ベルトルト「このチケット、どうしよう……あれ!?」(122)

別板に書いたベルユミを、ベルトルさん視点で書き直したものです。
原作バレあり、別カプ要素としてコニサシャ(中学生カップル)があります。


ベルトルト「……」


ライナー『すまないベルトルト。この様子じゃ明後日出掛けられそうにない』

ベルトルト『それはもう仕方ないよ。けど、気をつけてくれよ。一瞬蒸気が出た時は本当に焦ったよ』

ライナー『あぁ。再生をおさえて怪我を装うのも大変だな』

ベルトルト『全く……立体機動中にサムエルをかばったりするから』

ライナー『ははっ、まぁ、おかげでクリスタに心配されるっていう役得もあったがな』

ベルトルト『……何言ってるんだ、ライナー。僕たちは戦士だろう?』

ライナー『!』

ベルトルト『……』

ライナー『……あぁ、そうだな』


ベルトルト(ライナー。時々僕は不安になるよ)

ベルトルト(君が必要以上に、壁内の人類に関わりすぎてるんじゃないかって)

ベルトルト(兵士としての自分に、のめり込みすぎてるんじゃないかって……)

ベルトルト「はぁ。このチケット、どうしよう……」ゴソゴソ

ベルトルト「あれ!?」

ベルトルト(ない! おかしいな、確かにこのポケットに――)


ユミル「劇場のチケット?」

ベルトルト「あっ!」


ユミル「何だ、お前が落としたのか? ベルトルト」

ベルトルト「あ、あぁ。ありがとう、ユミル」

ユミル「それ、今度の休日に行くのか。二枚あるってことは、ライナーと行くのか?」

ベルトルト「そのつもりだったんだけど……ライナー、今日の訓練で負傷してしまって、休日は安静にしているように言われたらしいんだ」

ユミル「じゃあ、誰と行くんだ?」

ベルトルト「うーん、特に当てはないんだ。一人で行くのも味気ないし、今回は諦めようかな」

ベルトルト(誰かにゆずればいいんだしね)

ユミル「なんだ、だったら私が一緒に行ってやるよ」

ベルトルト「えっ?」

ユミル「誰かが一緒に行けばいいんだろ?」


ベルトルト(そうとったか……まずいな)

ベルトルト「まぁ、そうだけど……でも」

ユミル「今度の休日、10時に兵舎出口で待ち合わせだ」

ベルトルト「え、ちょっ」

ユミル「それじゃあまた」

ベルトルト「ユ、ユミル!」



ベルトルト「行っちゃった……すごい強引だったな」

ベルトルト「……」

ベルトルト(というか、参ったな。誰かと一緒に行くつもりなんてなかったのに)

ベルトルト(それにこの演目、女の子にはきついんじゃ……でもユミルなら大丈夫かな? いやそうじゃなくて)

ベルトルト(僕はあまり、深く関わりたくないのにな。ここにいる人類とは)


休日の朝
男子寮
時刻 9:58

ベルトルト(まずい! 完全に寝坊した!)バタバタ

ガチャッ バタン

ベルトルト(ずっと考え事してたから、寝付くのが遅くなった……)タタタッ


訓練兵舎出口*


ベルトルト「ごめん、遅れて……」ゼエゼエ

ユミル「女を待たせるとはいい度胸だな。行くぞ」クルッ*スタスタ

ベルトルト「わっ、ちょっ、待って早いユミル!」

ベルトルト(ほんとに強引だな、もう――)


トロスト区市街地


ユミル「おーおー、賑わってるじゃねぇか」

ユミル「見ろよ、あっちなんか面白そうなのやってんぞ」

ベルトルト(随分はしゃいでるな……まぁ、この後のこと考えたら、今のうちにはしゃいどく方がいいか)

ベルトルト(というかユミル、チケットろくに見ずに僕に返したけど、演目のこと知ってるのかな? もしかして、何も知らないんじゃ)

ベルトルト(それに――)

ベルトルト「あの、さ、ユミル、その……ほんとによかったの?」

ユミル「あん?」

ベルトルト(こんな僕なんかに付き合って、一緒に出かけるなんて)

ベルトルト(こんな、不誠実な僕に)


ベルトルト「いや……何でもない」

ユミル「何だよ。はっきりしないやつだな。なぁ、劇場ってどっちだ?」

ベルトルト「向こうの通りをまっすぐ行って、左かな。チケットの地図を見る限り」ピラッ「でもまだ時間があるから、先にどこかでお昼を食べたほうがいいかもね」

*ユミル「なぁ、そういや今日って、どんな演目見るんだ?」ヒョコッ*

ベルトルト「あっ」ギクッ*


『古城の真っ赤な階段*~真夜中に現れる少女~』*


ユミル「……」*

ベルトルト「ご、ごめん……言おう言おうと思ってたんだけど。これ、ホラーものなんだ」

ユミル「……」

ベルトルト「だから、ちょっと女の子は誘いづらくって……それに僕は」

ベルトルト(――訓練兵団に来てから、ライナー以外の人と二人で出かけるなんて、考えたことなかったから……)

ユミル「……」

ベルトルト「えっと……ユミル?」

なんか変な記号入るな……なんでだろ


ユミル「……べ」

ベルトルト「え?」

ユミル「別に平気だっつの! 何だよお前、私がビビるとでも思ったのか?」

ベルトルト「あ、いや」

ユミル「お、地図はこれか。ここなら近くに美味い鶏肉料理の店があるから、そこに行くか! な!」スタスタスタ

ベルトルト「あっ、ちょっ、待ってくれユミル!」

ベルトルト(……これはもしかして、悪い予感が当たったかな)


鶏肉料理店


女店員「いらっしゃいませ!」

ユミル「ふ、二人!」

ベルトルト「ユミル、店員さんまだ何も聞いてないよ」

ユミル「」

ベルトルト「ごめん、演目のことで緊張させ*ちゃったかな」

ユミル「そんなんじゃねぇって! ほら、行くぞ!」

ベルトルト「ユミル、だからまだ、案内もされてないって!」


ユミル「……」ソワソワ

ベルトルト「ねぇ、ユミル?」*

ユミル「……」プルプル

ベルトルト「ユミルってば」

ユミル「ふぁっ!?」ビクッ

ベルトルト「そんな驚かなくても」

ユミル「わ、私は別に」

ベルトルト(だいぶ怯えさせちゃったかな……というか、ユミルってホラー苦手なのか。ちょっと意外だな)

ベルトルト(ここは緊張をほぐしてあげるか)


ベルトルト「ねぇ、よくここには来るの?」

ユミル「ん?*あぁ、まぁな。ここはわりと有名だぞ」

ベルトルト「そうなんだ。来たことなかったな」

ユミル「お前はそもそも、あんまり出かけてないんじゃないか? たまに外出するにしても、*ライナーとしか見たことないぜ」

ベルトルト「ま、まぁ、そうかもね。でも君だって、クリスタといつも一緒じゃないか」

ユミル「私はちゃんと他にも交友関係持ってるよ。だいたいお前、ライナー以外のやつと打ち解けて話してるか?」

ベルトルト「えっ?」

ユミル「お前って、人並みには話すけど、どうも表面的に見えるんだよな」

謎記号の見当ついてきたけど、ちょっと消していくのに時間かかりそうなんでいったん切ります。
できたら今夜再開します。

頑張れー

別板のタイトルできたら教えて。読んでおきたい。

>>20
ユミル「劇場のチケット?」ベルトルト「あっ!」

です。ただ会話や話の展開がそのまんまなんで、この後こちらで読むのが少々退屈になるかもしれません。一応向こうで残した伏線はこちらで拾っていきます。


ベルトルト(――!)ドクン

ベルトルト(そんな……気づかれてたのか? 僕がなるべく、人に印象付けられないようにしてること)

ベルトルト(感情をこめて話したりはしないから、特徴のない声になるし)

ベルトルト(そんな馬鹿な。そもそもユミルとなんて、最近までほとんど話したことなかったのに)

ベルトルト「……どうして」

女店員「はい、お待ちどうさま!」

ベルトルト「!」

ユミル「おっ、来た来た! 食べるか!」

ベルトルト「……あぁ」


ユミル「このトマト煮込みが絶品なんだよな~」パクパク「ん~うま~」

ベルトルト「美味しそうに食べるね」

ユミル「お前は美味しくないのか?」

ベルトルト「いや、美味しいよ、とても」ニコッ

ユミル「ほら、その顔だ」ビシッ

ベルトルト「え?」

ユミル「今の顔、ほんとに心から美味しいと思って笑ってる顔か?」

ベルトルト(……これは、間違いないな)

ベルトルト(ユミルは気づいている。おそらく相当鋭いんだ)


ユミル「な?」モグモグ

ユミル「お前は感情を出さなすぎる」

ユミル「出せないのか隠してるのか知らねぇけどさ」

ユミル「こうして向かい合って一緒に飯食ってる相手とは、もっと素直に接してもいいんじゃねぇか?」

ベルトルト「……」

ベルトルト(気づいた上で、今日、僕と一緒に来てくれたのか)

ベルトルト(ひょっとして、気を使ってくれたのか? 僕がもっと、他の人に心を開けるように)

ベルトルト(そんなこと、できるわけがないのに)


ベルトルト(でも……)

ユミル「何だよ」

ベルトルト(本音を言えば、嬉しいと思ってしまったから)

ベルトルト「いや、その……ありがとう、ユミル」

ユミル「は?」

ベルトルト「今日、僕についてきてくれて」

ベルトルト(お礼だけは、伝えておこう)

ユミル「別に。いいから食おうぜ」

ベルトルト「あぁ」



劇場前


ユミル「いよいよか……」ドキドキ

ベルトルト「ユミル、大丈夫かい?」

ユミル「別に、どーせ子どもだましのレベルだろ?」

ベルトルト「どうかな……15歳未満お断りってなってるし、結構本気で脅かしにかかるかも」

ユミル「」

ベルトルト「……ごめん。やっぱりやめても」

ユミル「いいい行くぞ!」


開演


ヒュウウウウ

『何だ……誰もいないのか?』

『おーい……』

ギイイ

『空いて、る……?』


ベルトルト(すごいな。セットが本格的だ。暗くて見えないけど、あの大道具、天井まで届きそうなくらいだ)

ベルトルト(……それにしても)チラッ

ユミル「……」バクバク

ベルトルト「ユミル? 大丈夫?」

ユミル「……」

ベルトルト「聞いてないか……」


『すみません、道に迷ってしまったんです』

『今晩泊めてもらえませんか?』

シーン

『誰もいないか』

ガタン!


ユミル「ひっ!」

ベルトルト「……」


『何だ? やっぱり誰かいるのか?』

『上から聞こえてきたな……』

『あそこにあるのは……階段か?』


ベルトルト「……」チラ

ユミル「」ガクガク

ベルトルト(この後、どうなっちゃうんだろう)


『暗くてよく見えないな。正面に回り込んでみよう』

『大きな階段だな。上の方がよく見えな――うん?』

パッ!(血まみれの階段が照らされる)


ユミル「うわあああっ!!」ガシッ!

ベルトルト(え? 腕つかまれ――痛ったああ!)

ベルトルト「ちょっ、ユミル! 声が大きいよ!」ヒソヒソ

ユミル「あっ、あかっ、か、階段がっ」ギリギリ

ベルトルト「痛い痛いユミル! 手をつかむのはいいけど、爪食い込んでるから!」ヒソヒソ


『な、何だこの階段!?』

『血の量が尋常じゃない。これ、絶対死ん――』

ポタ…

ユミル「!」ビクッ

『な、何だ?』

ポタ…ポタ…

『水……音?』


ポタ…ポタ…ヒタ…ヒタ…

『水音に混じって……何か』

『足音が……上から――』

ドロッ(階段がさらに血に染まる)

ユミル「ひっ!」ギュウッ

ベルトルト(痛い)


ヒタ…ヒタ…

ヒタ……



『……ダァレ?』


ユミル「いやああああっ!!」ガバッ!

ベルトルト(え、え、えぇ!? 抱きつかれた!?)

ベルトルト「ユミルちょっ、前見えないよ!」

ユミル「あああ、あの子っ、血まみれでっ、頭がな――いやあああ!!」

ベルトルト「落ち着いて! あれ作り物だから! ユミル!」

ユミル「うわああああん!!」

ベルトルト(ど、どうしようこれ……)

眠いので今日はここまでにします。
読んでくださってる方ありがとうございます。また明日。


ベルトルト(……そういえば、アニも小さい頃は、お化けとか怖がってたっけ)

ベルトルト(僕も今ほどは大きくなかったけど、身長差は丁度このくらいあって)

ユミル「うわああっ、嫌だ、嫌だぁっ」

ベルトルト(落ち着くまで、頭撫でてあげてたんだっけ)

ユミル「ううぅ~~っ」プルプル

ベルトルト「ユミル、大丈夫」ポンポン

ユミル「ひぅ……うっ」

ベルトルト「大丈夫だから、ね?」

ユミル「……」グスッ

ベルトルト(ユミルにこんな一面があるなんて、知らなかったな……)


閉演後


ベルトルト「ユミル?」

ユミル「……」

ベルトルト「ユミル、もう終わったよ」

ユミル「……え? 終わった?」

ベルトルト「全く、目も閉じて耳も塞いで、ほとんど見れてないじゃないか」

ユミル「だ、だってよ――ん?」

ベルトルト「大丈夫?」*

ユミル「う、うわぁっ!」バッ!

ベルトルト「まだ怖い?」

ユミル「だ、大丈夫だ! もう全然平気!」

ベルトルト「よかった」フッ

ユミル「……!」


ベルトルト「どうしたの?」

ユミル「いや……何でもない」

ベルトルト「いったん外に出ようか」

ユミル「あぁ……」

ユミル「……なぁ、ベルトルト」

ベルトルト「何?」

ユミル「その……ありがとう」

ベルトルト「どういたしまして」


劇場の外


ユミル「おー、だいぶ日が傾いてるな」

ベルトルト「そうだね。少し散歩して――あっ」

ユミル「うん? どうした?」

ベルトルト「サシャとコニーだ」

ユミル「何っ!? どこだ!」

ベルトルト「あそこ」スッ

ユミル「よし行くぞ!」ガシッ

ベルトルト「えぇっ!? おいちょっ、ユミル!」ズルズル


商店街 路地裏


ユミル「よし、十分距離はとったし、ここからなら見つからねぇな」

ベルトルト(……前から思ってたけど、ユミルって結構、野次馬根性あるな)

ベルトルト(まぁ、それに付き合ってる僕も僕なんだけど)

ユミル「んー? 何だよあいつら、まだ手も繋いでねぇのかよ。お子様だな」

ベルトルト「まぁ、二人のペースってものがあるんじゃないかな」

ユミル「あいつらのペースって、牛よりも遅いんじゃねぇの」


ユミル「お、立ち止まったぞ」

ベルトルト「露店、かな? おばあさんが座ってる」

ユミル「サシャの奴、随分興味津々に見てるな。あれは……髪留めか?」

ベルトルト「みたいだね。白い花のついた髪留めを手に持って見てる」

ユミル「お、財布出したぞ。買うのか」

ベルトルト「あれ、なんか、がっかりした顔してる」

ユミル「金が足りなかったのか、馬鹿だな……うん? コニーがそわそわしだしたな」

ベルトルト「視線があっちこっち動いてるね」


ユミル「待て、コニーがサシャになんか言って……髪留め渡されたな。んで、ばーさんのとこ行って……財布取り出したぞ! 買ってやる気か」

ベルトルト「そのようだね。サシャが驚いてる」

ユミル「やるじゃねぇか、コニー」

ベルトルト「サシャ、すっごく喜んでるね。コニーがサシャの右手をとって、髪留めを渡して――」


ベル・ユミ「「おぉー」」


ユミル「そのまま反対側の手をとって繋ぐとはな」

ベルトルト「ちゃんとコニーの方から繋いであげたね」

ユミル「何だ、男ってのはそういうの気にするのか?」

ベルトルト「気にする男も、いるってことだよ」

ユミル「ふーん……なぁ、あの露店、ちょっと覗いてみないか」

ベルトルト「あぁ、いいよ」


露店


おばあさん「いらっしゃいませ」

ユミル「へぇ、なかなかいいのが揃ってるな」

ベルトルト「可愛らしいものが多いね」

ユミル「あぁ。サシャも見てたが、遊びのきいた髪留めが多いな。あいにく私は、飾りもんに興味はないが」

ベルトルト「そうなの?」

ユミル「似合わないだろ? 私には」

ベルトルト「そんなことは」

ユミル「いいや、こういうのはサシャみたいな、愛嬌あって可愛いやつがつけるもんさ」

ベルトルト(そんな――ユミルだって、きっと似合うのに)

ユミル「せっかくだし、クリスタに何か土産に買ってってやるかな――ん?」


ベルトルト「それも、髪留めだね。シンプルだけど、青い石のあしらいが綺麗だね」

ユミル「この石……護り石だ」

ベルトルト「護り石?」

ユミル「持つ人を護るまじないをこめた石だよ。石の御守りだ。こんなところに売ってるなんて……」

ベルトルト「へぇ、初めて聞いたな」

ユミル「……」

ベルトルト「ユミル?」

ユミル「……」ジィー

ベルトルト(真剣に見てる……欲しいんだろうな)

ベルトルト(この髪留め、ユミルに似合いそうだな……)

ベルトルト「……」


ベルトルト「すみません、これください」

ユミル「えっ!?」

おばあさん「はいよ。ありがとう」

ユミル「お、おいちょっ、お前何やって!」

ベルトルト「見ての通りさ。ほら」グイッ

ユミル「!」


ベルトルト「はい」ポンッ

ユミル「お前……どうして」

ベルトルト「今日のお礼だよ、ユミル」

ユミル「え?」

ベルトルト(僕に、心を開いてくれたから)

ベルトルト「今日は、ありがとう。ユミル」フワッ

ユミル「――!」


ユミル「……」

ベルトルト「ユミル?」

ユミル「お前、ずっとそのツラしてろよ」

ベルトルト「えっ?」

ユミル「ずっと、そうやって笑ってろ。その方がいい。その方が似合ってる」

ベルトルト「……!」

ベルトルト(今、笑ってたのか、僕は――)

ベルトルト「……ありがとう」

ユミル「礼をいうのはこっちだよ。これ、大切にする」

ベルトルト「あぁ。そろそろ日が暮れるね。戻ろうか」

ユミル「おう」



男子寮


ベルトルト「……」ゴロン

ベルトルト(――ユミル、か)

ベルトルト(気付いたら当たり前みたいに呼んでたな)

ベルトルト(あんなに何度も名前を読んだ相手は、この壁内では初めてかもしれない)

ベルトルト「……」

ベルトルト「ユミル……」ボソッ


久しぶりに、こんなに満たされた夜を迎えられたのは、

きっと君のおかげなんだね。


ベルトルト(――ありがとう)

翌日
午前 兵站訓練


ベルトルト(兵站訓練用の服って、あっついんだよなぁ。全身覆われてるし)

ベルトルト(今日の組は、僕とクリスタと――ユミルか)

ベルトルト「ユミル、頑張ろう」

ユミル「あぁ」

ベルトルト「……? なんか、元気ない?」

ユミル「いや、そんなことねぇよ」

ベルトルト(なんか、落ち込んでるみたいに見えるんだけど……どうしたんだろ)

ザッザッザッザッ

ベルトルト(道ぬかるんでるのに、みんな結構ペース速いな……)チラッ

ユミル「……」ゼェゼェ

ベルトルト(ユミル、随分辛そうにしてる。でも、もっと辛そうなのは――)

クリスタ「ユミル……っ待って……速い、よ……」ゼエゼエ

ユミル「クリスタ! 大丈夫か?」

クリスタ「うぅ……重い……」

ユミル「待ってろ、今荷物をこっちに――」

ズルッ

ユミル「!」グラァ

ベルトルト(!)


ガシッ

ベルトルト「ユミル!」

ユミル「――ベル、トルト?」

ベルトルト「大丈夫? ゆっくり体を起こして」グッ

ユミル「あ、あぁ」

クリスタ「ユミル!」ザッ「ごめんね! 大丈夫だった?」

ユミル「あぁ。ありがとな」

ベルトルト「クリスタ。僕が君の荷物を持つよ。貸して」

クリスタ「ほ、ほんと? でも、そんなことしたら、ベルトルトが」

ベルトルト「平気だよ。ほら」ヒョイッ

ユミル「ほー、軽々と持ち上げるじゃねえか。流石だな」


ベルトルト「そんな誉めても何もでないよ。ほら、頑張ろう」ザッザッ

ユミル「お前ってわりと面倒見がいいんだな」ザッザッ

ベルトルト「そうかな?」ザッザッ

ユミル「あぁ。故郷に妹か弟でもいるのか?」

ベルトルト「!」ギクッ

ベルトルト(故、郷――)


ベルトルト「……」

ユミル「ベルトルト? どうした?」

ベルトルト「いや……その……ごめん」

ユミル「ごめんって、何が」

ベルトルト「その……故郷のことは」

ユミル「え――」ハッ


ベルトルト(――そうだ、何を夢見ていたんだ、僕は)

ベルトルト(僕は、故郷に帰るためにここにいるんだ。戦士として、役割を果たすために)

ベルトルト(だから、壁内の人類に心を開かれたところで――)

ベルトルト(……?)


『夢見ていた』?

――何を?


ベルトルト(……)


ユミル「――悪かった」

ベルトルト「いや、謝らないでほしい」

ユミル「……」

ベルトルト「ユミル、フードが落ちそうだよ。さっき滑ったからかな」スッ

ベルトルト「――あっ」

ユミル「……?」

ベルトルト「髪留め、つけてくれてたんだね」サラ

ユミル「!」

ベルトルト「……」


そうか、僕は。

自分からも、心を開きたいと思ったんだ。

ほんの少しでも、僕をわかってもらいたいって。

それが自分の任務に支障をきたす行為だって、わかっているのに。

――それでも。


ベルトルト「うん、似合ってる。綺麗だよ」

ユミル「――!」


君の前では、素直になりたい。

僕に素直な自分を見せてくれた、君にだけは。


クリスタ「はぁっ、はぁっ……もう、私荷物持ってないのに、二人ともなんでそんなに早いの……」

ベルトルト「クリスタ、そろそろ目的地点だから荷物を戻したいんだけど、大丈夫?」

クリスタ「うん、ありがとう」

ベルトルト「あとちょっとだ。頑張ろう」ザッザッ

ユミル「……」

今日はここまでにします。明日か明後日には完結します。
読んでくださってる方ありがとうございます。



食堂


ベルトルト(ライナーの怪我、そろそろ完治したってことになってるはずだけど)キョロキョロ

ベルトルト(まだ来てない、か)ガタン

ベルトルト「……」

ベルトルト(何を――ほっとしてるんだ、僕は)

ユミル「なぁ、ベルトルト」

ベルトルト「うん?」

ユミル「その、隣空いて――」

ライナー「ユミル? 久々だな」

ベルトルト「!」ハッ


ユミル「ラ、ライナー? お前、怪我したって聞いたけど、もういいのか」

ライナー「休日安静にしてたら、この通りだ。もう訓練にも参加できる」

ユミル「そうか、よかったな」

ベルトルト(ライナー……!)

ユミル「ベルトルト? どうした?」

ベルトルト「いや……何でもない。大丈夫だよ」

ユミル「大丈夫な奴は、大丈夫って言わねぇよ」

ベルトルト「はは……かなわないな。君には」

ライナー「なぁ、お前ら、俺がいない間に随分仲良くなってないか?」

ベルトルト「!」ギクッ


ベルトルト(あぁ、やっぱりそうだ)

ベルトルト「……ライナー」

ライナー「うん?」

ベルトルト「君の目から見ても、そうかい?」

ライナー「何がだ?」

ベルトルト「君の目から見ても、僕とユミルが……仲良さそうに映るのか、ってこと」

ベルトルト(僕は――恐れているんだ)

ベルトルト(君に、今の僕の気持ちを勘付かれるのが)

ベルトルト(君が戦士であることを疑っている僕が、戦士から遠ざかる気持ちを持っているなんて)


ライナー「まぁ、そうだな」

ベルトルト「……」

ライナー「そんなことよりとっとと食うぞ。ユミルお前、そこに座るんだろ? このテーブルはもういっぱいだし、俺は向こうに行く

かな」クルッ

ユミル「あ、あぁ……ベルトルト、隣座るぞ」ガタン

ベルトルト「……」

ユミル「なぁ、一体どうしたんだよ。さっきライナーに聞いたのは、どういう意味なんだ?」

ベルトルト「……」


ベルトルト「……ごめん」

ユミル「私には言えないことなのか」

ベルトルト「……」

ユミル「……そうかよ」

ベルトルト(……)

ベルトルト(限界、かな)

ベルトルト(もうこれ以上、ユミルには近づけない)

ベルトルト(近づいては、いけないんだ――)

ベルトルト(戦士であるために)


翌朝
男子寮


チュンチュン

ベルトルト「……」ボー

エレン「ふぁーあ。ん? ベルトルト、目の下にクマできてないか?」

ベルトルト「なんだか昨日、寝付けなくてさ」

ベルトルト(ユミルのこと考えて、ずっと頭の中がぐるぐるしてたから……)

アルミン「何かあったの?」

ベルトルト「大したことじゃないんだ。大丈夫」

ベルトルト(そう――大丈夫だ)

ライナー「お前らやっと起きたか。食堂行くぞ」


食堂


ミカサ「エレン、アルミン、やっと来た」

アルミン「おはよう、ミカサ」ガタン

エレン「お、席とっといてくれたのか。サンキュ」ガタン

ライナー「何だ、俺たちの分の席はないのか?」

エレン「あ、悪りい」

ベルトルト「いや、エレンが謝ることではないんだけど」


ミカサ「もう少し奥なら席が空いているはず。サシャとコニーが行った方だけど」

ライナー「はいはいありがとよ……お、クリスタも一緒にいるな」

ベルトルト「!」

ベルトルト(クリスタがいるってことは……)

ライナー「おいお前ら、道ふさいでるぞ」

クリスタ「あ、おはよライナー、ベルトルト」

ユミル「!」

ベルトルト(やっぱり……)


ライナー「おお、おはよう皆」

ベルトルト「おはよう……」

ユミル「……あの」

ベルトルト(駄目だ。まともに目を合わせられない)

ベルトルト(以前と同じ接し方にさえ、戻せそうにない――)

ベルトルト「……」フイッ スタスタ

ユミル「――!」

ライナー「ん? お、おいベルトルト!」


ガタン

ベルトルト「はぁ……」ストン

ベルトルト(傷ついただろうな……きっと)

ベルトルト(でも、これでいいんだ。これで)

ライナー「おいベルトルト、お前いったい――」

ガチャーン!

ベルトルト(え?)

クリスタ「ユミル!? ユミルーっ!!」

ベルトルト(ユミル?)ガタッ!


クリスタ「ユミル! しっかりしてユミル!」

コニー「お、おい! 一体どうしたんだ!

サシャ「ユミル、しっかりしてください!」

ライナー「おい、どうした!」

クリスタ「ユミルが倒れて……!」

ベルトルト(倒れた?)

ベルトルト(――ユミルが!?)ダッ


ベルトルト「ユミル!」ガバッ

クリスタ「!」

コニー「うお!? ベルトルト!?」

ベルトルト「すぐに医務室に運ぶ! クリスタ、一緒に来てくれ!」ダッ

クリスタ「は、はいっ!」ダダッ

バタバタバタ・・・


ザワザワ・・・

コニー「すっげ……ユミル抱えてから食堂出るまで、あっという間だったな」

サシャ「はえー、今のベルトルト、かっこよかったですねー」

コニー「え?」

サシャ「なんというか、たくましくて」

アニ「何だいこれ? 何の騒ぎ?」

サシャ「あ、アニ! 実はですね今――」

アニ「……え? ベルトルトが……そんなことを?」

コニー「……」チカラコブ

新しく加えるところ多くてちょっと時間かかりそうです。
いったん書き溜めて推敲したあと、また深夜に再開します。

今月号の内容なら加えないで欲しいなあ
できればだけど

>>80
いえ、新しいところっていうのは、前作のユミル視点で描けなかったところという意味で、プロット自体はすでに先月完成しています。
なので、今バレが回っている今月号の話とは無関係に進みます。
バレ既読組には少し違和感が出る描写も多いと思いますが。そこは原作にないものを二次創作に求めた結果なので、温かい目で見てもらえたら嬉しいです。


医務室


ユミル「……」スウスウ

ベルトルト「今朝から具合悪かったの?」

クリスタ「うん……何て言うか、顔色も悪くて、心ここにあらずって感じだった」

ベルトルト「そっか……とりあえず、今日ゆっくり休んで、回復してくれるといいんだけど」

クリスタ「……」

ベルトルト「じゃあ、申し訳ないんだけどクリスタ、訓練が始まるまでは、ユミルに付き添ってあげてもらえないかな? 目が覚めて
医務室じゃ、ユミルもビックリするだろうし」

クリスタ「――ねぇ」

ベルトルト「うん?」

クリスタ「どうして……ユミルを避けたの?」


ベルトルト「……」

クリスタ「昨日の夜、食堂から帰ってきた後から、ユミル、どこか上の空だった」


クリスタ「食堂で一緒だったでしょ? あの時、一体何があったの?」

ベルトルト「……僕からも質問させてほしい」

ベルトルト「どうしてあの時、クリスタはユミルと離れていたのかな? いつも一緒にいるはずなのに」

クリスタ「……」

ベルトルト「答えて。クリスタ」

クリスタ「……私が、ベルトルトの隣に行くように、ユミルをけしかけたから」

ベルトルト「!」


クリスタ「ごめんね。私、余計なことしてるってわかってる」

クリスタ「けど、週末ベルトルトと出かけてから、少し嬉しそうにしてるユミル見てたら、協力してあげたくて」

クリスタ「だから……」シュン

ベルトルト(ユミルが、嬉しそうにしていた?)

ベルトルト(『協力』って、つまり、そういうことだよな……ユミルも、クリスタの『協力』に乗ったってことか?)

ベルトルト(クリスタ大好きな、あのユミルが?)

ベルトルト「……」


ユミル、もしかして、

君は――


ユミル「う、ん……」

ベルトルト「!」


ベルトルト(まずい、今起きられたら――どんな顔したら)

クリスタ「あれ、ユミ――」

ベルトルト「ごめんクリスタ、とにかくここは任せたから!」ダダッ

クリスタ「えっ、ちょっ、ベルトルト!」

ベルトルト「あ、それと、僕がユミルを運んで来たことは、ユミルには言わないでね」

ベルトルト「それじゃまた」ガチャッ

クリスタ「ちょっと!」

バタン


ベルトルト「……」

ベルトルト「はぁ……」

ベルトルト(とりあえず、いったんここを離れよう)テクテク

ベルトルト(そういや、僕もクリスタも朝食食べてないよな。パンだけでも、食堂から持ってこれないかな)


食堂


ベルトルト(よかった、ちゃんと残ってて)

ベルトルト(また医務室に戻るのは怖いけど……クリスタが出てくるのを待ってればいいだろう)

ベルトルト(うん? 入り口の方から誰か来る)

アニ「……」

ベルトルト(アニ?)


ベルトルト(周り、誰もいないか)キョロキョロ(なら、普通に話しかけていいよな)

ベルトルト「アニ、どうしてここに――」

アニ「今夜就寝時間前に、男子寮入口で待ってて」

ベルトルト「!」

アニ「話があるから」クルッ スタスタ

ベルトルト「……」

ベルトルト(短い時間を狙って、わざわざ男子寮まで来てする話?)

ベルトルト(……嫌な予感がする。こういう時はたいてい、注意や警告を促されるから)


医務室入り口


ガチャッ バタン

クリスタ「あっ、ベルトルト」

ベルトルト「しっ。はい、クリスタのパン持ってきたよ」

クリスタ「ありがとう……ほんとに、中には入らないつもり?」

ベルトルト「もうすぐ訓練が始まるしね。クリスタの班、今日の立体機動訓練の先遣隊役やるんじゃなかったっけ?」

クリスタ「えっ、あっ、そうだ! もう行かなきゃ! ありがとう!」パタパタ

ベルトルト「……」


ベルトルト「……」キョロキョロ

コンコンコン

ベルトルト(……寝てる、かな?)

コンコンコン

ベルトルト(返事なし)

ベルトルト「……」

ガチャッ…


ユミル「……」

ベルトルト(うん、寝てるみたいだ)コツ コツ コツ

ベルトルト(なんか苦しそうな表情してるけど、熱あるんじゃないよな?)

ベルトルト(……おでこ触っても、起きないかな?)

ベルトルト「……」スッ

ベルトルト(うん、熱くない。大丈夫そうだ)

ベルトルト「……」

ベルトルト(ユミル、意外と髪の毛、細いんだなぁ)スッ

ベルトルト(わっ、すごくサラサラしてる――って、何をやってるんだ、僕は)

ベルトルト(こんなことしてたら、そのうちユミル起きて――あ)カチリ


ドクン

ベルトルト(これ……僕があげた髪留めだ)

ドクン

ベルトルト(今日も、つけていてくれたのか)

ドクン ドクン

ベルトルト(ユミル……)

ドクン…

ベルトルト「……」スッ


震える手で、ユミルの肌に触れる。

整った眉、凛とした目元、すっと通った鼻筋、そばかすのある頬。

一緒に話している時は、こんなにまじまじと見たことはなかった。

とても――綺麗だ。

少なくとも僕には、綺麗に見える。


ベルトルト「――!」


口元に指先が達して、思わず手を離す。

ユミルはまだ、起きる様子はない。


そっと、優しく、ほんの一瞬だけ。

僕の指先が、彼女の唇に触れた。

自分が望んでいる物が何なのかを、自分の行動で知らされることになった。

叶えてはいけないと、わかっていて。


ベルトルト「……」

クルッ

コツ コツ コツ

ベルトルト「……何をやっているんだ。僕は――」

パタン・・・

今日は遅いのでここまでにします。明日完結です。
読んでくださってる方、支援してくださった方ありがとうございます。

すみません、何か所か訂正したいところがあるので、先に訂正しときます。
>>88>>94の訂正版を以下に差し替える形で投下するので、脳内補完お願いします。

>>88差し替えです。


ベルトルト(周り、誰もいないか)キョロキョロ(なら、普通に話しかけていいよな)

ベルトルト「アニ、どうしてここに――」

アニ「今夜入浴時間前に、男子寮裏口で待ってて」

ベルトルト「!」

アニ「話があるから」クルッ スタスタ

ベルトルト「……」

ベルトルト(短い時間を狙って、わざわざ男子寮まで来てする話?)

ベルトルト(……嫌な予感がする。こういう時はたいてい、注意や警告を促されるから)

>>94差し替えです。



ベルトルト「……」


そっと、優しく、ほんの一瞬だけ。

指先が、彼女の唇に触れた。

自分が望んでいる物が何なのかを、自分の行動で知らされることになった。

叶えてはいけないと、わかっていて。


ベルトルト「……」

クルッ

コツ コツ コツ

ベルトルト「……何をやっているんだ。僕は――」

パタン・・・

見苦しくなってしまってすみません。
これから本編投下します。



男子寮裏口ドア前


ベルトルト(よし、みんな浴場の方に行ったな)

ベルトルト(そろそろ、かな)

ガチャッ

アニ「……」

ベルトルト「わざわざ来てもらっちゃって、ごめんね」

アニ「時間がない。用件だけ言うよ」


アニ「食堂での一件からか、あんたとユミルのことが噂になりかけてる」

ベルトルト「……」

アニ「別に、それについて私がどうこう言うつもりはない。ただ、今後の任務に支障が出ないように、ってだけ」

ベルトルト(アニ……君にまで、そんなことを言われるなんて)

ベルトルト「……わかった。ありがとう」

アニ「話はそれだけだから」クルッ タタタッ


ベルトルト(……)

ベルトルト(任務に支障が出ないように、か)

ベルトルト(――そんなの無理だよ、アニ)

ベルトルト「はぁ……」

ユミル「ベルトルト」

ベルトルト「え――ユミル!?」ドキッ

ベルトルト(え? え!? なんでここにユミルが!?)


ユミル「よぉ。奇遇だな、こんなとこで会うなんて」

ベルトルト「もう大丈夫なのかい?」

ユミル「あぁ。この通りだ」

ベルトルト「よかった……」

ユミル「なぁ、今、アニと何話してたんだ?」

ベルトルト「!」ギクッ


ユミル「話してただろ? アニと」

ベルトルト「……見てたのか」

ユミル「何だよ、見ちゃいけなかったか?」

ベルトルト「いや、そんなことないよ。偶然会って、話しただけだから」

ユミル「お前さ、いい加減私に嘘が通じると思うなよ」

ベルトルト「……」

ユミル「もう一度聞くぞ。何話してたんだ?」


ベルトルト「……ごめん」

ユミル「そんな言葉が聞きたいんじゃない」

ベルトルト(僕だってほんとは、こうして謝るようなことをしたくないんだ)

ベルトルト「頼む……これ以上は、聞かないでくれないか」

ベルトルト「君に嘘をつきたくないし、かといって、素直に話せることでもないんだ」

ベルトルト「本当に……ごめん」

ユミル「……」

ユミル「わかった。もういい」


ベルトルト「ユミル?」

ユミル「邪魔して悪かったな。ベルトルト」クルッ

ユミル「――じゃあな」ダッ

ベルトルト「ユミル!」


行ってしまう。ユミルが。

追いかけるなんて、できない。


ベルトルト「――ユミル! 待て!」ダッ


こんなことは、決して許されない。


「ユミル!」ガシッ


こんなことは、間違っている。


「離せよ!」バッ

「どうせ何聞いたって、答えてくれないんだろ!」

「どうせ……私になんて……」


なのにどうして、どうしてだ?


「ユミル」グイッ


わかっていてなぜ僕は。


「聞いてくれ」ギュッ


望むがままに、動いているんだ。


「……」


ユミルの体が、僕の腕の中に収まる。劇場での時みたいに。

だけどあの時とは全然違う感情が、今の僕の中にはある。

そして、君も同じ気持ちだということを、僕はもうわかっている。

わかっている――そのせいで。


「ユミル。僕は」


君に甘えてしまいたくなる。


「君が好きだ」


君に受け入れてもらいたくなる。


「ベルトル――っ」


君に何一つ真実を明かせない、こんな身勝手な僕のことを、


「んっ……」


愛してほしいと、思ってしまう。


「んっ……はぁっ、うっ……」


唇を離し、目が合うと、彼女の目から雫が落ちた。

頬を手で包み、涙を拭ってあげると、自分の視界も曇り始めた。


「ごめんね。本当は泣かせたくないんだ」

「本当は……君にすべてを打ち明けてしまいたい。僕が楽になるだけだけど、全部吐き出してしまいたい」

「だけど、そうしてしまったら、君をこの腕に置いておけなくなる。それだけは、どうしても嫌なんだ」

「僕は、君に嘘をついてばかりだけど……この気持ちだけは、本当なんだ」



最後の方は、もう声が震えていた。ユミルが涙を払ってくれる。

そのまま、慰めるような口づけをもらう。僕も、抱きしめる腕に力を込める。


あとはもう、どちらが求めているかなんて、関係なかった。

僕たちは泣いて、泣いて、泣き疲れるまでずっと、お互いに強く抱き合っていた。


翌朝
男子寮


エレン「ふぁー、おはよ」

ベルトルト「おはよう、エレン」

アルミン「ベルトルト、このパンフレット、君の? 落ちてたよ」

ベルトルト「あっ、ありがとうアルミン」

ベルトルト(この前の劇場のパンフレットだ……)パラ

ベルトルト(あれ?)

ベルトルト(最後のページに、次の演目のチケットが――)

ベルトルト「……」

サッ

ライナー「食堂行くぞー」


食堂


マルコ「あっ、おはよう皆」

アルミン「おはよー」

ベルトルト「……」チラ

クリスタ「おはよう!」

アルミン「クリスタ、おはよ――えっ!? どうしたのその顔! 目が腫れてるじゃないか!」

クリスタ「えへへ……ちょっとね」

マルコ「ユミルも目が大分腫れてるね。二人とも喧嘩でもしたの?」

ユミル「そんなんじゃねーよ。ほっとけ」


ベルトルト「ユミル、ちょっといいかい?」

ユミル「……おう」スタスタ

ユミル「何だよ」

ベルトルト「この前の劇場で、また別の演目が上演されるらしいんだ。今度はホラーじゃないやつ」ピラッ

ベルトルト「その……よかったら、今度の休日、一緒にどうかな?」

ユミル「――!」


いつかきっと、僕は君を裏切ることになる。

この想いがどんなに強くても、僕は使命を忘れられはしない。

けれど、それでも。


ユミル「……あぁ、いいぜ」


罪深いとわかっているけれど、今だけは。

君のそばにいたい。この気持ちは嘘じゃない。


ユミル「――ベルトルさん」

ベルトルト「ベルトルさん、か……悪くないね」


君が僕に、心を捧げてくれるなら。




終わり

これにて完結です。
上の方に書いた通り、この話は別版に投下した、

ユミル「劇場のチケット?」ベルトルト「あっ!」
ユミル「劇場のチケット?」ベルトルト「あっ!」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/comic/6689/1370698847/l50)

の、ベルトルト視点として書きました。
拙い文章ではありますが、もしよろしかったらそちらも是非、見に来て頂けるとうれしいです。

読んでくださった方、支援してくださった方、ありがとうございました。


この板ではやるかどうか迷いましたが、日付も変わったので……

壁|∀゜)<やります!後書き!


レスくださったかたありがとうございます。初めましての方も、別板から来てくださった方もいるようで嬉しいです。
ベルトルト視点書くってことは前作書いてた時点で決めていましたが、ベルトルさんほんと内面描写やりづらかったです。妄想で埋めるのでさえ大変。
今月でベル→アニが出てきたのを見て、あぁやっぱりベルトルさんもちゃんと人間味あるキャラなんだなーと、嬉しくなりました。
これを書いてる最中に47話バレを見てしまったのは、不幸なようで幸運だったかもしれません。
自分は104期ノーマルカプはどの組み合わせも好きなので、今後もいろんなカプのssが増えてほしいなーと思います。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

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