側近「魔王を倒してください、勇者様」王様「よしわかった」 (108)


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・いろいろ
 
書き溜めはありますので進行速度は(たぶん)速いと思います。

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王様「とでも言うと思ったか。私は王様だぞ」

側近「思ってなかったので、〝わかった〟と言われたときは驚きました」

王様「おお、驚かせてしまって悪いな」

側近「いいえ、驚いたと言ってもゴキブリを見つけたときぐらいの驚きなので心配無用です」

王様「あまり気分の良くない例え方をするな」

側近「考え過ぎです。王様はゴキブリなんかじゃありません。ハエです」

王様「……もうよい。で、私が勇者とはどういうことだ?」

側近「簡単に説明すれば、王様が勇者で、数日前に突如として人間界と繋がった魔界、その覇者である魔王を倒すんです」

王様「説明になってないだろ、それ」

側近「十分説明になってますよ。これだけ聞けばちょっと考えるだけで答えに辿り着きますから」

王様「つまり自分で考えろと」

側近「そうです」

王様「面倒な奴だな、まったく」

側近「王様は一国の象徴、頭が使い物にならないと困るのは国民ですから」

王様「おまけに容赦がない」

側近「無駄話してないで早く考えてください」

王様「わかったよ」

側近「ヒントは、〝勇者に選ばれる人間〟です」

王様「勇者に選ばれる人間か……。つまり様々なプレイヤーが主人公を体験できるよう、徹底的に特徴を排された、〝はじまりの国〟的な場所に住む少年もしくは青年ということだな」

王様「しかもレベル1でなければいけない。そうかなるほど、側近は私を特徴のない青年程度の人間でありレベル1程度の人間と言いたいわけか」

側近「あながち間違ってませんが違います」

王様「冗談だ。というか全否定しろ」

側近「嘘はつけませんので」

王様「優しい嘘なら許すぞ」

側近「まじめに考えてください。さっきのは冗談なんですよね」

王様「ああ、もちろんだ。勇者と言えば、基本的には先祖が勇者的な存在だとか、精霊からご指名を受けたとか、そういった理由によるものが多いな」

王様「私もそのどちらかというわけだろう。まさか、美しく綺麗な妖精にご指名でもされたのだろうか?」

側近「残念ながらその顔でそれはありません」

王様「側近よ、妖精は顔で勇者を選んでいるのか? よく考えてみろ、ブサイクな勇者だって何人も……いや、いないな」

王様「まさか妖精、本当に顔で勇者を選んでいるのか?」

側近「人間なんてそんなもんですよ。私が妖精だったらそうします」

王様「というかツッコミが遅れたが、私は端正な顔立ちだぞ。歳もまだ若いということで国民の報道でもイケメンとか書かれているしな」

側近「最近のメディアは〝とりあえずイケメンとか美女とか言っとけ〟的なノリが見え隠れしていますけどね。それより話をそらさないでください」

王様「すまんすまん。で、側近の反応や口ぶりから察するに、私は精霊からのご指名を受けたわけではないのだな」

側近「その通りです」

王様「ということは、私の先祖が勇者的な存在だったということか」

側近「その通りです」

王様「しかし、私の先祖にそんな人間がいたのか?」

側近「それを示すデータが私のタブレットに入っています。どうぞ」

王様「便利な時代になったね。ええと、どれどれ……」

側近「王様の曾祖父の祖父がこの国の初代国王です。約150年前のことですね」

王様「世界中で革命が流行し絶対王政が崩れる中、それによって伴った混乱を抑えるためにたてられた方だな」

側近「その通りです。ただ初代国王は革命でも先頭に立って活躍した人物ですから、本人は絶対王政を敷かず、我が国の立憲君主制の基礎を作った人物です」

側近「その大人物の子孫がコイツだとは信じられませんが」

王様「王様をコイツ呼ばわりって……」

側近「気に障りました?」

王様「いやもう慣れた。それより、その初代国王と勇者、なんの関係が?」

側近「それがですね、この初代国王からさらに遡った先祖、今から500年前の先祖が面白い扱いを受けていまして」

王様「500年前の先祖?」

側近「ええ、その先祖はどうやら、勇者の候補者として当時の王国に保護されていたそうです」

王様「どういうことだ?」

側近「私も気になりまして調べたところ、その先祖からさらにさらに遡ること1000年前、今から1500年前です」

側近「当時は人間界と魔界が繋がっており、お互いの種族が戦争状態に陥っていたとされる時代に辿り着くんです。今ではおとぎ話とされる〝勇者伝説〟の時代です」

王様「それってまさか……」

側近「まさかと言うなら、王様がその後を説明してください」

王様「お、おお。まさか、その1500年前のいわゆる〝勇者伝説〟に登場する、魔王を倒して魔界と人間界を切り離し、人間界に平和を呼んだとされる勇者が、私の1500年前の先祖というわけか?」

側近「その通りです」

王様「信じられない……」

側近「信じられないなら信じなくとも結構です。ただ、これは事実です」

王様「なぜそこまで断定できる」

側近「資料を読んでください。せっかくタブレットを貸したんですから」

王様「ああ、どれどれ……」

『王様の500年前の先祖は勇者伝説に登場する勇者の子孫とされていた』

『当時はまだ勇者伝説が正史として扱われており、そこに記述された〝1000年後に魔王が復活する可能性〟という言葉を人間が恐れていた時代である』

『魔王を再び倒せるのは勇者のみとされており、そのため全世界から勇者の子孫が集められた。王様の先祖はその第一級として扱われていた』

『王様の先祖は保護されていた際に当時の国王に寵愛を受け、魔界や魔王、魔族が現れずとも、その一族は旧王国の重鎮となっていく』

『150年前、その一族であった先祖が革命に参加し、数年後に混乱した国を建て直すため初代国王に選ばれた』

王様「なるほど……これなら納得できる」

側近「ようやくですか。まったく遅すぎます」

王様「いや、お前は勇者の子孫だって言われても普通は困るでしょ。ただでさえ〝勇者伝説〟が単なる伝説になってる時代だし」

王様「しかももう王様になってんだよ? 〝勇者よ、魔王を倒せ〟って命令する方だよ? 命令される方じゃないからな」

側近「そうやって既成概念にこだわっていては、国は進歩しませんよ?」

王様「うっ……否定しにくいことを言うな」

側近「王様、グダグダしてる時間はないんですよ?」

王様「……………」

側近「伝説では500年前に起こるはずだったことが今、起きてしまったんです。現に人間界と魔界が繋がってしまったんです」

側近「そして、魔族が人間を襲いはじめているんですよ?」

王様「知っている」

側近「部下の報告とニュースで、でしょ。現実はもっと苛烈なものです」

王様「…………」

側近「伝説通りなら、魔王を倒し魔界と人間界を切り離せるのは勇者だけです」

王様「つまり勇者である私だけ……」

側近「武器を持ち、味方とパーティーを組み、魔族を倒してレベルを上げ、魔王城に乗り込み魔王に一発ぶちかます。それが勇者の、王様の運命なんです」

王様「ゲームやお話でしか聞いたことのない話だな。いや、王が自ら魔王を倒すなんて聞いたことない」

側近「事実は小説より奇なりです」

王様「……やんなきゃだめ?」

側近「アホ面で玉座に座って、勇者に魔王を倒させて自分は鼻をほじり、死んだ勇者に〝おぉ、なさけない〟なんて言っている王様役は今回はできません」

王様「おい、王をバカにし過ぎだ」

側近「こうやって話をしているのも時間の無駄です。ほら、もう仲間の準備は私たちがしておいたので、安心して逝ってください」

王様「最後の最後にどえらい漢字間違いしてるぞ」

側近「おっとつい本音が」

王様「う~ん、お前が集めた仲間とか不安すぎる」

側近「おーい、王様の仲間を呼べ!」

――数分後――

側近「王様の御前だ。自己紹介しろ」

魔法使い「彼女いない暦34年、つまり童貞ですww」

賢者「ふぅ……」

商人「はじめまして」

王様「おい……三人中二人が下ネタで魔法使いと賢者になってないか?」

側近「気のせいですよ」

王様(側近、私を本当に殺す気だな)

王様(それにしてもまともなのは可愛らしい商人だけか。それでも戦闘はできないだろうし……)

王様「魔法使い、お前の特技はなんだ?」

魔法使い「広く情報を得ることですw。ビッチの個人情報なんか簡単に晒してやりますよww」

王様(こりゃ彼女できないな)

王様「賢者よ、お前の特技はなんだ?」

賢者「俺の特技か……。すぐに昇天させることかな」

王様(これは頼もしい意味なのか卑猥な意味なのか……)

王様「商人の特技はなんだ?」

商人「あたしの特技は、最初に安く売ってメンテナンスでがっぽり儲けることで~す」

王様(……本職なだけ他の二人よりはまだまともか)

王様「そうか。ところで商人は何を売っているのだ?」

商人「組織や地域の安全を守るために必要不可欠なもので~す」

王様「うん? つまりどういうことだ?」

商人「安全を脅かすものは武器で~す。あたしはそれに対抗できるものを売っていま~す」

王様(武器に対抗できるもの? まさか……)

王様「商人よ、まさかお前は武器商人か?」

商人「正解!」

王様(嘘だろ! 堅気の武器商人っぽくはないし、マフィアと繋がりがあるヤツか? おいおい、そんなのと王様が手を結ぶって立派な政治問題だろ)

王様「なあ側近、この三人が私の仲間か?」

側近「それ以外になんなんですか?」

王様「本気か?」

側近「私は嘘をつきません」

王様「…………」

王様(こいつらと魔王を倒す旅なんて冗談じゃない! 他に方法はないのか? もっと強そうな戦士とか、可愛い僧侶とか、頼もしい軍人とか……軍人?)

王様「なあ側近、魔王を倒せるのは勇者だけなんだよな」

側近「当たり前です。なんですか、基本中の基本ですよ」

王様「でもそれ以外の魔族は、別に勇者じゃなくても倒せるんだろ?」

側近「……ええ、まあ」

王様「だったらさ、魔王城まで四人だけで行く必要なくない?」

側近「…………」

王様「どうなんだ?」

側近「……その通りです」

王様「魔王だって、最後の一発以外は効くんだろ?」

側近「……勇者伝説ではそうなっています」

王様「だよな。なら、我が軍隊を出動させて魔族を蹴散らし、魔王を弱らせ最後の一発だけを私がかます。それでいいんじゃないか?」

側近「……良いでしょうね」

王様「よし! そうと決まれば早速行動だ! 内閣に軍隊を動かすよう伝えて。魔族相手なら議会もすぐに承認するだろうから。それと商人、少し協力してくれ」

魔法使い「おい! なんで商人だけなんだよ! 女は得だな。俺たちはお役御免か?」

王様「悪いな。粗品ぐらいはあげるよ。この私の首振り人形とか貯金箱とか……」

魔法使い「ふざけんなよ!」

側近「早く帰りなさい。あなた達二人はネタのためだけに存在するだけで、これ以上の出演は予定されてないんだから」

魔法使い「チッ、わかったよ帰るよ! ったくこれだから女は……」

賢者(あの側近の顔を焼き付けておこう)

王様「商人、国防省で支援が必要かどうか聞くんだ。必要であればそれを引き受けろ」

商人「了解!」

王様「さて、勇者としての仕事は後回し。まずは王の仕事だ」

側近(あ~あ、王様とあの三人で旅させて、途中で危機に陥らせる計画が……)

魔女「やっちまいましたね」

魔王「…………」

魔女「人間界の技術進歩を甘く見過ぎちゃいましたよ」

魔王「…………」

魔女「人間界の兵士達は〝じゅう〟という飛び道具で武装、魔族が攻撃できない距離から攻撃してきます」

魔女「そして鉄の塊のような、馬なしで自由自在に走り回る車。〝せんしゃ〟とかいうらしいですよ。大型の魔族ですら一発でやられる」

魔女「どれも魔界の攻撃では歯が立たないものですね~」

魔王「…………」

>>26ミスです。
再投稿します。

――1ヶ月後、魔王城――

魔女「やっちまいましたね」

魔王「…………」

魔女「人間界の技術進歩を甘く見過ぎちゃいましたよ」

魔王「…………」

魔女「人間界の兵士達は〝じゅう〟という飛び道具で武装、魔族が攻撃できない距離から攻撃してきます」

魔女「そして鉄の塊のような、馬なしで自由自在に走り回る車。〝せんしゃ〟とかいうらしいですよ。大型の魔族ですら一発でやられる」

魔女「どれも魔界の攻撃では歯が立たないものですね~」

魔王「…………」

魔女「でもなんといっても〝みさいる〟とやらです。見たこともないような速度と恐ろしい程の命中率、砦を一発で破壊する威力」

魔女「魔法ですら撃ち落とせないそれが、人間界の兵器、〝くちくかん〟とかいう鉄の船や〝ひこうき〟という空を飛ぶ乗り物、地上の車などから次々と発射されるんです」

魔王「…………」

魔女「ほっとんど魔族は反撃できずに、四天王も全滅。人間はこの魔王城に刻一刻と迫ってきています」

ドドーン

魔女「ほら、また爆発音が聞こえてきましたよ。これもぜ~んぶ、魔王様のせいですよ」

魔王「まさか……500年前の魔王復活の日を寝過ごすとは思いもしなかった」

魔女「ホントですよ! 魔王様が眠ってる間、この魔界はまったく進歩しなかったんですから!」

魔王「当然だ。人間界と魔界では時の流れが違うからな。しかし、人間がこれほど早く進歩しているとは思わなんだ」

魔王「この前目覚めて、焦って人間界に攻めるものではない」

魔女「今更そんなこと言われても困りますよ。ほら、これからどうするんですか?」

魔王「どうすると言っても、どうしようもないであろう」

魔女「は?」

魔王「この魔王が魔女の計画とやらに協力し、姫を利用して人間界の王や王子を暗殺、なんやかんやあって勇者と共闘し魔界と人間界の共存関係を作る」

魔王「そして最後に可愛らしい孫が魔法の草をたくさん食べている、という夢を見ている間に、魔界と人間界の差は大きく開いてしまった」

魔女「どっかで聞いたことあるような夢ですね。っていうか魔法の草ってなんだ?」

魔王「この魔王が500年前を寝過ごした時点で、魔界は人間界に負けたのだ」

魔女「それは納得です。嫌ってほど納得です」

魔王「この魔王が死ねば魔界は人間界と繋がる能力を失う。しかしそれだけだ。我は1000年後に再び蘇る。よって我が死ぬのはさほど問題ではない」

魔女(うん? どうしよう。魔王の価値が見いだせない)

魔王「だが魔族軍は違う。これ以上魔族軍の戦力を削っては、人間との戦争は継続できぬ」

魔女「はあ……つまり?」

魔王「魔族軍を撤退させよ。勇者をこの城に招き入れ、この魔王が戦う。勇者だけでも倒せば、魔族軍の士気は高揚し人間との戦争を続けられるだろうからな」

魔女「わかりました! すぐに全軍に撤退命令を出してきます! 私もさっさとこの城から脱出しますね!」

魔王「……なんか、切り替えが早いのだな」

魔女「そりゃそうですよ! 500年も寝坊して焦ってろくに準備も下調べもせずに人間界攻めたら人間界の技術力が半端なくて魔族はフルボッコされてしかも魔王の存在価値もほとんどなかったんですから撤退命令は待ちに待った最高の命令なんです!」

魔王「反論できぬ」

魔女「それじゃあ勇者にぶった切られるまでお元気で~」

魔王(我が負ける前提か……さすがに辛い)

魔王「魔女よ、貴様はこの城に残れ」

魔女「イヤです」

魔王「勇者を我のもとに案内するだけだ」

魔女「そんなん魔王様がやれば良いでしょ~」

魔王「それでは雰囲気がぶち壊しだ」

魔女「え~」

――人間界、司令室――

《こちら第14戦車大隊! ドラゴンが出現した! 航空隊に支援要請!》

《こちらAWACS。第308戦闘飛行隊は第14戦車大隊の支援に回れ》

《了解。第308戦闘飛行隊全機は戦闘準備》

《トロールの軍勢は撤退をはじめています》

《こちら駆逐艦高波。巡航ミサイルにより魔王城付近の兵舎を破壊した》

《秋月に告ぐ。イージス駆逐艦金剛がドラゴン迎撃を開始する。その間付近の哨戒を行え》

《スライムの群れだ! すごい数だぞ!》

《軽機関銃を持った奴を集めろ! 自走高射機関砲と一緒にスライムを薙ぎ払うんだ!》

《戦車の増援が到着! 全部吹っ飛ばせ!》

《爆撃機が敵に爆撃を開始する! 伏せてろ!》

《ガーゴイル部隊が撤退をはじめた。追撃を開始する》

王様「いや~多正面作戦でこの勢い。我が軍は優秀だね~」

側近「いいえ、相手が弱すぎるんです」

王様「まあね。まさか魔界の軍隊が未だに、騎士や弓兵みたいな編成で攻め寄せてくるとは思いもしなかった」

側近「以前に魔族が攻め寄せてきたのは6世紀。それから15世紀も経っているのに、魔界は進歩がないですね」

王様「21世紀に6世紀が勝てるかっての」

側近「しかしこれじゃあ一方的な虐殺ですよ。商人から買ってきた出所不明の武器まで使って、野党辺りが文句をつけてくるかもしれないです」

王様「それは内閣の仕事だ。私は知らん」

側近「それもそうですね」

王様「なあ参謀総長、そろそろ魔王城に特殊部隊が出発する頃だろ」

参謀総長「はい。すでに準備は終わらせ、すぐにでも任務を開始できます」

側近「この任務が終われば、いよいよ魔王城に突入です。勇者である王様の出番ですよ。レベル1なのに美味しいところだけかっさらっていく簡単なお仕事です」

王様「嫌みな言い方をするな」

側近「嫌みですから」

王様「……正直でよろしいと褒めておく」

側近「ありがとうございます」

《どうもおかしい……敵が撤退していく……》

《こちらもだ》

参謀総長「どうした?」

《先ほどから敵が撤退していくのです。壊滅寸前の敵ならまだしも、十分に戦力のある敵ですら撤退していまして……》

参謀総長「……なるほど。もしかしたら魔族が講和を願い出てくるかもしれない。追撃はせず撤退させろ。このことは内閣に伝えておく」

王様「どうやら魔族もビビったみたいだな」

側近「だと良いんですけど」

王様「講和を願い出てきたら……」

?《勇者よ》

王様「うん? なんだ?」

?《勇者よ。我は魔王》

王様「魔王?」

側近「どうかしましたか? 王様」

王様「ま、魔王って?」

側近「は?」

王様「いや声が聞こえるんだよ! その声が我は魔王って……」

側近「なんですか王様。突然中二病を発症されても困ります」

王様「いや本当だって!」

魔王《勇者に告ぐ》

王様「ほら!」

側近「はいはい、コイツ直接脳内に! ですね。次は左手が疼くんでしょ」

王様「信じてくれよ……」

参謀総長「怪しい無線が紛れ込んでるだと?」

兵士「はい、これです」

魔王《勇者よ、この魔王はお前にだけ語りかけている》

王様「これ! 俺に聞こえてるやつこれ!」

側近「これですか……魔王の魔法って無線電波使ってるんだ……」

魔王《勇者よ、貴様を我が城に招き入れる。そこで一戦を交えようではないか》

王様「…………」

魔王《明日の夜、魔王城に来い。正門は開けておく。魔女の案内に従い我が待つ場所に来るのだ。それでは明日》

王様「……魔王城に呼ばれた?」

兵士「通信が切れました」

参謀総長「発信元を割り当てろ」

兵士「了解しました」

側近「何かの罠ですかね」

王様「さあ、どうだろう? だが、行ってみる価値はあるんじゃないか?」

側近「そうですね、行きましょう」

王様「……反対しないのか? 危険です! とか」

側近「罠なら罠で王様が痛い目にあうだけですから、問題ありません」

王様「あれ? 私は王様だよな……」

兵士「割り出しました! 発信源は魔王城の最上階です!」

参謀総長「魔王のいる場所だな。偵察隊を送れ!」

王様「参謀総長」

参謀総長「なんでしょうか」

王様「明日、魔王のところに行く」

参謀総長「……しかし、罠という可能性も」

王様「もちろん単独じゃないぞ。特殊部隊と一緒にだ」

参謀総長「……つまり、魔王を倒しにいくと?」

王様「その通り。魔王を倒せるのは勇者である私だけ。ならこれもチャンスだ」

参謀総長「…………」

王様「それに講和を結びたいとかだったら、危険でもなんでもないし」

参謀総長「……了解しました。手配しておきますので、明日の昼までに特殊部隊が待機するヘリ空母にいらしてください」

王様「ありがとう」

――翌日、魔王城に向かうヘリの中――

隊長「戦闘になったら王を守れ。何があってもだ、いいな!」

「了解!」

側近「なんで私まで来なきゃいけないんですか……」

王様「講和に関する話だったら側近がいないと困るから」

側近「私は王宮の職員でただの公務員ですよ? 外交官の仕事は別の人にやらせてくださいよ」

王様「外交官も公務員だろ。いいから文句言うなよ」

側近「ブラック王宮のブラック王に文句言って何が悪いんですか」

王様「ブラック側近に言われたくない!」

隊長「閣下、偵察部隊によると、魔王はたった一人で魔王城の大広間にいるそうです」

王様「そうか。魔王は一体何を考えてるんだ?」

隊長「さあ、わかりません。ただ何があっても、俺たちが閣下をお守りするので心配はご無用です」

王様「心強い。隊長は勇者の味方でいう戦士の役回りだな」

隊長「扱っているのは銃ですから、銃士ってところでしょうか」

王様「よろしく頼むぞ銃士。で、側近は……」

側近「私まで何かに例える気ですか?」

王様「いいだろ別に」

側近「勝手にしてください」

王様「側近は……僧侶でいいや」

側近「テキトーですね。別になんでもいいですけど」

王様「これで勇者と僧侶と銃士が揃った。あともう一人ぐらい欲しいところだが……ま、いっか」

側近「薄っぺらい王ですね」

王様「何も聞こえないぞ」

側近「そうですか、なにも聞こえませんか。王様のパソコンに隠しフォルダが存在し、その中には若い女性が露出の多い……」

王様「何を言う気だ!」

側近「聞こえてるじゃないですか」

王様「そうだよ! 3年前どころかずっと聞こえてるよ!」

――魔王城入り口――

魔女「おお! あれが〝へりこぷたー〟ってやつですか! すごーい!」

王様「随分はしゃいでいますが、あなたは?」

魔女「案内役の魔女です! あなたが勇者?」

王様「勇者兼王様です」

魔女「そう。それより、あの〝へりこぷたー〟って本当に魔法で動いてるわけじゃないの?」

王様「え?」

隊長「ああ本当だ。俺たち人間は科学力っつうもんでいろんなもん作ってる。あのチヌークもその一つだ」

魔女「え、ち、ちねー……ちにゅー……」

隊長「あのヘリの名前だ」

魔女「う~ん、難しい話になる予感。詳しいことは後で聞くから、勇者さん達はともかくついてきて」

側近「あさっり城の中に入れましたね。一体魔王は何を考えているのか……」

王様「今は難しく考える必要はない。まずは魔王に会ってからだ」

側近(考えなくていいのは王様だけですよ。私たち部下がいますからね)

魔女「ようこそ魔王城へ~。この城は今から約2000年前に作られたものでして、今でも当時の面影が至る所に残されています!」

魔女「例えばこちらの大窓からはアンコロモチ大聖堂がよく見えますが、これは1800年前の――」

王様「なんだこれ、ツアーかよ」

側近「魔王城ツアーは話が終わってからするから、早く魔王のところに連れて行ってください」

魔女「まあそう焦らずに。この城には今でも昔の名残がそこら中に残っているんですよ~。ほらこれ、魔王様と先代の勇者が戦った痕です」

王様「お~」

側近「王様、感心している場合ではありません」

王様「あ、ああ、すまない」

側近「私たちは急いでいるのです。魔王のところへ早く連れて行ってください」

魔女「はいはい、わかりましたよ~」

――魔王城の大広間――

魔女「魔王様ー! 勇者の一団を連れてきましたよ~」

王様「どうもこんにちは。勇者です」

側近「側近です」

隊長「銃士です」

魔王「はじめてお目にかかる。我が魔王だ」

王様(いわゆる魔王のイメージのまんまだな)

魔王「ところで勇者、お前は人間界の国の王ではないか?」

王様「ああ、いろいろ事情がありまして。ただ、れっきとした勇者の子孫です」

魔王「そうか、そうであったか。それは好都合。では、側近と銃士の他にいる数十人の人間は誰なのか? 随分と大人数のパーティーに見えるが」

王様「えっと……仲間です」

魔王「フッハハハハハハ!! これほど大人数のパーティーは見たことがない! 広間の外にまで味方がいるではないか!」

隊長(そういや魔王の意思疎通系や気配察知の魔法は無線電波使ってるんだっけか)

隊長(幸い魔王は無線電波の存在を知らねえが、無線をつけたままだと奇襲ができねえな)

王様「それで魔王さん、私たちになんの用ですか?」

魔王「うむ。魔族軍が人間に勝つことはもはやできぬ。これ以上の戦力の消耗は壊滅を意味する」

王様「ってことは、講和を願い出ると」

魔女「あ! 講和を願い出るのは私です!」

王様「は?」

魔女「魔王様がやられたら、魔族は講和の席に座ります!」

王様「え?」

魔王「勇者よ、この魔王が勇者に倒されなければ戦争は終わらない。なぜなら、私が存在する限り魔界と人間界を切り離すことができぬからだ」

王様「つまり?」

魔王「魔界と人間界を繋げるのは、我の強き魔力が存在してこそ。我が死ねば1ヶ月で魔界と人間界の繋がりが途切れる」

魔王「そうすれば我が蘇るまでの最短1000年間、魔界と人間界が繋がることはない。つまり、魔族と人間の戦争はない」

王様「ほお、なるほど。そういう仕組みなんですね」

側近「最短1000年で蘇る? だから500年前に魔王の復活が恐れられたんですね。でもなんでそのときには蘇らなかったのでしょうか……」

魔王「先代の勇者は強かった。これまでにない程に。ゆえに我は、500年以上遅れて蘇ることとなった」

魔女「なに魔王様嘘ついてるんですか!」

魔王「嘘ではない」

魔女「嘘でしょ。魔王様はね、500年寝坊して復活が遅れちゃったの。どうやら薄っぺら~い夢が楽しかったみたいで~」

魔王「やめろ魔女。勇者よ、今のは嘘だ。嘘だからな。魔法の草とか我は知らないからな。信じるなよ」

王様(魔王の価値が見いだせない)

側近(人間界も魔界も王は似た者同士)

隊長(魔法の草って、ヤクか?)

魔王「こうして話していても仕方がない。勇者よ、我が貴様を倒せば魔界軍の士気は上がる。我が魔族のために、我は貴様を倒す!」

王様「そういうことか。よし! 受けて立つ!」

隊長(つっても相手は魔王だ。レベル1の王様じゃ歯が立たねえ)

魔王「ゆくぞ勇者! 火炎魔法!」


ゴォォォォ!!


隊長「危ない!」

王様「うわ!」

隊長「ご無事ですか?」

王様「あ、ああ、ありがとう」

魔王「ほう、良い仲間を持ったな勇者」

側近「どうするんです? 私と王様は戦闘員じゃありませんし、特に守らなきゃいけない分ここでの王様はゴミよりも邪魔な存在ですよ?」

王様「ゴミ以下とか言うな」

魔王「フハハハハ、さあ来い! 勇者よ!」

隊長「王様と側近様は安全なところに。ここは俺たちに任せください。レベル1の王様でも倒せるぐらい、魔王を弱体化させてやりますから」

王様「おう、頼んだよ」

側近「お願いします」

魔王「勇者よ、逃げるのか?」

王様「しょうがないだろ! 王様なんだから!」

魔王「まったく、人間界の王とは弱きものよ」

隊長「アルファチーム! 構えろ!」

魔王「まあよい。勇者よ、貴様の部下をいたぶってやろう」

隊長「魔王の腕と胴体を集中的に狙え!」

魔王「そのような刃もない武器で我を攻撃するとは、笑止」

魔女(あそっか、魔王様は前線に立たないから人間の武器や兵器を知らないのか)

魔王「勇者でないにもかかわらず我に挑んだこと、後悔させてやる」

魔女(ああ、魔王様調子に乗っちゃって)

魔王「火炎まh」

隊長「撃て!」


パパパパパン! バババババン!


魔王「うお! 痛い痛い痛い!」

隊長「7・62ミリでも魔王にはこの程度か……。まあ、攻撃を止めることはできるな」

魔王「な、なんだその飛び道具は!」

魔女「魔王様、あれが〝じゅう〟ってやつです」

魔王「なんと……この我の攻撃を封じるとは……」

王様「あれ? 意外と魔王が弱い」

側近「ですね」

隊長「断続的に撃ち続けろ!」

魔王「クッ……これでは魔法が使えぬ……だが肉弾戦ならば!」

隊長「ブラボーチーム! ジャベリン用意!」

魔王「ジャベリン……投げ槍での攻撃か。1500年前の戦士を思いだすな」

兵士「発射準備完了!」

魔王「うん? その筒が槍だと? 笑わせるな!」

隊長「発射!」


パシュ! シュゴォォーー!! ドォォーーーン!!! ×2


魔王「グワーーーーー!!!!」

王様「お! 魔王倒れた!」

側近「対戦車ミサイル二発でですか……」

兵士「よっしゃーーー!!」

隊長「やったか?」

魔女「そのやり取りフラグ! まだ倒してない!」

王様「え?」

魔王「ククク……よもやこれほどの破壊力の槍があったとはな」

魔女(槍じゃないってば)

魔女「王様! これから魔王様は第二形態に変わる!」

魔王「魔女よ、貴様はどちらの味方だ?」

魔女「人間です!」

魔王「あっさり裏切るな」

魔女(そりゃ、魔王様の第一形態をあれだけで倒しちゃうんだから、ねえ)

しばらく中断します。

続きは今日の夜か明日です。

再開します。

魔王「さあ、ここからが本当の戦いの始まりだ!」

側近「魔王の背中に大きな羽が……」

王様「第二形態は空を飛ぶのか!」

隊長「速いな……」

兵士「あれではジャベリンが当たりません!」

魔王「ククク、打つ手なしか?」

隊長「とにかく撃ちまくれ!」

魔王「ではこの魔王の番だ。豪火炎まh」

隊長「撃て!」

パパパパパン! ダダダダダン!

魔王「痛い痛い痛い!」

王様「第二形態になっても空飛ぶだけで大して変わらないな」

側近「魔王よりも軍事力があるだけ王様の方が強いですね」

魔女「魔王の弱点は胸と肩よ! あそこを攻撃すれば魔法は使えない!」

隊長「ご協力感謝するぜぇ」

魔王(魔女の手の平返しが辛い)

魔王「痛い……。だ、だがその武器とて射程外に出れば……」

王様「魔王が窓を突き破って外に!」

側近「銃の射程外に出ようという魂胆ですね」

隊長(こりゃ運がいい)ニヤ

隊長「司令部! 対地ミサイルの支援を頼む!」

司令部《了解した。発射から着弾までは5分程度だ》

隊長「了解! 全員5分間耐えろ! チャーリーチームは魔王にレーザー照射準備!」

魔王「クク、ここまで来ればあの飛び道具の命中率も落ちるな」

王様「これじゃ魔王が魔法を使ってくるぞ……」

側近「しかし広間の壁は分厚いです。5分ぐらいなら耐えるでしょう」

魔王「豪火炎魔法!」


ゴォォォォォォ!


王様「うわわ、すっげ威力だな」

側近「一発で壁がボロボロに……」

隊長「チッ」

魔王(ハッ! はじめて魔法が発動できたぞぉ!)

魔王「ここからは我の時間よ! 豪火炎魔法!」


ゴォォォォォォ! ドォォーーン!


隊長「壁に穴が! 耐えろ! あと4分だ!」

魔女(やばい……魔王様が調子に乗ってる)

王様「大丈夫なのか? これ」

側近「さすが魔王、強いですね」

王様「お前はなんでそんなに冷静なんだ!」

側近「いえ、良いことを思いつきまして」

王様「はあ?」

側近「魔女さん、ちょっとお話が……」

魔女「え?」

魔王「ククク……フハハハ!! 我の力は偉大なり! 豪火炎魔法!!」


ゴォォォォォォ!! ドゴォォーーン!!


王様「か、壁が壊された!」

魔王「さあ勇者よ! これで終わりだ! 豪火炎魔法!」


ゴォォォォォォ!!  


王様「やばい!!」

「防御魔法!」


ピキーーン!!


魔王「!?」

魔女「魔王様、私の防御魔法を甘く見ないでね」

魔王「ま、魔女!」

王様「あれ? 魔女さんが俺たちを助けた?」

側近「これが私の良い考えです」

王様「どういうこと?」

側近「四天王もいなくなり魔王が死ねば、次の魔界の統治者は魔女さんですから」

王様「ああ、敵の権力闘争の利用ね。側近はえげつないな」

側近「ありがとうございます」

魔王(魔女め、許さぬぞ!)

魔王「豪火炎魔法!」


ゴォォォォォォ!! 


魔女「防御魔法!」


ピキーーン!!


魔王「豪火炎魔法!」


ゴォォォォォォ!! 


魔女「防御魔法!」


ピキーーン!!


魔王「豪火炎魔法!」


ゴォォォォォォ!! 


魔女「防御魔法!」


ピキーーン!!


隊長(魔王の攻撃技って火炎魔法以外にねえのかよ)

魔女「クッ……」

王様「すっげえ単調な戦闘だけど、さすがに魔女も魔王の力に押されてるな……」

側近「ミサイル到着まであとどのくらいですか?」

隊長「1分を切ってます」

側近「それまで耐えてください、魔女さん」

魔王「豪火炎魔法!」


ゴォォォォォォ!! 


魔女「防御魔法!」


パリーーン!!


魔女「キャッ!」

王様「クソ! 魔女の作ったバリアが破られた!」

魔王「フハハハハハ!! 覚悟しろ! 貴様ら!」

王様(ええい! こうなったら……)

側近「ちょっと? 王様!」

王様「おい魔王! お前はなんのために人間界を襲う!」

魔王「おお勇者よ。仲間の危機を見て前に出て来たか」

王様「質問に答えろ!」

魔王「よかろう。どうせ貴様の最後だ。せっかくなので教えてやろう」

側近(あ、フラグたった。王様はこれを狙ったんですね)

魔王「我ら魔族と人間は古来より憎しみあう存在であった。それは今も変わらぬ。それが戦争の理由だ」

王様「なるほど……で?」

魔王「それだけだ」

王様「……それだけ? えっと、それが人間と魔族が殺し合う理由?」

魔王「そうだ」

王様「マジでそれだけ? 資源を求めてとか、労働力を求めてとか、そういう具体的な理由じゃなくて?」

魔王「我らは戦う宿命だからな」

王様「ちょっと待てよ! 理由がないなら戦うのを止めようぜ」

魔王「理由がないだと? 何を言うか!」

王様「だって、理由ないでしょう? 古来より憎しみあうとか言っても、それは古来の人間と魔族が憎しみあってただけで、今とは関係ないだろ……」

魔王「貴様は宿命から目を背けるのか!」

王様「宿命ってかお前の勝手だろ!」

側近(王様がまともに見える……)

隊長(どうも魔界が発展しないはずだ)

魔女(私、あんなやつの部下だったんだ……)

魔王「勇者め……我は失望したぞ」

魔王以外全員(お前が言うな)

魔王「貴様らなど焼き払ってやる!」

兵士「着弾まであと10秒」

魔王「我の業火で全てを焼き払ってやる!」

兵士「9、8、7、6、5、4、3、」

魔王「豪火炎まh」

兵士「2、弾着、今!」


ドゴォォーーン!!


魔王「グワァァァァ!!!」

側近「対地ミサイルが見事にヒットしましたね」

隊長「駆逐艦のいる海が近くてよかったぜ」

魔女「魔王様……弱い!」

王様「……哀れだな」

兵士「やったぞ! やった!」

隊長「おい、まだだぞ!」

兵士「え?」

側近「まだ最終形態が残っています」

王様「大抵の魔王はそうだからな」

魔王「クッ……我ガ、コノヨウナ奴ラニ……」

王様「ほら、あんな禍々しくなってる」

魔王「全テヲ、焼キ払ウ!」

隊長「これが最後だ。ジャベリン用意! 撃て!」


パシュ! シュゴォォーー!! ドォォォーーーン!!! ×2


魔王「クク……無駄ダ!」

王様「さすが最終形態。なんか得体の知れない妖気に覆われてる……」

魔女「あの妖気は結界です。異常に堅いです。城の壁ぐらい堅いです」

隊長「城の壁? 俺らの持ってる武器じゃ破れねえな。駆逐艦からの支援も、さすがに5分も待ってられねえし」

側近「さて、どうしましょうか……」

パイロット《無線封鎖解除。こちら第206戦闘飛行隊。参謀総長直々の命令でバンカーバスターを引っさげて援軍にきた》

隊長「バンカーバスター? へっ、都合いいじゃねえか」

王様(これが……奇跡!)

側近(これが……ご都合主義ですか……)

パイロット《ターゲットを確認。レーザー誘導はそちらで頼む》

隊長「任せておけ」

パイロット《バンカーバスター、投下!》

兵士「チャーリーチーム、レーザー照射開始」

魔王「オオ、アレガ〝ヒコウキ〟トヤラカ。速キモノヨ」

兵士「着弾まで10秒」

魔王「ダガ、今ノ我ヲ倒スコトハデキヌ」

兵士「着弾まで5秒」

魔王「無駄ナコトヨ。行クゾ! 真・豪火炎マh」

兵士「着弾!」


ドァァォォォォォン!!


魔王「クァwセdrftgyフジコlp」

隊長「魔王への直撃を確認!」

魔女「一発で……結界を破壊した!?」

パイロット《こちらでも結界の破壊を確認。これより魔王本体の攻撃に移る。三番機と四番機は誘導爆弾を投下せよ》

三番機《了解。誘導爆弾投下!》

四番機《投下!》

魔王「ナ、ナンダ今ノハ……我ノ妖気ガ一瞬デ吹キt」


ドォォォォン!! ダァァァン!!


魔王「ヌワァァァーーー!!」

魔女(人間強い……)

パイロット《投下、投下》

魔王「マダダ……我ハマダ……」


バァァァン!! ズドォォォン!!


魔王「グワ!! チョット、少シハテカg」


ゴゴゴォォォォン!! バババァァァン!!


魔王「ブハ! モウ、ヤメテ……我ノライフハゼr」


ボォォォォン!! バベェェェェン!!


魔王「コレ以上ハ……」


ブボォォォォン!! ガガァァァン!!


魔王「……ワレノ、負ケダ……」


ドスン


隊長「航空隊! 攻撃止め! 魔王は落ちた!」

パイロット《了解した。周辺空域の哨戒に移行する》

王様「……ちょっとやり過ぎじゃね?」

側近「大丈夫ですよ。魔王のHPが限りなくゼロに近くなっても、勇者である王様の攻撃でない限り魔王は死にませんから」

王様「それ、大丈夫って言うの?」

隊長「閣下、魔王はアンコロモチ大聖堂付近に落ちた。最後の一撃をお願いしますよ」

王様「ああ、わかった」

――アンコロモチ大聖堂前――

王様「おーい魔王、もう終わりにするぞー」

魔王「……勇者ノ味方、ニンゲンノ力、コワイ……」

魔女「王様~、魔王様やっちゃってくださいよ~」

魔王「魔女ヨ、ナゼニンゲンノ味方ガデキル。我ラガ憎ムニンゲンノ……」

魔女「正直言うと……べつに私は人間のこと憎んでないんで~す」

魔王「ナン……ダト……。オイ、ニンゲンノ側近ヨ。貴様ラハ魔女ノ協力ヲ許スノカ? 貴様ラニンゲンガ憎ム、魔族ヲ味方ニスルノカ?」

側近「人間が魔族を憎んでいるという前提があれば許しませんが、その前提はないので許します。それが何か?」

魔王「!? デハ銃士ヨ、貴様ハ多クノ仲間ヲ魔族ニ殺サレタハズダ。貴様ハ魔族ガ憎イハズダ。ソウダヨナ。ソウダト言ッテクレ」

隊長「魔族との戦力差がありすぎて、それほど仲間は死んじゃいねえよ」

隊長「だが、たしかに仲間は殺された。でも俺たちは感情で戦争してるわけじゃねえんだ。それとこれとは別の話だよ」

王様「もうわかったろ。俺たち人間と魔族は憎しみあってなんかいない。そりゃ過去はそうだったかもしれないが、今はそうじゃないんだ。だから今、戦争する理由はない」

魔王「…………」

王様「ただし、それでもそっちから戦争を仕掛けてくるなら、俺ら人間は戦争を終わらせるため、思いっきりお前を潰してやる」

魔王「ウウ……マダダ、マダニンゲントノ決着ハ……」

王様「…………」

魔王「1000年後、我ガ再ビ蘇リシ時ハ、ニンゲントノ戦争ニ勝ツ」

王様「まだわかってないのか……。隊長、もう何発か爆弾を――」

隊長「爆弾だけじゃなくミサイルでもなんでも撃てますよ」

王様「じゃあ、今撃てるもの全部を――」

魔王「私ノ負ケダ! ニンゲントノ戦争ハモウシナイ!」

王様「うむ、それさえ聞ければ満足だ」

魔王「ウウ……」

魔女「じゃあね、魔王様」

側近「どうぞ、勇者の剣です」

王様「おお! これって王立博物館に飾ってあるやつじゃん!」

側近「魔王を倒すのですから、まずは雰囲気からと思いまして」

王様「さすが側近。ってわけで魔王」

魔王「…………」

王様「1000年後に寝坊せず蘇ったら、私の子孫によろしくな」

魔王「クク……」

王様「でも、くれぐれも戦争はダメだ!」

魔王「…………」

王様「また戦争を始めたら、次も容赦なくお前をぶっ潰す」

魔王「ワカッタ」

王様「じゃ、静かに眠れ、魔王」

グサッ!

魔王「…………」

側近「終わりましたね。レベル1の王様のいいとこ取りで」

王様「余計な言葉を入れるな」

側近「でも事実です」

王様「……にしても、こうやって魔王を倒しても、1000年後には蘇るんだよな」

側近「ええ」

王様「なんか倒した気しないな~」

側近「あれだけ爆弾ぶち込んで、まだ倒した気がしないんですか?」

王様「あれだけやって蘇るんだから、倒した気しないだろ」

側近「まあ、それもそうですね。しかしこうなると、1000年後にまた魔王が蘇ったときの対応を、今のうちに考えておいた方が良いかもしれません」

隊長「今回の戦争は多くの人間の記憶にも、画像にも、映像にも残されています。1500年前とは状況が違いますから、なんとかなるでしょう」

王様「隊長の言う通りだ。今回の件は〝勇者伝説〟なんて伝説じゃなく、事実として未来に受け継がれていくだろうさ」

隊長「そして伝説へ……ならぬ、そして事実へ……ですか」

側近「でも、勇者の子孫や魔族撃退のマニュアルは必要ですね。それを作るのは私たちの仕事ですが」

王様「私も手伝ってやるよ」

側近「いえ結構です。王様がかかわるといろいろ手続きが面倒になるので」

王様「手厳しいなぁ……」

魔女「フフ、魔王は死んだわ! これで魔界の統治者は私よ! ってわけで王様、さっそく講和の方を」

王様「はいはい」

魔王は勇者である王様(ほとんど軍隊のおかげ)によって倒された。

魔界は魔女の統治するところとなり、人間界と講和条約を結んだ。

講和条約によって、魔界の多くの資源や魔法に関する知識が王国にもたらされた。

そしてしばらくして、魔王が倒れたことによる影響で人間界と魔界の繋がりは断たれた。

1500年ぶりの人間と魔族の戦争は、人間の一方的な勝利で終わったのである。




――それから1300年後、人間界――



元首「まさか300年遅れ、私の代で魔王が蘇るとは……」

補佐官「しかし元首さま、大昔の王の伝承通りです。300年遅れているのは、おそらく魔王の寝坊のせいでしょう」

元首「そうだろうな……はぁ……」

補佐官「ほら、溜め息つかないで、勇者様。大昔の王のように戦ってください。どうぞ、魔族撃退のマニュアルver 317.9.1」

元首「わかっている……。さて、〝魔族撃退マニュアル第一章、すばやく軍に防衛及び魔王討伐の指令を出すべし〟だな」

補佐官「すでに火星方面の警備艇や太陽系外防衛艦隊が援軍として地球に向かってきています」

元首「太陽系外防衛艦隊か。だったら良い兵器があるなあ……」

――魔界――

魔王「1300年前の恨み、晴らしてくれる!」

魔女の子孫「ねえ魔王様、大叔母様は人間界に攻め込んじゃいけないって言ってたよ」

魔王「あの魔女め、最後までそのようなことを言っていたのか」

魔女の子孫「攻め込んじゃって良いんですか?」

魔王「良い。我は蘇りし時から100年間、人間に勝つために科学技術とやらを魔界に広めた」

魔王「戦車や飛行機、ミサイルに高精度レーダー、そしてコンピューター……」

魔女の子孫「200年寝坊しなければもっとすごかったんじゃ……」

魔王「勇者の子孫よ、人間よ、今度こそ我の力を恐れるがよい!」

ドラゴン《高精度レーダーに膨大な熱量を感知! 場所は……宇宙です! 魔王城からの距離は50000キロメートル!》

魔女の子孫「そういや人間界の下調べしてないけど、大丈夫かなあ?」

魔王「ほお、人間もすぐに動いたか。ククク……しかし50000キロも離れていれば、こちらも十分に対応でk」


ピカァァァアン!! ズドォォォォォォォン!!


魔王「くぁwせdrftgyふじこlp」

魔女の子孫「ん? 今一瞬光ったような……って魔王様!」

魔王「ナンダ、今ノ光ハ? 一瞬デ……」

魔女の子孫「一発で……魔王様が最終形態まで追いつめられてる!」

魔王「ニンゲン、今度ハ何ヲ……」

ガーゴイル《勇者からの声明文です! 〝私が到着するまでそこを動くな。あ、動けないか〟とのこと!》

ドラゴン《さらに膨大な熱量を感知! 先ほどの攻撃と同じです!》

魔女の子孫「あ~あ、ダメだこりゃ」

魔王「ニンゲン……コワイ……」


ピカァァァアン!! ズドォォォォォォォン!!


――終わり――

最後まで読んでくださった方がいるのかわかりませんが、少し読んでくださっただけでも幸いです。

ありがとうございました!

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