耳雄「なにィ!?奥羽の楽園に法玄軍が攻め込んで来た!?」 (52)


耳雄「すまん、サイトーさん、一応驚いてはみたが何のことかさっぱりだ」ハハハ

サイトーさん「ぎゃわーん」
(笑ってる場合じゃないワン!!)

サイトーさん「くうーん」
(今、日本の犬界のパワーバランスを崩壊させかねない未曾有の事態が進行中なんだワン!!)

耳雄「な、なんだって!?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1399652137


サイトーさん「ぎゃわーん」
(そもそも今の犬界の平和は、かつて巨熊赤カブトを倒した奥羽の総大将、銀殿がもたらしたものなんだワン)

サイトーさん「くうーん」
(そして、その偉大な総大将にアルプス一帯の支配者である法玄が牙を剥いたことから今回の騒動は始まったんだワン)

耳雄「へー」

サイトーさん「ぎゃわーん」
(法玄は総大将とその側近のジョン殿を汚い手段を使って亡き者にした後、いよいよ全国制覇に向けて動き出したらしいんだワン)

サイトーさん「くうーん」
(このままではまた、犬界は力がすべてを支配する混迷の時代に突入してしまうワン!)

耳雄「犬の世界にもいろいろあるんだなあ」


サイトーさん「ぎゃわーん」
(ああ!もう居ても立っても居られない、耳雄くん、僕は近所の飼い犬達と奥羽に向けて旅立つワン!)

耳雄「ちょ、ちょっと待てよサイトーさん、相手はスゲー悪くて強い奴なんだろ?大丈夫なのか」

サイトーさん「くうーん」
(漢にはやらねばならぬ時があるんだワン)

サイトーさん「ぎゃわーん」
(かつて巨熊赤カブトを討ち取った漢たちのように、僕はこの命を賭してでも、仲間の為に戦いたいんだワン!!)

耳雄「おお!なんて覚悟だ、見直したぜサイトーさん!それでこそ日野家の飼い犬だ!」

サイトーさん「くうーん」
(わかってもらえてうれしいワン!)


耳雄「そういえば、法玄軍ってのはどのくらいの規模の群れなんだ?」

サイトーさん「ぎゃわーん」
(それが、北へ進軍しながら兵隊を集めているらしくて、二子峠の牙城につくころには少なくとも千匹以上には…)

耳雄「千匹!?野犬の群れが!?ありえるのかそんなの!?」

耳雄「それで、サイトーさんの仲間は?」

サイトーさん「くうーん」
(銀殿の息子ウィード殿が各地の漢に呼びかけてる最中だけど、まだ百にも満たない状態らしいワン)

耳雄「十倍以下かよ、やるきあんのか!?」


耳雄「駄目だ駄目だそんなの!犬死もいいとこじゃねーか!」

耳雄「いいかサイトーさん、勇気と無謀ってのは違うんだぜ」

サイトーさん「ぎゃわーん」
(でも…)

耳雄「男ってのは引き際も肝心なんだ、大体サイトーさんはうちの犬なんだし、そんな争い関係ないじゃんか」

サイトーさん「…」
(…)

耳雄「俺は学校いってくるけど、バカなことはするんじゃないぞ、いいな?」

サイトーさん「くうーん」
(分かったワン)

耳雄「よしよし、帰りにおやつの骨ガムを買ってきてやるからな」

サイトーさん「ぎゃわーん」
(いまからよだれが止まらないワン!!)

耳雄「じゃ、行ってきます」

サイトーさん「くうーん」
(いってらっしゃーい)

耳雄(やべー、今からじゃ完全に遅刻だぜ)

サイトーさん「…」

サイトーさん(勇気と無謀は違う、か)

サイトーさん(耳雄くんは良いことを言うワン)

サイトーさん(…でも)

俺は深夜になにを書いているんだろう
こんなもん誰に需要があるんだ
駄目だ、寝よう

正直レスがついていることに驚きを禁じ得ない
なんてマニアックな連中なんだ
とりあえずもうちょっと続けるぜ


学校

白石「だ、だめよジョージ!そんなの危険よ!」

犬山「くうーん」
(でも、仲間がピンチなんだよ)

耳雄「ん?」

耳雄「お前らは、以前犬岳で修行して人間になった犬山丈二とその元飼い主の白石じゃねえか」

白石「!耳雄くん」

耳雄「そんなでかい声で何を話してんだ」

白石「実は、ジョージが不良と喧嘩するんだって言って聞かないの」

犬山「くうーん」
(違うよ、喧嘩じゃなくて戦争だよ)

犬山「くうーん」
(僕は気づいたんだ、今の生活はただ死んでないだけなんだ!)

犬山「くうーん」
(生きるっていうのは戦うってことなんだよ!)

白石「ジョージ…」

耳雄「なんだかわからんが、すごい気迫だな」


白石「あなたがそこまで言うなんて、その奥羽の戦士っていうのはよっぽど立派な犬たちなのね」

耳雄「?奥羽の戦士って、もしかして」

耳雄「犬山の喧嘩の相手ってのはアルプスの法玄って奴か?」

犬山「!?」

白石「日野君、どうしてそれを」

耳雄「サイトーさんも今朝それに参加するって息巻いててな」

耳雄「勝てない喧嘩なんかよせって止めといたけどよ」

白石「そうなの」

耳雄「しかし穏やかじゃねえな、放課後様子を見に行ってみるか」

委員長「やめとけよ、耳雄」

耳雄「おお、委員長」

委員長「犬には犬の事情があるんだろう、人間があまり干渉するべきじゃない」

耳雄「でもよう委員長、法玄ってのはとんでもない奴らしいぜ」

耳雄「人を襲ったりするらしいし、放っといていいのか?」

委員長「妖怪退治ならともかく、俺達にできることなんてせいぜい保健所に連絡するくらいだろう」

委員長「それよりもう授業が始まるぞ」

耳雄「お、やべえやべえ」


犬山「くうーん…」
(それでも、それでも僕は…)

犬山「くうーん!」
(戦うんだ!!)

教師「授業♪授業♪楽しい授業を始めるぞ♪」ウヒヒ

ダッ!

犬山「くうーん」
(先生すいません、早退します!)

教師「な、どうした犬山!?くうーんじゃわからんぞ!」

白石「ジョージ!!」

犬山「くうーん」
(ごめんよ、僕は行かなきゃ!)

白石「ジョージーー!!」


日野家

犬山「サイトーさーん!!」クウーン

犬山「迎えにきたよ!!」

サイトーさん「君は、犬山くん!」ギャワーン

犬山「やっぱり僕が馬鹿だったよサイトーさん」

犬山「君に言われて気づいたんだ、僕がどれだけ情けない奴だったかって」

犬山「このまま法玄の天下になったら、昔一緒に修行した仲間たちだって危ない」

犬山「さあ、奥羽に向おう!!サイトーさん!」

サイトーさん「う、嬉しいワン!犬山くん」

サイトーさん「昨日は偉そうなことを言ったけど、実は僕もちょっと悩んでいたんだワン…」

サイトーさん「でも、君のおかげで決心がついたワン」

犬山「サイトーさん…」

サイトーさん「みんなを連れて、奥羽に行くワン!!」ギャオーン



――

日野家の近所


サイトーさん「ど、どうしてだワン!マサオ君、協力してくれるって約束してたのに」ギャワーン

マサオ「昨日とは事情が変わったんだよ」アオーン

犬山「どういうこと?」クウーン

マサオ「牙城が落ちた、法玄の弟、玄婆によってな」

サイトーさん「そんな!」

マサオ「あの甲斐の魔犬も逃げ出したそうだ、もう奥羽軍に勝ち目はないさ」

犬山「だからって、あいつらに屈したら犬界の未来は…!」

マサオ「理想だけじゃ人は動かない、今や何の力もない奥羽軍に誰が味方するってんだよ」

犬山「そ、それは…」

サイトーさん「もういいワン、行こう犬山君」

犬山「サイトーさん」

マサオ「おっと、忠告しとくが他の犬だって同じだぜ、みんなブルっちまってる」

マサオ「今さら好きこのんで法玄に敵対するような変わり者はこの辺りにゃもういないさ」

マサオ「悪いことは言わねえ、俺ら飼い犬は大人しく様子を見守ってるべきなんだよ」

サイトーさん「…」


マサオ「それでも行くのか?」

サイトーさん「もちろんだワン」

マサオ「そうか」

マサオ「俺の聞いた話じゃ、ウィード率いる奥羽軍は今和歌山にいるらしい」

サイトーさん「!」

マサオ「玄婆に占拠された牙城に向かうよりは、そっちに加わった方がナンボか役に立てるだろう」

サイトーさん「マサオくん、ありがとう」

マサオ「気を付けろよ、サイトーさん」

マサオ「そこらには今、備後のカマキリ軍て連中が法玄たちと合流しようとうろついてるらしい」

サイトーさん「分かったワン」

サイトーさん「行こう、犬山くん」

犬山「うん」

タッタッタッタ

マサオ「…」

マサオ「すまねえ、犬山、サイトーさん、俺にゃ家族がいるんだ、うう」



――


犬山「やっぱり、さっきの彼の言う通り、この辺りの犬たちは誰も協力してはくれないみたいだね」クウーン

サイトーさん「状況が状況だから仕方ないワン」ギャワーン

犬山「これからどうする?」

サイトーさん「とりあえずマサオくんが教えてくれたように、和歌山に向ってみるワン」

犬山「でも東京からじゃ遠すぎるよ」

サイトーさん「心配ないワン、家をでるとき、これを持ってきたんだワン」

犬山「メガネとトンカチ?そんなもの何に使うの?」

サイトーさん「まずはこの霊道ミエールで西に向かう霊道を探すワン」

サイトーさん「見つけたらこの霊道ハンマーで入り口を作って」バキッ

サイトーさん「あとはこの中に入れば一瞬で遠くまで行けるワン」

犬山「わあ!やっぱりサイトーさんはすごいや!」クウーン

サイトーさん「そ、そんなに褒められると照れるワン」ギャワーン


4時間後

犬山「ねえサイトーさん、随分遠くまで来たみたいだけど、ここがどこかわかる?」クウーン

サイトーさん「大体方角があってる霊道を通って来ただけだから、正確な場所は分からないワン」ギャオーン

犬山「サイトーさん、僕お腹が空いちゃったよ」グウウ

サイトーさん「僕もだワン、でもお金もないし困ったワン」

犬山「!あれ見てよサイトーさん、あの家の庭、ドッグフードが出しっぱなしになってる」

犬山「誰もいないし、きっと散歩中だ!アレを貰おうよ!」

サイトーさん「本当だワン、だけどあれは人の物だから食べちゃダメだワン」

犬山「で、でも僕我慢できないよ!!」クウーン

サイトーさん「ああ!犬山くん、駄目だワン!」

犬山「う、うまい!やっぱりドッグフードは最高だ!!」ガツガツ

サイトーさん「うわぁ…」

サイトーさん(人間が餌を犬食いしてる絵面はけっこうキツイワン)

ガサッ!

犬山・サイトーさん「!!」

???「ゲ、ゲエェ!!人間がわしの餌を犬食いしておる~~!!」バウワウ


???「お、おい!何しとるんじゃアンタ!!正気に戻れ!!」バウバウ

犬山「ご、ごめんなさい!あまりにお腹が減り過ぎて我慢できなくなってしまって」

???「いや、まあそれは良いんだが、ってあんた犬言語が話せるのかい!?」

犬山「こうみえても僕は元々犬だったから」クウーン

犬山「犬岳で修行して人間になったんだ」

???「なるほど犬岳か、噂には聞いたことがあったが本当に存在していたとは」

???「それで、そっちのあんたは?見たとこ飼い犬みたいだが」

サイトーさん「僕はサイトーだワン、奥羽軍に味方するため東京から来たんだワン」

???「なにぃ!?奥羽軍だと!?」

犬山「おじさん、奥羽軍を知ってるの?」

モス「知ってるもなにも、わしは元奥羽軍の一人モスじゃ」

犬山・サイトーさん「!!」

モス「それで、奥羽軍に味方しに来たとはどういうことじゃ?」

モス「このモス、昔の仲間の為にならいつでも肥やしになってみせるぞ!!」



――

モス「なにィーー!!銀が!銀が殺されたじゃと!?そんなばかな!!」ガオオ

モス「牙城が無法者に乗っ取られ、銀が殺されたなど…」

モス「ふ、ぐう…」

サイトーさん「このままじゃいけないと思って、僕たちは西に向かった奥羽軍の加勢に来たんだワン」

犬山「ドッグフードご馳走様ワン、僕らはこれで失礼するワン」

モス「待てい!わしもいくぞ!お若いの!」

モス「その昔、死ぬときゃあ一緒と誓った仲間達だ!見過ごすわけにはいかん!」

モス「わしも老いたが、まだ5・6匹は道連れにできる!!」

サイトーさん(お、漢だワン!)

犬山(かっこいいなぁ)


「「ここらにいる野良犬どもに告ぐ~~~!!」」


サイトーさん・犬山・モス「!?」


「「我々はアルプスの法玄様の配下の者だ~~!!」」

「「今や奥羽の楽園も落ち!!天下は法玄様のものよ!!」」

「「証拠が見たければ宮竹の笹沢にこ~~い!!」」

「「昼頃には本体が笹沢を通過する!!日本最強の軍団だ!!」」

「「いいか!?今なら無条件で我々の部隊に入隊できるぞ~~!!」」

「「だが、この機会を逃せば貴様らは法玄様を一生敵に廻すことになる」」


モス「ちょっと待てい!そこの使いっ走り!!」

パシリ「あ?」

モス「奥羽の楽園が法玄の手に落ちただと!?」

パシリ「ああ、その通りだ、銀の屍は楽園まで引き廻しよ…見せしめにな」

モス「なにィ!!?」

パシリ「みたけりゃ見にこいよ!ったくこの忙しいのに引き止めやがって」

パシリ「じゃあな、じいさん」

タッタッタッタ

モス「…」

モス「腐れ外道どもめ、その話が本当なら…」

モス「俺は銀と共に死ぬぜ」

サイトーさん(モスさん…)


群馬県
山中
笹沢

ざっざっざっざ…

サイトーさん「す、すごい数の群れだワン、あれが法玄軍」

犬山「モスさん、ホントにあれと戦う気?」

モス「ああ、銀の仇じゃ、刺し違えてでも法玄の小僧の首を討ち取ってやる」

サイトーさん「でも…」

モス「ほれ、もう奴らが来る、お前らは隠れているんじゃ」

犬山「も、モスさん」

モス「そんな顔をするな、お主らは奥羽軍に伝えてくれ」

モス「モスは立派に戦って死んだと」

サイトーさん(一人であの大群に挑むなんて、いくらなんでも無謀だワン)


法玄「はっはっは!銀の死体は効果抜群じゃわい!」

法玄「こうして晒して廻るだけで手下がぐんぐん増えていくわ!」

カマキリ「カッカカ!確かにな、牙城へ着くまでにどれだけ増えてるか楽しみだぜ」

法玄「もはや俺の天下は揺るがん、奥羽の連中が何をしようとな!」

法玄「はっはっはっはっは!!」

法玄「ん、何だアレは」

モス「…」

法玄「豚か?」

カマキリ「おい!お前ら、ゴミが落ちてるぞ、片付けろ」

手下「へい!」

手下「こら貴様!法玄様のお通りだぞ!道をあけろ!!」

モス「…い」ボソボソ

手下「?何か言ったか?」

モス「やかましいわ!!このクソガキがあ!!!」

ガブッ!!

手下「ぎゃああああああああ!!」


法玄「!」

カマキリ「なんじゃこいつ!!」

手下2「て、敵襲だ!!」

モス「わしは元奥羽の戦士モス!!法玄ってのはどいつだ!!」

モス「お前か!?」

ガブッ!!

手下2「ぎゃおおおおおん!!」

モス「それともお前か!?」

ガブッ!!

手下3「ぎゃいいいいいいん!!」

法玄「どこに目ぇつけてやがる!!法玄は俺だよ!!爺!!」

モス「ぬお!?」

グイッ!!

カマキリ(おお、なんて男じゃ、法玄め、あのデブを持ち上げやがった)

ブンッ!!

モス「ぐはあっ!!」

法玄「犬(ヒト)が気持ちよく進軍してるとこを邪魔しやがってこのクソジジイが」

法玄「ぶっ殺してやる」


モス(なるほど、こいつが法玄)

モス(くそ!こんな野郎に銀もジョンもやられたってのかい)

モス「やってみろ、わしはただでは死なん、貴様も道連れじゃ!!」

法玄「ほざけ!!」


犬山「どうしよう、サイトーさん!このままじゃモスさんが」クーン

サイトーさん「犬山君、霊道の入口を作っておいてくれワン」ギャワーン

犬山「!?どうする気」

サイトーさん「ここであの犬(ヒト)を失うわけにはいかないワン」

犬山「さ、サイトーさん!!」


法玄「おらジジイ!!さっきまでの威勢はどうした!」

モス「ぐううおおお!!」

モス(いかん、こいつ本物じゃ、力量を見誤った)

モス(おのれ、やられる前に、せめて一太刀与えんと、死んでも死にきれん!!)

ガブッ!

モス「ぬわ!?」

法玄「貴様は噛みついても、ひっかいても大して堪えんようだからな」

法玄「このまま押さえつけて窒息させてやる」ハッハ

モス(スマン!スマン銀!わしはお前の仇をとってやれんかった!!)

銀(死体)「…」

モス「!!」

モス(あれは!まさか…!)


サイトーさん「ちょっと待つワーーーーーーン!!」ギャワーン

手下「!なんだアイツ」

カマキリ「!」

法玄「あ?」

サイトーさん「必殺!三年殺しだワン!」

ズドーーン!

法玄「!」

法玄「ほああああああああああああああああああああああああああ!!」


法玄「こ、こ、この野郎!!」ブルブル

法玄「俺様のケツに、カンチョウしやがったな!!」

サイトーさん「モスさん!まだ動けますか?」

モス「ああ、なんとかな」

サイトーさん「なら逃げるワン、もう少しで犬山くんが…」

犬山「サイトーさーん!!準備できたよ!!」

サイトーさん「よし!モスさん!逃げるワン!」

手下「な!人間だ!どうして人間が」

法玄「うるせー!!人間がどうした!!俺様をコケにしやがって!!」

法玄「絶対に逃がすな!!」

カマキリ「ぷ、ぷぷ」プルプル

法玄「どうした!!何を笑ってやがる!カマキリ!」

カマキリ「だってよ、あんたよう…」プルプル

法玄「?」

カマキリ「自分の体、よく見てみい」

法玄「ああ!?」

カマキリ「…見事なピンクいろじゃぞ」

法玄「な、な、な…」

法玄「なにいいいいいいいいいいいいい!!」


サイトーさん「ふう、奴らが混乱しているどさくさでなんとか逃げ切れたワン」キャイーン

犬山「やっぱりサイトーさんはすごいや」クウーン

犬山「それにしても、さっきは何をしたんだい?」

サイトーさん「ここだけの話ワン、実は…」

サイトーさん「我々の肛門はスイッチなんだワン」

犬山「ええ!?じゃあサイトーさんは法玄の肛門を押して色を変えたってこと!?」

犬山(そ、そんなことがあっていいのだろうか)

モス「方法はともかく、君らのおかげで助かった、礼を言わせてくれ」

サイトーさん「当然のことをしただけだワン、気にしないでほしいワン」

犬山「それにしても総大将があんなことになってるなんて、どうしよう」

モス「なあに、それなら問題無い」

サイトーさん「え?」

モス「あの死体は銀じゃねえ、ちゃんと確かめたよ」

モス「あれが銀だったら逃げたりはしなかったさ」

サイトーさん「なんだって!?」


モス「このモス、老いてはいるがまだ耄碌はしていないつもりだ」

モス「かつての仲間を見間違えたりはしない」

犬山「じゃあ、総大将はまだ生きているってこと?」

モス「それはわからんが」

モス「いずれにせよ、連れてこれないわけがあったはずだ」

モス「わしはこれから昔の仲間を集めながら、銀の消息を探ることにするよ」

サイトーさん「了解しましたワン」

犬山「僕たちはどうする?」

サイトーさん「予定通り西に行くべきだと思うけど」チラ

モス「わしのことなら心配するな、この程度の怪我でどうこうなるほどヤワじゃない」

サイトーさん「流石モスさんだワン!」

――

法玄「許さん、絶対に許さんあのクソ雑種野郎め」

法玄「確か仲間にサイトーとか呼ばれてたな」

法玄「おい、あいつを探せ、鼻の利く奴、脚のある奴で部隊を作れ」

カマキリ「そうは言ってもな、あいつら妙な手段で移動しやがるから難し…」

法玄「やかましい!!さっさとやれ!!部隊長はお前じゃ!!」

カマキリ「!なんだと」

法玄「見つけて殺すまで本隊と合流することは許さん」

法玄「わかったか!!」

カマキリ「ぐうう」

カマキリ(法玄の野郎、さては俺が笑ったことを根に持っていやがるな)

カマキリ(くそ、卑猥な色しくさってからに)

――

乙レス感謝!
続けるぜ!


南アルプス
県道
霊道移動中

ギュイーン!!

サイトーさん「霊道での移動は快適だワン」ワオーン

犬山「本当だね…って!」

犬山「サイトーさん!前!前!」クウーン

サイトーさん「あ!?」

サイトーさん「れ、霊道が途中で途切れてるワン!!」ギャワーン

ポンポーン!!

サイトーさん「ほ、放り出されたワーン!!」ギャオーン

プップー!!

犬山「危ない!サイトーさん!車が!!」

サイトーさん「うわああ!!轢かれるワーーン!!」

???「何をやってる!!」

グン!

犬山「サイトーさーん!!大丈夫かい!?」

サイトーさん「な、なんとか生きてるワン、この犬(ヒト)のおかげだワン」

???「危ないところだったな、見たとこ飼い犬のようだが、あれが飼い主かい?」

犬山「良かったー、本当に良かったー」クウーン

サイトーさん「彼は友達だワン」

???「友達?人間がか?」

サイトーさん「犬山くんは元は犬なんだワン」

???「なんだそれ」

サイトーさん「それより、助けてくれてありがとうだワン」

???「ふっ、礼にはおよばんさ」

サイトーさん「僕はサイトー、みんなはサイトーさんって呼ぶワン、君の名は?」

ジェロム「俺か?俺はジェロムだ」


サイトーさん「ジェロム!カッコいい名前だワン」ギャワーン

ジェロム「よせよ、照れくさい」

サイトーさん「そうだ、僕たちは和歌山を目指しているんだけど、ここはどこかわかりますかワン?」

ジェロム「和歌山か、ここは南アルプスだからまだ随分あるな」

ジェロム「しかしなんだってそんな遠くに」

サイトーさん「実は僕たち、奥羽軍に協力したくて東京からここまで来たんだワン」

ジェロム「何!?奥羽軍だと」

サイトーさん「!その反応、もしかしてジェロムさんは奥羽軍の犬(ヒト)なのかワン!?」

ジェロム「ああ、いや少し前まで俺は奥羽の現総大将であるウィードの参謀役をしてたんだが」

ジェロム「ちょっとしたトラブルで、群れにいられなくなってしまってな、今はフリーだ」

サイトーさん「トラブル?」

ジェロム「ああ、意見の相違ってやつだな、だがまあ別に憎み合ってるってわけでもなし」

クルッ

ジェロム「ついてきな、奥羽軍ならすぐそこだ、案内してやるよ」

ジェロム「あんたらの目指してた和歌山ってのは少し前の情報だよ」

サイトーさん「やったー!!ありがとうだワン!!ジェロム!!」ギャワーン

犬山「僕たちツイてるね!!」クウーン

ジェロム「はっはっは、おかしな奴らだな、これから死ぬかもしれん戦いに向かうというのに」


犬山「おかしいかな?」

ジェロム「ああ、奥羽軍にもそんな酔狂な奴は珍しいよ」

犬山「…」

犬山「僕は生まれてからずっと、飼い犬として暮らしてきたんだ」

ジェロム「ほう」

犬山「だけど人間に憧れて、犬岳で修行して、人間になったんだ」

ジェロム「…」

犬山「嘘だと思う?」

ジェロム「いや、信じるよ」

犬山「ありがとう」

犬山「それで、人間になれば何もかも変わって新しい自分になれるって思ってたんだけど」

犬山「それは違ったんだ」

犬山「僕は臆病で自分勝手な情けない存在のままだった」

犬山「それで気づいたんだ、僕は本当は人間になりたかったわけじゃない」

犬山「人間のように、自由に生きてみたかったんだって」

犬山「…」

ジェロム「それで?」

犬山「だから、今のこの状況が」

犬山「僕にとっての自由なのさ」


犬山「まあ、そんなふうに気づかせてくれたのは、ここにいるサイトーさんなんだけどね」クウーン

サイトーさん「そんな、僕はなにも大したことはしてないワン」ワンワン

ジェロム「なるほど」

ジェロム(ただの冷やかしってわけでもなさそうだな)

ジェロム「群れと合流したら俺からウィードを紹介してやるから、同じ話を聞かせてやるといい」

ジェロム「皆気の良い奴らだ、あんたたちならすぐに受け入れてもらえるだろう」

サイトーさん「何から何まで申し訳ないワン」

ジェロム「なに、援軍を願い出てくれてるんだ、こちらこそ感謝しているさ」

ジェロム「!」

サイトーさん「?どうかしたワン?」

ジェロム「誰か来る、誰だ」

???「…」

ジェロム(あいつは…!)


マーダーS「おい、貴様らそこで何をしている」


マーダーS「どこから来た?ここは俺のナワバリだぞ、名を名乗れ」

ジェロム「…」

ジェロム(ただならぬ気配と、頭の傷に鋼鉄の義足)

ジェロム(まさかこいつは、噂で聞く裏社会で名を馳せた、殺し屋たちの育ての親では…?)

ジェロム(しかし、その男は確か車いすのはず)

マーダーS「どうした、答えられんのか?」

サイトーさん「僕はサイトーって言うワン、今は奥…」

ジェロム「俺らはただの通りすがりだ、飼い主もいるし、あんたのナワバリを荒らすつもりはない」

犬山「…?」

マーダーS「ほう?」

ジェロム「失礼する」

マーダーS「そっちの飼い犬と人間は構わんが、お前は待て」

ジェロム「だそうだ、悪いがサイトーさん達は先に行っていてくれ」

サイトーさん「?わかったワン」


マーダーS「貴様、俺を知っているだろう」

ジェロム「いや、存せぬが」

マーダーS「どこまでもシラをきるか!!」

ブン!!

ジェロム「!」

ジェロム(動きはかなり素早いようだな)

マーダーS「やはり只者ではなかったか、おい!名を名乗れ!!」

ジェロム「奥羽軍、ウィードが参謀、ジェロム」

ジェロム「あんたは?」

マーダーS「法玄の右腕、マーダーSだ」

ジェロム「なるほど、あんたが法玄軍のナンバー2ってわけか」

マーダーS「ふん、俺の首に興味があるか?」

ジェロム「まあな」

ジェロム(一対一だ、ここでこいつを仕留められれば、ウィード達の奇襲の成功率も上がるはず)

マーダーS「どうした?怖気づいたか?」

ジェロム「ほざけ!!」

 視界を埋め尽くすほどの吹雪の中、ジェロムはマーダーに跳びかかった!しかし…。

マーダーS「かかったな」

 マーダーは俊敏な動きであっさり攻撃をかわすと、ジェロムが大勢を整える前にその鋼鉄の義足を振るった。

ジェロム「ぐぅはあああああ!!」

 もんどりうって吹き飛ぶジェロム。

マーダーS「はっは、ここで俺に会ったのが運の尽きだったな」


ジェロム(義足による一撃、なんて威力だ)

ジェロム(くそ、こんな所で俺は…)

マーダーS「ただでは殺さん、仲間のことを洗いざらい吐いてから死んでもらうぞ」

ジェロム「ぐ、ぐおお」

ジェロム(いかん、体が動かん、ここまでなのか…)

ギュイーン!!

サイトーさん「ジェロム!掴まるワン!!」

ジェロム「おお!!サイトーさん!」

ガシッ!

マーダーS「な!?なんだと!?」

犬山「このまま霊道を移動して、あいつを振り切ろう!」

ジェロム「すまん、恩に着る」

サイトーさん「先に助けられたのはこっちだワン」

マーダーS「おのれぇ!!待たんかい!!何者だお前ら!!」

犬山「こ、怖い」

サイトーさん「流石ドーベルマン、すごい迫力だワン」

ギュイーン!


いろいろあって最終決戦

二子峠
牙城跡(爆破済み)

ビュオオオオオ…

サイトーさん「観念するんだワン法玄!!」

法玄「おんどれええ!!貴様さえ!!貴様さえいなければ!!」

法玄「今頃日本は俺の天下だっただったものを!!」

哲心「助太刀するぞサイトーさん」

赤目「待て、手出しは無用だ」

哲心「何故です、サイトーさんといえど、法玄が相手では」

赤目「だからこそだ、あの悪魔は確実に葬り去らねばならん」

赤目「俺はウィード達を呼んでくる、帰ってくるまで何としても奴をここに足止めしておくんだ」

赤目「いいな!?」

哲心「わ、わかりました」


赤目「とうっ」シュタタタタ

法玄「ちっ、仲間を呼びに行ったか」

法玄「まあいい、どうせもう大した数もいるまい」

法玄「残らず噛み殺してやるわ」

法玄「あの人間のようにな」

サイトーさん「あの人間…?」

サイトーさん「犬山くんのことかワン」

サイトーさん「犬山くんのことかあああああああああああああああああ!!」

友への最大限の侮辱を受けて
サイトーさんは今
鬼神となった


法玄「ぬわ!?」ビリビリ

サイトーさん「罪もない犬(ヒト)を次から次へと殺しやがって…!!」

サイトーさん「このクソ野郎が!!」

ぐぐ…

哲心「!」

哲心(サイトーさんのあの構えは…まさか!?)

サイトーさん「くらえ!法玄!!」

サイトーさん「絶・天狼・抜刀牙!!」

ギュルルルル!!

法玄「く…!?」


サイトーさんの抜刀牙は完璧だった、しかし…!
雄大な奥羽の自然は、彼に味方してはくれなかった

ビュオオオオ!!

哲心(強風!?まずい、この向きは!!)

法玄(しめた!)

サイトーさん「!」

向かい風に煽られ、サイトーさんの抜刀牙の回転速度がほんの一瞬緩む
その隙を法玄は見逃さない

法玄「このクソがきゃああ!!」ガブッ

サイトーさん「うわああ」

哲心「サイトーさん!!」

首筋を噛みつかれサイトーさんの動きが止まる
抜刀牙は不発に終わってしまった


法玄「ふはははは!!」

法玄のピンク色の巨体が哄笑に揺れる

法玄「おら!おら!悔しいか?あ?」

愉悦に酔った法玄は右に左に、口にくわえたサイトーさんを何度も地面に叩きつけた

サイトーさん「…ない、ワン」

法玄「あ?」

サイトーさん「僕は、負けないワン」

法玄「この期に及んで強がりおって、何を言ってるんだか」

サイトーさん「強がりじゃないワン、僕は勝つ、何故なら」

法玄「?」

サイトーさん「僕はある法則に守られているからだワン!!」

法玄「法則!?」

サイトーさん「そう、こういう場面では悪役が必ずやられる法則だワン!!」


法玄「何をピーピーほざいとるんじゃ」

マーダーS「お待ちください法玄様」

法玄「おう、お前生きてたんか」

マーダーS「ええ、おかげさまで…それでです法玄様」

マーダーS「奴の言う通りそういう法則があるかもしれません」

法玄「なに?」

マーダーS「少年漫画、お読みになったことありますよね?」

マーダーS「劇中でいつも最後にやられるのは悪役です」

マーダーS「しかも大抵絶対的な戦力差があるにも関わらず…!」

マーダーS「今のままヒールぶってると確実に死にます」

マーダーS「少年漫画の法則を覆す法則を取ってやるんです!」


マーダーS「さあ!私と一緒に愉快なフォークダンスを踊りましょう!」ヒヒヒ

法玄(気でも狂ったんかこいつ)

法玄「まあいい、コイツを殺したら部下の集め直しだ」

サイトーさん(く、ここまでかワン)

法玄「死ね!サイトー!!」

耳雄「ってサイトーさんに何しとんじゃー!!」

法玄「ごはあああ!」

哲心(ドロップキック…)

サイトーさん「耳雄くん!?どうしてここに!!」

耳雄「サイトーさんが戦ってんだ、飼い主の俺がじっとしてられるわけねえだろ」

サイトーさん「み、耳雄くん…」ジーン

法玄「この!人間なんぞ、この俺様…」

サイトーさん「きゃんきゃんうるせーぞゴラアア!!」ゴシャア!!

法玄「ぶぎゃああ」

サイトーさん「大体なんだてめえその色は、悪ふざけか」ゲシゲシ

法玄「痛い痛い、ちょ、やめ」


耳雄「これに懲りたら二度と悪さするんじゃねーぞ」

法玄「はい、すみませんでした」

耳雄「さ、帰るぞサイトーさん」

耳雄「犬山も心配してたし、ここは寒くてかなわねえ」

サイトーさん「やっぱり耳雄くんは最高だわん!!」


こうして犬界の平和は耳雄とサイトーさんによって守られた


ウィード「耳雄様ばんざーい」

GB「ばんざーい」

カントク「ばんざーい」

赤カブト「ばんざーい」


~~~~~


耳雄「っていう夢を昨日、お兄ちゃんみたよ」

留渦「…そう」


おわり

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