――

臓硯「なーんで儂がお前のために結界を緩くせにゃいかんのじゃ」

雁夜「だってじいさん! あんなガチガチの結界じゃ俺が出入りできないだろ!?」←こいつのせい

――――

切嗣「こんなにあっさり侵入できるとはね」

桜「おじさん……誰?」ウゾウゾウゾウゾ

切嗣「君が桜ちゃんかい? 僕はね――正義の味方だよ」スッ

桜「正義の……味方?」ウゾウゾゾゾ

切嗣「ああ、君をここから助け出しに来た」

桜「でも、お爺さまが……」ウゾッウジュル

切嗣「心配はいらない、これを」令呪

桜「あ……」

切嗣「僕がその気になればサーヴァントを呼び寄せる事ができる。流石の臓硯も、英霊には敵うべくもないだろう」

切嗣「だから、僕と一緒にここから出よう」

桜「うん……」

切嗣(これは幸運だ。今のうちから間桐桜を確保しておけば間桐雁夜だけではなく、間桐臓硯に対する牽制にもなる)

切嗣(それにいざとなったら――彼女を人質に取れば、間桐雁夜は僕には絶対に逆らえない)

桜「正義の味方のおじさん、これからどこに行くの?」

切嗣(アイリか舞弥に監視に付いてもらうか? いや、間桐の襲撃を受ければあの二人では手も足も出ない)

切嗣(ならば、僕たちの拠点の地下室にでも幽閉するのが最善)

桜「おじさん?」

切嗣(……しかし、僕も人の親だ。しかもこの子くらいの歳の娘……)

切嗣(イリヤ、僕は……)

桜「正義の味方のおじさん、泣いているの?」

切嗣「えっ? いや、これは」ポロポロ

桜「正義の味方は……泣いちゃいけないよ」ギュッ

切嗣「ああ、ああ。そうだったね……」ギュッ

切嗣「ははっ、よーし、今日はおじさんが桜ちゃんを楽しいところに連れて行ってあげるぞ!」

切嗣(セイバーもいるんだ……一日くらいはこの子に、そして僕自身に、楽しい夢を見させてあげるくらいの幸せはあってもいいはずだ)

桜「ほんとう? でも、どこに連れて行ってくれるの?」

切嗣「それはね、>>120だよ」

アイリとセイバー所、アイリには錬金術で桜の体内の蟲を取り除いてもらいセイバーにはアヴァロンを一時的返して
桜の体の治癒をしてもらう

ただいま
鬱展開にしようと思ったのに>>120に壊されたぜ。ちぇっ
仕方ないのでほのぼの路線で行きますか

切嗣「セイバーとアイリ――僕の妻のところだよ」

切嗣「今は聖杯戦争の真っ只中だ。君は安全なところで僕たちが保護する……それでいいね?」

――――

切嗣「――というわけで間桐桜を確保した」

アイリ「やったじゃない切嗣!」

セイバー「私が魚顔の変質者に難癖をつけられている間にそんなことが――というか切嗣! 何故私を伴わなかったのですか!」

切嗣「間桐家の警戒があまりにも軽薄だった。忍びこむだけであれば僕だけのほうが効率的だからね」

セイバー「数少ない私の出番が……」

切嗣「君はもう『約束された唯一の見せ場(エクスカリバー)』を使って、もう満足だろう?」

セイバー「ぐぬぬ」

切嗣「さて、ここからが本題だ。間桐桜の肉体には間桐の秘術の結晶――『刻印虫』がまだ寄生状態のまま残されている」

アイリ「なんですって!?」

切嗣「腐っても御三家の魔術……放置しておいてどんな危険が生じるかはわからない。早々に除去を行う」

切嗣「だが、生憎僕は蟲払いの魔術にも、治癒の魔術にも精通しているわけではない。そこで君たちの出番だ」

切嗣「アイリ、君には錬金術を使って身体中に巣食う刻印虫を駆除してもらいたい」

切嗣「君なら血管よりも細いマイクロファイバー並みの糸も操れるだろう」

アイリ「でも、そのやり方じゃあの子の身体が持たないわ!」

切嗣「心配はないよ、アイリ。僕たちには”コレ”と、騎士王さまがいる」コト

セイバー「それは……『全て遠き理想郷』! 切嗣が所持していたのですか!」

切嗣「隠していて悪かった。だが、これは対マスター戦の切り札だからね。手に持ったカードはなるべく見せたくはなかったんだ」

アイリ「それで傷を治癒しながら、刻印虫を潰していく、っていう寸法ね」

切嗣「その通り。じゃあ、早速始めよう。舞弥、麻酔と医療機器の準備を」

舞弥「はい」

――――

切嗣「間桐桜の状態は」

舞弥「脈拍、血圧共に安定。麻酔が効いて、よく眠っています」

切嗣「『全て遠き理想郷』の埋め込みは」

セイバー「間違いなく」

切嗣「それでは、頼んだよ」

アイリ「……わかったわ」

ギィ……バタン

切嗣(危険さえ排除すれば間桐桜は価値あるカードになるだろう)

切嗣(彼女がこちらの手中にあるとわかれば恐らく間桐雁夜は令呪の消費も惜しまないはずだ)

切嗣(残った陣営はあと五つ、内バーサーカー陣営は完全にこちらの手駒……実質四陣営)

切嗣(そして今、キャスター討伐の指令が出されている……しかも何を思ったか僕のセイバーをジャンヌ・ダルクと勘違いしている)

切嗣(何もしなくても奴はこちらに挑みかかってくる。……ならば僕は協力する素振りを見せ他の陣営を横から叩くことだけに集中すればいい)

切嗣(偽造された敗退によって姿を隠しているアサシンは兎も角、令呪を一画喪失したアーチャー陣営、純粋に戦いを求めているライダーは恐らくキャスター討伐に積極的に参加する……)

切嗣(狙うとすればそのどちらか――)

「キャアアアア゛ア゛!!」

切嗣「!!」

切嗣「どうしたんだ!」バタン

アイリ「わからないわ! 刻印虫が暴れだしたと思ったら桜ちゃんも苦しみだして……」

切嗣「舞弥、麻酔は効いていないのか!」

舞弥「いいえ、先程まで間違いなく効果は見られていました」

セイバー「切嗣! これは一体――」

切嗣(まさか――!)

切嗣「体内の刻印虫が、麻酔を無効化しているのか……?」

アイリ「そんな!」

桜「や、あ゛、いだ、い、ああああああああ!!」

舞弥「切嗣、このままでは彼女の命が危うい、施術を一時中断しましょう」

切嗣「…………」

セイバー「切嗣――貴方、まさか!」

切嗣「施術は、続行する」

アイリ「そんなの無茶よ!」

切嗣「無茶? そんなはずはないよ。彼女には『全て遠き理想郷』が埋め込まれている。どれだけ失血しようと、どれだけ苦痛を与えられようと、死ぬことはない」

セイバー「正気なのですか!? だからってこんなに苦しんでいる少女を!」

切嗣「今ここで中止したとしても、刻印虫を排除しなければ根本的な解決は得られない。奴らが間桐桜の体内にある限り、何度やっても同じことだ」

切嗣「それに僕はさっきも言ったはずだ、セイバー。この蟲にどんな魔術的意味合いがあるか、僕たちには計り知れない。間桐桜がこの城を彷徨く度に、僕たちの陣営の情報が筒抜けになる可能性だってある!」

セイバー「くっ……それは……」

切嗣「……頼めるね? アイリ」

アイリ「……ええ」

セイバー「アイリスフィール……」

アイリ「セイバー、せめてこの子の傷が少しでもすぐに塞がるよう手を握ってあげて?」

セイバー「……はい」

切嗣「それじゃあ僕は城の外の哨戒、情報収集、今後の行動作戦の練り直しをする」

桜「う、あ、いやあああああああ!! いたいいたいいたいいたい!!」

切嗣「ここは、任せたよ」バタン

――――

ダンッ

切嗣「ッ! クソッ!」

切嗣「僕は、僕はまた――!」

切嗣「だが、これが僕の選んだ道。少の犠牲を以って、多の救済を成す、”正義の味方”という道……」

切嗣「はは、『正義の味方は泣いちゃいけない』、か。その通りだ」

切嗣「――”正義の味方”に涙を流す権利なんてない」


切嗣「……偶然にも僕は間桐桜を救出することに成功した」

切嗣「恐らく、宣戦布告通りにキャスターはセイバーを狙って僕たちに攻撃を仕掛けてくるだろう」

切嗣「それに対し、どう戦うか。>>137にご教授願うよ」

安価しといてなんだけど
正直言ってバーサーカー使えばキャスターは楽勝なんだよね

――――

切嗣「間桐桜の容態は」

アイリ「体内にいた刻印虫は全て除去したわ」ゴッソリ

アイリ「かわいそうに、あの小さな身体にこんなものをこんなに……」

切嗣「そうか」

舞弥「『全て遠き理想郷』の治癒の力で体のほうは傷一つ残りませんでしたが……」

切嗣「心、か」

舞弥「はい、自ら地下室に籠もり呼びかけても返事一つありません」

切嗣「それはこちらとしても好都合だ。『全て遠き理想郷』は今どこにある」

舞弥「こちらに」

切嗣「これはまた僕に埋め込ませてもらう。異存はないね、セイバー」

セイハー「……はい」ショホン

切嗣「……セイバー」

セイバー「はい……」ショボン

切嗣「この仇は、僕たちで取るぞ」ポン

セイバー「! はいっ!」アホ毛ピンッ

今日は寝ますネムイ(´・ωゞ)
また明日

おはよう
昨日ちょっと書きためた分を投下していくよ

アイリ「! 切嗣!」

切嗣「……敵襲かい」

切嗣「よし、総員で迎撃する。アイリは水晶球を」

セイバー「これは……キャスター!」

キャスター「」ニッコリ

アイリ「嘘……千里眼が見破られている!?」

キャスター「昨夜の約定通り、ジル・ド・レイ罷り越してございます」

キャスター「我が聖処女ジャンヌに、どうかお目通し願いたく」

セイバー「あの者……まだそんな戯言を!」

切嗣「こちらにとっては好都合だ。セイバー、迎撃しろ。場合によってはエクスカリバーの使用も許可する。ただし――まだ奴は殺すな」

セイバー「何故ですか切嗣! あれは、キャスターは、多くの罪なき命を奪っている。のさばらせておくわけにはいきません!」

切嗣「あれにはあれで、利用価値がある。いいかい、君は地の利を活かして逃げ回り、攻撃は威嚇か、相手の戦意を削ぐ程度にするんだ。決して殺すな」

セイバー「しかし……」

切嗣「……奴の残虐行為が気掛かりならば一時的に戦闘、及び宝具魔術の類を不可能とする状態まで追い込んでも構わない。だが、それが最大限の譲歩だ。キャスターは今後のために泳がせておく」

セイバー「くっ……」

切嗣「あくまでこれは聖杯を掴むための戦い。その過程で生じる小さな犠牲は、聖杯によって得られる救済に比べれば、微々たるものだよ」

切嗣「さあ、行って奴に――」

キャスター「あぁ、奉迎がありませんがお構いなく、私も時間を潰すための”玩具”を沢山用意いたしましたから」パチン

子どもA「え?」

子どもB「ここは?」

キャスター「ほーら子どもたち、鬼ごっこをしよう」

キャスター「鬼はこの私、そして捕まった者は……」ガシッ

子どもC「えっ、あっ、ぐえっ」ビチュ

子どもたち「「「う、うわあああああ!!」」」ダッ

キャスター「さてジャンヌぅ、貴方がここに辿り着くのと、私が子どもたちを全員捕まえるのと、どちらがはやいでしょうかねぇ!?」

セイバー「――ッ!」

切嗣(キャスター、余計なことをしてくれたな)

切嗣(まずい、今のセイバーはいつも以上に子どもの危機に過敏に反応する。そんなセイバーに、手加減なんておおよそ不可能)

切嗣「待てセイバー、落ち着け」ガシッ

セイバー「ッ! 行かせてください切嗣! 今あいつを両断しなければ騎士の名が泣く。今殺さなくては私の剣は後悔に鈍り、錆びついてしまう!」

切嗣(どうする……セイバーをこのまま向かわせ、キャスターを倒させるか、それとも――無理矢理にでも、命令を聞いてもらうか)

切嗣(僕にはそのための手段が与えられている――令呪。三回のみの強制命令権。その一画を消費すれば、セイバーの意志とは関係なくキャスターの命を奪うことを制約できる)

切嗣(だが、それをここで使用するべきか……)

セイバー「切嗣」

切嗣「?」

セイバー「貴方の中でどのような策略があるかは私にはわかりません。貴方がどのような計謀で他の陣営を一網打尽にしようと思案しているか私は知りません――だが」

セイバー「私がここでキャスターを斬り伏せ、その後残ったサーヴァントたちを打ち倒せば、貴方が汚い手で聖杯を掴む必要はなくなるはずです」

セイバー「……この剣に誓います。私は、必ずこの身一つでマスター、貴方に聖杯を捧げる。ですから――」

切嗣「キャスターを倒し、その上で他の英霊も正攻法で排除する……君はそう言いたいのかい。二兎を追って二兎を得るような、夢物語が、実現するとでも?」

切嗣「無茶だ。不合理で無謀だ。君も言っただろう。この戦争は正面から突き進んで勝てるほど甘くはない」

セイバー「それでも……切嗣、貴方は私を信じてはくれないだろうか? このアルトリアを――貴方のサーヴァントを」

セイバー「私と貴方は、道は違えど同じ夢を追い、焦がれる者。貴方にも、私の夢の有り様を見てもらいたい」

切嗣「それが、その夢が。呪いだとしてもかい」

セイバー「……はい」

切嗣「……わかった。戦闘は君に任せよう。その代わり、時間はかけるな。僕と同じ考えの者が、いないとも限らないからね」

セイバー「ありがとうございます、切嗣」タタタッ

自分なりのオチが見えてきたので安価少なくなるかもです

アイリ「切嗣、どうしてセイバーを行かせたの?」

切嗣「アイリは不服かい?」

アイリ「ううん、そうじゃないわ……ただ、いつものあなたなら絶対にそうはしなかったはずよ」

切嗣「……僕はね、ただもう一度見てみたくなったんだ」

切嗣「目の前にある全てを、余さず救済する……そんな理想の正義の味方を。僕が幼い頃懐き、そして、自ら捨ててしまった、叶わぬ夢を……」

切嗣「セイバーは過去の僕そのものだ。僕と同じく呪いを抱えながら、それでも夢を諦めない……そんな彼女の清廉で、潔白で、真っ直ぐな瞳に、僕も毒されてしまったのかもしれない」

アイリ「切嗣――ッ!」ドクン

切嗣「アイリ、まさか」

アイリ「ええ、新手のようね」スッ

切嗣「! そんな!」

切嗣(最悪だ。僕が最も恐れ、最も会いたくなかった男が――すぐそこまで来ている!)

切嗣「言峰――綺礼!」

――――

セイバー「キャスター、どこだ!」ザザッ

キャスター「お持ちしておりましたよ、ジャンヌぅ」

子どもD「ひぃっ」

セイバー「その子を放せ、外道!」

キャスター「お喜びなさい、正善なる神の御子がぼうやを救い出しに来てくれましたよ? さあ、お行きなさい」

子どもD「う、うわあああん!」ダキッ

セイバー「……怖かっただろう。もう心配はない、このまま走れば先に城がある。そこで――」

子どもD「うっ、うっ、ウッ、ヴッ、ヴヴッ」モゴッ

ビチャ

海魔「キシャアア……」シュルル

セイバー「――ッ!」

キャスター「申し上げておいたはずですよ、ジャンヌぅ。次に見(まみ)えるときはそれ相応の準備をしてくる、と」

セイバー「……よくわかった。よもや貴様と聖杯を競い合おうなどとは思うまい!」ビシュン

海魔「」グチャ

セイバー「貴様とは一刻でも剣をかち合わせる価値などない! 一振りを以って、肉の一片、血の一滴も残さず消し飛べ!!」

セイバー「『約束された――勝利の剣』ッ!!!!」ゴオッ

キャスター「おお……これぞ我が求めていた光――」ジュッ

――――キャスター/青髭ジル・ド・レイ、セイバーの逆鱗に触れ、敗退。

――――

切嗣「言峰綺礼。代行者であり八極拳の使い手。狭い室内での戦闘はこちらが圧倒的に不利」

切嗣「致し方ない。僕が森で奴を足止めする。舞弥はアイリを連れてここから脱出しろ。僕やセイバーとは別方向に」

舞弥「はい」

アイリ「でもそれじゃあ切嗣が――」

切嗣「どうせいつかはやり合う相手だ。ここで僕とあいつの決着をつける。それに、いざとなればセイバーを令呪(こいつ)で召喚すればいい」

アイリ「アサシンだってまだ残っているんでしょう? あなたが単身で挑むなんて自殺行為よ!」

切嗣「それでも、あいつが来てしまった以上。僕らも、迎え撃たないわけにはいかない」

アイリ「そうは言っても……」

切嗣「勝機がないわけでないさ。アイリ、兎に角君は自分の脱出のことだけを考えていればいい――舞弥、ここは頼んだよ」タッタッ

アイリ「切嗣……」グッ

――――

切嗣「はぁ、はぁ」ザッザッ

切嗣(ああは言ったものの、正直なところ僕はまだ奴との戦闘は避けたかった)

切嗣(素性がまったく見えない。言峰綺礼――あいつは何が目的なんだ)

切嗣(このまま戦うには、奴はあまりに危険過ぎる)

切嗣「!」ササッ

ザッ……ザッ……

切嗣(言峰綺礼……! 距離はおおよそ五十メートル強、コンテンダーでの狙撃も不可能ではない距離――)

綺礼「衛宮――切嗣」

切嗣「ッ!?」

綺礼「やっと見つけたぞ。やっとだ。私はずっと、ずっとお前を探し続けてきた」

綺礼「思えば、私はこうしてお前と相対するためにこの聖杯戦争に身を投じたようなものであった」

綺礼「さあ、教えてくれ。お前は何を望み、何を求める。そこに私の欲する答えはあるのか」

切嗣(この距離で僕の気配を察知した……馬鹿な! 言峰綺礼、お前は一体、何者なんだ!?)

切嗣(位置を読まれている以上、コンテンダーによる奇襲は無意味……ならばキャリコによる多方面からの弾幕で撹乱――駄目だ。あいつは身も心も只の魔術師とは一線を画している、そんなものが通用する保証はない!)

大粒の汗が切嗣の身体から滲み、溢れ、流れ出る。

死との対面。長らく戦場を離れ、アインツベルンで平和な時を享受していた切嗣にとって、それは懐かしい感覚でもあった。

右手にはキャリコを握り、左手はジャケットの奥のコンテンダーを触れながら、衛宮切嗣は模索する。

緊張と焦燥の雫一粒が、切嗣の顎を滴り地面に落ちた。

切嗣(落ち着くんだ衛宮切嗣。落ち着くんだ『魔術師殺し』。僕はいつも通り無慈悲に引き金を引けばいい。僕はいつも通り無感動に対象を銃殺すればいい)

切嗣がゆっくりと伸ばした人差し指をキャレコのトリガーにかけていく。

戦いが、始まる。

ザッ――

切嗣(あと三歩。奴があと三歩近づいたら掃射を開始。距離を取りながら森を逃げまわり、防御の体勢を見せたら起源弾を打ち込む)

ザッ――

切嗣(あと二歩……)

ザッ――

切嗣(一……!)

ビシュン!

綺礼の足が草を踏み分ける直前、切嗣が飛び出す寸前。空気が破裂するような甲高い音とともに、.300ウィンチェスターマグナム弾が、神父の目前を掠めた。

綺礼「何っ!?」バッ

綺礼は身を翻し、射線の元を探る。

綺礼(狙撃者か?)

しかし、この暗い森に射手の気配はない。否、もし綺礼の命を狙う輩が潜んでいたとすれば、獣よりも鋭い代行者の直感が直ぐに綺礼にそれを知らせていたことだろう。

それでも、どこからともなく次弾が飛んでくる。

二発目は神父の頬を、三発目はケプラー製の僧衣を破り右腕の薄皮を一枚切り裂いた。

綺礼(精度が徐々に上がってきている)

四発目。

発射角度、弾道を見切り、綺礼は身を開き凶弾を躱す。

ライフルによる狙撃の回避――常人離れした業だが、脅威の反射神経と身体能力がそれを可能にした。

だが。

綺礼「ぐぅっ……!?」

それすら嘲笑うかのように、その弾丸は屈折し、ついに言峰綺礼の右肩を貫いた。

綺礼「馬鹿な……!」

そう、これはあり得ないことだ。

普通に考えれば、銃弾の弾道は曲がらない。

切嗣(何が起こっているんだ?)

樹木の影に身を隠した切嗣も、この状況に戸惑いを隠せなかった。

綺礼「――ちィッ!」カァン

再び綺礼を射殺さんと発射されたライフル弾を、彼は先程とは異なった方法で回避する。

黒鍵。

鋭い両刃の短刀をぶつけ、銃弾を弾き落としたのだ。

綺礼「これは魔力伝導率の高い銀の弾頭――錬金術の手の者か」

切嗣(錬金術……まさか!?)

――――

舞弥「マダム、今度は弾を防がれました」

アイリ「そのようね、スナイパーライフルの弾丸を弾くなんて……ますます危険な男だわ――言峰綺礼!」チャキ

そう言いながら夫の愛銃、ワルサーWA2000を構えるのはアイリスフィール。

驚くべきことに、先の五発の銃撃は全て彼女が行ったものである。

彼女たちが陣取る場所は、城とは言えど周囲を鬱蒼とした森に包まれており、見晴らしが良いとは決して言えない。

更に言えば、綺礼の現在位置は、WA2000の射程範囲を軽く越えるものであった。

切嗣が穴熊を決め込まなかった理由が、それらの地理的条件だ。

しかし、本職の暗殺者ですら敬遠させたその無理難題を解決させた要因の一つが、アイリスフィールのすぐ側に置かれた水晶球だ。

千里眼の魔術によって言峰綺礼の位置を特定、そこから逆算して狙撃。

無論、直接的に狙いを定めているわけではないので、通常よりも命中率が落ちるが、結果としてこの無茶な賭けは大成功の域に達していると過言ではない。

また、アイリスフィールが銀から錬成した特製の魔弾も功を奏した。

生み出した物質の特性を強化、変化、もしくは物質そのものを操作する錬金の魔術が、射程距離の延長、発射後の弾道補正などの効果に遺憾なく発揮された。

prrr

舞弥「はい」

切嗣「舞弥、アイリは今何をしている!?」

アイリ「貸して、舞弥さん……切嗣、聞こえる?」

切嗣「どういうことだい、アイリ。僕はすぐさまその場から撤収するよう、指示したはずだ!」

アイリ「聞いて、切嗣。私と舞弥さんで決めたのよ。私たちであなたを守る、って」

切嗣「そんな馬鹿な!」

アイリ「自分でも馬鹿なことだとはわかってはいるわ……でもね――」

アイリ「切嗣が変なフラグを建てる前に敵を倒すって決めたのよ。それが例え死亡フラグでも、へし折ってみせるわ!」

切嗣「アイリ!? 一体何を――アイr」ピッ

アイリ「覚悟しなさい、言峰綺礼。次は当ててみせる。私の夫に、指一本触れさせないわ!」チャキ

――――

カラン

狙撃から免れるため、一本の大木に背を寄せた綺礼が、銃弾との衝突で剣身が欠損した黒鍵を投げ捨てた。

綺礼(魔力を持った者による支援攻撃……衛宮切嗣に協力者がいるということか)

綺礼(厄介だが、ここはアサシンを使って――)

体勢を立て直そうと僧衣に忍ばせた黒鍵に手を伸ばした瞬間、綺礼の聴覚は発砲音を捉えた。

綺礼(ッ! ここまで!)

言峰綺礼は宿敵、衛宮切嗣との邂逅に意識を取られ、完全に姿の見えぬ狙撃手を侮っていた。

慎重な綺礼が、珍しく見せた油断。

彼はそこを見事に突かれた――曲折する弾丸に。

カァン!

しかし、銀の弾丸は獲物に当たることなく、黒い影によって難なく払われた。

アサシン。

闇に溶け込む黒色の肌に、髑髏の仮面、長髪を後ろに縛った群たるサーヴァントの一角が、ダガーによってマスターを襲う凶弾を切り捨てたのだ。

アサ子「マスター、こちらにセイバーが向かっております。これ以上ここに長居するのは危険かと」

綺礼「くっ、時間切れか……いいだろう、衛宮切嗣。次に会った時は間違いなく私がお前を倒そう。それまで、誰にもやられてくれるなよ」タッタッタッ

切嗣「――ふう……」クタ

切嗣(帰ってアイリたちにお説教……と言いたいところだけど今回ばかりは助けられてしまったようだ)

――――

舞弥「……言峰綺礼が戦線を離脱しました」

アイリ「そう……良かった。急拵えだったから弾も一マガジン分しか……作れ……」バタッ

舞弥「マダム!? マダム!!」

今日はここまでです
早いとこ次の安価いきたいですね

セイバーは見せ場ころしだな
エクスカリバーが強すぎるから仕方ないが

いや言峰とここで話し合っておけば愉悦愉悦言い出す奴にならなかったんじゃないか?

>>168
でも書いてる側からすると戦闘がすぐ終わるので楽っちゃ楽です

>>169
原作でもこの時点でケリィは麻婆のことを『絶対にかち合いたくない難敵』と見なしてますからね
それに四次の殺伐とした雰囲気じゃあマスター同士で話し合いなんて無理だと思います

――――

切嗣「アイリが倒れた」

切嗣「僕には隠していたが、どうやらランサーが倒されたときから身体は不調をきたしていたらしい」

切嗣「こんなにも早く聖杯化が進んでいたとはね……」

切嗣「セイバーに対するヤキモチも、今際の際に少しでも僕に構ってほしいという気持ちと、僕に迷惑を掛けたくはないという気持ちの葛藤の末、だったと」

切嗣「舞弥に言われるまで、気付きもしなかった」

切嗣「アイリ……君はそんな身体で、君を死なそうとする男を守ったのかい……」

切嗣「……クソッ! 僕には泣く権利なんてない……僕には、僕にはアイリのために涙を流す権利なんてないんだ……!」

切嗣「しかも、こんなときに限ってライダーが現れ『聖杯問答だ』だと?」

切嗣「ふざけるな! 少しは空気を読め征服王!」

切嗣「……しかし、敵の情報は少しでも多い方がいい。僕の見立てではライダーはまだ切り札を隠している」

切嗣「>>175、君に一任した。僕は少し、疲れてしまったよ」

腹を決めて聖杯問答に参加する

――――

切嗣(……ああ、確かに『勝手にしろ』とは言った)

ソンナモンモノハオウノアリカタデハナイ

切嗣(情報収集のためセイバーが参加することも許可した)

ナゼイブカル? ナゼワラウ?

切嗣(そのために庭園も提供してやった)

オウタルモノナラバ、ミヲテイシテオサメルクニノハンエイヲネガウハズ

切嗣(だが、だが何故――)

ソレハボウクンノチセイデハナイカ

切嗣(僕までこれに参加しなければいけないんだ!?)

タダシキトウセイ、タダシキチセイ、ソレコソガオウノホンカイダロウ!

切嗣(それに黙って聞いていれば……!)

切嗣「おい征服王、これ以上僕のサーヴァントを辱めるのはやめてもらいたい」

セイバー「切嗣ぅ」ウルウル

ライダー「ほう、この小娘のこととなると感情的になるな若造。もしや、お主この騎士王を好いておるのか?」

セイバー「えっ、す、好いて……///」

切嗣「断じて違う。僕はお前の言う王道なんていう出鱈目で馬鹿げた理屈が気に入らないだけだよ」

セイバー「」ガーン

アーチャー「ふん、吠えるなよ雑種。……そこまで言うのであれば我に示してみせろ。貴様が思う、真に正しき道筋、道理というやつをなあ」

ライダー「此は聖杯問答、聖杯を求まばその問いに答え、道を呈してみせよ。『真に聖杯を掴む資格を持つものは何者なりや?』」

切嗣「……少なくとも」

切嗣「少なくとも僕は、自らの欲望のためだけに甘言で人々を誑かし、多くの戦場を血に染めてきたような”王”だの”英雄”だのというものに聖杯を掴む資格はないと考えている」

切嗣「僕は英雄が嫌いだ。さも戦争に道理があるかのように嘯き、さも戦場に華があるように騙り、人を地獄へと駆り立てる。それが尊い尊い英雄さまのお仕事だからね」

切嗣「お前は僕に質問したな、”真に聖杯を掴む資格を持つ者は何者か”と」

切嗣「そんなものは初めからわかりきっているだろう。聖杯を掴むのはこの聖杯戦争を勝ち抜き、生き残った者のみ」

切嗣「そのためならば僕は英雄であろうと利用してみせるし、英雄であろうと殺してみせる」

切嗣「もし聖杯が王に授けられるだとすれば、僕は間違いなく他の王を殺し、僕だけが玉座に座すだろう。邪魔するものはただの一人も残さず――殺す」

切嗣「殺すことでしか前に進めない――僕は僕に与えられた手段で聖杯を掴む……それだけだ」

アーチャー「ハッハッハッ! 王道を否定し、外道を往く、と。心の有り様など一切合財を棄却し、ただただ求むもののために殺し、奪う――まあ少なくともそこな小娘よりかはマシ、といったところか」

アーチャー「殺し合い、奪い合いは人間の本能であり本性だ。ある意味では貴様の道理はまさに人間の正道だな、雑種」

ライダー「然り。外道もまた道、お主がその覇道を突き進むというなら、何も文句はあるまい。だがなあ……」

ライダー「そこまでしてお前が聖杯に、万能の願望機に望むものは何だ? よもや金や名誉などという些事ではあるまい」

切嗣「……僕が望むものはただ一つ。全ての闘争の終焉、恒久的に平和な世界。それだけだ」

アーチャー「……貴様、まさか本気でそんな戯言を発しているのか?」

アーチャー「闘争とは自然淘汰であり、全てを動かす時針だ。強者は繁栄し、弱者は淘汰される。弱者が血を流すからこそ歴史は動き、強者が嗤うからこそ時は流れる。それを消し去れば万物は永遠に動かぬ……そのような退屈な世界を求めるなど、笑い話にもならんな」

ライダー「アーチャーの言う通りだ。戦いのない世界なぞ永遠の停滞、地獄にも劣るわい! 栄華も、夢も、渇望も! 全て闘争から生まれる現し世の華。それらを消し去るなぞ正気の沙汰ではない!」

切嗣「お前らに理解されたいなどと僕は少しも思わない。血のこびり付いた戦場を、屍肉を踏みながら我が物顔で歩くお前たち英雄にはね……!」

セイバー「ライダー、アーチャー! 我が眼前でマスターを侮辱するのはこの騎士王が許さない!」

セイバー「切嗣は私に語ってくれました、自らの境遇と、その理想を――」

――――

切嗣『セイバー、まだ子どもを救えなかったことを気にしているのかい』

切嗣『……セイバー、初めて会ったときから君と僕は似ている気がしてならなかった』

切嗣『奇しくも僕たちは同じく肉親を殺している』

切嗣『父親を殺したときから僕の絶望は始まり、息子を殺したときに君の希望は潰えた』

切嗣『……僕はね、本当は君のような正義の味方(ヒーロー)になりたかったんだ』

切嗣『困っている人がいればすぐに現れて救済する、そんな正義の味方に……』

切嗣『でも僕はなれなかった。できなかったんだ。島に住む何百人の人はおろか、たった一人の少女を救うことすらも……』

切嗣『そのとき気がついたんだよ。誰かを救うということは、誰かを見限るということに』

切嗣『気がつけば、一人でも多くの人を救うために、一人でも少ない方を殺すという、命の選定を行っていた』

切嗣『それが、僕がなれた唯一の”正義の味方”という在り方だったからね』

切嗣『でも、それすら難しくなったんだ。ただの天秤であるのにも、冷酷な正義の味方であるのにも、僕はあまりに人間過ぎた』

切嗣『だから、僕は聖杯に託すことにしたんだ。唯一変わらない、闘争の終結という僕の夢を――』

――――

セイバー「確かに切嗣のやり方は目に余るものがあります。しかしその奥にある理想は正義そのものに他ならない」

セイバー「お前たちも元は人であればわかるだろう。誰もが傷つかず笑って暮らせる世界を、平和を、誰しもが夢見るはずだ。そのために切嗣が流した涙を、血を、何故訝しむ、何故笑う」

切嗣「…………」

聖杯問答を切嗣にやらせるのは難しいですね
キャラ崩壊してたらすまん

ライダー「……マスターサーヴァント共に平行線、か。致し方あるまい。まあ呑め、今宵は宴だ。そこの窓から我がマスターを狙う者もな」

切嗣「!」

ライダー「余が何の警戒もせずマスターを敵陣に放ると思うか? まあ良い、ここは大人しくしておけ。お主も無駄に余らとかち合わせたくはないであろう」

切嗣(舞弥の狙撃が読まれていたか。連日でエクスカリバーを使用したのが響いて残存魔力も心許ないことも、恐らく奴には読まれている)

ライダー「それに来客はこれだけではないぞ?」

切嗣「何?」

ライダー「おぅい! アサシン共よ! この盃を手に取り、余と語り合おうという者はおらぬか!? この酒は貴様らの血と共にある!!」

切嗣「アサシンだと!?」

アサシンズ「「「…………」」」ゾロゾロ

切嗣(不覚だった……『気配遮断』。先程の戦闘で防護魔術が綻んだこの城は、奴らにとって付け入るには格好の餌食)

スパッ

柄杓「」ポロン

アサシンズ「「「クスクスクス……」」」

ライダー「……この酒は貴様らの血と共にあると言った筈だ。どうやら、己の血肉を地べたにぶち撒けたいらしいな」スッ

ライダー「セイバー、これが最後の問いだ。『王とは孤高や、否や?』」

セイバー「決まっている……王とは、孤高であるしかない」

ライダー「……否。王とは孤高ではあり得ない。刮目せよ! これが余が貴様らに示す真の王道、『王の軍勢』なり!」カッ

――――

切嗣「アーチャーとライダーはアサシンを屠った後なにもしないまま帰還した」

切嗣「ポンコツ王は好き勝手言われて不機嫌なままだ」

切嗣「本当に何をしに来たんだか、あいつらは……」

切嗣「しかしこちらが得たものは大きい」

切嗣「――『王の軍勢』、確かに規格外の宝具だ」

切嗣「だがその正体さえ掴めれば、対策は可能」

切嗣「ランサー、キャスター、アサシンが倒れ、そしてアーチャーとライダーの真名と宝具が明らかになった今、残るは手強いあの二体のサーヴァントを倒すだけ……」

切嗣「最終決戦だ。アイリ、僕は何としてでも悲願を達成するよ。だから君はせめて……安らかにその時を待っていてくれ」

ピッ

切嗣「間桐雁夜、頼んでおいた任務は完了したか」

雁夜「ああ……だが、あんなことに令呪を二つも使う意味があったのか……?」

――――

カツ、カツ

綺礼「父上、お呼びでしょうか?」

璃正「…………」

綺礼「父上?」

璃正「……、……!」

綺礼「ちち――」

ドスッ

綺礼「ゴフッ――貴様は――!」

璃正?「……■」シュウウウ

バーサーカー「■■■■■■■!!」

ドサッ

璃正「」

綺礼「父上……! お、のれ……私は……こんなところで……」バタッ

――――

切嗣「ふっ、意味はあるさ。僕にとっては、ね」

雁夜「チッ……まあいい、こっちは言われた通りにした……桜に会わせるという約束は果たしてもらうぞ……!」

切嗣「ああ、今夜アイツベルンの城に来い。念のため、バーサーカーは森の外に待機させておくんだ」

プツッ

切嗣「言峰綺礼……悪いが僕は、お前と面と面を合わせて戦うつもりはない。これが、僕のやり方なんでね」

切嗣「これで厄介な敵は片付いた。明日、明日だ。明日僕は全てに勝利し、聖杯を得る」

――――

切嗣「ふう……」プハー

雁夜「衛宮切嗣……!」

切嗣「……随分と早いな、間桐雁夜」

ボトッ

綺礼の右手「」

雁夜「御託は要らない……さっさと桜に会わせろ……」

切嗣「いいだろう、ついてこい」

カツ、カツ

雁夜(……こんなところに桜ちゃんが? これじゃあまるで――地下牢じゃないか)

切嗣「ここだ」

ギィィ

雁夜「! 桜ちゃん!」ダキッ

雁夜「良かった……本当に良かった……!」ギュウッ

桜「……おじさん……」

雁夜「なんだい、桜ちゃん」

桜「おじさん――だあれ?」

雁夜「!?」

雁夜(どういうことだ……? いや、今の桜の様子は一見しておかしい。見るからに痩せこけて……)

雁夜「桜ちゃん、俺だよ。間桐雁夜、雁夜おじさんだよ……」

桜「わかんない……どうして桜がこんなところにいるのも……」

雁夜「あ……ああ……!」

桜「おじさんは……桜に酷いことする?」

雁夜「ッ! 衛宮切嗣! これはどういうことだ!?」ガシッ

切嗣「どうやらショックで記憶を失ってしまったようだな」

雁夜「ショックだと!? 貴様、桜に何をしたァ!?」ギリギリ

パシン

雁夜「くッ!」

切嗣「それを君に教える義理は僕にはない。……時間だ。次に会うのは僕が聖杯戦争に勝利した後だ」

雁夜「クソッ……」

切嗣「安心してくれ、戦争さえ終わればその子は用済み……永遠に君のものだ」

ギィ……バタン

雁夜「……衛宮――切嗣」ギリッ

――――

切嗣「お膳立ては終わった」

切嗣「あとはライダーにはセイバーを、アーチャーにはバーサーカーを倒してもらう……それで全てが終わるんだ」

切嗣「明日流す血を、人類最後の流血にしてみせる」

切嗣「思えば、怖いほどに上手く事が進んでいるな」

切嗣「それもこれもセイバー、アイリ、舞弥、そして君たちのおかげだ」

切嗣「さて、>>200。何か僕がやり残したこと、やり忘れたことはあるかい?」

切嗣「時間は少しだけ残されている……残されているからこそ予断なく、明日に備えたいんだ」

切嗣「戦況が変わってしまってはまずいからアーチャー陣営、ライダー陣営、バーサーカー陣営に関することは避けて貰えるとありがたい」

最終決戦に移る前に間桐臓硯の抹殺を行う

切嗣「セイバー」

セイバー「何ですか切嗣」ブスー

切嗣「仕事だ、行くぞ」

セイバー「イヤです。お腹が空いて私は動けません」ゴロゴロ

切嗣「やれやれ、ハラペコ騎士王さまは自分で立てた剣の誓いすら忘れてしまったのかい?」

セイバー「! まさか」

切嗣「……間桐臓硯を抹殺する」

セイバー「ほら、早く行きますよ切嗣!」キリッ

切嗣「…………」

――――

臓硯「ふぉっふぉっふぉ、やはり来たか、若造どもめ」

切嗣「自ら待ち構えていてくれるとはな。礼を言う、これで手間が省けた」チャキ

セイバー「覚悟しろ、外道!」

臓硯「はて……儂は貴様らに殺される筋合いはないのだがのう」

切嗣「理由をお前に教える筋合いもない」

臓硯「ふん、どうせ雁夜(あのやくたたず)の差金であろうて……」

臓硯「さて、貴様らに儂が殺せるか? 若造」ウゾゾゾゾ

切嗣「残念ながらこっちには英霊がついているんでね」

セイバー「フシャー!」

臓硯「ほう……儂の記憶が正しければ戦争に関係のないものを巻き込むのはルール違反だったはずだがのう」

切嗣「僕を前にそんなことを言うとはね。お前も知らないわけではないだろう、『魔術師殺し』の異名を」

切嗣「それに、今この戦争は監督役が機能していない……”何故か”ね」

切嗣「障害となりそうな芽は摘んでおくに越したことはない……お前には消えてもらうよ、間桐臓硯」

臓硯「障害? 桜のことか? 貴様らが浚い、蟲を殺したのであろう。あれはもう苗床にすらならん。そんなものに興味なぞない、取り返すつもりもないわ」

切嗣「そんな戯言に僕が耳を貸すとでも?」

臓硯「やれやれじゃ……最後に忠告しておくぞ、若造。雁夜を信じるな。奴とて間桐の血を色濃く受け継いだものじゃからのう」

切嗣「……生憎、道具は盲信しない主義でね――殺れ、セイバー」

セイバー「少女を苦しめた罪をここで償え!」ズバッ

臓/硯「」

切嗣「帰るぞ、セイバー」

セイバー「はい!」スッキリ

――――

臓/硯「…………」ウゾゾゾ

臓/硯「まったく……また身体を新調しなくてはの……」

臓/硯「だが、あ奴はなかなか面白いものを見せてくれそうだ……せめて惨たらしく散らされろよ、雁夜。クク、ククククク……」

殺しきれて無いですやん

>>209
そうなんですよね
でも本体探してとかやってるとそれだけで長くなりそうなので……
まあ、切嗣本人は抹殺したと思い込んでいるのでいいかなと

何故にブッパしなかったのか、って魔翌力きついのか

どうでもいいけど雁夜って別に桜の為だけに戦ってたわけではないよね
時臣殺したいとか葵さん俺の物にしたいとかそんなのもあったよね

>>213
そうです
ケリィ的には決戦前は省エネでいきたいと思うはずなので

>>214
それも踏まえてアーチャーにはバーサーカーをぶつけようと考えてます

描写ないのでわかりづらいかもしれませんが時臣を殺す前に綺礼が死んでいるのでアーチャーのマスターは優雅おじさん続投です

マスターで死んでるのが綺礼だけとか

ケイネス先生は出番少なかったけど原作より絶対幸せになれたよね
龍之介は1度も出番なかったな

今回一番の幸せ者はケイネス先生かもな

>>217 >>218
この切嗣はセイバーの影響で原作よりも甘ちゃんになってますからねえ
ケイネス先生は原作がひどかったから……

多分今日はここまでです
量的には明日明後日で完結かな?
お付き合いありがとうございます

>>197
ライダーの勝利になってるでござる

>>223
あっ、本当だ……

すみません、>>197

切嗣「あとはセイバーにはライダーを、バーサーカーにはアーチャーを倒してもらう……それで全てが終わるんだ」

に修正でお願いします

こんばんは
ブルスク様が降臨しました
これもアンリマユの呪いなのでしょうか

――――

コンコン

切嗣「起きているかい、アイリ」

アイリ「きり、つぐ……」

切嗣「舞弥、少し席を外してくれるか」

舞弥「はい」ガチャ

切嗣「――行ってくるよ。行って、勝って、僕はすぐに帰ってくる。だから、待っていてくれるね、アイリ?」

アイリ「ふふ……だめよ……私はもう……しゃべるのも……精一杯なんだから……」

アイリ「きっと……あなたが他のサーヴァントを倒しきっている頃には……もう私は……アイリスフィールという存在は……機能しなくなっているでしょうね……」

切嗣「……どうしてそんなことを言うんだい。きっと、きっと君を待たせないから……だから……!」

アイリ「ねえ、切嗣……」

切嗣「なんだい、アイリ?」

アイリ「あり、がとう……私を……こんなホムンクルスの私を最後まで愛してくれて……」

切嗣「――! ああ、アイリ……」

アイリ「私は……幸せだったわ……だから……」スッ

アイリ「泣かないで切嗣……それは……あなたが平和な世界を勝ち取ったときまで……とっておいて……」

切嗣「……わかったよ。ありがとう――そして、さようなら、アイリ」

――――

切嗣「いるな、セイバー」

セイバー「はい、切嗣。こちらの準備は万全です」

ピッ

切嗣「時間だ、間桐雁夜。君の望み通り、アーチャーは君に任せる。指示した通りに確実にマスター、サーヴァントともに潰せ」

雁夜「ああ……わかっているよ」

切嗣「さあ……行くぞ」

――――

雁夜「ああ……わかっているよ」ピッ

ザッ

時臣「やはり君だったか、このような巫山戯た果たし状を寄越したのは。……間桐雁夜」ピラッ

雁夜「遠坂――時臣ィィィ!」ビキビキビキッ

時臣「ふっ、哀れだな。これではどちらが狂戦士かわからない……英雄王、私はマスターの相手を」

アーチャー「よかろう、遊んでやるといい。――さて、またあの曲芸を我に披露するつもりか、狂犬?」

バーサーカー「■■■■■■■……!」

時臣「変わり果てたな、雁夜」

時臣「私は、お前のような者が許せないのだ。魔導の義務を打ち棄て、その責任から逃れた落伍者。魔術師の面汚し……!」

時臣「ただただ凡俗に堕ちたというのであればまだ許す余地もあったが……お前は何の臆面もなくこの地に舞い戻り、あろうことか魔術師同士の秘術の競い合いである聖杯戦争に闖入し、平然と私の前に立っている」

時臣「私にはその厚顔無恥な振る舞いが度し難い……これは私からのせめてもの温情だと思え。お前は私が手ずから下そう」

雁夜「言いたいことはそれだけか、遠坂時臣……今度はこっちから質問だ」

雁夜「どうして桜を臓硯の手に委ねた……?」

時臣「何? それは今ここで君が気にかけるべき事柄か?」

雁夜「答えろ……時臣!」

時臣「……答えるまでもない。愛娘の未来に、幸あれと願ったまでこと」

雁夜「何だと……?」

時臣「二子を設けた魔術師は、いずれ誰もが苦悩する。秘伝を伝授しうるのは一人のみ。いずれか一人は、凡俗に堕とさなければならない、というジレンマにな」

時臣「とりわけ我が妻は母体としては優秀すぎた。凛も桜も共に等しく稀代の素養を備えて生まれてしまったのだ」

時臣「娘たちは二人が二人とも、魔導の家門による保護を必要としていた。もう一人の未来の為に、もう一人の秘め持つ可能性を摘み取ってしまうなど……親として、そんな悲劇を望むものがいるものか」

雁夜(凡、俗……あの遠い日の母と子の姿を、この男はただ凡俗とだけ切り捨てるのか……!?)

時臣「姉妹双方の才能について望みをつなぐには……養子に出すしか他にない」

時臣「だからこそ、間桐の申し込みは天恵に等しかった」

雁夜「お前は……狂っている!」

時臣「はあ、言って聞かせるだけ無駄だったな。魔導の道に背を向け、逃げ出した裏切り者には……」

雁夜「ほざけェ!!」

雁夜「俺は貴様らを許さない……薄汚い魔術師どもめ……!」

雁夜「殺してやる……殺してやる!!」

バーサーカー「■■■■■■■!!!!」

バーサーカー「■■、■■■!」ガンッギンッ

アーチャー「ハハハハ、踊れ、踊れぇ!」ビシュンビシュン

バーサーカー陣営とアイーチャー陣営の因縁の対決が、雁夜の怒号とともに始まる。

マスターの怒りに反応したバーサーカーが雁夜の魔力を吸い上げ、暴走にも近い戦闘を開始した。

身一つでアーチャーを縊り殺さんと駆けるバーサーカー、その姿はまさに”狂犬”に他ならない。

対して英雄王は動かない。

身動ぎ一つせず――宝物庫を開く。

次の瞬間、無数の宝具の原典が黒い騎士に牙を剥き、黄金の矢となって射出された。

その速度たるや、以前コンテナ置き場で見せたそれとは比にもならない。

それだけ、アーチャーがバーサーカーを、確かな殺意を持って殺すべき敵と認識したということだ。

だが、バーサーカーもそれに引けを取らない。

次々に飛び来る剣、槍、斧の数々を取り替え取り替え手にしながら金矢を弾き、叩き、落としていく。

掴んだものを自らの宝具化するスキルは、絶妙に英雄王ギルガメッシュの『王の財宝』に対し効果をあげていた。

アーチャー「またその下賤な手で王たる我の宝物に触るか、雑種!!!!」ギュウウ

怒りを露わにし罵声を浴びせるアーチャー。しかしその心中には焦燥に近い感情が生まれ始めていた。

唯我独尊にして傲慢な英雄王が、能力の相性を以って押されつつある。

目前を邁進勇往する正体も知れぬ黒い獣に理解し得ない何かを、アーチャーは微かに感じた。

だがそれも一瞬。すぐに自らの自尊心を侵された怒りが、アーチャーの心中を支配した。

アーチャー「八つ裂きになり、負け犬のように地に伏せよ、雑種がァ!!」ビシュン

膨大な数の宝具の一斉、同時発射。点ではなく、面での攻撃。

まさに逃げ場のない弾幕がバーサーカーに迫り、そして――

音、音、音。

数えきれないほどの爆音と爆煙が二体の英霊の周りを包み込んだ。

時臣「……話にならないな。散々息巻いておきながら、その程度か」

雁夜「うぐあ……がっあ……」

雁夜の周囲から時臣目掛け突撃していく蟲は『翅刃虫』。

牛骨すら噛み砕くその蟲の大群使役こそが間桐雁夜の唯一の魔術であり切り札であった。

しかしそれすらも怨敵の喉元に届くことはない。

遠坂時臣の魔術師としての属性は炎。無論、行使する魔術は炎そのものだ。

雁夜の蟲は、時臣の炎には絶望的に相性が悪かった。

事実、雁夜が全身の魔術回路まがいの刻印虫を励起させ渾身の力で使役させている翅刃虫ですら、無情にも時臣の炎壁の前に燃え尽きていく。

雁夜「がはっ……」

体内の刻印虫が蠢き貪る激痛に、雁夜は膝をつく。

それに伴い、蟲の行軍もピタリと止まる。

時臣「もう終わりか……呆気無いものだな。ここまで間桐の零落振りも甚だしいものになっているとは……」

時臣「せめてここで眠れ、雁夜」ボウッ

時臣が自らの礼装である赤い魔宝石のついたロッドを振りかざすと、火球が生まれる。

雁夜「クソッ!」

雁夜は飛来するそれを紙一重で躱す。

そして、もう殆ど自らの意志で動かなくなった身体を引きずりながらも、一歩一歩這うように、蛞蝓のように、物陰に隠れた。

雁夜「ハァ……ハァッ」

カツ、カツ

時臣「また逃げるのか。お前は臆病者だ」

カツ、カツ

時臣「自身の責務から目を背け、放り投げ」

カツ、カツ

時臣「ただただ怯え、隠れているだけで、何も成すことのない、臆病者だ」

雁夜「――ッ!」

雁夜「……時臣、最後にもう一つ、お前に質問がある」

時臣「まだこの期に及んでそのようなことを――」

雁夜「もし! もし、お前が良かれと思った選択のせいで! お前が尊いと信じて止まない魔導のせいで! 自分の娘が苦しめられていたとしたら……虐げられていたとしたら。お前は……どうする、遠坂時臣?」

時臣「……答えるまでもない」

時臣「魔導によって与えられる苦難であればそれは一級の試練。――僥倖とすら私には思えるがね」

雁夜「ハハッ――ハハハハハ! アハハハハハ!!」

乾いた笑声が辺りに木霊した。

間桐雁夜が柱の影から身を現す。

その表情には覚悟が――狂気すら覚えるような覚悟が滲み出ていた。

時臣は先端に炎の灯った杖を無表情のまま敵へと向けた。

彼は次で勝敗を決するつもりだ。

雁夜「そうか……そうかよ……そうかよ、時臣ィィィ!!!!」

アーチャー「散ったか、所詮は雑――!」

ドコォン

勝利の余韻に浸る暇もなく、晴れかけていた黒い煙から、またまた黒い塊が飛び出してくる。

手には名は知れぬが由緒ある斧。

それをバーサーカーが振り下ろしたときにはそこにはアーチャーの姿はなかった。

アーチャーが撃ち出し、バーサーカーが奪ったその宝具は、先までアーチャーが聳立していた地面のコンクリート部を抉り、地表部を剥き出しにした。

アーチャー「雑種……我を、王の立する場から動かすとは……よっぽど消し飛びたいようだなァ!!」

臨界点。

アーチャーの、バーサーカーによる侮辱の数々に対する怒りが遂に限界を超えた。

怒髪天を衝かんばかりの形相で『王の財宝』に手を伸ばすアーチャー。

一際大きく空間を歪ませながら現れたのは、剣と呼ぶにはあまりにも歪な、ドリルのようなもの。

アーチャー「乖離剣、エア――」

ガァン
ガァン

其が真名を、アーチャーが号ぶやいなやの刹那。

大小の発砲音が重なるように二発、同時に響いた。

アーチャー「あ――?」

カシャン

硬い音が鳴る。

掴んだはずの乖離剣が、地に落ちた。

――否、掴んだ腕ごと……乖離剣が落ちた。

アーチャーはゆっくりと先程まであったはずの右腕に目を遣る。

肩から下が、黄金の鎧ごと同心円上に抉られて、消失していた。

次に、英雄王は目の前の雑種に視線を移す。

――黒い騎士は、彼と同じく黒い弩を、構えていた。

大口径アンチマテリアルライフル、バレットM82A1。

アーチャーの右腕を喰ったのは、亜音速の鉛弾だった。

アーチャー「馬鹿な……ッおのれ!」

すぐさま残された左の腕で『エア』を回収しようとギルガメッシュは跳ぶ。

しかし、狂犬はそれを許しはしない。

ガァン

アーチャー「ぬう゛っ!?」

もう片方の手も、宙を舞った。

アーチャーは思わず蹌踉ける。

ガァン

ガァン

続けざまに二発。

冷徹な狂弾は黄金の英霊の身体をいとも容易く喰い破った。

アーチャーの右脚は千切れ、腹には風穴が開く。

もう、立っていることすらままならない。

アーチャー「ガハッ!?」ガシャン

バーサーカー「■■■■■……」ゴトッ

対物ライフルを投げ捨て、ゆっくりと倒れこんだアーチャーに躙り寄るバーサーカー。

そして、彼は新たな武器をその手に掴み、英雄王に向き直った。

――『乖離剣・エア』。

バーサーカーの魔力によって禍々しいまでの黒に染め上げられたそれは、かつての主であったギルガメッシュに向けられていた。

アーチャー「それに……触れるな、雑種!!」

ジャラッ

天の鎖。

神をも律する鎖がバーサーカーに襲いかかる。

しかし、その対神兵装すら、乖離剣の前には無意味。

ズバッ

バーサーカーによるエアの一振りにて粉砕された天の鎖は、光の粒子となり消滅した。

アーチャー「お、のれ……おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれェ!!!!!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

二つの絶叫とともに乖離剣は――アーチャーの心の臓に突き立てられた。

――――アーチャー/英雄王ギルガメッシュ、最も信頼する自らの剣に貫かれ、敗退。

ちなみにここで出した対物ライフルは実際にアニメでバーサーカーがぶっ放したシロモノです

時臣「な……に?」

自らの魔力が充填された特大の魔宝石が砕かれた時臣は、優雅では繕えないほどに戸惑いを覚えていた。

時臣(――何故だ?)

蟲の速度では炎の魔術を放つ前にここまで辿り着くことはできない。

否、いかに高等な魔術であっても、こうも高速に、こうも的確に、こうも強力に敵を破壊することはできないはずだ。

時臣は考えを思い巡らす。”雁夜は一体どのような類の秘術を行使したのか?”

そのような時臣の戸惑いを、呆気にとられた彼の表情から察したのか雁夜は再び笑い出した。

雁夜「ハハハハハハハ!! 『どんな手を使った?』とでも言いたいような面持ちだな、時臣」

時臣「くっ……!」

雁夜「おいおい、もしかして魔法の類でも使ったとか思ってるんじゃないだろうなあ? 俺はただ――」

雁夜「――人差し指をちょっと曲げただけだぞ?」

これ見よがしに自動拳銃を掲げる雁夜。

そう、バーサーカーの射撃と同時に時臣に発砲されたのは間桐雁夜の手に収められている拳銃だった。

時臣(なんだあれは……! しかし、あれは恐らく危険な――)

ダンッ

ダンッ

時臣「ッ!」

9x19mmパラベラム弾が時臣の肩を穿ち、頬を掠める。

まだ銃器に慣れない雁夜の腕では、人間に当てるのが精一杯だ、それでも、時臣を制するには十分過ぎる威力だった。

雁夜「ハハハッ、あいつの言う通りだ。貴様ら魔術師はこういった近代兵器に疎い……」

ダンッ

ダンッ

狂喜に声を上擦らせながら、雁夜は獲物に近づきながら銃を乱射する。

そして遂にその中の一発が時臣が腿を射止めた。

時臣「ぐああッ……!」バタッ

激痛と衝撃に倒れこむ時臣。その顔にはもうすでに家訓たる余裕は、残されてはいなかった。

時臣「はあ……はあ」

雁夜「……無様だな、時臣」チャキ

抵抗すらできず、為す術もなく地に伏す時臣に、雁夜は冷たい銃口を突きつける。

雁夜「……いいことを教えてやる、お前をここまで追い詰めたこの道具はお前の言う”凡俗”どもが造り上げたものだ」

雁夜「その”凡俗”が、敵を排除するため、誰かを守るために試行錯誤を重ねて造り上げてきたものだ!」

雁夜「悔しいか、時臣? お前は今日、凡俗に負けたんだ」グッ

時臣「ッ……!」グッ

雁夜が引き金に指を掛ける。

あと少し、あと少し人差し指に力を込めればこの憎い魔術師を殺せる。

だが、瞳に映るこの旧敵の弱々しい姿に、間桐雁夜は殺意を削がれていた。

何よりも――あのときに見た、時臣のプロポーズに対する彼女の笑顔が……雁夜の脳裏にこびりついて離れなかったのだ。

雁夜「……チッ。いいか、時臣。金輪際、桜の父親を名乗るな。……お前にその資格はない」

雁夜「そして……これ以上葵さんを不幸にするな。もし彼女に何かあったら……次こそはお前を殺す」

雁夜「行くぞバーサーカー」

放心状態の時臣を尻目に、雁夜はバーサーカーを霊体化させ、再び闇に紛れゆく。

雁夜(あとは――!)ギリッ

>>236
三行目が「アイーチャー」になってますが脳内補完でお願いします……

――――

ライダー「……アーチャーの奴が負けおったか。いやはや無念、あ奴とは一戦、交えてみたかったのだがなあ」

ウェイバー「他の陣営の心配をしている場合か!? 僕たちの状況を見てみろよ!」

ライダー「ん? 状況とはこれまた大仰な。小娘が一匹目前におるだけではないか」

ウェイバー「バカぁ! その小娘がセイバーだから問題なんだろ!? 最優のサーヴァント、セイバーに正面から戦闘を申し込まれてるんだっ!」

ライダー「最優って……小僧、お主のサーヴァントたる余が頼りないとでも言いたいのか?」

ウェイバー「いや……そんなことはないけどさ……」

ライダー「ならば胸を張っておけぃ。なぁに、どちらにせよ此奴には、余が引導を渡さなければならんのだ」

セイバー「……お喋りはそこまでにしていただきたい。ライダー、尋常にこのセイバーと一騎打ちの勝負を」

ライダー「良かろう……いざ、決着をつけようではないか」

ウェイバー「ライダー……負けるなよ」

ライダー「ああ、令呪を三つも使った命令だからなあ。流石の余でも、逆らえそうにないわ」ニカッ

ウェイバー「馬鹿野郎……」フッ


切嗣「さあ、遂にライダーとの最終決戦だ……ここを越えれば、聖杯は僕たちの手に」

切嗣「ライダーは強い。宝具も規格外だ」

切嗣「それでも僕たちに黒星は許されない」

切嗣「僕はこれまでこの聖杯戦争を勝ち残るために幾度と無く君たちの力を借りてきた……」

切嗣「きっと……きっとそれもこれが最後になるだろう」

切嗣「>>274、ライダーを破る術を! そして、僕たちに勝利を!」

いきなりケリィとセイバーキッス
驚いてるライダーにエクスカリバー

どんな敵でもエクスカリバーで片がつく、なんで勝てなかったんだろうねセイバー

雁夜おじさんには桜の記憶障害はジジィに仕込まれた蟲退治の為で、
こっちは宝具まで使ったんだから感謝しろぐらい恩着せがましく言えば
裏切りフラグ立たなかったのになあ?
ま、その言葉足らずで配慮不足なトコがケリィらしいっちゃらしいが

>>283
勘違いして、いくとこまでとことん突っ走っちゃう
そこがおじさんのかわいいとこ

セイバー(切嗣、本当にアレを、やるのですか?)ゴニョゴニョ

切嗣(当然だ。僕の作戦に抜かりはない)ゴニョゴニョ

セイバー(しかし切嗣……)ゴニョ

切嗣(それともセイバー、僕とでは嫌かい?)ゴニョニョ

セイバー(い、嫌というわけでは……///)ゴニョゴニョ

ライダー「ええい、何をゴニョゴニョと! セイバー、お主が仕掛けないのであれば、こちらから征かせてもらうぞ! 神威の車――ィィ!?」

切嗣「」チュウゥゥー

セイバー「///」チュウゥゥー

ライダー「あの……お主ら? 一体全体何を……?」ポカン

ウェイバー「あわわわわ」

切嗣「今だ! セイバー」チュウウ

セイバー「不意打ち御免! 『約束された勝利の剣』ッ!!」カッ

ドォーン!

ライダー「うぉっと! 危ない危ない。セイバーよ! お主、騎士道とやらはどこへ行ってしまったのだ!?」

セイバー「一応今のも正面からの一撃、卑怯ではない!」

ライダー陣営((すっかりマスターに毒されている……))

最終決戦こんなギャグ調でいいのかな……ww

ライダー「しかし、功を急いたのは失策であったな! さあ、セイバーよ! その身一つで我が蹂躙にどう角逐してみせる!?」

セイバー「くっ……」

ライダー「憧憬するは遠く彼方、『遙かなる蹂躙制覇』!!」

ライダー「AAAALaLaLaLaLaie!!」バリバリバリ

ガガガガガッ

セイバー「――ふっ」

真名を完全に解放し、破壊と蹂躙、そして制覇の蹄音を轟かせながら猛進する戦車を前に――セイバーは笑みを浮かべていた。

そして、その口からぽつり、と言葉を零す。

セイバー「失策だったのは――貴方のほうだ、征服王」

誉れの騎士、セイバーはその両手に握った光輝の剣を再び頭上に掲げる。

そう、其が構えは――

セイバー「『約束された――」

ライダー「まずい――!」

ライダーが気づいたときにはすでに戦車はすぐには停止しないほどに加速していた。

ライダーは迷う。

このまま突き進めば、もしや騎士王が剣を振り切る間際に、飛蹄雷牛の雷蹄が奴を踏み殺すやもしれない。

しかし、間に合わなければあの光の斬撃に焼き払われてしまう。

一瞬の判断が、ライダーには強いられていた。

そして、彼が選んだ選択は――

ライダー「ちぃっ!」バッ

セイバー「――勝利の剣』ッ!!」カッ

ゴオッ

ウェイバー「……ここは……僕は、死んだのか……?」

ライダー「なぁにを寝ボケたことを言っておる。余も小僧もこの通り健在だ」

ライダー「……まあ、神威の車輪はあの通り失ってしまったがなあ」

ウェイバー「あ……」

ライダーは避けることを選んだ。

征服王は戦を愛で、戦いに焦がれる男。

彼一人であればあのような局面であれば迷わず進撃しただろう。

あそこで勝利すれば、間一髪の勝利。敗北したとしても、強敵に正面から殴り込み戰場で死ぬのだ、恐らく彼に悔いは残らない。

だが、それは彼が単騎だった場合、だ。

征服王イスカンダルの背後には、小僧――マスターであるウェイバー・ベルベットが伴していた。

それが彼が回避という選択をした唯一、且つ最大の理由であった。

ライダー「だがお主らも心得ておろう。我が宝具は神威の車輪のみならぬということを」ジャキン

徐ろにライダーがキュプリオトの剣を鞘から抜く。

切嗣「――来るぞ」

ライダー「いざ集え、我が朋友! 『王の軍勢』!!」バリバリッ

雄々しい鬨の声と共に世界が世界に呑まれていく。

――固有結界。

征服王イスカンダルの創り出すその世界は、嘗て多くの友と思いを馳せた共有の心象風景、灼熱の太陽が照りつけ、吹き荒れる砂塵に霞む地平線の大地。

それが聖杯問答のときそのままに展開されていた。

そして、呼び出されたのは無論、心象風景だけではない……。

ザッザッザッ

どこからともなく砂を踏みしめる靴音が聞こえる。

ザッザッザッ

どこからともなく鎧の軋み合う音が聞こえる。

ザッザッザッ

どこからともなく――征服王と絆を分かち合った英雄たちの声が聞こえる。

気づけば、征服王イスカンダルの背後には何百、何千という兵(つわもの)たちが犇めいていた。

ライダー「よう相棒、今度も世話になるぞ」

愛馬プケファラスに跨がり、幾千の猛者の先陣に立つイスカンダルはその野太い声を、結界中に鳴らした。

ライダー「おおい皆の者! 我らはこれから万能の願望機と、覇を求め、この世界を踏破する!!」

ライダー「敵は小娘一匹! さりとて侮るな! 彼の者は一振りにて千の兵を薙ぎ払う伝説の騎士王!!」

ライダー「我らが敵にして不足なし、如何や!?」

「「「「「然り! 然り!」」」」」

ライダー「我らは蹂躙し、制覇し、征服する!! そして辿り着こうぞ! 遥か彼方、彼の最果てまで!!!!」

「「「「「然り! 然り! 然り!」」」」」

ライダー「いざ参らん! AAAALaLaLaLaLaie!!」ドドドッ

ウェイバー「あ、アラララララーイ!」

切嗣「……最大出力だ、セイバー」

セイバー「はい、切嗣」

マスター、衛宮切嗣が命じると同時にセイバーの身体に溢れんばかりの魔力が流れ込む。

破格の群雄は目前まで差し迫る。

しかし常勝の王は怯まない。

怯む必要などない。

何故ならば彼女は――アルトリアは、それを退くことができるから。

セイバー「はああああっ――!」

粛々と掲げられた聖剣に、光が収束される。

それは、先と比べ物にならない光量。

今までの戦いで騎士王が放ってきたエクスカリバーを光の柱と称するならば、これはまさに光の塔。

揺らぐ。

ライダーが呼び集った英霊たちの編み上げたる固有結界が、そこに取り込まれただけの小さな異物であるはずのセイバーの魔力に圧され、揺らぐ。

ライダー「馬鹿な……ありえん! 連続であれだけの宝具解放を行った直後に、これだけの魔力が……一体奴らのどこにあるというのだ!?」

切嗣「――その”ありえないこと”を実現し得るのが、僕たち魔術師さ」

セイバー「『約束された――――勝利の剣』ッッ!!!!!!」ガァッ

ライダー「ぬうおおおおおッ!」ヒヒィン

プケファラスが跳ぶ。

剣が振り下ろされる寸前、ライダーたちはセイバーの頭上を越えた。

しかし先頭を切っていたライダーですら紙一重だったのだ、無論、その後陣を担っていた兵たちは――

ウェイバー「あ……!」

征服王が後席、プケファラスの背に乗っていたウェイバーの目に映ったのは、黄金の輝きに呑まれ逝く頑強な兵士たちと、召喚人数が減ったことによりその膨大な維持魔力の帳尻を合わせられなくなり崩壊していく結界の末路であった。

シュウウウ……

ライダー「……どのような手品を使った? セイバーがマスターよ」

切嗣「それを安々と敵に教示してやるほど、僕は甘くはなくてね」

ウェイバー「――令呪だ」

切嗣「!」

ライダー「何?」

ウェイバー「ここに現れたときより、あいつの令呪が減っている!」

ライダー「ほほう、そういうことか」

切嗣(そう……令呪は絶対的な命令権としての側面の他に、凝縮された魔力の結晶としての一面もある)

切嗣(一画一画に膨大な魔力が秘められたこいつを純粋な魔力源として消費、サーヴァントに供給すれば――)

切嗣(先のようなコスト度外視の戦術を行える……!)

ライダー「成る程な、ということは、なんだ。貴様らは端から、余とは単純な力比べをするつもりであった、と」

ライダー「それならば――余もそれに応えぬわけにはいくまいて」

ライダー「おおっと……その前に」ムンズ

ウェイバー「なっ! 放せよ、ライダー!」ジタバタ

ライダー「小僧、お前さんはここで降りろ」

ウェイバー「はぁっ!?」

ライダー「それとなあ、これはいずれか告げようとは思っておったのだが……」

ライダー「ウェイバー・ベルベットよ――余が臣下とならんか?」

ライダー「余が臣下となって、この征服王イスカンダルの生き様を見届け、後世に伝えよ。そのためにも、お前さんには生き残ってもらわにゃならん」

ウェイバー「――ッ!」

ウェイバーは言葉を詰まらせた。

彼の心に芽生えたのは、いつものような、奔放な征服王に対する苛立ちではない。

歓び。

誰よりも彼を認め、誰よりも彼に夢焦がれる胸の高鳴りを説き、そして誰よりも彼に大事なものを教えてくれた偉大な王――征服王イスカンダルの夢を共にする仲間として認められた歓びがウェイバーの小さな胸を満たしていた。

今すぐにでも彼に跪き、臣下の礼を取りたいという衝動が、彼の細い身体を衝いた。

ウェイバー「……るな……」

――しかし。

ウェイバー「ふざけるなあああっ!!」

ウェイバー「なーにが『余が臣下にならんか?』だ! 忘れたのか、ライダー! 僕がマスターで、お前がサーヴァント!」

ライダー「お、おう……」キョトン

ウェイバー「それに……」

それら全ての感情を無碍にしてでも、彼には通したい一つの想いがあった。

ウェイバー「それに、僕たちはこの戦争が始まったときからずっと一緒に駆け回ってきた友達じゃないか……最後の最後で……僕を置いていくなよ……」

征服王にはずっと諭されてきた。

ずっと示されてきた。

ずっと――守られ、救われてきた。

だからこそ、この最後の戦いくらいは等しい友として、共に戦場を駆け暴れたい――それが、ウェイバー・ベルベットが抱く、譲れぬ想い。

ライダー「……乗れぃ、小僧――いや、我が刎頚の朋友(とも)、ウェイバー・ベルベットよ!」

ウェイバー「――ああ!」

ライダー「待たせたな、セイバーよ」

ライダー「我らとお主ら、我が剣と其が剣、尋常にして正々堂々、覇を競おうではないか!!」

セイバー「望むところです、ライダー!」

ライダー&ウェイバー「「AAAALaLaLaLaLaie!!!!」」ダッダッダッ

ライダー(嗚呼、何と心地の良いことか……これほどに胸の高鳴る戦場は久しい)

ライダー「ウェイバー! 余が背は、お主に託したぞ!」

ウェイバー「ああ、お前は前だけを向け! 思う存分暴れるぞ、征服王イスカンダル!」

こんばんは
今夜もチマチマ書いていきます

ライダー「それぃ!」ブンッ

ガキィン!

騎上からセイバーの首を狙ったライダーの一振りが弾かれる。

計り知れない力と力、そしてこの世の法則全てを凌駕するほどの二振りの宝剣が衝突し、激しい火花を撒き散らす。

ライダー「まだまだッ!」ブンッ

跳ねるようにプケファラスを方向転換させ、再び征服王は騎士王を強襲した。

しかし、一度見切った斬撃を同じく捌くに留めるほど、セイバーは手緩い手合ではない。

セイバー「はぁッ!」カァンズバッ

ライダーの一閃を防いだ勢いをそのままに、袈裟斬りに荒馬の脚を切断した。

ライダー「ぐおっ!?」ズサッ

ウェイバー「うわあっ!」ドサッ

名馬であり、征服王の相棒たるプケファラスが倒れる。

当然、それに乗じていた二人も程なく落馬した。

ライダー「ふははは! 流石は噂に聞く騎士王よ! 我が愛馬を切り捨てるとは!」

だが、ライダーの表情には敗色や諦念の翳りは微塵もない。

むしろ、眼前の好敵手との命の遣り取りを、存分に楽しんでいるようにも見えた。

ギィン!

立ち上がりざまのライダーの斬りつけで二人は額がつくほどに近く、鍔を競り合う。

セイバー「貴方もだ、征服王。これほどまで迷いのない剣筋……天晴としか言う他ない」

繰り返し繰り返し。

剣撃が、耳を劈くばかりの剣撃が空気を揺らし、響く。

理想に殉じた気高き誉れの騎士王と、数多の益荒男を夢で束ねた豪傑の征服王――二人の英雄の斬り合いはまさしく互角の戦い。

どちらか一方が僅かでも隙を見せれば、他方に一瞬で首を刎ねられるであろう、それだけ緊迫した、命の削り合い。

ウェイバー「うぅ……」

かたやウェイバーはやっと上体を持ち上げたところだった。

幸運にも、彼はプケファラスの見上げるほどの巨躯の下敷きにはなってはいない。

それでも勢い良く放り投げられたせいで、服は幾箇所も破け、皮膚は赤く擦り剥けていた。

彼が痛みに耐え、なんとか立ち上がったとき、そこにあった光景は――

死に物狂いで死線を潜り、死闘を繰り広げる英霊二体と……それに銃を向けた男一人。

その間に立っていたウェイバーは自然に、ほぼ無意識に草臥れた黒コートを羽織った男ー衛宮切嗣へと一歩、足を動かした。

ウェイバー「……邪魔はさせない」

――この男と対峙すれば、自分は間違いなく殺害されるだろう。

ウェイバーの平々凡々な直感ですら、それを確信していた。

足が震え、呼吸が乱れる。

何故自分はこんなことをしているのか、嫌だ、逃げたい――怖い。

そんな負の感情ばかりがウェイバーの脳内をドロドロと渦巻いた。

しかし、彼は決して逃げ出したりはしない。

そうまでして、踏ん張るだけの理由が、彼にはあったのだ。

ウェイバー(あいつは……征服王は僕に背中を預けた)

ウェイバー(――だから、僕は逃げ出すわけには、いかないんだ!)

魔術師ウェイバー・ベルベットは、ありったけの魔力を掌に集積させる。

そして、絞りだすように、こう叫んだ。

ウェイバー「僕だって……魔術師の端くれなんだッ!!」

だが悲しきかな、その掌が敵に突き出されるよりも疾く、トンプソン・コンテンダーの引き金は引かれた。

今画像漁ってて気づいた
ウェイバーがプケファラスに乗ってたのってライダーの後ろじゃなくて前だったのね

セイバー「!」

……見えない。

もはや、ウェイバーにはそこにあった衛宮切嗣という敵が見えなくなっていた。

それもそのはずだ。

ウェイバーと切嗣を隔てるように、彼の身の丈ほどある縁深く、見慣れた大剣が、突き刺さっていたのだから。

キュプリオトの剣。

征服王イスカンダルと共に万里を駆けたスパタが彼を凶弾から護ったのだ。

しかしながら、自明の理ではあるが、それを振るっていたライダーは――

ライダー「かはっ……」

征服王は心の臓をエクスカリバーに背後から貫かれていた。

ライダーがキュプリオトの剣をウェイバーの護身のために投げたときに、勝負は決していた。

刹那の予断も許されない修羅場で、敵に背を向け、武器を放棄したのだ、至極当然の結果と言えるだろう。

ウェイバーは瀕死のライダーを見得て、彼が元まで近づき、膝から崩れ落ちた。

ウェイバー「なんでっ……なんでだよ、馬鹿野郎!」

ウェイバー「なんで僕なんかを庇ったんだよ!?」

ライダー「……決まっておろう……お主が余の友だからだ……」

ウェイバー「ッ!」

ライダー「余はかつて……余が吹聴したオケアノスなんてものを信じてついてきたお調子者どもを多く喪った、多く死なせた……」

ライダー「それは我が決断、我が友の意志。悔みもしなければ、否みもしない……」

ライダー「だが、何の因果かこうして現世し、そこでもまた出会うた、余を友と慕う者を……同じ目には遭わせられなんだ……」

ウェイバー「でも……だからってどうしてお前が……受肉して、世界征服するっていう夢は、どうなっちまったんだよ!?」

ライダー「そうさな……ならば我が友ウェイバー・ベルベットよ。ここで余に誓え。必ずや生きて、余が代わりにオケアノスを……あの潮騒の、果てを……」

ウェイバー「……わかった。約束するよ。僕がお前の代わりに、オケアノスに――最果ての海に辿り着いてみせるから……!」

ライダー「……嗚呼……それは……よかっ……た……」

ライダーが光塵と化して逝く。

そこにあったイスカンダルという存在が、役割を終え、薄れ、世界からフェードアウトする。

嗚咽を噛み殺し。

止めどない落涙を拭うことも忘れて。

ウェイバーは一欠片でも亡き友の名残を掴もうと、只管に両の手を握りしめた……。

――――ライダー/征服王イスカンダル、友を守り、夢を託し、敗退。

切嗣「……どうする、ライダーのマスター。仇討ちでも、してみるかい?」

そう、ライダーが敗れたからといって、ウェイバーから危機が去ったわけではない。

マスターとして聖杯に選ばれた以上、ウェイバー単体も、切嗣にとっては抹殺する対象だからだ。

事実、切嗣の手にはキャリコが握られ、既に照準は目前の魔術師に定められていた。

ウェイバー「僕は――」

顔を濡らしていた雫を拭い、ウェイバーは切嗣に向き直る。

その表情は先程とは全く異なっていた。

ウェイバー「お前に挑めば、僕は死ぬ」

切嗣「ああ、そうだな」

ウェイバー「それは――できない!」

ウェイバー「僕は約束したんだ……必ず生き残ると! 必ず、あいつの代わりに、最果てに辿り着くと!」

ウェイバー「友達との――あいつとの最初で最後の約束を……破るわけにはいかないんだ!!」

切嗣「……令呪を三画消費しきったマスターを殺す意味はない。悪運に感謝することだ。行こう、セイバー」カチャ

カツ、カツ……

ウェイバー「う、う……うわあああああ……!」

ライダー戦はこれで終了です
原作読んだ人はわかると思いますが、これはウェイバーが選べたかもしれないもう一つの選択を自分なりに書いたものです

そしてまた訂正
プケファラスプケファラスと散々書いてましたが正しくはブケファラスでした
誤字多くて申し訳ないです

意識が続く限りもちょい書いていきたいと思います
なんとなく察しがついてる方が多いかと存じますが、次はあの人が活躍します

――――

prrr

ピッ

切嗣「舞弥、今ライダーを破った。これからそちらに――」

舞弥「……つぐ……マダ……ムが……」

切嗣「!? なんだって? どうした舞弥!」

舞弥「うぐっ、うわあああああ!」プツッ

ツー、ツー

切嗣「…………」

セイバー「どうかしましたか、切嗣?」

切嗣「アイリが危険だ……急ぐぞ、セイバー!」

セイバー「!? は、はい!」

――――

切嗣「クソッ、扉が破壊されている……セイバー、まだ侵入者が張っているかもしれない。周囲を警戒しながら前進、アイリの部屋を目指す」

セイバー「わかりました、私の側を離れないでください」

タタタッ

切嗣(嫌な予感がする……城の防御は固め直しておいた筈、その上で舞弥が警護していたここに侵入できる者は、恐らく一人……!)

ガチャ

セイバー「アイリスフィール! ご無事ですか!? アイリスフィール!」

セイバー「切嗣、アイリスフィールの姿が見当たりません!」

切嗣「やはり遅かったか――! 舞弥!」

舞弥「もう……しわけありません……マダムは……」ヒューヒュー

セイバー「舞弥、喋ってはいけない、傷口が開いてしまいます」

舞弥「バーサーカーが……」ヒュー、ヒュー

切嗣「ああ……わかった……」

舞弥「……だめ、だよ……泣いたら……」

舞弥「それは……奥さんのために……とっておいて……」

舞弥「ここで泣いたら……だめ……あなた……弱いから……」

舞弥「今はまだ……壊れちゃ……だめ……」

切嗣「僕は……!」

舞弥「あと少しで……願いが叶うんだから……こんなことで……揺れちゃ……だめ……」

切嗣「――安心しろ、舞弥。あとは僕とセイバーに任せろ。お前の役目は――終わりだ」

舞弥「……はい……」

切嗣「舞弥……」

切嗣「舞弥……!」

――――

セイバー「どうするのですか切嗣、このままではアイリスフィールが……!」

切嗣「落ち着くんだ、セイバー。相手は素人だ。見てごらん、魔力の痕跡をこんなにべっとりと残している。それに――」

切嗣「きっとあちらさんは、隠すつもりもないのだろうね」

セイバー「あの魔力の波動は――バーサーカー!?」

切嗣「ああ、冬木市民会館……冬木に五つある霊脈のうちの一つだ。奴はあそこで、聖杯を降ろすつもりなんだろう」

切嗣「いや、聖杯自体が目的ではなく、聖杯を餌に釣られてやってきた僕たちを殺すことが目的……」

切嗣「もしそうだとしたら話が早い。僕たちはそれを返り討ちにして、聖杯を取り戻す――それだけだ」

セイバー「切嗣……」

セイバー(もう、貴方の中では……アイリスフィールはただの聖杯の器でしかないのですか……?)

切嗣「残ったサーヴァントはあと一体……やれるね、セイバー」

セイバー「無論です。聖杯は、必ずや我々の手に」

切嗣「ああ」

切嗣(上等だ、間桐雁夜。その身体で、どこまでやれるか……見せてもらおうか)

今日はここで寝ます
お疲れ様でした

――冬木市民会館

セイバー「切嗣」

切嗣「ああ、間違いない。奴らはこの中にいる。よし、セイバー。僕らは地下駐車場から潜入、奇襲を掛けるぞ」

タッタッタッ

切嗣「セイバー、君は先に入って周囲を確認、敵影がなければ僕に合図を」

セイバー「はい。……大丈夫です、バーサーカーの気配はありません」

切嗣「了解。恐らく奴が聖杯を置くとすればこの市民会館の中心、大ホールに違いない。そこに――」

セイバー「切嗣、危ない!」

ドォン

セイバー「切嗣、大丈夫ですか!?」

切嗣「ああ、助かったよ、セイバー。チッ、霊体化か……どうやら僕は相手を甘く見ていたようだ。まさかこちらが、奇襲をかけられるとはね」

バーサーカー「■■■■■■■■!!」

ガァン ガァン

セイバー「くっ、相手は飛び道具を使ってきている……これでは迂闊には動けません!」

切嗣「あれは僕が渡したM82A1か……厄介だな」

切嗣「セイバー! 数秒でいい、あいつの動きを止められるか?」

セイバー「不可能ではありませんが……何か策があるのですか、切嗣?」

切嗣「僕がここにいてもできることはない、ならば僕はこの先にいるマスターのほうを叩く。君にはバーサーカーの足止めを頼むよ」

セイバー「わかりました。――はぁっ!」ダッ

バーサーカー「■■■■■!」ガァン

セイバー「『風王鉄槌』!」ビュオッ

バーサーカー「■■■……!」

セイバー「今です、切嗣!」

切嗣「よし……『固有時制御――二重加速』!」ダッ

セイバー「切嗣……ご武運を」

切嗣「ああ、君もな、セイバー」

――――

切嗣「はぁっ……はぁっ……くっ……」

切嗣(やはり、固有時制御は反動がきついな……なるべくなら、こいつを使わずに事を済ませたい)

ガチャッ

階段を上り、扉を開けた。

切嗣は出発前に見た市民会館の見取り図に位置関係を当てはめる。

切嗣(……ロビーか)

しかし、辺りは闇に包まれており、周囲の全貌が確認できない。

窓から漏れ入る月明かりのみを頼りに、切嗣は歩みを進めていた。

パッ

切嗣「――!」

突如、電灯に光が宿る。

眩さに、切嗣の視界は薄くぼやけた。

光になれるまでに数秒かかったが、すぐに四囲を警戒、敵の発見を試みる切嗣。

だが、それは探すまでもなかった。

人影。

徐々に視力を取り戻しつつある切嗣の目は、確かに一つの人影を捉えた。

切嗣「間桐――雁夜か」

雁夜「ふっ……」

切嗣「間桐雁夜、アイリは――聖杯はどこだ」

雁夜「衛宮切嗣――お前を殺して、俺の戦争は終わる……桜を傷つける薄汚い魔術師は一人残らず殺す! お前も、臓硯も――殺してやる!」

有無を言わさず戦闘が開始する。

雁夜が腕を挙げると共に激しい羽音を立てながら翅刃虫が群勢で飛来した。

全ては憎き魔術師を骨すら残さず喰らうため。

切嗣(やはり、訊くだけ無駄か)

雁夜の号令とほぼ同時に、切嗣のキャリコが火を噴く。

大気を押し進む弾薬。

吐き出される薬莢。

満ちる硝煙。

次々に異形の蟲たちが墜落し、肉片へと化す。

それでも、高速で向かい来る蟲の集群を全て撃ち落とすことは、流石の切嗣にも不可能だった。

衛宮切嗣――『魔術師殺し』は対人暗殺術に特化した魔術師。

そのため、頭数の多い敵、つまり対群戦を不得手としているのだ。

切嗣(数が多すぎる……落としきれない!)

切嗣(くっ……『固有時制御――二重加速』!)

切嗣の背中に刻まれた衛宮の魔術刻印が熱を帯びる。

瞬間、切嗣の肉体は世界から切り離され、加速された時間の中に取り込まれた。

雁夜「何っ!?」

通常の二倍速で動く切嗣はいとも簡単に蟲の一群を掻い潜り、それどころか、置き土産すら残した。

ドゴォン

手榴弾が炸裂し、炎と爆轟が翅刃虫を包む。

後に残ったのは消し炭となった蟲”だったモノ”のみ。

雁夜「ぐうっ……ああああ……!」

鈍痛、疼痛、激痛。

魔力消費のフィードバックが雁夜の身体の隅々を蝕む。

その隙を、切嗣は見逃さない。

雁夜「――ッ!」ビチャ

.30-06スプリングフィールド弾が雁夜の左肩を抉り、穿つ。

だが。

もはや神経すら正常に機能していない雁夜の肉体は、その程度の痛覚には怯まない。

雁夜「うわああああああ!」ダンダンダン

切嗣「うっ――」

そのまま一心不乱に隠し持った拳銃を撃ち乱す。

偶然か、奇跡か。

切嗣の胸部と腹部に、その内の一発ずつが、命中した。

切嗣「な……に……」ドサッ

『魔術師殺し』として、魔術師を銃火器で屠ってきた切嗣だからこそ、魔術師以上に火器に対する油断が大きかった。

それが、衛宮切嗣を死に至らしめた要因と言えるだろう。

雁夜「ハ、アハハハハハハ!!」

雁夜「ざまあみろ……! やってやった……やってやったぞ! ぶっ殺してやった!」

雁夜「アハ、ハッハッハッハッハ!!」

雁夜「ハァ……ハァ……」

雁夜「あとは……聖杯を……待っていてくれ、桜ちゃん……今度こそ……俺が……」

カチャ

雁夜「!? ――ッ!」

雁夜が銃声に気づいて切嗣を顧みたときには時過で遅し。

キャリコM950から放たれた初弾が雁夜の頭部に命中。

幸運にもその一発の弾道は雁夜の頭蓋の丸みに合わせて歪み、脳漿を傷つけることなく逸れていった。

雁夜「何故生きている!? 衛宮――切嗣ゥゥゥゥ!!!!」

蟲たちを盾に弾雨を凌ぐ雁夜の声には怒りと、疑問と、焦燥が込められていた。

勿論、衛宮切嗣はこの敵の悲痛な声に応えることはしない。

切嗣(『固有時制御――二重加速』!)

カシャ

カラン

銃身から取り除かれた空薬莢が音を立てて落ちる。

キャリコによる弾幕で相手を釘付けにし、その間に次弾を装填、そして――

バンッ

再び発射されたライフル弾は翅刃虫の群れを貫通し――今度は雁夜が右手を破壊した。

カシャン……

衝撃に巻き込まれた自動拳銃が遠くに転がる。

雁夜「ぐああああっ……!」

切嗣「くっ……はぁ、はぁ……」

切嗣(蟲の大群使役による包囲攻撃は現在の武装では完全な対処は不可能。キャリコは喪失、コンテンダーは再装填が必要……だが)

切嗣(『全て遠き理想郷』……セイバーと魔力回路でつながっている限り、致命傷ですら即時再生が可能)

切嗣(『全て遠き理想郷』の治癒能力は自傷に対しても有効……残る武装はナイフ一本と、手榴弾が一つ)

雁夜「巫山戯るな……巫山戯るなよ魔術師がああああああああああ!!」

切嗣「!」

ちょっと都合上原作にない設定をでっち上げます
嫌な人はごめんなさい

地獄の底から響くかのような呻きを上げたかと思うと、雁夜は大きく口を開いた。

雁夜「オヴッ、オエッ、オアアアアアアッ!」

雁夜の身体が一つの大きな管のように波打つ。

その口からは何かが生まれようとしている――生まれてきてはならない、何かが。

そしてそれは深淵から顔を覗かせる。

切嗣(なんなんだ――これは!?)

――それが顔かどうかすらも、切嗣には判断できなかったのだが。

巨大な蟲。

大蛇のような長い形状。人の皮膚を被ったかのような悍ましくも滑らかな表皮。”捕食する”という機能以外を完全に排除したのであろう口と思しき大空洞。

化け物。

雁夜の憎悪と血肉を餌に、彼の体内で育てられたその醜物は、生まれたてながらに、食むべき獲物を見定めていた。

雁夜「はあ、はあ……殺れ……殺っちまえ! 引き千切り、食い破り、飲み込んで溶かして、殺せェ!!」

切嗣(『固有時制御――)

ヒュン

切嗣(――三重加速』!)ドクン

ドゴォン!

蟲は身体を撥条のように縮ませその反動で身体を伸ばし、切嗣へと襲いかかる。

爆音を立て、土煙を舞わせた一撃だったが、その結果は先まで切嗣が立っていた場所を窪ませただけに終わった。

それでも、三重加速をかけた切嗣が危機一髪で躱したほど。その疾さと破壊力は侮れない。

だが――否、”だからこそ”、衛宮切嗣は勝利を確信していた。

弾薬を再装填したトンプソン・コンテンダーの中折れした銃身をクローズしながら、笑みと言葉を漏らす。

切嗣「そいつを――待っていた」

雁夜「出てこい、衛宮切嗣ッ!」

カツ、カツ

切嗣「…………」チャキッ

雁夜「はっ……ぐ、ぐあああああ……!」

雁夜(バーサーカーの奴……際限なく魔力を持って行きやがる……だが、それもここで終わりだ……!)

雁夜「衛宮切嗣、最後に訊いておく……貴様、桜に何をした」

切嗣「この期に及んで、まだ間桐桜の心配か」

雁夜「答えろ! 記憶障害を引き起こすほどの苦痛を、何故罪もない女の子に与えた!?」

切嗣「……刻印虫だ」

雁夜「何ィ?」

切嗣「間桐桜の全身に巣食う刻印虫を駆除した……ただそれだけだ」

切嗣「その施術の際に苦痛が伴った――そう説明すればお前は満足か?」

雁夜「なん……だと……?」

切嗣「逆に問おう、間桐雁夜」

雁夜「!」

切嗣「お前はあの子を……間桐桜を救い出してどうするつもりだったんだ?」

雁夜「俺は……俺は、あの子をいるべき場所に戻したいだけだ!」

切嗣「いるべき場所だって? 笑わせるな」

切嗣「彼女のいるべき場所は初めから間違いなくあの間桐の蟲蔵の他にない」

雁夜「いい加減なことを言うな、魔術師! あそこでどれだけ桜が虐げられてきたと――」

切嗣「虐げられてきた? 苦しめられてきた? ……何もわかっていないのはお前だよ」

切嗣「彼女を治療する際に色々と調べさせてもらった。間桐桜の元来の属性は『架空元素・虚数』――それこそ封印指定ものの稀代の材だ」

切嗣「恐らく、いや、間違いなく何らかの、例えば魔導の家門などの保護がなければ、生まれた瞬間に魔術協会のお蔵入りさ」

雁夜「封印、指定?」

切嗣「やれやれ、その様子じゃ、封印指定そのものすら理解していないようだな」

切嗣「――僕は知っている。封印指定された魔術師のその、末路を。その、成れの果てを」

切嗣「生きたままに身体は細切れに引き裂かれ、臓物は一つ余さずホルマリンに浮かべられ、魔術刻印も魔術回路も一本残らず持っていかれる……」

雁夜「そん……な……嘘だ……」

切嗣「もう一度だけ問う。間桐雁夜、お前はそんな結末を、間桐桜に望んだのか?」

雁夜「うわ、あ、うわああああああああああああああ!!」

切嗣「……魔術の世界をよくも知らずに首を突っ込んだ愚か者――お前には魔力の一滴も残らず吸い尽くされ枯れ果てるように死ぬのがお似合いだ」

雁夜「はぁ……はぁ……――ハハッ」

雁夜「アハハハハハハハハハハハハ!! それじゃあ……それじゃあまるで俺は道化じゃないか!」

切嗣「…………」

雁夜「勝手に踊らされて、勝手に身を滅ぼして! それでも誰も救えない! 最高の喜劇だ! 傑作だ! ハハ、ハハハハハハハハ!!」

雁夜「……ざけるな」

雁夜「巫山戯るなよ……じゃあ、俺は……俺は一体なんのために……!」

雁夜「なんのためにこんなに苦しんだんだッ!!」

雁夜「うわああ……うわああああああああああああああ!!!!」

切嗣(……限界か。もはや正常な判断すらこいつにはできない――頃合いだな)

雁夜「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

ヒュゴッ

大型蟲が主である雁夜の怒り、嘆き、悲しみに呼応するように畝る。

切嗣(恐らく間桐雁夜は己の全てをこの蟲に込める……いや、そうであってもらわなくては困る)

弾丸の如き捕食者を前に衛宮切嗣は礼装を構えたまま動かない。

――ただそのトリガーに掛けられた示指を除いては。

パァンッ

魔弾が――射出される。

雁夜「ごはァッ――!?」ビチャビチャッ

間桐雁夜は混乱していた。

自らを突然襲う、血管、神経を乱暴に引き千切られているような耐え難い苦痛に。

雁夜(何故……だ……?)

大型蟲を衛宮切嗣に食い掛からせたところまでは覚えている。

衛宮切嗣が大型蟲に銃弾を撃ち込んだところまで辛うじて記憶がある。

だが、雁夜の思考はそこからが繋がらない。

雁夜(何故……俺がダメージを受けている……?)

確かに銃撃を受けたのは蟲のはずだ。

それならばダメージを負うのも蟲というのが道理。

その常識が今、覆されている。

雁夜「ごふッ――!」ビチャッ

再び、雁夜は吐血する。

吐き出した赤黒い血には、藻掻き苦しむ刻印虫が混じっていた。

朦朧とする意識の中、雁夜は大型蟲に目を遣る。

そこにあったのは、ただの、腐りかけの肉塊。

雁夜(く……そ……)バタッ

その景色を最後に、雁夜の世界は反転する。

何も理解できぬまま、間桐雁夜は自らの血の海に、倒れ臥した。

切嗣「こんな奴に『起源弾』を使うことになるとね……さて」

カシャン

うつ伏せに倒れた雁夜を足で仰向けに蹴起こし、キャリコをこめかみに宛がう。

止めを、刺すつもりだ。

切嗣「……? こいつは……」

何の気なしに見た雁夜の右手には、既に令呪が見当たらない。

切嗣(セイバーが先にバーサーカーを倒したのか……? しかし、倒したのであれば何らかの連絡をあるはず……)

切嗣(……そちらを優先して確認するか)

タッタッタッ……

――――

切嗣「セイバー! 一体どうしたんだ、バーサーカーは――」

セイバー「バーサーカーは……サー・ランスロットは私が――殺しました」

切嗣「ランスロット――! あの『湖の騎士』ランスロットがバーサーカーだったとは……いや、だとすれば今までのセイバーに対する攻撃性も納得が――」

セイバー「私がッ!」

セイバー「私が、救うばかりで導くことのしない王だったから……私が、人の心の分からぬ王だったから!」ポロポロ

セイバー「そのせいで『完璧なる騎士』とまで讃えられた我が共を裏切りの道に――果てにはバーサーカーにまで貶めてしまうことになった!」ポロポロ

セイバー「私が、彼を罰していれば、こんなことには……」ポロポロ

セイバー「全ては私のせいだ……私の……私の……!」ボロボロ

切嗣「……セイバー」

セイバー「……申し訳ありません、切嗣。これは、私の問題。今は何よりも聖杯を――」

ギュッ

切嗣「セイバー……!」

セイバー「きり、つぐ……」

切嗣「セイバー、君は何も間違っちゃいない」

切嗣「何が『罰して欲しかった』だ。何が『裁かれたかった』だ……甘えるな!」

セイバー「!」

切嗣「セイバー、僕はね。殺してくれと嘆願するシャーレイを殺さなかったとき、誰にも罰されなかった」

――『でも僕はなれなかった。できなかったんだ。島に住む何百人の人はおろか、たった一人の少女を救うことすらも……』

切嗣「この手で初めて、父さんを撃ち殺したとき、誰も僕を赦さなかった」

――『父親を殺したときから僕の絶望は始まり、息子を殺したときに君の希望は潰えた』

切嗣「母親代わりのナタリアを飛行機ごと撃ち落としたときだって――誰も僕を救わなかった」

――『そのとき気がついたんだよ。誰かを救うということは、誰かを見限るということに』

切嗣「それでも君は……僕を自らと夢を、理想を共にする者だと、僕の夢を正義そのものだと、言ってくれた」

切嗣「僕にとってはそれは何よりの救いだった」

切嗣「君は――正義の味方の騎士王様は、誰かを殺すことでしか誰かを救うことのできなかった僕を、こんなにも汚れきった僕すらも、救ってくれたんだ」

切嗣「だから、僕が保証する。君は間違ってなんかいない」

切嗣「誰かを救うことに、間違いなんてないんだ」

切嗣「『王は人の心が分からない』だって? 巫山戯るのも大概にしろ! 全くの逆だ。誰一人――誰よりも人を救おうとした『王の心を分かろうとしなかった』!」

セイバー「うっ……ぐすっ……きりつぐ……!」

切嗣「大丈夫だ、セイバー。君は君を、君の夢を信じて、聖杯を掴めばいい」

セイバー「はい……ありがとうございます、切嗣」スッ

セイバー「もう私は立ち止まったりなどはしない。私と、そして貴方の夢に聖杯を――」

切嗣「ああ、行こう」

何故かお腹が痛いですが行けるとこまで行きます
あとは聖杯をゲットするだけだよ!
やったねケリィ、願いが叶うよ!

――――

タッタッタッ

切嗣「――!」

切嗣(間桐雁夜が消えている……?)

セイバー「どうかしましたか、切嗣?」

切嗣「いや、なんでもない。それよりも急ごう、もう少しで大ホールだ」

バンッ

切嗣「ここが大ホール……霊脈としては些か劣るが……十分、か」

セイバー「あ――」

切嗣「どうした、セイ――」

切嗣「――そんな……馬鹿な……」

セイバー「アイリスフィール!」

アイリ「ふふ、やっぱり来てくれたのね。切嗣、セイバー」

セイバー「良かった……ご無事で何よりです、アイリスフィ――」

切嗣「セイバー、そいつから離れろ!」チャキッ

セイバー「き、切嗣!?」

切嗣「貴様は一体何者だ……聖杯の準備が整ったのなら……アイリは既にもう……!」

アイリ?「ふふっ」

切嗣「答えろ!」チャキッ

アイリ?「そうね……これが仮面であることは否定しないわ」

アイリ?「私は、既存の人格を殻として被った上でなければ他者との意思の疎通ができない」

アイリ?「でもね、私が記録したアイリスフィールの人格は紛れも無い本物よ――だから私は彼女の最後の願望を受け継いでいる」

アイリ?「それに、この肉体はアイリスフィールそのものなのよ」

アイリ?「人格は私の中に取り込まれ、身体も今すぐにでも所有権を剥奪されかねない状況でも、彼女はまだ生きているわ」

アイリ?「ただただあなたへの想いだけを、糧に……」

切嗣「アイリの身体を乗っ取って……一体どうするつもりだ」

アイリ?「乗っ取った……それは肯定できないわ。だって私は……初めからアイリスフィールと一つの存在だったから」

切嗣「お前は……聖杯の意志なのか」

アイリ?「ええ、その解釈は間違ってはいない。私には意志があり、望みがある――この世に生まれ出たいという意志が」

切嗣「馬鹿な……ならば問おう、僕の願望を、聖杯はどうやって叶えるつもりだ」

アイリ?「そんなのはあなたが誰よりもよく、理解できているはずじゃない?」

切嗣「なんだと?」

アイリ?「世界の救い方なんて……あなたはとっくに、理解しているはずじゃない」

アイリ?「だから私は、あなたが為してきた通り、あなたの在り方を受け継いで、あなたの祈りを遂げるのよ」

切嗣「何を言っている……?」

アイリ?「仕方ないわね。ここからはあなたの内側に、問いかけてもらうしかないわね」

そして最後の対決か
しかし汚染されてなくてもあの方法意外思いつかないけどな…

クワッ

そう言ってアイリスフィールの形をした聖杯の意志は、口を開く。

吸い込まれそうな漆黒の闇。

その奥からは――

泥。

真っ暗な泥が堰を切ったように流れ出してきた。

セイバー「! 下がってください、切嗣!」

セイバー「『風王鉄槌』!」ビュオッ

セイバー「正体はわかりませんが、この泥からは禍々しい魔力が感じられます。触れるのは危険です!」

『――や――ぐ』

切嗣(――!)

セイバー「兎も角、ここは一旦撤退も視野に……」

『――みや――つぐ』

切嗣(くそ――直接頭に――)フラッ

バタッ

セイバー「切嗣……? 切嗣!」

『――衛宮切嗣――』

――

切嗣「はっ――!」

セイバー「切嗣……」

切嗣「僕は――僕たちはあんなもののために……戦ってきたんじゃない……!」

セイバー「……あれは万能の願望機ではなかったのですね」

切嗣「! そうか、僕と君は魔術回路を通じて繋がっている――君も見たんだな、あの光景を」

セイバー「ええ……」

切嗣「ならば、話は早い。セイバー、宝具を以って聖杯を――」

セイバー「それはできない!」

切嗣「何故だセイバー! あれが形を得れば、多くの人々が――いや、全人類が死と隣合わせになる!」

セイバー「しかしあれの中にはまだ、アイリスフィールが生きています!」

切嗣「……関係ない。君も見ただろう、僕の選択を。六十億人の人類のためならば僕は……愛する者だって――切り捨ててみせる! それが、衛宮切嗣という人間の在り方だ!」

セイバー「違う!」

切嗣「!」

セイバー「断じて違う。貴方は、衛宮切嗣は私に語ってくれたではないか。己の理想を。眼前の全てを、いいや、この世に生きる人という人を余さず救いたいという――気高き夢を」

切嗣「僕だって……僕だって本当はアイリスフィールを救いたいさ……! しかし状況を見ろ、セイバー! 目前には人類を侵し、呪う泥を撒き散らす聖杯……これを壊さずに人類を救う方法なんてない!」

セイバー「やっと」

切嗣「え……?」

セイバー「やっと、貴方の本当の気持ちが聞けた……それが、その想いこそが、衛宮切嗣、貴方という人間の真の在り方だ」

セイバー「サーヴァントとはマスターが祈りの成就が為、馳せ戦う者――ならばこのセイバー、アルトリア・ペンドラゴンもそれに則ろう」

切嗣「まさか……あるのか? 方法が」

セイバー「はい――私と貴方なら、アイリスフィールも、全人類も救える」

切嗣「!」

アイリ?「ああああああああ……」

切嗣&セイバー「「!?」」

アイリ?「呪ってやる……」

アイリ?「アン リマユ  がお 前を呪 う」

これ以上書くと眠気で話が暴走しそうなのでここで一旦筆を置かせていただきます
明日でほぼ間違いなく完結する予定です

本日もお付き合い頂きありがとうございました

弟子ゼロ号大人気ですね

すみません、型月wikiと睨めっこしながら書き溜めを加筆修正していたら夜が明けてしまいました
なんとか筋が通りそうな形になったら投下していきます

聖杯が首を擡げた瞬間ホールを浸していた泥が炎へと変貌する。

火炎は流動し、冬木市民会館を満たし呑み込み、その外へも拡散していった。

アイリ?「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

切嗣「くっ……これが、こんなものが聖杯の正体だというのか……?」

切嗣「何にせよ、急がなくては取り返しの付かないことになる」

切嗣「この災禍を収束できるのであれば……僕は藁にも縋ろう」

切嗣「セイバー、教えてくれ。僕は一体どうすればいい?」

セイバー「私にできるのは聖杯を無力化することだけです……アイリスフィールを救うのは貴方だ、切嗣」

セイバー「詳細に述べるならば、まだ残されているアイリスフィールの身体から、聖杯のみを分離してもらいたい」

切嗣「なんだって!? そんなことは――魔法でも使わない限り不可能だ!」

セイバー「いいえ、切嗣。貴方なら……貴方のそれなら、可能です」

切嗣「! 起源弾……?」

セイバー「そうです。以前貴方は言っていた、衛宮切嗣の起源は『切って嗣ぐ』こと、と」

セイバー「それは即ち――『不可逆の変質』」

セイバー「完全に溶け合っているアイリスフィールという存在と聖杯という存在の間に致命的な”結び目”を創ることができれば……」

セイバー「二つの存在は、一つの肉体に合致してはいられなくなる」

セイバー「そこからは賭けですが……アイリスフィールが肉体の所有権を獲れば、一処にいられなくなった聖杯は吐き出されるはずです」

切嗣「……確かに、理論上では不可能なことではないかもしれない」

切嗣「だが、僕にはそんな使い方は……」

セイバー「切嗣、躊躇っている暇はありません! こうしている内にも、アイリスフィールが完全に消えてしまうかもしれない!」

切嗣「――ッ! 本当に、本当に誰かを殺すことしかできなかった僕の起源弾で、アイリを救えるんだな……?」

セイバー「はい。『君は君を、君の夢を信じて』……貴方の言葉です、切嗣」

切嗣「……わかった――やってみよう」チャキッ

アイリ?「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

切嗣(手が、震える)

切嗣(照準が、定まらない)

切嗣(怖い)

切嗣(もし僕が彼女を救えなかったら――?)

切嗣(僕は間違いなく、僕が今まで抱いてきた全ての夢と理想に、絶望するだろう)

切嗣(それが――何よりも怖い)

切嗣(でも――)

切嗣(その恐怖心以上に僕を安堵させ、希望を持てと檄する存在がある)

切嗣(僕には――僕の傍らにはセイバーがいる)

切嗣(それだけで、引き金を引くのには十ニ分の心強さだ)

切嗣「僕が、六十億の全人類も、たった二人の愛する家族も救ってみせる――それが、僕の正義だ」

パァン

こんばんは
一気に投下して今夜中に完結させます

起源弾がアイリスフィールの腹部に吸い込まれていく。

大口径.30-06スプリングフィールド弾は造作もなくホムンクルスの柔肌を突破した。

本来ならば、その弾頭に含有された切嗣の第十二肋骨を媒介に『切断と結合』という起源が発動され、傷口は古傷のように塞がるはずだった。

しかし、魔弾が穿った孔は消失はおろか、収縮する素振りすら見せない。

それどころか、たちまちに孔は肥大化の一途を辿る。

アイリ?「衛宮……切嗣ゥゥゥゥァァアアアアアア!!」

孔は遂にアイリスフィールの身体を上回るほどに拡がり、そして――

――か黒い液体に満ち満ちた聖杯を、吐き出した。

切嗣「やった……やったぞ。僕は、やっと――!」

切嗣「セイバー、あとは君が聖杯を破壊するだけだ。これで、誰一人犠牲にすることなく――全人類を救える!」

セイバー「ええ、この先は私に与えられた使命――切嗣、貴方の役目はもう、終わった」

ドスッ

切嗣「う……くっ……セイ、バー……?」

セイバーの右腕が切嗣の鳩尾に刺さる。

深く突き立てられたそれを、ゆっくりと引き抜く。

その右手に握られていたのは切嗣の心臓――ではなく、青と金にあしらわれた、美しい鞘。

ガクッ

セイバー「切嗣、これは返していただきます」

切嗣「はぁ、はぁ……『全て遠き理想郷』、そいつを一体どうするつもりだ」

セイバー「この泥は器である聖杯を破壊したところで止まることはないでしょう」

セイバー「それどころか、依代を失った巨大な魔力が一斉に解き放たれ、周囲に災厄を齎す……」

セイバー「その最悪の展開を防ぐには――方法はたった一つ」

セイバー「切嗣、これには――この鞘には、貴方ですら知らないもう一つの機能があるのです」

切嗣「まさか……セイバー、やめろ、よすんだ! 君は――自分諸共、聖杯を封印するつもりか!?」

切嗣「一つの犠牲もなく、余さず救済する……あの言葉は嘘だったのか、セイバー!」

セイバー「……これは私が望んだ道です。決して、犠牲などではない」

切嗣「そんな……そうだ、君が消えたら君の願望はどうなる! ブリテンの救済を、君の他に誰が成就すると言うんだ!」

セイバー「……切嗣、私は間違っていたのかもしれない」

セイバー「私が選定の剣を抜いたことも、円卓を設けたことも、ランスロットやモードレッドの叛逆さえ、全ての事象が私という存在を、伝説を形作ってきた」

セイバー「それら全てを裏切ることはできない――”過去”は、変えてはいけない。そんな簡単な事を、私はライダーに諭されるまで気がつきもしなかった」

セイバー「だがしかし、切嗣。貴方やアイリスフィールにはまだ”未来”がある」

セイバー「だから貴方方には、生き残って欲しい」

セイバー「生き残って、幸せな未来を掴んで欲しい」

切嗣「セイバー……それじゃあ君が救われない!」

切嗣「セイバー、君は僕が唯一敬服する英雄だ。君は、僕がかくあらんと追い求め、果たして望むことすら諦めた正義の味方そのものだ」

切嗣「僕は、君のようになりたかった、それだけだったんだ――」

切嗣「そんな君を犠牲にしてしまったら……僕は――!」

セイバー「いいのです、切嗣」

セイバー「貴方は、私に救われたと言った」

セイバー「それは、貴方に限った話ではない」

セイバー「私も、貴方に召喚され、幾つもの戦いを越え、アイリスフィール、舞弥、イリヤスフィール、数々の好敵……そして切嗣、貴方と出会うことができた」

セイバー「貴方との出会いのお陰で、こうして私は答えを得ることができたと言っても過言ではない」

セイバー「貴方は私の魂を呪縛から救い上げてくれたのです」

セイバー「切嗣……私は、貴方がマスターで――貴方と出会えて、良かった」

セイバー「私にとっては、衛宮切嗣、貴方はもう既に、誰よりも恭敬すべき正義の味方だ」

切嗣「セイバー……」

セイバー「だから、泣いてはいけません、切嗣」

セイバー「正義の味方は諸人の笑顔を守るが役目。そんな正義の味方(あなた)が……泣き顔では話にならないだろう?」

切嗣「っ……! ああ、そうだね」

セイバー「それでは……行ってきます、切嗣」

切嗣「待て、セイバー」

セイバー「?」

切嗣「――第二の令呪を以って衛宮切嗣が命じる。セイバー、必ず、何時か……帰ってきてくれ」

セイバー「ふっ……無論です。必ずやまた――」

切嗣「それまでは……ありがとう、そして――さよならだ、セイバー」

ザッ

切嗣の最後の言葉に、騎士は報答しない。

振り返ることもしない。

ただただ無言で、ただただ背で、衛宮切嗣の意志に、応えた。

セイバー「……はああああッ!!」

切嗣(泣くなだって? 最期の最期に、君たちはどうして雁首を揃えてそんな言葉を言い遺す?)

切嗣(僕を誰だと思っているんだい、『魔術師殺し』『戦闘機械』と呼ばれた僕を……)

ツー……

切嗣「そんなことを言われて、堪えきれるわけがないだろう!」ボロボロ

セイバー「貴様をこの世に現すわけにはいかない……私とともに、唯の過去に還れ――『全て遠き理想郷』!」

切嗣「うわあああああ!」

セイバーが真名を解放すると、間もなく癒しの鞘は無数の欠片に分解された。

その一つ一つが結界を形作る軸として機能しているのだろう、勢い良く流れる泥を全て拒絶し、セイバーにはその一滴すら寄せ付けない。

セイバー「はあああああッ!!」

誉れの騎士王は汚泥の濁流を、呪いの奔流を迷いなく突き進む。

ただただ、求めていたはずの万能の願望機を、自ら封じ込めるため。

パシン

――遂に。

遂に、セイバーが聖杯を掴んだ。

その瞬間、セイバーを護っていた『全て遠き理想郷』が彼女と聖杯を、まるで、祝福するかのように巡り、取り巻いた。

ふと。

アルトリアは振り返る。

セイバー「――――」

もう既に音すら遮断された世界の中で、セイバーの唇は確かに、衛宮切嗣に何かを伝えようとしていた――。

カッ

ホールが眩い光に包まれる。

次に切嗣が、瞼を開いたときには、そこにあったはずの聖杯も泥も消え、残されていたのは未だ灼け続ける盛火だけであった。

聖杯戦争の終息。

聖杯による呪いの終焉。

しかし、無情にもそれは同時に、切嗣とセイバーの別れをも、明確過ぎるほどに物語っていたのだった。

切嗣「セイバー……」

切嗣「セイバー……!」

切嗣「!!」

切嗣「……令呪が、消えない」

切嗣「そうか、セイバーは消えたわけではなく聖杯を取り込んだままアヴァロンの中に封印されただけ」

切嗣「だから、サーヴァントの契約は続いたまま……」

切嗣「う、うわああああ……! くそっ、くそっ! 僕は、僕はまた!」

アイリ「う……」

切嗣「! アイリ……! ああ……アイリ……良かった……本当に……」

アイリ「切嗣……? どうして……私は……聖杯になったはず……」

切嗣「……騎士王が、セイバーが、僕たちを助けてくれたんだ――その身を、犠牲に」ギリッ

アイリ「セイバーが……?」

ガラッ

切嗣「くっ、ここは危険だ。兎も角、外に脱出しよう」

アイリ「わかったわ――ッ!」ズキッ

切嗣「アイリ……?」

アイリ「切嗣……身体が、動かないの」

切嗣(! アイリの肉体に融合していた聖杯を無理に引剥がした反動か――!)

切嗣「なら、早く僕の背中に。大丈夫、君は……せめて君は僕が守ってみせる」

ダッ

切嗣(どこもかしこも火の手が回っている……しかし冬木市民会館が耐火構造なのが幸いした)

ゴオオッ

切嗣「もう少しだ、もう少しで外に出られる。しっかりしろ、アイリ!」

ザッ

切嗣(――なんだ、これは)

外へと一歩踏み出した切嗣を待っていたのは目を覆いたくなる惨状。

街が、燃えている。

単純なこと。

市民会館を包んでいた烈火が、それだけでは飽き足らずその食指を周囲の家屋にも伸ばしていたのだ。

炎に蝕まれ焼け落ちる家屋。

叫喚し逃げ惑う人々。

猛るサイレン。

後に『冬木火災』と称される火難のその様子は、煉獄という言葉ですら生温い。

「熱い、熱いよ……」

切嗣「あ、あ……」

「助けて……」

切嗣「くっ――!」ギリッ

アイリ「――行って、切嗣」

切嗣「アイリ……?」

アイリ「行って、切嗣。私は大丈夫よ。助けたいんでしょう? 救いたいんでしょう?」

アイリ「救いを求める者を一人でも多く救う……セイバーなら、きっとそうしたわ」

アイリ「切嗣、あなたも同じことを望んでいるはず」

アイリ「だから――行ってちょうだい」

切嗣「ああ――ありがとう、アイリ」

――――

士郎『その顔を覚えている――』

士郎『目に涙を溜めて、助かる人間を見つけ出せたと、心の底から喜んでいる男の姿』

士郎『それがあまりにも嬉しそうだったから、まるで救われたのは俺ではなく、男のほうではないかと思ったほど』

士郎『そうして、死の直前にいる自分が羨ましく思えるほど、男は何かに感謝するように――”ありがとう”と言った』

士郎『”僕にもできたよ”と。”目の前の誰かを救うことができて――救われた”と』

00:00:00

――fate/zero

――――

ソラウ「あら、まだご親戚への申し訳の手紙を書き終えないの? あなたったら、そんなことすらまともに出来ないのかしら」

ケイネス「ソラウ……! 文句を言う暇があるのなら君も手伝い給え」ガリガリ

ソラウ「嫌よ。なんで私が”聖杯戦争で惨敗した”あなたの尻拭いをしなきゃならないの?」

ケイネス「くっ……私が悪いのではない、全てはあのウェイバーなどという小僧が……」

ソラウ「負け惜しみは潔くなくってよ? そんなに気に入らないなら今から”誅伐”でもしに行けば?」クスクス

ケイネス「……ったさ……」

ケイネス「行ったさ! ランサーが倒されてすぐにな!」

ソラウ「でもライダーにそれを阻まれた」

ケイネス「うっ」

ソラウ「返り討ちにあった挙句、二度とウェイバーに近づかないという誓いを立てさせられて命からがら逃げ延びた……そんなところでしょう?」

ケイネス「ぐぐぐ……」

ソラウ「本当、あなたってどこまでも噛ませ犬ね」

ケイネス「おのれ……おのれ……」ブツブツ

ソラウ「はあ、それ貸しなさい。……封蝋くらいは捺してあげるわよ」

――――

龍之介「はあ、旦那ぁ……俺を置いて消えちまうなんてそりゃないぜ……」

龍之介「また、つまんねー日々の繰り返しかぁ」

龍之介「でもま、いっか」

龍之介「そいつももうすぐ終わりだしなぁ」

「1026番、出ろ」

龍之介「おっ、思ったより早えーじゃん」

龍之介「それもそっかあ、もう、何人殺したか自分でもわかんねーし」

カツ、カツ

龍之介「俺がここでぶっ殺されるのも神様のシナリオだってなら」

「目隠しを」シュル

龍之介「とびきり面白可笑しくおっ死なねーと失礼だよなあ」

ギッ、ギッ

「止まれ」

スッ

龍之介(結局、何人ぶっ殺しても、何人の腸掻っ捌いても、本物の赤は見れなかったなぁ)

龍之介(見たかったモン見れねーままで死ぬのはちょっとばかし残念だよなあ。未練、ってヤツ?)

龍之介(……ん。ああそっか、俺、もう死ぬのか)

龍之介(たくさん、山ほど殺してきたけど、殺されるのは初めてだなあ)

龍之介(そう思うと、ドキドキしちゃうじゃん? ――ん?)

龍之介(心臓の……鼓動?)

龍之介「クス、アハハ、アハハハハ……すげえ、すげえや」

「どうした1026番、何か言い遺すことでもあるか」

龍之介「アッハッハ……あー、なあ看守さん、俺ってこれから死ぬんだろ?」

龍之介「見えるんだよ……最高に、格別にキレーな赤がさ……」

龍之介「目隠ししててもわかる……灯台下暗しとはよく言ったもんだ」

龍之介「なんだよ、俺の中にあんなら初めからそう言えっつーの」

龍之介「とびっきりの死の感触がさあ……」

「ちっ、気違いめ……」

龍之介「なあ旦那……」

龍之介「旦那も見たのか? この景色を――」

ガタン

――――

テレビ『先日冬木新都で発生した火災について続報です。未だ家屋の取り壊しが進んでない今回の災害ですが奇跡的にも延焼が遅く、死傷者は――』

ウェイバー「だー!」

ウェイバー「なんなんだよ『オケアノス』って! なんなんだよ『最果ての海』って!」

ウェイバー「地球は丸いんだ、わかってるのかあのバカ!」

ウェイバー「こうなったらいっそ、根源の渦とやらでも目指してみるか? いや、あんなものは僕一代で到達できるものじゃ……」

ウェイバー「もう一度時計塔に戻って……いやいやいや、次に会ったら今度こそあいつに、ケイネス教授に殺される……」

ウェイバー「はあ」

ウェイバー「ったく、最後まで僕に無理難題を押し付けやがって」

ウェイバー「でも」

ウェイバー「……友達との約束は、破れないもんな」

ウェイバー「――旅に、出てみるか」

ウェイバー「世界の果てに辿り着くにはまず、世界を知らないと……ってことだ」

ウェイバー「いつの間にか、僕にもあのバカが伝染ったかな」

ウェイバー「まあ、悪い気はしないどさ……」

ガサッ

ウェイバー「初回限定盤特典付き……こんなの、誰が欲しがるんだよ」クスッ

――――

ガチャ

凛「お父様ー!」ダキッ

時臣「り、凛?」

葵「お帰りなさい、あなた」

凛「お父様大丈夫? 足、痛くない?」

時臣「葵……これは一体、何だ?」

葵「決まってるじゃないですか、あなたの退院祝いと無事に帰ってきたお祝いですよ」

凛「そうよ、私も頑張ってお料理つくったんだから!」フンス

時臣「……駄目だ」

凛「え?」

時臣「私にはそんな資格はない……私は無様に取零し、遠坂の悲願を達成することも叶わなかった」グッ

時臣「すまない……君たち二人の顔にも、泥を塗ってしまったようなものだ」ギリッ

葵「そんなことありませんよ、あなた」

葵「私もこの子も、ずっとあなたの無事だけを願っていたのよ」

葵「だから謝ることなんて何一つないわ。生きて帰ってきてくれてありがとう、時臣さん」ニッコリ

葵「私たちは魔術師である以前に、家族なのだから……」

凛「お父様ぁー!」グスグス

時臣「そう、か。ああ、心配を掛けたね、凛……」

葵「さあ、早く上がって」

時臣「ああ――ッ!」

シャッ

葵「どうなさったの? 突然カーテンなんて閉めて……」

時臣「いや……なんでもないよ」

葵「ほら、お父様はお疲れよ。凛、お荷物を持ってあげて?」

凛「はーい!」

時臣(今、誰かに視られていたような……勘違いであってほしいものだが……)

時臣「ところで葵、君は一般人としての生活が長かったね」

葵「? そうだけれど……」

時臣「今度、”ぱーそなるこんぴゅーたー”なるものの扱い方を教えてはもらえないか? 敵を知るには、まずはその武器を手にしてみなければ……」

葵「あらあら」ウフフ

――――遠坂邸から少し離れた茂み

雁夜「チッ、時臣……相変わらずいけ好かない奴だ……」

雁夜「だが……今のところ、俺の出番はなさそうだ」

ズッズッ

雁夜(あのとき俺は……確かに死んだはずだった)

雁夜(自力で冬木市民会館から這い出たところまでは覚えている)

雁夜(しかし、そのあとの記憶はなく、俺は気づけば病院にいた)

雁夜(どうやら冬木火災の被害者の一人として救助されたようだ)

雁夜(だが……あのときに死んでいなくても、俺はこうして生きているわけがない)

雁夜(俺の身体に刻印虫がいる限りは……)

雁夜(しかし、あれ以来俺の魔術回路の代理機能を果たしていた刻印虫が活動した様子はない)

雁夜(相も変わらず身体はズタボロだが、それでもあの肉体を蝕まれる激痛が起こったことは未だ一度もない)

雁夜(恐らく、俺の中の刻印虫が死滅した、と見ていいのだろう)

雁夜(どういう理屈でそうなったかはわからない……だけど、こういうのを”奇跡”って言うんだろうな……)

雁夜「はあ」ドサッ

雁夜「これからどうするか……この身体じゃ、もうルポライターはキツいな」

雁夜「いっそのこと、伝奇ものの小説でも書いてみるか――ん?」

prrr

ピッ

雁夜「……何の用だ、鶴野」

雁夜「はぁ!? じじいが一気に急速にボケた!?」

雁夜「いやいやいや、だからってどうして俺が……まあ確かに行く宛もないが……」

雁夜「だぁ! 分かった! 行く、行くよ! その代わり蟲蔵は全部燃やさせてもらうぞ!」

雁夜「チッ……見てろよじじい、今までの分キッチリいじめ返してやるからな……!」

――――

士郎「おい――おい!」

切嗣「うん?」

士郎「晩飯前に寝るなよな」

切嗣「ああ……いや、大丈夫だよ」

切嗣「なあ、士郎――」

切嗣「――子どもの頃、僕は正義の味方に憧れてた」

士郎「なんだよそれ、『憧れてた』って過去形かよ」

切嗣「ああ――だって僕は」

切嗣「もう、君たち家族にとっての正義の味方になってしまったからね」

士郎「……へっ、確かにそいつは違いねえな――父さん」

士郎「ところでずっと気になってたんだけどさ、父さんの右手のイレズミ? アザ? みたいなのってなんなのさ」

切嗣「こいつは……絆なんだ」

切嗣「ある人と僕を繋ぐ……唯一の絆、その痕跡さ」

士郎「へえ」

切嗣「……士郎、お前も大事な誰かを守れるようになりたいかい」

士郎「当然だろ、俺も父さんみたいな正義の味方になってやるよ」

切嗣「ふふっ、なら士郎にもいつか――」

「切嗣ー士郎ーご飯よー! 今日はハンバーグよ!」

士郎「げっ、ハンバーグ!?」

桜「大丈夫、今日は主に私が作ったから」

イリヤ「キリツグもお皿並べるの手伝ってー!」

切嗣「はいはい、今行くよ」

切嗣が立ち上がる。

それと同時に、先程まで彼が読んでいた冊子のページが風と重力に従い、捲れた。

名も無き出版社から刊行されたその本のタイトルは――『アーサー王伝説』。

アイリ「あらー士郎、さっきの『げっ』は何だったのかしらー?」ゴゴゴ

士郎「あ……いや……その……」タラッ

切嗣「ははは」

アイリ「ところであの人はまだ帰ってこないの?」

切嗣「……いや、もうすぐ帰ってくるさ。――ほらね」

スゥ

セイバー『ただいま――マスター』

切嗣「おかえり――騎士王」

『切嗣「安価で第四次聖杯戦争を勝ち抜こう」』完

とりあえず完結です
お疲れ様でした
質問や感想などがありましたら後学のためにもレスしていただけるとありがたいです

乙乙乙
いい最終回だった
最優ならこれくらいあっさり?するもんだよな普通は……ケリィェ

今回の安価で一番展開が作りやすかったとか
面白いと感じたのは何だった?


じゃあ遠慮なく質問
1なんで爺はボケたの?
2おじさんの蟲は死んだけど余命まで戻ったの?
3第5次聖杯戦争は起こるの?
4冬木の美しく強い虎は切嗣に横恋慕してしまう展開はありますか?

所でサクラは?

乙 質問続編とか考えてますか?

>>386
やはり今回のSSを方向づけたのは>>5だと思います
ですが、面白かったのは>>17でしょうか
雁夜おじさんとの共同戦線はなかなか考えごたえがありました

逆にやられた! と感じたのが>>120でしたね
普通に桜は刻印虫経由で連れ戻されるか、協会に封印される流れを作るつもりだったので

>>387
1.これはセイバーがどうやって戻ってきたのか、何故イリヤが衛宮家にいるのかという部分にも関わりますね
謎のまま終わらせるのもいいかなと思ったのですが追求した方がいいですかね

2.正直これはご都合主義ですね
このSSでは『あのまま刻印虫に喰われ続けたら余命は聖杯戦争いっぱいだった』という解釈でやってますので
切嗣の起源弾で刻印虫が死滅した以上、元通りとはいかなくても寿命は伸びるのではないか、と

3.この世界では起きません
理由は1と同様です

4.ここの切嗣はキス魔なので修羅場は少なからず起きるでしょうが本人はアイリ一筋です

>>338
>>379にちゃっかりいますよ
記憶を失ったまま衛宮さん家の子になっちゃってます

蟲に魔術回路を弄くり回されてその上それを強制的に取り除かれてしまったために魔術師としては完全に打ち止め
本編でも言ったように臓硯も使い物にならないと判断してます
そのため協会も封印指定を解除……ということで一つ、お願いします

時臣は雁夜に釘を刺されたため基本的に桜にはノータッチです

>>389
続編、というかこの設定を持ち越したパラレルギャグSSは書いてみたいなーとは思ってます

>>392
>>338ではなく>>388でした

蛇足かもしれませんが、思った以上に突っ込まれたので補足でちょっとばかし書きたいと思います

――――第四次聖杯戦争から一年後

極冬。

吹き荒ぶ吹雪そのものが大自然の結界として覆われたドイツ・アインツベルン城。

そこに、新しい足跡をつける黒い影があった。

切嗣「……結界、か。ユーブスタクハイト! 僕だ、結界を開け」

静寂。

沈黙。

それは、どんな返答よりも、頑なな拒絶を雄弁に語っていた。

切嗣「そうかい。そちらさんは、僕を迎え入れるつもりはない、と」

切嗣「だが僕がもし、聖杯を持ち帰ったとしたら……どうする?」

アハト『ほざけ裏切り者が。第四次聖杯戦争は一年も前に決したはず。そのときに聖杯を封じたのは貴様ら自身であろう!』

切嗣「ああ、そうだ。一年前の聖杯戦争で僕たちはあと一歩で聖杯を掴み、祈りを遂げるところまで勝ち進んだ」

切嗣「だが僕たちは気づいた。アレはただの万能の願望機などではない、と」

アハト『貴様の戯言などとうに聞き飽きた! 命が惜しくば去れ!』

切嗣「……そして、黒い泥を撒き散らす聖杯との対峙の末、それを『全て遠き理想郷』で封印することを決めた――セイバー一人の、人身御供を以ってね」

切嗣「しかしセイバーは帰ってきてくれた。僕との約束を、果たすために――」

カッ

切嗣の右手が赤く鈍く光を放った。

するとそれに呼応するように白雪の中をも強く輝く黄金の煌めきが発する。

魔力に編まれながら、そこに現界したのは――最優の騎士、その人……アルトリア・ペンドラゴンであった。

アハト『何……?』

切嗣「セイバーは結界の中でひたすらに、聖杯の中の魂と対話をした」

切嗣「一人ひとりを説き、自らの中に取り込んでいったんだ」

切嗣「あの泥も、依代となる魔力がなくては、手も足も出ないだろうからね」

切嗣「その全ての行程に、道程に、どれだけの時間が費やされたのか。時空からも切り離された妖精郷の壁の中で、彼女が何億、何兆、何京年……説得を試み続けたのか、僕には想像だにできない」

切嗣「その永い時を経て、セイバーは聖杯内の六騎全ての魔力を吸収した……それがどういう意味を持つのか、お前にはわかるはずだ、ユーブスタクハイト」

アハト『まさか……それが、セイバー自体が、聖杯だというのか?』

切嗣「ご名答。今やセイバーは生きた聖杯だ。そして僕は、それを律することのできる令呪を一画残している」

切嗣「つまり僕の命令一つで根源の渦への道は開かれるということだ。……それでも僕を、裏切り者と呼ぶかい?」

アハト『……入れ』

――――

ギィ

切嗣(……やはり変わらないな、ここは)

メイド「衛宮切嗣様、ユーブスタクハイト様がお待ちです。どうぞこちらに――」

切嗣「いや、儀式の前に会わせてもらいたい……僕の娘、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに」

――――

ガチャ

イリヤ「う……嘘……そんな……」

切嗣「イリヤ……! ああ、イリヤ、会いたかったよ……!」

イリヤ「キリツグ、どうして……? キリツグは私とお母様を見捨てて逃げたってお爺様が……」

切嗣「僕がアイリやイリヤを置いて逃げ出すと思うかい? だからこうして約束通り戻ってきた。イリヤ、僕はイリヤを心から愛している。それだけは、誓って本当だ」ギュッ

イリヤ「ふぇ、ぐすっ、ギリヅグー!」

イリヤ「あのね、イリヤ、怖い夢を見たの」

イリヤ「イリヤの中にね、おっきなカタマリが七つも入ってきてね、イリヤはすっごく苦しくて、破裂しちゃいそうで――」

切嗣「ああ、ああ。イリヤをそんな目に遭わせるもんか。運命が許したって、僕が許さないよ。イリヤはもうそんな怖い思いをしなくてもいいんだ、だから――」

ガシッ

イリヤ「へっ?」

切嗣「僕と一緒に……アイリの待つ家に帰ろう――セイバー、やれ!」

セイバー「はい! ――はぁッ!」

ドォン

騎士王が不可視の剣を揮うと、床に大穴が切り開かれる。

セイバー「切嗣、ここから下に!」

切嗣「ああ」

イリヤ「え? え? えええええええ!?」

バッ

――――

タッタッタッ

使い魔「「「クエーッ!」」」

切嗣「くっ、もう追手が来たか……流石だな、アインツベルン!」

アハト『愚かな裏切り者め、アインツベルンを敵に回すとはな……生きてこの城から出られると思わんことだ』

セイバー「下がってください、ここは私が切り拓きます」

切嗣「いや、あれはいつか僕がアイリに入れ知恵した、銀糸で編まれた使い魔……切断の類は無意味だ」

セイバー「……ならば、魔力を絶ってしまえばいい」

セイバーの手から風の纏う宝剣が消える。

その代わりに現れたのは――魔的なほどに紅い、槍。

アハト『馬鹿な、それは……!』

切嗣「僕は言ったはずだ。セイバーは六騎全ての魂を取り込んだ、と」

切嗣「それは即ち……第四次聖杯戦争に召喚された全クラスのスキルから宝具に至るまで、余さず全て自らのものとしたということ……!」

切嗣「貴様らこそ、敵に回した相手が悪すぎたようだな」

セイバー「『破魔の紅薔薇』ッ!」

ズバッ

セイバーが魔槍で斬りつける度に、銀の鳥はただの針金細工と化す。

それが、その現象こそが衛宮切嗣の言葉を裏付ける確たる証拠。

切嗣「よくやった、セイバー。行こう、もう少しで出口だ」

――――

ザッ

ホムンクルス「「「警告。衛宮切嗣を敵性と判別。ユーブスタクハイト様の命により排除します」」」

イリヤ「うわああああ!? お母様がいっぱいいる!?」

切嗣「アイリの失敗作を戦闘用のホムンクルスに改造したのか……チッ、相変わらず趣味が悪いな」

セイバー「……流石に私もアイリスフィールと同じ顔をしたホムンクルスを殺すのは些か寝覚めが悪い」

セイバー「なのでこんなのはどうでしょうか、切嗣」

セイバー「『天の鎖』!」ジャララッ

ホムンクルス「くっ……」ギシッ

切嗣「上出来だ、セイバー。さあ、帰ろう」

セイバー「はい、『神威の車輪』!」モオオッ

イリヤ「もう、わけわかんない……」

切嗣「さて、と。あとは……全ての元凶、大聖杯を破壊するだけだ。……できるね、セイバー」

セイバー「無論です……でも、その、成功の暁には……褒美を賜りたいのですが……///」テレテレ

切嗣「ああ、いつものやつだね。わかった、無事に大聖杯を解体できたらご褒美をあげるよ」ハハハ

イリヤ「?」

その後、切嗣が娘の目の前でセイバーに”ご褒美”をあげて新たな修羅場が生まれるのだが、それはまた別のお話――

そんなこんなで大聖杯も破壊されたので第五次聖杯戦争は起こりません
また、生きがいを失った臓硯はもれなくボケます

正直ご都合主義展開になるので削ったのですが、一応、こんな感じで辻褄合わせてるんだな、ということで。

ないわーという方は>>381で完結はしているのでそれ以降は見なかったことにしてください

一つ質問なのですが
続編書くとしたらスレ建てなおしたほうがいいですかね、それともここで続行?

続編の内容にもよるなり

>>418
ウロブチック展開なしのほのぼのハートフルコメディがいいかなと

では、ここからは『切嗣「安価で第四次聖杯戦争を勝ち抜こう」』改め『切嗣「安価で第四次聖杯戦争を勝ち抜いた」』を開始します

※注意
この世界は切嗣「安価で第四次聖杯戦争を勝ち抜こう」の世界とはちょっと異なるパラレルギャグワールドです
キャラ設定自体は引き継いではいますが、全体的にギャグテイストになっております
なのでこの先何が起ころうと前作とは無関係、ノーカンです
前作同様、安価で進行します

確認のためのキャラクター設定

<衛宮家>
・衛宮切嗣
衛宮家の大黒柱。大黒柱とは名ばかりのニート。キス魔で一級フラグ建築士。

・セイバー
衛宮家の穀潰し。生きた聖杯となったチート英霊。でもアイリスフィールには敵いません。切嗣ラヴ勢。

・アイリスフィール
衛宮家の聖母。ただし料理と家事のスキルは壊滅的。ヤンデレ属性持ちで切嗣に近寄る虫は魔術師であろうと英霊であろうと[ピーッ]す。
ちなみに身体は某腕利きの人形師に修復してもらったとかなんとか。

・衛宮士郎
衛宮家で一番まともな人。ただし、そのフラグ建築能力は父親譲り。何故か教えてもいないのに投影魔術を使おうとする。

・衛宮桜
衛宮家のお財布番。お金の使い方を知らないアイリや働く気のない切嗣のせいで家計簿はいつも真っ赤。そのためたまにセイバーの『王の財宝』から宝をちょろまかして売ってる。
第四次聖杯戦争以前の記憶を失っているが、衛宮家を本当の家族のように思っている。虫を見ると思い出してはならない記憶が蘇りそうになる。禁断の切嗣ラヴ勢。

・イリヤスフィール
衛宮家の天使。切嗣に甘やかされて育ったためわがまま娘に。でもイリヤのわがままに付き合わされるのは大概セイバー。

<元マスターの方々>
・遠坂時臣
聖杯戦争を通じて家族愛に目覚めて優雅な親バカパパに。最近PCをかじり始める。殺されかけたトラウマで雁夜が怖い。

・間桐雁夜
死線とか死闘とかいろいろ通り越し過ぎて今では立派なストーカーに。ボケた臓硯を放置し日々遠坂邸の監視に明け暮れる。作家業も兼ねていて、只今厨二設定小説『暗黒騎士ランスロット』を絶賛執筆中。

・ウェイバー・ベルベット
世界中を旅行している途中で舞弥と出会い、髪型が似ているという理由だけで半ば強制的に連行され彼女と共に世界中を駆け回ることに。不憫。こんなんばっか。

・言峰綺礼(故)
無念のうちに亡くなったせいか、言峰教会に居着くゴーストになってしまった。切嗣への妄執で亡霊となったのでそれがしばしば暴走する(びぃえる時空的な意味で)。
一説によると麻婆豆腐を供えると大人しくなるというが……?

・ケイネス・エルメロイ(ry
最近、ストレスによる抜け毛に悩み、優れた育毛技術を求めソラウに内緒で再び日本、冬木の地に。何故かホテルに滞在するのを恐れ、雨生さん家に下宿している。

<その他>
・久宇舞弥
前作ではすっかり死んだ扱いになっていたが、ちゃっかり生きている。今は自分の本当の名前を取り戻すため、そして自分と同じ境遇の少年兵を救出するため髪型のよく似た新たな相棒を携え世界

を駆け巡っている。
たまに里帰りで衛宮家を訪れるが、切嗣に尽くすという任から解放されて気が緩んだせいか、時折素が出る。そしてやっぱり切嗣ラヴ勢。

・雨生竜之介
連続殺人犯、雨生龍之介によく似た別人。最近衛宮家の近所に越してきた。
見た目は龍之介そのままだが性格は打って変わって爽やかな好青年。しかし、幼女を見ると豹変して……?

・ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン
大聖杯を破壊した切嗣への仕返しと、孫娘の顔を見に、時たま衛宮家を襲撃する困ったお祖父ちゃん。

・間桐臓硯
大聖杯が破壊され、生きがいを失ったことにより急速にボケた。今は雁夜に介護(という名の虐待)を受けている。

・藤村大河
衛宮家の近くに住む「~ッス」口調が特徴のジャージ&ブルマな女子高生。第五の切嗣ラヴ勢。アイリは何故か彼女を「ぜっちゃん」と呼ぶ。何故か。

桜イリヤの見た目年齢が気になる

>>427
第四次聖杯戦争から数年経過という感じで脳内補完お願いします

○切嗣「安価で第四次聖杯戦争を勝ち抜いた」

プロローグ『食卓の騎士』

「いただきま~す!」

切嗣「おっ、美味しそうなハンバーグだなあ。もぐもぐ……うん、美味い! 桜はいいお嫁さんになるよ」モグモグ

桜「お父さんに、喜んで欲しくて……///」

イリヤ「キリツグ、そのニンジンの照り煮はイリヤが作ったんだよ!」

切嗣「おお、よく出来てるじゃないか」モグモグ

アイリ「あ、切嗣そのハンバーグは私が作ったやつなの♪」

切嗣「ほう、そうなの――」ゴフッ

切嗣「…………」

「「「…………」」」

切嗣「……と、とてもおいし、美味しいよ、アイリ……アイリの料理は世界一だ……いやあ、僕は……幸せ者……だ、なあ……」バタッ

士郎(父さん……せめて安らかに眠ってくれよ)

アイリ「やだ、切嗣ったら卒倒するほど美味しかったのかしら♪あと、もう何個か私が作った奴があるから皆も探してみてちょうだい♪」

ビクッ

士郎(こ、これは……! これはつまり……!)ワナワナ

セイバー(楽しいはずの食卓が……一気にロシアンルーレット状態に……!?)ガクガク

切嗣「」チーン

サクッ

士郎(これはッ! このこの世のモノとは思えない色をした中身は――メイド・バイ・母さん!?)タラァ

士郎(これを食べたら、恐らくは一晩はトイレから抜け出せなくなりそうだ……だが、引き当ててしまった以上、食べないわけには……ッ!)ガクガク

セイバー「シロウ、私にはこの量では足りません。そのハンバーグを私に譲ってはもらえないだろうか」

士郎「セ、セイバー?」

士郎(わかっているのか!? これは母さんの……)ヒソヒソ

セイバー(ええ、わかっています。ですが生身の人間である貴方に、この劇物を食べさせるわけにはいきません……)ヒソヒソ

士郎(セイバー……お前ってやつは……)ヒソヒソ

セイバー(さあ、早く私の皿にそれを)ヒソ

士郎(ああ、ありがとう……お前こそ、本当の英雄だよ……!)ヒョイッ

セイバー「それでは……むしゃ」

セイバー「――ュ!」

セイバー「ッ、ヮ、と、とても美味しいです……これは、アイリスフィールのハンバーグでしょうか……」ダラダラ

士郎(GJセイバー!)

アイリ「あら、セイバー足りなかったなら言ってくれればよかったのに」

セイバー「へ?」サァッ

士郎(あ、これはオチが……)

アイリ「実は作りすぎちゃって……」テヘッ

ドッサリ

アイリ「さあ、遠慮なく食べてね、セイバー♪」

セイバー「キャーーーーー!!」

切嗣「」死ーン

――――

切嗣「」チーン

セイバー「」チーン

士郎「すげえ……全部平らげてる……」

アイリ「さあ、片付けましょう。イリヤ、洗い物を手伝って?」

イリヤ「はーいお母様」

桜(今度からこの手を使えばセイバーの食費を抑えられる……)

こんな雰囲気で次から安価でいきます

――――

切嗣「う、うーん……」

切嗣「はっ、僕は一体……?」

切嗣「ああそうか、昨晩、僕はアイリのハンバーグを口にして……今まで意識を失っていたのか」

切嗣「……暇だな」

切嗣「忙しくないのは悪くないが、退屈というのも苦痛だ」

切嗣「どれ、ちょっとそこまで煙草を買いに行くかな」

切嗣「バレたらアイリには怒られるだろうけど、まっ、こっそり吸えば大丈夫だろう」

切嗣「なんてったって僕は、隠蔽のプロだからね」キリッ

切嗣「ちょうど>>437も家で暇そうにしてるし一緒にいくか」

みんなで泰山で食事

切嗣「セイバー、これから煙草を買いに行くんだけど一緒に来るかい?」

セイバー「え? しかし、切嗣……」チラッ

切嗣「うん? どうしたんだい、セイバー」

セイバー「烟草は家計と子どもたちの健康のためにアイリスフィールに禁止されているはずでは……」チラッチラッ

切嗣「はっはっは、なんだい、そんなことか。君も知っているだろう、僕はね全盛期は外道とまで呼ばれた男、ルールの一つや二つ破って――」

アイリ「そ・ん・な・こ・と?」ゴゴゴゴゴ

切嗣「あ……」タラ

セイバー(切嗣……哀れな)

――――

切嗣「申し訳ありませんでした」ドゲザ

アイリ「わかればよろしい。ところで切嗣」

切嗣「なんだい、アイリ」

アイリ「昨日のハンバーグで家にあった食材全部使っちゃったから今日のお昼は外食にしようと思うのだけどいいかしら?」

切嗣(食材全て……? アレには一体何が含有されていたんだ……!? いや、もはや考えないほうがいいのかも……)

切嗣「わ、わかった。それでどこに行くんだい?」

アイリ「なんだか泰山っていう中華料理屋さんが美味しいランチをやってるって聞いたからそこにしましょう」

切嗣「了解した。じゃあ皆を連れて行こうか」

――――

ゾロゾロ

士郎「皆で揃って外食って久しぶりだなー」

切嗣「ああ、美味い娑婆の飯が食えると思うと、嬉しさで涙が止まらないよ」

セイバー「切嗣、流石にそれは……」

イリヤ「珍しいじゃない、桜が外食オッケー出すなんて。いつもなら『コスパが~』とか言い出すのに」

桜「お父さんとのお出かけはプライスレスだから……」

テクテク

切嗣「ん? 誰かと思えば>>442じゃないか。奇遇だなあ」

アハト翁

切嗣「ん? 誰かと思えばアハト翁じゃないか。奇遇だなあ」

アハト「『奇遇だなあ』? 裏切り者め、呑気に構えていられるのも今のうちだ、殺れ、ホムンクルス軍団!」

切嗣「やれやれ……イリヤ、いつものやつ、お願いするよ」

イリヤ「えー、また私がー?」

切嗣「頼むよ、今度お小遣いあげるから」

イリヤ「仕方ないなー」

イリヤ「ねえ、お祖父ちゃん……」ウワメヅカイ

アハト「うぬっ!?」

イリヤ「今からイリヤたち、お昼ごはんなの。お祖父ちゃんも一緒に食べよっ♪」キュルルン

アハト「ぬっ……孫娘の頼みとあっては仕方ない。衛宮切嗣、貴様を葬るのはランチの後だ!」

切嗣「はいはい」

切嗣「ふっ、いかに大魔術師といえど孫の前ではただのじいじ……イリヤが僕の手中にある限りお前に勝ち目はない」

切嗣「まあ形式上アハト翁も僕らの家族だしね、一緒に食事を摂るのもやぶさかではないさ」

桜「ということはお昼はじいじの全奢り……」ガッツポーズ

――――泰山

ギィッ

???「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」

切嗣「!? お前はッ!」

切嗣「――言峰、綺礼!」

切嗣「どういうことだ、貴様は僕が……殺したはず!」

綺礼「ふっ……私は確かに、貴様の手の者に殺された。だが、私の貴様に対する執念は、生命をも越えたのだ」

綺礼「衛宮切嗣、お前という存在を知るために私は――こうして亡霊となってお前の前に舞い戻った!」

切嗣「なん……だと……?」

綺礼「フンッ!」

バタン!

切嗣「!? 出入口が……開かない!?」ガチャガチャ

切嗣「僕たちを閉じ込めてどうするつもりだ、言峰綺礼!」

綺礼「決まっているだろう――」

切嗣「くっ……!」

綺礼「ここは中華料理飯店『泰山』、ならばここを乗っ取った私の取るべき行為は一つ……料理を、提供することだ」

切嗣「は、はぁ?」

綺礼「さあ、注文をするが良い、衛宮切嗣とその愉快な家族たち! とはいっても、メニューは麻婆豆腐ただ一つだがな! フハ、フハハハハハフハハハハハハ!」

切嗣「意味がわからない……だが、貴様の作るようなものを家族に食わせられるものか! 喰らえ、コンテンダー!」バァン

スゥッ

切嗣「何ッ!?」

綺礼「言ったはずだぞ、衛宮切嗣。私はもう死んでいる、と。死人を一体、どうやって殺すつもりなのだ?」

切嗣「じゃあ逆にどうやって調理するんだ!?」

綺礼「そこは、まあ、亡霊とは便利なものでな」

切嗣「ちくしょう……」

アイリ「まあいいじゃない、切嗣。折角こうして料理を作って待ってくれてたんだから食べて行きましょうよ」

切嗣「しかしアイリ、こいつは僕らを……」

アイリ「もう、細かいことは気にしないの! 子どもたちもお腹をすかせていることだし」

綺礼「ふふっ、話がわかる奥方で助かる」

切嗣「どう見積もっても殺されかけたのは細かいことではないはずなんだけどなあ……」

アイリ「さあ、綺礼神父。料理を持ってきてちょうだい」

綺礼「相分かった」

ドン

士郎「おお~これは」

イリヤ「思った以上に普通の麻婆豆腐ね」

桜「いい匂い」

セイバー「お待ちください、切嗣が言った通り、相手は信用のならない手合です。まずは私が毒味をしましょう」ジュルリ

切嗣「ああ、頼んだよ。セイバー」

綺礼(フフフ……食え、さあ食え。そして苦しみ慄け。ただでさえ激辛の泰山オリジナルの麻婆に、私が手ずから集めた世界各国のスパイスを織り交ぜ、ハバネロをぶち込み、ラー油マシマシにしたスーパーウルトラ殺人級超激辛麻婆豆腐……)

綺礼(一口でも食せば英霊ですら悶絶する辛さ……否、もはやそれは辛さなどという生温い次元ではなく、純粋な痛覚。舌を、口内を嬲る純然たる辛苦……)

綺礼(貴様らの表情が歪み、のたうち回る姿こそが我が愉悦、我が願望……今こそ、遂げさせてもらうぞ。衛宮――切嗣)

セイバー「あ、いけますよこれ」パク

綺礼「何ィ!?」

綺礼(いや、落ち着くんだ。セイバーは破格の英霊。奴に通用しないことは想定内)

切嗣「本当だ。普通に美味い」

士郎「だな、辛さが効いてる」

桜「デリシャス」

イリヤ「普通にまともね」

アイリ「いい色だわ!」

綺礼「」

綺礼「ど、どういうことだ……これを、こんなものを食して平然としていられるなど……貴様らは本当に人間か!?」

切嗣「そうは言われてもなあ」

切嗣(確かに辛いっちゃあ辛いが……辛いだけなんだよな)

士郎「ああ」

士郎(俺たちは日々、もっとスゴイもん食べてるし……)

綺礼「くっ……!」

「ぐわあああああああああああからいいいいいいいいいいいいああああああああああ水ううううううううううう」

綺礼「はっ、やったぞ……これこそが私の求めていた――」

アハト「ぎゃあああああああああああああああああああああああ」ジタバタ

綺礼(だ、誰だこいつは……?)ガーン

綺礼「チッ、覚えておけ、衛宮切嗣。次こそは我が望みの答えを――!」スッ

ガチャ

イリヤ「あ、ドア開いた」

切嗣(本当に……あいつは何がしたかったんだろう……)

アハト「うひいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

切嗣「じゃあ支払いはそこに転がってるじいさんに任せて、僕たちは帰ろうか」

セイバー「ええ、あの麻婆は中々に美味でした。是非また食べたいものです」

アイリ「なら今度作ってあげるわよ、セイバー」

セイバー「え゛っ」

第一話:絶対防御『全て不味き地獄卿』完

食べ物系だとどうしてもアイリのメシマズ弄りになってしまいますね

――――

チュンチュン

切嗣「~♪」

セイバー「おや、珍しいですね切嗣。昔のスーツとコートを着込むとは……しかもこんな朝早くに」

切嗣「ああ、セイバーか」

切嗣「当然さ、今日はなんといっても>>450がある日だからね」

切嗣「この僕に、抜かりはないよ」

授業参観

子供はイリヤ士郎桜の三人に対し
保護者もアイリ切嗣アルトリアの三人

誰が誰を参観するかで揉めたりしないかな?
ケリィの事だし、途中で別の処行くとか考えられん

濁った目なのに子供たち&教師から人気の切嗣に
???「キリツグは???のパパなのに……」
?「あ、あの子、?だけのお父さんに触った……」
ってなるわけですか?分かりません!

セイバー「授業参観、ですか」

切嗣「ああ、楽しみだなあ。子どもたちの成長ぶり、普段家では見せない姿も見られる。授業参観を発明した人に聖杯をあげてもいいくらいだ」

セイバー「それは困ります……ですが切嗣、>>452でも言われているようにイリヤスフィール、シロウ、桜は皆別々のクラスで、同時に見ることはできないのでは……」

切嗣「な、なんだってー!?」

切嗣「それじゃあ僕とアイリが分担しても誰か一人は見られないということになる……二人のために一人が犠牲に……クソッ、僕はこんな救いは求めちゃいない!」ガンッガンッ

セイバー「いや、それは……切嗣?」

切嗣「こんなとき、舞弥がいてくれたら……」

セイバー「舞弥死亡時の台詞を使い回さないでください縁起が悪い。それに、私を頭数に入れてないでしょう」

切嗣「セイバーを? しかし君はどう見てもお母さんには……あっでも実年齢的には――」

ドスッ

セイバー「姉ということで参加すれば問題はありません。そうですよね、切嗣?」ギロッ

切嗣「は、はい……」ガクブル

切嗣「……しかし、本当に問題なのはここからだ」

セイバー「と、言いますと?」

切嗣「答えるまでもない。僕が誰の授業参観を見に行くか、ということだよ」

切嗣「うちの子どもたちは皆が皆、甲乙つけ難いほど愛おしいんだ。その中で誰を選ぶかなんて……僕にはできない」ギリッ

セイバー「はあ……」

切嗣「想像してみろ、僕が授業を見に行けないと知った子どもたちの反応を――」

――――

イリヤ『そんな……キリツグならきっと来てくれるって信じてたのに……』ウルッ

桜『……お父さんは桜とは遊びだったんですね……フフ、ウフフフフ……』

士郎『そっか……父さんは俺にとっての正義の味方じゃなかったんだな……』ショボン

――――

切嗣「うわああああああああ!! もうお父さんどうすればいいんだああああ!?」グワッ

セイバー(ああ、こりゃもうダメだ)

アイリ「じゃあ公平にジャンケンで決めましょ? それなら子どもたちも不満はないはずよ」テテーン

切嗣「おお、流石は僕の妻だ。その手で行こう」

セイバー「はあ、ではいきますよ……ジャーンケン」

「「「ポンッ!」」」

セイバー「ふむ……結果は>>460ですね」

ケリィは桜
アイリは士郎
セイバーはイリヤ

――――

アイリ「それじゃあいってらっしゃーい」

イ桜士「いってきまーす」

切嗣「……行ったか」

切嗣「それでは、作戦会議を開始する」

切嗣「の前に、アイリはこれを」

アイリ「あら、これは?」

切嗣「とあるルートから仕入れた小型無線機だ。イヤホンのように耳に装着するだけで、通話が可能になる代物だよ」

切嗣「セイバーは常に僕と感覚の共有を。テレパシーによるケアも怠るな」

セイバー(聖杯戦争のとき以上の意気込みなのですが……)

切嗣「さて、まずはこの見取り図を見て欲しい」

切嗣「これは士郎たちが通う学校の設計図……アイリはポイントA、セイバーはB、そして僕はポイントCに配置。もしものときに備えて自分のポイントから各ポイントへの最短ルートも頭に入れておいてくれ」

セイバー「あのー切嗣、授業参観でそこまでやる必要は……」

切嗣「ない、と?」ギロッ

セイバー「えっ」ビクッ

切嗣「いいかいセイバー、授業参観、それは全ての親にとっては――戦争なんだ」

切嗣「僕はこと戦争に関しては手を抜いたことはなくてね」

切嗣「もし君がこの戦争に対してその程度の意識でいるなら――」

セイバー「わ、わかりました! まじめにやります!」

切嗣「ならばいい。さあ、話に戻ろう」

切嗣「タイムスケジュールだが……不幸にも三人のクラスの授業参観は全て同じ二時間目」

切嗣「クソッ、これは学校側の杜撰なミスだな……こうなるとわかっていたならあらゆる手を使ってでも上層部を掌握しておいたものを……」

切嗣「まあいい、兎も角君たちは授業開始三十分前に教室前で待機。チャイムが鳴ると同時に入室するんだ」

切嗣「そしてこれが最も重要なことだが……何があっても持ち場は離れるな。例え何が起ころうとも、そして子どもたちの授業を阻害する者が現れれば――全力で排除しろ」

セイバー「いや、流石にそんなことは……」

切嗣「」ギロッ

セイバー「なんでもありません」

アイリ「切嗣」

切嗣「なんだい、アイリ」

アイリ「それぞれ見る教科は何なのかしら」

切嗣「良い質問だね、アイリ。それもこちらで割り出してある……士郎のクラスが算数、イリヤが国語、そして桜が体育だ」

切嗣「一応、君たちにはこれも渡しておこう。各クラスの担当教員とクラスメートの綿密な個人情報、そして消音器付きの小型拳銃――」

セイバー「それはやめてください切嗣!!」

切嗣「そうかい? 脅し程度には丁度いいと思ったんだが……とりあえずは連絡事項は以上だ。何か質問は」

アイリ「ないわ」

セイバー「(突っ込みどころは腐るほどありますが……)私もありません」

切嗣「……よし。ならば各自決戦に備えておいてくれ」

切嗣「桜、士郎、イリヤ……見ていてくれ、父さんたちは……!」

セイバー(本当に大丈夫でしょうか……?)

――――

切嗣「アイリ、セイバー、配置にはついたかい?」

アイリ『全てそつなく』

セイバー『私のほうも問題はありません――ですが……』

――――

ナンデアノネーチャンキョウシツノマエニインノ

アレオトコダロ

ダレノニーチャンダヨ

セイバー(これは些か面映い……!)

――――

アイリ「ふう、とうとう士郎の授業参観が始まるのね。私までドキドキしてきちゃったわ……」

カツッ

アイリ「ッ! あ、貴方は――」

アイリ「遠坂――時臣!」

時臣「おや、どなたかと思えばアインツベルンの……」

アイリ「遠坂の当主が一体、こんなところに何をしに来たのかしら?」キッ

時臣「誤解をなさられては困る――私も、貴女と同じ理由でここにいるのだ」スッ

アイリ「その首から下げられたカードは――保護者カード! まさか貴方も!?」

時臣「ああ、愛娘が勉学に励む姿を見る機会を与えられたのだ……親としてそれを、みすみす見逃す者などいはすまい」

アイリ「……遠坂の者よ、我々アインツベルンと貴方方遠坂は長き時に渡り、聖杯を争ってきました」

アイリ「しかし、今は同じ志を目指す同志……ここは一つ、手を組むのが得策ではなくて?」

時臣「勿論だ……我々の愛兒に幸あれ……!」ガシッ

アイリ「協定、成立ね」ガシッ

「久しぶりだな……時臣ィ!」

ア時「!?」

時臣「あ……あ……」ガクガク

アイリ「貴方は……?」

雁夜「俺は間桐雁夜……あんたらと同じ――」

アイリ「不審者よ! 早く警察に突き出してちょうだい!」

ザワザワフシンシャダザワザワトッツカマエロ

雁夜「え、あ、ちょっ、待て、待ってくれー!」

――――

雁夜「はぁ、はぁ……話を最後まで聞け……俺もあんたらと同じ保護者だ……」スッ

アイリ「あら、そうだったの」

時臣「し、しかし君には子どもなんて……」

雁夜「あぁ!?」

時臣「ひっ!」

雁夜「兄の鶴野が”何故か突然”授業参観に参加できなくなったらしくてな。俺が代わりに甥の慎二君のために来たってわけだ」

雁夜(まあ、そんなのは建前で、専ら凛ちゃんを間近で見ることが目的だがな。いやあ、鶴野を元蟲蔵に監禁してきて正解だったよ)

時臣「そ、そうか……」

雁夜「時臣は気に食わないが、ここで御三家が揃ったのも何かの縁だ。この授業参観を成功させるために、力を合わせよう」

アイリ「そうね……!」

時臣「あ、ああ。そうだな。……この授業参観(せんそう)、我々の勝利だ!」

雁夜「言ってる側から死亡フラグを建てるな!!」

――――

教員「あ、あの~」

切嗣「……何か?」

教員(全身真っ黒でこの季節にコート羽織ってるって絶対不審者だよね……)

教員「ここは学校で関係者以外は立入禁止なんですけど……」

切嗣「……ああ、失礼した」ズイッ

教員「ええっ?///」カァッ

切嗣「私は衛宮桜の父で、今日は授業を見に来た……」ギュイイイン

教員「え……あ……はい……」フラッ

切嗣「ふう」

切嗣(魔術って便利)

――――

キーンコーンカーンコーン

始業を告げる鐘がなる。

同時にその音は――親たちの戦いの始まりを知らせる、開戦の鐘の音でもあった――。

切アセ「」ピキーン

ザッ

ガラッ

ガチャッ

――――

ザッ

切嗣(……ブルマ)

切嗣(学校指定の体育着だが……余りにも露出が多い)

切嗣(幸いにも今日は体育館での授業だが、グラウンドで、衆人の目に触れる場所での活動でもその姿が晒されると思うと、寒気がする)

切嗣(指導教員は女性のようだが……これが男だったら? そしてなにより、男子児童が僕の娘を嫌らしい目で見ていたら……?)

切嗣(……僕であればこの人数をものの数秒も掛けずに鏖殺できる……)

切嗣(いや、駄目だ――今日の僕は、”いいお父さん”でなくてはならない)

切嗣(抑えろ衛宮切嗣……桜のために)

先生「あらー一番乗り! 早いですねー。誰のお父さんかしらー?」

桜(お父さん、来てくれたんだ///)

切嗣「先生、僕はどこで見学すればいいでしょうか?」

先生「この授業では父兄の方にも参加していただきますので隅で体操しておいてください」

切嗣「わかりました」

切嗣(しめた! 体力面であれば他の父兄を差し置いて僕に圧倒的なアドバンテージがある……授業参観のみならず、カッコイイお父さんアピールまでできる……!)

切嗣(やってやるさ……例え、幾つ死屍が積み上がろうとも……僕は勝利を手にする)

――――

ガラッ

アイリ「…………」トテトテ

士郎(か、母さん!? いくらなんでも早すぎ……こういうのって普通途中から入ってくるんじゃ……)

アイリ「」ガンバレシロウ

士郎(お、おう……)

時臣「…………」カツカツ

凛(お、お父様、こんなに早く!? いいえ、焦っては駄目だわ、余裕を持って優雅たれ、余裕を持って優雅たれ……)

時臣「」モジモジウズウズ

凛(お父様が一番落ち着きが無いッ!?)ガーン

雁夜「…………」ズッズッ

慎二(えええっ!? なんで親父じゃなくて叔父さんが来てんの!?)

雁夜「」リンチャン!

慎二(せめてこっち見ろやてめええええええ!!)

――――

ガチャッ

セイバー(イリヤスフィールの授業は国語ですか……無難ですね、当てられることも少なく、イベントがあるとすれば朗読くらいでしょうか……)

セイバー(これなら切嗣が溢れる父性で暴走することも少なさそうです)

イリヤ(私のところに来たのはセイバー……無難ね。良かった~キリツグじゃなくて)

イリヤ(教室の中で暴走されたら困るもん)

セイバーイリヤ((良かった良かった))ウンウン

セイバー(『何かあったら宝具を使ってでもイリヤをサポートしろ』と言い遣ってますが……正直あの親バカ具合にはほとほと呆れました)

セイバー(ありのままの姿を見守る、それが授業参観たるものでしょうに)

イリヤ(セイバーならキリツグやお母様みたいにおかしな事しないし、常識を弁えてるよね……)

イリヤ(キリツグが昨日入念に銃を磨いてるの見ちゃったし……もう、授業参観くらい普通にやってほしいな)

セイバーイリヤ((はぁ……))タメイキ

――――

先生「えーでは父兄の方もお集まりのようなので今から親子合同競技を始めたいと思いまーす」

オー

トウサンガンバッチャウゾー

コレデモムカシハー

切嗣(……遂にこの時が来た。陸上をやっていた? 県大会に出た? そんなものに何の意味もない。僕は幾度と無く紛争をくぐり抜け、終息させてきた『魔術師殺し』)

切嗣(その戦闘能力はイコールで身体能力に繋がる……腕力も、脚力も、僕の肉体は既に常軌を逸したレベルだ)

切嗣(空中一回転しながらナイフをぶん投げるなんていう芸当を、この中の何人ができるというんだ)

切嗣(それに、僕にはとっておきの”奥の手”がある……)

切嗣(『固有時制御』――こいつがある限り、少なくともスピード勝負で僕に黒星はあり得ない……!)ニヤリ

切嗣(さあ、ドッヂボールでも鬼ごっこでも何でもかかって来い。本当の地獄を見せてやろうじゃないか)フフフ

先生「ちなみに競技は>>487でーす!」

>>485

先生「ちなみに競技は来る運動会に備えて借り物競走をやりまーす!」

切嗣(勝った!)

先生「でも今日は親子対抗ということで二人三脚で借り物競走をやりまーす!」

切嗣「ええええっ!?」

――――

ギュッギュッ

切嗣(参ったなあ、これじゃあ『固有時制御』どころか全力で走ることすらままならない。だが……)

ピトッ

桜(わわっ、お父さんがこんな近くに///)

切嗣(これはいいものだ)

切嗣「桜、息を合わせて一、ニで脚を出していくんだ。最初はゆっくりでいい」

桜「うん」ドキドキ

切嗣「戦場では呼吸の合ったコンビネーションがあって初めてチームは機能する……いやあ、舞弥とバルカン半島を駆け巡ったときを思い出すよ」

桜「お父さん……また舞弥っていう女の人の話?」ジト

切嗣「ごめんごめん、別に変な意味で言ったわけじゃないよ」

切嗣(最近、桜の目がアイリに似てきた気がするなあ)

切嗣「と、兎に角、歩幅は桜に合わせるからテンポよく右脚と左脚を出すんだ」

桜「わかった!」

先生「ではでは皆さん、ルールを説明しますよー」

先生「まずは開始位置から一斉にスタート、こちらの箱に入った紙を取ってもらい、そこに書かれたものを借りてスタート地点に戻ればゴールです!」

先生「あ、鉢巻が解けたら失格ですからねー」

桜「じゃあしっかり結んでおかなきゃ……」ギュッ

切嗣「そうだね」

切嗣(それにしても古い体育館だな。一体、築何年……)

先生「それでは位置について、よーい――」

桜「ほら、お父さん始まるよ?」

切嗣「ん? ああ、大丈夫さ。お父さんはな――」

ゾクッ

切嗣(殺気!? これはもしかして、もしかしなくても……!)

先生「ドンッ!」

「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

切嗣(やはり、こいつは子どもの前でいい所を見せたいお父さんたちの闘気――というかどんだけガチなんだ!? 目的を見失って息子を引き摺ってるのもいるぞ!?)

「「「おらあああああああああああああああ!!!!」」」

切嗣(ああこんなん二年前にも見たな、あれだ、『王の軍勢』だ)

桜「お、お父さん……」アセアセ

切嗣「桜、僕たちは僕たちのペースで行こう……」

切桜「「いっちに、いっちに」」

切嗣「おっ、いいぞ桜。その調子だ」

桜「はぁっはぁっ」

切嗣「大丈夫かい、桜。辛かったらペースを落としても……」

桜「ううん、はぁ、私なら大丈夫だからっ――キャッ!」コケッ

ガシッ

桜「あっ……」プラン

切嗣「桜、無理は禁物だ」

桜「ごめんなさい……」

切嗣「謝るようなことじゃないさ」

桜「本当ならお父さんはもっと速く走れるのに、私が足を引っ張っちゃってるから……私はいつもいつも迷惑ばかりかけて……お父さんの、本当の娘でもないのに……」ウルッ

切嗣「……やれやれ、桜はそんなことを気にしているのかい」

切嗣「桜、僕はね、かつてある戦争に敗北した」

切嗣「そこで僕はほとんど全てを失ったんだ……夢も、友も、娘も……」

切嗣「絶望したよ……世界を平和にすると信じてきたものに縋った結果が、それだったからね」

切嗣「そんな僕を励ましてくれたのが君たちだ」

切嗣「セイバーが帰ってくるまでの一年間、どん底にいた僕を救ってくれたのは他ならぬ君たち家族だった」

切嗣「アイリ、士郎、そして桜がいなかったら、今の僕はなかったと言っても過言ではない」

切嗣「そんな大事な存在を、邪魔に思うわけがないだろう?」

切嗣「だからそんな悲しいことを言わないでくれ」

切嗣「血が繋がっているだのいないだの、そんな瑣末なことは関係ない……僕にとっては桜は正真正銘、大切な僕の娘だ……!」ナデナデ

桜「お父さん……」パアッ

切嗣「それにね……あれを見てごらん、桜」

桜「えっ?」

<エエーナンダコノカリモノハ!?

<ゲイボルグッテナニ!?

切嗣「他の参加者は借り物で無理難題を押し付けられている……この戦いはスピード勝負ではなく、運の勝負。何を引き当てるかで勝敗が決する……僕たちにもまだ、勝機はある!」

切嗣「さあ、立てるね、桜。あいつらに見せてやろう……僕たちが、衛宮家こそが最強の親子だということを」

桜「うん!」

切桜「「いっちに、いっちに」」

切嗣「よし、遂に箱の前まで辿り着いた……あとはカードを引くのみ」

桜「お父さん頑張って!」

<ドコニアルンダソンナノ

<モッテコレルカンナモン!

切嗣(周囲はまさに阿鼻叫喚。何を引き当てさせられたかは知らないが、相当無茶な借り物……恐らくは僕が引き当てる物も……!)

切嗣(しかしこちらにはあらゆる宝具の原典を納めた『王の財宝』がある……何かあったらセイバーに持ってこさせればいい!)

切嗣「終わらぬ借り物競走を終わらせる……それを果たし得るのが僕だ!」ガサッ

先生「あー>>505ですねー」

月霊髄液

切嗣「『月霊髄液』!? 何だその型月っぽいネーミングは!?」

桜「お父さん、月霊髄液って何?」

切嗣「いや、確かどこかで見た覚えがあるぞ……確かあれは……第四次聖杯戦争の序盤で情報収集しているときに……そうだ!」

切嗣「ランサーのマスターの魔術礼装、魔力によって戦闘を行う水銀……!」

切嗣(こんなものが借り物のネタになるだと……? この学校は一体……)

桜「じゃあ水銀を持ってくればいいんだね! 水銀なら確か理科室にあるよ」

切嗣「厳密にはただの水銀とは別格だが……まあ、どうせわからないだろう。よし行こう、桜」

「「いっちに、いっちに」」

――――

切嗣「……これが『月霊髄液』だ」タプン

先生「あーこれは違いますねー魔力が感じられません」

切嗣「何ッ!?」

先生「月霊髄液は動くんですよ!」

切嗣(くっ……こうなったら、アイリの錬金術を見よう見まねで……)ググッ

水銀「」ウニュー

切嗣「これで問題はないはずだ……!」

先生「呪文は?」

切嗣「えっ?」

先生「だから呪文ですよ、呪・文! 呪文がなきゃ月霊髄液とは認められません!」

切嗣(えー……)

桜「どうしよう……」

切嗣(クソッ、万事休すか……いや待てよ、ランサーの元マスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトと言えば最近聞いたような……)

切嗣(はっ、あれは近所の竜之介君と一緒にゲーセンでガンゲーをやっていたとき……)

――――

ダダン

竜之介「うっひょー相変わらず切嗣さん上手いなー!」

切嗣「まあね、これでも僕は昔はこいつが本業、つまりは殺し屋だったからね」

竜之介「またまたー冗談キッツいなーもう」ケラケラ

竜之介「あ、そういえばウチにイギリス人のホームステイが来たんですよ」

切嗣「へえ」

竜之介「ケイネスさん、って言うんですけど、その人もたまに『私は魔術師だ』とか言っちゃう人で。この辺にはそんな人ばっかり集まっちゃうんですかねー?」

切嗣「ケイネス……どこかで聞いた名だな。そうか、魔術師か。なら、僕もどこかで彼に会ったことがあるかもな」

竜之介「あれ、もしかして切嗣さんも魔術師名乗っちゃうクチ?」

切嗣「よくわかったね、竜之介君」

竜之介「もーホンットに切嗣さんはその手のジョークが尽きないなー」ケラケラ

――――

切嗣(そうだ! 竜之介君の家に居候しているのも確か『ケイネス』……しかもイギリス人で魔術師……間違いない!)

切嗣『セイバー、聞こえるか!』

セイバー(! 何事ですか、切嗣)

切嗣『君に頼みがある……君にしか果たせない務めだ』

セイバー(その、務めとは……?)ゴクリ

切嗣『うちの近所にいるケイネスを拉致してきて欲しい……できることなら、礼装ごと』

セイバー(……は?)

切嗣『愚図愚図している暇はない、時は一刻を争うんだ、セイバー!』

セイバー(しかし……何ゆえご近所さんを誘拐する必要が……?)

切嗣『――借り物競走だ』

セイバー(……はい?)

切嗣『何度も言わせないでくれ、セイバー。借り物競走で必要なんだ! これ以上手間を取らせるのであれば令呪を以って――』

セイバー(わー! わかりました! わかりましたからたった一つの令呪を無駄打ちしないでください切嗣!)

セイバー(とは言われましても、何があっても持ち場を離れるなと指示したのは切嗣のはずですが……)

切嗣『はあ、騎士王ともあろう者が平和ボケかい? 君にはあるだろう、百の貌のハサンの『妄想幻像』が』

セイバー(……借り物競走のために英霊の宝具を……)

切嗣『……衛宮切嗣が令呪を以って命ず、セイバーよ――』

セイバー(わかりました! 今すぐ向かわせます!)

切嗣『それじゃあ頼んだよ、僕の可愛い騎士王さん』

セイバー(はあ、仕方がありませんね……教室の外にこっそり現れてください、私′! 『妄想幻像』!)

シュボッ

セイバー′(呼んだか、私よ)

セイバー(かくかくしかじかというわけで、ランサーの元マスターを浚ってきてください)

セイバー′(……何故私がそのようなことを)

セイバー(文句はマスターに言ってください)

セイバー′(チッ、あの糞マスター、いつか[ピーッ]してやる……)シュンッ

――――

ケイネス「実に好天候、これぞ散歩日和というものだな、月霊髄液」

月霊髄液「」ポヨポヨ

ケイネス「発毛のためには伸び伸びとした生活を送るのが一番、か。流石は育毛大国日本、態々赴いて正解だった」

月霊髄液「」ポヨヨ

ケイネス「思えば聖杯戦争以来、周りには白い目で見られ、ソラウにはいびられ、ストレスは貯まる一方――」

ザッ

セイバー′「失礼、貴方がケイネス氏か」

ケイネス「んん? ああ、そうだが――なっ!? 貴様はセイバー!」

セイバー′「御免!」ガシッ

ケイネス「え?」

月霊髄液「」ポヨ?

ビュンッ

ケイネス「のわあああああ!!」

月霊髄液「」ポヨヨヨヨ

――――

ガシャーン

ケイネス「おわああああ!?」ヒューン

切嗣「ふんっ!」ボコッ

ケイネス「ごほぉっ!?」ベキッ

切嗣「ふう」

ケイネス「」チーン

桜「お、お父さん……?」

切嗣「見てごらん、桜。これが、月霊髄液だ」

桜「いや、そっちじゃなくて……」

月霊髄液「」ゴシュジンサマ!?

切嗣「よくやった、セイバー」

セイバー′「チッ」凸ビッ

切嗣「……戦争に犠牲は付き物、か。悲しいね」

切嗣「さて、と。それじゃあこの下らない茶番を終わらせるとしようか」ガサゴソ

切嗣「お、あったあった。月霊髄液完全マニュアル」

切嗣「ふ、『Fervor,mei sanguis』」

月霊髄液「!」ポヨヨーン

切嗣「『Scalp』」

月霊髄液「」ポヨッ

切嗣「『ire:sanctio』!」

月霊髄液「」バヨエーン

先生「おおーこれはまさしく月霊髄液! 借り物課題クリアですよ~」

桜「わあ! お父さんすごい!」

切嗣「はっはっは」

先生「ゴール! 一等賞は衛宮さん親子でーす!」

――――

ワイワイガヤガヤ

桜「うーん、解けないなあ」

切嗣(結局、参加者の大半は棄権……当然といえば当然、借り物があんな無理難題ではね……)

先生「あら、タカシくん親子が戻ってないですね……」

児童「せんせー、タカシの父ちゃんがー!」

先生「おやー、もしかして無事に借り物を借りてきたのかなー? えと、確かミノリくん親子の借り物は……ゲッ」

ズシン、ズシン

タカシ「お父さん、大丈夫?」

タカシ父「なんの……これしき……!」ズシンズシン

タカシ父「持ってきましたよ先生……借り物の、『1/1スケール校長銅像シリーズ~秋の始まりと恋の終わり~土台セット』を……」ズシン

先生「指定しておいてアレですが、よくその無駄に重いのを持ってきましたね……」

タカシ父「ふん、ぬ……重……あっ」ヨロッ

グラッ……ドシーン

赤銅に鈍光る憂わしい像が、バランスを崩した腕から滑落する。

重鈍な銅像が床に叩きつけられたのだ、当然、衝撃が体育館を伝播した。

切嗣(――まずい!)

スパッ

桜「えっ?」

次の瞬間。

ギシッ

老朽化した体育館の照明が、最後の悲鳴を上げた。

児童「えっ?」

自由落下する電灯は迷わず真下にいた子どもを目掛けて墜ちていく。

それをまともに受ければ、重症は免れ得ない。

――もう、間に合わない。

誰もがそう直感した。

ただ、一人を除いては。

ガシャンッ

衝突の寸前、獣を思わせる素早さで、黒い影が子どもを浚った。

その影の正体は初夏の暑さももろともせず、漆黒のスーツとコートを着込んだ暗殺者――衛宮切嗣だった。

切嗣(一人は救った……だが恐らくはまだ……!)

切嗣の予感は的中する。

落下した一つの電灯に呼応するように同じく古く朽ちかけていた他の電灯も揺らぎ始めていた。

ギシギシッ

同時に幾つもの照明機器が、集まっていた児童生徒に襲いかかる。

流石の切嗣もその全てを躱し、子どもたちを救うことは叶わないだろう。

だが。

切嗣(――! 僕の勘も、まだ捨てたものじゃないな……!)

切嗣「『Fervor,mei Sanguis』!」

ガシャーンッ

児童「う、うう……わぁっ!」

銀色の薄膜。

あらゆる魔術的、物理的攻撃をも弾く魔術礼装、月霊髄液。

彼(?)にとってはただの落下物など蚊ほどにも感じないだろう。

その魔導の護りが、衛宮切嗣と周囲の子どもたちを危機から救った。

月霊髄液「」ドヤッ

児童「す、すごい……」

切嗣「ふう――ッ!」

衛宮切嗣は油断していた。

子どもたちを助けたことに安堵し、不覚にも見落としていた。

――最後に一つ残った照明と、その真下で腰を抜かした体育教師を。

ギシッ

切嗣(月霊髄液を――いや、この距離では間に合うかどうか……)

切嗣(……致し方ない、この距離から僕が彼女を最速で救うには、方法は一つ……!)

咄嗟に。切嗣は胸のホルスターに手を掛ける。

チャキッ

切嗣「間に合ってくれ――!」パァン

切嗣のコンテンダーから放たれた.30-06スプリングフィールド弾は見事に電灯に命中し、その威力を以ってそれを遙かへと吹き飛ばした。

切嗣「ふう……」

先生「え……え?」ヘナッ

切嗣「立てますか、先生?」スッ

先生「あ……はい///」

ワアアアアア!

歓声が立ち昇る。

それは感嘆の声であり、また、賞賛の声でもあった。

タカシ父「すみません、私の不注意で……」

切嗣「いえ、恐らく校舎の老朽化が原因ですから」

児童A「すっげー! まるでテレビのヒーローみたいだったぜ!」

児童B「桜ちゃんのお父さん、すっごくカッコよかった……///」

児童C「わあっ、腕とかカチカチじゃん!」

先生「///」ポ

切嗣「いやあ、ハハハ。参ったなあ」テレテレ

桜「……お父さんは桜だけのお父さんなのに」ムスッ

月霊髄液「」ポヨポヨ

保護者A(あの水銀とか銃とかには触れないほうがいいのか……?)

月霊髄液「世の中には知らないほうが良いこともあるのさ」

保護者A「!?」

月霊髄液「」ポヨヨ

保護者A「え……何今の……」

ケイネス「」チーン

>>519
修正

ミノリくん→タカシくん

です

――――

アイリ「はっ――今、切嗣が良からぬフラグを建てた気がするわ」ピキーン

アイリ「まあいいわ、何かあったらまたセイバーをお仕置きしましょう。今は兎に角、士郎の勇姿を見守らなきゃ」

教師「はいじゃあ、この問題わかる人ー?」

「「「ハーイ!」」」

アイリ(出たわ! 授業参観ではお馴染みの問題を解かせるコーナー! 子どもたちが一番輝く瞬間よね)ワクワク

教師「あーじゃあ遠坂」

凛「答えは2よ!」フンス

時臣(流石は我が娘だ)ホクホク

教師「えーと、遠坂? それは次の問題の答えじゃ……」

凛「……!」カァァッ

男子「出たー遠坂のうっかりー!」ケラケラ

凛「う、うるさい! 燃やすわよ!」カァッ

時臣「Intensive Einascherung――」ボボボ

アイリ「落ち着きなさい遠坂の者、本当に燃やすつもりですか!?」

時臣「くっ……私としたことが、取り乱してしまったようだ」ボボボボ

アイリ(どうして父親ってこうなのかしら)

教師「じゃあ、他に答えられるのは……よし、間桐言ってみろ」

慎二「5です」

教師「正解だ」

慎二「はい」チラッ

雁夜「チッ」ペッ

慎二「もう帰れよお前」

教師「おーし次いくぞー次は――」

「「「ハーイ!」」」

士郎「は、はい!」テアゲッ

教師「ほい、篠原ー」

アイリ(マズイわ……士郎が手を挙げているのに全く当てられる気配がないわ、このままでは全ての問題が終わってしまう!)

アイリ(どうするべき? 考えるのよアイリスフィール……はっ! そうよ、これを使って――)

――――

<ホーシーハーカーワールセーカイノー

ピッ

切嗣「どうしたんだい、アイリ」

アイリ「大変よ、切嗣。士郎が……士郎が……」

切嗣「!? アイリ、今は何より落ち着いて僕に詳細な報告を。士郎が一体、どうしたんだ」

アイリ「士郎が、先生に当てられないの!」

切嗣「なんだって!?」

切嗣(そうか、士郎の受けている授業は算数……演習問題が多く、教師が生徒に解答をさせるという場面も当然有り得る……!)

切嗣「……それは、由々しき事態だ」ギリッ

アイリ「どうしましょう、切嗣……このままじゃ私たちの士郎が!」

切嗣「よく聞いてくれアイリ、君は今、魔術用の銀糸を携帯しているか」

アイリ「ええ。それに今、私の近くには遠坂と間桐の魔術師がいる。彼らとは現在協力関係にあるわ」

切嗣「そいつは好都合だ……彼らと協力して>>535するんだ。いいね、アイリ」

教師をそれとなく脅迫

――――

切嗣『どんな手段を以ってしても、僕たちの悲願は達成する。……アイリ、その教師を脅迫するんだ』

アイリ「わかったわ、切嗣」

切嗣『ああ、健闘を祈る』

ピッ

アイリ「遠坂、間桐、貴方方にお願いしたいことがあります。それは――」ゴニョゴニョ

――――

教師「おー次が最後の問題――」

コンコン

教師(ん? 窓の外から?)

教師(あれは……針金?)

『ツギ モンダイ シロウ アテロ』

教師(なんだあれは……針金が、文字に!?)

『サモナクバ ツマ カナコ ムスメ ヒロミ ヲ』

妻っぽい雁夜蟲「」ウゾ

娘っぽい雁夜蟲「」ウゾゾ

『コウダ』

シュボッ

雁夜蟲「「ピギーピギーッ!!」」ファイヤー

<ゴハァ!

<キャアアマトウサンガチヲハイタワ

教師(! よ、よくわからんが妻と娘が危ない!?)

教師「あ、ああ……じゃあ、次の問題士郎、いってみようか……」プルプル

アイリ(大成功ね! 切嗣にもらった個人情報が役に立ったわ!)

士郎「え、お、俺ですか!?」

士郎「えーと……その……答えは……」

アイリ(はっ、あの士郎の反応……まさか!)キュピーン

アイリ(授業参観で起こりうる最大の悲劇、『親の前で見栄張って手を挙げちゃったけどぶっちゃけ答えわかりません現象』……!)

アイリ(このままでは士郎に恥をかかせてしまう……そうよ! またあの方法で……!)

コンコン

士郎(うん……? あ、あれは母さんの!)

『シロウ コタエハ コレヨ』

士郎(くっ、母さんの力を借りるのは恥ずかしいけど今はこれに頼るしかないッ!)チラッ

燃え盛る三匹の雁夜蟲「」ボオオオ

士郎(なんか燃えてるー!? いやいやいやもっと別の伝え方あるだろ絶対!!)ガーン

<カハッ、サクラ……チャン

<キャアアマトウサンガタオレタワ

士郎「えと……答えは……3? です……?」タラー

教師「……いや、違うぞ衛宮」

士郎(しかも間違ってんのかよ!?)

アイリ「母は強し、ね」マンゾク

時臣(我々が協力する意味はあったのだろうか……)

雁夜「」チーン

久々に投下します

――――

ティーチャー「――であるからして――」

セイバー(案外授業参観というのも、退屈なものですね)クァァ

セイバー「しかし……」

切嗣『うわあああああ桜かわいいようわあああああああ!』

切嗣『イリヤー僕だーこっち見てくれーイリヤー!』

セイバー(感覚共有を全開にしているせいで切嗣の雑念が流れこんでくる……正直言ってウザイです)

切嗣『何か言ったかい、セイバー』

セイバー(こっちの思考まで垂れ流しですか)

ティーチャー「それじゃあ授業はここまでにして、”アレ”いっときましょうか」

セイバー「?」

ティーチャー「はい、みんな作文用紙準備してー。これからお父さんお母さんに向けた想いを綴った作文を発表してもらいます!」

ざわ……ざわ……

セイバー(まずい……! こんな一大イベントがあると知ったらあの男は――!)

セイバー『切嗣! 聞こえていますか……切嗣!?』

切嗣『……ああ、聞こえているよセイバー。今から全速力でそちらに向かう』

――――

切嗣(とは言ったものの、桜のほうを抜けるわけには……いや、もはや先程の事故で授業どころではなくなってしまっている……抜け出すならまさに今)

桜「お父さん、ほっぺたガラスで切れてるから私が手当して――」

切嗣「すまない桜、お父さんちょっとトイレに行ってくるよ」ダッ

桜「あ……」シュン

――――

タッタッタッ

切嗣(ポイントBへの最短ルートは把握してある、走って向かえば五分と掛からないだろう)

切嗣『セイバー、状況の報告を――作文を読み上げる順番はランダムかい?』

セイバー『いえ、出席番号順です』

切嗣『なら”衛宮”のイリヤは初めのほうか……わかった。急いで――』

セイバー『忘れたのですか、切嗣。イリヤは”アインツベルン”の姓で学校に在籍している……つまり、アタマもアタマ、一等先です!』

セイバー『ああ、もう始まってしまう!』

切嗣『なんだと! クソッ、こうなるんだったら最初から衛宮の苗字で統一するべきだった――!』

切嗣(どうする……この地点から急いでも三分弱はかかる……もう始まってしまうとなるとおそらく僕が辿り着くのは終わった後……)

切嗣(ああでも聞きたいなあ! イリヤの生ボイスでのお父さんへの作文!)

切嗣(こうなったら手段は選んではいられない……『固有時制御――』!)ドクンッ

――――

切嗣「カハッ――ゴホォッ!」

セイバー「切嗣! 一体いつの間にここへ!?」

切嗣「ぜぇ、ぜぇ……『固有時制御』を使ったからな……」

セイバー「ああ、あの体内の時間を倍速にするとかいう――」

切嗣「いや、そいつは違うな、セイバー」

切嗣「僕が使ったのは――『固有時制御――三重加速』だ」キリッ

セイバー「授業参観に命をかけすぎです!!」

切嗣「ゲホッ……そんなことよりも状況は」

セイバー「世界からの修正力をそんなことと言い捨てますか……」

セイバー「幸いにもイリヤスフィールは前半は全て母上――つまりはアイリスフィールについて語っていたのでまだ父である貴方については触れられてはいません」

切嗣「はぁ、はぁ……命を賭けただけの価値はあったようだな……」

セイバー(本当に大丈夫でしょうかこの人は……)

イリヤ「――それが、私の母、アイリスフィール・フォン・アインツベルンです。そして父の衛宮切嗣は――」

切嗣「!」ピシッ

イリヤ「とてもズルくて乱暴者です」

切嗣「」

イリヤ「この間家族でネズミーランドに行ったときは経営者の奥さんを人質にとって脅し、一日中行列を無視してアトラクションを楽しもうとしたり」

イリヤ「私の前で裸になった不審者を警察よりも早く特定して一家まとめて生まれたことを後悔するような拷問にかけようとしたり」

イリヤ「私が大っきな花火を見たいと言ったら、『イリヤはキノコ雲って見たことあるかい?』とか言いながら旧ソ連のミサイル弾頭を打ち上げて国一つをお星様に変えようとしたり」

イリヤ「とにかく無茶苦茶な人です」

イリヤ「でも、それは全部イリヤのためにやってくれることです」

イリヤ「キリツグは私やお母様が困ってるときはどんな時、どんな所でも駆けつけてくれます」

イリヤ「例えそれがどんなに難しいことでも、どんなに時間のかかることでも、決してキリツグは諦めません」

イリヤ「例え自分がどんなに卑怯者と、外道と罵られても、手段を選ばずイリヤたちを助けに来てくれます」

イリヤ「私はそんなキリツグが――大好きです!」

切嗣「ああ……生きててよかったなあ」ボロボロ

イリヤ(げえっ、キリツグ! 今の聞いてたの!?)

切嗣「ああイリヤ……今なら僕は、君のために全人類を滅ぼしてもいい……!」

セイバー「さらっとリアルにヤバい発言をしないでください」

>>545
脱字
「私はそんな頑張り屋さんのキリツグが――大好きです!」
で修正お願いします

ガタガタガタッ!

突然、教室の引き戸が揺らされる。

戸の嵌められた曇りガラスの小窓からは微かに人影が見える。

セイバー「はっ――切嗣、微かですが魔力の気配を感じます」

切嗣「この美しい余韻を邪魔する無粋者か……事によっては僕の起源弾が――」チャキ

ティーチャー「……? 何事ですか?」ガラッ

セイバー「! 待ってください! そこを開けてはいけない!」

ティーチャー「へ? ――ギャアアアア!!」ズルルッ

唖然。

教室内の全員が、顔色を蒼く染めた。

何故なら、教師が一名ドアの向こうの得体のしれない何かに引きずり込まれたからだ。

そしてそれは、開け放たれた扉から正体を現した。

教員「ハァハァハァハァハァ」ギラギラ

切嗣「あ、あれぇ~?」タラー

セイバー「むっ、切嗣何か彼女に心当たりがあるのですか? 見たところ、何者かに操られているようですが……」

切嗣(あれはあのときに暗示をかけた教員……暗示なんてかけるの久しぶりだったからかけ方を間違えたか……?)

切嗣「い、いや、僕は全く断じて見覚えはないよ」

教員「エミヤサァン……エミヤサァン……」

セイバー「あの……切嗣? どうやら貴方を呼んでいるようですが……」

切嗣「いや……それはその……」メソラシ

教員「ハァハァハァ……エミヤサンダイテエエエエエエ!!」ガバッ

切嗣「うわあああ! こっちに来るな! 僕には妻と子どもとサーヴァントが――ギャアアアア!!!!」

ドッタンバッタン

イリヤ「…………」プルプル

イリヤ「キリツグの……キリツグのバカーーーーー!」

――――

カァーカァー

切嗣「はあ、今日は大変な一日だったなあ」

イリヤ「それもこれも大概キリツグのせいでしょ! そのせいで私は恥ずかしい思いをしたんだから黙って揺らさず私を肩車すること!」

切嗣「はいはい、ご指名頂き光栄であります、お姫様……」

士郎「まあ、一番大変そうだったのは突然倒れた慎二の叔父さんと、魔導の秘匿のために記憶消しまくってた凛の父さんだけどな……(主に父さんと母さんのせいで)」

アイリ「そうね、遠坂には今度お中元でも送っておこうかしら」

桜「…………」ムスッ

切嗣「ん? 桜はどうしてむくれているんだい?」

桜「だって……」

桜「だってお父さん、私の授業参観なのに他の子にチヤホヤされてデレデレしたり、途中でイリヤお姉ちゃんの方に行っちゃったり……」

切嗣「ごめんごめん、でも、僕は桜のこと見ていなかったわけではないよ」

切嗣「苦手な運動でも頑張る努力家な一面、それだけじゃない、桜は率先して怪我人の救護に回っていただろう」

切嗣「そういう優しい子に育ってくれて、父さんは誇らしく思うよ」

桜「お父さん……ちゃんと見ていてくれたんだ……」

切嗣「当然じゃないか、桜は僕の愛する娘だからね」

桜「じゃ、じゃあそれに免じて……ち、チューしてくれたら許してあげる///」モジモジ

切嗣「ハハハ、そんなのはお安いご用さ」ダキッ

桜「わわっ」

切嗣「」チウー

桜「///」チウー

イリヤ「あー! 桜ずっるーい!」

切嗣「今日の僕は桜専用だからね」ハハハ

セイバー「しかしいくらご子息といえども切嗣のキ、キッスを見るとなんだか気恥ずかしい心持ちになりますね……」

アイリ「あらあら」ゴゴゴゴ

セイバー「! まずい! このままではアイリスフィールが暗黒面に!」

アイリ「セイバー、後で私の部屋にいらっしゃい」

セイバー「えええええ!? なにゆえ私なのですか!?」

アイリ「子どもに罪はないじゃない」

セイバー「私にも罪はありませんよ!?」

アイリ「いいからいいから」

セイバー「八つ当たりなんてあんまりだー!」ヒエー

第二話:保護者の軍勢 完

おまけ

月霊髄液「」ポヨポヨ

セイバー′「何故この私がこんな目の濁った腐れマスターと食卓を共にしなければならないのですか」ペッ

アイリ「……この子たちは?」

切嗣「月霊髄液はあの一件以来僕に懐いてしまってね」

セイバー「セイバー′に関しては出したは良いものの消し方がわからず……」

アイリ「水銀の子はともかく、あっちのセイバーそっくりな子はどう扱えばいいのかしら? どうやら性格はまるで違うようだけれど」

セイバー「あれは言わば私の別人格、しかも何を間違えたか全ての次元から集まったと思えるほどの切嗣への苛ちや不満が濃縮還元されたような人格が出てきてしまったらしく……」

切嗣「それで僕に対してあんなに冷たい態度なのか」

セイバー「ですが本質的には私と同一なので悪さはしないはずです、ご安心を」

切嗣「いや待て……本質的にセイバーと同じということはつまり……」

セイバー′「アイリスフィール! おかわりはまだですか!」

月霊髄液「」オカワリ

切嗣「」

桜「我が家のエンゲル係数が……もういっそお父さんの内臓を売るしか……」ゼツボウ

衛宮家にセイバー′と月霊髄液が加わった!

今日はここまでです

次辺り切嗣にはハロワにでも行ってもらいましょうかね

切嗣「はあ……」

切嗣「とうとうアイリにまで働けと言われてしまった」

切嗣「元の稼業に戻ることも考えたが、守るべきものを造ってしまった僕に、もうそれは務まらないだろう」

切嗣「しかし僕は幼少の頃から殺しの仕事しかしていない」

切嗣「しかも大概非正規の活動だったため、資格は一つも持ちあわせてはいない」

切嗣「くっ……そういった資格の捏造とかの類なら大の得意なんだがなあ……」

切嗣「はあ、何はともあれ、無職の巣窟ハローワークとやらに行ってみるとしよう」

トボトボ

切嗣「……ん、なんだ、あの人集りは」

道中イベント>>560

kskst

「おいおい、誰かあのねーちゃん止めろよ……」ガヤガヤ

「お前が行けよ、俺は嫌だよ」ワイワイ

「ねーあのおねーちゃんなんで木の根っこ食べてるの―?」

「シッ! 見ちゃいけません!」コソッ

切嗣「……何だあれは」

バゼット「はむっ! はむっ!」ガリガリ

切嗣(うわーあれは魔術師……しかもあの身のこなし、ナタリアと同じ封印指定の執行者か)

切嗣(なんだか『相手の切り札を引き出してそれを利用したカウンターで相手を倒す』とかいうキャラ被りが発生している気がするなあ……近づかないでおこう)ソローッ

バゼット「はっ!」

切嗣「」ギクッ

バゼット「あなた……そこの真っ黒コートのあなた、魔術師ですね……?」ギラッ

切嗣「え、ええと……」

バゼット「ふふふ、これはいいカモです。封印指定の執行者の名においてあなたを討伐します!」

切嗣「いや、僕は――」

バゼット「問答無用――死ねぇ!」ブンッ

切嗣(疾い! 『固有時制御――二重加速』!)ドクン

スカッ

切嗣「くっ……!」カチャ

バゼット「! 私の拳を躱すとは……あなたは……いった……い……」バタッ

切嗣「えぇ……」

バゼット「お財布を落としてしまって……お腹が空きました……もう一歩も動けません……」

切嗣(この光景、すごく既視感あるなあ……)

切嗣「僕のお弁当で良かったら食べるかい?」

バゼット「いいのですか!?」ガバッ

――――

バゼット「もっきゅもっきゅ……助かりました、あなたはまさに私のヒーローです」

切嗣「ははは、これくらい構わないよ。それに、僕はもうヒーローは引退したんだ」

切嗣(また因縁をつけられて殴られるのは御免だからね)

バゼット(ふむ……よく見たら中々イケメンですね。わざわざ私に食料をくれるということは――)ドキッ

切嗣「さて、と。それじゃあ僕はそろそろハローワークに――」

バゼット「!? ハローワーク、あなた今ハローワークと言いましたね!」

切嗣「あ、ああ」

バゼット「ちょうど私も日雇いの仕事(バイト)では足りなくなっていたところです。お伴しましょう」

切嗣(嫌だなあ)

バゼットが仲間になった!

バゼットさんわからない……
wiki調べるのに時間がかかってしまいました
今日はこのへんで

バゼットは15で協会に入ったのでギリギリですね

バゼット「そういえばまだ名乗っておりませんでしたね、私はバゼット。バゼット・フラガ・マクレミッツです」

バゼット「職業は封印指定の執行者、特技は人を殴ることです」

切嗣(フラガ……アイルランドのルーンの大家、神代からの神秘を継承してきた家門の人間、か)

切嗣(しかし何故そのような人間が執行者に……)

切嗣「そうかい、僕は衛宮切嗣、無職だ。特技は暗殺と破壊工作」

バゼット「おお! 私たちはどうやら趣味が合いそうですね!」

切嗣(まあ、元々似たようなものだしね)

バゼット「しかしエミヤ……? どこかで聞いたことがあるような……?」

切嗣「と、兎も角僕はさっさとハローワークに……」ササッ

バゼット「あ! 待ってください切嗣!」タッタッタッ

――――

ウィーン

???「いらっしゃいませ、ようこそ冬木ハローワークへ」

切嗣「なっ、お前は>>574!?」

5次ライダー

切嗣「なっ、お前は……誰だ?」

ライダー「私はしがない眼鏡の受付嬢……」

切嗣「……とぼけていても無駄だ、貴様は――サーヴァントだな?」

ライダー「……その語り草、そういうあなたは前回にして最後の聖杯戦争の優勝者ですね」

切嗣「御託はいい……どうやって現界した!? まさか……大聖杯が再起動を……?」

ライダー「結論から言いましょう、それはあり得ません」

切嗣「何……?」

ライダー「大聖杯は完全に解体されました。その上あれは稀代の魔術師が数人がかりで造り上げたもの、ここ百年で再構築されることはないでしょうね」

切嗣「じゃあ何故貴様はここにいる」

ライダー「……私にもそれはわかりません。ですが恐らくはあなたの従えているモノが原因でしょう」

切嗣「なんだと、セイバーが?」

ライダー「小聖杯たるあなたのサーヴァントが大聖杯を破壊するという矛盾した事象が因果を歪ませたのでしょう、気づけば私はここ冬木に召喚されていました」

切嗣「しかし、サーヴァントは正当な契約を結んだマスターがいなければ、現界に必要な魔力を――」

ライダー「……まだ、そのような無駄話を続けますか?」

切嗣「無駄話……? 僕は、僕たちは命を賭して聖杯の機能を停止させた。それにもかかわらず英霊がまた呼び寄せられている……これ以上に追求すべき事柄は、ない!」

ライダー「しかし今その話を続ける必要性はありません。ここはハローワーク、職と安寧を求める人々の最後の駆け込み寺」

ライダー「ここで就職以外の話題はお控えください……後がつかえておりますので」

切嗣「くっ!」

ライダー「さあどうします、このまま帰りますか? それとも職を探しますか?」

切嗣「……案内してくれ」

ライダー「……承りました」

バゼット「よくわかりませんが私は置いてけぼりのようですね……」

正直SNの知識もhollow ataraxiaの知識もありませんがなんとかやっていきたいと思います
ちなみに最初の方の注意書きは>>1が知識皆無だということです、わかりづらくてすみません

ライダー「それではお二人にはこのチェックシートに記入していただきます」

ライダー「これはあなた方の職業適性を調べるためのものですので正直に記入してくださいね」

切嗣「…………」カキカキ

バゼット「ふむふむ」カキカキ

ライダー「書き終えましたら結果が出るまでお待ちください、そしてここでは他のハローワークにはない特別なサービスを受けてもらいます」

切嗣「”特別なサービス”……?」

ライダー「はい、それがこちらの……『職業封印・暗黒神殿』です!」テテーン

バゼット「何やら人が入れそうな巨大なカプセルですね」

ライダー「これは科学技術とかそこら辺のアレの粋を集結した最新機器で、バーチャルリアリティだかなんだかで職業を体験できる優れ物なんです」

ライダー「これで職業を選定したおかげで再離職率が下がったとか下がらなかったとか」

切嗣「胡散臭いなあ……」

ライダー(怪力B)「ものは試しです、早速乗ってみましょう――それっ」ガシッポイ

切嗣「おい、これ本当に大丈夫なんだろうな、なんだか魔力の匂いがプンプン――うわぁ!」

ライダー「チェックシートの結果によれば最初に体験してもらう職業は>>585です。それでは楽しんできてくださいね、フフフフフ……」

>>582

――――

ミーンミンミン

切嗣「――はっ」

切嗣「ここは……交番? そしてこの制服は……警官、か」

子ども「あーお巡りさんだーこんにちはー」

切嗣「……ああ、僕のことか――やあ、回り道せずに帰るんだよ」

子ども「はーい」

切嗣「そうか、自らを顧みず、誰かを救うヒーロー……その理想がこのんな形で現れるとはね」

切嗣「僕も嘗て、このような姿に憧れたはずだった……それがいつの間にか……」

「キャーッ!」

切嗣「!?」ダッ

切嗣「どうしたんだ!?」

女性「ひ、ひったくりです!」

切嗣(――あれか! 犯人は原付で移動、このまま走っても距離を開かれるだけ……しかし)ニヤッ

切嗣(官給のニューナンブM60の射程範囲内だ)カチャ

女性「ひっ!」

パンッ

ひったくり「うわああああ!」ガシャン

タッタッタッ

ひったくり「ひぃっ! こ、こっち来るんじゃねえ!」

切嗣「…………」バキッ

ひったくり「ぐあっ!」ズサッ

切嗣「やれやれ、たかだか手を撃ち抜かれただけで痛くて立てないか」

ひったくり「うわ、あ、何なんだよテメエ!」

切嗣「知っているか、人間には特に神経が集中している部位がある、例えば――脇の下」カチャ

ひったくり「や、やめてくれえええ!」

切嗣「そこを撃たれたらどうなるか――」

警官「やめろ! 落ち着け!」ガシッ

切嗣「ッ!」

警官「ひったくり犯相手に発砲する奴があるか……」

――――

切嗣「はあ、参ったな。銃を持つとつい、昔の癖が出てしまうよ」ガリガリ

切嗣「それにしてもたかだか拳銃一発でここまで始末書を書かされるとはね……日本がいかに平和か改めて実感させられるよ」ガリガリ

切嗣「よし、今日の業務はこれで終わりだ。あとはパトロールだけ……案外、警官の仕事というのも単純なものだな」

切嗣「まあ、そのおかげで僕のような者が暗躍しやすのだが」

無線「ザーッ緊急事態発生緊急事態発生――」

切嗣「!」

――――空港

切嗣「何があった――状況は」

警官「なんでも予てから尻尾を掴もうとしていたテロリストが今日の飛行機でハイジャックをするっていう情報が入ったらしくてな」

警官「それを未然に防いでテロリストを一網打尽――するつもりだったらしいが、現場の人間がドジ踏んで向こうに捜査自体がバレたんだと」

警官「それで奴さんがたカンカンでな。人質とって籠城さ」

切嗣「……テロリストと人質の人数は」

警官「えっ? 確かテロリストは五人で人質は運悪く捕まった母娘二人って聞いてたが」

切嗣「この空港の設計図は――いや見取り図でいい、あるか」

警官「おいおい、まさかお前、映画の主人公みたいに乗り込むつまりじゃ……」

切嗣「…………」

警官「駄目だ、何より人質の命が最優先だ。なんとかテロリストと交渉を続けているから今は――」

切嗣「生憎だが……君たちにできなくても、僕には可能でね」

ピッ

切嗣「舞弥、すまないが――」

――――

テロリストA「チックショー! サツに嗅ぎつけられてたなんてよぉー!」

テロリストB「落ち着きなさい、龍之介ぇ。幸いにもここは空港です、とにかく足を用意させてこのまま高飛びしましょう」

テロリストA「あぁ、それもそっか、流石旦那ぁ! ……それに、こっちには人質もいるし?」ニヤァ

娘「こわいよ……」

母「大丈夫よ、きっと、大丈夫……」

テロリストA「よく見たらこの子なかなかいいカラダしてんじゃん、トンズラする前にさ、一つ楽しんで――」

ズゥゥン……

爆轟。

遠い爆発音と、軽い衝撃が空港内に伝わり、そして……

全ての光源がこと切れ、夜の空港にあるべき漆黒が訪れた。

テロリストA「なになに? 停電?」

テロリストB「いえ……ボリスの手入れでしょう」ダッ

テロリストB「警ぇ察よ、話が違うではないかぁ! 人質がどうなっても――」

タァン

テロリストB「」ドサッ

テロリストA「お、おい……どうしちまったんだよ旦那……なあ、悪い冗談は――ッ!」

テロリストA「し、死んでる……?」

バララッ

テロリストC「やめろ、このドブネズミ――!」

パンッパンッ

テロリストD「我が主ぃ!」

パァン

テロリストE「ティルムッド、た、助け――」

テロリストA「な、何が起きてんだよ……?」

――――

舞弥『確認したテロリストと思しき男を射殺しました。ポイントは――です』

切嗣「わかった、相手は突然の暗闇にも対応できない素人のようだ。舞弥はそのまま監視を続けておいてくれ」ピッ

切嗣「さて、と……聞こえるかい」無線

テロリストA『! アンタ、誰だ!?』

切嗣「僕はただの警官さ」

テロリストA『ええ!? どうしてくれんのさ、せぇっかく旦那と飛行機を空飛ぶアート展にするつもりだったのに! それにこっちには人質が――』

切嗣「建造物の爆破一件、金銭目当ての強盗三件、少年少女の誘拐殺人多数……散々暴れまわっていたようだな」

テロリストA『!?』

切嗣「君たちについては調べさせてもらった――貴様が生き延びてこれから殺めるであろう人数に比べれば、人質二人の犠牲はあまりに軽すぎる」

切嗣「既に僕の天秤は傾いている……貴様が流す流血は今日、この夜に流れる貴様自身の血で終わる」ブツッ

切嗣「少数を切り捨て、多数を救う……それが僕の正義だ」カチャ

テロリストA「もうここまで来てんのかよ! クソッ、クソッ! ナニモンなんだよアンタはさ!」ガシッ

母「きゃっ!」

テロリストA「近寄るなよ、撃っちゃうぜ!?」カチャ

切嗣「言っただろう……僕の天秤は既に傾いている、と」パァン

衛宮切嗣が放った弾丸は一つの迷いもなく、人質の身体ごとテロリストを貫いた。

テロリストA「」ドサッ

母「う……」ドサッ

娘「お母さん……?」

母「あ……あ――」

娘「お母さん! お母さん! いや、いやああああああ!!」

切嗣「……僕は僕の在り方を――ッ!」ズキッ

切嗣(これが僕の望んだ在り方? これが僕の夢見た正義?)

切嗣(違う! 僕がセイバーと見出した正義はこんなものじゃない――!)

切嗣(違う! 違う! 巫山戯るな! 僕はこんな結果――)

娘「うわああああ……」

切嗣「あ、あぁ……僕は、僕は……」

イリヤ「どうして……どうして、お母様を殺したの……? キリツグ……?」

切嗣「い、イリヤ!? 違うんだ、これは……」

アイリ「」

切嗣「うわ、あ……アイリ……どうして……!」

イリヤ「どうして? キリツグは正義の味方じゃなかったの?」

切嗣「……そうか、僕は、もう……冷酷な”正義な味方”には戻れない……」

切嗣「僕にはもう、守るべきものが……あ、あ……うわああああああああああああああああああああ!!!!!!」

――――

プシュー

切嗣「ああああああああ! ……あ、あれ?」キョトン

ライダー「どうでしたか? 警察官、向いてそうでした?」

切嗣「駄目だ! 警察官はなしだ!」

ライダー「そうですか……」

切嗣「はぁ、はぁ……なんだかすごく疲れた気がするな……」

切嗣(それに、どうしてあのとき僕はあんな判断を……? あんな行動、以前であればいざ知らず、現在の僕では決して取らないはずだ……)

ライダー「それじゃあ次、いってみましょうか」

切嗣「えっ? いや、僕はもう……」

ライダー「次の職業体験は>>598です、行ってらっしゃい」ガチャ

切嗣「うわああああああ!」

殺陣師

今日は安価置いておしまいです
お花屋さんとかパン屋さんみたいなのを想定してたら結構ガチなのが来ましたね
警察官はギャグ要素なくなっちゃったので次からギャグっぽくしていきたいと思います

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